説明

建築構造物用の能動型制振装置

【課題】制振すべき特定方向において電磁式加振手段による加振力を効率的にマス部材に及ぼして優れた能動的制振効果を得ることが出来ると共に、かかる特定方向以外の方向へのマス部材の振動変位に起因する電磁式加振手段の損傷等の不具合を回避することが出来る、新規な構造の建築構造物用の能動型制振装置を提供することを、目的とする。
【解決手段】全体として溝形状とされた第二の取付部材24が延びる溝方向での本体ゴム弾性体26のばね特性がかかる溝方向に対する直交方向よりも小さく設定されているゴムマウント18が、マス部材16に対して、第二の取付部材24が同じ方向に揃えられた状態で、複数装着されていると共に、第二の取付部材24が延びる溝方向で、電磁式加振手段14による加振力がマス部材16に及ぼされるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、住宅などの建築構造物に対する副振動系を構成して主振動系たる建築構造物における振動を抑える建築構造物用の制振装置に係り、特に、マス部材に水平方向の加振力を及ぼすことによって、能動的な制振効果を得るようにした建築構造物用の能動型制振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般住宅や事務所等の建築構造物では、交通振動等の外力が加振力として作用することによって水平方向の振動が発生する場合がある。特に、近年では、一般住宅等でも、木造や軽量鉄骨構造等によって二階建てや三階建てが多くなってきており、それらの住宅等では、構造上、二階や三階の振動が大きくなり易いために、交通振動による微振動が、例えば就寝時や就業時における不快振動や不快騒音等の原因として問題となってきている。
【0003】
ところで、建築構造物用の制振装置の一種である能動型の制振装置としては、特許文献1(特開平2−300478号公報)や特許文献2(特開平9−41714号公報)等において、建築構造物に対してリニアベアリング等の摺動機構を介して相対移動可能に支持せしめた付加マス部材を、電動モータで駆動せしめられるボールねじ機構等によって相対変位せしめる構造のものが提案されている。
【0004】
しかしながら、これら従来の建築構造物用の制振装置は、もともと高層建築物における地震時の揺れ低減の目的で開発されたものであり、非常に大掛かりで一般住宅や事務所などの小型の建築構造物用には適わなかった。特に、高層建築物における地震時の制振など、作動頻度が少ない場合はそれ程大きな問題とならないが、交通振動の制振など、略常時作動させると、摺動機構やボールねじ機構の疲労や摩耗が非常に大きな問題となり易いという問題もある。
【0005】
そこで、本出願人は、先に、特許文献3(特許第3752926号公報)において、一般住宅等の小型建築物に適合した能動型制振装置として、建築構造物に弾性支持せしめたマス部材に対して電磁式アクチュエータ等の加振手段で水平方向の加振力を及ぼす構造の建築構造物用の能動型制振装置を提案した。
【0006】
この先願に係る能動型制振装置においては、マス部材をゴムマウントで支持させたことによって、マス部材の加振変位時の抵抗が小さくなると共に、装置の構造を簡単にすることが可能となる。また、マス部材を加振する加振手段として、電磁式アクチュエータ等の電磁式加振手段を採用したことにより、位相や振幅等の加振制御が容易になると共に、装置の小型化を図ることが可能となる。加えて、加振手段が建築構造物によって支持されていることから、加振手段の配設状態の安定化が図られて、マス部材に加振力を安定して及ぼすことが可能となる。
【0007】
しかしながら、本発明者が更なる実験と検討を重ねたところ、特許文献3に記載の建築構造物用の能動型制振装置においても、未だ改良の余地があることが判った。
【0008】
すなわち、建築構造物には、特定の方向だけでなく他の方向にも振動が発生し、また、建築構造物に発生する振動の方向は、交通振動等の外部からの加振力が作用する方向等に応じて、更に複数の方向に発生した振動が連成すること等によって、変化する場合があることから、上述の特許文献3に記載されている建築構造物用の能動型制振装置のように、ゴムマウントでマス部材を建築構造物に対して弾性支持せしめた構造では、マス部材が複数の方向に振動変位し易くなる。
【0009】
それ故、特許文献3に記載されている建築構造物用の能動型制振装置のように、加振手段として電磁式アクチュエータが採用されている場合には、マス部材が加振手段の加振方向と異なる方向に振動すると、以下のような問題がある。即ち、加振手段として電磁式アクチュエータを採用する場合、その出力軸と固定ハウジングの間に形成された磁気ギャップに駆動力が発生するようになっていることから、出力軸や固定ハウジングに対して軸直角方向の成分をもった外力が及ぼされると、例えば、出力軸が固定ハウジングに対して抉られる等して干渉し、電磁式アクチュエータに損傷等の不具合が発生するおそれがある。また、電磁式アクチュエータの耐久性の低下も懸念される。
【0010】
なお、このような問題に対処するために、例えば特許文献1,2に記載のように、マス部材の変位方向を一方向に制限するリニアベアリング等を採用することも考えられる。しかし、そのようなリニアベアリングはマス部材の変位に際して異音を発生し易く、また、マス部材の変位に対して大きな摩擦等の抵抗力を生じてエネルギー効率の低下が避けられない。それ故、そのようなリニアベアリング等の機械的なガイド機構の採用は、一般住宅等の小型建築物用の制振装置において現実的ではないのである。
【0011】
【特許文献1】特開平2−300478号公報
【特許文献2】特開平9−41714号公報
【特許文献3】特許第3752926号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ここにおいて、本発明は、上述の如き事情を背景として為されたものであって、その解決課題とするところは、制振すべき特定方向において電磁式加振手段による加振力を効率的にマス部材に及ぼして優れた能動的制振効果を得ることが出来ると共に、かかる特定方向以外の方向へのマス部材の振動変位に起因する電磁式加振手段の損傷等の不具合を回避することが出来る、新規な構造の建築構造物用の能動型制振装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
