説明

建物の配線構造

【課題】建物の施工と並行して行われるケーブル類の配線工事を容易かつ確実に実施できる新規な建物の配線構造を提供する。
【解決手段】下階の壁パネルPw上に床パネルPfを介して上階の壁パネルPwを接合した建物の配線構造であって、前記下階の壁パネルPw上端と前記上階の壁パネルPw下端間に、前記床パネルPfを通過するパイプ体200を架け渡すと共に、当該パイプ体200内に前記下階および上階壁パネルPw、Pw間に亘るケーブル類Cを通過させて配線する。これによって、床パネルPfを通過して上下階に亘る電線などのケーブル類CをパネルPw、Pf内に容易かつ確実に配線できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木造家屋などの建物に付設される電線などのケーブル類の配線構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、木造家屋などの建物の工法の1つとして、例えば以下の特許文献1〜3などに示すような木質系パネル工法と称される工法がある。
この工法は、芯材と構造用合板を接着剤により貼り合わせた各種の木質系パネル(壁パネル、床パネル、屋根パネルなど)を工場にて生産し、これを施工現場で接着剤やボルト、スクリュー釘などによって一体化して床面や壁面を形成して家屋に組み立てるものである。
そして、この工法によって建設された建物は、いわゆるモノコック構造となっているため、地震や台風などによる横方向の水平荷重は勿論、積雪や地震(縦揺れ)などによる上下方向からの鉛直荷重を瞬時に建物全体に分散して受け止めることで構造上優れた強度を発揮することができる。
【特許文献1】特開平3−79243号公報
【特許文献2】特開平7−189365号公報
【特許文献3】特開2003−328444号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、このような木質系パネル工法による建物の施工にあたっては、各種の木質系パネルの組み立て作業と並行して、その建物に予め付設する各種ケーブル類、例えば電源線や電話線、LANケーブル、光ファイバーなどの配線工事も行われている。
しかしながら、これらケーブル類の配線工事は、その現場施工ごとにルールなく行われているため、配線工事の作業効率が芳しくなく、また場合によっては建物の構造耐力に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0004】
すなわち、例えば前記の木質系パネル工法による建物の施工に際して下階から上階に亘ってケーブル類を配線する場合、壁パネルや床パネルを組み立てた後、あるいはその直前にそのパネルやまぐさなどの梁材などに対して適宜配線のための孔加工や溝加工を施す必要があるが、その作業は容易ではなく作業効率の低下を招くおそれがある。また、これらのケーブル類の配線のための加工は、現場ごとにその現場作業員が独自の判断によって行われているため、その加工位置や程度によっては、木質系パネル等の強度などを損ねる場合が考えられる。
そこで、本発明はこのような不都合を解消するためになされたものであり、その主な目的は、建物の施工と並行して行われるケーブル類の配線工事を容易かつ確実に実施できる新規な建物の配線構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
〔発明1〕
前記課題を解決するために第1の発明は、下階の壁パネル上に床パネルを介して上階の壁パネルを接合した建物の配線構造であって、前記下階の壁パネル上端と前記上階の壁パネル下端間に、前記床パネルを通過するパイプ体を架け渡すと共に、当該パイプ体内に前記下階および上階壁パネル間に亘るケーブル類を通過させて配線したことを特徴とする建物の配線構造である。
【0006】
このような配線構造によれば、床パネルを通過して上下階に亘る電線などのケーブル類をパイプ体を通過させてパネル内に容易かつ確実に配線できる。これによって、上下階に亘る配線の手間を省くことができる。また、現場において配線のための余分な加工をパネルに施す必要がなくなるため、パネルや建物の強度低下などを回避できる。
ここで、本発明でいう「ケーブル類」とは、例えば電源コンセントに接続される電源線の他、電話線やLANケーブル、光ファイバーなどの通信ケーブル、テレビ放送受信用ケーブルなどを主に想定しているが、これに限定されるものでなく例えばインターホンの信号線や火災報知器や緊急警報装置の信号線などのように建物の施工と同時行われる可能性があるあらゆるケーブル類(有線)を含むものである(以下、同じである)。
