説明

導電性薄膜付きフィルムおよびその製造方法

【課題】 金属膜の膜厚が10nm程度と薄い場合においても、所望のシート抵抗を大面積で均一に実現することを目的とする。具体的には、連続な構造を持つ膜を形成し易い手段を見出すことによって、膜厚の調整のみによりシート抵抗を均一化する手段を実現することである。また、本発明では膜厚の調整のみでシート抵抗を調整可能とすることにより、導電性薄膜の表面原子組成や構造に分布を持たせる必要をなくし、均一な表面張力を持つ金属膜を実現することを目的とする。
【解決手段】 幅が500mm以上の高分子からなる可撓性基材の少なくとも一方の面に下記(1)〜(3)の条件を満たす導電性薄膜が被覆された導電性薄膜付きフィルム。
(1)シート抵抗の基材幅方向分布が15%未満
(2)膜厚の基材幅方区分布が15%以上
(3)膜厚の基材幅方向分布が下に凸

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽量で可撓性を有しかつ高品質で安価なセンサー部材または回路部材に関する。特に、導電性薄膜の厚さが10nm程度と薄い場合においてもシート抵抗と表面張力が均一な導電性薄膜付きフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
タッチパネル、化学センサー、アンテナ回路、膜抵抗体などには導電性薄膜が広く用いられている。これらに用いられる導電性膜では、シート抵抗の均一性が重用視される。例えばタッチパネルの様な比較的大面積なものの場合には、電気的特性が面内分布を持たず、かつ電極間距離に対して線形性を持つことが望まれる。また、化学センサーなど比較的小面積なものの場合には、シート抵抗の個体差をできるだけ少なくすることが望まれる。さらに、位置センサーや化学センサーなどでは、微小な電流信号を安定した電圧信号として容易に検出するために、導電性薄膜のシート抵抗を例えば10Ω/□〜1kΩ/□程度と大きくすることが望まれる。また、導電性薄膜にレジストや保護膜などを均一に塗布できることも重要な要求特性の一つである。
【0003】
一方、これらの導電性薄膜は、安価に製造するために可撓基材を用いたロールツーロール方式による蒸着、スパッタリング、めっきなどの工程により形成されるのが一般的である。このような製造方法によりシート抵抗および表面塗工性を実現するためには、幅方向および長さ方向における厳密な条件管理が要求される場合が多い。
【0004】
例えば、蒸着やスパッタリングなどの真空プロセスにおいては、真空装置内のガス組成やプラズマ状態あるいは基材温度などが基材の幅方向や長さ方向(すなわち加工時間)に対して僅かに不均一となる。このため、結果として導電薄膜のシート抵抗や表面張力などに不均一性を生じさせる原因となることがある。また、めっきなどの液中プロセスにおいては、液の濃度、流速、温度などが基材の幅方向および長さ方向で僅かに不均一となる。このため、導電薄膜のシート抵抗や表面張力などに不均一性を生じさせる原因となることがある。
【0005】
さらに、導電性薄膜の膜厚が10nm以下と薄い場合には、導電性薄膜の不安定な結晶構造や意図せず導電性薄膜中に混入する不純物の影響により抵抗率や表面張力が敏感に影響される傾向にある。特に基材が有機物の場合には、基材表面の分子レベルの形状や有機成分の析出などが導電性薄膜の結晶核形成時に影響し、プロセス条件と膜物性との因果関係は十分に把握されておらず、均一なシート抵抗や表面張力を実現することは極めて困難となる。
【0006】
薄い導電性薄膜のシート抵抗を均一にするための一般的な手段としては、均一なシート抵抗を実現し易いレベルまで膜厚を厚くし、かつ所望のシート抵抗率を得られるように膜の抵抗率を大きくすることが挙げられる。例えば、特許文献1では膜厚を20nm〜300nmとし、かつ抵抗率を10−2Ω・cm程度とすることで、100kΩ/□から数MΩ/□の抵抗値分布の良い膜を実現する手段が開示されている。
【0007】
また、シート抵抗を均一化する別の手段としては、作製された導電性薄膜の抵抗分布に応じて部分的にイオン注入や不純物添加を行い抵抗制御を行う方法が考えられる。しかしこの手段では、工程が複雑になるため、集積回路などの小面積で高付加価値な用途に限定される。
【特許文献1】特開平8−337436号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1に記載の方法のように、10−2Ω・cm程度の抵抗率をもつ薄膜を実現するには、酸化物半導体などの限られた材料をスパッタリング法などの限られた方法で作成する必要がある。このため、プロセスや設備も複雑で高価なものになってしまう。一方、金属膜で100Ω/□以上の薄膜を実現しようとする場合は、膜厚をおおよそ10nm程度以下と極めて薄くする必要がある。このため、安定かつ均一なシート抵抗を実現するのは極めて困難であった。また、薄膜の抵抗率を高くして薄膜の厚さを厚くすることは、材料コストや生産時の投入エネルギーが増加したり、生産時間を要したりするため経済的、環境負荷的に好ましくない。
【0009】
このように、均一なシート抵抗の膜を実現しにくい要因としては、おおよそ10nm以下の薄膜においては、結晶核が基材表面に散逸的に存在し、十分連続な膜に成長していないことが関与していると考えられる。
【0010】
