説明

希土類ボンド磁石の製造方法

【課題】生産性の低下を生じず、かつ十分な機械的強度を有するボンド磁石を得ることができる希土類ボンド磁石の製造方法を提供する。
【解決手段】フレーク状の希土類磁性粉を1次粒子として、当該1次粒子と熱硬化性樹脂を混合して金型内で圧縮成形し、硬化処理して粉砕することによって2次粒子を得、当該2次粒子を熱可塑性樹脂と混合して射出成形する。2次粒子を構成する1次粒子はフレーク状の平面同士が接合された状態で複数が積層されており、2次粒子の長径(L)と厚み(D)の比(L/D)は3以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は希土類ボンド磁石の製造方法に関し、特に、DCブラシレスモータの界磁用ロータや小型センサー等に使用される薄肉小型の希土類ボンド磁石の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のボンド磁石の製造方法として、磁気性能に優れたNdFeB系あるいはSmFeN系の希土類磁性粉と樹脂バインダーを混合して射出成形する方法が知られている。具体的には、上記磁性粉をカップリング処理し(図4のステップ200)、これをナイロン12やPPS等の熱可塑性樹脂バインダーと混合する(図4のステップ201)。混合物を2軸混練機でペレット化し(図4のステップ202)、これを射出成形して目的形状の成形品を得る(図4のステップ203)。この後、成形品を磁化して所望の磁気パターンを有するボンド磁石を得、モータや各種センサーなどに実装している。ところで、自動車電装用途ではモータの小型化、軽量化、高トルク化の要求が大きく、これに応じてボンド磁石を小型化、高磁力化しようとするとバインダーの比率を下げて、磁性粉の充填率を高める必要がある。
【0003】
なお、特許文献1には、希土類ボンド磁石を安価に再生利用するために、熱硬化性樹脂を含有した希土類ボンド磁石の粉砕粉と熱可塑性樹脂との混合物を、成形および着磁した希土類磁石材料が開示されている。
【特許文献1】特開平6−260314
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、超急冷法により製造される希土類磁性粉は扁平なフレーク状をしており、その充填率を高めると、2軸混練機のスクリュートルクが過大となって設備が停止したり、射出成形金型内の流動不能によるショートショットが生じて生産性や品質が低下するという問題があった。加えて、図5に示すように、リング状モータ用磁石は通常多点ゲートで射出成形される。図5は、6箇所のゲート1から溶湯が射出される(図中矢印)場合を示している。この場合、ゲート1間の境界面で、射出された原料溶融物のメルトフロントが会合衝突し、この会合面部Xで、扁平な磁性粉P3(図6)はその殆どが流れに対して垂直方向に配向する。このため、会合面部Xの磁性粉相互の凝集力が低下して、モータ回転中あるいは温度環境の変動によって会合面部Xが破損するという問題があった。なお、図6中、L3は熱可塑性樹脂である。
【0005】
そこで、本発明は上記課題を解決するもので、生産性の低下を生じないとともに、十分な機械的強度を有するボンド磁石を得ることができる希土類ボンド磁石の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の希土類ボンド磁石の製造方法は、フレーク状の希土類磁性粉を1次粒子として、当該1次粒子と熱硬化性樹脂を混合して金型内で圧縮成形し、成形物を硬化処理し粉砕することによって2次粒子を得、当該2次粒子を熱可塑性樹脂と混合して射出成形することを特徴とする。
【0007】
本発明において、1次粒子たるフレーク状の希土類磁性粉と熱硬化性樹脂を混合してこれらを金型内で圧縮すると、図1に示すように、1次粒子P1のフレーク状の平面同士が熱硬化樹脂L1で接合された状態で複数の1次粒子P1が積層された2次粒子P2が多数得られる。この2次粒子P2は厚みがあり、1次粒子の長径と厚みの比(L/D)が4〜18程度もあるのに対してL/Dを3以下にできるからその流動性が増す。
【0008】
