説明

導電性接着剤および電子部品

【課題】室温で液状のフェノール樹脂およびエポキシ樹脂を含有する導電性接着剤に酸化膜除去を配合した場合であっても、製造時や使用前のゲル化や増粘が抑制され、導電性も良好な導電性接着剤とこれを用いた電子部品の提供。
【解決手段】室温で液状のエポキシ樹脂と、室温で液状のフェノール樹脂と、反応性希釈剤と、イミダゾール化合物と、銀粉および/または銀コート金属粉とを含有する導電性接着剤であって、潜在性グルタル酸発生化合物を0.05〜5質量%の範囲でさらに含有する導電性接着剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性接着剤およびこれを用いた電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コンデンサ素子などの電子素子チップを外部電極に接合する際に、導電性接着剤が使用されることが多い。
このような導電性接着剤として、エポキシ樹脂とフェノール樹脂とイミダゾール化合物と導電性金属粒子とを含有する導電性接着剤が提案されている(例えば特許文献1)。
また、導電性接着剤に有機カルボン酸などの酸化膜除去剤を配合して導電性金属粒子の表面酸化膜を除去し、導電性を向上させる技術も知られている(例えば特許文献2)。
【特許文献1】特開2000−192000号公報
【特許文献2】特開平8−302312号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来のフェノール樹脂を含有する導電性接着剤においては、特許文献1にも記載のように、導電性接着剤の製造時に例えば50℃程度の加温下で各成分を混合させる必要があり、製造に手間がかかった。また、フェノール樹脂を溶解させるためには、多量の反応性希釈剤を使用する必要があったが、多量の反応性希釈剤を含有する導電性接着剤では、その硬化物の接着強度が不十分になってしまうという問題があった。
そこで、本発明者らは、エポキシ樹脂とフェノール樹脂として室温で液状のものを選択することで、製造時の手間や硬化物の接着強度を改善し、さらに、このような導電性接着剤について酸化膜除去剤を配合することで、より高い導電性をも発揮させようとする技術について検討を行っている。
【0004】
ところが、室温で液状のエポキシ樹脂とフェノール樹脂とを使用した導電性接着剤は反応性が非常に高く、これに従来公知の有機カルボン酸などの酸化膜除去剤を配合した場合、導電性接着剤の製造時や使用前に酸化膜除去剤がエポキシ樹脂と反応したり、さらにはエポキシ樹脂とフェノール樹脂の反応に対して促進剤的に作用したりして、ゲル化したり増粘したりするという問題があった。
【0005】
本発明は上記事情を鑑みてなされたもので、室温で液状のエポキシ樹脂とフェノール樹脂を含有する導電性接着剤に酸化膜除去剤を配合した場合であっても、製造時や使用前のゲル化や増粘が抑制され、導電性も良好な導電性接着剤とこれを用いた電子部品の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討した結果、酸化膜除去剤として潜在性グルタル酸発生化合物を特定量使用することによって、室温で液状のエポキシ樹脂とフェノール樹脂を含有する導電性接着剤の場合でも、製造時や使用前のゲル化や増粘が抑制され、導電性も良好となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の導電性接着剤は、室温で液状のエポキシ樹脂と、室温で液状のフェノール樹脂と、反応性希釈剤と、イミダゾール化合物と、銀粉および/または銀コート金属粉とを含有する導電性接着剤であって、潜在性グルタル酸発生化合物を0.05〜5質量%の範囲でさらに含有することを特徴とする。
また、本発明の電子部品は、前記導電性接着剤を用いて製造されたことを特徴とする。
なお、本発明において「室温」とは、10〜40℃の範囲を意味する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、室温で液状のエポキシ樹脂とフェノール樹脂を含有する導電性接着剤に酸化膜除去剤を配合した場合であっても、製造時や使用前のゲル化や増粘が抑制され、導電性も良好な導電性接着剤とこれを用いた電子部品とを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の導電性接着剤は、エポキシ樹脂と、フェノール樹脂と、反応性希釈剤と、イミダゾール化合物と、導電性金属粒子として作用する銀粉および/または銀コート金属粉とを含有し、さらに酸化膜除去剤として潜在性グルタル酸発生化合物を含むものである。