そこで、本発明では金属膜の膜厚が10nm程度と薄い場合においても、所望のシート抵抗を大面積で均一に実現することを目的とする。具体的には、結晶核が連続的に存在した構造を持つ膜を形成し易い手段を見出すことによって、膜厚の調整のみによりシート抵抗を均一化する手段を実現することである。また、本発明では膜厚の調整のみでシート抵抗を調整可能とすることにより、導電性薄膜の表面原子組成や構造に分布を持たせる必要をなくし、均一な表面張力を持つ金属膜を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題は、以下に記載する本発明によって解決される。即ち、本発明に係る導電性薄膜付きフィルムは、幅が500mm以上の高分子からなる可撓性基材の少なくとも一方の面に、下記(1)〜(3)の条件を満たす導電性薄膜が被覆されている。
(1)導電性薄膜のシート抵抗の基材幅方向分布が15%未満
(2)膜厚の基材幅方向分布が15%以上
(3)膜厚の基材幅方向分布が下に凸
【0012】
前記導電性薄膜のシート抵抗値が、50Ω/□〜300Ω/□であるとよい。
【0013】
前記導電性薄膜の膜厚が、5nm〜15nmの範囲であるとよい。
【0014】
前記導電性薄膜の純水との接触角の基材幅方向分布が、10度以内の範囲であるとよい。
【0015】
前記導電性薄膜は、導電性薄膜を構成する元素の95atm%以上がパラジウム、金、白金、銀、ロジウム、イリジウムおよびルテニウムの群から選択される少なくとも1種の貴金属、または前記貴金属のいずれかを95atm%以上含み構成された合金であるとよい。
【0016】
前記導電性薄膜は、導電性薄膜を構成する元素の95atm%以上が、パラジウムであると、好ましい。
【0017】
前記導電薄膜と前記高分子からなる可撓性基材との界面に遷移金属元素を50atm%以上含む層を有していてもよい。
【0018】
可撓性基材がポリエチレンテレフタレートまたはポリエチレンナフタレートからなり、かつ厚みが10μm〜250μmの範囲であるとよい。
【0019】
前記導電性薄膜付きフィルムは、高分子からなる可撓性基材を巻き取りながら、10Pa以下の希ガス雰囲気において金属元素を供給し、スパッタリング法により導電性薄膜を連続的に形成する際に、前記供給される金属元素の量が、基材幅方向中心部に比べて基材幅方向両端部で多くすることで、製造できる。
【0020】
前記供給される金属元素の量は、予め設定した幅方向分布量であるとよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明の導電性薄膜付きフィルムでは、結晶核が連続的に存在した構造を持つ膜を形成する。これにより、膜厚の調整のみによりシート抵抗を均一化できるので、所望のシート抵抗を大面積で均一に実現することができる。
【0022】
また、膜厚の調整のみでシート抵抗を調整可能とすることができる。この結果、均一な表面張力を持つ金属膜が形成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の導電性薄膜付きフィルムを、図面を用いて詳細に説明する。図1は、可撓性基材と導電性薄膜との間に、遷移金属層が設けられている構造の導電性薄膜付きフィルムの概念を説明する概念図である。図1の例では、可撓性基材1の上に遷移金属層2を介して導電性薄膜3が設けられた導電性薄膜付きフィルムの幅方向における断面の構成を示している。
【0024】
この図の例では、遷移金属層2が設けられている。一方、本発明の導電性薄膜付きフィルムは、所定の可撓性基材の少なくとも一方の面に、所定の条件を満たす導電性薄膜が被覆された構成を有すればよい。この構成であれば、遷移金属層が設けられていなくても、所望のシート抵抗を大面積で均一に実現することができ、導電性薄膜の表面原子組成や構造に分布を持たせる必要をなくし、均一な表面張力を持つ導電性薄膜が得られるという、本発明の効果を有する。
【0025】
[可撓性基材]
本発明の導電性薄膜付きフィルムに用いる可撓性基材1としては、高分子であればよい。可撓性基材1としては、ガラスではなく、高分子を用いるのは、以下の理由による。基材としてガラスの様な原子間の結合の強い材料を用いた場合には、基材表面での原子の混合が起きにくいため、導電性薄膜を形成する原子が散逸的な島状の結晶核を形成し、膜厚が十分厚くなるまでは連続的な膜を形成しにくいものと考えられる。一方、高分子の様に基材表面を構成する原子間の結合エネルギーが比較的小さい場合には、導電性薄膜を形成する原子が基材表面で凝集して膜になる過程において、基材表面を構成する原子の一部と導電性薄膜を形成する原子の一部が混合し、面方向に連続的な高抵抗薄膜を形成し易いためではないかと考えられる。従って、基材として高分子を用いると連続した構造による均一なシート抵抗を持つ導電性薄膜を形成し易いのでよい。また、基材の幅を広くすることにより、単位時間当たりに大面積の基材表面に導電性薄膜を形成することが可能となるのでよい。
【0026】
具体的な高分子の例としては、ポリエチレンテレフタレートまたはポリエチレンナフタレートであれば好ましい。ポリエチレンテレフタレートまたはポリエチレンナフタレートは、分子構造に六員環を持つため機械的および熱的に強いので好ましい。また、六員環を持つことで遷移金属との密着性も高くできるので好ましい。さらに、ポリイミドやポリアミドと比較して安価なので好ましい。
