説明

建設機械用キャブ

【課題】 簡単な構成で床板の振動を抑えることにより、キャブの組立作業性、キャブ内での作業環境等を向上する。
【解決手段】 床板14の下側には、前,後方向に離間した3部材共締め用のボルト17間に亘って補強部材16を設け、補強部材16は、ボルト17を用いてベース枠体12と床板14と一緒に締結する構成とする。これにより、補強部材16は、例えば4隅の防振マウント23とは別個に他の防振マウントを追加することなく、床板14の中央部分が振動するのを抑制することができるから、キャブ11の組立作業、旋回フレーム5に対するキャブ11の取付作業等の作業性を向上することができる。また、運転席19に着座して作業を行なうオペレータの作業環境を良好にすることもできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば油圧ショベル、ホイールローダ等に好適に用いられる建設機械用キャブに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、建設機械としての油圧ショベルは、自走可能な下部走行体と、該下部走行体上に旋回可能に搭載された上部旋回体と、該上部旋回体の前側に俯仰動可能に設けられた作業装置とにより構成されている。
【0003】
また、上部旋回体を構成する旋回フレーム上には、左前側に位置してキャブが搭載されている。この油圧ショベルのキャブは、例えば枠構造体からなるベース枠体と、該ベース枠体上に設けられ内部に運転室を画成する中空なキャブボックスと、該キャブボックスの下側を閉塞するように前記ベース枠体に取付けられた床板とを備えている。
【0004】
また、床板上にはオペレータが着座する運転席が設けられ、該運転席の左,右両側には、作業装置等を操作する作業用のレバー装置が設けられ、前側には走行用のレバー装置が設けられている。そして、運転席の左,右両側に設けられた作業用のレバー装置は、各種スイッチ、表示器等が配設されたコンソールの前側に操作レバーが傾転可能に取付けられている。
【0005】
一方、キャブの下部を形成するベース枠体は、前,後方向に延びる長方形状の枠構造体として形成されている。また、ベース枠体には、左前、右前、左後、右後の角隅位置にキャブを防振状態で支持する防振マウントが取付けられ、下側に床板が取付けられている。
【0006】
ここで、ベース枠体には、それぞれの角隅位置に防振マウントの取付ねじが挿通するマウント取付孔が設けられ、該各マウント取付孔の間には、ベース枠体の下側に床板を締結するためのボルトが挿通するボルト挿通孔が設けられている。一方、床板には、ベース枠体のマウント取付孔に対応するそれぞれの角隅位置にマウント取付孔が設けられ、ボルト挿通孔に対応する位置にねじ孔(溶接ナット)が設けられている。
【0007】
次に、キャブを組立てる場合の手順について説明する。まず、床板のほぼ中央に運転席を取付け、該運転席の左,右両側に作業用のレバー装置を取付け、また、床板の前側に走行用のレバー装置を取付ける。このように、床板に予め運転席、各レバー装置等を取付けたら、運転席等が取付けられた床板を旋回フレームの左前側に載置する。
【0008】
そして、床板を旋回フレーム上に載置したら、キャブボックスが取付けられたベース枠体を床板上に配置する。この状態で、ベース枠体と床板の四隅に形成されたマウント取付孔から突出した各防振マウントの取付ねじ先端にナットを螺着すると共に、ベース枠体のボルト挿通孔に挿通したボルトを床板のねじ孔に螺着することにより、ベース枠体、キャブボックス、床板を一体化してキャブを組立てつつ、該キャブを4個の防振マウントを介して旋回フレーム上に搭載することができる。
【0009】
ここで、運転席の左,右両側には作業用のレバー装置が取付けられるから、該各レバー装置の下側にはスパナ等の工具を扱うスペースがなく、ボルトを回すことができない。このため、ベース枠体と床板とを締結する複数のボルト(ボルト挿通孔、ねじ孔)のうち、運転席の左,右両側に位置するボルトは、レバー装置を避けるように前,後方向に広い間隔をもって配置している。
【0010】
しかし、運転席の左,右両側でベース枠体と床板とを締結するボルトを、前,後方向に広い間隔をもって配置した場合、このボルト間に位置する床板の中央部分の支持強度が低下してしまう。これにより、床板の中央部分では振動が発生し易くなってしまう。
【0011】
