説明

干渉フィルター、光モジュール、及び分析装置

【課題】高分解能で、かつ低コストで製造可能な干渉フィルターを提供する。
【解決手段】エタロン5は、下部基板51と、下部基板51に対向する上部基板52と、下部基板51に設けられる下部反射膜56と、上部基板52に設けられるとともに、下部反射膜56に対してギャップを介して対向する上部反射膜57と、を備え、下部基板51の上部基板52に対向する面のうち、少なくとも下部反射膜56が設けられる下部反射膜形成面511Aには、上部基板52に対向する表面が平滑面となる平滑膜512が設けられ、下部反射膜56は、平滑膜512の表面に設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
入射光から所定の波長の光を取り出す干渉フィルター、この干渉フィルターを備えた光モジュール、及びこの光モジュールを備えた分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、入射光から所定波長の光のみを透過または反射させる干渉フィルターが知られている(例えば、特許文献1参照)。
この特許文献1に記載の干渉フィルターは、一対の基板のそれぞれ対向する面に、エッチングにより凹陥部を形成し、これらの基板を接着剤により接合している。この干渉フィルターでは、凹陥部の表面が鏡面となり、ファブリーペロー干渉計のミラーを構成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−281443号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記特許文献1では、石英ガラス基板の表面を鏡面としている。例えば石英ガラス基板の表面を鏡面研磨して鏡面とする場合、その前工程での表面研削での表面荒れが残り、鏡面に凹凸が生じてしまうことがある。このため、鏡面研磨加工された基板上に反射膜を形成する場合でも、反射膜上に基板の表面性状に応じた表面荒れが生じてしまう。また、エッチングにより基板に凹陥部を設け、その底面部分を鏡面としたり、底面部分に反射膜を形成したりする場合では、例えば僅かな不純物が石英ガラス基板に含有しているだけでも、エッチング面に凹凸が生じてしまうことがあり、凹凸がない平滑面を形成することが困難である。このようなエッチング面に反射膜を設けると反射膜に凹凸が生じてしまうという問題がある。
【0005】
干渉フィルターにおいて、反射膜に凹凸が生じると、入射した光が多重干渉する際に、反射膜で表面散乱してしまう現象が生ずる。このため、多重干渉が弱まり半値幅も広くなり、高分解能のフィルター特性が得られないという問題がある。
【0006】
本発明は、上記のような問題に鑑みて、高分解能の干渉フィルター、光モジュール、及び分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の干渉フィルターは、第一基板と、前記第一基板に対向する第二基板と、前記第一基板に設けられた第一反射膜と、前記第二基板に設けられ、前記第一反射膜に対してギャップを介して対向する第二反射膜と、を備え、前記第一基板の前記第二基板に対向する面のうち、少なくとも前記第一反射膜が設けられた第一反射膜形成面には、前記第二基板に対向する側の面が平滑面である平滑膜が設けられ、前記第一反射膜は、前記平滑膜の表面に設けられたことを特徴とする。
【0008】
この発明では、第一反射膜形成面の表面に平滑膜を形成し、この平滑膜上に第一反射膜が設けられている。これにより、研磨やエッチングなどの加工工程により、第一反射膜形成面に表面荒れが発生し、表面に凹凸が生じた場合でも、平滑膜の表面は平滑面となり、その平滑膜の平滑面上に形成される第一反射膜は、第一基板の表面の凹凸の影響を受けず、平滑な表面性状となる。したがって、第一反射膜は凹凸のない平滑面となり、入射した光が第一反射膜で表面散乱することがなくなる。そして、光の多重干渉が強まって半値幅が狭くなり、干渉フィルターの分解能を向上させることができる。
【0009】
本発明の干渉フィルターでは、前記第一基板は、前記第二基板に対向する側の面に凹部を備え、前記第一反射膜形成面は、前記凹部の前記第二基板に対向する底面であり、前記底面に前記平滑膜が設けられたことが好ましい。
【0010】
この発明では、第一基板に凹部が設けられ、この凹部の底面の第一反射膜形成面に、平滑膜が設けられ、この平滑膜上に第一反射膜が設けられている。このように、第一基板にギャップを形成するための凹部を例えばエッチングにより形成することで、第一反射膜及び第二反射膜の間のギャップを容易に形成することができる。
一方、エッチングなどの加工により凹部を形成すると、例えば第一基板を鏡面研磨する場合などに比べて、加工面に表面荒れや凹凸が形成されやすくなる。これに対して、本発明では、上述のように、第二基板に対向する凹部の底面に平滑膜を設け、この平滑膜上に第一反射膜を設けるので、第一反射膜の表面を平滑にできる。したがって、第一基板に凹部を形成して、この凹部の底面を第一反射膜形成面とした場合でも、干渉フィルターの高分解能化を実現できる。
【0011】
本発明の干渉フィルターでは、前記第二基板の前記第一基板に対向する面のうち、少なくとも前記第二反射膜が設けられた第二反射膜形成面には、前記第一基板に対向する表面が平滑面となる平滑膜が設けられ、前記第二反射膜は、前記第二反射膜形成面上に設けられた前記平滑膜の表面に設けられたことが好ましい。
【0012】
この発明では、第二基板の第二反射膜形成面にも平滑膜が設けられる。このような干渉フィルターでは、第一反射膜及び第二反射膜の双方の表面荒れがなく、平滑な表面性状となる。したがって、第一反射膜及び第二反射膜は凹凸のない平滑面となり、入射した光が第一反射膜及び第二反射膜で表面散乱することがなくなり、干渉フィルターの分解能を、さらに向上させることができる。
【0013】
ここで、本発明の干渉フィルターでは、前記第一基板は、前記第一基板の基板厚み方向から見た平面視において、前記第一反射膜の形成領域の外側に前記第二基板に対向する第一接合面を備え、前記第二基板は、前記第二基板の基板厚み方向から見た平面視において、前記第二反射膜の形成領域の外側に、前記第一接合面に対向する第二接合面を備え、前記第一基板上の平滑膜は、前記第一反射膜形成面および前記第一接合面に設けられ、前記第二基板上の平滑膜は、前記第二反射膜形成面および前記第二接合面に設けられ、前記第一基板および第二基板は、前記第一接合面上の平滑膜と、前記第二接合面上の平滑膜とが、互いに対向して接合されていることが好ましい。
ここで、第一基板上の平滑膜は、第一反射膜形成面から第一接合面に亘って連続して形成される構成や、第一基板の全面に設けられる構成としてもよく、第一反射膜形成面上の平滑膜と、第一接合面上の平滑膜とが分離されている構成などとしてもよい。また、第二基板上の平滑膜においても同様であり、第二反射膜形成面から第二接合面に亘って連続して形成される構成や、第二基板の全面に設けられる構成としてもよく、第二反射膜形成面上の平滑膜と、第二接合面上の平滑膜とが分離されている構成などとしてもよい。
【0014】
この発明では、第一接合面及び第二接合面にそれぞれ設けられた平滑膜の表面同士が密着されることで、第一基板及び第二基板が接合される。
