説明

導電性黒色めっき鋼板

【課題】 導電性を有し溶接が可能でかつ、熱放射性にも優れためっき鋼板を提供する。
【解決手段】 鋼板上に暗色化した亜鉛めっき層を形成させてなる暗色めっき鋼板めっき鋼板とし、この暗色めっき鋼板に薄膜の黒色皮膜を被覆して導電性黒色めっき鋼板とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性を有する熱放射性に優れためっき鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
家電製品や事務用機器などの外装材として用いられる鋼板において、美観上の観点から表面を黒色化した鋼板が求められ、さらに溶接性を有することも求められる。表面を黒色化し、溶接が可能な鋼板としては、主として亜鉛や亜鉛合金をめっきした鋼板上に、カーボンブラックなどの黒色顔料を含む樹脂皮膜を形成したものが用いらるが、黒色顔料を含む樹脂皮膜を形成することにより十分な黒色を発現させるためには黒色皮膜の厚さを大きくする必要があるが、皮膜厚さが大きくなると皮膜の導電性が低下して溶接が不可能になるという欠点があった。また、最近では家電製品や事務用機器においては、内部回路を保守する観点から、機器内部に発生する熱を放出させるために、外装用の鋼板として熱放射性に優れたものも求められるようになってきている。
【0003】
この欠点を補うために、特許文献1は、有機皮膜中にカーボンブラックと一定範囲の粒径を有する固形潤滑剤を含有させ、かつ有機皮膜の厚さと固形潤滑剤の平均粒径の比を一定範囲とした皮膜を亜鉛めっき鋼板や亜鉛系合金めっき鋼板に被覆することにより、一定範囲の明度L値を有するダークグレーの均一で美麗な外観を有する表面処理鋼板を提案している。
【0004】
また特許文献2は、L値が56以下であるグレーの色調を有する合金亜鉛めっき鋼板などの金属板にカーボンブラックのみを含有する黒色皮膜を被覆した黒色金属板を提案している。しかしこれらの表面処理鋼板や黒色金属板は色調がグレーではあるものの、L値が高いため、所望の黒色度を得るためには亜鉛系合金めっき鋼板などの色調を隠蔽するために被覆する黒色皮膜の厚さをある程度まで厚くせざるを得ず、導電性が不十分となるので十分な溶接性を得ることができない。
【特許文献1】特開平07−034260号公報
【特許文献2】特開2001−009966号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、導電性を有するとともに熱放射性にも優れためっき鋼板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記問題点を解決するために、黒色樹脂を被覆する原板である亜鉛めっき鋼板のめっき層を暗色化して黒色めっき鋼板とし、この黒色めっき鋼板に薄膜の黒色皮膜を被覆することにより、薄膜でも十分な黒色を呈して優れた導電性を示して溶接が可能であり、かつ放射率が高く優れた熱放射性を有する鋼板が得られることを見出し、本発明に到達したものである。
すなわち、上記目的を達成する本発明の導電性黒色めっき鋼板は、鋼板上に下から順に、亜鉛−コバルト−モリブデン合金めっき層または亜鉛−コバルト−タングステン合金めっき層、ジルコニウム系化成処理皮膜層、黒色顔料を含有する水系樹脂皮膜層を形成してなる、導電性黒色めっき鋼板(請求項1)であり、
上記(請求項1)の導電性黒色めっき鋼板において、前記亜鉛−コバルト−モリブデン合金めっき層または亜鉛−コバルト−タングステン合金めっき層のL値が50以下であること(請求項2)を特徴とし、また
上記(請求項1または2)の導電性黒色めっき鋼板において、前記水系樹脂皮膜層がさらにシリカを含有すること(請求項3)を特徴とし、また
上記(請求項1〜3)のいずれか導電性黒色めっき鋼板において、前記黒色顔料が微細炭素質である(請求項4)を特徴とし、また
上記(請求項1〜4)のいずれかの導電性黒色めっき鋼板において、前記水系樹脂皮膜層の厚さが0.1〜1.2μmであること(請求項5)を特徴とし、また
