説明

工作機械の熱変位補正方法および熱変位補正装置

【課題】工作機械の熱影響による多様な変位状態に対応し、より高精度に熱変位補正が可能な工作機械の熱変位補正方法および熱変位補正装置を提供することを目的とする。
【解決手段】支持体10に設定された少なくとも3箇所の各検査点の熱変位位置を取得する検査点位置情報取得工程60と、各検査点における熱変位位置に基づいて、支持体10の変形形状の近似曲線Cを算出する近似曲線算出工程52と、移動体20の指令位置と近似曲線Cとに基づいて指令位置に対する補正値Rzを算出する補正値算出工程53と、補正値Rzにより移動体20の指令位置を補正する補正工程56とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械における熱変位補正方法および熱変位補正装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械は、制御装置により各駆動軸を位置制御することにより工作物の加工を行っている。この工作機械による加工において、工作機械の熱影響により移動体を支持する支持体が熱変形することがある。支持体の熱変形は、移動体の位置に影響を及ぼすため、加工精度の低下を招来するおそれがある。そこで、例えば、特許文献1には、距離センサによりコラムの傾きを測定して駆動軸の指令位置を補正する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−184077号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の熱変位補正方法では、コラムの根元支持部位から一定の傾斜角をもって傾いた場合の傾斜角を測定できる。しかし、実際には、コラムは一定の傾斜角で傾斜することはないため、従来の熱変位方法を適用したとしても熱変位誤差を生じるおそれがある。
【0005】
本発明は上記課題を鑑みてなされたものであり、より高精度に熱変位補正が可能な工作機械の熱変位補正方法および熱変位補正装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(工作機械の熱変位補正方法)
上記の課題を解決するため、請求項1に記載の工作機械の熱変位補正方法に係る発明の構成上の特徴は、
支持体と、当該支持体に移動可能に支持され指令位置に基づいて前記支持体に対して移動する移動体と、を備える工作機械の熱変位補正方法において、
前記支持体が熱変形した後において、前記支持体に設定された少なくとも3箇所の各検査点の熱変位位置を取得する検査点位置情報取得工程と、
各前記検査点における前記熱変位位置に基づいて、前記支持体が熱変形した後における前記支持体の変形形状の近似曲線を算出する近似曲線算出工程と、
前記移動体の前記指令位置と前記近似曲線とに基づいて前記指令位置に対する補正値を算出する補正値算出工程と、
前記補正値により前記移動体の前記指令位置を補正する補正工程と、
を備えることである。
【0007】
請求項2に記載の発明の構成上の特徴は、請求項1において、
前記検査点位置情報取得工程は、
前記支持体が熱変形する前における各前記検査点の基準斜度に対して、前記支持体が熱変形した後における各前記検査点の熱変位後斜度の斜度変化量を取得する斜度変化量取得工程と、
前記支持体の基準位置から前記支持体が熱変形する前における各前記検査点までの前記支持体の基準長さに対して、前記支持体が熱変位した後における前記基準位置から各前記検査点までの前記支持体の熱変位後長さの熱伸長量を取得する熱伸長量取得工程と、
各前記検査点における前記斜度変化量および前記熱伸長量に基づいて、各前記検査点の前記熱変位位置を算出する熱変位位置算出工程と、
を有することである。
【0008】
請求項3に記載の発明の構成上の特徴は、請求項1において、
前記検査点位置情報取得工程は、
前記支持体が熱変形した後における各前記検査点の熱変位後斜度を取得する熱変位後斜度取得工程と、
前記支持体の基準位置から前記支持体が熱変形する前における各前記検査点までの前記支持体の基準長さに対して、前記支持体が熱変位した後における前記基準位置から各前記検査点までの前記支持体の熱変位後長さの熱伸長量を取得する熱伸長量取得工程と、
前記支持体が熱変形していない状態から前記支持体が熱変形することに伴う各前記検査点の変位軌道を予め設定し、当該変位軌道と取得した前記斜度変化量とに基づいて、各前記検査点の前記熱変位位置を算出する熱変位位置算出工程と、
を有することである
【0009】
請求項4に記載の発明の構成上の特徴は、請求項1において、前記支持体に設定された前記検査点のうち1箇所は、前記支持体が前記工作機械のベッドに支持された支持点であることである。
【0010】
請求項5に記載の発明の構成上の特徴は、請求項2または3において、
前記支持体に設定された前記検査点のうち1箇所は、前記支持体が前記工作機械のベッドに支持された支持点であり、
前記斜度変化量取得工程は、前記支持点における前記斜度変化量を一定値として取得することである。
【0011】
請求項6に記載の発明の構成上の特徴は、請求項2,3,5の何れか一項において、前記熱伸長量取得工程は、各前記検査点に配置された温度センサにより測定される前記支持体の温度に基づいて前記熱伸長量を取得することである。
【0012】
請求項7に記載の発明の構成上の特徴は、請求項2,3,5の何れか一項において、前記熱伸長量取得工程は、各前記検査点に配置された歪みセンサにより測定される前記支持体の歪み量に基づいて前記熱伸長量を取得することである。
【0013】
請求項8に記載の発明の構成上の特徴は、請求項2,3,5の何れか一項において、前記熱伸長量取得工程は、前記工作機械のベッドに配置された距離センサにより測定される前記検査点までの距離に基づいて前記熱伸長量を取得することである。
【0014】
請求項9に記載の発明の構成上の特徴は、請求項1〜8の何れか一項において、前記検査点は、前記支持体に少なくとも4箇所以上に設定されていることである。
請求項10に記載の発明の構成上の特徴は、請求項1〜9の何れか一項において、前記補正値算出工程は、前記移動体の移動方向に垂直な駆動軸の前記指令位置に対する補正値を算出することである。
請求項11に記載の発明の構成上の特徴は、請求項10において、前記補正値算出工程は、前記移動体の移動方向に平行な駆動軸の前記指令位置に対する補正値をさらに算出することである。
【0015】
請求項12に記載の発明の構成上の特徴は、請求項1〜11の何れか一項において、前記工作機械の熱影響は、前記移動体が移動することにより発生する前記支持体の摺動面における熱影響であることである。
【0016】
(工作機械の熱変位補正装置)
上記の課題を解決するため、請求項13に記載の工作機械の熱変位補正装置に係る発明の構成上の特徴は、
支持体と、当該支持体に移動可能に支持され指令位置に基づいて前記支持体に対して移動する移動体と、を備える工作機械の熱変位補正装置において、
前記支持体が熱変形した後において、前記支持体に設定された少なくとも3箇所の各検査点の熱変位位置を取得する検査点位置情報取得手段と、
各前記検査点における前記熱変位位置に基づいて、前記支持体が熱変位した後における前記支持体の変形形状の近似曲線を算出する近似曲線算出手段と、
