説明

帯電防止バリアフィルム

【課題】本発明は、蒸着膜成膜時の帯電によるバリア劣化を防止した帯電防止バリアフィルムを提供することを目的とする。
【解決手段】高分子材料からなる基材(2)の少なくとも一方の面に、酸化アルミニウムからアルミニウムへの傾斜構造を有した蒸着薄膜層(3)を設けることで、蒸着加工中の帯電によるバリア劣化を防止する。また、前蒸着薄膜層(3)が、基材(2)側から膜表面へ、Al:O=1:2から1:0の範囲で連続的に変化する。さらに前記蒸着薄膜層(3)表面の表面固有抵抗が、50〜1000Ω/cm2で、前記蒸着薄膜層(3)の厚さが、5〜300nmの範囲内であることを特徴とする帯電防止バリアフィルムである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品、医薬品、精密電子部品等の包装分野に用いられる透明性を有する帯電防止バリアフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食品、医薬品、精密電子部品等の包装に用いられる包装材料は、内容物の変質、とくに食品においては蛋白質や油脂等の酸化、変質を抑制し、さらに味、鮮度を保持するために、また無菌状態での取扱いが必要とされる医薬品においては有効成分の変質を抑制し、効能を維持するために、さらに精密電子部品においては金属部分の腐食、絶縁不良等を防止するために、包装材料を透過する酸素、水蒸気、その他内容物を変質させる気体による影響を防止する必要があり、これら気体(ガス)を遮断するガスバリア性を備えることが求められている。
【0003】
そのため、従来から塩化ビニリデン樹脂をコートしたポリプロピレン(KOP)やポリエチレンテレフタレート(KPET)或いはエチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)など一般にガスバリア性が比較的高いと言われる高分子樹脂組成物をガスバリア材として包装材料に用いた包装フィルムやAlなどの金属からなる金属箔、適当な高分子樹脂組成物(単独では、高いガスバリア性を有していない樹脂であっても)にAlなどの金属又は金属化合物を蒸着した金属蒸着フィルムを包装材料に用いた包装フィルムが一般的に使用されてきた。
【0004】
ところが、上述の高分子樹脂組成物のみを用いてなる包装フィルムは、Alなどの金属又は金属化合物を用いた箔や蒸着薄膜層を形成した金属蒸着フィルムに比べるとガスバリア性に劣るだけでなく、温度・湿度の影響を受けやすく、その変化によってはさらにガスバリア性が劣化することがある。一方、Alなどの金属又は金属化合物を用いた箔や蒸着薄膜層を形成した金属蒸着フィルムは、温度・湿度などの影響を受けることは少なく、ガスバリア性に優れるが、包装体の内容物を透視して確認することができないとする欠点を有していた。
【0005】
そこで、これらの欠点を克服した包装用材料として、最近ではセラミック薄膜を、透明性を有する高分子材料からなる基材上に蒸着などの形成手段により形成された蒸着フィルムが上市されている。
【0006】
セラミック薄膜の材料としては、酸化アルミニウム(AlOx)、一酸化珪素(SiO)などの珪素酸化物、酸化マグネシウム、酸化カルシウムなどが安全性、原材料価格の点などから候補となりうる。しかしながら珪素酸化物は材料特有の色があるため、高透明にはなり得ず、また酸化マグネシウム、酸化カルシウムは原材料の昇華温度が高く、そのために蒸着工程における蒸発速度が遅くなる。そのためバリア性を発現させるのに十分な20nm程度の薄膜を付着させようとすると、製膜時間が長時間になり、高コストに繋がるため商業的採算が合わない。
【0007】
上記理由から、酸化アルミニウムの反応蒸着が、原材料の安さと透明性から、最も注目される材料である。この酸化アルミニウムを成膜するには、アルミニウムを蒸発させて、酸素と反応させるいわゆる反応蒸着法が蒸発速度の点から有効である。酸化アルミニウムの反応蒸着法として、抵抗加熱方式を用いた方法と、電子線加熱方式を用いた方法が商業化されているが、抵抗加熱方式では、アルミ坩堝表面のAl材料酸化による蒸発レートの低下を避けることが難しく、長尺安定性に欠けるプロセスであると言われている。一方で
