説明

強化エステル系ポリマー組成物

【課題】優れた耐熱性、軽量性を維持しながら、機械的特性、特に強度が顕著に改良された強化エステル系ポリマー組成物を提供する。
【解決手段】本願発明に係る強化エステル系ポリマー組成物は、以下の式(I):



{式中、R1およびR2は、請求項1に記載するとおりのものである。}で表される繰り返し単位を有し、数平均分子量が300〜100000である芳香族カルボン酸エステル系ポリマーと無機充填材を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定構造の繰り返し単位を有し、かつ、数平均分子量が300〜100,000である芳香族カルボン酸エステル系ポリマーと無機充填材を含む強化エステル系ポリマー組成物に関する。本発明は、特に、特定構造の繰り返し単位を有する芳香族カルボン酸エステル系ポリマーに特定量、特定形状の無機充填材を添加することにより、機械的強度、耐熱性、軽量性が著しく改良された強化エステル系ポリマー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
強化エステル系ポリマー組成物は、機械的強度、剛性、耐候性、耐熱性、寸法安定性および耐薬品性等の諸特性に優れるエンジニアリング樹脂として知られており、自動車用途および工業用途等様々な用途に応用されている。
例えば、以下の特許文献1には、無機充填材で強化された強化ポリトリメチレンテレフタレート樹脂組成物が開示されている。無機充填材の量を特定量とし、無機充填材表面に特定の割合でグラフト化ポリトリメチレンテレフタレート層を存在させることで、成形品外観を損なわずに、機械的特性を著しく改良できることが記載されている。しかしながら、かかる強化ポリトリメチレンテレフタレート樹脂組成物は、依然として、機械的特性、耐熱性が不十分であり、自動車部品、特にエンジンルーム内部品への適用は困難であった。さらに、自動車部品に要求される、燃費向上のための軽量化への対応も不十分であった。
【0003】
一方、本発明者の一人である金子らは、以下の特許文献2において、エステル系ポリマーを加熱発泡させた硬質発泡体を開示している。特定構造の芳香族カルボン酸エステル系ポリマーを加熱発泡させることで、耐熱性、軽量性に優れ、高い機械的特性を有することが記載されている。しかしながら、発泡に伴い機械的特性が低下する場合も生じ、機械的特性が不十分となる可能性もあった。また、必要により、シリカ、タルク、カオリン、マイカ、酸化チタン、ケナフ、チョマ、モンモリロナイト、ベントナイト、炭素繊維、ガラス繊維、木粉などのフィラーを添加することが記載されているが、好適な添加量、形状についての記載がない。
【特許文献1】国際公開第2002/090435号
【特許文献2】特願2007−277167
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、特定構造の繰り返し単位を有し、かつ、数平均分子量が300〜100,000である芳香族カルボン酸エステル系ポリマーと無機充填材を含む強化エステル系ポリマー組成物を、提供すること、特に、従来技術の強化エステル系ポリマー組成物に比較して、優れた耐熱性、軽量性を維持しながら、機械的特性、特に強度が顕著に改良された強化エステル系ポリマー組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、特定の構造を有する芳香族カルボン酸エステル系ポリマーと無機充填材を含む強化エステル系ポリマー組成物において、例えば、無機充填材の量を特定量とし、無機充填材の形状を特定することで、優れた耐熱性、軽量性を維持しながら、機械的特性、特に強度を顕著に改良できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は具体的には、以下の[1]〜[8]の通りである。
【0006】
[1]以下の式(I):
【化1】

{式中、R1およびR2は、それぞれ独立して、水素原子、重水素原子、水酸基、重水酸基、ハロゲン原子、アルカリ金属原子、チオール基、第一級〜第四級アミノ基、イミノ基、アゾ基、アゾキシル基、ジアゾ基、アジド基、ヒドラジン基、ニトロ基、ニトロソ基、尿素基、チオ尿素基、シアネート基、チオシアネート基、イソシアネート基、イソチオシアネート基、硫酸基、スルホニル基、スルホキシド基、リン酸基、ホスホニル基、硼酸基、ボロニル基、ケイ素含有基、ゲルマニウム含有基、ニトリル基、イソニトリル基、ジスルフィド基、置換カルボニル基、ホルミル基、各種エステル基、各種チオエステル基、各種カーボネート基、各種チオカーボネート基、各種アミド基、カルボキシル基、ピリジル基、フェニル基、ビフェニル基、テルフェニル基、ナフチル基、アンスリル基、フェナンスリル基、ペンタセニル基、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数1〜12のアルカノイル基、炭素数1〜12のアルカノイロキシ基、炭素数1〜12のアルキルチオエーテル基、炭素数1〜12のアルケニル基、炭素数1〜12のアルキニル基または炭素数1〜12のフルオロアルキル基を示す。}で表される繰り返し単位を有し、かつ、数平均分子量が300〜100,000である芳香族カルボン酸エステル系ポリマーと無機充填材を含む強化エステル系ポリマー組成物。
【0007】
[2]前記無機充填材の量が前記強化エステル系ポリマー組成物の総重量に対して5〜70重量%であり、かつ、前記無機充填材のアスペクト比が5以上である、前記[1]に記載の強化エステル系ポリマー組成物。
【0008】
[3]前記無機充填材がガラス繊維である、前記[1]または[2]に記載の強化エステル系ポリマー組成物。
【0009】
[4]前記式(I)において、R1が水素原子または炭素数1〜12のアルコキシ基であり、そしてR2が炭素数1〜12のアルコキシ基である、前記[1]〜[3]のいずれかに記載の強化エステル系ポリマー組成物。
【0010】
