説明

平行出し装置および平行出し方法

【課題】被測定物の測定面と測定機の測定方向との平行出しを、効率よく行うことのできる平行出し装置、および、平行出し方法を提供すること。
【解決手段】被測定物に並列した移動案内体と、移動案内体に沿って移動するスライダとを備える。スライダの移動位置におけるスライダ移動位置、および、測定物の測定面位置を、スライダに備えられた光電式リニアスケール5、および、センサ6によって検出し、これらを基に、CPU71は、スライダの移動方向を基準とする測定面の傾き直線を演算し、傾き直線から揺動支点の調整基準値を設定し、調整基準値をメモリ72に記憶させ、記憶させた調整基準値、および、センサ6によって検出される測定面位置の差を調整量として算出する。調整量はモニタ8に表示され、作業者は、表示された調整量に従って移動案内体の姿勢を調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真直度測定機や形状測定機など、被測定物の測定面の形状を評価する測定機を使用する際に、予めこれら測定機の測定方向と測定面とが平行となるように互いの姿勢を調整するための平行出し装置、および、平行出し方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、被測定物の測定面の真直度を測定する真直度測定機や、測定面の粗さ、うねり、輪郭形状等の表面形状測定を行う形状測定機は、測定面に基準となる基準線または基準面を定め、その基準線または基準面から、実際の測定面までの変位を求めることによって、測定面の形状の評価を数値化している。例えば、真直度測定機を用いて測定面の真直度を求める際には、測定面に沿って真直度測定機のセンサを関与させて測定面の形状を測定し、その形状を表す測定曲線の両端を結ぶ直線を基準線として、この基準線に平行で、かつ測定曲線に接する直線で挟んだ平行2直線の間隔を求めている。
【0003】
しかし、このとき、測定面とセンサの測定方向の相対的な姿勢にずれがある場合、基準線を適切に定めることが難しく、測定結果に影響を及ぼす恐れがある。つまり、これらの測定を行うための必要条件として、測定面と測定機の測定方向とが、互いに平行な姿勢をとっていることが重要となる。そのため、これらの測定機を使用する際には、予め測定面と測定機の測定方向との平行出しが行われている。
【0004】
従来、この測定面と測定方向の平行出しを行うには、例えば、以下のような例が知られている。いずれも、測定面の形状を姿勢基準線として設定し、測定を行って装置の測定方向の姿勢基準線に対する平行度のずれを求め、次に、測定方向が姿勢基準線に平行となるよう移動案内体の姿勢を調節することにより達成される。
【0005】
従来の平行出しの1つの例として、装置は被測定物を載置する載置台と、被測定物に並列配置された移動案内体と、移動案内体に移動可能に設けられたスライダと、スライダの移動方向のスライダ移動位置、および、スライダ移動位置における被測定物の測定面位置を測定する位置検出センサと、移動案内体の両端に設けられ、その姿勢を調整する姿勢調整手段とを備えている。姿勢調整手段には、調整に用いる目盛が設けられている。
【0006】
まず、測定面のなるべく一端寄りにスライダを移動させ、この第1の位置(支点)における測定面位置を位置検出センサによって検出する。次に、スライダを測定面のなるべく他端寄りに移動させて固定し、このスライダを固定した第2の位置(調整点)において位置検出センサが検出する測定面位置が、第1の位置で検出された測定面位置に可能な限り近づくように、左右の姿勢調整手段を操作して移動案内体の姿勢を調整する。その後、スライダを移動させて、スライダの各移動位置における測定面位置の変化を確認する。これらを繰り返し、位置検出センサによって検出される測定面位置の変化が最小になるよう姿勢調整手段を操作することで平行出しする。
【0007】
