説明

弁装置のロック機構

【課題】回転駆動源への通電無しで弁体を所定の開度位置に保持できると共に、弁体の所定の開度位置での保持を解除するために特別の駆動機構を必要としない弁装置のロック機構を提供する。
【解決手段】弁装置36a,36bのロック機構80は、弁体46と共に移動するラック部63の壁面64cに当接可能なボール81と、ボール81を壁面64cに向けて押圧するためのばね部材82とを備えており、ラック部63の壁面64cにボール81を押圧したときに発生する摩擦力により弁体46を保持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弁装置のロック機構に関し、より詳しくは、流体通路を開閉する弁体を有する弁装置の前記弁体を所定の開度位置に保持するためのロック機構に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、エンジンの始動時に、2次空気流路管内に発生する2次空気を三元触媒コンバータに導入して三元触媒の暖機を促進させる2次空気供給システムに組み込まれた流体制御弁装置が開示されている。
【0003】
この流体制御弁装置は、電動モータと、電動モータの回転速度を減速する減速機構と、減速機構中の最終ギアと噛合する複数のラック歯が外周面に設けられ前記最終ギアの回転運動を直線運動に変換して弁体と一体的に変位するバルブシャフト(弁ロッド)とを備えている。この場合、電動モータを正転又は逆転させて最終ギアとラック歯とを噛合させることにより、ラック歯を有するバルブシャフトと一体的に弁体を変位させて流体通路を開閉するようにしている。
【0004】
また、本出願人らは、弁装置のケースに揺動可能なロックレバーを設置すると共に、ラック歯が設けられたラック部材のラック歯とは反対側の背面に係合部を形成し、ロックレバーを係合部に係合させることにより、回転駆動源への通電無しでラック部材と共に移動する弁体を開放位置(開弁状態)に保持する弁装置を提案している(特願2009−229065)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−24242号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ロックレバーをラック部材の係合部に係合させることにより弁体を開放位置に保持する弁装置においては、弁体を開放位置から閉止位置に変位させる際に、係合部と係合する方向へばね部材により回転力が付与されたロックレバーを係合部から外すために、ソレノイド等の特別の駆動機構が必要になるという課題があった。
【0007】
また、ソレノイド等の駆動機構の推力と比較して、ばね部材による係合方向への回転力は大きい。このため、ロックレバーを係合部から外す際に、一旦ラック部材を開弁方向に移動させてロックレバーの先端が係合部と接触しない離れた状態としてから、ソレノイド等の駆動機構でロックレバーを駆動しなければならない。したがって、閉弁時には、一旦開弁方向にラック部材を移動させる無駄な作動ストロークが生じ、結果的にラック部材の作動ストロークを若干大きく取る必要がある。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、回転駆動源への通電無しで弁体を所定の開度位置に保持できると共に、弁体の所定の開度位置での保持を解除するために特別の駆動機構を必要としない弁装置のロック機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明は、流体通路を開閉する弁体を有する弁装置の前記弁体を所定の開度位置に保持するためのロック機構であって、前記弁装置は、回転駆動源の回転駆動力が伝達されるギアと、前記ギアと噛合するラック歯が設けられ前記ギアの回転運動を直線運動に変換して前記弁体と共に移動するラック部とを有し、前記ラック部の壁面に当接可能なボールと、前記ボールを前記壁面に向けて押圧するためのばね部材とを備え、前記ラック部の壁面に前記ボールを押圧したときに発生する摩擦力により前記弁体を保持することを特徴とする。
【0010】
この発明によれば、ラック部の壁面に、ばね部材によりボールが押圧されて、ラック部の壁面とボールとの間に摩擦力が発生し、この摩擦力によってラック部が保持される。したがって、回転駆動源への通電が無くとも、弁体を所定の開度位置に保持することができ、消費電力が低減される。しかも、弁体の所定の開度位置での保持を解除するために特別の駆動機構を必要としないため、簡素な構造を実現でき、小型軽量化及び低コスト化が可能となる。