そこで、油圧ショベルのキャブには、上述した問題を解決するために、床板の中央部分の振動を抑える構成を備えたものがある。このキャブでは、床板上の中央部分に左,右方向に延びる梁板ないし補強部材を設けた上で、床板と旋回フレームとの間には、4隅の防振マウントとは別個に床板の中央部分を支持する防振マウントを2個追加して配設する構成としている(例えば、特許文献1参照)。
【0012】
【特許文献1】特開平9−32037号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ところで、上述した従来技術によるものでは、床板上に梁板等を取付け、さらに旋回フレームと床板との間に新たに2個の防振マウントを追加して取付ける構成としているから、キャブの組立作業、旋回フレームに対するキャブの取付作業等に手間と時間を要してしまう上に、製造コストも上昇するという問題がある。
【0014】
しかも、床板と旋回フレームとの間には、油圧配管、電気配線、バルブ装置等が密集するように配設されているから、床板と旋回フレームとの間に防振マウントを配設した場合、干渉等の問題が生じる虞がある。
【0015】
本発明は上述した従来技術の問題に鑑みなされたもので、本発明の目的は、簡単な構成で床板の振動を抑えることができ、組立作業性、作業環境等を向上できるようにした建設機械用キャブを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
請求項1の発明による建設機械用キャブは、建設機械のフレーム上に設けられた枠構造体からなるベース枠体と、該ベース枠体上に設けられ内部に運転室を画成する中空なキャブボックスと、該キャブボックスの下側を閉塞するように前記ベース枠体に複数のボルトを用いて締結された床板と、該床板上に設けられオペレータが着座する運転席とを備えている。
【0017】
そして、上述した課題を解決するために、請求項1の発明が採用する構成の特徴は、前記床板の下側には前記ベース枠体が配置されている部位に沿って延びる補強部材を設け、該補強部材は前記ボルトを用いて前記ベース枠体と床板と一緒に締結する構成としたことにある。
【0018】
請求項2の発明によると、前記床板と補強部材とは、前記ベース枠体、床板および補強部材を一緒に締結する前記ボルトとは別個の他のボルトを用いて締結する構成としたことにある。
【0019】
請求項3の発明によると、前記補強部材は、前記運転席の左,右のうち少なくとも片側位置に前記ベース枠体に沿って前,後方向に延びて設ける構成としたことにある。
【0020】
請求項4の発明によると、前記補強部材は前記各ボルトのうち隣合うボルト間に亘って延びるように設け、前記他のボルトは前記隣合うボルト間に位置して前記床板と補強部材とを締結する構成としたことにある。
【発明の効果】
【0021】
請求項1の発明によれば、床板の下側でベース枠体が配置されている部位に沿って延びる補強部材を、ボルトを用いてベース枠体と床板と一緒に締結しているから、補強部材によって床板を下側から支持することができ、該床板の振動を抑制することができる。従って、例えばフレーム上にキャブを弾性的に支持する防振マウントとは別個に防振マウント等を追加する必要がなく、床板の下側に補強部材を締結するだけでよいから、キャブの組立作業、フレームに対するキャブの取付作業等の作業性を向上することができ、また製造コストも削減することができる。しかも、補強部材によって床板の振動を抑えることにより、運転席に着座して作業を行なうオペレータの作業環境を良好にすることもできる。
【0022】
請求項2の発明によれば、ベース枠体と床板とを取付けるときに、他のボルトを用いて床板に補強部材を予め取付けておくことができるから、ベース枠体と床板との締結作業を容易に行なうことができ、組立作業性を向上することができる。また、他のボルトによって床板と補強部材とを強固に締結することができ、床板の振動を効果的に抑えることができる。
【0023】
請求項3の発明によれば、補強部材を運転席の左,右のうち少なくとも片側位置に前,後方向に延びて設けているから、例えば床板とフレームとの間に配設される油圧配管、電気配線、バルブ装置等を避けて補強部材を設けることができる。
【0024】
請求項4の発明によれば、ベース枠体、床板および補強部材を一緒に締結するボルトとは別個の他のボルトは、床板の支持強度が低下するボルト間に位置して床板と補強部材とを締結することができるから、床板の支持強度を高めて振動を効果的に抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態に係る建設機械用キャブとして、クローラ式の油圧ショベルに設けられたキャブを例に挙げ、図1ないし図11に従って詳細に説明する。