【0027】
さらに好ましい可撓性基材1はポリエチレンテレフタレートである。ポリエチレンテレフタレートは、導電性薄膜3を形成し易く、また最終加工工程における裁断、曲げ、ラミネートなどの各種工程に適応し易いからである。また、ポリエチレンテレフタレートは良好な絶縁性を有しているため、導電性薄膜3の特性のみでシート抵抗を決定できるので好ましい。
【0028】
可撓性基材1の膜厚は、厚みが10μm〜250μmの範囲であること、長さが500m〜5000mの範囲とすることが好ましい。可撓性基材1の厚みを10μm以上とすることで機械的かつ熱的に十分な強度が得られ加工適性がよくなるので好ましい。また、250μm以下とすることでロールの外形を抑えることができるので、連続加工を長くすることができる。これにより導電性薄膜形成工程の条件が安定してシート抵抗のばらつきを抑制できるので好ましい。
【0029】
可撓性基材1の幅は、500mm〜3000mmの範囲にあると好ましい。本発明では比較的薄い導電性薄膜3を形成する場合においても連続な構造の膜を形成可能としたため、3000mm程度まで基材幅を広げても均一なシート抵抗の導電性薄膜3を実現できる。基材幅が500mm以下では生産性が低くなるので、500mm以上とするのがよい。一方、基材幅が500mm以下の狭い幅のフィルムにおいては、シート抵抗の基材幅方向分布が15%未満のものは容易に得ることができる。また、3000mm以上では導電性薄膜形成装置が大型化してコストや工場スペースが嵩んでしまい好ましくないため、3000mm以下とするのがよい。基材に可撓性のある長尺のものを用いると、ロールツーロール方式により連続的にかつ比較的安価に導電性薄膜を被覆し易くなるのでよい。
【0030】
[遷移金属層]
導電薄膜3と前記高分子からなる可撓性基材1との界面に遷移金属層2を設けると、遷移金属は高分子を構成する炭素原子と結合し易く、また六員環とも錯体を形成し易い。このため、高分子表面と強く結合しかつ熱的に安定な構造を実現するのに有効である。従って、可撓性基材1の表面に遷移金属を付与すると、パラジウムなどの反応性の低い貴金属膜を形成する場合のアンカーとして利用できる。界面における遷移金属の量が少ないと、高分子と結合しにくい金属は島状に核を形成して不連続な膜になりやすい。
【0031】
使用できる遷移金属としては、公知の遷移金属が挙げられる。具体的には、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、モリブデン、のいずれか、またはこれらのいずれかを含む合金が挙げられる。特に、チタン、バナジウム、クロム、ニッケル、モリブデンまたはこれらのいずれかを含む合金は化学的に腐食しにくいので好ましい。また、ニッケルは単体では磁性材料であるため、マグネトロンスパッタ法による薄膜化が困難であるため、他の金属との合金をターゲットとして用いるのが好ましい。より好ましくは、ニッケル70〜95重量%、クロムまたはチタンを5〜30重量%とした合金をターゲット材としてマグネトロンスパッタで形成するのが好ましい。
【0032】
遷移金属層2は、可撓性基材1の表面を構成する原子および導電性薄膜3を構成する貴金属原子を含む幅方向にほぼ均質な混合層である。遷移金属層2において、これらの遷移金属元素は、50atm%以上含むと好ましい。
【0033】
遷移金属層2の厚みは、数原子層程度の厚みがあれば十分である。高分子からなる可撓性基材1と導電性薄膜3との界面に遷移金属元素を50atm%以上含む遷移金属層を有すると、10nm程度と薄い膜厚においても連続した構造の導電性薄膜3を形成し易いので好ましい。
【0034】
[導電性薄膜]
本発明の導電性薄膜付きフィルムの導電性薄膜3に用いる材料としては、例えば、パラジウム、金、白金、銀、ロジウム、イリジウム、ルテニウムなどの貴金属、またはこれらの貴金属で構成された合金であればよい。導電性薄膜3の材料として貴金属を用いると成膜時や成膜後の保管あるいは使用時において、酸化、水酸化、酸腐食、硫化、塩害などの化学的な反応に起因する影響を受けにくいので好ましい。これらの貴金属の中で、パラジウムはこれら貴金属の中で化学的安定性が比較的高く、特に安価なので好ましい。
【0035】
導電性薄膜3におけるこれらの金属の含有量は、特に制限はないが、95atm%以上であれば好ましい。合金を用いる場合は、前記貴金属のいずれかを95atm%以上含み構成されていればよい。導電性薄膜3中に、これらの金属を95atm%以上含有すると、表面の化学的安定性が増すので好ましい。
【0036】
導電性薄膜3は、(1)導電性薄膜3のシート抵抗の基材幅方向分布が15%未満であること、(2)膜厚の基材幅方向分布が15%以上であること、(3)膜厚の基材幅方向分布が下に凸であることの3つの条件を満たす必要がある。この条件を満たすことで、導電性薄膜3の膜厚が10nm程度と薄い場合においても、結晶核が連続的に存在した構造を持つ膜を得ることができる。
【0037】
(シート抵抗の基材幅方向分布)
導電性薄膜のシート抵抗値は、50Ω/□〜300Ω/□の範囲とすることが好ましい。より好ましくは60Ω/□〜250Ω/□、さらに好ましくは70Ω/□〜200Ω/□である。シート抵抗を50Ω/□以上とすると位置センサーや化学センサーなどに用いる場合において、電流信号を電圧信号として検出する場合に十分な出力を得やすくなるので好ましい。シート抵抗を300Ω/□よりも大きくすると微弱な電流を流すことが困難となるため、300Ω/□以下とするのが好ましい。