以下、このような課題を解決するために為された本発明の態様を記載する。なお、以下に記載の各態様において採用される構成要素は、可能な限り任意の組み合わせで採用可能である。
【0014】
本発明は、建築構造物に対してマス部材が複数のゴムマウントで弾性支持されることにより動的吸振器が構成されるようになっていると共に、建築構造物において制振すべき振動方向となる水平方向の加振力をマス部材に及ぼす加振手段が設けられた建築構造物用の能動型制振装置において、マス部材と建築構造物の一方に取り付けられる第一の取付部材とそれらマス部材と建築構造物の他方に取り付けられる第二の取付部材とが上下方向で離隔して対向配置せしめられ、それら第一の取付部材と第二の取付部材の対向面間に本体ゴム弾性体が配設されて第一の取付部材と第二の取付部材が弾性連結されている一方、第二の取付部材において第一の取付部材に対する対向方向に直交する水平方向に広がる底壁部とかかる底壁部の幅方向両端部から第一の取付部材側に向かって延び出す一対の縦壁部とが設けられて、第二の取付部材が全体として溝形状とされていると共に、第一の取付部材と第二の取付部材における底壁部との鉛直方向の対向面間と、第一の取付部材と第二の取付部材における一対の縦壁部との水平方向の両側での対向面間とが、それぞれ、本体ゴム弾性体で連結されており、更に、第一の取付部材と第二の取付部材における底壁部との鉛直方向の対向面間を水平方向に広がる横板部と、かかる横板部の幅方向両端部から第一の取付部材側に向かって延び出して第一の取付部材と第二の取付部材における一対の縦壁部との水平方向の両側での対向面間に広がる一対の縦板部とからなる全体として溝形状の中間拘束板が設けられて、第一の取付部材と第二の取付部材との対向面間で中間拘束板が本体ゴム弾性体に固着せしめられた構造をもってゴムマウントが構成されており、かかるゴムマウントの複数が、それぞれにおいて溝形状とされた第二の取付部材が同じ方向に揃えられてマス部材に対して装着されている一方、加振手段として電磁式加振手段を採用し、かかる電磁式加振手段を建築構造物に支持せしめる支持部材を設けると共に、ゴムマウントにおいて溝形状とされた第二の取付部材が延びる溝方向で、電磁式加振手段による加振力がマス部材に及ぼされるようになっていることを、特徴とする。
【0015】
このような本発明に従う構造とされた建築構造物用の能動型制振装置においては、複数のゴムマウントのそれぞれが、第一の取付部材と全体として溝形状とされた第二の取付部材が本体ゴム弾性体で弾性連結された構造とされていると共に、第一の取付部材と第二の取付部材の対向面間において、全体として溝形状とされた中間拘束板が本体ゴム弾性体に固着されており、その状態で、中間拘束板における横壁部が、第一の取付部材と第二の取付部材における底壁部との鉛直方向の対向面間を水平方向に広がると共に、中間拘束板における一対の縦板部が、第一の取付部材と第二の取付部材における一対の縦壁部との水平方向の両側での対向面間に広がっていることから、本体ゴム弾性体における第二の取付部材が延びる溝方向でのばね剛性を、第一の取付部材と第二の取付部材における底壁部との対向方向(鉛直方向)や、第二の取付部材における一対の縦壁部の対向方向(水平方向)でのばね剛性よりも十分に小さくすることが可能となる。
【0016】
そこにおいて、本発明では、複数のゴムマウントのそれぞれが、全体として溝形状とされた第二の取付部材が同じ方向に揃えられた状態で、マス部材に装着されていると共に、第二の取付部材が延びる溝方向で、電磁式加振手段による加振力がマス部材に及ぼされるようになっていることから、第二の取付部材が延びる溝方向と制振すべき振動の方向を一致させることにより、電磁式加振手段による加振力を効率的にマス部材に及ぼして、優れた制振効果を得ることが可能になる。
【0017】
また、制振すべき振動の方向(第二の取付部材が延びる溝方向)以外の方向では、本体ゴム弾性体のばね剛性が十分に大きくされて、マス部材の振動変位が抑制されるようになっていることから、制振すべき振動の方向(第二の取付部材が延びる溝方向)以外の方向へのマス部材の振動変位に起因する電磁式加振手段の損傷等の不具合を回避することが可能となる。
【0018】
加えて、本発明では、電磁式加振手段を建築構造物に支持せしめる支持部材が設けられていることから、電磁式加振手段の配設状態の安定化を図ることが可能となる。これにより、電磁式加振手段による加振力をマス部材に対して安定して作用せしめることが可能となる。
【0019】
なお、本発明では、本体ゴム弾性体において、第二の取付部材が延びる溝方向に貫通するすぐり部が形成されていても良い。これにより、第二の取付部材が延びる溝方向での本体ゴム弾性体のばね剛性を小さくしつつ、第二の取付部材が延びる溝方向に対する直交方向、具体的には、第一の取付部材と第二の取付部材における底壁部との対向方向(鉛直方向)や、第二の取付部材における一対の縦壁部の対向方向(水平方向)での本体ゴム弾性体のばね剛性を調節することが可能となる。
【0020】
また、本発明では、第二の取付部材と中間拘束板の少なくとも一方において、本体ゴム弾性体内に突出する拘束突部が形成されていても良い。これにより、第二の取付部材が延びる溝方向での本体ゴム弾性体のばね剛性を小さくしつつ、第二の取付部材が延びる溝方向に対する直交方向、具体的には、第一の取付部材と第二の取付部材における底壁部との対向方向(鉛直方向)や、第二の取付部材における一対の縦壁部の対向方向(水平方向)での本体ゴム弾性体のばね剛性を大きく設定することが可能となる。
【0021】
更にまた、本発明では、電磁式加振手段によりマス部材に及ぼされる加振力の反力が支持部材を介して建築構造物に及ぼされるようになっていると共に、建築構造物において制振すべき振動周波数に対して動的吸振器の固有振動数が低周波数側に外して設定されており、電磁式加振手段によってマス部材に及ぼされる加振力の周波数を制御することで、動的吸振器の固有振動数よりも高周波数域で且つ建築構造物において制振すべき振動周波数に相当する周波数の加振力をマス部材に及ぼすように電磁式加振手段を作動制御する加振制御手段が設けられていることが望ましい。これにより、制振すべき振動の周波数が変化した場合にも、周波数の変化に追従して、安定した制振効果を得ることが可能となる。
【0022】