ここで、上述のように平滑膜の表面は平滑面であるため、これらの平滑膜を重ね合わせると、オプティカルコンタクトによる接合がより強固となり、例えば接着剤などを用いなくても、高い接合強度を得ることができる。
また、平滑膜の平滑面同士を接合させることで、第一基板及び第二基板の接合時の歪みや傾斜などを抑制でき、第一反射膜及び第二反射膜をより精度良く平行に維持することができる。これにより、干渉フィルターにおける分解能をより向上させることができる。
【0015】
本発明の干渉フィルターでは、前記第一基板は、前記第二基板に対向する面に第一電極を備え、前記第二基板は、前記第一基板に対向する面に、前記第一電極に対して接触せずに対向する第二電極を備え、前記第一基板上の平滑膜は、前記第一電極の前記第二電極に対向する面を覆って設けられたことが好ましい。
【0016】
この発明では、干渉フィルターは、第一基板に設けられる第一電極、及び第二基板に設けられる第二電極のそれぞれに電圧を印加することで、静電引力により第一基板及び第二基板の少なくともいずれか一方を撓ませ、第一反射膜及び第二反射膜の間のギャップ寸法を変化させることができる。これにより、第一電極及び第二電極に印加する電圧を制御することで、所望の波長の光を干渉フィルターで取り出すことができる。
ここで、このような波長可変型の干渉フィルターでは、第一電極及び第二電極の間に電圧を印加する際、電極間に放電が生じる場合がある。放電が生じた場合、設定した電圧に対する電荷が各電極に保持されず、第一反射膜及び第二反射膜のギャップ寸法が変動してしまい、干渉フィルターから所望の波長の光を取り出すことが困難となる。これに対して、本発明では、平滑膜が絶縁性を有するものであり、この平滑膜により、第一電極が覆われている。これにより、第一電極及び第二電極の間で放電が発生することがなく、正確に第一反射膜及び第二反射膜の間のギャップ寸法を設定することができ、干渉フィルターにより所望の波長の光を取り出すことができる。
【0017】
本発明の干渉フィルターでは、前記平滑膜は、アモルファス状態の膜であることが好ましい。
平滑膜が結晶構造を有する場合、平滑膜の表面の形状にも結晶構造による凹凸が発生してしまう。これに対して、本発明では、アモルファス状態の平滑膜を用いており、これにより、平滑膜の表面に結晶性の凹凸が生じず、平滑面の面形状をより平滑にすることができる。
【0018】
本発明の干渉フィルターでは、前記平滑膜は、前記第一基板と同一光学特性を有する素材により形成されたことが好ましい。
ここで、光学特性とは、光の透過率、反射率、減衰率、屈折率であり、これらの光学特性が異なる場合、第一基板と平滑膜との境界において光の反射などが異なり、干渉フィルターの特性が変化してしまう。また、この際、第一基板に表面荒れがある場合では、第一基板と平滑膜の境界が凹凸形状となってしまうため、例えば散乱などが生じ、光量が減少する場合もある。
これに対して、本発明では、平滑膜と第一基板とが同一光学特性を有するため、第一基板及び平滑膜の境界を光が通過する際に、境界面での反射や散乱がなく、干渉フィルターの特性を安定させることができ、光利用効率の低下なども抑制できる。
【0019】
本発明の干渉フィルターでは、前記平滑膜は、プラズマCVD法により形成されたことが好ましい。
この発明では、平滑膜は、プラズマCVD法により形成される。このようなプラズマCVD法を用いることで、容易に、かつ厚み寸法が均一な平滑膜を形成することができる。また、プラズマCVD法による成膜では、低温で平滑膜を形成することができ、他の部材への温度影響を抑制することができる。
【0020】
本発明の干渉フィルターでは、前記平滑膜は、スピンコート法により形成されたことが好ましい。
この発明では、平滑膜は、スピンコート法により形成される。スピンコート法により平滑膜を形成する場合、容易に厚み寸法を均一にすることができるとともに、平滑膜の表面形状をより平滑な平面に形成することができ、表面の凹凸をより確実に無くすことができる。
【0021】
本発明の光モジュールは、上述のような干渉フィルターと、干渉フィルターにより取り出される光の光量を検出する検出部と、を備えることを特徴とする。
【0022】
この発明では、上述したように、干渉フィルターは、平滑膜上に第一反射膜が設けられることで、第一基板の表面荒れの凹凸に倣って第一反射膜の表面にも生じる不都合を抑制することができ、第一反射膜の表面を平滑にすることができるため、高分解能を実現できる。したがって、このような干渉フィルターを備えた光モジュールでは、高い分解能で取り出された所望の光を検出部で受光させることができ、所望波長の光の光量を正確に検出することができる。
【0023】
本発明の分析装置は、光モジュールと、前記検出部により検出された光の光量に基づいて、光分析処理を実施する処理部と、を備えることを特徴とする。
ここで、分析装置としては、上記のような光モジュールにより検出された光の光量に基づいて、干渉フィルターに入射した光の色度や明るさなどを分析する光測定器、ガスの吸収波長を検出してガスの種類を検査するガス検出装置、受光した光からその波長の光に含まれるデータを取得する光通信装置などを例示することができる。
本発明では、上述したように、光モジュールにより、所望波長の光の正確な光量を検出することができるため、分析装置では、このような正確なデータに基づいて、正確な分析処理を実施できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る第一実施形態の測色装置の概略構成を示す図である。
【図2】第一実施形態の干渉フィルターであるエタロンの概略構成を示す断面図である。
【図3】第一実施形態のエタロンの第一基板の製造工程を示す図である。
【図4】第一実施形態のエタロンの第二基板の製造工程、接合工程を示す図である。
【図5】第二実施形態のエタロンの概略構成を示す断面図である。
【図6】第三実施形態の測色装置の概略構成を示す図である。
【図7】第三実施形態のエタロンの概略構成を示す断面図である。
【図8】他の実施形態におけるエタロンの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
[第一実施形態]
以下、本発明に係る第一実施形態について、図面に基づいて説明する。
〔1.測色装置の全体構成〕
図1は、本発明に係る実施形態の測色装置の概略構成を示す図である。
この測色装置1は、本発明の分析装置であり、図1に示すように、被検査対象Aに光を射出する光源装置2と、本発明の光モジュールである測色センサー3と、測色装置1の全体動作を制御する制御装置4とを備えている。そして、この測色装置1は、光源装置2から射出される光を被検査対象Aにて反射させ、反射された検査対象光を測色センサーにて受光し、測色センサー3から出力される検出信号に基づいて、検査対象光の色度、すなわち被検査対象Aの色を分析して測定する装置である。
【0026】
〔2.光源装置の構成〕
光源装置2は、光源21、複数のレンズ22(図1には1つのみ記載)を備え、被検査対象Aに対して白色光を射出する。また、複数のレンズ22には、コリメーターレンズが含まれており、光源装置2は、光源21から射出された白色光をコリメーターレンズにより平行光とし、図示しない投射レンズから被検査対象Aに向かって射出する。
なお、本実施形態では、光源装置2を備える測色装置1を例示するが、例えば被検査対象Aが液晶パネルなどの発光部材である場合、光源装置2が設けられない構成としてもよい。
