説明

居眠り判定装置

【課題】運転者の居眠り状態を精度よく判定できる居眠り判定装置を提供する。
【解決手段】居眠り判定装置1では、自車両10の走行路の道路形状がGPS端末5で受信されると共に、ECU6において、自車両10の走行軌跡が算出され、走行軌跡と道路形状との差分値に周波数解析が施される。すなわち、道路形状の影響が除去されて修正操作に起因する周波数成分のみが抽出されるように処理された上で、周波数解析が施されている。従って、かかる周波数解析結果に基づき運転者の居眠り状態が判定されることで、居眠り状態が精度よく判定されることとなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の自車両の運転者における居眠り状態を判定する居眠り判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の居眠り判定装置としては、例えば、特許文献1に記載されたものが知られている。このような居眠り判定装置では、自車両の操舵変位量を周波数解析し、その周波数解析結果に基づき自車両の運転者の覚醒度を判定する
【特許文献1】特許第3997142号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記の居眠り判定装置では、前述のように、操舵変位量を周波数解析するため、場合によっては、その操舵変位量が走行路の道路形状によるものであっても、居眠り状態と誤判定されてしまうおそれがある。
【0004】
そこで、本発明は、運転者の居眠り状態を精度よく判定することができる居眠り判定装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明に係る居眠り判定装置は、自車両の走行路の道路形状に関する情報を取得する取得手段と、自車両の走行軌跡を演算する演算手段と、道路形状と走行軌跡との差分値を周波数解析し、その周波数解析結果に基づいて自車両の運転者の居眠り状態を判定する判定手段と、を備えたことを特徴とする。
【0006】
本発明の居眠り判定装置では、道路形状と走行軌跡との差分値を周波数解析する。そのため、周波数解析結果から道路形状に起因する周波数成分を除去することができる。つまり、運転者が自車両の走行を修正する操作(以下、「修正操作」という)に起因する周波数成分のみを抽出するように処理して、周波数解析を行うことが可能となる。よって、その周波数解析結果に基づき運転者の居眠り状態を判定することで、居眠り状態を精度よく判定することができる。
【0007】
ここで、判定手段は、具体的には、周波数解析結果における周波数成分が所定周波数域にて閾値を超えたとき、運転者が居眠り状態であると判定する場合がある。
【0008】
また、演算手段は、現在までの一定時間内における自車両の車速及びヨーレートの積分値に基づいて、現在までの一定時間内における走行軌跡を演算することが好ましい。このように、車速及びヨーレートを積分することで自車両の走行軌跡を求めると、走行軌跡におけるノイズの悪影響を抑制することが可能となる。
【0009】
また、自車両の車線変更の有無を検出する検出手段と、自車両の運転支援を行う運転支援手段と、をさらに備え、運転支援手段は、検出手段で自車両の車線変更を検出しない場合に、自車両の運転支援を行うことが好ましい。この場合、車線変更に起因する周波数成分のために運転支援手段が誤作動してしまうというのを防止することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、運転者の居眠り状態を精度よく判定することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明において、同一又は相当要素には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0012】
図1は本発明の一実施形態に係る居眠り判定装置を示す概略構成図、図2は図1の居眠り判定装置の処理手順の一例を示すフローチャートである。図1に示すように、本実施形態の居眠り判定装置1は、自動車等の自車両10に搭載され、自車両10の運転者の居眠り状態を判定するものである。
【0013】
この居眠り判定装置1は、自車両10のウィンカの作動状態を検出するウィンカセンサ(検出手段)2と、自車両10の走行状況としての車速を検出する車速センサ3と、自車両10の走行状況としてのヨーレートを検出するヨーレートセンサ4と、自車両10の走行路の道路形状に関する情報を取得するためのナビゲーションシステム端末であるGPS端末(取得手段)5と、を備えている。
【0014】
なお、GPS端末5におけるナビゲーションシステムとしては、通常のGPS(グローバル・ポジショニング・システム)に加え、DGPS(デファレンシャル・グローバル・ポジショニングシステム)を用いてもよい。DGPSを用いる場合、人工衛星からの電波をFM多重放送等で送信された誤差補正データで補正することができるため、1m程度の誤差で自車両10の絶対位置を検出することが可能となる。
【0015】
また、居眠り判定装置1は、例えばCPUやROM等を含むコンピュータを主体として構成されたECU(エレクトリック・コントロール・ユニット)6を備えている。ECU6は、センサ2〜4及びGPS端末5に接続されている。このECU6は、車速センサ3で検出した車速及びヨーレートセンサ4で検出したヨーレートに基づいて自車両10の走行軌跡を演算し、この走行軌跡とGPS端末5で受信した道路形状との差分値を周波数解析する。そして、かかる周波数解析結果に基づいて、自車両10の運転者の意識が低下している意識低下状態としての居眠り状態(以下、単に「居眠り状態」という)を判定する(詳しくは、後述)。
【0016】
このECU6には、判定した判定結果に基づいて自車両10の運転支援を行う運転支援装置(運転支援手段)7が接続されている。ここでの運転支援装置7は、警報音や警報表示等の警報を発令することによって運転者に注意喚起を促す警報手段が用いられている。ちなみに、運転支援装置7としては、ナビゲーションシステムを利用して最寄のパーキングエリアやサービスエリアの場所や当該場所までの距離や時間を報知する手段、及び自車両10のハザードの自動点灯によって周囲車両へ注意喚起を促す手段、等の運転支援に関する種々の手段を用いることができる。
【0017】
以上のように構成された居眠り判定装置1では、まず、車速センサ3で車速度が検出されECU6へ逐次出力されると共に、ヨーレートセンサ4でヨーレートが検出されECU6へ逐次出力される(S1)。そして、ECU6にて、以下の処理が実行され、図3(a)に示すように、現在までの一定時間(例えば、数分)内における走行軌跡Aが演算される(S2)。
【0018】
すなわち、図4に示すように、時刻tにおいての自車両10の車速をV、車両重心点の位置をP(X,Y)、自車両10の進行方向と前後方向とのなす角度をβ、自車両10のX軸に対するヨー角をθとしたとき、下記(1)式が成立する。よって、走行軌跡Aとしての車両重心点軌跡は、下記(2)式で演算されることとなる。ここで、自車両10のヨーレートをrとすると、ヨー角θは下記(3)で得られる。なお、X、Y、θは、それぞれ、t=0での初期値であり、tは任意時間である。
【数1】