【0026】
図1において、1は建設機械としてのクローラ式の油圧ショベルで、該油圧ショベル1は、自走可能な下部走行体2と、該下部走行体2上に旋回可能に搭載された上部旋回体3と、該上部旋回体3の前側に俯仰動可能に設けられ、土砂の掘削作業等を行なう作業装置4とにより大略構成されている。また、上部旋回体3は、下部走行体2上に旋回可能に設けられた後述の旋回フレーム5と、該旋回フレーム5の左前側に配設された後述のキャブ11とを含んで構成されている。
【0027】
5は上部旋回体3のベースをなす支持構造体として形成された旋回フレームで、該旋回フレーム5は、図2に示すように、前,後方向に延びて設けられた厚肉な底板5Aと、該底板5A上に前,後方向に延びて立設され、前側に作業装置4が取付けられる左,右の縦板5B,5Bと、前記底板5A、各縦板5Bから左,右方向に張出した複数本の張出ビーム5Cと、該各張出ビーム5Cの先端部に前,後方向に延びて設けられた左,右のサイドフレーム5D,5Dと、左前側に設けられた後述のキャブ支持部6とにより大略構成されている。
【0028】
6は旋回フレーム5の一部をなし該旋回フレーム5の左前側に設けられたキャブ支持部で、該キャブ支持部6は、前,後方向に離間して底板5A、左縦板5Bから左側に延び、その先端部が左サイドフレーム5Dに固着された2本の横梁6A,6Bと、前記横梁6Aの右端部から左サイドフレーム5Dと平行に前側に延びた縦梁6Cと、前記横梁6Aの前側に間隔をもって左,右方向に延び、前記左サイドフレーム5Dと縦梁6Cとを連結した前枠6Dとにより大略構成されている。
【0029】
また、キャブ支持部6の横梁6B,前枠6Dには、左,右に離間してそれぞれ2個のマウント挿着開口6B1,6D1が設けられ、該各マウント挿着開口6B1,6D1には後述の防振マウント23が取付けられている。
【0030】
次に、11は旋回フレーム5のキャブ支持部6上に搭載された油圧ショベル1のキャブで、該キャブ11は、後述の防振マウント23を介してキャブ支持部6上に設けられている。そして、キャブ11は、図3、図4、図5等に示すように、後述のベース枠体12、キャブボックス13、床板14、ボルト15,17,18、補強部材16、運転席19、作業用レバー装置21等によって大略構成されている。
【0031】
12はキャブ11の下側に設けられたベース枠体で、該ベース枠体12は、図4ないし図7に示すように、前,後方向に長尺な長方形状の枠構造体として形成されている。即ち、ベース枠体12は、左前角隅部12A、右前角隅部12B、左後角隅部12C、右後角隅部12Dと、該各角隅部12A〜12D間を接続する前接続フレーム12E、後接続フレーム12F、左接続フレーム12G、右接続フレーム12Hとから大略構成されている。また、左,右の接続フレーム12G,12Hには、それぞれの前側位置と後側位置とに内向きに突出して取付座12Jが設けられている。
【0032】
一方、ベース枠体12の各角隅部12A〜12Dには、防振マウント23の取付ねじ23Aが挿通するマウント取付孔12Kがそれぞれ形成されている。また、ベース枠体12の前接続フレーム12E、後接続フレーム12Fには、ベース枠体12と床板14とを締結する後述のボルト15が挿通するボルト挿通孔12Lが例えば2個ずつ設けられている。さらに、左,右の接続フレーム12G,12Hの各取付座12Jには、ベース枠体12、床板14、後述の補強部材16の3部材を共締め状態に締結する後述のボルト17が挿通するボルト挿通孔12Mが設けられている。
【0033】
ここで、ベース枠体12と床板14との締結位置となるベース枠体12の取付座12J(ボルト挿通孔12M)は、図3に示すように、後述する運転席19の左,右両側に設けられた作業用レバー装置21を前,後方向に避けた位置、即ち、作業用レバー装置21に邪魔されることなくスパナ等の工具を用いて後述する3部材共締め用のボルト17を締付けることができる位置まで前,後方向に大きく離間して配置されている。
【0034】