【0027】
〔3.測色センサーの構成〕
測色センサー3は、図1に示すように、本発明の干渉フィルターを構成するエタロン5と、エタロン5を透過する光を受光する検出部31と、フィルター切替部6と、を備えている。この測色センサー3では、それぞれ異なる波長の光を分光させるエタロン5が複数設けられており、フィルター切替部6は、これらのエタロン5のうち、所望の波長を分光可能なエタロン5を選択して検出部31にて検出可能に切り替える。
具体的には、例えば、複数のエタロン5が図示略のリボルバーに配設される構成が挙げられ、この場合、フィルター切替部6は、リボルバーを回転させることで、いずれか1つのエタロン5を選択し、検出部31の正面に移動させる構成などが例示できる。また、例えば検出部31を移動可能な構成とし、フィルター切替部6は、検出部31を所望の波長を分光可能なエタロン5の光軸上に移動させる構成などとしてもよい。
なお、本実施形態では、上記のように、フィルター切替部6により1つのエタロン5を選択する旨を例示するが、例えば2つ以上のエタロン5を選択して、これらのエタロン5で分光された光をそれぞれ異なる検出部31で受光させる構成などとしてもよい。また、各エタロン5に対して、それぞれ対応した検出部31が設けられる構成などとしてもよい。この場合、フィルター切替部6を不要にでき、例えば検査対象光を複数の光学部材により分光し、各エタロン5に入射させた後、各エタロン5により分光された光を各検出部31で検出することも可能である。
【0028】
検出部31は、複数の光電交換素子により構成されており、受光量に応じた電気信号を生成する。そして、検出部31は、制御装置4に接続されており、生成した電気信号を受光信号として制御装置4に出力する。
【0029】
(3−1.エタロンの構成)
図2は、本発明の干渉フィルターを構成するエタロン5の概略構成を示す断面図である。
エタロン5は、例えば平面正方形状の板状の光学部材であり、図2に示すように、本発明の第一基板である下部基板51、及び本発明の第二基板である上部基板52を備えている。これらの2枚の基板51,52は、それぞれ例えば石英ガラス、光学ガラスなどにより形成されている。なお、本実施形態では、被検査対象Aの色度を測定するため、可視光域の透過特性が良好な石英ガラスで下部基板51及び上部基板52を形成する例を示すが、これに限定されず、検査対象光から取り出す波長域に応じて適宜設計される。例えば、可視光域よりも波長が小さい紫外域や、可視光域に近い波長域である近赤外域では、可視光域と同様石英ガラスなどを用いることができ、近赤外域よりも波長が大きい中赤外域から遠赤外域では、シリコン(Si)などにより基板51,52を形成してもよい。
そして、これらの2つの基板51,52は、外周縁に沿って形成される接合面513,523同士が接合されることで、一体的に構成されている。なお、これらの基板51,52の接合方法としては、例えば常温活性化法による接合や、光学接着剤などの接着接合膜を用いた接合、オプティカルコンタクトによる接合などを利用できる。
【0030】
また、下部基板51と、上部基板52との間には、本発明の第一反射膜である下部反射膜56及び本発明の第二反射膜である上部反射膜57が設けられる。ここで、下部反射膜56は、下部基板51の上部基板52に対向する面に固定され、上部反射膜57は、上部基板52の下部基板51に対向する面に固定されている。また、これらの下部反射膜56及び上部反射膜57は、ギャップを介して対向配置されている。
なお、本実施形態では、上述したように、平面視正方形状のエタロン5を例示するが、これに限定されるものではなく、例えば、平面視円形状、平面視多角形状に形成されていてもよい。
【0031】
(3−1−1.第一基板の構成)
下部基板51は、図2に示すように、上部基板52に対向する面に、凹部511が形成されている。
具体的には、凹部511は、基板厚み方向から下部基板51を見るエタロン平面視において、平面中心点を中心とする内周円筒形状に形成されている。そして、この凹部511の底面は、本発明の第一反射膜形成面である下部反射膜形成面511Aを構成している。そして、下部反射膜形成面511Aは、上部基板52の対向する面と略平行となるように形成されている。このような凹部511は、下部基板51の製造時において、例えばウェットエッチングにより形成される。
【0032】
そして、下部反射膜形成面511Aの表面上には、平滑膜512が形成されている。
この平滑膜512は、下部基板51や上部基板52と同一光学特性を有する素材にて形成されていることが好ましく、例えば基板51,52が石英ガラスや光学ガラスで形成されている場合では、アモルファスSiO膜により形成されることが好ましい。また、中赤外域の光を検査対象とするエタロンなどでは、上述したように、基板51,52としてSiが用いられるが、この場合では、a−Si(アモルファスシリコン)膜により平滑膜512を形成することが好ましい。
これは、平滑膜512と基板51,52との光学特性が違う場合、例えば屈折率の差により、平滑膜512及び下部基板51の境界面において、光が反射されるためである。
例えば、本実施形態では、下部反射膜56及び上部反射膜57の間で多重干渉された光が下部基板51側に透過されて検出部31に入射するが、この場合、下部反射膜56を透過した光が下部基板51と平滑膜512との境界面により反射され、検出部31に入射する光の光量が減少してしまう。
また、下部基板51の凹部511は、エッチングにより形成されるが、下部基板51に僅かな不純物が含まれている場合では、エッチングにより形成された下部反射膜形成面511Aの表面に表面荒れが生じ、表面に凹凸形状が生じる場合がある。このような場合、下部基板51と平滑膜512との光学特性が異なる場合、これらの境界面で光が散乱する場合があり、検出部31における受光量が低下してしまう。
これに対して、上述のように、平滑膜512と下部基板51とが同一光学特性を有する場合では、境界面での反射や散乱が生じず、これに伴う光損失も防止できる。
【0033】
また、アモルファスSiO膜により形成される平滑膜512では、非結晶であるため、分子結晶構造による凹凸が生じず、上部基板52に対向する表面がより平滑な面となる。
【0034】
そして、このようなアモルファスSiO膜による平滑膜512は、エッチングにより形成された凹部511の底面の下部反射膜形成面511Aに、熱CVD法、スパッタリング法、蒸着法、プラズマCVD法、スピンコート法などにより形成することができる。この中でも、特に、プラズマCVD法、スピンコート法による平滑膜512の形成がより好ましい。
プラズマCVD法により平滑膜512を形成する場合、TEOS−SiOを原材料とし、低温で、かつ高速に、均一膜厚となる平滑膜512を形成することが可能となる。このようなプラズマCVD法により形成された平滑膜512では、下部基板51の下部反射膜形成面511Aの表面に表面荒れなどがあり、凹凸が生じている場合であっても、平滑膜512の上部基板52に対向する表面はその凹凸に倣うことなく、平滑膜512の表面を平滑にすることができる。
また、スピンコート法により平滑膜512を形成する場合、スピンオンガラス(SOG)を用いて成膜することで、厚み寸法が均一で、表面がより平滑な平滑膜512を迅速に形成することが可能となる。このスピンコート法により平滑膜512を形成する場合では、下部反射膜形成面511Aの表面形状に関わらず、平滑膜512の上部基板52に対向する表面をより確実に平滑することが可能となる。
