説明

小麦乳酸発酵物

【課題】栄養価の高い穀類素材から、風味や食感に優れた食品品質改良剤として有用な食品素材を簡便に得る方法を提供すること。
【解決手段】(1)食物繊維を含む小麦素材を乳酸発酵させたことを特徴とする小麦乳酸発酵物、(2)小麦素材が、食物繊維を3重量%以上含むものである1記載の小麦乳酸発酵物、(3)小麦素材が、小麦粒、小麦全粒粉又は小麦ふすま由来のものである1記載の小麦乳酸発酵物、(4)小麦乳酸発酵物が、食物繊維を含む小麦素材の乳酸発酵物を加熱処理し、必要により、粉末化したものである1記載の小麦乳酸発酵物、(5)加熱処理が、75〜150℃で行われるものである4記載の小麦乳酸発酵物、(6)乳酸菌として、ラクトバチルス(Lactobacillus)属及び/又はラクトコッカス(Lactococcus)属であり、麦類の皮部に作用する乳酸菌を用いたものである1記載の小麦乳酸発酵物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小麦乳酸発酵物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
小麦食品であるパン類や菓子類は、風味や食感等が最も重要な品質であるので、風味や食感等の品質を向上する方法について、多くの研究がなされている。
パン類の風味は、イースト(例えばパン酵母)を用いる生地の発酵過程で生地中に生成・蓄積するアルコール類、有機酸類、エステル類、アミノ酸類など代謝産物、及びこれら代謝産物が焼成過程で小麦粉成分と反応して生成する物質が風味に寄与しているものとされている。
【0003】
パン類等の品質改良法としては、イーストの菌株を自然界から選択する方法、低温長時間発酵など発酵条件を工夫する方法、乳酸菌を利用する方法等が採用されている。
乳酸菌を利用する方法としては、例えば、(1)純粋培養の乳酸菌ラクトバチルス サンフランシスコを小麦粉と食塩及び水からなる混合物に接種して培養したものを食パンの製造時に添加することを特徴とする食パンの製造及び品質の改良法(特許文献1)、(2)ホップ汁、モルトエキストラクト及び小麦粉の混合物を培養基質として乳酸菌を発酵培養した乳酸菌発酵物をパン製造時に添加する事を特徴とするパンの製造方法(特許文献2)、(3)シスチンまたはメチオニンおよび乳酸菌を生地に添加混捏し、次いで発酵および焼成を行うことを特徴とする、パン類の製造法(特許文献3)、(4)小麦粉を主成分とし、イーストを含む生地中で、リンゴ酸を代謝し、乳酸の蓄積を増大させる能力を有する乳酸菌を、生地中に10個/g(生地)以上、存在せしめて生地熟成を進めることを特徴とするパン類の製造法(特許文献4)、(5)小麦粉と水からなる培地で乳酸菌を培養して得られた乳酸菌培養物を含む生地から作成した焼菓子であって、前記乳酸菌がLeuconostoc cremorisであることを特徴とする乳酸菌により発酵処理された小麦粉を使用する焼菓子(特許文献5)、(6)少なくとも、乳酸菌を含有する元種、ライ麦およびロースト小麦粉とを、適当な水存在下で発酵したサワー香味剤(特許文献6)、(7)パンの製造に当たり、乳酸菌の中からアルコール耐性菌を選択し、該乳酸菌の一種又は二種以上を用い生地熟成を行うことを特徴とするパン類の製造法(特許文献7)等が挙げられる。
【0004】
【特許文献1】特開昭52−143241号公報
【特許文献2】特公昭57−17496号公報
【特許文献3】特公昭63−63170号公報
【特許文献4】特開平1−128741号公報
【特許文献5】特開平5−76272号公報
【特許文献6】特公平6−53050号公報
【特許文献7】特公平7−93857号公報
【0005】
しかし、特許文献1は特定の乳酸菌(ラクトバチルス サンフランシスコ)を用いる点、特許文献2は特定の培養基質(ホップ汁、モルトエキストラクト及び小麦粉の混合物)を用いる点、特許文献3は乳酸菌とともにシスチンまたはメチオニンを併用している点、特許文献4はイーストを含む生地中で、特定の乳酸菌(リンゴ酸を代謝し、乳酸の蓄積を増大させる能力を有する乳酸菌)を用いている点、特許文献5は特定の乳酸菌(Leuconostoc cremoris)用いている点、特許文献6は特定の原料(乳酸菌を含有する元種、ライ麦およびロースト小麦粉)を用いている点、特許文献7は特定の乳酸菌(アルコール耐性菌)を用いている点において、何れも、小麦粉の外に、特定の成分を併用したり、特定の乳酸菌を用いている点において、汎用性や簡便性の点で十分とは言えない。また、これらの技術は、パン類等の品質改良を目的としたものであって、食物繊維の多い小麦全粒粉や小麦ふすま等の改良を目的としたものではなく、食物繊維の少ない小麦粉を使用する場合には有効であっても、食物繊維を多く含む小麦粉、小麦全粒粉、及び小麦ふすま等の風味や食感等の改良には不十分である。
【0006】
一方、近年では、健康志向の高まりから、食物繊維等の強化を目的として、小麦全粒粉や小麦ふすま等の皮部を多く含む素材が製パン・製菓へ使用されるようになってきた。しかし、皮部を多く含む素材は、特有の穀物臭を持つばかりか、食感が非常に悪いために、製パン・製菓等へ使用した場合に、パンや菓子等の風味や食感を著しく損ねることから、利用範囲が制限されて広く普及することに至っていない。
穀物臭対策としては、添加物を使用してマスキングする方法が考えられるが、そのような添加物の使用によって、パンや菓子等の本来の風味が失われることも多く、必ずしも有効な手段ではない。また、添加物の使用にあたっては、安全性等にも十分配慮する必要があり、添加物の使用は、健康志向に沿った商品には向いていない。