上記(請求項1〜5)のいずれかの導電性黒色めっき鋼板において、前記水系樹脂がディスパージョンタイプの水系樹脂を用いてなる水系ウレタン樹脂あること(請求項6)を特徴とし、また
上記(請求項1〜6)のいずれかの導電性黒色めっき鋼板において、 放射率が0.5以上であること(請求項7)を特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の導電性黒色めっき鋼板は、亜鉛めっき鋼板のめっき層を暗色化して黒色めっき鋼板とし、この黒色めっき鋼板に薄膜の黒色皮膜を被覆したものであり、黒色皮膜が薄いために優れた導電性を示し溶接が可能であり、また薄膜でも十分な黒色を呈するために放射率が高く優れた熱放射性を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の内容を説明する。本発明においては溶接可能な優れた導電性を得るために、亜鉛めっき鋼板上に被覆する黒色皮膜を可能な限り薄膜化しつつ、十分な黒色を呈して優れた熱放射性を可能とすることを目的として、鋼板上にめっきする亜鉛めっき層を暗色化することにより、上記目的を達成した。すなわち、黒色皮膜を被覆する下地のめっき鋼板として、電気めっき法を用いて亜鉛−コバルト−モリブデン合金めっき層または亜鉛−コバルト−タングステン合金めっき層を被覆する際に、通常は光沢剤としてめっき浴中に含有させる有機物質を一定範囲の量で含有させためっき浴を用いてめっきすると、明度指数L値(以下、簡略にするため単にL値という)が50以下である暗色のめっき皮膜が得られることを見出した。
【0009】
亜鉛−コバルト−モリブデン合金めっき層または亜鉛−コバルト−タングステン合金めっき層を形成させるめっき浴としては、公知の硫酸亜鉛、硫酸コバルト、モリブデン酸アンモニウムまたはタングステン酸アンモニウムを含有する水溶液に、光沢剤として有機窒素化合物を含有させたものを用いる。これらのめっき浴を用いて鋼板上に亜鉛−コバルト−モリブデン合金めっき層または亜鉛−コバルト−タングステン合金めっき層を形成させると、めっき浴中の有機窒素化合物の含有量によってL値が異なるめっき皮膜が得られるが、本発明においてはL値が50以下のめっき皮膜を有する暗色のめっき鋼板を下記に示す黒色皮膜を被覆する下地として用いる。L値が50を超えると目的とする黒色および放熱性を得るためには黒色皮膜の厚さを厚くする必要があるが、皮膜が厚くなると導電性が不良となり溶接が不可能となる。めっき量としては3〜30g/mであることが好ましい。3g/m未満ではめっき下地の鋼板の光沢面を十分に隠蔽できない。30g/mを超えると隠蔽効果は飽和し、経済的に不利となる。
【0010】
次いで上記のL値が50以下である暗色の亜鉛−コバルト−モリブデン合金めっき層または亜鉛−コバルト−タングステン合金めっき層上に、ジルコニウム系の化成処理皮膜層を形成させる。化成処理皮膜層はめっき鋼板と黒色皮膜の密着性、特に加工密着性を向上させるために設ける。加工密着性の観点からはクロム系の化成処理皮膜層を設けることが好ましいが、作業環境や使用環境の観点からはジルコニウム系の化成処理などの非クロム系の化成処理による皮膜層を設けることが好ましい。ジルコニウム系の化成処理皮膜層を形成させる場合は、皮膜量としては蛍光X線法を用いて測定されるZr量として0.1〜10mg/mであることが好ましく、0.5〜3mg/mであることがより好ましい。0.1mg/m未満および10mg/mを超える場合は加工密着性が不良となり、好ましくない。
【0011】
