説明

帯電防止離型剤組成物及び離型フィルム

【課題】 帯電防止性能や剥離力などの要求特性を満足する離型層を、低温短時間の硬化条件で1層コーティングにて形成することができる帯電防止離型剤組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明の帯電防止離型剤組成物は、(a)導電性ポリマー、(b)アルコキシシランオリゴマー、(c)ヒドロキシ末端ポリジメチルシロキサン、(d)硬化触媒、(e)導電性向上剤、及び、(f)溶媒又は分散媒を含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯電防止離型剤組成物、及び、該帯電防止離型剤組成物を用いて形成された帯電防止離型被膜を備えた離型フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
離型フィルムは、シリコーン系やフッ素系、または有機高分子系化合物などの離型剤からなる離型層を有するフィルムであり、通常、光学フィルムにおいて、シリコーンやアクリルおよびエポキシ系の粘着剤からなる粘着層の保護フィルムとして、光学フィルムに貼り合わせて使用される。剥離フィルムはその後、光学フィルムから再度、剥がされる。そのため、離型フィルムの離型層には基材への密着性や剥離力、離型成分の粘着層への移行や粘着成分の離型層への移行が少ないといった特性が要求される。特許文献1には、シリコーン系離型剤からなる有機溶剤型の離型剤組成物が提案されている。
【0003】
近年、電子材料の多様化や製品検査の高精度化によって、光学フィルムから離型フィルムを剥離した際に発生する静電気の帯電による、光学フィルムへの埃の付着が問題視されるようになってきた。液晶テレビやプラズマテレビ、エレクトロルミネッセンスディスプレイ、太陽電池などのフラットパネルディスプレイの製造工程や搬送工程においては、パネル表面の傷つき、および汚れや埃の付着を防止するために、光学フィルムの一種であるプロテクトフィルムが使用されている。プロテクトフィルムから離型フィルムを剥がすと静電気が発生し、帯電によってプロテクトフィルムに埃が付着すると、その後の工程に悪影響を及ぼすため、離型フィルムに帯電防止性能が求められるようになってきた。
【0004】
離型フィルムに帯電防止性能を付与する方法として、例えば、特許文献2には、カチオン型帯電防止材からなる帯電防止層を離型層の背面に形成することが提案されている。しかしながら、粘着層への静電気の帯電を効果的に防ぐには、離型層の面に帯電防止性を付与する方が好ましいと考えられる。
【0005】
特許文献3では、離型層の下に帯電防止層を設けることで離型フィルムに帯電防止性能を付与することが提案されている。しかしながら、この方法では、基材フィルム上に2層のコーティング層を形成するため、塗布コストが高くなり、経済的に不利であった。
【0006】
1層コーティングで性能を付与することが可能な帯電防止離型剤組成物として、特許文献4には、カーボンナノチューブやカーボンナノファイバーを帯電防止剤として用いた帯電防止離型剤組成物が報告されている。しかしながら、カーボン材料に固有の着色のため、帯電防止性能の向上に伴い、透明性が低下するといった課題があった。
【0007】
上述のように、従来提案されている帯電防止離型剤組成物では、帯電防止性能や剥離力などの要求特性を満足する離型層を、低温短時間の硬化条件で1層コーティングにて形成することができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4123349号公報
【特許文献2】特開平09−277451号公報
【特許文献3】特許第4439886号公報
【特許文献4】特開2007−90817号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、上記の課題を解決し、帯電防止性能や剥離力などの要求特性を満足する離型層を、低温短時間の硬化条件で1層コーティングにて形成することができる帯電防止離型剤組成物、及び、このような帯電防止離型剤組成物を用いて形成された帯電防止離型被膜を備えた離型フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、導電性ポリマー(a)、アルコキシシランオリゴマー(b)、ヒドロキシ末端ポリジメチルシロキサン(c)、硬化触媒(d)、導電性向上剤(e)、及び、溶媒又は分散媒(f)を含有する組成物であれば、低温短時間の硬化条件において、被膜外観、導電性、透明性、基材への密着性、剥離力、剥離後表面抵抗率、残留接着率に優れた帯電防止離型被膜を、1層コーティングで形成することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明の帯電防止離型剤組成物は、
(a)導電性ポリマー、
(b)アルコキシシランオリゴマー、
(c)ヒドロキシ末端ポリジメチルシロキサン、
(d)硬化触媒、
(e)導電性向上剤、及び、
(f)溶媒又は分散媒
を含有することを特徴とする。
【0012】
また、本発明の帯電防止離型剤組成物において、上記導電性ポリマー(a)は、以下の式(I):
【化1】

(式中、RおよびRは相互に独立して水素原子又はC1−4のアルキル基を表すか、又は、一緒になって置換されていてもよいC1−4のアルキレン基を表す)の反復構造を有するポリ(3,4−ジアルコキシチオフェン)又はポリ(3,4−アルキレンジオキシチオフェン)と、ドーパントとの複合体であることが望ましい。
【0013】
また、上記帯電防止離型剤組成物において、上記アルコキシシランオリゴマー(b)の分子量は1300〜1900であり、そのアルコキシ基はメトキシ基であることが望ましい。
【0014】
また、上記帯電防止離型剤組成物において、上記ヒドロキシ末端ポリジメチルシロキサン(c)は、ヒドロキシ末端ポリジメチルシロキサンのエマルジョンであり、その含有量が、アルコキシシランオリゴマー(b)100重量部に対して、固形分として、10〜74重量部であることが望ましい。
【0015】
また、上記帯電防止離型剤組成物において、上記硬化触媒(d)がチタンキレートであることが望ましい。
【0016】
また、上記帯電防止離型剤組成物において、上記導電性向上剤(e)は、アミド基を有する化合物であることが望ましい。
【0017】
本発明の離型フィルムは、基材と、上記基材上に積層された帯電防止離型被膜とからなる離型フィルムであって、
上記帯電防止離型被膜は、本発明の帯電防止離型剤組成物を用いて形成された被膜であることを特徴とする。
