説明

弦楽器弓の竿、弦楽器弓および弦楽器弓の竿の製造方法

【課題】天然木材に近い木目調の外観を有する繊維強化プラスチックを用いた弦楽器弓の竿を提供する。
【解決手段】炭素繊維樹脂からなる弓形棒状の炭素繊維樹脂層1と、炭素繊維樹脂層1の外面を被覆するガラス繊維樹脂からなるガラス繊維樹脂層2とを備える基材を有し、ガラス繊維樹脂層2が、ガラス繊維樹脂層2中に存在する空気層からなる非密着部と、空気層を含まない密着部とを有するものであることを特徴とする弦楽器弓の竿5とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弦楽器弓の竿(スティック)、弦楽器弓および弦楽器弓の竿の製造方法に関し、特に、基材として繊維強化プラスチックが用いられた天然木材に近い木目調の外観を有する竿を備えた弦楽器弓および弦楽器弓の竿の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、バイオリンやチェロなどの弦楽器弓の竿には、天然木材からなるものが用いられてきた。天然木材には、高密度で硬く、湿気に強く、曲げ強度に優れるフェルナンブコ材が主として用いられてきた。
しかしながら、近年、フェルナンブコの木が激減しているため、入手が困難となっている。このため、弦楽器弓の竿として、フェルナンブコ材などの天然木材に代えて、炭素繊維やガラス繊維などの繊維と樹脂との複合材料(FRP(繊維強化プラスチック))を用いたものが製造されている。
【0003】
炭素繊維と樹脂との複合材料を用いた弦楽器弓の竿の製造方法としては、例えば、芯金にFRPプリプレグを巻きつけ、金型内に設置し、金型を加熱して成形品を得たのち、芯金を脱芯することにより、バイオリンの弓の竿部分に用いることができる中空構造曲物を成形する方法が挙げられる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3541756号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の技術を用いて得られた繊維強化プラスチックからなる弦楽器弓の竿は、天然木材からなる弦楽器弓の竿との外観の違いが大きいという問題があった。弦楽器弓は、性能の評価に主観的な要素が含まれるものであり、竿の外観からの先入観は、演奏者や演奏を聞く人における弦楽器弓の性能の評価に大きな影響を与えるものである。このため、基材として繊維強化プラスチックを用い、外観が天然木材に近い木目調である竿とすることにより、繊維強化プラスチックを用いた竿を備える弦楽器弓の性能の評価を向上させて、商品価値を向上させることが望まれていた。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、基材として繊維強化プラスチックが用いられた天然木材に近い木目調の外観を有する弦楽器弓の竿を提供することを目的とする。また、本発明は、本発明の弦楽器弓の竿を備える弦楽器弓および本発明の弦楽器弓の竿の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明は以下の構成を採用した。
本発明の弦楽器弓の竿は、炭素繊維樹脂からなる弓形棒状の炭素繊維樹脂層と、前記炭素繊維樹脂層の外面を被覆するガラス繊維樹脂からなるガラス繊維樹脂層とを備える基材を有し、前記ガラス繊維樹脂層が、前記ガラス繊維樹脂層中に存在する空気層からなる非密着部と、前記空気層を含まない密着部とを有するものであることを特徴とする。
また、本発明の弦楽器弓は、本発明の弦楽器弓の竿が備えられていることを特徴とする。
【0008】
また、本発明の弦楽器弓の竿の製造方法は、棒状の芯金に炭素繊維樹脂プリプレグを巻きつけた後、前記炭素繊維樹脂プリプレグの外側にガラス繊維樹脂プリプレグを巻きつけて被成形品を形成する工程と、前記被成形品を弓形棒状の金型内に設置して加熱することにより、弓形棒状の成形品を成形する成形工程とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の弦楽器弓の竿は、炭素繊維樹脂からなる弓形棒状の炭素繊維樹脂層と、前記炭素繊維樹脂層の外面を被覆するガラス繊維樹脂からなるガラス繊維樹脂層とを備える基材を有し、前記ガラス繊維樹脂層が、前記ガラス繊維樹脂層中に存在する空気層からなる非密着部と、前記空気層を含まない密着部とを有するものであるので、外面に木目調の模様が濃淡のある多彩な色調で立体的に表現されたものとなる。