すなわち、回転駆動源への通電無しで弁体を所定の開度位置に保持できると共に、弁体の所定の開度位置での保持を解除するために特別の駆動機構を必要としない弁装置のロック機構を提供できる。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の弁装置のロック機構において、前記ばね部材側である軸方向に沿う第1の方向に臨む保持面を有し、当該保持面により前記ボールを保持する保持具と、前記ボールが当接され、前記第1の方向と反対方向の第2の方向に向けて徐々に外径が減少する当接面、及び前記第1の方向に臨み、前記ばね部材の前記第2の方向の付勢力を受けるばね受け面を有する押し具と、を備えることを特徴とする。
【0012】
この発明によれば、ばね部材によって押し具のばね受け面に加えられた付勢力は、押し具の当接面を介してボールに伝達されて、ボールからラック部の壁面に押圧力が加わる。このようなコンパクトな構成により、ラック部の壁面とボールとの間に摩擦力を生じさせてラック部を保持することができる。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の弁装置のロック機構において、前記押し具の当接面は、前記第2の方向に向けて直線的に外径が減少するテーパ形状を呈しており、前記ボールは、前記押し具の当接面の周方向において前記保持具に複数個保持されることを特徴とする。
【0014】
この発明によれば、簡易な形状の当接面によって、ばね部材の付勢力を複数個のボールに振り分けることができる。したがって、ラック部の壁面とボールとの間でボールの数だけ摩擦力が発生し、ラック部の壁面が円周上の複数個所で安定的に保持されることになるため、ラック部をより確実に保持することができる。
【0015】
請求項4に記載の発明は、請求項2又は請求項3に記載の弁装置のロック機構において、前記保持具には、前記ボールが前記保持具の半径方向外方に離脱することを防止する離脱防止部が設けられていることを特徴とする。
【0016】
この発明によれば、ボールから離間するようにラック部の壁面を軸方向に移動させたとしても、ボールが半径方向外方に飛び出して脱落してしまうことが防止される。
【0017】
請求項5に記載の発明は、請求項2乃至請求項4のいずれか一項に記載の弁装置のロック機構において、前記押し具には、前記保持具に当接することにより前記押し具の前記第2の方向への移動を規制する移動規制部が設けられており、前記移動規制部が前記保持具に当接した状態において、前記ボールは、前記ラック部の壁面が前記ボールに対向する位置まで移動させられた場合に前記壁面を押圧するように、前記押し具の当接面により位置規制されて前記保持具の半径方向外方に所定量突出することを特徴とする。
【0018】
この発明によれば、ラック部がボールから離間するように第2の方向に移動させられた場合、押し具からボールに押圧力が加わらないようにすることができ、ボールに不必要な負荷がかかることが防止される。一方、ラック部の壁面が前記ボールに対向する位置まで第1の方向に移動させられた場合、所定量外方に突出したボールがラック部の壁面に当接して内方に移動させられ、この際、押し具がボールにより押圧されてばね部材の付勢力に抗して第1の方向に移動するため、ボールからラック部の壁面に押圧力を確実に付与できる。
【0019】
請求項6に記載の発明は、請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の弁装置のロック機構において、前記弁体の保持を解除する場合、前記摩擦力に打ち勝つための回転駆動力を前記回転駆動源に発生させることを特徴とする。
【0020】
この発明によれば、摩擦力に打ち勝つための回転駆動力を回転駆動源に発生させるだけで、特別の駆動機構を必要とすることなく、弁体の所定の開度位置での保持を解除することができる。また、閉弁時には、閉弁方向にラック部を移動させるだけで済み、一旦開弁方向にラック部材を移動させる無駄な作動ストロークは生じない。
【0021】
請求項7に記載の発明は、請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の弁装置のロック機構において、前記弁体を所定の開度位置に保持する保持力は、前記ばね部材のばね荷重により設定されることを特徴とする。
【0022】