【0038】
本発明において、導電性薄膜付きフィルム基材の「幅」とは、フィルムがロール状であれば巻き取り方向に垂直な方向のことである。フィルムが枚葉であり、フィルムの巻き取り方向が判別できれば、巻き取り方向と垂直な方向のことである。フィルムが枚葉であり、フィルムの巻き取り方向が判別できなければ、いずれか一方の方向が上記条件を満たせば、その方向を幅方向とする。
【0039】
また、「シート抵抗の基材幅方向分布が15%未満」とは、基材の幅方向の一方の端から50mmの位置をX1、基材の幅方向中心の位置をX3、基材の他方の端から50mmの位置をX5、一方の端とX3の中点の位置をX2、他方の端とX3の中点の位置をX4とする。X1,X2,X3,X4,X5の位置におけるシート抵抗値をそれぞれR1,R2,R3,R4,R5とし、R1〜R5の最大値をRmax、最小値をRminとしたとき、{(Rmax―Rmin)/Rmin×100}<15(%)を満たしていることを、いう。
【0040】
導電性薄膜のシート抵抗の基材幅方向分布は小さいほどよいが、15%未満であれば許容範囲内であり収率も高くできるのでよい。
【0041】
(膜厚の基材幅方向分布)
膜厚の基材幅方向分布は、上記X1,X2,X3,X4,X5の位置における膜厚をそれぞれT1,T2,T3,T4,T5とし、T1〜T5の最大値をTmax、最小値をTminとしたとき、{(Tmax―Tmin)/Tmin×100}≧15(%) を満たしていればよい。
【0042】
幅方向における導電性薄膜3の膜質(例えば密度、不純物混入濃度、結晶状態など)が異なる場合においては、幅方向に均一なシート抵抗を実現することは困難となる。従って、敢えて膜厚の幅方向分布をシート抵抗の幅方向分布よりも大きくすることにより、幅方向に均一なシート抵抗を実現しやすくなるのでよい。
【0043】
膜厚の基材幅方向分布は、下に凸になるように分布していれば良い。具体的には、上記X1,X2,X3,X4,X5の位置における膜厚をT1,T2,T3,T4,T5としたとき、T1>T2>T3 かつ T3<T4<T5 を満たしていればよい。
【0044】
基材幅方向における導電性薄膜3の膜質(例えば密度、不純物混入濃度、結晶状態など)が一定であれば、基材幅方向の導電性薄膜3の膜厚を一定にすることによって、基材幅方向のシート抵抗を15%未満にすることができる。しかしながら実際には、上記のように連続した構造の導電性薄膜3を形成するだけでは基材幅方向のシート抵抗を15%未満にすることが難しく、特に基材幅方向端部のシート抵抗が高くなり易いことが分かった。この理由は明らかではないが、導電性薄膜3の密度が、基材幅方向中心部に比べて基材幅方向端部で小さくなっているものと推定される。そこで、本発明においては、導電性薄膜3の基材幅方向のシート抵抗を一定にするために、導電性薄膜3の基材幅方向の膜厚を一定にするのではなく、あえて基材幅方向両端部の膜厚を幅方向中心部の膜厚に比べて大きくしている。具体的には、膜厚の基材幅方向分布が下に凸の形状となるようにし、さらに膜厚の基材幅方向分布を15%以上、つまりシート抵抗の基材幅方向分布よりも敢えて大きくなるようにする。
【0045】
本発明において、導電性薄膜3の膜厚は、5nm〜15nmの範囲とすることが好ましい。導電性薄膜3の膜厚が15nmを超えると、シート抵抗が300Ω/□以下とするためには3×10−4Ω・cm以上の抵抗率を持つ酸化物半導体などの特殊な材料を使用する必要がある。これに対し、導電性薄膜3の膜厚を15nm以下とすると抵抗率が3×10−4Ω・cmの導体材料を使用可能となり、金属材料が使用可能となるので好ましい。また、導電性薄膜3の膜厚を5nm未満とすると連続膜を形成することが困難となり、シート抵抗が増加する方向に大きくばらつき易くなる。従って、導電性薄膜3の膜厚は5nm以上とするのが好ましい。
【0046】
[接触角]
本発明の導電性薄膜付きフィルムでは、導電性薄膜3の純水との接触角の基材幅方向分布が、10度以内の範囲であるとよい。「接触角の基材幅方向分布」とは、上記X1,X2,X3,X4,X5の位置における接触角のうち、最大値と最小値の差(最大値−最小値)のことである。接触角の基材幅方向分布を10度以内とすると、インク、銀ペースト、レジストなどをパターン印刷する際に、輪郭の拡がり具合が均一になるので好ましい。
【0047】
なお、接触角の測定は、公知の方法によればよい。例えば、温度25℃、相対湿度50%の雰囲気下で測定用試料を24時間放置後、接触角計を用いて、所定の滴下量の蒸留水の接触角を測定するなどである。
【0048】
(製造方法)
本発明の導電性薄膜付きフィルムは、以下のようにして製造できる。
本発明では、可撓性基材を巻き取りながら0.2Pa〜2.0Paの範囲で希ガス雰囲気においてスパッタリング法により導電性薄膜を連続的に形成する。
【0049】
導電性薄膜3を、スパッタリング法を用いて形成すると、高分子からなる可撓性基材表面にごく薄い金属と有機物との混合層を形成し、導電性薄膜材料の散逸的な核を抑制し易いので好ましい。
【0050】
