説明

建築板の製造方法及び建築板

【課題】インクジェット塗装が施された建築板に更に高い意匠性を付与することができると共に、この建築板の耐透水性を向上することができる建築板の製造方法を提供する。
【解決手段】セメント系スラリーを成形して得られた湿潤シートの表面に、セメントを主成分とする乾燥又は半乾燥状態の粉末状の表面材を散布して厚み10〜50mmの表面層を形成する。この表面層が形成された側の面に1〜20MPaの範囲のプレス圧力にてプレス加工を施して凹凸模様を形成すると共に表面層を厚み0.5〜5mm、密度0.9〜1.40g/cm3の範囲する。その後、養生硬化し、得られた無機質板1の表面に受理層を形成した後、インクジェット塗装を施す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット塗装が施された建築板の製造方法及び建築板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
外壁材、屋根材、塀材などの建築用外装材には、セメント系の建築板が広く用いられている。このような建築板は、建物の外観の形成を担うため、各種の意匠を実現する表面化粧について技術的な検討が加えられている。たとえば水性スラリーを抄造するなどして作製した湿潤シートの表面にプレス成形などにより凹凸模様付けをした後、これを養生硬化し、次いでその凹凸模様表面を塗装することが一般的に行われている。
【0003】
塗装の一方式として、最近、コンベア上で搬送される基材の表面に向けて、この基材の搬送速度と同期させてインクジェットノズルヘッドより塗料を噴射するインクジェット塗装が考えられている。このようなインクジェット塗装は、これまで一般的に用いられてきた塗装ロール等に比べ、局所的なしかも位置制御された塗装が可能である。したがって、濃淡表現などにより自然な風合いの高意匠塗装された建築板が製造可能であるという利点がある。
【特許文献1】特開2004−17007号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、近年の更なる建築板の高意匠性への要請の高まりのもと、インクジェット塗装がなされた建築板に対してより高い意匠性を付与することが求められるようになってきている。
【0005】
また、上記のような建築板に対してインクジェット塗装を施す場合には、予め多孔質の受理層を形成することでインクの馴染み性を高くした状態でインクジェット塗装を施すことが一般的であるが、かかる受理層を設けるとインク受理性能を落とさずに高い耐透水性を付与することが難しくなる。
【0006】
本発明は上記の点に鑑みて為されたものであり、インクジェット塗装が施された建築板に更に高い意匠性を付与することができると共に、この建築板の耐透水性を向上することができる建築板の製造方法及びこの方法にて製造される建築板を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る建築板の製造方法は、セメント系スラリーを成形して得られた湿潤シートの表面に、セメントを主成分とする乾燥又は半乾燥状態の粉末状の表面材を散布して厚み10〜50mmの表面層を形成し、この表面層が形成された側の面に1〜20MPaの範囲のプレス圧力にてプレス加工を施して凹凸模様を形成すると共に表面層を厚み0.5〜5mm、密度0.9〜1.40g/cm3の範囲とした後、養生硬化し、得られた無機質板の表面に受理層を形成した後、インクジェット塗装を施すことを特徴とするものである。前記表面層は、高圧縮されることから深い凹凸模様を形成することが容易であると共に、この表面層の吸水性と透水性とが低いものとなる。
【0008】
上記表面材としては、撥水剤が添加されたものを用いることができる。この場合、上記表面層の吸水性と透水性とが更に低いものとなる。
【0009】
また、上記撥水剤としてはシラン系撥水剤を用いることができる。この場合、上記表面層の吸水性と透水性とが更に低いものとなる。
【0010】