[5]前記式(I)において、R1およびR2が、それぞれ独立して、水素原子、水酸基または炭素数1〜12のアルコキシ基である、前記[1]〜[3]のいずれかに記載の強化エステル系ポリマー組成物。
【0011】
[6]発泡体である、前記[1]〜[5]のいずれかに記載の強化エステル系ポリマー組成物。
【0012】
[7]前記発泡体が、1〜50倍の発泡倍率を有する、前記[6]に記載の強化エステル系ポリマー組成物。
【0013】
[8]前記発泡体が10nm〜1mmの平均気泡径を有する、前記[6]または[7]に記載の強化エステル系ポリマー組成物。
【発明の効果】
【0014】
本発明の強化エステル系ポリマー組成物は、優れた耐熱性、軽量性を維持しながら、機械的特性、特に強度において顕著に優れたものである。かかるポリマー組成物は自動車部品、電子・電気部品等の広範囲の分野に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の強化エステル系ポリマー組成物は、以下の式(I):
【化2】

{式中、R1およびR2は、それぞれ独立して、水素原子、重水素原子、水酸基、重水酸基、ハロゲン原子、アルカリ金属原子、チオール基、第一級〜第四級アミノ基、イミノ基、アゾ基、アゾキシル基、ジアゾ基、アジド基、ヒドラジン基、ニトロ基、ニトロソ基、尿素基、チオ尿素基、シアネート基、チオシアネート基、イソシアネート基、イソチオシアネート基、硫酸基、スルホニル基、スルホキシド基、リン酸基、ホスホニル基、硼酸基、ボロニル基、ケイ素含有基、ゲルマニウム含有基、ニトリル基、イソニトリル基、ジスルフィド基、置換カルボニル基、ホルミル基、各種エステル基、各種チオエステル基、各種カーボネート基、各種チオカーボネート基、各種アミド基、カルボキシル基、ピリジル基、フェニル基、ビフェニル基、テルフェニル基、ナフチル基、アンスリル基、フェナンスリル基、ペンタセニル基、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数1〜12のアルカノイル基、炭素数1〜12のアルカノイロキシ基、炭素数1〜12のアルキルチオエーテル基、炭素数1〜12のアルケニル基、炭素数1〜12のアルキニル基または炭素数1〜12のフルオロアルキル基を示す。}で表される繰り返し単位を有し、数平均分子量が300〜100,000である芳香族カルボン酸エステル系ポリマーと無機充填材を含む組成物である。
【0016】
式(I)において、R1およびR2は、本発明の強化エステル系ポリマー組成物の耐熱性を100℃以上にする観点から、それぞれ独立して、水素原子、重水素原子、水酸基、重水酸基、ハロゲン原子、アルカリ金属原子、チオール基、第一級〜第四級アミノ基、イミノ基、アゾ基、アゾキシル基、ジアゾ基、アジド基、ヒドラジン基、ニトロ基、ニトロソ基、尿素基、チオ尿素基、シアネート基、チオシアネート基、イソシアネート基、イソチオシアネート基、硫酸基、スルホニル基、スルホキシド基、リン酸基、ホスホニル基、硼酸基、ボロニル基、ケイ素含有基、ゲルマニウム含有基、ニトリル基、イソニトリル基、ジスルフィド基、置換カルボニル基、ホルミル基、各種エステル基、各種チオエステル基、各種カーボネート基、各種チオカーボネート基、各種アミド基、カルボキシル基、ピリジル基、フェニル基、ビフェニル基、テルフェニル基、ナフチル基、アンスリル基、フェナンスリル基、ペンタセニル基、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数1〜12のアルカノイル基、炭素数1〜12のアルカノイロキシ基、炭素数1〜12のアルキルチオエーテル基、炭素数1〜12のアルケニル基、炭素数1〜12のアルキニル基または炭素数1〜12のフルオロアルキル基であることができる。
【0017】
1およびR2は、同一であっても異なっていてもよい。R1およびR2が同一である場合、芳香族カルボン酸エステル系ポリマーは、ホモポリマーとなり、R1およびR2がそれぞれ異なる場合、2種類以上の原料モノマーからなるコポリマーとなる。
【0018】
また、芳香族カルボン酸エステル系ポリマーの耐熱性を100℃以上にする観点から、R1が水素原子、水酸基、ハロゲン原子、チオール基、カルボキシル基、ピリジル基、フェニル基、ビフェニル基、テルフェニル基、ナフチル基、アンスリル基、フェナンスリル基、ペンタセニル基、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数1〜12のアルカノイル基、炭素数1〜12のアルカノイロキシ基、炭素数1〜12のアルキルチオエーテル基、炭素数1〜12のアルケニル基、炭素数1〜12のアルキニル基または炭素数1〜12のフルオロアルキル基であり、そしてR2がハロゲン原子、炭素数1〜12のアルキル基または炭素数1〜12のアルコキシ基である組合せが好ましい。
【0019】
さらに、上記芳香族カルボン酸エステル系ポリマーの耐熱性をより高くする観点から、R1が水素原子または炭素数1〜12のアルコキシ基であり、そしてR2が炭素数1〜12のアルコキシ基である組合せがより好ましい。さらにまた、上記芳香族カルボン酸エステル系ポリマーと無機充填材との親和性をより高くする観点から、R1およびR2が、それぞれ独立して、水素原子、水酸基または炭素数1〜12のアルコキシ基である組合せが好ましく、特に、R1およびR2が、それぞれ独立して、水素原子または水酸基である組合せが好ましい。
【0020】
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子が挙げられる。
炭素数1〜12のアルキル基のなかでは、炭素数1〜4のアルキル基が好ましい。炭素数1〜4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基またはブチル基が挙げられ、これらのなかではメチル基が好ましい。
【0021】
炭素数1〜12のアルコキシ基のなかでは、炭素数1〜4のアルコキシ基が好ましい。炭素数1〜4のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基またはブトキシ基が挙げられ、これらのなかではメトキシ基が好ましい。