また、本発明では、加振制御手段において、電磁式加振手段によりマス部材に及ぼされる加振力の周波数fが、動的吸振器の固有振動数f0 に対して、f0 +0.5Hz以上で且つf0 ×2Hz以下に設定されるようになっていることが望ましい。これにより、建築構造物において制振対象となる振動の周波数の変化に際しても、より安定した加振力(即ち、能動的制振効果)をより効率的に建築構造物に対して作用せしめることが可能となる。なお、建築構造物において問題となる振動は、建築構造物や支持基板等の構造等によって相違するが、一般に、10Hz以下の比較的低い周波数域に生ぜしめられる。
【0023】
更にまた、本発明では、建築構造物の振動を検出する振動検出手段と、かかる振動検出手段で検出された建築構造物の振動に対応した参照信号に基づいて電磁式加振手段の作動制御信号を生成する制御信号生成手段とを、含んで加振制御手段が構成されていることが望ましい。これにより、建築構造物において問題となる振動の周波数の変化等に対して速やかに対応することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
【0025】
先ず、図1及び図2には、本発明における一実施形態の建築構造物用の能動型制振装置としての一般住宅用の能動型制振装置10の全体概略構成が示されている。かかる能動型制振装置10は、それ自体が図示しない建築構造物(主振動系)に対する副振動系を構成する動的吸振器12と、かかる動的吸振器12に水平方向の加振力を及ぼす電磁式加振手段(加振手段)としての電磁加振器14を含んで構成されている。そして、電磁加振器14によって、建築構造物において制振すべき振動に対応した加振力を副振動系(動的吸振器12)に及ぼすことにより、全体として、建築構造物における振動を相殺的乃至は干渉的に抑制するようになっている。
【0026】
より詳細には、動的吸振器12は、建築構造物としての一般住宅の構造材に対して、マス部材16が複数(本実施形態では、四つ)のゴムマウント18で弾性支持されることによって構成されている。
【0027】
このマス部材16は、鉄系金属等の高比重材で形成されており、本実施形態では、全体として矩形ブロック形状を呈している。そこにおいて、本実施形態では、矩形平板形状の金属マスプレート20を、適当な枚数だけ重ね合わせて、図示しないボルトやリベット、溶接等で一体的に固定することによってマス部材16が構成されている。これにより、本実施形態のマス部材16においては、重ね合わせる金属マスプレート20の数や板厚を調節することで、制振対象となる建築構造物のマスの大きさに容易に対応することが可能となっている。なお、有効な制振効果を得るためには、マス部材16の質量を制振対象である建築構造物の質量に対して5%程度に設定することが望ましいが、それ以下であっても制振効果は期待できる。
【0028】
また、ゴムマウント18は、図3及び図4に示されているように、第一の取付部材としての第一の取付金具22と第二の取付部材としての第二の取付金具24が本体ゴム弾性体26で弾性連結された構造とされている。
【0029】
より詳細には、第一の取付金具22は、全体として逆向きの円錐台ブロック形状とされており、その大径側外周面には、全周に亘って径方向外方に突出する円環突部28が設けられていると共に、その上面には、上方に向かって突出する固定ボルト30が設けられている。そして、この固定ボルト30がマス部材16に設けられたボルト穴(図示せず)に螺着されることによって、第一の取付金具22がマス部材16に取り付けられるようになっている。
【0030】
一方、第二の取付金具24は、平板形状を呈する底壁部32の幅方向両端において、それぞれ、板厚方向一方の側に突出する縦壁部34,34が設けられた構造とされており、全体として溝形状を呈している。なお、本実施形態では、各縦壁部34と底壁部32の為す角度が、何れも、略90度とされているが、各縦壁部34と底壁部32の為す角度は90度に設定される必要はない。そして、第二の取付金具24は、剛性の高い金属等の平板で構成されて、マス部材16よりも一回り大きな矩形平面形状を有するベースプレート36に載置されて、溶接或いは図示しないボルトやリベット又は適当な固定ブラケット等の公知の固着手段によってベースプレート36に固定されるようになっている。
【0031】
このような構造とされた第二の取付金具24の開口方向上方に離隔して、第一の取付金具22が対向配置されるようになっており、特に本実施形態では、第一の取付金具22の中心軸上に第二の取付金具24の底壁部32の中心が位置するようにして、第一の取付金具22と第二の取付金具24が配置されるようになっている。また、このように配置された第一の取付金具22と第二の取付金具24の間には、全体として矩形ブロック形状を呈する本体ゴム弾性体26が介装されている。
【0032】
そして、第一の取付金具22が、本体ゴム弾性体26の上面から差し込まれた状態で、大径側端面を除く略全面が本体ゴム弾性体26に加硫接着されている一方、第二の取付金具24が、本体ゴム弾性体26に対して下方から被せられた状態で、各縦壁部34の内面が本体ゴム弾性体26の幅方向の側面に加硫接着されていると共に、底壁部32の上面が本体ゴム弾性体26の下面に加硫接着されている。これにより、第一の取付金具22と第二の取付金具24における底壁部32との鉛直方向の対向面間と、第一の取付金具22と第二の取付金具24における一対の縦壁部34,34との水平方向両側での対向面間とが、それぞれ、本体ゴム弾性体26で連結されている。
【0033】
また、第一の取付金具22と第二の取付金具24の対向面間には、中間拘束板38,40が配されて、本体ゴム弾性体26に固着されている。特に本実施形態では、第一の取付金具22と第二の取付金具24の対向面間において、二つの中間拘束板38,40が配されて、本体ゴム弾性体26に固着されている。
【0034】
これら二つの中間拘束板38,40は、何れも、矩形平板形状を呈する横板部42,44の幅方向両端において、それぞれ、板厚方向一方の側に突出する縦板部46,46,48,48が設けられた構造とされており、全体として溝形状を呈している。
【0035】
そこにおいて、本実施形態では、一方の中間拘束板38は、その溝方向(一方の中間拘束板38が延びる方向)に対する直交方向での断面形状が、第二の取付金具24における溝方向(第二の取付金具24が延びる方向)に対する直交方向での断面形状よりも一回り小さくされている一方、他方の中間拘束板40は、その溝方向(他方の中間拘束板40が延びる方向)に対する直交方向での断面形状が、一方の中間拘束板38における溝方向(一方の中間拘束板38が延びる方向)に対する直交方向での断面形状よりも一回り小さくされている。
【0036】
