説明

差動歯車装置

【課題】差動制限を行うことができる差動歯車装置において、装置自体をコンパクト化することができると共に、簡易な構成で作動制限を行うことができる差動歯車装置を提供する。
【解決手段】差動歯車装置100は、内部に収容部125が形成されると共に、回転中心線Oを中心として回転するデフケース110と、収容部125の内表面のうち、回転中心線Oから離れた位置に形成され、収容部125の内表面から離れるに従って先細となるように形成された突起部120,121と、突起部120,121に回転可能に設けられたピニオンギヤ112,113と、ピニオンギヤ112,113と噛み合い、ドライブシャフト143に連結されたサイドギヤ114と、ピニオンギヤ112,113と噛み合い、ドライブシャフト142に連結されたサイドギヤ115とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、差動歯車装置に関し、特に、制動力を得ることができる差動歯車装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から車両に搭載される差動歯車装置が各種提案されている。たとえば、特開2008−275042号公報に記載された差動歯車装置は、デフケースを備え、このデフケースには、2つのボス部と、ピニオンギヤの保持部と、各ギヤの組付け用の開口窓とが形成されている。そして、上記保持部はデフケース内に2箇所形成されており、各保持部にはピニオンギヤが設けられている。この保持部は、デフケースの周壁部に形成され、径方向外向きに陥没した凹所とされている。この差動歯車装置においては、ピニオンギヤを支持するピニオンシャフトが設けられておらず、部品点数の低減が図られている。
【0003】
また、特開2008−14419号公報に記載されたデファレンシャル装置は、差動機構と、差動機構の差動を制御する差動制御装置とを備えている。そして、差動機構は、デフケースと、デフケースの貫通孔に連結されたピニオンシャフトと、これらに支持されたピニオンギアと、ピニオンギアと噛み合うサイドギアとを有する。
【0004】
差動制御装置は、電磁式アクチュエータとドッグクラッチとリターンスプリングとコントローラなどから構成されている。
【0005】
特開2002−364730号公報に記載されたデファレンシャル装置は、ベベルギア式の差動機構を含む。この差動機構は、中間部材を介してデフケースに連結されたピニオンシャフトと、ピニオンシャフトに設けられたピニオンギヤと、ピニオンギヤと噛み合った出力側サイドギヤとを備える。このデファレンシャル装置は、出力側サイドギヤとデフケースとの間に配置された摩擦クラッチと、クラッチを押圧するアクチュエータと、その押圧力を摩擦クラッチに伝達する伝達部材とを備えている。そして、これら摩擦クラッチ等によって、差動制限力を得ている。
【0006】
特開平9−184561号公報に記載された差動装置は、デフケースと、デフケースの内部に設けられたデフピニオンシャフトと、デフピニオンシャフトに設けられたデフピニオンギヤとを備えている。ここで、上記デフピニオンシャフトは、デフケースに摺動自在に設けられている。この差動装置は外部からデフケースとデフピニオンシャフトとの摺動部位に潤滑オイルを供給している。これにより、焼き付き防止が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−275042号公報
【特許文献2】特開2008−14419号公報
【特許文献3】特開2002−364730号公報
【特許文献4】特開平9−184561号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特開2008−275042号公報に記載された差動歯車装置においては、部品点数の低減が図られているものの、特開2008−275042号公報には、差動制限を得るための構成については何等記載されていない。
【0009】
特開2008−14419号公報に記載されたデファレンシャル装置に設けられた差動制御装置は、電磁式アクチュエータ等を含み、デファレンシャル装置自体の大きさが大型化するという問題があった。
【0010】
特開2002−364730号公報に記載されたデファレンシャル装置は、摩擦クラッチ、アクチュエータおよび伝達部材を用いて、差動制限力を得ている。これにより、デファレンシャル装置に、上記摩擦クラッチ等を搭載する必要があり、装置が大型化するという問題があった。
【0011】
特開平9−184561号公報に記載された差動装置は、差動制限を行うための構成を備えていない。
【0012】