【0022】
式(I)で表される芳香族カルボン酸エステル系ポリマーにおいて、−O−結合、R1およびR2は、該芳香族カルボン酸エステル系ポリマーに結合している−CH=CH−O−基に対して、o位、m位またはp位のいずれで存在していてもよい。ポリマー鎖を直線性にすることによって耐熱性を高める観点から、−O−結合は、芳香族カルボン酸エステル系ポリマーに結合している−CH=CH−O−基に対してp位に結合していることが好ましい。また、該芳香族カルボン酸エステル系ポリマーをバイオベースポリマーとする観点から、R1およびR2は、それぞれ、芳香族カルボン酸エステル系ポリマーに結合している−CH=CH−O−基に対してm位に結合していることが好ましい。
【0023】
本発明に用いられる上記芳香族カルボン酸エステル系ポリマーが優れた耐熱性を示す要因はポリマー主骨格内に芳香環を含むことに加え、マイケル付加反応等による、分子内および/または分子間の自己架橋反応が寄与すると推定される。すなわち、例えば、マイケル付加反応とは末端基や側差に存在するα水素を持つ官能基は該芳香族カルボン酸エステル系ポリマーに結合している−CH=CH−O−基の二重結合に、加熱により付加する反応であり、該反応によって、分子内および/または分子間の自己架橋反応が起こると推定される。該自己架橋反応が起こることにより、耐熱性が向上すると推定される。従って、本発明のポリマー組成物において、上記芳香族カルボン酸エステル系ポリマーに結合している−CH=CH−O−基は必須であると考えられる。
【0024】
上記芳香族カルボン酸エステル系ポリマーの数平均分子量は、ポリマーを構成している繰り返し単位の種類などによって異なるので一概には決定することができないが、成形性を高める観点から、300〜100,000、好ましくは3,000〜90,000であることができる。
【0025】
上記芳香族カルボン酸エステル系ポリマーは、該ポリマーを構成している繰り返し単位に対応した原料モノマーを重合させることにより調製することができる。
原料モノマーの例としては、例えば、フェルラ酸、シナピン酸、o−クマル酸、m−クマル酸、p−クマル酸、カフェ酸などが挙げられ、これらの原料モノマーはそれぞれ単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。これらの原料モノマーのなかでは、芳香族カルボン酸エステル系ポリマーの耐熱性を高める観点から、フェルラ酸、シナピン酸およびo−クマル酸が好ましく、フェルラ酸およびシナピン酸が好ましく、フェルラ酸がさらに好ましい。また、上記芳香族カルボン酸エステル系ポリマーと無機充填材との親和性をより高くする観点から、少なくともカフェ酸を用いることが好ましく、特に、カフェ酸とフェルラ酸またはシナピン酸、p−クマル酸との共重合が好ましい。
【0026】
原料モノマーは、必要により、予めアセチル化させておいてもよい。アセチル化の方法には特に限定がなく、例えば、無水酢酸などを用いて常法にて原料モノマーのアセチル化を行うことができる。
【0027】
上記原料モノマーの重合方法としては、塊状重合法または溶液重合法が好ましく、塊状重合法がより好ましい。例えば、塊状重合法によって芳香族カルボン酸エステル系ポリマーを調製する場合、上記原料モノマーを必要によりアセチル化させた後、エステル化触媒の存在下で反応させることにより、芳香族カルボン酸エステル系ポリマーを調製することができる。
【0028】
エステル化触媒としては、例えば、ギ酸リチウム、ギ酸ナトリウム、ギ酸カリウム、ギ酸ルビジウム、ギ酸セシウム、ギ酸マグネシウム、ギ酸カルシウム、ギ酸ストロンチウム、ギ酸バリウムなどのギ酸金属塩;酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸ルビジウム、酢酸セシウム、酢酸マグネシウム、酢酸カルシウム、酢酸ストロンチウム、酢酸バリウムなどの酢酸金属塩;シュウ酸リチウム、シュウ酸ナトリウム、シュウ酸カリウム、シュウ酸ルビジウム、シュウ酸セシウム、シュウ酸マグネシウム、シュウ酸カルシウム、シュウ酸ストロンチウム、シュウ酸バリウムなどのシュウ酸金属塩;ケイ皮酸リチウム、ケイ皮酸ナトリウム、ケイ皮酸カリウム、ケイ皮酸ルビジウム、ケイ皮酸セシウム、ケイ皮酸マグネシウム、ケイ皮酸カルシウム、ケイ皮酸ストロンチウム、ケイ皮酸バリウムなどのケイ皮酸金属塩;炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ルビジウム、炭酸セシウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウムなどの炭酸金属塩;リン酸三リチウム、リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウム、リン酸三ルビジウム、リン酸三セシウム、リン酸一水素二リチウム、リン酸一水素二ナトリウム、リン酸一水素二カリウム、リン酸一水素二ルビジウム、リン酸一水素二セシウム、リン酸一水素マグネシウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸一水素ストロンチウム、リン酸一水素バリウム、リン酸二水素一リチウム、リン酸二水素一ナトリウム、リン酸二水素一カリウム、リン酸二水素一ルビジウム、リン酸二水素一セシウムなどのリン酸金属塩;二リン酸三マグネシウム、二リン酸三カルシウム、二リン酸三ストロンチウム、二リン酸三バリウム、二リン酸四水素一マグネシウム、二リン酸四水素一カルシウム、二リン酸四水素一ストロンチウム、二リン酸四水素一バリウムなどの二リン酸金属塩;ポリリン酸リチウム、ポリリン酸ナトリウム、ポリリン酸カリウム、ポリリン酸ルビジウム、ポリリン酸セシウム、ポリリン酸マグネシウム、ポリリン酸カルシウム、ポリリン酸ストロンチウム、ポリリン酸バリウムなどのポリリン酸金属塩;メタリン酸リチウム、メタリン酸ナトリウム、メタリン酸カリウム、メタリン酸ルビジウム、メタリン酸セシウム、メタリン酸マグネシウム、メタリン酸カルシウム、メタリン酸ストロンチウム、メタリン酸バリウムなどのメタリン酸金属塩;酸化リチウム、酸化ナトリウム、酸化カリウム、酸化ルビジウム、酸化セシウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウムなどの金属酸化物;金属リチウム、金属ナトリウム、金属カリウム、金属ルビジウム、金属セシウムなどのアルカリ金属;金属マグネシウム、金属カルシウム、金属ストロンチウム、金属バリウムなどのアルカリ土類金属などが挙げられ、これらは、それぞれ単独または2種以上を混合して用いることもできる。
