説明

弾性波デバイス、デュープレクサ、通信モジュール、通信装置、弾性波デバイスの製造方法

【課題】完成品に近い状態で電気機械結合係数k2や周波数特性などを調整可能とし、デバイスの製造歩留まりを向上させることができ、より低コストの弾性波デバイスを実現することができる。
【解決手段】圧電基板1と、圧電基板1上に配された櫛形電極2と、櫛形電極2間に配された第1の誘電体膜4と、櫛形電極2と第1の誘電体膜4を覆う第2の誘電体膜5とを備える弾性波デバイスであって、第1の誘電体膜4上に調整膜6を備え、調整膜6は第1の誘電体膜4及び第2の誘電体膜5に対して比重が大きい材料で形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願の開示は、弾性波デバイスに関する。また、本願の開示は、弾性波デバイスを備えたデュープレクサ、通信モジュール、通信装置に関する。また、本願の開示は、弾性波デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
弾性波デバイスは、例えばテレビジョン受像機、携帯電話端末、PHS(Personal Handy-phone System)等におけるフィルタ素子や発振子に用いることができる。弾性波(Surface Acoustic Wave Device)を応用したデバイスの1つとして、FBAR(Film Bulk Acoustic-wave Resonator)や弾性表面波デバイス(SAWデバイス)が以前より良く知られている(例えば、特許文献1〜3参照)。SAWデバイスは、例えば45MHz〜2GHzの周波数帯における無線信号を処理する装置における各種回路に用いることができる。SAWデバイスは、例えば送信バンドパスフィルタ、受信バンドパスフィルタ、局発フィルタ、アンテナ共用器、IFフィルタ(Intermediate Frequency)、FM変調器(Frequency Modulation)等に用いることができる。
【0003】
近年、携帯電話端末などの高性能化に伴い、例えばバンドパスフィルタに用いられるSAWデバイスに対して、通過帯域内での低ロス化、通過帯域外での高抑圧化、温度安定性の向上など、諸特性の改善やデバイスサイズの小型化が求められている。中でも、温度安定性の向上については、デバイスサイズの小型化、デバイスへの入力パワーの増大などを原因とするデバイスのパワー密度の増大を背景として、喫緊の課題である。この温度安定性に関して、近年従来のSAWデバイスとは異なる構造のデバイスによる改善が提案されている。温度安定性を改善することができるデバイスとしては、圧電基板上に櫛形電極を形成し、さらに櫛形電極を覆うように厚い誘電体膜を形成したラブ波デバイス、境界波デバイスなどがある(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−112748号公報
【特許文献2】国際出願第WO98/52279明細書
【特許文献3】特開2008−113061号公報
【特許文献4】特開2008−79227号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
弾性波デバイスの特性を決める重要なパラメータとして、電気機械結合係数k2がある。電気機械結合係数k2は、弾性波デバイスの基板によって決まる定数であるが、実際は櫛形電極の幅寸法や厚さ寸法等で微妙に変化してしまう。また、弾性波デバイスでフィルタを製造した場合、フィルタの周波数特性が櫛形電極の幅寸法や厚さ寸法等で微妙に変化してしまう。弾性波デバイスの電気機械結合係数k2や周波数特性を調整するには、櫛形電極の幅寸法や厚さ寸法等を調整すればよい。しかし、ラブ波デバイスや境界波デバイスは櫛形電極が厚い誘電体膜で覆われているため、デバイス製造後に電気機械結合係数k2や周波数特性などの調整を行うために櫛形電極の幅寸法や厚さ寸法を調整することは困難である。
【0006】
本発明は、電気機械結合係数k2や周波数特性などを容易に調整可能とする弾性波デバイスおよびその製造方法を実現することを目的とする。また、そのような弾性波デバイスを備えたデュープレクサ、通信モジュール、通信装置を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願に開示する弾性波デバイスは、圧電基板と、前記圧電基板上に配された櫛形電極と、前記櫛形電極間に配された第1の誘電体膜と、前記櫛形電極と前記第1の誘電体膜を覆う第2の誘電体膜とを備える弾性波デバイスであって、前記第1の誘電体膜上に調整膜を備え、前記調整膜は、前記第1の誘電体膜及び前記第2の誘電体膜に対して比重が大きい材料で形成されている。