また、本発明に係る建築板は上記のような方法にて製造されたものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、セメント系の建築板に深い凹凸模様を形成すると共にその表面にインクジェット塗装により意匠性の高い模様を発現させることができ、前記凹凸模様とインクジェット塗装とが相まって、優れた意匠性を発揮するものであり、また、表面層の吸水性及び透水性が低いことから、建築板の耐透水性を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0013】
建築板の下地となる無機質板の作製には、セメントと補強繊維を主成分とする湿潤シート(グリーンシート)を用いることができる。この湿潤シートは、セメント系の水性スラリーを原料組成物として用いて、長網式、丸網式の各種の抄造法により抄造することができるが、押出成形等の適宜の手法を採用することもできる。原料組成物としては、例えば水硬性のセメント成分が30〜95質量%、シリカ、珪石粉、フライアッシュ等の充填材が2〜60質量%、パルプ等の補強繊維が3〜10質量%を占める固形分からなるものとし、この固形分100質量部に対し、水50〜2000質量部程度の割合としたスラリーを用いることができる。なお、セメント成分は、普通ポルトランドセメントをはじめ、高炉セメント等の、適宜に組成調整されたものを用いることができる。補強繊維のパルプは、針葉樹パルプ、広葉樹パルプ、再生古紙(古紙パルプ)、あるいはこれらの二種以上の混合物等を用いることができる。
【0014】
この湿潤シート上に、セメントと補強繊維を主成分とする乾式または半乾式の表面材を散布することで、グリーンシートに表面層を積層して形成する。この表面材には、前記の湿潤シートの場合と同様の材料を用いることができる。たとえば、セメント成分30〜95質量%、充填材2〜60質量%、補強繊維3〜10質量%からなる固形分に水が配合され、ミキサー混合されたものを用いることができる。充填材としては、パーライト等の軽量骨材を用いてもよい。
【0015】
さらに、基材表面の固形成分としては、セメント系外壁材を作製した際に不要部分として除去された部分等を砕いて用いてもよい。表面材にこのような再使用品を用いると、資源の有効利用が図れる。
【0016】
半乾式の表面材を散布する場合には、湿潤シートは含水率が50〜200質量%で、半乾式の表面材は含水率が5〜50質量%の範囲のものとして用いることが好適である。
【0017】
また、上記表面材の散布には、各種の手段を採用することができる。
【0018】
このように二層の材料を形成した後、表面材を散布した面にプレス成形を施して凹凸模様を形成することができる。このとき、グリーンシートのみの場合に比して、乾式又は半乾式の表面材を散布していることにより、材料の圧縮性が向上し、成形時の柄再現性が高くなる。
【0019】
このように表面層を形成した後、プレス成形を行うにあたっては、表面材の散布により形成される表面層の厚みを10〜50mmの範囲となるように表面材を散布し、表面層形成後のプレス成形時のプレス圧力が1〜20MPaの範囲となるようにし、このプレス後の表面層の厚みが0.5〜5mm、表面層の密度が0.9〜1.40g/cm3の範囲となるようにする。これにより表面層を高圧縮して柄再現性の高い模様を形成することができ、建築板により高い意匠性を付与することができるものであり、また、このように表面層を緻密に形成することでその吸水性や透水性を小さくすることができ、後述するような受理層を形成しているにもかかわらず、建築板全体の吸水性や透水性を低減することができるものである。
【0020】
また、上記表面層を形成するための表面材として、撥水剤を添加したものを用いれば、表面層の吸水性や透水性を更に低減することができる。この撥水剤としては、例えばシリコーン系撥水剤を用いることができ、特にアルコキシル基を有する構造を備えるアルコキシシラン系撥水剤を用いることが好ましい。
【0021】
上記アルコキシシラン系撥水剤としては、中鎖もしくは長鎖のアルキル基を官能基として有しているものを挙げることができ、例えば下記一般式(1)や下記一般式(2)に示すものを挙げることができる。