【0010】
すなわち、本発明の弦楽器弓の竿では、炭素繊維樹脂層とガラス繊維樹脂層との密着状態および/またはガラス繊維樹脂層に含まれるガラス繊維同士の密着状態が、非密着部と密着部とにおいて異なっている。非密着部では、ガラス繊維樹脂層中に存在する空気層によって光が乱反射するため、密着部と比較して光の反射率が高く不均一となる。その結果、本発明の弦楽器弓の竿では、ガラス繊維樹脂層の光の反射率および透過率が不均一となり、ガラス繊維樹脂層の外面が、色の濃淡のある多彩な色調のものとなる。
【0011】
より具体的には、ガラス繊維樹脂層の密着部の外面は、ガラス繊維樹脂層が空気層を含まないため、ガラス繊維樹脂層の下層に配置された炭素繊維樹脂層の色が透き通って見えることになり、炭素繊維樹脂層の色に依存する色となる。すなわち、炭素繊維樹脂層が炭素繊維の色である黒色である場合、密着部の外面は黒色となる。これに対し、非密着部では、ガラス繊維樹脂層中に存在する空気層によってガラス繊維樹脂層の透明度が低下するため、炭素繊維樹脂層が黒色である場合、黒色と白色との間のばらつきのある色となる。
【0012】
また、本発明の弦楽器弓の竿では、非密着部と密着部とにおける密着状態の差によって、ガラス繊維樹脂層の厚みが不均一なものとなっている。このため、本発明の弦楽器弓の竿は、立体感のある外観を有するものとなる。
【0013】
さらに、本発明の弦楽器弓の竿を構成するガラス繊維樹脂層は、ガラス繊維を含むものであるので、非密着部を構成する空気層は主にガラス繊維に沿って線状に形成されたものとなっている。しかも、本発明の弦楽器弓の竿では、炭素繊維樹脂層が弓形棒状のものであるので、ガラス繊維樹脂層中のガラス繊維は、線状ではあるが完全な直線ではなく、一部または全部がゆるやかな曲線状とされた状態で、ガラス繊維樹脂層に含まれる樹脂によって固定されている。その結果、非密着部と密着部とによって形成される模様は、ゆるやかな曲線が複雑に組み合わされた線状の模様となり、天然木材の繊維によって形成される模様に類似した木目調の模様となる。
したがって、本発明の弦楽器弓の竿は、外面に木目調の模様が濃淡のある多彩な色調で立体的に表現されたものとなり、天然木材に近い優れた外観を有するものとなる。
【0014】
また、本発明の弦楽器弓は、本発明の弦楽器弓の竿が備えられているものであるので、天然木材に近い優れた外観を有する竿を備えたものとなる。
【0015】
また、本発明の弦楽器弓の竿の製造方法は、棒状の芯金に炭素繊維樹脂プリプレグを巻きつけた後、前記炭素繊維樹脂プリプレグの外側にガラス繊維樹脂プリプレグを巻きつけて被成形品を形成する工程と、前記被成形品を弓形棒状の金型内に設置して加熱することにより、弓形棒状の成形品を成形する成形工程とを備える方法であるので、外面に木目調の模様が濃淡のある多彩な色調で立体的に表現された、天然木材に近い外観を有する弦楽器弓の竿を容易に製造できる。
【0016】
より詳細には、本発明の弦楽器弓の竿の製造方法では、成形工程において弓形棒状の成形品を成形しているので、成形品である弦楽器弓の竿には、ガラス繊維樹脂プリプレグが成形されてなり、空気層からなる非密着部と、空気層を含まない密着部とを有するガラス繊維樹脂層が形成される。
【0017】
非密着部を構成する空気層は、ガラス繊維樹脂プリプレグに含まれていた空気が、成形工程において、ガラス繊維樹脂プリプレグを構成する樹脂によって、ガラス繊維とともに固定されて、成形品のガラス繊維樹脂層中に留まることによって形成されるものであり、ガラス繊維樹脂層中の無作為の位置および深さに、主にガラス繊維に沿って線状に形成される。また、本発明の弦楽器弓の竿の製造方法では、炭素繊維樹脂プリプレグの外側にガラス繊維樹脂プリプレグを巻きつけて被成形品を形成し、被成形品を加熱することにより弓形棒状の成形品を成形しているので、成形工程において、ガラス繊維樹脂プリプレグのガラス繊維は、線状ではあるが完全な直線ではなく、一部または全部がゆるやかな曲線状とされた状態で、ガラス繊維樹脂プリプレグを構成する樹脂内に配置され、成形品のガラス繊維樹脂層中に固定される。
【0018】
