説明

導電性複合材料およびその製造方法

【課題】熱及び電気の伝導性に優れる複合材料を提供する。
【解決手段】この複合材料は、磁性流体にNi粉末およびCu粉末を分散させてなる磁気混合流体と液状の弾性高分子材料の混合物を磁場の存在下で硬化させることによって得られる。この複合材料の内部には、Cu粉末とNi粉末とが凝集して形成される網状(ネットワーク状)のクラスタが形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱および電気の伝導性に優れる複合材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
絶縁体とされているゴム材料に導電性の粉末を分散させて得られる導電性ゴムは、非加圧時においては絶縁性を有するが、圧力の刺激が加わると導電性を帯びる、いわゆる感圧導電性を示すため、電気・電子機器のスイッチやセンサーとして広く利用されている。また、急速な進歩を遂げているロボット技術分野においては、人工皮膚などのハプティックな機能を有する材料としても注目されている。
【0003】
例えば、天然又は合成ゴムと、導電性カーボンと、絶縁性マイカフレークと、油脂類等のブルーム剤および表面乾燥剤を主成分とする感圧導電性ゴムが提案されており、無圧時と加圧時との電気抵抗値の差を大きくして感圧導電性の向上が図られている(例えば、特許文献1)。また、平均組成がAg1−x(ただし、MはNi、Co、Cu、Feより選ばれた1種以上の金属、0.001≦x≦0.4)で表され、銀濃度が内部に向かうにつれて増加する合金粉末と、ゴム弾性を有するバインダーとを含有する導電性ゴムが提案されており、経時的に導電性が低下するのを防止して導電性ゴムの信頼性を高めている(例えば、特許文献2)。
【特許文献1】特開平1−193342号公報
【特許文献2】特開平5−81924号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記したようなハプティックな機能が要求される用途においては、耐久性や電気伝導性だけでなく、熱伝導性等の熱的特性の向上も望まれており、この観点から、従来の感圧導電性材料には依然として改良の余地が残されている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで、本発明の目的は、感圧導電性を有するとともに、熱伝導性にも優れる複合材料を提供することにある。
【0006】
すなわち、本発明の導電性複合材料は、磁性流体とNiとCuを含有する磁気混合流体と液状の弾性高分子材料の混合物を磁場の存在下で硬化させることによって得られることを特徴とする。
【0007】
本発明において、磁気混合流体(Magnetic CompoundFluid、略称MCF)とは、磁性流体(Magnetic Fluid、略称MF)と、磁気レオロジー流体(Magnetorheological Fluid、略称MRF)の中間に位置する特性を有するものである。一般に、MFについては、飽和磁化が小さいこと、一方、MRFについては、流体の粒子が沈降してしまうことや、粉体としての挙動を示すため流体力学的に扱うには困難を有すること等が、これらの工学的利用にあたって問題となっていたが、磁気混合流体は、これらの問題点に鑑みて開発された金属材料(特に、微細金属粒子)と磁性流体とでなる機能性流体のことである。
【0008】
本発明の特に好ましい導電性複合材料は、Ni粉末およびCu粉末を磁性流体に分散させてなる磁気混合流体と液状の弾性高分子材料の混合物を磁場の存在下で硬化させることによって得られるものである。
【0009】
上記した導電性複合材料の形成に使用される磁性流体は、ケロシンベースの磁性流体であることが好ましい。
【0010】
また、上記した導電性複合材料の形成に使用される液状の弾性高分子材料は、シリコーン系ゴムであることが好ましく、特にシリコーンオイルゴムを使用することが好ましい。
【0011】
また、導電性複合材料中におけるCu粉末の含有量は、14〜19wt%であり、導電性複合材料中におけるNi粉末の含有量は、14〜19wt%であることが好ましい。
【0012】