【0018】
上記離型フィルムにおいて、上記帯電防止離型被膜は、上記帯電防止離型剤組成物を基材に塗布し、100℃以下の温度で、乾燥・熱硬化させることにより形成された被膜であることが望ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の帯電防止離型剤組成物によれば、良好な被膜外観、導電性、透明性、基材への密着性、剥離力、剥離後表面抵抗率、残留接着率等を有する帯電防止離型被膜を、低温短時間の加熱処理(乾燥・熱硬化)により形成することができる。
また、本発明の帯電防止離型フィルムは、本発明の帯電防止離型剤組成物を基材上に塗布、硬化してなるものであるため、優れた外観、導電性、透明性、基材への密着性、剥離力、剥離後表面抵抗率、残留接着率を有する帯電防止離型被膜を備える。
【発明を実施するための形態】
【0020】
まず、本発明の帯電防止離型剤組成物について説明する。
本発明の帯電防止離型剤組成物は、(a)導電性ポリマー、(b)アルコキシシランオリゴマー、(c)ヒドロキシ末端ポリジメチルシロキサン、(d)硬化触媒、(e)導電性向上剤、及び、(f)溶媒又は分散媒を含有する。
以下、各配合物の成分について順に説明する。
【0021】
1.導電性ポリマー(a)
上記導電性ポリマー(a)は、形成した帯電防止離型被膜(コーティング層)に導電性(例えば、表面抵抗率、以下;SR)、を付与するための配合物である。
上記導電性ポリマーとしては、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリフェニレンビニレン、ポリナフタレン、これらの誘導体、および、これらとドーパントとの複合体等が挙げられる。
これらのなかでは、ポリチオフェンとドーパントとの複合体からなるポリチオフェン系導電性ポリマーが好適であり、ポリチオフェン系導電性ポリマーとしては、ポリ(3,4−ジアルコキシチオフェン)又はポリ(3,4−アルキレンジオキシチオフェン)とドーパントとの複合体がより好適である。
【0022】
上記ポリ(3,4−ジアルコキシチオフェン)又はポリ(3,4−アルキレンジオキシチオフェン)としては、以下の式(I):
【化2】

で示される反復構造単位からなる陽イオン形態のポリチオフェンが好ましい。ここで、RおよびRは相互に独立して水素原子又はC1−4のアルキル基を表すか、あるいは一緒になって置換されていてもよいC1−4のアルキレン基を表す。
上記C1−4のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基等が挙げられる。
また、RおよびRが一緒になって形成される、置換されていてもよいC1−4のアルキレン基としては、例えば、メチレン基、1,2−エチレン基、1,3−プロピレン基、1,4−ブチレン基、1−メチル−1,2−エチレン基、1−エチル−1,2−エチレン基、1−メチル−1,3−プロピレン基、2−メチル−1,3−プロピレン基等が挙げられる。好適には、メチレン基、1,2−エチレン基、1,3−プロピレン基であり、1,2−エチレン基が特に好適である。上記アルキレン基を持つポリチオフェンとして、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)が特に好ましい。
ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)とドーパントとからなる複合体は、導電性や透明性に加えて化学的安定性に極めて優れており、導電性ポリマーとしてこの複合体を用いて形成した帯電防止離型被膜は、湿度に依存しない極めて安定した導電性と極めて高い透明性とを有している。さらには、導電性ポリマーとしてこの複合体を含有する帯電防止離型剤組成物は、低温短時間で被膜を形成することが可能であることから、大量生産が求められる離型フィルムの製造に極めて適した生産性も有している。
【0023】
上記ポリチオフェン系導電性ポリマーを構成するドーパントは、上述のポリチオフェンとイオン対をなすことにより複合体を形成し、ポリチオフェンを水中に安定に分散させることができる陰イオン形態のポリマーである。
このようなドーパントとしては、カルボン酸ポリマー類(例えば、ポリアクリル酸、ポリマレイン酸、ポリメタクリル酸等)、スルホン酸ポリマー類(例えば、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリイソプレンスルホン酸等)等が挙げられる。これらのカルボン酸ポリマー類およびスルホン酸ポリマー類はまた、ビニルカルボン酸類およびビニルスルホン酸類と他の重合可能なモノマー類、例えば、アクリレート類、スチレン、ビニルナフタレンなどの芳香族ビニル化合物との共重合体であっても良い。中でも、ポリスチレンスルホン酸が特に好ましい。
【0024】
上記ポリスチレンスルホン酸は、重量平均分子量が20000より大きく、500000以下であることが好ましい。より好ましくは40000〜200000である。分子量がこの範囲外のポリスチレンスルホン酸を使用すると、ポリチオフェン系導電性ポリマーの水に対する分散安定性が低下する場合がある。
尚、上記ポリマーの重量平均分子量はゲル透過クロマトグラフィー(GPC)にて測定した値である。測定にはウォーターズ社製ultrahydrogel500カラムを使用した。
【0025】
上記導電性ポリマーの含有量は、限定されるものではないが、帯電防止離型剤組成物の固形分に対して、固形分として、1〜10重量%含まれることが好ましい。より好ましくは3〜6重量%である。1重量%より少ないと導電性が発現しにくく、10重量%より多いと、他成分との混合により沈殿が発生し、帯電防止離型剤組成物のポットライフが短くなる場合がある。
【0026】
2.アルコキシシランオリゴマー(b)
上記アルコキシシランオリゴマーは、帯電防止離型剤組成物に低温での硬化性を付与し、透明性(例えば、全光線透過率、以下;Ttおよびヘイズ値、以下;Haze)、基材への密着性、剥離力、剥離後表面抵抗率、残留接着率に優れた帯電防止離型被膜を形成することを可能とする。
【0027】
上記アルコキシシランオリゴマーとしては、例えば、以下の式(II):
【化3】

【0028】
(式中、Rは、それぞれ独立して水素又はC1−4のアルキル基を表し、nは、1〜20の正の整数を表す)で示されるものが挙げられる。ここで、置換基Rは水素又はC1−4のアルキル基であれば特に制限はなく、炭素数の異なる置換基がひとつの分子の中に混在していても良い。低温での硬化性を考慮すると、炭素数は小さい方が好ましく、メチル基であることが最も好ましい。