前記移動体の前記指令位置と前記近似曲線とに基づいて前記指令位置に対する補正値を算出する補正値算出手段と、
前記補正値により前記移動体の前記指令位置を補正する補正手段と、
を備えることである。
【発明の効果】
【0017】
請求項1に係る発明によると、補正量算出工程において算出される補正値は、熱影響により支持体が熱変形した際の変形形状を曲線で近似し、その近似曲線に対応する移動体の指令位置から算出される構成としている。また、移動体を支持する支持体は、工作機械の加工や環境温度の変化などの熱影響により熱膨張して変形する。
【0018】
つまり、支持体に設定されている少なくとも3箇所の検査点は、熱影響による支持体の熱変形に伴い変位することになる。そして、本発明では、各検査点の熱変位位置に基づいて支持体の変形形状を曲線的に求めている。これにより、支持体の変形形状を直線的に求めた場合と比較して、支持体に支持される移動体の指令位置に対応した補正値をより正確に算出することができる。よって、工作機械の熱影響による多様な変位状態に対応し、より高精度に熱変位補正が可能となる。
【0019】
請求項2に係る発明によると、検査点位置情報取得工程は、各検査点の熱変位位置を斜度変化量および熱伸長量に基づいて算出する熱変位位置算出工程を有する構成としている。つまり、斜度変化量取得工程は、支持体が熱変形する前の初期状態において測定される各検査点の基準斜度と、工作機械の加工により支持体が熱変形した後の変形状態において測定される検査点の熱変位後斜度の差分から斜度変化量を算出する。ここで、検査点の斜度は、例えば、検査点に配置された傾斜計などのセンサによって測定される。斜度変化量取得工程は、このように測定された各検査点における基準斜度および熱変位後斜度に基づいて斜度変化量を取得している。
【0020】
また、移動体を支持する支持体は、工作機械の加工や環境温度の変化などの熱影響により熱膨張して変形する。この時、熱膨張した支持体は、熱影響による温度と材質の線膨張率とに応じた熱伸長量で長さが変化している。そこで、熱伸長量取得工程は、支持体の初期状態において測定される基準位置から各検査点までの基準長さと、支持体の変形状態において測定される基準位置から各検査点までの熱変位後長さの差分から熱伸長量を算出する。このようにして算出してそれぞれ取得される斜度変化量および熱伸長量は、工作機械の熱影響により支持体が熱変形して生じたものである。
【0021】
また、熱変位位置算出工程は、この斜度変化量を検査点がどの方向に変位したかを示す変位角度に近似している。この変位角度は、例えば、斜度が水平面に対する傾きとして測定されるものである場合に、変位前後の検査点を通る直線と水平面のなす角である。そして、この変位角度(斜度の変化量)と取得した検査点の熱伸長量から支持体の熱変形に伴いその検査点がどの方向にどれだけ変位したかを算出することができる。そこで、上記構成とすることで、より簡易に検査点の熱変位位置を算出することができる。
【0022】
請求項3に係る発明によると、検査点位置情報取得工程は、各検査点の熱変位位置を変位軌道および熱変位後斜度に基づいて算出する熱変位位置算出工程を有する構成としている。この検査点の変位軌道とは、支持体の熱変形に伴って変位する検査点の軌道である。上述したように、支持体は、材質の線膨張率により熱伸長量が変化するものである。そのため、各検査点を設定された周辺部位における変形形状は、その部位の温度に伴い変化する熱伸長量によって推定することが可能である。
【0023】
そこで、周辺部位の熱変形に伴う検査点の変位軌道を熱伸長量に応じて予め記憶しておく。そして、検査点位置情報取得工程は、熱伸長量取得工程により取得された熱伸長量に対応する変位軌道を取得する。ここで、支持体は、熱影響により曲線的に変形することから各検査点の変位軌道も同様に曲線を描くことになる。そこで、熱変位位置算出工程は、取得した変位軌道上において、取得した検査点の熱変位後斜度を接線とする位置を求め、その接点を検査点の熱変位位置として算出している。これにより、より高精度に検査点の熱変位位置を算出することができる。
【0024】
請求項4に係る発明によると、支持体に設定された検査点のうち1箇所は、支持体が工作機械のベッドに支持された支持点である構成としている。支持体は、工作機械のベッドに対して移動可能または移動不可に支持されている。つまり、支持体は、工作機械の熱影響により変形した場合に、ベッドに支持された支持点を基準に熱変形することになる。よって、この支持点は、熱影響により変位しない検査点として設定することができる。これにより、検査点位置情報取得工程は、支持点である検査点の熱変位位置を簡易に取得することができる。
【0025】
請求項5に係る発明によると、支持体に設定された検査点のうち1箇所は、支持体が工作機械のベッドに支持された支持点であるものとしている。そして、支持点における熱変位後斜度は、一定値として取得される構成としている。上述したように、支持体は、変形する際に、ベッドに支持される支持点を基準に熱変形することになる。この時、支持体が曲線的に熱変形した場合に、変形形状である曲線上における検査点の法線方向は熱変形の前後で変化しないものと考えることができる。これにより、支持点である検査点における熱変位後斜度は、支持体の熱変形の前後において一定値とみなすことができる。よって、斜度変化量取得工程または熱変位後斜度取得工程は、この検査点における熱変位後斜度の測定を省略することができる。
【0026】
請求項6に係る発明によると、熱伸長量取得工程は、検査点に配置された温度センサにより測定される支持体の温度に基づいて熱伸長量を検出する構成としている。また、移動体を支持する支持体は、工作機械の加工や環境温度の変化などの熱影響により熱膨張して変形する。この時、熱膨張した支持体は、熱影響による温度と材質の線膨張率とに応じた熱伸長量で長さが変化している。つまり、支持体の熱変形は、工作機械の熱影響により支持体が熱膨張することに起因している。そして、この熱変形に伴う支持体の熱伸長量は、温度および材質の線膨張率に応じた値である。そこで、例えば、熱伸長量取得工程は、予め線膨張率など支持体の温度に対する膨張特性を記憶しておく。これにより、検査点に配置された温度センサにより測定された温度に基づいて支持体の熱伸長量を算出することができる。
【0027】
請求項7に係る発明によると、熱伸長量取得工程は、検査点に配置された歪みセンサにより測定される支持体の歪み量に基づいて熱伸長量を検出する構成としている。この歪みセンサは、例えば、支持体の伸縮により内部の抵抗値が変化し、この抵抗値の変化により歪み量を測定する歪みゲージとしてもよい。そして、熱伸長量取得工程は、支持体の熱変形に伴う歪み量を測定し、この歪み量から支持体の熱伸長量を検出することができる。
【0028】
請求項8に係る発明によると、熱伸長量取得工程は、工作機械のベッドに配置された距離センサにより測定される検査点までの距離に基づいて熱伸長量を検出する構成としている。支持体は、工作機械の熱影響により変形した場合に、支持されるベッドを基準に熱変形することになる。つまり、基準となるベッドに配置された距離センサにより変位した検査点までの距離を測定することにより、熱変形の前後における支持体の熱伸長量を検出することができる。
