説明

廃棄物を溶融処理するための電気炉用電極及び廃棄物の溶融処理方法

【課題】廃棄物の電気炉による溶融処理において、処理効率を高く維持することを可能にする黒鉛電極及びその使用方法を提供する。
【解決手段】黒鉛電極ポール3からなる電気炉用電極2であって、該黒鉛電極ポール3が中空部分7と、該中空部分7と該黒鉛電極ポール3の外部とを連絡する圧抜き孔9とを有することを特徴とする電気炉用電極。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は廃棄物を溶融処理するための電気炉用電極及びそれを用いた廃棄物の溶融処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般廃棄物、産業廃棄物等の各種廃棄物は、一般的には焼却処理され、その際に生じる無機化合物を主成分とする焼却残さ(焼却灰)は埋め立て処分されている。しかし、近年では、埋め立て処分場の確保が困難であるという問題や、埋め立て処分時又は処分後に有害物質を含む焼却灰が飛散、流出、浸出等することによって引き起こされる環境汚染の問題が懸念されている。
これらの問題に対応して、廃棄物を電気炉で溶融固化する技術が知られている(例えば、特許文献1)。この技術で生ずる溶融固化物(スラグ)は、従来の焼却処理で生ずる焼却灰と比較して無害化かつ減容化されており、資材としてリサイクルもされている。また、この技術は、重金属やダイオキシン等の有害物質を含む汚染土壌を無害化するためにも使用されている。
【0003】
電気炉を用いた溶融固化とは、被溶融物(廃棄物)中へ没入させた黒鉛電極から当該被溶融物へ電力を負荷し、その際に被溶融物の電気抵抗により発生するジュール熱で被溶融物を加熱(電気抵抗加熱)して溶融させ、その後、炉底に蓄積した溶融物(比重差により溶融スラグ(上部)と溶融金属(下部)とに分離する)を炉外へ取り出して固化する方法である。
廃棄物の溶融処理を行う電気炉用の電極としては、製鉄用電気炉向けに開発されたものをそのまま使用しているのが現状である。現在使用されている電極は、複数の黒鉛電極ポールと当該ポール相互を接続するニップルとから構成される。
これら従来の電極ポールは中実構造を有している。中実構造の電極ポールには測温プローブ挿入用の孔(孔径15mm以下)が施されることがある。しかしながら、中空構造を有する電極ポールは使用されていない。
【0004】
【特許文献1】特開昭55−67396号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
被溶融物を安定かつ効率的に溶融するためには、被溶融物への電力負荷を最大化かつ安定化することが重要である。そのために、電極の被溶融物への没入深さを大きくすることにより当該電極と被溶融物との接触面積を広く(すなわち、電極−被溶融物間の電気抵抗を小さく)して被溶融物中を流れる電流を多くし、かつ、電気設備の調整範囲内で最大の電圧を負荷することにより電極から被溶融物へ電力負荷を高く維持することが行われている。
しかしながら、溶融処理の際には黒鉛電極ポールの「先細り」現象が起こる。具体的には、黒鉛電極ポールは溶融スラグとの接触面付近において損耗(この損耗は、被溶融物中に含まれるFeO等の金属酸化物が電極を構成するCと反応して電極表面を侵食し、この浸食面が高温下での溶融スラグの流動により更に洗われることによって起こる)を起こすところ、溶融処理の進行(溶融スラグの蓄積)による電極の被溶融物への没入深さの増大に伴い黒鉛電極ポールはその先端部から円柱状に先細りする。黒鉛電極ポールが先細りすると、当該電極と被溶融物との接触面積が小さくなり電極−被溶融物間の電気抵抗が大きくなるので、被溶融物中を流れる電流が減少し、結果として被溶融物への電力負荷が低下する(電気設備の制約上、供給電圧には上限がある)。電力負荷が低下すると電気抵抗加熱を十分に行えなくなるので、被溶融物の溶融効率が低下する。また、電極と被溶融物との接触面積を拡大しようとして電極の没入量を大きくすると、先細りした黒鉛電極ポールの先端が溶融金属と接触してショート(短絡)を起こす危険性がある。
【0006】
黒鉛電極ポールの先細りに対処するために、電極材料を緻密な材質とすること等の試みがなされたが満足のいくものではなかった。
このような状況下、被溶融物の溶融効率を回復させるために、電気炉の操業を停止して電極を電気炉から取り出し、先細りした黒鉛電極ポール部分を切断するという作業が定期的に行われているが、これは設備稼働率の低下につながる。