本発明は、上記のような課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、差動制限を行うことができる差動歯車装置において、装置自体をコンパクト化することができると共に、簡易な構成で作動制限を行うことができる差動歯車装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る差動歯車装置は、内部に収容部が形成されると共に、回転中心線を中心として回転するケースと、収容部の内表面のうち、回転中心線から離れた位置に形成され、収容部の内表面から回転中心線に向けて先細となるように形成された突起部と、突起部に設けられた回転可能な第1ギヤと、第1ギヤと噛み合い、第1出力シャフトに連結された第2ギヤと、第1ギヤと噛み合い、第2出力シャフトに連結された第3ギヤとを備える。好ましくは、上記第1ギヤはケースの内表面から離れた位置に設けられる。好ましくは、上記第1ギヤは、突起部に装着される環状の基部と、基部の外表面に形成された歯部とを含む。そして、上記突起部の中心線に垂直な方向の基部の厚さは、突起部の中心線方向に配列された基部の一方の端部側から他方の端部側に亘って一定とされる。好ましくは、上記突起部の形状は円錐または円錐台とされる。好ましくは、上記第2ギヤと第3ギヤとに噛み合う第4ギヤと、回転中心線を挟んで、突起部と反対側に設けられた他の突起部とをさらに備える。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る差動歯車装置によれば、装置自体をコンパクト化することができると共に、簡易な構成で制動力を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態に係る差動歯車装置100の断面図である。
【図2】図1のII−II線における断面図である。
【図3】本実施の形態1に係る差動歯車装置100の第1変形例を示す断面図である。
【図4】突起部120(突起部121)の変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本実施の形態に係る差動歯車装置100について、図1から図4を用いて説明する。
なお、以下に説明する実施の形態において、個数、量などに言及する場合、特に記載がある場合を除き、本発明の範囲は必ずしもその個数、量などに限定されない。また、以下の実施の形態において、各々の構成要素は、特に記載がある場合を除き、本発明にとって必ずしも必須のものではない。
【0017】
図1は、本発明の実施の形態に係る差動歯車装置100の断面図である。この図1に示すように、差動歯車装置100は、デフケース110と、デフケース110内に設けられた突起部120,121と、この突起部120,121に回転可能に設けられたピニオンギヤ112,113とを備えている。
【0018】
デフケース110は、中空状に形成されており、デフケース110の内部には、収容部125が形成されている。デフケース110は回転中心線Oを中心に回転可能に車両に搭載されている。そして、デフケース110には、回転中心線O方向に延びる筒状のドライブシャフト支持部117およびドライブシャフト支持部118が形成されている。
【0019】
デフケース110の外周面には、環状の鍔部が形成されており、この鍔部にはリングギヤ116がボルト111によって固定されている。このリングギヤ116は、エンジン等からの動力によって回転するドライブピニオンギア140と噛み合っている。なお、ドライブピニオンギア140には、図示されないプロペラシャフトが接続されている。
【0020】
このため、ドライブピニオンギア140が回転方向R1に向けて回転すると、デフケース110は、回転中心線Oを中心として回転方向R2に回転する。
【0021】
突起部120および突起部121は、収容部125の内表面のうち、回転中心線Oから離れた位置に形成されている。このため、デフケース110が回転中心線Oを中心として回転することで、突起部120および突起部121も回転中心線Oを中心として回転する。突起部120および突起部121は、収容部125の内表面から離れるにつれて、先細となるように形成されている。具体的には、突起部120および突起部121は、デフケース110の内周面から回転中心線Oに向かうにしたがって、先細状となるように形成されている。このため、突起部120および突起部121の中心線は回転中心線Oと直交している。なお、突起部120および突起部121は、互い間隔をあけて形成されており、突起部120および突起部121は、回転中心線Oを挟んで互いに対向するように設けられている。
【0022】