導電性薄膜3をスパッタリング法で成膜する時の条件としては、圧力を0.2Pa〜2.0Paの範囲で、99%以上の希ガス雰囲気中で1nm/s以上の堆積速度に設定すると、シート抵抗と表面張力を安定して得易いので好ましい。特に、スパッタ雰囲気の圧力を10Pa以下とすると、可撓性基材に向かって飛翔する高運動エネルギー粒子が衝突によって運動エネルギーを損失することを抑制でき、高分子の結合を切るのに十分な数eV程度のエネルギーを持って可撓性基材に供給することが可能となる。これにより、導電性薄膜の核形成を抑制し易くなり10nm程度と薄い膜厚においても安定したシート抵抗の導電性薄膜を実現し易いので好ましい。
【0051】
用いる希ガスとしては、アルゴン、ヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノンのいずれかを用いることができる。特にアルゴンを用いると、シート抵抗と表面張力を安定して得易いので好ましい。
【0052】
本発明の導電性薄膜付きフィルムの製造方法は、予め設定した基材幅方向分布量の金属を可撓性基材表面に供給することが好ましい。予め設定した幅方向分布量の金属を基材表面に供給する方法としては、スパッタ装置のターゲット材と基材保持部分との間に開口幅を調節するための補正板を設置することで実現できる。この補正板に導電性薄膜3と線膨張率の近い材質を選ぶと、補正板に付着した膜が成膜中に脱落しにくくなるので好ましい。また、この補正板は非磁性のものを選ぶとマグネトロンスパッタを行う場合に磁界に悪影響を及ぼさないので好ましい。
【0053】
このように、可撓性基材に供給する金属元素の量を、基材幅方向中心部に比べて基材幅方向両端部で多くすることにより、導電性薄膜の基材幅方向両端部の膜厚を厚くし、ひいては導電性薄膜のシート幅方向分布を15%未満にすることができる。
【0054】
このようにして得られた導電性薄膜は、膜厚が5nm程度と薄くても連続した構造をもたせることができるので、5〜15nmの膜厚範囲においてもシート抵抗は膜厚のみを変えることで調整することができる。従って、膜厚のみで基材幅方向に均一なシート抵抗を実現し易いので好ましい。
【0055】
なお、本発明の導電性薄膜付きフィルムおよびその製造方法は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内であれば種々の変更は可能である。
【実施例】
【0056】
以下本発明を詳細に説明するため実施例を挙げるが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0057】
[基材材質の評価]
以下、基材材質が、ガラスとポリエチレンテレフタレート(以下、「PET」という)の場合における、パラジウム膜の抵抗値のスパッタ膜厚依存性を調べた結果について説明する。
【0058】
(実験1) Pd/ガラス基板、Pd/PET試料の対比
先ず、以下に具体的なスパッタ方法について説明する。基材は25mm×50mmサイズのクラウンガラス(厚さ1mm、平面度0.01mm以下[JIS R3703試験方法]、またはポリエステルフィルム(東レ株式会社、品番E20、厚み100μm)を用い、基材表面25mm×25mm矩形範囲の対向する2辺間の抵抗値を測定できる状態で設置した。カソードはマグネトロン型で、直径76mmの円形である。ターゲットと基板間の距離は100mmとし、中間に開閉可能なシャッターを配置した。また、基材と同平面上30cm内の位置に水晶振動子式膜厚計を配置し、スパッタ膜厚を計測した。スパッタチャンバー内を10−3Pa台に排気した後、純度99.9999%のアルゴンを10sccm導入し、排気弁の開口率を調整してチャンバー内圧力を1.0Paに調整した。その後シャッターを閉めた状態で直流電流0.05Aを投入してプレスパッタを10秒行い、その後シャッターを開けて10秒間成膜した。成膜後膜厚計の値と基材端子間の抵抗値を速やかに読み取った後、再びプレスパッタと成膜を行った。この作業を繰り返して抵抗値の膜厚依存性を調べた。なお、「sccm」とは、0℃、1.013×10Pa(1気圧(atm))における体積流量をml/min単位で表した数値のことである。
【0059】
なお、膜厚はガラス基板上に作製したパラジウム膜を(株)小坂研究所製の表面粗さ計(型番:SE−3400)で測定した値で水晶振動子式膜厚計の値を補正した。具体的には、概ね膜厚1μmのパラジウム膜を作成し、表面粗さ計で求めた基板とパラジウム表面間の段差をパラジウム膜厚とした。表面粗さ計で測定した膜厚および水晶振動子式膜厚計の値を求めて検量線を作成し、水晶振動子式膜厚計の値(膜厚値)を表面粗さ計による値(膜厚値)に換算した。また、シート抵抗値はガラス基板およびポリエチレンテレフタレートフィルムそれぞれの表面に作成したパラジウム膜のシート抵抗を(株)ダイアインスツルメンツ製のロレスタ(ロレスタGP、型番:MCP−T600)を用いて測定した値で補正した。(株)ダイアインスツルメンツ製のTFPプローブを用いて、25mm×25mmの正方形サンプルの中心(正方形の対角線の交点)におけるシート抵抗値を測定した。また、パラジウム膜厚10nmおよび30nmにおける、パラジウム膜厚とシート抵抗値の積の比 {(パラジウム膜厚10nmにおけるシート抵抗値)×10nm}/{(パラジウム膜厚30nmにおけるシート抵抗値)×30nm} を算出した。パラジウム膜が連続性を持つ場合はオームの法則に従ってシート抵抗値がパラジウム膜厚に反比例することから、理想的には積の比は最小値の1となる。積の比が1.5以内であれば、膜厚の変化に対する抵抗値の変化が小さいためパラジウム膜厚の制御により容易に抵抗値の調整をすることができ、良好である。