したがって、本発明は、廃棄物の電気炉による溶融処理において、処理効率を高く維持することを可能にする電気炉用電極を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、黒鉛電極ポールの先細り現象について詳細に検討したところ、中実構造の電極ポールと比較して、中空構造を有する電極ポールでは先細り部分が生じにくいことを見いだした。
そこで本発明者らは、黒鉛電極ポールの中空構造と先細り現象に伴う電力負荷低下との関係について更に検討を進めたところ、所定の中空構造を黒鉛電極ポールに設けることにより、電力負荷低下をもたらす先細り部分の発生を抑制して、電力負荷を一定レベルに維持できることを見いだした。本発明はこの知見に基づいてなされたものである。
【0008】
すなわち、本発明は、
(1)黒鉛電極ポール3からなる電気炉用電極であって、該黒鉛電極ポール3が中空部分7と、該中空部分7と該黒鉛電極ポール3の外部とを連絡する圧抜き孔9とを有することを特徴とする電気炉用電極、並びに、
(2)前記(1)記載の電気炉用電極を備えた電気炉中で廃棄物を電気抵抗加熱して溶融させることを特徴とする、廃棄物の溶融処理方法
に関するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の電気炉用電極は、後述する実施例で示されるように、廃棄物の電気炉による溶融処理において従来の黒鉛電極ポール(中実構造)で生じていた先細り現象による問題の発生を回避し、電気炉設備を停止させることなく安定して連続操業を行うことができ、結果として処理効率を高く維持することができる。したがって、本発明により、環境への負荷の少ない廃棄物の溶融処理をより効率的に行うことが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1a及び図1bは、本発明の電極を用いた電気炉の縦断面図である(図1a:溶融処理前の電気炉;図1b:溶融処理中の電気炉)。電気炉は廃棄物の溶融処理に用いられる。電気炉は、発熱方式として電気抵抗加熱を利用する抵抗炉である。
電気炉1は、密閉型で、ほぼ円筒状の容器の形態をしている。電気炉1には、上蓋を通して3本の電極2と、4本の被溶融物供給装置5とが設けられている。電極2は、それぞれ、被溶融物層6へ没入される。溶融処理中、被溶融物層6は未溶融層6aと溶融スラグ層6bと溶融金属層6cとに分かれるが、その際、電極2は未溶融層6a又は溶融スラグ層6bに先端が没入した状態(但し、溶融金属層6cには接触しない状態)で保持される。被溶融物供給装置5は、溶融処理中に未溶融層6a上に被溶融物を連続的に供給するように、上端に設けられたホッパ切出装置5aと、その下に設けられたシュート5bとから形成されている。図1c(電気炉1の横断面図)に、電極2とシュート5bとの配置を示す。また、電気炉1の下部の側壁には溶融金属層6cから溶融金属を取り出すための溶融金属取出し口8が設けられ、その反対側の側壁には、溶融金属取出し口8よりも高い位置に溶融スラグ層6bから溶融スラグを取り出すための溶融スラグ取出し口10が設けられている。更に、電気炉1の上蓋端部には、溶融処理で生成した気体を取り出すためのガス取出し口12が設けられている。
本発明の電極2を用いた電気炉1で溶融処理できる廃棄物は、無機化合物を主成分とする廃棄物である。具体的には、一般廃棄物、産業廃棄物、特別管理産業廃棄物及び汚染土壌等が挙げられる。
一般廃棄物の具体例としては、焼却灰及びばいじん、破砕残渣、不燃残渣、し尿焼却残渣並びに汚泥等が挙げられる。
産業廃棄物の具体例としては、がれき類、ガラスくず及び陶磁器くず、金属くず、汚泥、鉱さい、燃え殻並びにばいじん等が挙げられる。
特別管理産業廃棄物の具体例としては、汚泥、鉱さい、燃え殻、ばいじん及び廃石綿等が挙げられる。
汚染土壌の具体例としては、ダイオキシン汚染土や埋立処分場掘起こし物等が挙げられる。
【0011】
溶融固化処理を、例示としての図1a(溶融処理前の電気炉)及び1b(溶融処理中の電気炉)に基づいて説明する。
被溶融物層6へ電極2を没入した後に電力を負荷して溶融処理を開始する。電力負荷量は、最適な溶融処理を許容する電極−被溶融物間の電気抵抗値を維持するように制御する。
溶融処理は、還元剤(例えば、整粒した石炭、コークス、カーボン、グラファイト等)や溶融物の融点を下げるための添加剤(整粒した石灰石、生石灰等)の存在下で行うこともできる。