電子線加熱方式を用いた場合、アルミ坩堝表面は常に高エネルギーの電子線照射に曝されるため、Al材料の酸化を抑えられ、安定したプロセスが達成されている。
【0008】
しかしながら、従来のように電子線加熱方式にて酸化アルミニウムを成膜すると、電子線からの二次電子が酸化アルミニウム膜中に入り込み、帯電現象を起こす。この帯電現象により、蒸着フィルムがローラーから上手く離れることが出来ない状態(リロール不良)が起こる。リロール不良のままで蒸着フィルムを引き剥がすと、蒸着膜に応力が掛かり、クラックが入ることでバリア劣化を起こす現象が観察されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような従来技術の問題点を解決しようとするものであり、蒸着膜成膜時の帯電によるバリア劣化を防止した帯電防止バリアフィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記の課題を解決するために成されたものであり、本発明の請求項1に係る発明は、高分子材料からなる基材(2)の少なくとも一方の面に、酸化アルミニウムからアルミニウムへの傾斜構造を有した蒸着薄膜層(3)を設けることで、蒸着加工中の帯電によるバリア劣化を防止することを特徴とする帯電防止バリアフィルムである。
【0011】
本発明の請求項2に係る発明は、請求項1記載の帯電防止バリアフィルムにおいて、前記傾斜構造を有した蒸着薄膜層(3)が、基材(2)側から膜表面へ、Al:O=1:2から1:0の範囲で連続的に変化することを特徴とする請求項1記載の帯電防止バリアフィルムである。
【0012】
本発明の請求項3に係る発明は、請求項1又は2記載の帯電防止バリアフィルムにおいて、前記蒸着薄膜層(3)表面の表面固有抵抗が、50〜1000Ω/cm2であることを特徴とする帯電防止バリアフィルムである。
【0013】
本発明の請求項4に係る発明は、請求項1乃至3のいずれか1項記載の帯電防止バリアフィルムにおいて、前記傾斜構造を有した蒸着薄膜層(3)の厚さが、5〜300nmの範囲内であることを特徴とする帯電防止バリアフィルムである。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る帯電防止バリアフィルムは、高分子材料からなる基材の少なくとも一方の面に、酸化アルミニウムからアルミニウムへの傾斜構造を有した蒸着薄膜層を設けることにより、酸化アルミニウム層の表面は、アルミニウム成分の多い酸化アルミニウム層になる。金属成分の多い膜表面を形成することで蒸着膜への帯電が減少し、蒸着機中でのリロール不良が改善され、蒸着膜への負荷が低減することでバリア劣化が防止される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の実施の形態を図面に基づいて説明するがこれに限定されるものではない。
【0016】
図1は本発明に係る帯電防止バリアフィルムの層構成の1実施例を示す側断面図であり、図2は本発明に係る帯電防止バリアフィルムの基材に酸化アルミニウムからアルミニウムへの傾斜構造を有した蒸着薄膜層を設ける部分説明図である。
【0017】
図1に示すように、本発明に係る帯電防止バリアフィルムは、高分子材料からなる基材(2)の少なくとも一方の面に、酸化アルミニウムからアルミニウムへの傾斜構造を有し
た蒸着薄膜層(3)を設けることで、蒸着加工中の帯電によるバリア劣化を防止することが可能になる。
【0018】
前記蒸着薄膜層(3)は、無機化合物である酸化物層で形成されている。この酸化物層は基材(2)の両面に形成してもよく、また多層に形成してもよい。
【0019】
前記基材(2)は、透明性を有する高分子材料であり、とくに無色透明であればよく、通常、包装材料として用いられるものが好ましい。例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、二軸延伸ポリプロピレン(OPP)、二軸延伸ナイロン(ONy)など機械的強度、寸法安定性を有するものであり、これらをフィルム状に加工して用いられる。さらに平滑性が優れ、かつ添加剤の量が少ないフィルムが好ましい。また、この基材(2)の表面に、薄膜の密着性を良くするために、前処理としてコロナ処理、低温プラズマ処理、イオンボンバード処理を施しておいてもよく、さらに薬品処理、溶剤処理などを施してもよい。