【0029】
上記エステル化触媒のなかでは、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸マグネシウム、酢酸カルシウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、二リン酸三マグネシウム、二リン酸三カルシウム、リン酸一水素二ナトリウム、リン酸一水素二カリウム、ポリリン酸ナトリウム、ポリリン酸カリウム、ポリリン酸マグネシウムまたはポリリン酸カルシウムが好ましく、リン酸ナトリウムがより好ましい。
【0030】
上記エステル化触媒の量は、重合に供される原料モノマーの種類などによって異なるので、一概には決定することができないが、通常、原料モノマー100重量部当たり、好ましくは1〜50重量部、より好ましくは1〜30重量部、さらに好ましくは1〜10重量部である。
【0031】
なお、溶液重合法によって芳香族カルボン酸エステル系ポリマーを調製する場合は、反応に関与しない有機溶媒、例えば、トルエン、ヘキサン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、アセトン、メチルエチルケトンなどを用いることができる。これらのなかでは、エステル化反応の際に生成した水を容易に除去することができることから、ヘキサンまたはトルエンが好ましい。
【0032】
反応温度は、反応効率を高める観点から、好ましくは130℃以上、より好ましくは150℃以上であり、反応の際に発泡することを防止する観点から、好ましくは250℃以下、より好ましくは225℃以下である。
【0033】
反応時間は、反応条件などによって異なるので一概には決定することができないが、通常、1〜72時間程度であり、好ましくは1〜7時間程度である。
反応の際の雰囲気は、特に限定されないが、空気中に含まれている酸素が反応に関与することを防止するために、例えば、窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気であることが好ましい。
【0034】
なお、反応の初期には、原料モノマーを攪拌しながらエステル化反応を進行させ、その後は酢酸などの副生成物を、例えば、ロータリーポンプ、ロータリーエバポレーターなどを用いて系内を減圧にすることにより、除去することが好ましい。減圧度は、特に限定されないが、通常、1〜50kPa程度であればよい。なお、反応が進行し、生成した芳香族カルボン酸エステル系ポリマーが固化した場合には、その時点で反応を終了してもよいし、所定の数平均重合度にするために、反応を継続しても構わない。
【0035】
反応を継続する場合、固化した芳香族カルボン酸エステル系ポリマーを、一旦、系外に取り出し、クラッシャー、ミル等で粉砕した後に、系内に戻し、減圧下または窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性ガス流通雰囲気下で反応を継続することが好ましい。
上記反応に用いる芳香族カルボン酸エステル系ポリマーには、必要に応じて、各種の添加剤、例えば、熱安定剤、消泡剤、整色剤、難燃剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、結晶核剤、蛍光増白剤、艶消し剤等を共重合または混合してもよい。
【0036】
次に本発明で用いられる無機充填材について説明する。
本発明における無機充填材としては、目的に応じて、繊維状無機充填材、粉粒状無機充填材および板状無機充填材からなる群から選ばれる少なくとも1種の無機充填材が用いられる。
【0037】
繊維状無機充填材としては、ガラス繊維、炭素繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、酸化チタン繊維、ジルコニア繊維、窒化ホウ素繊維、窒化ケイ素繊維、ホウ素繊維、炭化ケイ素繊維、チタン酸カリウムウィスカー、ウォラストナイト、さらにステンレス、アルミニウム、チタン、銅、真鍮等の金属の繊維状物等が挙げられる。
粉粒状無機充填材としてはカーボンブラック、シリカ、石英粉末、ガラスビーズ、ガラス粉、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、カオリン、クレー、硅藻土のごときケイ酸塩、酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛、アルミナのごとき金属酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムのごとき金属炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムのごとき金属硫酸塩、その他、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化ホウ素等の各種金属粉末等が挙げられる。
板状無機充填材としてはタルク、マイカ、ガラスフレーク、各種の金属箔等が挙げられる。
【0038】
本発明の強化エステル系ポリマー組成物中の無機充填材の量は、ポリマー組成物の総重量に対して5〜70重量%であることが好ましく、より好ましくは5〜50重量%、さらにより好ましくは5〜40重量%、特に好ましくは5〜30重量%であることができる。5重量%未満では機械的強度への改良効果がなく、70重量%を超えると均一に無機充填材を分散させることが困難で成形品の外観が損なわれ、かつ比重の増加につながる。