溶融処理中、被溶融物層6は未溶融層6aと溶融スラグ層6bと溶融金属層6cとに分離した状態になるが、その際の電極2の没入深さは、電極の先端部が未溶融層6a又は溶融スラグ層6bに没入した状態(但し、溶融金属層6cには接触しない状態)であり、かつ、電気抵抗値が設定値(最適な溶融処理を許容する値)となるように没入深さを制御する。
没入深さの制御について、電極が消耗し短くなると電気抵抗が上昇するので、あらかじめ設定された電気抵抗値への上昇が起きたときに電極の没入操作を行う。先端部が消耗して短くなった電極2は、その後端部から黒鉛電極ポールとニップルとを用いて継ぎ足す。
溶融スラグ層6bの溶融スラグは溶融スラグ取出し口10から炉外へ取り出して固化させる。
溶融金属層6cの溶融金属は溶融金属取出し口8から炉外へ取り出して固化させる。
溶融処理時に発生した揮発性の低融点有害物質(鉛や亜鉛等)は、ガス取出し口12より排出してガス洗浄装置で処理する。
被溶融物の炉内への供給及び電力負荷をそれぞれ連続的に行い、その際、電極2は短くなった時点で継ぎ足しを行うことにより、電気炉を連続稼働させる。
【0012】
ここで、溶融処理の進行に伴う電極2の変化及び電極2の没入の過程を、図2a〜2dを用いて詳述する。
図2aは、溶融処理開始時の電極2を示している。電極2は、1本の黒鉛電極ポール3αと、1個のニップル4αとから構成されている。電極2は被溶融物層6へ没入している。
溶融処理が進行すると、被溶融物層6は未溶融層6aと溶融スラグ層6bと溶融金属層6cに分離する。被溶融物に没入している電極部分では、その先端部から円錐状に損耗が起こる(図2b)。
溶融処理が進行すると、黒鉛電極ポール3α先端部での更なる損耗(先細り部の完全損耗及び/又は損耗部の自然脱落を含む)が起こる(図2c)。中空構造を採用する本発明の黒鉛電極ポール3では上述の損耗が中実構造の黒鉛電極ポールよりも早期に起こる。黒鉛電極ポール先端部の損耗が早期に起こることにより、電力負荷低下をもたらす先細り部分の発生が抑制(換言すれば、黒鉛電極ポールと被溶融物との接触面積の低下が抑制)されるので、電力負荷を一定レベルに維持できる。
上述の黒鉛電極ポール先端部の損耗の更なる進行による電力負荷低下が起こる前に、黒鉛電極ポール3αを未溶融層6aと溶融スラグ層6bへ更に没入させ、かつ、黒鉛電極ポール3αの末端へ新たに黒鉛電極ポール3βを継ぎ足す。これにより、電気炉を連続稼働させる(図2d)。
【0013】
溶融スラグを固化して生じたスラグは重金属やダイオキシン等の有害物質を含んでいないので資材としてリサイクルすることができる。具体的には、路盤材、護岸材及び舗装材等に用いることができる。
溶融金属を固化して生じた金属は、金属原料としてリサイクルすることができる。
【0014】
本発明の電気炉用電極2は黒鉛電極ポール3から構成される。
図3a〜3bは、例示としての黒鉛電極ポール3の断面図を示している。
黒鉛電極ポールの材料としては、電気炉用電極の材料として一般的に用いられている黒鉛を特に制限なく使用することができる。
尚、電気炉用電極材料の代表特性としては、かさ比重、固有抵抗、ヤング率、曲げ強さ、熱膨張係数、灰分量が挙げられる。
かさ比重は、一般的には1.5〜1.8g/cm3、好ましくは1.5〜1.7g/cm3、特に好ましくは1.5〜1.6g/cm3である。かさ比重は、JIS R 7222−7にしたがい測定することができる。
固有抵抗は、一般的には3.5〜10μΩm、好ましくは5.5〜10μΩm、特に好ましくは8.5〜9.0μΩmである。固有抵抗は、JIS R 7222−12にしたがい測定することができる。
ヤング率は、一般的には8〜16kN/mm2、好ましくは8〜12kN/mm2、特に好ましくは9〜12kN/mm2である。ヤング率は、JIS R 7222−11にしたがい測定することができる。
曲げ強さは、一般的には700〜1400N/cm2、好ましくは700〜1000N/cm2、特に好ましくは700〜900N/cm2である。曲げ強さは、JIS R 7222−8にしたがい測定することができる。
熱膨張係数は、一般的には0.8〜3.0×10-6/℃、好ましくは2.2〜3.0×10-6/℃、特に好ましくは2.4〜3.0×10-6/℃である。熱膨張係数は、JIS R 7212−6.1.6にしたがい測定することができる。
灰分量は、一般的には0.5%以下である。灰分量は、JIS R 7212−6.2.3にしたがい測定することができる。
