説明

導電性繊維物質の製造方法

【課題】適用用途に応じた所望の性能を発揮するカーボンナノファイバ20を短時間で多数形成することが可能な導電性繊維物質の製造方法の提供。
【解決手段】 繊維状または管状を成す導電性繊維物質としてのカーボンナノファイバ20の製造方法であって、シリコンからなる基板11の表面に直接導電性を有する導電触媒層12を成膜し、導電触媒層12を加熱し、減圧雰囲気下において、導電触媒層12の周囲に混合ガスを導入し、プラズマを発生させてCVDを行うことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノファイバ等のナノスケールの導電性繊維物質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノスケールの導電性繊維物質として、カーボンナノファイバ(CNF)が知られている。カーボンナノファイバとしては、グラファイトナノチューブ(GNT)、グラファイトナノファイバ(GNF)カーボンナノチューブ(CNT)等が知られている。これらのカーボンナノファイバは、その導電性や微細性を利用した電子銃や、電界効果トランジスタ、量子効果デバイス、センサ等の様々な用途に適用されることが提案されている。一般的にこれらのカーボンナノファイバは、熱CVD法やプラズマCVD法で製造される。
【特許文献1】特開2004−186015号公報(図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
複数種類のカーボンナノファイバは、その適用用途に応じた所望の性能を発揮する必要がある。また、短時間で多数のカーボンナノファイバを容易に製造することが要求される。
【0004】
そこで、本発明は、所望の特性を有するカーボンナノファイバを短時間で多数形成することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様は、繊維状または管状を成す導電性繊維物質の製造方法であって、基板の表面に、直接、導電性を有する触媒層を成膜し、前記触媒層を加熱し、減圧雰囲気下において、前記触媒層の周囲に混合ガスを導入し、プラズマを発生させて前記触媒層に対してCVDを行い、前記導電性繊維物質を形成することを特徴とする導電性繊維物質の製造方法である。
【0006】
本発明の他の一態様は、繊維状または管状を成す導電性繊維物質の製造方法であって、基板上に形成された導電性を有する触媒層上にレジストによるパターニング処理を施し、前記触媒層を加熱し、減圧雰囲気下において、前記触媒層の周囲に混合ガスを導入し、プラズマを発生させて前記触媒層に対してCVDを行い、前記レジストで被覆されていない所定領域にのみ前記導電性繊維物質を形成することを特徴とする導電性繊維物質の製造方法である。
【0007】
本発明の他の一態様は、繊維状または管状を成す導電性繊維物質の製造方法であって、基板上に導電性を有する触媒層を形成し、前記触媒層を加熱し、減圧雰囲気下において、前記触媒層の周囲に混合ガスを導入し、プラズマを発生させて前記触媒層に対してCVDを行うとともに、実質的に前記基板の表面方向に沿う方向に電界または磁界を加え、前記電界または磁界の方向に沿って延びる前記導電性繊維物質を形成することを特徴とする導電性繊維物質の製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、適用用途に応じた所望の性能を発揮するカーボンナノファイバを短時間で多数形成することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
[第1実施形態]
以下、本発明の第1実施形態について、図1乃至図3を参照して説明する。図1は画像表示装置1全体の1画素に対応する部分を示す斜視図である。図2は図1の画像表示装置1のA部分を拡大して示す断面図である。図3は図2の電子放出部を示す断面図である。図1、図2及び図3中の矢印X、Y、Zは互いに直交する三方向を示している。なお、各図において説明のため、適宜、構成を拡大、縮小または省略して示している。
【0010】
図1に示されるように、画像表示装置1は、電子放出素子10と、この電子放出素子10から放出される電子により発光する表示部30とを備えている。これら電子放出素子10と表示部30とは所定の間隙を確保した状態で、対向して接合される。
【0011】