【0035】
下部反射膜56は、平滑膜512の上部基板52に対向する表面上に形成されている。上述のように平滑膜512の表面は、平滑面に形成されているため、下部反射膜56は、下部反射膜形成面511Aの表面荒れ等による凹凸の影響を受けることなく、平滑膜512の表面と同様平滑に形成することができる。
この下部反射膜56は、例えばTiO層、SiO層、Ag層の各層を順に積層することにより形成される反射膜であり、スパッタリングなどの手法により下部反射膜形成面511Aに形成される。なお、下部反射膜56を構成する各層の積層順としては、エタロン5により分光する光の波長域や、所望する分解能により適宜設定されるものであり、上記の積層順には限定されない。また、本実施形態では、下部反射膜56として、TiO層、SiO層、Ag層の各層を適宜組み合わせて積層することで構成される例を示すが、例えばSiO層、TiO層を順に積層した誘電多層膜としてもよく、その他、Ag合金単層膜などの金属膜の単層膜を反射膜として形成してもよい。Ag合金としては、例えばAgにC、Pt、Pd、Au、Cu、Niから選択される物質を1種類以上添加した合金を採用できる。この場合、製造工程や使用環境に耐性のある反射膜を得ることができる。
【0036】
そして、下部基板51の上部基板52に対向する面のうち、凹部511の外側の領域は、本発明の第一接合面である下部接合面513を構成する。この下部接合面513には、上述したように、上部基板52の本発明の第二接合面である上部接合面523が、例えば常温活性化法、接着接合膜を用いた接着接合などにより接合される。
【0037】
さらに、下部基板51は、上部基板52に対向しない下面において、エタロン平面視で下部反射膜56に対応する位置に、図示略の反射防止膜(AR)が形成されている。この反射防止膜は、低屈折率膜及び高屈折率膜を交互に積層することで形成され、下部基板51の表面での可視光の反射率を低下させ、透過率を増大させる。
【0038】
(3−1−2.第二基板の構成)
上部基板52は、下部基板51と同一素材のガラス平板であり、下部基板51の下部反射膜56に対向する面が、本発明の第二反射膜形成面である上部反射膜形成面521を構成する。
また、上部基板52の下部基板51とは反対側の面には、図示略の反射防止膜(AR)が形成されている。この反射防止膜は、下部基板51に形成される反射防止膜と同様の構成を有し、低屈折率膜及び高屈折率膜を交互に積層することで形成される。
【0039】
上部反射膜形成面521には、下部反射膜56と同一構成の上部反射膜57が形成されており、下部反射膜56とギャップを介して平行に保持されている。なお、上部反射膜57の構成は、下部反射膜56と同一であるため、ここでの説明は省略する。
【0040】
〔4.制御装置の構成〕
制御装置4は、測色装置1の全体動作を制御する。
この制御装置4としては、例えば汎用パーソナルコンピューターや、携帯情報端末、その他、測色専用コンピューターなどを用いることができる。
そして、制御装置4は、図1に示すように、光源制御部41、測色センサー制御部42、及び測色処理部43(本発明の処理部)などを備えて構成されている。
【0041】
光源制御部41は、光源装置2に接続されている。そして、光源制御部41は、例えば利用者の設定入力に基づいて、光源装置2に所定の制御信号を出力し、光源装置2から所定の明るさの白色光を射出させる。
【0042】
測色センサー制御部42は、測色センサー3に接続されている。そして、測色センサー制御部42は、例えば利用者の設定入力に基づいて、測色センサー3にて受光させる光の波長を設定し、この波長の光の受光量を検出する旨の制御信号を測色センサー3に出力する。これにより、測色センサー3のフィルター切替部6は、制御信号に基づいて、利用者が所望する光の波長のみを透過させるエタロン5を選択して、例えば検出部31に対向する位置に移動させる。
【0043】
測色処理部43は、測色センサー制御部42を制御して、測色センサー3の検出部31で受光させる光の波長を切り替える。また、測色処理部43は、検出部31から入力される受光信号に基づいて、エタロン5を透過した光の光量を取得する。そして、測色処理部43は、上記により得られた各波長の光の受光量に基づいて、被検査対象Aにより反射された光の色度を算出する。
【0044】
〔5.エタロンの製造方法〕
次に、上記エタロン5の製造方法について、図面に基づいて説明する。
(5−1.下部基板の製造)
図3は、エタロン5の下部基板51の製造工程を示す図である。
下部基板51を製造するためには、まず、下部基板51の製造素材である母材(ガラス基板)を準備し、厚み寸法が500μmとなるように切削し、平均表面粗さRaが例えば1nm以下となるように、母材の表面を鏡面研磨加工する。これにより、図3(A)に示すように、下部基板51の厚み寸法を均一にでき、基板表面を鏡面状の平滑面にすることができる。
【0045】
次に、エッチングにより、図3(B)に示すように、下部基板51の一面側に凹部511を形成する。具体的には、下部基板51の一面に、フォトリソグラフィ法を用いて、凹部511を形成するためのレジストパターンを形成し、凹部511の部分を、ウェットエッチングにより加工する。ウェットエッチングでは、エッチング剤として、BHF(HF:NHF=1:6)やHF(HF:HO=1:10)等のフッ素酸水溶液を用いる。これにより、凹部511の底面に下部反射膜形成面511Aが形成される。
【0046】
次に、図3(C)に示すように、スピンコート法を用いてスピンオンガラスを下部反射膜形成面511A上に塗布し、表面が平滑面となる平滑膜512を形成する。なお、上述したように、平滑膜512の形成方法は、スピンコート法に限られず、例えばTEOS−SiOを原材料とし、プラズマCVD法により平滑膜を形成してもよい。
【0047】
この後、図3(D)に示すように、下部反射膜形成面511Aに、下部反射膜56を形成する。具体的には、下部反射膜56は、リフトオフプロセスにより成膜される。すなわち、フォトリソグラフィ法などにより、下部基板51上の反射膜形成部分以外にレジスト(リフトオフパターン)を成膜する。そして、下部反射膜56を形成する各層(SiO,TiO,Ag)を積層して成膜する。この後、リフトオフにより、下部反射膜形成面511A以外の反射膜を除去する。
【0048】
(5−2.上部基板の製造)
次に、上部基板52の製造方法について説明する。
図4は、上部基板の製造工程、及びエタロンの接合工程の概略を示す断面図である。
【0049】
上部基板52の形成では、まず、図4(A)に示すように、上部基板52の形成素材である母材(ガラス基板)を用意し、切削等により、例えば厚み寸法を200μmの均一厚みに形成する。そして、母材の表面を鏡面研磨加工することで、平均表面粗さRaが1nm以下の平滑面にする。ここで、上部基板52の一面側が上部反射膜形成面521となる。
【0050】
この後、図4(B)に示すように、上部基板52の上部反射膜形成面521に、上部反射膜57を形成する。この上部反射膜57は、下部反射膜56と同様に、リフトオフプロセスにより成膜する。すなわち、フォトリソグラフィ法により、上部基板52上に第二反射膜形成部分以外にレジスト(リフトオフパターン)を成膜し、上部反射膜57を形成する各層(SiO,TiO,Ag)を積層して成膜する。そして、リフトオフにより、上部反射膜形成面521以外の反射膜を除去して、上部反射膜57を形成する。