【発明の効果】
【0008】
本願の開示によれば、電気機械結合係数k2や周波数特性などを容易に調整可能とする弾性波デバイスを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本実施の形態にかかる弾性波デバイスの平面図
【図2】図1におけるZ−Z部の断面図
【図3A】図3Bに示す特性の計算モデルを示す断面図
【図3B】本実施の形態にかかる弾性波デバイスの調整膜の厚さに対する電気機械結合係数k2の特性を示す特性図
【図4A】チタンの調整膜を備えた弾性波デバイスの計算モデルの断面図
【図4B】図4Aに示す計算モデルの調整膜の厚さに対する電気機械結合係数k2の特性を示す特性図
【図5A】本実施の形態にかかる弾性波デバイスの製造プロセスを示す断面図
【図5B】本実施の形態にかかる弾性波デバイスの製造プロセスを示す断面図
【図5C】本実施の形態にかかる弾性波デバイスの製造プロセスを示す断面図
【図5D】本実施の形態にかかる弾性波デバイスの製造プロセスを示す断面図
【図5E】本実施の形態にかかる弾性波デバイスの製造プロセスを示す断面図
【図5F】本実施の形態にかかる弾性波デバイスの製造プロセスを示す断面図
【図5G】本実施の形態にかかる弾性波デバイスの製造プロセスを示す断面図
【図5H】本実施の形態にかかる弾性波デバイスの製造プロセスを示す断面図
【図6】評価及びエッチング処理のプロセスを示すフローチャート
【図7】調整膜が横方向にエッチングされた弾性波デバイスの断面図
【図8】本実施の形態にかかる弾性波デバイスの一例である弾性境界波デバイスの断面図
【図9】本実施の形態にかかる弾性波デバイスの他の構成例を示す断面図
【図10】デュープレクサのブロック図
【図11】通信モジュールのブロック図
【図12】通信装置のブロック図
【発明を実施するための形態】
【0010】
本願の実施形態にかかる弾性波デバイスは、以下のような態様をとることができる。
【0011】
弾性波デバイスにおいて、前記調整膜は、前記第1の誘電体膜及び前記第2の誘電体膜に対して音速が異なる材料で形成されている構成とすることができる。
【0012】
弾性波デバイスにおいて、前記調整膜は、前記櫛形電極の材料よりエッチング速度が速い材料で形成されている構成とすることができる。
【0013】
弾性波デバイスにおいて、前記調整膜は、シリコン(Si)あるいはシリコン化合物を含む構成とすることができる。
【0014】
弾性波デバイスにおいて、前記調整膜は、チタン(Ti)あるいは金属材料を含む構成とすることができる。
【0015】
弾性波デバイスにおいて、前記調整膜は、前記櫛形電極間に形成された第1の誘電体膜上の一部に形成されている構成とすることができる。
【0016】
弾性波デバイスにおいて、前記第2の誘電体膜の上部にカバー膜を備えた構成とすることができる。
【0017】
弾性波デバイスにおいて、前記櫛形電極は、銅(Cu)を主成分とし、前記第1の誘電体膜及び前記第2の誘電体膜は、酸化シリコン(SiO2)を主成分とする構成とすることができる。櫛形電極を、Cuを主成分とした材料で形成することにより、調整膜をエッチング処理する際に不意に除去されてしまうことを軽減することができる。
【0018】
弾性波デバイスにおいて、前記圧電基板は、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)を含む材料で形成されてもよい。これにより、弾性波デバイスを用いてフィルタを製造した際に、フィルタの通過帯域を広く確保することができる。
【0019】
本願の実施形態にかかる弾性波デバイスの製造方法は、圧電基板上に第1の誘電体膜を成膜する工程と、前記第1の誘電体膜上に調整膜を形成する工程と、前記調整膜上にレジストパターンを形成する工程と、前記調整膜及び前記第1の誘電体膜における、前記レジストパターンで覆われていない部分を除去し開口部を形成する工程と、少なくとも前記開口部に電極膜を成膜する工程と、前記レジストパターンを除去する工程と、当該弾性波デバイスの評価を行い、評価結果に基づき前記調整膜を部分的に除去する工程と、前記電極膜及び前記調整膜上に第2の誘電体膜を形成する工程とを含む。
【0020】
