説明

建造物の中に設けられた嫌振部分の制御装置、及び、建造物の中に設けられた嫌振部分の制御方法

【課題】使い勝手の良い建造物の中に設けられた嫌振部分の制御装置等を実現する。
【解決手段】振動の加速度データを取得するための加速度センサと、該加速度センサにより取得された前記加速度データに対してハイパスフィルタによるフィルタ処理及び積分処理を行って前記振動の速度データと変位データを求め、求められた該速度データと該変位データとに基づいて、建造物の中に設けられた、外力が入力されて振動する嫌振部分を、制御するコントローラと、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建造物の中に設けられた嫌振部分の制御装置、及び、建造物の中に設けられた嫌振部分の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建造物の中に設けられた、外力が入力されて振動する嫌振部分を制御するコントローラを有する建造物の中に設けられた嫌振部分の制御装置は、既によく知られている。このような嫌振部分の制御装置としては、例えば、外力としての地震が入力されて振動する嫌振部分をアクティブ制御するコントローラを有する嫌振部分の制御装置の一例としての嫌振部分の制振装置を挙げることができる。そして、このような制御装置の中には、コントローラが、振動の速度データと変位データとに基づいて、外力が入力されて振動する嫌振部分を制御するものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公平7−11207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来例に係る制御装置においては、振動の速度データを取得するための速度センサと振動の変位データを取得するための変位センサとが用意され、コントローラが、速度センサにより取得された前記速度データと変位センサにより取得された前記変位データとに基づいて、外力が入力されて振動する嫌振部分を制御していたが、このような長周期成分まで観測可能な高感度の速度センサや変位センサは設置時のバランス調整が難しく、常時バランス調整が必要であり、使い勝手が悪いという問題点が指摘されていた。更に速度センサや変位センサは観測原理に擬似的な方法を用いたものが多く、それらは真実の動きに対して周波数特性を持っており、その特性を使用者が自由に設定出来ないため、制御に用いる場合の問題点となっていた。そのため、使い勝手の良い制御装置が要請されていた。
【0005】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、使い勝手の良い建造物の中に設けられた嫌振部分の制御装置及び建造物の中に設けられた嫌振部分の制御方法を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の建造物の中に設けられた嫌振部分の制御装置は、
振動の加速度データを取得するための加速度センサと、
該加速度センサにより取得された前記加速度データに対してハイパスフィルタによるフィルタ処理及び積分処理を行って前記振動の速度データと変位データを求め、
求められた該速度データと該変位データとに基づいて、建造物の中に設けられた、外力が入力されて振動する嫌振部分を、制御するコントローラと、
を有することを特徴とする。
かかる場合には、使い勝手の良い建造物の中に設けられた嫌振部分の制御装置が実現される。
【0007】
また、上記の嫌振部分の制御装置において、
前記ハイパスフィルタは3極以上のハイパスフィルタであることとしてもよい。
かかる場合には、変位データにDC成分が残ってしまう問題が適切に解消される。
【0008】
また、上記の嫌振部分の制御装置において、
前記3極以上のハイパスフィルタは、4極のハイパスフィルタであり、
該4極のハイパスフィルタは、カットオフ振動数が互いに同じである二つの2極のハイパスフィルタを、直列に用いたフィルタであることとしてもよい。
かかる場合には、低い振動数成分のカットがより適切に行われることとなる。
【0009】
また、上記の嫌振部分の制御装置において、
前記3極以上のハイパスフィルタは、4極のハイパスフィルタであり、
該4極のハイパスフィルタは、カットオフ振動数が互いに異なる二つの2極のハイパスフィルタを、直列に用いたフィルタであることとしてもよい。
かかる場合には、変位データの加速度データとの位相ずれが実際の位相ずれと近いものとなり、嫌振部分の制御がより適切に行われることとなる。
【0010】
次に、加速度センサが振動の加速度データを取得するステップと、
コントローラが、
前記加速度データに対してハイパスフィルタによるフィルタ処理及び積分処理を行って前記振動の速度データと変位データを求め、
求められた該速度データと該変位データとに基づいて、建造物の中に設けられた、外力が入力されて振動する嫌振部分を、制御するステップと、
を有することを特徴とする建造物の中に設けられた嫌振部分の制御方法。
かかる場合には、使い勝手の良い建造物の中に設けられた嫌振部分の制御方法が実現される。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、使い勝手の良い建造物の中に設けられた嫌振部分の制御装置等が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本実施の形態に係る制御装置の一例としての制振装置10の模式図である。