【0015】
黒鉛電極ポール3の形状は、当該ポールの断面(A−A断面)の円の直径がその長さ方向にわたって変化しない(一定である)円柱形である(図3a)。
【0016】
黒鉛電極ポール3の端部には、ニップルの雄ネジ部と螺合する雌ネジ部3aが設けることが好ましい。雌ネジ部3aはニップル4の雄ネジ部4aと螺合して、黒鉛電極ポール3を互いに接続する。ニップル4を介して黒鉛電極ポール3を接続することにより電気炉内へ黒鉛電極ポールを常に供給して電気炉を連続稼働させることができる。雌ネジ部の材質は電極ポールと同じ黒鉛である。
本発明の電極は、黒鉛電極ポールとして、両端部に雌ネジ部3aを設けた黒鉛電極ポール3(図3a)のみから構成してもよい。また、電気炉用電極2の先端部に、一方の端部にのみ雌ネジ部3aを設けた黒鉛電極ポール3を用いてもよい(図3b)。
【0017】
黒鉛電極ポール3は中空部分7を有している。
中空部分7の形状は、当該ポールの断面(A−A断面)の円の直径がその長さ方向にわたって変化しない(一定である)円柱形である(図3a)。中空部分7を円柱形とすることにより、溶融処理時に黒鉛電極ポール3の先端部を均一に損耗させ、電力負荷低下をもたらす先細り部分の発生を抑制することができる。
【0018】
黒鉛電極ポール3の直径(D1)と中空部分7の直径(D2)とがD2≦0.65D1、好ましくはD2≦0.35D1、特に好ましくはD2≦0.30D1の関係を満たしていることが好ましい。黒鉛電極ポール3の直径(D1)とは、垂直断面である円形面の直径をいい、中空部分7の直径(D2)とは垂直断面である円形面の直径をいう(図3a)。黒鉛電極ポール3の直径(D1)と中空部分7の直径(D2)とがD2≦0.65D1であると、溶融処理時に黒鉛電極ポール3の先端部を早期に損耗させ、電力負荷低下をもたらす先細り部分の発生を抑制することができるとともに電力負荷を効率良く供給し効率的な溶融処理を行うことができる。
【0019】
また、中空部分7の直径(D2)は15mmより大きく、かつ、前述のD2≦0.65D1の関係を満たすことが好ましい。中空部分7の直径(D2)が15mmより大きく、かつ、前述のD2≦0.65D1の関係を満たすと、効率的な溶融処理をもたらす電力負荷を供給しつつ、溶融処理時に黒鉛電極ポール3の先端部を早期に損耗させ、電力負荷低下をもたらす先細り部分の発生を抑制することができる。
【0020】
黒鉛電極ポール3は、中空部分7と黒鉛電極ポール3の外部とを連絡する圧抜き孔9を有している。圧抜き孔9は、溶融処理時に膨張した中空部分7に存在する気体(空気)を黒鉛電極ポール3の外へ逃がすことにより、当該黒鉛電極ポール3の破損を防ぐことができる
圧抜き孔9の断面形状は特に限定されるものではないが、圧抜き孔形成の容易性の点で円形が好ましい。
断面形状が円形である圧抜き孔9の孔径は、中空部分7に存在する気体を黒鉛電極ポール3の外へ逃すことができる大きさであれば特に限定されるものではないが、例えば5〜20mm、好ましくは5〜15mm、特に好ましくは9〜11mmである。
黒鉛電極ポール3における圧抜き孔9の位置について、中空部分7に存在する気体を黒鉛電極ポール3の外へ逃すことができる位置であれば特に制限されるものでなく、黒鉛電極ポール3の任意の位置に圧抜き孔9を設けることができる。好ましくは、圧抜き孔9が被溶融物に長期間浸かることを防止して圧抜きを確実に行うために、黒鉛電極ポール3の端部(没入方向から遠い端部)に圧抜き孔9を設ける。
黒鉛電極ポール3における圧抜き孔9の数について、中空部分7に存在する気体を黒鉛電極ポール3の外へ逃すことができる数であれば特に制限されない。図5aの黒鉛電極ポール3には2つの圧抜き孔9が設けられている。
【0021】
黒鉛電極ポール3は、前述の黒鉛材料を用い、一般的な電気炉用電極の製造方法(例えば、原料(石油コークス及びピッチコークス)を粉砕し、分級してピツチと混合する工程→押出成型工程→焼成工程→加工工程)にしたがい製造することができる。
中空部分7及び圧抜き孔9は、上述の加工工程の間にドリルを用いた穴繰加工を行うことにより設けることができる。
【0022】
中空部分7には黒鉛より電気抵抗が大きくかつ融点が低い性質を有する黒鉛以外の物質を充填してもよい。充填物質の具体例としてはロックウールやガラスウール等が挙げられる。中空部分7を黒鉛以外の物質で充填する場合、圧抜き孔9を設けなくてもよい。
【0023】