皮部を多く含む小麦全粒粉や小麦ふすま等の食感を、食物繊維を十分に保持した状態で改善する方法については未だ有効な手段がないのが実状である。
以上のことから、栄養価の高い穀類素材から、風味や食感に優れた食品素材を簡便に得る方法の開発が待たれている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、栄養価の高い穀類素材から、風味や食感に優れた食品品質改良剤として有用な食品素材を簡便に得る方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決するため鋭意研究を重ねたところ、特定の小麦由来の乳酸発酵物の加熱処理物は優れた特性を有することを知り、更に研究を重ねた結果、本発明を完成した。
本発明は、以下の発明から構成されるものである。
1 食物繊維を含む小麦素材を乳酸発酵させたことを特徴とする小麦乳酸発酵物。
2 小麦素材が、食物繊維を3重量%以上含むものである上記1記載の小麦乳酸発酵物。
3 小麦素材が、小麦粒、小麦全粒粉又は小麦ふすま由来のものである上記1又は2記載の小麦乳酸発酵物。
4 小麦乳酸発酵物が、食物繊維を含む小麦素材の乳酸発酵物を加熱処理し、必要により、粉末化したものである上記1、2又は3記載の小麦乳酸発酵物。
5 加熱処理が、75〜150℃で行われるものである上記4記載の小麦乳酸発酵物。
6 加熱処理が、水分の存在下に行われるものである上記4又は5記載の小麦乳酸発酵物。
7 乳酸菌として、ラクトバチルス(Lactobacillus)属及び/又はラクトコッカス(Lactococcus)属であり、麦類の皮部に作用する乳酸菌を用いたものである上記1、2、3、4、5又は6記載の小麦乳酸発酵物。
8 乳酸菌として、ラクトバチルス ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)、ラクトバチルス プランタラム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバチルス カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバチルス ブレビス(Lactobacillus brevis)、ラクトコッカス ラクティス(Lactococcus lactis)の群からなる1種又は2種以上の乳酸菌を用いたものである上記7記載の小麦乳酸発酵物。
9 小麦乳酸発酵物が、バター風味を有することを特徴とする上記1、2、3、4、5、6、7又は8記載の小麦乳酸発酵物。
10 小麦乳酸発酵物が、γ−アミノ酪酸を含むことを特徴とする上記1、2、3、4、5、6、7、8又は9記載の小麦乳酸発酵物。
11 上記1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10記載の小麦乳酸発酵物を有効成分とする食品用品質改良剤。
12 上記11記載の食品用品質改良剤を含有する食品。
13 食品が、パン又は菓子である上記12記載の食品。
【0009】
本発明の乳酸発酵物は、食物繊維を含む小麦素材、例えば、小麦粒(小麦全粒粉)又は小麦ふすま由来の乳酸発酵物からなるものであって、優れた食品特性を有するので、食品用品質改良剤として最適である。
本発明は、栄養価が高く、安全性に問題がなく、栄養価の高い素材でありながら、その特有の穀物臭や食感のため、その利用が制限されている食物繊維を含む小麦素材、例えば、小麦粒(小麦全粒粉)又は小麦ふすまから、優れた特性の食品素材を簡便に得た点において、極めて価値が高いものである。
【0010】
本発明は、以下の知見に基づいてなされたものである。
1.食物繊維を含む小麦素材は、例えば、小麦ふすまは、食物繊維を40%以上含有し、その他、微量成分として、隣、カリウム、マグネシウム、カルシュウム、鉄、マンガン、亜鉛等のミネラル、又はビタミンBやビタミンE等のビタミンなどを含有している。
また、小麦粒(小麦全粒粉)中に存在する小麦胚芽は、小麦粒に約2%含まれており、小麦が発芽する時に幼根や子葉となる生命の中心であり、動物の卵に勝るとも劣らない栄養の宝庫であると言われているだけに、繊維、蛋白質、ミネラル、ビタミン等の栄養素を多く含有している。
従って、食物繊維を含む小麦素材、例えば、小麦粒(小麦全粒粉)又は小麦ふすま等は、栄養価の高い素材であるから、その利用価値は極めて高いものであるといえる。
2.しかしながら、食物繊維を含む小麦素材、例えば、小麦粒(小麦全粒粉)又は小麦ふすまは、皮部を多く含むため、特有の穀物臭と食感を有することから、利用範囲が制限されて広く普及することに至っていない。
3.このような状況下、食物繊維を含む小麦素材の有効利用について、研究を重ねたところ、食物繊維を含む小麦素材の乳酸発酵物が利用できることを知り、更に研究を重ねた結果、該乳酸発酵物、特にその加熱処理物は、意外にも、不快な穀物臭は消え、好ましい発酵風味を呈するとともに、ザラツキ感がなくなって、口溶けのよい良好な食感となり、極めて優れた食味の向上を示し、更には、有用成分が著しく増加することをつきとめ、本発明を完成した。
【0011】
本発明の乳酸発酵物、特にその加熱処理物が、不快な穀物臭がなく、好ましい発酵風味と食感を呈するようになった事由は、以下のとおりであると推察される。
本発明の乳酸発酵物は、その乳酸発酵により不快な穀物臭が除去されるが、特に加熱処理物の場合にその脱臭効果が高くなる。これは、加熱処理により、小麦粒(小麦全粒粉)又は小麦ふすま中の悪臭成分が飛散又は変質除去されるとともに、良好な発酵風味および食感を呈する成分が発現したことによるものと考えられる。