弾性波デバイスの製造方法において、前記櫛形電極は、リフトオフ法によって形成される方法とすることができる。
【0021】
弾性波デバイスの製造方法において、弾性波デバイスの評価を行う工程は、当該弾性波デバイスの周波数特性を測定する工程と、前記周波数特性に基づき電気機械結合係数を算出する工程と、前記電気機械結合係数と目標値とを比較する工程と、前記電気機械結合係数と前記目標値との差分に基づき、エッチング条件を設定する工程と、前記エッチング条件に基づき、調整膜をエッチング処理する工程とを含む方法とすることができる。このような方法とすることにより、所望の物性値を有する弾性波デバイスを製造することができる。
【0022】
(実施の形態)
〔1.弾性波デバイスの構成〕
図1は、本発明の実施形態にかかる弾性波デバイスの平面図である。図2は、図1におけるZ−Z部の断面図である。図1に示す弾性波デバイスは、その一例である1ポート共振器である。また、図1において、櫛形電極の構造を明確に図示するために、櫛形電極の上部に成膜される誘電体膜などの図示は省略した。
【0023】
図1及び図2に示す弾性波デバイスは、弾性表面波の一種であるラブ波を利用するデバイスである。弾性波デバイスは、圧電基板1、櫛形電極2、反射器3、第1の誘電体膜4、第2の誘電体膜5、調整膜6を備えている。圧電基板1は、本実施の形態ではニオブ酸リチウム(LiNbO3)を含む材料で形成されるが、この材料に限らない。櫛形電極2及び反射器3は、圧電基板1上に形成され、銅(Cu)を主な材料としている。櫛形電極2は、第1の櫛形電極2a及び第2の櫛形電極2bからなる。第1の櫛形電極2aと第2の櫛形電極2bは、それぞれの電極指が交互に配置されるように、圧電基板1上に形成されている。反射器3は、第1の反射器3a及び第2の反射器3bからなる。第1の反射器3aは、櫛形電極2における波の伝搬方向の一方の端部側に配されている。第2の反射器3bは、櫛形電極2における波の伝搬方向の他方の端部側に配されている。なお、櫛形電極2及び反射器3は、Cuの他、金(Au)、アルミニウム(Al)、タンタル(Ta)、クロム(Cr)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、ルテニウム(Ru)、チタン(Ti)などで形成することができる。
【0024】
第1の誘電体膜4は、櫛形電極2及び反射器3に含まれる電極指間に配され、酸化シリコン(SiO2)を主な材料としている。第2の誘電体膜5は、櫛形電極2及び調整膜6上に配され、SiO2を主な材料としている。
【0025】
調整膜6は、第1の誘電体膜4上に配され、シリコン(Si)で形成されている。調整膜6は、図1における櫛形電極2及び反射器3以外の領域に成膜されている。調整膜6は、本実施の形態では、一例としてSiで形成される。調整膜6、少なくとも第1の誘電体膜4及び第2の誘電体膜5よりも比重が大きい材料で形成することが好ましい。また、調整膜6は、第1の誘電体膜4及び第2の誘電体膜5に対して音速が異なる材料、第1の誘電体膜4に対して所定の質量を与えることができる材料、あるいはドライエッチングを行いやすい材料で形成することが好ましい。調整膜6の材料としては、Siの他、窒化シリコン(SiN)、炭化シリコン(SiC)などのSi化合物や、Tiなどの金属材料で形成することができる。
【0026】
ここで、調整膜6の膜厚D1を変えることによって、弾性波デバイスの電気機械結合係数k2や周波数特性などの物性値を調整することができる。以下、調整膜6の膜厚と弾性波デバイスの物性値との関係について説明する。
【0027】
図3Aは、弾性波デバイスの計算モデルを示し、図1及び図2に示す弾性波デバイスの構造と同様である。図3Bは、Siで形成された調整膜6の膜厚D1を0〜0.04(μm)まで変化させた場合の電気機械結合係数k2の値をFEM(有限要素法)で計算した結果を示す。図3Aに示す計算モデルは、櫛形電極2の電極周期λを2(μm)、櫛形電極2および第1の誘電体膜4の膜厚D2を130(nm)、圧電基板1上に配された櫛形電極2や第2の誘電体膜5などの総膜厚D3を0.7(mm)としている。
【0028】
図3Aに示す計算モデルにおいて、調整膜6の厚さD1を0(μm),0.01(μm),0.02(μm),0.03(μm),0.04(μm)にそれぞれ調整してFEMシミュレーションを行い、図3Bに示すように電気機械結合係数k2を算出した。図3Bに示すように、調整膜6の膜厚D1を厚くすると電気機械結合係数k2を低減できることが分かる。したがって、調整膜6の膜厚D1を変えることによって、弾性波デバイスの電気機械結合係数k2を所望の値に調整することができる。また、電気機械結合係数k2と、弾性波デバイスの共振周波数をfr、反共振周波数をfarとの関係は、例えば、下記(式1)で表すことができる。
