説明

強誘電体素子の検査装置及びその方法

【課題】強誘電体または圧電体の検査方法で、短時間で素子の欠陥分布が判明することが可能なシステムを提供することを目的とする。
【解決手段】強誘電体素子5の下部電極2と上部電極4の両端に一定電圧を与えることが可能な直流電源21部と、強誘電体3で一定の電圧によって発生したキャリアが発する蛍光のうち、一定の光子エネルギーを有する蛍光を受光して収集することができるレンズ23(受光部)、蛍光像の分布により欠陥分布を判定することが可能な処理装置25(判定部)を備えたことを特徴とする検査システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強誘電体素子及び圧電体素子の欠陥分布を簡易的に検査する検査装置及びその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、強誘電体材料は、高誘電率誘電体、焦電センサ、圧電体素子のようにさまざまな用途に用いられている。これらの強誘電体材料を用いた素子の特性の検査方法は一般的には正負の三角波電圧を印加しそのときの電流を積分して電荷量を求め、P(自発分極)−E(電界)ヒステリシス特性を測定し、電界が0の時の自発分極量の大きさで強誘電体材料の良否を判定していた(非特許文献1)。
【0003】
また、強誘電体材料の素子を製造する際に一定の方向に自発分極の方向を揃えるために分極処理を行う。その分極処理の良否を判定する方法として、分極処理の前後でどの程度、多結晶材料の単分域化ができたかをみるために、レーザビームを当てることで検査する方法が提案されている。分極前の多結晶にレーザビームを入射させると結晶内の分域が光散乱中心になってレーザビームの散乱が観察される。分極後に単分域が十分に行われた結晶ではレーザビームの散乱は観察されない。すなわちレーザビームの散乱のレベルで単分域化の良否が判定できる(特許文献1)。
【特許文献1】特開昭59−132339号公報
【非特許文献1】「強誘電体デバイス」内野研二著(森北出版)2005 P.46−50
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、強誘電体材料のP−Eヒステリシス特性はその製造された素子の材料全体の良否を判断することは可能であるが、その材料がもつ欠陥の分布や欠陥箇所などは特定することは不可能である。さらに点電極を設けて、個々にP−Eヒステリシス特性を測定し、特性分布を作成することは時間が多く必要であり、効率のよい方法ではない。
【0005】
また、レーザビームの散乱光で、単分域化の良否は判定できるが、これは分極処理による分域化のレベルを観察するものであり、材料特性が悪い部分、つまり結晶の欠陥の位置を特定するものではない。
【0006】
本発明は上述の課題を解決するためになされたもので、強誘電体素子及び圧電体素子の欠陥分布を簡易的に検査する試験方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、基板上に設けられた第1の電極層と、第1の電極層上に設けられた強誘電体層と、強誘電体層の上に設けられた第2の電極層を備えた強誘電体素子の強誘電体の品質特性を検査する検査装置であって、前記強誘電体素子の電極両端に一定電圧を掛けることが可能な電源部と、前記強誘電体で一定の電圧によって発生したキャリアが発する蛍光のうち、一定の光子エネルギーを有する蛍光を受光して収集することができる受光部、蛍光像の分布により欠陥分布を判定することが可能な判定部を備えたことを特徴とし、短時間で簡単に欠陥分布が把握できるという作用効果を奏する。
【0008】
また、基板上に設けられた第1の電極層と、第1の電極層上に設けられた強誘電体層と、強誘電体層の上に設けられた第2の電極層を備えた強誘電体素子の強誘電体の品質特性を検査する検査方法であって、前記強誘電体素子の電極両端に一定電圧を印加し、前記強誘電体で一定の電圧によって発生したキャリアが発する蛍光のうち、一定の光子エネルギーを有する蛍光を受光し、受光した蛍光像の明るさの強弱分布により欠陥分布を判定することを特徴とし、短時間で簡単に欠陥分布が把握できるという作用効果を奏する。
【0009】
また受光する蛍光の光子エネルギーの範囲が2.5eVから5eVの範囲であることを特徴とし、より高精度に欠陥分布が把握できるという作用効果を奏する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の強誘電体素子の欠陥分布検査方法は、上下の電極を備えた強誘電体素子や圧電素子の面内での欠陥の分布が簡易的に同時に把握することができ、多くの点電極を設けてそれぞれ検査することなく、短時間で欠陥分布が把握できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施の形態において、同一の部分については同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0012】
(実施の形態)
実施の形態では、本発明の検査システムについて、強誘電体薄膜を用いた素子を対象に検査をした場合について説明する。
【0013】
図1は、強誘電体素子を示す図である。強誘電体素子5として、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr、Ti)O3、PZT)薄膜を用いた場合を取り上げる。この素子はシリコンまたはMgOで形成された基板1上に第1の電極層となる下部電極2として白金(Pt)を形成し、その上に強誘電体3としてPZT薄膜の強誘電体層を形成する。さらに第2の電極層となる上部電極4として、チタン(Ti)を10nm程度形成したのちに金(Au)を形成して、強誘電体素子5とする(図1(b)参照)。上部電極4は検査するPZT薄膜全体に電圧が掛けられるような図1(a)のようなバスバー電極の形態で形成することが望ましい。また、ウェハーなどの基板で一括で検査を行う場合は、図3で別の強誘電体素子を示したように、上部電極4の電極が同じような形状で複数個繋いだ状態で延長された形態で行うことが望ましい。
