説明

導電性コーティング材料

【課題】良好な被膜強度を有しつつ高い導電性を発揮し得、かつその色調も容易に所期のものとすることのできる導電性コーティング材料を提供することを課題とする。
【解決手段】有機バインダー成分と、外径15〜100nmの炭素繊維から構成される3次元ネットワーク状の炭素繊維構造体であって、前記炭素繊維構造体は、前記炭素繊維が複数延出する態様で、当該炭素繊維を互いに結合する粒状部を有しており、かつ当該粒状部は前記炭素繊維の成長過程において形成されてなるものである炭素繊維構造体とを含有してなる導電性コーティング材料であって、炭素繊維構造体がコーティング材料全体の0.1〜50質量%の割合で配合されてなることを特徴とする導電性コーティング材料である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な導電性コーティング材料に関するものである。詳しく述べると、本発明は、良好な被膜強度を有しつつ高い導電性を発揮し得、かつその色調も容易に所期のものとすることのできる導電性コーティング材料に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、樹脂材やゴム材といった有機高分子材料は、軽量で成形性が良く、また良好な機械的強度、弾性等を発揮するものであることから、各種の分野において製品本体、製品筐体、外装ないし内装部品等として広く用いられている。
【0003】
また、このような有機高分子材料は、顔料ないし染料等の着色剤を有機高分子材料組成物中に配合することによって容易に着色できるものであるため、このようにして成形品自体を着色することもごく一般的に行われていることであるが、有機高分子材料からなる成形品を組み込んでなる製品全体に対し、より美観、質感、統一感等の優れた、高度な彩色を施そうとする場合には、これらの表面に塗装を施して表面仕上げを行なっている。
【0004】
例えば、自動車外装においては、樹脂材によってバンパー、フロントスポイラー、サイドガーニッシュ等に代表される多くの部品が形成されており、鋼製パネルによって構成されたドア、ボンネット等のその他の外板部位と同色あるいは統一感のある色に塗装が施されている。周知のように、自動車塗装においては、その中塗り、上塗り工程等に静電塗装方法(静電粉体塗装を含む)が用いられているが、樹脂材やゴム材といった有機高分子材料は、一般に電気絶縁性に優れたものであるため、このような静電塗装方法による塗装が困難である。樹脂製部品を自動車本体とは別途に塗装した後、組み付けることは可能であるが、塗装ラインが別途必要となって製造コストが高くなるのみならず、同組成の塗料を用いたとしても乾燥、焼付け工程における熱履歴の差等によって部材間の色調に微妙な差が生じ、全体として統一性の高い塗装を施すことが困難となる。このため、樹脂製部品の表面に導電性プライマーを塗布して導電性を付与し、樹脂製部品を自動車本体に組み付けて、鋼製外板と共に静電塗装による中塗り、上塗り工程に付すことが行われている。
【0005】
従来、このような導電性プライマーとしては、金属粉末やカーボンブラックなどの導電性粉末、界面活性剤、シロキサン系その他の高分子系帯電防止剤などを配合して、導電性を付与したものが用いられている。
【0006】
また、樹脂材やゴム材といった有機高分子材料の表面に導電性を付与しようとする試みは、例えば、プリント配線基板、液晶表示素子、有機EL素子等における導体、配線形成技術、また、電子部品の保存、輸送中における静電気破壊を防止するための電子部品包装用シート等の分野においても行われている。
【0007】
このような分野において用いられる導電性インクとしても、従来、カーボンブラックなどの導電性粉末を、インク組成物中に配合したものが用いられている。
【0008】
しかしながら、上記したような導電性プライマー、導電性インク等の導電性コーティング剤に配合される導電性付与剤として界面活性剤は、一般に低分子化合物であり、該化合物が塗膜表面にブリードすることで導電性を維持するという導電性付与の作用機序であるために、プラスチックススや塗膜などの表面にブリードアウトする傾向があり、塗膜付き基材同士が付着するブロッキング現象が生じたり、また表面の界面活性剤は洗剤等で容易に拭きとられて効果が次第に低下するなどの問題がある。また、界面活性剤では、吸着した水分によりその界面活性剤中の親水基が導電性を発現するため、低湿度の雰囲気中では効果を発揮しないという問題点もある。
【0009】
シロキサン系その他の従来の高分子型帯電防止剤は、界面活性剤のようなブリードアウトは起こらず、効果が減少することは少ないが、界面活性剤と同様、水分で導電性を発現するため、ある程度の高湿度の雰囲気中でしか効果を発揮せず、帯電防止効果も十分でないという問題点がある。
【0010】
これに対して、上記金属粉末、カーボンブラック等の導電性無機充填剤を用いると、導電機構が水の吸着に依らないため、周囲の湿度条件に左右されないという利点がある。しかしながら、金属粉末、カーボンブラック等を配合した従来の導電性コーティング剤では、コーティング剤中に凝集物が発生したり、コーティング剤の流動性が経時的に低下して固形状になり塗装困難になったり、塗装しても十分な硬度の塗膜が得られないなどの問題点があった。
【0011】
特許文献1には、導電性付与剤としてカーボンナノ繊維を配合してなる導電性コーティング材料が提唱されている。
【0012】
カーボンナノ繊維を構成するグラファイト層は、通常では規則正しい六員環配列構造を有し、その特異な電気的性質とともに、化学的、機械的および熱的に安定した性質を持つ物質である。従って、コーティング剤により形成される被膜のマトリックス中にこのような微細炭素繊維を分散配合することにより、前記したような物性を生かすことができれば、優れた特性を発揮することが期待できる。
【0013】
しかしながら、一方で、このようなカーボンナノ繊維は、生成時点で既に塊になってしまい、これをそのまま使用すると、マトリックス中において分散が進まず性能不良をきたすおそれがある。従って、樹脂等のマトリックスに導電性等の所定の特性を発揮させようとする場合には、かなりの添加量を必要とするものであった。
【特許文献1】米国特許第5098771号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従って、本発明は、導電性付与剤として好ましい物性を持ち、少量の添加にて、マトリックスの特性を損なわずに電気的特性を改善できる新規な構造の炭素繊維構造体を含む導電性コーティング材料を提供することを課題とするものである。本発明は、また、良好な被膜強度を有しつつ高い導電性を発揮し得、かつその色調も容易に所期のものとすることのできる導電性コーティング材料を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討の結果、その添加量が少なくても十分な電気特性向上を発揮させるためには、可能な限り微細な炭素繊維を用い、さらにこれら炭素繊維が一本一本ばらばらになることなく互いに強固に結合し、疎な構造体でマトリックスに保持されるものであること、また炭素繊維自体の一本一本が極力欠陥の少ないものであることが有効であることを見出し、本発明に到達したものである。
【0016】
すなわち、上記課題を解決する本発明は、有機バインダー成分と、外径15〜100nmの炭素繊維から構成される3次元ネットワーク状の炭素繊維構造体であって、前記炭素繊維構造体は、前記炭素繊維が複数延出する態様で、当該炭素繊維を互いに結合する粒状部を有しており、かつ当該粒状部は前記炭素繊維の成長過程において形成されてなるものである炭素繊維構造体とを含有してなる導電性コーティング材料であって、炭素繊維構造体がコーティング材料全体の0.01〜50質量%の割合で配合されてなることを特徴とする導電性コーティング材料である。
【0017】
本発明はまた、導電性プライマーとして用いられるものである導電性コーティング材料を示すものである。
【0018】
本発明はさらに、導電性インクとして用いられるものである導電性コーティング材料を示すものである。
【0019】
本発明はまた、前記炭素繊維構造体は、面積基準の円相当平均径が50〜100μmであることを特徴とする上記導電性コーティング材料を示すものである。
【0020】
