説明

干潟土壌改良工法

【課題】人が干潟上を歩行できる程度まで潟土を硬化させることができ、施工が容易で、海水を汚濁することがなく、潟土の清浄化も図ることができる、干潟土壌改良工法を提供する。
【解決手段】搬送車11を用いて運んできた石炭灰の造粒砂12を干潮時の干潟10の表面に散布する工程と、撹拌ロータ13aを備えた撹拌作業車13を用いて、散布された造粒砂12と干潟10の潟土10aとを撹拌し、造粒砂12と潟土10aとの混合層14を形成する工程と、噴射ノズル15を用いて、撹拌ロータ13aの撹拌によって形成された混合層14の表面に向かって汚濁防止剤16を噴射する工程と、均しプレート17aを備えた均し作業車17を用いて混合層14の表面を平滑に均す工程と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自然の干潟や潟土や水質が悪化した干潟の土壌を改良する工法に関する。
【背景技術】
【0002】
干潟は、河川や沿岸流によって運ばれてきた粒径2mm以下の砂、シルト、粘土などが河口周辺や海岸に堆積して形成される湿地帯であり、潮汐の水面変動によって陸地化したり、水面から没したりを繰り返すのが一般的である。干潟は、海水と淡水とが混じり合う汽水域に多く見られる地形である。健全な干潟の泥(潟土)は、栄養価の高い成分を含んでいるため、酸素を好む微生物が多数生息し、微小藻類も多く、これらを含有した潟土を食するカニ類、ゴカイ類、ハゼ類あるいは貝類などが多数生息している。そして、これらの生物の活動により潟土が撹拌されるとともに、潮汐の干満による酸素供給が促進されるため、潟土や水質は清浄な状態に保たれるのが自然本来の姿である。
【0003】
しかしながら、干潟に流入する河川水の流速、河川水とともに供給されるシルト、粘土その他の成分あるいは気象条件などによって潟土の状態は絶えず変化しているため、何らかの要因で干潟への酸素供給が減少すると、潟土が無酸素状態となり、酸素を必要とする微生物(好気性微生物)が減少する反面、硫酸還元菌などの嫌気性微生物が増加する。嫌気性微生物が有機物を分解すると硫化水素が発生するため、潟土から悪臭が生じ、水質が悪化して魚介類が激減し、野鳥も寄りつかなくなり、いわゆる死滅した干潟と化してしまう。
【0004】
そこで、潟土や水質が悪化した干潟を改良するため、石炭灰の造粒物からなる水質浄化材料を干潟の覆砂材として用いる技術(例えば、特許文献1参照。)あるいは石炭灰造粒物などの改良材料が充填された容器を干潟に埋設する技術(例えば、特許文献2参照。)などが提案されている。
【0005】
一方、海底の浚渫や捨石投入などの港湾工事において必然的に生じる海水の汚濁および周辺海域への汚濁海水の拡散を防止する技術も提案されている(例えば、特許文献3)。
【0006】
【特許文献1】特開2004−113885号公報
【特許文献2】特開2005−279324号公報
【特許文献3】特開2005−48465号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
潟土や水質が悪化した干潟に対し、特許文献1,2に記載された技術を施工することにより、潟土や水質を清浄化することができるが、施工中あるいは施工後に海水が汚濁することがあるため、汚濁した海水が周辺海域に拡散して悪影響を及ぼす可能性がある。また、特許文献1,2記載の水質改善技術を施工したとしても、人が干潟上を安全に歩行できる程度まで潟土を硬化させることは困難である。
【0008】
一方、特許文献3記載の濁り拡散防止方法は、海水の存在下で施工される港湾工事などにおいて実施することができる工法であるが、干潮時の干潟に対して施工される土壌改良工事においては実施不可能である。
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、人が干潟上を歩行できる程度まで潟土を硬化させることができ、施工が容易で、海水を汚濁することがなく、潟土の清浄化も図ることができる、干潟土壌改良工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の干潟土壌改良工法は、干潮時の干潟の表面に石炭灰造粒物を散布する工程と、散布された前記石炭灰造粒物と前記干潟の潟土とを撹拌する工程と、前記撹拌によって形成された前記石炭灰造粒物と前記潟土との混合層に汚濁防止剤を散布する工程と、を含むことを特徴とする。
【0011】
このような構成とすれば、干潟の潟土と混合された石炭灰造粒物が、栄養富化の原因であるリン酸イオンやアンモニウムイオンを吸着、除去することにより、潟土および海水が清浄化されるため、藻類や珪藻類の発育が良好となり、比較的短期間で干潟を清浄化することができる。また、混合層中の潟土に含まれる海水を石炭灰造粒物が吸収することにより、当該混合層が硬化し、載荷重に対する支持力が高まるため、人が干潟上を歩行できる程度まで潟土が硬化する。また、混合層に散布された汚濁防止剤が海水中に浮遊するシルトなどの微粒子を凝集沈降させるため、海水の汚濁も防止することができる。さらに、この干潟土壌改良工法は、干潮時の干潟の表面に石炭灰造粒物を散布して潟土と撹拌し、これらの混合層に汚濁防止剤を散布するだけで完了するので、施工も容易である。