さらに、導電性複合材料中における磁性流体の含有量は、9〜26wt%あることが好ましい。
【0013】
本発明の別の目的は、上記した導電性複合材料の製造方法を提供することにある。すなわち、この製造方法は、磁性流体とNiとCuを含有する磁気混合流体を提供する工程と、前記磁気混合流体を液状の弾性高分子材料と混合する工程と、得られた混合物を磁場の存在下で硬化させる工程とを含むことを特徴とする。
【0014】
上記硬化工程は、混合物の厚みが1mm以下になるようにシート状に保持し、対向する永久磁石の間に配置して実施されることが好ましい。
【0015】
上記Niは、平均長が3〜7μmの細長形状のNi粉末であり、上記Cuは、平均長が8〜10μmの樹枝状のCu粉末であることが特に好ましい。
【0016】
本発明のさらなる特徴およびそれがもたらす効果は,以下に述べる発明を実施するための最良の形態および実施例に基づいてより明確に理解されるだろう。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、熱伝導性と電気伝導性の両方に優れ、ハプティックな機能を有する複合材料を提供することができ、携帯電話、各種リモコン、携帯音楽プレーヤー、電子タグ装置など省電力、薄さ、安価が要求される小型機器、ストーブの接触検出装置などの熱伝導と緩衝性能の両方が要求される機器、さらにロボットアームの関節部位などの大きな伸張性が要求される装置、人間支援に使う福祉ロボットのハプティックセンサ、感圧スイッチ、人工皮膚などの触覚センサーなどの広範囲な技術分野においてその応用が期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の導電性複合材料およびその製造方法を詳細に説明する。
【0019】
本発明の導電性複合材料は、磁性流体とNiとCuを含有する磁気混合流体と液状の弾性高分子材料の混合物を磁場の存在下で硬化させることによって得られ、好ましくは、Ni粉末およびCu粉末を磁性流体に分散させてなる磁気混合流体と液状の弾性高分子材料の混合物を磁場の存在下で硬化させることによって得られる。
【0020】
本発明において、NiとCuの両方を使用する理由は、NiがFe等に比べより強磁性を有していること、熱と電気の両方の伝導性を高めるためにはCuの併用が有効であること、さらに後述するように、磁場の存在下で硬化させることにより、導電性複合材料の内部にNiとCuが凝集して形成される特異な構造のクラスタを得るためである。
【0021】
上記磁気混合流体を得るため、磁性流体にNiとしてNi粉末を添加することが好ましい。Ni粉末としては、図1に示すような球状ではない粒状のNi粉末、表面に複数の凸部を有するコンペイトウのような形状のNi粒子、あるいは平均長が3〜7μmの細長形状を有するNi粉末を使用することが特に好ましい。このようなNi粉末はアトマイズ法によって作製できる。
【0022】
また、上記磁気混合流体を得るため、磁性流体にCuとしてCu粉末を添加することが好ましい。Cu粉末としては、図2に示すような樹枝状のCu粉末(例えば、平均長が8〜10μm)を使用することが特に好ましい。このようなCu粉末は電解法によって作製できる。
【0023】
上記磁気混合流体を得るための磁性流体としては、ケロシンベース磁性流体を使用することが好ましい。これは、弾性高分子材料として好適なシリコーン系ゴムとケロシンとの相性が良いためである。例えば、およそ10nm程度の球状のマグネタイト粒子(Fe)がケロシンベースの媒体中に分散された磁性流体を使用することができる。あるいは、シリコーンと相性の良いアルキルナフタレンベース磁性流体を使用してもよい。尚、上記のように、磁性流体は、マグネタイト粒子とベース液とからなり,マグネタイトはNi粉やCu粉と凝集してクラスタを形成するが、ベース液は後述する弾性高分子材料であるゴムの高分子の間にトラップされるものと考えられる。
【0024】