【0039】
本発明の強化エステル系ポリマー組成物中の無機充填材のアスペクト比は5以上であることが、機械的強度を改良する観点から好ましい。さらに10以上、特に20以上が好ましい。アスペクト比とは、繊維状無機充填材であれば、強化エステル系ポリマー組成物中の無機充填材の平均繊維長を平均繊維径で除した比であり、粉粒状無機充填材であれば、強化エステル系ポリマー組成物中の無機充填材の長径を短径で除した比であり、板状無機充填材であれば、強化エステル系ポリマー組成物中の無機充填材の長径を厚みで除した比である。
【0040】
本発明の強化エステル系ポリマー組成物中の無機充填材は、機械的特性を改良する観点から、繊維状無機充填材および/または板状無機充填材が好ましく、繊維状無機充填材がさらに好ましい。繊維状無機充填材は、芳香族カルボン酸エステル系ポリマーとの親和性の観点からガラス繊維、炭素繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、酸化チタン繊維、ジルコニア繊維、ウォラストナイト、さらにステンレス、アルミニウム、チタン、銅、真鍮等の金属の繊維状物が好ましく、特にガラス繊維、炭素繊維またはステンレス、アルミニウム、チタン、銅、真鍮等の金属の繊維状物が好ましく、特にガラス繊維が好ましい。
【0041】
ガラス繊維は、その種類等について、特に制限はなく、通常、ポリエステル樹脂に配合されるものであればよい。ガラス繊維は、他の無機充填材に比べて、特別の表面処理を施さなくとも、顕著に機械的特性、特に強度を改良するが、そのメカニズムは必ずしも明確ではないが、ガラス繊維表面のシラノール基の作用と推定される。すなわち、芳香族カルボン酸エステル系ポリマー分子中のエーテル基、エステル基とガラス繊維表面のシラノール基が相互作用することで強い親和性が生じ、強固なポリマー/ガラス繊維界面を形成すると推定される。特に芳香族カルボン酸エステル系ポリマーのR1およびR2が、それぞれ独立して、水素原子、水酸基または炭素数1〜12のアルコキシ基である場合、樹脂とガラス繊維の接着性を改良する目的で用いられるカップリング剤と類似の官能基を有するため、一層強固なポリマー/ガラス繊維界面を形成すると推定される。
【0042】
ここで、強化エステル系ポリマー組成物中の繊維状無機充填材の平均繊維長は、特に限定されないが、機械的特性を高める観点から50μm以上であることが好ましく、100μm以上であることがさらに好ましく、150μm以上であることが特に好ましい。また、平均繊維径は、アスペクト比が所望の範囲になれば、特に限定されないが、分散の均一性を高める観点から5μm以上であることが好ましく、7μm以上であることがさらに好ましく、10μm以上であることが特に好ましい。
【0043】
本発明において、無機充填材は一種類のみでも、二種以上を併用してもよい。また、無機充填材と併用して、有機質繊維状物質も使用してもよい。有機質繊維状物質としては特に限定されないが、ポリアミド、フッ素樹脂、アクリル樹脂、セルロース等が例示される。
【0044】
本発明に用いる無機充填材は、芳香族カルボン酸エステル系ポリマーとの親和性の観点から表面処理を施してもよい。表面処理としては、特に制限はなく、カップリング剤やフィルム形成剤を用いて行えばよい。カップリング剤としては、例えば、シラン系カップリング剤、チタン系カップリング剤を挙げることができる。フィルム形成剤としては、ウレタン系ポリマー、アクリル酸系ポリマー、無水マレイン酸とエチレン、スチレン、α−メチルスチレン、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン、2,3−ジクロロブタジエン、1,3−ペンタジエン、シクロオクタジエン等の不飽和単量体とのコポリマー、エポキシ系ポリマー、ポリエステル系ポリマー、ポリエーテル系ポリマー等の重合体を挙げることができる。
【0045】
このようなカップリング剤およびフィルム形成剤を用いて、無機充填材の表面処理を行うには、公知の方法によればよい。例えば、カップリング剤および/またはフィルム形成剤および有機溶媒からなる溶液または懸濁液をいわゆるサイジング剤として表面に塗布するサイジング処理、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー、レーディミキサー、V型ブレンダー等を用いてカップリング剤および/またはフィルム形成剤を塗布する乾式混合、スプレーによりカップリング剤および/またはフィルム形成剤を塗布するスプレー法、さらには、インテグラルブレンド法、ドライコンセントレート法を挙げることができる。
【0046】
本発明の強化エステル系ポリマー組成物を得る方法は特に限定されない。例えば、上記原料モノマーとともに、無機充填材、および必要に応じて加えられる添加剤等を添加して原料モノマーを反応させてもよい。無機充填材として、繊維状無機充填材を用いる場合、予め繊維状無機充填材をヘンシェルミキサー、スーパーミキサー、レーディミキサー、V型ブレンダー、セラミックミル等で攪拌し、解繊しておくことは、容易に均一な該ポリマー組成物が得られ、好ましい。
【0047】
あるいは、粉砕した上記芳香族カルボン酸エステル系ポリマーと無機充填材、および必要に応じて加えられる添加剤等をヘンシェルミキサー、スーパーミキサー、レーディミキサー、V型ブレンダー、セラミックミル等を用いて乾式で混合してもよい。この際、無機充填材として、繊維状無機充填材を用いる場合、予め繊維状無機充填材のみをヘンシェルミキサー、スーパーミキサー、レーディミキサー、V型ブレンダー、セラミックミル等で攪拌し、解繊しておくことは、容易に均一な該ポリマー組成物が得られ、好ましい。
【0048】
上記芳香族カルボン酸エステル系ポリマーを有機溶剤に溶解させて、無機充填材、および必要に応じて加えられる添加剤等と湿式で混合してもよい。湿式で混合する方法は特に限定されない。