【図2】コントローラ40等のブロック図である。
【図3】本実施の形態に係るハイパスフィルタの周波数特性を示した図である。
【図4】式(8)の伝達関数の周波数特性を示した図である。
【図5】式(9)の伝達関数の周波数特性を示した図である。
【図6】第二実施形態に係るハイパスフィルタの周波数特性を示した図である。
【図7】式(11)の伝達関数の周波数特性を示した図である。
【図8】式(12)の伝達関数の周波数特性を示した図である。
【図9】第三実施形態に係るハイパスフィルタの周波数特性を示した図である。
【図10】式(14)の伝達関数の周波数特性を示した図である。
【図11】式(15)の伝達関数の周波数特性を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
===本実施の形態に係る制振装置10について===
<<<制振装置10の概略構成について>>>
図1は、本実施の形態に係る制御装置の一例としての制振装置10(なお、制振装置とは、広義の制振装置であり、所謂免震装置をも含む概念である)の模式図である。制振装置10は、免震支承体20と、ダンパ32と、加速度センサ34と、アクチュエータ36と、コントローラ40と、を備えている。
【0014】
免震支承体20は、建造物の中に設けられた嫌振部分(以下、単に、嫌振部分100と呼ぶ)と床110との間に設置され、その上面に嫌振部分100が載置されることにより嫌振部分100を支持して、該嫌振部分100の固有周期を本来の固有周期よりも長周期化するものである。本実施形態の免震支承体20は、バネ支承体の一例としての積層ゴムであり、嫌振部分100の直下に複数設置されている。複数の積層ゴムの各々は、比較的低剛性であり、地震動が発生したときに、水平方向において上面(嫌振部分100の支持面)及び下面(床110との接地面)の各々の位置が互いにずれるように弾性変形しながら嫌振部分100を支持する。なお、免震支承体20については積層ゴムに限定されず、積層ゴム以外のバネ支承体、滑り支承体、ベアリング等を利用してもよい。
【0015】
ダンパ32は、水平方向に沿って伸縮自在であり、伸縮して嫌振部分100に減衰力を付加する減衰力付与機構である。このダンパ32は、床110上に固定され該床110と一体化された一体化部材112と嫌振部分100との間に設けられ、水平方向一端部(すなわち、伸縮方向一端部)が一体化部材112に固定され、水平方向他端部(すなわち、伸縮方向他端部)が嫌振部分100に固定されている。この本実施形態のダンパ32は、オイルダンパであり、固有のダンパ特性(例えば、減衰係数)を有する所謂パッシブダンパである。なお、ダンパ32は、オイルダンパに限定されるものではなく、伸縮して減衰力を発生するものであれば他のダンパ(例えば、粘性体ダンパや摩擦ダンパ)も利用可能である。
【0016】
加速度センサ34は、振動の加速度データを取得するためのものである。本実施の形態においては、加速度センサ34として、床110の振動の加速度データを取得するための第一加速度センサ34aと嫌振部分100の振動の加速度データを取得するための第二加速度センサ34bとが備えられている。
【0017】
アクチュエータ36は、床110と嫌振部分100とにバネ部材38を介して固定され、該嫌振部分100の底部に対して制振力を付加して該嫌振部分100の振動を制振する。このアクチュエータ36は、水平方向に変位自在なロッドを備え、該ロッドを水平方向に沿って油圧駆動する(つまり、ロッドのストロークが変わるようにロッドを駆動する)。なお、バネ部材38は、ロッドの先端部と嫌振部分100との間に備えられている。
【0018】
コントローラ40は、外力(地震)が入力されて振動する嫌振部分100を、アクチュエータ36を介して制御する(すなわち、アクチュエータ36のロッドのストロークを変えることにより嫌振部分100を制御する)ためのものである。このコントローラ40については、後に詳述する。
【0019】
そして、上記構成を有する制振装置10は、嫌振部分100の振動をアクティブ制御により制振するが、当該制振装置10におけるアクティブ制御においては、振動の速度データと変位データとに基づいて、嫌振部分100が制御されることとなる。次項においては、このことについて詳細に説明する。
【0020】
なお、建造物の中に設けられた嫌振部分(嫌振部分100)としては、病院内の手術室、半導体等の精密部品工場内の製造室、建造物内の発電機室、建造物内のコンピュータールーム、建造物内の美術品等重要物の展示室、展示台、展示ケース等を挙げることができる。しかしながら、これらに限定されるものではない。
【0021】
<<<本実施の形態に係る制振装置10におけるアクティブ制御について>>>
ここでは、本実施の形態に係る制振装置10におけるアクティブ制御について説明する(具体的には、振動の速度データと変位データとに基づいて、どのようにアクチュエータ36のロッドのストロークを変えるかについて説明する)。
【0022】
先ず、嫌振部分100の運動方程式(ここでは、嫌振部分100を多質点系モデルと捉えているため、行列による表現となっている)を床110に対する相対座標系で表すと、以下の式(1)となる。
【数1】

