説明

導電性インク

【課題】 導電性インクを用いて形成した回路等と基板との密着性に優れ、且つ、形成した導体の膜密度が高く電気的に低い抵抗を得ることの出来る導電性インクの提供を目的とする。
【解決手段】分散媒に金属粉又は金属酸化物粉を分散させた導電性インクであって、前記分散媒中に、当該導電性インクを用いて形成した導体の膜密度を向上させるための膜密度向上剤としての金属塩又は金属酸化物を含むことを特徴とする導電性インクを採用する。そして、前記分散媒を構成する主溶媒は、常圧での沸点が300℃以下である水、アルコール類、グリコール類、飽和炭化水素類からなる群より選択した1種又は2種以上を組み合わせたもの等を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件発明は、導電性インク及びその製造方法に関し、詳しくは、例えば、インクジェット等で回路形状等を描き、固化させることにより基板上に回路を形成することが可能な導電性インクに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、各種基板上に回路パターンを形成する方法として、特許文献1や特許文献2に開示されているようにフォトリソグラフィーやエッチングを利用する方法やスクリーン印刷方法があった。この従来方法として、銅張積層板の銅箔をエッチング加工して回路パターンを形成させる方法や、金属粉を溶剤や樹脂と混練しペースト化した導電性ペーストを、スクリーン印刷により配線や電極パターンを基板表面に直接形成させる方法が、広く普及してきた。
【0003】
そして、金属粉をペースト(以下、単に「導電性ペースト」と称する。)又はインク(以下、単に「導電性インク」と称する。)に加工し、スクリーン印刷法等の技術を転用することで基板表面に回路形成を直接行うことは、銅張積層板の銅箔をエッチング加工して回路形成を行うエッチング法に比べ、工程数も少なく、生産コストを著しく削減出来る技術として広く普及してきた。
【0004】
ところが、近年の電気回路には、電子機器等の小型化、軽量化の要求に合わせて、より微細な回路の形成が求められる。導電性ペーストを用いて、基板に回路を直接形成する場合の最大の問題は、スクリーン印刷等を用いての微細回路の形成が困難な点にあった。そして、近年は、特許文献3に開示されているように、導電性インクを用いて微細回路を形成する技術として、プリンターに応用されてきたインクジェット技術を応用しての回路形成が試みられている。
【0005】
そして、近年では、携帯情報機器やTVに代表される薄型ディスプレイ内部の導電性回路パターンは、年々高密度化してきており、配線幅が40μm以下の領域が検討されているだけではなく、フレキシブル樹脂基板への低温焼成による回路パターン形成技術も検討されている。一般的に用いられてきたスクリーン印刷による回路パターン形成では、断線がなく、配線形状に優れる線幅が100μm程度とされているが、これよりも微細な領域、特に線幅が40μm以下となる領域では、実質的な配線形成が困難である。また、多種多様な基板へ低温焼成により回路パターンを形成させる技術としては、特許文献4に示すように銀ナノ粒子を含む銀インクが検討されている。
【0006】
一方、金属粉を多量の有機溶剤と樹脂類と混合した導電性インクに関しては、ディスペンサー塗布法や、特許文献3に示すように、インクジェット印刷技術を利用した極微細回路パターン形成原料として、種々の導電性金属インクが提案されているが、各種基板に対する密着強度を有機樹脂類に依存しているため、一般的に低抵抗な配線や電極を形成する際に用いられる水素や窒素を用いた還元焼成の工程において、有機樹脂分の分解により発生するガスによって微小なクラックが発生しやすく、また、これによって配線や電極のバルク密度が低いものとなり、結果的に低抵抗な回路を形成することが困難であった。
【0007】
また一方、導電性インクの組成を示したものとしては、特許文献5に、水と、個々の微粒ニッケル粉の粉粒表面に不溶性無機酸化物が固着しているニッケル微粉末と、ポリアクリル酸、そのエステル又はその塩と、有機基置換水酸化アンモニウムとを含む水性ニッケルスラリー及び該水性ニッケルスラリーとバインダーとを含む導電性ペーストが開示されている。この水性ニッケルスラリーは、高濃度のニッケル微粉末が再凝集することなく安定して分散した水性ニッケルスラリーではあるが、インクジェット印刷技術を利用して極微細回路パターンを形成しようとする場合、印刷に適した表面張力を有していないため、連続印刷による回路形成を行おうとすると、ノズルにインクが目詰まりしやすく、又、目的の印刷位置にインクが着地しない現象が発生するため、工業的な連続印刷による回路形成を行うことが実質的に困難であった。又、基板との密着強度を付与するバインダーが含有されていないため、仮に印刷工程の工夫により基板に印刷が出来たとしても、基板との密着強度が実質的にゼロであるため、積層セラミックコンデンサーの内部電極作製に代表される高温焼成によって金属粉を焼結させるような用途以外では、実質的な回路形成が困難であった。
【0008】
【特許文献1】特開平9−246688号公報
【特許文献2】特開平8−18190号公報
【特許文献3】特開2002−324966号公報
【特許文献4】特開2002−334618号公報
【特許文献5】特開2002−317201号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述の如く、ディスペンサー塗布法やインクジェット印刷方法を利用して、極微細配線や電極を基板に印刷し、高密度な回路パターンを形成するための導電性インクが検討されているが、インクジェット法での使用そのものが出来ない、各種基板との密着強度が極めて低いという問題があった。
【0010】
また、一方では、各種基板との密着性は確保出来ても、その導電性インクを用いて形成した導体回路の膜密度が低く、導体抵抗が高くなるため、通電時の発熱が大きく、基板寿命が短くなる。又、導体の密度が低いということは、導体内に空隙が多いということであり、多層配線を実現するために必要不可欠な導体の表面平滑性が得られない。これは、導体表面に存在する空隙が、導体表面からみて窪んでいることによる。さらに、湿度の高い環境で使用された場合、導体の膜密度が低いが故に、大気中に存在する水や酸素が導体中を拡散しやすく、導体を形成した金属粉が酸化されたり、マイグレーション現象により、金属イオンの拡散や粒成長が起こり、回路ショートを引き起こす可能性がある。
【0011】
従って、ディスペンサー塗布法やインクジェット法で使用する導電性インクは、インクが吐出されるノズルの目詰まりを防止する必要があり、そのためには導電性インクに含まれる金属粉粒子の粒径を微粒にすることが求められる。そして、同時に、導体の膜密度を高いものとするために、導電性インクを構成する分散媒の性質も重要となり、これらの品質が重畳して、初めて良好な品質の導電性インクとなり、各種基板との密着性と、形成した導体回路の良好な膜密度を達成出来ると考える。
【0012】
以上のことから、本件発明は、導電性インクを用いて形成した回路等と基板との密着性を向上させ、且つ、形成した導体回路の膜密度が高く電気的に低い抵抗を得ることの出来る導電性インクの提供を目的とする。そして、その導電性インクに含ませる金属粉として微粒且つ分散性に優れたものを用いることで、インクジェット装置及びディスペンサー装置を用いて、極微細な配線や電極を基板上に印刷し、回路形成を行う事の可能な導電性インク組成の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
そこで、上記目的を達成するため、本件発明者等は鋭意検討を行った結果、以下の構成の導電性インクとすることで、当該導電性インクを用いると、形成した導体回路の膜密度が高く、電気的に低い導体抵抗を備える回路が得られることに想到したのである。
【0014】
本件発明に係る導電性インクは、分散媒に金属粉又は金属酸化物粉を分散させた導電性インクであって、前記分散媒中に、当該導電性インクを用いて形成した導体の膜密度を向上させるための膜密度向上剤としての金属塩又は金属酸化物を含むことを特徴とする基本的構成を採用する。
【0015】
そして、前記分散媒を構成する主溶媒は、常圧での沸点が300℃以下である水、アルコール類、グリコール類、飽和炭化水素類からなる群より選択した1種又は2種以上を組み合わせたものを用いることが好ましい。
【0016】
そして、本件発明に係る導電性インクにおいて、前記膜密度向上剤は、Ti、V、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、Ag、In、Sn、Ta、Wを含む金属塩又は金属酸化物群より選択される1種又は2種以上を含むものを用いることが好ましい。
