説明

平版印刷版

【課題】経時保存性に優れた平版印刷版を提供する。
【解決手段】支持体上に光重合性の感光層を有するネガ型平版印刷版において、感光層に無水マレイン酸と共重合しうる化合物と無水マレイン酸から得られる共重合体の側鎖にエチレン性不飽和結合を有する重合体を含むことを特徴とする平版印刷版。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平版印刷版に関する。より詳しくは、デジタル信号に基づいてレーザー等の走査露光装置を用いて、画像形成可能な平版印刷版に関する。
【背景技術】
【0002】
感光性組成物は、光反応によって分子構造が化学変化を起こし、その結果、物理現象(物性)に変化が生じる。この光の作用による化学変化としては、架橋・重合・分解・解重合・官能基変換などがあり、溶解度・接着性・屈折率・物質浸透性および相変化など多様である。このような感光性組成物は、印刷版、レジスト、塗料、コーティング剤、カラーフィルターなどの広い分野で実用化されている。さらに、写真製版技術(フォトリソグラフィ)を用いるフォトレジスト分野で活用され、発展してきた。フォトレジストは、光反応による溶解度の変化を利用したもので、高解像度の要求などからいっそうの精緻な材料設計が必要となっている。
【0003】
広く用いられているタイプの平板印刷版は、アルミニウムベース支持体に塗布された感光性塗膜を有する。この塗膜は、露光された塗膜部分は硬化し、露光されなかった塗膜部分は現像処理で溶出される。このような版をネガ型印刷版という。平版印刷は印刷版表面に形成されたパターンと背景部のそれぞれの親油性、親水性の表面物性を利用し、平版印刷においてインクと湿し水を同時に印刷機上で版面に供給する際に、インクが親油性表面を有するパターン上に選択的に転移することを利用するものである。パターン上に転移したインクはその後ブランケットと呼ばれる中間体に転写され、これから更に印刷用紙に転写することで印刷が行われる。
【0004】
上記した光反応による溶解度の変化を利用してレリーフ像を形成する感光性組成物は、従来から多くの研究が成されており、また実用化されている。例えば、側鎖にエチレン性不飽和結合を有する重合体と架橋剤と光重合開始剤を主体とする感光性組成物が開示されている。(例えば、特許文献1参照。)これらは、400nm以下の紫外線領域を中心とした短波長の光に対して感光性を有するものである。
【0005】
400nm前後の波長での光反応による溶解度の変化を利用した感光性組成物として、無水マレイン酸を共重合成分として含む重合体を使用した感光性組成物が開示されている。(例えば、特許文献2および3参照。)これらは、表面硬度が高く、保存安定性に優れるものでおり、保護膜、層間絶縁膜、ソルダーレジストパターンなどに適している。しかしながら、平版印刷版に利用すると、良好な印刷性が得られるものではなかった。
【0006】
一方、近年、画像形成技術の進歩に伴い、可視光に対して高感度を示す感光性材料が求められるようになってきた。例えば、アルゴンレーザー、ヘリウム・ネオンレーザー、赤色LED等を用いた出力機に対応した感光性材料及び平版印刷版の研究も活発に行われている。
【0007】
更に、半導体レーザーの著しい進歩によって700〜1300nmの近赤外レーザー光源を容易に利用できるようになったことに伴い、該レーザー光に対応する感光性材料及び平版印刷版が注目されている。
【0008】
上記、700〜1300nmの近赤外レーザー光に感光性を有する組成物として、特定の重合体と光酸発生剤と近赤外増感色素の組み合わせが開示されている。(例えば、特許文献4参照。)しかしながら、感度等の安定性、長期保存性を確保するのが難しいという問題があり、このために、感光層上部に酸素バリア性を高めるとともに表面の傷防止等を目的としたポリビニルアルコール等からなるオーバー層を設けることが通常行われている。このようなオーバー層の存在によりレーザー露光の際に光の散乱等による画質の低下の問題や、現像の際に、アルカリ現像に先立ってオーバー層除去のためのプレ水洗工程が必要となること、および製造にあたって感光層塗布後に更にオーバー層を塗布する工程が必要である等の問題があった。
【0009】
側鎖に複素環を含む連結基を介してビニル基が置換したフェニル基を有する重合体と光ラジカル発生剤を含有することを特徴とする感光性組成物が開示されている。(例えば、特許文献5参照。)この発明では、オーバー層を必要とせず、またさらに、露光後に加熱処理を行わなくても、現像及び印刷に耐えられる画像を得ることができる。しかしながら、感光材料としての経時保存性に課題を有するものであった。
【特許文献1】特公平6−105353号公報
【特許文献2】特開平2−97502号公報
【特許文献3】特開2005−331610号公報
【特許文献4】特開平11−231535号公報
【特許文献5】特許3654422号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、経時保存性に優れた平版印刷版を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の上記目的は、支持体上に光重合性の感光層を有するネガ型平版印刷版において、感光層に無水マレイン酸と共重合しうる化合物と無水マレイン酸から得られる共重合体の側鎖にエチレン性不飽和結合を有する重合体を含む平版印刷版によって達成された。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、経時保存性に優れた平版印刷版が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明に用いられる重合体は、下記に示される構造の、無水マレイン酸と共重合しうる化合物と無水マレイン酸から得られる共重合体の側鎖にエチレン性不飽和結合を有する重合体である。共重合し、さらに官能基を導入することにより、平版印刷版において保存性に優れた重合体を得ることができる。また、これらの化合物の多くは交互共重合することにより、重合速度が大きくでき、得られる共重合体の組成も安定することから製造面からも有利となる。
【0014】
【化1】