【0029】
請求項9に係る発明によると、検査点は、支持体に少なくとも4箇所以上に設定されている構成としている。近似曲線算出工程は、支持体が曲線的に熱変形することから、少なくとも3箇所の検査点の熱変位位置に基づいて近似曲線を算出している。また、この近似曲線算出工程は、例えば、最小自乗法などにより近似曲線を算出する構成とした場合に、4箇所以上の熱変位位置に基づいて2次曲線の近似曲線を算出することができる。これにより、支持体の変形形状により近似した近似曲線を算出することができる。よって、適切な補正値を算出できるので、より高精度に熱変位補正が可能となる。
【0030】
請求項10に係る発明によると、補正値算出工程は、移動体の移動方向に垂直な駆動軸の補正値を算出する構成としている。移動体を支持する支持体は、熱影響により変形する際に、移動体の移動方向を湾曲させるように熱変形することがある。このような場合に、上記構成とすることで、補正工程は、移動体を駆動させる駆動軸に対して直交する駆動軸を補正対象とし、当該駆動軸の指令位置を補正することができる。このように、補正値を反映させることで、適切な熱変位補正を行うことができる。
【0031】
請求項11に係る発明によると、補正値算出工程は、移動体の移動方向に平行な駆動軸の補正値をさらに算出する構成としている。上述したように、支持体の熱変形が移動体の移動方向を湾曲させるように熱変形した場合に、移動体の指令位置も補正する必要が生じることがある。このような場合に、上記構成とすることで、補正工程は、移動体の移動方向に平行な駆動軸、即ち移動体を駆動させる駆動軸を補正対象とし、当該駆動軸の指令位置を補正することができる。このように、補正値を反映させることで、適切な熱変位補正を行うことができる。
【0032】
請求項12に係る発明によると、工作機械の熱影響は、移動体が移動することにより発生する支持体の摺動面における熱影響である構成としている。支持体は、工作機械の加工や環境温度の変化などの熱影響により熱膨張して変形する。特に、支持している移動体が移動することによる発熱が支持体の熱変形に大きく影響している。そこで、工作機械の熱影響を移動体が移動する支持体の摺動面における熱影響とするものとしてもよい。これにより、支持体の変形形状をこの摺動面として曲線近似することができる。よって、摺動面を対象とした補正値を算出し、より適切な熱変位補正を行うことができる。
【0033】
請求項13に係る発明によると、補正量算出手段において算出される補正値は、熱影響により支持体が熱変形した際の変形形状を曲線で近似し、その近似曲線に対応する移動体の指令位置から算出される構成としている。また、移動体を支持する支持体は、工作機械の加工や環境温度の変化などの熱影響により熱膨張して変形する。
【0034】
つまり、支持体に設定されている少なくとも3箇所の検査点は、熱影響による支持体の熱変形に伴い変位することになる。そして、本発明では、各検査点の熱変位位置に基づいて支持体の変形形状を曲線的に求めている。これにより、支持体の変形形状を直線的に求めた場合と比較して、支持体に支持される移動体の指令位置に対応した補正値をより正確に算出することができる。よって、工作機械の熱影響による多様な変位状態に対応し、より高精度に熱変位補正が可能となる。
【0035】
また、本発明の工作機械の熱変位補正方法としての他の特徴部分について、本発明の工作機械の熱変位補正装置に同様に適用可能である。そして、この場合における効果についても、上記工作機械の熱変位補正方法としての効果と同様の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】第一実施形態:工作機械1の全体図である。
【図2】熱変位補正装置50を示すブロック図である。
【図3】コラム10の変形状態を示す側面図である。
【図4】補正値の算出の説明図である。
【図5】図4の一部の拡大図である。
【図6】第二実施形態:熱変位補正装置150を示すブロック図である。
【図7】補正値の算出の説明図である。
【図8】図7の一部の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明の工作機械の熱変位補正方法および熱変位補正装置を具体化した実施形態について図面を参照しつつ説明する。工作機械として、3軸マシニングセンタを例に挙げて説明する。つまり、当該工作機械は駆動軸として、相互に直交する3つの直進軸(X,Y,Z軸)を有する工作機械である。
【0038】
<第一実施形態>
第一実施形態の工作機械1の熱変位補正装置について図1〜図3を参照して説明する。図1は、工作機械1の全体図である。図2は、熱変位補正装置を示すブロック図である。図3は、コラムの変形状態を示す側面図である。
【0039】
(工作機械1の構成)
工作機械1は、図1に示すように、ベッド2と、コラム10(本発明の「支持体」に相当する)と、サドル20(本発明の「移動体」に相当する)と、主軸基体30と、テーブル40と、数値制御装置50(本発明の「熱変位補正装置」に相当する)とを備える。ベッド2は、上面にZ軸方向(床面に平行な方向)のレールが形成され、床面に設置されている。工作物Wは、工作機械1によって加工される被加工部材である。
【0040】
コラム10は、ベッド2の上面に立設するように固定され、サドル20を支持する支持体である。このコラム10が工作機械1の加工や環境温度の変化などの熱影響により変形することから、熱変位補正装置は、コラム10の熱変形に伴うサドル20の熱変位を補正の対象としている。そこで、本実施形態では、図3に示すように、コラム10に3箇所の検査点Pa1,Pb1,Poを設定し、コラム10の熱変形に伴い各検査点の熱変位位置である変位点Pa2,Pb2,Poに基づいて熱変位補正を行うものとしている。
【0041】
この第一検査点Pa1および第二検査点Pb1は、コラム10のY軸方向(床面に対して垂直な方向)の上部付近および中央部付近に設定されている。また、基準検査点Poは、コラム10のY軸方向の下部においてコラム10がベッド2に支持された支持点に設定されている。各検査点の設定および熱変位補正の詳細については後述する。
【0042】
また、コラム10は、熱変位補正を行うために、内部に複数の傾斜計11と、複数の温度センサ12と、レール13を有している。傾斜計11は、コラム10の内部において、コラム10に設定された検査点Pa1,Pb2に対応する2箇所に設置されている。この傾斜計11は、設置された各箇所において、コラム10の傾斜角度を検知して、傾斜角度に応じた信号を後述する数値制御装置70に出力している。
【0043】
温度センサ12は、コラム10の内部において、傾斜計11の配置箇所に加えて、コラム10に設定された基準検査点Poに対応する箇所の3箇所に設置されている。この温度センサ12は、設置された各箇所において、コラム10の温度を検知して、温度に応じた信号を数値制御装置70に出力している。
【0044】
レール13は、コラム10の側面においてY軸方向に延伸するように形成されている。サドル20は、コラム10のレール13上に設けられ、コラム10に対してY軸方向に移動可能な移動体である。このサドル20は、コラム10に固定されたY軸モータ(図示しない)の回転駆動によりY軸方向へ摺動する。本実施形態では、Y軸方向のレール13が形成されたコラム10の側面を、サドル20が摺動するコラム10の摺動面10aとしている。またサドル20は、側面にX軸方向(床面に平行な方向)のガイド溝が形成されている。