本発明の電気炉用電極2は、2本以上の黒鉛電極ポール3を、ニップル4を介して接続したものであってもよい。図5bに縦断面図として示す例示としての電気炉用電極2は、2本の黒鉛電極ポール3と1個のニップル4とから構成されている。
【0024】
図4a〜4bは、例示としてのニップル4の断面図を示している(図4a:樽型ニップル;図4b:円柱形ニップル)。
ニップル4の構成材料としては、電気炉用電極のニップル材料として一般的に用いられている材料を特に制限なく使用することができる。具体例としては、人造黒鉛が挙げられる。
【0025】
ニップル4の形状としては、垂直断面の円の直径がニップルの長さ方向にわたって変化している円錐台形の2つを底面で合わせた形状(樽型)(図4a)、及び、ニップルの垂直断面(A−A断面)の円の直径がニップルの長さ方向にわたって変化しない(一定である)円柱形(図4b)が挙げられる。これらの中では樽型ニップルが好ましい。また、樽型ニップルの場合、構成する2つの円錐台形は同一形状であることが好ましい。
【0026】
ニップル4の両端部には、黒鉛電極ポール3の雌ネジ部3aと螺合する雄ネジ部4aが設けられている。雄ネジ部4aはニップルの雄ネジ部3aと螺合して、黒鉛電極ポール3を互いに接続する。
【0027】
ニップル4は、前述のニップル材料を用い、一般的なニップルの製造方法(例えば、原料(石油コークス及びピッチコークス)を粉砕し、分級してピツチと混合する工程→押出成型工程→焼成工程→加工工程)にしたがい製造することができる。前述の要件を満たしている市販品を使用してもよい。
【0028】
本発明の電気炉用電極2が、2本以上の黒鉛電極ポール3を、ニップル4を介して接続したものである場合、本発明の電極は、単一種類(すなわち、形状、長さ及び直径が同一)の黒鉛電極ポール3を用いて構成されていてもよく、形状及び/又は長さ及び/又は直径が異なる複数種類の黒鉛電極ポール3を用いて構成されていてもよい。好ましくは、本発明の電極は、単一種類の黒鉛電極ポール3を用いて構成される。
また、この場合、電気炉用電極2は、単一種類(すなわち、形状、長さ及び直径が同一)のニップル4を用いて構成されていてもよく、形状及び/又は長さ及び/又は直径が異なる複数種類のニップル4を用いて構成されていてもよい。好ましくは、本発明の電極は、単一種類のニップル4を用いて構成される。
【0029】
黒鉛電極ポール3とニップル4との接続は、黒鉛電極ポール3の雌ネジ部3aとニップル4の雄ネジ部4aとを螺合することにより達成できる(図5c)が、接続部のゆるみ防止や電極−ニップル間の電気抵抗改良を目的として螺合部にバインダーを存在させてもよい。バインダーとしては、カーボンブラック等を含むタイトペーストやカーボンセメント等が挙げられる。バインダーとしてはカーボンセメントが好ましい。バインダーは市販品を使用することができる。
【0030】
(実施例)
次に、実施例により本発明の効果を具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
実施例
本実施例では、本発明の電極2を備えた電気炉1を用いて廃棄物の溶融固化を行った。
黒鉛電極ポール
黒鉛電極ポール材料として市販の黒鉛電極(商品名:人造黒鉛電極;製造者名:旭日炭素(中国))(かさ比重:1.6g/cm3;固有抵抗:8.8μΩm;ヤング率:11.5kN/mm2;曲げ強さ:800N/cm2;熱膨張係数:2.7×10-6/℃;灰分量:0.5%)を使用した。この黒鉛電極ポール材料に穴繰加工を施して中空部分7及び圧抜き孔9を設けた。
得られた黒鉛電極ポール3は、重さが約240kg、直径(D1)が0.307m、かつ、長さが1.875m(L1)の円柱形であった(図3a)。更に、黒鉛電極ポール3はその中心部に円柱形状の中空部分7を有していた(図3a)。中空部分7の直径(D2)は0.076mであった(図3a)。したがって、実施例で用いた黒鉛電極ポール3はD2≦0.65D1の関係を満たしていた。
尚、黒鉛電極ポール3の断面において、直径(D1)の円と直径(D2)の円とは同心円であった。
また、黒鉛電極ポール3は、長さ(L1)方向の端部(没入方向から遠い端部)から0.19mの位置に圧抜き孔9を2つ有していた(図3a)。圧抜き孔9の断面形状は円形であり、その孔径はおおむね0.01mであった。
更に黒鉛電極ポール3の両端部又は一端部には、後述のニップル4の雄ネジ部4aと螺合する雌ネジ部3aを設けた(図3a及び図3b)。