【0007】
〔発明2〕
また、第2の発明は、下階の壁パネル上に床パネルを介して上階の壁パネルを接合した建物の配線構造であって、前記下階の壁パネル上端と前記上階の壁パネル下端間を前記床パネルを挟んで接合ボルトで接合すると共に、当該接合ボルトを両端が開口した中空ボルトで構成し、当該中空ボルト内に前記下階および上階壁パネル間に亘るケーブル類を通過させて配線したことを特徴とする建物の配線構造である。
このような配線構造によれば、第1の発明の効果に加え、両壁パネルを接合するための接合ボルトを配線のために活用できる。これによって、ケーブル類の配線作業をさらに容易かつ確実に実施できる。
【0008】
〔発明3〕
また、第3の発明は、第1または第2の発明において、前記下階壁パネルと上階壁パネル間に前記床パネルの端面を位置させると共に、当該床パネルの端面に胴差しを接合し、当該胴差しの接合面または前記床パネルの端面のいずれか一方あるいは両面に、前記パイプ体または中空ボルトが通過する溝部を備えたことを特徴とする建物の配線構造である。
このような配線構造によれば、建物の外壁や吹き抜け部分に位置する壁パネル間においても上階に亘るケーブル類の配線を容易に行える。
【0009】
〔発明4〕
また、第4の発明は、梁材上に床パネルを介して壁パネルを接合した建物の配線構造であって、前記壁パネルの下端と前記梁材間に、前記床パネルを通過するパイプ体を架け渡すと共に、当該パイプ体内に前記壁パネルと梁材間に亘るケーブル類を通過させて配線したことを特徴とする建物の配線構造である。
このような配線構造によれば、梁材と壁パネル間に亘るケーブル類の配線を正確かつ容易に配線できる。また、配線のための余分な加工をパネルや梁材に施す必要がなくなるため、パネルや梁材の強度低下などを回避できる。
【0010】
〔発明5〕
また、第5の発明は、梁材上に床パネルを介して壁パネルを接合した建物の配線構造であって、前記壁パネルの下端と前記梁材間を前記床パネルを挟んで接合ボルトで接合すると共に、当該接合ボルトを両端が開口した中空ボルトで構成し、当該中空ボルト内に前記壁パネルと前記梁材間に亘るケーブル類を通過させて配線したことを特徴とする建物の配線構造である。
このような配線構造によれば、第4の発明の効果に加え、壁パネルと梁材を接合するための接合ボルトを配線のために活用できる。これによって、ケーブル類の配線作業をさらに容易かつ確実に実施できる。
【0011】
〔発明6〕
また、第6の発明は、第4または第5の発明において、前記壁パネルと梁材間に前記床パネルの端面を位置させると共に、当該床パネルの端面に胴差しを接合し、当該胴差しの接合面または前記床パネルの端面のいずれか一方あるいは両方に、前記パイプ体または中空ボルトが通過する溝部を備えたことを特徴とする建物の配線構造である。
このような配線構造によれば、建物の外壁や吹き抜け部分に位置する壁パネルと梁材間においてもケーブル類の配線を容易かつ確実に行うことができる。
【0012】
〔発明7〕
また、第7の発明は、第2または第5の発明において、前記接合ボルトは、胴差ボルトであることを特徴とする建物の配線構造である。
このような配線構造によれば、壁パネル同士あるいは壁パネルと梁材とを接合する接合ボルトとして用いられている胴差ボルトをケーブル類の配線のために有効活用できる。
【0013】
〔発明8〕
また、第8の発明は、第1〜7のいずれかの発明において、前記壁パネル内に、前記ケーブル類を通過させて配線するための案内管を備えたことを特徴とする建物の配線構造である。
このような配線構造によれば、壁パネル内におけるケーブル類の配線を簡単かつ確実に行える。
【0014】
〔発明9〕
また、第9の発明は、第1〜7のいずれかの発明において、前記壁パネルと床パネル、および当該床パネルと前記梁材とを接着剤およびスクリュー釘で連結することを特徴とする建物の配線構造である。
このような配線構造によれば、壁パネルと床パネル、および床パネルと梁材との接合強度を向上させることができる。これによって、中空ボルトによる接合力を補強することができる。
【0015】
〔発明10〕
また、第10の発明は、柱と横架材とを座付ボルトで接合した建物の配線構造であって、前記座付ボルトを両端が開口した中空ボルトで構成し、当該中空ボルト内に、前記柱と横架材との間に亘るケーブル類を通過させて配線したことを特徴とする建物の配線構造である。