【0045】
主軸基体30は、主軸頭31と、回転主軸32と、工具33とを有し、サドル20に対してX軸方向に移動可能な送り台である。主軸頭31は、X軸方向のレールが形成され、サドル20のガイド溝に摺動可能に嵌合されている。そして、主軸頭31は、サドル20に固定されたX軸モータ(図示しない)の回転駆動により主軸基体30全体をX軸方向へ移動する。
【0046】
回転主軸32は、主軸頭31のハウジング内に収容された主軸モータにより回転可能に設けられ、工具33を支持している。工具33は、主軸基体30の回転主軸32の先端に固定されている。つまり、工具33は、回転主軸32の回転に伴って回転する。なお、工具33は、例えば、ボールエンドミル、エンドミル、ドリル、タップなどである。つまり、この3軸マシニングセンタである工作機械1は、工具33をベッド2に対してX軸方向およびY軸方向に移動可能としている。そして、工作機械1は、工作物WをZ軸方向に移動可能としている。
【0047】
テーブル40は、ベッド2のZ軸方向のレール上に設けられ、ベッド2に対してZ軸方向に移動可能な送り台である。このテーブル40は、ベッド2に固定されたZ軸モータ(図示しない)の回転駆動によりZ軸方向へ移動する。また、テーブル40には、所定位置に工作物Wを固定する治具41設置されている。
【0048】
これにより、工作物Wは、テーブル40のZ軸方向への移動に伴ってベッド2に対してZ軸方向に移動する。このような工作機械1においては、制御装置50による指令位置に基づいて、サドル20、主軸基体30、および、テーブル40が指令位置に移動するように制御される。これにより、工作物Wに対して工具33を相対移動させて加工を行っている。
【0049】
制御装置50は、NCデータに基づいて、各軸モータおよび主軸モータなどを制御する。また、制御装置50は、工作機械1の熱影響によりコラム10の各部位における熱変位を補正する熱変位補正装置である。以下、工作機械1の制御装置50のうち、本発明の特徴的な部分の構成について説明する。
【0050】
制御装置50は、図2に示すように、制御部51と、近似曲線算出部52と、補正値算出部53と、補正部54と、検査点位置情報取得部60とを有する。ここで、制御部51、近似曲線算出部52、補正値算出部53、補正部54および検査点位置情報取得部60は、それぞれ個別のハードウエアによる構成することもできるし、ソフトウエアによりそれぞれ実現する構成とすることもできる。
【0051】
制御部51は、入力されるNCデータに基づいて各軸モータおよび主軸モータなどを制御する。これにより、制御装置50は、サドル20、主軸基体30、および、テーブル40を移動するように制御し、工作物Wに対して回転駆動させた工具33を相対移動させて加工を行っている。
【0052】
上述したように、制御装置50は、工作機械1の熱影響による熱変位を補正する熱変位補正装置である。つまり、制御装置50は、工作機械1の熱影響によるコラム10の変形に対応した補正値を算出し、この補正値に基づいて制御部51による各軸モータなどの制御を補正することで加工の高精度化を図っている。以下、「制御装置50」は、「熱変位補正装置50」とも称する。
【0053】
熱変位補正装置50の検査点位置情報取得部60は、コラム10が熱変形した後において、コラム10に設定された検査点Pa1,Pb1,Poの変位点Pa2,Pb2,Poを取得する検査点位置情報取得手段である。この検査点位置情報取得部60は、斜度変化量取得部61と、熱伸長量取得部62と、熱変位位置算出部63とを有する。
【0054】
斜度変化量取得部61は、支持体であるコラム10が熱変形する前後において、コラム10の3箇所に設定された検査点Pa1,Pb1,Poの斜度変化量を取得する斜度変化量取得手段である。コラム10の上部付近に設定された検査点Pa1の斜度、およびコラム10の中央部付近に設定された検査点Pb2の斜度は、2箇所に設置された傾斜計11によってそれぞれ測定される。
【0055】
これにより、斜度変化量取得部61は、コラム10が熱変形する前における検査点Pa1,Pb1の基準斜度を測定する。また、斜度変化量取得部61は、コラム10が熱変形した後における検査点Pa1,Pb1の熱変位後斜度を測定する。そして、斜度変化量取得部61は、この基準斜度と熱変位後斜度の差分に基づいて、工作機械1の熱影響によるコラム10の熱変形の前後における検査点Pa1,Pb2の斜度変化量を取得する。
【0056】
ここで、コラム10は、工作機械1の熱影響により変形する際に、基準検査点Po、即ちベッド2に支持される支持点を基準に熱変形することになる。この時、コラム10が曲線的に熱変形した場合に、変形形状である曲線上における基準検査点Poの法線方向は熱変形の前後で変化しないものと考えることができる。これにより、支持点に設定した基準検査点Poにおける熱変位後斜度は、コラム10が熱変形する前における基準斜度と等しいものとみなすことができる。そこで、斜度変化量取得部61は、支持点に設定した基準検査点Poにおける熱変位後斜度を一定値として取得している。
【0057】
熱伸長量取得部62は、工作機械1の熱影響により変形したコラム10の熱伸長量を検出する熱伸長量取得手段である。この熱伸長量は、コラム10の基準位置からコラム10が熱変形する前における各検査点までのコラム10の基準長さに対して、コラム10が熱変形した後における基準位置から各検査点までの前記支持体の熱変位後長さである。また、コラム10の基準位置は、支持点(基準検査点Po)としている。
【0058】
ここで、移動体であるサドル20を支持するコラム10は、工作機械1の熱影響により熱膨張して変形する。この時、熱膨張したコラム10は、熱影響による温度と材質の線膨張率とに応じた熱伸長量で長さが変化している。つまり、熱変形に伴うコラム10の熱伸長量は、温度および材質の線膨張率に応じた値である。そこで、熱伸長量取得部62は、検査点Pa1,Pb1,Poで測定された温度と、コラム10の膨張特性とに基づいて算出した値を熱伸長量として取得している。このコラム10の膨張特性は、熱変位補正装置50のメモリに予め記憶されている線膨張率などのコラム10の温度に対する特性である。
【0059】
熱変位位置算出部63は、コラム10の熱変形に伴う各検査点の熱変位位置を、各検査点における斜度変化量および熱伸長量に基づいてそれぞれ算出する熱変位位置算出手段である。コラム10に設定されている3箇所の検査点Pa1,Pb1,Poは、熱影響によるコラム10の熱変形に伴い変位することになる。この各検査点の熱変位位置を把握することによりコラム10の変形形状を推定することができる。そこで、熱変位位置算出部63は、コラム10の熱変形によりその量を変動させる各検査点における斜度変化量および熱伸長量に基づいて、各検査点の熱変位位置である変位点Pa2,Pb2,Poを算出している。
【0060】