【0060】
図2にガラス基板又はポリエチレンテレフタレートフィルムを基材に用いた場合のパラジウムスパッタ膜の抵抗値の膜厚依存性を両対数グラフで示す。図2中の「Pd/ガラス基板」がガラスにパラジウムスパッタ膜を設けた場合の、「Pd/PET」がポリエチレンテレフタレートフィルムにパラジムスパッタ膜を設けた場合の結果である。この様にいずれの基材を用いた場合も膜厚10nm付近に屈曲点が観られるが、ガラス基板を用いた方が顕著である。ガラス基板使用時のパラジウム膜厚とシート抵抗値の積の比は160と大きく、この主な原因としては、ガラス基板上では約10nm以下ではパラジウムが散逸的に凝集して島状の核を形成し、面方向での連続性が低下するためにシート抵抗値が増加するものと考えられる。
【0061】
一方、ポリエチレンテレフタレート基板の場合では、パラジウム膜厚とシート抵抗値の積の比は1.4であり1に漸近していることから、パラジウムは核を作りにくく、連続性を持った構造を発現していると考えられる。ポリエチレンテレフタレート基板の場合にこの様な結果になる原因は知られていないが、ポリエチレンテレフタレートの様な高分子材料表面を構成する元素の一部がパラジウムまたはアルゴンなどの高速粒子の入射によりパラジウム膜中に取り込まれるいわゆるミキシング現象が起きている可能性が考えられる。これにより、ポリエチレンテレフタレートの様な高分子基材とパラジウムの様な導電性薄膜の界面は厚み方向に傾斜組成を持つ連続的な構造となり、その結果面方向にも連続な構造となるため、導電層の膜厚が薄い場合でも導電性が発現し易いものと考えられる。この様な界面におけるミキシング現象は、スパッタリング法における粒子の運動エネルギーに起因するものに限らず、蒸着法における熱エネルギー、めっき法における電気化学エネルギーなどによっても引き起こされ、特に、基材として高分子の様な結合エネルギーの比較的小さい材料を基材として用いる場合に顕著になるものと考えられる。すなわち、基材としてポリエチレンテレフタレートの様な高分子を用いることにより、10nm程度と非常に薄い膜厚においても膜厚の調整によりシート抵抗を容易に制御できることがわかる。
【0062】
(実験2) Pd/NiCr/PET
次に、ポリエチレンテレフタレート基材表面に遷移金属層としてニッケルクロム合金層を形成した後、この上に導電層としてパラジウム膜を形成した場合の抵抗値の膜厚依存性を調べた結果について説明する。ニッケルクロムの組成比はニッケル80%、クロム20%とした。実験1と同じスパッタ装置を用い、ターゲットをニッケルクロムに交換した以外は実験1と同様のセッティングとした。その後、スパッタチャンバー内を10−3Pa台に排気した後、純度99.9999%のアルゴンを10sccm導入し、排気弁の開口率を調整してチャンバー内圧力を1.0Paに調整した。その後シャッターを閉めた状態で直流電流0.05Aを投入してプレスパッタを10秒行い、その後シャッターを開けて3秒間で約1nm相当を成膜した。このときの基板端子間の抵抗値は50MΩ以上で測定不可能であった。この後、一旦チャンバーを開放してターゲットをパラジウムに交換した後、実験1と同様の方法と条件により抵抗値の膜厚依存性を調べた。
【0063】
その結果を実験1の結果と合わせて図2に併記した。図2中の「Pd/NiCr/PET」がポリエチレンテレフタレートフィルムにニッケルクロム合金層とパラジウムスパッタ膜を設けた場合の結果である。この様に、ポリエステル基板上にニッケルクロム層を介してパラジウム膜を形成した場合は、ニッケルクロム層を用いない場合よりもより膜厚が約10nm以下の領域での抵抗増加を抑えることができることがわかる。また、パラジウム膜厚と抵抗値の積の比が1.4であり1に漸近していることから、パラジウム膜が連続性を持っていると判断できる。ニッケルクロム層を高分子基材と導電層との界面に用いることにより、導電層のシート抵抗を膜厚でより制御し易くできることがわかる。
【0064】
[実施例]
本発明の実施例および比較例における各物性値の測定方法は以下の通りである。なお、ロールサンプルの一方の端から50mmの位置をX1、基材の幅方向中心の位置をX3、基材の他方の端から50mmの位置をX5、一方の端とX3の中点の位置をX2、他方の端とX3の中点の位置をX4とする。1000mm幅の基材の場合、端から50,250,500,750,950mmの位置となる。
【0065】
(1)導電性薄膜のシート抵抗値
ロールサンプルから、X1,X2,X3,X4,X5の位置を中心とする100mm四方の測定用試料を切り出した。温度20℃、相対湿度50%の雰囲気下に試料を24時間放置後、JIS−C−2151(2006年版)に基づいて、(株)ダイアインスツルメンツ製の表面抵抗計(ロレスタGP、型番:MCP−T600)およびプローブ(型番:TFP)を用い、試験電圧10Vでシート抵抗値測定を行った。測定用試料の中心点を測定した。各測定位置で測定用試料5枚の測定を行い、平均値をロールサンプルの各位置でのシート抵抗値とした。
【0066】