【0015】
【化2】

【0016】
式中、R11、R12、R13は各々同じであっても異なっていてもよく、置換可能な任意の原子または基を表す。
【0017】
前記無水マレイン酸は共重合が阻害されない範囲で置換可能な基もしくは原子で置換されていても良い。置換基としてはハロゲン原子、カルボキシ基、スルホ基、ニトロ基、シアノ基、アミド基、アミノ基、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基等が挙げられる。
【0018】
無水マレイン酸と共重合する化合物としては、共重合できるものであれば利用可能である。具体的には、スチレンおよびその誘導体、ビニルエーテルおよびその置換体、酢酸ビニルおよびその置換体、アリル化合物が挙げられる。置換基としては、水素原子、ハロゲン原子、カルボキシル基、スルホ基、ニトロ基、シアノ基、アミド基、アミノ基、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基等であり、更にこれらの基は、ハロゲン原子、カルボキシ基、スルホ基、ニトロ基、シアノ基、アミド基、アミノ基、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、ヒドロキシ基等で置換されていても良い。その中でも、特に好ましいものはスチレンおよびその誘導体、ビニルエーテルおよびその置換体である。
【0019】
無水マレイン酸と共重合しうる化合物と無水マレイン酸から得られる共重合体に、無水物基および化合物に含まれる置換基の反応性を利用して側鎖にエチレン性不飽和結合を有するものが好ましく用いることが出来る。最も好ましい重合体としては、側鎖に下記の置換基を有する重合体が挙げられる。
【0020】
【化3】

【0021】
式中、Z1は連結基を表し、R1は水素原子またはメチル基を表し、R2は置換可能な任意の原子または基を表す。n1は0または1を表し、k1は0〜4の整数を表し、m1は1〜4の整数を表す。
【0022】
化3について更に詳細に説明する。Z1の連結基としては、酸素原子、硫黄原子、アルキレン基、アルケニレン基、アリーレン基、−N(R21)−、−C(O)−O−、−C(R22)=N−、−C(O)−、スルホニル基、複素環基、及び下記化4で表される基等の単独もしくは2以上が複合した基が挙げられる。ここでR21及びR22は、水素原子、アルキル基、アリール基等を表す。更に、上記した連結基には、アルキル基、アリール基、ハロゲン原子等の置換基を有していてもよい。上記化3における連結基としては複素環を含むものが好ましく、m1は1または2であるものが好ましい。
【0023】
【化4】