13はベース枠体12上に設けられたキャブボックスで、該キャブボックス13は、キャブ11の外形を構成するもので、内部に運転室を画成している。そして、キャブボックス13は、図1、図3、図5に示す如く、前面部13A、後面部13B、左側面部13C、右側面部13Dの4面と天面部13Eとによって箱状体として形状されている。また、前面部13Aには前窓(図示せず)が取付けられ、左側面部13Cにはドア13F(図1中に図示)が開閉可能に取付けられている。そして、キャブボックス13は、前面部13A、後面部13B、左側面部13C、右側面部13Dの下部が、例えば溶接手段等を用いてベース枠体12の周囲に固着されている。
【0035】
14はキャブボックス13の下側を閉塞する床板で、該床板14は、キャブ11の一部を構成するもので、ベース枠体12に合わせて前,後方向に長尺な長方形状の板体として形成されている。そして、床板14の左前、右前、左後、右後の角隅位置には、ベース枠体12の各マウント取付孔12Kに対応する位置にマウント取付孔14Aが設けられている。また、床板14の前側と後側には、ベース枠体12のボルト挿通孔12Lに対応する位置に左,右に離間して例えば2個のねじ孔14Bが設けられている。
【0036】
また、床板14の左側と右側には、ベース枠体12のボルト挿通孔12Mに対応する位置と後述する補強部材16のねじ孔16Bとに対応する位置とに前,後に離間して例えば4個のボルト挿通孔14Cが設けられている。さらに、床板14のほぼ中央部には、例えば4個のねじ孔14Dが設けられ、該各ねじ孔14Dには後述する運転席19の台座19Aを取付けるボルト20が螺着される。なお、前述したねじ孔14B,14Dは、床板14に直接雌ねじを刻設して形成してもよく、また、床板14の下面にナット(図示せず)を溶接してもよいものである。
【0037】
ここで、床板14は、図5ないし図8に示すように、四隅のマウント取付孔14Aに防振マウント23の取付ねじ23Aを挿通することにより、ベース枠体12と一緒に共締めされている。また、床板14は、ベース枠体12の各ボルト挿通孔12Lに挿通した床板用のボルト15を前,後のねじ孔14Bに螺着することにより、前側と後側がベース枠体12に締結されている。さらに、床板14は、ベース枠体12の各ボルト挿通孔12Mに挿通した後述する3部材共締め用のボルト17を前,後端のボルト挿通孔14Cに挿通し、該各ボルト17を後述する補強部材16のねじ孔16Bに螺着することにより、ベース枠体12と補強部材16との間に挟まれた状態で共締めされている。
【0038】
16は床板14の下側に位置して後述する運転席19の左,右両側に設けられた2本の補強部材を示している。この補強部材16は、床板14の前,後方向の中間部分を下側から支持することにより、該床板14が振動するのを抑えるものである。また、補強部材16は、図11に示す如く、例えば十分な強度を有する断面ほぼL字状のアングル材からなり、ベース枠体12を構成する左,右の接続フレーム12G,12Hが配置されている部位に沿うように、各取付座12Jに亘って前,後方向に延びて設けられている。さらに、補強部材16には、床板14に衝合する上面部16Aに位置し、ベース枠体12のボルト挿通孔12M、床板14のボルト挿通孔14Cに対応する4個のねじ孔16Bが形成されている。
【0039】
ここで、補強部材16は、ベース枠体12の各ボルト挿通孔12Mと床板14のボルト挿通孔14Cに挿通したボルト17を、4個のねじ孔16Bのうち前,後端のねじ孔16Bに螺着することにより、ベース枠体12と床板14と一緒に締結されている。これにより、補強部材16は、図7、図9に示すように、ベース枠体12との間に床板14を挟んで支持することができるから、ベース枠体12と床板14の締結位置となるベース枠体12のボルト挿通孔12M(取付座12J)の位置が、前,後方向に広い間隔をもって大きく離間している場合でも、この離間部分に位置する床板14の中央部分が振動するのを防止することができる。
【0040】
また、補強部材16は、床板14の4個のボルト挿通孔14Cのうち、中間に位置する2個のボルト挿通孔14Cに後述する追加のボルト18を挿通し、中間のねじ孔16Bに螺着することにより、床板14と締結することができる。これにより、ベース枠体12に床板14を取付けるときに、ボルト18によって床板14に補強部材16を予め取付けておくことができる。また、追加のボルト18によって床板14と補強部材16とを強固に締結することができる。
【0041】
17はベース枠体12と床板14と補強部材16の3部材を締結する4本の3部材共締め用のボルトで、該各ボルト17は、前,後方向で隣合う位置に配置されている。また、各ボルト17は、図6等に示すように、ベース枠体12の各ボルト挿通孔12M、床板14のボルト挿通孔14Cに挿通し、補強部材16の前,後端のねじ孔16Bに螺着することにより、図9に示す如く、ベース枠体12と補強部材16との間に床板14を共締め状態で締結するものである。