そして、一方の中間拘束板38は、その横板部42の中心が第二の取付金具24における底壁部32の中心と一致せしめられた状態で、且つ、その上端が第二の取付金具24の上端と同じ高さに位置せしめられた状態で、第二の取付金具24内に収容配置されている。また、他方の中間拘束板40は、その横板部44の中心が第二の取付金具24における底壁部32の中心や一方の中間拘束板38における横板部42の中心と一致せしめられた状態で、且つ、その上端が第二の取付金具24や一方の中間拘束板38の上端と同じ高さに位置せしめられた状態で、一方の中間拘束板38内に収容配置されている。更にまた、このように配された他方の中間拘束板40内に第一の取付金具22が収容位置せしめられるようになっている。そして、この状態で、二つの中間拘束板38,40は、それぞれ、本体ゴム弾性体26に固着されている。
【0037】
これにより、各中間拘束板38,40の横板部42,44が、第一の取付金具22と第二の取付金具24における底壁部32との鉛直方向の対向面間を水平方向に広がるようになっている一方、各中間拘束板38,40の一対の縦板部46,46,48,48が、第一の取付金具22側に向かって延び出して、第一の取付金具22と第二の取付金具24における一対の縦壁部34,34との水平方向両側での対向面間に広がるようになっている。
【0038】
その結果、本体ゴム弾性体26のばね剛性は、第二の取付金具24の溝方向よりも、第一の取付金具22と第二の取付金具24における底壁部32との対向方向(装着状態で鉛直方向となる図3の上下方向)や第二の取付金具24における一対の縦壁部34の対向方向(装着状態で水平方向となる図3の左右方向)のほうが、大きく設定されているのである。
【0039】
そして、このような構造とされたゴムマウント18の複数が協働することにより、一つのマス部材16がベースプレート36上で略水平に且つ弾性的に支持されている。そこにおいて、各ゴムマウント18は、第二の取付金具24の溝方向がマス部材16の長手方向(図1及び図2中の左右方向)に一致するように揃えられた状態で、マス部材16をベースプレート36上で弾性支持している。なお本実施形態のマス部材16は、その四隅近くに配設された4個のゴムマウント18によって、ベースプレート36上で弾性支持されている。
【0040】
また、ベースプレート36の端縁部(図1,2中の右側端縁部)には、上方に向かって突出する支持部材としての支持壁50が固設されている。この支持壁50は、マス部材16における長手方向(図1及び図2中の左右方向)一端側の外周面に対して水平方向で離隔して対向位置せしめられている。そして、これら支持壁50とマス部材16の対向部位において、電磁加振器14が装着されている。
【0041】
かかる電磁加振器14は、図5に示されているように、同一中心軸上で軸方向に相互に対向位置して配設された、大径円形ブロック形状の基台部材52と小径円形ブロック形状の出力部材54が円環ブロック形状の連結ゴム56で弾性的に連結された構造を有している。
【0042】
そこにおいて、基台部材52は、鉄等の強磁性材で形成されており、中心軸上を貫通するガイド孔58が形成されている。そして、このガイド孔58に対して、出力部材54から中心軸上に突設されたガイドロッド60が、摺動可能に挿通されている。
【0043】
また、基台部材52には、出力部材54側端面に開口する環状凹溝62が形成されており、この環状凹溝62の周壁面に永久磁石63が固設されることによって、環状凹溝62に磁気ギャップが形成されている。そして、この環状凹溝62には、伝動部材64によって出力部材54に固定されたコイル66が、開口側から差し入れられて、軸方向に変位可能に配設されている。
【0044】
かくの如き構造とされた電磁加振器14は、コイル66に通電することで、基台部材52に対して出力部材54を軸方向に変位駆動させることが出来るようになっており、コイル66へ通電する脈流や交流の大きさや周波数を調節することで、発生する駆動力の大きさや周波数を制御することが出来るようになっている。
【0045】
そして、この電磁加振器14は、支持壁50に貫設された装着孔68に対して基台部材52が圧入等で固定される一方、マス部材16に対して出力部材54が固定用ボルトで固定されることによって、駆動軸方向(中心軸方向)をマス部材16の長手方向と平行な水平方向に向けて装着されており、かかる装着状態下、電磁加振器14のコイル66に通電することによって、支持壁50に対してマス部材16を水平方向で駆動変位せしめる加振力が生ぜしめられるようになっている。
【0046】
而して、上述の如き構造とされた能動型制振装置10は、そのベースプレート36が、一般住宅等の小型建築構造物の構造材に対して図示しないボルト等で固定されることによって、ベースプレート36が水平状態となるようにして、且つ、電磁加振器14の駆動軸の方向(図1,2の左右方向)やゴムマウント18における第二の取付金具24が延びる溝方向が建築構造物において制振すべき振動の方向となるように取り付けられる。特に、一般住宅等では、水平方向の振動が大きくなる最上階の押し入れや屋根裏等に設置することが望ましく、それによって、制振効果をより効果的に得ることが出来る。
【0047】
そこにおいて、本実施形態の能動型制振装置10においては、本体ゴム弾性体26における第二の取付金具24の溝方向のばね剛性が、第一の取付金具22と第二の取付金具24における底壁部32との対向方向(装着状態で鉛直方向となる図3の上下方向)や、第二の取付金具24における一対の縦壁部34の対向方向(装着状態で水平方向となる図3の左右方向)よりも十分に小さく設定されていると共に、かかる本体ゴム弾性体26のばね剛性が十分に小さくされた第二の取付金具24の溝方向が制振すべき振動の方向と一致していることから、電磁加振器14による加振力を効率的にマス部材16に及ぼして、優れた制振効果を得ることが可能になる。
【0048】
また、制振すべき振動の方向(第二の取付金具24が延びる溝方向)以外の方向では、本体ゴム弾性体26のばね剛性が十分に大きくされて、マス部材16の振動変位が抑制されるようになっていることから、制振すべき振動の方向(第二の取付金具24が延びる溝方向)以外の方向へのマス部材16の振動変位に起因する電磁加振器14の損傷等の不具合(例えば、ガイドロッド60がガイド孔58に対して抉られることに起因する損傷等の不具合)を回避することが可能となる。
【0049】