磁気混合流体は、上記したNi粉、Cu粉および磁性流体を所定の配合量で混合することによって得ることができる。配合量は必要とされる熱伝導性及び導電性に基づいて適宜決定できるが、好ましくは、導電性複合材料の重量に対して、Cu粉末の含有量が、14〜19wt%、Ni粉末の含有量が14〜19wt%、磁性流体の含有量が9〜26wt%の範囲であることが好ましく、特に、Cu粉末の量とNi粉末の量とを同じ配合量とする場合に高い性能が得られる。また、最適な性能が得られる製造条件の一例として、Niと磁性流体の重量比は3:4であることが好ましい。
【0025】
本発明の導電性複合材料を得るための弾性高分子材料としては、シリコーン系ゴム、特にシリコーンオイルゴムを使用することが好ましい。尚、弾性高分子材料として他のゴム材料を使用することも可能であるが、その優れた弾力性や伸張性のためにシリコーンオイルゴムの使用が特に好適である。弾性高分子材料の配合量は、導電性複合材料の重量に対して36〜63wt%であることが好ましい。尚、最適な性能が得られる製造条件の一例として、磁性流体と弾性高分子材料の重量比は4:10であることが好ましい。尚、磁気混合流体と液状の弾性高分子材料の混合は、時間や攪拌力を変えて強制的に行えるので、液状の弾性高分子材料の粘度は混合方法等に基づいて適宜設定される。
【0026】
本発明においては、上記磁気混合流体と弾性高分子材料の混合物を磁場の存在下で硬化させることが特に重要である。磁場を印加することで、Cu粉末とNi粉末が凝集して、各々が樹枝状の形態をなす複数の1次クラスタが形成され、これらの1次クラスタが互いに接触することで網状の巨大なクラスタ(2次クラスタ)が導電性複合材料中に磁場の印加方向に配向性を有するように形成される。尚、導電性複合材料中に分布する複数の1次クラスタは互いに連結されているわけではないので、弾性高分子材料のもつ弾性特性により導電性複合材料が伸縮することで、1次クラスタどうしの接触している部分がずれて、別の1次クラスタと接触することも可能であると考えられている。このようなクラスタの構造は、以下の実施例においてより具体的に説明するが、例えば、図3、図4やその模式図である図5(A)を参照することで視覚的に理解することができる。
【0027】
尚、このようなクラスタが形成されるメカニズムは現在究明中であるが、これまでのところ、Niのもつ残留磁化のため、Ni粒子どうしや磁性流体中のマグネタイト粒子を磁力で引き寄せる作用や、銅粉末の樹枝状構造が網状もしくはネットワーク状のクラスタの形成されやすいサイトとして作用することや、球状でないNi粒子表面の凸部に磁気が集中しやすく、これがネットワーク状のクラスタ形成に寄与すること等が有力と考えられている。また、このような網状のクラスタは、図5(A)に示すように、導電性複合材料中にランダムに分布しているわけではなく、磁場が印加される方向に相応の配向度をもって分布している。
【0028】
本発明において、弾性高分子材料として使用されるシリコーンオイルゴム内に上記した導電性のネットワーク構造を形成する場合は、もともと導電性のないシリコーンオイルゴムに導電性をもたせるとともに、従来の純シリコーンオイルゴムよりも大きい引張性を得ることができる。また、金属粒子によるクラスタのネットワークの見掛け上のトータル長さ、すなわち、電子の流れる「導線」の長さを短くすることでより小さな電気抵抗を得ることができる。尚、本発明において、上記した磁気混合流体(MCF)とこの弾性高分子材料としてのシリコーンオイルゴムの混合物を磁場下で硬化することにより得られた導電性複合材料(MCF複合材料のゴム)をMCF導電性ゴムと呼んでもよい。
【0029】
次に、上記した導電性複合材料の製造方法について説明する。この製造方法は、磁性流体にNiとCuを分散させてなる磁気混合流体を提供する工程と、前記磁気混合流体を液状の弾性高分子材料と混合する工程と、前記工程で得られた混合物を磁場の存在下で硬化させる工程とを含むことを特徴とする。
【0030】
製造上特に重要なことは、Ni(例えば、Ni粉)とCu(例えば、Cu粉)とを磁性流体に十分になじませて均一な磁性混合流体を用意した後に、弾性高分子材料を添加することである。
【0031】