【0022】
nSi(OR14-n…(1)
一般式(1)中のnは1〜3の整数を、Rは中鎖または長鎖のアルキル基を、R1はアルキル基をそれぞれ示す。
【0023】
nSi(OR14-n-mm…(2)
一般式(2)中のnは1〜3の整数を、mは0〜2の整数を、Rは中鎖または長鎖のアルキル基を、R1はアルキル基を、Xは加水分解性基をそれぞれ示す。
【0024】
このようなアルコキシシラン系撥水剤は、モノマー分子からなるもののほか、加水分解により複数分子が重縮合したオリゴマーからなるものを用いることもできる。
【0025】
ここで、中鎖もしくは長鎖のアルキル基(R)としては、炭素数4〜12の直鎖または分枝鎖アルキル基が好適なものとして例示される。また、アルコキシ基(OR1)を構成するアルキル基(R1)については通常は、炭素数1〜3程度の低級アルキル基が好ましい。また、加水分解性基については、アルコキシ基、エステル基、ハロゲン原子等を挙げることができる。
【0026】
このような中鎖もしくは長鎖アルキル基を官能基とするアルコキシシラン系撥水剤は、これらの分子が水の存在によって相互に、もしくは散布される表面材中のセメント成分や骨材成分との反応によって、無機質板の表面に所要の低吸水性を与えると考えられる。この場合の反応については、使用する撥水剤の種類や添加量、表面材の組成等に依存して、目安としては、20〜100%の範囲、好ましくは50〜90%程度の範囲の反応率とすることが考慮される。
【0027】
このような反応率をも考慮すると、アルコキシシラン系撥水剤は、加水分解によるオリゴマーとして用いられることが好ましい。
【0028】
また、上記のようにアルコキシシラン系撥水剤の官能基アルキル基は、炭素数4〜12の中鎖または長鎖アルキル基であることが好ましく、炭素数1〜3の低級アルキル基の場合には、良好な低吸水化効果を得ることは難しくなり、炭素数が12を超える場合にも同様である。
【0029】
このような撥水剤の添加量は、上記表面材に対して0.05〜5.0重量%の範囲とすることが好ましい。0.05重量%未満では、表面の低吸水化の効果は充分でなく、一方、5.0重量%を超えて添加する場合には、過度の低吸水化によって、促進前養生におけるエフロレッセンスの発生を抑制することが困難となる。
【0030】
また、このような撥水剤は、モノマー又はオリゴマーのみを添加しても良いが、予め水と混合されたエマルション状態で表面材に添加されることが好ましい。これにより撥水剤を表面材へ均一に分散させることができる。
【0031】
表面材への前記の撥水剤の添加については、湿潤シートの材料組成、その含水率等を考慮しての撥水剤の種類、添加量、そして水分との混合割合等が選択される。この選択によって、製品としての建築板の表面吸水性をコントロールすることができるが、好適には、養生硬化後の表面透水値が5000g/m2以下となるようにこれらの条件が選択される。ここで、5000g/m2を超えて大きな表面透水値を有する建築板は、後工程での防水加工を追加的に行わなければならなくなる場合がある。
【0032】
このようなプレス成形後、表面材による表面層が積層されたグリーンシートを養生硬化する。このときオートクレーブ養生をすることが望ましく、その際の温度としては140℃以上とすることが好適である。また、実際的には、養生は、オートクレーブ養生と、これに先行しての促進前養生、つまり加温のために水蒸気が投入される前養生との二段階での養生であることが望ましい。これによって、無機質板に十分な強度が得られ、構造と性能の均一化が図られることになる。
【0033】
この成形体の養生時には、養生前の表面層の表面にシーラーを塗布しても良いが、上記のように表面層の吸水性や透水性が低減されているため、後工程での防水加工を追加的に行う必要がなく、製造工程を簡略化することができる。
【0034】
但し、シーラーを塗布することにより建築板の耐透水性を更に向上するようにしても良い。この場合にはシーラーとしては特に制限されず、例えばアクリル系エマルション塗料を用いることができるが、ウレタン系、シリコン系、フッ素系等の水性エマルション塗料を用いることもできる。