更にまた、電磁加振器14が支持壁50を介して建築構造物に支持されていることから、電磁加振器14の配設状態の安定化を図ることが可能となる。これにより、電磁加振器14による加振力をマス部材16に対して安定して作用せしめることが可能となる。
【0050】
また、上述の如く、能動型制振装置10が装着された状態下において、図5に概要が示されているように、電磁加振器14の加振制御手段としての制御装置72が設けられている。この制御装置72は、振動検出手段としての振動センサ74を含んで構成されている。かかる振動センサ74は、例えば加速度センサが採用され、建築構造物の構造躯体(例えば、能動型制振装置10のベースプレート36等でも良い)に取り付けられることにより、建築構造物において制振すべき振動を電気信号として検出するようになっている。
【0051】
そして、この振動センサ74で検出された電気信号を参照信号として、能動型制振装置10の電磁加振器14の作動制御信号を生成して、コイル66への駆動電力を制御する制御信号生成手段70を含んで、制御装置72が構成されている。なお、制御信号生成手段70は、例えば、CPU等の演算装置を含んで構成された制御回路等で構成される。
【0052】
そこにおいて、参照信号に基づくコイル66への駆動電力の制御信号の生成は、例えば、適応制御等の公知の手法によって、制振すべき振動に対応してリアルタイムで加振力の周波数や位相を制御すること等によって実現可能である。この技術は、例えば自動車用の能動型防振装置の制御装置として良く知られている。簡単に例示すると、制振すべき建築構造物の振動状態を検出した振動センサ74の検出信号に基づいて、その振動に対して有効な制振効果を発揮し得るように、検出信号に対応した駆動電流を電磁加振器14のコイル66に出力するものであって、例えば、実験等に基づいて予め設定されたデータにより、検出信号の大きさに対応した大きさの駆動電流を、検出信号に対して所定の位相差で給電することによりフィードフォワード的に制御するものや、或いは、検出信号に含まれる建築構造物の振動値を可及的に零にするように駆動電流の大きさ等をフィードバック制御するもの等が採用可能である。また、換言すれば、本実施形態においては、制御装置72が振動センサ74と制御信号生成手段70とを含んで構成されており、振動センサ74により検知された建築構造物の制振すべき振動の周波数に基づいて、制御信号生成手段70により電磁加振器14の作動制御信号が生成されることによって、マス部材16に及ぼされる加振力の周波数が制御されるようになっている。
【0053】
ここにおいて、上述の能動型制振装置10にあっては、マス部材16の全体質量やゴムマウント18のばね特性を調節することによって、動的吸振器12における水平方向の固有振動数(共振周波数):f0 が、建築構造物において制振を目的とする周波数領域よりも低周波数となるように設定されている。
【0054】
具体的には、建築構造物において制振を目的とする周波数のうちで主となるものとして、建築構造物における制振すべき振動方向の固有振動数(共振周波数)をfとしたときに、下記の式(1)を満足するように設定されている。
式(1): f0 +0.5(Hz)≦f(Hz)≦f0 ×2(Hz)
【0055】
これにより、建築構造物の制振すべき振動周波数が変化した場合でも、能動型制振装置10の動的吸振器12における固有振動数よりも高い周波数域に制振すべき振動が存在するように設定される。その結果、建築構造物において制振すべき振動周波数で加振力が動的吸振器12に及ぼされるように電磁加振器14が制御されるに際して、制振すべき建築構造物の振動と動的吸振器12の振動との位相差の著しい変化(反転など)が回避され得るのであり、それによって、電磁加振器14の加振制御、延いては、動的吸振器12の加振変位の安定性が向上されることとなる。従って、動的吸振器12のマス部材16に加振力を及ぼすことで建築対象物に作用する能動的な制振効果が、安定して発揮され得ることとなるのである。
【0056】
すなわち、従来の一般の能動型制振装置では、「動的吸振器の共振周波数を、建築構造物において制振すべき振動周波数に一致するようにチューニングする」ことを基本思想としている。これにより、制振すべき振動周波数域では、動的吸振器におけるマス−バネ系の共振作用を利用して、小さな加振力を動的吸振器に作用させるだけで、大きな加振力を建築構造物に及ぼして優れた制振効果を得ることが可能となる。
【0057】
ところが、このような従来構造の能動型制振装置では、建築構造物において制振すべき振動周波数が変化した場合、制振効果が著しく低下したり、加振制御が不安定となってしまうという問題があった。そして、かかる問題に対して、本発明者が鋭意研究したところ、位相の急激な変化が影響しているのであろうとの知見を得るに至った。
【0058】
具体的には、動的吸振器等のマス−バネ系からなる振動系では、その固有振動数(共振周波数)の付近において入力振動との位相反転のポイントが存在していることは良く知られている。建築構造物自体、固有振動数を有しており、建築構造物において問題となる振動がこの固有振動数に相当する周波数域であることは容易に想像できる。しかし、建築構造物において制振すべき振動の周波数は、現実には、振動源となる付近を走行する自動車の重量や種類、速度等の相違に応じて、数Hz以下の小さな領域であるが変化することを、本発明者が確認した。このような制振すべき振動の周波数に変化があった場合には、実際の建築構造物における振動状態を検出して得られた信号を参照信号とすることで動的吸振器に対して及ぼす加振力を能動制御する能動型制振装置において、振動周波数の変化に追従して加振力が変更制御されることとなる。
【0059】
しかしながら、上述の如く、もともと固有振動数域にチューニングされた動的吸振器では、僅かに周波数が変化しただけでも位相が大きく変化してしまうことから、加振器の位相制御が非常に難しくなる。そのような理由から、建築構造物において制振すべき振動の周波数が変化した場合には、安定した加振制御、延いては、動的吸振器の加振に基づいて建築構造物に及ぼされる相殺的な加振力が十分に得られ難くなって、目的とする制振効果が安定して発揮され難くなるのであろうと推定される。
【0060】