【0020】
該基材(2)の厚さは、特に制限を受けるものではないが、包装材料としての適性、他の層を積層する場合も在ること、蒸着薄膜層(3)を形成する場合の加工性を考慮すると、5〜100μmの範囲が好ましいと言える。
【0021】
また,量産性を考慮すれば、連続的に薄膜を形成できるように長尺状フィルムとすることが望ましい。
【0022】
方法として蒸着薄膜層(3)は、アルミニウムを蒸発材料にして、酸素、炭酸ガスと不活性ガスなどとの混合ガスの存在下で薄膜形成を行う、いわゆる反応性蒸着を用いる。
【0023】
本発明における蒸着薄膜層(3)の厚さは、5〜300nmの範囲内であることが望ましく、その値は適宜選択される。ただし、膜厚が5nm以下であると基材(2)の全面が膜にならないことがあり、ガスバリア材としての機能を十分に果たすことができない場合がある。また、膜厚を300nm以上にした場合は薄膜にフレキシビリティを保持させることができず、成膜後に折り曲げ、引っ張りなどの外的要因により、薄膜に亀裂を生じるおそれがあるためである。
【0024】
前記蒸着薄膜層(3)に傾斜を持たせる方法としては、図2に示すように、酸化アルミニウムの反応蒸着の際に、酸素の導入の方法を変化させることにより、酸化アルミニウム(アルミナ)蒸気領域(15)とアルミニウム蒸気領域(16)を成すことが出来る。該酸素の導入を蒸着窓の基材(11)巻き出し側からのみ導入することで基材(11)近傍の酸化度が大きく、表面に向けて酸化度が小さくなっていく傾斜構造を作成することが出来る。
【0025】
酸素導入量の変化により、蒸着表面の金属性が変化し、表面固有抵抗が変化する。アルミニウムの蒸着薄膜層(3)の帯電は金属ローラーとの接触により除電されていくが、表面固有抵抗が低いほど有効に除電される。表面固有抵抗値は、1000Ω/cm2以下であることが望ましく、更には200Ω/cm2以下であることが好ましい。但し、50Ω/cm2以下を達成しようとすると、Al金属層が厚くなり過ぎ、透明性(400nm測定にて70%以上)が阻害されるため、表面固有抵抗値は、50〜1000Ω/cm2の範囲であることが必要である。
【実施例】
【0026】
以下、本発明に係る帯電防止バリアフィルムの具体的実施例を挙げて説明するが、それに限定されるものではない。
【0027】
<実施例1>
反応蒸着法に用いる蒸着部分としては、図2に示すように、主に冷却ドラム(12)、アルミニウム蒸発ルツボ(13)、酸素導入部(14)などから形成されている。電子線加熱方式を用いた反応蒸着時に、酸素導入部(14)を基材(11)巻出し近傍に設置することにより、膜の厚さ方向に傾斜組成をもつ酸化アルミニウム膜を、厚さ12μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムからなる基材(11)の片面に厚さ約20nm形成した帯電防止バリアフィルムを得た。この時、蒸着薄膜の膜組成比は、基材(11)近傍において、Al:O=1:1.8であり、表面へ向かって傾斜構造を取る。最表面の膜組成比は、Al:O=1:0.5である。
【0028】
次に、比較例を示す。
【0029】
<比較例1>
電子線加熱方式を用いた反応蒸着時に、図3に示すように、酸素導入部(14)を蒸着窓の中心に設置することにより、膜の厚さ方向に膜質が均一な酸化アルミニウム膜(Al:O=1:1.8)を厚さ12μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムからなる基材(11)の片面に厚さ約20nm形成した帯電防止バリアフィルムを得た。
【0030】
<比較例2>
比較例1と同様だが、アルミニウムと酸素の組成比がAl:O=1:0.5となるように、厚さ12μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムからなる基材(11)の片面に厚さ約20nmの酸化アルミニウム膜を形成した帯電防止バリアフィルムを得た。
【0031】
<評価>
