弾性波デバイスおよびフィルタ
【課題】共振特性の劣化を抑制すること。
【解決手段】本発明は、基板10と、前記基板10上に設けられた圧電膜14と、前記圧電膜14の少なくとも一部を挟んで設けられた下部電極12および上部電極16と、前記圧電膜14を挟み前記下部電極12および上部電極16が対向する共振領域50内に、複数の第1パターンと前記複数の第1パターンを連結する第2パターンとから構成された質量負荷膜28と、を具備する弾性波デバイスである。
【解決手段】本発明は、基板10と、前記基板10上に設けられた圧電膜14と、前記圧電膜14の少なくとも一部を挟んで設けられた下部電極12および上部電極16と、前記圧電膜14を挟み前記下部電極12および上部電極16が対向する共振領域50内に、複数の第1パターンと前記複数の第1パターンを連結する第2パターンとから構成された質量負荷膜28と、を具備する弾性波デバイスである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性波デバイスおよびフィルタに関し、例えば圧電薄膜共振器を含む弾性波デバイスおよびフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
圧電薄膜共振器を用いた弾性波デバイスは、例えば無線機器等のフィルタとして用いられている。圧電薄膜共振器は、圧電薄膜を挟み下部電極と上部電極が対向する構造を有している。圧電薄膜共振器の共振周波数は、圧電薄膜を挟み下部電極と上部電極が対向する領域(以下、共振領域)の膜厚(例えば構成材料が異なる場合には、構成材料および膜厚)によって定められる。
【0003】
圧電薄膜共振器の共振周波数を異ならせるため、共振領域内に質量負荷膜を形成する技術が知られている(例えば、特許文献1)。また、共振領域内に開口を有する質量負荷膜を形成する技術が知られている(例えば、特許文献2〜5)共振領域内にストライプ状の質量負荷膜を形成する技術が知られている(例えば、特許文献6)。特許文献1〜6によれば、共振器毎に共振周波数の調整を行なうことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−335141号公報
【特許文献2】特表2002−515667号公報
【特許文献3】米国特許6657363号明細書
【特許文献4】特開2008−172494号公報
【特許文献5】国際公開2010/061479号パンフレット
【特許文献6】特表2007−535279号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の方法では、共振周波数が異なる共振器を形成するために異なる膜厚の質量負荷膜を形成することになる。よって、複数回の成膜工程、フォトリソグラフィ工程およびエッチング工程を行なうことになる。このため、製造工程が複雑化し、製造コストが上昇してしまう。また、特許文献2〜6の方法では、共振領域内にパターニングされた質量負荷膜によるスプリアスの強度が増加し共振特性が劣化するという課題、その結果、周波数を調整できる範囲が狭くなるという課題が発生する。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、共振特性の劣化を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、基板と、前記基板上に設けられた圧電膜と、前記圧電膜の少なくとも一部を挟んで設けられた下部電極および上部電極と、前記圧電膜を挟み前記下部電極および上部電極が対向する共振領域内に、複数の第1パターンと前記複数の第1パターンを連結する第2パターンとから構成された質量負荷膜と、を具備することを特徴とする弾性波デバイスである。本発明によれば、共振特性の劣化を抑制することができる。
【0008】
上記構成において、前記第2パターンの幅は、前記複数の第1パターンの幅より小さい構成とすることができる。
【0009】
上記構成において、前記複数の第1パターンは周期的に配置されている構成とすることができる。
【0010】
上記構成において、前記複数の第1パターンは同一形状である構成とすることができる。
【0011】
上記構成において、前記第2パターンの幅は同じである構成とすることができる。
【0012】
上記構成において、前記複数の第1パターンおよび第2パターンは、前記質量負荷膜が形成されたパターンである構成とすることができる。
