説明

巻線とコイルの形成方法、およびコイルの破損修復方法

【課題】ティース周りに巻線からなるコイルを形成した際に当該巻線の絶縁被膜にクラックが生じた際にこのクラックを容易かつ迅速に修復することのできる巻線と、この巻線を用いたコイルの形成方法、さらには、このコイルを具備するモータ供用後に巻線を構成する絶縁被膜にクラックが生じた際にこれを修復するコイルの破損修復方法を提供する。
【解決手段】導線1aと、導線1aの周りに形成された絶縁被膜1dからなり、この絶縁被膜1dは、導線側に配された内被膜1bとその周りに配された外被膜1cからなり、外被膜1cは熱硬化性樹脂からなり、内被膜1bは熱可塑性樹脂とその内部に該熱可塑性樹脂の軟化点よりも発泡温度の高い発泡剤B’が含有されている素材からなる巻線1A,1Bである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえばモータのコイルに用いられる巻線とこの巻線を用いたコイルの形成方法、さらには、このコイルを具備するモータ供用後に巻線を構成する絶縁被膜にクラックが生じた際にこれを修復するコイルの破損修復方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
モータを構成するステータは、円環状のヨークと、ヨークから径方向内側に突出する複数のティースと、隣接するティース間に形成されるスロットを備えた鋼板が積層されてなるステータコアから形成されており、たとえば3相のコイルが固有のスロット内に挿入されることによってステータが製造される。コイル用の巻線は、導線周りにエナメル被膜等の絶縁被膜が形成されてコイル内における導線間の絶縁が図られるとともに、ティースとコイルの間には絶縁性のボビンやスロット絶縁紙等のインシュレータが配設されてコア−コイル間の絶縁が図られている。さらに、たとえば3相交流コイルなどの場合には、特許文献1で開示されるように相間絶縁紙等のインシュレータで異相コイル間の相間絶縁が図られている。なお、上記するコイル形成用の巻線は、たとえば銅素材の導線の周りに熱硬化性のエナメル樹脂を溶剤に溶かして数μmの厚みで塗布し、熱処理して塗布層を固め、この処理を複数回繰り返して所望厚のエナメル被膜を形成して巻線が製造されている。
【0003】
また、1層のエナメル被膜からなる絶縁被膜にて導線を保護する形態以外にも、導線周りにポリエステル層を配し、さらにその周りにポリエステルイミド層を配し、さらにその周りに自己潤滑ポリアミド層を配してなる多層構造のエナメル被膜を具備する巻線が特許文献1に開示されており、このような多層構造の絶縁被膜を具備する巻線に関する技術は他にも多数存在している。
【0004】
ところで、ハイブリッド車や電気自動車等をはじめとする昨今の車両に搭載されるモータは小型化と軽量化が図られており、このモータの小型化にともなってコイルの巻装形態も複雑化してきている。たとえば、コイルの占積率を高めるために平角線が使用されているが、コイルエンドにおいてはこの平角線を捻るようにしてコイルエンドからの突出長をできるだけ少なくするような措置が講じられており、その結果としてコイルの形状や巻装形態が複雑になっている。
【0005】
平角線を使用してコイルを形成する場合は特に、これを上記するように捻じって複雑形状とする加工の際に平角線の隅角部等で捻り外力に起因して応力集中が起こり、これによってエナメル被膜にクラックが入り易く、絶縁性の低下に繋がってしまうといった課題がある。
【0006】
そして、このようにエナメル被膜にクラックが生じ易いという実態は、このエナメル被膜が1層構造のものであれ、特許文献1で開示される多層構造のものであれ何等変わるものではなく、導線に平角線を適用する場合には既述する応力集中に起因してクラックの発生が顕著であることもまた同様である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−78883号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記する問題に鑑みてなされたものであり、ティース周りに巻線からなるコイルを形成した際に当該巻線の絶縁被膜にクラックが生じた場合、もしくは、このコイルがティース周りに配されてなるモータ供用後に巻線の絶縁被膜にクラックが生じた場合に、このクラックを容