【0051】
(5−3.下部基板及び上部基板の接合)
下部基板51及び上部基板52の接合では、まず、下部基板51の下部接合面513及び上部基板52の上部接合面523をそれぞれ活性化させる表面活性化工程を実施する。この表面活性化工程では、下部接合面513や上部接合面523の表面の分子結合が切断し、終端化されていない結合手を生じさせる。
【0052】
この後、図4(C)に示すように、下部基板51の下部接合面513及び上部基板52の上部接合面523を重ね合わせて接合させる。この時、図4(C)に示すように、上面が平滑面となる基台71上に下部基板51を載置して、下部接合面513上に上部基板52の上部接合面523を重ね合わせ、上部基板52の上面を、押圧部材72で押圧して加圧接合させる。
なお、下部基板51及び上部基板52の接合では、表面活性化法による接合に限らず、接着剤や接合層などを介在させ、接着接合する接合方法を用いてもよい。
【0053】
〔6.第一実施形態の作用効果〕
上記第一実施形態の測色装置1では、エタロン5の下部基板51の下部反射膜形成面511A上に平滑膜512が設けられ、この平滑膜512の上部基板52に対向する表面上に下部反射膜56が形成されている。このため、下部反射膜形成面511Aの表面に凹凸が存在する場合であっても、下部反射膜形成面511A上に平滑膜512を設けることで、下部反射膜56を平滑膜512上の平滑面に形成することができ、下部反射膜56に凹凸が生じない。これにより、下部反射膜56は凹凸のない平滑面となり、入射した光が下部反射膜56で表面散乱することがなくなる。そして、光の多重干渉が強まって半値幅が狭くなり、エタロン5の分解能を向上させることができる。
また、このようなエタロン5を備えた測色センサー3では、エタロン5により高分解能で透過された光の光量を検出部31で検出することができ、所望波長の光の光量を正確に測定することができる。さらに、このような測色センサー3を備える測色装置1では、正確に測定された各波長の光の光量に基づいて、被検査対象Aの正確な色度を算出することができる。
【0054】
また、下部基板51には、反射膜56,57間にギャップを形成するための凹部511がエッチングにより形成され、この凹部511の底面が下部反射膜形成面511Aを構成している。このように、エッチングにより凹部511を形成する場合、ガラス基板中に僅かでも不純物が含まれていると、その影響によりエッチングされた面に表面荒れが生じる場合がある。また、下部基板51のエッチング前の表面に研磨加工時に表面荒れが発生している場合では、エッチングされた面においても、その表面荒れが残ってしまう。上記のような理由により、下部反射膜形成面511Aには、表面荒れが生じ易くなる。
これに対して、第一実施形態では、このような下部反射膜形成面511Aに対して平滑膜512を設け、平滑膜512上に下部反射膜56を形成している。このため、エッチングにより凹部511を形成し、その底面の下部反射膜形成面511Aに下部反射膜56を形成した場合であっても、下部反射膜56の表面を平滑にすることができ、エタロン5の分解能の向上を図ることができる。
【0055】
そして、平滑膜512としては、アモルファス状態のアモルファスSiO膜が用いられている。平滑膜512として、結晶構造性の平滑膜を用いた場合、平面に結晶構造による凹凸が生じる場合があるが、本実施形態のようにアモルファス状態の平滑膜512を用いることで表面に結晶性の凹凸が生じず、より平滑な平面を形成することができる。
【0056】
また、本実施形態のエタロン5では、下部基板51と同一光学特性の平滑膜512を用い、石英ガラスの下部基板51に対して、同一光学特性を有するアモルファスSiO膜の平滑膜512が形成されている。このため、反射膜56,57間で多重干渉されて透過された光が下部基板51及び平滑膜512の間の境界面で反射されることがなく、また、下部基板51の表面に表面荒れなどの凹凸が存在しても散乱など発生することなく、高い透過率で光を透過させることができる。このため、エタロン5における光損失を抑えることができ、検出部31でより正確な光量を検出することができる。
【0057】
そして、第一実施形態では、平滑膜512は、スピンオンガラスを原料とし、スピンコート法により下部反射膜形成面511Aに形成される。
このようなスピンコート法では、遠心力によりスピンオンガラスを均等に下部反射膜形成面511Aに塗布することで、下部反射膜形成面511Aに生じた凹凸に関係なく、平滑な表面を形成することができる。また、低い製造コストで、容易に実施できるため、エタロン5の製造効率の向上をも図ることができる。
【0058】
また、平滑膜512は、TEOS−SiOを主原料としたプラズマCVD法により形成されてもよい。
このようなプラズマCVD法では、熱CVD法などに比べて低温で平滑膜を形成することができるため、熱処理による影響を軽減することができ、蒸着法に比べて、より均一な厚み寸法の平滑膜512を形成することができる。また、下部反射膜形成面511Aに表面荒れがある場合でも、平滑膜512を堆積させて形成するため、平滑膜512の表面では表面荒れの影響が軽減され、平滑な表面を形成することができる。
【0059】
[第二実施形態]
次に、本発明に係る第二実施形態について、図面に基づいて説明する。
第二実施形態では、第一実施形態の測色装置1におけるエタロン5を変形したものであり、その他の構成については同一であるため、ここでの説明は省略する。
図5は、本発明の第二実施形態に係るエタロンの概略構成を示す断面図である。
【0060】
第二実施形態のエタロン5Aは、図5に示すように、下部基板51と、上部基板52と、を備え、下部基板51には、第一実施形態と同様に、凹部511が形成されている。
そして、このエタロン5Aでは、下部基板51の上部基板52に対向する全面に平滑膜512が形成されており、上部基板52の下部基板51に対向する全面にも平滑膜522が設けられている。すなわち、下部基板51には、凹部511の下部反射膜形成面511Aから、凹部511の外側に形成される下部接合面513に亘って平滑膜512が形成されており、上部基板52には、上部反射膜形成面521から上部接合面523に亘って平滑膜522が形成されている。
【0061】
これらの平滑膜512,522は、第一実施形態と同様に、それぞれアモルファスSiO膜により形成されており、プラズマCVD法やスピンコート法などにより形成することができる。したがって、これらの平滑膜512、522は、それぞれ表面が平滑面に形成されている。
そして、これらの平滑膜512,522の表面上には、それぞれ下部反射膜56及び上部反射膜57が密着形成されている。なお、下部反射膜56および上部反射膜57の構成については、上記第一実施形態と同様であり、ここでの説明は省略する。
【0062】