【0029】
上記式(II)で示されるアルコキシシランオリゴマーの分子量は、帯電防止離型被膜の剥離力の観点から、約500以上であることが好ましく、約1600〜1900であることがさらに好ましい。分子量が大きいほど、形成された被膜の剥離力は高い傾向にある。これらのアルコキシシランオリゴマーは、同一の構造を有するもののみを用いてもよいし、構造の異なるものを併用してもよい。
なお、上記分子量に鑑みて上記式(II)に記載のnは適宜設定され得る。例えば、アルコキシシランオリゴマーとしてメトキシシランオリゴマーを用いる場合、nは、好ましくは2〜20の範囲であり、より好ましくは12〜16の範囲である。また、アルコキシシランオリゴマーとしてブトキシシランオリゴマーを用いる場合、nは、好ましくは1〜10の範囲であり、より好ましくは6〜8の範囲である。
【0030】
上記式(II)で示されるアルコキシシランオリゴマーの中では、分子量が1600〜1900のメトキシシランオリゴマーが特に好ましい。これらのアルコキシシランオリゴマーは、塗布液中で、アルコキシ基が一部加水分解していてもよく、事前に酸性条件下で加水分解処理を行っていても良い。加水分解によって生成するシラノール基が分子内に含まれることで、反応性が向上し、低温での硬化性が向上するが、一方では、シラノール基が塗布液中で反応するため、塗布液のポットライフは低下する。
なお、本明細書において、塗布液のポットライフとは、上記帯電防止型離型剤組成物を用いて形成した帯電防止離型被膜の外観、導電性、透明性、基材への密着性、剥離力、剥離後表面抵抗率、残留接着率などの諸性能が、十分に維持されうる塗布液の経時時間を示す。
【0031】
上記帯電防止離型被膜が良好な外観、導電性、透明性、基材への密着性、剥離力、剥離後表面抵抗率、残留接着率を有するためには、アルコキシシランオリゴマー(b)の含有量は、帯電防止離型剤組成物の固形分に対して、45〜75重量%含まれることが好ましい。より好ましくは、50〜70重量%である。
含有量の固形分に占める割合が75重量%を超えると、被膜の基材に対する密着性や剥離力が低下する場合がある。逆に、45重量%より少ないと、被膜が十分に硬化しないことがある。
【0032】
3.ヒドロキシ末端ポリジメチルシロキサン(c)
上記ヒドロキシ末端ポリジメチルシロキサン(c)は、基材上に帯電防止離型被膜を形成する際の乾燥・熱硬化時に、ヒドロキシル基が、基材上でアルコキシシランオリゴマー(b)との縮合反応によって架橋し、被膜に高い基材への密着性と高い剥離力、剥離後表面抵抗率、残留接着率を付与できるものである。即ち、上記ヒドロキシ末端ポリジメチルシロキサン(c)は、アルコキシシランオリゴマーと反応して帯電防止離型剤組成物を硬化させる。
上記ヒドロキシ末端ポリジメチルシロキサン(c)は、ポリジメチルシロキサン骨格にヒドロキシル基を有する疎水性のシリコーン化合物を、乳化剤によって水に分散したエマルジョンであることが好ましい。
【0033】
上記ヒドロキシ末端ポリジメチルシロキサン(c)のエマルジョンとしての含有量は、特に限定されるものではないが、アルコキシシランオリゴマー100重量部に対して、固形分として、10〜74重量部であることが望ましく、15〜55重量部であることがより望ましい。この範囲であれば、低温短時間の硬化条件においても硬化し、基材への密着性と剥離力、剥離後表面抵抗率、残留接着率に優れた被膜を形成することが可能である。
これに対して、上記含有量が74重量部を超えると、均一な塗工が困難となり、結果として、被膜外観の悪化や剥離力が低下する場合がある。一方、10重量部未満では、十分な剥離力が得られない。
【0034】
4.硬化触媒(d)
上記硬化触媒(d)は、アルコキシシランオリゴマー(b)とヒドロキシ末端ポリジメチルシロキサン(c)の縮合反応を促進させるために必要なものである。上記のようなシラノール化合物の縮合反応を促進させうる硬化触媒には、スズやチタン、およびジルコニウムなどの金属化合物がある。これらの硬化触媒は、1種類のものを単独で用いても良いし、2種類以上を併用して用いてもよい。
【0035】
上記スズ化合物としては、ジブチルスズジアセテート、ジオクチルスズジアセテート、ジオクチルスズジオクテートなどがあり、チタン化合物としては、チタンテトライソプロポキシド、チタンブトキシドダイマーなどのチタンアルコキシド;チタンテトラアセチルアセトネート、チタンジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)、チタンジイソプロポキシビス(トリエタノールアミネート)、チタンラクテートなどのチタンキレート;がある。ジルコニウム化合物としては、ジルコニウムテトラノルマルプロポキシド、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、ジルコニウムジブトキシビス(エチルアセトアセテート)、塩化ジルコニウム-アミノカルボン酸などがある。
これらの触媒のなかでは、低温短時間の硬化条件においても基材に対する密着性に優れる被膜を形成でき、且つ塗布液のポットライフを低下させない点で、チタンキレートが好ましく、チタンラクテートが特に好ましい。
【0036】
上記硬化触媒の含有量は、特に限定するものではないが、アルコキシシランオリゴマーとヒドロキシ末端ポリジメチルシロキサンとの合計の固形分100重量部に対して、固形分として、10重量部以下であることが好ましく、1〜6重量部であることがより好ましい。
この範囲であれば、低温短時間の硬化条件でも上記シリコーンの縮合反応を促進でき、基材への密着性と剥離力に優れた帯電防止離型被膜を形成することができるからである。
これに対し、硬化触媒の含有量が10重量部を超えるかまたは1重量部を下回ると、被膜が十分に硬化せず、基材に対する密着性が低下する場合がある。
【0037】
上記帯電防止離型剤組成物に使用されるアルコキシシランオリゴマー(b)及びヒドロキシ末端ポリジメチルシロキサンのシリコーン成分は縮合型シリコーンであるため、低温短時間での硬化性において、付加硬化型のシリコーンに比べて優位である。付加硬化型シリコーンの場合、白金触媒がPEDOT/PSSや導電性向上剤として含まれるアミド基などの官能基を有する化合物と作用することで、触媒能が低下するため、低温短時間でシリコーンが完全に反応しない場合がある。これに対し、縮合型シリコーンでは、上述のような硬化阻害がないため、100℃以下の温度であっても、シリコーン成分の硬化が進行する。
