説明

導電性ダイヤモンド電極及びその製造方法

【課題】導電性ダイヤモンド電極の製作コストを低減するとともに、導電性ダイヤモンド電極の検出感度を向上させる。
【解決手段】導電性ダイヤモンドパウダーと絶縁性バインダとを含有するBDDインク6をカーボンペースト5(集電体)上に堆積させて導電性ダイヤモンド電極1を作製する。導電性ダイヤモンドパウダーは、ダイヤモンド粒子の表面にホウ素をドープしたダイヤモンド層を形成することで構成される。BDDインク6に混合する導電性ダイヤモンドパウダーは、絶縁性バインダの体積に対する導電性ダイヤモンドパウダーの体積比が20%以上90%以下となるように混合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性ダイヤモンド粒子を含有する導電性ダイヤモンド電極及び、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
絶縁性のダイヤモンドにホウ素を高濃度にドープするとホールが生成し(p型半導体)、金属的導電性が付与されることが知られている。ダイヤモンドにホウ素を高濃度にドープしたホウ素ドープダイヤモンド(BDD:Boron Doped Diamond)は、広い電位窓、小さいバックグラウンド電流、ダイヤモンド由来の高い物理的・化学的安定性などの特徴を持ち、貴金属や炭素などの電極材料に比べ、電気化学分析や電気分解に有効な機能性電極材料として注目されている。そして、ホウ素ドープダイヤモンドを電極材料とした導電性ダイヤモンド電極は、燃料電池用酸素還元電極やガスセンサの検出電極などへの応用が期待されている。さらに、導電性ダイヤモンド電極は、電位窓が広く、バックグラウンド電流が小さいといった電気化学的特性を有することから、高感度な電気化学センサや高効率な電解用電極(例えば、水処理などで使用する電解用電極)としての利用が期待されている。
【0003】
ホウ素ドープダイヤモンドは、主に化学気相成長法(CVD法:Chemical Vapor Deposition)により作製される(例えば、特許文献1)。この場合、ホウ素ドープダイヤモンドは、平板状の成長基材の上に薄膜状に形成される。そのため、導電性ダイヤモンド電極の形状が限定されてしまう。また、ホウ素ドープダイヤモンド薄膜の大きさはCVD装置のサイズに依存するため、導電性ダイヤモンド電極の大型化が困難であるという課題があった。さらに、ホウ素ドープダイヤモンド結晶の成長には、800℃以上の高温条件を必要とするため、ホウ素ドープダイヤモンド結晶を成長させる基材の融解の問題や、ホウ素ドープダイヤモンド結晶と基材との熱膨張率の差により冷却時に基材からホウ素ドープダイヤモンド結晶が剥離する問題があった。その結果、基材として用いることができる材料がSiやMoなど非常に限られたものとなっていた。これらの基材は、比較的高価であり、またホウ素ドープダイヤモンド結晶の製膜後の加工が困難であった。
【0004】
これらの課題を解決するために、近年、パウダー状のホウ素ドープダイヤモンドを作製する方法や、低温条件でホウ素ドープダイヤモンドを成長させることに関する研究が行われている(例えば、特許文献2、非特許文献1,2)。特に、パウダー状のホウ素ドープダイヤモンドを作製することができれば、ホウ素ドープダイヤモンドを作製した後の加工が容易であり、ホウ素ドープダイヤモンドの利用分野の拡大につながる。さらに、ホウ素ドープダイヤモンドをパウダー状に形成することで、比表面積が増加することによる高効率化や、金属微粒子などとの複合化による高機能触媒の作製などが期待される。
【0005】
また、近年、環境分析、臨床検査、食品検査などの分野おける微量測定において、応答速度やS/N比の向上のために電極のサイズを小さくした微小電極が用いられている。微小電極の応答挙動は、電極のサイズに依存し、電極のサイズが小さくなるにしたがって、応答速度、S/N比が向上する。しかし、電極径を小さくしていくと、得られる電流値自体も小さくなる。そこで、測定値の信頼性を向上させるため(電流値を大きくするため)に、電極の数を増やしてアレイ化した微小電極アレイが用いられている(例えば、特許文献3,4)。この微小電極アレイは、電極上に絶縁ポリマをスクリーン印刷し、ポリマを硬化後、音波により剥離して製造する方法(例えば、特許文献3)やフォトリソグラフィー技術を用いて、電極あるいはマスクのパターンを作製する方法など、作製に手間がかかる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−9147号公報
【特許文献2】特表2007−528495号公報
【特許文献3】特表2007−535670号公報
【特許文献4】特開2004−285405号公報
【特許文献5】特開平11−319530号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Anne E. Fischer,外1名、"Preparation and Characterization of Boron-Doped Diamond Powder"、J. Electrochem. Soc.、2005年8月、Volume152、9、p.B369-B375
【非特許文献2】Ayten Ay,外2名、"The Physicochemical and Electrochemical Properties of 100 and 500 nm Diameter Diamond Powders Coated with Boron-Doped Nanocrystalline Diamond"、J. Electrochem. Soc.、2008年8月、Volume155、10、p.B1013-B1022
【非特許文献3】Y. G. Wang,外3名、"Resonant Raman scattering studies of Fano-type interference in boron doped diamond"、J. Appl. Phys.、2002年、Volume92、12、p.7253