ニップル
黒鉛製ニップル(商品名:人造黒鉛ニップル;製造者名:旭日炭素(中国))を使用した。ニップル4は2つの円錐台形を底面で合わせてなる樽型形状であった(図4a)。ニップル4の両端部には、前述の黒鉛電極ポール3の雌ネジ部3aと螺合する雄ネジ部4aを設けた。

電気炉用電極
黒鉛電極ポール3の雌ネジ部3aとニップル4の雄ネジ部4aとを螺合することにより、ニップル4を介して黒鉛電極ポール3を接続して電気炉用電極2を製造した。バインダーは使用しなかった。1本の電極2は2本の黒鉛電極ポール3と1個のニップル4とから構成されていた(図5b)。

電気炉
図1a及び1bに示す電気炉を使用した。電気炉1のトランス容量は2800kVAであった。電気炉1は、密閉型で、ほぼ円筒状の容器の形態をしていた。電気炉1には、上蓋を通して3本の電極2と、4本の被溶融物供給装置5とが設けられていた。被溶融物供給装置5は、溶融処理中に、未溶融物層6a上に被溶融物を連続的に供給するように、上端に設けられたホッパ切出装置5aと、その下に設けられたシュート5bとから形成されていた。また、電気炉1の下部の側壁には溶融金属層6cから溶融金属を取り出すための溶融金属取出し口8が設けられ、その反対側の側壁には、溶融金属取出し口8よりも高い位置に溶融スラグ層6bから溶融スラグを取り出すための溶融スラグ取出し口10が設けられていた。更に、電気炉1の上蓋端部には、溶融処理で生成した気体を取り出すためのガス取出し口12が設けられていた。

溶融対象物
下記の組成を有する焼却灰を溶融対象の廃棄物(被溶融物)として使用した。

*微量成分は硫黄分、金属酸化物及び重金属酸化物等から構成されていた。

操業方法
5tの廃棄物からなる被溶融物層6へ電極2を没入した後に電力を負荷して溶融処理を開始した。電力負荷量は、最適な溶融処理を許容する電極−被溶融物間の電気抵抗値を維持するように自動制御した。
電極2の被溶融物層6への没入深さは0.69mであった。尚、溶融処理中、被溶融物層6は未溶融層6aと溶融スラグ層6bと溶融金属層6cとに分離した状態になるが、その際の電極2の没入深さは、電極の先端部が溶融スラグ層6bに没入した状態(但し、溶融金属層6cには接触しない状態)であり、電極の少なくとも一部分が未溶融層6a又は溶融スラグ層6bへ没入し、かつ、電気抵抗値が12〜17mΩとなるように自動制御した。
電極先端部の損耗の判定は電極−被溶融物間の電気抵抗値(脱落が起こると電気抵抗値が高くなる)に基づいて行い、あらかじめ設定された電気抵抗値への上昇が起きたときに電極の継ぎ足し及び没入操作を行った。先端部が損耗して短くなった電極は、その後端部から黒鉛電極ポールとニップルとを用いて継ぎ足した。
溶融処理は、被溶融物に0〜1質量%の還元剤(コークス)を配合して行った。
溶融スラグ層6bの溶融スラグは溶融スラグ取出し口10から炉外へ取り出して固化させた。
溶融金属層6cの溶融金属は溶融金属取出し口8から炉外へ取り出して固化させた。
溶融処理時に発生した揮発性の低融点有害物質(鉛や亜鉛等)は、ガス取出し口12より排出してガス洗浄装置で処理した。
被溶融物の炉内への供給(連続供給のタイミングは電力負荷量に応じて設定した)、電力負荷及び電極の継ぎ足しをそれぞれ連続的に行うことにより、電気炉を3ヶ月間操業させた。