【0035】
シーラーの塗装方法は特に制限されず、一般的に用いられる、ロール、スプレー、シャワー等の塗装方法が適用できるが、例えばロール塗装により塗装することができ、或いは更にスプレー塗装を施すと、特に深い凹凸模様を形成してロール塗装のみでは全体を塗装できない場合にも全体的に塗装を施すことができて好ましい。
【0036】
このようなシーラーの塗装を行う場合には、表面材の散布後、養生前に行うものであるが、上記のように促進前養生を行う場合には促進前養生後にシーラーを塗布し、次いでオートクレーブ養生を行えば、促進前養生によりハンドリングが向上された基材にシーラーを塗布することができ、シーラーの塗布性が向上すると共に塗布の効率が高くなる。
【0037】
養生硬化後は、得られた無機質板の表面層が形成されている側に、受理層を積層して形成する。受理層はインクジェット塗装時に塗布されるインクを滲みなく定着させる機能を有し、インクを吸収する性質を有するもの、例えば吸水性を有する多孔質の層を形成するものである。具体的には例えば無機フィラーと吸湿性樹脂の少なくとも一方を配合した水性塗料等を用い、これをスプレー等して塗布した後、100〜200℃で30秒以上加熱乾燥して成膜することにより、受理層を形成することができる。この受理層の厚みは特に制限されないが、湿潤塗膜量で30〜200g/m2の範囲となるようにすることが好ましい。
【0038】
受理層の形成後、この受理層の表面にインクジェット塗装を施す。
【0039】
インクジェット塗装を行うために用いる塗装装置としては、図1に示すものを挙げることができる。この塗装装置は、噴射ノズル10を設けた塗装ノズルヘッド8、塗装ノズルヘッド8の噴射ノズル10に塗料を供給する塗料供給タンク9、塗装ノズルヘッド8の噴射ノズル10からの塗料の噴射を制御する塗装制御システム11などを設けたインクジェット式塗装機12と、無機質板1を搬送する搬送手段7とを備えて形成されるものである。
【0040】
塗装ノズルヘッド8はインクジェット式塗装機12の下端に設けられているものであり、建築板1の送り方向と垂直な方向に長いラインヘッドとして形成してある。
【0041】
塗装ノズルヘッド8はイエロー、シアン、マゼンタ、ブラックの各色の塗料を噴出する4種類の塗装ノズルヘッド8y,8c,8m,8kから形成してあり、フルカラー印刷による塗装を行なうことができるようにしてある。塗装ノズルヘッド8の個数はこれに限られず、使用するインクの種類に応じた個数が設けられる。塗料供給タンク9も同様に4種類のものからなるものであり、イエローの塗料を供給する塗料供給タンク9yは塗装ノズルヘッド8yに、シアンの塗料を供給する塗料供給タンク9cは塗装ノズルヘッド8cに、マゼンタの塗料を供給する塗料供給タンク9mは塗装ノズルヘッド8mに、ブラックの塗料を供給する塗料供給タンク9kは塗装ノズルヘッド8kにそれぞれ接続してある。そして各塗装ノズルヘッド8y,8c,8m,8kは無機質板1の搬送方向に沿って配列してある。
【0042】
塗装制御システム11は、各種のCPU、ROM、RAM等から構成されるものであり、塗装データ作成部、塗装制御部、噴射ノズル制御部等を備えて形成してある。塗装データ作成部は、原画をスキャナ等して得た色柄パターンのデータを入力して保存するものであり、塗装制御部は、塗装を行なう建築板1に応じた色柄パターンのデータを塗装データ作成部から取り出し、この色柄パターンのデータに基づいて、噴射ノズル制御部に制御信号を出力するものである。また噴射ノズル制御部は塗装ノズルヘッド8y,8c,8m,8kの各噴射ノズル10に接続してあり、噴射ノズル制御部から入力される制御信号に基づいて各噴射ノズル10を制御するものである。各噴射ノズル10は例えばピエゾ制御方式や光熱交換素子にレーザ光を照射する制御方式により噴射を制御されるようになっており、噴射ノズル制御部で各噴射ノズル10を制御することによって、イエロー、シアン、マゼンタ、ブラックの各塗料の噴射と停止を個別に制御して、色柄パターンに対応したフルカラー印刷による塗装を行なうことができるものである。