なお、収容部125内を貫通する軸部を用いて、ピニオンギヤ112,113を支持した場合と比較すると、本実施の形成に係る差動歯車装置100は、突起状の突起部120,121を用いてピニオンギヤ112,113を支持しており、上記軸部よりも突起部120,121の方が軽量である。すなわち、本実施の形態に係る差動歯車装置100においては、ピニオンギヤ112,113を支持する支持部材の軽量化が図られている。
【0023】
収容部125内には、サイドギヤ114およびサイドギヤ115が設けられている。サイドギヤ114は、ピニオンギヤ112およびピニオンギヤ113と噛み合うと共に、ドライブシャフト143に連結されている。サイドギヤ115は、ピニオンギヤ112およびピニオンギヤ113と噛み合うと共に、ドライブシャフト142に連結されている。ドライブシャフト143は車輪146に接続されており、ドライブシャフト142は車輪145に接続されている。なお、ドライブシャフト143およびドライブシャフト142は、いずれも、回転中心線O方向に延びており、ドライブシャフト143は、ドライブシャフト支持部118に挿入され、ドライブシャフト142は、ドライブシャフト支持部117に挿入されている。
【0024】
ここで、車両が直進しているときには、路面から車輪145および車輪146にかかる負荷の割合は同じものとなる。
【0025】
そして、ピニオンギヤ112は、回転中心線Oを中心に回転(公転)する一方で、突起部120を回転軸として回転(自転)しない。さらに、ピニオンギヤ113も、回転中心線Oを中心に回転(公転)する一方で、突起部121を回転軸として回転(自転)しない。
【0026】
このため、サイドギヤ114およびサイドギヤ115はいずれも、同じ回転数で回転する。そして、サイドギヤ114に連結されたドライブシャフト143が、車輪146を回転させ、サイドギヤ115に連結されたドライブシャフト142が、車輪145を回転させる。
【0027】
ここで、車輪146を内輪とし、車輪145を外輪として、車両が旋回している場合において、各ギヤの動きについて説明する。
【0028】
車輪146が内輪となる場合には、車輪146は車輪145よりも急な曲がり方をする必要があり、路面から車輪146に加えられる負荷は、車輪145に加えられる負荷よりも大きくなり、サイドギヤ114も回転し難くなる。
【0029】
さらに、車輪145の移動距離の方が、車輪146の移動距離よりも長くなるので、車輪145の回転数の方が、車輪146の回転数より高くなり、サイドギヤ115の回転数がサイドギヤ114の回転数よりも高くなる。
【0030】
そして、サイドギヤ115の回転速度の方が、サイドギヤ114の回転速度よりも速いので、ピニオンギヤ112およびピニオンギヤ113が自転し始める。
【0031】
なお、ピニオンギヤ112は、図1の回転方向R3に自転し、ピニオンギヤ113は回転方向R4方向に自転する。
【0032】
このように、各ピニオンギヤ112およびピニオンギヤ113が回転することで、各ピニオンギヤ112およびピニオンギヤ113が、サイドギヤ114の負荷をサイドギヤ115に伝達する。
【0033】
このように、各ギヤが自転することで、車輪146はゆっくりと回転すると共に、車輪145が速く回転し、車両がスムーズに旋回する。
【0034】
ここで、デフケース110は、ドライブピニオンギア140からの駆動力によって回転しており、デフケース110に設けられたピニオンギヤ112およびピニオンギヤ113も回転中心線Oを中心として回転している。このため、各ピニオンギヤ112およびピニオンギヤ113には、遠心力が加えられている。
【0035】
ピニオンギヤ112が装着された突起部120と、ピニオンギヤ113が装着された突起部121は、上述のように先細状に形成されている。そして、ピニオンギヤ112,113に加えられる遠心力によって、ピニオンギヤ112,113が、突起部120,121の付根部側に入り込もうとして、ピニオンギヤ112,113と、突起部120,121との間の摩擦力が大きくなる。
【0036】
ここで、下記に説明する比較例に係る差動歯車装置のピニオンギヤに加えられる摩擦力と、本実施の形態1に係る差動歯車装置100のピニオンギヤ112,113に加えられる摩擦力とを比較する。
【0037】
比較例としての差動歯車装置は、突起部120,121に代えて、収容部125の内周面に円柱状の2つピンを備えており、この円柱状のピンにピニオンギヤ112,113が装着されている。
【0038】
そして、この比較例に係る差動歯車装置においては、ピニオンギヤ112,113に遠心力が加えられ、ピニオンギヤ112,113がデフケース110の内周面と接触することで、デフケース110の内周面からピニオンギヤ112,113に摩擦力が加えられる。
【0039】