また、硬化工程においては、磁性混合流体と弾性高分子材料を厚みが1mm以下になるようにシート状に保持した状態で、ネオジム磁石などを用いて、5キロガウス以上、例えば、5〜5.8キロガウスの磁場を印加することが前記したクラスタの形成密度を高める上で好ましい。尚、予備実験により、磁場強度が低下すると、クラスタの形成密度が低下し、クラスタの形成密度の低下すると、電気や熱の伝導性が低下する傾向があることが確認されている。したがって、厚みが1mm以上になる場合は、さらに強力な磁場を印加することが望ましい。前記した磁場条件を満足することで電気と熱の両方の伝導性の高い導電性複合材料シートを信頼性よく提供することができる。
【0032】
また、1mm以下の厚さが薄いMCF導電性ゴムの硬化の場合、磁石付近では磁場の影響によりクラスタの密度を非常に高くすることができるので、このクラスタ密度の高い領域を切出して使用することも可能である。クラスタ密度が高くなると、感温性や導電性の向上が期待される。
【0033】
尚、前記混合物の硬化は、一般の接着剤の硬化と同様に、室温下、大気中に開放された時から始まる。また、クラスタは硬化が始まる前に磁場の印加により形成されるので、硬化はクラスタの形成後に始まる。したがって、クラスタの組織は硬化条件に依存しない。前記した硬化の他に、加熱による硬化や、硬化剤等を用いた化学的な硬化を採用してもよい。
【0034】
本発明の導電性複合材料の特に好ましい応用例としては、導電性複合材料を検出部に用いた感圧センサー、ならびに導電性複合材料を接点に用いた感圧スイッチを挙げることができる。電気や熱は、導電性複合材料シートの厚み方向にすばやく流れるので、膜厚方向に電気や熱を感知する設計とすることが好ましい。
【実施例】
【0035】
以下、本発明の導電性複合材料およびその製造方法を具体例に基づいて詳細に説明する。
(実施例1)
まず、3gのNi粉(山石金属(株)製「123」、平均長3〜7μm、)と、3gのCu粉(山石金属(株)製「MF-D2」、平均長8〜10μm)とをビーカーに入れた後、磁性流体(フェロテック(株)製、ケロシンベース、質量濃度50wt%)を4g添加して超音波攪拌機により数分間攪拌し、Cu粉やNi粉を磁性流体に十分になじませた。さらに、シリコーンオイルゴム(東レダウコーニングシリコーン(株)製「SH9550」を10g添加してプロペラ式攪拌機により15分程度攪拌した後、真空脱泡装置により気泡を除去した(本実施例における脱泡処理時間は約45分)。次に、図6に示すように、一対の非磁性体プレート10の両側にN極とS極の永久磁石12を対向配置し、一対の非磁性体プレート10の間の隙間に得られた混合物を注入して、磁場を印加しながら数時間硬化させた。尚、所望の厚みを有する硬化物を得るため、非磁性体プレート10の間にスペーサー14を配置した。以上のようにして、実施例1の導電性複合材料(MCF導電性ゴム)シート1を得た。
【0036】
得られた導電性複合材料シート内にはNi粉とCu粉とが凝集してなるクラスタが形成されるが、このクラスタがどのような構造を有しているかを以下のようにして調べた。すなわち、上記したNi粉とCu粉と磁性流体とを攪拌して得られる混合物(シリコーンオイルゴムは含まれていない)に所定の定常磁場を印加した状態で、洗浄溶媒によって磁性流体成分を洗い流す操作を複数回繰り返し、Ni粉とCu粉とが凝集してなる網状のクラスタ(スケルトン構造)のみを抽出した。抽出されたクラスタを実体顕微鏡で観察した結果を図3に示す。また、図4に得られた導電性複合材料シートの光学顕微鏡写真を示す。これらの観察から、このクラスタは、たとえるなら樹枝の分岐形態に似た3次元の網状構造を有していることがわかった。尚、Ni粉の代わりにFe粉を使用してクラスタを形成した場合は、直線状のクラスタが配向した構造となり、Ni粉を使用した場合とは明らかにクラスタ形状が相違する。本実施例の導電性複合材料シートのクラスタの分布状態と、Fe粉とCu粉とを使用して形成したクラスタの分布状態を模式的に示したのが図5Aおよび図5Bである。
【0037】
次に、得られた導電性複合材料シートの熱伝導性を評価した。尚、ここでは、ある温度を有する高温体に複合材料を接触させた時の温度の時間的変化を感温性と呼ぶことにする。感温性の測定方法は以下の通りである。まず、図7に示すように、導電性複合材料シート1の下面がホットプレート20の加熱面に接触するように配置するとともに、導電性複合材料シートの上面に熱電対22を接着した。この状態で、ホットプレートから導電性複合材料シートを伝わる温度を熱電対により測定した。結果を図8および図9に示す。