【0043】
搬送手段7はタイミングベルトなどの無限帯状のベルト13をプーリ14間に懸架したベルトコンベア7aで形成することができ、無限帯状のベルト13の上面で構成される搬送面6がインクジェット式塗装機12の下側に配置されるものである。
【0044】
インクジェット塗装を行うにあたっては、まず搬送手段7に無機質板1を供給する。このとき、複数の無機質板1を順次間隔をあけて搬送することができる。
【0045】
このように搬送手段7にて搬送される無機質板1は、塗装ノズルヘッド8の下方を通過する。このとき塗装ノズルヘッド8から無機質板1上の受理層に向けてインクがインクジェット方式で噴射されて塗装が施され、意匠模様が付与された建築板1が得られる。
【0046】
かかるインクジェット塗装により、建築板1に所望の意匠模様を発現させることができる。またこのようなインクジェット塗装を施すことで位置制御された塗装が可能であり、例えば受理層に形成した凹部と合致した塗装も可能となる。また、濃淡表現や、シャープ或いはソフトな表現などにより自然な風合いの高意匠塗装が可能となる。また、このとき受理層にインクが浸入して定着することで、鮮明な意匠模様が付与される。
【0047】
このとき、上記のように無機質板には深い凹凸模様を形成することが可能であるため、これにインクジェット塗装を施すことで、深い凹凸模様と相まって、意匠性が著しく高い意匠模様を発現させることができるものである。また、インクジェット塗装による塗装を施すことから、深い凹凸模様を有する無機質板の凸部や凹部に塗り残しが生じることなく、全面に亘って所望の意匠模様を発現させることができるものである。
【0048】
次に、必要に応じて、インクジェット塗装が施された受理層の表面に、表面保護用のためのクリアー層を形成する。クリアー層は適宜のクリアー塗料を塗布成膜することにより形成することができ、例えばアクリル系エマルションからなるもの等を用い、これをスプレー等して塗布した後、100〜200℃で30秒以上加熱乾燥して成膜することにより、クリアー層を形成することができる。このクリアー層の厚みは特に制限されないが、湿潤塗膜量で20〜200g/m2の範囲となるようにすることが好ましい。
【0049】
また、クリアー層の表面に無機質塗料層を形成することも好ましい。無機質塗料層は、建築板の耐候性等の耐久性を向上させるために必要な層であり、SiO骨格で構成された塗膜で、紫外線吸収剤、場合によっては、艶消し剤が配合された塗膜からなるものである。例えば、特許第3242442号公報や特許第3193832号公報に記載されたコーティング用組成物や、特開平9−249822号公報に記載された無機コーティング剤で形成することができる。
【0050】
無機質塗料の具体例として、特許第3242442号公報に記載されたコーティング用組成物を以下に挙げる。すなわち、
(A)一般式(I)
SiX4−n…(I)
(式中、Rは同一または異種の、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、ハロゲン置換炭化水素基、γ−メタクリロキシプロピル基、γ−グリシドキシプロピル基、3,4−エポキシシクロヘキシルエチル基およびγ−メルカプトプロピル基からなる群より選ばれる、炭素数1〜8の1価炭化水素基を示し、nは0〜3の整数、Xはアルコキシ基、アセトキシ基、オキシム基、エノキシ基、アミノ基、アミノキシ基およびアミド基からなる群より選ばれる加水分解性基を示す。)で表わされる加水分解性オルガノシランを有機溶媒または水に分散されたコロイダルシリカ中で、X1モルに対し水0.001〜0.5モルを使用する条件下で部分加水分解してなる、オルガノシランのシリカ分散オリゴマー溶液、
(B)平均組成式(II)
Si(OH)(4−a−b)/2…(II)