【0013】
上記構成において、前記第1パターンおよび前記第2パターンは、前記質量負荷膜に形成された開口から形成されたパターンである構成とすることができる。
【0014】
上記構成において、前記質量負荷膜は、前記下部電極または前記上部電極を構成する材料とは異なる材料により構成される構成とすることができる。
【0015】
上記構成において、前記質量負荷膜は、複数の層に形成されている構成とすることができる。
【0016】
上記構成において、前記下部電極は、前記基板の平坦主面との間にドーム状の空隙を有するように形成されている構成とするとことができる。
【0017】
本発明は、上記弾性波デバイスを備えるフィルタである。
【0018】
上記構成において、前記弾性波デバイスは複数設けられ、前記複数の弾性波デバイスのうち少なくとも2つの弾性波デバイスにおいて、前記第1パターンおよび前記第2パターンが前記共振領域を占める割合が異なる構成とすることができる。
【0019】
上記構成において、前記少なくとも2つの弾性波デバイスにおいて、前記質量負荷膜の膜厚が同じである構成とすることができる。
【発明の効果】
【0020】
本弾性波デバイスによれば、共振特性の劣化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、ラダー型フィルタを示す図である。
【図2】図2(a)は、実施例1の圧電薄膜共振器の上面図、図2(b)および図2(c)は、それぞれ直列共振器および並列共振器の断面図である。
【図3】図3(a)は質量負荷膜の一例を示す上面図、図3(b)は図3(a)のA−A断面図である。
【図4】図4(a)は質量負荷膜の別の一例を示す上面図、図4(b)は図4(a)のA−A断面図である。
【図5】図5(a)から図5(d)は、第1パターンと第2パターンの例を示す平面図(その1)である。
【図6】図6(a)から図6(d)は、第1パターンと第2パターンの例を示す平面図(その2)である。
【図7】図7は、被覆率に対するパターンサイズLl/パターン周期Lpを示す図である。
【図8】図8(a)は、実施例1に係る共振領域の平面図、図8(b)は比較例1に係る共振領域の平面図である。
【図9】図9(a)および図9(b)は、それぞれ実施例1および比較例1の共振器の反射特性のスミスチャートである。
【図10】図10(a)および図10(b)は、それぞれ実施例1および比較例1の共振器の通過特性を示す図である。
【図11】図11(a)から図11(c)は、それぞれ変形例1、比較例2および比較例3の共振器の反射特性のスミスチャートである。
【図12】図12(a)から図12(c)は、それぞれ変形例1、比較例2および比較例3の共振器の通過特性を示す図である。
【図13】図13は、実施例1の変形例1および比較例2における被覆率とパターン間隔Lsとの関係を示す図である。
【図14】図14(a)および図14(b)は、実施例2の質量負荷膜の断面図である。
【図15】図15(a)は、実施例3の直列共振器の断面図、図15(b)は、実施例3の並列共振器の断面図である。
【図16】図16は、実施例4のラティス型フィルタを示す図である。
【図17】図17は、実施例5のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照に本発明に係る実施例について説明する。
【実施例1】
【0023】
まず、実施例1に係る弾性波デバイスが用いられる例としてラダー型フィルタについて説明する。図1は、ラダー型フィルタを示す図である。図1のように、ラダー型フィルタ100は、直列共振器S1〜S4および並列共振器P1〜P3を備えている。直列共振器S1〜S4は、入出力端子T1とT2との間に直列に接続されている。並列共振器P1〜P3は、入出力端子T1とT2との間に並列に接続されている。
【0024】
図2(a)は、実施例1の圧電薄膜共振器の上面図、図2(b)および図2(c)は、それぞれ直列共振器および並列共振器の断面図である。図2(a)および図2(b)を参照し、直列共振器Sの構造について説明する。Si基板である基板10上に、基板10の平坦主面との間に下部電極12側にドーム状の膨らみを有する空隙30が形成されるように下部電極12が設けられている。ドーム状の膨らみとは、例えば空隙30の周辺では空隙30の高さが小さく、空隙30の内部ほど空隙30の高さが高くなるような形状の膨らみである。下部電極12はCr(クロム)層とCr層上のRu(ルテニウム)層とを含んでいる。