この発明によれば、ばね部材のばね荷重を変更することで、弁体を所定の開度位置に保持する保持力を調整することが可能となる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、回転駆動源への通電無しで弁体を所定の開度位置に保持できると共に、弁体の所定の開度位置での保持を解除するために特別の駆動機構を必要としない弁装置のロック機構を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態に係る弁装置のロック機構が適用された燃料電池システムの全体構成図である。
【図2】燃料電池システムに組み込まれる弁装置の概略縦断面図である。
【図3】ボールを保持する保持具を示す図であり、(a)は上面図、(b)は正面図、(c)は下面図、(d)は(a)のA−A線に沿う断面図である。
【図4】弁装置のロック機構の動作を説明するための概略縦断面図であり、(a)は開弁状態を示す図、(b)は開弁状態を解除した後の閉弁状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る弁装置のロック機構が適用された燃料電池システムの全体構成図である。なお、本実施形態では、車両に搭載された燃料電池に組み込まれる弁装置を以下に例示して説明しているが、これに限定されるものでなく、例えば、船舶や航空機等、又は業務用や家庭用の定置式の燃料電池等に組み込まれる各種の弁装置に適用することができる。
【0026】
図1に示すように、本実施形態に係る弁装置のロック機構が適用された燃料電池システム10は、燃料電池12、アノード系14、カソード系16、図示しない制御系等を備えて構成されている。
【0027】
燃料電池12は、固体高分子型燃料電池(Polymer Electrolyte Fuel Cell:PEFC)からなり、MEA(Membrane Electrode Assembly、膜電極接合体)を図示しないセパレータで挟持してなる単セルが複数積層されて構成されている。MEAは、電解質膜(固体高分子膜)、これを挟持するカソード及びアノード等を備える。前記カソード及びアノードは、例えば、白金等の触媒がカーボンブラック等の触媒担体に担持された電極触媒層からなる。また、各セパレータには、溝や貫通孔からなるアノード流路22及びカソード流路24が形成されている。
【0028】
このような燃料電池12では、アノードに水素(反応ガス、燃料ガス)が供給され、一方、カソードに酸素を含むエア(反応ガス、酸化剤ガス)が供給されると、アノード及びカソードに含まれる触媒上で電極反応が起こり、燃料電池12が発電可能な状態となる。
【0029】
前記燃料電池12は、図示しない外部負荷と電気的に接続され、前記外部負荷によって電流が取り出されると、燃料電池12が発電するようになっている。なお、前記外部負荷とは、走行用のモータ、バッテリやキャパシタ等の蓄電装置、後記するエアポンプ26等である。
【0030】
アノード系14は、水素タンク28、遮断弁30、パージ弁32、配管a1〜a4等によって構成される。
【0031】
水素タンク28は、高純度の水素を高圧で貯蔵するものであり、配管a1を介して下流側の遮断弁30と接続されている。前記遮断弁30は、例えば、電磁弁からなり、配管a2を介して下流側の燃料電池12のアノード流路22の入口と接続されている。
【0032】
パージ弁32は、例えば、電磁弁からなり、配管a3を介して上流側の燃料電池12のアノード流路22の出口と接続されている。
【0033】
カソード系16は、エアポンプ26、弁装置36a,36b、背圧弁38、配管(酸化剤ガス流路)c1〜c5等で構成されている。
【0034】
エアポンプ26は、例えば、図示しないモータで駆動される機械式の過給器であり、取り込んだ外気(エア)を圧縮して燃料電池12に供給する。
【0035】
弁装置36aは、酸化剤ガスの供給側に設けられ、配管c1を介して上流側のエアポンプ26と接続されると共に、配管c2を介して下流側の燃料電池12のカソード流路24の入口と接続されている。また、弁装置36bは、酸化剤ガスの排出側に設けられ、配管c3を介して上流側の燃料電池12のカソード流路24の出口と接続されると共に、配管c4を介して下流側の背圧弁38と接続されている。
【0036】
二つの弁装置36a,36bは、それぞれ、ノーマルクローズタイプで同一構成からなるため、以下、弁装置36aの構成を詳細に説明して、弁装置36bの説明を省略する。
【0037】