【0010】
本発明に用いられるエポキシ樹脂は、バインダーとして導電性接着剤に含有されるものであり、室温で液状である。
このようなエポキシ樹脂としては、ビスフェノールF型のエポキシ樹脂、ビスフェノールA型のエポキシ樹脂、ウレタン変性エポキシ樹脂、ゴム変性エポキシ樹脂、ナフタレン系、フェノールノボラック系のエポキシ樹脂、フタル酸エステル系のエポキシ樹脂などが挙げられる。中でもビスフェノールF型のエポキシ樹脂、フタル酸エステル系のエポキシ樹脂が好ましい。これらエポキシ樹脂は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
エポキシ樹脂の含有量は、当該導電性接着剤100質量%中、2〜10質量%が好ましく、3〜8質量%がより好ましい。エポキシ樹脂の含有量の下限値が上記値より小さくなると、接着強度が弱くなり、接着剤として機能しにくくなる。一方、含有量の上限値が上記値より大きくなると、銀粉および/または銀コート金属粉の接続が悪くなり、導電性が得られにくくなる。
【0011】
本発明に用いられるフェノール樹脂は、硬化剤として導電性接着剤に含有されるものであり、室温で液状である。室温で液状のフェノール樹脂は、容易に他の各成分に溶解するため、後述する反応性希釈剤を多量に用いる必要がなく、反応性希釈剤の含有量を低減できる。その結果、導電性接着剤を硬化させた硬化物の接着強度を向上できる。
また、室温で液状のフェノール樹脂を用いることで、導電性接着剤を無溶剤型の接着剤とすることができる。
【0012】
このようなフェノール樹脂としては、液状ノボラック型フェノール樹脂が挙げられる。
フェノール樹脂の含有量は、当該導電性接着剤100質量%中、2〜10質量%が好ましく、3〜8質量%がより好ましい。フェノール樹脂の含有量の下限値が上記値より小さくなると、導電性接着剤の接着強度を十分に高めることができなくなる。一方、含有量の上限値が上記値より大きくなると、高温高湿下やヒートサイクル下での抵抗が上昇する。
【0013】
また、フェノール樹脂は、前記エポキシ樹脂100質量部に対して、50〜250質量部含まれることが好ましく、より好ましくは80〜150質量部である。エポキシ樹脂に対するフェノール樹脂の含有量が上記範囲内であれば、エポキシ樹脂(主剤)とフェノール樹脂(硬化剤)の含有量のバランスがより良好となり、導電性接着剤が硬化しやすくなり、接着強度も向上しやすくなる。
【0014】
なお、本発明においては、室温で液状のフェノール樹脂に、該フェノール樹脂の特性を損なわない範囲内で、室温で固形のフェノール樹脂を1種以上含有させてもよい。
室温で固形のフェノール樹脂としては、クレゾールノボラック樹脂、ジシクロペンタジエン系フェノール樹脂、テルペン系フェノール樹脂、トリフェノールメタン系樹脂、フェノールアラルキル樹脂などが挙げられる。
室温で固形のフェノール樹脂の含有量は、室温で液状のフェノール樹脂100質量部に対して、0〜20質量部が好ましい。
【0015】
反応性希釈剤としては、グリシジルオルトトルイジン、エチレングリコールジグリシジルエーテル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、グリシジルメタクリレート、シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテルなどが挙げられる。中でもグリシジルオルトトルイジンが好ましい。これら反応性希釈剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0016】
反応性希釈剤の含有量は、当該導電性接着剤100質量%中、2〜10質量%が好ましく、3〜8質量%がより好ましい。反応性希釈剤の含有量の下限値が上記値より小さくなると、導電性接着剤とした際の粘度が高くなりすぎ、後述する銀粉および/または銀コート金属粉の分散性が低下する。その結果、導電性接着剤が塗布しにくいものとなり、作業性が低下する。一方、含有量の上限値が上記値より大きくなると、導電性接着剤の硬化物がもろくなり、接着強度が低下する。