このような配線構造によれば、柱と横架材とを接合するための座付ボルトをケーブル類の配線のために有効活用できる。
【0016】
〔発明11〕
また、第11の発明は、小屋梁材と軒桁材、軒桁材と柱材、胴差材と床梁材および柱材と胴差材とを羽子板ボルトで接合した建物の配線構造であって、前記羽子板ボルトを両端が開口した中空ボルトで構成し、当該中空ボルト内に、前記小屋梁材と軒桁材との間、または軒桁材と柱材との間、または胴差材と床梁材との間、あるいは柱材と胴差材との間に亘るケーブル類を通過させて配線したことを特徴とする建物の配線構造である。
このような配線構造によれば、小屋梁材と軒桁材などを接合するための羽子板ボルトをケーブル類の配線のために有効活用できる。
【0017】
〔発明12〕
また、第12の発明は、梁材と桁材間を火打金物で補強した建物の配線構造であって、前記火打金物をパイプ体で構成し、当該パイプ体内に、前記梁材と桁材との間に亘るケーブル類を通過させて配線したことを特徴とする建物の配線構造である。
このような配線構造によれば、梁材と桁材間を補強するための火打金物をケーブル類の配線のために有効活用できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の配線構造によれば、建物の施工と並行して行われるケーブル類の配線工事を容易かつ確実に実施できる。また、現場においてルール無く行われたパネル等に対する配線のための余分な加工を施す必要がなくなるため、パネル等や建物の強度低下および構造耐力上の悪影響などを未然に防止できる、などといった優れた効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照しながら説明する。
(第1の実施の形態)
図1〜図14は、本発明に係る建物の配線構造の第1の実施の形態を示したものである。
先ず図1は、本発明に係る建物の配線構造を適用する木質系パネル工法による木造家屋の組み立て順序を示した説明図である。
【0020】
図示するようにこの木質系パネル工法は、先ず建物を建設する敷地に鉄筋コンクリート製の基礎(布基礎)10を構築した後、この基礎10上に複数の床パネルおよび床梁からなる1階の床面20を敷き込む。次に、この1階の床面20上に複数の壁パネルからなる1階の壁面30を組み立てた後、この1階壁面30上に、同じく複数の床パネルおよび床梁からなる2階床面40と複数の壁パネルおよび胴差しからなる2階の壁面50を組み立てる。そして、この2階壁面50上に屋切パネルなどを介して複数の屋根パネルおよび屋根梁からなる屋根面60を敷き込むことでモノコック構造の木造家屋が一体的に組み立てられるようになっている。
【0021】
図2は、この1階壁面30や2階壁面50を構成する壁パネルPwの実施の一形態を示したものである。
図示するように、この壁パネルPwは、矩形状の木製枠110内にグラスウールなどの断熱材120を充填すると共に、この木製枠110の両面(外側および内側)に合板などからなる面板130,130を高分子接着剤などによって一体的に貼り付けた構造となっている。
【0022】
ここで、この壁パネルPwの幅および高さなどのサイズは、特に限定されるものでなく適用する場所によって異なるが、例えば高さ約400〜4300mm、幅約200〜1000mm、厚さ約90〜120mm前後のサイズのものが多用される。なお、この壁パネルPwを建物の内壁などとして用いる場合には、木製枠110内の断熱材120を省略するものもある。
また、この木製枠110は、図示するように左右一対の縦框111,111および上下一対の横框112,112と、縦中桟113と、横中桟114,114とから構成されている。なお、このうち縦中桟113や横中桟114の数などは、その木製枠110のサイズなどによって適宜増減するものである。
【0023】
また、この壁パネルPwは、使用する場所によっては、さらに断熱材120の両側に防湿フィルムを介在させたり、木製枠110や面板130,130の一部あるいは全部に防腐剤・防蟻剤処理などを施すこともできる。
また、この壁パネルPw内には、両端が開口した案内管(リード管)115が木製枠110の横中桟114,114を貫通するように設けられており、この案内管(リード管)140内に、後述する電源線や電話線などのケーブル類を通過させることでその壁パネルPw内部に配線できるようになっている。
【0024】