【0023】
そして、これを、絶対座標系で嫌振部分100の底部に制御力(アクティブ力)Fを加えた形で、絶対応答成分を用いた表記で表すと、以下の式(2)となる。
【数2】

【0024】
ここで、制御力(アクティブ力)Fは、バネ部材38のバネ剛性ks、アクチュエータ36の変位量z、免震層の相対変位x1を用いて、以下の式(3)で表されるので、
【数3】

【0025】
式(2)に式(3)を代入することにより、式(2)は以下の式(4)のように表される。
【数4】

【0026】
そして、式(4)の右辺の外力項をゼロとするアクチュエータ36の変位量zは、以下の式(5)のように表される。
【数5】

【0027】
上記式(5)による制御は、床110の振動の速度データ(式(5)におけるyの微分値に相当)と変位データ(式(5)におけるyに相当)を取得して、嫌振部分100に床110の振動の外力が入る前にそれを打ち消す制御であり、フィードフォワード制御と呼ばれる。しかしながら、床110の振動の速度データと変位データの取得誤差、係数ko、co、ksの誤差、油圧駆動によるアクチュエータ36の特性等により、入力成分を完全に打ち消すことができない。そのため、当該フィードフォワード制御の誤差によって励起された絶対応答速度成分を取得して,それを即座に吸収する制御を行うことになる。この方法は制御結果を制御に用いることになるため、フィードバック制御と呼ばれる。特にこの絶対応答速度をフィードバック制御に用いた効果は、空中の絶対空間に設置されたダンパによる効果と同じであるため、一般的にスカイフックダンパとして呼ばれる。
【0028】
入力遮断を目指す式(5)のフィードフォワード制御に、スカイフックダンパの効果を期待するフィードバック制御を併用する場合のアクチュエータ36への指令は、以下の式(6)のようになる。
【数6】