何れにしても、食物繊維を含む小麦素材、例えば、小麦粒(小麦全粒粉)又は小麦ふすま由来の乳酸発酵物、特にその加熱処理物は、不快な穀物臭が消え、好ましい発酵風味と食感を呈する特性を有するものが得られるということは、画期的なことである。
【0012】
以下、本発明を更に詳細に説明する。
本発明の小麦乳酸発酵物は、食物繊維を含む小麦素材の乳酸発酵物からなるものである。
そこで、本発明の構成要件及び用途等について、説明する。
(1)小麦素材
小麦素材としては、食物繊維を3%以上含むもの、例えば、小麦粒(小麦全粒粉)又は小麦ふすま等を使用することができる。
小麦粒としては、そのままの形のもの、又は粉体化した小麦全粒粉のものが、使用可能である。尚、本発明の小麦全粒粉とは、小麦胚芽部分のみを単離した小麦胚芽製品(食物繊維8〜15%程度)を含むものとする。
小麦ふすまとしては、工業的に食用小麦粉を得る製粉工程の副産物として一般的に得られるものを用いることができる。
一般に、小麦ふすまの粒子形状は薄片状であるが、これを適宜粉砕して粒子を細かくして用いることも、造粒して粒子の塊を形成させてから用いることも可能である。
小麦ふすまは、製粉工程から得られるそのままを用いても、蒸煮処理などにより付着菌を殺菌するなどの処理をしてから用いてもかまわない。
小麦粉の中にも、皮部が多く食品用途には不向きな下級粉がある。下級粉は、小麦全粒粉や小麦ふすまと同様に、皮部が多いために穀物臭が強く食感が悪いという欠点を持っていることから、食品以外の飼料用途などに使用されている。このような下級粉を使用することもできる。
【0013】
(2)乳酸菌
乳酸菌としては、ラクトバチルス(Lactobacillus)属及び/又はラクトコッカス(Lactococcus)属であって、麦類皮部に作用する菌株である。
例えば、乳酸菌としては、ラクトバチルス ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)、ラクトバチルス プランタラム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバチルス カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバチルス ブレビス(Lactobacillus brevis)、ラクトコッカス フェルメンタス(Lactobacillus fermentum)、ラクトバチルス デルブルキー(Lactobacillus delbruckii)、ラクトバチルス サケイ(Lactobacillus sakei)、ラクトコッカス ラクチス(Lactococcus lactis)等が挙げられる。
穀物臭の除去には、ラクトバチルス ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)、ラクトバチルス プランタラム(Lactobacillus plantarum)、又はラクトバチルス ブレビス(Lactobacillus brevis)が特に効果的である。また、発酵風味の付与には、ラクトバチルス カゼイ(Lactobacillus casei)が特に効果的である。
これらの2種以上の乳酸菌を併用することもできる。
麦類皮部等の資化性が低く増殖しにくい乳酸菌であっても、ラクトバチルス ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)やラクトバチルス ブレビス(Lactobacillus brevis)などの麦類皮部の資化性が高い乳酸菌を併用することで、十分な効果(食味改善や機能付与)を得られる。
乳酸菌として、少なくとも一種にラクトコッカス ラクティス(Lactococcus lactis)を用いると、食味が改善されて食べ易くなることは勿論、バター風味が付与される。この時、発酵前にクエン酸を添加すると、バター風味が増強され、バター香気成分であるジアセチル、アセトインが有意に増加することが確認された。
また、乳酸菌として、少なくとも一種に、ラクトバチルス ブレビス(Lactobacillus brevis)を用いると、食味が改善されて食べ易くなることは勿論、γ−アミノ酪酸が高濃度で産生されることを確認した。ラクトバチルス ブレビス(Lactobacillus brevis)に加えて、ラクトコッカス ラクティス(Lactococcus lactis)を併用すると、更に、高濃度でγ−アミノ酪酸を産生することも確認した。この時、発酵前にグルタミン酸塩を添加すると、更に多くγ−アミノ酪酸を産生できる。発芽玄米等に含まれるγ−アミノ酪酸は血圧降下作用や精神安定作用など様々な生理機能を有する物質であり、近年有用な健康機能成分として注目されている。
本発明によれば、食物繊維を豊富に含有する小麦素材の口溶けの悪さや穀物臭の除去などの好ましい特性付与に加えて、有用成分であるγ−アミノ酪酸を高濃度(発芽玄米と比較しても10倍以上)に含有する小麦発酵物を得ることができる。
【0014】
(3)発酵方法
先ず、小麦ふすま又は小麦全粒粉と、乳酸菌、乳酸菌を含む混合菌又は乳酸菌製剤、栄養源及び水等の混合物を培養して、前発酵液を調製する。
次いで、得られた前発酵液を用いて、小麦素材、例えば、小麦粒(小麦全粒粉)又は小麦ふすまを乳酸発酵させて、小麦乳酸発酵物を製造する。
原材料の混合には、各種の攪拌機を用いることができるが、加水された原材料混合物の攪拌には負荷がかかるので、攪拌による摩擦熱や攪拌装置の発熱が伝導して原材料が加熱されないようにする。多くの乳酸菌は熱に弱いので、攪拌時の熱によって原材料混合物中の生菌数が減少することを避ける必要がある。従って、低速の攪拌機か冷却機能付きの攪拌機を用いることが望ましい。但し、発酵中には特段撹拌を行わなくてもよい。特に、小麦粒を発酵させる場合には、特別撹拌する必要はない。