【0025】
下部電極12上に、(002)方向を主軸とするAlN(窒化アルミニウム)からなる圧電膜14が設けられている。圧電膜14を挟み下部電極12と対向する領域(共振領域50)を有するように圧電膜14上に上部電極16が設けられている。上部電極16はRu層16aとRu層16a上のCr層16bとを含んでいる。このように、圧電膜14は、基板10上に設けられ、圧電膜14の少なくとも一部を挟んで下部電極12および上部電極16が設けられている。
【0026】
共振領域50内の上部電極16上にTi層からなる質量負荷膜28が設けられている。上部電極16および質量負荷膜28上には周波数調整膜24として酸化シリコン膜が形成されている。積層膜18は、下部電極12、圧電膜14、上部電極16、質量負荷膜28および周波数調整膜24を含む。
【0027】
図2(a)より下部電極12には犠牲層をエッチングするための導入路33が形成されている。犠牲層は空隙30を形成するための層である。導入路33の先端付近は圧電膜14で覆われておらず、下部電極12は導入路33の先端に孔部35を有する。図2(a)および図2(b)のように、圧電膜14には下部電極12と電気的に接続するための開口部36が設けられている。
【0028】
図2(a)および図2(c)を参照し、並列共振器Pの構造について説明する。並列共振器Pは直列共振器Sと比較し、Ru層16aとCr層16bとの間に、Ti(チタン)層からなる質量負荷膜20が設けられている。よって、積層膜18は直列共振器Sの積層膜に加え、共振領域50内の全面に形成された質量負荷膜20を含む。その他の構成は直列共振器Sの図2(b)と同じであり説明を省略する。
【0029】
図2(b)および図2(c)において、質量負荷膜28は、上部電極16と周波数調整膜24との間に形成されているが、質量負荷膜28は共振領域50内の積層膜18内に形成されていればよい。例えば、質量負荷膜28は、周波数調整膜24の上に形成されていてもよい。また、例えば、上部電極16が複数の層により形成され、質量負荷膜28は上部電極16の複数の層間に形成されていてもよい。さらに、例えば、質量負荷膜28は、圧電膜14と上部電極16との間に形成されていてもよい。さらに、例えば、質量負荷膜28は、下部電極12と圧電膜14との間に形成されていてもよい。さらに、下部電極12が複数の層により形成され、質量負荷膜28は下部電極12の複数の層間に形成されていてもよい。さらに、例えば、質量負荷膜28は下部電極12の下に形成されていてもよい。
【0030】
2GHzの共振周波数を有する圧電薄膜共振器の場合、下部電極12のCr層の膜厚は100nm、Ru層の膜厚は200nm、AlN層からなる圧電膜14の膜厚は1250nmである。Ru層16aの膜厚は250nm、Cr層16bの膜厚は20nm、Ti層からなる質量負荷膜28の膜厚は25nmである。Ti層からなる質量負荷膜20の膜厚は125nmである。各層の膜厚は、所望の共振周波数を得るため適宜設定することができる。
【0031】
下部電極12および上部電極16としては、CrおよびRu以外にもAl(アルミニウム)、Cu(銅)、Mo(モリブデン)、W(タングステン)、Ta(タンタル)、Pt(白金)、Rh(ロジウム)もしくはIr(イリジウム)等の金属膜またはこれらの複合膜を用いることができる。質量負荷膜20および28ついては、Ti以外にも、Ru、Cr、Al、Cu、Mo、W、Ta、Pt、RhもしくはIr等の金属膜またはこれらの複合膜を用いることができる。また、例えば窒化シリコンまたは酸化シリコン等の窒化金属または酸化金属からなる絶縁膜を用いることもできる。質量負荷膜20および28を、下部電極12の層間、上部電極16の層間、下部電極12と圧電膜14との間および圧電膜14と上部電極16との間に形成する場合、低抵抗化のため金属膜を用いることが好ましい。
【0032】
基板10としては、Si基板以外に、石英基板、ガラス基板、セラミック基板またはGaAs基板等を用いることができる。圧電膜14はAlN以外にも、ZnO(酸化亜鉛)、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)、PbTiO3(チタン酸鉛)等を用いることができる。
【0033】