【0017】
そして、本件発明に係る導電性インクを構成する前記分散媒は、分散助剤を含むものである事が好ましい。
【0018】
その分散助剤は、(a)ポリアクリル酸、そのエステル又はその塩、(b)有機基置換水酸化アンモニウム及び(c)ヒドロキシル基含有アミン化合物の(a)〜(c)からなる群より選択される1種又は2種以上を混合したものを用いることが好ましい。
【0019】
また、本件発明に係る導電性インクは、前記分散媒に、表面張力調整剤を用いて表面張力が15mN/m〜50mN/mの範囲に調整することが好ましい。
【0020】
そして、前記表面張力調整剤は、常圧での沸点が100℃〜300℃であるアルコール、グリコールからなる群より選択される1種又は2種以上を組み合わせたものである事が好ましい。
【0021】
また、本件発明に係る導電性インクを構成する前記分散媒は、密着性向上剤としてシランカップリング剤、チタンカップリング剤、ジルコニアカップリング剤、アルミニウムカップリング剤からなる群より選択される1種又は2種以上を含むことが好ましい。
【0022】
また、本件発明に係る導電性インクにおいて、前記金属粉又は金属酸化物粉は、ニッケル粉、銀粉、金粉、白金粉、銅粉、パラジウム粉、インジウム−錫酸化物から選択された1種又は2種以上の混合粉であるものを用いることが好ましい。
【0023】
そして、本件発明に係る導電性インクにおいて、前記金属粉又は金属酸化物粉の内、ニッケル粉は、ニッケル粒子と有機溶媒とからなるニッケルスラリーから得られるニッケル粒子であって、その平均一次粒径が100nm以下であるものを用いることが好ましい。
【0024】
更に、本件発明に係る導電性インクにおいて、前記ニッケル粉は、ニッケル粒子の平均一次粒径が10nm〜70nmであるものを用いることが好ましい。
【0025】
以上に述べてきた本件発明に係る導電性インクは、25℃における粘度が、60cP以下であるものとして用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0026】
本件発明に係る導電性インクは、ディスペンサー塗布方式やインクジェット印刷方式を採用して正確且つ微細な配線や電極を形成するのに適したものである。そして、本件発明に係る導電性インクは、ガラス基板、異種元素で形成した回路等に対する密着性に優れる。従って、該導電性インクは、TFTパネルに使用するガラス基板、ITO透明電極表面、銀電極表面、銅電極表面へ配線、電極、保護電極や保護被膜を形成することが可能となる。
【0027】
そして、本件発明に係る導電性インクは、上述の密着性のみならず、形成した導体回路の密度を高くすることで電気抵抗を下げ、異種金属の接合が可能なレベルの導体表面の平滑性を確保出来る配線形成を可能とする点に大きな特徴を有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
<本件発明に係る導電性インク>
上述のように本件発明に係る導電性インクは、分散媒に金属粉又は金属酸化物粉を分散させた導電性インクであって、前記分散媒中に、膜密度向上剤としての金属塩又は金属酸化物群を含むことを特徴とする基本的構成を採用する。この膜密度向上剤とは、当該導電性インクを用いて形成した導体の膜密度を向上させ、通電時の抵抗を減少させるためのものである。
【0029】
主溶媒: 本件発明に係る導電性インクにおける分散媒の主溶媒としては、水、有機溶媒等を幅広く用いることが可能であり、少なくとも下記、膜密度向上剤、密着性向上剤等と相溶性のあるものであり、所定の粘度に調製出来るものであれば、特に限定は要さない。従って、限定するとすれば、常圧での沸点が300℃以下である水、アルコール類、飽和炭化水素類からなる群より1種又は2種以上を組み合わせたものである。
【0030】
ここで、「常圧での沸点が300℃以下」という限定を行ったのは、沸点が300℃を超える温度領域では、還元焼成工程において電極を形成させる際、高温で溶媒がガス化し、このガスが電極内に微小なクラックや空隙を発生させるため、緻密な電極が形成できないばかりか、結果的に電極膜の緻密化が出来ないため、各種基材との高い密着強度を発揮し得ないばかりでなく、電極膜の電気抵抗も上昇するのである。
【0031】
主溶媒として、水を用いる場合には、イオン交換水、蒸留水等のレベルの純度を有するものであり、水道水等の純度の水は含まない。
【0032】
主溶媒として、アルコール類を用いるには、1−プロパノール、1−ブタノール、1−ペンタノール、1−ヘキサノール、シクロヘキサノール、1−ヘプタノール、1−オクタノール、1−ノナノール、1−デカノール、グリシドール、ベンジルアルコール、メチルシクロヘキサノール、2−メチル1−ブタノール、3−メチル−2−ブタノール、4−メチル−2−ペンタノール、イソプロピルアルコール、2−エチルブタノール、2−エチルヘキサノール、2−オクタノール、テルピネオール、ジヒドロテルピネオール、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−n−ブトキシエタノール、2−フェノキシエタノール、カルビトール、エチルカルビトール、n−ブチルカルビトール、ジアセトンアルコールから選ばれた1種又は2種以上を組み合わせて用いることが好ましい。中でも、常圧での沸点が80℃以上で且つ、室温の常圧下で気化しづらいものが良く、1−ブタノール、1−オクタノール、テルピネオール、ジヒドロテルピネオール、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−n−ブトキシエタノール、ジアセトンアルコールを用いることがより好ましい。
【0033】
主溶媒として、グリコール類を用いるにはエチレングリコール、ジエチレングリコールトリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2−ブチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、ペンタメチレングリコール、へキシレングリコールから選ばれた1種又は2種以上を組み合わせて用いることが好ましい。中でも、常温での粘度が100cP以下であるものが良く、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブチレングリコール、ジプロピレングリコールを用いることが好ましい。粘度が高すぎる場合、インクジェットに適した粘度調整が困難となるからである。
【0034】
主溶媒として、飽和炭化水素類を用いるにはヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ペンタデカン、ヘキサデカンから選ばれた1種又は2種以上を組み合わせて用いることが好ましい。中でも、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカンを用いることがより好ましい。常圧での沸点が300℃以下であり、且つ、蒸気圧が低く室温で気化しづらいため取り扱いが容易だからである。
【0035】
膜密度向上剤: そして、本件発明に係る導電性インクにおいて、前記膜密度向上剤は、Ti、V、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、Ag、In、Sn、Ta、Wを含む金属塩群又は金属酸化物群より選択される1種又は2種以上を含むものを用いることが好ましい。
【0036】
より具体的に言えば、Tiとしては塩化チタン、硫酸チタンテトラキス(ジエチルアミノ)チタン、ヘキサフルオロチタン酸アンモニウム、水酸化チタン、クレシル酸チタン、二酸化チタン等を用いることが好ましい。Vとしてはアセチルアセトナトバナジウム、酸化バナジウムアセチルアセトナート等を用いることが好ましい。Niとしては酸化ニッケル、水酸化ニッケル、酢酸ニッケル、硝酸ニッケル、クエン酸ニッケル、オレイン酸ニッケル、2−エチルヘキサン酸ニッケル、ナフテン酸ニッケル等を用いることが好ましい。Cuとしてはクエン酸銅、オレイン酸銅、酢酸銅、硝酸銅、グルコン酸銅、ナフテン酸銅、エチルアセト酢酸銅、銅アセチルアセトナート、酸化銅、亜酸化銅、水酸化銅等を用いることが好ましい。Znとしてはクエン酸亜鉛、アセチルアセトナト亜鉛、酸化亜鉛等を用いることが好ましい。Yとしては酢酸イットリウム、シュウ酸イットリウム等を用いることが好ましい。Zrとしては硝酸ジルコニウム、アセチルアセトナトジルコニウム、酸化ジルコニウム等を用いることが好ましい。Nbとしては酸化ニオブを用いることが好ましい。Moとしてはチオモリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸、12モリブドけい酸、モリブデン酸アンモニウム等を用いることが好ましい。Agとしては炭酸銀、酢酸銀、硝酸銀、塩素酸銀、過塩素酸銀、酸化銀等を用いることが好ましい。Inとしては硝酸インジウム、塩化インジウム、水酸化インジウム、2−エチルヘキサン酸インジウム、トリス(アセチルアセトナト)インジウム(III)等を用いることが好ましい。Snとしては塩化スズ、スズ-i-プロポキシド、スズ-t-ブトキシド等を用いることが好ましい。Taとしては酸化タンタルを用いることが好ましい。Wとしては、タングステン酸、タングステン酸アンモニウム、タングストけい酸、12タングストけい酸26水、酸化タングステン、タングステン酸銅、タングステン酸セリウム等を用いる事が好ましい。特に導電性インク中の金属粉と同じ金属塩又はその酸化物を1種類以上用いることが、導体密度を高くするのでより好ましい。