【0029】
本実施の形態に係る制振装置10は、上述したフィードフォワード制御とフィードバック制御を併用し、式(6)に基づいてアクティブ制御を行う。すなわち、制振装置10は、振動の速度データ(式(6)におけるyの微分値及びx1の微分値に相当)と変位データ(式(6)におけるyに相当)とに基づいて、アクチュエータ36のロッドのストロークを変えることにより、嫌振部分100をアクティブ制御する。
【0030】
<<<本実施の形態に係るコントローラ40について>>>
上述したとおり、アクティブ制御においては、地震が入力されて振動する嫌振部分100が、振動の速度データと変位データとに基づいて制御される。このようなアクティブ制御について、典型的な例においては(例えば、従来の例においては)、振動の速度データを取得するための速度センサと振動の変位データを取得するための変位センサとが用意され、速度センサにより取得された速度データと変位センサにより取得された変位データとに基づいて嫌振部分の制御が実行される。
【0031】
これに対し、本実施の形態においては、速度センサ及び変位センサのいずれもが用意されず、これらの代わりに加速度センサ34のみが用意される。そして、コントローラ40内で、加速度センサ34により取得された加速度データに対して積分処理が行われて振動の速度データ及び変位データが求められ、求められた速度データと変位データとに基づいて、嫌振部分100の制御が実行される。また、加速度データに対しては、前記積分処理のみならずハイパスフィルタによるフィルタ処理も行われる(加速度データに対しフィルタ処理を行ってから積分処理を行ってもよいし、積分処理を行ってからフィルタ処理を行ってもよいし、双方を同時に行ってもよい。本実施の形態においては、双方を同時に行う)。
【0032】
以下、上記(主としてコントローラ40の処理)について、図2を用いて詳細に説明する。図2は、コントローラ40等のブロック図である。
【0033】
コントローラ40は、積分フィルタ処理部42とアクティブ制御部44とを備えている。
【0034】
積分フィルタ処理部42は、加速度センサ34により取得された振動の加速度データに対してハイパスフィルタによるフィルタ処理及び積分処理を行って振動の速度データと変位データを求める部分である。なお、上述したとおり、本実施の形態においては、フィルタ処理及び積分処理を同時に行うため、当該処理を、便宜上、積分フィルタ処理と呼んでいる。
【0035】
この積分フィルタ処理部42は、第一積分フィルタ処理部42aと第二積分フィルタ処理部42bを備えている。第一積分フィルタ処理部42aは、前述した第一加速度センサ34aにより取得された振動の加速度データに対してハイパスフィルタによるフィルタ処理及び積分処理を行って振動の速度データと変位データを求める部分であり、第二積分フィルタ処理部42bは、前述した第二加速度センサ34bにより取得された振動の加速度データに対してハイパスフィルタによるフィルタ処理及び積分処理を行って振動の速度データを求める部分である。本実施の形態においては、第一積分フィルタ処理部42aと第二積分フィルタ処理部42bが、基本的に同じ処理を行う(ハイパスフィルタのフィルタ特性も、1階積分により速度データを算出することも、同じである)が、第一積分フィルタ処理部42aが2階積分により変位データを算出するのに対し、第二積分フィルタ処理部42bは変位データを算出しない(何故ならば、前述した式(6)には、yとyの微分値とx1の微分値が存在するがx1が存在しないため、嫌振部分100の振動の加速度データを取得するための第二加速度センサ34bにより取得された加速度データから変位データを算出する必要がないからである)。この点で、第一積分フィルタ処理部42aと第二積分フィルタ処理部42bは異なっている。
【0036】
また、単に積分処理を行うのではなく、ハイパスフィルタによるフィルタ処理も行う理由について説明すると、算出される速度データや変位データに誤差が生じないようにするためである。すなわち、加速度センサ34は地震による振動とは無関係な低い振動数成分(電気的なノイズ等が原因となって発生するものである)を誤差成分として出力してしまい、仮にハイパスフィルタによるフィルタ処理が行われずに積分処理が行われるとすると、積分処理により前記誤差成分が累積して積分処理により算出された速度データや変位データに大きな誤差(つまり、本来の速度データや変位データとの偏差)が生じてしまう。そのため、地震による振動とは無関係な低い振動数成分をハイパスフィルタによるフィルタ処理によりカットすれば、算出される速度データや変位データに誤差が生じないようにすることが可能となる。
【0037】
なお、本実施の形態においては、ハイパスフィルタとして2極のハイパスフィルタを用いる。当該2極のハイパスフィルタは、以下の式(7)の伝達関数により表される。
【数7】

【0038】
また、当該フィルタ(伝達関数)の周波数特性を図3に示す。図3の上図が、横軸にとった振動数と縦軸にとった伝達率(ゲイン)との関係を示した図であり、図3の下図が、横軸にとった振動数と縦軸にとった位相との関係を示した図である。なお、横軸には、振動数として、無次元化された振動数が表されている。また、上図及び下図の各々において、4つの曲線が表されているが、これらの曲線は、それぞれ減衰比hを0.1、0.3.0.5、0.7としたときの周波数特性である。
【0039】
そして、本実施の形態においては、想定される地震の振動数成分等の情報に基づいて、適宜、式(7)の伝達関数により表される2極のハイパスフィルタの減衰比hやカットオフ周波数woが調整されることとなる(すなわち、図3からも明らかなように、式(7)の伝達関数により表される2極のハイパスフィルタの周波数特性は、減衰比hやカットオフ振動数woが変更されると、変わることとなる)。
【0040】
また、振動の速度データの振動の加速度データに対する伝達関数は、式(7)の伝達関数をsで割った(1階積分した)ものとなるため、以下の式(8)により表され、振動の変位データの振動の加速度データに対する伝達関数は、式(7)の伝達関数をsの2乗で割った(2階積分した)ものとなるため、以下の式(9)により表される。
【数8】