下部電極12、圧電膜14、上部電極16、質量負荷膜20および28は、スパッタリング法およびエッチング法により成膜される。その後、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用い、所望の形状に加工される。これらの加工は、蒸着法およびリフトオフ法を用いることもできる。また、積層膜18の圧縮応力とすることにより、空隙30をドーム状とすることができる。
【0034】
図3(a)は質量負荷膜28の一例を示す上面図、図3(b)は図3(a)のA−A断面図である。図3(a)および図3(b)のように、共振領域50内に複数の第1パターン32と第2パターン34を備える質量負荷膜28が設けられている。共振領域50は楕円状である。第1パターン32は、周期的に設けられたドット状のパターンである。第2パターン34は、第1パターン32を連結するパターンである。第1パターン32は、例えば円状であり、第2パターン34は棒状である。第2パターン34は、第1パターン32をジグザグに連結している。図3(a)および図3(b)の第1パターン32および第2パターン34は、質量負荷膜28から形成されている。第1パターン32のサイズをサイズLl、第1パターン32の間隔を間隔Ls、第1パターン32の周期を周期Lp、および第2パターン34の幅を幅Wとする。第1パターン32のサイズは第2パターン34の幅Wより大きい。共振領域50の面積に占める質量負荷膜28の面積の割合を被覆率とする。
【0035】
図4(a)は質量負荷膜の別の一例を示す上面図、図4(b)は図4(a)のA−A断面図である。図4(a)および図4(b)のように、共振領域50内に第1パターン32と第2パターン34が形成されている。第1パターン32は、周期的に設けられたドット状のパターンである。第2パターン34は、第1パターン32を連結するパターンである。第2パターン34は、第1パターン32をジグザグに連結している。図4(a)および図4(b)の第1パターン32および第2パターン34は、質量負荷膜28に形成された開口から形成されたパターンである。すなわち、図4(a)および図4(b)の第1パターン32および第2パターン34は、図3(a)および図3(b)とは相補的なパターンである。第1パターン32のサイズをサイズLl、第1パターン32の間隔を間隔Ls、第1パターン32の周期を周期Lp、および第2パターン34の幅を幅Wとする。第1パターン32のサイズは第2パターン34の幅Wより大きい。共振領域50の面積に占める質量負荷膜28の面積の割合を被覆率とする。
【0036】
図5(a)から図6(d)は、第1パターンと第2パターンの例を示す平面図である。図5(a)においては、第1パターン32は円状である。第2パターン34は、共振領域50の長軸において第1パターン32を連結している。長軸において連結された第1パターン32からそれぞれ短軸方向に第1パターン32が第2パターン34により連結されている。図5(b)においては、第1パターン32は四角形状である。第2パターン34は、共振領域50の短軸において第1パターン32を連結している。短軸方向に連結された第1パターン32からそれぞれ長軸方向に第1パターン32が第2パターン34により連結されている。図5(c)においては、第1パターン32は六角形状である。第2パターン34は、共振領域50の短軸長軸方向に斜めに第1パターン32を連結している。斜め方向に連結された第1パターン32からそれぞれ短軸および長軸方向に第1パターン32が第2パターン34により連結されている。図5(d)においては、第1パターン32は円状である。第2パターン34は、共振領域50の短軸および長軸において第1パターン32を連結している。短軸方向に連結された第1パターン32からそれぞれ長軸方向に第1パターン32が第2パターン34により連結されている。長軸方向に連結された第1パターン32からそれぞれ短軸方向に第1パターン32が第2パターン34により連結されている。
【0037】