【0037】
これらの金属塩又は金属酸化物は、還元焼成工程を経て導体を形成する際、それ自身が金属となり得る物質であるが故に、導電性インク中の金属粉又は酸化物粉の粉粒同士を強固に結びつけるバインダーとして機能する。これらの金属塩又は酸化物を使用しない導電性インクの場合、バインダー物質に多量の有機物を使用しているが、還元焼成工程時に、有機物が分解しガス化するため、目的とする導電性インク中の粉粒同士を結びつけることができないばかりか、発生するガスにより、導体中に多量の微小クラックを発生させてしまい、導体の電気抵抗の上昇ばかりでなく、導体中の空隙が多いため、密度が低く、表面の平滑性が得られない。
【0038】
分散助剤: そして、本件発明に係る導電性インクを構成する前記分散媒は、分散助剤を含むものである事が好ましい。この分散助剤は、分散媒中における金属粉の再凝集を防止し、導電性インクとしての品質を長期に亘り維持するためのものである。
【0039】
この分散助剤としては、(a)ポリアクリル酸、そのエステル又はその塩、(b)有機基置換水酸化アンモニウム及び(c)ヒドロキシル基含有アミン化合物の(a)〜(c)のいずれかの群より選択された1種又は2種以上を組み合わせたものを添加することが好ましいのである。
【0040】
更に、本件発明に係る導電性インクの場合、特にニッケルインクの場合、必要に応じて分散助剤を添加することも好ましい。この分散助剤としては、(a)ポリアクリル酸、そのエステル又はその塩、(b)有機基置換水酸化アンモニウム及び(c)ヒドロキシル基含有アミン化合物の(a)〜(c)のいずれかの群より選択された1種又は2種以上を組み合わせたものを添加することが好ましいのである。
【0041】
本件発明で用いられる(a)ポリアクリル酸、そのエステル又はその塩としては、例えば、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸アンモニウム等が挙げられ、これらのうちポリアクリル酸アンモニウムが金属粒子表面へ配位し易く、又同時に、配位したポリアクリル酸アンモニウムが溶媒中での金属粒子の凝集を、電気的反発と立体的阻害効果により抑制するため好ましい。本件発明において(a)は上記のものを1種単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0042】
本件発明で用いられる(b)有機基置換水酸化アンモニウムとしては、例えば、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド等のアルキル基置換水酸化アンモニウム、トリメチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリメチルアンモニウムヒドロキシド等のアルキル基置換アリール基置換水酸化アンモニウム等が挙げられ、これらのうちアルキル基置換水酸化アンモニウムが金属粒子に配位し易く、又、電気的反発力が高いため好ましい。本件発明において(b)は上記のものを1種単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0043】
本件発明で用いられる(c)ヒドロキシル基含有アミン化合物としては、例えば、アルカノールアミンが挙げられ、これらのうち、ジメタノールアミン、ジエタノールアミン、ジプロパノールアミン等のジアルカノールアミンが金属粒子との濡れ性が良いため好ましく、またジエタノールアミンが金属粒子の経時的な凝集を最も抑制し易いためさらに好ましい。本件発明において(c)は上記のものを1種単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0044】
本件発明では、導電性ニッケルインク中に上記分散助剤を添加することにより、インク内でのニッケル粉の粉粒が経時的に凝集することを防止するのである。本件発明で用いられる分散助剤は、上記(a)〜(c)のうち少なくとも1種であればよいが、これらのうち、(a)及び(c)を併用すると、ニッケル粉をより安定して分散させることができるため好ましい。
【0045】
本件発明に係る導電性インクは、「ポリアクリル酸、そのエステル又はその塩」が存在する場合には、「ポリアクリル酸、そのエステル又はその塩」の量が金属粉の重量100重量部に対し、通常0.05重量部〜5重量部、好ましくは0.1重量部〜2重量部であると、基板に対するインクの密着性を阻害することなく、インク寿命が最も長くなるため好ましい。
【0046】
本件発明に係る導電性インクは、「有機基置換水酸化アンモニウム」が存在する場合には、「有機基置換水酸化アンモニウム」の量が金属粉の重量100重量部に対し、通常0.01重量部〜5重量部、好ましくは0.05重量部〜1重量部であると、基板に対するインクの密着性を阻害することなく、インク寿命が最も長くなるため好ましい。
【0047】
本件発明に係る導電性インクは、「ヒドロキシル基含有アミン化合物」が存在する場合には、「ヒドロキシル基含有アミン化合物」の量がニッケルの重量100重量部に対し、通常0.5〜30重量部、好ましくは5〜20重量部であると、基板に対するインクの密着性を阻害することなく、インク寿命が最も長くなるため好ましい。
【0048】
本件発明に係る導電性インクにおいて分散剤を組み合わせて用いる場合、「ポリアクリル酸、そのエステル又はその塩」及び「有機基置換水酸化アンモニウム」が存在する場合には、「有機基置換水酸化アンモニウム」の量が、「ポリアクリル酸、そのエステル又はその塩」の重量100重量部に対し、通常1重量部〜30重量部、好ましくは5重量部〜20重量部であると、基板に対するインクの密着性を阻害することなく、インク寿命が最も長くなるため好ましい。
【0049】
導電性インクの表面張力: 以下に述べる本件発明に係る導電性インクは、表面張力が15mN/m〜50mN/mとなり、インクジェット法、ディスペンサ−法での回路形成等が容易となる。従って、前記表面張力調整剤の添加量は、導電性インクの表面張力が、通常15mN/m〜50mN/m、好ましくは20mN/m〜40mN/mになるように各種薬剤等を添加するのである。導電性インクの表面張力が、上記範囲を逸脱すると、特にインクジェットノズルからの導電性インクの吐き出しが不能となったり、仮にノズルからの吐き出しが出来たとしても、目的の印刷位置からズレが生じたり、連続的な印刷が不可能となる等の現象が発生する。従って、本件発明では導電性インクの表面張力を、インクジェット法を使用するのに適した上記範囲内に調整することにより、インクジェット装置を用いての微細回路配線等の形成を可能とするのである。
【0050】
表面張力調整剤: そして、前記表面張力調整剤は、その表面張力が40mN/m以下の添加剤を用いるのである。このような表面張力を備える表面張力調整剤を用いることがインクジェット装置での使用に適したインクの表面張力調整が最も容易であり、インクジェット装置の設計に合致させた粘度調整が簡単に可能であり且つ容易なため、微細な配線回路の形成が可能となるのである。ここで言う、表面張力調整剤には、溶媒としても使用可能なアルコール類、グリコール類であって、かつ、表面張力が40mN/m以下であり、25℃における粘度が100cP以下からなる群より選択される1種又は2種以上を組み合わせたものを用いることが好ましい。
【0051】
当該表面張力調整剤のうち、表面張力が40mN/m以下であり、25℃における粘度が100cP以下のアルコール等としては、例えば、1−ブタノール、1−ペンタノール、4−メチル−2−ペンタノール、2−エトキシエタノール、2−n−ブトキシエタノール、n−ブチルカルビトール等が挙げられる。本件発明では、上記表面張力調整剤のうち、2−n−ブトキシエタノールや1−ブタノールを用いることが、導電性インクとしての長期間の品質安定性を維持するという観点から好ましい。
【0052】