易かつ迅速に修復することのできる巻線と、この巻線を用いたコイルの形成方法、さらには、このコイルを具備するモータ供用後に巻線を構成する絶縁被膜にクラックが生じた際にこれを修復するコイルの破損修復方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成すべく、本発明による巻線は、導線と、導線の周りに形成された絶縁被膜からなり、前記絶縁被膜は、導線側に配された内被膜とその周りに配された外被膜からなり、外被膜は熱硬化性樹脂からなり、内被膜は熱可塑性樹脂とその内部に該熱可塑性樹脂の軟化点よりも発泡温度の高い発泡剤が含有されている素材からなるものである。
【0010】
本発明の巻線は、導線周りに2層構造の絶縁被膜を有するものであり、導線側の内被膜は熱可塑性樹脂とその内部に該熱可塑性樹脂の軟化点よりも発泡温度の高い発泡剤が含有されている素材から形成され、外側の外被膜は熱硬化性樹脂から形成されている。まず、導線周りに内被膜を形成する熱可塑性樹脂をディップもしくは塗工等し、焼成して成膜する際には、発泡剤の発泡温度がこの熱可塑性樹脂の軟化点(もしくは融点)よりも高いことから、この成膜の際に発泡剤が発泡することはない。
【0011】
導線周りに内被膜を成膜後、この内被膜の周りに熱硬化性樹脂からなる外被膜を成膜する。この外被膜が熱硬化性樹脂からなることより、少なくとも発泡剤の発泡温度よりも低い温度で熱硬化性樹脂を硬化させて成膜することで、外被膜を成膜する際にも発泡剤の発泡を抑制できる。
【0012】
このようにして、内被膜を熱可塑性樹脂から形成し、その内部に該熱可塑性樹脂の軟化点よりも発泡温度の高い発泡剤を分散させておき、内被膜の外側に熱硬化性樹脂からなる外被膜を形成した2層構造の絶縁被膜とすることで、絶縁被膜を成膜する際に内被膜に含有される発泡剤を発泡させることなく、導線周りに2層構造の絶縁被膜を成膜することが可能となる。
【0013】
そして、この巻線をティース周りに形成し(予め巻線が巻装されたものをティースに配設してもよいし、ティース周りに巻線を巻装していく方法であってもよい)、たとえばコイルエンドを捻るようにしてヨーク側に押出してコイルエンド突出長を可及的に低くするといった3次元的な変形加工がおこなわれる。
【0014】
ここで、導線には、従来一般の断面円形の丸線や楕円形断面の銅素材の導線のほか、スロット内の占積率を高めるべく、銅素材の平角線を適用するのが好ましい。
【0015】
また、内被膜を形成する熱可塑性樹脂としては、ポリイミド(PI)やポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニルサルホン(PPSU)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルサルホン(PESU)、ポリサルホン(PSU)、液晶ポリマー(LCP)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリフタルアミド(PPA)、ポリアミド(PA)などのうちのいずれか一種を適用できる。また、内被膜の熱可塑性樹脂内に含有される発泡剤としてはビステトラゾール系の発泡剤を適用でき、より詳細には、ビステトラゾールジアンモニウムやビステトラゾールピペラジンなどを挙げることができる。さらに、外被膜を形成する熱硬化性樹脂としては、熱硬化性ポリアミドイミドやポリエステルイミド、エポキシ樹脂、フェノール樹脂のうちのいずれか一種を適用できる。
【0016】
そして、特にこの平角線を適用してなるコイルに上記するような3次元的に複雑な変形加工をおこなう際に、巻線を構成する絶縁被膜にクラックが生じ易い。
【0017】
そこで、このような複雑形状のコイルを加工する際に巻線を構成する絶縁被膜にクラックが生じた場合に、本発明の巻線を適用することによって容易かつ迅速にこのクラックを修復して絶縁性が保証されたコイルを形成することが可能となる。
【0018】
すなわち、本発明はこのようなコイルの形成方法にも及ぶものであり、このコイルの形成方法は、前記巻線をステータのティース周りに巻装する第1のステップ、第1のステップで絶縁被膜にクラックが生じている際に、前記発泡剤の発泡温度以上で熱処理して内皮膜を軟化させ、発泡剤の発泡によって軟化した内被膜でクラックを閉塞する第2のステップからなるものである。