(式中、Rは同一または異種の、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、ハロゲン置換炭化水素基、γ−メタクリロキシプロピル基、γ−グリシドキシプロピル基、3,4−エポキシシクロヘキシルエチル基およびγ−メルカプトプロピル基からなる群より選ばれる、炭素数1〜8の1価炭化水素基を示し、aおよびbはそれぞれ0.2≦a≦2、0.0001≦b≦3、a+b<4の関係を満たす数である。)で表わされ、成分中のRにフェニル基を全R基に対して1〜30モル%含有するポリオルガノシロキサン、および、
(C)(A)成分と(B)成分との縮合反応を促進する触媒を必須成分とし、(A)成分においてシリカを固形分として5〜95重量%含有し、加水分解性オルガノシランの少なくとも50モル%がn=1のオルガノシランで、(A)成分1〜99重量部に対して(B)成分99〜1重量部が配合されているコーティング用組成物である。
【0051】
そして、無機質塗料層を形成するにあたっては、クリアー層を形成した無機質板1をあらかじめ40℃以上に加温しておき、この状態でスプレーガンを用いて無機質塗料を塗布することによって行うことができる。このとき、乾燥条件は、100〜200℃、1〜5分間であることが好ましい。十分に焼付け乾燥を行わないと、温度湿度条件によっては、無機質塗料層の耐久性能が発揮されないおそれがあると共に、後述する光触媒塗料層の性能を十分に引き出すことができないおそれがある。また、無機質塗料層を形成するにあたっては、クリアー層の表面に無機質塗料を塗布量4〜40g/m・dryで塗布するのが好ましい。塗布量が4g/m・dryより少ないと、耐候性等の耐久性を十分に得ることができないおそれがあり、逆に、塗布量が40g/m・dryより多いと、硬化収縮が大きくなり、クラック等が発生するおそれがある。
【0052】
さらに、本発明においては、無機質塗料層の表面に光触媒塗料層を形成するのが好ましい。光触媒塗料層は、超親水性を有しており、建築板の防汚性を向上させるために必要な層であり、SiO骨格で構成された塗膜で、光触媒、場合によっては、艶消し剤が配合された塗膜からなるものである。例えば、特許第2776259号公報に記載された抗菌性無機塗料や、松下電工(株)製「フレッセラPS1000」で形成することができる。
【0053】
光触媒塗料層を形成するにあたっては、無機質塗料層を形成した無機質板1をあらかじめ40℃以上に加温しておき、この状態でスプレーガンを用いて光触媒塗料層形成用塗料を塗布することによって行うことができる。このように、無機質板1をあらかじめ加温しておくことで、光触媒塗料層を形成した後の乾燥工程でのエネルギーを小さく抑えることができるものである。また、光触媒塗料層を形成するにあたっては、無機質塗料層の表面に光触媒塗料層形成用塗料を塗布量0.5〜5g/m・dryで塗布するのが好ましい。塗布量が0.5g/m・dryより少ないと、防汚性を十分に得ることができないおそれがあり、逆に、塗布量が5g/m・dryより多いと、建築板が乳白色となり、意匠性が低下するおそれがある。
【0054】
このようにクリアー層の表面に無機質塗料層を形成すると、耐候性等の耐久性を高く得ることができるものである。また建築板の表面に付着した有機物などの汚れは、光触媒塗料層の光触媒作用によって分解されると共に、光触媒塗料層が超親水性を発現することにより、分解した汚れを雨水等によって容易に除去することができるので、建築板の防汚性を高く得ることができるものである。
【0055】
以上のようにして得られる建築板は、建築物の外装材や内層材等として用いることにより、建築物に非常に優れた意匠性を付与することができるものである。
【実施例】
【0056】
(実施例1)
普通ポルトランドセメント40重量%、珪石粉40重量%、パルプ5重量%、その他充填材15重量%の組成の固形分配合物60重量部を540重量部の割合の水と混合してスラリー化し、これを抄造して厚み30mmの湿潤シート(グリーンシート)を作製した。
【0057】
また、上記同様の組成の固形分成分からなる表面材にシラン系撥水剤のオリゴマー(東レ・ダウこーニング株式会社製、品番「Z6288」)をその表面材に対する添加量が下記表1に示すものになるように添加すると共にこの表面材の含水率を25%とし、これを上記グリーンシートの上面に散布して下記表1に示す厚みの表面層を形成した。