また、このエタロン5Aにおいて、下部基板51及び上部基板52は、下部接合面513上に形成された平滑膜512と、上部接合面523上に形成された平滑膜522との、互いに対向する面同士が密着されて接合されている。ここで、下部基板51及び上部基板52の接合では、例えば常温活性化法を用いることができる。すなわち、下部接合面513上に平滑膜512、および上部接合面523上の平滑膜522の表面を、例えばプラズマ照射などにより活性化させて結合手を形成し、これらの接合面513,523上の平滑膜512,522を密着させて加圧接合させる。この時、平滑膜512,522は、それぞれ表面が平滑面となり、表面荒れなどが存在しないため、強固なオプティカルコンタクトによる接合が生じ、例えば単に研磨加工のみを実施したガラス基板同士を接合させる場合などに比べて、強い接合強度で基板51,52同士を接合させることができる。
【0063】
〔第二実施形態の作用効果〕
上述したような第二実施形態のエタロン5Aでは、下部基板51及び上部基板52の双方に、それぞれ平滑膜512及び平滑膜522が形成されている。
ここで、上部基板52のように、切削・研磨加工などにより、表面が加工されたものであっても、加工時に表面荒れが発生する場合があり、この場合、上部基板52上に上部反射膜57を形成すると上部反射膜57の表面上にも凹凸が生じてしまう。これに対して、エタロン5Aでは、上記のように、各反射膜56,57が形成される各反射膜形成面511A,521にそれぞれ平滑膜512,522を形成するため、各反射膜56,57の表面をそれぞれ平滑面にでき、エタロン5Aの分解能をさらに向上させることができる。
【0064】
また、平滑膜512は、下部反射膜形成面511Aから下部接合面513に亘って、下部基板51の上部基板52に対向する全面に形成され、平滑膜522は、上部反射膜形成面521から上部接合面523に亘って、上部基板52の下部基板51に対向する全面に形成されている。
このため、下部基板51及び上部基板52を接合する際、これらの下部接合面513及び上部接合面523上に形成された平滑膜512,522の表面同士を密着させて結合させることができ、この時、平滑膜512,522の平滑面同士を密着接合させることで、より強固なオプティカルコンタクトによる接合が可能となる。
【0065】
なお、上記第二実施形態において、平滑膜512が下部基板51の上部基板52に対向する面の全面に形成され、平滑膜522が上部基板52の下部基板51に対向する全面に設けられる構成としたが、これに限定されない。すなわち、下部基板51のうち、少なくとも、下部反射膜形成面511A、および下部接合面513に平滑膜512が形成される構成であればよく、上部基板52においても、少なくとも、上部反射膜形成面521、および上部接合面523に平滑膜522が形成される構成であればよい。
【0066】
[第三実施形態]
次に、本発明に係る第三実施形態について、図面に基づいて説明する。
図6は、第三実施形態の測色装置1Aの概略構成を示す図である。図7は、第三実施形態の干渉フィルターであるエタロンの概略構成を示す断面図である。
【0067】
第三実施形態の測色装置1Aは、上記第一実施形態の測色装置1の測色センサー3を変形したものであり、他の構成については、同一構成を有している。
すなわち、第一実施形態の測色センサー3では、それぞれ異なる波長の光を透過可能なエタロン5を複数備え、フィルター切替部6は、制御装置4から入力される制御信号に基づいて、検査対象光を入射させるエタロン5を選択する構成であった。これに対して、第三実施形態の測色センサー3Aは、透過させる波長を可変させる波長可変タイプの干渉フィルターである1つのエタロン5Bと、このエタロン5Bを制御して透過させる波長を選択する電圧制御部6Aとを備えている。
【0068】
〔エタロンの構成〕
第三実施形態のエタロン5Bは、図7に示すように、下部基板51と、上部基板52と、下部基板51に形成される平滑膜512と、下部反射膜56と、上部反射膜57と、本発明の第一電極を構成する下部電極541と、本発明の第二電極を構成する上部電極542と、を備えている。そして、このエタロン5Bでは、下部電極541及び上部電極542にそれぞれ電圧を印加することで、静電引力により上部基板52を撓ませ、下部反射膜56及び上部反射膜57の間の反射膜間ギャップの間隔を調整可能となっている。
【0069】
下部基板51は、第一実施形態と同様、例えば石英ガラスや、光学ガラスなどのガラス基板により形成された板状の光学部材であり、上部基板52に対向する面には、エッチングにより凹部511が形成されている。また、第三実施形態の下部基板51では、この凹部511から外周側に向かって延出形成される図示しない一対の配線溝が、エッチングにより形成されている。
【0070】
そして、この凹部511の底面のうち、中央部が下部反射膜形成面511Aとなり、凹部511の底面のうち、下部反射膜形成面511Aの外側領域がリング状の電極形成面511Bとなる。
電極形成面511Bの表面には、リング状の下部電極541が形成されている。また、この下部電極541の外周縁の一部から、前記一対の配線溝のうちの一方に沿って延出する図示しない下部電極線が設けられており、この下部電極線は、電圧制御部6Aに接続されている。
【0071】
そして、下部基板51の凹部511内には、平滑膜512が形成されて、下部反射膜形成面511A及び下部電極541の表面上を覆っている。ここで、この平滑膜512は、第一実施形態と同様、アモルファスSiO膜により形成されており、電気絶縁性を有している。このような構成では、下部電極541及び上部電極542のそれぞれに電圧を印加した場合でも、下部電極541及び上部電極542の間に電気絶縁性の平滑膜512が介在することとなり、電極間での放電等によるリークが発生しない。したがって、下部電極541および上部電極542において、所望の電荷を安定して保持させることができ、静電引力による反射膜56,57間のギャップ寸法の制御が容易となる。
【0072】
また、平滑膜512の表面上には、第一実施形態と同様、下部反射膜56が形成されている。この下部反射膜56としては、第一実施形態と同様の構成を用いることができ、例えばTiO層、SiO層、Ag層を積層することで形成されている。
【0073】
なお、第三実施形態では、下部反射膜形成面511Aと、電極形成面511Bとが、同一平面となる例を示したが、下部反射膜形成面511A及び電極形成面511Bが同一平面とならず、異なる平面高さに形成される構成であってもよい。例えば、電極形成面511Bから上部基板52に向かって円柱状の突出部を設け、突出部の上部基板52に対向する面を下部反射膜形成面511Aとしてもよい。また、電極形成面511Bに、内周円柱状の凹状溝を形成し、この凹状溝の底面を下部反射膜形成面511Aとしてもよい。ただし、これらの場合、下部基板51の製造時において、下部反射膜形成面511Aを形成するためにエッチング工程と、電極形成面511Bを形成するためのエッチング工程とをそれぞれ実施する必要がある。
【0074】
上部基板52は、例えば石英ガラスや、光学ガラスなどのガラス基板をエッチングにより加工した光学部材である。
具体的には、上部基板52には、図7に示すように、基板中心点を中心とした例えば円形の可動部524と、可動部524と同軸であり可動部524を保持する連結保持部525と、を備えている。この連結保持部525の外周径寸法は、下部基板51の凹部511の外周径寸法と同一寸法に形成されている。これらの可動部524及び連結保持部525は、エッチングにより、上部基板52にリング状の凹状溝を形成することで形成されている。
【0075】