本件発明に係る導電性インクにおいて、配合される表面張力調整剤の量は導電性インクの表面張力を適宜調整する量とすればよく、特に限定されるものではない。しかし、一般的には導電性インク中、通常1重量%〜50重量%、好ましくは3重量%〜30重量%である。表面張力調整剤の量が1重量%未満の場合には、表面張力の調整が出来ないのである。また、表面張力調整剤の量を50重量%以上添加すると、表面張力調整剤を添加する前後で、導電性インク中に含有される微粒金属粉の分散形態が大きく変化し、結果的に微粒金属粉が凝集をはじめ、導電性インクで最も重要な微粒金属粉の均一分散が阻害されてしまうため、導電性インクとして使用できなくなる。
【0053】
そして、前記表面張力調整剤は、常圧での沸点が100℃〜300℃であるアルコール、グリコールからなる群より選択される1種又は2種以上を組み合わせたものである事が好ましい。
【0054】
密着性向上剤: 本件発明に係る導電性インクを構成する前記分散媒は、密着性向上剤としてシランカップリング剤、チタンカップリング剤、ジルコニアカップリング剤、アルミニウムカップリング剤からなる群より選択される1種又は2種以上を含むことが好ましい。
【0055】
ここで言う密着性向上剤とは、前記群より選択した1種の成分を用いる場合のみならず、2種以上を組み合わせて用いることが可能である。即ち、複数種の成分を含有させることで、回路等の形成を行う基板性質に合わせた密着性の制御が可能となるのである。
【0056】
ここで言うシランカップリング剤とは、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、2−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノトリエトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(ビニルベンジル)−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン塩酸塩、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン、ヘキシルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシランのいずれかを用いる事が好ましい。中でも、基板への密着性の安定化を図るという観点から、安定した性能を発揮するメチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルトリエトキシシラン等を用いることが好ましい。
【0057】
ここで言うチタンカップリング剤とは、テトライソプロピルチタネート、テトラノルマルブチルチタネート、ブチルチタネートダイマー、テトラ(2−エチルヘキシル)チタネート、テトラメチルチタネート、チタンアセチルアセトネート、チタンテトラアセチルアセトネート、チタンエチルアセトアセテート、チタンオクタンジオレート、チタンラクテート、チタントリエタノールアミネート、ポリヒドロキシチタンステアレートのいずれかを用いることが好ましい。中でも、基板への密着性の安定化を図るという観点から、安定した性能を発揮するテトライソプロピルチタネート、テトラノルマルブチルチタネート、チタンラクテート等を用いることが好ましい。
【0058】
ここで言うジルコニウムカップリング剤とは、ジルコニウムノルマルプロピレート、ジルコニウムノルマルブチレート、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、ジルコニウムモノアセチルアセトネート、ジルコニウムビスアセチルアセトネート、ジルコニウムモノエチルアセトアセテート、ジルコニウムアセチルアセトネートビスエチルアセトアセテート、ジルコニウムアセテート、ジルコニウムモノステアレートのいずれかを用いることが好ましい。中でも、基板への密着性の安定化を図るという観点から、安定した性能を発揮するジルコニウムノルマルプロピレート、ジルコニウムノルマルブチレート、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、ジルコニウムモノアセチルアセトネート、ジルコニウムビスアセチルアセトネート、ジルコニウムモノエチルアセトアセテート、ジルコニウムアセチルアセトネートビスエチルアセトアセテート、ジルコニウムアセテートを用いることが好ましい。
【0059】
ここで言うアルミニウムカップリング剤とは、アルミニウムイソプロピレート、モノsec−ブトキシアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムsec−ブチレート、アルミニウムエチレート、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、アルキルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムモノアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムトリス(アセチルアセトネート)、アルミニウムモノイソプロポキシモノオレオキシエチルアセトアセテート、環状アルミニウムオキサイドイソプロピレート、環状アルミニウムオキサイドオクチレート、環状アルミニウムオキサイドステアレートのいずれかを用いることが好ましい。中でも、基板への密着性の安定化を図るという観点から、安定した性能を発揮するエチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、アルキルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムモノアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムトリス(アセチルアセトネート)を用いることが好ましい。
【0060】
金属粉又は金属酸化物粉: そして、ここで言う金属粉又は金属酸化物粉とは、ニッケル粉、銀粉、金粉、白金粉、銅粉、パラジウム粉、インジウム−錫酸化物から選択される一種又は二種以上の混合粉のことである。そして、この金属粉又は金属酸化物粉の、一次粒径、粒度分布等に関しては、特段の限定はない。なぜなら、粉体特性が同じである限り、上記分散媒組成を用いることで、従来の導電性インクと比べ、高い基板密着性と、形成した導体膜は優れた膜密度を示し、導体抵抗が小さくなるからである。
【0061】
しかしながら、インクジェット方式で使用することを考慮すると、平均一次粒径が500nm以下であることが好ましい。平均一次粒径が500nmを超えると、極端にインクジェットノズルに導電性インクが目詰まりしやすくなり連続印刷が困難となる。仮に、印刷可能であったとしても、形成される配線や電極の膜厚が厚くなりすぎるため、目的とする微細配線とならない。
【0062】
更に言えば、形成する回路のファイン化レベルに応じて、適正な一次粒径を持つ微粒金属粉又は金属酸化物粉を適宜選択使用すればよいのである。しかしながら、微粒粉という概念からして、通常3nm〜500nm、好ましくは5nm〜200nm、さらに好ましくは10nm〜150nmの範囲の選択的使用が好ましい。微粒の粉粒の平均一次粒径が3nm未満の場合は、現段階ではその製法が確立されていないものもあり、実験による検証ができない。一方、平均一次粒径が500nmを超えると、目的とする幅40μm以下の配線や電極を形成することが困難であり、又、形成した配線や電極の膜厚が厚くなりすぎるため不適となるのである。傾向として、微粒粉の粉粒の平均一次粒径が微細であるほど、インクジェットのノズルの目詰まりを引き起こす可能性は低く、微細回路の形成に適してくる。本件発明において平均一次粒径とは、走査型電子顕微鏡で観察したときの、一視野中に含まれた最低200個の粉粒の粒径を観察し、これらを積算し平均することにより求められる粒径を意味する。
【0063】
微粒粉の平均一次粒径が小さな事は、細かな粉粒であるという根拠になるが、微粒であっても導電性インク中の粉粒同士の凝集が進行し、二次構造体としての粒径が大きくなると、やはりインクジェットノズルの目詰まりを引き起こしやすくなるのである。従って、導電性インク中の微粒金属粉の二次構造体としての凝集粒は、インクジェットノズルの目詰まりを引き起こさない大きさ以下とする必要があり、これは実験的に確認されたもので、凝集粒の最大粒子径を0.8μm以下とすれば、ほぼ確実にインクジェットノズルの目詰まりを防止出来るのである。又、この凝集粒の確認方法としては、レーザー式粒度分布測定装置を用いている。
【0064】