図2は、燃料電池システムに組み込まれる弁装置の概略縦断面図である。
図2に示すように、弁装置36aは、流体(圧力流体)が導入されるインレットポート40aが側壁に形成されると共に、流体(圧力流体)が導出されるアウトレットポート40bが底壁に形成されたバルブハウジング42と、前記バルブハウジング42の上部側に搭載されて一体的に結合されるギアケース43aと、前記バルブハウジング42と前記ギアケース43aとの間に介装される中間プレート43bとを含む。なお、前記バルブハウジング42、ギアケース43a及び中間プレート43bは、バルブ本体として機能するものである。
【0038】
さらに、弁装置36aは、前記バルブハウジング42と中間プレート43bとによって閉塞される室44内に設けられインレットポート40aとアウトレットポート40bとの連通状態と非連通状態とを切り換える弁体46と、前記ギアケース43aの内側に形成される空間部45内に設けられ前記弁体46が着座部48から離間する方向及び着座部48に着座する方向に沿って前記弁体46を変位させる弁駆動機構52と、前記弁体46を開放位置(開弁状態)に保持するロック機構80とを備える。ここで、弁体46は、インレットポート40aとアウトレットポート40bとの連通状態と非連通状態とを切り換えることによって、配管c1、配管c2、及び室44から構成される流体通路を開閉する。
【0039】
弁体46は、円板状に形成された弁部46aと、前記弁部46aの中心に連結される弁ロッド46bとを有し、前記弁部46aの下面には、バルブハウジング42の着座部48に当接してシール機能を発揮する弁パッキン46cが装着される。なお、弁部46aと弁ロッド46bとは、それぞれ別個に製造されてねじ(図示せず)で締結することにより一体的に組み付けられるように構成される。但し、弁部46aと弁ロッド46bとを一体成形するようにしてもよい。
【0040】
弁駆動機構52は、例えば、ステッピングモータやDCサーボモータ等からなる回転駆動源56と、回転駆動源56の回転駆動力が伝達されるギア59と、ギア59と噛合するラック歯60が設けられ前記ギア59の回転運動を直線運動に変換して前記弁体46と共に移動するラック部63とを有している。なお、回転駆動源56の回転駆動力は、複数のギアによって構成される減速機構(図示せず)を介してギア59に伝達されるようになっている。
【0041】
ラック部63は、有底円筒形状の本体部64を有しており、本体部64の下部には弁ロッド46bが連設されている。ここで、ラック部63は、弁ロッド46bと一体成形されるように構成されており、弁体46と共に(一体的に)移動(変位)可能となっている。但し、ラック部63と弁ロッド46bとは、それぞれ別個に製造されてねじ締結されるように構成されてもよい。
【0042】
また、ラック部63と弁ロッド46bとは、ここでは両者の中心軸が同一直線上に配置されているが、これに限定されるものではなく、両者の中心軸が平面視して所定距離だけオフセットしていると共に、側面視して上下方向に沿って略並行に配設されるように構成されていてもよい。
【0043】
ラック部63の本体部64の軸方向両端には、大径部64a,64bが形成されている。これら大径部64a,64bの外周面に摺接してラック部63を上下方向移動可能に支持するカラー67a,67bが、ギアケース43aの内面43cにそれぞれ装着されている。カラー67a,67bは、例えば、焼結金属等で形成された円筒形状の部材からなり、ラック部63を摺動可能に支持する軸受けとして機能することにより、ラック部63、ひいては弁部46a及び弁ロッド46bの傾動(傾斜)を阻止してより一層安定した着座作用を発揮させることができる。
【0044】
ラック部63の本体部64の内部には、略円筒形状のばね受け部材65が配置されており、ばね受け部材65の上面に、コイルスプリング50が装着されている。コイルスプリング50は、ばね力によって、ばね受け部材65を介して、弁体46を着座部(弁座)48の方向に向かって押圧する機能を有するものである。
【0045】
回転駆動源56に供給される電流の極性を切り換えることにより、ギア59の回転方向を正逆いずれかの方向に切り換えることができる。ギア59の回転運動は、ギア59とラック歯60との噛合作用によって、ラック部63の直線運動(昇降運動)に変換される。そして、ラック部63の直線運動は、ラック部63の下部に連設された弁ロッド46bに伝達されて、弁体46を上下方向に沿って変位させる。この結果、弁体46(弁部46a)が着座部48に着座してアウトレットポート40bを閉塞することにより、インレットポート40aとアウトレットポート40bとの連通が遮断された閉弁状態となり、一方、弁体46が着座部48から離間することにより、バルブハウジング42内の室44を介してインレットポート40aとアウトレットポート40bとが連通する開弁状態となる。