更に、微生物にとって利用し易い炭素源として少量の糖を配合すると、発酵が促進される。配合する糖としては、単糖類や少糖類を比較的多く含むものであればよく、製糖工業や澱粉糖化工業の副産物として得られる糖蜜が安価であることから利用し易い。
発酵は、原材料混合物を気密性の袋や容器に入れて行う。発酵に使用する袋や容器は、気密性があって、酸素の透過性がなく、酸に対する耐腐食性があって、微生物の発酵活動を阻害しない材質のものであれば特に限定はされない。発酵に伴ってガスが発生するので、これらの袋や容器には、ガス抜きが容易な開閉口や減圧弁などを備えておくことが必要である。
発酵させる温度は、一般に20〜45℃の範囲が適しているが、使用する乳酸菌の適性により適宜温度を選択する。安定した発酵状態を得るためには、温度制御された恒温室内で発酵させるか、原材料混合物を入れる発酵用容器に温度制御機能を備えることが望ましい。
【0015】
(4)乳酸発酵物の加熱処理
乳酸発酵の乳酸菌として、特定の菌、例えば、ラクトバチルス ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)を用いた場合、特に加熱処理を行わなくてもよいが、通常は、加熱処理を行えば、より一層、小麦素材中の不快な穀物臭が消え、好ましい発酵風味と食感を呈する特性を有するものが得られるので、有利である。
これは、本加熱処理により、不快な穀物臭成分は飛散又は変質するとともに、好ましい発酵風味と食感を呈する特性が付与されたものと考えられる。
本加熱処理は、水の存在下で実施するのがよい。水の存在下で実施すると、本発明の好ましい効果がより一層発現することが期待できる。
加熱処理の温度は、75〜150℃、好ましくは80〜95℃で行うのがよい。
加熱処理の時間は、30分〜2時間行えば、十分に目的が達成される。
【0016】
(5)後処理
乳酸発酵物の加熱処理物は、通常、粒状又はペースト状で得られ、ペースト状の場合は、必要により、乾燥した後、粉砕して、粉体とすることができる。また、粒状やふすまのフレーク状の場合も、必要により、各粘度の粉体とすることができる。粉体とした場合、取り扱い易いため、各種の用途に使用する時に便利である。
【0017】
(6)用途
本発明の加熱乳酸発酵物は、小麦素材由来の繊維や蛋白質、ミネラル、ビタミン等の栄養素が多く含有されているので、極めて栄養価の高いものであり、しかも、小麦素材の有する不快な穀物臭がなくなり、風味や食感が著しく改善されているので、食品添加剤、特に健康食品用として最適である。健康食品用の食品としては、パン類や菓子類などが挙げられる。
【発明の効果】
【0018】
(1)本発明は、栄養価が高く、有用な食品素材でありながら、その特有の穀物臭や食感の悪さのため、その利用が制限されていた小麦素材、例えば、小麦粒(小麦全粒粉)又は小麦ふすまから、優れた特性の食品素材を簡便に得た点において、極めて価値が高いものである。
(2)本発明の加熱乳酸発酵物は、栄養価が高く、品質においても、優れた特性を有するので、食品用品質改良剤、特に健康を指向する食品向けとして最適である。
(3)本発明の加熱乳酸発酵物は、小麦素材由来のものであるから、安全面では問題がない点でも有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、実施例等により更に本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。なお、特に断らない限り、「%」は重量%を意味する。
1.乳酸発酵物の製造
(実施例1)
[前発酵]
水1000gに、ラクトバチルス ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)の市販乾燥末(ローディア社製)1.5g、小麦ふすま(食物繊維44.9%)100g、ブドウ糖10g、酵母エキス10gを配合し、37℃にて26時間培養して、前発酵液を調製した。
[発酵処理]
小麦ふすま1500gに、水6000g、ブドウ糖225g、前発酵液750gを混合し、37℃にて17時間静置して、発酵させて、小麦ふすま乳酸発酵物を得た。
[加熱処理]
得られた乳酸発酵物を、熱風加熱機を使用して、80℃の熱風処理を16時間行って、小麦ふすま乳酸発酵物の加熱処理物を得た。
[粉砕処理]
得られた乳酸発酵物の加熱処理物を、超遠心粉砕機ZM−100(レッチェ社製)を使用して粉砕し、小麦ふすま乳酸発酵物の加熱処理物の粉砕物1.7kgを得た。
【0020】
(実施例2)
[前発酵]
水1000gに、ラクトバチルス ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)の市販乾燥末(ローディア社製)1.5g、小麦ふすま(食物繊維44.9%)100g、ブドウ糖10g、酵母エキス10gを配合し、37℃にて26時間培養して、前発酵液を調製した。
[発酵処理]
小麦ふすま150gに、水600g、ブドウ糖22.5g、前発酵液75gを混合し、37℃にて17時間静置し、発酵させて、小麦ふすま乳酸発酵物を得た。
[加熱処理]
得られた乳酸発酵物を、耐圧容器中で、150℃の加圧蒸気処理を15分間行った後、更に、熱風加熱器を使用して、80℃の熱風処理を16時間行って、小麦ふすま乳酸発酵物の加熱処理物を得た。
[粉砕処理]
得られた乳酸発酵物の加熱処理物を、超遠心粉砕機ZM−100(レッチェ社製)を使用して、粉砕し、小麦ふすま乳酸発酵物の加熱処理物の粉砕物1.7kgを得た。