図6(a)においては、第1パターン32は三角形状である。共振領域50の上半分では、第2パターン34は長軸方向に第1パターン32を連結している。共振領域50の下半分では、第2パターン34は短軸方向に第1パターン32を連結している。図6(b)においては、第2パターン34は図5(a)と同じ形状であるが、第1パターン32の位置が長軸方向に交互にずれている。図6(c)においては、第1パターン32は図5(b)と同じ形状であるが、第2パターン34の位置が短軸方向に交互にずれている。図6(d)においては、第2パターン34は図3(a)と同じであるが、第1パターン32が四角形状である。以上のように、第1パターン32の形状は、任意である。第2パターン34は、第1パターン32を連結していればよい。なお、図3(a)から図6(d)においては、第2パターン34が全ての第1パターン32を連結しているが、第2パターン34に連結されない第1パターン32が一部存在してもよい。さらに、第1パターン32が周期的に設けられている例を示しているが、第1パターン32は、非周期的またはランダムに設けられていてもよい。さらに、第1パターン32の形状および大きさが同じ例を示しているが、形状および大きさは異なっていてもよい。さらに、第2パターンの幅Wは同じ例を示しているが、異なっていてもよい。
【0038】
図5(a)から図6(d)は、第1パターン32および第2パターン34が質量負荷膜28で形成されている例であるが、図4(a)のように、第1パターン32および第2パターン34は質量負荷膜28に形成された開口パターンでもよい。
【0039】
図3(a)のように、第1パターン32を質量負荷膜28を用い形成する場合と、図4(a)のように、第1パターン32を質量負荷膜28の開口パターンで形成する場合と、の取り扱いについて説明する。図7は、被覆率に対するパターンサイズLl/パターン周期Lpを示す図である。パターンは第1パターン32であり、第2パターン34は形成されていない。第1パターン32は正方形とした。この場合、パターン周期Lpを一定とし、パターンサイズLlの大きさを変化させ、被覆率に対するLl/Lpを計算した。実線は、パターンを質量負荷膜28で形成した例である。破線は、50%以上の被覆率において、パターンを質量負荷膜28の開口で形成した例である。図7の実線のように、被覆率を大きくしようとすると、Ll/Lpも大きくなる。パターンサイズLlが大きくなると、パターン間隔Lsが小さくなる。このため、第1パターン32の形成が難しくなる。そこで、例えば、被覆率50%以上においては、破線のようにパターンを質量負荷膜28の開口で形成する。これにより、被覆率が大きい場合も質量負荷膜28のパターンの形成が容易となる。
【0040】
実施例1に係る共振器を作製した。図8(a)は、実施例1に係る共振領域の平面図、図8(b)は比較例1に係る共振領域の平面図である。図8(a)を参照し、実施例1において、共振領域50は、長軸長が247μmおよび短軸長が176μmの楕円形である。第1パターン32および第2パターン34は、質量負荷膜28の開口パターンである。第1パターン32は円状である。パターン周期Lpは7μm、パターンサイズLlは4.6μm、第2パターン34の幅Wは1.5μmである。被覆率は60%である。図8(b)を参照し、比較例1において、共振領域50の大きさは実施例1と同じである。第1パターン32は形成されておらず、第2パターン34が形成されている。第2パターン34の幅Wは2.5μmである。被覆率は実施例1と同じ60%である。
【0041】
図9(a)および図9(b)は、それぞれ実施例1および比較例1の共振器の反射特性のスミスチャートである。図10(a)および図10(b)は、それぞれ実施例1および比較例1の共振器の通過特性を示す図である。図9(a)から図10(b)は、基板内のばらつきをみるため、それぞれ同一基板内の3箇所の測定データを重ね書きしている。図9(a)から図10(b)のように、比較例1および実施例1ともに、1877MHzあたりにスプリアス40が観測される。実施例1は比較例1に比べスプリアス40が小さい。また。実施例1は比較例1に対し、1880MHzから1960MHzあたりの細かいスプリアス42が小さい。このように、実施例1は比較例1に比べスプリアスを抑制することができる。
【0042】
さらに、実施例1の変形例1に係る共振器を作製した。作製した共振器においては第1パターン32および第2パターン34の配置は図5(d)であり、第1パターン32および第2パターン34は、質量負荷膜28の開口パターンで形成している。共振領域50は、長軸長が247μmおよび短軸長が176μmの楕円形である。第1パターン32は円状である。パターン周期Lpは7μm、パターンサイズLlは1.7μm、第2パターン34の幅Wは1.5μmである。被覆率は80%である。比較例2においては、変形例1と同じパターン配置で第2パターン34を形成し第1パターン32を形成していない。第2パターン34の幅Wは1.7μmである。実施例3においては、変形例1と同じパターン配置で第1パターン32を形成し第2パターン34を形成していない。第1パターン32のサイズLlは、2.5μmである。比較例2および比較例3とも共振領域50の大きさは実施例1の変形例1と同じである。変形例1、比較例2、3の被覆率は同じであり、80%である。