【0024】
上記複素環基としては、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、トリアゾール環、テトラゾール環、イソオキサゾール環、オキサゾール環、オキサジアゾール環、イソチアゾール環、チアゾール環、チアジアゾール環、チアトリアゾール環、インドール環、インダゾール環、ベンズイミダゾール環、ベンゾトリアゾール環、ベンズオキサゾール環、ベンズチアゾール環、ベンズセレナゾール環、ベンゾチアジアゾール環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、トリアジン環、キノリン環、キノキサリン環等の含窒素複素環、フラン環、チオフェン環等が挙げられ、更にこれらの複素環には置換基が結合していても良い。
【0025】
化3で表される基の好ましい例を以下に示すが、これらの例に限定されるものではない。
【0026】
【化5】

【0027】
【化6】

【0028】
無水マレイン酸と共重合しうる化合物と無水マレイン酸から得られる共重合体は、アルカリ性水溶液に可溶性を有することが好ましく、そのためにカルボキシル基を共重合体中に含有することが好ましい。具体的には無水物基への置換基の導入の反応に伴って、カルボキシル基を導入することができるが、さらに化合物中の置換基を利用してカルボキシル基を導入しても良い。
【0029】
本発明の共重合体の分子量については好ましい範囲が存在し、重量平均分子量で1000から100万の範囲であることが好ましく、さらに1万から30万の範囲にあることが特に好ましい。
【0030】
本発明に係わる共重合体の例を下記に示すがこれらの例に限定されるものではない。
【0031】
【化7】

【0032】
【化8】

【0033】
【化9】

【0034】
【化10】

【0035】
【化11】

【0036】
【化12】

【0037】
【化13】

【0038】
本発明に関わる光重合開始剤については特に有機ホウ素塩が好ましく用いられる。更に好ましくは、有機ホウ素塩とトリハロアルキル置換化合物(例えばトリハロアルキル置換された含窒素複素環化合物としてs−トリアジン化合物およびオキサジアゾール誘導体、トリハロアルキルスルホニル化合物)を組み合わせて用いることである。
【0039】
有機ホウ素塩を
成する有機ホウ素アニオンは、下記で表される。
【0040】
【化14】

【0041】
式中、R31、R32、R33およびR34は各々同じであっても異なっていてもよく、アルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、複素環基を表す。これらの内で、R31、R32、R33およびR34の内の一つがアルキル基であり、他の置換基がアリール基である場合が特に好ましい。
【0042】
上記の有機ホウ素アニオンは、これと塩を形成するカチオンが同時に存在する。この場合のカチオンとしては、アルカリ金属イオン、オニウムイオン及びカチオン性増感色素が挙げられる。オニウム塩としては、アンモニウム、スルホニウム、ヨードニウムおよびホスホニウム化合物が挙げられる。アルカリ金属イオンまたはオニウム化合物と有機ホウ素アニオンとの塩を用いる場合には、別に増感色素を添加することで色素が吸収する光の波長範囲での感光性を付与することが行われる。また、カチオン性増感色素の対アニオンとして有機ホウ素アニオンを含有する場合は、該増感色素の吸収波長に応じて感光性が付与される。しかし、後者の場合は更にアルカリ金属もしくはオニウム塩の対アニオンとして有機ホウ素アニオンを併せて含有するのが好ましい。
【0043】
本発明に係わる最も好ましい様態の一つとして、有機ホウ素塩とこれを増感する色素を併せて含む感光性組成物であり、この場合の有機ホウ素塩は750〜1100nmの波長領域に感光性を示さず、増感色素の添加によって初めてこうした波長領域の光に感光性を示すものである。
【0044】
本発明に用いられる有機ホウ素塩としては、先に示した化14で表される有機ホウ素アニオンを含む塩であり、塩を形成するカチオンとしてはアルカリ金属イオンおよびオニウム化合物が好ましく使用される。特に好ましい例は、有機ホウ素アニオンとのオニウム塩として、テトラアルキルアンモニウム塩等のアンモニウム塩、トリアリールスルホニウム塩等のスルホニウム塩、トリアリールアルキルホスホニウム塩等のホスホニウム塩が挙げられる。特に好ましい有機ホウ素塩の例を下記に示す。
【0045】
【化15】

