説明

床構造

【課題】床重量をアップさせることなく、良好に重量床衝撃音を低減できるようにした床構造を提供する。
【解決手段】縦梁1a、1bと横梁1c、1dにより矩形に組まれた梁1と、対向配置された横梁1c、1dに両端が連結固定されて並列状に配置され梁1とともに上階の床を支持する複数本の床根太2、…、2とを有する床構造において、床根太2、…、2の側面に、それぞれゴム弾性体33a及びマス部材33bからなる3個のダイナミックダンパ33、33、33を有する制振装置3、…、3を設置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば一般住宅や集合住宅(アパート、マンション)等の建築構造物の床構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般住宅等においては、床に飛び跳ねや踏み台からの降下等による衝撃が加わると振動が発生し、その振動が不快音や不快震動等の原因となることから問題となる。特に、複数階建ての戸建住宅や集合住宅等においては、居室や廊下の床に発生する振動や衝撃音が階下に直接的に伝搬されるため、階下の住人にとっては甚だしい騒音となる場合がある。
【0003】
そこで、一般住宅等の床に発生する振動や衝撃音を抑制するために、従来より種々の対策が講じられており、例えば特許文献1〜4に開示された床構造が知られている。特許文献1には、根太上に床材として張設される二層の合板の間に石膏ボードを張設することにより、防耐火性能及び遮音性能の向上を図った床構造が開示されている。
【0004】
また、特許文献2及び3には、床根太上に配設される床下地板と床仕上げ板との間に緩衝シート材や制振シート等の遮音シートを介在させることにより、防音効果や軽量床衝撃音遮断性能の向上を図った床構造が開示されている。さらに、特許文献3及び4には、根太の下側に多孔板を配設し、根太の上側に床下地材を配設して中空部を形成し、その中空部に吸音材を設けることにより、軽量床衝撃音遮断性能の向上を図った床構造が開示されている。
【0005】
ところで、建築構造物の床の遮音性能は、JIS・A1418−2「建築物の床衝撃音遮断性能の測定方法・第2部:標準重量衝撃源による方法」に基づいて一般に評価されている。この評価において、上記特許文献1〜3のように石膏ボードや遮音シートを敷設した場合や、上記特許文献3及び4のように吸音材を設けた場合の遮音性能は、重量床衝撃音(63Hz帯域)のレベル等級がLH70程度となっている。したがって、石膏ボードや遮音シート或いは吸音材等を設けることによって、重量床衝撃音を良好に低減させることは困難である。
【0006】
なお、床の遮音性能を向上させる方策としては、床重量を重くする方法が有効である。しかし、この方法を採用する場合には、床重量がアップするのに伴い、躯体や基礎を大きくしたり頑強に補強する必要があるため、建築構造物の基本構造の変更やコストアップを招くこととなる。そのため、床重量を重くする方法には限界がある。
【特許文献1】特開平6−57861号公報
【特許文献2】特開平6−322951号公報
【特許文献3】特開2001−132151号公報
【特許文献4】特開平11−81537号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、床重量をアップさせることなく、良好に重量床衝撃音を低減できるようにした床構造を提供することを解決すべき課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明は、対向配置された梁に両端が連結固定されて並列状に配置され前記梁とともに上階の床を支持する床根太を有する床構造において、前記床根太の複数箇所に、ばね部材及びマス部材からなるダイナミックダンパが設置されていることを特徴としている。
【0009】
本発明の床構造では、上階の床に、飛び跳ねや踏み台からの下降等による衝撃が加わって振動や衝撃音が発生すると、その振動や衝撃音が床を支持する床根太に伝達されることにより、床根太も振動する。このとき、床根太に設置されたダイナミックダンパが床根太等と共振することによって、床の振動が効果的に減衰され、下階へ伝播される重量床衝撃音が効果的に低減される。これにより、本発明の床構造では、ダイナミックダンパが床根太の複数箇所に設置されているので、床重量をアップさせることなく、良好に重量床衝撃音を低減させることが可能となる。
【0010】
本発明において用いられるダイナミックダンパは、基部に固着されたばね部材と該ばね部材に弾性支持されたマス部材とからなるものである。このダイナミックダンパは、床根太の側面の複数箇所に略均等に分散した状態に設置されるのが好ましく、1箇所に1個以上のダイナミックダンパが設置される。1箇所に複数個のダイナミックダンパを設置する場合には、複数個のダイナミックダンパを有する1個の制振装置を1箇所に設置するようにしてもよい。このような制振装置を採用する場合には、複数個のダイナミックダンパにより複数種類の共振周波数を有するようにチューニングすることができる。
【0011】
ダイナミックダンパの共振周波数は、梁や床根太上に配設される床の固有値(振動卓越周波数)に合わせて、63Hz帯域(45〜90Hz)の範囲にチューニングされているのが好ましい。このようにすれば、ダイナミックダンパを効果的に機能させることができるので、より良好な重量床衝撃音の低減が期待できる。なお、1箇所以上の設置個所でダイナミックダンパの共振周波数が異なるようにチューニングすることによって、床固有値(床の振動卓越周波数)の上下の範囲で複数種類の共振周波数を有するように設定することができる。このようにすれば、振動低減を目的とする周波数に幅をもたせることができるので、構造物件の違い等による天井固有値のバラツキを吸収することが可能となり、ダイナミックダンパの振動低減機能をより確実に発揮させることができる。