それに加えて、動的吸振器の固有振動数を建築構造物において制振すべき振動周波数(建築構造物の固有振動数)に合致させるチューニングを施した従来構造の能動型制振装置では、もともと動的吸振器の共振作用を利用して、加振手段によって及ぼされる小さな加振力を大きな加振力に増幅して、建築構造物に相対的加振力を及ぼすことにより、目的とする制振効果を得ることを目的としているが故に、建築構造物において制振すべき振動周波数が動的吸振器の固有振動数から外れてしまった状態では、動的吸振器の共振作用に基づく加振力の増幅効果が大幅に低下してしまうことが避けられない。そのために、建築構造物に対して有効な制振作用を発揮する程に大きな相対的加振力を及ぼすことが出来なくなってしまうことも、前述の如き従来構造の能動型制振装置における制振効果の低下や不安定さの原因の一つであると考えられる。
【0061】
ここにおいて、本実施形態の能動型制振装置10では、「建築構造物において制振すべき振動の周波数に対して動的吸振器12の固有振動数を低周波数側に外して設定した構成」を採用すると共に「動的吸振器12の固有振動数よりも高周波数域で且つ建築構造物において制振すべき振動の周波数に相当する周波数の加振力をマス部材16に及ぼすように加振手段(電磁加振器14)を作動制御する加振制御手段(制御装置72)」を設けたことにより、たとえ建築構造物において制振すべき振動の周波数が変化した場合にも、位相の大きな変化が回避される。それ故、建築構造物において制振すべき振動の周波数の変化に追従して、加振手段(電磁加振器14)から動的吸振器12に及ぼす加振力を安定して作動制御することが出来る。しかも、もともと固有振動数を外れた位置で動的吸振器12を利用していることから、建築構造物において制振すべき振動周波数が変化した場合にも、制振効果の大幅な落ち込みが問題となるようなこともない。
【0062】
加えて、本実施形態の能動型制振装置10では、「加振手段(電磁加振器14)を建築構造物に支持せしめる支持部材(支持壁50)」を設けて、「加振手段(電磁加振器14)によってマス部材16に及ぼされる加振力の反力が支持部材(支持壁50)を介して建築構造物に及ぼされる」構成を採用したことにより、上述の如く固有振動数を外れた位置で動的吸振器12を利用していることで共振倍率の効果を得難い構成であるにも拘わらず、加振手段(電磁加振器14)による加振力を建築構造物に対して効率的に作用せしめて優れた制振効果を得ることが可能となるのである。
【0063】
もう少し詳しく説明すると、本実施形態の能動型制振装置10においては、マス部材16がゴムマウント18を介して建築構造物に弾性支持されることにより、弾性支持されたマス部材16によって建築構造物に対する副振動系として作用する一つの振動系(動的吸振器12)が構成される。また、この一つの振動系には、加振手段(電磁加振器14)による加振力が及ぼされることとなるが、この加振手段(電磁加振器14)による加振力は、建築構造物に対して固定的に設けられた支持部材(支持壁50)と、建築構造物に対して弾性支持されたマス部材16との間に、作用せしめられる。これにより、支持部材(支持壁50)には、動的吸振器12のマス部材16に及ぼされる加振力の反力が及ぼされることとなる。ここにおいて、かかるマス部材16は、ゴムマウント18により、建築構造物に対して弾性支持されていることから、このゴムマウント18(本体ゴム弾性体26)の弾性変形に伴う位相差に起因して、加振手段(電磁加振器14)によってマス部材16に及ぼされる加振力と支持部材(支持壁50)に及ぼされる反力のとの間に位相差が発生する。しかも、特徴的な事実として、この位相差は、マス部材16によって構成された動的吸振器12における固有振動数を超えた周波数域では、略同位相となり、相加的に建築構造物に対する相殺的加振力として作用せしめられるということであり、加えて、マス部材16によって構成された動的吸振器12(副振動系)の共振周波数を超えた周波数域では、確かに加振手段(電磁加振器14)から動的吸振器12を通じて建築構造物に伝達される加振力のレベルが低下するものの、それと反対に、加振手段(電磁加振器14)から支持部材(支持壁50)を通じて建築構造物に伝達される(マス部材16の加振反力としての)加振力のレベルが増大するということである。それ故、前述の如く、建築構造物において制振すべき振動周波数に比して低い固有振動数を設定した動的吸振器12を採用した構成と組み合わせて支持部材(支持壁50)を採用してなる本実施形態の能動型制振装置10においては、たとえ動的吸振器12の共振現象に基づく大きな加振力を利用することが難しくても、加振手段(電磁加振器14)によって及ぼされる加振力を制振対象たる建築構造物に対して効率的に且つ安定したレベルで伝達作用せしめることが出来るのであり、その結果、建築構造物において目的とする能動的乃至は相殺的な制振効果を有効に且つ安定して得ることが可能となるのである。
【0064】
要するに、本実施形態では、「建築構造物において制振すべき振動周波数に対して動的吸振器12の固有振動数を低周波数側に外して設定した」動的吸振器12に係る構成と、「加振手段(電磁加振器14)を建築構造物に支持せしめる支持部材(支持壁50)を設けた」支持部材(支持壁50)に係る構成とを、互いに組み合わせて採用したことにより、建築構造物に対して優れた制振効果を発揮し得るに十分な大きさの相殺的な加振力を、安定して且つ効率的に発揮することを可能と為し得、その結果、振動周波数が変化した場合でも優れた制振効果を安定して奏せしめ得る新規な構造の能動型制振装置10を実現せしめ得たのである。
【0065】
以上、本発明の一実施形態について詳述してきたが、これはあくまでも例示であって、本発明は、かかる実施形態における具体的記載によって、何等、限定的に解釈されるものでない。
【0066】
例えば、ゴムマウントには、図6に示されているように、本体ゴム弾性体26において、第二の取付金具24の溝方向に貫通するすぐり部76が形成されていても良い。これにより、第二の取付金具24が延びる溝方向での本体ゴム弾性体26のばね剛性を小さくしつつ、第二の取付金具24が延びる溝方向に対する直交方向、具体的には、第一の取付金具22と第二の取付金具24における底壁部32との対向方向(鉛直方向)や、第二の取付金具24における一対の縦壁部34,34の対向方向(水平方向)での本体ゴム弾性体26のばね剛性を調節することが可能となる。
【0067】
そこにおいて、すぐり部76が形成される位置は、図6に示されているように、第二の取付金具24と一方の中間拘束板38との対向面間における角部や、一方の中間拘束板38と他方の中間拘束板40との対向面間における角部が望ましく、それによって、上述の如き本体ゴム弾性体26のばね剛性の調節を有利に実現することが可能となる。要するに、第一及び第二の取付金具22,24や中間拘束板38,40の相互間における鉛直方向の対向面間に介在せしめられた本体ゴム弾性体26によって、マス部材16の支持剛性が発揮される。また、第一及び第二の取付金具22,24や中間拘束板38,40の相互間における水平方向の対向面間に介在せしめられた本体ゴム弾性体26によって、電磁加振器14による加振力作用方向に直交する水平方向において大きなばね剛性が発揮される。