上記芳香族カルボン酸エステル系ポリマー、無機充填材、および必要に応じて加えられる添加剤等を、適切にデザインされたスクリューを有する押出し機を用いて溶融混練する方法は、無機充填材が均一に分散した組成物が容易に得られるため、好ましい。
【0049】
以上の方法により本発明の強化エステル系ポリマー組成物を得ることができる。該組成物は未発泡体でも構わないが、より一層高い耐熱性と軽量性を実現するため、発泡体とすることも好ましい。本発明に用いられる芳香族カルボン酸エステル系ポリマーは、加熱することによってそれ自身が発泡性を有するため、低沸点化合物などの発泡剤を用いる必要がなく、容易に発泡体を得ることができる。さらに従来公知の発泡剤を使用しない自己発泡性加熱硬化型液状シリコーンゴム組成物等は発泡の際に炭酸ガスを発生するが、該芳香族カルボン酸エステル系ポリマーは炭酸ガスを発生しないので地球環境に優しい。
【0050】
発泡体は、上記の未発泡の強化エステル系ポリマー組成物を150〜300℃に加熱することで得ることができる。例えば、150〜300℃に加熱された成形型内で必要により加圧しながら10分間〜6時間程度の間、強化エステル系ポリマー組成物を所望の形状に加熱成形することによって発泡体を得ることができるほか、強化エステル系ポリマー組成物を5〜100MPa程度の圧力で加圧した状態で180〜280℃程度の温度で5〜30分間程度加熱した後、圧力を開放することにより、発泡体を得ることができる。さらに、0.1MPa以下の減圧下で230〜280℃程度の温度で約3〜10分間程度強化エステル系ポリマー組成物を加熱するか、または、0.1MPa以下の減圧下で150〜210℃程度の温度で2.5〜3.5時間程度強化エステル系ポリマーを保持することにより、発泡体を得ることもできる。
【0051】
発泡体の発泡倍率は、軽量化を図り、誘電率を低減させ、防振性を向上させる観点から、好ましくは1倍以上、より好ましくは1.2倍以上、さらに好ましくは1.5倍以上であり、機械的強度を高める観点から、好ましくは50倍以下、より好ましくは30倍以下、さらに好ましくは10倍以下である。発泡体の発泡倍率は、発泡体の体積を、発泡前の強化エステル系ポリマー組成物の体積で除することによって求められる。発泡倍率は、強化エステル系ポリマー組成物を発泡させる時の加熱温度、加熱時間、加熱時の圧力、加熱時の減圧度、強化エステル系ポリマー組成物中の芳香族カルボン酸エステル系ポリマーの分子量、光照射などの前架橋などの条件を適宜選択することにより、制御することができる。
【0052】
また、上記発泡体の平均気泡径は、一般的なポリマーの長周期構造以上の大きさを有する孔を与える観点から、好ましくは10nm以上、より好ましくは0.1μm以上であり、機械的強度を高める観点から、好ましくは1mm以下、より好ましくは100μm以下である。平均気泡径は、フィールドエミッション走査型電子顕微鏡で写真撮影された発泡体の気泡径の平均値である。平均気泡径は、強化エステル系ポリマー組成物を発泡させる時の加熱温度、加熱時間、加熱時の圧力、加熱時の減圧度、強化エステル系ポリマー組成物中の芳香族カルボン酸エステル系ポリマーの分子量、光照射などの前架橋などの条件を適宜選択することにより、制御することができる。
【実施例】
【0053】
以下実施例および比較例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されることを意図されない。
本発明に用いられる測定法は以下のとおりである。
(1)(曲げ)強度(MPa):強化エステル系ポリマー組成物の成形体を切削または裁断することにより、試験片(縦50mm、横6mm、厚さ3.5mm)を作製した。井元製作所製力学試験機に支点間距離29mmの3点曲げ試験用治具を取付けて、上記試験片を治具に固定し、室温下、荷重速度0.1mm/minで破壊時の曲げ強度を測定した。
(2)耐熱性(℃):強化エステル系ポリマー組成物の成形体を切削または裁断することにより、試験片(縦20mm、横6mm、厚さ3.5mm)を作製した。試験片の動的粘弾性を、ねじり強制振動型動的粘弾性測定装置(Anton Paar社製、Physics MCR301)で測定し、最大正接損失を示す温度を耐熱性とした。測定条件は、歪み0.1%、振動数1Hz、昇温速度5℃/minとした。
(3)見かけ比重:強化エステル系ポリマー組成物の成形体を切削または裁断することにより、試験片(縦3mm、横4mm、厚さ3mm)を作製した。室温中で電子天秤を用い、重量(g)を測定し、試験片の体積(0.3×0.4×0.3=0.036cm3)で除することによって求めた値を見かけ比重とする。
(4)アスペクト比:強化エステル系ポリマー組成物の成形体を空気中、500℃で1〜4時間加熱し、ポリマーを除去した後、回収した充填材の寸法を光学顕微鏡で20点測定した。繊維状充填材では繊維長と繊維径を測定し、繊維長を繊維径で除しアスペクト比を求め、20点を平均してアスペクト比とした。同様に粉粒状充填材では長径と短径を測定し、長径を短径で除し、20点を平均してアスペクト比とし、板状充填材では長径と厚さを測定し、長径を厚さで除し、20点を平均してアスペクト比とする。
【0054】
実施例1
特許文献2に開示されている製造例1および実施例1に基づきポリフェルラ酸を製造した。すなわち、500mL容のナス型フラスコ内に、フェルラ酸25g、トルエン200mL、無水酢酸50mLおよびピリジン10mLを添加し、110℃で2時間攪拌しながら反応を行った。反応終了後、得られた反応混合物を室温まで冷却し、90〜100℃の熱水に添加し、均一な組成となるように攪拌した。攪拌後、反応混合物の溶液を静置し、水層中に析出した白色結晶を濾集し、濾過物を熱水1000mLで洗浄した後、乾燥機にて60℃で24時間乾燥させた。得られた白色結晶の赤外線吸収スペクトル(IR)を赤外線吸収スペクトル装置(パーキンエルマー社製、商品名:Spectrum One)で、核磁気共鳴(1H−NMR)を核磁気共鳴装置(バリアン社製、商品名:Gemini−2000)で調べたところ、アセチル化フェルラ酸であることが確認された。