【0038】
図8は、厚さが0.646mmの本実施例の導電性複合材料シートの感温性を測定した結果である。比較として、磁場を印加しなかったことを除いて本実施例と同様にして製造された導電性複合材料シートの感温性も測定した。これらの結果は、磁場の存在下において硬化させた方が時間に対する温度勾配が大きく、感温性に優れることを示している。尚、本実施例では、導電性複合材料シートの厚さ方向に平行に磁場を印加したが、導電性複合材料シートの厚さ方向に垂直に磁場を印加する場合においても同等の感温性が得られることを確認した。
【0039】
また、図9は、厚さが0.682mmの本実施例の導電性複合材料シートの感温性を測定した結果である。比較として、Cu粉とFe粉を使用したことを除いて本実施例と同様にして製造された導電性複合材料シートの感温性も測定した。両者の間には感温性に有意な差異が認められ、本実施例の導電性複合材料シートにおける網状のクラスタの形成が熱伝導性の向上に寄与していると考えられる。
【0040】
次に、導電性複合材料シートの作製時における非磁性体プレート10の間の距離を変化させることにより、そのシートを硬化させる磁場強度も変化させ、その上で導電性複合材料シート1の厚さが感温性におよぼす影響を評価した。この評価では、0.298mm、0.5mm、0.601mm、0.949mmの4種類の厚みの導電性複合材料シートを作製した。それぞれの場合における磁場強度およびΔT/(Δt・δ)(ΔTは温度変化、Δtは時間変化、δは膜厚である)を表1に示す。また、導電性複合材料シートの厚みとΔT/(Δt・δ)の関係を図10に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
組織観察の結果は、厚みが小さいほど、形成されるクラスタの密度が増加することを示した。また、表1からわかるように、厚みが小さいほど、ΔT/(Δt・δ)が大きくなる、すなわち、感温性が良好になる。これらの結果に基づいて、本実施例の導電性複合材料シートの場合は、次式(1)により、導電性複合材料シートの厚みが決まれば温度勾配を推定することができる。逆に言えば、所望の感温性を得るために最適な導電性複合材料シートの厚みを決定できることから、材料設計を行いやすいという長所もある。
ΔT/(Δt・δ)=6.81exp−5.41δ・・・(1)
次に、感圧導電性の複合材料シートの厚み依存性について評価した。図11に示すように、種々の厚みを有する導電性複合材料シート1上に2mmx2mmの面積のプローブ30を配置し、これを指で加圧することにより導電性複合材料シートの電気抵抗変化をテスタ32により測定した。この導電性評価により、導電性複合材料シートの厚みTによって導電性の異なる3つの領域があることがわかった。結果を図12に示す。第1の領域は、導電性複合材料シートの厚みTが0.35mm未満の場合であり、常に数十Ωの電気抵抗を有する導電性を発揮し、第2の領域は、導電性複合材料シートの厚みTが0.35mm〜0.65mmの場合であり、微小な加圧により導電性を生じる。第3の領域は、導電性複合材料シートの厚みTが0.65mmより厚い場合であり、かなり大きな圧力を印加することで導電性が生じる。これらの結果から、本実施例の導電性複合材料シートの場合、厚みを0.65mm以下とすることにより良好な感圧導電性を得ることができる。また、表1と図10の結果も併せて総合的に考察すると、膜厚が小さいほど、クラスタの密度が高くなり、感温性と感圧導電性の両方において優れる複合材料となることがわかる。
【0043】
また、本実施例の導電性複合材料シートの感圧導電性を従来の感圧導電性ゴム(ヨコハマイメージシステム(株)製「CSA」)のそれと比較した。この評価においては、図13に示すように、導電性複合材料シート1を一対の金属板40の間に挟み、それを万力42により両側から加圧し、この時の変形量をレーザー変位計44により測定した。導電性複合材料シート1と金属板40との接触面積は15mmx20mmである。また、加圧による電気抵抗の変化を2枚の金属板40に接続したテスタ46により測定した。得られた結果を図14に示す。尚、従来の感圧導電性ゴムと金属板との接触面積は30mmx30mmであり、本発明の導電性複合材料シートの場合とは接触面積が異なるので、図14では単位面積あたりの電気抵抗に換算してある。