図1及び図2に示される電子放出素子10は、基板11と、該基板11上に、酸化膜11b、クロム等の密着層11aを介して形成された複数の導電触媒層12(触媒層)と、これら基板11及び導電触媒層12上に形成された絶縁層13と、絶縁層13上に形成された複数のゲート電極14とを備えている。絶縁層13及びゲート電極14にはエミッタ孔15が形成され、このエミッタ孔15において導電触媒層12上に電子放出層となるカーボン層19が形成されている。カーボン層19は導電性繊維物質としてのカーボンナノファイバ20が多数形成されて構成される。カーボンナノファイバ20は、カーボン材料を主成分とする繊維状の物質であり、内部が中空、または内部に異物を含有する管状の物質を含む。カーボンナノファイバ20は、直径より軸方向の長さが10倍以上長く、例えば直径数nm〜100nm程度、長さ数μm程度に構成される。
【0012】
基板11はガラスやシリコン等により、1mm程度の厚さに構成され、画像を表示するために必要な所定の面積を有している。ここでは、1画素に対応する基板11上に、例えば、3個の導電触媒層12が並列して形成されている。例えば、導電触媒層12は、ニッケル等の触媒金属から、200nm程度の厚さに構成され、前述のY方向に延びる矩形に形成されている。
【0013】
図1および図2に示すように、絶縁層13は、酸化シリコン(SiO)等で構成され、基板11及び導電触媒層12の上面に形成されている。また、3つのゲート電極14は、アルミニウム等の金属から、前述のX方向に延びる矩形状に形成され、それぞれ後述する三色の蛍光体33〜35と対応する位置に配置されている。これらゲート電極14は駆動回路に接続され、マトリクス制御される。
【0014】
図1に示すように、ゲート電極14と絶縁層13と導電触媒層12とが交差して重なっている部分には、円形のエミッタ孔15が複数個形成されている。ここでは、図2に示すように、エミッタ孔15は、エッチング加工等によりゲート電極14及び絶縁層13のみが除去されて形成される。
【0015】
図2及び図3に示すように、エミッタ孔15に露出した導電触媒層12上には電子放出層としてのカーボン層19が形成されている。
【0016】
カーボン層19は、電子放出部となるカーボンナノファイバ20として、互いに絡み合う多数のグラファイトナノチューブ21を備えている。図4に示すように、グラファイトナノチューブ21は、カーボン材料を主成分とし、外側面にグラフェンシート22の端面22aが露出する筒状の物質である。このグラファイトナノチューブ21は、グラフェンシート22が触媒金属であるニッケルの導電触媒層12を介して積層され、中心に中空又はアモルファスカーボンで充填された貫通中空部分21aを有する円柱状に構成されている。なお、図4では構成を説明しやすくするために、複数のグラファイトナノチューブ21が直立している様子を示す。このグラファイトナノチューブ21は、直径より軸方向の長さが10倍以上長く、例えば直径50nm、長さ1μm程度に構成され、許容電流密度が大きく、減圧下で低い電圧が加えられることにより電子を放出する。このグラファイトナノチューブ21の側壁部21bに露出したグラフェンシート22の端面22aから電子が放出される。グラファイトナノチューブ21は、ゲート電極14より低い高さに位置している。
【0017】
一方、図1及び図2において、表示部30は、アノード基板31と、アノード基板31上に形成されたアノード電極32と、このアノード電極32の表面に塗布されたR、G、Bの三色の蛍光体33〜35とを備える。ここでは、アノード基板31は、基板11との封止を良好にするため、基板11と同素材のガラス等の透明材料で構成されている。また、アノード電極32は、基板11と対向する面上に形成され、例えばアルミ等の金属から構成されている。アノード電極32は駆動回路に接続されている。一方、3色の蛍光体33〜35は、前述のX方向に延びる矩形状を成し、それぞれゲート電極14に対応して配置されている
電子放出素子10と表示部30とは、図示しないスペーサにより所定の間隙を確保して接合されている。その間隙は例えば約10−8トール程度の減圧状態とされ、図示しないゲッターによりこの減圧状態が維持されている。
【0018】
以降、前述した本実施形態の電子放出素子10の製造方法について図1または図2を参照して説明する。
まず、スパッタ法等により、基板11上にニッケルを成膜し、導電触媒層12を形成する。ついで、導電触媒層12上、及び導電触媒層12が形成されていない基板11の上面全体に絶縁層13を形成する。ついで、スパッタ法等により、絶縁層13の表面に、導電触媒層12で使用した触媒金属とは異なるアルミ等の金属を成膜し、ゲート電極14を形成する。
【0019】
さらに、ゲート電極14及び絶縁層13を貫通して触媒金属が露出するよう所定の位置にエミッタ孔15を形成する。具体的には、まず、円形の開口部を有するマスクをゲート電極14上に設置する。その後、マスクを用い、所定のエッチングガスで、ゲート電極14にドライエッチングを施して開口する。次いで、所定のエッチングガスで絶縁層13を導電触媒層12に達するまでドライエッチングを施すことで、所定の形状のエミッタ孔15が形成される。
【0020】