【0046】
【化16】

【0047】
本発明において、有機ホウ素塩とともに用いることでさらに高感度化、硬調化が具現される光重合開始剤としてトリハロアルキル置換化合物が挙げられる。上記トリハロアルキル置換化合物とは、具体的にはトリクロロメチル基、トリブロモメチル基等のトリハロアルキル基を分子内に少なくとも一個以上有する化合物であり、好ましい例としては、該トリハロアルキル基が含窒素複素環基に結合した化合物としてs−トリアジン誘導体およびオキサジアゾール誘導体が挙げられ、或いは、該トリハロアルキル基がスルホニル基を介して芳香族環或いは含窒素複素環に結合したトリハロアルキルスルホニル化合物が挙げられる。
【0048】
トリハロアルキル置換した含窒素複素環化合物やトリハロアルキルスルホニル化合物の特に好ましい例を下記に示す。
【0049】
【化17】

【0050】
【化18】

【0051】
上述したような光重合開始剤の含有量は、光重合性組成物全体の量に対して1質量%から50質量%の範囲にあることが好ましい。
【0052】
本発明の感光性組成物は、近赤外〜赤外光、即ち、750〜1100nmの波長領域のレーザー光を用いた走査露光に対して極めて好適に用いられる。このような近赤外に増感するために用いられる増感色素としてはシアニン、ポリメチン、スクアリリウム色素等を利用することができるが、以下の増感色素を利用することが好ましい。
【0053】
【化19】

【0054】
【化20】

【0055】
上記で例示した増感色素の含有量は、感光性組成物1m2当たり3〜300mg程度が適当である。好ましくは10〜200mg/m2である。
【0056】
本発明の平版印刷版は、分子内に2個以上の重合性二重結合を有する多官能重合性モノマーもしくはオリゴマーの重合性化合物を含有するのが好ましい。かかる重合性化合物の分子量は1万以下で、好ましくは5000以下である。該化合物としては、例えば、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基が置換したフェニル基等の重合性二重結合を2個以上有する化合物が挙げられる。
【0057】
重合性二重結合としてアクリロイル基もしくはメタクリロイル基を有する化合物としては、例えば1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリスアクリロイルオキシエチルイソシアヌレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールグリセロールトリ(メタ)アクリレート、グリセロールエポキシトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ピロガロールトリアクリレート等が挙げられる。
【0058】
分子内にビニル基が置換したフェニル基を2個以上有する重合性化合物を使用した場合、発生するラジカルにより生成するスチリルラジカル同士の再結合により効果的に架橋を行うため、高感度で加熱処理を必要としないネガ型感光材料を作成することができる。重合性二重結合としてビニル基が置換したフェニル基を有する化合物は、代表的には下記一般式で表される。
【0059】
【化21】