そして、粉粒の形態に関しては、特に限定はなく、粉粒形状が球状、フレーク状や表面コート層を備える粉粒の全ての概念を包含するものとして記載している。しかしながら、本件発明に係る導電性インクは、主に電子材料の回路形成に使用することを前提としている。従って、電子材料用途に多用されるニッケル粉、銀粉、金粉、白金粉、銅粉、パラジウム粉、インジウム−錫酸化物から選択され、且つ、その金属粉の一次粒子径は500nm以下のものを想定している。また、導電性インクとしての経時的変化、焼結特性等を考慮すると、オレイン酸やステアリン酸等で表面処理した金属粉や、粉粒表面に所定の酸化物を付着させたような酸化物コート粉を用いる等、導電性インクに求められる要求特性を考慮したものを選択的に使用すればよいのである。
【0065】
中でも、本件発明に係る導電性インクで、ニッケル粉を用いることを考えると、次のような微粒の微粒ニッケル粉を採用することで、緻密で且つ低抵抗な膜を形成でき、良好な品質を回路を得ることが出来る。極めて小さな微粒ニッケル粉は、粉体としてより、スラリー状態として保存しておく方が、粉体としての品質の長期保存性が確保できる。
【0066】
そこで、本発明に係る導電性ペーストに、平均一次粒径が100nm以下の微粒ニッケル粉を用いる場合には、ニッケルスラリーの形で用いることが好ましい。即ち、「ニッケル粒子を含むニッケルスラリーにおいて、当該ニッケルスラリーは、有機溶媒と平均一次粒径が100nm以下のニッケル粒子のみからなることを特徴とするニッケルスラリー」を用いる。このニッケルスラリーの特徴は、樹脂等の有機剤を全く用いることなく、加熱により揮散可能な有機溶媒と、ニッケル粒子のみで構成されている点にある。このニッケルスラリーは、ニッケルコロイドと異なり、静置しているとニッケル粒子が容易に沈降する性質を持つ。従って、保存したものを使用するときには、攪拌作業が必要となるが、ニッケルスラリーの溶液側に不必要に有機剤を含まないために、有機剤によるニッケル粒子の表面の汚染もなく、ニッケルペースト及びニッケルインクの原料として使用するときの樹脂成分の調整等も容易となる。
【0067】
しかも、ここでは単にニッケル粒子の平均一次粒径が100nm以下と記載しているが、従来、このレベルの微粒のニッケル粒子を狙って作り出すことは困難であり、量産性に欠け市場供給は出来ないものであり、従来、市場供給することが不可能であった微粒のニッケル粒子を含むのである。
【0068】
平均一次粒径が100nmを超えるレベルのニッケル粒子は、従来の製造方法を適用してもある程度の製造は可能である。これに対し、本発明で用いるニッケルスラリー中のニッケル粒子の平均一次粒径は、製造上不可避的に発生する一定のバラツキを考えても、100nm以下の値となる。そして、より最適な製造条件を適用することで、10nm〜70nmの範囲の微粒ニッケル粒子を得ることができ、高品質のニッケルスラリーを提供する事が可能となる。なお、ここで明記しておくが、10nm未満のニッケル粒子は、全く存在しないわけではなく、ある一定の工程バラツキの範囲で発生する。しかしながら、10nm未満のニッケル粒子は、電界放射型の走査型電子顕微鏡(FE−SEM)を用いても視認することが難しく、平均一次粒子径を厳密に測定し、バラツキを見る等の統計的なデータを得にくいため除外したに過ぎない。従って、本件発明に係るニッケルスラリー中に含まれるニッケル粒子を観察するには、数十万倍以上の観察の可能な透過型電子顕微鏡レベルの倍率での観察の可能な装置を用いて行うことが好ましい。ここで言うニッケルスラリーは、事後的に導電性インクに加工され使用されることを想定すれば、ニッケル粒子の平均一次粒径は小さなものであるほど、微細な回路、電極等の形成が容易となる。従って、ニッケル粒子は、細かく且つ良好な粒度分布を備えることが好ましいのである。
【0069】
また、金属粉の粒子の一般的性質として、微粒化すればするほど、粒子同士が擬似的に連結する凝集が起こりやすい傾向がある場合がある。従って、本件発明に係るニッケルスラリー中のニッケル粒子の平均一次粒子径が如何に細かくとも、粒子同士が強固な凝集をした二次粒子を構成していると、上述のような微細な回路等を形成するためのニッケルインクとしての使用は不可能と言える。そこで、粒子の粒度分布が良好であることを推し量る指標として一次粒子径の標準偏差を用いることとする。
【0070】
ここで、上記ニッケル粒子の一次粒径の標準偏差に関して述べる。本件発明に係るニッケルスラリーに含まれるニッケル粒子は、平均一次粒径がnmオーダーと極めて細かいことから、その製造段階における厳格な意味での粒径制御は困難であり、狙い目とした平均一次粒径によっても粒径のバラツキが異なるという特性を持っている。そこで、発明者等は、上記ニッケル粒子の一次粒径の標準偏差を考える際に、単なる数値としての標準偏差ではなく、平均一次粒径を基準として、[平均一次粒径(nm)]/2.5以下であることを良好な粒子分散性を示す指標として用いた。標準偏差が、[平均一次粒径(nm)]/2.5を超えると、透過電子顕微鏡で観察したときの一次粒子のバラツキが、目に見えて大きく感じられ、そもそもシャープな粒度分布のニッケル粒子であるとは言えないものである。なお、これらニッケル粒子の平均一次粒径は、透過型電子顕微鏡写真により観察し、その観察像から得られた粒径分布より標準偏差を算出し、[平均一次粒径(nm)]/2.5と対比して粒子分布の精度を判断するのである。
【0071】
そして、nmオーダーの粒径を持つニッケル粒子を、通常のレーザー回折散乱式粒度分析法で測定しようとすると、一般的な装置ではなく、超微粒子測定の可能な動的光散乱式(ドップラー散乱光解析)装置を用いなければならない。そこで、本件発明者等は、0.0032μm〜6.5406μmの粒度分布の測定の可能な日機装株式会社製 UPA150を用いてみた。ところが、この装置で測定したときの測定データは、検出器の持つ特性から、2つのピークを示す場合が多く、この事象に関しての原因が明確でない。従って、この事象を特に考慮することなく、粒度分布の標準偏差を求める事も可能であるが、好ましいとは言えない。
【0072】
そこで、本件発明者等は、平均一次粒子径がnmオーダーのニッケル粒子の粒径バラツキを標準偏差で捉える場合、透過型電子顕微鏡の観察像(ニッケル粒子が25個〜60個含まれる観察像)から、直接測定した一次粒子径をもとに、標準偏差を計算により導き出す事の方が、より信頼性のある値が得られると考えた。そして、この方法によれば、本件発明に係るニッケルスラリー中のニッケル粒子の粒度分布の標準偏差の値は、ほぼ[平均一次粒径(nm)]/6.0〜[平均一次粒径(nm)]/2.5の範囲となることが分かった。この程度のバラツキであれば、微細な回路形成等に用いる導電性インクとしての使用には十分に耐えると言える。
【0073】
また、粒子分散性を見る指標として変動係数を採用する事も好ましい。ここで変動係数CV値は、平均一次粒径Dと粒度分布の標準偏差SDとの関係式SD/D×100で表されるものであり、このCV値の値が小さいほど、粉粒の粒径が揃っており、大きなバラツキをもっていないことを意味している。なお、ここでの平均一次粒径は、透過型電子顕微鏡の観察像(ニッケル粒子が25個〜60個含まれる観察像)から、直接測定した一次粒子径である。
【0074】
また、上記ニッケルスラリーにおいて、ニッケル粒子の含有量は、15重量%〜92重量%であることが好ましい。本件発明に係るニッケルスラリーを用いて、ニッケルペースト及びニッケルインクを製造する場合には、この中にバインダー、粘度調整剤等として、種々の有機剤などを添加することになる。従って、ニッケルペースト及びニッケルインクとして必要な、ニッケル粒子含有量を確保するという観点から、上記範囲の含有量が好ましいのである。
【0075】
当該ニッケルスラリーに使用される有機溶媒は、ニッケル粉としての粒子表面の酸化等の化学的変質を引き起こさ無い限り、特に限定されない。使用可能な有機溶媒としては、例えば、ターピネオール、ジヒドロターピネオール等のテルペン類や、オクタノール、デカノール等のアルコール等が挙げられる。上記有機溶剤は1種又は2種以上を混合して用いることができる。
【0076】
以上に述べてきたニッケルスラリーの製造方法に関して説明する。ニッケルスラリーの製造方法として、ニッケル塩、ポリオール及び貴金属触媒を含む反応液を反応温度まで加熱し、該反応温度を維持しながら該反応液中のニッケルイオンを還元し、次いで有機溶媒で置換するニッケルスラリーの製造方法において、上記反応液にアミノ酸を添加することを特徴とする方法を採用することが好ましい。
【0077】
ここで用いるニッケル塩は、特に限定されるものではなく、例えば、水酸化ニッケル、硫酸ニッケル、塩化ニッケル、臭化ニッケル、酢酸ニッケル等が挙げられる。これらの中で水酸化ニッケルは、ニッケルインキとした時に悪影響を及ぼすイオウ、ハロゲン等の元素を含んでいないため特に好ましい。