さらに、もうひとつの例を挙げる(例えば、特許文献1)。特許文献1の装置は、前述の装置とほぼ同一の構成を持つ。測定面の測定開始点、および、測定終了点の2点の各スライダ移動位置および測定面位置を、位置検出センサによってそれぞれ測定し、次に、これら2点の測定データを結んだ直線を基に、スライダの移動方向、つまり、平行出し装置の測定方向に対する測定面の傾きを算出する。この傾きから測定開始点(支点)に対する測定終了点(調整点)の変位を、測定終了点における調整量として求め、これをモニタ等に表示する。そして、この調整値に達するまで、姿勢調整手段としてのつまみを目盛を見ながら手動で操作し、移動案内体の姿勢を調整することで平行出しする。
【0008】
【特許文献1】特開2000−266534号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、前述した従来例には、それぞれ次のような課題がある。
前者の方法では、第2の位置において姿勢調整手段の調整中に、スライダが第2の位置から動いてしまった場合、第2の位置を把握し直さなければいけないことや、平行出しが完了するまで、測定と左右の姿勢調整手段の操作を何度も繰り返し行わなければならないため、手間がかかるという課題が生じる。
【0010】
後者の特許文献1の方法では、算出した調整量は測定終了点における値であるため、この調整量を用いて調整を行う調整点は、測定終了点と限定され、例えば、測定終了点の位置を見失った場合には、もう一度測定して、新たな測定終了点での調整量を計算し直さなければならない。また、測定面の傾きを、2点の測定データを結ぶ直線から求めるため、必ずしも正確に表現しているとは言えない。さらに、移動案内体の姿勢の調整は、つまみの目盛を見ながら行うが、微小な変位にも対応できるようつまみにかなり細かい目盛を設ける必要があり、また、つまみは手動で操作されるので、細かい手作業が強いられ、操作ミスが生じるおそれがある。
【0011】
本発明の目的は、被測定物の測定面と測定機の測定方向の平行出しを効率よく行うことのできる平行出し装置、および、平行出し方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の平行出し装置は、被測定物を載置する載置台と、被測定物に並列配置された移動案内体と、この移動案内体の姿勢を揺動支点を基準に揺動調整する姿勢調整手段と、移動案内体に沿って移動可能に設けられたスライダと、スライダの移動案内体に沿うスライダ移動位置を検出するスライダ位置検出センサと、スライダに設けられ、被測定物の測定面位置を計測する測定面位置検出センサとを備えた平行出し装置において、スライダの各移動位置において、スライダ位置検出センサによって検出されるスライダ移動位置、および、測定面位置検出センサによって検出される測定面位置を取り込み、スライダ移動位置と測定面位置とを基に、スライダの移動方向を基準とする測定面の傾き直線を演算する傾き直線演算部と、この傾き直線演算部によって求められた傾き直線から揺動支点における測定面の測定面位置を、調整基準値として算出し設定する調整基準値設定部と、調整基準値、および、測定面位置検出センサによって検出される測定面位置の差を調整量として算出する調整量算出部と、この調整量算出部によって算出された調整量を表示する表示手段とを備えたことを特徴とする。
【0013】
このような構成によれば、算出される調整量は、調整基準値、および、測定面位置検出センサによって検出される測定面位置の差であるため、表示手段に表示される調整量は、現在のスライダ移動位置、および、移動案内体の姿勢において、測定面位置検出センサによって検出される測定面位置に連動している。そのため、移動案内体の姿勢の変化推移を確認しながら、姿勢の調整が行うことができる。調整量は、スライダの任意の位置における調整量を示しているので、調整点は限定されず、スライダの位置で表示される調整量に従って姿勢調整手段を操作すればよい。つまり、表示手段に表示される調整量が零となれば、測定面とスライダの移動方向が平行関係となる。これより、調整作業中にスライダが移動しても、調整点を把握し直す必要はなく、手間を少なくすることができる。また、作業者は、平行出しの完了時が分かりやすい。
【0014】