エミッタ孔15の形成後、基板11を図5に示すプラズマCVD装置に導入して400〜450℃に加熱し、CH(メタン)とH(水素)の混合ガスをプラズマで分解することで、露出した導電触媒層12上にカーボン層19を形成する。
【0021】
プラズマCVD装置は、内部にヒータ24、基板支持部25等を備えた真空容器である。このプラズマCVD装置は、プラズマCVD処理の条件として、圧力、ガスの種類、ガス流量、RFパワー、ヒータ温度、処理時間等を調整可能な調整機能を有する。
【0022】
ここでは、まず、プラズマCVD装置23内の基板支持部25に導電触媒層12が形成された基板11を設置し、前処理として、水素ガスのみにより10分程度、放電処理を行う。ついで、所定流量のメタンガスを入れ、本処理を行う。ここで、プラズマの種類はマイクロ波励起型とする。ここで圧力、ガスの流量比、温度は図6の上段に示すような以下の条件に設定して処理を行う。すなわち、容器内圧力は4kPaとし、ガスの種類としてCHとHを用いる。また、CHのガス流量は10[sccm]、Hのガス流量は80[sccm]とする。さらに、ヒータ24の温度を400℃とし、RFパワーは400W、本処理の時間は30分とする。
【0023】
上記条件でプラズマCVDに晒されると、基板11に膜状に形成されていたニッケルの導電触媒層12が、所定の大きさを有する触媒の核として、粒状のニッケルの触媒核12aを有する構造となる。図7の上段に示すように、この触媒核12aの大きさ及び形状は上記プラズマ処理の条件に対応して決定され、ここでは、例えば曲率半径が5nm以下程度に構成された尖菱形状であって、大きさ100nm程度に形成される。導電触媒層12はニッケル等の触媒金属から構成されているため、触媒層として作用するので、この触媒核12aを基礎として、導電触媒層12上に直接カーボン物質が成長する。図7に示すように成長する電子放出部としてのカーボン物質の構造は触媒核12aの大きさ及び形状に依存する。ここでは大きさ100nm程度の尖菱形状の触媒核12aを基礎として、図4に示されるグラファイトナノチューブ21が成長する。こうして、導電触媒層12が露出しているエミッタ孔15内において、導電触媒層12上に多数のグラファイトナノチューブ21がランダムな方向に形成され、カーボン層19が構成される。
【0024】
一方、ガラス等の透明材からなるアノード基板31にアノード電極32を形成し、アノード電極32に蛍光体33〜35を塗布して表示部30を製造する。また、スペーサを介して所定の間隙を確保した状態で基板11の周囲とアノード基板31の周囲とを封止材で接合する。こうして電子放出素子10と表示部30とが接合され、画像表示装置1が完成する。
【0025】
次に、図1及び図2を参照しながら、本実施形態にかかる画像表示装置1の動作について説明する。
アノード電極32、カソード電極としての導電触媒層12及びゲート電極14にそれぞれ所定の電圧Va(例えば1〜15KV)、Vd(例えば0〜100V)が印加される(以上、図2を参照する)と、電界が生じる。ここで、導電触媒層12に成長したカーボン材料としてのグラファイトナノチューブ21の側壁部21bに露出したグラフェンシート22の端面22aは細いため、ここに電気力線が集中する。これにより強い電界が得られ、この電界に引き出されて、カーボン材料としてのグラファイトナノチューブ21の側壁部21bなどから、電子が放出される。この電子はゲート電極14に導かれて蛍光体33〜35が塗布されたアノード電極32に入射する。こうして蛍光体33〜35が励起され、発光する。この発光により透明なアノード基板31を通して所望の画像が表示される。ここで、ゲート電極14に印加する電圧をマトリクス制御することで発光を制御することができ、画素毎の階調表示が可能となっている。
【0026】
本実施形態は以下に掲げる効果を奏する。すなわち、触媒の粒子である触媒核12aの大きさ又は形状を設定することにより、プラズマCVD法によって形成することで、グラファイトナノチューブ21を形成する時の基板温度を400℃〜450℃程度の低温にできるので、基板11に直接電子放出部を形成することができる。また、基板11に要求される耐熱条件を緩和できるため、基板11のコストを低減できる。
【0027】
また、例えば図6及び図7に示されるように、第2実施形態乃至第4実施形態で後述するように触媒核12aの大きさを変えるだけで、異なる構造のカーボン性物質を作り分けることが可能である。また、触媒核の大きさ及び形状は、ガス流量及び温度の調整によって容易に決定することができるため、複数種類のカーボン材料を共通の装置で容易に作り分けられる。したがって、側壁部21bから電子放出可能で電子放出性の高いグラファイトナノチューブ21を、確実に製造することが可能である。
【0028】