【0012】
ここで、前記石炭灰造粒物として、微粉炭燃焼フライアッシュと、セメントと、水と、添加材との混合物を造粒して形成した平均粒径0.3mm〜2.0mmの造粒砂を用いることが望ましい。
【0013】
このような造流砂は、潟土中の海水を吸収する機能およびリン酸イオンやアンモニウムイオンを吸着する機能に優れているため、比較的短時間のうちに、人が歩ける程度まで干潟を硬化させたり、清浄化したりすることができる。なお、造流砂の粒径が0.3mmより小さい場合は散布時に空気中へ舞い上がって作業性を悪化させたり、潟土を硬化させる作用が低下したりする傾向が生じ、2.0mmより大きくなると、散布後における潟土との撹拌性が悪化し、均等に混合できなくなる傾向が生じる。このため、造流砂の粒径は平均粒径0.3mm〜2.0mmの範囲が好適であり、特に、最大粒径30mmであって前記範囲とすることが望ましい。なお、添加材は造粒を行うための助材であり、平均粒子径が10μm以下の粉体、例えば、セメントキルンダストあるいは無機系微粒子粉体などが好適である。
【0014】
また、前記汚濁防止剤として、アクリル酸・メタクリル酸ジメチルアミノエチル共重合物のマグネシウム塩とポリエチレンアミンとの複合体を含む高分子化合物を用いることが望ましい。
【0015】
このような汚濁防止剤は、潟土中に浮遊しているシルトなどの微粒子同士を結合してフロック化する作用に優れ、潟土中の微粒子が海水中へ拡散するのを防止することができるため、さらに優れた海水汚濁防止効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、比較的短期間のうちに人が干潟上を歩行できる程度まで潟土を硬化させることができ、施工が容易で、海水を汚濁することがなく、潟土の清浄化も図ることができる、干潟土壌改良工法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面に基づいて、本発明の第1実施形態について説明する。図1は本発明の第1実施形態である干潟土壌改良工法を示す工程図である。
【0018】
本実施形態の干潟土壌改良工法においては、図1(a)に示すように、搬送車11で運んできた石炭灰の造粒砂12を干潮時の干潟10の表面上に、搬送車11が沈下しない程度の厚さに散布する。次に、図1(b)に示すように、撹拌ロータ13aを備えた撹拌作業車13を用いて、散布された造粒砂12と干潟10の潟土10aとを撹拌することにより、造粒砂12と潟土10aとの混合層14を形成する。この後、図1(c)に示すように、噴射ノズル15を用いて、撹拌ロータ13aの撹拌によって形成された混合層14の表面に向かって汚濁防止剤16を噴射する。
【0019】
これにより、混合層14中へ汚濁防止剤16が送り込まれるとともに、空気も供給される。なお、図1(c)では、噴射ノズル15の先端を混合層14の表面から20〜30cm程度離して噴射しているが、噴射ノズル15の先端を混合層14内へ差し込んだ状態で汚濁防止剤16を噴射することもできる。最後に、図1(d)に示すように、均しプレート17aを備えた均し作業車17を用いて混合層14の表面を平滑に均すと、作業が完了する。
【0020】
このように、干潟10の潟土10aと混合して形成された混合層14は、造粒砂12が潟土10a中の海水を吸収することによって硬化し、均し作業車17が沈下しない程度の硬さを有する支持層となる。このため、混合層14上を作業者が歩行したり、均し作業車17を走行させたりすることができる。また、混合層14内の石炭灰造粒砂12が、栄養富化の原因であるリン酸イオンやアンモニウムイオンを吸着、除去するため、潟土10aおよび海水が清浄化される。これにより、干潟10において藻類や珪藻類の発育が良好となるため、比較的短期間で干潟10を清浄化することができる。
【0021】
また、石炭灰の造粒砂12と潟土10aとの混合層14に汚濁防止剤16を噴射することにより、潟土10a中の微細な粒子同士が結合したり、潟土10aの粒子が造粒砂12と結合したり、あるいはフロック化したりして、沈降し、海水から分離されるため、海水の汚濁を防止することができる。さらに、本実施形態の干潟土壌改良工法は、干潮時の干潟10の表面に造粒砂12を散布して潟土10aと撹拌し、これらの混合層14に汚濁防止剤16を噴射するだけで、人が安全に歩行可能な程度まで潟土10aを硬化させることができる。
【0022】
このように、本実施形態の干潟土壌改良工法を実施することにより、比較的短時間のうちに、人が干潟10上を歩行できる程度まで潟土10aを硬化させることができる。また、この干潟土壌改良工法は、施工が容易であり、海水を汚濁することなく、潟土10aの清浄化を図ることもできる。