【0017】
イミダゾール化合物は硬化促進剤として導電性接着剤に含有される。
イミダゾール化合物が含まれると、導電性接着剤の硬化性が良好となり、その結果、硬化物の耐熱性が向上する。
このようなイミダゾール化合物としては、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール、4,4’−メチレンビス(2−エチル−5−メチルイミダゾール)、2−ヘプタデシルイミダゾール等のイミダゾール系エポキシ硬化促進剤などが挙げられる。これらイミダゾール化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0018】
イミダゾール化合物の含有量は、当該導電性接着剤100質量%中、0.05〜0.9質量%が好ましく、0.1〜0.5質量%がより好ましく、0.2〜0.4質量%がさらに好ましい。イミダゾール化合物の含有量の下限値が上記値より小さくなると、硬化性が低下する。一方、含有量の上限値が上記値より大きくなると、導電性接着剤を仮硬化させる場合は、仮硬化条件(仮硬化時間や仮硬化温度など)の設定範囲が狭まり、作業性が低下する。
【0019】
導電性金属粒子としては、銀粉、銀コート金属粉のうち少なくとも一方を使用する。銀コート金属粉としては、例えば、銅粉、ニッケル粉に銀メッキを施した銀メッキ銅粉、銀メッキニッケル粉などが使用できる。
銀粉および/または銀コート金属粉の形状は、略球形であっても、フレーク状であってもよいが、フレーク状が好ましい。粒子径には特に制限はないが、導電性の点から、1〜20μmが好ましく、3〜10μmがさらに好ましい。また、銀粉および/または銀コート金属粉のタップ密度は、好ましくは4.2〜6.0g/cm、より好ましくは4.5〜5.8g/cmである。タップ密度の下限値が上記値より小さくなると、得られる導電性接着剤の粘度が高くなり、作業性が低下する。一方、タップ密度の上限値が上記値より大きくなると、導電性接着剤の製造自体が難しくなる傾向にある。
銀粉および/または銀コート金属粉の含有量は、当該導電性接着剤100質量%中、70〜92質量%が好ましく、75〜90質量%がより好ましい。銀粉および/または銀コート金属粉の含有量の下限値が上記値より小さくなると、銀粉および/または銀コート金属粉の接続が悪くなり、導電性が得られにくくなる。一方、含有量の上限値が上記値より大きくなると、接着強度が弱くなると共に、必要以上にコストが上がってしまう。
なお、導電性金属粒子としては、銀粉および/または銀コート金属粉の他に、ニッケル粉、銅粉などの他の粒子を特性が損なわれない範囲で使用してもよい。
【0020】
また、銀粉および/または銀コート金属粉と、樹脂成分(すなわち、前記エポキシ樹脂および前記フェノール樹脂の合計)の質量比(固形分比)は、銀粉および/または銀コート金属粉:樹脂成分=80:20〜96:4が好ましく、85:15〜93:7がより好ましい。銀粉と、樹脂成分の質量比が上記範囲内であれば、導電性、接着強度ともに優れた硬化物となる。
【0021】
本発明に用いられる潜在性グルタル酸発生化合物は、酸化膜除去剤として配合され、導電性接着剤の導電性を向上させるものであって、グルタル酸とビニルエーテル化合物とが反応し、グルタル酸の有するカルボキシル基がビニルエーテル化合物でブロックされた化合物(ブロックカルボン酸)である。
潜在性グルタル酸発生化合物が配合された導電性接着剤では、導電性接着剤の製造時や使用前にゲル化や増粘が起こることなく、高い導電性が発揮される。この理由については、次のように考えられる。すなわち、潜在性グルタル酸化合物では、カルボン酸の活性がビニルエーテル化合物によってブロックされているため、導電性接着剤に配合されただけでは、エポキシ樹脂と反応したり、エポキシ樹脂とフェノール樹脂の反応に対して促進剤的に作用したりしない。よって、製造時や使用前のゲル化や増粘が抑制される。その一方で、この潜在性グルタル酸発生化合物が配合された導電性接着剤を使用時において加熱、硬化させた場合には、加熱によりブロックがはずれてカルボン酸の活性が発現して酸化膜除去剤として作用し、導電性向上効果が発現すると考えられる。