【0060】
式中、Zは連結基を表し、R41、R42は水素原子、ハロゲン原子、カルボキシ基、スルホ基、ニトロ基、シアノ基、アミド基、アミノ基、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基等を表す。R43は、水素原子、ハロゲン原子、カルボキシ基、スルホ基、ニトロ基、シアノ基、アミド基、アミノ基、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基等であり、更にこれらの基は、アルキル基、アミノ基、アリール基、アルケニル基、カルボキシ基、スルホ基、ヒドロキシ基等で置換されていても良い。R44は置換可能な基または原子を表す。m2は0〜4の整数を表し、k2は2以上の整数を表す。m3が2以上の場合、R44はそれぞれ同じでも異なっていても良い。
【0061】
上記一般式について更に詳細に説明する。Zの連結基としては、酸素原子、硫黄原子、アルキレン基、アルケニレン基、アリーレン基、−N(R45)−、−C(O)−O−、−C(R46)=N−、−C(O)−、スルホニル基、複素環基等の単独もしくは2以上が複合した基が挙げられる。ここでR45及びR46は、水素原子、アルキル基、アリール基等を表す。更に、上記した連結基には、アルキル基、アリール基、ハロゲン原子等の置換基を有していてもよい。
【0062】
上記複素環基としては、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、トリアゾール環、テトラゾール環、イソオキサゾール環、オキサゾール環、オキサジアゾール環、イソチアゾール環、チアゾール環、チアジアゾール環、チアトリアゾール環、インドール環、インダゾール環、ベンズイミダゾール環、ベンゾトリアゾール環、ベンズオキサゾール環、ベンズチアゾール環、ベンズセレナゾール環、ベンゾチアジアゾール環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、トリアジン環、キノリン環、キノキサリン環等の含窒素複素環、フラン環、チオフェン環等が挙げられ、これらには置換基が結合していても良い。
【0063】
上記一般式で表される化合物の中でも好ましい化合物が存在する。即ち、R41及びR42は水素原子でR43は水素原子もしくは炭素数4以下の低級アルキル基(メチル基、エチル基等)で、k2は2〜10の化合物が好ましい。以下に具体例を示すが、これらの例に限定されるものではない。
【0064】
【化22】

【0065】
【化23】

【0066】
【化24】

【0067】
上記した重合性化合物の添加量は、重合体1質量部に対して0.01質量部から10質量部の範囲で含まれることが好ましく、さらに0.05質量部から1質量部の範囲で含まれることが特に好ましい。
【0068】
重合促進剤として、アミンやチオール、ジスルフィド等に代表される重合促進剤や連鎖移動触媒等を加えることができる。具体例としては、例えば、N−フェニルグリシン、トリエタノールアミン、N,N−ジエチルアニリン等のアミン類、米国特許4,414,312号公報や特開昭64−13144号公報記載のチオール類、特開平2−29161号公報記載のジスルフィド類、米国特許3,558,322号公報や特開昭64−17048号公報記載のチオン類、特開平2−291560号公報記載のo−アシルチオヒドロキサメートやN−アルコキシピリジンチオン類が挙げられる。重合促進剤の添加量は、好ましくは重合層全固形分の0.1〜5質量%である。この範囲より少なすぎると効果が期待できない。また多すぎると重合層の膜質を劣化させやすくなる。
【0069】
本発明の平版印刷版は、上述した成分以外にも種々の目的で他の成分を添加することも好ましく行われる。特に、スチリル基の熱重合あるいは熱架橋を防止し長期にわたる保存性を向上させる目的で種々の重合禁止剤を添加することが好ましく行われる。この場合の重合禁止剤としては、ハイドロキノン類、カテコール類、ナフトール類、クレゾール類等の各種フェノール性水酸基を有する化合物やキノン類化合物等が好ましく使用され、特にハイドロキノンが好ましく使用される。この場合の重合禁止剤の添加量としては、該重合体100質量部に対して0.1質量部から10質量部の範囲で使用することが好ましい。
【0070】
平版印刷版を構成する要素として、他に、画像の視認性を高める目的で種々の染料、顔料を添加することや、感光性組成物のブロッキングを防止する目的等で無機物微粒子あるいは有機物微粒子を添加することも好ましく行われる。
【0071】
平版印刷版材料として使用する場合の感光層自体の厚みに関しては、支持体上に0.5ミクロンから10ミクロンの範囲の乾燥厚みで形成することが好ましく、さらに1ミクロンから5ミクロンの範囲であることが耐刷性を大幅に向上させるために極めて好ましい。感光層は上述の3つの要素を混合した溶液を作成し、公知の種々の塗布方式を用いて支持体上に塗布、乾燥される。支持体については、例えばフィルムやポリエチレン被覆紙を使用しても良いが、より好ましい支持体は、研磨され、陽極酸化皮膜を有するアルミニウム板である。
【0072】
上記のようにして支持体上に形成された感光層を有する材料を印刷版として使用するためには、これに密着露光あるいはレーザー走査露光を行い、露光された部分が架橋することでアルカリ性現像液に対する溶解性が低下することから、後述するアルカリ性現像液により未露光部を溶出することでパターン形成が行われる。
【0073】
アルカリ性現像液としては、本発明に係わる重合体を溶解する液で有れば特に制限は無いが、好ましくは、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、珪酸ナトリウム、珪酸カリウム、メタ珪酸ナトリウム、メタ珪酸カリウム、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリエチルアンモニウムハイドロキサイド等のようなアルカリ性化合物を溶解した水性現像液が良好に未露光部を選択的に溶解し、下方の支持体表面を露出出来るため極めて好ましい。さらには、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリン、ベンジルアルコール等の各種アルコール類をアルカリ性現像液中に添加することも好ましく行われる。こうしたアルカリ性現像液を用いて現像処理を行った後に、アラビアゴム等を使用して通常のガム引きが好ましく行われる。
【0074】
次に、本発明に用いられる無水マレイン酸と共重合しうる化合物と無水マレイン酸から得られる共重合体の側鎖にエチレン性不飽和結合を有する重合体の代表的な化合物の合成例を以下に示す。
【0075】
合成例1(重合体P−5の合成例)
アミノエタンチオール160gを400mlのメタノール中に溶解させ、112gの水酸化カリウムを溶解した水400gを添加する。その後、冷却しながらクロルメチルスチレン310gを徐々に添加し、さらに2時間攪拌を続けた。酢酸エチルにて反応生成物を抽出し、真空乾燥器内で1昼夜乾燥することにより収率75%で下記に示す化合物を得た。
【0076】
【化25】