比較例
中空部分7及び圧抜き孔9を有しない中実構造の電極ポールを用いたことを除いて、実施例と同様の条件で電気炉の操業を行った。

結果
50時間の操業における電力負荷の推移を図6に示す(図6上:比較例。図6下:実施例)。
中実構造の黒鉛電極ポールを用いた比較例では、黒鉛電極ポール先端部で先細り現象が起こり、当該電極と被溶融物との接触面積が小さくなり電極−被溶融物間の電気抵抗が大きくなったため、被溶融物中を流れる電流量が低下し、結果として被溶融物への電力負荷が低下した。尚、図6中、操業4時間、15時間、28時間及び43時間における電力負荷の低下は溶融スラグ排出によるものである。また、操業30〜33時間における電力負荷の低下は、先細り現象の進行に伴う電力負荷の著しい低下(被溶融物の溶融効率の著しい低下)を解消するために行った電極切断作業(電気炉の操業を停止して電極を電気炉から取り出し、先細りした黒鉛電極ポール部分を切断するという作業)によるものである。
一方、中空構造の黒鉛電極ポールを用いた実施例では、黒鉛電極ポール先端部の損耗が早期に起こることにより、電力負荷低下をもたらす先細り部分の発生が抑制されたため、電力負荷の低下が殆ど起こらなかった。尚、図6中、操業4時間、10時間20時間、30時間、40時間及び50時間における電力負荷の低下は溶融スラグ排出によるものである。また、実施例では、先細り現象を原因とする電力負荷の著しい低下が起こらなかったため、電極切断作業も不要であった。
実施例及び比較例について、それぞれ3ヶ月間の操業結果を表1に示す。

表1.操業結果

表中、設備稼働率(%)とは、下記式:
電気炉が実際に稼働した期間(設備トラブル等による止電期間を除く)/操業期間×100
で算出される、操業効率の指標をいう。
上記の結果は、本発明の電極2を用いることによって電極切断を行うことが無くなり、高い設備稼働率を達成できることを示している。
【0031】
平均電力負荷は、操業期間(50時間)中の平均電力消費量(kWh)をいう。単位電力量当たりの処理量はほぼ一定であるので、平均電力消費量が高くなると溶融処理量は高くなる。したがって、上記の結果は、本発明の電極を用いることによって平均電力消費量を高め、ひいては処理効率を向上させることができることを示している。
【0032】
上記の結果は、本発明にしたがうと、電極切断作業のための設備停止が無くなり、電気炉負荷、設備稼働率が向上し安定して高効率の操業が維持できることを示している。
【0033】
参考例
本例では、黒鉛電極ポールの先細りと、電力負荷低下との関係を検討した。
参考例で使用した、電気炉、電極、廃棄物(被溶融物)及び操業方法は比較例と同じであった。尚、電気炉1のトランス容量(設備能力負荷)は2800kVAであった。操業中、1日毎に操業を停止して電極2を取り出し、電極形状を調査して、未溶融層6aと溶融スラグ層6bへ没入していた部分における平均直径を測定した。その際、操業停止直前の電力負荷(操業負荷)(kVA)を併せて測定した。測定値に基づいて、下記式にしたがい、先細り率及び負荷率を求めた。