ここで、上述したように、コラム10は、熱影響により変形する際に、基準検査点Poを基準に熱変形することになる。そのため、基準検査点Poは、コラム10が熱変形しても変位量をゼロとすることができる。そこで、熱変位位置算出部63は、コラム10の熱変形における基準検査点Poの熱変位位置は、元の基準検査点Poとしている。つまり、基準検査点Poと変位点Poは同一位置である。
【0061】
近似曲線算出部52は、各検査点における熱変位位置に基づいて、コラム10が熱変形した後におけるコラム10の変形形状の近似曲線を算出する近似曲線算出手段である。ここで、熱変位補正は、より適切な補正値により補正を行うためには、工作機械1の熱影響により変形したコラム10の変形形状を正確に把握することが必要となる。また、熱変位補正装置50は、コラム10が曲線的に熱変形することから、コラム10の変形形状を曲線で近似して把握するものとしている。これにより、熱変位補正装置50は、より適切な補正値の算出を図っている。そこで、近似曲線算出部52は、熱変位位置算出部63により算出された変位点Pa2,Pb2,Poに基づいて、コラム10の近似曲線を算出している。
【0062】
補正値算出部53は、移動体であるサドル20の指令位置と近似曲線とに基づいて、サドル20の指令値に対する補正値を算出する補正値算出手段である。この補正値算出部53は、制御装置50における指令値によるサドル20の指令位置と、近似曲線算出部52により算出された近似曲線と、に基づいて補正値を算出する。ここで、制御装置50における指令値とは、制御部51が入力されるNCデータに基づいて各軸モータを制御するために出力する値である。
【0063】
補正部54は、算出した補正値によりサドル20の指令位置を補正する補正手段である。このような構成により、例えば、コラム10のY軸モータが回転駆動するように制御され、移動体であるサドル20が所定の指令位置に移動する。そして、補正値算出部53は、取得したコラム10の変形形状に相当する近似曲線において、サドル20の指令位置を対応させる。これにより、熱変形によりコラム10における指令位置の部位がどれだけ変位しているかを推定することができる。つまり、補正部54は、補正値算出部53が上記部位の変位量から算出する補正値により制御装置50の指令位置を補正している。
【0064】
(熱変位補正)
以下、工作機械1の熱変位補正について、図3〜図5を参照して説明する。図4は、補正値の算出の説明図である。図5は、図4の一部の拡大図である。また、本実施形態における熱変位補正は、熱影響によるコラム10の熱変形に伴うサドル20の熱変位を補正の対象としている。そして、説明を簡易化するために、コラム10は、図3に示すように、熱影響によりZ軸方向に反り返るように熱変形するものとする。換言すると、熱影響によるコラム10の変形のうち、Y−Z平面に投影される変形形状に係る熱変位を補正対象としている。よって、熱変位補正は、移動体であるサドル20の移動方向(Y軸方向)に垂直な駆動軸(Z軸)の補正値を算出するものとする。
【0065】
また、コラム10は、工作機械1の加工や環境温度の変化などの熱影響により熱膨張して変形する。特に、支持しているサドル20が移動することによる発熱がコラム10の変形に大きく影響している。そこで、工作機械1の熱影響をサドル20が移動するコラム10の摺動面10aにおける熱影響とするものとしている。よって、各検査点は摺動面10aの面上に設定されるものとし、また、後述する近似曲線Cはこの摺動面10aの変形形状を曲線で近似したものである。
【0066】
先ず、各検査点の設定について説明する。コラム10における検査点は、第一検査点Pa1、第二検査点Pb1、および、基準検査点Poの3箇所が設定されている。本実施形態において、各検査点は、等間隔になるように設定されるとともに、最上の第一検査点Pa1からコラム10の上端までの距離が各検査点間の距離の半分程度となるように設定している。つまり、本実施形態では、検査点を3箇所にしていることから、第一検査点Pa1、第二検査点Pb1は、ベッド2からコラム10の全高に対して、それぞれ8,4割程度の高さに設定されている。また、基準検査点Poは、上述したように、コラム10がベッド2に支持された支持点に設定されている。
【0067】
そして、各検査点はコラム10が熱影響により変形すると、図3に示すように、この熱変形に伴い変位することになる。第一検査点Pa1および第二検査点Pb1の熱変位位置は、それぞれ第一変位点Pa2および第二変位点Pb2である。また、基準検査点Poは、ベッド2に対する変位量がゼロであるため、変位点Poは同一位置である。また、各検査点には温度センサ12が設置され、さらに第一検査点Pa1および第二検査点Pb1には傾斜計11が設置されている。これにより、コラム10の熱変形の前後における各検査点における斜度および温度が測定される。
【0068】
工作機械1による加工中において、サドル20がコラム10に対してY軸方向の移動を繰り返すと、コラム10の摺動面10aが発熱し、コラム10が熱変形したものとする。また、コラム10の変形形状の近似曲線C、および、サドル20の補正値の算出について、コラム10の摺動面10aの熱変形を簡略化して示す図4,図5を参照して説明する。
【0069】
先ず、検査点位置情報取得工程において、各検査点の熱変位位置を取得する。そのため、斜度変化量取得工程において、各検査点の斜度変化量を取得する。つまり、検査点位置情報取得部60の斜度変化量取得部61は、変位点Pa2,Pb2におけるコラム10の傾斜角度を傾斜計11より熱変位後斜度として入力する。そして、コラム10の熱変形の前に取得された基準斜度との差分から各検査点の斜度変化量を算出する。
【0070】
具体的には、先ず、コラム10が熱変形する前において、第一検査点Pa1で測定された斜度を熱変位補正装置50のメモリから取得する。次に、変位点Pa2で測定された斜度αを傾斜計11より入力される。本実施形態では、コラム10の熱変形の前における斜度をゼロとしているため、斜度変化量は斜度αと同値となる。よって、この斜度変化量αは、図5に示すように、水平線となす角として算出される。なお、斜度変化量取得部61は、基準検査点Poにおける斜度変化量を常にゼロとして取得する。
【0071】
次に、熱伸長量取得工程において、熱変形によるコラム10の熱伸長量を検出する。そのため、検査点位置情報取得部60の熱伸長量取得部62は、変位点Pa2,Pb2,Poで測定された温度を温度センサ12により入力する。さらに、熱伸長量取得部62は、熱変位補正装置50のメモリに予め記憶されているコラム10の各検査点における膨張特性を取得する。そして、熱伸長量取得部62は、図4に示すように、各変位点における温度と膨張特性に基づいて、コラム10の熱変形の前後における熱伸長量ΔHa,ΔHbを検出する。
【0072】
続いて、熱変位位置算出工程において、コラム10の熱変形に伴う変位点Pa2,Pb2,Poの位置を算出する。そのため、検査点位置情報取得部60の熱変位位置算出部63は、斜度変化量および熱伸長量に基づいて各検査点の熱変位位置である変位点Pa2,Pb2,Poを算出する。
【0073】