【数2】


【数3】

【0019】
続いて、ナビゲーションシステムの地図データがGPS端末5で受信され、図3(b)に示すように、自車両10の走行路の道路形状Bが得られる(S3)。ここでは、地図データにおいて、自車両10の現在位置の情報と、現在位置から所定距離後方までの道路形状Bの情報とがGPS端末5で読み込まれている。
【0020】
続いて、ECU6において、上記S2で得た走行軌跡Aと上記S3で得た道路形状Bとが比較され(図5(a)参照)、走行軌跡Aと道路形状Bとの差分値Cが算出される(S4:図5(b)参照)。そして、算出された差分値Cに対してFFT(Fast Fourier Transform)やウェーブレット変換等の時間−周波数解析が施され、その周波数解析結果に基づいて居眠り状態であるか否かが判定される(S5)。
【0021】
図6は、周波数解析結果の一例を示すグラフである。図中において、横軸が周波数[Hz]を示し、縦軸が周波数成分であるパワースペクトル値[dB]を示している。図6に示すように、運転者が通常の状態にある通常時では、周波数が0.2Hz程度でパワースペクトル値が大きくなる一方、居眠り状態時では、例えば0.1Hz〜0.15Hzの所定周波数域fsにてパワースペクトル値が大きくなることが一般的に知られている。そこで、本実施形態のECU6では、所定周波数域fsにてパワースペクトル値が閾値p0を超えたとき、居眠り状態であると判定される。
【0022】
続いて、居眠り状態であると判定された場合、ウィンカセンサ2で自車両10のウィンカの作動状態が検出され、この作動状態に基づいて自車両10の車線変更の有無が検出される(S6→S7)。そして、自車両10の車線変更が検出されない場合、運転支援装置7が作動されて運転者に対し警報が発令される(S8)。一方、上記S6にて居眠り状態でないと判定された場合、及び上記S7にて自車両10の車線変更が検出された場合、運転支援装置7が非作動とされ、そのまま処理が終了する。
【0023】
以上、本実施形態の居眠り判定装置1では、センサ3,4で得られた走行状況に基づき算出された自車両10の走行軌跡Aと、ナビゲーションシステムの地図情報を利用して得られた道路形状Aと、を比較し、その乖離状態である差分(偏差)値に周波数解析が施されている。すなわち、道路形状Bの影響が除去されて修正操作(修正操舵)に起因する周波数成分のみが抽出されるよう処理された上で、周波数解析が実行されている。従って、かかる周波数解析結果に基づき運転者の居眠り状態を判定する(上記S5)ことで、運転者の状態低下に起因する周波数成分の変化を正確に検知することができ、居眠り状態を精度よく判定することが可能となる。
【0024】
また、本実施形態では、運転者のまぶたの開閉状態を検出するCCDカメラや、自車両10周辺の白線を認識する白線認識用カメラ等を居眠り状態の判定に必要としないため、居眠り判定装置1の簡略化、ひいてはコストダウンが可能となる。
【0025】
また、本実施形態における居眠り状態の判定にあっては、例えば運転者固有の問題(運転者の座高や眼の色、眼鏡やサングラス着用の有無等)、運転者の動作、車内の光環境、自車両10周辺の環境(雨、雪等の天候や路面状況、光環境)等によらないため、本実施形態は特に有効なものといえる。
【0026】
また、本実施形態では、上述したように、現在までの一定時間内における自車両10の車速及びヨーレートの積分値に基づいて走行軌跡Aが演算されている。このように、車速及びヨーレートを積分することで自車両10の走行軌跡Aを求めると、走行軌跡Aにおけるノイズの悪影響を抑制することが可能となる。
【0027】
ここで、自車両10が車線変更を行う場合、走行軌跡Aが道路形状Bと一時的に異なるため、この車線変更に起因する周波数成分が周波数解析結果に含まれ、場合によっては、運転支援装置7が誤作動してしまうおそれがある。この点、本実施形態では、上述したように、自車両10の車線変更が検出された場合には、運転支援装置7が非作動とされる。よって、車線変更に起因する周波数成分のために運転支援装置7が誤作動してしまうのを防止することができる。