【0046】
ラック部63に連設される弁体46の弁ロッド46bは、中間プレート43bに形成された挿通孔69に挿通される。挿通孔69には、ギアケース43aの空間部45とバルブハウジング42の室44とを液密乃至気密に保持するシール部材71(例えば、Oリング)が設置される。
【0047】
次に、ロック機構80について説明する。
ロック機構80は、ラック部63の本体部64の内周面である壁面64cに当接可能なボール81と、ボール81を壁面64cに向けて押圧するためのコイルスプリング等のばね部材82とを備えている。このロック機構80は、ラック部63の壁面64cにボール81を押圧したときに発生する摩擦力により前記弁体46を開放位置に保持するものである。
【0048】
また、ロック機構80は、ボール81を保持する保持具83を備えている。保持具83は、ばね部材82側である軸方向に沿う第1の方向(図2では上方向)に臨む保持面84を有しており、当該保持面84によりボール81を保持する。ここで、第1の方向は、保持具83から見て弁体46と反対方向である。
【0049】
ここでは、4個のボール81が保持具83に保持されている。但し、ボールの配置数は適宜設定可能である。ボール81としては例えば鋼球が使用される。
【0050】
図3は、ボールを保持する保持具を示す図であり、(a)は上面図、(b)は正面図、(c)は下面図、(d)は(a)のA−A線に沿う断面図である。
【0051】
図3に示すように、保持具83は、中央部が窪んだ円形蓋形状を呈しており、窪んだ部分の底部にはボール81(図2参照)を収容するボール収容室85が形成されている。ボール収容室85の円筒形状の側壁部86には、円周上等間隔に、ここでは4箇所で平面加工が施されることにより、4つの平面部86aが形成されている。
【0052】
4つの平面部86aには、ドリル等の加工具により半径方向に沿って穴87がそれぞれ開設されている。この穴87の内周面の一部(図3(d)の下方部分)がボール81を保持する保持面84を構成する。平面部86aを形成することは、ボール81の保持具83から外方への突出量を大きくして、ボール81をラック部63の壁面64cに押圧させ易くなるため好ましい。また、保持面84は、円筒側面の一部に相当する溝形状を呈しているため、ボール81を安定して保持することができる。なお、平面部86a及び保持面84の数は、配置されるボール81の数と同じになるように設定される。
【0053】
穴87の径は、ボール81(図2参照)の直径よりも小さく設定されている。したがって、穴87の開口端部は、ボール81が保持具83の半径方向外方に離脱することを防止する離脱防止部87aとして機能するものである。このような構成によれば、ボール81から離間するようにラック部63の壁面64c(図2参照)を軸方向に移動させたとしても、ボール81が半径方向外方に飛び出して脱落してしまうことが防止される。
【0054】
また、保持具83の下部には、コイルスプリング50(図2参照)の上端を受けるばね受け面88が形成されている。すなわち、コイルスプリング50は、保持具83とばね受け部材65(図2参照)との間に装着される。なお、図3中の符号89は、空気が流通する空気孔を示す。
【0055】
図2の説明に戻り、ロック機構80は、ボール81が当接され、前記第1の方向と反対方向の第2の方向(図2では下方向)に向けて徐々に外径が減少する当接面91を有する押し具90を備えている。ここでは、当接面91は、下方向に向けて直線的に外径が減少するテーパ形状(円錐側面形状)を呈しており、簡易な形状とされている。但し、当接面91は、略半球面形状等であってもよい。
【0056】
押し具90は、第1の方向(上方向)に臨み、ばね部材82の第2の方向(下方向)の付勢力を受けるばね受け面92を有している。押し具90は、ばね部材82の下方向の付勢力を、半径方向外方への力に変換するものである。なお、図2中の符号94は、空気が流通する空気孔を示す。
【0057】