【0055】
得られたアセチル化フェルラ酸10gと触媒としてリン酸ナトリウム0.1gを500mL容のセパラブルフラスコに添加し、窒素ガス気流下で室温から190℃まで加熱し、メカニカルスターラーで攪拌しながら重合を行った。重合開始から2時間加熱攪拌した後、フラスコ内をロータリーポンプで1kPa以下に減圧し、190℃でさらに重合を行った。反応生成物が固化したときに、重合反応を終了した。その後、得られた生成物を冷却することにより、塊状の固形物を得た。
得られた固形物のIRおよび1H−NMRを調べた結果、数平均分子量が10,000のポリフェルラ酸であることが確認された。
【0056】
実施例1で得られた塊状のポリフェルラ酸をセラミックミル(京セラ製、CM−45T)で粉砕し、粉状にした。ガラス繊維(日本電気硝子社製、繊維径13μm、繊維長3mm)4重量部をミキサーで解繊させた後、粉状のポリフェルラ酸96重量部を添加し、ミキサーで両者を均一に混合した。得られた組成物を縦50mm、横6mm、深さ7mmの内部形状を有する成形型内に充填し、5MPaの加圧下で200℃の温度で20分間圧縮成形して、成形体を作製し、物性の評価を行った。結果を以下の表1に示す。
【0057】
実施例2〜6
ガラス繊維と粉状のポリフェルラ酸の重量を、10重量部と90重量部(実施例2)、20重量部と80重量部(実施例3)、30重量部と70重量部(実施例4)、50重量部と50重量部(実施例5)、80重量部と20重量部(実施例6)とした以外は実施例1と同様の方法で成形体を作製し、物性の評価を行った。結果を以下の表1に示す。
【0058】
比較例1
(ガラス繊維を含まず)粉状のポリフェルラ酸を100重量部用いた以外は実施例1と同様にして、成形体を作製し、物性の評価を行った。結果を以下の表1に示す。
【0059】
実施例7〜9
ガラス繊維の代わりに炭素繊維(東レ社製、トレカT008、繊維径7μm、繊維長3mm)を用いた以外は実施例2〜4と同様にして、炭素繊維濃度を変えた成形体を作製し、物性の評価を行った。結果を以下の表1及び表2に示す。
【0060】
実施例10
ガラス繊維をボールミルで粉砕した、アスペクト比4のガラス粉を用いた以外は実施例4と同様にして、ガラス粉濃度30重量%の成形体を作製し、物性の評価を行った。結果を以下の表2に示す。
【0061】
比較例2
脱脂処理したケナフ繊維を用いた以外は実施例4と同様にして、ケナフ繊維濃度30重量%の成形体を作製し、物性の評価を行った。結果を以下の表2に示す。尚、ケナフ繊維の脱脂処理は、次の手順で行った。キシレンにケナフ繊維を加え、150℃で1時間、加熱還流を行い、これを2度繰り返した。その後、ケナフ繊維をアセトンで洗浄し、乾燥した。乾燥後、セラミックミルを用いてアスペクト比200に微細化した。
【0062】
実施例11
実施例4で得られた成形体(ガラス繊維濃度30重量%)を250℃の温度で15分間加熱して、発泡体を得た。得られた発泡体の発泡倍率は5倍であり、平均気泡径は10μmであった。また、発泡体の物性評価の結果を以下の表2に示す。
【0063】
【表1】

【表2】

【0064】
表1及び表2から明らかなように、無機充填材を添加したポリマー組成物は優れた強度、耐熱性を示す。ことにガラス繊維を用いた場合、強度が著しく向上することが判る。さらに、実施例1〜6により、無機充填材の濃度に最適値が存在することが判る。また、実施例11から、発泡体は軽量化、耐熱性を改良しながら、強度を維持していることが判る。
【0065】
実施例12
フェルラ酸10gの代わりにシナピン酸10gを用いた以外は、実施例1と同様にしてポリシナピン酸を調整した。実施例1と同様にして、IRおよび1H−NMRを調べた結果、数平均分子量15,000のポリシナピン酸が得られたことが確認できた。実施例12で得られたポリシナピン酸を用いた以外は実施例4と同様にして、ガラス繊維濃度30重量%の成形体を作製し、物性の評価を行った。結果を以下の表3に示す。
【0066】
実施例13
炭素繊維を用いた以外は実施例12と同様にして、炭素繊維濃度30重量%の成形体を作製し、物性の評価を行った。結果を以下の表3に示す。
【0067】
実施例14
ガラス繊維をボールミルで粉砕した、アスペクト比4のガラス粉を用いた以外は実施例12と同様にして、ガラス粉濃度30重量%の成形体を作製し、物性の評価を行った。結果を以下の表3に示す。
【0068】
比較例3
(ガラス繊維を含まず)ポリシナピン酸を100重量部用いた以外は実施例12と同様にして、成形体を作製し、物性の評価を行った。結果を以下の表3に示す。
【0069】
比較例4
比較例2の方法で脱脂処理したケナフ繊維を用いた以外は実施例12と同様にして、ケナフ繊維濃度30重量%の成形体を作製し、物性の評価を行った。結果を以下の表3に示す。
【0070】
実施例15
実施例12で得られた成形体を250℃の温度で15分間加熱して、発泡体を得た。得られた発泡体の発泡倍率は4倍であり、平均気泡径は12μmであった。また、発泡体の物性評価の結果を以下の表3に示す。
【0071】
【表3】

【0072】
表3から明らかなように、無機充填材を添加したポリマー組成物は優れた強度、耐熱性を示すことが判る。ことにガラス繊維を用いた場合、強度が著しく向上することが判る。また、実施例15から、発泡体は軽量化、耐熱性を改良しながら、強度を維持していることが判る。
【0073】
実施例16
300mL容のセパラブルフラスコ内に、p−クマル酸5.77g、カフェ酸3.23g(p−クマル酸とカフェ酸のモル比は60/40)、無水酢酸24mL、リン酸一水素二ナトリウム0.1gを添加し、窒素ガスでパージした。その後、2時間、200℃で加熱攪拌した後、フラスコ内をロータリーポンプで1kPa以下に減圧し、さらに200℃で7時間加熱攪拌を行った。反応生成物が固化したときに、重合反応を終了した。その後、得られた生成物を冷却することにより、塊状の固形物を得た。