【0042】
18は3部材共締め用のボルト17とは別個に設けられた他のボルトとしての例えば4本の追加のボルトで、該各ボルト18は、前,後方向に離間した2本のボルト17間に配置されている。そして、各ボルト18は、図6に示すように、3部材共締め用のボルト17間に位置する2個のボルト挿通孔14Cに挿通し、先端部を補強部材16のねじ孔16Bに螺着することにより、図10に示すように、床板14と補強部材16とを結合するものである。
【0043】
19は床板14上のほぼ中央部に設けられた運転席で、該運転席19は、オペレータが着座するものである。また、運転席19は、床板14のほぼ中央部に取付ボルト20を用いて取付けられた台座19Aと、該台座19A上に設けられ、着座位置を調整する調整機構19Bと、該調整機構19B上に設けられ、オペレータが着座するシート19Cとにより大略構成されている。
【0044】
21は運転席19の左,右両側に設けられた作業用レバー装置で、該各作業用レバー装置21は、作業装置4等を操作するものである。また、作業用レバー装置21は、各種スイッチ、表示器等が配設されたコンソール21Aと、該コンソール21Aの前側に傾転可能に設けられた操作レバー21Bとにより大略構成されている。
【0045】
ここで、作業用レバー装置21は、図3に示すように、コンソール21Aがキャブボックス13に接近している。このため、コンソール21Aの下側では、スパナ等の工具を扱うスペースを確保することができない。このため、前述したベース枠体12では、作業用レバー装置21のコンソール21Aを避けるようにボルト17が取付く取付座12Jを前,後方向に離間して配置している。
【0046】
22は床板14の前部に設けられた走行用レバー装置で、該走行用レバー装置22は、下部走行体2を走行させるレバー22Aと、該レバー22Aと連動するペダル22B等とから大略構成されている。
【0047】
また、23は旋回フレーム5のキャブ支持部6とキャブ11との間に設けられた例えば4個の防振マウント(図5等に図示)で、該各防振マウント23は、キャブ11の左前、右前、左後、右後の4箇所に配置され、キャブ11をキャブ支持部6に対して弾性的に支持するものである。そして、各防振マウント23は、キャブ支持部6の前枠6Dに形成された各マウント挿着開口6D1と横梁6Bに形成されたマウント挿着開口6B1に取付けられている。また、各防振マウント23は、上側に突出した取付ねじ23Aがベース枠体12,床板14のマウント取付孔12K,14Aに下側から挿通し、その突出端にナット24を螺着することにより、キャブ11を支持している。
【0048】
本実施の形態による油圧ショベル1は上述の如き構成を有するもので、次に、キャブ11を組立てて旋回フレーム5に搭載する作業について説明する。
【0049】
まず、ベース枠体12の周囲にキャブボックス13を例えば溶接手段を用いて一体的に固着する。一方、床板14のほぼ中央部に運転席19を取付け、該運転席19の左,右両側に作業用レバー装置21を取付ける。また、床板14の前側に走行用レバー装置22を取付ける。さらに、床板14の下側に追加のボルト18を用いて補強部材16を締結する。
【0050】
このように床板14上に運転席19、各レバー装置21,22等を取付け、床板14の下側に補強部材16を取付けたら、運転席19等が取付けられた床板14を旋回フレーム5のキャブ支持部6上に運搬し、該床板14の四隅に形成されたマウント取付孔14Aに各防振マウント23の取付ねじ23Aを挿通する。次に、キャブボックス13が取付けられたベース枠体12を床板14上に移動し、該ベース枠体12を床板14の周囲に衝合させる。このときには、ベース枠体12のマウント取付孔12Kに各防振マウント23の取付ねじ23Aを挿通する。
【0051】
そして、旋回フレーム5のキャブ支持部6上(各防振マウント23上)に床板14、ベース枠体12、キャブボックス13を載置したら、各防振マウント23の取付ねじ23Aにナット24を用いてベース枠体12と床板14を共締め状態で締着すると共に、床板用のボルト15、3部材共締め用のボルト17を用いてベース枠体12と床板14と補強部材16とを締結する。これにより、ベース枠体12、キャブボックス13、床板14を一体化してキャブ11を組立てつつ、該キャブ11を4個の防振マウント23を介して旋回フレーム5のキャブ支持部6上に搭載することができる。