また、上記のような作用により、表示手段に表示される調整量を手がかりに、移動案内体の姿勢を調整することができるので、姿勢調整手段に目盛が形成されていなくてもよく、また、移動案内体の姿勢の変化推移を読み取りすいので、操作ミスなども少なくすることができる。これより、精度の高い平行出しを行うことができる。
同様に、表示手段に表示された調整量を手がかりに、姿勢調整手段を操作すればよいので、測定および調整の操作を何度も繰り返す必要はなく、手間を少なくすることができる。
【0015】
本発明の平行出し装置において、姿勢調整手段は、移動案内体を支持する少なくとも1本以上の支持脚であり、支持脚の少なくとも1本は、測定面に対してほぼ直交する方向へ伸縮可能な調整脚であることが好ましい。
このような構成によれば、姿勢調整手段が移動案内体を支持する支持脚であり、その少なくとも1本が、測定面に対してほぼ直交する方向へ伸縮することにより、移動案内体の姿勢を調整する機能も持つことから、移動案内体に姿勢の変化を与えやすく、また、支持脚の他に姿勢調整のための新たな構成を付加する必要はない。
【0016】
本発明の平行出し装置において、支持脚は、スライダの移動方向に沿って移動案内体の両端に2本配置され、これら2本の支持脚のうち一方は調整脚であり、他方は揺動支点に配置された基準脚であることが好ましい。
このような構成によれば、調整脚および基準脚が、スライダの移動方向に沿って移動案内体の両端に配置され、さらに、基準脚の位置は揺動支点であるので、基準脚は伸縮させる必要はなく、揺動支点の位置の把握がしやすい。そのため、調整脚の操作のみで移動案内体の姿勢を調整することができる。つまり、移動案内体の姿勢の調整は、複数の構成の操作を必要としない。
【0017】
本発明の平行出し装置は、傾き直線演算部は、スライダが移動案内体に沿って移動する際に、スライダ位置検出センサによって検出されるスライダ移動位置、および、測定面位置検出センサによって検出される測定面位置を一定間隔ごとに取り込み、スライダ移動位置および測定面位置から、最小二乗法を用いて傾き直線の演算を行うことが好ましい。
【0018】
このような構成によれば、傾き直線演算部は、スライダが移動案内体に沿って移動する際に、一定間隔ごとにスライダ移動位置および測定面位置を取り込むので、これらスライダ移動位置および測定面位置を取り込むために、スライダ位置検出センサ、および、測定面位置検出センサに、検出値取り込み指令を作業者がその都度入力しなくとも自動的に取り込みが行われる。よって、作業中の手間を少なくすることができる。
【0019】
また、傾き直線演算部は、取り込んだスライダ移動位置および測定面位置から最小二乗法を用いて傾き直線の演算を行うので、この傾き直線は、2点のスライダ移動位置および測定面位置を結んだ直線よりも正確に測定面の傾きを表すことができ、より精度の高い平行出しを行うことができる。さらに、この傾き直線によって、スライダ位置検出センサ、および、測定面位置検出センサによって検出されていない範囲の測定面のスライダ移動位置および測定面位置を算出することができるので、検出範囲に必ずしも揺動支点を含める必要はない。
【0020】
本発明の平行出し方法は、被測定物を載置する載置台と、被測定物に並列配置された移動案内体と、移動案内体の姿勢を揺動支点を基準に揺動調整する姿勢調整手段と、移動案内体に沿って移動可能に設けられたスライダと、スライダの移動案内体に沿うスライダ移動位置を検出するスライダ位置検出センサと、スライダに設けられ、被測定物の測定面の測定面位置を計測する測定面位置検出センサとを備えた平行出し装置を用いて、被測定物の測定面とスライダの移動方向の平行出しを行う平行出し方法であって、スライダを移動案内体に沿って移動させながら、スライダの各移動位置における、スライダ移動位置をスライダ位置検出センサで、測定面位置を測定面位置検出センサで検出し、スライダ移動位置および測定面位置を基に、スライダの移動方向を基準とする測定面の傾き直線を演算する傾き直線演算工程と、傾き直線から揺動支点における測定面の測定面位置を、調整基準値として算出し設定する基準値設定工程と、調整基準値、および、スライダの各移動位置において検出される測定面位置の差を調整量として算出する調整量算出工程と、調整量を表示する表示工程と、表示工程において表示された調整量に従って移動案内体の姿勢を調整する姿勢調整工程とを備えることを特徴とする。