【0012】
ダイナミックダンパの振動低減効果をより良好に発揮させるためには、ダイナミックダンパのマス部材の総合質量が、床材の総合質量の2〜25%とされているのが好ましい。マス部材の総合質量が床材の総合質量の2%未満であると、ダイナミックダンパによる十分なダンパ効果を期待できなくなる。逆に、マス部材の総合質量が床材の総合質量の25%を越えると、躯体や基礎を大きくしたり頑強に補強する必要があり、建築構造物の基本構造の変更やコストアップを招くこととなる。
【0013】
また、ダイナミックダンパの1個のマス部材の質量は、床材の総合質量の0.05〜1.0%とされているのが好ましい。1個のマス部材の質量が床材の総合質量の0.05%未満であると、ダイナミックダンパによる十分なダンパ効果を期待できなくなる。逆に、1個のマス部材の質量が床材の総合質量の1.0%を越えると、マス部材の揺れが少なくなり、ダイナミックダンパによるダンパ効果が期待できなくなる。
【0014】
本発明において、ダイナミックダンパが設置される床根太は、対向配置された梁に両端が連結固定されて並列状に配置され、梁とともに上階の床を支持するものである。一般的な床構造では、床根太に下階の天井材が直接取付けられるが、吊り天井方式の床構造の場合には、下階の天井材を支持する天井根太が、床根太とは別個に設けられ、隣り合う床根太の間に配置される。この場合、ダイナミックダンパは、隣り合う床根太と、その隣り合う床根太の間に配置された天井根太との間に形成される空間内で、床根太に取付けられる。なお、床根太は、木製や金属製のものなど従来より使用されているものを採用することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の床構造は、梁とともに上階の床を支持する床根太の複数箇所に、ばね部材及びマス部材からなるダイナミックダンパが設置されているため、石膏ボードや遮音シート等では低減できなかった重量床衝撃音を、床重量をアップさせることなく、良好に低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は本実施形態に係る床構造の平面図であって床が配設されていない状態で上階から見下ろした状態を示す図であり、図2はその床構造の断面図であって図1のII−II線矢視断面図であり、図3は床根太にダイナミックダンパが取付けられた状態を示す平面図であり、図4は図3におけるIV−IV線矢視断面図であり、図5は図3において矢印A方向から見た側面図である。
【0017】
本実施形態の床構造は、図1及び図2に示すように、矩形に組まれた梁1と、梁1に両端が連結固定されて並列状に配置された複数の床根太2、…、2と、床根太2、…、2の側面に取付けられそれぞれ3個のダイナミックダンパ33、33、33を有する制振装置3、…、3と、から構成されている。
【0018】
梁1は、木材が採用されており、2本の縦梁1a、1bと、その縦梁1a、1bの両端どうしを結ぶ2本の横梁1c、1dとにより矩形に組まれている。縦梁1a、1bの芯−芯間寸法と横梁1c、1dの芯−芯間寸法は、いずれも3600mmとされている。
【0019】
床根太2、…、2は、本実施形態では木製のものが7本採用されており、対向配置された横梁1c、1dに両端が連結固定されて並列状に配置されている。各床根太2、…、2の芯−芯間寸法は450mmとされている。これら床根太2、…、2は、上階の床材4を梁1とともに支持し、下階の天井材5を梁1とともに支持している。
【0020】
制振装置3、…、3は、図3〜図5に示すように、床根太2の側面にビス止めされる取付金具31と、取付金具31にボルト31aで固定された3個の取付基部32、32、32と、各取付基部32、32、32にそれぞれ設置された3個のダイナミックダンパ33、33、33とから構成されている。各ダイナミックダンパ33は、取付基部32に固着されたゴム弾性体(ばね部材)33aと、ゴム弾性体33aに固着されて剪断方向に弾性支持された鉄系金属製のマス部材33bとからなる。これらダイナミックダンパ33、33、33の共振周波数は、床の固有値(振動卓越周波数)に合わせて、63Hz帯域(45〜90Hz)の範囲にチューニングされており、床固有値(床の振動卓越周波数)の上下の範囲で複数種類の共振周波数を有するように設定されている。
【0021】
また、ダイナミックダンパ33、…、33のマス部材33b、…、33bの総合質量は、床材4の総合質量の11%とされており、2〜25%の好ましい範囲内である。また、各ダイナミックダンパ33の各マス部材33bの1個の質量は、床材4の総合質量の0.075%とされており、0.05〜1.0%の好ましい範囲内である。
【0022】
これら制振装置3、…、3は、図1に示すように、7本の床根太2、…、2のうちの奇数番目に位置する4本の床根太2、…、2の両側面に取付けられ、長手方向において450mmの距離を隔てた4箇所づつに設置されている。即ち、2本の縦梁1a、1bと2本の横梁1c、1dにより矩形に組まれた梁伏内を16分割して、それぞれの分割区画の略中央部に制振装置3が2個づつ設置されている。
【0023】