【0043】
図11(a)から図11(c)は、それぞれ変形例1、比較例2および比較例3の共振器の反射特性のスミスチャートである。図12(a)から図12(c)は、それぞれ変形例1、比較例2および比較例3の共振器の通過特性を示す図である。図11(a)から図12(c)のように、いずれの共振器においても、1877MHzあたりにスプリアス40が観測される。また、1880MHzから1960MHzあたりの細かいスプリアス42が観測される。しかしながら変形例1のスプリアス40および42は、比較例2および比較例3より小さい。このように、実施例1の変形例1は比較例2および3に比べスプリアスを抑制することができる。
【0044】
発明者の実験によれば、質量負荷膜28のパターンが第1パターン32単独の場合、スプリアス40および42は、第1パターン32のサイズLlが大きくなると大きくなる。また、質量負荷膜28のパターンが第2パターン34単独の場合においても、スプリアス40および42は、第2パターン34の幅Wが大きくなれば大きくなる。実施例1によれば、第1パターン32と第2パターン34とを組み合わせることにより、同じ被覆率であっても第1パターン32のサイズLlおよび第2パターン34の幅Wを小さくすることができる。よって、スプリアス40および42を抑制できる。
【0045】
図13は、実施例1の変形例1および比較例2における被覆率とパターン間隔Lsとの関係を示す図である。変形例1を実線、比較例2を破線で示している。被覆率が50%以下では、パターンを質量負荷膜28で形成し、被覆率が50%以上では、パターンを質量負荷膜に形成された開口で形成している。実施例1の変形例1では、パターンピッチLpは7μm、第2パターン34の幅Wは1.5μmで一定とし、第1パターン32のサイズLlを変化させ被覆率を計算した。比較例2では、パターンピッチは7μmで一定とし、第1パターン32のサイズLlを変化させ被覆率を計算した。
【0046】
図13のように、実施例1の変形例1は比較例2に比べ、同じ被覆率であってもパターン間隔Lsを大きくできる。特に被覆率が20%付近および80%付近では、パターン間隔Lsを大きくできる。質量負荷膜28のパターンは、質量負荷膜28のスパッタリングまたは蒸着、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術により形成する。または、フォトリソグラフィ技術、質量負荷膜28のスパッタリングまたは蒸着、リフトオフ技術により形成する。このため、パターン間隔Lsが小さくなると、製造が難しくなる。特許文献2、3が開示している構成では、質量負荷膜のパターン間隔Lsに関して、共振器の動作に対して設定された弾性波の波長よりも短い間隔が要求されている。具体的には、1GHzの周波数では通例の圧電薄膜材料の音波長は5μm〜10μmの範囲にあると開示されており、パターン間隔はこの範囲以下となる。逆説的には、パターンサイズLlまたはパターン間隔Lsが弾性波の波長より十分大きくなると、質量負荷膜としての機能が発揮し難くなる。また、発明者の実験によれば、パターンサイズLl、パターン間隔Lsまたはパターン周期Lpが弾性波の波長より十分大きくなると、スプリアスが発生して特性が大幅に劣化し、使用には不適切な状況となる。つまり,質量負荷膜としての機能が発揮し難くなる。よって、共振器の共振周波数を高くする場合、(例えば1GHzまたは2GHz以上)パターン間隔Lsが小さくなりやすく、製造が難しくなりやすい。言い換えれば、製造可能な範囲で被覆率を変化できる範囲がせまくなる。よって、周波数を調整できる範囲が狭くなる。実施例1の変形例1は比較例2に比べパターン間隔を大きくできる。よって、弾性波デバイスの製造が容易となる。言い換えれば、製造可能な範囲で被覆率を変化できる範囲が広くなる。よって、周波数を調整できる範囲が広くなる。
【0047】