比較例に係る差動歯車装置において、ピニオンギヤとデフケースとの接触面積をDとすると、ピニオンギヤとデフケースの内周面との間に生じる摩擦力FBは、下記式(1)によって示される。
【0040】
FB=ц×F・・・(1)
ここで、本実施の形態差動歯車装置100において、突起部120,121の先端部の角度を2θ(θ:回転中心線Pと突出部の外周面との成す角度)とし、ピニオンギヤ112,113に加えられる遠心力をFとし、ピニオンギヤ112,113と突起部120,121との接触面積をCとする。そして、ピニオンギヤ112,113と突起部120,121との間に生じる摩擦力FAは下記式(2)によって示される。
【0041】
FA=(ц×F)/sinθ・・・(2)
1/sinθは1以下であるので比較例に係る差動歯車装置においてピニオンギヤとデフケースの内周面との間に生じる摩擦力よりも、本実施の形態に係る差動歯車装置100のピニオンギヤ112,113とデフケース110とのに生じる摩擦力の方が大きくなる(くさび効果)。
【0042】
車両が直進しているときには、上述のようにピニオンギヤ112,113は回転せず、その一方で、車両が旋回しているときには、ピニオンギヤ112,113は回転する。
【0043】
このため、車両が直進しているときには、ピニオンギヤ112,113は回転しないため、ピニオンギヤ112,113と突起部120,121との間に生じる摩擦力は、車輪146,145の回転に影響をあたえず、車両が旋回するときには、ピニオンギヤ112,113に摩擦力(制動力)が加えられる。
【0044】
ここで、車両の旋回中に、たとえば、車輪145がスリップ等により空転すると、路面から車輪145に加えられる負荷は、車輪146と比較して極端に小さくなり、サイドギヤ115はサイドギヤ114よりも回転し易い状態となる。
【0045】
このため、ピニオンギヤ112,113は、回転抵抗の大きいサイドギヤ114上を自転すると共に、公転しようとして、ピニオンギヤ112は回転方向R3に回転すると共に、ピニオンギヤ113は回転方向R4に回転する。
【0046】
ここで、ピニオンギヤ112,113と、突起部120,121との間には大きな摩擦力が生じるため、摩擦により生じた差動制限力がピニオンギヤ112,113からサイドギヤ114に加えられる。これにより、空転している車輪145に加えられるトルクを抑えることができると共に、空転していない車輪146にもトルクを加えることができる。
【0047】
このため、滑りやすい路面状況において、片輪がスリップしたとしても、スリップしていない車輪に駆動力を伝達することができ、走行の安定性を向上させることができる。
【0048】
特に、車両が高速で旋回しているときには、デフケース110も高速で回転し、ピニオンギヤ112,113に加えられる遠心力も大きくなる。これに伴い、突起部120,121とピニオンギヤ112,113との間に生じる摩擦力も大きくなる。このため、車両が高速で旋回している場合において、仮に、いずれか一方の車輪が空転したとしても、空転していない車輪に大きな駆動力を伝達させることができ、安定した走行を確保することができる。
【0049】
さらに、本実施の形態に係る差動歯車装置100においては、上記のように簡易な構成で大きな制動力を得ることができる。
【0050】
図2は、図1のII−II線における断面図である。この図2および上記図1において、突起部121は、デフケース110に形成された貫通孔内に装着される装着部130と、この装着部130の表面から突出するテーパ突起部131とを備えている。装着部130は、テーパ突起部131がデフケース110の内表面から突出する。
【0051】
装着部130は、半田132によって、デフケース110に固定されている。テーパ突起部131の形状は、円錐または円錐台とされている。テーパ突起部131の外周面136は、回転中心線Oに垂直な仮想平面で断面視するとテーパ状となっている。
【0052】
テーパ突起部131の外周面136には、中空状に形成されたワッシャ134が装着されている。ワッシャ134の外周面は、円錐台面形状に形成されており、ワッシャ134の内周面137は、内周面137に沿って延び、円錐台面形状とされている。
【0053】
回転中心線P(テーパ突起部131の中心線)に垂直なワッシャ134の厚さt3は、デフケース110の内周面側に位置する一方の端面154から他方にに亘って一定となるように形成されている。
【0054】
このため、ワッシャ134の外周面135も、円錐台面形状となっており、外周面135はワッシャ134の内周面137およびテーパ突起部131の外周面136に沿って延びている。
【0055】
ピニオンギヤ113は、ワッシャ134上に装着されており、ワッシャ134を介してテーパ突起部131に回転可能に設けられている。