ここで、熱変位位置算出部63は、上述した第一検査点における斜度変化量αを第一検査点Pa1がどの方向に変位したかを示す変位角度θに近似している。この変位角度θは、図5に示すように、第一検査点Pa1と変位点Pa2を通る直線と水平線のなす角である。そして、斜度変化量αで近似された変位角度θと、第一検査点Pa1の熱伸長量ΔHaに基づいて、第一検査点Pa1のZ方向の変位量ΔZaを求めることにより、変位点Pa2の位置が算出される。同様に、第二検査点Pb1の熱変位位置である変位点Pb2の位置が算出される。
【0074】
そして、近似曲線算出工程において、コラム10の変形形状の近似曲線Cを算出する。つまり、近似曲線算出部52は、各検査点の熱変位位置である変位点Pa2,Pb2,Poの何れの点も通る2次曲線を算出する。近似曲線算出部52は、この算出された2次曲線をコラム10の近似曲線Cとしている。
【0075】
補正値算出工程において、サドル20の指令値に対する補正値を算出する。そこで、補正値算出部53は、先ず、制御装置50における指令値によるサドル20の指令位置Pyを取得する。次に、補正値算出部53は、コラム10の変形形状に相当する近似曲線Cにおいて、サドル20の指令位置Pyを対応させ、補正値Rzを算出する。そして、補正工程において、この補正値により指令位置を補正する。つまり、補正部54は、算出した補正値Rzにより制御部51が出力する指令位置を補正する。
【0076】
これにより、例えば、テーブル40に対する指令位置が補正され、工作物WがZ軸方向に補正量Rzだけさらに移動し、適切な加工位置で加工されることになる。このようにして、熱変位補正装置50は、工作機械1の加工中において、コラム10の熱変形に伴うサドル20の熱変位を逐次補正することにより、加工中におけるコラム10の熱変動やサドル20の指令位置に対応し、加工の高精度化を図っている。
【0077】
(熱変位補正装置の効果)
上述した工作機械1の熱変位補正装置50によれば、補正値算出部53において算出される補正値は、熱影響によりコラム10が熱変形した際の変形形状を曲線で近似し、その近似曲線Cに対応するサドル20の指令位置から算出するものとした。つまり、コラム10に設定されている3箇所の検査点Pa1,Pb1,Poは、熱影響によるコラム10の熱変形に伴い変位することになる。そして、各検査点の斜度変化量および熱伸長量に基づいてコラム10の変形形状を曲線的に求めている。これにより、コラム10の変形形状を直線的に求めた場合と比較して、コラム10に支持されるサドル20の指令位置に対応した補正値をより正確に算出することができる。よって、工作機械1の熱影響による多様な変位状態に対応し、より高精度に熱変位補正が可能となる。
【0078】
また、検査点位置情報取得部60の熱変位位置算出部63は、各検査点の熱変位位置である変位点Pa2,Pb2を斜度変化量および熱伸長量に基づいて算出するものとした。つまり、第一検査点Pa1においては、コラム10が熱変形する前後に測定される基準斜度および熱変位後斜度の差分から斜度変化量αを算出する。そして、熱変位位置算出部63は、この斜度の変化量αを検査点がどの方向に変位したかを示す変位角度θに近似している。この変位角度θ(≒斜度の変化量α)と検出されている検査点の熱伸長量からコラム10の変形に伴いその検査点がどの方向にどれだけ変位したかを算出することができる。このようにして、より簡易に各検査点の熱変位位置Pa2,Pb2を算出することができる。
【0079】
そして、コラム10に設定された各検査点のうち1箇所は、コラム10が工作機械1のベッド2に支持された支持点であるものとした。コラム10は、工作機械1のベッド2に対して移動不可に支持されている。つまり、コラム10は、工作機械1の熱影響により変形した場合に、ベッド2に支持された支持点を基準に熱変形することになる。よって、この支持点を熱影響により変位しない基準検査点Poとして設定するものとした。これにより、支持点である基準検査点Poの斜度の測定および熱伸長量の検出を簡易化することができる。
【0080】
さらに、斜度変化量取得部61は、支持点を検査点とした基準検査点Poにおける熱変位後斜度を一定値として取得するものとした。上述したように、コラム10は、熱変形する際に、ベッド2に支持される支持点を基準に熱変形することになる。この時、コラム10が曲線的に熱変形した場合に、変形形状である曲線上における基準検査点Poの法線方向は熱変形の前後で変化しないものと考えることができる。これにより、支持点である基準検査点Poにおける熱変位後斜度は、コラム10の熱変形の前後において一定値(ゼロ)とみなすことができる。よって、斜度変化量取得部61は、この検査点における熱変位後斜度の測定を省略することができる。
【0081】
熱伸長量取得部62は、各検査点に配置された温度センサ12により測定されるコラム10の温度に基づいて熱伸長量を検出するものとした。また、コラム10の熱変形は、工作機械1の熱影響によりコラム10が熱膨張することに起因している。そして、この熱変形に伴うコラム10の熱伸長量は、温度および材質の線膨張率に応じた値である。そこで、熱伸長量取得部62は、熱変位補正装置50のメモリに予め記憶されているコラム10の温度に対する膨張特性である線膨張率を取得する。これにより、検査点に配置された温度センサ12により測定された温度と、コラム10の線膨張率と、に基づいてコラム10の熱伸長量を算出することができる。
【0082】
補正値算出部53は、サドル20の移動方向に垂直な駆動軸(Z軸)の補正値Rzを算出するものとした。本実施形態のような構成とする工作機械1において、サドル20を支持するコラム10は、熱影響により変形する際に、サドル20の移動方向をZ軸方向に湾曲させるように熱変形することがある。このような場合に、Z軸方向の補正値Rzを算出することで、補正部54は、サドル20を駆動させる駆動軸(Y軸)に対して直交するZ軸を補正対象とし、当該Z軸の指令位置を補正することができる。このように、補正値Rzを反映させることで、適切な熱変位補正を行うことができる。
【0083】
また、工作機械1の熱影響は、サドル20が移動することにより発生するコラム10の摺動面10aにおける熱影響であるものとした。コラム10は、工作機械1の加工や環境温度の変化などの熱影響により熱膨張して変形する。特に、支持しているサドル20が移動することによる発熱がコラム10の熱変形に大きく影響している。そこで、工作機械1の熱影響をサドル20が移動するコラム10の摺動面10aにおける熱影響とするものとした。これにより、コラム10の変形形状をこの摺動面10aとして曲線近似することができる。よって、摺動面10aを対象とした補正値Rzを算出し、より適切な熱変位補正を行うことができる。
【0084】
<第二実施形態>
第二実施形態の工作機械1の熱変位補正装置について図6〜図8を参照して説明する。図6は、熱変位補正装置150を示すブロック図である。図7は、補正値の算出の説明図である。図8は、図7の一部の拡大図である。ここで、第二実施形態は、熱変位補正の検査点位置情報取得工程において、各検査点の熱変位位置の算出方法が第一実施形態と相違する。その他の構成については、第一実施形態と実質的に同一であるため、詳細な説明を省略する。
【0085】