【0078】
そして、これらニッケル塩は、当該反応液中でニッケル濃度として1g/l〜100g/lの濃度とすることが好ましい。1g/l未満の濃度では、工業的に必要な生産効率を得ることが出来ず、100g/l濃度を超えると、還元析出するニッケル粒子が凝集することによって粒径が大きくなる傾向にあり、平均一次粒径を50nm以下にしたニッケル粒子を得ることができなくなるのである。
【0079】
そして、このニッケルスラリーの製造で用いるポリオールは、炭化水素鎖及び複数の水酸基を有する物質をいう。該ポリオールとしては、例えば、エチレングリコール(沸点197℃)、ジエチレングリコール(沸点245℃)、トリエチレングリコール(沸点278℃)、テトラエチレングリコール(沸点327℃)、1,2−プロパンジオール(沸点188℃)、ジプロピレングリコール(沸点232℃)、1,2−ブタンジオール(沸点193℃)、1,3−ブタンジオール(沸点208℃)、1,4−ブタンジオール(沸点235℃)、2,3−ブタンジオール(沸点177℃)1,5−ペンタンジオール(沸点239℃)及びポリエチレングリコールからなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。このうちエチレングリコールは、沸点が低く、常温で液状であり取り扱い性に優れるため好ましい。ここでポリオールは、ニッケル塩に対する還元剤として作用すると共に、溶媒としても機能するものである。
【0080】
そして、これらポリオールの当該反応液中での濃度は、ニッケル濃度に対応して添加量が定められるのである。従って、上述のニッケル濃度範囲であることを前提として、反応液中のポリオール濃度は、ニッケルに対して11当量〜1100当量となるように添加することが好ましい。11当量未満の濃度では、ニッケル濃度が高くなり析出粒子の凝集が起こりやすくなるのである。そして、上記ニッケル濃度の上限濃度を考慮しても、還元析出したニッケル粒子表面への有機化合物層の形成を考慮すると1100当量濃度を超えると、反応時間を僅かに長くしても、有機化合物層が無用に厚くなり、ニッケルインクに加工して回路等を形成したときの抵抗上昇の原因となるのである。
【0081】
このニッケルスラリーの製造で用いる貴金属触媒は、上記反応液中において、ポリオールによるニッケル塩の還元反応を促進するものであり、例えば、塩化パラジウム、硝酸パラジウム、酢酸パラジウム、塩化アンモニウムパラジウム等のパラジウム化合物、硝酸銀、乳酸銀、酸化銀、硫酸銀、シクロヘキサン酸銀、酢酸銀等の銀化合物、塩化白金酸、塩化白金酸カリウム、塩化白金酸ナトリウム等の白金化合物、及び塩化金酸、塩化金酸ナトリウム等の金化合物等が挙げられる。このうち、硝酸パラジウム、酢酸パラジウム、硝酸銀又は酢酸銀は、得られるニッケル粉の純度が高くなり易く、また、製造コストが低くて済むため好ましい。上記触媒は、上記化合物が安定である限りそのままの形態で又は該化合物の溶液の形態で用いることができる。
【0082】
そして、これら貴金属触媒の当該反応液中での濃度は、ニッケル粒子の還元析出速度を定めるものである。従って、上述の如き100nm以下の平均一次粒子径を持つニッケル粒子を製造しようとするときの、最適な還元速度を得る必要がある。従って、反応液中の貴金属触媒濃度は、0.01mg/l〜0.5mg/lの濃度とすることが好ましい。貴金属触媒濃度が0.01mg/l未満の濃度では、還元速度が遅く、ニッケル粒子が粗大化する上、工業的な意味での操業条件を満足し得ない。そして、貴金属触媒濃度が0.5mg/lを超えると、還元速度が速くなり、得られるニッケル粒子の粒径のバラツキが大きくなり、しかも100nmを超える粗粒が多く発生するのである。
【0083】
以上に述べてきたニッケル塩、ポリオール及び貴金属触媒を含む反応液は、例えば、水にニッケル塩、ポリオール及び貴金属触媒を投入し攪拌し、混合することにより調製することができ、また、貴金属触媒が硝酸パラジウム等のように水溶液として存在する場合は、ニッケル塩、ポリオール及び貴金属触媒を水なしで混合するだけで調製することができる。ニッケル塩、ポリオール及び貴金属触媒を混合して反応液を調製する際、添加する順序や混合方法は、特に限定されない。例えば、ニッケル塩、ポリオール及び貴金属触媒、さらに必要により後述の分散剤を予備混合してスラリーを調製し、該スラリーとポリオールの残部とを混合して反応液を作製してもよい。
【0084】
そして、このニッケルスラリーの製造では、上記反応液にアミノ酸を添加する。このように反応液にアミノ酸を添加することによって、ニッケル粒子の一次粒径を小さく、かつ分散性を良好にすることができる。上記アミノ酸は、沸点又は分解点が反応温度以上であり、かつニッケル及び貴金属触媒とポリオール中で錯体を形成するものが用いられ、具体的にはL−アルギニン及び/又はL−シスチンが好ましく用いられる。アミノ酸の添加量は反応液中のニッケルに対して0.01重量%〜20重量%が好ましい。アミノ酸の添加量が0.01重量%未満では上記効果が得られず、20重量%を超えて添加してもそれ以上の効果が得られず、経済的に不利である。
【0085】
また、上記反応液は、必要に応じて、一定量の分散剤を含むことにより、得られるニッケル粒子がより微粒になり、還元析出した粒子同士の凝集化を防止し、粒度分布をよりシャープにできる。従って、この分散剤は、反応過程においてのみ必要なものであり、製品であるニッケルスラリー中では不要なものであり、ニッケルスラリー中には含ませないようにすることが好ましい。本発明で用いられる分散剤としては、例えば、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンイミン、ポリアクリルアミド、ポリ(2―メチル―2−オキサゾリン)等の含窒素有機化合物、及びポリビニルアルコール等が挙げられる。このうち、ポリビニルピロリドンは、得られるニッケル粒子の粒度分布がシャープになりやすいため好ましい。上記分散剤は、1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。分散剤を含ませる場合には、分散剤の種類に応じて添加量が異なるが、反応液中のニッケル量を基準として、一般的にニッケル量の1重量%〜20重量%、より好ましくは1重量%〜12重量%を含ませることが好ましい。分散剤が、1重量%未満の場合には、分散剤を添加した効果として、ニッケルスラリー中でのニッケル粒子の粒度分布改善効果を発揮し得ない。一方、分散剤を20重量%を超えて添加しても、分散剤を含ませる効果は、それ以上に変化せず、むしろニッケル粒子の有機剤としての分散剤による汚染が深刻化するのである。
【0086】
このニッケルスラリーの製造では、上記反応液を上記還元温度まで加熱し、該還元温度を維持しながら該反応液中のニッケル塩を還元し、ニッケル粒子を製造する。
【0087】
ここで、還元反応を行う反応温度に関して説明する。反応温度としては、150℃〜210℃、好ましくは150℃〜200℃の温度範囲を採用することが好ましい。反応温度と称しているが、本件発明の場合には反応液の液温の事である。上記反応液組成の範囲で、反応温度が150℃未満の場合には、還元反応速度が遅く、工業的に使用出来ない操業条件となる。そして、反応温度が210℃を超えると、還元反応で得られる生成物が炭素を含有して炭化ニッケル粒子になり易いため好ましくない。
【0088】
反応液を上記還元温度に維持する時間は、反応液の組成や還元温度により適切な時間が異なるため一概に特定できないが、通常1時間〜20時間、好ましくは2時間〜15時間である。反応液を上記還元温度に維持する時間が該範囲内であると、ニッケル粒子の核の成長が抑制されると共にニッケル粒子の核が多数発生し易い雰囲気となることにより系内でのニッケル粒子の粒成長が略均一となるため、得られるニッケル粒子が粗大粒子になったり凝集したりすることを抑制することができる。このため、本発明では、上記還元温度に上記時間だけ維持すれば、これ以後は、反応液の温度を上記還元温度の範囲外の温度にしてもよい。例えば、還元反応の速度を向上させるために、反応液の温度を上記還元温度を超える温度にしてもよい。
【0089】
次に、ニッケル粒子が得られた反応液を、有機溶媒で置換してニッケルスラリーとする。ここで用いられる有機溶媒は、上述したように、例えば、ターピネオール、ジヒドロターピネオール等のテルペン類や、オクタノール、デカノール等のアルコール等が挙げられる。上記有機溶剤は1種又は2種以上混合して用いることができる。
【0090】