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
導電性ダイヤモンド電極をセンサなどの装置に適用するためには、導電性ダイヤモンド電極の製作コストを低減することや、量産化のためにより容易に導電性ダイヤモンド電極を作製すること、導電性ダイヤモンド電極の検出感度を向上することが求められている。
【0009】
そこで、本発明は、導電性ダイヤモンド電極の製作コストの低減に貢献するとともに、導電性ダイヤモンド電極の検出感度の向上に寄与する技術を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成する本発明の導電性ダイヤモンド電極は、集電体と、当該集電体上に配置され、前記集電体と電気的に接続される導電性ダイヤモンド粒子と、を有する導電性ダイヤモンド電極であって、前記導電性ダイヤモンド粒子群間に絶縁性バインダを設け、前記集電体上に導電性ダイヤモンドアレイを形成してなることを特徴としている。
【0011】
また、上記目的を達成する本発明の導電性ダイヤモンド電極の他の態様は、導電性ダイヤモンド粒子と、絶縁性バインダと、を含有する導電性ダイヤモンドインクを堆積させて形成される導電性ダイヤモンド電極であって、前記絶縁性バインダの体積に対する前記導電性ダイヤモンド粒子の体積を20%以上90%以下とすることを特徴としている。
【0012】
また、上記目的を達成する本発明の導電性ダイヤモンド電極の製造方法は、導電性ダイヤモンド粒子を用いて導電性ダイヤモンド電極を製造する導電性ダイヤモンド電極の製造方法であって、絶縁性バインダを溶解させた溶媒に、当該絶縁性バインダの体積に対する前記導電性ダイヤモンド粒子の体積が20%以上90%以下となるように、前記導電性ダイヤモンド粒子を混合し、当該導電性ダイヤモンド粒子を含有する導電性ダイヤモンドインクを得る工程と、前記導電性ダイヤモンドインクを集電体上に堆積させて導電性ダイヤモンド電極を得る工程と、を有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
以上の発明によれば、導電性ダイヤモンド電極の製作コストを低減することに貢献するとともに、導電性ダイヤモンド電極の検出感度の向上に貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】(a)本発明の実施形態に係る導電性ダイヤモンド電極の斜視図、(b)本発明の実施形態に係る導電性ダイヤモンド電極の分解斜視図である。
【図2】本発明の実施形態に係るBDDインクの模式図であり、(a)乾燥前を示す図、(b)乾燥後を示す図である。
【図3】本発明の実施形態に係るホウ素ドープダイヤモンド粒子(BDDP)を製造するためのMPCVD装置の概略図である。
【図4】BDDPのラマン測定結果を示す特性図である。
【図5】DPのラマン測定結果を示す特性図である。
【図6】DP及びBDDPの粒度分布の測定結果を示す図である。
【図7】BDDインクの調製方法を説明するフロー図である。
【図8】導電性ダイヤモンド電極の作製工程を説明するフロー図である。
【図9】実施例に係る導電性ダイヤモンド電極の0.5mol/L硫酸ナトリウム水溶液中でのCV図であり、(a)実施例1,2のCV図、(b)実施例3,7のCV図である。
【図10】参考例に係る導電性ダイヤモンド電極の0.5mol/L硫酸ナトリウム水溶液中でのCV図である。
【図11】実施例及び参考例に係る導電性ダイヤモンド電極の0.5mol/L硫酸ナトリウム水溶液中で流れるバックグラウンド電流を比較した図である。
【図12】実施例に係る導電性ダイヤモンド電極の0.5mmol/Lフェリシアン化カリウム‐0.5mol/L硫酸ナトリウム水溶液中でのCV図である。
【図13】参考例に係る導電性ダイヤモンド電極の0.5mmol/Lフェリシアン化カリウム‐0.5mol/L硫酸ナトリウム水溶液中でのCV図である。
【図14】実施例及び参考例に係る導電性ダイヤモンド電極の絶縁性バインダの体積に対するBDDP体積比とFe[(CN)63-/4-の酸化還元反応のS/B比との関係を示す特性図である。
【図15】(a)従来技術に係る導電性ダイヤモンド電極の説明図、(b)本発明の実施形態に係る導電性ダイヤモンド電極の説明図である。
【図16】本発明の実施例に係る導電性ダイヤモンド電極の0.5mmol/Lアスコルビン酸‐0.1mol/Lリン酸緩衝液(pH 7.4)中でのCV図である。
【図17】本発明の実施例に係る導電性ダイヤモンド電極のアスコルビン酸の酸化反応のS/B比を比較した図である。
【図18】電極材料の種類の違いによる電位窓の違いを示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施形態に係る導電性ダイヤモンド電極及び、本発明の実施形態に係る導電性ダイヤモンド電極の製造方法について図を参照して詳細に説明する。
【0016】
図1(a)は、本発明の実施形態に係る導電性ダイヤモンド電極の斜視図である。図1(a)に示すように、本発明の実施形態に係る導電性ダイヤモンド電極1は、導電性ダイヤモンドパウダー(BDDP:Boron Doped Diamond Powder)と絶縁性バインダとを混合したペースト(以後、BDD(Boron Doped Diamond)インク6とする)を、銀ペースト3上をカーボンペースト4で被覆した集電体に堆積して構成される。
【0017】
図1(b)に導電性ダイヤモンド電極1の分解斜視図を示す。図1(b)に示すように、導電性ダイヤモンド電極1を作製する際、ポリイミド基板2上に、銀ペースト3が印刷され、この銀ペースト3上にカーボンペースト4が印刷される。さらに、カーボンペースト4が印刷された銀ペースト3を覆うように、絶縁樹脂5が印刷される。このとき、絶縁樹脂5が、カーボンペースト4の少なくとも一部を覆わないように絶縁樹脂5が印刷される。つまり、カーボンペースト4のうち絶縁樹脂5で覆われない部分が集電体となり、この部分が見掛け上の電極面積となる。また、銀ペースト3の一端部に絶縁樹脂5で覆われない接続部3aを設けることで、接続部3aが導電性ダイヤモンド電極1とポテンショスタット等の測定装置(検出装置)との接続部分となる。そして、カーボンペースト4上には、BDDインク6が印刷される。