【0038】
5.導電性向上剤(e)
上記帯電防止離型剤組成物に含有される導電性向上剤は、形成した帯電防止離型被膜の導電性を向上させることができる。
上記導電性向上剤としては、例えば、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、γ−ブチロラクトン、N−メチルピロリドン等のアミド化合物;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、カテコール、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、グリセリン、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のヒドロキシル基含有化合物;イソホロン、プロピレンカーボネート、シクロヘキサノン、アセチルアセトン、酢酸エチル、アセト酢酸エチル、オルト酢酸メチル、オルトギ酸エチル等のカルボニル基含有化合物;ジメチルスルホキシド等のスルホ基を有する化合物などが挙げられる。
これらの中では、塗布液のポットライフや低温での揮発性、形成した帯電防止離型被膜の導電性、基材への密着性などの観点から、アミド化合物が好ましく、N−メチルピロリドンとN−メチルホルムアミドが特に好ましい。
また、上記導電性向上剤の含有量に、特に制限はないが、帯電防止離型剤組成物中に0.1〜60重量%の量で含有されることが好ましい。
【0039】
6.溶媒又は分散媒(f)
上記溶媒又は分散媒としては、帯電防止離型剤組成物に含有される各成分を溶解又は分散させるものであれば特に制限されず、例えば、水、有機溶剤、これらの混和物等が挙げられる。
なお、本発明においては、帯電防止離型剤組成物に含まれる、溶媒又は分散媒以外の各成分が溶解している場合は溶媒と称し、帯電防止離型剤組成物を構成する少なくとも1成分が均一に分散している場合は分散媒と称する。
上記帯電防止離型剤組成物においては、上記アルコキシシランオリゴマーが水に溶解しない場合があるため、溶媒又は分散媒として水と有機溶剤の混和物を使用することができる。さらに、水と有機溶剤の混和物を使用する場合、有機溶剤としては、少なくとも1種の水と混和する有機溶剤を含んでいることが好ましく、水と混和する有機溶剤を含んでいれば、さらに水と混和しない(疎水性の)有機溶剤を含んでいてもよい。溶媒又は分散媒として、沸点の低いアルコール系の有機溶剤と水の混合物を使用することによって揮発性が向上し、乾燥・熱硬化の際に有利となる場合がある。また、樹脂基材を使用する場合、アルコール系有機溶媒はレベリング性の向上にも寄与し得る。
【0040】
6−1.有機溶剤
上記有機溶剤としては、水に溶解し難いアルコキシシランオリゴマーなどの成分を均一に溶解又は分散させうるものが挙げられる。
水と混和する有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、2−プロパノール、1−プロパノール等のアルコール類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール等のエチレングリコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のグリコールエーテル類;エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート等のグリコールエーテルアセテート類;プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール等のプロピレングリコール類;プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル等のプロピレングリコールエーテル類;プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のプロピレングリコールエーテルアセテート類;テトラヒドロフラン、アセトン、アセトニトリル、及び、これらの混和物等が挙げられる。
また、疎水性の有機溶剤としては、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル等のエステル類;ジイソプロピルエーテル、ジイソブチルエーテル等のエーテル類;メチルエチルケトン、メチルジイソブチルケトン等のケトン類;ヘキサン、オクタン、石油エーテル等の脂肪族炭化水素類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、及び、これらの混和物等が挙げられる。
これらの有機溶剤は単独で用いても、2種類以上を併用してもよい。
【0041】
上記帯電防止離型剤組成物が水系の組成物である場合、上記有機溶剤の含有量は、水100重量部に対して、20重量部以上であることが好ましい。20重量部未満になると、アルコキシシランオリゴマーなどの疎水性の成分が均一に溶解又は分散せず、被膜外観や基材への密着性、剥離力などの性能が発現しない場合がある。なお、上記帯電防止離型剤組成物が溶剤系の組成物である場合には、上記溶剤の含有量に制限はない。
なお、本発明においては、帯電防止離型剤組成物が水を含有する場合、その組成物を水系の組成物といい、帯電防止離型剤組成物が水を含有しない場合、その組成物を溶剤系の組成物ということとする。
【0042】
6−2.水
上記水系の帯電防止離型剤組成物に用いる水としては、例えば、蒸留水、イオン交換水及びイオン交換蒸留水等が挙げられる。また、上記水には、導電性ポリマーの水分散体及び他成分に含有される水分も含まれる。
上記水の含有量は、帯電防止離型剤組成物中に、1重量%以上であることが好ましい。
【0043】
上記帯電防止離型剤組成物が水系の組成物である場合、帯電防止離型剤組成物のpHは1〜14の範囲であることが好ましく、低温での硬化性や被膜の導電性を考慮すると、より好ましくは1〜7であり、1.5〜4であることが特に好ましい。帯電防止離型剤組成物のpHは、塩基等のpH調整剤により調整すればよい。
上記pH調整剤としては、例えば、アンモニア、エタノールアミン、イソプロパノールアミン等のアルカノールアミン類等が挙げられる。
ここで、塩基は酸と塩を形成するため、硬化触媒に作用することで、硬化触媒のアルコキシシランオリゴマーへの硬化促進効果を低下させることがあり、帯電防止離型剤組成物のpHが高くなるほど、低温での硬化性は低下するが、アルコキシシランオリゴマーの溶液中での自己架橋は抑制されるため、溶液の安定性や帯電防止離型剤組成物のポットライフが良くなる場合があることを考慮して、pH調製剤の添加量は適宜決定すればよい。なお、上記pH調整剤は、本発明の帯電防止離型剤組成物における任意成分である。