【0052】
ここで、3部材共締め用のボルト17を補強部材16に螺着するときには、床板14の所定位置に補強部材16が追加のボルト18によって予め取付けられているから、例えば補強部材16を手で支える必要がなく、ベース枠体12、床板14、補強部材16の締結作業を簡単に行なうことができる。
【0053】
しかも、4本の3部材共締め用のボルト17は、作業用レバー装置21を避けた位置に配置しているから、作業用レバー装置21に邪魔されることなく、スパナ等の工具によって各ボルト17を容易に締付けることができる。
【0054】
次に、上述したように旋回フレーム5にキャブ11が搭載された油圧ショベル1を操作して作業を行なうときの動作について説明する。
【0055】
まず、オペレータは、キャブ11内に搭乗して運転席19に着座する。この状態で走行用レバー装置22を操作することにより、下部走行体2のクローラを駆動して油圧ショベル1を前進または後退させることができる。また、運転席19に着座したオペレータは、左,右の作業用レバー装置21を操作することにより、作業装置4を俯仰動させて土砂の掘削作業等を行なうことができる。
【0056】
ここで、油圧ショベル1は、走行時や作業時に振動を生じ、この振動はキャブ11に伝わって床板14を振動させるように作用する。そして、ベース枠体12に床板14を締結している3部材共締め用のボルト17は、作業用レバー装置21を避けるために前,後方向に離間しているから、床板14は、各ボルト17によって支持されていない中央部分が大きく振動する虞がある。
【0057】
しかし、本実施の形態では、前,後方向に隣合うボルト17に亘って補強部材16を設け、ベース枠体12と補強部材16との間に床板14を挟んで固定しているから、床板14の中央部分を支持し、この部分が振動するのを防止することができる。さらに、補強部材16は、隣合うボルト17間において追加のボルト18により床板14に強固に締結しているから、これによっても床板14の振動を抑えることができる。これにより、走行時、作業時の乗り心地を良好にすることができる。
【0058】
かくして、本実施の形態によれば、床板14の下側には、前,後方向に離間した3部材共締め用のボルト17間に亘って補強部材16を設け、該各ボルト17によってベース枠体12と補強部材16との間に床板14を挟んで支持する構成としている。従って、前,後方向に離間したボルト17間に位置する床板14の中央部分が振動するのを補強部材16によって抑制することができる。
【0059】
この結果、従来技術で述べたように、例えば4隅の防振マウント23とは別個に床板14の中央部分を支持する他の防振マウントを追加する必要がなく、床板14の下側に補強部材16を締結するだけで該床板14の振動を抑えることができるから、キャブ11の組立作業、旋回フレーム5に対するキャブ11の取付作業等の作業性を向上することができ、また製造コストも削減することができる。また、補強部材16によって床板14の振動を抑えることにより、運転席19に着座して作業を行なうオペレータの作業環境を良好にすることもできる。
【0060】
しかも、ベース枠体12に床板14を取付けるときには、追加のボルト18を用いて床板14に補強部材16を予め取付けておくことができるから、ベース枠体12と床板14との締結作業を容易に行なうことができ、組立作業性を向上することができる。また、ボルト18によって床板14と補強部材16とを強固に締結することができ、床板14の振動を効果的に抑えることができる。
【0061】
また、補強部材16は、運転席19の左,右両側位置に前,後方向に延びて設けているから、例えば床板14と旋回フレーム5のキャブ支持部6との間に配設される油圧配管、電気配線、バルブ装置等を避けて補強部材を設けることができ、レイアウトの自由度を高めることができる。
【0062】
さらに、3部材共締め用のボルト17は、作業用レバー装置21を前,後方向に避けた位置に配置しているから、組立作業時にボルト17を容易に締付けることができ、組立作業性を向上することができる。
【0063】
なお、実施の形態では、補強部材16は、十分な強度を有する断面ほぼL字状のアングル材によって形成した場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限るものではなく、例えば図12に示す変形例による補強部材31のように、角パイプ材の上面部31Aに4個のねじ孔31Bを形成する構成としてもよい。その他にも、断面C字状のチャンネル材等の他の強度部材を用いて補強部材を形成してもよい。