【0021】
(実施例3)
[前発酵]
水4000gに、ラクトバチルス ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)の市販乾燥末(ローディア社製)6g、小麦全粒粉400g、ブドウ糖40g、酵母エキス40gを配合し、37℃にて24時間培養して、前発酵液を調製した。
[発酵処理]
小麦粒(食物繊維8.8%)25kgに、水15kg、ブドウ糖1kg、前発酵液4kgを混合し、37℃にて24時間静置して、発酵させて、小麦粒乳酸発酵物を得た。
[加熱処理]
得られた乳酸発酵物を、パドルドライヤー(奈良機械製作所製)を使用して、ジャケット温度75〜85℃で6時間加熱処理を行って、小麦粒乳酸発酵物の加熱処理物を得た。
[粉砕処理]
得られた乳酸発酵物の加熱処理物を、パルペライザーAP・1(ホソカワミクロン社製)を使用して、粉砕し、小麦粒乳酸発酵物の加熱処理物の粉砕物25kgを得た。
【0022】
(実施例4)
[前発酵]
水2000gに、ラクトバチルス ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)の市販乾燥末(ローディア社製)3g、小麦ふすま200g、ブドウ糖20g、酵母エキス20gを配合し、35℃にて24時間培養して、前発酵液を調製した。
[発酵処理]
小麦全粒粉100gを、ナイロンポリ袋に採取し、水350g、ブドウ糖18g、前発酵液50gを混合した後、ナイロンポリ袋を密封(シーリング)し、次いで、35℃の水浴中に24時間静置して、発酵させて、小麦全粒粉の発酵液を得た。
[加熱処理]
得られた発酵液を、90〜95℃の湯浴中で1時間加熱して、小麦全粒粉乳酸発酵物の加熱処理物を得た。
[冷却処理]
得られた乳酸発酵物の加熱処理物を、直ちに、流水中で冷却して、ペースト状の小麦全粒粉乳酸発酵物の加熱処理物500gを得た。
【0023】
(実施例5)
[前発酵]
水2000gに、Lactobacillus plantarum Lp−115株の市販乾燥末(ローデイア社)1.5g、小麦ふすま200g、ブドウ糖20g、酵母エキス20gを配合し、35℃にて24時間培養して、前発酵液を調製した。
[発酵処理]
小麦全粒粉100gを、ナイロンポリ袋に採取し、水350g、ブドウ糖18g、前発酵液50gを混合した後、ナイロンポリ袋を密封(シーリング)し、次いで、35℃の水浴中に24時間静置して、発酵させて、小麦全粒粉の発酵液を得た。
[加熱処理]
得られた発酵液を、90〜95℃の湯浴中で1時間加熱して、小麦全粒粉乳酸発酵物の加熱処理物を得た。
[冷却処理]
得られた乳酸発酵物の加熱処理物を、直ちに、流水中で冷却して、ペースト状の小麦全粒粉乳酸発酵物の加熱処理物500gを得た。
【0024】
(実施例6)
[前発酵]
水2000gに、ラクトバチルス ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)の市販乾燥末(ローディア社製)1.5g、Lactobacillus plantarum Lp−115株の市販乾燥末(ローデイア社製)0.75g、ラクトバチルス カゼイ(Lactobacillus casei)163株の市販乾燥末(ダコス社製)10g、小麦ふすま100g、ブドウ糖10g、酵母エキス10gを配合し、35℃にて24時間培養して、前発酵液を調製した。
[発酵処理]
小麦全粒粉100gを、ナイロンポリ袋に採取し、水350g、ブドウ糖18g、前発酵液50gを混合した後、ナイロンポリ袋を密封(シーリング)し、次いで、35℃の水浴中に24時間静置して、発酵させて、小麦全粒粉の発酵液を得た。
[加熱処理]
得られた発酵液を、90〜95℃の湯浴中で1時間加熱して、小麦全粒粉乳酸発酵物の加熱処理物を得た。
[冷却処理]
得られた乳酸発酵物の加熱処理物を、直ちに、流水中で冷却して、ペースト状の小麦全粒粉乳酸発酵物の加熱処理物500gを得た。
【0025】
(実施例7)
[前発酵]
水200gに、Lactococcus lactis ssp.lactis biovar diacetylactisの市販乾燥末(ローディア社製)0.3g、ブドウ糖2g、酵母エキス2g、ペプトン1g、酢酸ナトリウム0.4g、乳化剤0.01g、クエン酸8gを配合し、苛性ソーダ水を用いてpH7に調整した後、25℃にて24時間培養して、前発酵液を調製した。
[発酵処理]
小麦全粒粉(食物繊維10.4%)100gを、ナイロンポリ袋に採取し、水360g、ブドウ糖18g、前発酵液40gを混合した後、ナイロンポリ袋を密封(シーリング)し、次いで、25℃の水浴中に24時間静置して、発酵させて、小麦全粒粉の発酵液を得た。
[加熱処理]
得られた発酵液を、90〜95℃の湯浴中で1時間加熱して、小麦全粒粉乳酸発酵物の加熱処理物を得た。
[冷却処理]
得られた乳酸発酵物の加熱処理物を、直ちに、流水中で冷却して、ペースト状の小麦全粒粉乳酸発酵物の加熱処理物500gを得た。
【0026】
(実施例8)
[前発酵]
水160gに、Lactococcus lactis ssp.lactis biovar diacetylactisの市販乾燥末(ローディア社製)0.1g、小麦全粒粉8g、ブドウ糖1.6g、酵母エキス1.6g、グルタミン酸ナトリウム3gを配合し、30℃にて24時間培養して、前発酵液を調製した。
[発酵処理]
小麦粒(食物繊維8.8%)100gに、前発酵液110gを混合し、30℃にて20時間静置した。その後、ステンレスメッシュを用いて小麦粒を分け、小麦粒乳酸発酵物を得た。
[加熱処理]