【0077】
攪拌機、窒素導入管、温度計、還流冷却管を備えた1リッター4ツ口フラスコ内にスチレン100g、無水マレイン酸98gおよびテトラヒドロフラン200gを加え、窒素雰囲気下で内温を70℃になるよう加熱し、この温度でアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を1g添加し、重合を開始した。6時間加熱撹拌を行い、重合を行った。さらに化25の化合物を200g加え、さらに4時間加熱撹拌を行い、室温にまで冷却した。反応液をイソプロピルエーテルにあけることでP−5の重合体を得た。ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる分子量測定から重量平均分子量9万(ポリスチレン換算)の重合体であり、さらにプロトンNMRによる解析により重合体P−5の構造を支持するものであった。
【0078】
合成例2(重合体P−15の合成例)
ビスムチオール(2,5−ジメルカプト−1,3−4−チアジアゾール)150gを600mlのメタノール中に懸濁させ、冷却しながらトリエチルアミン101gを徐々に添加し、均一な溶液を得た。室温下に保ちながらp−クロロメチルスチレン(セイミケミカル製、CMS−14)153gを10分に亘り滴下し、さらに3時間攪拌を続けた。反応生成物が次第に析出し、攪拌後に氷浴に移し内温を10℃まで冷却した後、吸引濾過により生成物を分離した。メタノールにより洗浄を行い、真空乾燥器内で1昼夜乾燥することにより収率75%で下記に示す化合物を得た。
【0079】
【化26】