本発明はさらに、前記炭素繊維構造体は、嵩密度が、0.0001〜0.05g/cmであることを特徴とする上記導電性コーティング材料を示すものである。
【0021】
本発明はまた、前記炭素繊維構造体は、ラマン分光分析法で測定されるI/Iが、0.2以下であることを特徴とする上記導電性コーティング材料を示すものである。
【0022】
本発明はまた、前記炭素繊維構造体は、炭素源として、分解温度の異なる少なくとも2つ以上の炭素化合物を用いて、生成されたものである上記導電性コーティング材料を示すものである。
【発明の効果】
【0023】
本発明においては、炭素繊維構造体が、上記したように3次元ネットワーク状に配された微細径の炭素繊維が、前記炭素繊維の成長過程において形成された粒状部によって互いに強固に結合され、該粒状部から前記炭素繊維が複数延出する形状を有するものであるために、形成されるコーティング膜に被膜中において、当該炭素繊維構造体は、疎な構造を残したまま高い分散性をもって、少量の添加量においても、マトリックス中に、微細な炭素繊維を均一な広がりをもって配置することができる。このように、本発明に係る導電性コーティング材料においては、上述の炭素繊維構造体を比較的微量配することによっても、形成される被膜のマトリックス全体に微細な炭素繊維が均一に分散分布されているため、マトリックス全体に良好な導電性パスが形成され、導電性向上させることができ、また機械的特性、熱特性等に関しても、マトリックス全体に微細炭素繊維からなるフィラーが満遍なく配されることで、特性向上が図れることとなるものである。さらに、炭素繊維構造体の添加量が比較的少なくてすむため、形成される被膜の色調も、極端に黒色度の高いものとすることなく調整可能であり、例えば、淡彩色系の塗装のプライマーとして用いられた場合であっても、その色調に影響を及ぼすことなく良好な発色を持って塗装を行うことが可能となるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明を好ましい実施形態に基づき詳細に説明する。
【0025】
本発明の導電性コーティング材料は、後述するような所定構造を有する3次元ネットワーク状の炭素繊維構造体を、全体の0.01〜50質量%の割合で含有することを特徴するものである。
【0026】
本発明において用いられる炭素繊維構造体は、例えば、図3に示すSEM写真または図4(a)および(b)に示すTEM写真に見られるように、外径15〜100nmの炭素繊維から構成される3次元ネットワーク状の炭素繊維構造体であって、前記炭素繊維構造体は、前記炭素繊維が複数延出する態様で、当該炭素繊維を互いに結合する粒状部を有することを特徴とする炭素繊維構造体である。
【0027】
炭素繊維構造体を構成する炭素繊維の外径を、15〜100nmの範囲のものとするのは、外径が15nm未満であると、後述するように炭素繊維の断面が多角形状とならず、一方、炭素繊維の物性上直径が小さいほど単位量あたりの本数が増えるとともに、炭素繊維の軸方向への長さも長くなり、高い導電性が得られるため、100nmを越える外径を有することは、樹脂等のマトリックスへ改質剤、添加剤として配される炭素繊維構造体として適当でないためである。なお、炭素繊維の外径としては特に、20〜70nmの範囲内にあることが、より望ましい。この外径範囲のもので、筒状のグラフェンシートが軸直角方向に積層したもの、すなわち多層であるものは、曲がりにくく、弾性、すなわち変形後も元の形状に戻ろうとする性質が付与されるため、炭素繊維構造体が一旦圧縮された後においても、樹脂等のマトリックスに配された後において、疎な構造を採りやすくなる。
【0028】
なお、2400℃以上でアニール処理すると、積層したグラフェンシートの面間隔が狭まり真密度が1.89g/cmから2.1g/cmに増加するとともに、炭素繊維の軸直交断面が多角形状となり、この構造の炭素繊維は、積層方向および炭素繊維を構成する筒状のグラフェンシートの面方向の両方において緻密で欠陥の少ないものとなるため、曲げ剛性(EI)が向上する。
【0029】
加えて、該微細炭素繊維は、その外径が軸方向に沿って変化するものであることが望ましい。このように炭素繊維の外径が軸方向に沿って一定でなく、変化するものであると、樹脂等のマトリックス中において当該炭素繊維に一種のアンカー効果が生じるものと思われ、マトリックス中における移動が生じにくく分散安定性が高まるものとなる。
【0030】
そして本発明に係る炭素繊維構造体においては、このような所定外径を有する微細炭素繊維が3次元ネットワーク状に存在するが、これら炭素繊維は、当該炭素繊維の成長過程において形成された粒状部において互いに結合され、該粒状部から前記炭素繊維が複数延出する形状を呈しているものである。このように、微細炭素繊維同士が単に絡合しているものではなく、粒状部において相互に強固に結合されているものであることから、樹脂等のマトリックス中に配した場合に当該構造体が炭素繊維単体として分散されることなく、嵩高な構造体のままマトリックス中に分散配合されることができる。また、本発明に係る炭素繊維構造体においては、当該炭素繊維の成長過程において形成された粒状部によって炭素繊維同士が互いに結合されていることから、その構造体自体の電気的特性等も非常に優れたものであり、例えば、一定圧縮密度において測定した電気抵抗値は、微細炭素繊維の単なる絡合体、あるいは微細炭素繊維同士の接合点を当該炭素繊維合成後に炭素質物質ないしその炭化物によって付着させてなる構造体等の値と比較して、非常に低い値を示し、マトリックス中に分散配合された場合に、良好な導電パスを形成できることができる。
【0031】
当該粒状部は、上述するように炭素繊維の成長過程において形成されるものであるため、当該粒状部における炭素間結合は十分に発達したものとなり、正確には明らかではないが、sp結合およびsp結合の混合状態を含むと思われる。そして、生成後(後述する中間体および第一中間体)においては、粒状部と繊維部とが、炭素原子からなるパッチ状のシート片を貼り合せたような構造をもって連続しており、その後の高温熱処理後においては、図4(a)および(b)に示されるように、粒状部を構成するグラフェン層の少なくとも一部は、当該粒状部より延出する微細炭素繊維を構成するグラフェン層に連続するものとなる。本発明に係る炭素繊維構造体において、粒状部と微細炭素繊維との間は、上記したような粒状部を構成するグラフェン層が微細炭素繊維を構成するグラフェン層と連続していることに象徴されるように、炭素結晶構造的な結合によって(少なくともその一部が)繋がっているものであって、これによって粒状部と微細炭素繊維との間の強固な結合が形成されているものである。
【0032】
なお、本願明細書において、粒状部から炭素繊維が「延出する」するとは、粒状部と炭素繊維とが他の結着剤(炭素質のものを含む)によって、単に見かけ上で繋がっているような状態をさすものではなく、上記したように炭素結晶構造的な結合によって繋がっている状態を主として意味するものである。
【0033】
また、当該粒状部は、上述するように炭素繊維の成長過程において形成されるが、その痕跡として粒状部の内部には、少なくとも1つの触媒粒子、あるいはその触媒粒子がその後の熱処理工程において揮発除去されて生じる空孔を有している。この空孔(ないし触媒粒子)は、粒状部より延出している各微細炭素繊維の内部に形成される中空部とは、本質的に独立したものである(なお、ごく一部に、偶発的に中空部と連続してしまったものも観察される。)。
この触媒粒子ないし空孔の数としては特に限定されるものではないが、粒状部1つ当りに1〜1000個程度、より望ましくは3〜500個程度存在する。このような範囲の数の触媒粒子の存在下で粒状部が形成されたことによって、後述するような所望の大きさの粒状部とすることができる。
【0034】
また、この粒状部中に存在する触媒粒子ないし空孔の1つ当りの大きさとしては、例えば、1〜100nm、より好ましくは2〜40nm、さらに好ましくは3〜15nmである。
【0035】