以上のように構成された本実施形態の床構造では、上階の床に、飛び跳ねや踏み台からの下降等による衝撃が加わって振動や衝撃音が発生すると、その振動や衝撃音が床材4を支持する床根太2、…、2に伝達されることにより、床根太2、…、2も振動する。このとき、床根太2、…、2に設置された制振装置3、…、3のダイナミックダンパ33、…、33が床根太2、…、2等と共振することによって、床の振動が効果的に減衰され、下階へ伝播される重量床衝撃音(63Hz帯域)が効果的に低減される。
【0024】
以上のように、本実施形態の床構造によれば、床材4を支持する床根太2、…、2の複数箇所に、3個のダイナミックダンパ33、33、33を有する制振装置3、…、3が上記のように設置されているので、床重量をアップさせることなく、良好に重量床衝撃音を低減させることが可能となる。
【0025】
また、本実施形態においては、制振装置3、…、3のダイナミックダンパ33、…、33の共振周波数が床固有値に合わせてチューニングされているため、ダイナミックダンパ33、…、33を効果的に機能させることができるので、より良好な重量床衝撃音の低減が可能となる。さらには、ダイナミックダンパ33、…、33の共振周波数が床固有値(床の振動卓越周波数)の上下の範囲で複数種類の共振周波数を有するようにチューニングされていることから、更に低減可能な周波数領域が広がるので、全体的に遮音性能を向上させることができる。
【0026】
また、これらのダイナミックダンパ33、…、33は、マス部材33b、…、33bの総合質量や各マス部材33bの1個の質量が、床材4の総合質量に対する最適な割合に設定されていることによっても、ダイナミックダンパを効果的に機能させることができる。
【0027】
また、本実施形態の床構造は、ダイナミックダンパ33、…、33が床根太2、…、2の側面に取付けられていることから、隣り合う床根太2、2の間に、断熱材や吸音材等の配置スペースを確保することができる。
【0028】
なお、上記実施形態の床構造は、床材4と天井材5の両方を床根太2、…、2で支持するように構成されているが、例えば図6に示すように、下階の天井材5を支持する天井根太6、…、6が床根太2、…、2と別個に設けられる吊り天井方式の床構造の場合でも、ダイナミックダンパ33、…、33を有する制振装置3、…、3は床根太2、…、2に取付けられる。この場合、各天井根太6、…、6は、隣り合う床根太2、2の間に配置され、隣り合う床根太2、2とこれらの間に配置された天井根太6との間に形成される空間内にダイナミックダンパ33、33、33が設置される。これにより、その空間内には、断熱材7や吸音材等の配置スペースが確保される。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施形態に係る床構造の平面図であって床が配設されていない状態で上階から見下ろした状態を示す図である。
【図2】本発明の実施形態に係る床構造の断面図であって図1のII−II線矢視断面図である。
【図3】本発明の実施形態に係る床構造において床根太にダイナミックダンパが取付けられた状態を示す平面図である。
【図4】図3におけるIV−IV線矢視断面図である。
【図5】図3において矢印A方向から見た側面図である。
【図6】本発明の他の実施形態に係る床構造の断面図である。
【符号の説明】
【0030】
1…梁 1a、1b…縦梁 1c、1d…横梁 2…床根太
3…制振装置 4…床材 5…天井材 6…天井根太 7…断熱材
31…取付金具 31a…ボルト 32…取付基部
33…ダイナミックダンパ 33a…ゴム弾性体 33b…マス部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向配置された梁に両端が連結固定されて並列状に配置され前記梁とともに上階の床を支持する床根太を有する床構造において、
前記床根太の複数箇所に、ばね部材及びマス部材からなるダイナミックダンパが設置されていることを特徴とする床構造。
【請求項2】
前記ダイナミックダンパは、前記床根太の側面に取付けられている請求項1に記載の床構造。
【請求項3】
前記ダイナミックダンパは、隣り合う前記床根太と、その隣り合う前記床根太の間に配置されて天井を支持する天井根太との間に形成される空間内に設置されている請求項1又は2に記載の床構造。
【請求項4】
前記ダイナミックダンパは、1箇所に1個以上設置されている請求項1〜3に記載の床構造。
【請求項5】
前記ダイナミックダンパは、床固有値の上下の範囲で複数種類の共振周波数を有するようにチューニングされている請求項1〜4に記載の床構造。
【請求項6】
前記ダイナミックダンパは、1箇所以上の設置箇所で共振周波数が異なるようにチューニングされている請求項1〜5に記載の床構造。
【請求項7】
前記ダイナミックダンパの前記マス部材の総合質量は、床材の総合質量の2〜25%である請求項1〜6に記載の床構造。
【請求項8】
前記ダイナミックダンパの1個の前記マス部材の質量は、床材の総合質量の0.05〜1.0%である請求項1〜7に記載の床構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−70494(P2006−70494A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−252680(P2004−252680)
【出願日】平成16年8月31日(2004.8.31)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】