【数9】

【0041】
また、式(8)の伝達関数の周波数特性と式(9)の伝達関数の周波数特性は、それぞれ図4及び図5に表された特性となる。
【0042】
すなわち、図2のブロック図において、加速度データを入力、速度データを出力としたときの積分フィルタ処理部42(第一積分フィルタ処理部42a、第二積分フィルタ処理部42b)の伝達関数は式(8)により表され、その周波数特性は図4において描かれた曲線となる。同様に、図2のブロック図において、加速度データを入力、変位データを出力としたときの積分フィルタ処理部42(第一積分フィルタ処理部42a)の伝達関数は式(9)により表され、その周波数特性は図5において描かれた曲線となる。
【0043】
アクティブ制御部44は、積分フィルタ処理部42により求められた速度データと変位データに基づいて、外力(地震)が入力されて振動する嫌振部分100を制御する部分である。このアクティブ制御部44は、既に説明したとおり、フィードフォワード制御とフィードバック制御を併用し、式(6)に基づいてアクティブ制御を行う。すなわち、アクティブ制御部44は、第一積分フィルタ処理部42a及び第二積分フィルタ処理部42bにより求められた速度データ(式(6)におけるyの微分値及びx1の微分値に相当)と第一積分フィルタ処理部42aにより求められた変位データ(式(6)におけるyに相当)とに基づいて、アクチュエータ36のロッドのストロークを変えることにより、嫌振部分100をアクティブ制御する。
【0044】
このように、本実施の形態に係る嫌振部分100の制振装置10は、振動の加速度データを取得するための加速度センサ34と、該加速度センサ34により取得された前記加速度データに対してハイパスフィルタによるフィルタ処理及び積分処理を行って前記振動の速度データと変位データを求め、求められた該速度データと該変位データとに基づいて、外力(地震)が入力されて振動する嫌振部分100を制御するコントローラ40と、を有している。そして、このことにより、使い勝手のよい制振装置10を実現することが可能となる。
【0045】
上記につき、本実施の形態に係る制振装置10と比較例に係る制振装置とを比較しながら説明する。比較例に係る制振装置は、前述した典型的な例であり、コントローラが速度データと変位データとに基づいて外力(地震)が入力されて振動する嫌振部分を制御する点について、本実施の形態に係る制振装置10と同様である。しかしながら、コントローラが速度データや変位データを求めるようなことは行わない。すなわち、比較例に係る制振装置においては、振動の速度データを取得するための速度センサと振動の変位データを取得するための変位センサとが用意され、速度センサにより取得された速度データと変位センサにより取得された変位データとに基づいて嫌振部分の制御が実行される。そして、このような比較例に係る制振装置は、以下で説明する問題点を内包していた。
【0046】
すなわち、嫌振部分の制御装置(制振装置)用に使用可能な(また、使用されてきた)変位センサ及び速度センサは非常に高価であり、また、変位センサ及び速度センサという2つのセンサを用意しなければならないという問題もあった。さらに、2つのセンサを用意すれば、その分の(センサの台数分の)配線(コントローラからセンサまでの電気配線)を確保する必要があった。特に、制御の対象物が嫌振部分であるため、当該配線の長さは大変長くなり、センサの台数分の配線を確保することの問題点は非常に大きいものであった。このように、比較例に係る制振装置は、(コスト的な意味において)非常に使い勝手の悪いシステムであった。
【0047】
また、嫌振部分の制御装置(制振装置)用に使用可能な(また、使用されてきた)変位センサ及び速度センサには、ハイパスフィルタが組み込まれており、地震による振動とは無関係な低い振動数成分を誤差成分として出力してしまうことが適切に防止されていたが、当該ハイパスフィルタの特性はブラックボックスであり、ユーザが知る術がなかった。さらに、ハイパスフィルタのパラメータ(減衰比hやカットオフ振動数wo)を調整することもできなかった。そのため、想定される地震の振動数成分等の情報に基づいて、最適なパラメータを備える変位センサ及び速度センサを選択したり、パラメータを最適値に変えたりすることができず、非常に使い勝手の悪いものであった。
【0048】
これに対し、本実施の形態に係る制振装置10においては、前記変位センサ及び前記速度センサの代わりに安価な加速度センサ34が使用され、用意するセンサが一つで済む。そして、前述した配線の問題も顕著に軽減されることになる。このように、本実施の形態に係る制振装置10は、(コスト的な意味において)非常に使い勝手の良いシステムとなる。
【0049】
また、ハイパスフィルタによるフィルタ処理をコントローラ40内で行うこととしたため、ハイパスフィルタのパラメータ(減衰比hやカットオフ振動数wo)を自由に調整することが可能となる。そのため、想定される地震の振動数成分等の情報に基づいて、パラメータを最適値に変えることが可能となり、非常に使い勝手の良いものとなる。
【0050】
===変形例に係る制振装置10について===
ここでは、前述した制振装置10の変形例について、二つの例を挙げて説明する。以下、前述した制振装置10を第一実施形態に係る制振装置10、変形例に係る制振装置10を第二実施形態に係る制振装置10及び第三実施形態に係る制振装置10とも呼ぶ。
【0051】
第一実施形態に係る制振装置10と変形例に係る制振装置10との相違点は、コントローラ40の積分フィルタ処理部42におけるハイパスフィルタが異なる点にある。すなわち、第一実施形態に係るハイパスフィルタは2極のハイパスフィルタであったが、変形例に係るハイパスフィルタは4極のハイパスフィルタとなっている。以下、変形例に係るハイパスフィルタについて、具体的に、第二実施形態に係るハイパスフィルタ、第三実施形態に係るハイパスフィルタの順に説明する。
【0052】
第二実施形態に係るハイパスフィルタ(4極のハイパスフィルタ)は、カットオフ振動数が互いに同じである二つの2極のハイパスフィルタを、直列に用いたフィルタである。すなわち、当該4極のハイパスフィルタは、以下の式(10)の伝達関数により表され、式(10)の伝達関数の周波数特性は、図6に表された特性となる。
【数10】