このように潜在性グルタル酸発生化合物を配合すると、導電性接着剤の導電性が向上するため、一定の導電性を得るために使用する銀粉および/または銀コート金属粉の量を低く抑えることができ、コスト的に有利な導電性接着剤を提供することも可能となる。
【0022】
このように、製造時や使用前のゲル化や増粘が抑制され、使用時には高い導電性が発揮されるという優れた効果は、酸化膜除去剤として潜在性グルタル酸発生化合物を用いた場合にのみ得られる。例えば、同様にカルボキシル基がブロックされた潜在性アジピン酸発生化合物や潜在性オレイン酸発生化合物を使用した場合には、高い導電性は得られるものの、ゲル化や増粘を抑制する効果は得られない。
【0023】
潜在性グルタル酸発生化合物の製造に使用されるビニルエーテル化合物としては、脂肪族ビニルエーテル、脂肪族ビニルチオエーテル、環状ビニルエーテル、環状ビニルチオエーテルが挙げられる。
前記脂肪族ビニルエーテルとしては、例えば、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、2−エチルヘキシルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル等のモノビニルエーテル化合物;ブタンジオールジビニルエーテル、シクロヘキサンジオールジビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、トリメチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、1,4−ビスビニルオキシメチルシクロヘキセン、テトラエチレングリコールジビニルエーテル、エチレングリコールジビニルエーテル、ヘキサンジオールジビニルエーテル、ポリエチレングリコールジビニルエーテル、ペンタンジオールジビニルエーテル、ヘキサンジオールジビニルエーテル、1,4−シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル、ノナンジオールジビニルエーテル、1,4−ベンゼンジビニルエーテル、ビスフェノールAジビニルエーテル、ビスフェノールFジビニルエーテル等のジビニルエーテル化合物;トリメチロールプロパントリビニルエーテル等のトリビニルエーテル化合物;ペンタエリスリトールテトラビニルエーテル等のテトラビニルエーテル化合物等が挙げられる。また、脂肪族ビニルチオエーテルとしては、前記脂肪族ビニルエーテルの例示に対応するチオ化合物が挙げられる。
【0024】
前記環状ビニルエーテルとして、例えば、2,3−ジヒドロフラン、3,4−ジヒドロフラン、2,3−ジヒドロ−2H−ピラン、3,4−ジヒドロ−2H−ピラン、3,4−ジヒドロ−2−メトキシ−2H−ピラン、3,4−ジヒドロ−4,4−ジメチル−2H−ピラン−2−オン、3,4−ジヒドロ−2−エトキシ−2H−ピラン、3,4−ジヒドロ−2H−ピラン−2−カルボン酸ナトリウム等が挙げられる。また、環状ビニルチオエーテルとしては、前記環状ビニルエーテルの例示に対応するチオ化合物等が挙げられる。これらの中でも、原料の入手性や得られる潜在性グルタル酸発生化合物の分解開始温度の点から、n−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、2−エチルヘキシルビニルエーテル、1,4−ブタンジオールジビニルエーテル、テトラエチレングリコールジビニルエーテル、ブタンジオールジビニルエーテルが好ましい。
【0025】
潜在性グルタル酸発生化合物は、グルタル酸とビニルエーテル化合物とを反応させることにより得られる。反応は、具体的には、反応温度30〜200℃、好ましくは50〜150℃、反応時間10分間〜6時間、好ましくは20分間〜5時間の条件で行うことができる。反応の終点は、例えば、反応系の酸価を測定し、酸価が10mgKOH/g以下になった時点、特に酸価が5mgKOH/g以下になった時点が好ましく、従って、反応物の酸価は10mgKOH/g以下、特に5mgKOH/g以下が好ましい。この際、特に、グルタル酸のカルボキシル基の全てがブロックされるように反応を行うことが好ましいが、カルボキシル基の一部が、例えば末端等に残存していても本発明の目的が損なわれなければかまわない。