【0044】
加圧による変形量が20μm以下の場合、本実施例の導電性複合材料シートは、従来の感圧導電性ゴムよりも高い電気抵抗を示している。しかしながら、変形量が20μmを超えると、本実施例の導電性複合材料シートは、従来の感圧導電性ゴムよりも電気抵抗が低くなり導電性が良好になる。また、この変形量の範囲では、従来の感圧導電性ゴムはほとんど電気抵抗に変化がみられず、感圧性が乏しいことがわかる。これらの結果より、本実施例の導電性複合材料シートは、従来の感圧導電性ゴムよりも電気抵抗の変化において高い感圧性を有していると言える。
(実施例2〜4)
実施例2〜4の導電性複合材料シートは、Ni粉、Cu粉、磁性流体、シリコーンオイルゴムの配合量を表2に示すように決定したことを除いて、実施例1と同様にして作製した。導電性複合材料シートの厚みは一定である。得られた導電性複合材料シートの各々において、変形量と電気抵抗の間の関係を図13に示す測定方法を用いて評価した。結果を図15に示す。
【0045】
【表2】

【0046】
図15は、Cu粉の量を増やした実施例2、Cu粉およびNi粉の両方を増やした実施例3、磁性流体の量を多くした実施例4に比べ、実施例1の組成を有する導電性複合材料シートが、わずかな変形量に対して導電性が生じることを示している。したがって、わずかな変形量で動作するスイッチング素子や接触センサーを製造する場合は、実施例1の導電性複合材料シートを使用することが好ましいと言える。
【0047】
次に、本発明の導電性複合材料の好ましい応用例として、実施例1の導電性複合材料シートを用いたハプティックセンサについて簡単に説明する。このハプティックセンサは、図16に示すように、導電性複合材料シート1の両面に導線50を配置し、さらにその外側に非導電性ゴム52を配置してなる層状構造を有する。外側の非導電性ゴム52の両側から微小な圧力が印加されると、内部に位置する導電性複合材料シート1に導電性が生じ、導線50を介して電流が流れる。この電気信号を検出することにより触覚と判断することができる。また、導電性複合材料シートに熱電対を設置することにより、温度についても感温性の高いセンサーとすることができる。
【0048】
次に、本発明の導電性複合材料のさらなる好ましい応用例として、実施例1の導電性複合材料シートを用いた感圧センサーチップ70について簡単に説明する。この感圧センサーチップ70は、図17(A)〜図17(C)に示すように、6mm角の導電性複合材料シート1の両面に接着剤64を用いて取り付けた金属薄板62に、導線60をそれぞれ半田65にて電気接続する。このようにして得た試作センサーチップの両面から加圧力が加わると、導電性複合材料シート1に導電性が生ずるので,2本の導線60の間に電流が流れる。
【0049】
この感圧センサーチップ70の性能評価を行うため、図18に示すような実験装置を使用した。感圧センサーチップ70をロードセル72(固定)とガラス板74との間に配置して両側から圧迫する。図18において、符号76は電圧計である。この装置を用いて圧力とセンサーチップの電気抵抗関係を調べた結果の一例を図19に示す。この図から明らかなように、印加した圧力が大きくなるにつれて急激に電気抵抗が小さくなる。すなわち、約15N付近で電気抵抗が急激に減少して導電性が現れ、電気抵抗がほぼ一定(約2Ω)になる。尚、この時の縮み量は約45μm(本来のシート厚みの約15%)であった。
【0050】
また、種々の圧力(16N、32N、44N、52N)における電気抵抗の時間依存性を調べた結果を図20に示す。どの圧力においても電気抵抗は時間経過に対してほぼ安定していることがわかる。
【0051】
一例として、上記した感圧センサーチップを使用して作製したスイッチを図21に示す。スイッチ90を押せば、感圧センサーチップ70を通して導通する。図21中、符号92は回路テスタであり、符号94は導電性複合材料シートへの導線である。これらの実験結果から、本発明の導電性複合材料を用いて形成されるセンサーチップによって高応答性の小型感圧スイッチを実現できることがわかった。