【0028】
なお、本実施形態において周波数解析手法としてFFTを採用した場合、ECU6の処理負荷を低減することができる一方、周波数解析手法としてウェーブレット変換を採用した場合、一部分が急峻に立ち上がる/下がるような連続性のない差分値にも好適に適用することができる。
【0029】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【0030】
例えば、上記実施形態では、パワースペクトル値が所定周波数域fsにて閾値p0を超えたとき、居眠り状態であると判定したが、パワースペクトル値が所定周波数域fsにて閾値p0を一定時間内に一定回数以上超えたとき、居眠り状態であると判定してもよい。
【0031】
また、ナビゲーションシステムの地図データをGPS端末5で受信することによって自車両10の走行路が高速道路又は一般道路の何れであるかを判定し、走行路が高速道路と判定したときに上記S1に移行するよう居眠り判定装置1を処理させてもよい。これは、一般道路においては、ナビゲーションシステムの地図情報精度や位置検出精度が低い場合があるためである。
【0032】
なお、以上において、センサ3,4及び走行軌跡Aを演算するECU6が演算手段を構成し、差分値Cを周波数解析して居眠り状態を判定するECU6が判定手段を構成する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の一実施形態に係る居眠り判定装置を示す概略構成図である。
【図2】図1の居眠り判定装置の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【図3】図1の居眠り判定装置の処理を説明するための図である。
【図4】図1の居眠り判定装置による走行軌跡の演算を説明するための図である。
【図5】図1の居眠り判定装置の処理を説明するための他の図である。
【図6】図1の居眠り判定装置による周波数解析結果の一例を示すグラフである。
【符号の説明】
【0034】
1…居眠り判定装置、2…ウィンカセンサ(検出手段)、3…車速センサ(演算手段)、4…ヨーレートセンサ(演算手段)、5…GPS端末(取得手段)、6…ECU(演算手段,判定手段)、7…運転支援装置(運転支援手段)、10…自車両、A…走行軌跡、B…道路形状、C…差分値、fs…所定周波数域、p0…閾値。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両の走行路の道路形状に関する情報を取得する取得手段と、
前記自車両の走行軌跡を演算する演算手段と、
前記道路形状と前記走行軌跡との差分値を周波数解析し、その周波数解析結果に基づいて前記自車両の運転者の居眠り状態を判定する判定手段と、を備えたことを特徴とする居眠り判定装置。
【請求項2】
前記判定手段は、前記周波数解析結果における周波数成分が所定周波数域にて閾値を超えたとき、前記運転者が居眠り状態であると判定することを特徴とする請求項1記載の居眠り判定装置。
【請求項3】
前記演算手段は、現在までの一定時間内における前記自車両の車速及びヨーレートの積分値に基づいて、現在までの前記一定時間内における前記走行軌跡を演算することを特徴とする請求項1又は2記載の居眠り判定装置。
【請求項4】
前記自車両の車線変更の有無を検出する検出手段と、
前記自車両の運転支援を行う運転支援手段と、をさらに備え、
前記運転支援手段は、前記検出手段で前記自車両の車線変更を検出しない場合に、前記自車両の運転支援を行うことを特徴とする請求項1〜3の何れか一項記載の居眠り判定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−102538(P2010−102538A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−273958(P2008−273958)
【出願日】平成20年10月24日(2008.10.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】