さらに、特に限定されるわけではないが、この粒状部の粒径は、図2に示すように、前記微細炭素繊維の外径よりも大きいことが望ましい。具体的には、例えば、前記微細炭素繊維の外径の1.3〜250倍、より好ましくは1.5〜100倍、さらに好ましくは2.0〜25倍である。なお、前記値は平均値である。このように炭素繊維相互の結合点である粒状部の粒径が微細炭素繊維外径の1.3倍以上と十分に大きなものであると、当該粒状部より延出する炭素繊維に対して高い結合力がもたらされ、樹脂等のマトリックス中に当該炭素繊維構造体を配した場合に、ある程度のせん弾力を加えた場合であっても、3次元ネットワーク構造を保持したままマトリックス中に分散させることができる。一方、粒状部の大きさが微細炭素繊維の外径の250倍を超える極端に大きなものとなると、炭素繊維構造体の繊維状の特性が損なわれる虞れがあり、例えば、各種マトリックス中への添加剤、配合剤として適当なものとならない虞れがあるために望ましくない。なお、本明細書でいう「粒状部の粒径」とは、炭素繊維相互の結合点である粒状部を1つの粒子とみなして測定した値である。
【0036】
その粒状部の具体的な粒径は、炭素繊維構造体の大きさ、炭素繊維構造体中の微細炭素繊維の外径にも左右されるが、例えば、平均値で20〜5000nm、より好ましくは25〜2000nm、さらに好ましくは30〜500nm程度である。
【0037】
さらにこの粒状部は、前記したように炭素繊維の成長過程において形成されるものであるため、比較的球状に近い形状を有しており、その円形度は、平均値で0.2〜<1、好ましくは0.5〜0.99、より好ましくは0.7〜0.98程度である。
【0038】
加えて、この粒状部は、前記したように炭素繊維の成長過程において形成されるものであって、例えば、微細炭素繊維同士の接合点を当該炭素繊維合成後に炭素質物質ないしその炭化物によって付着させてなる構造体等と比較して、当該粒状部における、炭素繊維同士の結合は非常に強固なものであり、炭素繊維構造体における炭素繊維の破断が生じるような条件下においても、この粒状部(結合部)は安定に保持される。具体的には例えば、後述する実施例において示すように、当該炭素繊維構造体を液状媒体中に分散させ、これに一定出力で所定周波数の超音波をかけて、炭素繊維の平均長がほぼ半減する程度の負荷条件としても、該粒状部の平均粒径の変化率は、10%未満、より好ましくは5%未満であって、粒状部、すなわち、繊維同士の結合部は、安定に保持されているものである。
【0039】
また、本発明において用いられる炭素繊維構造体は、面積基準の円相当平均径が50〜100μm、より好ましくは60〜90μm程度程度であることが望ましい。ここで面積基準の円相当平均径とは、炭素繊維構造体の外形を電子顕微鏡などを用いて撮影し、この撮影画像において、各炭素繊維構造体の輪郭を、適当な画像解析ソフトウェア、例えばWinRoof(商品名、三谷商事株式会社製)を用いてなぞり、輪郭内の面積を求め、各繊維構造体の円相当径を計算し、これを平均化したものである。
【0040】
複合化される樹脂等のマトリックス材の種類によっても左右されるため、全ての場合において適用されるわけではないが、この円相当平均径は、樹脂等のマトリックス中に配合された場合における当該炭素繊維構造体の最長の長さを決める要因となるものであり、概して、円相当平均径が50μm未満であると、導電性が十分に発揮されないおそれがあり、一方、100μmを越えるものであると、例えば、マトリックス中へ混練等によって配合する際に大きな粘度上昇が起こり混合分散が困難あるいは成形性が劣化する虞れがあるためである。
【0041】
また本発明に係る炭素繊維構造体は、上記したように、本発明に係る炭素繊維構造体は、3次元ネットワーク状に存在する炭素繊維が粒状部において互いに結合され、該粒状部から前記炭素繊維が複数延出する形状を呈しているが、1つの炭素繊維構造体において、炭素繊維を結合する粒状部が複数個存在して3次元ネットワークを形成している場合、隣接する粒状部間の平均距離は、例えば、0.5μm〜300μm、より好ましくは0.5〜100μm、さらに好ましくは1〜50μm程度となる。なお、この隣接する粒状部間の距離は、1つの粒状体の中心部からこれに隣接する粒状部の中心部までの距離を測定したものである。粒状体間の平均距離が、0.5μm未満であると、炭素繊維が3次元ネットワーク状に十分に発展した形態とならないため、例えば、マトリックス中に分散配合された場合に、良好な導電パスを形成し得ないものとなる虞れがあり、一方、平均距離が300μmを越えるものであると、マトリックス中に分散配合させる際に、粘性を高くさせる要因となり、炭素繊維構造体のマトリックスに対する分散性が低下する虞れがあるためである。
【0042】
さらに、本発明において用いられる炭素繊維構造体は、上記したように、3次元ネットワーク状に存在する炭素繊維が粒状部において互いに結合され、該粒状部から前記炭素繊維が複数延出する形状を呈しており、このため当該構造体は炭素繊維が疎に存在した嵩高な構造を有するが、具体的には、例えば、その嵩密度が0.0001〜0.05g/cm、より好ましくは0.001〜0.02g/cmであることが望ましい。嵩密度が0.05g/cmを超えるものであると、少量添加によって、樹脂等のマトリックスの物性を改善することが難しくなるためである。
【0043】
また、本発明に係る炭素繊維構造体は、3次元ネットワーク状に存在する炭素繊維がその成長過程において形成された粒状部において互いに結合されていることから、上記したように構造体自体の電気的特性等も非常に優れたものであるが、例えば、一定圧縮密度0.8g/cmにおいて測定した粉体抵抗値が、0.02Ω・cm以下、より望ましくは、0.001〜0.010Ω・cmであることが好ましい。粉体抵抗値が0.02Ω・cmを超えるものであると、樹脂等のマトリックスに配合された際に、良好な導電パスを形成することが難しくなるためである。
【0044】
また、本発明において用いられる炭素繊維構造体は、高い強度および導電性を有する上から、炭素繊維を構成するグラフェンシート中における欠陥が少ないことが望ましく、具体的には、例えば、ラマン分光分析法で測定されるI/I比が、0.2以下、より好ましくは0.1以下であることが望ましい。ここで、ラマン分光分析では、大きな単結晶の黒鉛では1580cm−1付近のピーク(Gバンド)しか現れない。結晶が有限の微小サイズであることや格子欠陥により、1360cm−1付近にピーク(Dバンド)が出現する。このため、DバンドとGバンドの強度比(R=I1360/I1580=I/I)が上記したように所定値以下であると、グラフェンシート中における欠陥量が少ないことが認められるためである。
【0045】
本発明に係る前記炭素繊維構造体はまた、空気中での燃焼開始温度が750℃以上、より好ましくは800〜900℃であることが望ましい。前記したように炭素繊維構造体が欠陥が少なく、かつ炭素繊維が所期の外径を有するものであることから、このような高い熱的安定性を有するものとなる。
【0046】
上記したような所期の形状を有する炭素繊維構造体は、特に限定されるものではないが、例えば、次のようにして調製することができる。
【0047】
基本的には、遷移金属超微粒子を触媒として炭化水素等の有機化合物をCVD法で化学熱分解して繊維構造体(以下、中間体という)を得、これをさらに高温熱処理する。
【0048】
原料有機化合物としては、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの炭化水素、一酸化炭素(CO)、エタノール等のアルコール類などが使用できる。特に限定されるわけではないが、本発明に係る繊維構造体を得る上においては、炭素源として、分解温度の異なる少なくとも2つ以上の炭素化合物を用いることが好ましい。なお、本明細書において述べる「少なくとも2つ以上の炭素化合物」とは、必ずしも原料有機化合物として2種以上のものを使用するというものではなく、原料有機化合物としては1種のものを使用した場合であっても、繊維構造体の合成反応過程において、例えば、トルエンやキシレンの水素脱アルキル化(hydrodealkylation)などのような反応を生じて、その後の熱分解反応系においては分解温度の異なる2つ以上の炭素化合物となっているような態様も含むものである。
【0049】
なお、熱分解反応系において炭素源としてこのように2種以上の炭素化合物を存在させた場合、それぞれの炭素化合物の分解温度は、炭素化合物の種類のみでなく、原料ガス中の各炭素化合物のガス分圧ないしモル比によっても変動するものであるため、原料ガス中における2種以上の炭素化合物の組成比を調整することにより、炭素化合物として比較的多くの組み合わせを用いることができる。