可動部524は、連結保持部525よりも厚み寸法が大きく形成され、例えば、本実施形態では、上部基板52の厚み寸法と同一寸法に形成されている。
そして、可動部524の下部基板51に対向する面は、上部反射膜57が設けられる上部反射膜形成面521を構成する。
【0076】
連結保持部525は、可動部524の周囲を囲うダイヤフラムである。この連結保持部525の下部基板51に対向する面には、下部電極541と、例えば約1μmのギャップを介して対向する、リング状の上部電極542が形成されている。ここで、この上部電極542及び前述した下部電極541により、静電アクチュエーター54が構成される。
また、上部電極542の外周縁の一部からは、図示略の上部電極線が外周方向に向かって形成されている。具体的には、上部電極線は、下部基板51に形成される一対の配線溝のうち下部電極線が設けられていない溝に沿って設けられており、下部電極線及び上部電極線とは、エタロン5Bを厚み方向から見る平面視において、互いに重ならない位置に形成されている。
【0077】
そして、可動部524の下部基板51に対向する上部反射膜形成面521は、例えば鏡面研磨加工により平面に加工されており、その表面に上部反射膜57が設けられている。
なお、この上部反射膜57の構成は、下部反射膜56と同一構成であるため、ここでの説明は省略する。
【0078】
そして、第三実施形態の測色センサー3Aの電圧制御部6Aは、制御装置4からの入力される制御信号に基づいて、静電アクチュエーター54の下部電極541及び上部電極542に印加する電圧を制御する。これにより、下部電極541及び上部電極542の間で静電引力が作用し、下部反射膜56及び上部反射膜57の間のギャップ寸法が可変される。したがって、制御装置4により、電圧制御部6Aを制御することで、エタロン5を透過する光の波長を可変でき、所望の波長の光を検出部31にて受光して検出することが可能となる。
【0079】
〔第三実施形態の作用効果〕
第三実施形態のエタロン5Bは、上記第一実施形態と同様に、下部反射膜形成面511A上に平滑膜512を備えており、この平滑膜512上に下部反射膜56が設けられている。このため、下部反射膜形成面511Aに、エッチングなどの基板加工時に凹凸が発生した場合でも、その上面に平滑膜512が形成されることで、下部反射膜56への下部反射膜形成面511Aの面形状の影響が伝わらず、下部反射膜56を平滑にすることができる。したがって、下部反射膜56及び上部反射膜57のギャップ寸法が位置によらず一定となり、エタロン5Bの分解能を向上させることができる。
【0080】
また、第三実施形態のエタロン5Bでは、下部電極541及び上部電極542に電圧を印加することで、静電引力により下部反射膜56及び上部反射膜57のギャップ寸法を調整できる。したがって、1つのエタロン5Bにより、透過させる波長を切り替えることができる。このため、測色センサー3Aにおいて、例えば第一実施形態や第二実施形態のように、複数のエタロン5、5Aを設ける必要がなく、1つのエタロン5Bを用いて検査対象光を構成する各波長の光の光量を測定することができ、構成を簡単にすることができる。
【0081】
そして、第三実施形態のエタロン5Bでは、電気絶縁性を有する平滑膜512が、下部電極541を覆って形成されている。このため、下部電極541及び上部電極542の間には、絶縁性の平滑膜512が介在することになり、下部電極541及び上部電極542の間での放電を防止することができる。したがって、下部電極541及び上部電極542の間で電流のリークがなく、各電極541,542での電荷保持量を安定させることができるため、下部電極541及び上部電極542の間のギャップ寸法を容易に、かつ正確に制御することができる。
したがって、測色センサー3Aにおいても、所望する波長の光に対する光量を正確に検出することができ、測色装置1においても、被検査対象Aの正確な色分析処理を実施することができる。
【0082】
[他の実施形態]
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【0083】
例えば、第一〜第三実施形態において、下部基板51にエッチングにより凹部511が形成される構成を例示したが、図8に示すように、エッチング処理されていない下部基板51及び上部基板52を用いてもよい。すなわち、図8に示す例では、エタロン5Cは、表面が鏡面研磨加工された平板状の下部基板51及び上部基板52を備えている。これらの基板51,52は、厚み寸法が正確に設定されたスペーサ58を介して互いに対向配置されている。そして、これらの基板51、52の互いに対向する面にそれぞれ平滑膜512,522が形成され、これらの平滑膜512,522の表面に下部反射膜56、及び上部反射膜57が形成されている。
このように、基板51,52がエッチング処理されていない場合であっても、表面を研磨加工することで、反射膜形成面511A,521に表面荒れによる凹凸が生じる場合がある。これに対して、図8のように、各反射膜形成面511A,521に平滑膜512,522を形成することで、反射膜56,57に表面荒れによる凹凸の影響が出ることがなく、エタロン5Cの分解能を向上させることができる。
【0084】
また、上記図8の例では、平滑膜512,522を、各反射膜形成面511A,521にのみ形成する例を示したが、例えば第二実施形態のように、下部基板51及び上部基板52の互いに対向する面の全面に平滑膜512,522を形成する構成としてもよい。
【0085】
さらに、第三実施形態において、下部基板51にのみ平滑膜512を形成する例を示したが、上部基板52にも平滑膜を形成する構成としてもよい。さらには、これらの平滑膜が、反射膜形成面511A,521から接合面513,523に亘って形成されていてもよい。
ここで、上部電極542は、上部基板52上の平滑膜の表面上に形成されていてもよく、下部基板51のように、上部電極542を覆って平滑膜を設けてもよい。また、上部電極542を覆って平滑膜を形成する場合、下部電極541は、平滑膜512の表面上に形成されていてもよい。
【0086】
さらに、上記第一、第三実施形態では、本発明の第一基板を下部基板51として、下部基板51に平滑膜512を形成する構成を例示したが、これに限定されない。例えば、本発明の第一基板を上部基板52とし、上部基板52にのみ平滑膜を設ける構成としてもよい。この場合、平板状の第一基板の鏡面加工された一面を、下部反射膜形成面とすることが好ましい。
【0087】
また、上記において、主に可視光域の光を測定対象とし、可視光内の所望の波長の光を取り出すエタロン5,5A,5B,5Cを例示したが、これに限らない。例えば、上述したように、紫外域内の光や、赤外域の光を検査対象としたエタロンであってもよい。紫外域や近赤外域の光を検査対象とする場合では、上記したように、可視光域と同様、下部基板51及び上部基板52としては、石英ガラスや光学ガラスを用いることができ、平滑膜として、アモルファスSiO膜を用いることができる。また、中赤外域以上の波長の光を検査対象とする場合では、下部基板51及び上部基板52としては、シリコン(Si)基板を用いることができ、平滑膜として、a−Si(アモルファスシリコン)膜を用いることができる。
【0088】