実施例1及び比較例1、2の帯電防止バリアフィルムの光線透過度、及びガスバリア性を、酸素透過度及び水蒸気透過度により評価した。及びその際の表面固有抵抗を測定した。その結果を表1に記す。
【0032】
以下に帯電防止バリアフィルムを評価するための各測定方法について説明する。
(1)光線透過度・・・分光光度計(島津製作所社製 UV−3100)を用いて、波長400nmの光の透過度を測定。
(2)酸素透過度・・・モダンコントロール社製[MOCON OX−TRAN(登録商標)]を用いて、30℃−70%RH雰囲気下で各フィルムを蒸着直後に測定した。
(3)水蒸気透過度・・・モダンコントロール社製[MOCON PERMATRAN−W(登録商標)]を用いて、40℃−90%RH雰囲気下で各フィルムを蒸着直後に測定した。
【0033】
【表1】

表1は、実施例1、及び比較例1、2の帯電防止バリアフィルムの光線透過度、ガスバリア性を、酸素透過度及び水蒸気透過度により評価した結果、及びその際の表面固有抵抗値を示す表である。特性値の単位は、透明性を表す光線透過度(%)、酸素透過度(ml/m2 ・day・atm)、水蒸気透過度(g/m2 ・day)、表面固有抵抗(Ω/cm2)である。
【0034】
<比較結果>
実施例1は、光線透過度は75%以上と透明性を維持しつつ、バリア性も優れていることが分かる。また、蒸着薄膜表面の表面固有抵抗は、183Ω/cm2であり、目視によるリロール不良も観察されなかった。一方、比較例1は、光線透過度は80%以上と透明
性が悪く、蒸着後のバリア性も実施例1よりも悪く、劣化していることが分かる。この時の蒸着薄膜表面の表面固有抵抗は、測定限界(1000Ω/cm2)以上であり、目視によるリロール不良も観察された。比較例2では、蒸着後のバリア性は優れるものの、光線透過度が70%を切るほどに低く、透明蒸着フィルムとしての要件を満たしていない。蒸着薄膜表面の表面固有抵抗は、25Ω/cm2であり、目視によるリロール不良は観察されなかった。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明に係る帯電防止バリアフィルムの層構成の1実施例を示す側断面図である。
【図2】本発明に係る帯電防止バリアフィルムの基材に酸化アルミニウムからアルミニウムへの傾斜構造を有した蒸着薄膜層を設ける部分説明図である。
【図3】従来の帯電防止バリアフィルムの基材に蒸着薄膜層を設ける部分説明図である。
【符号の説明】
【0036】
1・・・帯電防止バリアフィルム
2・・・基材
3・・・蒸着薄膜層
11・・・基材
12・・・冷却ドラム
13・・・アルミニウム蒸発ルツボ
14・・・酸素導入部
15・・・酸化アルミニウム(アルミナ)蒸気領域
16・・・アルミニウム蒸気領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子材料からなる基材の少なくとも一方の面に、酸化アルミニウムからアルミニウムへの傾斜構造を有した蒸着薄膜層を設けることで、蒸着加工中の帯電によるバリア劣化を防止することを特徴とする帯電防止バリアフィルム。
【請求項2】
前記傾斜構造を有した蒸着薄膜層が、基材側から膜表面へ、Al:O=1:2から1:0の範囲で連続的に変化することを特徴とする請求項1記載の帯電防止バリアフィルム。
【請求項3】
前記蒸着薄膜層表面の表面固有抵抗が、50〜1000Ω/cm2であることを特徴とする請求項1又は2記載の帯電防止バリアフィルム。
【請求項4】
前記傾斜構造を有した蒸着薄膜層の厚さが、5〜300nmの範囲内であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の帯電防止バリアフィルム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−261134(P2007−261134A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−90446(P2006−90446)
【出願日】平成18年3月29日(2006.3.29)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】