【0052】
また、本発明の導電性複合材料は、上記したように、磁性流体とNiとCuを含有する磁気混合流体を液状の弾性高分子材料と混合して得られた混合物を磁場の存在下で硬化させることによって得られ、その結果Cu粉末とNi粉末とが凝集して形成される独特の網状のクラスタ組織が形成される。したがって、混合物の所望の領域にのみ磁場を印加して硬化すれば、図22(A)に示すように、一部にのみ導電性複合材料1が形成されたゴムシート80を得ることができる。すなわち、このゴムシート80は、ネオジ磁石を用いて5〜5.8キロガウスの磁場を図22(B)に示される8個の円形領域にのみ印加して、これらの部分にのみスイッチング機能を持たせたものである。この場合は、ゴムシートが機器等の全面を覆うために使用され、その一部がスイッチング機能を有する部位として使用される。このように、本発明によれば、所望の領域にのみ導電性複合材料の性能が付与されたゴムシートを得ることができ、導電性複合材料の応用範囲の拡大を促すものとして期待される。
【0053】
尚、上記実施例では、導電性複合材料を製造するためにCu粉末およびNi粉末を使用した場合について説明したが、本願発明の技術思想は、上記した網状のクラスタ構造を形成でき、且つ熱と電気の伝導性に優れる複合材料が得られる限りにおいて、Niを含有する粉末(例えば、合金粉末)やNiが被覆された粉末、Cuを含有する粉末(例えば、合金粉末)やCuが被覆された粉末等の使用を排除するものではない。また、必要に応じて、NiおよびCu以外の第3の金属粉末を磁性流体に添加して磁性混合流体を調製してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の導電性複合材料の製造に用いられるNi粉末の光学顕微鏡写真である。
【図2】本発明の導電性複合材料の製造に用いられるCu粉末の光学顕微鏡写真である。
【図3】本発明の導電性複合材料から抽出された網状のクラスタの光学顕微鏡写真である。
【図4】本発明の導電性複合材料の断面顕微鏡写真である。
【図5】(A)はNiとCuが凝集して形成されるクラスタの模式図であり、(B)はFeとCuが凝集して形成されるクラスタの模式図である。
【図6】本発明の導電性複合材料の製造方法を示す概略図である。
【図7】導電性複合材料の熱伝導性の評価方法を示す概略図である。
【図8】硬化時の磁場の有無における導電性複合材料の熱伝導性を示すグラフである。
【図9】NiとCuを含有する本発明の導電性複合材料と、FeとCuを含有する比較例の導電性複合材料の熱伝導性を示すグラフである。
【図10】本発明の導電性複合材料の感温性の厚み依存性を示すグラフである。
【図11】導電性複合材料の感圧導電性の評価方法を示す概略図である。
【図12】本発明の導電性複合材料の電気抵抗の厚み依存性を示すグラフである。
【図13】導電性複合材料の感圧導電性の別の評価方法を示す概略図である。
【図14】本発明の導電性複合材料と従来の導電性ゴムの感圧導電性を示すグラフである。
【図15】組成比の異なる本発明の導電性複合材料の感圧導電性を示すグラフである。
【図16】本発明の導電性複合材料を用いたハプティックセンサの構造を示す概略図である。
【図17】(A)は、本発明の導電性複合材料を用いた感圧センサーチップの写真であり、(B)および(C)は、同感圧センサーチップの概略斜視図及び断面図である。
【図18】図17の感圧センサーチップの性能評価を行うための実験装置の概略図である。
【図19】図18の実験装置を用いて得られた感圧センサーチップの圧力―電気抵抗の関係を示す図である。
【図20】感圧センサーチップの電気抵抗の時間変化を示すグラフである。
【図21】図17の感圧センサーチップを用いて作成したスイッチを示す写真である。
【図22】(A)は本発明の導電性複合材料でなる部位が所望の領域に形成されたゴムシートを示す写真であり、(B)は(A)の導電性複合材料でなる部位を示す概略図である。
【符号の説明】
【0055】
1 導電性複合材料(MCF導電性ゴム)シート