したがって、本発明の弦楽器弓の竿の製造方法によれば、成形品である弦楽器弓の竿を構成するガラス繊維樹脂層中の非密着部と密着部とによって、外面に、ゆるやかな曲線が複雑に組み合わされた線状の模様からなる木目調の模様が濃淡のある多彩な色調で立体的に形成された弦楽器弓の竿が得られる。
また、本発明の弦楽器弓の竿の製造方法によれば、非密着部を構成する空気層が、ガラス繊維樹脂層中の無作為の位置および深さに形成されるので、空気層がガラス繊維樹脂層中に規則的に配置されている場合と比較して、より一層天然木材に近い外観を有する竿となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は本発明の実施形態である弦楽器弓の竿の一例を示す断面模式図である。
【図2】図2は本発明の実施形態である弦楽器弓の竿の製造方法を説明するための模式図であり、図2(a)は断面図であり、図2(b)は斜視図である。
【図3】図3は本発明の実施形態である弦楽器弓の一例を示す斜視図である。
【図4】図4は実施例1の弓の写真である。
【図5】図5は実施例1および比較例の竿の写真である。
【図6】図6は実施例1および実施例2の竿の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
図1は本発明の実施形態である弦楽器弓の竿の一例を示す断面模式図である。本実施形態の弦楽器弓の竿5は、図1に示すように断面視略円形の中空のものであり、平面視弓形棒状のものである。本実施形態の竿5は、外周の長さが長手方向に沿って徐々に変化するテーパー状の側面を有するものとされている。
竿5は、図1に示すように、炭素繊維樹脂層1と、炭素繊維樹脂層1の外面を被覆するガラス繊維樹脂層2とを備える基材を有し、基材の外面に、ガラス繊維樹脂層2の外面を被覆する塗膜層3が設けられたものであり、天然木材に近い外観を有するものである。
【0021】
炭素繊維樹脂層1は、炭素繊維樹脂からなる弓形棒状のものである。炭素繊維樹脂層1の厚みは、弦楽器弓の竿5としての剛性を確保することができればよく、特に限定されない。
炭素繊維樹脂層1に含まれる炭素繊維は、弦楽器弓の竿5としての剛性を確保することができればよく、特に限定されないが、弦楽器弓の竿5として適切な剛性が得られるように、ヤング率6×10kgf/mm以上、強度200kgf/mm以上のものであることが好ましい。
【0022】
また、炭素繊維樹脂層1に含まれる樹脂の種類は、弦楽器弓の竿5としての剛性を確保することができればよく、特に限定されないが、例えば、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂などを用いることができる。
炭素繊維樹脂層1中に含まれる炭素繊維の含有率は、特に限定されないが、弦楽器弓の竿5として適切な剛性が得られるように、30%以上であることが好ましい。
【0023】
ガラス繊維樹脂層2は、ガラス繊維樹脂からなるものであり、ガラス繊維樹脂層2中の無作為の位置および深さに存在する空気層からなる非密着部と、空気層を含まない密着部とを有するものである。図1に示す竿5においては、ガラス繊維樹脂層2中の非密着部と密着部とによって、ガラス繊維樹脂層2の外面にゆるやかな曲線が複雑に組み合わされた線状の模様からなる木目調の模様が濃淡のある多彩な色調で立体的に形成されている。
【0024】
ガラス繊維樹脂層2は、炭素繊維樹脂層1の外形形状に沿って所定の厚みで設けられている。ガラス繊維樹脂層2の厚みは、炭素繊維樹脂層1の外面を被覆できればよく、特に限定されないが、200μm〜1000μmの範囲内であることが好ましい。ガラス繊維樹脂層2の厚みが上記範囲を超えると、ガラス繊維樹脂層2のガラス繊維樹脂としての質感が顕著となり、天然木材に近い外観が得られにくくなる恐れがある。また、ガラス繊維樹脂層2の厚みが上記範囲未満であると、ガラス繊維樹脂層2中に含まれる空気層が不足して、ガラス繊維樹脂層2の外面の模様が単純化されるとともに立体感が低下され、天然木材に近い外観が得られにくくなる恐れがある。
【0025】
ガラス繊維樹脂層2に含まれるガラス繊維の延在方向は、特に限定されないが、竿5の幅方向に近い方向とされているものよりも竿5の長手方向に近い方向とされているものが多いことが好ましい。天然木材を用いて弦楽器弓の竿を製造する場合、通常、天然木材の木目の方向を竿の長手方向と略平行にする。ガラス繊維樹脂層2に含まれるガラス繊維が、竿5の幅方向に近い方向とされているものよりも竿5の長手方向に近い方向とされているものが多い場合、非密着部と密着部とによって形成されるガラス繊維樹脂層2の模様が、木目の方向を竿5の長手方向に略平行とした場合の天然木材の木目の模様により近いものとなり、より一層天然木材に近い外観を有する竿5となる。