このようにして得られる化成処理皮膜層を形成させた暗色めっき鋼板上に黒色皮膜層を形成させて、本発明の導電性黒色めっき鋼板とする。黒色皮膜層は、アクリル樹脂やウレタン樹脂などの水系樹脂溶液に黒色顔料を含有させたものを、上記の暗色めっき鋼板上に塗布し乾燥することにより形成させる。水系樹脂溶液としてはエマルジョンタイプやディスパージョンタイプのものがあるが、黒色顔料を均一に分散させる観点からディスパージョンタイプの水系樹脂を用いることが好ましい。樹脂濃度としては固形部分として10〜50%であることが好ましい。これらの水系樹脂溶液に含有させる黒色顔料としては、皮膜形成させる黒色皮膜に導電性を付与するものであり、天然黒鉛、人造黒鉛などの炭素質粉末が好ましく、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラックなどの微細炭素質を用いることがより好ましい。これらの微細炭素質は固形分として25〜30%含有する水分散液として水系樹脂溶液に含有させるが、含有量としては樹脂濃度にもよるが、樹脂100重量部に対して微細炭素質5〜30重量部であることが好ましい。5重量部未満では皮膜の導電性が乏しく、溶接性が不良となる。30重量部を超えると皮膜の可撓性が乏しくなり、曲率半径の小さな折り曲げ加工を施した場合に、皮膜にクラックが生じやすくなる。また、皮膜の耐食性や耐疵付性を向上させるためにシリカを含有させてもよいし、皮膜の滑り性を向上させるために4フッ化フルオロエチレンやポリエチレンワックスなどの潤滑剤を含有させてもよい。シリカや潤滑剤の配合量は、5〜35重量%の範囲にあることが好ましい。
【0012】
このようにして水系樹脂水溶液に黒色顔料、または必要に応じてさらにシリカやフッ化物を含有させてなる溶液を、ロールコート法、スプレーコート法、浸漬コート法などいずれかの公知の塗布方法を用いて上記の暗色めっき鋼板表面に塗布し乾燥させ、黒色皮膜を形成させる。乾燥後の黒色樹脂皮膜の厚さは0.1〜1.2μmであることが好ましい。0.1μm未満では十分な耐食性が得られない。一方、1.2μmを超えるとコスト上のメリットが失われるだけでなく、十分な導電性及び熱放射性が得られない。
【0013】
上記のようにして得られ本発明の導電性黒色めっき鋼板は、熱放射率が0.5以上であることが好ましい。熱放射率を0.5以上とすることにより、発熱体を有する機器の外装材に適用した場合に優れた放熱性が得られる。
【実施例】
【0014】
以下、実施例を示して本発明をさらに詳細に説明する。
[供試板の作成]
冷延鋼板(板厚0.3mm)をめっき基板として、アルカリ液中で電解脱脂し、次いで硫酸酸洗して水洗した後、下記に示すめっき浴を用い、めっき浴中の光沢剤(有機窒素化合物)の含有量を変化させ、表1に示すめっき量とL値を有する亜鉛−コバルト−モリブデン合金めっき層または亜鉛−コバルト−タングステン合金めっき層を形成させた。次いで下記に示すジルコニウム系の化成処理溶液を用いてめっき層上に表1に示す皮膜量の化成処理皮膜層を形成させ、めっき番号A1〜A4、B1〜B4で示す樹脂皮膜被覆下地めっき鋼板とした。
【0015】
<亜鉛−コバルト−モリブデン合金めっき浴>
浴組成 硫酸亜鉛 230g/L
硫酸コバルト 30g/L
モリブデン酸アンモニウム 0.05g/L
硫酸アンモニウム 35g/L
硫酸ナトリウム 25g/L
光沢剤(有機窒素化合物) 0〜3mL/L
浴温度 40℃
pH 2.7〜3.7
電流密度 20A/dm
【0016】
<亜鉛−コバルト−タングステン合金めっき浴>
浴組成 硫酸亜鉛 230g/L
硫酸コバルト 30g/L
タングステン酸アンモニウム 1g/L
硫酸アンモニウム 35g/L
硫酸ナトリウム 25g/L
光沢剤(有機窒素化合物) 0〜3mL/L
浴温度 40℃
pH 3.2〜4.3
電流密度 20A/dm
【0017】
<ジルコニウム系化成処理溶液>
浴組成 パーレン(日本パーカライジング(株)製) 7.5重量%
浴温度 40℃
【0018】
【表1】

【0019】
次いでディスパージョンタイプの水系ウレタン樹脂(固形分30%)の単独溶液、またはこの水系ウレタン樹脂の単独溶液にカーボンブラック、シリカ、4フッ化フルオロエチレンのいずれか1種または2種以上を含有させてなる溶液を、表1に示した樹脂皮膜被覆下地めっき鋼板にロールコートし、次いで誘導加熱オーブンを用いて急速加熱乾燥し、表2に示す皮膜組成と皮膜厚さを有する黒色皮膜を形成させて試料番号1〜12で示す供試板を作成した。
【0020】
【表2】

【0021】
[特性評価]