【0050】
例えば、メタン、エタン、プロパン類、ブタン類、ペンタン類、へキサン類、ヘプタン類、シクロプロパン、シクロヘキサンなどといったアルカンないしシクロアルカン、特に炭素数1〜7程度のアルカン;エチレン、プロピレン、ブチレン類、ペンテン類、ヘプテン類、シクロペンテンなどといったアルケンないしシクロオレフィン、特に炭素数1〜7程度のアルケン;アセチレン、プロピン等のアルキン、特に炭素数1〜7程度のアルキン;ベンゼン、トルエン、スチレン、キシレン、ナフタレン、メチルナフタレン、インデン、フェナントレン等の芳香族ないし複素芳香族炭化水素、特に炭素数6〜18程度の芳香族ないし複素芳香族炭化水素、メタノール、エタノール等のアルコール類、特に炭素数1〜7程度のアルコール類;その他、一酸化炭素、ケトン類、エーテル類等の中から選択した2種以上の炭素化合物を、所期の熱分解反応温度域において異なる分解温度を発揮できるようにガス分圧を調整し、組み合わせて用いること、および/または、所定の温度領域における滞留時間を調整することで可能であり、その混合比を最適化することで効率よく本発明に係る炭素繊維構造体を製造することができる。
【0051】
このような2種以上の炭素化合物の組み合わせのうち、例えば、メタンとベンゼンとの組み合わせにおいては、メタン/ベンゼンのモル比が、>1〜600、より好ましくは1.1〜200、さらに好ましくは3〜100とすることが望ましい。なお、この値は、反応炉の入り口におけるガス組成比であり、例えば、炭素源の1つとしてトルエンを使用する場合には、反応炉内でトルエンが100%分解して、メタンおよびベンゼンが1:1で生じることを考慮して、不足分のメタンを別途供給するようにすれば良い。例えば、メタン/ベンゼンのモル比を3とする場合には、トルエン1モルに対し、メタン2モルを添加すれば良い。なお、このようなトルエンに対して添加するメタンとしては、必ずしも新鮮なメタンを別途用意する方法のみならず、当該反応炉より排出される排ガス中に含まれる未反応のメタンを循環使用することにより用いることも可能である。
【0052】
このような範囲内の組成比とすることで、炭素繊維部および粒状部のいずれもが十分を発達した構造を有する炭素繊維構造体を得ることが可能となる。
【0053】
なお、雰囲気ガスには、アルゴン、ヘリウム、キセノン等の不活性ガスや水素を用いることができる。
【0054】
また、触媒としては、鉄、コバルト、モリブデンなどの遷移金属あるいはフェロセン、酢酸金属塩などの遷移金属化合物と硫黄あるいはチオフェン、硫化鉄などの硫黄化合物の混合物を使用する。
【0055】
中間体の合成は、通常行われている炭化水素等のCVD法を用い、原料となる炭化水素および触媒の混合液を蒸発させ、水素ガス等をキャリアガスとして反応炉内に導入し、800〜1300℃の温度で熱分解する。これにより、外径が15〜100nmの繊維相互が、前記触媒の粒子を核として成長した粒状体によって結合した疎な三次元構造を有する炭素繊維構造体(中間体)が複数集まった数cmから数十センチの大きさの集合体を合成する。
【0056】
原料となる炭化水素の熱分解反応は、主として触媒粒子ないしこれを核として成長した粒状体表面において生じ、分解によって生じた炭素の再結晶化が当該触媒粒子ないし粒状体より一定方向に進むことで、繊維状に成長する。しかしながら、本発明に係る炭素繊維構造体を得る上においては、このような熱分解速度と成長速度とのバランスを意図的に変化させる、例えば上記したように炭素源として分解温度の異なる少なくとも2つ以上の炭素化合物を用いることで、一次元的方向にのみ炭素物質を成長させることなく、粒状体を中心として三次元的に炭素物質を成長させる。もちろん、このような三次元的な炭素繊維の成長は、熱分解速度と成長速度とのバランスにのみ依存するものではなく、触媒粒子の結晶面選択性、反応炉内における滞留時間、炉内温度分布等によっても影響を受け、また、前記熱分解反応と成長速度とのバランスは、上記したような炭素源の種類のみならず、反応温度およびガス温度等によっても影響受けるが、概して、上記したような熱分解速度よりも成長速度の方が速いと、炭素物質は繊維状に成長し、一方、成長速度よりも熱分解速度の方が速いと、炭素物質は触媒粒子の周面方向に成長する。従って、熱分解速度と成長速度とのバランスを意図的に変化させることで、上記したような炭素物質の成長方向を一定方向とすることなく、制御下に多方向として、本発明に係るような三次元構造を形成することができるものである。なお、生成する中間体において、繊維相互が粒状体により結合された前記したような三次元構造を容易に形成する上では、触媒等の組成、反応炉内における滞留時間、反応温度、およびガス温度等を最適化することが望ましい。
【0057】
なお、本発明に係る炭素繊維構造体を効率良く製造する方法としては、上記したような分解温度の異なる2つ以上の炭素化合物を最適な混合比にて用いるアプローチ以外に、反応炉に供給される原料ガスに、その供給口近傍において乱流を生じさせるアプローチを挙げることができる。ここでいう乱流とは、激しく乱れた流れであり、渦巻いて流れるような流れをいう。
【0058】
反応炉においては、原料ガスが、その供給口より反応炉内へ導入された直後において、原料混合ガス中の触媒としての遷移金属化合物の分解により金属触媒微粒子が形成されるが、これは、次のような段階を経てもたらされる。すなわち、まず、遷移金属化合物が分解され金属原子となり、次いで、複数個、例えば、約100原子程度の金属原子の衝突によりクラスター生成が起こる。この生成したクラスターの段階では、微細炭素繊維の触媒として作用せず、生成したクラスター同士が衝突により更に集合し、約3nm〜10nm程度の金属の結晶性粒子に成長して、微細炭素繊維の製造用の金属触媒微粒子として利用されることとなる。
【0059】
この触媒形成過程において、上記したように激しい乱流による渦流が存在すると、ブラウン運動のみの金属原子又はクラスター同士の衝突と比してより激しい衝突が可能となり、単位時間あたりの衝突回数の増加によって金属触媒微粒子が短時間に高収率で得られ、又、渦流によって濃度、温度等が均一化されることにより粒子のサイズの揃った金属触媒微粒子を得ることができる。さらに、金属触媒微粒子が形成される過程で、渦流による激しい衝突により金属の結晶性粒子が多数集合した金属触媒微粒子の集合体を形成する。このようにして金属触媒微粒子が速やかに生成されるため、炭素化合物の分解が促進されて、十分な炭素物質が供給されることになり、前記集合体の各々の金属触媒微粒子を核として放射状に微細炭素繊維が成長し、一方で、前記したように一部の炭素化合物の熱分解速度が炭素物質の成長速度よりも速いと、炭素物質は触媒粒子の周面方向にも成長し、前記集合体の周りに粒状部を形成し、所期の三次元構造を有する炭素繊維構造体を効率よく形成する。なお、前記金属触媒微粒子の集合体中には、他の触媒微粒子よりも活性の低いないしは反応途中で失活してしまった触媒微粒子も一部に含まれていることも考えられ、集合体として凝集するより以前にこのような触媒微粒子の表面に成長していた、あるいは集合体となった後にこのような触媒微粒子を核として成長した非繊維状ないしはごく短い繊維状の炭素物質層が、集合体の周縁位置に存在することで、本発明に係る炭素繊維構造体の粒状部を形成しているものとも思われる。
【0060】
反応炉の原料ガス供給口近傍において、原料ガスの流れに乱流を生じさせる具体的手段としては、特に限定されるものではなく、例えば、原料ガス供給口より反応炉内に導出される原料ガスの流れに干渉し得る位置に、何らかの衝突部を設ける等の手段を採ることができる。前記衝突部の形状としては、何ら限定されるものではなく、衝突部を起点として発生した渦流によって十分な乱流が反応炉内に形成されるものであれば良いが、例えば、各種形状の邪魔板、パドル、テーパ管、傘状体等を単独であるいは複数組み合わせて1ないし複数個配置するといった形態を採択することができる。
【0061】
このようにして、触媒および炭化水素の混合ガスを800〜1300℃の範囲の一定温度で加熱生成して得られた中間体は、炭素原子からなるパッチ状のシート片を貼り合わせたような(生焼け状態の、不完全な)構造を有し、ラマン分光分析をすると、Dバンドが非常に大きく、欠陥が多い。また、生成した中間体は、未反応原料、非繊維状炭化物、タール分および触媒金属を含んでいる。