【0018】
導電性ダイヤモンドパウダーとしては、例えば、基材としてダイヤモンド粒子(DP:Diamond Powder)を用い、このダイヤモンド粒子の表面上にホウ素をドープしたダイヤモンド(BDD:Boron Doped Diamond)層を形成した導電性ダイヤモンド粒子からなるものが挙げられる。
【0019】
ダイヤモンド粒子は、研磨剤として市販されている絶縁性のダイヤモンドパウダーなど、天然のダイヤモンドパウダーや人工的に作製されたダイヤモンドパウダーを用いることができる。人工的なダイヤモンドパウダーは、熱CVDや、RFプラズマ、熱フィラメントCVD法などのCVD法や、イオンビーム法やイオン化蒸着法といったPVD法、及び高温高圧法などで作製することができる。ダイヤモンド粒子の粒子径(平均粒子径)や形状は、特に限定されるものではないが、BDDインク6の作業性及びBDDインク6を乾燥した後のBDD層の厚さなどを勘案して適宜設定される。例えば、ダイヤモンド粒子の粒子径を、5nm〜100μm、より好ましくは、50nm〜10μmとすると、BDDインク6を印刷して導電性ダイヤモンド電極1を作製するのに十分な作業性を確保でき、作製された導電性ダイヤモンド電極1において、導電性ダイヤモンド粒子と集電体とが電気的に接続された状態となる。
【0020】
ダイヤモンド粒子の表面にBDD層を形成する際、ダイヤモンドにドープするホウ素の量は、少なくともダイヤモンドを構成する炭素に対してホウ素を10ppm以上、より好ましくは、1000ppm以上、さらに好ましくは、10000ppm以上ドープすると(言い換えるなら、結晶中のホウ素濃度比が1020〜1022cm-3)十分な導電性を有する導電性ダイヤモンド粒子を得ることができる。
【0021】
BDDインク6に混合される導電性ダイヤモンド粒子は、絶縁性バインダの体積に対して導電性ダイヤモンド粒子の体積が20%以上90%以下となるよう添加する。図2(a)に示すように、絶縁性バインダの体積に対して導電性ダイヤモンド粒子の体積が90%以下となるように導電性ダイヤモンド粒子6aを添加したBDDインク6をカーボンペースト4に印刷した際、導電性ダイヤモンド粒子6aは凝集して導電性ダイヤモンド粒子群6bを形成している。一般にカーボンブラック等の導電性粒子は、その多くは凝集して塊となっているものが多いことが知られており(例えば、特許文献5)、本発明の導電性ダイヤモンド粒子6aも同様に凝集体を形成しているものと考えられる。このBDDインク6を乾燥させると、図2(b)に示すように、BDDインク6から溶媒が揮発することにより、BDDインク6の膜厚が薄くなる。その結果、導電性ダイヤモンド粒子6a間におけるBDDインク6膜の垂直方向の距離が短くなるとともに、導電性ダイヤモンド粒子群6bを構成する導電性ダイヤモンド粒子6a同士が密に接触することで、BDDインク6部の表面から露出している導電性ダイヤモンド粒子6aと集電体4とが導電性ダイヤモンド粒子6aによって電気的に接続した導電性ダイヤモンド粒子群6bを形成するものと考えられる。なお、BDD層の平面方向の導電性ダイヤモンド粒子群6b間には絶縁性バインダが存在するので、電極表面の形態は、絶縁性バインダに囲まれた導電性ダイヤモンド粒子群6bが低密度に分散した形態(擬似微小電極)となる。
【0022】
一方、絶縁性バインダの体積に対する導電性ダイヤモンド粒子6aの体積が90%を超えて導電性ダイヤモンド粒子6aの体積比が高くなるにつれて、BDDインク6を乾燥させて得られるBDD層において、導電性ダイヤモンド粒子群6b同士が電気的に接続する傾向が高くなる。そのため、導電性ダイヤモンド電極1表面に、カーボンペースト4と電気的に接続したダイヤモンド粒子群6bが、低密度に存在する擬似微小電極としての形態とならない。また、絶縁性バインダの体積に対する導電性ダイヤモンド粒子6aの体積が20%よりも小さくなると、BDD層において、絶縁性バインダに包囲されてカーボンペースト4と電気的に接続できない導電性ダイヤモンド粒子6aの割合が増加し、導電性ダイヤモンド電極1に流れるファラデー電流が減少する。
【0023】
絶縁性バインダは、集電体への密着性の観点から多価カルボン酸(ジカルボン酸)とポリアルコール(ジオール)との縮重合体である各種ポリエステル樹脂が好ましい。なお、絶縁性バインダとしては、ポリエステル樹脂に限定されるものではなく、ウレタン変性ポリエステル樹脂、エポキシ変性ポリエステル樹脂、アクリル変性ポリエステルなどの各種変性ポリエステル樹脂や、ポリエーテルウレタン樹脂、ポリカーボネートウレタン樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン酢酸ビニル重合体、マレイン化ポリオレフィンなどのポリオレフィン系樹脂、塩化ビニル・酢酸ビニル重合体、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリアミドイミド、ニトロセルロース、セルロース・アセテート・ブチレート(CAB)、セルロース・アセテート・プロピオネート(CAP)などの変性セルロース類などを用いてもよい。
【0024】
次に、具体的な実施例を示して、本発明の実施形態に係る導電性ダイヤモンド電極及び、本発明の実施形態に係る導電性ダイヤモンド電極の製造方法についてより詳細に説明する。
【0025】
(実施例)
[ホウ素ドープダイヤモンドパウダー(BDDP)の作製方法]
図3に、ホウ素ドープダイヤモンドパウダーを作製するマイクロ波プラズマCVD装置(MPCVD装置7)の概略図を示す。実施例(及び参考例)では、ASTeX社製のMPCVD装置を用いて、ホウ素ドープダイヤモンドパウダーを作製した。
【0026】
BDD層を成長させる基材であるダイヤモンドパウダー(DP)として、粉砕天然ダイヤモンドパウダー(Element Six社製、Micron+SND、粒子径0〜0.5μm)を用いた。