押し具90には、保持具83に当接することにより押し具90の第2の方向(下方向)への移動を規制する移動規制部93が設けられている。そして、移動規制部93が保持具83に当接した状態において、ボール81は、ラック部63の壁面64cがボール81に対向する位置まで移動させられた場合に壁面64cを押圧するように、押し具90の当接面91により位置規制されて保持具83の半径方向外方に所定量突出する構成となっている。
【0058】
さらに、ロック機構80は、ばね部材82の上端を受けるばね押え具95を備えている。すなわち、ばね部材82は、押し具90とばね押え具95との間に装着されており、押し具90を下方向へ付勢する。
【0059】
ばね押え具95は、保持具83の上面に、ねじ部材74によって固定されており、ばね押え具95と保持具83との間は、シール部材72によってシールされる。また、保持具83は、ギアケース43aの上面に、ねじ部材75によって固定されており、保持具83とギアケース43aとの間は、シール部材73によってシールされる。なお、ねじ部材74,75による締結箇所の数は、図3に示す4箇所に限定されず、適宜変更可能である。
【0060】
ボール81が当接する保持具83、押し具90、及びラック部63は、例えば鉄鋼等の金属材料から形成されており、ボール81が圧接されても損傷の無いように所定の硬度を持たせるべく熱処理等の表面硬化処理が全部又は一部に施されることが好ましい。
【0061】
このように構成された弁装置36aのロック機構80は、以下のように作用する。
図4は、弁装置のロック機構の動作を説明するための概略縦断面図であり、(a)は開弁状態を示す図、(b)は開弁状態を解除した後の閉弁状態を示す図である。
【0062】
まず、図4(a)を参照して、開弁状態への移行について説明する。
図4(a)に示すように、ギア59の回転により、ラック部63が開弁方向(上方向)に移動してくると、ラック部63の壁面64cにボール81が接触し、ボール81は、保持具83の半径方向内方へ移動する。ここで、保持具83とラック部63の壁面64cとの間には、半径方向の隙間が存在しており、ラック部63の壁面64cにはボール81のみが接触する。
【0063】
ラック部63の壁面64cとボール81との接触によってボール81が半径方向内方へ移動すると、ボール81が押し具90の当接面91に当接して押し具90を上方向に移動させ、これにより、ばね部材82が圧縮される。
【0064】
ばね部材82が圧縮されたことによる付勢力Bは、押し具90のテーパ形状の当接面91によって、半径方向外方への力に変換されて、ボール81をラック部63の壁面64cに押圧する押圧力Cとなる。
【0065】
この押圧力Cによってボール81とラック部63の壁面64cとの間に摩擦力Dが発生する。この摩擦力Dは、ボール81とラック部63の壁面64cとの接触点において、ボール81の数だけ発生する。したがって、ラック部63の壁面64cが円周上の複数個所で安定的に保持されることになるため、ラック部63をより確実に保持することができる。このとき、ラック部63を保持する力は、ラック部63を保持する力=摩擦力D×接触数(ボール81の数)、の式により算出される。このように、回転駆動源56(図2参照)への通電が無くとも、ラック部63、ひいては弁体46(図2参照)を開放位置に保持することができる。
【0066】
ここで、弁体46(図2参照)を開放位置に保持する保持力は、ばね部材82のばね荷重により設定される。したがって、ばね部材82のばね荷重を変更することで、弁体46を開放位置に保持する保持力を調整することが可能となる。
【0067】
次に、図4(b)を参照して、開弁状態の解除について説明する。
図4(b)に示すように、開弁状態の解除は、ギア59の回転によりラック部63を閉弁方向(下方向)に移動させることによって行われる。このとき、弁装置36aは、ラック部63を保持する力である摩擦力Dの総和に打ち勝つための回転駆動力を回転駆動源56(図2参照)に発生させる。このように摩擦力Dの総和に打ち勝つための回転駆動力を回転駆動源56(図2参照)に発生させるだけで、特別の駆動機構を必要とすることなく、開弁状態を解除することができる。
【0068】
さらに、ギア59の回転によりラック部63を閉弁方向(下方向)に移動させることにより、弁装置36aは閉弁状態となる。このように、閉弁時には、閉弁方向にラック部を移動させるだけで済み、一旦開弁方向にラック部材を移動させる無駄な作動ストロークは生じない。
【0069】