【0062】
従って、このような中間体からこれら残留物を除去し、欠陥が少ない所期の炭素繊維構造体を得るために、適切な方法で2400〜3000℃の高温熱処理する。
【0063】
すなわち、例えば、この中間体を800〜1200℃で加熱して未反応原料やタール分などの揮発分を除去した後、2400〜3000℃の高温でアニール処理することによって所期の構造体を調製し、同時に繊維に含まれる触媒金属を蒸発させて除去する。なお、この際、物質構造を保護するために不活性ガス雰囲気中に還元ガスや微量の一酸化炭素ガスを添加してもよい。
【0064】
前記中間体を2400〜3000℃の範囲の温度でアニール処理すると、炭素原子からなるパッチ状のシート片は、それぞれ結合して複数のグラフェンシート状の層を形成する。
【0065】
また、このような高温熱処理前もしくは処理後において、炭素繊維構造体の円相当平均径を数cmに解砕処理する工程と、解砕処理された炭素繊維構造体の円相当平均径を50〜100μmに粉砕処理する工程とを経ることで、所望の円相当平均径を有する炭素繊維構造体を得る。なお、解砕処理を経ることなく、粉砕処理を行っても良い。また、本発明に係る炭素繊維構造体を複数有する集合体を、使いやすい形、大きさ、嵩密度に造粒する処理を行っても良い。さらに好ましくは、反応時に形成された上記構造を有効に活用するために、嵩密度が低い状態(極力繊維が伸びきった状態でかつ空隙率が大きい状態)で、アニール処理するとさらに樹脂への導電性付与に効果的である。
【0066】
本発明において用いられる微細炭素繊維構造体は、
A)嵩密度が低い、
B)樹脂等のマトリックスに対する分散性が良い、
C)導電性が高い、
D)熱伝導性が高い、
E)摺動性が良い、
F)化学的安定性が良い、
G)熱的安定性が高い、
などの特性がある。
【0067】
本発明に係る導電性コーティング材料は、上記したような微細炭素繊維構造体を有機バインダー成分とともに配合されてなるものであるが、本発明において用いられる有機バインダーとしては、常温(25℃±5℃)で液状のものであっても、固体状のものであってもよく、その用途に応じて、公知の各種のものを用いることができる。
【0068】
具体的には、例えば、溶剤系塗料用や油性印刷インクに通常使用されているアクリル樹脂、アルキッド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、アミノ樹脂、塩化ビニル樹脂、シリコーン樹脂、ガムロジン、ライムロジン等のロジン系樹脂、マレイン酸樹脂、ポリアミド樹脂、ニトロセルロース、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂、ロジン変性フェノール樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂等のロジン変性樹脂、石油樹脂等を用いることができる。また、水系塗料用や水性インク用としては、水溶性アクリル樹脂、水溶性スチレン−マレイン酸樹脂、水溶性アルキッド樹脂、水溶性メラミン樹脂、水溶性ウレタンエマルジョン樹脂、水溶性エポキシ樹脂、水溶性ポリエステル樹脂等を用いることができる。
【0069】
また、本発明に係る導電性コーティング材料中には、上記したような有機バインダー成分および炭素繊維構造体の他、必要に応じて、溶剤、油脂、消泡剤、染料および顔料ないし体質顔料等の着色剤、乾燥促進剤、界面活性剤、硬化促進剤、助剤、可塑剤、滑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、各種安定剤等の添加剤が配合され得る。
【0070】
溶剤としては、溶剤系塗料ないしインク用に通常使用されている大豆油、トルエン、キシレン、シンナー、ブチルアセテート、メチルアセテート、メチルイソブチルケトン、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、プロピルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸アミル等のエステル系溶剤、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素系溶剤、シクロヘキサン等の脂環族炭化水素系溶剤、ミネラルスピリット等の石油系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶剤、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール等のアルコール系溶剤、脂肪族炭化水素等を用いることができる。
【0071】
また水系塗料用溶剤としては、水系塗料ないしインク用に通常使用されている、水と、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール等のアルコール系溶剤、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、プロピルセロソルブ、ブチルセロソルブ等のグリコールエーテル系溶剤、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール等のオキシエチレン又はオキシプロピレン付加重合体、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオール等のアルキレングリコール、グリセリン、2−ピロリドン等の水溶性有機溶剤とを混合して使用することができる。
【0072】
油脂としては、あまに油、きり油、オイチシカ油、サフラワー油等の乾性油を加工したボイル油を用いることができる。
【0073】
消泡剤、着色剤、乾燥促進剤、界面活性剤、硬化促進剤、助剤界可塑剤、滑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、各種安定剤等等としても、従来、これらの導電性コーティング材料において、用いられている公知の各種のものを用いることができる。
【0074】
本発明の導電性コーティング材料は、前記のような有機バインダー成分と共に、前述の炭素繊維構造体を有効量含む。
【0075】
その量は、導電性コーティング材料の用途や有機バインダー成分の種類等によって異なるが、凡そ0.01%〜50%である。0.01%未満では、形成される被膜における電気導電性が十分なものとならない虞れがある。一方、50%より多くなると、逆に形成される被膜強度が低下し、コーティングされる樹脂部品等の基材に対する被着性も悪くなる。本発明の導電性コーティング材料においては、このようにフィラーとしての炭素繊維構造体の配合量が比較的低いものであっても、マトリックス中に、微細な炭素繊維を均一な広がりをもって配置することができ、上述したように電気伝導性に優れた被膜を形成することができ、かつその色調も黒色度の十分に抑えられたものとなるとすることができる。
【0076】
本発明の導電性コーティング材料の調製方法としては、混合時に微細炭素繊維構造体に過剰なせん断応力を加えその構造を破壊してしまうものでない限り、特に限定されるものではなく、湿式あるいは乾式の各種の混合方法を用いることができる。また、得られる導電性コーティング材料の品質安定性をさらに向上させるために、遠心処理やフィルター処理を施し、粗大粒子を除去する工程を設けても良い。
【0077】
本発明に係る導電性コーティング材料の用途としては、特に限定されるものではないが、例えば、樹脂ないしゴム等の有機高分子材料に対し、静電塗装(静電粉体塗装を含む)を行うため前処理として行われる導電性プライマーとして、あるいは、プリント配線基板、液晶表示素子、有機EL素子等の各種電子デバイスにおける電極、導体、配線等の形成用の導電性インクとして、また、電子部品の保存、輸送中における静電気破壊を防止するための電子部品包装用シートの表面導電性層、あるいは、クリーンルームのパーティションや試験装置の覗窓等といった表面に形成される静電気除去層を形成するための導電性インクとして、用いることができる。もちろん、これ以外にも、その導電性を利用した電着塗料等のその他の塗料組成物あるいはインキ組成物等に応用することも可能である。
【0078】