【0029】
2=(π2/4)×(fr/far)×((far−fr)/far) ・・・(式1)
そのため、上記のように調整膜6の厚さD1を調整して電気機械結合係数k2を変化させることによって。弾性波デバイスの周波数特性を調整することができる。なお、上記式は一例である。
【0030】
なお、図3Aに示す計算モデルは、調整膜6をSiで形成した弾性波デバイスとしたが、調整膜6を金属で形成しても同様の効果を得ることができる。図4Aは、Tiで形成された調整膜16を備えた弾性波デバイス(計算モデル)の断面図を示す。図4Bは、図4Aに示す弾性波デバイスの計算モデルにおいて、調整膜16の膜厚D11を0〜0.04(μm)まで変化させた場合の電気機械結合係数k2の値をFEMで計算した結果を示す。図4Aに示す計算モデルは、櫛形電極2の電極周期λを2(μm)、櫛形電極2および第1の誘電体膜4の膜厚D12を130(nm)、圧電基板1上に形成された櫛形電極2や第2の誘電体膜5などの総膜厚D13を0.7(mm)、調整膜16の幅寸法D14を375(nm)としている。
【0031】
図4Aに示す計算モデルにおいて、調整膜16の厚さD11を0(μm),0.01(μm),0.02(μm),0.03(μm),0.04(μm)にそれぞれ調整してFEMシミュレーションを行い、図4Bに示すように電気機械結合係数k2を算出した。図4Bに示す計算結果から、調整膜16の膜厚D11を厚くすると電気機械結合係数k2を低減できることが分かる。したがって、調整膜16の膜厚D11を変えることによって、弾性波デバイスの電気機械結合係数k2を所望の値に調整することができる。また、電気機械結合係数k2と、弾性波デバイスの共振周波数をfr、反共振周波数をfarとは、上記式1に示す関係があるため、上記のように調整膜16の厚さD11を調整して電気機械結合係数k2を変化させることによって。弾性波デバイスの周波数特性を調整することができる。
【0032】
弾性波デバイスの電気機械結合係数k2や周波数特性などの物性値を所望の値にするには、弾性波デバイスの製造プロセスにおいて、調整膜6の厚さを調整する工程を追加すればよい。以下、本実施の形態にかかる弾性波デバイスの一例であるラブ波デバイスの製造方法を説明する。
【0033】
図5A〜図5Iは、本実施の形態にかかる弾性波デバイスの一例であるラブ波デバイスの製造プロセスを示す断面図である。まず、図5Aに示すように、LiNbO3を含む材料で形成された圧電基板1上に、SiO2を含む第1の誘電体膜4を成膜する。次に、図5Bに示すように、第1の誘電体膜4上に、Siを含む調整膜6を成膜する。本製造プロセスでは、調整膜6の膜厚は0.04(μm)としている。次に、図5Cに示すように、調整膜6上にレジストパターン11を形成する。レジストパターン11は、最終的に残留させたい調整膜6に対応する位置に形成する。次に、図5Dに示すように、調整膜6をエッチング処理する。次に、図5Eに示すように、第1の誘電体膜4をエッチング処理する。第1の誘電体膜4をエッチング処理することにより、第1の誘電体膜4に開口部4aが形成される。次に、図5Fに示すように、Cuを含む電極膜2cを、スパッタリング法あるいは蒸着法を用いて成膜する。電極膜2cは、レジストパターン11上とともに開口部4a(図5E参照)内にも成膜される。次に、図5Gに示すように、レジストパターン11を除去する。これにより、調整膜6が露出する。次に、図5Gに示す弾性波デバイスに対してプローブなどを用いて特性を計測し、計測結果と目標特性との差に基づいて調整膜6のエッチング量を決定する。なお、弾性波デバイスの特性評価などの方法については後述する。次に、決定したエッチング量に基づき調整膜6をエッチング処理し、調整膜6の膜厚を調整する。最後に、図5Hに示すように、電極膜2c及び調整膜6上に、SiO2を含む第2の誘電体膜5を成膜する。以上により、弾性波デバイスの一例であるラブ波デバイスが完成する。
【0034】
ここで、調整膜6の評価及びエッチング処理工程について説明する。
【0035】