【0026】
なお、竿5の剛性は、炭素繊維樹脂層1のみによって十分に得ることが可能であるので、ガラス繊維樹脂層2に非密着部が形成されていることにより、ガラス繊維樹脂層2に非密着部が形成されていない場合と比較して剛性が低いものになったとしても、竿5としての機能に支障を来たすことはない。また、本実施形態の竿5においては、ガラス繊維樹脂層2に含まれるガラス繊維の延在方向によって、竿5の剛性を調節しなくてもよいので、目的とする外観に応じて、竿5としての機能に支障を来たすことなく、ガラス繊維の延在方向を適宜変更できる。
【0027】
また、弦楽器弓の竿5としての剛性は、炭素繊維樹脂層1のみによって十分に得ることが可能であるので、ガラス繊維樹脂層2を構成するガラス繊維については、ヤング率や強度、太さ、長さ、ガラス繊維樹脂層2中の含有率等を、目的とする外観に応じて適宜決定できる。
また、ガラス繊維樹脂層2に含まれる樹脂の種類は、特に限定されないが、例えば、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂などを用いることができる。
【0028】
塗膜層3は、ガラス繊維樹脂層2の外面に形成された模様を透過させることができる透明または半透明の塗膜からなるものであればよく、特に限定されない。塗膜層3を設けることにより、竿5の耐久性を向上させることができるとともに、より一層天然木材に近い外観を有するものとすることができる。なお、塗膜層3は、より一層天然木材に近い外観を有する竿5とするために、茶系の透明または半透明の塗膜からなるものであることが好ましい。また、塗膜層3の厚みは、目的とする外観となるように、ガラス繊維樹脂層2の外面に形成された模様を透過させることができる範囲で適宜決定できる。
【0029】
次に、本発明の弦楽器弓の竿の製造方法の一例として、図1に示す弦楽器弓の竿5の製造方法を例に挙げて説明する。
まず、図2(a)に示すように、棒状の芯金(マンドレル)10に、所定の厚みで炭素繊維樹脂(CFRP)プリプレグ11を巻きつける。本実施形態においては、芯金10に炭素繊維樹脂プリプレグ11を巻きつける際に、巻きつける炭素繊維樹脂プリプレグ11の厚み(積層数)や角度を適宜調節して、竿5の剛性を弦楽器弓の竿5としての適切な範囲とする。
【0030】
芯金10としては、炭素繊維樹脂プリプレグ11の巻きつけられる領域の外形形状が、図1に示す竿5の中空部分内の形状と同じ形状であるものが用いられる。芯金10は、例えば、鉄、銅、アルミニウムなどの金属からなるものとすることができる。
炭素繊維樹脂プリプレグ11を構成する炭素繊維としては、一方向性織物や二方向性織物などを用いることができる。
炭素繊維樹脂プリプレグ11としては、シート状、紐状、リボン状などのものを用いることができる。炭素繊維樹脂プリプレグ11の厚みは、特に限定されるものではなく、芯金10に巻き付けやすいものを用いることができる。
【0031】
次に、図2(a)に示すように、炭素繊維樹脂プリプレグ11の外側に、所定の厚みでガラス繊維樹脂プリプレグ12を巻きつけて被成形品14を形成する。
ガラス繊維樹脂プリプレグ12を構成するガラス繊維は、一方向性織物や二方向性織物などを用いることができ、目的とする外観に応じて適宜決定することができ、特に限定されない。
【0032】
ガラス繊維樹脂プリプレグ12としては、シート状、紐状、リボン状などのものを用いることができる。ガラス繊維樹脂プリプレグ12の厚みは、特に限定されるものではなく、炭素繊維樹脂プリプレグ11の巻かれた芯金10に巻き付けやすく、ガラス繊維樹脂層2の厚みの調節が容易であり、1層のみ巻きつけた場合に成形後に得られるガラス繊維樹脂層2のガラス繊維樹脂としての質感が顕著とならない程度に薄いものが用いられる。
【0033】
次に、図2(a)および図2(b)に示すように、被成形品14を金型13内に設置する。金型13は、図2(a)に示すように、上金型13Aと下金型13Bとからなるものである。金型13は、内周の長さが長手方向に沿って徐々に変化するテーパー状の内壁面を有するものであり、金型13の内部形状が、図1に示す弦楽器弓の竿5の形状に対応する弓形棒状の形状となっている。