さらに、マイクロ波を用いることで、4kPa程度の高圧でプラズマ処理を行うことが可能となる。したがって、低圧で処理を行う場合に比べて、減圧に要するコストを低減することが可能となる。
【0029】
[第2実施形態]
次に本発明の第2実施形態に係るカーボンナノファイバとしてのグラファイトナノチューブ21及びこの製造方法について図4を参照して説明する。図4はカーボン層19の一部を拡大して示す断面図である。また、各図において説明のため、適宜、構成を拡大、縮小または省略して示している。なお、本実施形態の画像表示装置1の構成等については上記第1実施形態と同様であるため、説明を省略する。
【0030】
本実施形態において、本処理における圧力、ガスの流量比、温度は図6で示すような以下の条件に設定して処理を行う。すなわち、容器内圧力は4kPaとし、ガスの種類としてCHとHを用いる。また、CHのガス流量は10[sccm]、Hのガス流量は80[sccm]とする。さらに、ヒータ24の温度を450℃とし、RFパワーは400W、本処理の時間は30分とする。
【0031】
上記条件でプラズマCVDに晒されると、基板11に膜状に形成されていたニッケルの導電触媒層12が、所定の大きさを有する粒状の触媒核12aを有する構造となる。図7に示すように、この触媒核12aの大きさ及び形状は上記プラズマ処理の条件に依存して決定され、ここでは、例えば曲率半径が5nm以下程度に構成された尖菱形状であって、大きさ100nm程度に形成される。導電触媒層12はニッケル等の触媒金属から構成されているため、触媒層として作用するので、この触媒核12aを基礎として、導電触媒層12上に直接カーボン物質が成長する。図7に示すように成長するカーボン物質の構造は触媒核12aの大きさに依存する。ここでは、大きさ50〜100nm程度の尖菱形状の触媒核12aを基礎として、グラファイトナノチューブ21が成長する。こうして、導電触媒層12が露出しているエミッタ孔15内において、導電触媒層12上に多数の電子放出物質としてのグラファイトナノチューブ21がランダムな方向に形成され、カーボン層19が構成される。
【0032】
以上の条件で形成されたグラファイトナノチューブ21は、直径50nm〜100nm、長さ1μm程度に構成され、許容電流密度が大きく、減圧下で低い電圧が加えられることにより電子を放出する。このグラファイトナノチューブ21の側壁部21bに露出したグラフェンシート22の端面22aから電子が放出される。
【0033】
本実施形態においても上述した第1実施形態と同様の効果が得られる。
【0034】
[第3実施形態]
次に本発明の第3実施形態に係るカーボンナノファイバとしてのグラファイトナノファイバ26、カーボンナノチューブ27、及びこれらの製造方法について図8、図9を参照して説明する。図8、図9はカーボン層19の一部を拡大して示す断面図である。また、各図において説明のため、適宜、構成を拡大、縮小または省略して示している。なお、本実施形態の画像表示装置1において、電子放出部としてのグラファイトナノファイバ26、カーボンナノチューブ27以外の部分の構成等については上記第1実施形態の画像表示装置1と同様であるため、説明を省略する。
【0035】
本実施形態において、本処理における圧力、ガスの流量比、温度は図6で示すような以下の条件に設定して処理を行う。すなわち、容器内圧力は4kPaとし、ガスの種類としてCHとHを用いる。また、CH4のガス流量は5[sccm]、H2のガス流量は80[sccm]とする。さらに、ヒータ24の温度を450℃とし、RFパワーは400W、本処理の時間は30分とする。
【0036】
上記条件でプラズマCVDに晒されると、図8又は図9に示されるように、基板11に膜状に形成されていたニッケルの導電触媒層12が、所定の大きさを有する粒状の触媒核12b/12cを有する構造となる。図7に示すように、この触媒核12b/12cの大きさ及び形状は上記プラズマ処理の条件に依存して決定される。ここでは、図8に示すような大きさ10〜50nm程度で菱形の触媒核12b、又は図9に示すような大きさ10nm程度で球状の触媒核12cが形成される。導電触媒層12は触媒金属であるニッケルが触媒層として作用するので、この触媒核12b/12cを基礎として、導電触媒層12上に直接電子放出部としてのカーボン物質が成長する。図7に示すように成長するカーボン物質の構造は触媒核12b/12cの大きさや形状に依存するので、ここでは大きさ10〜50nm程度の菱形状の触媒核12bを基礎とした場合は、図8に示すグラファイトナノファイバ26が成長し、大きさ10nm程度の球状の触媒核12cを基礎とした場合は、図9に示すカーボンナノチューブ27が成長する。こうして、導電触媒層12が露出しているエミッタ孔15内において、導電触媒層12上に電子放出部としての多数のグラファイトナノファイバ26またはカーボンナノチューブがランダムな方向に形成され、カーボン層19が構成される。