【0056】
このピニオンギヤ113は、環状に形成された基部150と、この基部150の外周面153上に間隔を隔てて複数形成された歯部151とを備えている。
【0057】
基部150の内周面152も、円錐台面形状となるように形成されており、内周面152は、ワッシャ134の外周面135および突起部121の外周面136に沿って延びている。
【0058】
このため、ピニオンギヤ113を、ワッシャ134およびテーパ突起部131上に装着することで、ピニオンギヤ113の中心線と、テーパ突起部131の中心線とを一致させることができ、ピニオンギヤ113を回転中心線Pを中心に回転させることができる。
【0059】
そして、ピニオンギヤ113が回転中心線Oを中心に回転することで、ピニオンギヤ113の内周面152がワッシャ134の外周面135に押圧される。これに伴い、ワッシャ134の内周面137は、テーパ突起部131の外周面136に押圧される。
【0060】
これにより、テーパ突起部131とワッシャ134との間に摩擦力が生じると共に、ワッシャ134とピニオンギヤ113との間にも摩擦力が生じる。
【0061】
そして、テーパ突起部131の外周面136は円錐面形状または円錐台面形状とされており、さらに、ワッシャ134の内周面137も円錐台面形状とされているため、ピニオンギヤ113からの押圧力等によって、ワッシャ134とテーパ突起部131との間に生じる摩擦力は大きくなる(くさび効果)。同様に、ピニオンギヤ113に遠心力が加えられることで、ピニオンギヤ113とワッシャ134との間の摩擦力もに大きくなる。これにより、上記の制動力を得ることができる。
【0062】
なお、ピニオンギヤ113とテーパ突起部131との間にワッシャ134を設けることで、テーパ突起部131およびピニオンギヤ113の磨耗の低減を図ることができる。なお、本実施の形態に係る差動歯車装置100においては、テーパ突起部131とピニオンギヤ113との間にワッシャ134を配置しているが、ワッシャ134は必須の構成ではなく、ピニオンギヤ113をテーパ突起部131に直接装着するようにしてもよい。
【0063】
ピニオンギヤ113に形成された貫通孔の開口部のうち、デフケース110の内周面側に位置する開口部の直径は、テーパ突起部131およびワッシャ134の付根部の直径よりも小さくなっている。このため、ピニオンギヤ113の内周面152がワッシャ134の外周面135と接触して、突起部121に装着されたピニオンギヤ113は、デフケース110の内表面から離れた位置に設けられる。
【0064】
具体的には、回転中心線P方向に配列するピニオンギヤ113の端面のうち、デフケース110側に位置する端面154は、デフケース110の内表面から離れた位置に設けられている。
【0065】
このように、端面154がデフケース110の内表面から離れているので、端面154をデフケース110の内表面に沿って加工する必要がなく、ピニオンギヤ113の製造コストの低減が図られている。
【0066】
たとえば、円柱状に形成されたピンにピニオンギヤを装着する場合には、ピニオンギヤが所定の回転中心を中心に回転するように、ピニオンギヤの背面を球面加工すると共に、上記ピンの周囲に位置するデフケースの内周面に球面状の凹部を形成する。そして、ピニオンギヤを上記ピンに装着すると共に、ピニオンギヤの球面状の背面を上記凹部内に入れ込むことで、ピニオンギヤの中心線が所定の回転中心となるように位置決めされている。。このように、デフケースに球面状の凹部を形成したり、ピニオンギヤの背面を球面加工を施すのには、コストを要する。
【0067】
その一方で、本実施の形態に係る差動歯車装置によれば、ピニオンギヤ113およびデフケース110に上記のような球面加工を施す必要もなく、製造コストの低減を図ることができる。
【0068】
基部150の内周面152および外周面153は、いずれも、テーパ突起部131の外周面136に沿って延びている。このため、回転中心線P(テーパ突起部131の中心線)に垂直な方向における基部150の厚さt1は、端面154側から他方の端面155に亘って、略一定となるように形成されている。
【0069】
ここで、ピニオンギヤ113が回転することで、ピニオンギヤ113とワッシャ134との間に摩擦が生じ、ピニオンギヤ113が高温と成り易い。そして、基部150の温度が高くなると、基部150に熱歪み(熱膨張)が生じる。
【0070】
ここで、上記のように基部150の厚さt1は、端面154側から端面155側に亘って、略均一となるように形成されている。このため、基部150の位置によって熱膨張する大きさにばらつきが生じることを抑制することができる。
【0071】