【0044】
また、ここまで説明したような(a)〜(f)成分を含有する帯電防止離型剤組成物としては、アルコキシシランオリゴマー(b)の分子量が1600〜1900のメトキシシランオリゴマーであり、ヒドロキシ末端ポリジメチルシロキサン(c)が、アルコキシシランオリゴマー100重量部に対し、固形分として、10〜74重量部含まれ、硬化触媒(d)がチタンラクテートであり、導電性向上剤(e)としてN−メチルホルムアミドを含有するものが、帯電防止離型剤組成物の塗布液のポットライフが長時間維持され、且つ、低温短時間の硬化条件においても、被膜外観、導電性、透明性、基材への密着性、剥離力、剥離後表面抵抗率、残留接着率を向上できる点で好ましい。
【0045】
ここまで説明した(a)〜(f)成分は、本発明の帯電防止離型剤組成物における必須成分である。
本発明の帯電防止離型剤組成物は、上述した成分以外に、必要に応じて、その他の成分を含有していてもよい。
【0046】
7.その他添加剤
7−1.レベリング剤
上記レベリング剤は、帯電防止離型剤組成物を基材上に均一に塗工させるためのものであり、上記レベリング剤は、帯電防止離型剤組成物の基材への濡れ性を向上させ、帯電防止離型被膜を均一に形成させ得るものである。
【0047】
上記レベリング剤としては、例えば、フッ素含有化合物やシリコーン化合物、アクリル系化合物などが挙げられる。
フッ素含有化合物のレベリング剤としては、例えば、パーフルオロアルカン、パーフルオロアルキルカルボン酸、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物などが挙げられる。
シリコーン系のレベリング剤としては、例えば、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、ポリエーテルエステル変性ポリジメチルシロキサン、ヒドロキシル基含有ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、アクリル基含有ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、アクリル基含有ポリエステル変性ポリジメチルシロキサン、パーフルオロポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、パーフルオロポリエステル変性ポリジメチルシロキサン、シリコーン変性アクリル化合物などが挙げられる。
また、アクリル系化合物としては、そのホモポリマー体やコポリマーなどが挙げられる。
これらは、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0048】
上記レベリング剤の含有量は特に限定されないが、その上限は帯電防止離型剤組成物の固形分に対して、固形分として、5〜25重量%含まれることが好ましく、7〜15重量%がより好ましい。
上記含有量が25重量%を超えると、アルコキシシランオリゴマーとヒドロキシ末端ポリジメチルシロキサンの縮合反応によって形成される帯電防止離型被膜の架橋密度が低下し、結果として基材への密着性や剥離力が低下する場合がある。逆に、上記レベリング剤の含有量が5重量%よりも少ないと、被膜外観が向上しないことがある。
【0049】
7−2.微粒子分散体
上記帯電防止離型剤組成物は、被膜の離型性を向上させる目的で、微粒子分散体を含有させてもよい。
上記微粒子分散体としては、例えば、コロイダルシリカや中空シリカ、フッ素樹脂微粒子、チタンなどの金属微粒子などが挙げられる。
上記微粒子分散体の固形分としての含有量は特に制限されないが、その上限は帯電防止離型剤組成物の固形分に対して、固形分として、20重量%以下であることが好ましく、10重量%であることがより好ましい。一方、その下限は、4重量%であることが好ましい。
上記含有量が、20重量%を超えると、被膜の架橋密度が低下し、密着性が悪化する場合があり、4重量%未満では、剥離力が向上しない。
【0050】
7−3.シランカップリング剤
上記帯電防止離型剤組成物には、低温での硬化性、基材への濡れ性を向上させる目的で、シランカップリング剤を含有させてもよい。
上記シランカップリング剤としては、例えば、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−メルカプトトリメトキシシラン等が挙げられる。
上記シランカップリング剤の含有量は特に限定されないが、帯電防止離型剤組成物の固形分に対して、固形分として、20重量%以下であることが好ましい。20重量%よりも多くなると、形成した帯電防止離型被膜の架橋密度が低下し、剥離力が低下する場合がある。
【0051】
7−4.増粘剤
上記帯電防止離型剤組成物には、組成物の粘度を向上させる目的で増粘剤を含有させてもよい。
上記増粘剤としては、例えば、アルギン酸の塩、およびその誘導体、キサンタンガム誘導体、カラギーナンやセルロースなどの糖類化合物などの水溶性高分子等が挙げられる。
上記増粘剤の含有量は特に限定されないが、帯電防止離型剤組成物の固形分に対して、固形分として、10重量%以下であることが好ましい。10重量%よりも多くなると、形成した被膜の架橋密度が低下し、剥離力が低下する場合がある。
【0052】
次に、本発明の離型フィルムについて説明する。
本発明の離型フィルムは、基材と、上記基材上に積層された帯電防止離型被膜とからなる離型フィルムであって、
上記帯電防止離型被膜は、本発明の帯電防止離型剤組成物を用いて形成された被膜であることを特徴とする。
【0053】
上記離型フィルムは、基材と、上記基材上に積層された帯電防止離型被膜とからなる。
上記基材としては、例えば、樹脂基材等が挙げられる。
上記樹脂基材の材料樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、アイオノマー共重合体、シクロオレフィン系樹脂等のポリオレフィン樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリオキシエチレン、変性ポリフェニレン、ポリフェニレンスルフィド等のポリエステル樹脂;ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン9、半芳香族ポリアミド6T6、半芳香族ポリアミド6T66、半芳香族ポリアミド9T等のポリアミド樹脂;アクリル樹脂、ポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、塩化ビニル樹脂、トリアセチルセルロース等が挙げられる。