また、この案内管115の延長線上に位置する横框112、112には、パネル組み立て時において後述するパイプ体が貫通するための貫通孔140(他方は図示省略)が形成されている。
また、この壁パネルPwの片面あるいは両面の面板130の角部には、例えば直径が十数cm程度の円形の作業用孔116、116が形成されており、この壁パネルPwを後述するように接合ボルトなどを用いて組み立てる際の作業を容易にしている。
【0025】
一方、1階の床面20や2階床面40を構成する床パネルPfは、図3に示すように、この壁パネルPwとほぼ同様な構成となっているが、特に垂直方向の大きな荷重にも充分に耐え得るべく壁パネルPwよりもやや堅牢な構造となっている。
すなわち、この床パネルPfは、矩形状の木製枠150の片面(上面)に合板などからなる面板160を高分子接着剤などによって一体的に貼り付けた構造となっている。
【0026】
この木製枠150は、図中前後一対の縦框151,151および左右一対の横框152,152と、それぞれ2つの縦中桟153,153および横中桟154,154とから構成されているが、このうち縦中桟153や横中桟154の数などは、壁パネルPwと同様にその木製枠150のサイズなどによって適宜増減するものである。
そして、そのサイズも特に限定されるものでなく適用する場所によって異なるが、例えば高さ約3600mm前後、幅約900mm前後、厚さ約90〜180mm程度のサイズのものが多用される。なお、この床パネルPfを1階床面20として用いる場合には、さらにこの木製枠150内に断熱材が設けられる。
【0027】
次に、図4は、このような構造をした壁パネルPwや床パネルPfを用いた建物の外壁部分の詳細な構造を示したものである。
図示するように、鉄筋コンクリート製の基礎10上には、台輪11を介して複数の床パネルPfが敷き込められており、これら複数の床パネルPfによって1階の床面20が構成されている。
また、この1階の床面20の外延部には、半土台21を介して複数の壁パネルPwが立設されており、これら複数の壁パネルPwによって1階の壁面30が形成されている。
【0028】
すなわち、この基礎10上には、アンカーボルト12が複数立設されており、このアンカーボルト12を床パネルPfと半土台21によってその側面から挟み込むと共に、その頂部を壁パネルPwの下縁部に差し込んだ後、その頂部に図示しないナットを螺合させることで、床パネルPfと半土台21と壁パネルPwとを基礎10上に一体的に締結支持するようになっている。なお、このナットの螺合作業は、前述したように壁パネルPwの角部に設けられた円形の作業用孔116を利用することで容易に行うことが可能となっている。
【0029】
また、隣接する壁パネルPw、Pw同士および床パネルPf、Pf同士は、接着剤やスクリュー釘などによって密着状態に接合されるようになっている。また、隣接する壁パネルPw、Pwの角部はコーナー結合材32などを介して接合され、また、ドアなどが設置される1階の壁面30の開口部は、小壁パネル31や半割材33などによって形成されるようになっている。
【0030】
さらに、この1階の壁面30には、複数の床パネルPfからなる2階床面40が形成されていると共に、この2階床面40の外延部には、胴差し41を介して複数の壁パネルPwが立設されており、これら複数の壁パネルPwによって2階の壁面50が形成されている。
図5および図6は、この胴差し41を中心とした2階床面40の外延部と2階の壁面50の下端部と1階の壁面30の上端部の接合構造を示したものである。
【0031】
図示するように、1階の壁面30を構成する壁パネルPw上には、2階床面40を構成する床パネルPfの縁部(木製枠150の横框152)と胴差し41が互いに密着するように位置すると共に、この床パネルPfの縁部と胴差し41上に2階壁面50を構成する壁パネルPwの下縁部(木製枠110の横框112)が載置するような位置関係となっている。
【0032】
そして、この2階壁面50を構成する壁パネルPwの下縁部と、1階の壁面30を構成する壁パネルPwの上端部(木製枠110の横框112)間を垂直に貫通するように胴差ボルト(接合ボルト)42を差し込み、その両端にそれぞれ平座金43、43を介してナット44、44を螺合して床パネルPfの縁部と胴差し41を上下に挟み込むように締結することで2階床面40と2階壁面50とを同時に接合するようになっている。
【0033】