また、図4(b)に示す閉弁状態では、押し具90の移動規制部93が保持具83に当接することにより、押し具90の下方向への移動が規制される。このとき、ばね部材82の付勢力Bは、移動規制部93を介して保持具83にかかり、反力Eと釣り合うことになる。したがって、ラック部63がボール81から離間するように下方向に移動させられて保持が不要な場合には、押し具90からボール81に押圧力が加わらないようにすることができ、ボール81に不必要な負荷がかかることが防止される。
【0070】
一方、移動規制部93が保持具83に当接した状態において、ボール81は、押し具90の当接面91により位置規制されて保持具83の半径方向外方に所定量突出する。したがって、ラック部63の壁面64cがボール81に対向する位置まで上方向に移動させられた場合、所定量外方に突出したボール81がラック部63の壁面64cに当接して内方に移動させられ、この際、押し具90がボール81により押圧されてばね部材82の付勢力に抗して上方向に移動するため、ボール81からラック部63の壁面64cに押圧力を確実に付与できる。
【0071】
前記したように、本実施形態に係る弁装置36a,36bのロック機構80は、弁体46と共に移動するラック部63の壁面64cに当接可能なボール81と、ボール81を壁面64cに向けて押圧するためのばね部材82とを備えており、ラック部63の壁面64cにボール81を押圧したときに発生する摩擦力により弁体46を保持する。
【0072】
このような本実施形態によれば、ラック部63の壁面64cに、ばね部材82によりボール81が押圧されて、ラック部63の壁面64cとボール81との間に摩擦力が発生し、この摩擦力によってラック部63、ひいては弁体46が保持される。したがって、回転駆動源56への通電が無くとも、弁体46を開放位置に保持することができ、消費電力が低減される。しかも、弁体46の開放位置での保持を解除するために特別の駆動機構を必要としないため、簡素な構造を実現でき、小型軽量化及び低コスト化が可能となる。
すなわち、回転駆動源56への通電無しで弁体46を開放位置に保持できると共に、弁体46の開放位置での保持を解除するために特別の駆動機構を必要としない弁装置のロック機構を提供できる。
【0073】
また本実施形態では、ロック機構80は、上方向に臨む保持面84を有し当該保持面84によりボール81を保持する保持具83と、ボール81が当接され下方向に向けて徐々に外径が減少する当接面91、及び上方向に臨みばね部材82の下方向の付勢力を受けるばね受け面92を有する押し具90と、を備えている。
【0074】
このような構成によれば、ばね部材82によって押し具90のばね受け面92に加えられた付勢力Bは、押し具90の当接面91を介してボール81に伝達されて、ボール81からラック部63の壁面64cに押圧力Cが加わる(図4(a)参照)。このようなコンパクトな構成により、ラック部63の壁面64cとボール81との間に摩擦力D(図4(a)参照)を生じさせてラック部63を保持することができる。
【0075】
また本実施形態では、押し具90の当接面91は、下方向に向けて直線的に外径が減少するテーパ形状を呈しており、ボール81は、保持具83に複数個保持される。
【0076】
このような構成によれば、簡易な形状の当接面91によって、ばね部材82の付勢力を複数個のボール81に振り分けることができる。したがって、ラック部63の壁面64cとボール81との間でボール81の数だけ摩擦力が発生するため、ラック部63をより確実に保持することができる。
【0077】
以上、本発明について、実施形態に基づいて説明したが、本発明は、前記実施形態に記載した構成に限定されるものではなく、実施形態に記載した構成を適宜組み合わせ乃至選択することを含め、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。
【0078】
例えば、前記実施形態では、ロック機構80は、弁体46を開放位置に保持することができるように構成されているが、例えばバルブハウジング42の天井部に着座部を設けることにより、弁体46を閉止位置に保持することができるように構成されてもよい。この場合、弁装置はノーマルオープンタイプである。さらには、ロック機構80は、ラック部63の壁面におけるボール81からの押圧力を受ける部分(部分的に内径を小さくした部分)を軸方向の所定位置にずらして形成することにより、弁体46を所定の開度位置に保持することができるように構成されてもよい。
【0079】