シート抵抗の基材幅方向分布は、上記各位置でのシート抵抗値の最大値と最小値の差を、最小値に対する割合として百分率で表した数値(%){(最大値−最小値)×100/最小値}として算出した。シート抵抗の基材幅方向分布15%未満であれば、シート抵抗の基材幅方向の均一性は良好である。
【0067】
(2)導電性薄膜の膜厚
ロールサンプルから、X1,X2,X3,X4,X5の位置を中心とする100mm四方の測定用試料を切り出した。アワーズテック(株)製エネルギー分散型蛍光X線分析装置(型番:OURSTEX160)を用いて、蛍光X線の強度(単位:cps)から、導電性薄膜の膜厚を算出した。まず、概ね膜厚1μmの導電性薄膜を作成し、蛍光X線強度、および、(株)小坂研究所製の表面粗さ計(型番:SE−3400)を用いて基板と導電性薄膜表面間の段差から導電性薄膜の膜厚を測定した。各測定用試料の中心点を測定した。次に、導電性薄膜の蛍光X線の強度が膜厚に比例することから、試料の導電性薄膜の膜厚を算出した(試料の導電性薄膜の膜厚(nm)=概ね膜厚1nmの導電性薄膜の膜厚(測定値)(nm)×試料の蛍光X線強度(cps)/概ね膜厚1μmの導電性薄膜のX線強度(cps))。各測定位置で測定用試料5枚の測定を行い、平均値をロールサンプルの各位置での膜厚とした。
【0068】
導電性薄膜の膜厚の基材幅方向分布は、上記各位置での導電性薄膜の膜厚の最大値と最小値の差を、最小値に対する割合として百分率で表した数値(%){(最大値−最小値)×100/最小値}として算出した。
【0069】
(3)接触角
ロールサンプルから、X1,X2,X3,X4,X5の位置を中心とする100mm四方の測定用試料を切り出した。温度25℃、相対湿度50%の雰囲気下で測定用試料を24時間放置後、協和界面科学(株)製接触角計(型番:CA−X)を用いて、滴下量1.6mgの蒸留水の接触角を測定した。測定用試料の中心点を測定した。測定はロールサンプルから測定用試料を切り出した時点から3分以内に行った。各測定位置で測定用試料5枚の測定を行い、平均値をロールサンプルの各位置での接触角とした。
【0070】
導電性薄膜の接触角の基材幅方向分布は、上記各位置での導電性薄膜の接触角の最大値と最小値の差を、最小値に対する割合として百分率で表した数値(%){(最大値−最小値)×100/最小値}として算出した。
【0071】
(4)最表面元素のatm%とその金属種
ロールサンプルからX3の位置を中心とする100mm四方の測定用試料を切り出した。SSI社製X線光電子分光装置(型番:SSX−100)を用いて、光電子のエネルギーから最表面元素の金属種を求め、各表面元素の光電子のピーク強度比から最表面元素の比率(atm%)を求めた。測定用試料の中心点を測定した。測定用試料5枚の測定を行い、平均値をサンプルの最表面元素のatm%とした。
【0072】
(5)界面の遷移金属のatm%と金属種
ロールサンプルからX3の位置を中心とする100mm四方の測定用試料を切り出した。PHI社製X線光電子分光装置(製品名:Quantera SXM)を用いて、光電子のエネルギーから界面の遷移金属の金属種を求めた。また、Arイオンエッチングにより導電性薄膜深さ方向の元素組成プロファイルを測定し、光電子のピーク強度比から求めた界面の遷移金属の比率の最大値をatm%とした。測定用試料の中心点を測定した。測定用試料5枚の測定を行い、平均値をサンプルの界面の遷移金属のatm%とした。
【0073】
(6)基材の厚み
ロールサンプルからX3の位置を中心とする100mm四方の測定用試料を切り出した。JIS−C−2151(2006年版)に基づいて、マイクロメータを用いて測定した。測定用試料の中心点を測定した。測定用試料5枚の測定を行い、平均値をサンプルの基材の厚みとした。
【0074】
(実施例1)
厚さ188μm、幅1000mmのポリエステルフィルム(東レ”ルミラー”E20)ロールを真空槽内で巻き取りながら、スパッタリング法によりパラジウム薄膜をフィルム上に連続して形成した。圧力が5×10−3Pa以下になるまで排気された真空槽内に、圧力が0.2Paとなるようアルゴンガスを流した状態でスパッタリングを行った。実施例1ではスパッタ装置のターゲット材と基材保持部分との間に補正板を設置した。
【0075】
(比較例1)
補正板を設置しなかった以外は、実施例1と同様にして、ポリエステルフィルム上にパラジウム薄膜を形成した。
【0076】
実施例1、比較例1のパラジウム薄膜を形成して巻き取ったフィルムを真空槽から取り出し、フィルム巻き取り装置により大気中で巻き返した。繰り出し側のロールから巻き取り側のロールまでのパスラインは15mであり、5m/分の速度で巻き返すことによりパラジウム表面が空気に触れる時間を3分とした。巻き返しを行う室内は気温が23℃となるよう調整した。さらに加湿器および除湿機を使用して絶対湿度が9.27g/mとなるよう調整した。
【0077】
実施例1、比較例1とも、最表層のパラジウムは99.99atm%であった。また、接触角は35〜45度の範囲内であった。
【0078】
(実施例2)
厚さ188μm、幅1000mmのポリエステルフィルム(東レ”ルミラー”E20)ロールを真空槽内で巻き取りながら、スパッタリング法によりニッケルクロム薄膜をフィルム上に連続して形成した。圧力が5×10−3Pa以下になるまで排気された真空槽内に、圧力が0.2Paとなるようアルゴンガスを流した状態でスパッタリングを行った。次に、ニッケルクロム層上に、実施例1と同様の方法でパラジウム膜を形成した。