【0053】
また、振動の速度データの振動の加速度データに対する伝達関数は、式(10)の伝達関数をsで割った(1階積分した)ものとなるため、以下の式(11)により表され、振動の変位データの振動の加速度データに対する伝達関数は、式(10)の伝達関数をsの2乗で割った(2階積分した)ものとなるため、以下の式(12)により表される。
【数11】

【数12】

【0054】
また、式(11)の伝達関数の周波数特性と式(12)の伝達関数の周波数特性は、それぞれ図7及び図8に表された特性となる。
【0055】
一方、第三実施形態に係るハイパスフィルタ(4極のハイパスフィルタ)は、カットオフ振動数が互いに異なる(本実施の形態においては、一方のカットオフ振動数が他方のカットオフ振動数の10倍)二つの2極のハイパスフィルタを、直列に用いたフィルタである。すなわち、当該4極のハイパスフィルタは、以下の式(13)の伝達関数により表され、式(13)の伝達関数の周波数特性は、図9に表された特性となる。
【数13】

【0056】
また、振動の速度データの振動の加速度データに対する伝達関数は、式(13)の伝達関数をsで割った(1階積分した)ものとなるため、以下の式(14)により表され、振動の変位データの振動の加速度データに対する伝達関数は、式(13)の伝達関数をsの2乗で割った(2階積分した)ものとなるため、以下の式(15)により表される。
【数14】