金型13内に被成形品14を設置して加熱することにより、弓形棒状の成形品が得られる。成形時の加熱温度や加熱時間等の条件は、被成形品14に用いられている炭素繊維樹脂プリプレグ11およびガラス繊維樹脂プリプレグ12の材料や厚み等によって適宜決定でき、特に限定されない。
【0034】
なお、金型13内に設置される被成形品14を形成する際には、金型13と芯金10との間の空間の体積(キャビティ)に対する、芯金10に巻き付ける炭素繊維樹脂プリプレグ11の体積とガラス繊維樹脂プリプレグ12の体積との和(以下「キャビティの充填量」という)を、95体積%〜110体積%の範囲とすることが好ましく、100体積%〜104体積%の範囲とすることがより好ましい。炭素繊維樹脂プリプレグとガラス繊維樹脂プリプレグとの体積比は本発明の効果を得られる範囲で任意に設定できる。
【0035】
キャビティの充填量が95体積%未満であると、金型13内に被成形品14を設置して加熱する工程において、金型13と芯金10とから被成形品14に付与される圧力が不十分となる。このため、所定の形状の成形品が得られにくくなるとともに、芯金10に巻き付けられている炭素繊維樹脂プリプレグ11およびガラス繊維樹脂プリプレグ12の密着が不十分となり、十分な強度を有する成形品が得られにくくなる。
【0036】
また、キャビティの充填量が110体積%を超えると、金型13内に被成形品14を設置して加熱する工程において、金型13と芯金10とから被成形品14に付与される圧力が過剰となる。このため、芯金10に巻き付けられている炭素繊維樹脂プリプレグ11およびガラス繊維樹脂プリプレグ12の密着が過剰となり、成形品のガラス繊維樹脂層2中に空気層からなる非密着部が形成されにくくなり、天然木材に近い外観が得られにくくなる。
【0037】
キャビティの充填量が100体積%〜104体積%の範囲である場合、所定の形状を有する十分な強度の成形品が得られ、しかも、成形品のガラス繊維樹脂層2中に適度な量の非密着部が形成されるため、天然木材に近い良好な外観を有する成形品が得られる。
なお、キャビティの充填量を変化させると、成形品を成形する際に被成形品14に付与される圧力が変化して、成形品のガラス繊維樹脂層2中に形成される非密着部の量が変化するため、木目調の模様の量が変化する。したがって、キャビティの充填量を調節して成形品の外観を変化させて、成形品の外観が所定の外観となるように制御できる。
【0038】
得られた成形品の外面には、ガラス繊維樹脂プリプレグ12が成形されてなり、ガラス繊維樹脂層2中の無作為の位置および深さに存在する空気層からなる非密着部と、空気層を含まない密着部とを有するガラス繊維樹脂層2が形成される。
このことにより、本実施形態において得られた成形品は、弓形棒状で、外面に木目調の模様が濃淡のある多彩な色調で立体的に表現された、天然木材に近い外観を有するものとなる。
【0039】
なお、本実施形態においては、竿5となる成形品が平面視弓形棒状のものであるので、成形時に金型13から被成形品14に付加される力が不均一となる。このため、成形品に形成されたガラス繊維樹脂層2に、容易に空気層からなる非密着部が形成される。しかも、本実施形態においては、外周の長さが長手方向に沿って徐々に変化するテーパー状の側面を有する竿5となる成形品を成形しているので、成形時に金型13から被成形品14に付加される力がより一層不均一になりやすく、成形品に形成されたガラス繊維樹脂層2に、空気層からなる非密着部がより形成されやすい。
【0040】
これに対し、竿が、直径が一定の円柱状である場合、金型から被成形品に付加される力が均一となるため、成形品に形成されたガラス繊維樹脂層には、空気層からなる非密着部が十分に形成されない。
【0041】
次に、このようにして得られた成形品に塗料を塗布し、塗膜層3を形成する。塗膜層3の形成方法は特に限定されないが、ガラス繊維樹脂層2と塗膜層3との密着性を高めるために、成形品の表面を研削して平滑にする前処理を行ってから成形品に塗料を塗布することが好ましい。
以上の工程により、図1に示す天然木材に近い優れた外観を有する弦楽器弓の竿5が得られる。
【0042】