【0079】
ニッケルクロム薄膜およびパラジウム薄膜を形成して巻き取ったフィルムを真空槽から取り出し、フィルム巻き取り装置により大気中で巻き返した。繰り出し側のロールから巻き取り側のロールまでのパスラインは15mであり、5m/分の速度で巻き返すことによりパラジウム表面が空気に触れる時間を3分とした。巻き返しを行う室内は気温が23℃となるよう調整した。さらに加湿器および除湿機を使用して絶対湿度が9.27g/mとなるよう調整した。
【0080】
膜の最表層のパラジウムは99.99atm%であった。パラジウム−フィルム界面のニッケルクロム層の存在量は50atm%であった。また、接触角は35〜45度の範囲内であった。
【0081】
実施例1、実施例2および比較例1の最表層のシート抵抗値およびパラジウム膜厚を表1に示す。実施例1および実施例2のX1,X2,X3,X4,X5の位置における膜厚は、それぞれT1>T2>T3 かつ T3<T4<T5の関係を満たしており、パラジウム膜厚の基材幅方向分布を下に凸の形状となっている。また、膜厚の基材幅分布は17%であり、15%以上となった。これにより、基材幅方向中心部のシート抵抗を幅方向両端部のシート抵抗と同等にすることができ、シート抵抗の基材幅方向分布は15%未満と良好であった。一方、比較例1は、基材幅方向に対するパラジウム膜厚分布を4%小さく形成した。また、X1,X2,X3,X4,X5の位置における膜厚は、T1>T2>T3 かつ T3<T4<T5の関係を満たしていない。このため、シート抵抗の基材幅方向分布は15%以上となり不良であった。
【表1】



【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明の金属膜付きフィルムおよびその製造方法は、タッチパネル、化学センサー、アンテナ回路、膜抵抗体などに適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】図1は、本発明の導電性薄膜付きフィルムを説明する概念図である。
【図2】図2は、本発明の基材材質が、ガラスとポリエチレンテレフタレート(以下、「PET」という)の場合における、パラジウム膜の抵抗値のスパッタ膜厚依存性を調べた結果を示す図である。
【符号の説明】
【0084】
1 可撓性基材
2 遷移金属層
3 導電性薄膜



【特許請求の範囲】
【請求項1】
幅が500mm以上の高分子からなる可撓性基材の少なくとも一方の面に、下記(1)〜(3)の条件を満たす導電性薄膜が被覆されている、導電性薄膜付きフィルム。
(1)シート抵抗の基材幅方向分布が15%未満
(2)膜厚の基材幅方向分布が15%以上
(3)膜厚の基材幅方向分布が下に凸
【請求項2】
前記導電性薄膜のシート抵抗値が、50Ω/□〜300Ω/□である、請求項1に記載の導電性薄膜付きフィルム。
【請求項3】
前記導電性薄膜の膜厚が、5nm〜15nmの範囲である、請求項1または2に記載の導電性薄膜付きフィルム。
【請求項4】
前記導電性薄膜の純水との接触角の基材幅方向分布が、10度以内の範囲である、請求項1〜3のいずれかに記載の導電性薄膜付きフィルム。
【請求項5】
前記導電性薄膜は、導電性薄膜を構成する元素の95atm%以上がパラジウム、金、白金、銀、ロジウム、イリジウムおよびルテニウムの群から選択される少なくとも1種の貴金属、または前記貴金属のいずれかを95atm%以上含み構成された合金である、請求項1〜4のいずれかに記載の導電性薄膜付きフィルム。
【請求項6】
前記導電性薄膜は、導電性薄膜を構成する元素の95atm%以上が、パラジウムである、請求項1〜4のいずれかに記載の導電性薄膜付きフィルム。
【請求項7】
前記導電薄膜と前記高分子からなる可撓性基材との界面に遷移金属元素を50atm%以上含む遷移金属層を有する、請求項1〜6のいずれかに記載の導電性薄膜付きフィルム。
【請求項8】
可撓性基材がポリエチレンテレフタレートまたはポリエチレンナフタレートからなり、かつ厚みが10μm〜250μmの範囲である請求項1〜7のいずれかに記載の導電性薄膜付きフィルム。
【請求項9】
高分子からなる可撓性基材を巻き取りながら、10Pa以下の希ガス雰囲気において金属元素を供給し、スパッタリング法により導電性薄膜を連続的に形成する際に、
前記供給される金属元素の量が、基材幅方向中心部に比べて基材幅方向両端部で多い、請求項1〜8のいずれかに記載の導電性薄膜付きフィルムの製造方法。
【請求項10】
前記供給される金属元素の量は、予め設定した幅方向分布量である、請求項9に記載の導電性薄膜付きフィルムの製造方法。







【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−284844(P2008−284844A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−134217(P2007−134217)
【出願日】平成19年5月21日(2007.5.21)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【出願人】(305052986)プロマティック株式会社 (11)
【Fターム(参考)】