【0027】
まず、ダイヤモンドパウダーには、不純物として金属成分や各種sp2カーボンが含まれており、これら不純物は最終生成物に悪影響を与える。そこで、これら不純物を除去するために、60℃に加熱した王水で30分間、同様に、60℃に加熱した30%過酸化水素水で30分間処理し、ダイヤモンドパウダーに含まれる不純物を除去した。洗浄したダイヤモンドパウダーは、超純水・2−プロパノール・アセトン中で超音波洗浄し、乾燥させた。
【0028】
表面を洗浄したダイヤモンドパウダー1.0gを、MPCVD装置7内の格納容器8に基材として格納し、ダイヤモンドパウダーの表層にホウ素をドープしたダイヤモンド層を成長させた。
【0029】
炭素源には、ホウ素濃度比(B/C)が20000ppmになるようにトリメトキシボラン(trimethoxyborane:B(OCH33)を溶解させたアセトン・メタノール混合溶液を用いた。格納容器8に格納されたダイヤモンドパウダーに、石英窓からマイクロ波を照射した状態で、格納容器8にトリメトキシボラン及び水素を供給して、ダイヤモンドパウダーの表面にホウ素をドープしたダイヤモンド層を成長させ、ホウ素ドープダイヤモンドパウダーを得た。マイクロ波出力は、1300Wで固定し、成長時間は8時間とした。詳細な反応条件を表1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
BDD層成長後に、マッフル炉により空気中で425℃、5時間の条件下で加熱し、BDD層の成長時に生じたグラファイト不純物を除去した。その後、熱処理により酸化された表面に対して水素終端化処理を行った。水素終端化処理の処理条件は、水素流量100sccm、圧力20Torr、マイクロ波出力500W、ステージ温度800℃の条件で、1時間水素プラズマ処理を行った。
【0032】
[ラマン測定]
ラマン分光器(NSR−3200、JASCO社製)を用いて、得られたBDDPのラマン測定を行った。測定結果を図4に示す。参考例として、図5に、ダイヤモンドパウダー(DP)のラマン測定結果を示す。上記のラマン測定において、測定条件は、測定範囲:1100〜1800cm-1、レーザー波長:532nm、積算回数:5回で行った。
【0033】
ラマンスペクトルの1332cm-1付近のピーク(ダイヤモンド(sp3)に対応するピーク)位置は、ホウ素濃度と相関があり、ホウ素ドープダイヤモンド中のホウ素濃度の増加に従って、このピーク位置が低波数シフトすることが知られている(例えば、非特許文献3)。
【0034】
BDDPのラマン測定結果(図4に示す)とDPのラマン測定結果(図5に示す)とを比較すると、BDDPでの測定結果では、1332cm-1付近にダイヤモンド(sp3)ピークがあるのに対して、DPでは、1336cm-1付近にダイヤモンド(sp3)のピークがあることが確認できる。つまり、CVD処理後のBDDPは、ダイヤモンド(sp3)に対応するピークが低波数側にシフトしており、このラマン測定の結果より、上記MPCVD装置7でDPを処理することで、DP上にBDD層が成長していることが確認できた。
【0035】
[BDDPの粒度分布測定]
図6に、基材としたDPの粒度分布の測定結果と得られたBDDPの粒度分布の測定結果を示す。粒度分布の測定は、レーザー回折式散乱法で行った。なお、相対粒子量は体積を基準としたものである。
【0036】
図6に示すように、DPは、粒子径0.1〜1μmの範囲に粒度分布があるので、BDDPの粒度分布もほぼ同じ傾向の粒度分布を示している。なお、BDDPでは、粒子径5〜50μm付近にも分布が存在しており、これはBDDP粒子の凝集によるものと考えられる。このように、BDDPとバインダとの混合前においても、既にBDDPの凝集体が存在している。また、BDDPをBDDインクとすることでこの凝集体の形成が促進され、BDDPとカーボンペーストとの電気的接続(通電パス)構造がより多く形成されやすいので、BDDPは、擬似微小電極の製造に適した導電性ダイヤモンド粒子であると考えられる。
【0037】
[導電性ダイヤモンド電極の作製方法]
1.ホウ素ドープダイヤモンド(BDD)インクの調製
図7に、BDDインクの調製方法のフロー図を示す。この図に基づいて、ポリエステル樹脂(絶縁性バインダ)の体積に対するBDDP体積比が89%であるBDDインクの調製方法について説明する。まず、ビーカに絶縁性バインダとしてポリエステル樹脂(商品名:バイロンGK−140、東洋紡績株式会社製)を40mg秤量した。
【0038】
次に、ポリエステル樹脂40mgに対して、メチルエチルケトンをパスツールピペットで5滴(63.0mg)、イソホロンをパスツールピペットで5滴(79.4mg)を加えてポリエステル樹脂を溶解させた。この時、メチルエチルケトンは揮発しやすいため、適宜追加した。ポリエステル樹脂を溶解させた後、BDDPを100mg加えて、十分に分散させてBDDインクを調製した。なお、同様の方法で、BDDPとポリエステル樹脂の割合を変化させたBDDインクを作製した。実施例1〜7に係るBDDインク中のポリエステル樹脂とBDDPの割合を表2に、参考例1に係るBDDインク中のポリエステル樹脂とBDDPの割合を表3にそれぞれ示す。表2、表3において、ダイヤモンド密度3.5g/cm3、ポリエステル樹脂密度1.25g/cm3に基づいてポリエステル樹脂/BDDP質量比から、ポリエステル樹脂の体積に対するBDDP体積比(%)を算出した。
【0039】
【表2】

【0040】
【表3】

【0041】
2.スクリーン印刷
導電性ダイヤモンド電極の作製は、スクリーン印刷機(NEW LONG社製、LS−150TV)を用いて行った。スクリーン印刷は、孔版印刷の一種で、版自体に穴を開け、そこからインクを擦りつける印刷法である。スクリーン印刷では、一般的にポリアミド繊維やポリアリレート繊維などの化学繊維で織ったスクリーンの目を利用し、セラミックス、回路基板、プリント配線基板、フィルム回路基板をはじめ、多くの電子部品の製造工程に利用されている。スクリーン印刷は、幅広い素材に印刷が可能で、平面だけでなく、曲面にも印刷できる。その他にも、再現性や生産性に優れていることや、数十から数百μm程度の膜厚印刷が可能であること、インクに多様性があることなど様々な特徴がある。