10 非磁性体プレート
12 永久磁石
14 スペーサー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性流体とNiとCuを含有する磁気混合流体と液状の弾性高分子材料の混合物を磁場の存在下で硬化させることによって得られる導電性複合材料。
【請求項2】
上記磁気混合流体は、Ni粉末およびCu粉末を上記磁性流体に分散させてなることを特徴とする請求項1に記載の導電性複合材料。
【請求項3】
上記導電性複合材料は、上記Cu粉末とNi粉末とが凝集して形成される網状のクラスタを有することを特徴とする請求項2に記載の導電性複合材料。
【請求項4】
上記Ni粉末は、平均長が3〜7μmの細長形状のNi粉末であることを特徴とする請求項2に記載の導電性複合材料。
【請求項5】
上記Cu粉末は、平均長が8〜10μmの樹枝状のCu粉末であることを特徴とする請求項2に記載の導電性複合材料。
【請求項6】
上記導電性複合材料中における上記Cu粉末の含有量は、14〜19wt%であり、上記導電性複合材料中における上記Ni粉末の含有量は、14〜19wt%であることを特徴とする請求項2に記載の導電性複合材料。
【請求項7】
上記導電性複合材料中における磁性流体の含有量は、9〜26wt%であることを特徴とする請求項2に記載の導電性複合材料。
【請求項8】
上記磁性流体は、ケロシンベースの磁性流体であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の導電性複合材料。
【請求項9】
上記弾性高分子材料は、シリコーン系ゴムを含むことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の導電性複合材料。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか1項に記載の導電性複合材料を検出部に用いたことを特徴とする感圧センサー。
【請求項11】
請求項1乃至9のいずれか1項に記載の導電性複合材料を接点に用いたことを特徴とする感圧スイッチ。
【請求項12】
磁性流体中にNi粉末とCu粉末を分散させてなる磁気混合流体とシリコーン系ゴムとの混合物を磁場の存在下で硬化させることによって得られる導電性複合材料。
【請求項13】
磁性流体とNiとCuを含有する磁気混合流体を提供する工程と、前記磁気混合流体を液状の弾性高分子材料と混合する工程と、得られた混合物を磁場の存在下で硬化させる工程とを含むことを特徴とする導電性複合材料の製造方法。
【請求項14】
上記硬化工程は、上記混合物の厚みが1mm以下になるようにシート状に保持し、対向する永久磁石の間に配置して実施されることを特徴とする請求項13に記載の導電性複合材料の製造方法。
【請求項15】
上記Niは、平均長が3〜7μmの細長形状のNi粉末であり、上記Cuは、平均長が8〜10μmの樹枝状のCu粉末であることを特徴とする請求項13もしくは14に記載の導電性複合材料の製造方法。

【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図17】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2008−258153(P2008−258153A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−59444(P2008−59444)
【出願日】平成20年3月10日(2008.3.10)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2007年9月25日 日本実験力学会発行の日本実験力学会誌 「実験力学」 2007 Vol.7,No.3 に発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度、文部科学省、都市エリア産学官連携促進事業(発展型)委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(505089614)国立大学法人福島大学 (34)
【Fターム(参考)】