また、本発明に係る導電性コーティング材料を塗装する被塗物としては、表面に導電性を付与しようとするものである限り特に限定されるものではなく、有機および無機の各種のものを対象にすることが可能である。例えば、自動車製造の分野においては、自動車車体の内外装などに使用されている樹脂材、特にリサイクル性にすぐれていることから多用されているポリオレフィン系樹脂、例えば、ポリプロピレン樹脂、エチレン・プロピレン系樹脂、エチレン・プロピレン・ジエン系樹脂、エチレン・オレフィン系樹脂などや、ポリウレタン系樹脂を成型加工して形成されたバンパー、フェンダー、フロントスポイラー、リアスポイラー、サイドガーニッシュなどが挙げられるが、これらに限定されることはない。
【0079】
本発明に係る導電性コーティング材料を、自動車塗装等の複合被膜塗装における導電性プライマーとして用いる場合には、上述したような樹脂部材に本発明に係る導電性コーティング材料を塗装し、樹脂部材表面に導電性コーティング層を形成すれば、その後、中塗り、上塗りといった着色塗料、さらにはクリア塗料等を静電塗装ないし静電粉体塗装により、塗着性良く塗装することが可能となる。
【0080】
なお、この場合、中塗り、上塗り等の着色塗料、およびさらにその上部に必要に応じて塗装されるクリア塗料としては、それ自体既知のものが使用できる。具体的には、アクリル樹脂・メラミン樹脂系、アクリル樹脂・(ブロック)ポリイソシアネート化合物系などのソリッドカラー塗料、メタリック塗料、光干渉性塗料、クリア塗料などがあげられる。これらの中塗り、上塗り、クリア等の塗料の形態は特に制限されず、有機溶剤型、水溶液型、水分散液型、ハイソリッド型、粉体型等があげられ、その塗膜は室温、加熱、活性エネルギー線照射などにより乾燥、硬化させることができる。
【0081】
本発明に係る導電性コーティング材料により形成される導電性塗膜としては、特に限定されるものではないが、その膜厚は例えば0.1〜30μm、より好ましくは2〜15μm程度とすることが好ましい。膜厚が0.1μm未満であると、十分な被覆性が発揮できなくなり均一な導電特性を付与できなくなる虞れがあり、一方、膜厚が30μmを超えるものとしてもその導電特性はそれ以下の膜厚のものと比較してあまり向上が期待できず、被膜強度の低下、被膜の色合いの増大等の問題が生じてくる虞れがあるためである。
【0082】
本発明に係る導電性コーティング材料により形成される導電性塗膜は、特に限定されるものではないが、代表的には、その体積抵抗値が1012Ω・cm以下、特に102〜1010Ω・cmとなる。
【0083】
さらに、本発明に係る導電性コーティング材料により形成される導電性塗膜は、ほぼ無色〜薄灰色程度とすることが可能であるために、前記したような複合塗膜塗装において、ホワイト系、高彩度の赤、黄色系のソリッドカラー、パールマイカ色などの下地隠蔽性が不十分な淡彩色系の上塗り塗料を塗装しても下層のプライマー塗膜が透けて見えても目立たないので、美感性を損ねることがなく、上塗り塗料の適用範囲が制限されることもない。
【実施例】
【0084】
以下、実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0085】
なお、以下において、各物性値は次のようにして測定した。
【0086】
<面積基準の円相当平均径>
まず、粉砕品の写真をSEMで撮影する。得られたSEM写真において、炭素繊維構造体の輪郭が明瞭なもののみを対象とし、炭素繊維構造体が崩れているようなものは輪郭が不明瞭であるために対象としなかった。1視野で対象とできる炭素繊維構造体(60〜80個程度)はすべて用い、3視野で約200個の炭素繊維構造体を対象とした。対象とされた各炭素繊維構造体の輪郭を、画像解析ソフトウェア WinRoof(商品名、三谷商事株式会社製)を用いてなぞり、輪郭内の面積を求め、各繊維構造体の円相当径を計算し、これを平均化した。
【0087】
<嵩密度の測定>
内径70mmで分散板付透明円筒に1g粉体を充填し、圧力0.1Mpa、容量1.3リットルの空気を分散板下部から送り粉体を吹出し、自然沈降させる。5回吹出した時点で沈降後の粉体層の高さを測定する。このとき測定箇所は6箇所とることとし、6箇所の平均を求めた後、嵩密度を算出した。
【0088】
<ラマン分光分析>
堀場ジョバンイボン製LabRam800を用い、アルゴンレーザーの514nmの波長を用いて測定した。
【0089】
<TG燃焼温度>
マックサイエンス製TG−DTAを用い、空気を0.1リットル/分の流速で流通させながら、10℃/分の速度で昇温し、燃焼挙動を測定した。燃焼時にTGは減量を示し、DTAは発熱ピークを示すので、発熱ピークのトップ位置を燃焼開始温度と定義した。
【0090】
<X線回折>
粉末X線回折装置(JDX3532、日本電子製)を用いて、アニール処理後の炭素繊維構造体を調べた。Cu管球で40kV、30mAで発生させたKα線を用いることとし、面間隔の測定は学振法(最新の炭素材料実験技術(分析・解析編)、炭素材料学会編)に従い、シリコン粉末を内部標準として用いた。
【0091】
<粉体抵抗および復元性>
CNT粉体1gを秤取り、樹脂製ダイス(内寸40L、10W、80Hmm)に充填圧縮し、変位および荷重を読み取る。4端子法で定電流を流して、そのときの電圧を測定し、0.9g/cmの密度まで測定したら、圧力を解除し復元後の密度を測定した。粉体抵抗については、0.5、0.8および0.9g/cmに圧縮したときの抵抗を測定することとする。
【0092】
<粒状部の平均粒径、円形度、微細炭素繊維との比>
面積基準の円相当平均径の測定と同様に、まず、炭素繊維構造体の写真をSEMで撮影する。得られたSEM写真において、炭素繊維構造体の輪郭が明瞭なもののみを対象とし、炭素繊維構造体が崩れているようなものは輪郭が不明瞭であるために対象としなかった。1視野で対象とできる炭素繊維構造体(60〜80個程度)はすべて用い、3視野で約200個の炭素繊維構造体を対象とした。
【0093】
対象とされた各炭素繊維構造体において、炭素繊維相互の結合点である粒状部を1つの粒子とみなして、その輪郭を、画像解析ソフトウェア WinRoof(商品名、三谷商事株式会社製)を用いてなぞり、輪郭内の面積を求め、各粒状部の円相当径を計算し、これを平均化して粒状部の平均粒径とした。また、円形度(R)は、前記画像解析ソフトウェアを用いて測定した輪郭内の面積(A)と、各粒状部の実測の輪郭長さ(L)より、次式により各粒状部の円形度を求めこれを平均化した。
【0094】
R=A*4π/L2
さらに、対象とされた各炭素繊維構造体における微細炭素繊維の外径を求め、これと前記各炭素繊維構造体の粒状部の円相当径から、各炭素繊維構造体における粒状部の大きさを微細炭素繊維との比として求め、これを平均化した。
【0095】
<粒状部の間の平均距離>
面積基準の円相当平均径の測定と同様に、まず、炭素繊維構造体の写真をSEMで撮影する。得られたSEM写真において、炭素繊維構造体の輪郭が明瞭なもののみを対象とし、炭素繊維構造体が崩れているようなものは輪郭が不明瞭であるために対象としなかった。1視野で対象とできる炭素繊維構造体(60〜80個程度)はすべて用い、3視野で約200個の炭素繊維構造体を対象とした。
【0096】
対象とされた各炭素繊維構造体において、粒状部が微細炭素繊維によって結ばれている箇所を全て探し出し、このように微細炭素繊維によって結ばれる隣接する粒状部間の距離(一端の粒状体の中心部から他端の粒状体の中心部までを含めた微細炭素繊維の長さ)をそれぞれ測定し、これを平均化した。
【0097】
<炭素繊維構造体の破壊試験>
蓋付バイアル瓶中に入れられたトルエン100mlに、30μg/mlの割合で炭素繊維構造体を添加し、炭素繊維構造体の分散液試料を調製した。
【0098】
このようにして得られた炭素繊維構造体の分散液試料に対し、発信周波数38kHz、出力150wの超音波洗浄器((株)エスエヌディ製、商品名:USK-3)を用いて、超音波を照射し、分散液試料中の炭素繊維構造体の変化を経時的に観察した。
【0099】
まず超音波を照射し、30分経過後において、瓶中から一定量2mlの分散液試料を抜き取り、この分散液中の炭素繊維構造体の写真をSEMで撮影する。得られたSEM写真の炭素繊維構造体中における微細炭素繊維(少なくとも一端部が粒状部に結合している微細炭素繊維)をランダムに200本を選出し、選出された各微細炭素繊維の長さを測定し、D50平均値を求め、これを初期平均繊維長とした。