【0021】
このような方法によれば、前述した平行出し装置で述べた効果と同様の効果を期待することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1〜図5には、本実施形態が示されている。
図1は、本実施形態の平行出し装置の機構部分を示す斜視図、図2は、図1の機構部分を示す正面図、図3は、平行出し装置の回路構成を示す図、図4は、平行出し方法の手順を示すフローチャート、図5は、平行出し装置による姿勢調整の原理を示す図である。
【0023】
図1〜図3に示すように、本実施形態の平行出し装置は、被測定物を載置する載置台1と、被測定物に並列配置された移動案内体2と、移動案内体2の姿勢を、揺動支点を基準に揺動調整する姿勢調整手段としての2本の支持脚3と、移動案内体2に、その長手方向(X軸方向)に移動可能に設けられたスライダ4と、スライダ4の移動案内体2に対するスライダ移動位置、つまり、X座標値Xを検出するスライダ位置検出センサとしての光電式リニアスケール5と、スライダ4に設けられ、被測定物の測定面W1の測定面位置、つまり、載置台1に対し垂直な方向(Y軸方向)のY座標値Yを計測する測定面位置検出センサとしてのセンサ6と、検出されたX,Y座標値X,Yを取り込み、これらを基に移動案内体2の姿勢を調整するための調整量Dを算出する演算制御手段7と、算出された調整量Dを表示するモニタ8とから構成されている。
【0024】
載置台1は、平面度の高い平面台であり、上面一端側に被測定物が載置される。
移動案内体2は、断面矩形状の長尺部材であり、載置台1の上面他端側に支持脚3を介して固定されている。
【0025】
支持脚3は、図2に示すように、移動案内体2の下面両端に1本ずつ取付けられた脚であり、左端側の位置Pに取付けられた調整脚31と、右端側の位置Qに取付けられた基準脚32とがある。
調整脚31は、Y軸方向に伸縮可能であり、円盤状の軸部で載置台1に固定されるねじ軸311と、ねじ軸311のねじ部に螺合され、移動案内体2を支持する筒脚312と、ねじ軸311のねじ部に螺合され、筒脚312へ向かって螺合回転させることによって、ねじ軸311と筒脚312を一体化させるクランプナット313とから構成される。つまり、調整脚31は、クランプナット313をゆるめ、ねじ軸311を回転させることによってY軸方向へ伸縮できる。
基準脚32は、載置台1に固定され、かつ、中心に支持軸321を有する盤状の脚プレート322と、支持軸321の先端に揺動軸323を支点としてY軸方向に揺動可能に支持され、かつ、上部が移動案内体2に接合された筒脚324とから構成されている。基準脚32は、Y軸方向へ伸縮を行わないので、移動案内体2の揺動支点Nとなる。
これらの構成により、調整脚31および基準脚32は、移動案内体2の姿勢を、揺動支点N(位置Q)を基準にしてY軸方向に変化させることができる。
【0026】
スライダ4は、移動案内体2の内部に内蔵されたX軸駆動手段41によって、移動案内体2に対し長手方向、つまり、X軸方向に沿って駆動される。
X軸駆動手段41は、図は省略するが、X軸方向に伸びる送りねじ軸と、この送りねじ軸に螺合され、かつ、スライダ4に結合された移動ナットと、送りねじ軸を回転させるモータとから構成される。なお、X軸駆動機構41は、これに限らず、リニアモータ等で構成してもよい。
【0027】
光電式リニアスケール5は、移動案内体2の一方の側面にX軸方向に沿って形成された光電式スケール51と、光電式スケール51に対向するスライダ4の内面に装着された検出器52とから構成される。
【0028】
センサ6は、一端がスライダ4の上面に固定され、X,Y軸方向と直交する方向(Z軸方向)に伸びる腕状のアーム61と、アーム61の他端に設けられたタッチプローブ62とから構成される。アーム61は、中央部に他端側をY軸方向に変位させることのできるヒンジ部を形成している。タッチプローブ62は、測定面W1に所定の測定圧を持って接触し、測定面W1のY座標値Yの検出を行う。
【0029】