実施例1およびその変形例によれば、共振領域50内に複数の第1パターン32と複数の第1パターン32を連結する第2パターン34とから構成された質量負荷膜28が設けられている。これにより、図9(a)から図12(c)のように、スプリアスレベルを抑制することができる。さらに、図13のように、製造可能な範囲で被覆率を変化できる範囲が広くなる。よって、周波数を調整できる範囲が広くなる。なお、図9(a)から図12(c)は、共振周波数が約2GHzの共振器を用いているが、他の共振周波数を有する共振器においても同様の結果が得られることは言うまでもない。なお、共振周波数が高くなると、弾性波の波長が短くなる。よって、第1パターン32および第2パターン34のサイズも小さくなる。よって、共振周波数が高い場合に実施例1の共振器を用いることが有効である。例えば、共振周波数が1GHz、1.5GHzまたは2GHz以上の場合に実施例1の共振器を用いることが有効である。
【0048】
また、第2パターン34の幅Wは、複数の第1パターン32のサイズLlより小さいことが好ましい。第2パターン34の幅Wが大きくなると、実質的に比較例1および比較例3と同様な構成となる可能性があるためである。
【0049】
さらに、第1パターン32は非周期的またはランダムに配置されていてもよいが、第1パターン32は周期的に配置されていることが好ましい。これにより、共振領域50内での弾性性波特性を均一化できる。第2パターン34も非周期的に配置されてもよいが、周期的に配置されることが好ましい。
【0050】
複数の第1パターン32は、共振領域50内において、異なる形状でもよいが、同一形状であることが好ましい。これにより、共振領域50内での弾性性波特性を均一化できる。
【0051】
共振領域50内において、第2パターン34の幅は異なっていてもよいが、同じであることが好ましい。これにより、共振領域50内での弾性性波特性を均一化できる。
【0052】
質量負荷膜28は、下部電極12または上部電極16を構成する材料とは異なる材料により構成されることが好ましい。これにより、質量負荷膜28に、パターンを形成する際に、質量負荷膜28と下部電極12または上部電極16とのエッチング選択比をとることができる。
【0053】
図1のフィルタにおいて、複数の共振器のうち少なくとも2つの共振器において、第1パターン32および第2パターン34が共振領域50を占める割合が異ならせることができる。これにより、共振器毎の共振周波数の調整が可能となる。このとき、少なくとも2つの共振器において、質量負荷膜28の膜厚が同じであることが好ましい。これにより、質量負荷膜28を同時に形成することができる。
【0054】
例えば、直列共振器S1〜S4において、第1パターン32および第2パターン34が共振領域50を占める割合を異ならせる。これにより、直列共振器S1〜S4内で共振周波数を異ならせることができる。並列共振器P1〜P3においても同様である。よって、直列共振器S1〜S4と並列共振器P1〜P3との共振周波数の差は、質量負荷膜20により大きく設け。直列共振器S1〜S4間の共振周波数の微調整、並列共振器P1〜P3間の共振周波数内の微調整は、それぞれ、質量負荷膜28を用いて行なうことができる。これにより、製造工程を増大させることなく、各共振器の共振周波数の微調整を行なうことができる。各共振器の共振周波数の微調整を行なうことにより、低損失で広帯域なフィルタを提供することができる。
【実施例2】
【0055】
図14(a)および図14(b)は、実施例2の質量負荷膜の断面図である。図14(a)のように、図3(b)の質量負荷膜28の一部を残存させている。このように、質量負荷膜28に形成された第1パターン32および第2パターン34は、質量負荷膜28の膜厚が厚いパターンでもよい。図14(b)のように、図4(b)の質量負荷膜28の一部を残存させている。このように、質量負荷膜28に形成された第1パターン32および第2パターン34は、質量負荷膜28の膜厚が薄いパターンでもよい。
【実施例3】
【0056】
実施例3は、質量付加膜が複数設けられた例である。図15(a)は、実施例3の直列共振器の断面図、図15(b)は、実施例3の並列共振器の断面図である。図15(a)および図15(b)のように、周波数調整膜24上に別の質量負荷膜29が形成されている。別の質量負荷膜29は、質量負荷膜28と同様に、第1パターン32と第2パターン34とを有している。
【0057】