なお、図2を用いて、ピニオンギヤ113および突起部121について説明したが、図1に示すピニオンギヤ112および突起部120も、ピニオンギヤ113および突起部121と同様に形成されている。
【0072】
図3は、本実施の形態1に係る差動歯車装置100の第1変形例を示す断面図である。この図3に示す例においては、突起部120の装着部の外周縁部にネジ部133が形成されると共に、突起部121の装着部の外周縁部にネジ部138が形成されている。そして、デフケース110には、内周面にネジ部が形成された穴部が2つ形成されており、各突起部120および突起部121は、各穴部に形成されたネジ部と螺合している。
【0073】
この差動歯車装置100によれば、ネジ部133,138の締付回転数を調整することで、突起部120および突起部121の回転中心線P方向の位置を調整することができる。これに伴い、ピニオンギヤ112とサイドギヤ114,115との噛み合い力と、ピニオンギヤ113とサイドギヤ114,115との噛み合い力とを調整することができる。
【0074】
図4は、突起部120(突起部121)の変形例を示す断面図である。この図4に示す例においては、外周面136は、湾曲面状に形成されると共に、先端部に向かうにしたがって、先細となるように形成されている。
【0075】
このように形成された突起部120によれば、ピニオンギヤ112をテーパ突起部131に直接装着した場合において、ピニオンギヤ113の内周面とテーパ突起部131の外周面136とが、線接触し易くなり、外周面136が局部的に磨耗することを抑制することができる。
【0076】
なお、本実施の形態に係る差動歯車装置100は左右後輪に駆動力を伝達するリヤデファレンシャル、左右前輪に駆動力を伝達するフロントデファレンシャル、および前後輪に発生する回転差を吸収するセンターデファレンシャルに適用することができる。
【0077】
以上のように本発明の実施の形態について説明を行なったが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。さらに、上記数値などは、例示であり、上記数値および範囲にかぎられない。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明は、車両に搭載されるデファレンシャルに適用することができる。
【符号の説明】
【0079】
100 差動歯車装置、110 デフケース、111 ボルト、112,113 ピニオンギヤ、114,115 サイドギヤ、116 リングギヤ、120,121 突起部、125 収容部、130 装着部、131 テーパ突起部、132 半田、133,138 ネジ部、134 ワッシャ、135,136 外周面、137 内周面、140 ドライブピニオンギア、142,143 ドライブシャフト、145,146 車輪。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に収容部が形成されると共に、回転中心線を中心として回転するケースと、
前記収容部の内表面のうち、前記回転中心線から離れた位置に形成され、前記収容部の内表面から前記回転中心線に向けて先細となるように形成された突起部と、
前記突起部に設けられた回転可能な第1ギヤと、
前記第1ギヤと噛み合い、第1出力シャフトに連結された第2ギヤと、
前記第1ギヤと噛み合い、第2出力シャフトに連結された第3ギヤと、
を備えた、差動歯車装置。
【請求項2】
前記第1ギヤは前記ケースの内表面から離れた位置に設けられた、請求項1に記載の差動歯車装置。
【請求項3】
前記第1ギヤは、前記突起部に装着される環状の基部と、前記基部の外表面に形成された歯部とを含み、
前記突起部の中心線に垂直な方向の前記基部の厚さは、前記突起部の中心線方向に配列された前記基部の一方の端部側から他方の端部側に亘って一定とされた、請求項1または請求項2に記載の差動歯車装置。
【請求項4】
前記突起部の形状は円錐または円錐台とされた、請求項1から請求項3のいずれかに記載の差動歯車装置。
【請求項5】
前記第2ギヤと前記第3ギヤとに噛み合う第4ギヤと、
前記回転中心線を挟んで、前記突起部と反対側に設けられた他の突起部とをさらに備えた、請求項1から請求項4のいずれかに記載の差動歯車装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2010−203599(P2010−203599A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−53184(P2009−53184)
【出願日】平成21年3月6日(2009.3.6)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】