【0042】
スクリーン印刷機による導電性ダイヤモンド電極の作製方法について、図1(a)に示す導電性ダイヤモンド電極1の外観図(及び、図1(b)に示す分解図)と、図8に示す導電性ダイヤモンド電極1の作製フロー図を参照して説明する。
【0043】
導電性ダイヤモンド電極1は、上記表2に示した実施例1〜7に係るBDDインク及び上記表3に示した参考例1に係るBDDインクを用いて、それぞれ実施例1〜7に係る導電性ダイヤモンド電極及び参考例1に係る導電性ダイヤモンド電極を作製した。
【0044】
なお、図8の導電性ダイヤモンド電極1の作製フロー図の説明では、実施例1に係る導電性ダイヤモンド電極の作製方法を例示して説明する。他の実施例及び参考例に係る導電性ダイヤモンド電極の作製方法については、BDDインク中のBDDP体積比が異なること以外は実施例1の導電性ダイヤモンド電極の作製方法と同様の方法で作製できるので、重複を避けるため説明を省略する。
【0045】
図8に示すように、まず、ポリイミド基板2(商品名:カプトンフィルム、東レ・デュポン株式会社製)に銀ペースト3(ECM−100 AF5000、太陽インキ株式会社製)を印刷した(ステップS1)。
【0046】
次に、印刷された銀ペースト3上に、カーボンペースト4(JELCON CH−10,十条ケミカル株式会社製)を印刷した(ステップS2)。
【0047】
さらに、銀ペースト3を覆うように、レジストインキの一種である絶縁樹脂5(TF−200FR1、太陽インキ株式会社製)を印刷した(ステップS3)。この時、ステップ2で形成されたカーボンペースト4の少なくとも一部を被覆しないように絶縁樹脂5が印刷される。この絶縁樹脂5が印刷されないカーボンペースト4が導電性ダイヤモンド電極1の集電体として作用する。
【0048】
そして、カーボンペースト4上に、表2に示した実施例1のBDDインク6を印刷した(ステップS4)。BDDインク6を印刷した後、120℃で30分加熱し、導電性ダイヤモンド電極1を作製した(ステップS5)。
【0049】
[導電性ダイヤモンド電極の評価]
1.硫酸ナトリウム水溶液中での電気化学的特性
導電性ダイヤモンド電極の評価として、硫酸ナトリウム水溶液中で、サイクリックボルタンメトリー(以後、CV測定)を行った。CV測定は、ポテンショスタット(HZ−5000、北斗電工株式会社製)を用いて、3電極系により行った。測定装置の構成及び測定条件を以下に示す。
作用極:導電性ダイヤモンド電極
対極:白金線
測定溶液:硫酸ナトリウム水溶液(0.5mol/L)
参照電極:銀/塩化銀(Ag/AgCl)飽和塩化カリウム電極
掃引速度:10mV/s
実施例1,2の導電性ダイヤモンド電極での測定結果を図9(a)に、実施例3,7の導電性ダイヤモンド電極での測定結果を図9(b)に、参考例1の導電性ダイヤモンド電極での測定結果を図10にそれぞれ示す。また、導電性ダイヤモンド電極に0.3V(vs Ag/AgCl)の電位を印加した時に流れる電流値をバックグラウンド電流として測定した。実施例1〜7、参考例1の導電性ダイヤモンド電極で測定したバックグラウンド電流の測定結果を図11に示す。
【0050】
図11に示すように、絶縁性バインダの体積に対する導電性ダイヤモンド粒子の体積比が20%以上90%以下の範囲において、導電性ダイヤモンド電極は、参考例1と比較してバックグラウンド電流の値を低減できることがわかる。
【0051】
2.フェリシアン化カリウム(K3[Fe(CN)6])水溶液での電気化学的特性
導電性ダイヤモンド電極のさらなる評価として、一般的な電気化学特性の評価を行うために用いられる酸化還元種であるフェリシアン化カリウムを含有する硫酸ナトリウム水溶液で、CV測定を行った。測定装置の構成及び測定条件は、以下のとおりである。
作用極:導電性ダイヤモンド電極
対極:白金線
測定溶液:フェリシアン化カリウム(0.5mmol/L)−硫酸ナトリウム水溶液(0.5mol/L)
参照電極:銀/塩化銀(Ag/AgCl)飽和塩化カリウム電極
掃引速度:10mV/s
実施例1,2,3,7の導電性ダイヤモンド電極でのCV測定結果を図12に、参考例1の導電性ダイヤモンド電極でのCV測定結果を図13に示す。
【0052】
また、フェリシアン化カリウムを含む水溶液中で測定したCVにおいて、負方向に電位掃引した時の電流値をバックグラウンド電流を含むシグナル電流とし、同様に硫酸ナトリウム水溶液中で測定したものをバックグラウンド電流として、シグナル電流とバックグラウンド電流の比の最大値を、シグナル/バックグラウンド電流比(S/B比)として算出した。実施例1〜7、参考例1の導電性ダイヤモンド電極でのS/B算出結果を図14示す。
【0053】
また、実施例1〜7の導電性ダイヤモンド電極で算出されたS/B比を表4に、参考例1の導電性ダイヤモンド電極で算出されたS/B比を表5に示す。
【0054】
【表4】

【0055】
【表5】

【0056】
図13に示すように、参考例1の導電性ダイヤモンド電極は、平板電極と同じように、Fe[(CN)63-/4-の酸化還元反応に起因する電流ピークが確認できる。これは、導電性ダイヤモンド粒子が「アレイ」を形成しておらず、その結果、導電性ダイヤモンド粒子が電極表面上に連続的に存在して、導電性ダイヤモンド電極が微小電極様の特性を持たなくなったものと考えられる。
【0057】
図12に示すように、実施例1に係る導電性ダイヤモンド電極においても、Fe[(CN)63-/4-の酸化還元反応に起因する電流ピークが確認できるものの、実施例1に係る導電性ダイヤモンド電極は、疑似微小電極としての特徴(S/B比の向上などの)も認められており、絶縁性バインダの体積に対してBDDPの体積が90%以下のBDDインクを用いて導電性ダイヤモンド電極を作成すれば、導電性ダイヤモンド電極が擬似微小電極様の特性を持った導電性ダイヤモンド電極を得ることができるものと考えられる。
【0058】