ここで、この胴差ボルト42は、図4に示すように予め床パネルPfの縁部と胴差し41の接合面にそれぞれ対向するように形成された溝部41a、40aで構成される通過孔内に収容されるように設けられるようになっている。また、この胴差ボルト42の締結作業は、前述したように壁パネルPwの角部に形成された円形の作業用孔116を利用して行うことはいうまでもない。
【0034】
また、この2階壁面50の壁パネルPw、Pw同士および2階床面40の床パネルPf、Pf同士も同様に接着剤やスクリュー釘などによって密着状態に接合されるようになっている。また、同様に隣接する壁パネルPw、Pwの角部はコーナー結合材54などを介して接合され、また、窓などが設置される2階壁面50の開口部は、小壁パネル51や腰壁パネル52および半割材53などによって形成されるようになっている。
そして、この2階壁面50上には、結合桁61や屋切パネルPsおよび屋根梁62を介して複数の屋根パネルPrが接合されるようになっており、この複数の屋根パネルPrによって建物の屋根面60が形成されるようになっている。
【0035】
次に、図7は、このような構造をした建物の1階の壁パネルと2階の壁パネルの接合部分のうち、特に外壁に面した胴差し部分の配線構造を示したものである。
図において符号Pw1は、1階(下階)の壁面30を構成する壁パネルであり、その上端には2階床面を構成する床パネルPfおよび胴差し41を介して2階(上階)の壁面50を構成する壁パネルPw2が複数(図では2つ)胴差ボルト42、42によって接合された構造となっている。
【0036】
そして、図示するようにこの下階の壁パネルPw1と上階の壁パネルPw2間には、胴差ボルト42と同様に、その間の床パネルPfおよび胴差し41を垂直に貫通するようにパイプ体200が架け渡されており、このパイプ体200内を通過させて上下階に亘るケーブル類Cが配線されるようになっている。
すなわち、このパイプ体200は、両端が開口した、金属あるいは樹脂製のパイプ本体210の上端部にフランジ220を備えた構造となっている。
【0037】
そして、図8および図9に示すように、胴差ボルト42と同様、壁パネルPw1上端および壁パネルPw2下端(の木製枠110の横框112)にそれぞれ形成された貫通孔140、140と、床パネルPfの縁部と胴差し41の接合面にそれぞれ対向するように形成された溝部41b、40bで構成される通過孔300内に、このパイプ体200を、その上階の壁パネルPw2側から落とし込むように挿入して取り付けられるようになっている。なお、この通過孔300内にこのパイプ体200を挿入した状態では、このパイプ体200のフランジ220が壁パネルPw2側の貫通孔140上に係合するようになっており、これによってその脱落が回避されるようになっている。また、この通過孔300は、溝部41b、40bのうち一方によってのみ構成するようにしても良い。
【0038】
このような本発明の配線構造によれば、建物の外壁部分において上下階に亘る電線などのケーブル類Cを床パネルPfと胴差し41部分を通過させ外壁パネル内に容易かつ確実に配線することができる。
これによって、上下階に亘るケーブル類Cの配線を所定のルールに基づいて実施できるため、その配線作業の手間を省くことができる。また、現場において配線のための余分な加工をパネルに施す必要がなくなるため、パネルや建物の強度低下などを回避することができる。
【0039】
なお、本実施の形態では、建物の外壁部分に位置する胴差し41部分を例にして説明したが、例えばエントランスなどのように屋内の吹き抜け部分などにも同様に適用できる。
また、このような配線構造は、図10および図11に示すように屋内に位置する内壁などの部分にも同様に適用することができる。
すなわち、図示するように床パネルPf、Pfの接合部(突き合わせ部)に、建物内の各部屋などを仕切るための壁パネルPw1、Pw2同士を上下に連結するにあたっては、その床パネルPf、Pfの接合面にそれぞれ溝部40b、40bを形成し、この溝部40b、40bによってパイプ体200の通過孔300を形成することになる。
【0040】
これによって、建物の外壁部分と同様に建物内の各部屋などを仕切るための壁パネルPw1、Pw2間を上下階に亘る電線などのケーブル類Cを容易かつ確実に配線することができる。なお、この溝部40b、40bは、床パネルPf、Pfの一方にのみ設けるようにしても良い。
また、本実施の形態では、上下階の壁パネルPw1、Pw2間に亘る配線構造の例を示したが、図12に示すように、壁パネルPwとこれを支持する梁材400間においても同様に適用することができる。