【0019】
コイルを加工した際に絶縁被膜に生じたクラック発生箇所に対し、発泡剤の発泡温度以上の温度で熱処理することにより、内被膜の熱可塑性樹脂は軟化(もしくは溶融)し、その内部の発泡剤は発泡して空隙(気泡)を生成し、軟化した内被膜はこの空隙によって体積膨張して外側に膨らみ、内被膜から外被膜に亘って形成されたクラックをこの軟化した内被膜が閉塞することができる。
【0020】
このように、ティース周りに平角線等の巻線を配設し、たとえばそのコイルエンドを捻る等して3次元的に複雑な変形加工を施した際に巻線を構成する絶縁被膜にクラックが生じた場合には、このクラック箇所を所望に熱処理してクラックを内被膜を構成する熱可塑性樹脂で埋めて絶縁被膜を修復し、コイルの形成が完了する。
【0021】
さらに、本発明は、このコイルを具備するモータ供用後に巻線を構成する絶縁被膜にクラックが生じた際にこれを修復するコイルの破損修復方法にも及ぶものであり、この修復方法は、前記巻線がステータのティース周りに巻装されてできたコイルを具備するモータの供用後に該コイルにクラックが生じた際に、前記発泡剤の発泡温度以上でコイルを熱処理して内皮膜を軟化させ、発泡剤の発泡によって軟化した内被膜でクラックを閉塞するものである。
【0022】
この修復方法も既述するコイルの形成方法と同様の方法によって、モータ供用後に巻線の絶縁被膜にクラックが生じた際に、絶縁被膜におけるクラック箇所を熱処理して軟化した内被膜でクラックを閉塞し、クラック破損箇所を修復するものである。
【0023】
なお、このコイルの破損修復方法の適用に際しては、コイル形成の際にクラックが生じていない絶縁被膜箇所に対して、その破損修復が可能である。コイル形成の際にクラックが生じた絶縁被膜箇所では、その際に熱処理をおこなって発泡剤を発泡させていることから、モータ供用後に同様の箇所にクラックが生じた際には、再度発泡剤を発泡させることができないからである。
【0024】
本発明のコイルの形成方法と同様に、モータ供用後に巻線を構成する絶縁被膜にクラックが生じた場合であっても、その絶縁性を保証するべく、コイルを取り替える等することなく、クラック発生箇所を熱処理するだけの簡易で安価なメンテナンスでコイルの破損箇所を迅速に修復でき、当該コイルの絶縁性を確保することができる。
【発明の効果】
【0025】
以上の説明から理解できるように、本発明の巻線と、この巻線を使用してなるコイルの形成方法、この巻線を使用してなるコイルを具備するモータ供用後におけるコイルの破損修復方法によれば、巻線が導線周りに2層構造の絶縁被膜を有し、導線側の内被膜は熱可塑性樹脂とその内部に該熱可塑性樹脂の軟化点よりも発泡温度の高い発泡剤が含有されている素材から形成され、外側の外被膜は熱硬化性樹脂から形成されていることにより、内被膜と外被膜の成膜の際に発泡剤を発泡させることなく、コイル加工やモータ供用後に巻線を構成する絶縁被膜にクラックが生じた際に、発泡剤の発泡温度以上の温度で熱処理することによって内被膜の熱可塑性樹脂は軟化し、その内部の発泡剤は発泡して空隙を形成し、軟化した内被膜がこの空隙によって体積膨張して外側に膨らみ、内被膜から外被膜に亘って形成されたクラックをこの軟化した内被膜が閉塞することによってクラックによる破損箇所を修復し、巻線の絶縁性を保証することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】ステータコアにおけるコイルエンドが捻られて変形され、ヨーク側に押出されている状態を説明した斜視図である。
【図2】図1のII−II矢視図であって、コイルを形成する巻線の縦断面図である。
【図3】(a)はコイル加工時に巻線を構成する絶縁被膜にクラックが生じた状態を説明した縦断面図であり、(b)は生じたクラックを軟化した内被膜が閉塞して絶縁被膜が修復された状態を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して本発明の巻線とコイルの形成方法の実施の形態を説明する。なお、図示例の巻線は平角線からなるものであるが、本発明の巻線は平角線以外にも断面円形や楕円形の一般の導線からなるものを含んでいることは勿論のことである。
【0028】
(巻線)
図1はステータコアにおけるコイルエンドが捻られて変形され、ヨーク側に押出されている状態を説明した斜視図であり、図2は図1のII−II矢視図であって、コイルを形成する巻線の縦断面図である。