【0064】
また、実施の形態では、補強部材16は運転席19の左,右両側に設けた場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限らず、例えばキャブ11の構造、床板14に要求される強度等によっては、補強部材16を運転席19の左側または右側のいずれか一方だけに設ける構成としてもよい。
【0065】
さらに、実施の形態では、建設機械用キャブとしてクローラ式の油圧ショベル1に搭載されたキャブ11を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限るものではなく、例えばホイール式の下部走行体を備えた油圧ショベルのキャブに適用してもよい。さらに、例えば油圧クレーン、ホイールローダ、トラクタ等の他の建設機械のキャブにも広く適用できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の実施の形態に係るキャブを備えた油圧ショベルを示す正面図である。
【図2】図1中の旋回フレームを単体で拡大して示す斜視図である。
【図3】キャブを図1中の矢示III−III方向から拡大して示す断面図である。
【図4】図3のキャブから運転席の一部と各レバー装置を取外した状態を示す断面図である。
【図5】分解したキャブと旋回フレームのキャブ支持部を示す分解斜視図である。
【図6】ベース枠体と床板と補強部材を分解した状態で示す分解斜視図である。
【図7】キャブを図3中の矢示VII−VII方向から拡大して示す断面図である。
【図8】図7に示すキャブを分解した状態で示す分解断面図である。
【図9】3部材共締め用のボルトによるベース枠体と床板と補強部材の締結状態を図4中の矢示IX−IX方向から拡大して示す断面図である。
【図10】追加のボルトによる床板と補強部材の締結状態を図4中の矢示X−X方向から拡大して示す断面図である。
【図11】補強部材を単体で拡大して示す斜視図である。
【図12】本発明の変形例による補強部材を単体で拡大して示す斜視図である。
【符号の説明】
【0067】
1 油圧ショベル(建設機械)
5 旋回フレーム
11 キャブ
12 ベース枠体
13 キャブボックス
14 床板
15 床板用のボルト
16,31 補強部材
17 3部材共締め用のボルト
18 追加のボルト(他のボルト)
19 運転席
23 防振マウント

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建設機械のフレーム上に設けられた枠構造体からなるベース枠体と、該ベース枠体上に設けられ内部に運転室を画成する中空なキャブボックスと、該キャブボックスの下側を閉塞するように前記ベース枠体に複数のボルトを用いて締結された床板と、該床板上に設けられオペレータが着座する運転席とを備えてなる建設機械用キャブにおいて、
前記床板の下側には前記ベース枠体が配置されている部位に沿って延びる補強部材を設け、該補強部材は前記ボルトを用いて前記ベース枠体と床板と一緒に締結する構成としたことを特徴とする建設機械用キャブ。
【請求項2】
前記床板と補強部材とは、前記ベース枠体、床板および補強部材を一緒に締結する前記ボルトとは別個の他のボルトを用いて締結する構成としてなる請求項1に記載の建設機械用キャブ。
【請求項3】
前記補強部材は、前記運転席の左,右のうち少なくとも片側位置に前記ベース枠体に沿って前,後方向に延びて設ける構成としてなる請求項1または2に記載の建設機械用キャブ。
【請求項4】
前記補強部材は前記各ボルトのうち隣合うボルト間に亘って延びるように設け、前記他のボルトは前記隣合うボルト間に位置して前記床板と補強部材とを締結する構成としてなる請求項2または3に記載の建設機械用キャブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2006−56325(P2006−56325A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−238637(P2004−238637)
【出願日】平成16年8月18日(2004.8.18)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】