【数15】

【0057】
また、式(14)の伝達関数の周波数特性と式(15)の伝達関数の周波数特性は、それぞれ図10及び図11に表された特性となる。
【0058】
ここで、第一実施形態に係る2極のハイパスフィルタと変形例に係る4極のハイパスフィルタとを比較考察すると、後者は以下に説明する優位点を有している。
【0059】
すなわち、第一実施形態に係る2極のハイパスフィルタが積分フィルタ処理部42に用いられた場合に、振動の変位データの振動の加速度データに対する伝達関数の周波数特性は、前述したとおり、図5に示したようになるが、当該図の上図から分かるように、DC成分(振動数ゼロの成分)が適切に除去されない現象が発生することとなる(すなわち、図5の上図の横軸の値が0となったときの縦軸の値が0とならない)。加速度センサ34により取得される加速度データにDC成分が無ければ、当該2極のハイパスフィルタを用いても問題ないが、精度の高い加速度センサ34ではDC成分から測れる構造となっており、加速度センサ34を置いた位置の僅かな傾斜でもDC成分として現われることになる。更に、加速度センサ34のアンプの電気的な原因でもDC成分が発生する。そして、このように加速度データにDC成分が存在すると、積分フィルタ処理部42の出力である変位データにDC成分が残ってしまう(なお、図4から分かるように、積分フィルタ処理部42の出力である速度データにはDC成分が残らない)。
【0060】
これに対し、変形例に係る4極のハイパスフィルタが積分フィルタ処理部42に用いられた場合には、振動の変位データの振動の加速度データに対する伝達関数の周波数特性は、図8(第二実施形態)、図11(第三実施形態)に示したようになり、DC成分が適切に除去されない現象は発生しない(図8の上図、図11の上図においては、左側の部分において、曲線が左下がりになっている点を参照)。そのため、加速度データにDC成分が存在したとしても、積分フィルタ処理部42の出力である変位データにDC成分が残ってしまうことはなく、上述した問題が適切に解消されることとなる。なお、変形例に係るハイパスフィルタは4極のハイパスフィルタであったが、ハイパスフィルタが3極以上のハイパスフィルタであれば、当該3極以上のハイパスフィルタの伝達関数をsの2乗で割った周波数特性、すなわち、振動の変位データの振動の加速度データに対する伝達関数の周波数特性は、DC成分を適切に除去する特性となる(すなわち、振動数−伝達率特性の左側の部分において、曲線が左下がりになる)。そのため、ハイパスフィルタが3極以上のハイパスフィルタの場合には、DC成分を適切に除去する効果を発揮することとなる。
【0061】
また、第二実施形態に係る4極のハイパスフィルタと第三実施形態に係る4極のハイパスフィルタとを比較考察すると、後者は以下に説明する優位点を有している。
【0062】
すなわち、振動の加速度と振動の変位の間の位相の実際の位相ずれは180度であるが、図8の下図及び図11の下図に示されるように、無次元振動数が10以上である振動の場合には、第二、第三実施形態のいずれにおいても、積分フィルタ処理部42が出力する変位データの加速度データとの位相ずれは、前記実際の位相ずれ(180度)とほぼ同様となる(すなわち、積分フィルタ処理部42はほぼ正しく位相をずらして変位データを出力する)。
一方で、無次元振動数が10以上である振動よりも少し低い振動数を持つ振動(例えば、無次元振動数が1である振動)の場合には、積分フィルタ処理部42が出力する変位データの加速度データとの位相ずれは、前記実際の位相ずれ(180度)とは相違することとなる。すなわち、第二実施形態においては、積分フィルタ処理部42が出力する変位データの加速度データとの位相ずれは、前記実際の位相ずれ(180度)から180度分相違することとなり(図8の下図において、無次元振動数が1のときに位相が0度であることが、このことを示している)、また、第三実施形態においては、積分フィルタ処理部42が出力する変位データの加速度データとの位相ずれは、前記実際の位相ずれ(180度)から90度分相違することとなる(図11の下図において、無次元振動数が1のときに位相が90度であることが、このことを示している)。
【0063】
そして、上記のとおり、第三実施形態に係る4極のハイパスフィルタが積分フィルタ処理部42に用いられる場合には、第二実施形態に係る4極のハイパスフィルタが積分フィルタ処理部42に用いられる場合よりも、無次元振動数が10以上である振動よりも少し低い振動数を持つ振動について、積分フィルタ処理部42が出力する変位データの加速度データとの位相ずれが実際の位相ずれと近いものとなる。そのため、4極のハイパスフィルタをカットオフ振動数が互いに異なる二つの2極のハイパスフィルタを直列に用いたフィルタとした場合には、嫌振部分100のコントローラ40による制御がより適切に行われることとなる(180度分の相違となると好ましい制御力と逆方向に力が作用し、嫌振部分100の応答を増幅させることになるが、90度分の相違程度であれば、その増幅を極めて小さく抑えることが可能となる)。
【0064】
また、第二実施形態に係る4極のハイパスフィルタと第三実施形態に係る4極のハイパスフィルタとを比較考察すると、前者は以下に説明する優位点を有している。
【0065】
すなわち、第三実施形態に係る4極のハイパスフィルタが積分フィルタ処理部42に用いられた場合に、振動の変位データの振動の加速度データに対する伝達関数の周波数特性は、図11に示したようになるが、当該図の上図から分かるように、無次元振動数が0.1から1の間で伝達率があまり変わらないという現象が生ずる。これに対し、第二実施形態に係る4極のハイパスフィルタが積分フィルタ処理部42に用いられた場合に、振動の変位データの振動の加速度データに対する伝達関数の周波数特性は、図8に示したようになり、当該図の上図から分かるように、無次元振動数が0.1から1の間で伝達率が左下がりの曲線となる。すなわち、4極のハイパスフィルタをカットオフ振動数が互いに同じである二つの2極のハイパスフィルタを直列に用いたフィルタとした場合には、低い振動数成分のカットがより適切に行われることとなる。
【0066】
===その他の実施形態===
以上、上記実施の形態に基づき本発明に係る嫌振部分の制御装置等を説明したが、上記した発明の実施の形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることはもちろんである。
【0067】
また、上記においては、嫌振部分100の制御例として嫌振部分100をアクティブ制御する例を挙げて説明したが、これに限定されるものではない。例えば、嫌振部分100をセミアクティブ制御する例にも本発明を適用可能である。
【0068】
また、上記においては、絶対座標系に基づいてアクティブ制御する例を挙げて説明したが、これに限定されるものではない。絶対座標系から相対座標系への変換は簡易に行えるため、例えば、相対座標系に基づいてアクティブ制御する例(アクティブ動吸振器の制御等)にも、本発明を適用可能である。
【0069】
また、上記においては、アナログのハイパスフィルタを用いる例を示したが、これに限定されるものではなく、デジタル・コントローラを用いる場合、式(13)〜(15)をz変換した形のデジタルハイパスフィルタの形で用いることが出来る。
【0070】
また、式(13)〜(15)の加速度、速度、変位の出力の相互の関連性が保証された状態方程式を用いると、