【0058】
次に、表面層を形成した面を下記表1に示すプレス圧力で、凸型部をもつ金型(高さ5mm、凸部角角度120°)を用いて脱水プレス成形により深さ5mmの凹凸模様を形成すると共に、プレス後の表面層を下記表1に示すものとした。
【0059】
次いで、湿潤雰囲気中で80℃で24時間促進前養生を施した後、シーラーし、170℃で12時間オートクレーブ養生した。
【0060】
次いで、表面層を形成した面にアクリル系エマルションに多孔質シリカを配合した組成物をスプレーして湿潤塗膜量が100g/m2となるように塗布した後、150℃で60秒間加熱乾燥して成膜することにより、受理層を形成した。
【0061】
次いで、受理層の表面に、水性インクを用い、マスターマインド株式会社製のインクジェット塗装装置(品番「MMP13000」)を用いてインクジェット塗装を施した。
【0062】
次いで、塗装が施された受理層表面にアクリル系エマルションからなるクリアー塗料をスプレーして湿潤塗膜量が100g/m2となるように塗布した後、150℃で60秒間加熱乾燥して成膜することにより、クリアー層を形成した。
【0063】
次に、クリアー層の表面に特許第3242442号公報に記載された実施例1のコーティング剤にて無機質塗料層を形成した。
【0064】
すなわち、以下のようにして、A成分、B成分を調製し、A成分とB成分とC成分(N−β−アミノエチル−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン)とを重量比でA:B:C=70:30:1の割合で配合することにより、無機質塗料層を形成する塗料とした。
【0065】
(A成分の調製)
攪拌機、加温ジャケット、コンデンサーおよび温度計を取付けたフラスコ中にメタノール分散コロイダルシリカゾルMA−ST(粒子径10〜20mμ、固形分30%、日産化学工業社製)100部、メチルトリメトキシシラン68部、水10.8部を投入して攪拌しながら65℃の温度で約5時間かけて部分加水分解反応を行い冷却して(A)成分を得た。このものは、室温で48時間放置したときの固形分が36%であった。ここで得た(A)成分の調製条件は次のとおりであった。
・加水分解性基1モルに対する水のモル数:4×10-1
・(A)成分のシリカ分含有量:47.3%
・n=1の加水分解性オルガノシランのモル%:100モル%
(B成分の調製)
攪拌機、加温ジャケット、コンデンサー、滴下ロートおよび温度計を取付けたフラスコにメチルトリイソプロポキシシラン209部(0.95モル)とフェニルトリクロロシラン10.575部(0.05モル)とトルエン150部との混合液を計り取り、水150部を上記混合液に20分で滴下してメチルトリイソプロポキシシランを加水分解した。滴下40分後に攪拌を止め、二層に分離した少量の塩酸を含んだ下層の水・イソプロピルアルコールの混合液を分液し、次に残ったトルエンの樹脂溶液の塩酸を水洗で除去し、さらにトルエンを減圧除去した後、トルエンで希釈し平均分子量約2000のシラノール基含有オルガノポリシロキサンのトルエン40%溶液を得た。これをB成分とした。
【0066】
そして、このコーティング材をスプレーして塗布した後、150℃で7分間加熱乾燥して成膜することにより、乾燥塗膜量が7g/m2の無機質塗料層を形成した。
【0067】
次に、無機質塗料層の表面に光触媒含有セラミック塗料(松下電工株式会社製、品番「PS1000」)をスプレーして塗布した後、150℃で1分間加熱乾燥して成膜し、乾燥塗膜量が0.7g/m2の光触媒層を形成した。これにより建築板を得た。
【0068】
(実施例2)
表面材として撥水剤の添加がなされていないものを用い、また表面層の形成及びプレス加工条件を下記表1に示すものに変更した以外は、実施例1と同様にして建築板を得た。
【0069】
(実施例3)
表面層の形成及びプレス加工条件を下記表1に示すものに変更した以外は、実施例1と同様にして建築板を得た。
【0070】
(実施例4)