【0037】
以上の条件で形成されたグラファイトナノファイバ26は、カーボン材料を主成分とし、側壁部26bにグラフェンシート22の端面22aが露出する繊維状の物質である。グラファイトナノファイバ26は、触媒金属の核の表面形状に沿った形状を有するグラフェンシート22の小片が触媒金属を介して積み重なった構造を有する。グラファイトナノファイバ26は、直径より軸方向の長さが10倍以上長く、例えば直径10nm〜50nm程度、長さ1μm程度に構成され、許容電流密度が大きく、減圧下で低い電圧が加えられることにより電子を放出する。このグラファイトナノファイバ26の側壁部26bに露出したグラフェンシート22の端面22aから電子が放出される。
【0038】
以上の条件で形成されたカーボンナノチューブ27は、グラフェンシート22が円筒状に丸まった構造を成している。このカーボンナノチューブ27は、直径より軸方向の長さが10倍以上長く、例えば直径は10nm程度、長さ1μm程度に構成され、許容電流密度が大きく、減圧下で低い電圧が加えられることにより電子を放出する。カーボンナノチューブ27の先端27bに露出したグラフェンシートの端面22aから電子が放出される。ここで、図10に示すように、成長するカーボンナノチューブ27の向きを揃えるため導電触媒層12の表面に垂直に電界を形成し、カーボンナノチューブの方向をアノード電極32側に向かってブラシ上に起立するように揃えてもよい。
【0039】
本実施形態においても上述した第1実施形態と同様の効果が得られる。
【0040】
[第4実施形態]
次に本発明の第4実施形態について、図11及び図12を参照して説明する。なお、基板11上に直接導電触媒層12が形成される点以外は上記第1乃至第3実施形態と同様であるため、詳細な説明を省略する。
【0041】
本実施形態では、図11に示すように、導電触媒層12がシリコンからなる基板11上にスパッタ法等により、直接成膜されている。すなわち、上記第1実施形態におけるクロム等の密着層11aが省略されている。この他の構成は第1乃至第3実施形態と同様である。
【0042】
本実施形態のカーボンナノファイバとしてたとえばグラファイトナノチューブ21を製造する際には、まず、スパッタ法等により、基板11上にニッケルを成膜し、導電触媒層12を形成する。ついで、基板11を図2に示すプラズマCVD装置に導入して400〜500℃に加熱し、CH(メタン)とH(水素)の混合ガスをプラズマで分解することで、露出した導電触媒層12上にグラファイトナノチューブ21を形成する。
【0043】
ここでは、まず、プラズマCVD装置23内の基板支持部25に導電触媒層12が形成された基板11を設置し、前処理として、水素ガスのみにより10分程度、放電処理を行う。ついで、所定流量のメタンガスを入れ、本処理を行う。ここで、プラズマの種類はマイクロ波励起型とする。ここで圧力、ガスの流量比、温度は以下の条件に設定して処理を行う。すなわち、容器内圧力は4kPaとし、ガスの種類としてCHとHを用いる。また、CHのガス流量は10[sccm]、Hのガス流量は80[sccm]とする。さらに、ヒータ24の温度を440℃とし、RFパワーは400W、本処理の時間は30分とする。
【0044】
上記条件でプラズマCVDに晒されると、図12に示すように、基板11に膜状に形成されていたニッケルの導電触媒層12が、所定の大きさを有する触媒の核として、粒状のニッケルの触媒核12aを有する構造となる。導電触媒層12はニッケル等の触媒金属から構成されているため、触媒層として作用するので、この触媒核12aを基礎として、導電触媒層12上に直接カーボンナノファイバ20が成長する。カーボンナノファイバ20として、例えば大きさ80nm程度の尖菱形状の触媒核12aを基礎として、導電触媒層12上に多数のグラファイトナノチューブ21がランダムな方向に形成される。導電触媒層12と基板11とは密着性が低いので、この過程で、クロム密着層を介した場合よりも剥離しやすく、粒状化が促進されるとともに、気相に触れる面積が増大する。したがって基礎となる触媒核12aが多く、カーボンナノファイバ20が大量に形成される。
【0045】
本実施形態においても、上記第1乃至第3実施形態と同様の効果が得られる。さらに、本実施形態では、導電触媒層12を基板11にスパッタ法で直接成膜することにより、カーボンナノファイバ20の製造中に導電触媒層12が基板11から剥離する効果が生じる。これにより、短時間で大量のカーボンナノファイバ20を製造することができる。一般的に、カーボンナノファイバは、熱CVD法やプラズマCVD法で500℃以上の環境下で、厚さ0.01mm以上の触媒金属基板や触媒金属の固まり、または例えばクロムのような密着層を介して触媒金属薄膜が成膜されたシリコン基板やガラス基板が使用され、その際の成長速度はカーボン層の厚さ0.5μm/min以下とされているが、本実施形態によればカーボン層の厚さ0.25mm/min程度の成膜速度が得られる。