図6は、調整膜6の評価及びエッチング処理工程の流れを示すフローチャートである。本実施の形態にかかる弾性波デバイスは、例えば、リフトオフ法に、調整膜6の成膜及びエッチング工程を加えることで製造可能である。これにより、任意の膜厚の調整膜6を有する弾性波デバイスが製造可能となる。なお、リフトオフ法は、主に、Cuなどドライエッチングするのが困難な材料で櫛形電極2が形成されている場合に用いられる。
【0036】
本実施の形態の製造プロセスでは、レジストパターンの除去後(S1)に、まずプローブなどを用いて弾性波デバイスの周波数特性を測定する(S2)。例えば、周波数特性として共振周波数、反共振周波数が測定される。次に、測定した周波数特性に基づき電気機械結合係数k2を算出する(S3)。電気機械結合係数k2は、例えば、上記式1に基づいて算出することができる。
【0037】
次に、算出した電気機械結合係数k2と、予め設定されている目標とする電気機械結合係数k2とを比較し、算出した電気機械結合係数k2と目標とする電気機械結合係数k2とが一致していれば、評価を終了し、第2の誘電体膜5の成膜処理に移行する。
【0038】
一方、算出した電気機械結合係数k2と目標とする電気機械結合係数k2とが不一致であれば、調整膜6をエッチングするための条件を設定する(S5)。エッチング条件は、算出した電気機械結合係数k2と目標とする電気機械結合係数k2との差分に基づき設定する。エッチング条件は、エッチング処理の対象となる材料に応じた、エッチングガスの種類やガス流量などの値である。本実施の形態では一例として、エッチングガスとしてSF6を用い、ガス流量=100(sccm)、圧力=5(Pa)、パワー=20(W)、エッチングレート=0.8(nm/sec)に設定し、エッチング時間を目標とする電気機械結合係数k2に応じて設定する。エッチング時間の設定方法は後述する。
【0039】
次に、設定したエッチング条件に基づき、調整膜6をドライエッチング処理する(S6)。
【0040】
次に、再度、弾性波デバイスの周波数特性を測定し(S2)、電気機械結合係数k2を算出する(S3)。以降、算出した電気機械結合係数k2と目標とする電気機械結合係数k2とが一致するまで(S4でYesとなるまで)、上記フローを繰り返す。
【0041】
なお、処理S5における「一致」の判断は、算出した電気機械結合係数k2と目標とする電気機械結合係数k2とが完全に一致した場合に限らず、弾性波デバイスにおける動作上の問題が生じない程度の近似値を含むものとする。
【0042】
また、処理S6における調整膜6のエッチング処理のエッチング条件は、上記に限らず、(表1)に示すエッチング条件B,Cを適用することができる。なお、(表1)における条件Aは、本実施の形態において採用したエッチング条件である。条件B及びCは、Tiを含む調整膜をエッチングする際のエッチング条件である。
【0043】
【表1】

【0044】
また、処理S6におけるエッチング時間は、目標とする電気機械結合係数k2に応じて決定することができる。(表2)は、弾性波デバイスの電気機械結合係数k2とエッチング時間との対応を示す表である。(表2)は、Siを含む調整膜6をエッチング対象とし、エッチング条件は(表1)に示す条件とし、エッチング時間を1(sec),10(sec),25(sec),38(sec)に設定してエッチング処理を行った時の、弾性波デバイスの電気機械結合係数k2を示す。
【0045】
【表2】

【0046】
(表2)に示す例では、例えば、目標とする電気機械結合係数k2が0.169の場合は、エッチング時間を1(sec)に設定して調整膜6のエッチングを行うことで、所望の電気機械結合係数k2を有する弾性波デバイスを製造することができる。
【0047】
また、本実施の形態では、櫛形電極2がCuを含む材料で形成され、調整膜6がSiを含む材料で形成されているが、櫛形電極2の材料と調整膜6の材料はこれに限られない。櫛形電極2の材料と調整膜6の材料との組み合わせは、例えば(表3)に示す組み合わせとすることができる。(表3)は、櫛形電極2の材料と調整膜6の材料との組み合わせに適したエッチングガス種も示している。
【0048】
【表3】

【0049】
また、通常、ラブ波デバイスなどの製造は、例えばφ100(mm)のウェハを用いて行われる。調整膜6のエッチング処理は、ウェハ全体に対して実施してもよいし、ウェハ上に形成された一部の弾性波デバイスに対して実施してもよいし、ウェハ上に形成された個々の弾性波デバイスごとに実施してもよい。
【0050】