撥水剤としてシラン系撥水剤(東レ・ダウコーニング株式会社製、品番「ドライシールS」)を表面材に添加するようにし、また表面層の形成及びプレス加工条件を下記表1に示すものに変更した以外は、実施例1と同様にして建築板を得た。
【0071】
(比較例1,2)
比較例1では表面材として撥水剤の添加がなされていないものを用い、また表面層の形成及びプレス加工条件を下記表1に示すものに変更した以外は、実施例1と同様にして建築板を得た。
【0072】
(評価試験)
各実施例及び比較例について、、脱水プレス成形により形成された凹凸模様を目視で観察し、プレス成形した際のシートへの型転写性を評価することで、柄再現性を評価した。このときクラックがある場合を「×」、僅かなクラックがある場合を「△」、クラックがないがエッジが鈍角な場合を「○」、クラックが無くエッチがシャープなものを「◎」と評価した。
【0073】
また、各実施例及び比較例について、枠置き法による耐透水性試験を行い、測定される透水量にて透水性を評価した。
【0074】
ここで、枠置き法による耐透水性試験は次のようにして行った。
【0075】
まず建築板から平面視300×300mmの寸法の試験片を切り出し、室内に一週間放置する。次に、200×200mmの寸法の矩形枠状の試験枠を、試験片の表面にエポキシ樹脂系接着剤で貼着し、この試験枠が貼着された試験片の重量W0(g)を電子天秤で測定した後、この試験片上の前記枠内に深さ20mmまで注水する。この状態で24時間静置した後、水を捨て、試験片の表面に付着した水をウエスで拭き取った後、直ちに試験片の重量W1(g)を測定する。ここで、前記重量W0及びW1は、電子天秤にて1/10g単位まで測定する。そして、下記式に基づいて、透水量A(g/m2)を算出するものである。
【0076】
A=(W1−W0)/0.04
このとき、測定される透水量が1000g/m2のものを「×」、透水量が500g/m2以上1000g/m2未満のものを「△」、透水量が100g/m2以上500g/m2未満のものを「○」、透水量が100g/m2未満のものを「◎」と評価した。
【0077】
以上の結果を下記表1に示す。
【0078】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】インクジェット塗装の工程の一例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0080】
1 無機質板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント系スラリーを成形して得られた湿潤シートの表面に、セメントを主成分とする乾燥又は半乾燥状態の粉末状の表面材を散布して厚み10〜50mmの表面層を形成し、この表面層が形成された側の面に1〜20MPaの範囲のプレス圧力にてプレス加工を施して凹凸模様を形成すると共に表面層を厚み0.5〜5mm、密度0.9〜1.40g/cm3の範囲とした後、養生硬化し、得られた無機質板の表面に受理層を形成した後、インクジェット塗装を施すことを特徴とする建築板の製造方法。
【請求項2】
上記表面材は、撥水剤が添加されたものであることを特徴とする請求項1に記載の建築板の製造方法。
【請求項3】
上記撥水剤がシラン系撥水剤であることを特徴とする請求項2に記載の建築板の製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかの方法にて製造されたことを特徴とする建築板。

【図1】
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【公開番号】特開2007−176773(P2007−176773A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−379722(P2005−379722)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(503367376)クボタ松下電工外装株式会社 (467)
【Fターム(参考)】