演算制御手段7は、図3に示すように、演算を行うCPU71と、CPU71が算出した値を記憶するメモリ72とから構成されている。
CPU71には、X軸駆動手段41と、光電式リニアスケール5と、センサ6とともに、モニタ8と、指令信号や数値の入力手段であるキーボード73とが接続されている。
CPU71は、スライダ4の各移動位置において、光電式リニアスケール5およびセンサ6で検出されるX,Y座標値X,Yを取り込み、これらを基に、スライダ4の移動方向(X軸方向)を基準とする測定面W1の傾き直線Fを演算する傾き直線演算部と、傾き直線Fから予め定めた揺動支点NのY座標値Yを算出し、これを調整基準値Yとする基準値設定部と、調整基準値Y、および、センサ6によって検出されるY座標値Yの差を、調整量Dとして算出する調整量算出部とを備えている。
メモリ72は、CPU71の基準値設定部で算出された調整基準値Yを記憶する。
モニタ8は、スライダ4の各移動位置において、CPU71で算出された調整量Dを表示する。
【0030】
本実施形態の平行出し装置を用いて、測定面W1とスライダ4の移動方向の平行出しを行う平行出し方法の手順を、図1、図4および図5を用いて説明する。ここで、被測定物は直方体とし、測定面W1は平坦面とする。
まず、作業者は、図1のように、測定面W1を上面として、測定面W1の被測定方向がX軸方向と平行となるように、被測定物を載置台1に載置する。
センサ6のタッチプローブ62が、測定面W1に所定の測定圧で接触するように、アーム61の姿勢を手動で調節する。スライダ4は、移動案内体2のなるべく一端寄りに移動させておく。
キーボード73のスタートボタンを押して、CPU71に作業開始指令を入力する。
【0031】
すると、CPU71は、図4に示すフローチャートに従って処理を実行する。
ST1およびST2で、傾き直線演算工程を行う。
ST1で、X軸駆動手段41のモータを駆動させスライダ4を他端側へ移動させるとともに、一定間隔ごとに光電式リニアスケール5およびセンサ6によってスライダ4の各移動位置におけるX,Y座標値X,Yを取り込む。
【0032】
ST2で、ST1で検出した各移動位置でのX,Y座標値X,Yの分散を、最小二乗法を用いて1本の傾き直線Fに近似する。すると、傾き直線Fは、傾きをA、切片をBとして、
Y=AX+B
と表せる。この傾きAは、スライダ4の移動方向(X軸方向)を基準とする測定面W1の傾きを近似して表している。図5は、この傾き直線Fを、原点を光電式スケール51の零目盛、グラフの横軸をX軸、縦軸をY軸としたXY座標にプロットしたものである。図中の曲線Gは、ST1で検出されたX,Y座標値X,Yをそれぞれプロットし、連続するよう曲線で結んだものである。
【0033】
ST3〜ST5で、基準値設定工程を行う。
ST3で、前述のように、揺動支点Nは、移動案内体2の基準脚32が取付けられた位置Qである。この揺動支点NのY座標値Yは、ST3で演算した傾き直線Fから算出する。まず、作業者は、既知である揺動支点N(位置Q)のX座標値Xを、キーボード73から入力する。ここで、揺動支点N(位置Q)のX座標値Xが、既にメモリ72に記憶されている場合は、キーボード73からの入力は不要である。CPU71は、X座標値Xを確認すると、ST4へ進む。
【0034】
ST4で、CPU71は、ST3で入力された揺動支点NのX座標値Xを、傾き直線Fに代入する。すると、
=AX+B
の計算により、揺動支点Nにおける傾き直線F上のY座標値Yが算出される。このY座標値Yが、移動案内体2の姿勢を調整するための調整基準値Yとなる。
ST5で、ST4で算出した調整基準値Yを、本平行出し作業が終了するまでメモリ72で記憶する。
【0035】
ST6およびST7で、調整量算出工程を行う。
ST6で、スライダ4の現在の位置(任意の位置)Rで検出されるY座標値Yを取り込む。
【0036】
ST7で、メモリ72に記憶されていた調整基準値Yを呼び出し、この調整基準値Yと、取り込んだY座標値Yとの差Dを、
D=Y−Y
の計算で算出する。差Dは、移動案内体2の姿勢を調整するために、位置Rが必要とされるY軸方向の変位量、つまり、調整量Dを示す。
【0037】