また、調整膜6をエッチングする際に、横方向(圧電基板1における櫛形電極2が形成された面の方向)にもエッチングされる場合がある、例えばSiを含む調整膜6をエッチングする場合に、SF6ガスを用いて10(Pa)程度の高い圧力でエッチングすると、横方向にもエッチングが進む。調整膜6は、横方向にエッチングが進むと、図7に示すように第1の誘電体膜4上の一部を覆う状態になる。図7に示す調整膜6では、電気機械結合係数k2の値は(表2)に示す値から変動するが、エッチング条件やエッチング時間を調整して膜厚を調整することによって、所望の電気機械結合係数k2を得ることができる。
【0051】
また、本実施の形態では、弾性波デバイスの一例としてラブ波デバイスを挙げたが、境界波デバイスにも適用することが可能である。図8は、境界波デバイスの断面図である。図8に示すように、境界波デバイスは、図7等に示すラブ波デバイスにおける第2の誘電体膜5の上部にカバー膜7が形成されている。このような境界波デバイスにおいても、本実施の形態に示すような調整膜6を形成することで、本実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0052】
また、図5A〜図5Hに示す製造工程に基づき弾性波デバイスを製造した場合、図5Gに示すように電極膜2cの表面と調整膜6の表面とが同一高さにならない場合がある。このような電極膜2c及び調整膜6上に第2の誘電体膜5を成膜した場合、図9に示すように第2の誘電体膜5の上面に凸部5aが形成されることになる。図5A〜図5Hに示す製造工程では、第2の誘電体膜6を成膜した後に、第2の誘電体膜6の上面に形成される凸部を除去しているが、図9に示すように凸部5aを除去せずに残した状態であっても、最終的に完成した弾性波デバイスの電気機械結合係数k2や周波数特性に大きな影響を与えず、本実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0053】
〔2.デュープレクサの構成〕
携帯電話端末、PHS(Personal Handy-phone System)端末、無線LANシステムなどの移動体通信(高周波無線通信)には、デュープレクサが搭載されている。デュープレクサは、通信電波などの送信機能及び受信機能を持ち、送信信号と受信信号の周波数が異なる無線装置において用いられる。
【0054】
図10は、本実施の形態の弾性波デバイスを備えたデュープレクサの構成を示す。デュープレクサ52は、位相整合回路53、受信フィルタ54、および送信フィルタ55を備えている。位相整合回路53は、送信フィルタ55から出力される送信信号が受信フィルタ54側に流れ込むのを防ぐために、受信フィルタ54のインピーダンスの位相を調整するための素子である。また、位相整合回路53には、アンテナ51が接続されている。受信フィルタ54は、アンテナ51を介して入力される受信信号のうち、所定の周波数帯域のみを通過させる帯域通過フィルタで構成されている。また、受信フィルタ54には、出力端子56が接続されている。送信フィルタ55は、入力端子57を介して入力される送信信号のうち、所定の周波数帯域のみを通過させる帯域通過フィルタで構成されている。また、送信フィルタ55には、入力端子57が接続されている。ここで、受信フィルタ54及び送信フィルタ55には、本実施の形態における弾性波デバイスが含まれている。
【0055】
以上のように、本実施の形態の弾性波デバイスを受信フィルタ54及び送信フィルタ55に備えることで、製造歩留まりを向上させることができ、より低コストのデュープレクサを実現することができる。
【0056】
〔3.通信モジュールの構成〕
図11は、本実施の形態にかかる弾性波デバイスを備えた通信モジュールの一例を示す。図11に示すように、デュープレクサ62は、受信フィルタ62aと送信フィルタ62bとを備えている。また、受信フィルタ62aには、例えばバランス出力に対応した受信端子63a及び63bが接続されている。また、送信フィルタ62bは、パワーアンプ64を介して送信端子65に接続している。ここで、デュープレクサ62には、本実施の形態にかかる弾性波デバイスを備えたデュープレクサで実現することができる。
【0057】
受信動作を行う際、受信フィルタ62aは、アンテナ端子61を介して入力される受信信号のうち、所定の周波数帯域の信号のみを通過させ、受信端子63a及び63bから外部へ出力する。また、送信動作を行う際、送信フィルタ62bは、送信端子65から入力されてパワーアンプ64で増幅された送信信号のうち、所定の周波数帯域の信号のみを通過させ、アンテナ端子61から外部へ出力する。