導電性インクの粘度: 本件発明では、インクジェット法やディスペンサ−法での回路形成等がさらに容易なものとなるよう、導電性インクの25℃における粘度を60cP以下とするのである。本件発明での粘度調整は、上述した溶媒、分散剤、酸化物コート金属粉を最適に配合することで達成する。粘度の下限値を敢えて記載しないのは、各金属の導電性インクが回路形成に使用される場所と目的が異なり、所望とされる配線、電極サイズ及びその形状が異なるためである。25℃における粘度が60cPを超える場合、インクジェット法やディスペンサ−法を利用し、微細な配線や電極を形成しようとしても、ノズルから導電性インクを吐き出すエネルギー以上に導電性インクの粘度が高いため、安定にノズルから導電性インクの液滴を吐き出す事が困難なものとなる。25℃における粘度が60cP以下の場合、実験的にインクジェット法やディスペンサ−法での微細な配線や電極の形成が可能となることが解っている。
【0091】
<本件発明に係る導電性インクの製造方法>
以上に述べてきた導電性インクの製造方法に関しては、特段の限定はない。いかなる方法を採用しても、最終的に、少なくとも金属粉と主溶媒と膜密度向上剤とを含み、分散助剤、表面張力向上剤、密着性向上剤を適宜含むものとすればよいのである。しかしながら、分散助剤を使用することを考えるに、金属粉を主溶媒に分散させ母スラリーとして、この段階で分散助剤を添加し、以下任意の手順で表面張力向上剤及び/又は密着性向上剤を適宜添加する事が好ましい。
【実施例1】
【0092】
この実施例では、以下の手順にて導電性インクを調整し、その導電性インクを用いて電極膜を形成し、導体抵抗、密着性、電極膜断面の状態観察を行った。
【0093】
<ニッケル粒子の製造>
反応容器に張り込まれたエチレングリコール445.28g中で水酸化ニッケル31.31g、ポリビニルピロリドン(PVP)2.15g、100g/lの硝酸パラジウム溶液0.69ml及びL−アルギニン1.0gを攪拌しながら190℃で10時間加熱し、平均一次粒径37.86nmのニッケル粒子を得た。この反応液をエチレングリコールでデカンテーションを行い、反応液中のPVPを洗浄除去し、これをターピネオールで2回のデカンテーションを行い、ニッケル粉含有量80重量%、残部ターピネオールのニッケルスラリーを製造した。
【0094】
上記ニッケルスラリー中の50個のニッケル粒子の一次粒径(平均、標準偏差、最大値、最小値)を透過型電子顕微鏡で観察した結果を表1に示す。そして、FE−SEMの観察像を図1(×100000)に示した。しかし、FE−SEMレベルの分解能では、十分な粒子観察が出来ないことが分かる。そこで、図6に透過型電子顕微鏡での観察像を示す。この図2では、得られたニッケル粒子の様子が明瞭に観察出来る。以下の実施例でも、ここで得られたと同じニッケルスラリーを原料として用いた。
【0095】
<導電性インクの製造>
分散助剤の調整: 容量1Lのビーカーに、ジエタノールアミン(和光純薬工業株式会社製)380g、44%ポリアクリル酸アンモニウム溶液(和光純薬工業株式会社製)45.6g、15%水酸化テトラメチルアンモニウム溶液(和光純薬工業株式会社製)13.4gを加え、マグネチックスターラーで攪拌して分散助剤を調整した。
【0096】
金属粉スラリーの調整: 上記ニッケル粒子の製造で得られたニッケルスラリー3Lを遠心分離機により固液分離を行い上澄みを除去した。次に、得られた固形分に含まれる反応に使用した有機物等を取り除く為、得られた固形分に除去した上澄み量と同量の純水を加え良く混合した後、遠心分離機により固形分を回収する操作を3回行った。得られた固形分に、ニッケル濃度が21wt%となるように純水を加え良く混合し、水性ニッケルスラリーとした。この水性ニッケルスラリー262.3gに、前記分散助剤14.8gを添加した。次に、該スラリーを、高速乳化分散機であるT.K.フィルミックス(特殊機化工業株式会社製)にて分散化処理を行い、ニッケル粒子を分散させたニッケルスラリーを得た。
【0097】
導電性インクの調製: 次に、前記ニッケルスラリーをジルコニアビーズ(株式会社ニッカトー製、0.3mmφ)を解砕メディアとし、ペイントシェーカー(浅田鉄鋼株式会社製)にて30分間解砕処理を行った。続いて、表面張力調整剤として2−n−ブトキシエタノール(関東化学株式会社製、表面張力28.2mN/m)19.7gと、密着性向上剤としてチタンラクテート(松本純薬工業株式会社製TC−315)13.8gを添加し、ペイントシェーカー(浅田鉄鋼株式会社製)にて30分間混合処理を行った。
【0098】
その後、更に、膜密度向上剤としてタングステン酸(和光純薬工業株式会社製)1.89gを添加し、ペイントシェーカー(浅田鉄鋼株式会社製)にて30分間粉砕処理を行った。そして、次に、該スラリーに含有される5μm以上の粒子をカートリッジ式フィルター(アドバンテック東洋株式会社製MCP−3)に通液することで除去し、さらに1μm以上の粒子をカートリッジ式フィルター(アドバンテック東洋株式会社製MCP−HX)にてろ過し、ろ液(以下、「導電性インクA」と称する)を得た。
【0099】
<導電性インクとしての評価>
膜抵抗の測定: 上記導電性インクAを、無アルカリガラス基板OA−10(日本電気硝子株式会社製)上にスピンコーター(MIKASA社製)を用い、2500rpmで10秒間の条件で成膜した。次に、水素含有量が2容量%の水素−窒素混合雰囲気下、300℃で2時間加熱処理を行い、膜厚みが約500nmのニッケル電極膜を得た。該電極膜について、比抵抗を四探針抵抗測定機ロレスタGP(三菱化学株式会社製)にて測定したところ、3.2×10−4Ω・cmであった。
【0100】
密着性の評価: ガラス基板との密着性をJIS K 5600 パラグラフ5−6に準じ、クロスカット法により評価したところ、分類0であり、良好な密着性を有していた。また、上述のようにして作製した電極膜を、水中で10分間超音波洗浄し、続いてアセトン中で10分間超音波洗浄したものを、マイクロスコープにて観察したところ、係る場合でも電極膜の剥離は観察されなかった。
【0101】
電極膜断面の状態観察: 上述のようにして調製した電極膜の断面を走査型電子顕微鏡(FEI COMPANY社製 FE−SEM)にて観察したところ、図3に示すように緻密な膜が得られていた。
【実施例2】
【0102】
<導電性インクの製造>
この実施例は、添加する膜密度向上剤をクエン酸ニッケルにする以外は、実施例1と同様の方法で導電性インクBを作製した。従って、重複した記載を避けるため、ここでの製造プロセスに関しての説明は省略する。
【0103】
<導電性インクとしての評価>
膜抵抗の測定: 上記導電性インクBを、実施例1と同様にして、膜厚みが約500nmのニッケル電極膜を得た。該電極膜について、比抵抗を四探針抵抗測定機ロレスタGP(三菱化学株式会社製)にて測定したところ、2.5×10−4Ω・cmであった。
【0104】
密着性の評価: ガラス基板との密着性をJIS K 5600 パラグラフ5−6に準じ、クロスカット法により評価したところ、分類0であり、良好な密着性を有していた。また、上述のようにして作製した電極膜を、水中で10分間超音波洗浄し、続いてアセトン中で10分間超音波洗浄したものを、マイクロスコープにて観察したところ、係る場合でも電極膜の剥離は観察されなかった。
【0105】
電極膜断面の状態観察: 上述のようにして調製した電極膜の断面を走査型電子顕微鏡(FEI COMPANY社製 FE−SEM)にて観察したところ、図4に示すように緻密な膜が得られていた。
【実施例3】
【0106】
<導電性インクの製造>
この実施例は、添加する膜密度向上剤を酢酸銅にする以外は、実施例1と同様の方法で導電性インクCを作製した。従って、重複した記載を避けるため、ここでの製造プロセスに関しての説明は省略する。
【0107】
<導電性インクとしての評価>
膜抵抗の測定: 上記導電性インクCを、実施例1と同様にして、膜厚みが約500nmのニッケル電極膜を得た。該電極膜について、比抵抗を四探針抵抗測定機ロレスタGP(三菱化学株式会社製)にて測定したところ、5.92×10−4Ω・cmであった。
【0108】
密着性の評価: ガラス基板との密着性をJIS K 5600 パラグラフ5−6に準じ、クロスカット法により評価したところ、分類0であり、良好な密着性を有していた。また、上述のようにして作製した電極膜を、水中で10分間超音波洗浄し、続いてアセトン中で10分間超音波洗浄したものを、マイクロスコープにて観察したところ、係る場合でも電極膜の剥離は観察されなかった。
【0109】
電極膜断面の状態観察: 上述のようにして調製した電極膜の断面を走査型電子顕微鏡(FEI COMPANY社製 FE−SEM)にて観察したところ、図5に示すように緻密な膜が得られていた。
【実施例4】
【0110】
<導電性インクの製造>