【0100】
一方、得られたSEM写真の炭素繊維構造体中における炭素繊維相互の結合点である粒状部をランダムに200個を選出し、選出された各粒状部をそれぞれ1つの粒子とみなしてその輪郭を、画像解析ソフトウェア WinRoof(商品名、三谷商事株式会社製)を用いてなぞり、輪郭内の面積を求め、各粒状部の円相当径を計算し、このD50平均値を求めた。そして得られたD50平均値を粒状部の初期平均径とした。
【0101】
その後、一定時間毎に、前記と同様に瓶中から一定量2mlの分散液試料を抜き取り、この分散液中の炭素繊維構造体の写真をSEMで撮影し、この得られたSEM写真の炭素繊維構造体中における微細炭素繊維のD50平均長さおよび粒状部のD50平均径を前記と同様にして求めた。
【0102】
そして、算出される微細炭素繊維のD50平均長さが、初期平均繊維長の約半分となった時点(本実施例においては超音波を照射し、500分経過後)における、粒状部のD50平均径を、初期平均径と対比しその変動割合(%)を調べた。
【0103】
<塗布性>
以下の基準により評価した。
○:バーコーダーで容易に塗布できる。
×:バーコーダーでの塗布は困難。
【0104】
<全光透過率>
JIS K 7361に準拠して測定された。ヘーズ・透過率計(HM−150、(株)村上色材技術研究所製)を用い、ガラス板(全光線透過率91.0%、50×50×2mm)に所定の膜厚に塗布して測定した。
【0105】
<体積抵抗値>
ガラス板上に50×50mmの硬化塗膜を作製し、四探針式抵抗率計(三菱化学(株)製、MCP−T600、MCP−HT4500)を用いて塗膜表面9箇所の抵抗(Ω)を測定した。同抵抗計により体積抵抗(Ω・cm)に換算し、平均値を算出した。
【0106】
<塗膜性能>
形成された複合被膜塗装の性能を以下の点から評価した。
【0107】
(a)美感性(スケ)
上塗り塗膜であるメタリック塗膜を透かして、その下層のプライマー塗膜が目視で識別できるか否かについて目視観察し、以下の評価基準に従い評価した。
○:プライマー塗膜の色調を識別することが困難である。
△:プライマー塗膜の色調を識別することが比較的容易である。
×:プライマー塗膜の色調を識別することが極めて容易である。
【0108】
(b)平滑性
メタリック塗面の凹凸などを目視観察し、以下の評価基準に従い評価した。
○:凹凸やピンホールなどがなく平滑性良好である。
△:凹凸やピンホールなどの発生が少し認められ平滑性やや劣る。
×:凹凸やピンホールなどの発生が多く認められ平滑性非常に劣る。
【0109】
(c)メタルムラ
メタリック塗膜のメタリック感の均一性を目視観察し、以下の評価基準に従い評価した。
○:メタリック感が均一でメタリックムラが認められない。
△:メタリック感がやや不均一でメタリックムラが少し認められる。
×:メタリック感が不均一でメタリックムラが多く認められる。
【0110】
合成例1
CVD法によって、トルエンを原料として炭素繊維構造体を合成した。
【0111】
触媒としてフェロセン及びチオフェンの混合物を使用し、水素ガスの還元雰囲気で行った。トルエン、触媒を水素ガスとともに380℃に加熱し、生成炉に供給し、1250℃で熱分解して、炭素繊維構造体(第一中間体)を得た。
【0112】
なお、この炭素繊維構造体(第一中間体)を製造する際に用いられた生成炉の概略構成を図8に示す。図8に示すように、生成炉1は、その上端部に、上記したようなトルエン、触媒および水素ガスからなる原料混合ガスを生成炉1内へ導入する導入ノズル2を有しているが、さらにこの導入ノズル2の外側方には、円筒状の衝突部3が設けられている。この衝突部3は、導入ノズル2の下端に位置する原料ガス供給口4より反応炉内に導出される原料ガスの流れに干渉し得るものとされている。なお、この実施例において用いられた生成炉1では、導入ノズル2の内径a、生成炉1の内径b、筒状の衝突部3の内径c、生成炉1の上端から原料混合ガス導入口4までの距離d、原料混合ガス導入口4から衝突部3の下端までの距離e、原料混合ガス導入口4から生成炉1の下端までの距離をfとすると、各々の寸法比は、おおよそa:b:c:d:e:f=1.0:3.6:1.8:3.2:2.0:21.0に形成されていた。また、反応炉への原料ガス導入速度は、1850NL/min、圧力は1.03atmとした。
【0113】
上記のようにして合成された中間体を窒素中で900℃で焼成して、タールなどの炭化水素を分離し、第二中間体を得た。この第二中間体のラマン分光測定のR値は0.98であった。また、この第一中間体をトルエン中に分散して電子顕微鏡用試料調製後に観察したSEMおよびTEM写真を図1、2に示す。
【0114】
さらにこの第二中間体をアルゴン中で2600℃で高温熱処理し、得られた炭素繊維構造体の集合体を気流粉砕機にて粉砕し、本発明において用いられる炭素繊維構造体を得た。
【0115】
得られた炭素繊維構造体をトルエン中に超音波で分散して電子顕微鏡用試料調製後に観察したSEMおよびTEM写真を図3、4に示す。
【0116】
また、得られた炭素繊維構造体をそのまま電子顕微鏡用試料ホルダーに載置して観察したSEM写真を図5に、またその粒度分布を表1に示した。
【0117】
さらに高温熱処理前後において、炭素繊維構造体のX線回折およびラマン分光分析を行い、その変化を調べた。結果を図6および7に示す。
【0118】
また、得られた炭素繊維構造体の円相当平均径は、72.8μm、嵩密度は0.0032g/cm、ラマンI/I比値は0.090、TG燃焼温度は786℃、面間隔は3.383オングストローム、粉体抵抗値は0.0083Ω・cm、復元後の密度は0.25g/cmであった。
【0119】
さらに炭素繊維構造体における粒状部の粒径は平均で、443nm(SD207nm)であり、炭素繊維構造体における微細炭素繊維の外径の7.38倍となる大きさであった。また粒状部の円形度は、平均値で0.67(SD0.14)であった。
【0120】
また、前記した手順によって炭素繊維構造体の破壊試験を行ったところ、超音波印加30分後の初期平均繊維長(D50)は、12.8μmであったが、超音波印加500分後の平均繊維長(D50)は、6.7μmとほぼ半分の長さとなり、炭素繊維構造体において微細炭素繊維に多くの切断が生じたことが示された。しかしながら、超音波印加500分後の粒状部の平均径(D50)を、超音波印加30分後の初期初期平均径(D50)と対比したところ、その変動(減少)割合は、わずか4.8%であり、測定誤差等を考慮すると、微細炭素繊維に多くの切断が生じた負荷条件下でも、切断粒状部自体はほとんど破壊されることなく、繊維相互の結合点として機能していることが明らかとなった。
【0121】
なお、合成例1で測定した各種物性値を、表2にまとめた。
【0122】
【表1】

【0123】
【表2】

合成例2
生成炉からの排ガスの一部を循環ガスとして使用し、この循環ガス中に含まれるメタン等の炭素化合物を、新鮮なトルエンと共に、炭素源として使用して、CVD法により微細炭素繊維を合成した。
【0124】
合成は、触媒としてフェロセン及びチオフェンの混合物を使用し、水素ガスの還元雰囲気で行った。新鮮な原料ガスとして、トルエン、触媒を水素ガスとともに予熱炉にて380℃に加熱した。一方、生成炉の下端より取り出された排ガスの一部を循環ガスとし、その温度を380℃に調整した上で、前記した新鮮な原料ガスの供給路途中にて混合して、生成炉に供給した。
【0125】
なお、使用した循環ガスにおける組成比は、体積基準のモル比でCH 7.5%、C 0.3%、C 0.7%、C 0.1%、CO 0.3%、N 3.5%、H 87.6%であり、新鮮な原料ガスとの混合によって、生成炉へ供給される原料ガス中におけるメタンとベンゼンとの混合モル比CH/C(なお、新鮮な原料ガス中のトルエンは予熱炉での加熱によって、CH:C=1:1に100%分解したものとして考慮した。)が、3.44となるように、混合流量を調整された。
【0126】
なお、最終的な原料ガス中には、混合される循環ガス中に含まれていた、C、CおよびCOも炭素化合物として当然に含まれているが、これらの成分は、いずれもごく微量であり、実質的に炭素源としては無視できるものであった。
【0127】
そして、合成例1と同様に、生成炉において、1250℃で熱分解して、炭素繊維構造体(第一中間体)を得た。
【0128】