以上のようにして作成した試料番号1〜12で示す供試板の特性を、以下のようにして評価した。
【0022】
<L値>
亜鉛−コバルト−モリブデン合金めっき後または亜鉛−コバルト−タングステン合金めっき後のめっき鋼板の表面を、分光測色計(MODEL CM−3500d ミノルタ(株)製)を用いてL値を測定した。
【0023】
<加工密着性>
72時間の塩水噴霧試験(SST)を施した供試板に張出高さ10mmでエリクセン張出加工を施し、突出部にスコッチテープを貼付けて強制剥離した後の黒色皮膜の剥離の有無を肉眼観察し、下記の基準加工密着性を評価した。
○:剥離は認められない
×:剥離が認められる。
【0024】
<耐食性>
塩水噴霧試験(SST)を施した供試板の表面を肉眼観察し、面積率5%白錆が発生するまでの時間を求め、下記の基準で耐食性を評価した。耐食性は面積率5%白錆が発生するまでの時間が120時間以上(下記評価基準では◎と○に相当する)を合格とした。
◎:140時間以上
○:120時間以上でかつ140時間未満
×:120時間未満
【0025】
<導電性>
低抵抗率計(ロレスタGP MCP−T600(三菱化学(株)製)を用い、JIS K 7194に準拠して供試板および供試板に用いた冷延鋼板の抵抗値を測定し、冷延鋼板の抵抗値と供試板の抵抗値に差がない場合を導電性良好(○)、冷延鋼板の抵抗値よりも供試板の抵抗値が大きい場合を導電性不良(×)と評価した。
【0026】
<熱放射性>
放射率計(AERD放射率計(DEVICES & SERVICES COMPANY製))を用いて供試板の放射率を測定し、下記の基準で熱放射性を評価した。熱放射性は熱放射率が0.5以上(下記評価基準で◎と○に相当する)を合格とした。
◎:放射率≧0.6
○:放射率≧0.5でかつ<0.6
×:放射率<0.5
これらの特性評価結果を表3に示す。
【0027】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の導電性黒色めっき鋼板は、亜鉛めっき鋼板のめっき層をL値が50以下となるように暗色化して黒色めっき鋼板とし、この黒色めっき鋼板に1.2μm以下の薄膜の黒色皮膜を被覆したものであり、黒色皮膜が薄いために原板の冷延鋼板と同等の優れた導電性を示し、また薄膜でも十分な黒色を呈するために放射率が0.5以上と高く、優れた熱放射性を示す。そのため、溶接性が要求される用途や放熱性を要求される用途に好適に適用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板上に下から順に、亜鉛−コバルト−モリブデン合金めっき層または亜鉛−コバルト−タングステン合金めっき層、ジルコニウム系化成処理皮膜層、黒色顔料を含有する水系樹脂皮膜層を形成してなる、導電性黒色めっき鋼板。
【請求項2】
前記亜鉛−コバルト−モリブデン合金めっき層または亜鉛−コバルト−タングステン合金めっき層のL値が50以下である、請求項1に記載の導電性黒色めっき鋼板。
【請求項3】
前記水系樹脂皮膜層がさらにシリカを含有する、請求項1または2に記載の導電性黒色めっき鋼板。
【請求項4】
前記黒色顔料が微細炭素質である、請求項1〜3のいずれかに記載の導電性黒色めっき鋼板。
【請求項5】
前記水系樹脂皮膜層の厚さが0.1〜1.2μmである、請求項1〜4のいずれかに記載の導電性黒色めっき鋼板。
【請求項6】
前記水系樹脂がディスパージョンタイプの水系樹脂を用いてなる水系ウレタン樹脂ある、請求項1〜5のいずれかに記載の導電性黒色めっき鋼板。
【請求項7】
放射率が0.5以上である、請求項1〜6のいずれかに記載の導電性黒色めっき鋼板。

【公開番号】特開2006−291279(P2006−291279A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−113010(P2005−113010)
【出願日】平成17年4月11日(2005.4.11)
【出願人】(390003193)東洋鋼鈑株式会社 (265)
【Fターム(参考)】