ST8で、表示工程を行う。
ST8で、ST7で算出された調整量Dをモニタ8に送信し、モニタ8は調整量Dを表示する。
このようにして、調整量Dが算出され、作業者が確認しやすいようにモニタ8に表示される。また、光電式リニアスケール5およびセンサ6によってX,Y座標値X,Yが取り込まれるごとに、ST6〜ST8の作業が行われ、調整量Dが随時更新される。このST6〜ST8の作業は、平行出しが完了するまで繰り返される。
【0038】
ここで、作業者は、移動案内体2の姿勢の調整を行う。作業者は、モニタ8に表示される調整量Dの変動を見ながら、調整量Dが零に近づくまで、調整脚31のねじ軸311を操作し、調整脚31をY軸方向に伸縮させる。調整量Dが正のときは、移動案内体2の揺動支点Nとは反対側端部を、Y軸方向正の向きへ変位させ、調整量Dが負のときは、揺動支点Nとは反対側端部をY軸方向負の向きへ変位させる。このとき、スライダ4が位置Rから動いても、移動後の位置でモニタ8に表示される調整量Dを見ながら、調整脚の操作を続ければよい。
【0039】
調整量Dを零に可能な限り近づけると、ST9で被測定物の測定面W1とスライダ4の移動方向の平行出しが完了する。
【0040】
本実施形態によると、次のような効果を期待することができる。
(1)調整量Dは、調整基準値Y、およびセンサ6によって検出されるY座標値Yとの
差であるため、モニタ8に表示される調整量Dは、スライダ4の現在の位置RのX座標値X、および、移動案内体2の姿勢において、センサ6によって検出されるY座標値Yに連動している。そのため、移動案内体2の姿勢の変化推移を把握しながら、調整脚31の操作を行うことができる。
【0041】
(2)算出される調整量Dは、調整基準値Yと、センサ6によって検出されるY軸方向
位置Yとの差であるため、調整量Dは、スライダ4の現在の位置Rにおける調整量Dを示している。つまり、調整点は限定されず、調整作業中にスライダ4が移動しても、移動後の位置で表示される調整量Dに従って調整脚31を操作すればよいので、調整点を取り直す必要はなく、手間を少なくことができる。
(3)算出される調整量Dは、調整基準値Yと、センサ6によって検出されるY軸方向
位置Yとの差であるため、移動案内体2の姿勢を調整し、モニタ8に表示される調整量Dが零となれば、測定面W1とスライダ3の移動方向が平行関係となる。そのため、作業者は、平行出しの完了時が分かりやすい。
【0042】
(4)モニタ8に表示される調整量Dに従って、調整脚31を操作すればよいので、測
定および調整を何度も繰り返す必要はなく、手間を少なくことができる。
(5)モニタ8に表示される調整量Dを手がかりに、移動案内体2の姿勢を調整するこ
とができるので、調整脚31に目盛が形成されていなくてもよく、また、移動案内体2の姿勢の変化推移を読み取りやすく、操作ミスなども少なくすることができる。
(6)姿勢調整手段が移動案内体2を支持する支持脚3であり、調整脚31が、Y軸方
向に伸縮することにより、移動案内体2の姿勢を調整する機能も持つことから、移動案内体2に姿勢の変化を与えやすく、また、支持脚3の他に姿勢調整のための新たな構成を付加する必要はない。
【0043】
(7)調整脚31および基準脚32が、移動案内体2の両端に配置され、さらに、基準
脚32の位置Qは揺動支点Nであるので、基準脚32は伸縮させる必要はなく、また、揺動支点Nの位置の把握がしやすい。よって、調整脚31の操作のみで移動案内体2の姿勢を調整することができる。つまり、移動案内体2の姿勢の調整は、複数の構成の操作を必要としない。
(8)傾き直線演算工程で、スライダ4の各移動位置におけるX,Y座標値X,Yを基
に、最小二乗法を用いて傾き直線Fの演算を行うので、この傾き直線Fは、2点のX,Y座標値X,Yを結んだ直線よりも正確に、測定面W1の傾きAを表すことができる。これより、精度の高い平行出しを行うことができる。
【0044】
(9)スライダ4を移動させるとともに、スライダ4が一定間隔移動するごとにX,Y座標値X,Yを取り込むので、これらX,Y座標値X,Yを取り込むために光電式リニアスケール5およびセンサ6に送る検出値取込指令を、作業者がその都度入力しなくとも、自動的に取り込みが行われるので、作業中の手間を少なくすることができる。