【0046】
[第5実施形態]
次に本発明の第5実施形態について、図13乃至図15を参照して説明する。なお、カーボンナノファイバ20がパターニングされて所定領域にのみ形成される点以外は上記第1乃至第3実施形態と同様であるため、詳細な説明を省略する。
【0047】
本実施形態では、図14に示すように、レジスト部分以外の所定領域にのみカーボンナノファイバが形成されている。この他の構成は第1乃至第3実施形態と同様である。
【0048】
本実施形態のカーボンナノファイバを製造する際には、まず、スパッタ法等により、図13に示すように、基板11上にニッケルを成膜し導電触媒層12を形成する。次に、レジストを塗布し、リソグラフィー法により所望のレジストパターンを形成することにより、導電触媒層12の所定の領域がレジスト12dで被覆される。
【0049】
ついで、基板11を図2に示すプラズマCVD装置23に導入して400〜500℃に加熱し、CH(メタン)とH(水素)の混合ガスをプラズマで分解することで、図14に示すように、露出した所定領域の導電触媒層12上にのみカーボン層19が形成される。
【0050】
ここでは、まず、プラズマCVD装置23内の基板支持部25に導電触媒層12が形成された基板11を設置し、前処理として、水素ガスのみにより10分程度、放電処理を行う。ついで、所定流量のメタンガスを入れ、本処理を行う。ここで、プラズマの種類はマイクロ波励起型とする。ここで圧力、ガスの流量比、温度は以下の条件に設定して処理を行う。すなわち、容器内圧力は4kPaとし、ガスの種類としてCHとHを用いる。また、CHのガス流量は10[sccm]、Hのガス流量は80[sccm]とする。さらに、ヒータ24の温度を470℃とし、RFパワーは400W、本処理の時間は30分とする。
【0051】
上記条件でプラズマCVDに晒されると、基板11に膜状に形成されていたニッケルの導電触媒層12が、所定の大きさを有する触媒の核として、粒状のニッケルの触媒核12aを有する構造となる。導電触媒層12はニッケル等の触媒金属から構成されているため、触媒層として作用するので、この触媒核12aを基礎として、導電触媒層12上に直接カーボンナノファイバ20が成長する。例えば大きさ80nm程度の尖菱形状の触媒核12aを基礎として、グラファイトナノチューブ21が成長する。こうして、導電触媒層12上に多数のグラファイトナノチューブ21がランダムな方向に形成される。ここで、レジスト12d上にはカーボンナノファイバ20が成長できないので、レジスト12dで被覆されていない領域にのみカーボンナノファイバ20が形成される。
【0052】
本実施形態においても、上記第1乃至第3実施形態と同様の効果が得られる。さらに、本実施形態では、パターニングにレジストパターンを適用することにより、容易に所望のパターンのカーボン層19を得ることができる。これにより、カーボンナノファイバ20をパターニングすることができ、例えば20μmピッチの格子パターンが得られる。さらにその表面に水平配線を形成した後で、レジスト12dを容易に剥離することができる。
【0053】
したがって、所定のパターンに形成されたカーボンナノファイバ20(グラファイトナノチューブ21)は、例えば、図15に示す、空中垂直配線に適用することができる。
【0054】
なお、図示しないが、本実施形態においても、基板11にガラスを適用する際には、基板11上に酸化膜11bを形成し、クロムの密着層11aを解して導電触媒層12を形成する。
【0055】
[第6実施形態]
次に本発明の第6実施形態について、図16及び図17を参照して説明する。なお、電界または磁界を水平にかける点以外は上記第1乃至第3実施形態と同様であるため、詳細な説明を省略する。
【0056】
本実施形態では、図16に示すように、シリコンの基板11表面に酸化膜(SiO)層11bが成膜され、このうち所定箇所に設定された基点部11c上にクロムの密着層11aを介して触媒層12が形成されている。この触媒層12からカーボンナノファイバ20が水平方向、すなわち基板11の面に沿う方向に延びている。
【0057】
本実施形態のカーボンナノファイバを製造する際には、まず、スパッタ法等により、基板11上の所定箇所に設定される基点部11cにクロムの密着層11aを介してニッケルを成膜し、触媒層12を形成する。
【0058】