得られた乳酸発酵物を、熱風加熱機を使用して、80℃の熱風処理を24時間行って、小麦粒乳酸発酵物の加熱処理物を得た。
[粉砕処理]
得られた乳酸発酵物の加熱処理物を、コーヒーミルを使用し、目開き500μmのステンレス篩を用いて篩い分けながら、発酵物の9割以上が篩下となるまで粉砕して、小麦粒乳酸発酵物の加熱処理物の粉砕物95gを得た。
【0027】
(実施例9)
[前発酵]
水160gに、Lactobacillus brevis Lbr−35株の市販乾燥末(ローディア社製)0.1g、小麦全粒粉8g、ブドウ糖1.6g、酵母エキス1.6g、グルタミン酸ナトリウム3gを配合し、30℃にて24時間培養して、前発酵液を調製した。
[発酵処理]
小麦粒(食物繊維8.8%)100gに、前発酵液110gを混合し、30℃にて20時間静置した。その後、ステンレスメッシュを用いて小麦粉を分け、小麦粒乳酸発酵物を得た。
[加熱処理]
得られた乳酸発酵物を、熱風加熱機を使用して、80℃の熱風処理を24時間行って、小麦粒乳酸発酵物の加熱処理物を得た。
[粉砕処理]
得られた乳酸発酵物の加熱処理物を、コーヒーミルを使用し、目開き500μmのステンレス篩を用いて篩い分けながら、発酵物の9割以上が篩下となるまで粉砕して、小麦粒乳酸発酵物の加熱処理物の粉砕物95gを得た。
【0028】
(実施例10)
[前発酵]
水160gに、Lactobacillus brevis Lbr−35株の市販乾燥末(ローディア社製)0.1g及びLactococcus lactis ssp. lactis biovar diacetylactisの市販乾燥末(ローディア社製)0.1g、小麦全粒粉8g、ブドウ糖1.6g、酵母エキス1.6g、グルタミン酸ナトリウム3gを配合し、30℃にて24時間培養して、前発酵液を得た。
[発酵処理]
小麦粒(食物繊維8.8%)100gに、前発酵液110gを混合し、30℃にて20時間静置した。その後、ステンレスメッシュを用いて小麦粒を分け、小麦粒乳酸発酵物を得た。
[加熱処理]
得られた乳酸発酵物を、熱風加熱器を使用して、80℃の熱風処理を24時間行って、小麦粒乳酸発酵物の加熱処理物を得た。
[粉砕処理]
得られた乳酸発酵物の加熱処理物を、コーヒーミルを使用し、目開き500μmのステンレス篩を用いて篩い分けながら、発酵物の9割以上が篩下となるまで粉砕して、小麦粒乳酸発酵物の加熱処理物の粉砕物95gを得た。
【0029】
(実施例11)
[前発酵]
水160gに、Lactobacillus brevis Lbr−35株の市販乾燥末(ローディア社製)0.1g及びLactococcus lactis ssp. lactis biovar diacetylactisの市販乾燥末(ローディア社製)0.1g、小麦全粒粉8g、酵母エキス1.6g、グルタミン酸ナトリウム3gを配合し、30℃にて48時間培養して、前発酵液を調製した。
[発酵処理]
小麦粒(食物繊維8.8%)100gに、前発酵液80gを混合し、30℃にて24時間静置して、発酵させて、小麦粒乳酸発酵物を得た。
[加熱処理]
得られた乳酸発酵物を、熱風加熱器を使用して、80℃の熱風処理を24時間行って、小麦粒乳酸発酵物の加熱処理物を得た。
[粉砕処理]
得られた乳酸発酵物の加熱処理物を、コーヒーミルを使用し、目開き500μmのステンレス篩を用いて篩い分けながら、発酵物の9割以上が篩下となるまで粉砕して、小麦粒乳酸発酵物の加熱処理物の粉砕物96gを得た。
【0030】
(比較例1)
製粉工場から採取される小麦ふすまを、超遠心粉砕機ZM−100(レッチェ社製)によって粉砕した、小麦ふすまを使用した。
【0031】
(比較例2)
製粉工場から採取される小麦全粒粉を使用した。
【0032】
(比較例3)
[前発酵]
水2000gに、ラクトバチルス ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)の市販乾燥末(ローディア社製)3g、小麦粉200g、ブドウ糖20g、酵母エキス20gを配合し、35℃にて24時間培養して、前発酵液を調製した。
[発酵処理]
小麦粉(食物繊維2.6%)100gを、ナイロンポリ袋に採取し、水350g、ブドウ糖18g、前発酵液50gを混合した後、ナイロンポリ袋を密封(シーリング)し、次いで、35℃の水浴中に24時間静置して、発酵させて、小麦粉の発酵液を得た。
[加熱処理]
得られた発酵液を、90〜95℃の湯浴中で1時間加熱して、小麦粉乳酸発酵物の加熱処理物を得た。
[冷却処理]
得られた乳酸発酵物の加熱処理物を、直ちに、流水中で冷却して、ペースト状の小麦粉乳酸発酵物の加熱処理物500gを得た。
【0033】
<評価1> 乳酸発酵物
実施例1〜9及び比較例1〜3において得られた乳酸発酵物の評価は、パネラー試験により、以下の評価基準で行った。
(評価基準)
1.口溶け
◎:大変良い
○:良い
×:悪い
××:大変悪い
2.穀物臭
◎:全く無い
○:無い
×:少しある
××:かなり有る
3.発酵風味
◎:非常に有る
○:かなり有る
△:少し有る
×:無い
評価結果は、表1に示す。
【0034】
【表1】



Lr:Lactobacillus rhamnosus
Lp:Lactobacillus plantarum
Lc:Lactobacillus casei
Ll:Lactococcus lactis ssp.lactis biovar diacetylactis
Lb:Lactobacillus brevis Lbr−35株
【0035】
表1の結果から、以下のことがいえる。
(1)乳酸発酵物は、小麦ふすまや全粒粉に見られる口溶けの悪さが顕著に低減していた。
これは、皮部が滑らかになって、口内で違和感を与えなくなったためと考えられる。