【0014】
図2に検査システムを示す。暗室環境下において評価用素子5に一定の電圧を与える電源部となる直流電源21を備え、バイアス電圧を素子に印加する。その素子5からの可視域から紫外域までの一定の光子エネルギーを有する発光を、受光部となるオブジェクトレンズ23を備えた冷却CCD(−55℃)カメラ22によって受光して収集し、判定部となる処理装置(パーソナルコンピュータ)25でエレクトロルミネッセンス(蛍光)像を取得する。実際には、素子の大きさによってオブジェクトレンズ23を変更して、エレクトロルミネッセンス(蛍光)像を取得する。
【0015】
実際の素子で測定した例で説明する。Pt電極の厚みが500nmの下部電極2上にPZT膜が2.5μm、上部電極4はTiの上にAuを300nm形成した。この素子に25Vの電圧を与えて、冷却CCDカメラ22によって可視域から紫外域までのエレクトロルミネッセンス(蛍光)像を取得する。その際、結晶欠陥が少ない領域は明るく発光し、結晶欠陥が多いかまたはリークが発生している領域はほとんど発光しない。そのために冷却CCDカメラ22で取得したエレクトロルミネッセンス(蛍光)像には明るい領域と暗い領域があり結晶欠陥の分布を明確に検出することができる。用いた冷却CCDカメラ22の測定可能な波長は200nmから1100nmであるが、フィルター操作により200〜500nmの領域でエレクトロルミネッセンス(蛍光)像を観察した。エレクトロルミネッセンス(蛍光)像の取得時間は露光時間の調整によるが概ね10秒から5分程度である。
【0016】
ここで、CCDで取得されたエレクトロルミネッセンス(蛍光)像の発光原理について説明する。強誘電体素子の両端の電極に電圧を印加したときに、強誘電体にキャリアが注入されることになる。注入されたキャリアは電子が強誘電体の伝導帯に、正孔が価電子帯に入り、強誘電体の内部で再結合を行う。尚、このときに発光する場合を輻射再結合と言い、結晶欠陥にキャリアがトラップされ、無発光の場合を非輻射再結合と言う。PZT膜の場合はバンドギャップが3.56eVであり、図4の本発明の検査システムの発光原理の説明図で示すように、発光は(1)伝導帯−価電子帯の遷移発光、(2)伝導帯−アクセプターの遷移発光、(3)ドナー−価電子帯の遷移発光、の3種類と考えられる。PZT膜の場合のエレクトロルミネッセンス(蛍光)像の波長範囲は355nmを中心におおよそ250nm(約5eV)から500nm(約2.5eV)の間で取得される。
【0017】
従来の方法として、レーザ励起のフォトルミネッセンスなどが考案されているが、レーザスポット径の範囲での材料の情報しか取得できない。それに対して、本発明では一定の大きさの強誘電体素子の欠陥分布を短時間で取得することが可能である。
【0018】
なお、本発明の実施の形態ではPZT膜を用いた強誘電体素子を例に説明したが、別の強誘電体材料、例えばチタン酸バリウムストロンチウム((Ba、Sr)TiO3、BST)、タンタル酸ニオブ酸ストロンチウムビスマス(SrBi2(Nb、Ta)209、Y1系)などでも構わない。
【0019】
なお、エレクトロルミネッセンス(蛍光)像の波長範囲は250nmから500nmが検出精度が高く望ましい。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明の強誘電体素子および圧電体素子の検査方法は、短時間で欠陥分布を把握することが可能なシステムであり、強誘電体素子の欠陥分布検査などに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の検査システムに用いる強誘電体素子の模式図
【図2】本発明の検査システムの構成例を示す模式図
【図3】本発明の検査システムに用いる強誘電体素子の別の形態図
【図4】本発明の検査システムの発光原理の説明図
【符号の説明】
【0022】
1 基板
2 下部電極
3 強誘電体
4 上部電極
5 強誘電体素子
22 冷却CCDカメラ
23 レンズ
24 電極プローブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に設けられた第1の電極層と、第1の電極層上に設けられた強誘電体層と、強誘電体層の上に設けられた第2の電極層を備えた強誘電体素子を検査する検査装置であって、前記強誘電体素子の前記第1と第2の電極層両端に一定電圧を与えることが可能な電源部と、前記強誘電体で一定の電圧によって発生したキャリアが発する蛍光のうち、一定の光子エネルギーを有する蛍光を受光して収集することができる受光部、蛍光像の強弱の分布により欠陥分布を判定することが可能な判定部を備えたことを特徴とする強誘電体素子の検査装置。
【請求項2】
基板上に設けられた第1の電極層と、第1の電極層上に設けられた強誘電体層と、強誘電体層の上に設けられた第2の電極層を備えた強誘電体素子を検査する検査方法であって、前記強誘電体素子の前記第1と第2の電極層両端に一定電圧を与え、前記強誘電体で一定の電圧によって発生したキャリアが発する蛍光のうち、一定の光子エネルギーを有する蛍光を受光し、受光した蛍光像の明るさの強弱分布により欠陥分布を判定することを特徴とする強誘電体素子の検査方法。
【請求項3】
受光する蛍光の光子エネルギーの範囲が2.5eVから5eVの範囲であることを特徴とする請求項2記載の強誘電体素子の検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−304345(P2008−304345A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−152303(P2007−152303)
【出願日】平成19年6月8日(2007.6.8)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】