【0068】
そして、それら鉛直方向の支持剛性や加振力作用方向に直交する水平方向のばね剛性を確保しつつ、すぐり部76の形成によって、電磁加振器14による加振力作用方向でのばね剛性を相対的に低減させることが可能となって、制振が要求される振動方向におけるばね定数ひいては動的吸振器12の固有振動数のチューニング自由度が大きく確保され得るのである。
【0069】
なお、ゴムマウントにおける鉛直方向や、加振力作用方向に直交する水平方向のばね特性を調節するために、第一及び第二の取付金具22,24や中間拘束板38,40の相互間における鉛直方向の対向面間や、第一及び第二の取付金具22,24や中間拘束板38,40の相互間における水平方向の対向面間にも、必要に応じて、本体ゴム弾性体26において第二の取付金具24が延びる溝方向に貫通し、或いは貫通しない態様の肉抜部やすぐり部が形成され得る。
【0070】
また、ゴムマウントには、図7に示されているように、第二の取付金具24と中間拘束板38の両方において、或いはそれらの何れか一方において、本体ゴム弾性体26内に突出する拘束突部78を形成することも可能である。このような拘束突部78を、第一及び第二の取付金具22,24や中間拘束板38,40の相互間において、互いの対向方向に突出形成することにより、ゴムマウントにおけるばね特性のチューニング自由度の更なる向上が図られ得る。
【0071】
すなわち、かかる拘束突部78は、薄肉の板形状をもって、第二の取付金具24が延びる溝方向(図7中の紙面に垂直な方向)と平行に直線的に延びるようにして、第二の取付金具24や中間拘束板38に固設されている。これにより、中間拘束板38が延びる方向(図7において紙面に垂直な方向)では、本体ゴム弾性体26に惹起される弾性変形が拘束突部78に対して剪断方向となることから、本体ゴム弾性体26のばね剛性を小さく維持される。一方、中間拘束板38の面に直交する方向(図7において左右方向や上下方向)では、本体ゴム弾性体26に惹起される弾性変形が拘束突部78によって圧縮/引張力として一層大きく作用せしめられて、一層大きなばね剛性が発揮されるのである。
【0072】
特に、第二の取付金具24が延びる溝方向に対する直交方向、具体的には、第一の取付金具22と第二の取付金具24における底壁部32との対向方向(鉛直方向)や、第二の取付金具24における一対の縦壁部34,34の対向方向(水平方向)での本体ゴム弾性体26のばね剛性を大きく設定することが可能となる。
【0073】
そこにおいて、特に図7に示されたゴムマウントでは、中間拘束板38と第二の取付金具24との対向面間において、それらの鉛直方向の対向面間では幅方向で交互に突出するようにして、また水平方向の対向面間では上下方向で交互に突出するようにして、中間拘束板38と第二の取付金具24とにおける拘束突部78がそれぞれ突出形成されていることから、それら中間拘束板38と第二の取付金具24との両方の拘束突部78,78の相互作用により、鉛直方向や加振力作用方向に直交する水平方向でのばね剛性が一層効率的に増大されるようになっている。
【0074】
なお、第二の取付金具24の底壁部32と中間拘束板38の横板部42との対向面間だけに、その少なくとも一方から他方に向かって突出する拘束突部78を形成することも可能である。或いはまた、第二の取付金具24の縦壁部34と中間拘束板38の縦板部46との対向面間だけに、その少なくとも一方から他方に向かって突出する拘束突部78を形成することも可能である。また、中間拘束板40と中間拘束板38との対向面間や、中間拘束板40と第一の取付金具22との対向面間においても、同様に、それらの適当な箇所において、少なくとも一方から他方に向かって突出する拘束突部を形成しても良い。
【0075】
なお、理解を容易にするために、図6及び図7では、前記実施形態と同様な構造とされた部材及び部位について、前記実施形態と同一の符号を付してある。
【0076】
また、中間拘束板は、一つであっても良いし、三つ以上であっても良い。更に、第一の取付金具22と中間拘束板40の対向面間距離や、第二の取付金具24と中間拘束板38の対向面間距離、中間拘束板38,40の対向面間距離は、適宜に調節可能であり、それらを同一に設定する必要もない。また、それら各部材間の対向面間距離を、鉛直方向での対向面間距離と水平方向での対向面間距離を相互に異ならせて設定することも可能である。
【0077】
また、第一の取付金具22も、中間拘束板38,40や第二の取付金具24と同様に、水平面とその両側の縦面とをもって、加振力作用方向(図4中の上下方向)に延びる形状をもって形成しても良く、それにより、第一の取付金具22と中間拘束板40との鉛直方向や加振力作用方向に直交する水平方向での対向面積を一層有利に確保することが可能となる。
【0078】
更にまた、前記実施形態では、中間拘束板38,40の縦板部46,48が、本体ゴム弾性体26の上端面まで達していたが、それら縦板部46,48の上端面が本体ゴム弾性体26の上端面まで達せずに埋設状態とされていても良い。
【0079】
さらに、本体ゴム弾性体26における加振力作用方向の両側部分である、中間拘束板38,40の縦板部46,48への固着部分を傾斜形状としたり、中間拘束板38,40の縦板部46,48自体を上方に向かって拡開する傾斜形状としたりすることも可能であり、それによって、マス部材16に対する支持ばね剛性を大きく設定することが出来ると共に、マス部材16の質量作用時における本体ゴム弾性体26の引張応力を軽減して耐久性の向上を図ることも可能となる。
【0080】
また、前記実施形態の図面では、各部材の形状が簡略的に表示されていたが、例えば中間拘束板38,40や第一及び第二の取付金具22,24の各角部には、適当なアールが付されて、成形加工性の向上と本体ゴム弾性体26における応力集中軽減が図られる。また、本体ゴム弾性体26の各金具への接着表面には、適当なアール(フィレットアール)が付されて接着耐久性の向上や亀裂防止などが図られ得る。
【0081】