得られた固形物のIRおよび1H−NMRを調べた結果、数平均分子量が40,000のp−クマル酸とカフェ酸の共重合ポリマーであることが確認された。
得られたp−クマル酸とカフェ酸の共重合ポリマーを用いた以外は実施例12と同様にして、ガラス繊維濃度30重量%の成形体を作製し、物性の評価を行った。結果を以下の表4に示す。
【0074】
実施例17
炭素繊維を用いた以外は実施例16と同様にして、炭素繊維濃度30重量%の成形体を作製し、物性の評価を行った。結果を以下の表4に示す。
【0075】
実施例18
ガラス繊維をボールミルで粉砕した、アスペクト比4のガラス粉を用いた以外は実施例16と同様にして、ガラス粉濃度30重量%の成形体を作製し、物性の評価を行った。結果を以下の表4に示す。
【0076】
比較例5
(ガラス繊維を含まず)粉状のp−クマル酸とカフェ酸の共重合ポリマーを100重量部用いた以外は実施例16と同様にして、成形体を作製し、物性の評価を行った。結果を以下の表4に示す。
【0077】
比較例6
比較例2の方法で脱脂処理したケナフ繊維を用いた以外は実施例16と同様にして、ケナフ繊維濃度30重量%の成形体を作製し、物性の評価を行った。結果を以下の表4に示す。
【0078】
実施例19
実施例16で得られた成形体を250℃の温度で40分間加熱して、発泡体を得た。得られた発泡体の発泡倍率は5倍であり、平均気泡径は10μmであった。また、発泡体の物性評価の結果を以下の表4に示す。
【0079】
【表4】

【0080】
表4から明らかなように、無機充填材を添加したポリマー組成物は優れた強度、耐熱性を示すことが判る。ことにガラス繊維を用いた場合、強度が著しく向上することが判る。さらに、実施例16と実施例4、実施例12の比較から、p−クマル酸とカフェ酸の共重合体は他のポリマーより、ガラス繊維で強化した場合、強度がより向上することがわかる。また、実施例19から、発泡体は軽量化、耐熱性を改良しながら、強度を維持していることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明に係る強化エステル系ポリマー組成物は、優れた耐熱性、軽量性を維持しながら、機械的特性、特に強度において顕著に優れたものである。かかるポリマー組成物は自動車用材料、特に高耐熱性が要求されるエンジンルーム内部品用材料、電子・電気部品用材料、航空機用材料、宇宙分野用材料、医療補助用材料等の広範囲の分野に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式(I):
【化1】

{式中、R1およびR2は、それぞれ独立して、水素原子、重水素原子、水酸基、重水酸基、ハロゲン原子、アルカリ金属原子、チオール基、第一級〜第四級アミノ基、イミノ基、アゾ基、アゾキシル基、ジアゾ基、アジド基、ヒドラジン基、ニトロ基、ニトロソ基、尿素基、チオ尿素基、シアネート基、チオシアネート基、イソシアネート基、イソチオシアネート基、硫酸基、スルホニル基、スルホキシド基、リン酸基、ホスホニル基、硼酸基、ボロニル基、ケイ素含有基、ゲルマニウム含有基、ニトリル基、イソニトリル基、ジスルフィド基、置換カルボニル基、ホルミル基、各種エステル基、各種チオエステル基、各種カーボネート基、各種チオカーボネート基、各種アミド基、カルボキシル基、ピリジル基、フェニル基、ビフェニル基、テルフェニル基、ナフチル基、アンスリル基、フェナンスリル基、ペンタセニル基、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数1〜12のアルカノイル基、炭素数1〜12のアルカノイロキシ基、炭素数1〜12のアルキルチオエーテル基、炭素数1〜12のアルケニル基、炭素数1〜12のアルキニル基または炭素数1〜12のフルオロアルキル基を示す。}で表される繰り返し単位を有し、かつ、数平均分子量が300〜100,000である芳香族カルボン酸エステル系ポリマーと無機充填材を含む強化エステル系ポリマー組成物。
【請求項2】
前記無機充填材の量が前記強化エステル系ポリマー組成物の総重量に対して5〜70重量%であり、かつ、前記無機充填材のアスペクト比が5以上である、請求項1に記載の強化エステル系ポリマー組成物。
【請求項3】
前記無機充填材がガラス繊維である、請求項1または2に記載の強化エステル系ポリマー組成物。
【請求項4】
前記式(I)において、R1が水素原子または炭素数1〜12のアルコキシ基であり、そしてR2が炭素数1〜12のアルコキシ基である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の強化エステル系ポリマー組成物。
【請求項5】
前記式(I)において、R1およびR2が、それぞれ独立して、水素原子、水酸基または炭素数1〜12のアルコキシ基である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の強化エステル系ポリマー組成物。
【請求項6】
発泡体である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の強化エステル系ポリマー組成物。
【請求項7】
前記発泡体が、1〜50倍の発泡倍率を有する、請求項6に記載の強化エステル系ポリマー組成物。
【請求項8】
前記発泡体が10nm〜1mmの平均気泡径を有する、請求項6または7に記載の強化エステル系ポリマー組成物。

【公開番号】特開2010−43137(P2010−43137A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−206145(P2008−206145)
【出願日】平成20年8月8日(2008.8.8)
【出願人】(304024430)国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学 (169)
【出願人】(303046303)旭化成せんい株式会社 (548)
【Fターム(参考)】