【0041】
この場合には、図示するように前記床パネルPf側の通過孔300と連通するように梁材400に対して通過孔310を形成し、この梁材400側の通過孔310内に通過孔300側から延びるパイプ本体210の下端側を貫通させることで壁パネルPwと梁材400間に電線などのケーブル類Cを容易かつ確実に配線することができる。
また、これら壁パネルPwと床パネルPf、および床パネルPfと梁材400などの接合は、図13に示すように高分子接着剤と共に、引き抜き耐力に優れたスクリュー釘SNによって接合されている。このスクリュー釘SNは、釘の胴体に螺旋状の溝が刻み込まれたものであり、在来工法などで一般的に用いられている丸釘に比べて約2倍の引き抜き耐力(約2.0kN)を発揮することができる。そのため、これらパネル同士の接合を容易かつ確実に行えると共に、優れた接合強度を発揮することができる。
【0042】
(第2の実施の形態)
次に、図14〜図16は、本発明に係る建物の配線構造の第2の実施の形態を示したものである。
図示するように本実施の形態は、前述したような壁パネルPw1、Pw2同士を床パネルPfを挟んで上下に連結するための胴差ボルト(接合ボルト)42の代わりに、図14に示すような両端が開口したパイプ状の中空ボルト500を用い、この中空ボルト500内に上下階の壁パネルPw1、Pw2間に亘るケーブル類Cを配線したものである。
すなわち、この中空ボルト500は、図15に示すように両端が開口したパイプ状のボルト本体510、このボルト本体510の両端にそれぞれ嵌合される一対の矩形状平座金520,520と、このボルト本体510の両端にそれぞれ螺合する一対のナット530,530とから構成されている。
【0043】
そして、前述したような従来の胴差ボルト42(平座金43、ナット44)と同様、図16に示すようにこの中空ボルト500のボルト本体510を下階の壁パネルPw1の上端から上階の壁パネルPw2の下端間に亘って貫通させると共に、そのボルト本体510の両端に平座金520、520を介してナット530,530を螺合して締め付けることで、床パネルPfと胴差し41を挟んで上下階の壁パネルPw1、Pw2を強固に接合する。そして、図14および図16に示すように、両端が開口した状態となっているこの中空ボルト500のボルト本体510にケーブル類Cを通過させることで上下階の壁パネルPw1、Pw2間に亘るケーブル類Cを配線することができる。
【0044】
このような配線構造によれば、前記第1の実施の形態に示したような効果に加え、上下階の壁パネルPw1、Pw2を接合するための胴差ボルト(接合ボルト)42を配線のために活用できるため、ケーブル類Cの配線作業をさらに容易かつ確実に実施することができる。
なお、この中空ボルト500の組み付け作業などを容易にするために、この平座金520、520の一方を予めボルト本体510の一端部に固定して一体化した構造であっても良い。
【0045】
(第3の実施の形態)
次に、図17〜図22は、本発明に係る建物の配線構造の第3の実施の形態を示したものである。
先ず、図17は、木造軸組工法などの在来工法は勿論、前述した木質パネル工法にも適用可能な座付ボルト600の一例を示したものである。
図示するようにこの座付ボルト600は、両端が開口したパイプ状のボルト本体610の一端部に円形座620等を一体的に備えると共に、その他端部にナット630を螺合自在に備えた構造となっている。
【0046】
そして、この円形座付ボルト600を、例えば図18に示すように建物の横架材を垂直に貫通させ、その下端部を、横架材と接する柱に取り付けられたホールダウン金物640などに締結するように取り付けることで横架材と柱を接合できるだけでなく、このボルト本体610にケーブル類Cを通過させることによって、その横架材と柱との接合付近におけるケーブル類Cの配線を容易かつ的確に実施することができる。
【0047】
次に、図19は、前記の座付ボルト600と同じく木造軸組工法などの在来工法は勿論、前述した木質パネル工法にも適用可能な、いわゆる羽子板ボルト700を示したものである。
図示するようにこの羽子板ボルト700は、両端が開口したパイプ状のボルト本体710の一端部に羽子板状の羽根部720を一体的に備えると共に、その他端部に図示しない座金などを介してナット730を螺合自在に備えた構造となっており、図20に示すように建物の横架材同士の接合や、小屋梁と軒桁、軒桁と柱、胴差と床梁および通し柱と胴差などの接合に使用可能となっている。