これにより、2次粒子と熱可塑性樹脂の混合物を混練する際の、2軸混練機における過大なスクリュートルクの発生が回避されて設備停止のおそれが無くなるとともに、射出成形時の金型内の流動不能によるショートショットの発生が回避される。このようにして射出成形されたボンド磁石は、メルトフロントの会合面における流れに垂直な方向のみへの磁性粉の配向が解消される結果、会合面部分における機械的強度の低下が防止される。なお、図2には、メルトフロントの会合面部分Xにおけるボンド磁石の概念的な組織図を示し、図中、L2は熱可塑性樹脂である。
【発明の効果】
【0009】
以上のように、本発明の製造方法によれば、生産性の低下を回避できるとともに、得られた希土類ボンド磁石は十分な機械的強度を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
2次粒子の製造は、より具体的には以下のように行う。超急冷法により製造されたフレーク状のNdFeB系またはSmFeN系の希土類磁性粉を平均粒径10〜100μmに粉砕して1次粒子とし(図3のステップ100)、これを必要に応じカップリング処理した後に熱硬化性樹脂と混合する(図3のステップ101)。熱硬化性樹脂としてはエポキシ樹脂、フェノール樹脂などが使用できる。
【0011】
1次粒子と熱硬化性樹脂の混合物を円柱状あるいはリング状の金型に充填して両面より圧縮する(図3のステップ102)。圧縮は室温または加熱下(150℃程度)において、5〜10ton/cm2の加圧力で1次粒子を圧縮方向と直交する方向に配向させる。これにより、フレーク状の1次粒子が互いの平面で接合され積層される。この時の加圧装置は特に限定されないが、ローラコンパクタあるいは粉末プレス機が使用できる。加圧圧縮により成形された成形体を熱硬化性樹脂の硬化温度まで加熱して硬化させ(図3のステップ103)、硬化した成形体をピンミルあるいはハンマーミルなどで粉砕した後、さらに振動篩等で分級して2次粒子を得る(図3のステップ104)。
【0012】
なお、1次粒子を互いに接合する熱硬化性樹脂は十分な結合力が必要であるが、特に射出成形温度すなわち熱可塑性樹脂の融点下でその結合力が熱分解により低下しないことが必要である。したがって、熱硬化性樹脂のTGA(熱重量分析)で測定される5%熱分解温度は、熱可塑性樹脂の融点以上であることが必要である。また、急激な加圧は1次粒子が積層状態とならず、これら1次粒子間に空隙が形成されて2次粒子の強度が弱くなり、射出成形に際して2次粒子の破壊につながるから好ましくない。
【0013】
上記2次粒子は、これを構成する1次粒子が互いにその平面で熱硬化性樹脂により接合された構造を有し、2次粒子の長径と厚みの比(L/D)は3以下とする。3より大きいと流動性に劣るため、設備停止やショートショットの発生、あるいはメルトフロントの会合面部における機械的強度の低下が回避できない。
【0014】
2次粒子を得る際の加圧力は5〜10ton/cm2が好ましい。5ton/cm2より低いと、一次粒子の積層数が減少してL/Dが3以下の2次粒子を得ることができなくなる。また、2次粒子を構成する1次粒子相互の間に空間を生じて、2次粒子と熱可塑性樹脂とを混練した後、射出成形する際に2次粒子の破壊が生じるおそれがある。一方、10ton/cm2より大きいと、磁性粉に機械的歪が加わり磁気性能の低下をもたらすから好ましくない。
【0015】
上記のようにして得られた2次粒子は熱可塑性樹脂と混合し(図3のステップ105)、二軸混練してペレットとする(図3のステップ106)。そしてこれを射出成形して所望の多点ゲートリング形の希土類ボンド磁石を得る(図3のステップ107)。熱可塑性樹脂としてはナイロン12,ナイロン6,PPSなどが使用できる。必要に応じて酸化チタン、カーボン粉、硫酸バリウムなどのフィラーを混合添加することも可能である。ボンド磁石の表面には電着塗装、スプレー塗装、電界メッキあるいは無電解メッキなどの表面塗装を施すこともできる。
【実施例】
【0016】
以下、表1に示す実施例と比較例について説明する。
[実施例1]
マグネクエンチ・インターナショナル社製超急冷NdFeB系磁性粉を平均粒径10〜100μmに粉砕して1次粒子とし、東レ・ダウコーニング社製シラン系カップリング剤Z−6094にて表面処理したのちに大日本インキ化学製クレゾールノボラック型エポキシ樹脂N−670と磁性粉換算で90wt%となるような比率で混合し、平均粒径110μmの混合物を得た。
【0017】