グルタル酸とビニルエーテル化合物との反応比は、当量比で通常1.0:0.5〜5.0、好ましくは1.0:1.0〜4.0、特に好ましくは1.0:1.0〜3.0である。また、潜在性グルタル酸発生化合物の質量平均分子量は、通常500〜500000、特に1000〜50000が好ましい。
【0026】
好適に使用される潜在性グルタル酸発生化合物としては、熱分解開始温度が170℃以下であって、潜在性グルタル酸発生化合物が配合された導電性接着剤を使用時に加熱、硬化させた場合には、加熱によりすみやかにブロックがはずれてカルボン酸の活性が発現しやすい、日本油脂(株)製のサンタシッドFK−16(商品名)が挙げられる。なお、ここで熱分解開始温度とは、試料を10℃/minで加熱しながらその質量変化を測定した際に、質量の1%減少した時点での温度をいう。
【0027】
潜在性グルタル酸発生化合物の含有量は、当該導電性接着剤100質量%中、0.05〜5質量%であり、0.1〜3質量%が好ましい。潜在性グルタル酸発生化合物の含有量の下限値が上記値より小さくなると、酸化膜除去剤による導電性向上効果が得られにくくなる。一方、含有量の上限値が上記値より大きくなると、接着強度が弱くなると共に硬化物の硬度も低下する傾向にある。
【0028】
本発明の導電性接着剤は、本発明の効果を損なわない範囲で、カップリング剤などの任意成分を適宜含有してもよい。
また、本発明においては、溶剤を含有させて溶剤型の接着剤としてもよい。この場合、溶剤としては、接着剤用として用いられるものであれば特に制限されず、公知のものを使用できる。
ただし、本発明の導電性接着剤は、上述したようにエポキシ樹脂として室温で液状のエポキシ樹脂とフェノール樹脂として室温で液状のフェノール樹脂を含有するので、溶剤を含まない無溶剤型の接着剤として用いることができる。本発明の導電性接着剤は、無溶剤型であっても、溶剤型であってもよいが、無溶剤型の接着剤として用いるのが好ましい。
【0029】
導電性接着剤が無溶剤型である場合、溶剤型に比べて、溶剤の揮発に起因する導電性接着剤の粘度上昇を抑制できる。そのため、導電性接着剤をスクリーン印刷やメタルマスク印刷により電極上に塗布する場合でも、印刷面にカスレが生じるのを効果的に防ぐことができる。また、ディスペンサーを用いた塗布方法の場合でも、針先が乾燥するのを防ぐことができるので、導電性接着剤の吐出量を一定に保つことができる。
ただし、ディスペンサーを用いた塗布方法は、通常、粘度の低い導電性接着剤を塗布するのに適しているため、塗布後に電極上などで導電性接着剤が広がりやすくなる。一方、スクリーン印刷やメタルマスク印刷は、粘度の高い導電性接着剤にも対応できるので、導電性接着剤を塗布する場合は、スクリーン印刷やメタルマスク印刷にて塗布するのが好ましい。中でも、スクリーン印刷が好ましい。
【0030】
本発明の導電性接着剤は、以上説明したエポキシ樹脂と、フェノール樹脂と、反応性希釈剤と、イミダゾール化合物と、銀粉および/または銀コート金属粉と、潜在性グルタル酸発生化合物とをプラネタリーミキサーやロールミルなどで混合することにより製造できる。この際、得られる導電性接着剤の粘度が80〜800dPa・sとなるように調製されることが好ましい。
このような導電性接着剤では、フェノール樹脂として室温で液状のものを使用しているため、予めエポキシ樹脂を加温しておく必要はないし、反応性希釈剤を多量に使用しなくてもよい。よって、簡便な製造と接着強度の改善が可能となる。
さらに、酸化膜除去剤としては、カルボン酸の活性がブロックされた潜在性グルタル酸発生化合物を配合している。よって、導電性接着剤の製造時や使用前に潜在性グルタル酸発生化合物とフェノール樹脂との間で反応が進行してゲル化、増粘してしまうことがなく、23℃で72時間保持した後の粘度も80〜800dPa・sに維持され、導電性接着剤の塗工性は良好に保たれる。そして、導電性接着剤を加熱、硬化させた場合には、加熱により潜在性グルタル酸発生化合物からブロックがはずれてカルボン酸の活性が発現するため、酸化膜除去剤として作用し、導電性の優れた導電性接着剤とすることができる。
【0031】
本発明の導電性接着剤は種々の用途に使用できるが、電子素子チップを外部電極に接合する場合に好適である。