【0058】
以上のように本実施の形態にかかる弾性波デバイスまたはそれを備えたデュープレクサを通信モジュールに備えることで、製造歩留まりを向上させることができ、より低コストの通信モジュールを実現することができる。
【0059】
なお、図11に示す通信モジュールの構成は一例であり、他の形態の通信モジュールに本発明の弾性波デバイスを搭載しても、同様の効果が得られる。
【0060】
〔4.通信装置の構成〕
図12は、本実施の形態にかかる弾性波デバイス、デュープレクサ、または前述の通信モジュールを備えた通信装置の一例として、携帯電話端末のRFブロックを示す。また、図12に示す構成は、GSM(Global System for Mobile Communications)通信方式及びW−CDMA(Wideband Code Division Multiple Access)通信方式に対応した携帯電話端末の構成を示す。また、本実施の形態におけるGSM通信方式は、850MHz帯、950MHz帯、1.8GHz帯、1.9GHz帯に対応している。また、携帯電話端末は、図12に示す構成以外にマイクロホン、スピーカー、液晶ディスプレイなどを備えているが、本実施の形態における説明では不要であるため図示を省略した。ここで、デュープレクサ73は、本実施の形態にかかる高周波デバイスを備えたデュープレクサで実現することができる。
【0061】
まず、アンテナ71を介して入力される受信信号は、その通信方式がW−CDMAかGSMかによってアンテナスイッチ回路72で、動作の対象とするLSIを選択する。入力される受信信号がW−CDMA通信方式に対応している場合は、受信信号をデュープレクサ73に出力するように切り換える。デュープレクサ73に入力される受信信号は、受信フィルタ73aで所定の周波数帯域に制限されて、バランス型の受信信号がLNA74に出力される。LNA74は、入力される受信信号を増幅し、LSI76に出力する。LSI76では、入力される受信信号に基づいて音声信号への復調処理を行ったり、携帯電話端末内の各部を動作制御したりする。
【0062】
一方、信号を送信する場合は、LSI76は送信信号を生成する。生成された送信信号は、パワーアンプ75で増幅されて送信フィルタ73bに入力される。送信フィルタ73bは、入力される送信信号のうち所定の周波数帯域の信号のみを通過させる。送信フィルタ73bから出力される送信信号は、アンテナスイッチ回路72を介してアンテナ71から外部に出力される。
【0063】
また、入力される受信信号がGSM通信方式に対応した信号である場合は、アンテナスイッチ回路72は、周波数帯域に応じて受信フィルタ77〜80のうちいずれか一つを選択し、受信信号を出力する。受信フィルタ77〜80のうちいずれか一つで帯域制限された受信信号は、LSI83に入力される。LSI83は、入力される受信信号に基づいて音声信号への復調処理を行ったり、携帯電話端末内の各部を動作制御したりする。一方、信号を送信する場合は、LSI83は送信信号を生成する。生成された送信信号は、パワーアンプ81または82で増幅されて、アンテナスイッチ回路72を介してアンテナ71から外部に出力される。
【0064】
本実施の形態にかかる弾性波デバイス、デュープレクサ、または通信モジュールを通信装置に備えることで、製造歩留まりを向上させることができ、より低コストの通信装置を実現することができる。
【0065】
〔5.実施の形態の効果、他〕
本実施の形態によれば、第1の誘電体膜4上に調整膜6を備え、さらに調整膜6を少なくとも第1の誘電体膜4及び第2の誘電体膜5の比重よりも大きい比重を有する材料で形成したことにより、容易に電気機械結合係数k2や周波数特性などを調整することができる。例えば、デバイスが完成品に近い状態で電気機械結合係数k2や周波数特性などを調整可能となる。その結果、デバイスの製造歩留まりを向上させることができ、より低コストの弾性波デバイスを実現することができる。
【0066】
また、調整膜6は、第1の誘電体膜4及び第2の誘電体膜5に対して音速が異なる材料で形成することが好ましい。このような構成とすることにより、完成品に近い状態で電気機械結合係数k2や周波数特性などを調整可能とし、デバイスの製造歩留まりを向上させることができる。そのため、より低コストの弾性波デバイスを実現することができる。