本実施形態の熱変位補正装置150の検査点位置情報取得部160は、図6に示すように、熱変位後斜度取得部164と、熱伸長量取得部62と、熱変位位置算出部163とを有する。熱変位後斜度取得部164は、支持体であるコラム10が熱変形した後における各検査点の熱変位後斜度を取得する熱変位後斜度取得手段である。また、熱変位位置算出部163は、後述する各検査点の変位軌道と熱変位後斜度とに基づいて、各検査点の熱変位位置を算出する熱変位位置算出手段である。
【0086】
熱変位補正装置150による熱変位補正は、先ず、第一実施形態と同様に検査点位置情報取得工程において、各検査点の熱変位位置を取得する。そのため、熱変位後斜度取得工程において、各検査点の熱変位後斜度を取得する。つまり、検査点位置情報取得部160の熱変位後斜度取得部164は、変位点Pa2,Pb2におけるコラム10の傾斜角度を傾斜計11より入力する。また、熱変位後斜度取得部164は、基準検査点Poにおける斜度を常にゼロとして取得する。
【0087】
次に、熱伸長量取得工程において、熱変形によるコラム10の熱伸長量を検出する。そのため、検査点位置情報取得部160の熱伸長量取得部62は、変位点Pa2,Pb2,Poで測定された温度を温度センサ12により入力する。さらに、熱伸長量取得部62は、熱変位補正装置50のメモリに予め記憶されているコラム10の各検査点における膨張特性を取得する。そして、熱伸長量取得部62は、図6に示すように、各変位点における温度と膨張特性に基づいて、コラム10の熱変形の前後における熱伸長量ΔHa,ΔHbを検出する。
【0088】
続いて、熱変位位置算出工程において、コラム10の熱変形に伴う変位点Pa2,Pb2,Poの位置を算出する。そのため、検査点位置情報取得部160の熱変位位置算出部163は、第一検査点Pa1および第二検査点Pb1の変位軌道を取得する。そして、熱変位位置算出部163は、各検査点の熱変位後斜度および取得した変位軌道に基づいて各検査点の熱変位位置である変位点Pa2,Pb2,Poを算出する。この検査点の変位軌道とは、コラム10が熱変形していない状態からコラム10が熱変形することに伴う各検査点の軌道であり、温度または熱伸長量などに応じて予め設定されているものである。
【0089】
上述したように、コラム10は、材質の線膨張率により熱伸長量が変化するものである。そのため、コラム10において各検査点を設定された周辺部位における変形形状は、その部位の温度に伴い変化する熱伸長量によって推定することが可能である。そこで、熱変位補正装置50のメモリは、周辺部位の熱変形に伴う検査点の変位軌道を熱伸長量に応じて予め記憶している。そして、熱変位位置算出部163は、熱伸長量取得部62により検出された熱伸長量ΔHa,ΔHbに対応する変位軌道Orba,Orbbを取得する。
【0090】
ここで、コラム10は、熱影響により曲線的に熱変形することから検査点の変位軌道も同様に曲線を描くことになる。そこで、熱変位位置算出部163は、図7に示すように、第一検査点Pa1が熱伸長量ΔHaだけ移動した点Paeを取得した変位軌道Orbaの始点とする。そして、熱変位位置算出部163は、変位軌道Orba上において、取得した第一検査点Pa1の斜度αを接線とする位置を求める。
【0091】
熱変位位置算出部163は、これにより求められた接点を第一検査点Pa1の熱変位位置である変位点Pa2として算出している。同様にして、第二検査点Pb1が熱伸長量ΔHbだけ移動した点Pbeを取得した変位軌道Orbbの始点とし、変位点Pb2の斜度を接線とする位置を求める。これにより、第二検査点Pb1の熱変位位置である変位点Pb2の位置が算出される。
【0092】
そして、近似曲線算出工程において、コラム10の変形形状の近似曲線Cを算出する。つまり、近似曲線算出部52は、各検査点の熱変位位置である変位点Pa2,Pb2,Poの何れの点も通る2次曲線を算出する。近似曲線算出部52は、この算出された2次曲線をコラム10の近似曲線Cとしている。熱変位補正における以降の各工程については、第一実施形態と実質的に同一であるため説明を省略する。
【0093】
上述した工作機械1の熱変位補正装置50によれば、第一実施形態と同様の効果を奏する。また、熱変位位置算出部163は、各検査点の熱変位位置である変位点Pa2,Pb2を斜度および変位軌道に基づいて算出するものとした。これにより、より高精度に検査点の熱変位位置を算出することができる。
【0094】
<第一、第二実施形態の変形態様>
第一、第二実施形態において、工作機械1の熱変位補正装置50,150は、熱伸長量取得工程において、各検査点に配置された温度センサ12により測定される温度に基づいて熱伸長量を検出するものとした。これに対して、検査点に歪みセンサを配置し、この歪みセンサにより測定される歪み量に基づいて熱伸長量を検出する構成としてもよい。この歪みセンサは、例えば、コラム10の伸縮により内部の抵抗値が変化し、この抵抗値の変化により歪み量を測定する歪みゲージとしてもよい。そして、熱伸長量取得工程は、コラム10の熱変形に伴う歪み量を測定し、この歪み量からコラム10の熱伸長量を検出することができる。
【0095】
または、工作機械1のベッド2に距離センサを配置し、この距離センサにより測定される検査点までの距離に基づいて熱伸長量を検出する構成としてもよい。コラム10は、工作機械1の熱影響により変形した場合に、支持されるベッド2を基準に熱変形することになる。つまり、基準となるベッド2に配置された距離センサにより変位した検査点までの距離を測定することにより、熱変形の前後におけるコラム10の熱伸長量を検出することができる。このようにして、熱伸長量取得工程は、温度センサ12に代えて種々の手段により熱伸長量を検出するものとしてもよい。この場合も、第一実施形態と同様の効果を奏する。
【0096】
また、第一、第二実施形態において、検査点をコラム10における3箇所に設定するものとした。これに対して、検査点は、支持体であるコラム10に少なくとも4箇所以上に設定される構成としてもよい。近似曲線算出工程は、コラム10が曲線的に熱変形することから、変形形状を曲線で近似するために少なくとも3箇所の検査点を要した。また、この近似曲線算出工程は、例えば、最小自乗法などにより近似曲線Cを算出する構成とした場合に、4箇所以上の熱変位位置に基づいて2次曲線の近似曲線を算出することができる。これにより、コラム10の変形形状により近似した近似曲線Cを算出することができる。よって、適切な補正値Rzを算出できるので、より高精度に熱変位補正が可能となる。
【0097】
さらに、補正値算出工程は、サドル20の移動方向に平行な駆動軸(Y軸)の補正値をさらに算出する構成としてもよい。ここで、コラム10の熱変形がサドル20の移動方向を湾曲させるように熱変形した場合に、制御装置50における指令値によるサドル20の指令位置も補正する必要が生じることがある。このような場合に、例えば、各検査点の熱伸長量ΔHa,ΔHbに基づいてY軸の補正値Ryをさらに算出することで、サドル20の移動方向であるY軸の指令位置を補正することができる。このように、サドル20の移動方向について補正値Ryを適宜反映させることで、より適切な熱変位補正を行うことができる。
【0098】