本発明の電子部品は、上述した導電性接着剤を用いることにより製造されるので、接着強度が高い。電子部品の用途としては、例えば、コンデンサ、コイル、トランス等の受動部品や、LSI(大規模集積回路)、ダイオード、トランジスタ等の半導体デバイス部品などが挙げられる。
なお、電子素子チップとしては、コンデンサ素子、CSP、BGA、FC等の半導体チップなどが挙げられる。また、導電性接着剤を塗布する外部電極としては特に制限されないが、例えば、金、銀、スズ、銅などの金属を含む電極が挙げられる。
【0032】
電子部品を製造する方法としては、特に制限されず、例えば、外部電極上に上述した印刷方法により導電性接着剤を塗布した後、該導電性接着剤上に電子素子チップを配置し、導電性接着剤を硬化(本硬化)させる方法が挙げられる。また、接着強度を向上させる目的で、導電性接着剤を本硬化させる前に、電子素子チップに荷重を加える荷重工程を設けて、該電子素子チップの表面の濡れ性を向上させたり、荷重工程の前にさらに導電性接着剤を仮硬化させる仮硬化工程をさらに設けたりしてもよい。
【0033】
外部電極上に塗布された導電性接着剤の膜厚は、20〜500μmが好ましく、20〜120μmがより好ましく、30〜100μmがさらに好ましい。膜厚の下限値が上記値より小さくなると、接着強度が弱くなり、電子素子チップと外部電極との密着性が低下する傾向にある。一方、膜厚の上限値が上記値より大きくなると、必要以上にコストが上がってしまう。
【0034】
導電性接着剤を本硬化させる際の本硬化温度は、特に制限されないが、例えば130〜250℃が好ましく、140〜200℃がより好ましい。本硬化温度の下限値が上記値より小さくなると、導電性接着剤の硬化が不十分となり、電子素子と電極との密着性が低下する。一方、本硬化温度の上限値が上記値より大きくなると、必要以上にコストが上がってしまう。
また、本硬化時間は、特に制限されないが、例えば5〜60分間が好ましく、10〜40分間がより好ましい。本硬化時間の下限値が上記値より小さくなると、導電性接着剤の硬化が不十分となり、電極と電子素子との密着性が低下する傾向にある。一方、本硬化時間の上限値が上記値より大きくなると、必要以上にコストが上がってしまう。
【実施例】
【0035】
<実施例1〜10、比較例1〜7>
(導電性接着剤の製造)
表に示す配合量(質量%)にて、室温で液状のエポキシ樹脂としてビスフェノールF型のエポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株)製、「EP807」)と、室温で液状のフェノール樹脂として液状ノボラック型フェノール樹脂(明和化成(株)製、「MEH8005」)と、反応性希釈剤としてグリシジルオルトトルイジン(日本化薬(株)製、「GOT」)と、イミダゾール化合物(硬化促進剤)としてイミダゾール系エポキシ硬化促進剤(四国化成工業(株)製、「2PHZ」)と、導電性金属粒子として下記フレーク銀粉(1)〜(6)と、酸化膜除去剤として下記化合物をロールミルで混合して、導電性接着剤を製造した。
【0036】
(導電性金属粒子)
・フレーク銀粉(1):(株)フェロジャパン製、「SF38」、タップ密度:4.8g/cm
・フレーク銀粉(2):(株)フェロジャパン製、「SF37」、タップ密度:4.9g/cm
・フレーク銀粉(3):(株)フェロジャパン製、「SF26」、タップ密度:4.0g/cm
・フレーク銀粉(4):福田金属箔粉工業(株)製、「AgC−GS」、タップ密度:3.1g/cm
・フレーク銀粉(5):福田金属箔粉工業(株)製、「AgC−A」、タップ密度:3.3g/cm
・フレーク銀粉(6):(株)フェロジャパン製、「SF78NFA」、タップ密度:5.5g/cm
【0037】
(酸化膜除去剤)
・潜在性グルタル酸発生化合物:日本油脂(株)製「サンタシッドFK−16」:グルタル酸とビニルエーテル化合物の質量比(グルタル酸/ビニルエーテル化合物)=43.6/56.4、酸当量は152.1g/mol
・潜在性アジピン酸発生化合物:日本油脂(株)製「サンタシッドFK−05」:アジピン酸とビニルエーテル化合物の質量比(アジピン酸/ビニルエーテル化合物)=38.3/61.7、酸当量は191g/mol
・潜在性オレイン酸発生化合物:日本油脂(株)製「サンタシッドFK−03」:オレイン酸とビニルエーテル化合物の質量比(オレイン酸/ビニルエーテル化合物)=70.6/29.4、酸当量は393g/mol