(10)傾き直線Fによって、光電式リニアスケール5およびセンサ6によって検出されていない範囲の、測定面W1のX,Y座標値X,Yを求めることができるので、検出範囲に必ずしも揺動支点Nを含める必要はない。
【0045】
<変形例>
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、前記実施形態では、揺動支点Nは基準脚32の位置Qであったが、2本の支持脚3のいずれもがY軸方向に伸縮可能な機能、および、傾斜に対応する機能を持つならば、本発明では、調整脚31の位置Pを揺動支点Nとし、基準脚32をY軸方向に伸縮させて移動案内体2の姿勢の調整を行ってもよい。この場合では、ST3で、傾き直線Fに位置PのX座標値Xを代入する。また、支持脚3がこのような機能を持つならば、任意の位置Rを揺動支点Nとすることも可能である。
【0046】
前記実施形態では、調整脚31の伸縮するための構成は、前述の例に限らない。例えば、調整脚31に何らか駆動手段を接続し、調整脚31の伸縮が電動で行われるようにしてもよい。
前記実施形態では、傾き直線Fは、最小二乗法を用いて演算するとしたが、他の近似法を用いてもよい。
前記実施形態では、揺動支点NのX座標値Xは既知としたが、これが未知である場合は、スライダ4をその揺動支点Nへ移動させ、光電式リニアスケール5が検出するX座標値Xを、揺動支点NのX座標値Xとして用いればよい。
前実施形態では、傾き直線Fを求めるにあたって、X軸座標値XおよびY座標値Yの取り込みを、スライダ4が一定間隔移動するごとに行うようにしたが、この間隔は、必ずしも一定でなくてもよい。
【0047】
前記実施形態では、スライダ4の移動はX軸駆動手段41のモータによって行われるとしたが、歯車やハンドルなどを備えて手動によって移動させてもよい。
前記実施形態では、移動案内体2に姿勢調整手段を備え、移動案内体2の姿勢を調整することで測定面W1との平行出しを行うとしたが、本発明では、載置台1に被測定物の姿勢を調整する構成を付加し、測定面W1の姿勢を移動案内体2に対して調整することで、平行出しを行ってもよい。
【0048】
前記実施形態の光電式リニアスケール5およびセンサ6の構成は、前述の通りとは限らず、例えば静電式リニアスケールや、片手型のアームを持ち、プローブをY,Z軸方向にも駆動できるセンサなどを用いてもよい。
前記実施形態では、接触式のタッチプローブ62を用いたが、これに限らず、レーザ干渉式などの非接触式プローブを用いてもよい。
前記実施形態では、移動案内体2は、載置台1の上面に固定されているとしたが、載置台1に対し動かないように載置できればよく、載置台1から分離可能になっていてもよい。つまり、移動案内体2は、持ち運び可能で、被測定物と共に平坦な面に載置して使用するものであってもよい。
【0049】
前記実施形態では、被測定物は平坦な測定面W1を持つ直方体としたが、本発明は、例えば、被測定物が円柱など、測定面W1が曲面である場合にも適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、真直度測定機や形状測定機など、測定面の形状を評価する測定機を使用する際に、予めこれら被測定物の測定面と測定機の測定方向とが平行となるように、互いの姿勢を調整するための平行出しに利用できる他、切削、研削などの加工機械を使用する際に、予め行う平行出しにも利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の実施形態にかかる平行出し装置の機構部分を示す斜視図。
【図2】同上の実施形態にかかる平行出し装置の機構部分を示す正面図
【図3】同上の実施形態にかかる平行出し装置の回路構成を示す図。
【図4】同上の実施形態にかかる平行出し方法の手順を示すフローチャート。
【図5】同上の実施形態にかかる平行出し装置による姿勢調整の原理を示す図。
【符号の説明】
【0052】