先細り率(%)=(1−電極の没入部分における平均直径/電極直径(規格)*)×100
*「電極直径(規格)」は、操業開始前の電極直径を示す。

負荷率(%) =操業負荷/設備能力負荷×100
結果を表2及び図7に示す。
表2

【0034】
上記の結果は、先細り現象により黒鉛電極ポールの直径が1/2(先細り率50%)になると、電力負荷も操業当初の電力負荷の半分(負荷率50%)まで低下することを示している。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、電気炉による廃棄物の溶融固化に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1a】図1aは、本発明の実施形態である電極を用いた電気炉(溶融処理前)の縦断面図である。
【図1b】図1bは、本発明の実施形態である電極を用いた電気炉(溶融処理中)の縦断面図である。
【図1c】図1cは、図1a及び1bの電気炉の(溶融処理中)の横断面図である。
【図2a】図2aは、本発明の実施形態である電極の縦断面図(溶融処理前)である。
【図2b】図2bは、本発明の実施形態である電極の縦断面図(溶融処理中)である。
【図2c】図2cは、本発明の実施形態である電極の縦断面図(溶融処理中)である。
【図2d】図2dは、本発明の実施形態である電極の縦断面図(溶融処理中)である。
【図3a】図3aは、本発明の実施形態である電極を構成する黒鉛電極ポールの縦断面図及び断面図である。
【図3b】図3bは、本発明の実施形態である電極を構成する黒鉛電極ポールの縦断面図である。
【図4a】図4aは、本発明の実施形態である電極を構成する樽型ニップルの側面図及び断面図である。
【図4b】図4bは、本発明の実施形態である電極を構成する円柱形ニップルの側面図及び断面図である。
【図5a】図5aは、本発明の実施形態である電極の縦断面図である。
【図5b】図5bは、本発明の実施形態である電極の縦断面図である。
【図5c】図5cは、本発明の実施形態である電極の拡大縦断面図である。
【図6】図6は、50時間の電気炉操業における電力負荷の推移を示すグラフである(上:比較例。下:実施例)。
【図7】図7は、黒鉛電極ポールの先細りと電力負荷低下との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0037】
1 電気炉
2 電極
3、3α、3β 黒鉛電極ポール
3a 雌ネジ部
4、4α ニップル
4a 雄ネジ部
5 被溶融物供給装置
5a ホッパ切出装置
5b シュート
6 被溶融物層
6a 未溶融層
6b 溶融スラグ層
6c 溶融金属層
7 中空部分
8 溶融金属取出し口
9 圧抜き孔
10 溶融スラグ取出し口
12 ガス取出し口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒鉛電極ポール3からなる電気炉用電極であって、該黒鉛電極ポール3が中空部分7と、該中空部分7と該黒鉛電極ポール3の外部とを連絡する圧抜き孔9とを有することを特徴とする電気炉用電極。
【請求項2】
黒鉛電極ポール3が円柱形であり、中空部分7が円柱形である、請求項1に記載の電気炉用電極。
【請求項3】
黒鉛電極ポール3の直径(D1)と、中空部分7の直径(D2)とが下記の条件:
2≦0.65D1
を満たす、請求項2に記載の電気炉用電極。
【請求項4】
中空部分7の直径(D2)が15mmより大きく、かつ、
黒鉛電極ポール3の直径(D1)と、中空部分7の直径(D2)とが下記の条件:
2≦0.65D1
を満たす、請求項2又は3に記載の電気炉用電極。
【請求項5】
2以上の黒鉛電極ポール3がニップル4を介して接続されており、
該黒鉛電極ポール3は少なくとも一端部に雌ネジ部3aを有し、該ニップル4は両端部に該雌ネジ部3aと螺合する雄ネジ部4aを有し、
該雌ネジ部3aと該雄ネジ部4aとの螺合により該黒鉛電極ポール3が互いに接続されている、請求項1〜4のいずれかに記載の電気炉用電極。
【請求項6】
黒鉛電極ポール3の雌ネジ部3aとニップル4の雄ネジ部4aとの螺合部にバインダーが存在している、請求項5に記載の電気炉用電極。
【請求項7】
バインダーがカーボンセメントである、請求項6に記載の電気炉用電極。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の電気炉用電極を備えた電気炉中で廃棄物を電気抵抗加熱して溶融させることを特徴とする、廃棄物の溶融処理方法。

【図1a】
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【図1b】
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【図1c】
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【図2a】
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【図2b】
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【図2c】
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【図2d】
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【図3a】
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【図3b】
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【図4a】
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【図4b】
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【図5a】
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【図5b】
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【図5c】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−20982(P2010−20982A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−179505(P2008−179505)
【出願日】平成20年7月9日(2008.7.9)
【出願人】(592193764)中央電気工業株式会社 (9)
【Fターム(参考)】