(2)乳酸発酵物によって、不快な穀物臭が除去されたが、その効果は、乳酸発酵物の加熱処理によって、更に強化される。
(3)乳酸発酵によって、良好な発酵風味が強化されるが、その効果は、乳酸発酵物の加熱処理によって、更に強化される。
(4)複数の乳酸菌を併用すると、上記の効果がより一層強化される。
【0036】
2.食品
(1)パン
パンの製造は、以下の材料及び添加物を用いて行った。
<材料>
小麦粉 990g
食塩 20g
イースト 5g
イーストフード 0.5g
モルトエキス 3g
水 1200g
<添加物>
乳酸発酵物、小麦ふすま、又は小麦全粒粉
【0037】
(実施例12)
イースト以外の上記の材料に、実施例1の乳酸発酵物50gを配合し、1.5分間ミキシングした後、イーストを添加して、7分間ミキシングした。
次に、得られた材料混合物を、温度27℃かつ湿度75%にて90分間発酵させた後、生地を280gに分割して、25分間放置して、発酵物を得た。
次いで、得られた発酵物を、成型後、温度30℃かつ湿度80%にて、1時間静置し(ホイロ)、次いで、上火205℃かつ下火225℃にて30分間焼き上げて(焼成)、パンを得た。
【0038】
(実施例13)
実施例12おいて、実施例1の乳酸発酵物50gの代わりに、実施例3の乳酸発酵物150gを用いた以外は、実施例12と同様に行って、パンを得た。
【0039】
(実施例14)
実施例12において、実施例1の乳酸発酵物50gの代わりに、実施例4の乳酸発酵物150gを用いた以外は、実施例12と同様に行って、パンを得た。
【0040】
(実施例15)
実施例12において、実施例1の乳酸発酵物50gの代わりに、実施例5の乳酸発酵物250gを用いた以外は、実施例12と同様に行って、パンを得た。
【0041】
(実施例16)
実施例12において、実施例1の乳酸発酵物50gの代わりに、実施例6の乳酸発酵物250gを用いた以外は、実施例12と同様に行って、パンを得た。
【0042】
(実施例17)
実施例12において、実施例1の乳酸発酵物50gの代わりに、実施例7の乳酸発酵物250gを用いた以外は、実施例12と同様に行って、パンを得た。
【0043】
(比較例4)
実施例12において、実施例1の乳酸発酵物50gの代わりに、比較例1の小麦ふすま50gを用いた以外は、実施例12と同様に行って、パンを得た。
【0044】
(比較例5)
実施例12において、実施例1の乳酸発酵物50gの代わりに、比較例2の小麦全粒粉150gを用いた以外は、実施例12と同様に行って、パンを得た。
【0045】
<評価2> パン
パンの評価は、パネラー試験により、上記の評価基準1で行った。評価結果は、表2に示す。
【0046】
【表2】


表2の結果から、本発明の乳酸発酵物を用いると、優れた品質のパンを得ることができることが解る。
【0047】
(2)クッキー
クッキーの製造は、以下の材料及び添加物を用いて行った。
<材料>
ショートニング 25.6g
上砂糖 52.0g
重曹 1.0g
スキムミルク 2.5g
食塩 0.84g
小麦粉 90g
<添加物>
小麦粉、小麦全粒紛、又は乳酸発酵物
(比較例6)
先ず、ショートニング、上白糖、重曹を縦型ミキサーにて混合した。
次に、食塩、スキムミルク、水を加えて3分間混合し、更に小麦粉90gを加えて、2分間混合した。
次いで、生地を分割・成型した後、ガスオープンを使用して190℃にて12分間焼成して、クッキーを得た。
焼成から1日後に、テンシプレッサーを使用して、クッキーの物性評価を行った。
【0048】
(実施例18)
比較例6において、小麦粉90gの代わりに、小麦粉45g及び実施例2の乳酸発酵物45gを用いる以外は、比較例6と同様に行った。
【0049】
(比較例7)
比較例6において、小麦粉90gの代わりに、小麦粉45g及び比較例2の小麦全粒粉45gを用いる以外は、比較例6と同様に行った。
【0050】
(実施例19)
比較例6において、水を加えずに、小麦粉90gの代わりに、小麦粉72g及び実施例7の乳酸発酵物40gを用いる以外は、比較例6と同様に行った。
ここで得られたクッキーは、発酵バターを使用していないにも拘わらず、バター風味を呈していた。
【0051】
<評価3> クッキー
クッキーの評価の結果は、表3に示す。
【0052】
【表3】

【0053】
表3の結果から、以下のことがいえる。
(1)小麦全粒粉を使用したクッキーは、ライナーディスタンスがやや大きく降伏点数が多いことからきめがやや粗く硬い傾向にあり、エリア面積が大きく最大応力が大きいことから、割れにくい硬い食感であり、硬くザクザクした食感である。
(2)乳酸発酵物を使用したクッキーは、ライナーディスタンスが小さく降伏点数が少ないことからきめ細やかでソフトであり、エリア面積が小さく最大応力が小さいことから、歯もろく軽い食感であり、サクサクした軽い食感である。
また、作業性からみて、小麦全粒粉を使用したクッキーは、生地がベタ付いて取り扱い難いが、乳酸発酵物を使用したクッキーは、生地のベタ付きがなく、取り扱い易い。
以上のことから、本発明の乳酸発酵物を用いると、優れた品質のクッキーを得ることができることが解る。
【0054】
<評価4> 香気成分
実施例7の発酵物については、官能的にバター風味が認められたので、その香気成分をガスクロマト法により分析した(分析結果は表4に示した)。
分析条件は、以下のとおりである。
カラム:TC−FFAP(GLサイエンス製)
カラム温度:40℃(5分)→170℃(10分)
キャリアガス流量:1.5ml/min
【0055】
【表4】

【0056】