図14に示すように、実施例1〜7の導電性ダイヤモンド電極は、参考例1の導電性ダイヤモンド電極に比べ高いS/B比が得られた。また、BDDP体積比が40%付近にS/B比のピークが確認でき、好ましくはBDDPの体積比が20%以上90%以下の範囲においてバックグラウンド電流が小さく、かつ、S/B比が大きくなる結果が得られた。したがって、導電性ダイヤモンド電極においてBDDPの体積比を20%以上90%以下とした時、センサなどの計測装置に適用するために必要とされる高い検出感度を有する電極を得ることができる。特に、BDDP体積比が30%以上55%以下の時、S/B比が6000以上であり、より高い検出感度を有する電極を得ることができる。
【0059】
ここで、BDDP体積比の違いによるS/B比の違いについて図15を参照して説明する。図15(a)に示すように、BDDP体積比が大きい場合(90%を超える場合)、導電性ダイヤモンド電極を構成する導電性ダイヤモンド粒子がお互いに接触しており、導電性ダイヤモンド電極に拡散する酸化還元種は、導電性ダイヤモンド電極に対して線形拡散することとなる。一方、図15(b)に示すように、BDDP体積比が小さい場合(90%以下)、集電体と電気的に接続している導電性ダイヤモンド粒子群との間に絶縁性バインダが介在することで、絶縁性バインダに囲まれた導電性ダイヤモンド粒子群(微小電極)が複数存在する構造となる。すなわち、電極表面には、導電性ダイヤモンド粒子が凝集した導電性ダイヤモンドアレイが形成され、いわゆる擬似微小電極を構成する。その結果、個々の微小電極(導電性ダイヤモンド粒子群)への酸化還元種の拡散は、半球面状の拡散となり、微小電極アレイ効果により、S/B比が増加したものと考えられる。
【0060】
また、BDDP体積比が40%〜55%をピークに、BDDP体積比が減少するにしたがって、S/B比が減少している。その一因としては、集電体の露出がバックグラウンド電流に影響すると考えられる。つまり、BDDP体積比が減少するにしたがってBDDインクの乾燥時の体積減少が大きくなり、これに伴って集電体の露出が増加してバックグランンド電流が上昇することが考えられる。
【0061】
以上より、BDDP体積比を30%以上55%以下とすることで、導電性ダイヤモンドアレイを形成し、且つ良好に集電体が被覆された導電性ダイヤモンド電極を得ることができるものと考えられる。
【0062】
3.アスコルビン酸水溶液中でのシグナル電流/バックグラウンド電流比(S/B比)の比較
導電性ダイヤモンド電極の評価として、生体内に存在する電気化学活性種の代表的な物質であるアスコルビン酸の分析を行った。0.5mmol/Lアスコルビン酸−0.1mol/Lリン酸緩衝液(pH7.4)で、実施例2,3に係る導電性ダイヤモンド電極を用いてCV測定を行った。CV測定は、ポテンショスタット(HZ−5000、北斗電工株式会社製)を用いて、3電極系により行った。測定装置の構成及び測定条件を以下に示す。
作用極:導電性ダイヤモンド電極
対極:白金線
測定溶液:アスコルビン酸(0.5mmol/L)−リン酸緩衝液(pH7.4)(0.1mol/L)
参照電極:銀/塩化銀(Ag/AgCl)飽和塩化カリウム電極
掃引速度:10mV/s
アスコルビン酸−リン酸緩衝液(pH7.4)でのCV測定結果を図16に示す。また、導電性ダイヤモンド電極に1.2V(vs Ag/AgCl)の電位を印加した時に流れる電流値をシグナル電流として測定し、硫酸ナトリウム水溶液中で導電性ダイヤモンド電極に1.2V(vs Ag/AgCl)の電位を印加した時に流れる電流値をバックグランド電流として測定した。そして、このシグナル電流とバックグラウンド電流の比(S/B比)を算出した。算出されたS/B比を図17に示す。
【0063】
実施例2,3に係る導電性ダイヤモンド電極によりアスコルビン酸水溶液中でのシグナル電流/バックグラウンド電流比(S/B比)を算出した結果においても、「2.フェリシアン化カリウム(K3[Fe(CN)6])水溶液での電気化学的特性」におけるBDDP体積比とS/B比との関係と同様な傾向が得られた。
【0064】
以上のように、本発明の導電性ダイヤモンド電極及び本発明の導電性ダイヤモンドの製造方法によれば、微小な導電領域が低密度に露出した電極表面を有する擬似微小電極を作製することができる。このような電極形態は、シグナル電流/バックグラウンド電流比が大きく高感度な電気化学測定ができることや、定常又は準定常電流を得ることができるなどの微小電極アレイとしての特徴を示す。さらに、本発明の導電性ダイヤモンド電極は、疑似微小電極アレイを構成する個々の擬似微小電極で流れる電流が小さいので、電気二重層の充電電流の寄与が小さく、IRドロップ(未補償溶液抵抗)が小さくなり、測定精度が向上する。
【0065】
本発明の導電性ダイヤモンド電極では、絶縁性バインダの体積に対して20%以上90%以下、より好ましくは30%以上55%以下、となるように導電性ダイヤモンド粒子を添加したBDDインクを印刷することで簡便に擬似微小電極を作製することができる。つまり、通常、電気伝導及び電極反応に寄与しない絶縁性バインダの含有比率を増加させたBDDインク用いることで、簡単に擬似微小電極を作製するとともに、従来の導電性ダイヤモンド電極の電気化学応答と同じ程度の応答を示す導電性ダイヤモンド電極を得ることができる。
【0066】
絶縁性バインダの含有比率を増加させる(導電性ダイヤモンド粒子の含有比率を低濃度にする)と、電極を流れる電流値が小さくなるので、電流値の観点からすると電気化学反応の応答が悪くなる。しかしながら、シグナル電流とバックグラウンド電流の2つのデータを組み合わせた指標であるS/B比を比較すると、本発明の導電性ダイヤモンド電極は、従来の導電性ダイヤモンド電極と比較して高感度となっている。つまり、本発明の導電性ダイヤモンド電極は、S/B比が高いので、低濃度試料の検出を目的としたセンサに有用であることがわかる。
【0067】