ついで、基板11を図17に示すプラズマCVD装置23に導入して400〜500℃に加熱し、CH(メタン)とH(水素)の混合ガスをプラズマで分解することで、露出した触媒層12上にカーボンナノファイバ20を形成する。プラズマCVD装置23は、内部にヒータ24、基板支持部25等を備えた真空容器である。このプラズマCVD装置は、プラズマCVD処理の条件として、圧力、ガスの種類、ガス流量、RFパワー、ヒータ温度、処理時間等を調整可能な調整機能を有する。さらに所定方向に電界または磁界を発生する機能を有する。なお図17に示すCVD装置23は、水平方向すなわち基板11の面方向に磁界を発生させる磁界発生部28を備えている。
【0059】
ここでは、まず、プラズマCVD装置23内の基板支持部25に触媒層12が形成された基板11を設置し、前処理として、水素ガスのみにより10分程度、放電処理を行う。ついで、所定流量のメタンガスを入れ、本処理を行う。ここで、プラズマの種類はマイクロ波励起型とする。ここで圧力、ガスの流量比、温度は以下の条件に設定して処理を行う。すなわち、容器内圧力は4kPaとし、ガスの種類としてCHとHを用いる。また、CHのガス流量は10[sccm]、Hのガス流量は80[sccm]とする。さらに、ヒータ24の温度を450℃とし、RFパワーは400W、本処理の時間は30分とする。
【0060】
上記条件でプラズマCVDに晒されると、図16に示すように、基点部11cに膜状に形成されていたニッケルの触媒層12が、所定の大きさを有する触媒の核として、粒状のニッケルの触媒核12aを有する構造となる。触媒層12はニッケル等の触媒金属から構成されているため、触媒層として作用するので、この触媒核12aを基礎として、触媒層12上に直接カーボンナノファイバ20が成長する。例えば大きさ80nm程度の尖菱形状の触媒核12aを基礎として、グラファイトナノチューブ21が成長する。この時、基板表面の一部または全部に水平方向、すなわち基板11の面方向に電界または磁界をかけることで、触媒層12上に多数のグラファイトナノチューブ21が基板表面に実質的に水平方向に形成される。この過程で、電界または磁界の方向を調整することにより、グラファイトナノチューブ21が成長する方向を調整することができる。さらに、CVD処理の際の条件や材料を調節することで、所望の基点部11cから所望の終点部11dに対して所望の方向にカーボンナノファイバ20を延ばすことができる。
【0061】
このようにして水平方向に延びるように形成されたカーボンナノファイバ20は例えば半導体装置等の電子デバイスにおいて、基板11上に配された電子部品の電極や配線を導電するための水平配線として適用することが可能である。例えば一方の電極が基点部11cに設定され、他方の電極が終点部11dに設定される。
【0062】
本実施形態においても、上記第1乃至第3実施形態と同様の効果が得られる。さらに、本実施形態では、基板11の表面の一部または全部に電界または磁界をかけることにより、カーボンナノファイバ20製造中にカーボンナノファイバ20の形成方向を制御する効果が生じる。これにより、基板表面にほぼ水平方向にカーボンナノファイバ20を製造することができる。
【0063】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。
【0064】
上記各実施形態においては、導電触媒層12はニッケルで構成されている場合について例示したが、この他、鉄、コバルト、モリブデン、白金などを含む触媒金属から構成されていてもよい。これらの場合にも触媒金属の粒の形状及び大きさを調整することで、上記各実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0065】
電子放出部形成時の原料ガスとして、メタン(CH)、エチレン(C)、アセチレン(C)、などの炭素系混合ガス、前記炭素系混合ガスと水素ガスとの混合ガスを用いることができる。またメタノール、エタノール、アセトン、トルエンなどを気化したガス、又は前記気化したガスと水素ガスとの混合ガスを用いても良い。
【0066】
上記実施形態ではガラスやシリコン等の基板11に導電触媒層12を形成したものを例示したが、例えば0.1mm程度の厚さに構成された導電基板を用いてもよい。
【0067】
また各実施形態で示した製造方法における各条件は装置や使用ガスなどの条件に応じて適宜変更可能である。
【0068】
さらに、上記第4乃至第7実施形態においては、カーボンナノファイバ20としてグラファイトナノチューブ21を製造する場合について説明したが、これに限られるものではなく、例えば他の条件を適用して、グラファイトナノファイバ26やカーボンナノチューブ27を製造する場合にも適用可能であり、この場合にも同様の効果が得られる。
【0069】
また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の第1実施形態にかかる画像表示装置の一部を模式的に示す斜視図。
【図2】同画像表示装置の要部を拡大して模式的に示す断面図。