混合物をローラーコンパクタにより、面圧5.2ton/cm2にて圧縮し、その後、150℃で30分間加熱処理して硬化させた。硬化された成形体の平均粒径は150μmだった。成形体をさらに振動ミルにて軽粉砕し粒径を調整した。このようにして得られた2次粒子の平均粒径は125μm、長径と厚みの比(L/D)は2.5であった。この2次粒子と呉羽化学工業製PPSを2軸混練後、射出成形し、外径φ28mm,内径φ25mm,高さ15mmの2点ゲートのリング状ボンド磁石を得た。ボンド磁石を射出成形する際に、2軸混練機の過負荷や金型内での溶湯の流動不能によるショートショットの発生は生じなかった。また、ボンド磁石の、メルトフロント会合面部分の破断強度は31MPaと十分大きなものであった。
【0018】
[実施例2]
実施例1と同様の磁性粉、熱硬化性樹脂を用いて混合後、粉末プレス機にて9.5ton/cm2にて加圧して硬化させ外径7mm,高さ4mmのペレットを成形し、これをハンマーミルにて粉砕後に粒度調整を行い平均粒径135μmの2次粒子を得た。2次粒子の長径と厚みの比(L/D)は2.8であった。以降、実施例1と同様の条件で射出成形によりリング状のボンド磁石を得た。ボンド磁石成形の際に、2軸混練機の過負荷や金型内での溶湯の流動不能によるショートショットの発生は生じなかった。また、ボンド磁石の、メルトフロント会合面部分の破断強度は39MPaと十分大きなものであった。
【0019】
[比較例1]
実施例1と同様の磁性粉と呉羽化学工業製PPSを2軸混練した後、射出成形して、外径φ28mm,内径φ25mm,高さ15mmの2点ゲートのリング状ボンド磁石を得た。この場合には、2軸混練機の過負荷や金型内での溶湯の流動不能によるショートショットの発生を生じることがあった。その上、ボンド磁石の、メルトフロント会合面部分の破断強度は13MPaと低く、機械的強度に劣る。
【0020】
[比較例2]
ローラコンパクタによる混合物の圧縮を面圧3.0ton/cm2にした以外は、全て実施例1と同一条件で同形のボンド磁石を得た。この場合の2次粒子の平均粒径は129μm、長径と厚みの比(L/D)は3.7であった。これによると、ボンド磁石の、メルトフロント会合面部分の破断強度は18MPaと低くなり、機械的強度に劣る。
【0021】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明方法により製造される2次粒子の断面図である。
【図2】本発明方法により製造されるボンド磁石の、メルトフロントの会合面部分におけるボンド磁石の概念的な組織図である。
【図3】本発明方法の工程を示すフローチャートである。
【図4】従来方法の工程を示すフローチャートである。
【図5】多点ゲートにより射出成形されるボンド磁石の概念的斜視図である。
【図6】従来方法により製造されるボンド磁石の、メルトフロントの会合面部分におけるボンド磁石の概念的な組織図である。
【符号の説明】
【0023】
1…ゲート、P1…1次粒子、P2…2次粒子、X…会合面部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フレーク状の希土類磁性粉を1次粒子として、当該1次粒子と熱硬化性樹脂を混合して金型内で圧縮成形し、成形物を硬化処理し粉砕することによって2次粒子を得、当該2次粒子を熱可塑性樹脂と混合して射出成形することを特徴とする希土類ボンド磁石の製造方法。
【請求項2】
前記2次粒子を構成する前記1次粒子はそのフレーク状の平面同士が接合された状態で複数が積層されており、前記2次粒子の長径(L)と厚み(D)の比(L/D)は3以下である請求項1に記載の希土類ボンド磁石の製造方法。
【請求項3】
フレーク状の希土類磁性粉を1次粒子とし、前記1次粒子はそのフレーク状の平面同士が熱硬化性樹脂によって接合された状態で複数が積層されて2次粒子を構成しており、前記2次粒子を熱可塑性樹脂とともに射出し成形された、前記2次粒子の長径(L)と厚み(D)の比(L/D)が3以下である希土類ボンド磁石。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−123706(P2010−123706A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−295168(P2008−295168)
【出願日】平成20年11月19日(2008.11.19)
【出願人】(595181210)株式会社ダイドー電子 (41)
【Fターム(参考)】