また、導電性ダイヤモンド電極を、導電性ダイヤモンド粒子と絶縁性バインダを含有するインクを印刷して作製することで、製造コストを低減し、容易に導電性ダイヤモンド電極を作製することができ、導電性ダイヤモンド電極の量産化が可能となる。また、導電性ダイヤモンド電極を作製する時のBDDインク中の導電性ダイヤモンド粒子量を低減することにより、導電性ダイヤモンド電極の作製コストを低減することができる。その結果、安価で大量に導電性ダイヤモンド電極を供給することができるので、修飾電極の開発における条件のスクリーニング実験を行う電極として本発明の導電性ダイヤモンド電極を用いることができる。また、使い捨ての電極として本発明の導電性ダイヤモンド電極用いると、生体成分分析に用いる際の汚染・感染を回避することができる。
【0068】
導電性ダイヤモンド電極は、図18に示すように、他の金属電極や炭素電極材料と比較して、水溶液中での電位窓が非常に広い。電位窓の広さは、水溶液中においては、水素及び酸素過電圧の大きさに依存する。導電性ダイヤモンド電極は、電位窓が極端に広いので、従来の電極材料では使用できない電位領域に酸化電位・還元電位を持つ物質の電気化学的検出や電解合成が可能となる。
【0069】
また、本発明の導電性ダイヤモンド電極は、残余電流密度が非常に小さい。残余電流密度は、電気二重層を形成するのに必要なだけのキャリアを電極表面に移動するために流れる電流密度、すなわち電極表面の静電容量に依存する。導電性ダイヤモンド電極は、電極表面における静電容量が数μFcm-2で、グラッシーカーボン(GC)と比較して2桁小さい。そのため、導電性ダイヤモンド電極の残余電流密度は、オーダー的に100nAcm-2であり、白金(数μAcm-2のオーダー)、金(μAcm-2オーダー)、GC(100μAcm-2オーダー)と比較して顕著に小さい。そのため、電気化学反応によるファラデー電流に対するS/B比が増加し、より微小な電流の検出が可能となる。つまり、溶液中の酸化還元種が極微量であっても、効果的な検出が可能となる。
【0070】
さらに、本発明の導電性ダイヤモンド電極は、物理的、化学的安定性、耐久性に優れている。ダイヤモンドは、原子間の結合のうち最も強い共有結合のみでできているため、物理的に非常に安定である。共有結合でできているということは、化学的安定性にも大きく影響している。したがって、導電性ダイヤモンド電極は、金属電極やGC電極のように、測定の前に表面を薬品や研磨紙を用いてエッチングする必要がなく、使用が簡便な電極としてセンサや電解などの電極として用いることができる。
【0071】
また、本発明の導電性ダイヤモンド電極は、酸化還元系に対して電子移動が速く、電極反応に選択性がある。よって、本発明の導電性ダイヤモンド電極を微量元素のセンサの検出電極として用いると、微量元素を高感度かつ迅速に測定することができる。
【0072】
以上、本発明の導電性ダイヤモンド電極及び導電性ダイヤモンド電極の製造方法に関して、記載された具体例に対してのみ詳細に説明したが、本発明の導電性ダイヤモンド電極及び導電性ダイヤモンド電極の製造方法は、本発明の技術思想の範囲で多彩な変形及び修正が可能であることは、当業者にとって明白なことであり、このような変形及び修正が本発明の導電性ダイヤモンド電極及び本発明の導電性ダイヤモンド電極の製造方法に属することは当然のことである。
【0073】
例えば、本発明の導電性ダイヤモンド電極に用いられる導電性ダイヤモンド粒子は、導電性を有するダイヤモンド粒子であればよく、ダイヤモンド粒子上にホウ素ドープダイヤモンド層を形成することに限定されるものではない。つまり、ダイヤモンドにドープする物質は、ホウ素に限定されるものではなく、窒素やリンなどダイヤモンドに導電性を付与できる物質をドープすればよい。
【0074】
また、導電性ダイヤモンド粒子の構成は、ダイヤモンド粒子(基材)上に導電性ダイヤモンド層を形成することに限定されるものではなく、基材として、ケイ素(Si)やモリブデン(Mo)粒子など、導電性ダイヤモンド層を形成することができる既知の基材を用いればよい。また、基材を使用せず、導電性ダイヤモンドの結晶を導電性ダイヤモンド粒子として用いてもよい。
【0075】
また、導電性ダイヤモンド粒子を作製する方法もMPCVDに限定されるものではなく、高温高圧法、熱フィラメントCVD等の他のCVD法、PVD法などの既知の作製方法を本発明の導電性ダイヤモンド電極の製造方法に適用することができる。
【0076】
また、導電性ダイヤモンド電極の印刷方法は、容易に膜厚の制御やパターン化が可能なスクリーン印刷が好ましいが、粉末散布被膜法、スプレーコート法、スピンコート法、グラビア印刷法、オフセット印刷法、インクジェット印刷法など、通常の印刷法を用いることができる。印刷により形成されるBDDインクの膜厚は、特に限定されるものではないが、数から数百μm、より好ましくは10〜50μmの膜厚で導電性ダイヤモンド電極として作用することが確認された。
【0077】
また、BDDインクに用いる溶剤は、絶縁性バインダを溶解でき、高い沸点を有する既知の溶剤を用いることができる。つまり、溶剤は、バインダ樹脂との相溶性が良い溶媒が使用され、1種類の溶媒からなる溶剤であっても、複数種類の溶媒を混合した溶剤であってもよい。具体例としては、バインダ樹脂としてポリエステル樹脂を用いる場合には、ポリエステル樹脂との相溶性が良いエチルカルビトールアセテート(沸点217℃)とブチルセロソルブアセテート(沸点188℃)を75/25(質量比)で混合した溶媒と、沸点が250℃以上であるメチルエーテル、エチルエーテル、プロピルエーテル、ポリプロピレングリコールモノメチルエーテルや、トリメリット酸トリ(2−エチルヘキシル)などの高沸点溶媒をブレンドしたものを用いることができる。
【0078】
また、実施形態の説明では、導電性ダイヤモンド電極を作製する基板として、高い機械強度を有し、優れた耐熱性、耐薬品性を有するポリイミド基板を用いているが、導電性ダイヤモンド電極の用途に対応した機械強度や耐熱性(インク乾燥に必要な温度(例えば、120℃)程度の耐熱性)等の条件に応じて適宜既知の基板を用いればよい。例えば、紙フェノール基板、紙エポキシ基板、ガラスコンポジット基板、ガラスエポキシ基板、ガラスポリイミド基板、フッ素基板、ガラスPPO基板、金属基板、セラミック基板などの既知の基板を用いればよい。