なお、この炭素繊維構造体(第一中間体)を製造する際に用いられた生成炉の構成は、円筒状の衝突部3がない以外は、図8に示す構成と同様のものであり、また反応炉への原料ガス導入速度は、合成例1と同様に、1850NL/min、圧力は1.03atmとした。
【0129】
上記のようにして合成された第一中間体をアルゴン中で900℃で焼成して、タールなどの炭化水素を分離し、第二中間体を得た。この第二中間体のラマン分光測定のR値は0.83であった。また、第一中間体をトルエン中に分散して電子顕微鏡用試料調製後に観察したところ、そのSEMおよびTEM写真は図1、2に示す合成例1のものとほぼ同様のものであった。
【0130】
さらにこの第二中間体をアルゴン中で2600℃で高温熱処理し、得られた炭素繊維構造体の集合体を気流粉砕機にて粉砕し、本発明に係る炭素繊維構造体を得た。
【0131】
得られた炭素繊維構造体をトルエン中に超音波で分散して電子顕微鏡用試料調製後に観察したSEMおよびTEM写真は、図3、4に示す合成例1のものとほぼ同様のものであった。
【0132】
また、得られた炭素繊維構造体をそのまま電子顕微鏡用試料ホルダーに載置して観察し粒度分布を調べた。得られた結果を表3に示す。
【0133】
さらに高温熱処理前後において、炭素繊維構造体のX線回折およびラマン分光分析を行い、その変化を調べたところ、図6および7に示す合成例1の結果とほぼ同様のものであった。
【0134】
また、得られた炭素繊維構造体の円相当平均径は、75.8μm、嵩密度は0.004g/cm、ラマンI/I比値は0.086、TG燃焼温度は807℃、面間隔は3.386オングストローム、粉体抵抗値は0.0077Ω・cm、復元後の密度は0.26g/cmであった。
【0135】
さらに炭素繊維構造体における粒状部の粒径は平均で、349.5nm(SD180.1nm)であり、炭素繊維構造体における微細炭素繊維の外径の5.8倍となる大きさであった。また粒状部の円形度は、平均値で0.69(SD0.15)であった。
【0136】
また、前記した手順によって炭素繊維構造体の破壊試験を行ったところ、超音波印加30分後の初期平均繊維長(D50)は、12.4μmであったが、超音波印加500分後の平均繊維長(D50)は、6.3μmとほぼ半分の長さとなり、炭素繊維構造体において微細炭素繊維に多くの切断が生じたことが示された。しかしながら、超音波印加500分後の粒状部の平均径(D50)を、超音波印加30分後の初期初期平均径(D50)と対比したところ、その変動(減少)割合は、わずか4.2%であり、測定誤差等を考慮すると、微細炭素繊維に多くの切断が生じた負荷条件下でも、切断粒状部自体はほとんど破壊されることなく、繊維相互の結合点として機能していることが明らかとなった。
【0137】
なお、合成例2で測定した各種物性値を、表4にまとめた。
【0138】
【表3】

【0139】
【表4】

実施例1
ポリウレタン樹脂溶液(不揮発分:20%)100質量部に、上記合成例1で得られた炭素繊維構造体を5質量部で添加し、ビーズミル(ダイノーミル、(株)シンマルエンタープライズ)を用いて、分散処理することにより、炭素繊維構造体を分散させたコーティング組成物を製造した。
【0140】
このコーティング組成物を使用して、ガラス板上に膜厚0.3μmの硬化塗膜を作製し、塗布性、全光透過率、体積抵抗値を評価した。その結果、塗布性は○、全光透過率は70%、体積抵抗値は104Ω・cmであった。
【0141】
実施例2
合成例2でで得られた炭素繊維構造体を用いる以外は実施例1と同様にしてコーティング組成物を製造し、同様の試験に供した。その結果、塗布性は○、全光透過率は73%、体積抵抗値は8×103Ω・cmであった。
【0142】
実施例3
ポリウレタン樹脂溶液(不揮発分:20%)100質量部に、上記合成例1で得られた炭素繊維構造体を25質量部添加し、ビーズミール(ダイノーミル、(株)シンマルエンタープライズ)を用いて、分散処理することにより、炭素繊維構造体を分散させた導電性プライマー用コーティング組成物を製造した。
【0143】
このコーティング組成物を、表面をイソプロピルアルコ−ルにて清浄化にしたポリプロピレン樹脂試験片(10×20×0.5cm)全体に、エアスプレーにより膜厚15μmになるように塗装し、室温(25℃±5℃)で3分間放置してから、ウェットオンウェットにて、上塗り着色塗料として下地隠蔽膜厚が40μmの銀色メタリック塗料を静電塗装により膜厚30μmになるように塗装し、室温にて3分間放置してから、120℃で30分間加熱して両塗膜を硬化させた。
【0144】
得られた塗装試料に関し、その塗装性能を評価した。その結果、美感、平滑性、およびメタルムラのいずれにおいても○であると評価された。
【図面の簡単な説明】
【0145】
【図1】本発明の導電性コーティング材料に用いる炭素繊維構造体の中間体のSEM写真である。
【図2】本発明の導電性コーティング材料に用いる炭素繊維構造体の中間体のTEM写真である。
【図3】本発明の導電性コーティング材料に用いる炭素繊維構造体のSEM写真である。
【図4】(a)(b)は、それぞれ本発明の導電性コーティング材料に用いる炭素繊維構造体のTEM写真である。
【図5】本発明の導電性コーティング材料に用いる炭素繊維構造体のSEM写真である。
【図6】本発明の導電性コーティング材料に用いる炭素繊維構造体および該炭素繊維構造体の中間体のX線回折チャートである。
【図7】本発明の導電性コーティング材料に用いる炭素繊維構造体および該炭素繊維構造体の中間体のラマン分光分析チャートである。
【図8】本発明の実施例において炭素繊維構造体の製造に用いた生成炉の概略構成を示す図面である。
【符号の説明】
【0146】
1 生成炉
2 導入ノズル
3 衝突部
4 原料ガス供給口
a 導入ノズルの内径
b 生成炉の内径
c 衝突部の内径
d 生成炉の上端から原料混合ガス導入口までの距離
e 原料混合ガス導入口から衝突部の下端までの距離
f 原料混合ガス導入口から生成炉の下端までの距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機バインダー成分と、外径15〜100nmの炭素繊維から構成される3次元ネットワーク状の炭素繊維構造体であって、前記炭素繊維構造体は、前記炭素繊維が複数延出する態様で、当該炭素繊維を互いに結合する粒状部を有しており、かつ当該粒状部は前記炭素繊維の成長過程において形成されてなるものである炭素繊維構造体とを含有してなる導電性コーティング材料であって、炭素繊維構造体がコーティング材料全体の0.01〜50質量%の割合で配合されてなることを特徴とする導電性コーティング材料。
【請求項2】
導電性プライマーとして用いられるものである請求項1記載の導電性コーティング材料。
【請求項3】
導電性インクとして用いられるものである請求項1記載の導電性コーティング材料。
【請求項4】
前記炭素繊維構造体は、面積基準の円相当平均径が50〜100μmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに1つに記載の導電性コーティング材料。
【請求項5】
前記炭素繊維構造体は、嵩密度が、0.0001〜0.05g/cmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の導電性コーティング材料。
【請求項6】
前記炭素繊維構造体は、ラマン分光分析法で測定されるI/Iが、0.2以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載の導電性コーティング材料。
【請求項7】
前記炭素繊維構造体は、炭素源として、分解温度の異なる少なくとも2つ以上の炭素化合物を用いて、生成されたものである請求項1〜6のいずれか1つに記載の導電性コーティング材料。

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2007−119532(P2007−119532A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−310302(P2005−310302)
【出願日】平成17年10月25日(2005.10.25)
【出願人】(502205145)株式会社物産ナノテク研究所 (101)
【Fターム(参考)】