【0029】
図1は、3相交流モータ用コイルのうち、異相コイルのU相とV相がコイルエンドで接している箇所のみを取り出して示したものである。なお、したがって、別の部位では、U相とW相がコイルエンドで接している箇所、V相とW相がコイルエンドで接している箇所が存在する。なお、ステータコア2を構成するティース2a,2aで画成される一つのスロット2c内には、同相の複数の巻線1A、…,1B、…が挿入され、これが複数のティースを超えて別途のスロット内に挿入され、それぞれ環状のステータコア2を一周して各相のコイルがステータコア2に形成されている。なお、U相コイルとW相コイルの相間には不図示の相間絶縁紙が配設され、各相のコイルとスロット面の間には不図示のスロット絶縁紙等のインシュレータが配設されている。
【0030】
図1からも明らかなように、U相コイル、V相コイルともにこれらのコイルエンドは捻られて3次元的に変形され、ヨーク2b側に押出されてコイルエンドの突出長が可及的に短くなるように加工されている。
【0031】
U相コイルおよびV相コイルをそれぞれ構成する巻線1A,1Bはともに、平角導線1aと絶縁被膜1dから構成されており、この絶縁被膜1dは、平角導線1a側に配された熱可塑性樹脂からなる内被膜1bと、その周りに配されて熱硬化性樹脂からなる外被膜1cから構成されている。
【0032】
ここで、内被膜1bを形成する熱可塑性樹脂としては、ポリイミド(PI)やポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニルサルホン(PPSU)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルサルホン(PESU)、ポリサルホン(PSU)、液晶ポリマー(LCP)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリフタルアミド(PPA)、ポリアミド(PA)などのうちのいずれか一種を適用できる。
【0033】
さらに、内被膜1b内には発泡剤B’が含有されており、この発泡剤B’としてはビステトラゾール系の発泡剤を適用でき、より詳細には、ビステトラゾールジアンモニウムやビステトラゾールピペラジンなどを挙げることができる。
【0034】
外被膜1cは、熱硬化性ポリアミドイミドやポリエステルイミド、エポキシ樹脂、フェノール樹脂のうちのいずれか一種を適用できる。
【0035】
このように内被膜1bの熱可塑性樹脂、発泡剤B’、外被膜1cの熱硬化性樹脂には多様な素材が適用可能であるが、ここでは、発泡剤B’の発泡温度が内被膜1bの熱可塑性樹脂の軟化点(もしくは融点)よりも高くなるように、熱可塑性樹脂と発泡剤双方の素材が選定される。たとえば、内被膜1bの熱可塑性樹脂としてその軟化点が350℃程度のポリエーテルエーテルケトン(PEEK)を、発泡剤B’としてその発泡温度が360℃程度でPEEKよりも発泡温度の高いビステトラゾール系発泡剤を適用するのがよい。
【0036】
このように、内被膜1bを、そのマトリックス樹脂である熱可塑性樹脂の軟化点よりも発泡温度の高い発泡剤が当該熱可塑性樹脂内に含有された素材から成膜し、この周りに熱硬化性樹脂からなる外被膜1cを成膜することにより、導線1a周りにこれら内被膜1bおよび外被膜1cからなる絶縁被膜1dを塗工や焼成等で成膜する際に、内被膜1b内に含有されている発泡剤B’がこの成膜過程で発泡するのが抑止される。
【0037】
(コイルの形成方法)
次に、図3を参照してコイルの形成方法について概説する。なお、図3aはコイル加工時に巻線を構成する絶縁被膜にクラックが生じた状態を説明した縦断面図であり、図3bは生じたクラックを軟化した内被膜が閉塞して絶縁被膜が修復された状態を示す縦断面図である。なお、図3a,bでは、巻線1Aを取り上げて説明しているが、この説明は、巻線1Bや不図示のW相コイル用の巻線にも妥当するものである。ここで、この「コイルの形成方法」とは、図1のようにコイルを3次元的に変形等させながら加工すること、そしてこの加工の際にコイルを構成する巻線の絶縁被膜にクラックが生じた場合に、このクラックを修復してコイルの絶縁性を保証することを包含するものである。
【0038】