また、これらのなかで、光学材料用の離型フィルムの場合には、加工性および機能性の観点から、ポリエチレンテレフタレートやトリアセチルセルロースが好適に用いられる。
【0054】
上記基材の形状は特に限定されず、離型フィルムの形状に合せて適宜選択すればよく、フィルム状、板状、その他所望の形状が挙げられる。従って、上記基材としてはフィルム、シート、板、成形物等、種々のものを使用することができる。
また、上記基材の表面は、コロナ処理、火炎処理、プラズマ処理等の処理が施されていても良い。これらの処理を施すことにより、帯電防止離型剤組成物の塗布性や帯電防止離型被膜の密着性等を向上させることができる。
【0055】
上記帯電防止離型被膜は、本発明の帯電防止離型剤組成物を用いて形成された被膜であり、上記帯電防止離型剤組成物を基材に塗布し、乾燥・熱硬化させることにより形成する。
上記組成物を基材に塗布する方法は特に限定されず、当該分野で汎用の方法の中から適宜選択することができ、例えば、スピンコーティング、グラビアコーティング、バーコーティング、ディップコーティング、カーテンコーティング、ダイコーティング、スプレーコーティング等の塗布方法が挙げられる。
また、スクリーン印刷、スプレー印刷、インクジェット印刷、凸版印刷、凹版印刷、平版印刷などの印刷法を採用して、上記帯電防止離型剤組成物を塗布してもよい。
また、上記帯電防止離型剤組成物を塗布する際には、上記帯電防止離型剤組成物を予めアルコール等で希釈した塗布液を調製し、この塗布液を塗布してもよい。
【0056】
上記帯電防止離型被膜の厚さは特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。
塗布コストの観点からは、乾燥後の計算膜厚が250nm以下であることが好ましく、150nm以下であることがより好ましい。
なお、上記計算膜厚は、塗布液の比重と乾燥後の被膜の比重が1に近似できるとすると、以下の計算式から算出できる:
[数1]
膜厚=塗布液の固形分濃度(%)÷100×ワイヤーバーの理論塗布量(μm)
通常、ワイヤーバーの塗布量は理論値よりも少ないため、実際の膜厚は、計算値よりも薄くなる。また、アルコキシシランオリゴマーは、縮合反応で被膜を形成する際に、アルコキシ基がアルコールとして脱離するため、上記式の固形分より小さい値となり、実際の膜厚は計算値よりも薄いと考えられる。
【0057】
上記帯電防止離型被膜は、導電性ポリマーを含有するため導電性を有しているが、そのSRは、10〜1011Ω/□であることが好ましい。この範囲であれば、帯電防止層としての要求特性を充分に満足する。
【0058】
上記帯電防止離型被膜は、基材に塗布した帯電防止離型剤組成物を加熱し、溶媒又は分散媒を蒸発させると同時に熱硬化させる(乾燥・熱硬化)ことにより形成する。
ここで、乾燥・熱硬化の条件は、130℃以下(60〜130℃)の温度で1分程度(30〜90秒)であることが好ましく、100℃以下(80〜100℃)の温度で1分であることがさらに好ましい。本発明の帯電防止離型剤組成物は、上記条件で充分に帯電防止離型被膜を形成することができるが、上記条件は、当該技術分野において比較的、低温短時間な条件である。そのため、上記帯電防止離型剤組成物を用いて、上記帯電防止離型被膜を形成した場合、生産性にも優れる。
なお、この条件で硬化が不十分な場合等、必要に応じて、ロールコーティング後にロールフィルムの状態で、25℃〜60℃の乾燥機又は保管庫で、1時間〜数週間ポストキュアしてもよい。
【0059】
上記乾燥及び熱硬化には、通常の通風乾燥機、熱風乾燥機、赤外線乾燥機などの乾燥機を用いればよい。乾燥及び加熱を同時に行うためには、加熱手段を有する乾燥機(熱風乾燥機、赤外線乾燥機など)を用いる必要がある。また、加熱手段としては、上記乾燥機の他、加熱機能を具備する加熱・加圧ロール、プレス機などを用いてもよい。
【0060】
本発明の帯電防止離型剤組成物は、上述のように、導電性ポリマー(a)、アルコキシシランオリゴマー(b)、ヒドロキシ末端ポリジメチルシロキサン(c)、硬化触媒(d)、導電性向上剤(e)、及び、溶媒又は分散媒(f)を必須成分として、さらに、必要に応じて、レベリング剤等を含有する。
このような構成からなる帯電防止離型剤組成物は、通常、アルコキシシランオリゴマーとヒドロキシ末端ポリジメチルシロキサンの溶液中での縮合反応を防ぐため、アルコキシシランオリゴマーとヒドロキシ末端ポリジメチルシロキサンとを分離した状態で供給する。
そして、上記の各成分を使用前に所定の割合で混合して、すべての成分が混合された状態で使用する。なお、塩基等で酸性成分を中和した場合には、上記成分を混合した状態で供給しても、保存安定性は維持される場合がある。
通常、上記帯電防止離型剤組成物を調製するための溶液は、帯電防止離型剤組成物のポットライフ及び保存安定性を考慮して、アルコキシシランオリゴマーとヒドロキシ末端ポリジメチルシロキサン、硬化触媒を分離した2〜4液の状態で供給される。これらの溶液の成分は、十分に濃縮されていてもよい。
【0061】
上記帯電防止離型剤組成物を希釈した塗布液の調製方法に特に制限はないが、各成分をメカニカルスターラーやマグネティックスターラーなどの撹拌機で撹拌しながら混合して調製する。ここで、上記撹拌は約1〜60分間続けることが好ましい。
なお、撹拌時には、アルコキシシランオリゴマー、ヒドロキシ末端ポリジメチルシロキサン、硬化触媒が高濃度で混合されるのを避けるため、アルコール等の希釈剤を、先に添加することが望ましい。
特に、アルコキシシランオリゴマーは疎水性であるため、水溶性の導電性ポリマーやヒドロキシ末端ポリジメチルシロキサンのエマルジョンなどの水を含む溶液と高濃度で混ぜると分離し、塗布液のポットライフを低下させる場合がある。
また、塗布液のポットライフは温度にも依存するため、液温を40℃より低く保って調製することが好ましい。より好ましい液温は20℃〜30℃である。
【0062】
上記塗布液は、25℃前後の常温において安定であるが、酸成分を含有する場合、アルコキシシランオリゴマーの加水分解が液中で進行し、低温での硬化性は向上するが、その反面、ポットライフが悪化する場合がある。
ポットライフは塗布液の温度に依存するため、温度を−20℃〜20℃に維持したまま塗布することにより、ポットライフを向上させることができる。特に好ましくは−5℃〜10℃の温度を維持したまま基材に塗布するのがよい。