【0071】

【0072】
の形で表される。これをデジタル系で扱う場合、これらをz変換した離散系の状態方程式は、

【0073】
として表され、観測加速度をA/D変換した値(y(k)の二階微分値)と1ステップ前の状態量X(k−1)用いて現在の状態量X(k)が求められる。この状態量を用いて、観測加速度(y(k)の二階微分値)に対する式(13)〜(15)で定義する変位と速度、加速度の出力は、次の出力方程式を用いて、

【0074】

【0075】
として求められる。かかる場合には、例えば、図2において、加速度センサ34と積分フィルタ処理部42との間にA/D変換器が、アクティブ制御部44とアクチュエータ36との間にD/A変換器が設けられることとなる。
【符号の説明】
【0076】
10 制振装置、20 免震支承体、32 ダンパ、
34 加速度センサ、34a 第一加速度センサ、34b 第二加速度センサ、
36 アクチュエータ、38 バネ部材、
40 コントローラ、42 積分フィルタ処理部、
42a 第一積分フィルタ処理部、42b 第二積分フィルタ処理部、
44 アクティブ制御部、
100 嫌振部分、110 床、112 一体化部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動の加速度データを取得するための加速度センサと、
該加速度センサにより取得された前記加速度データに対してハイパスフィルタによるフィルタ処理及び積分処理を行って前記振動の速度データと変位データを求め、
求められた該速度データと該変位データとに基づいて、建造物の中に設けられた、外力が入力されて振動する嫌振部分を、制御するコントローラと、
を有することを特徴とする建造物の中に設けられた嫌振部分の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の制御装置において、
前記ハイパスフィルタは3極以上のハイパスフィルタであることを特徴とする制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の制御装置において、
前記3極以上のハイパスフィルタは、4極のハイパスフィルタであり、
該4極のハイパスフィルタは、カットオフ振動数が互いに同じである二つの2極のハイパスフィルタを、直列に用いたフィルタであることを特徴とする制御装置。
【請求項4】
請求項2に記載の制御装置において、
前記3極以上のハイパスフィルタは、4極のハイパスフィルタであり、
該4極のハイパスフィルタは、カットオフ振動数が互いに異なる二つの2極のハイパスフィルタを、直列に用いたフィルタであることを特徴とする制御装置。
【請求項5】
加速度センサが振動の加速度データを取得するステップと、
コントローラが、
前記加速度データに対してハイパスフィルタによるフィルタ処理及び積分処理を行って前記振動の速度データと変位データを求め、
求められた該速度データと該変位データとに基づいて、建造物の中に設けられた、外力が入力されて振動する嫌振部分を、制御するステップと、
を有することを特徴とする建造物の中に設けられた嫌振部分の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−36913(P2012−36913A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−174653(P2010−174653)
【出願日】平成22年8月3日(2010.8.3)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】