コイルの形成方法は、まず、図2で示すような断面構造の巻線を使用し、ステータコア2を構成する各スロット2c内にU相コイル、V相コイル、W相コイルを配設して対応するティース2a周りに各相のコイルを巻装する(第1のステップ)。
【0039】
ここで、図1で示すように特にコイルエンドにおいては、外力が付与されて捻られ、3次元的に変形されながらヨーク2b側に押出されてコイルエンドにおける突出長を短くするといった加工がなされる。
【0040】
そして、たとえばこのような加工の際に、図3aで示すように巻線1Aの絶縁被膜1dの各所にはクラックCが生じ易い。
【0041】
このように絶縁被膜1dにクラックCが生じたことが確認されたら、図3bで示すように、クラックC発生箇所をヒータH等を使用して内被膜1bに含有されている発泡剤B’の発泡温度以上の温度で熱処理する(第2のステップ)。
【0042】
この熱処理により、内被膜1bの熱可塑性樹脂は軟化(もしくは溶融)し、その内部の発泡剤B’は発泡して空隙Bを形成し、この空隙Bによって軟化した内被膜1bが体積膨張して外側に膨らみ、内被膜1bから外被膜1cに亘って形成されたクラックCをこの軟化した内被膜1b’が閉塞することになる。
【0043】
すなわち、この熱処理によってクラックCは熱可塑性樹脂とその内部の空隙Bによって完全に閉塞されて絶縁被膜1dの破損が修復され、平角導線1aの絶縁性が保証された修復後の巻線1A’(コイル1A’)が形成される。
【0044】
なお、このコイルの形成方法は、このコイルを具備するモータ供用後に巻線1A,1B等を構成する絶縁被膜1dに生じたクラックCを修復する際にも適用することができる。すなわち、巻線1A,1B等がステータコア2のティース2a周りに巻装されてできたコイル1A,1B等を具備するモータの供用後に該コイルにクラックが生じた際に、発泡剤B’の発泡温度以上でコイル1A,1B等のクラック発生箇所を熱処理して内皮膜1bを軟化させ、発泡剤B’の発泡によって空隙Bを形成し、この空隙Bによって軟化した内被膜1bが体積膨張して外側に膨らんでクラックCを閉塞するものである。
【0045】
このように、モータ供用後に巻線を構成する絶縁被膜にクラックが生じた場合において、巻線を交換することなく、クラック発生箇所を所望に熱処理するだけの極めて簡易なメンテナンスにより、容易かつ迅速に破損した巻線の絶縁性を保証することが可能となる。
【0046】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0047】
1a…平角導線、1b…内被膜、1c…外被膜、1d…絶縁被膜、1A,1B…巻線(コイル)、1A’…クラック処理後の巻線(コイル)、2…ステータコア、2a…ティース、2b…ヨーク、2c…スロット、B…空隙、B’… 発泡剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導線と、導線の周りに形成された絶縁被膜からなり、
前記絶縁被膜は、導線側に配された内被膜とその周りに配された外被膜からなり、
外被膜は熱硬化性樹脂からなり、内被膜は熱可塑性樹脂とその内部に該熱可塑性樹脂の軟化点よりも発泡温度の高い発泡剤が含有されている素材からなる巻線。
【請求項2】
請求項1に記載の巻線をステータのティース周りに巻装する第1のステップ、
第1のステップで絶縁被膜にクラックが生じている際に、前記発泡剤の発泡温度以上で熱処理して内被膜を軟化させ、発泡剤の発泡によって軟化した内被膜でクラックを閉塞する第2のステップからなるコイルの形成方法。
【請求項3】
請求項1に記載の巻線がステータのティース周りに巻装されてできたコイルを具備するモータの供用後に該コイルにクラックが生じた際に、前記発泡剤の発泡温度以上でコイルを熱処理して内被膜を軟化させ、発泡剤の発泡によって軟化した内被膜でクラックを閉塞するコイルの破損修復方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−228087(P2012−228087A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−94161(P2011−94161)
【出願日】平成23年4月20日(2011.4.20)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】