温度を低く保つほどポットライフは向上するが、水系の帯電防止離型剤組成物を使用した場合、−20℃より低い温度では塗布液が氷結する可能性がある。上記塗布液は調製時から温度を30℃より低く保って調製することが好ましく、20℃〜30℃の温度が維持されることがより好ましい。
【0063】
このような構成からなる離型フィルムは、液晶ディスプレイ、偏光板、エレクトロルミネッセンスディスプレイ、プラズマディスプレイ、エレクトロクロミックディスプレイ、太陽電池などに用いる、帯電防止層(帯電防止離型被膜)を備えた離型フィルムとして好適である。
また、上記離型フィルムは、プロテクトフィルムのセパレーターとして特に好適である。
なお、プロテクトフィルムの場合、その基材は、加工性及び硬さや透明性などの観点から、ポリエチレンテレフタレートが好適である。
【実施例】
【0064】
以下に、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0065】
(実施例1〜12、及び、比較例1〜8
表1に示した各成分(使用原料)を、溶媒又は分散媒に撹拌しながら1成分ずつ添加した。添加した成分が溶解又は均一に分散したことを確認してから、次の成分を添加していき、すべての成分を添加した後に、さらに5分ほど撹拌して溶液又は分散液の状態の帯電防止離型剤組成物を調製した。その後、本組成物を60%メタノール水溶液で4倍に希釈(1:3、重量比)して塗布液を調製した。なお、表1中の量は全て重量部である。
次に、この塗布液をポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ社製のルミラーT−60(商品名))からなる基材上に、No.4のワイヤーバー(ウェット膜厚9μm)で塗布し、熱風乾燥機にて80℃で1分間乾燥・熱硬化させ、基材上に帯電防止離型被膜を形成した。
【0066】
I.使用原料
I.1 導電性ポリマー(a)
導電性材料を含む水分散液として、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸との複合体からなる導電性ポリマーの水分散液である、H.C.スタルク社製のClevios P(商品名)(1.3重量%ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホン酸(重量平均分子量=150000)の複合体分散水溶液、水98.7重量%)、を用いた。
【0067】
I.2 アルコキシシランオリゴマー(b)
アルコキシシランオリゴマーとして、三菱化学社製のMS−51(式(II)中のRがメチル基、分子量:500〜700)、MS−57(式(II)中のRがメチル基、分子量:1300〜1500)およびMS−56S(式(II)中のRがメチル基、分子量:1500〜1900)を用いた(上記の名称は全て商品名)。
【0068】
I.3 ヒドロキシ末端ポリジメチルシロキサン(c)
ヒドロキシ末端ポリジメチルシロキサンのエマルジョンとして、東レ・ダウコーニング社製のSM−8706EX EMULSION(37.7重量%品;以下、SM−8706)を用いた。
また、比較例の一部では、ポリジメチルシロキサンのエマルジョンである、東レ・ダウコーニング社製のSM−7060EX EMULSION(63重量%品;以下、SM−7060)、又は、付加硬化型シリコーンである、シリコリース902(38重量%品;化学名、ハイドロジェン末端ポリジメチルシロキサン)及びシリコリース909(38重量%品;化学名、ビニル末端ポリジメチルシロキサン、白金触媒含有)を使用した。なお、シリコリース902と909は、9:1の重量比で使用した(上記の名称は全て商品名)。
【0069】
I.4 硬化触媒(d)
硬化触媒として、マツモトファインケミカル社製のオルガチックスTC−750(化合物名、チタンジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート);以下、TC−750)、オルガチックスTC−310(44重量%品;化合物名、チタンラクテート;以下、TC−310)を使用した(上記の名称は全て商品名)。なお、比較例で使用している、付加硬化型シリコーンであるシリコリース902/909には、白金触媒が含まれている。
【0070】
I.5 導電性向上剤(e)
導電性向上剤として、和光純薬工業社製のN−メチルピロリドン(以下、NMP)、東京化成工業社製のN−メチルホルムアミド(以下、NMF)を使用した。
【0071】
I.6 有機溶剤(f)
有機溶剤として、日本アルコール販売社製のソルミックスA−7を使用した。また、塗布液を調製する際の希釈剤として、和光純薬工業社製の1級メタノールを使用した(上記の名称は全て商品名)。
【0072】
I.7 水(f)
水の大半は、導電性ポリマーの水分散体、Clevios Pに含まれる水であるが、新たに加える水はイオン交換処理をした純水を用いた。表1に記載の水は、新たに添加した水である。
【0073】
I.8 レベリング剤
レベリング剤として、BYK社製のBYK−380N(52重量%品;アクリルコポリマー)、東レ・ダウコーニング社製の8029Additive(ヒドロキシル基含有ポリエーテル変性シリコーン)、SF−8427(ヒドロキシル基含有ポリエーテル変性シリコーン)を使用した(上記の名称は全て商品名)。
【0074】
【表1】

【0075】
II.評価
実施例1〜12及び、比較例1〜8で調製した塗布液を用いて得た帯電防止離型被膜の外観、基材への密着性については、下記の3段階で評価した。また、SR、Tt、Haze、剥離力、剥離後表面抵抗率、残留接着率はその値を測定した。
評価結果は、下記表2に示した。
【0076】
II.1 外観
塗布後の帯電防止離型被膜の外観(均一性)を目視にて次の3段階で評価した。
◎:被膜が均一に塗工されており、塗工ムラやピンホールがない
○:塗工ムラまたはピンホールが若干見られる
×:ハジキが見られる
【0077】
II.2 表面抵抗率/SR(Ω/□)
表面抵抗率は、JIS K 7194に従い、三菱化学社製ハイレスタUP(MCP−HT450型、商品名)のUAプローブを用いて10Vの印加電圧にて測定し、測定値で評価した。
【0078】
II.3 全光線透過率(Tt:%)
全光線透過率は、JIS K 7105に従い、スガ試験機社製ヘイズコンピュータHGM−2B(商品名)を用いて測定し、測定値で評価した。
【0079】
II.4 Haze(%)