更にまた、前記実施形態において、本体ゴム弾性体26のうち、第二の取付金具24と一方の中間拘束板38の対向面間に位置せしめられる部分と、一方の中間拘束板38と他方の中間拘束板40の対向面間に位置せしめられる部分と、他方の中間拘束板40と第一の取付金具22の対向面間に位置せしめられる部分とを、互いに異なる組成からなるゴム材料で形成するようにしても良い。これにより、例えば鉛直方向のばね特性と水平方向のばね特性とを、より大きな自由度をもって異ならせることも可能となる。
【0082】
加えて、本発明は、一階建てや二階建て以上の一般住宅の他、集合住宅や事務所、倉庫、ビル、タワー等、各種の小形乃至大形の建築構造物用の能動型制振装置として、何れも適用可能であることは、言うまでもない。
【0083】
その他、一々列挙はしないが、本発明は、当業者の知識に基づいて種々なる変更,修正,改良等を加えた態様において実施され得るものであり、また、そのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明の範囲内に含まれるものであることは、言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本発明の一実施形態としての能動型制振装置を示す正面図。
【図2】同能動型制振装置の平面図。
【図3】図1に示された能動型制振装置を構成するゴムマウントの縦断面図であって、図4のIII−III方向の断面図。
【図4】同ゴムマウントの平面図。
【図5】図1に示された能動型制振装置を構成する電磁加振器の装着状態を拡大して示す縦断面図である。
【図6】本発明において採用可能なゴムマウントの別の態様を示す縦断面図。
【図7】本発明において採用可能なゴムマウントの更に別の態様を示す縦断面図。
【符号の説明】
【0085】
10:能動型制振装置,12:動的吸振器,14:電磁加振器,16:マス部材,18:ゴムマウント,22:第一の取付金具,24:第二の取付金具,26:本体ゴム弾性体,32:底壁部,34:縦壁部,38:中間拘束板,40:中間拘束板,42:横板部,44:横板部,46:縦板部,48:縦板部,50:支持壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築構造物に対してマス部材が複数のゴムマウントで弾性支持されることにより動的吸振器が構成されるようになっていると共に、該建築構造物において制振すべき振動方向となる水平方向の加振力を該マス部材に及ぼす加振手段が設けられた建築構造物用の能動型制振装置において、
前記マス部材と前記建築構造物の一方に取り付けられる第一の取付部材とそれらマス部材と建築構造物の他方に取り付けられる第二の取付部材とが上下方向で離隔して対向配置せしめられ、それら第一の取付部材と第二の取付部材の対向面間に本体ゴム弾性体が配設されて該第一の取付部材と該第二の取付部材が弾性連結されている一方、該第二の取付部材において該第一の取付部材に対する対向方向に直交する水平方向に広がる底壁部と該底壁部の幅方向両端部から該第一の取付部材側に向かって延び出す一対の縦壁部とが設けられて、該第二の取付部材が全体として溝形状とされていると共に、該第一の取付部材と該第二の取付部材における該底壁部との鉛直方向の対向面間と、該第一の取付部材と該第二の取付部材における該一対の縦壁部との水平方向の両側での対向面間とが、それぞれ、該本体ゴム弾性体で連結されており、更に、該第一の取付部材と該第二の取付部材における該底壁部との鉛直方向の対向面間を水平方向に広がる横板部と、該横板部の幅方向両端部から該第一の取付部材側に向かって延び出して該第一の取付部材と該第二の取付部材における該一対の縦壁部との水平方向の両側での対向面間に広がる一対の縦板部とからなる全体として溝形状の中間拘束板が設けられて、該第一の取付部材と該第二の取付部材との対向面間で該中間拘束板が該本体ゴム弾性体に固着せしめられた構造をもって前記ゴムマウントが構成されており、
該ゴムマウントの複数が、それぞれにおいて溝形状とされた該第二の取付部材が同じ方向に揃えられて該マス部材に対して装着されている一方、
前記加振手段として電磁式加振手段を採用し、該電磁式加振手段を前記建築構造物に支持せしめる支持部材を設けると共に、
該ゴムマウントにおいて溝形状とされた該第二の取付部材が延びる溝方向で、該電磁式加振手段による加振力が該マス部材に及ぼされるようになっていることを特徴とする建築構造物用の能動型制振装置。
【請求項2】
前記本体ゴム弾性体において、前記第二の取付部材が延びる溝方向に貫通するすぐり部が形成されている請求項1に記載の建築構造物用の能動型制振装置。
【請求項3】
前記第二の取付部材と前記中間拘束板の少なくとも一方において、前記本体ゴム弾性体内に突出する拘束突部が形成されている請求項1又は2に記載の建築構造物用の能動型制振装置。
【請求項4】
前記電磁式加振手段により前記マス部材に及ぼされる加振力の反力が前記支持部材を介して前記建築構造物に及ぼされるようになっていると共に、該建築構造物において制振すべき振動周波数に対して前記動的吸振器の固有振動数が低周波数側に外して設定されており、
該電磁式加振手段によって該マス部材に及ぼされる加振力の周波数を制御することで、該動的吸振器の固有振動数よりも高周波数域で且つ該建築構造物において制振すべき振動周波数に相当する周波数の加振力を該マス部材に及ぼすように該電磁式加振手段を作動制御する加振制御手段が設けられている請求項1乃至3の何れか1項に記載の建築構造物用の能動型制振装置。
【請求項5】
前記加振制御手段において、前記電磁式加振手段により前記マス部材に及ぼされる加振力の周波数fが、前記動的吸振器の固有振動数f0 に対して、f0 +0.5Hz以上で且つf0 ×2Hz以下に設定されるようになっている請求項4に記載の建築構造物用の能動型制振装置。
【請求項6】
前記建築構造物の振動を検出する振動検出手段と、該振動検出手段で検出された該建築構造物の振動に対応した参照信号に基づいて前記電磁式加振手段の作動制御信号を生成する制御信号生成手段とを、
含んで前記加振制御手段が構成されている請求項4又は5に記載の建築構造物用の能動型制振装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−248490(P2008−248490A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−87948(P2007−87948)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】