第一、第二実施形態において、工作機械1の熱影響は、サドル20が移動することにより発生するコラム10の摺動面10aにおける熱影響であるものとして説明した。また、工作機械1の熱影響は、工作機械1の加工による各軸モータや主軸モータの回転、環境温度の変化、各摺動面における発熱などが考えられる。よって、これらの熱影響によりコラム10が熱変形する場合に、コラム10において曲線近似される基準位置を適宜設定するものとしてもよい。よって、種々の熱影響に対応し、より適切な熱変位補正を行うことができる。
【0099】
また、熱変位補正は、支持体であるコラム10の熱変形によるものとして説明した。これに対して、工具33または工作物Wを支持し、工作機械1の熱影響により熱変位が生じる部材であれば、本発明の熱変位補正方法を適用することができる。その他に、工作機械1は、3軸マシニングセンタを例に挙げて説明した。これに対して、工作機械1は、例えば、さらに回転軸(A,B軸)を有する5軸マシニングセンタとしてもよい。このような構成においても同様の効果を奏する。
【符号の説明】
【0100】
1:工作機械、 2:ベッド
10:コラム(支持体)、 10a:摺動面、 11:傾斜計、 12:温度センサ
13:レール
20:サドル(移動体)
30:主軸基体、 31:主軸頭、 32:回転主軸、 33:工具
40:テーブル、 41:治具
50,150:制御装置(熱変位補正装置)、 51:制御部
52:近似曲線算出部、 53:補正値算出部、 54:補正部
60,160:検査点位置情報取得部、 61:斜度変化量取得部
62:熱伸長量取得部, 63,163:熱変位位置算出部
164:熱変位後斜度取得部
W:工作物、 Pa1,Pb1,Po:検査点、 Pa2,Pb2:変位点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体と、当該支持体に移動可能に支持され指令位置に基づいて前記支持体に対して移動する移動体と、を備える工作機械の熱変位補正方法において、
前記支持体が熱変形した後において、前記支持体に設定された少なくとも3箇所の各検査点の熱変位位置を取得する検査点位置情報取得工程と、
各前記検査点における前記熱変位位置に基づいて、前記支持体が熱変形した後における前記支持体の変形形状の近似曲線を算出する近似曲線算出工程と、
前記移動体の前記指令位置と前記近似曲線とに基づいて前記指令位置に対する補正値を算出する補正値算出工程と、
前記補正値により前記移動体の前記指令位置を補正する補正工程と、
を備えることを特徴とする工作機械の熱変位補正方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記検査点位置情報取得工程は、
前記支持体が熱変形する前における各前記検査点の基準斜度に対して、前記支持体が熱変形した後における各前記検査点の熱変位後斜度の斜度変化量を取得する斜度変化量取得工程と、
前記支持体の基準位置から前記支持体が熱変形する前における各前記検査点までの前記支持体の基準長さに対して、前記支持体が熱変位した後における前記基準位置から各前記検査点までの前記支持体の熱変位後長さの熱伸長量を取得する熱伸長量取得工程と、
各前記検査点における前記斜度変化量および前記熱伸長量に基づいて、各前記検査点の前記熱変位位置を算出する熱変位位置算出工程と、
を有することを特徴とする工作機械の熱変位補正方法。
【請求項3】
請求項1において、
前記検査点位置情報取得工程は、
前記支持体が熱変形した後における各前記検査点の熱変位後斜度を取得する熱変位後斜度取得工程と、
前記支持体の基準位置から前記支持体が熱変形する前における各前記検査点までの前記支持体の基準長さに対して、前記支持体が熱変位した後における前記基準位置から各前記検査点までの前記支持体の熱変位後長さの熱伸長量を取得する熱伸長量取得工程と、
前記支持体が熱変形していない状態から前記支持体が熱変形することに伴う各前記検査点の変位軌道を予め設定し、当該変位軌道と取得した前記熱変位後斜度とに基づいて、各前記検査点の前記熱変位位置を算出する熱変位位置算出工程と、
を有することを特徴とする工作機械の熱変位補正方法。
【請求項4】
請求項1において、
前記支持体に設定された前記検査点のうち1箇所は、前記支持体が前記工作機械のベッドに支持された支持点であることを特徴とする工作機械の熱変位補正方法。
【請求項5】
請求項2または3において、
前記支持体に設定された前記検査点のうち1箇所は、前記支持体が前記工作機械のベッドに支持された支持点であり、
前記支持点における前記熱変位後斜度は、一定値として取得されることを特徴とする工作機械の熱変位補正方法。
【請求項6】
請求項2,3,5の何れか一項において、
前記熱伸長量取得工程は、各前記検査点に配置された温度センサにより測定される前記支持体の温度に基づいて前記熱伸長量を取得することを特徴とする工作機械の熱変位補正方法。
【請求項7】
請求項2,3,5の何れか一項において、
前記熱伸長量取得工程は、各前記検査点に配置された歪みセンサにより測定される前記支持体の歪み量に基づいて前記熱伸長量を取得することを特徴とする工作機械の熱変位補正方法。
【請求項8】
請求項2,3,5の何れか一項において、
前記熱伸長量取得工程は、前記工作機械のベッドに配置された距離センサにより測定される前記検査点までの距離に基づいて前記熱伸長量を取得することを特徴とする工作機械の熱変位補正方法。
【請求項9】
請求項1〜8の何れか一項において、
前記検査点は、前記支持体に少なくとも4箇所以上に設定されていることを特徴とする工作機械の熱変位補正方法。
【請求項10】
請求項1〜9の何れか一項において、
前記補正値算出工程は、前記移動体の移動方向に垂直な駆動軸の前記指令位置に対する補正値を算出することを特徴とする工作機械の熱変位補正方法。
【請求項11】
請求項10において、
前記補正値算出工程は、前記移動体の移動方向に平行な駆動軸の前記指令位置に対する補正値をさらに算出することを特徴とする工作機械の熱変位補正方法。
【請求項12】
請求項1〜11の何れか一項において、
前記工作機械の熱影響は、前記移動体が移動することにより発生する前記支持体の摺動面における熱影響であることを特徴とする工作機械の熱変位補正方法。
【請求項13】
支持体と、当該支持体に移動可能に支持され指令位置に基づいて前記支持体に対して移動する移動体と、を備える工作機械の熱変位補正装置において、
前記支持体が熱変形した後において、前記支持体に設定された少なくとも3箇所の各検査点の熱変位位置を取得する検査点位置情報取得手段と、
各前記検査点における前記熱変位位置に基づいて、前記支持体が熱変位した後における前記支持体の変形形状の近似曲線を算出する近似曲線算出手段と、
前記移動体の前記指令位置と前記近似曲線とに基づいて前記指令位置に対する補正値を算出する補正値算出手段と、
前記補正値により前記移動体の前記指令位置を補正する補正手段と、
を備えることを特徴とする工作機械の熱変位補正装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−161614(P2011−161614A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−30037(P2010−30037)
【出願日】平成22年2月15日(2010.2.15)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】