Hazeは、JIS K 7105に従い、スガ試験機社製ヘイズコンピュータHGM−2B(商品名)を用いて測定し、測定値で評価した。
【0080】
II.5 基材への密着性
帯電防止離型被膜の基材への密着性は、旭化成せんい社製の不織布(BEMCOT M−3II)を用いて、200g荷重で擦った際の被膜の状態を目視にて、以下の3段階で評価した。
◎:被膜の剥がれ・傷なし
○:被膜の剥がれはないが、傷が見られる
×:被膜が剥がれる
【0081】
II.6 剥離力
帯電防止離型被膜の剥離力は、ストログラフE−Lを使用し、180°剥離試験にて、粘着テープとしてニットーテープ31B(アクリル系粘着剤;25mm幅)を用い、0.3m/minと1.5m/minの剥離速度における剥離力(N/25mm)を測定し、その測定値で評価した。剥離試験は、被膜にニットーテープ31Bを貼り付けた後、25℃×60%RHの条件で1時間放置した後に実施した。
【0082】
II.7 剥離後表面抵抗率
帯電防止離型層から粘着層への成分移行性の評価として、180°剥離試験後の帯電防止離型層のSRを測定し、その測定値を剥離試験前の値と比較して、その上昇倍率を下記の3段階で評価した。なお、基材への密着性が得られなかったサンプル、及び初期から表面抵抗率が1012よりも大きかったサンプルについては評価していない。
◎:1.0≦SR<5.0
○:5.0≦SR<10.0
×:10≦SR
【0083】
II.8 残留接着率
粘着層から帯電防止離型層への成分移行性の評価として、180°剥離試験後のニットーテープ31Bを、アルカリ脱脂処理後のSUS基板に対する接着力を測定し、180°剥離試験前のニットーテープ31Bの接着力に対し、以下の式にて算出して評価した:
[数2]
残留接着率(%)=剥離試験前の接着力/剥離試験後の接着力×100
なお、基材への密着性が得られなかったサンプルについては、評価していない。
【0084】
【表2】

【0085】
実施例1から、アルコキシシランオリゴマー、ヒドロキシ末端ポリジメチルシロキサン、及び、硬化触媒を含有する帯電防止型離型剤組成物では、基材への密着性、剥離力、耐移行性に優れた被膜を形成可能であることがわかる。
実施例2及び3から、アルコキシシランオリゴマーの分子量が大きいほど、剥離力も良いことがみてとれる。
実施例4、5及び6から、異なる種類の硬化触媒、導電性向上剤、レベリング剤を用いた場合においても、同等の性能が発現することがわかる。
実施例7〜12からは、導電性ポリマーの含有率が、固形分に対して約2.0〜6.8重量%である場合において、すべての性能を満足していること、同様に、ヒドロキシ末端ポリジメチルシロキサンの固形分量が、アルコキシシランオリゴマーの固形分に対して、約18.0〜74.0重量部の含有量において、所望の特性が発現することがわかる。
【0086】
一方で、比較例1〜3からは、アルコキシシランオリゴマー及び/又はヒドロキシ末端ポリジメチルシロキサンを含有しないと、基材への密着性と剥離力に優れた塗膜を形成することができないことがわかる。
比較例4のように、アルコキシシランオリゴマーとヒドロキシ末端ポリジメチルシロキサンのエマルジョンの配合物であっても、硬化触媒を含有しない場合には基材への密着性が得られないことがわかる。
比較例5、6のように、導電性向上剤や導電性ポリマーが含まれない場合は、表面抵抗率が発現しないことがわかる。
比較例7のように、ヒドロキシル基非含有のポリジメチルシロキサンを用いた場合には、基材への密着性が不充分であり、また、比較例8のように、付加硬化型シリコーンを用いた場合には、80℃で1分の硬化条件では基材への密着性が得られないことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明の帯電防止離型剤組成物は、被膜外観、導電性、透明性、基材への密着性、剥離力、剥離後表面抵抗率、残留接着率に優れた帯電防止離型被覆を、低温短時間で、1層コーティングにて形成することができるため、例えば、各種帯電防止離型フィルム等を構成する帯電防止離型被膜の形成に好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)導電性ポリマー、
(b)アルコキシシランオリゴマー、
(c)ヒドロキシ末端ポリジメチルシロキサン、
(d)硬化触媒、
(e)導電性向上剤、及び、
(f)溶媒又は分散媒
を含有することを特徴とする帯電防止離型剤組成物。
【請求項2】
導電性ポリマー(a)が、以下の式(I):
【化1】

(式中、RおよびRは相互に独立して水素原子またはC1−4のアルキル基を表すか、又は、一緒になって置換されていてもよいC1−4のアルキレン基を表す)の反復構造を有するポリ(3,4−ジアルコキシチオフェン)又はポリ(3,4−アルキレンジオキシチオフェン)と、ドーパントとの複合体である請求項1に記載の帯電防止離型剤組成物。
【請求項3】
アルコキシシランオリゴマー(b)が、分子量1600〜1900のメトキシシランオリゴマーである請求項1又は2に記載の帯電防止離型剤組成物。
【請求項4】
ヒドロキシ末端ポリジメチルシロキサン(c)が、ヒドロキシ末端ポリジメチルシロキサンのエマルジョンであり、前記ヒドロキシ末端ポリジメチルシロキサンのエマルジョンの含有量が、アルコキシシランオリゴマー(b)100重量部に対し、10〜74重量部である請求項1〜3のいずれか1項に記載の帯電防止離型剤組成物。
【請求項5】
硬化触媒(d)が、チタンキレートである請求項1〜4のいずれか1項に記載の帯電防止離型剤組成物。
【請求項6】
導電性向上剤(e)が、アミド基を有する化合物である請求項1〜5のいずれか1項に記載の帯電防止離型剤組成物。
【請求項7】
基材と、前記基材上に積層された帯電防止離型被膜とからなる離型フィルムであって、
前記帯電防止離型被膜は、請求項1〜6のいずれか1項に記載の帯電防止離型剤組成物を用いて形成された被膜であることを特徴とする離型フィルム。
【請求項8】
前記帯電防止離型被膜は、基材上に塗布された帯電防止離型剤組成物を100℃以下の温度で乾燥、硬化させることによって形成された被膜である請求項7に記載の離型フィルム。

【公開番号】特開2012−241130(P2012−241130A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−113586(P2011−113586)
【出願日】平成23年5月20日(2011.5.20)
【出願人】(000214250)ナガセケムテックス株式会社 (173)
【Fターム(参考)】