【0067】
また、調整膜6は、櫛形電極2の材料よりエッチング速度が速い材料で形成されていることが好ましい。このような構成とすることにより、完成品に近い状態で電気機械結合係数k2や周波数特性などを調整可能とし、デバイスの製造歩留まりを向上させることができる。そのため、より低コストの弾性波デバイスを実現することができる。
【0068】
また、調整膜6は、シリコン(Si)あるいはシリコン化合物を含む材料で形成されていることが好ましい。このような構成とすることにより、製造プロセスにおいてエッチングしやすいというメリットがある。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、弾性波デバイス、デュープレクサ、通信モジュール、通信装置に有用である。また、弾性波デバイスの製造方法に有用である。
【符号の説明】
【0070】
1 圧電基板
2 櫛形電極
4 第1の誘電体膜
5 第2の誘電体膜
6 調整膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板と、
前記圧電基板上に配された櫛形電極と、
前記櫛形電極間に配された第1の誘電体膜と、
前記櫛形電極と前記第1の誘電体膜を覆う第2の誘電体膜とを備える弾性波デバイスであって、
前記第1の誘電体膜上に調整膜を備え、
前記調整膜は、前記第1の誘電体膜及び前記第2の誘電体膜に対して比重が大きい材料で形成されている、弾性波デバイス。
【請求項2】
前記調整膜は、前記第1の誘電体膜及び前記第2の誘電体膜に対して音速が異なる材料で形成されている、請求項1記載の弾性波デバイス。
【請求項3】
前記調整膜は、前記櫛形電極の材料よりエッチング速度が速い材料で形成されている、請求項1記載の弾性波デバイス。
【請求項4】
圧電基板上に第1の誘電体膜を成膜する工程と、
前記第1の誘電体膜上に調整膜を形成する工程と、
前記調整膜上にレジストパターンを形成する工程と、
前記調整膜及び前記第1の誘電体膜における、前記レジストパターンで覆われていない部分を除去し開口部を形成する工程と、
前記開口部に電極膜を成膜する工程と、
前記レジストパターンを除去する工程と、
当該弾性波デバイスの評価を行い、評価結果に基づき前記調整膜を部分的に除去する工程と、
前記電極膜及び前記調整膜上に第2の誘電体膜を形成する工程とを含む、弾性波デバイスの製造方法。
【請求項5】
弾性波デバイスの評価を行う工程は、
当該弾性波デバイスの周波数特性を測定する工程と、
前記周波数特性に基づき電気機械結合係数を算出する工程と、
前記電気機械結合係数と目標値とを比較する工程と、
前記電気機械結合係数と前記目標値との差分に基づき、エッチング条件を設定する工程と、
前記エッチング条件に基づき、調整膜をエッチング処理する工程とを含む、請求項7記載の弾性波デバイスの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜3のうちいずれか一項に記載の弾性波デバイスを備えた、デュープレクサ。
【請求項7】
請求項1〜3のうちいずれか一項に記載の弾性波デバイス、または請求項6に記載のデュープレクサを備えた、通信モジュール。
【請求項8】
請求項1〜3のうちいずれか一項に記載の弾性波デバイス、請求項6に記載のデュープレクサ、または請求項7に記載の通信モジュールを備えた、通信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【図5E】
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【図5F】
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【図5G】
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【図5H】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−206246(P2010−206246A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−46294(P2009−46294)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.GSM
【出願人】(000204284)太陽誘電株式会社 (964)
【Fターム(参考)】