この実施例は、添加する膜密度向上剤をモリブデン酸にする以外は、実施例1と同様の方法で導電性インクDを作製した。従って、重複した記載を避けるため、ここでの製造プロセスに関しての説明は省略する。
【0111】
<導電性インクとしての評価>
膜抵抗の測定: 上記導電性インクDを、実施例1と同様にして、膜厚みが約500nmのニッケル電極膜を得た。該電極膜について、比抵抗を四探針抵抗測定機ロレスタGP(三菱化学株式会社製)にて測定したところ、5.28×10−4Ω・cmであった。
【0112】
密着性の評価: ガラス基板との密着性をJIS K 5600 パラグラフ5−6に準じ、クロスカット法により評価したところ、分類0であり、良好な密着性を有していた。また、上述のようにして作製した電極膜を、水中で10分間超音波洗浄し、続いてアセトン中で10分間超音波洗浄したものを、マイクロスコープにて観察したところ、係る場合でも電極膜の剥離は観察されなかった。
【0113】
電極膜断面の状態観察: 上述のようにして調製した電極膜の表面を走査型電子顕微鏡(FEI COMPANY社製 FE−SEM)にて観察したところ、図6に示すように緻密な膜が得られていた。
【比較例】
【0114】
<導電性インクの製造>
この比較例は、添加する膜密度向上剤を省略し、その他は実施例1と同様の方法で、上記実施例と対比するための導電性インクGを作製した。従って、重複した記載を避けるため、ここでの製造プロセスに関しての説明は省略する。
【0115】
<導電性インクとしての評価>
膜抵抗の測定: 上記導電性インクGを、実施例1と同様にして、膜厚みが約500nmのニッケル電極膜を得た。該電極膜について、比抵抗を四探針抵抗測定機ロレスタGP(三菱化学株式会社製)にて測定したところ、4.10×10−3Ω・cmであった。
【0116】
密着性の評価: ガラス基板との密着性をJIS K 5600 パラグラフ5−6に準じ、クロスカット法により評価したところ、分類0であり、良好な密着性を有していた。また、上述のようにして作製した電極膜を、水中で10分間超音波洗浄し、続いてアセトン中で10分間超音波洗浄したものを、マイクロスコープにて観察したところ、係る場合でも電極膜の剥離は観察されなかった。
【0117】
電極膜断面の状態観察: 上述のようにして調製した電極膜の状態を走査型電子顕微鏡(FEI COMPANY社製 FE−SEM)にて観察したところ、図7に示す平面観察像(図1〜図3と対比すべきもの)、図8に示す断面観察像(図4と対比すべきもの)から分かるように充填性に優れた良好な膜が得られ無かった。
【0118】
<実施例と比較例との対比>
比較例と上記各実施例とを対比すると、各実施例の膜抵抗の測定値は、10−4オーダーの抵抗値を示しているのに対し、比較例は10−3オーダーの抵抗値を示している。従って、膜密度向上剤としての金属塩を含む導電性インクの方が、比較例の膜密度向上剤を含まない導電性インクに比べ、その導電性インクを用いて形成した電極膜の導体抵抗が低くなることが明らかである。
【0119】
また、電極膜表面又は断面の状態観察は、電極膜の導体抵抗に生じた差異を裏付けるように、走査型電子顕微鏡から明らかなように、比較例の電極膜は各実施例の電極膜に比べ、膜内にクラックが確認でき充填性に欠け、緻密な膜となっていない事が理解でき、導電性インクの中で膜密度向上剤の果たす機能が視覚的に捉えられる。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本件発明に係る導電性インクは、当該導電性インクを用いて形成した導体の膜密度を向上させ低抵抗の導体形成を可能とするため、低消費電力の回路形成を可能とする。また、その導体は、各種基板等との密着性に優れるものとなる。従って、本件発明に係る導電性インクに含ませる金属粉の粉体特性を、微粒且つ分散性に優れたものとすれば、インクジェット方式やディスペンサー方式を用いて、基板上に微細な配線や電極を形成する用途等に好適なものである。
【0121】
また、本件発明に係る導電性インクにおいて、密着性向上剤等の添加剤を適宜用いることにより、各種基板との密着性の調整が可能で、且つ、微細な配線や電極の形成が可能な導電性金属インクとなる。例えば、ガラス基板上への回路形成、銀ペースト若しく銅ペーストを用いて形成した回路、又はITOを用いた透明電極等の上への配線、電極、や保護回路や保護被膜の形成が可能なものである。従って、液晶ディスプレイ等の製造過程において有用なものである。
【図面の簡単な説明】
【0122】
【図1】本件発明に係る導電性インク(ニッケルインク)に用いるニッケルスラリーに含まれる微粒ニッケル粉の走査型電界放射型電子顕微鏡像。
【図2】本件発明に係る導電性インク(ニッケルインク)に用いるニッケルスラリーに含まれる微粒ニッケル粉の透過型電子顕微鏡像。
【図3】電極膜断面の走査型電子顕微鏡観察像(実施例1)。
【図4】電極膜断面の走査型電子顕微鏡観察像(実施例2)。
【図5】電極膜断面の走査型電子顕微鏡観察像(実施例3)。
【図6】電極膜表面の走査型電子顕微鏡観察像(実施例4)。
【図7】電極膜断面の走査型電子顕微鏡観察像(比較例)。
【図8】電極膜表面の走査型電子顕微鏡観察像(比較例)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散媒に金属粉又は金属酸化物粉を分散させた導電性インクであって、
前記分散媒中に、当該導電性インクを用いて形成した導体の膜密度を向上させるための膜密度向上剤としての金属塩又は金属酸化物を含むことを特徴とする導電性インク。
【請求項2】
前記分散媒を構成する主溶媒は、常圧での沸点が300℃以下である水、アルコール類、グリコール類、飽和炭化水素類からなる群より選択した1種又は2種以上を組み合わせたものである請求項1に記載の導電性インク。
【請求項3】
前記膜密度向上剤は、Ti、V、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、Ag、In、Sn、Ta、Wを含む金属塩又は金属酸化物群より選択される1種又は2種以上を含むことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の導電性インク。
【請求項4】
前記分散媒は、分散助剤を含むものである請求項1〜請求項3のいずれかに記載の導電性インク。
【請求項5】
分散助剤は、(a)ポリアクリル酸、そのエステル又はその塩、(b)有機基置換水酸化アンモニウム及び(c)ヒドロキシル基含有アミン化合物の(a)〜(c)からなる群より選択される1種又は2種以上を混合したものである請求項4に記載の導電性インク。
【請求項6】
前記分散媒は、表面張力調整剤を用いて表面張力が15mN/m〜50mN/mの範囲に調整したことを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれかに記載の導電性インク。
【請求項7】
前記表面張力調整剤は、常圧での沸点が100℃〜300℃であるアルコール、グリコールからなる群より選択される1種又は2種以上を組み合わせたものである請求項6に記載の導電性インク。
【請求項8】
前記分散媒は、密着性向上剤としてシランカップリング剤、チタンカップリング剤、ジルコニアカップリング剤、アルミニウムカップリング剤からなる群より選択される1種又は2種以上を含むことを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれかに記載の導電性インク。
【請求項9】
前記金属粉又は金属酸化物粉は、ニッケル粉、銀粉、金粉、白金粉、銅粉、パラジウム粉、インジウム−錫酸化物から選択された1種又は2種以上の混合粉である請求項1〜請求項8のいずれかに記載の導電性インク。
【請求項10】
前記金属粉又は金属酸化物粉の内、ニッケル粉は、ニッケル粒子と有機溶媒とからなるニッケルスラリーから得られるニッケル粒子であって、その平均一次粒径が100nm以下である請求項1〜請求項9のいずれかに記載の導電性インク。
【請求項11】
前記ニッケル粉は、ニッケル粒子の平均一次粒径が10nm〜70nmである請求項10に記載の導電性インク。
【請求項12】
25℃における粘度が、60cP以下である請求項1〜請求項12のいずれかに記載の導電性インク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−210301(P2006−210301A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−48662(P2005−48662)
【出願日】平成17年2月24日(2005.2.24)
【出願人】(000006183)三井金属鉱業株式会社 (1,121)
【Fターム(参考)】