【0048】
そして、図20に示すように、この羽子板ボルト700のボルト本体710を一方の横架材に貫通させて取り付けると共に、羽根部720側を前記の座付ボルト600によって他方の横架材に固定することで横架材同士の接合だけでなく、このボルト本体710にケーブル類Cを通過させることによって、その横架材同士の接合付近におけるケーブル類Cの配線を容易かつ的確に実施することができる。
【0049】
なお、図21は、一方の横架材を挟んで横架材同士を突き合わせて接合するような接合部などに適用される羽子板ボルト700の他の例を示したものであり、羽根部720を分離可能としたものである。このような接合構造の場合であっても、一方の横架材に対してケーブル類Cを通過させるための孔などを形成することなく、その横架材同士の接合付近におけるケーブル類Cの配線を容易かつ的確に実施することができる。
【0050】
さらに、図22は、前記の円形座付ボルト600や羽子板ボルト700と同じく木造軸組工法などの在来工法は勿論、前述した木質パネル工法にも適用可能な火打金物800の一例を示したものである。
図示するようにこの火打金物800は、両端が開口したパイプ体810の両端に取付板820,820を一体的に備えたものであり、柱と桁と梁との接合部(隅角部)などの接合に使用されるようになっている。
【0051】
そして、図示するようにこのパイプ体810内にケーブル類Cを通過させることによって、梁と桁間に亘るケーブル類Cの配線を容易かつ的確に実施することができる。
また、図23に示すように、この火打金物800の取付板820を前述した中空ボルト500で梁側に固定するようにすれば、さらにケーブルCをこの中空ボルト500を通過させて梁の反対側に配線することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】パネル組立工法による建物の組み立て工程を示す説明図である。
【図2】壁パネルPwの一例を示す部分破断斜視図である。
【図3】床パネルPfの一例を示す部分破断斜視図である。
【図4】パネル組立工法による建物の構成を示す分解図である。
【図5】上下壁パネルPwと胴差し41付近の接合構造を示す斜視図である。
【図6】上下壁パネルPwと胴差し41付近の接合構造を示す縦断面図である。
【図7】上下壁パネルPwと胴差し41付近の配線構造を示す斜視図である。
【図8】上下壁パネルPwと胴差し41付近の配線構造を示す分解図である。
【図9】上下壁パネルPwと胴差し41付近の配線構造を示す縦断面図である。
【図10】上下壁パネルPwと床パネルPf付近の配線構造を示す分解図である。
【図11】上下壁パネルPwと床パネルPf付近の配線構造を示す縦断面図である。
【図12】壁パネルPwと梁材400と胴差し41付近の配線構造を示す縦断面図である。
【図13】上下壁パネルPwと床パネルPf付近の接合状態を示す縦断面図である。
【図14】上下壁パネルPwと胴差し41付近の配線構造の他の例を示す斜視図である。
【図15】接合ボルト500の一例を示す分解斜視図である。
【図16】接合ボルト500を用いた上下壁パネルPwと胴差し41付近の配線構造を示す縦断面図である。
【図17】在来工法などに適用可能な座付ボルト600の一例を示す斜視図である。
【図18】座付ボルト600を用いた配線構造の一例を示す斜視図である。
【図19】在来工法などに適用可能な羽子板ボルト700の一例を示す斜視図である。
【図20】羽子板ボルト700を用いた配線構造の一例を示す斜視図である。
【図21】羽子板ボルト700を用いた配線構造の他の例を示す斜視図である。
【図22】火打金物800を用いた配線構造の一例を示す斜視図である。
【図23】火打金物800を用いた配線構造の他の例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0053】
10…基礎(布基礎)
20…1階床面
30…1階壁面
40…2階床面
40b…溝部
41…胴差し
50…2階壁面
60…屋根面
110…木製枠
111…縦框
112…横框
113…縦中桟
114…横中桟
115…案内管(リード管)
116…作業用孔
120…断熱材
130…面板
200…パイプ体
210…パイプ本体
220…フランジ
300、310…通過孔
400…梁材
500…中空ボルト
600…座付ボルト
700…羽子板ボルト
800…火打金物
Pw…壁パネル
Pf…床パネル
C…ケーブル類
SN…スクリュー釘