1…載置台,2…移動案内体,3…支持脚,31…調整脚,32…基準脚,4…スライダ,5…光電式リニアスケール,6…センサ,7…演算制御手段,モニタ…8,N…揺動支点,W1…測定面,X…X座標値,Y…Y座標値,F…傾き直線,X…揺動支点のX座標値,Y…調整基準値,D…調整量,Q…基準脚が配置された位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定物を載置する載置台と、被測定物に並列配置された移動案内体と、この移動案内体の姿勢を揺動支点を基準に揺動調整する姿勢調整手段と、前記移動案内体に沿って移動可能に設けられたスライダと、このスライダの前記移動案内体に沿うスライダ移動位置を検出するスライダ位置検出センサと、前記スライダに設けられ、被測定物の測定面位置を計測する測定面位置検出センサとを備えた平行出し装置において、
前記スライダの各移動位置において、前記スライダ位置検出センサによって検出されるスライダ移動位置、および、前記測定面位置検出センサによって検出される測定面位置を取り込み、前記スライダ移動位置と前記測定面位置とを基に、前記スライダの移動方向を基準とする前記測定面の傾き直線を演算する傾き直線演算部と、
この傾き直線演算部によって求められた傾き直線から、前記揺動支点における前記測定面の測定面位置を調整基準値として算出し設定する調整基準値設定部と、
前記調整基準値、および、前記測定面位置検出センサによって検出される測定面位置の差を調整量として算出する調整量算出部と、
この調整量算出部によって算出された調整量を表示する表示手段とを備えたことを特徴とする平行出し装置。
【請求項2】
請求項1に記載の平行出し装置において、
前記姿勢調整手段は、前記移動案内体を支持する少なくとも1本以上の支持脚であり、
前記支持脚の少なくとも1本は、前記測定面に対してほぼ直交する方向へ伸縮可能な調整脚であることを特徴とする平行出し装置。
【請求項3】
請求項2に記載の平行出し装置において、
前記支持脚は、前記スライダの移動方向に沿って前記移動案内体の両端に2本配置され、これら2本の前記支持脚のうち一方は前記調整脚であり、他方は前記揺動支点に配置された基準脚であることを特徴とする平行出し装置。
【請求項4】
請求項1に記載の平行出し装置において、
前記傾き直線演算部は、前記スライダが前記移動案内体に沿って移動する際に、前記スライダ位置検出センサによって検出されるスライダ移動位置、および、前記測定面位置検出センサによって検出される測定面位置を一定間隔ごとに取り込み、前記スライダ移動位置および前記測定面位置から、最小二乗法を用いて傾き直線の演算を行うことを特徴とする平行出し装置。
【請求項5】
被測定物を載置する載置台と、被測定物に並列配置された移動案内体と、前記移動案内体の姿勢を揺動支点を基準に揺動調整する姿勢調整手段と、前記移動案内体に沿って移動可能に設けられたスライダと、前記スライダの前記移動案内体に沿うスライダ移動位置を検出するスライダ位置検出センサと、前記スライダに設けられ、被測定物の測定面の測定面位置を計測する測定面位置検出センサとを備えた平行出し装置を用いて、被測定物の測定面と前記スライダの移動方向の平行出しを行う平行出し方法であって、
前記スライダを前記移動案内体に沿って移動させながら、前記スライダの各移動位置における、前記スライダ移動位置を前記スライダ位置検出センサで、前記測定面位置を前記測定面位置検出センサで検出し、前記スライダ移動位置および前記測定面位置を基に、前記スライダの移動方向を基準とする前記測定面の傾き直線を演算する傾き直線演算工程と、
前記傾き直線から前記揺動支点における前記測定面の測定面位置を、調整基準値として算出し設定する基準値設定工程と、
前記調整基準値、および、前記スライダの各移動位置において検出される測定面位置の差を調整量として算出する調整量算出工程と、
前記調整量を表示する表示工程と、
前記表示工程において表示された調整量に従って前記移動案内体の姿勢を調整する姿勢調整工程とを備えることを特徴とする平行出し方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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