【0080】
攪拌機、窒素導入管、温度計、還流冷却管を備えた1リッター4ツ口フラスコ内にクロルメチルスチレン153g、無水マレイン酸98gおよびテトラヒドロフラン200gを加え、窒素雰囲気下で内温を70℃になるよう加熱し、この温度でアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を1g添加し、重合を開始した。6時間加熱撹拌を行い、重合を行った。トリエチルアミン101gと化26の化合物を242g加え、2時間加熱撹拌を行い、さらに化25の化合物を200g加え、4時間加熱撹拌を行い、室温にまで冷却した。反応液をイソプロピルエーテルにあけることでP−15の重合体を得た。ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる分子量測定から重量平均分子量12万(ポリスチレン換算)の重合体であり、さらにプロトンNMRによる解析により重合体P−15の構造を支持するものであった。
【0081】
合成例3(重合体P−20の合成例)
攪拌機、窒素導入管、温度計、還流冷却管を備えた1リッター4ツ口フラスコ内にメチルビニルエーテル58g、無水マレイン酸98gおよびテトラヒドロフラン200gを加え、窒素雰囲気下の加圧条件で内温を70℃になるよう加熱し、この温度でアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を1g添加し、重合を開始した。6時間加熱撹拌を行い、重合を行った。さらに化25の化合物を200g加え、さらに4時間加熱撹拌を行い、室温にまで冷却した。反応液をイソプロピルエーテルにあけることでP−20の重合体を得た。ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる分子量測定から重量平均分子量6万(ポリスチレン換算)の重合体であり、さらにプロトンNMRによる解析により重合体P−20の構造を支持するものであった。
【0082】
以下実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、効果はもとより本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0083】
厚みが0.24mmである砂目立て処理を行った陽極酸化アルミニウム板を使用して、この上に下記の処方で示される感光性塗工液を乾燥厚みが2.0ミクロンになるよう塗布を行い、75℃の乾燥器内にて6分間乾燥を行った。
<感光性塗工液>
重合体 12質量部
有機ホウ素塩(BC−1) 1質量部
光重合開始剤(T−4) 1.5質量部
重合性化合物(C−5) 3質量部
増感色素(S−1) 0.5質量部
ジオキサン 70質量部
シクロヘキサン 20質量部
【0084】
上記感光性塗工液の重合体の種類を表1のように変化して、各種印刷版を作製した。評価には、作成直後および、35℃80%RH環境下で1ヶ月保存後したものを使用した。
【0085】
830nm半導体レーザーを搭載した外面ドラム方式プレートセッター、大日本スクリーン製造株式会社製PT−R4000を使用して、ドラム回転速度1000rpm解像度2400dpi、レーザー照射エネルギー100mJ/cm2の条件で、作製したサンプルに50%平網露光を行った。露光後に自動現像機として大日本スクリーン製造株式会社製PS版用自動現像機PD−1310を使用し、現像液で現像を行った。現像液は、下記組成のものを使用した。
<現像液>
水酸化カリウム 20g
珪酸カリウム 20g
ペレックスNBL 60g
水 1L
【0086】
上記のようにして作製した平版印刷版について汚れ性と耐刷性を評価した。汚れ性の評価は、印刷機はハイデルベルグTOK(Heidelberg社製オフセット印刷機の商標)、インキはFINE INKニュウーチャンピオン紫S(大日本インキ化学工業(株)社製)、湿し水はEu−3(富士写真フィルム(株)社製のPS版用湿し水)の0.5%水溶液を使用し、1万枚印刷したサンプルの地汚れを評価した。耐刷性の評価は、印刷機はハイデルベルグTOK(Heidelberg社製オフセット印刷機の商標)を使用し、インキはBEST ONE墨H(T&KTOKA(株)社製)、湿し水はアストロマークIII(株式会社日研化学研究所社製湿し水)の1%水溶液を使用し、画像部が欠落し印刷ができなくなった枚数で評価した。汚れ性、耐刷性は、下記評価基準にて評価した結果を表1に示した。
【0087】
汚れ性
○:極めて良好
○△:良好
△:若干汚れ
×:全面汚れ
耐刷性
○:20万枚以上
○△:10万枚〜20万枚未満
△:5万枚〜10万枚未満
×:5万枚未満
【0088】
【表1】