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下階の壁パネル上に床パネルを介して上階の壁パネルを接合した建物の配線構造であって、
前記下階の壁パネル上端と前記上階の壁パネル下端間に、前記床パネルを通過するパイプ体を架け渡すと共に、当該パイプ体内に前記下階および上階壁パネル間に亘るケーブル類を通過させて配線したことを特徴とする建物の配線構造。
【請求項2】
下階の壁パネル上に床パネルを介して上階の壁パネルを接合した建物の配線構造であって、
前記下階の壁パネル上端と前記上階の壁パネル下端間を前記床パネルを挟んで接合ボルトで接合すると共に、当該接合ボルトを両端が開口した中空ボルトで構成し、当該中空ボルト内に前記下階および上階壁パネル間に亘るケーブル類を通過させて配線したことを特徴とする建物の配線構造。
【請求項3】
請求項1または2に記載の建物の配線構造において、
前記下階壁パネルと上階壁パネル間に前記床パネルの端面を位置させると共に、当該床パネルの端面に胴差しを接合し、当該胴差しの接合面または前記床パネルの端面のいずれか一方あるいは両面に、前記パイプ体または中空ボルトが通過する溝部を備えたことを特徴とする建物の配線構造。
【請求項4】
梁材上に床パネルを介して壁パネルを接合した建物の配線構造であって、
前記壁パネルの下端と前記梁材間に、前記床パネルを通過するパイプ体を架け渡すと共に、当該パイプ体内に前記壁パネルと梁材間に亘るケーブル類を通過させて配線したことを特徴とする建物の配線構造。
【請求項5】
梁材上に床パネルを介して壁パネルを接合した建物の配線構造であって、
前記壁パネルの下端と前記梁材間を前記床パネルを挟んで接合ボルトで接合すると共に、当該接合ボルトを両端が開口した中空ボルトで構成し、当該中空ボルト内に前記壁パネルと前記梁材間に亘るケーブル類を通過させて配線したことを特徴とする建物の配線構造。
【請求項6】
請求項4または5に記載の建物の配線構造において、
前記壁パネルと梁材間に前記床パネルの端面を位置させると共に、当該床パネルの端面に胴差しを接合し、当該胴差しの接合面または前記床パネルの端面のいずれか一方あるいは両方に、前記パイプ体または中空ボルトが通過する溝部を備えたことを特徴とする建物の配線構造。
【請求項7】
請求項2または5に記載の建物の配線構造において、
前記接合ボルトは、胴差ボルトであることを特徴とする建物の配線構造。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の建物の配線構造において、
前記壁パネル内に、前記ケーブル類を通過させて配線するための案内管を備えたことを特徴とする建物の配線構造。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の建物の配線構造において、
前記壁パネルと床パネル、および当該床パネルと前記梁材とを接着剤およびスクリュー釘で連結することを特徴とする建物の配線構造。
【請求項10】
柱と横架材とを座付ボルトで接合した建物の配線構造であって、
前記円形座付ボルトを両端が開口した中空ボルトで構成し、当該中空ボルト内に、前記柱と横架材との間に亘るケーブル類を通過させて配線したことを特徴とする建物の配線構造。
【請求項11】
小屋梁材と軒桁材、軒桁材と柱材、胴差材と床梁材および柱材と胴差材とを羽子板ボルトで接合した建物の配線構造であって、
前記羽子板ボルトを両端が開口した中空ボルトで構成し、当該中空ボルト内に、前記小屋梁材と軒桁材との間、または軒桁材と柱材との間、または胴差材と床梁材との間、あるいは柱材と胴差材との間に亘るケーブル類を通過させて配線したことを特徴とする建物の配線構造。
【請求項12】
梁材と桁材間を火打金物で補強した建物の配線構造であって、
前記火打金物をパイプ体で構成し、当該パイプ体内に、前記梁材と桁材との間に亘るケーブル類を通過させて配線したことを特徴とする建物の配線構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2010−144448(P2010−144448A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−323973(P2008−323973)
【出願日】平成20年12月19日(2008.12.19)
【出願人】(307042385)ミサワホーム株式会社 (569)
【Fターム(参考)】