表4及び実施例19の結果から、以下のことがいえる。
(1)実施例7の発酵物には、市販の発酵バターを大幅に上回る、バター香気成分(ジアセチル及びアセトイン)が含まれているため、実施例7の発酵物を製パン又は製菓素材として使用することで、バターを使用しなくても、バター風味の付与されたパンやケーキ等を作ることができる。
従って、バターを使用しないことで、低カロリー化が図れるし、当然のことながら、バター風味を強化したパンやケーキ等を作ることができる。
(2)ジアセチルには、抗菌作用があるので、ペーストのような多加水状態でも、保存性がよいし、また、最終製品に使用することで、保存性の向上が期待できる。
【0057】
<評価5> γ−アミノ酪酸
実施例8、9、10、及び11の発酵物中のγ−アミノ酪酸の分析を、アミノ酸アナライザイー(ニンヒドリン法)を使用して行った。
γ−アミノ酪酸含量は、以下のとおりである。
実施例8 : 20mg/100g
実施例9 :160mg/100g
実施例10:440mg/100g
実施例11:810mg/100g
【0058】
以上の結果から、以下のことがいえる。
(1)γ−アミノ酪酸は、血圧降下作用や精神安定作用等の種々の機能を有する物質であり、有用な健康機能成分として近年注目されているが、γ−アミノ酪酸は、含有量が多いいとされる発芽玄米でも、10〜20mg/100g程度しか含まれていない。
また、γ−アミノ酪酸を豊富に含む製パン・製菓に使用できる小麦素材は未だない。
(2)本発明では、このγ−アミノ酪酸は、実施例8の発酵物には発芽玄米と同等、実施例9の発酵物には発芽玄米の十倍以上、実施例10及び実施例11の発酵物には発芽玄米の数十倍も含まれており、本発明は、健康機能成分であるγ−アミノ酪酸の含有量を大きく増強することができた。
(3)製パン・製菓に適している小麦素材で、100g中に100mg以上という高濃度のγ−アミノ酪酸を含む素材は未だない。
発酵が長時間に及ぶ食品である乳製品、味噌、漬物などの中には、高濃度のγ−アミノ酪酸を含むものはあるが、これらの食品は、通常の製パン・製菓に適用することはできない。
本発明では、短期間(1日〜数日間)の発酵処理によって、食味の悪かった食物繊維を豊富に含む小麦素材を食べ易く改善するとともに、γ−アミノ酪酸を豊富に含む製パン・製菓に適した素材が提供できる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の乳酸発酵物は、栄養価が高く、品質においても、優れた特性を有するので、食品品質改良剤、特に製パン・製菓などの小麦粉製品向けの食品素材として最適である。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
食物繊維を含む小麦素材を乳酸発酵させたことを特徴とする小麦乳酸発酵物。
【請求項2】
小麦素材が、食物繊維を3重量%以上含むものである請求項1記載の小麦乳酸発酵物。
【請求項3】
小麦素材が、小麦粒、小麦全粒粉又は小麦ふすま由来のものである請求項1又は2記載の小麦乳酸発酵物。
【請求項4】
小麦乳酸発酵物が、食物繊維を含む小麦素材の乳酸発酵物を加熱処理し、必要により、粉末化したものである請求項1、2又は3記載の小麦乳酸発酵物。
【請求項5】
加熱処理が、75〜150℃で行われるものである請求項4記載の小麦乳酸発酵物。
【請求項6】
加熱処理が、水分の存在下に行われるものである請求項4又は5記載の小麦乳酸発酵物。
【請求項7】
乳酸菌として、ラクトバチルス(Lactobacillus)属及び/又はラクトコッカス(Lactococcus)属であり、麦類の皮部に作用する乳酸菌を用いたものである請求項1、2、3、4、5又は6記載の小麦乳酸発酵物。
【請求項8】
乳酸菌として、ラクトバチルス ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)、ラクトバチルス プランタラム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバチルス カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバチルス ブレビス(Lactobacillus brevis)、ラクトコッカス ラクティス(Lactococcus lactis)の群からなる1種又は2種以上の乳酸菌を用いたものである請求項7記載の小麦乳酸発酵物。
【請求項9】
小麦乳酸発酵物が、バター風味を有することを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6、7又は8記載の小麦乳酸発酵物。
【請求項10】
小麦乳酸発酵物が、γ−アミノ酪酸を含むことを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6、7、8又は9記載の小麦乳酸発酵物。
【請求項11】
請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10記載の小麦乳酸発酵物を有効成分とする食品用品質改良剤。
【請求項12】
請求項11記載の食品用品質改良剤を含有する食品。
【請求項13】
食品が、パン又は菓子である請求項12記載の食品。





【公開番号】特開2006−191881(P2006−191881A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−8209(P2005−8209)
【出願日】平成17年1月14日(2005.1.14)
【出願人】(000187079)昭和産業株式会社 (64)
【Fターム(参考)】