次に、本発明の弦楽器弓について説明する。図3は本発明の実施形態である弦楽器弓の一例を示す斜視図である。図3に示す弦楽器弓15は、図1に示す竿5を備えるものである。したがって、図3に示す弦楽器弓15は、天然木材に近い優れた外観を有する竿5を備えたものとなる。
【0043】
なお、本実施形態においては、断面視略円形の竿5を例に挙げて説明したが、竿5の断面形状は特に限定されるものではなく、成形工程において用いる金型13の内面形状を、例えば、略8角形状や略楕円形状とし、略8角形状や略楕円形状の竿5を形成してもよい。
また、本発明は、弦楽器弓の竿に限らず、棒状の成形体に応用できる。
【0044】
「実施例1」
以下に示す方法により、図1に示す弦楽器弓の竿5を製造した。
まず、棒状の芯金10に炭素繊維樹脂プリプレグ11(商品名:3252S−10、東レ株式会社製)を巻きつけた。その後、炭素繊維樹脂プリプレグ11の外側にガラス繊維樹脂プリプレグ12(商品名:E13−35、サカイ・コンポジット株式会社製)を巻きつけて被成形品14を形成した。
続いて、被成形品14を弓形棒状の金型13内に設置して140℃で1時間加熱することにより、弓形棒状の成形品を成形した。なお、金型13内に設置した被成形品14は、キャビティの充填量が100体積%のものであった。
次いで、得られた成形品の表面を研削して平滑にした。その後、透明茶系のウレタン系の塗料を塗布することにより厚み50μmの塗膜層3を形成し、弦楽器弓の竿5を得た。
【0045】
「比較例」
炭素繊維樹脂プリプレグ11の外側にガラス繊維樹脂プリプレグ12を巻きつけずに、被成形品14を形成したこと以外は、実施例と同様にして、弦楽器弓の竿を製造した。
【0046】
このようにして得られた実施例1および比較例の竿の外観を観察した。図4は実施例1の竿の写真である。図4に示すように、実施例1の竿5は、外面に木目調の模様が濃淡のある多彩な色調で立体的に表現されており、天然木材に近い優れた外観を有するものであった。
これに対し、図5は実施例1および比較例の竿の写真である。図5に示すように、比較例の竿50は、均質な黒い外観を有する炭素繊維樹脂層が、炭素繊維樹脂層上に形成された均質な透明茶系の塗膜層を介して見える均一な外観であった。
【0047】
「実施例2」
炭素繊維樹脂プリプレグおよびガラス繊維樹脂プリプレグの体積をともに実施例1の体積の104%に増量して、キャビティの充填量を104体積%としたこと以外は、実施例1と同様にして実施例2の弦楽器弓の竿5bを得た。
図6は実施例1および実施例2の竿の写真である。図6に示すように、実施例2の竿51は、実施例1の竿5と比較して、成形品のガラス繊維樹脂層2中に形成される非密着部の量が少なく、木目調の模様の量が少ないため、黒っぽい外観を有するものとなった。このことから、キャビティの充填量を調節することで、図6に示すように、成形品の外観が変化することが分かった。
【符号の説明】
【0048】
1…炭素繊維樹脂層、2…ガラス繊維樹脂層、3…塗膜層、5、50、51…竿、15…弦楽器弓。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維樹脂からなる弓形棒状の炭素繊維樹脂層と、前記炭素繊維樹脂層の外面を被覆するガラス繊維樹脂からなるガラス繊維樹脂層とを備える基材を有し、
前記ガラス繊維樹脂層が、前記ガラス繊維樹脂層中に存在する空気層からなる非密着部と、前記空気層を含まない密着部とを有するものであることを特徴とする弦楽器弓の竿。
【請求項2】
請求項1に記載の弦楽器弓の竿が備えられていることを特徴とする弦楽器弓。
【請求項3】
棒状の芯金に炭素繊維樹脂プリプレグを巻きつけた後、前記炭素繊維樹脂プリプレグの外側にガラス繊維樹脂プリプレグを巻きつけて被成形品を形成する工程と、
前記被成形品を弓形棒状の金型内に設置して加熱することにより、弓形棒状の成形品を成形する成形工程とを備えることを特徴とする弦楽器弓の竿の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−232747(P2011−232747A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−85572(P2011−85572)
【出願日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】