さらに、第三実施形態において、一対の電極541,542に印加する電圧を制御することで、透過波長を切り替えることが可能な波長可変型のエタロン5Bを例示したが、これに限定されない。例えば電圧印加により伸縮可能な圧電素子を下部基板51及び上部基板52の間に介在させて、反射膜56,57間のギャップ間隔を調整可能な構成などとしてもよい。
【0089】
下部反射膜56及び上部反射膜57として、TiO層、SiO層、及びAg層の各層を順に積層させる積層膜を例示したが、例えば上述したように、TiO層及びSiO層の2層を順に積層した誘電多層膜であってもよく、Ag合金単層などの金属単層膜により反射膜が形成される構成であってもよい。また、TiO層、SiO層、及びAg層の積層順を適宜変更して所望の反射特性を得る構成などとしてもよい。また、下部反射膜56及び上部反射膜57において、TiO層、SiO層、及びAg層の積層順を変更したり、下部反射膜56および上部反射膜57をそれぞれ異なる素材により形成したりしてもよい。
下部電極541及び上部電極542としてITOを例示したが、その他の導電性を有する膜であればいかなる素材により構成されていてもよく、例えば、Ptなどの金属膜により形成される構成としてもよい。
【0090】
そして、上記実施形態では、本発明の光モジュールとして、測色センサー3、3Aを例示し、分析装置として、測色センサー3、3Aを備えた測色装置1を例示したが、これに限定されるものではない。例えば、センサー内部にガスを流入させ、入射光のうちガスにて吸収された光を検出するガスセンサーを本発明の光センサーとして用いてもよく、このようなガスセンサーによりセンサー内に流入されたガスを分析、判別するガス検出装置を本発明の光モジュールとしてもよい。
また、各波長の光の強度を経時的に変化させることで、各波長の光でデータを伝送させることも可能であり、この場合、光モジュールに設けられたエタロン5,5A,5B,5Cにより特定波長の光を分光し、検出部で受光させることで、特定波長の光により伝送されるデータを抽出することができ、このようなデータ抽出用光モジュールを備えた分析装置により、各波長の光のデータを処理することで、光通信を実施することもできる。
【0091】
その他、本発明の実施の際の具体的な構造及び手順は、本発明の目的を達成できる範囲で他の構造などに適宜変更できる。
【符号の説明】
【0092】
1…分析装置である測色装置、3…光モジュールである測色センサー、5,5A,5B,5C…干渉フィルターであるエタロン、31…検出部、43…処理部である測色処理部、51…本発明の第一基板である下部基板、52…本発明の第二基板である上部基板、56…本発明の第一反射膜である下部反射膜、57…本発明の第二反射膜である上部反射膜、511…凹部、511A…本発明の第一反射膜形成面である下部反射膜形成面、512,522…平滑膜、513…本発明の第一接合面である下部接合面、523…本発明の第二接合面である上部接合面、521…本発明の第二反射膜形成面である上部反射膜形成面、541…本発明の第一電極である下部電極、542…本発明の第二電極である上部電極。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一基板と、
前記第一基板に対向する第二基板と、
前記第一基板に設けられた第一反射膜と、
前記第二基板に設けられ、前記第一反射膜に対してギャップを介して対向する第二反射膜と、
を備え、
前記第一基板の前記第二基板に対向する面のうち、少なくとも前記第一反射膜が設けられた第一反射膜形成面には、前記第二基板に対向する側の面が平滑面である平滑膜が設けられ、
前記第一反射膜は、前記平滑膜の表面に設けられた
ことを特徴とする干渉フィルター。
【請求項2】
請求項1に記載の干渉フィルターにおいて、
前記第一基板は、前記第二基板に対向する側の面に凹部を備え、
前記第一反射膜形成面は、前記凹部の前記第二基板に対向する底面であり、前記底面に前記平滑膜が設けられた
ことを特徴とする干渉フィルター。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の干渉フィルターにおいて、
前記第二基板の前記第一基板に対向する面のうち、少なくとも前記第二反射膜が設けられた第二反射膜形成面には、前記第一基板に対向する表面が平滑面となる平滑膜が設けられ、
前記第二反射膜は、前記第二反射膜形成面上に設けられた前記平滑膜の表面に設けられた
ことを特徴とする干渉フィルター。
【請求項4】
請求項3に記載の干渉フィルターにおいて、
前記第一基板は、前記第一基板の基板厚み方向から見た平面視において、前記第一反射膜の形成領域の外側に前記第二基板に対向する第一接合面を備え、
前記第二基板は、前記第二基板の基板厚み方向から見た平面視において、前記第二反射膜の形成領域の外側に、前記第一接合面に対向する第二接合面を備え、
前記第一基板上の平滑膜は、前記第一反射膜形成面および前記第一接合面に設けられ、
前記第二基板上の平滑膜は、前記第二反射膜形成面および前記第二接合面に設けられ、
前記第一基板および第二基板は、前記第一接合面上の平滑膜と、前記第二接合面上の平滑膜とが、互いに対向して接合されている
ことを特徴とする干渉フィルター。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の干渉フィルターにおいて、
前記第一基板は、前記第二基板に対向する面に第一電極を備え、
前記第二基板は、前記第一基板に対向する面に、前記第一電極に対して接触せずに対向する第二電極を備え、
前記第一基板上の平滑膜は、前記第一電極の前記第二電極に対向する面を覆って設けられた
ことを特徴とする干渉フィルター。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかに記載の干渉フィルターにおいて、
前記平滑膜は、アモルファス状態の膜である
ことを特徴とする干渉フィルター。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれかに記載の干渉フィルターにおいて、
前記平滑膜は、前記第一基板と同一光学特性を有する素材により形成された
ことを特徴とする干渉フィルター。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれかに記載の干渉フィルターにおいて、
前記平滑膜は、プラズマCVD法により形成された
ことを特徴とする干渉フィルター。
【請求項9】
請求項1から請求項7のいずれかに記載の干渉フィルターにおいて、
前記平滑膜は、スピンコート法により形成された
ことを特徴とする干渉フィルター。
【請求項10】
請求項1から請求項9のいずれかに記載の干渉フィルターと、
干渉フィルターにより取り出される光の光量を検出する検出部と、
を備えたことを特徴とする光モジュール。
【請求項11】
請求項10の光モジュールと、
前記検出部により検出された光の光量に基づいて、光分析処理を実施する処理部と、
を備えたことを特徴とする分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−14006(P2012−14006A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−151283(P2010−151283)
【出願日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】