また、前記実施形態では、ボール81をラック部63の本体部64の内周面である壁面64cに押圧することにより、ラック部63を保持するように構成されているが、本発明はこれに限定されるものではなく、ボール81をラック部63の本体部64の外周面である壁面に押圧することにより、ラック部63を保持するように構成されてもよい。
【0080】
また、前記実施形態では、1つのばね部材82の付勢力を、例えばテーパ形状の当接面91を有する押し具90を利用することによって、複数個のボール81に振り分けるように構成されているが、本発明はこれに限定されるものではなく、複数個のボール81の各々について、ボール81をラック部63の壁面に向けて付勢するばね部材を設置するように構成されてもよい。
【符号の説明】
【0081】
36a,36b 弁装置 44 室(流体通路)
46 弁体 56 回転駆動源
59 ギア 60 ラック歯
63 ラック部 64c 壁面
80 ロック機構 81 ボール
82 ばね部材 83 保持具
84 保持面 87a 離脱防止部
90 押し具 91 当接面
92 ばね受け面 93 移動規制部
B 付勢力 C 押圧力
D 摩擦力 c1,c2 配管(流体通路)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体通路を開閉する弁体を有する弁装置の前記弁体を所定の開度位置に保持するためのロック機構であって、
前記弁装置は、回転駆動源の回転駆動力が伝達されるギアと、前記ギアと噛合するラック歯が設けられ前記ギアの回転運動を直線運動に変換して前記弁体と共に移動するラック部とを有し、
前記ラック部の壁面に当接可能なボールと、
前記ボールを前記壁面に向けて押圧するためのばね部材とを備え、
前記ラック部の壁面に前記ボールを押圧したときに発生する摩擦力により前記弁体を保持することを特徴とする弁装置のロック機構。
【請求項2】
前記ばね部材側である軸方向に沿う第1の方向に臨む保持面を有し、当該保持面により前記ボールを保持する保持具と、
前記ボールが当接され、前記第1の方向と反対方向の第2の方向に向けて徐々に外径が減少する当接面、及び前記第1の方向に臨み、前記ばね部材の前記第2の方向の付勢力を受けるばね受け面を有する押し具と、
を備えることを特徴とする請求項1に記載の弁装置のロック機構。
【請求項3】
前記押し具の当接面は、前記第2の方向に向けて直線的に外径が減少するテーパ形状を呈しており、前記ボールは、前記押し具の当接面の周方向において前記保持具に複数個保持されることを特徴とする請求項2に記載の弁装置のロック機構。
【請求項4】
前記保持具には、前記ボールが前記保持具の半径方向外方に離脱することを防止する離脱防止部が設けられていることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の弁装置のロック機構。
【請求項5】
前記押し具には、前記保持具に当接することにより前記押し具の前記第2の方向への移動を規制する移動規制部が設けられており、
前記移動規制部が前記保持具に当接した状態において、前記ボールは、前記ラック部の壁面が前記ボールに対向する位置まで移動させられた場合に前記壁面を押圧するように、前記押し具の当接面により位置規制されて前記保持具の半径方向外方に所定量突出することを特徴とする請求項2乃至請求項4のいずれか一項に記載の弁装置のロック機構。
【請求項6】
前記弁体の保持を解除する場合、前記摩擦力に打ち勝つための回転駆動力を前記回転駆動源に発生させることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の弁装置のロック機構。
【請求項7】
前記弁体を所定の開度位置に保持する保持力は、前記ばね部材のばね荷重により設定されることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の弁装置のロック機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−211641(P2012−211641A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−77338(P2011−77338)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000141901)株式会社ケーヒン (1,140)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】