【0089】
(比較例)
厚みが0.24mmである砂目立て処理を行った陽極酸化アルミニウム板を使用して、この上に下記の処方で示される感光性塗工液を乾燥厚みが2.0ミクロンになるよう塗布を行い、75℃の乾燥器内にて6分間乾燥を行った。
<感光性塗工液>
重合体(下記構造) 12質量部
有機ホウ素塩(BC−1) 1質量部
光重合開始剤(T−4) 1.5質量部
重合性化合物(C−5) 3質量部
増感色素(S−1) 0.5質量部
ジオキサン 70質量部
シクロヘキサン 20質量部
式中、数字は共重合体トータル組成中に於ける各繰り返し単位のモル%を表す。
【0090】
【化27】

【0091】
上記感光性塗工液の重合体の種類を表2のように変化して、各種印刷版を作製した。評価には、作成直後および、35℃80%RH環境下で1ヶ月保存後したものを使用した。
【0092】
830nm半導体レーザーを搭載した外面ドラム方式プレートセッター、大日本スクリーン製造株式会社製PT−R4000を使用して、ドラム回転速度1000rpm解像度2400dpi、レーザー照射エネルギー100mJ/cm2の条件で、作製したサンプルに50%平網露光を行った。露光後に自動現像機として大日本スクリーン製造株式会社製PS版用自動現像機PD−1310を使用し、現像液で現像を行った。現像液は、下記組成のものを使用した。
<現像液>
水酸化カリウム 20g
珪酸カリウム 20g
ペレックスNBL 60g
水 1L
【0093】
上記のようにして作製した平版印刷版について汚れ性と耐刷性を評価した。汚れ性の評価は、印刷機はハイデルベルグTOK(Heidelberg社製オフセット印刷機の商標)、インキはFINE INKニュウーチャンピオン紫S(大日本インキ化学工業(株)社製)、湿し水はEu−3(富士写真フィルム(株)社製のPS版用湿し水)の0.5%水溶液を使用し、1万枚印刷したサンプルの地汚れを評価した。耐刷性の評価は、印刷機はハイデルベルグTOK(Heidelberg社製オフセット印刷機の商標)を使用し、インキはBEST ONE墨H(T&KTOKA(株)社製)、湿し水はアストロマークIII(株式会社日研化学研究所社製湿し水)の1%水溶液を使用し、画像部が欠落し印刷ができなくなった枚数で評価した。汚れ性、耐刷性は、下記評価基準にて評価した結果を表2に示した。
【0094】
汚れ性
○:極めて良好
○△:良好
△:若干汚れ
×:全面汚れ
耐刷性
○:20万枚以上
○△:10万枚〜20万枚未満
△:5万枚〜10万枚未満
×:5万枚未満
【0095】
【表2】

【0096】
表1および2の結果から明らかなように、支持体上に光重合性の感光層を有するネガ型平版印刷版において、感光層に無水マレイン酸と共重合しうる化合物と無水マレイン酸から得られる共重合体の側鎖にエチレン性不飽和結合を有する重合体を含むことを特徴とする平版印刷版を用いることにより、経時保存性の優れた平版印刷版が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明の活用例として、平版印刷の刷版として利用することが挙げられる。経時保存性に優れることから、取り扱いやすく、多くの印刷物に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体上に光重合性の感光層を有するネガ型平版印刷版において、感光層に無水マレイン酸と共重合しうる化合物と無水マレイン酸から得られる共重合体の側鎖にエチレン性不飽和結合を有する重合体を含むことを特徴とする平版印刷版。
【請求項2】
共重合しうる化合物がスチレン誘導体もしくはビニルエーテル置換体である請求項1に記載の平版印刷版。
【請求項3】
該感光層に有機ホウ素塩、および赤外吸収色素を含む請求項1に記載の平版印刷版。

【公開番号】特開2007−232836(P2007−232836A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−51866(P2006−51866)
【出願日】平成18年2月28日(2006.2.28)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】