【0023】
ここで、造粒砂12の原料である石炭灰は、石炭ボイラの排煙に含まれる球形微細粒子を電気集塵機で捕集した微粉炭燃焼フライアッシュを使用している。この微粉炭燃焼フライアッシュは、シリカ(SiO2)およびアルミナ(AlO2)を主成分とし、少量の酸化第二鉄(Fe23)および酸化マグネシウム(Mg0)などを含んでいる。造粒砂12は、石炭灰にセメント、水および添加材(造粒を行うための助材)などを添加して造粒することによって形成されたものであり、その平均粒径は約0.3mm〜30mmである。造粒砂12の単位体積質量は0.8t/m3〜1.3t/m3、保水率は40%〜50%、透水係数は10-4cm/s〜10-3cm/sであるが、これに限定するものではない。
【0024】
一方、汚濁防止剤16として、アクリル酸・メタクリル酸ジメチルアミノエチル共重合物のマグネシウム塩とポリエチレンアミンとの複合体を含む高分子化合物を用いているため、潟土10a中の微粒子同士を結合してフロック化する作用に優れている。このため、潟土10a中のシルトなどの微粒子が海水中へ拡散するのを有効に防止することができ、優れた海水汚濁防止効果を得ることができる。なお、本実施形態では、汚濁防止剤16として、有限会社グローバル研究所の「商品名:GB−2000」の50倍希釈液を用いたところ、前述したような優れた効果を得ることができた。
【0025】
次に、図2に基づいて、本発明の第2実施形態について説明する。図2は本発明の第2実施形態である干潟土壌改良工法を示す工程図である。
【0026】
本実施形態の干潟改良工法においては、図2(a)に示すように、手動式の搬送台車18で運んできた石炭灰の造粒砂12を干潮時の干潟10の表面上に、作業者や搬送台車18が沈下しない程度の厚さに散布する。次に、図2(b)に示すように、噴射ノズル15を用いて、造粒砂12の表面に向かって汚濁防止剤16を噴射する。これにより、造粒砂12中へ汚濁防止剤16および空気が供給されるとともに、汚濁防止剤16の噴射圧により造粒砂12が潟土10a中へ送り込まれ、潟土10aと撹拌されることにより、混合層14が形成される。この後、図2(c)に示すように、均しプレート19aを備えたレーキ19を用いて混合層14の表面を平滑に均すと、作業が完了する。
【0027】
本実施形態の干潟土壌改良工法は、図1に示す干潟土壌改良工法と同様、比較的短時間のうちに、人が干潟10上を歩行できる程度まで潟土10aを硬化させることができ、施工は容易であり、海水を汚濁することがなく、潟土10aの清浄化も図ることができる。なお、図2に示す干潟土壌改良工法の場合、作業者の手作業によって施工するため、干潟10の含水比が高い場所においても施工することができる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の干潟土壌改良工法は、自然の干潟、潟土や水質が悪化した干潟あるいはこれに類似した水域において広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の第1実施形態である干潟土壌改良工法を示す工程図である。
【図2】本発明の第2実施形態である干潟土壌改良工法を示す工程図である。
【符号の説明】
【0030】
10 干潟
10a 潟土
11 搬送車
12 造粒砂
13 撹拌作業車
13a 撹拌ロータ
14 混合層
15 噴射ノズル
16 汚濁防止剤
17 均し作業車
17a,19a 均しプレート
18 搬送台車
19 レーキ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
干潮時の干潟の表面に石炭灰造粒物を散布する工程と、散布された前記石炭灰造粒物と前記干潟の潟土とを撹拌する工程と、前記撹拌によって形成された前記石炭灰造粒物と前記潟土との混合層に汚濁防止剤を散布する工程と、を含むことを特徴とする干潟土壌改良工法。
【請求項2】
前記石炭灰造粒物として、微粉炭燃焼フライアッシュと、セメントと、水と、添加材との混合物を造粒して形成した平均粒径0.3mm〜2.0mmの造粒砂を用いた請求項1記載の干潟土壌改良工法。
【請求項3】
前記汚濁防止剤として、アクリル酸・メタクリル酸ジメチルアミノエチル共重合物のマグネシウム塩とポリエチレンアミンとの複合体を含む高分子化合物を用いた請求項1または2記載の干潟土壌改良工法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−121263(P2008−121263A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−305780(P2006−305780)
【出願日】平成18年11月10日(2006.11.10)
【出願人】(500305380)株式会社シーマコンサルタント (30)
【Fターム(参考)】