【図3】図2の要部を模式的に示す側面図。
【図4】本発明の第1実施形態にかかるグラファイトナノチューブの構成を模式的に示す断面図。
【図5】本発明の第1乃至第3実施形態にかかるプラズマCVD処理装置を示す図。
【図6】本発明の第1乃至第3実施形態にかかるプラズマCVD処理条件を示す図。
【図7】本発明の第1乃至第3実施形態にかかるプラズマCVD処理条件と電子放出部の構造との対応を示す図。
【図8】本発明の第3実施形態にかかるグラファイトナノファイバの構成を模式的に示す断面図。
【図9】本発明の第3実施形態にかかるカーボンナノチューブの構成を模式的に示す断面図。
【図10】本発明の第3実施形態の変形例にかかる画像表示装置の要部を拡大して模式的に示す断面図。
【図11】本発明の第4実施形態にかかるカーボンナノファイバの製造工程を示す断面図。
【図12】同カーボンナノファイバの製造工程を示す断面図。
【図13】本発明の第5実施形態にかかるカーボンナノファイバの製造工程を示す断面図。
【図14】同カーボンナノファイバの製造工程を示す断面図。
【図15】本発明の第5実施形態にかかる空中垂直配線を示す説明図。
【図16】本発明の第6実施形態にかかるカーボンナノファイバの製造工程を示す断面図。
【図17】本発明の第6実施形態にかかるプラズマCVD処理装置を示す模式図。
【符号の説明】
【0071】
1…画像表示装置、10…カーボンナノファイバ(導電性繊維物質)、11…基板、11a…密着層、11b…酸化膜層、11c…基点部、11d…終点部、12…導電触媒層、12a、12b、12c…触媒核、12d…レジスト、19…カーボン層、20…カーボンナノファイバ、21…グラファイトナノチューブ、21b…側壁部、22…グラフェンシート、22a…端面、23…CVD装置、26…グラファイトナノファイバ、26b…側壁部、27…カーボンナノチューブ、28…磁界発生部、30…表示部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維状または管状を成す導電性繊維物質の製造方法であって、
基板の表面に、直接、導電性を有する触媒層を成膜し、
前記触媒層を加熱し、
減圧雰囲気下において、前記触媒層の周囲に混合ガスを導入し、
プラズマを発生させて前記触媒層に対してCVDを行い、前記導電性繊維物質を形成することを特徴とする導電性繊維物質の製造方法。
【請求項2】
繊維状または管状を成す導電性繊維物質の製造方法であって、
基板上に形成された導電性を有する触媒層上にレジストによるパターニング処理を施し、
前記触媒層を加熱し、
減圧雰囲気下において、前記触媒層の周囲に混合ガスを導入し、
プラズマを発生させて前記触媒層に対してCVDを行い、前記レジストで被覆されていない所定領域にのみ前記導電性繊維物質を形成することを特徴とする導電性繊維物質の製造方法。
【請求項3】
繊維状または管状を成す導電性繊維物質の製造方法であって、
基板上に導電性を有する触媒層を形成し、
前記触媒層を加熱し、
減圧雰囲気下において、前記触媒層の周囲に混合ガスを導入し、
プラズマを発生させて前記触媒層に対してCVDを行うとともに、実質的に前記基板の表面方向に沿う方向に電界または磁界を加え、前記電界または磁界の方向に沿って延びる前記導電性繊維物質を形成することを特徴とする導電性繊維物質の製造方法。
【請求項4】
前記導電性繊維物質が形成される領域の一部または全部に、触媒物質が配置されていることを特徴とする請求項3記載の導電性繊維物質の製造方法。
【請求項5】
前記導電性繊維物質は、カーボンナノチューブ、グラファイトナノチューブ、グラファイトナノファイバ、からなる群より選択された少なくとも一つの物質を含むことを特徴とする請求項1乃至請求項4記載いずれかに記載の導電性繊維物質の製造方法。
【請求項6】
前記触媒層は、鉄、ニッケル、コバルト、又はこれらのうち少なくとも一つを有する合金を含むことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の導電性繊維物質の製造方法。
【請求項7】
前記触媒層の成膜方法がスパッタリング法であることを特徴とする請求項1乃至6記載の導電性繊維物質の製造方法。
【請求項8】
前記基板はシリコン基板またはガラス基板であることを特徴とする請求項1乃至7の導電性繊維物質の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2009−84746(P2009−84746A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−256519(P2007−256519)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】