【0079】
また、実施形態の説明では、導電性ダイヤモンド粒子に対して水素終端処理を行っているが、測定対象に応じて、必要な表面処理を行うとよい。例えば、酸素終端化処理や、ハロゲン化処理、フェロセン修飾処理、スルホ基修飾処理、四級アンモニア基終端化処理、カルボン酸終端化処理(他の有機官能基修飾処理)などの化学修飾による処理、さらには、熱的な処理を行ってもよい。さらに、導電性ダイヤモンド粒子に電気化学的特性を与えるために、導電性ダイヤモンド粒子と、1種類以上の酸化還元触媒または1種類以上のメディエータとを混合(または、添加・結合処理)してもよい。この酸化還元触媒としては、酵素、抗体、金属などの化学物質が例示される。
【0080】
そして、本発明の導電性ダイヤモンド電極は、高い化学的安定性と高い検出感度を有するので、様々なセンサの検出電極として用いることができる。例えば、ブドウ糖酸化還元酵素を導電性ダイヤモンド粒子上に配置することで、血糖監視装置の検出電極として用いることができる。また、本発明の導電性ダイヤモンド電極は、S/B比が高く、微量な物質の検出が可能であるので、残留塩素や環境ホルモン、ヒ素、重金属などの従来吸光光度法や比色法で検出されている物質を電気化学的な測定で検出するセンサの検出電極として用いることができる。
【0081】
また、本発明の導電性ダイヤモンド電極は、簡便にかつ大量に製造することができるので、使い捨ての電極として用いると、血液中や尿中のドーパミン、タンパク質(ガンマーカ)、シュウ酸、グルコース、インスリン、ヒスタミン等の検出を電気化学測定により高感度で迅速に行うことができるとともに、汚染や感染の危険を回避することができる。
【0082】
また、本発明の導電性ダイヤモンド電極において、BDDインクを印刷する集電体は、既知の集電体材料を用いればよく、集電体とリードとを一体に形成した形態としてもよい。
【0083】
なお、同一基板上に、本発明の導電性ダイヤモンド電極(作用極)を対極、参照電極とともに印刷することで検出電極ユニットを製作したり、または、本発明の導電性ダイヤモンド電極を作用極として用いて、複数の作用極を同一基板上に形成したりすることも可能であり本発明の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0084】
1…導電性ダイヤモンド電極
2…ポリイミド基板
3…銀ペースト
3a…接続部
4…カーボンペースト(集電体)
5…絶縁樹脂
6…BDDインク
6a…導電性ダイヤモンド粒子
6b…導電性ダイヤモンド粒子群
7…MPCVD装置
8…格納容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体と、
当該集電体上に配置され、前記集電体と電気的に接続される導電性ダイヤモンド粒子と、
を有する導電性ダイヤモンド電極であって、
前記導電性ダイヤモンド粒子間に絶縁性バインダを設け、前記集電体上に導電性ダイヤモンドアレイを形成してなる
ことを特徴とする導電性ダイヤモンド電極。
【請求項2】
導電性ダイヤモンド粒子と、
絶縁性バインダと、
を含有する導電性ダイヤモンドインクを堆積させて形成される導電性ダイヤモンド電極であって、
前記絶縁性バインダの体積に対する前記導電性ダイヤモンド粒子の体積は、20%以上90%以下である
ことを特徴とする導電性ダイヤモンド電極。
【請求項3】
前記導電性ダイヤモンドインクは、集電体上に印刷される
ことを特徴とする請求項2に記載の導電性ダイヤモンド電極。
【請求項4】
前記導電性ダイヤモンド粒子は、基材表面に導電性ダイヤモンド層を形成してなる
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の導電性ダイヤモンド電極。
【請求項5】
前記導電性ダイヤモンド粒子は、導電性ダイヤモンド結晶である
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の導電性ダイヤモンド電極。
【請求項6】
前記導電性ダイヤモンド粒子の表面に対して、水素終端化処理、または、化学修飾による処理を行う
ことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の導電性ダイヤモンド電極。
【請求項7】
前記導電性ダイヤモンド粒子の粒子径は、5nm〜100μmである
ことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の導電性ダイヤモンド電極。
【請求項8】
導電性ダイヤモンド粒子を用いて導電性ダイヤモンド電極を製造する導電性ダイヤモンド電極の製造方法であって、
絶縁性バインダを溶解させた溶媒に、当該絶縁性バインダの体積に対する前記導電性ダイヤモンド粒子の体積が20%以上90%以下となるように、前記導電性ダイヤモンド粒子を混合し、当該導電性ダイヤモンド粒子を含有する導電性ダイヤモンドインクを得る工程と、
前記導電性ダイヤモンドインクを集電体上に堆積させて導電性ダイヤモンド電極を得る工程と、
を有する
ことを特徴とする導電性ダイヤモンド電極の製造方法。
【請求項9】
前記導電性ダイヤモンド粒子は、ダイヤモンド粒子の表面に導電性ダイヤモンド層を形成してなる
ことを特徴とする請求項8に記載の導電性ダイヤモンド電極の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate


【公開番号】特開2013−76130(P2013−76130A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−216671(P2011−216671)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(803000115)学校法人東京理科大学 (545)
【出願人】(591031212)北斗電工株式会社 (20)
【出願人】(000006105)株式会社明電舎 (1,739)
【Fターム(参考)】