・グルタル酸
・コハク酸
・フマル酸
【0038】
<測定>
得られた導電性接着剤について、初期粘度と23℃×72時間保持した後の粘度とを下記方法にて測定した。
また、得られた導電性接着剤をガラス板上に幅1cm、長さ8cm、厚さ30μmになるようにしごき塗りして、180℃×10分間の条件下で硬化させ、硬化物の鉛筆硬度、比抵抗を下記方法にて測定した。なお、各導電性接着剤を用いて製造した電子部品についての測定結果は、これら導電性接着剤についての各測定結果と同様の傾向を示す。よって、各導電性接着剤についての測定を電子部品についての測定の代用試験とする。
【0039】
(初期粘度および23℃×72時間保持後の粘度)
初期粘度は、各試験例で得られた導電性接着剤について、TV形粘度計(東機産業(株)製)により測定した。なお、TV形粘度計での測定は、3°コーンを用い、回転数を5rpm、測定温度を23℃として実施した。
23℃×72時間保持後の粘度は、各試験例で得られた導電性ペーストを23℃×72時間の条件で保持した後、初期粘度と同様の方法で測定した。
結果を表に示す。なお、○を合格とする。
○:80dPa・s以上800dPa・s未満
×:80dPa・s未満または800dPa・s以上
【0040】
(鉛筆硬度)
硬化物について、JIS K5600に準拠して鉛筆硬度を測定した。
結果を表に示す。なお、○を合格とする。
○:F以上
×:HB以下
【0041】
(接着強度)
導電性接着剤をガラス板上に幅1cm、長さ8cm、厚さ30μmとなるようにしごき塗りして、その上に5個のステンレスナット(西精工(株)製、「M3」)を並べ、180℃×10分間の条件で硬化させた。室温に戻した後、アイコーエンジニアリング社製のプッシュプルゲージの軸の先端をナットの1つの面に垂直になるようにあて、水平方向に5±0.5mm/分の速度でナットを押して、剥がれた時点での強度を求めた。5個のナットについて同様に強度を求め、5個の平均値を接着強度とした。
○:5N/mm以上
×:5N/mm未満
【0042】
(比抵抗)
硬化物について、抵抗値(R)、膜厚(A)、電極幅(B)、電極間距離(C)を測定し、下記式にて比抵抗を算出した。なお、抵抗値は、ADVANTEST社製のデジタルマルチメーター(商品名:R6581D)、膜厚は(株)小坂研究所製の表面粗さ計(商品名:SE3500)を用いて測定した。
ρ=R×{(A×B)/C}
○:3×10−5Ω・cm未満
×:3×10−5Ω・cm以上
【0043】
<実施例11>
表に示すように、室温で液状のエポキシ樹脂として、フタル酸エステル系のエポキシ樹脂(日本化薬(株)製、「AK601」)を使用した以外は、実施例3と同様にして、導電性接着剤を製造した。
【0044】
【表1】

【0045】
【表2】

【0046】
表から明らかなように、酸化膜除去剤として潜在性グルタル酸発生化合物を適量配合した各実施例の導電性接着剤では、製造時や硬化前にゲル化等が認められず、初期粘度、23℃×72時間の条件下で保持した後の粘度の両方が適度であり、導電性も優れ、接着強度や鉛筆硬度も良好であった。
一方、酸化膜除去剤として潜在性アジピン酸発生化合物や潜在性オレイン酸化合物を配合した比較例や、カルボキシル基がブロックされていないグルタル酸、コハク酸、フマル酸を配合した比較例では、導電性は優れるものの、高い初期粘度やゲル化が認められた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
室温で液状のエポキシ樹脂と、室温で液状のフェノール樹脂と、反応性希釈剤と、イミダゾール化合物と、銀粉および/または銀コート金属粉とを含有する導電性接着剤であって、
潜在性グルタル酸発生化合物を0.05〜5質量%の範囲でさらに含有することを特徴とする導電性接着剤。
【請求項2】
請求項1に記載の導電性接着剤を用いて製造されたことを特徴とする電子部品。

【公開番号】特開2009−286824(P2009−286824A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−137880(P2008−137880)
【出願日】平成20年5月27日(2008.5.27)
【出願人】(000224123)藤倉化成株式会社 (124)
【Fターム(参考)】