実施例1および2において、1層の質量負荷膜28を用い共振周波数を調整できる範囲を大きくしようとすると、質量負荷膜28の膜厚が厚くなる。発明者の実験によれば、質量負荷膜28の膜厚が厚くなると、共振器の共振特性が劣化する。実施例3によれば、質量負荷膜28および29は、複数の層に形成されている。これにより、質量負荷膜28および29の1層あたりの膜厚を薄くすることができ、共振器の共振特性の劣化を抑制できる。別の質量負荷膜29は、積層膜18内の共振領域50に形成されていればよい。また、質量負荷膜29は3層以上でもよい。
【実施例4】
【0058】
実施例4は、ラティス型フィルタの例である。図16は、実施例4のラティス型フィルタを示す図である。ラティス型フィルタ102は、直列共振器S5およびS6、および並列共振器P4およびP5を備えている。端子T3とT5の間に直列共振器S5が接続され、端子T4とT6との間に直列共振器S6が接続されている。端子T3とT6の間に並列共振器P4が接続され、端子T4とT5との間に並列共振器P5が接続されている。このようなラティス型フィルタ102の直列共振器および並列共振器として、実施例1から実施例3において例示した直列共振器および並列共振器を用いることができる。これにより、ラダー型フィルタと同様に、スプリアスレベルを抑制することができる。また、共振器の周波数を調整できる範囲を広げることができる。ラダー型フィルタおよびラティス型フィルタ以外のフィルタ等に実施例1から3の共振器を用いることもできる。
【実施例5】
【0059】
実施例5は、移動体通信用RF(Radio Frequency)モジュールの例である。図17は、実施例5のブロック図である。図17のように、モジュール70は、分波器62とパワーアンプ64を備えている。分波器62は、受信用フィルタ62aおよび送信用フィルタ62bを備えている。受信用フィルタ62aはアンテナ端子61と受信端子63a、63bとの間に接続されている。受信用フィルタ62aは、アンテナ端子61から入力した信号のうち受信帯域の信号を通過させ他の信号を抑圧する。受信帯域の信号は受信端子63aおよび63bから出力される。受信端子63aおよび63bからは平衡信号が出力される。送信用フィルタ62bはパワーアンプ64とアンテナ端子61との間に接続されている。送信用フィルタ62bは、パワーアンプ64から入力した信号のうち送信帯域の信号を通過させ他の信号を抑圧する。送信帯域の信号はアンテナ端子61から出力される。パワーアンプ64は、送信端子65から入力した信号を増幅し、送信用フィルタ62bに出力する。受信用フィルタ62aおよび62bのうち少なくとも一方が実施例1から4のフィルタを含むことができる。
【0060】
実施例1から実施例3においては、圧電薄膜共振器として、積層膜18と基板10との間の共振領域50に空隙30が形成されたFBAR(Film Bulk Acoustic Wave Resonator)を例に説明した。圧電薄膜共振器は、基板に空隙が形成され、積層膜18が空隙に露出する構造でもよい。また、空隙の代わりに、弾性波を反射する音響反射膜を設けたSMR(Solidly Mounted Resonator)でもよい。音響反射膜としては、音響インピーダンスの高い膜と低い膜を弾性波の波長の膜厚で交互に積層した膜を用いることができる。
【0061】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0062】
10 基板
12 下部電極
14 圧電薄膜
16 上部電極
16a Ru層
16b Cr層
18 積層膜
20 質量負荷膜
24 周波数調整膜
28 質量負荷膜
32 第1パターン
34 第2パターン
50 共振領域
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性波デバイスおよびフィルタに関し、例えば圧電薄膜共振器を含む弾性波デバイスおよびフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
圧電薄膜共振器を用いた弾性波デバイスは、例えば無線機器等のフィルタとして用いられている。圧電薄膜共振器は、圧電薄膜を挟み下部電極と上部電極が対向する構造を有している。圧電薄膜共振器の共振周波数は、圧電薄膜を挟み下部電極と上部電極が対向する領域(以下、共振領域)の膜厚(例えば構成材料が異なる場合には、構成材料および膜厚)によって定められる。
【0003】
圧電薄膜共振器の共振周波数を異ならせるため、共振領域内に質量負荷膜を形成する技術が知られている(例えば、特許文献1)。また、共振領域内に開口を有する質量負荷膜を形成する技術が知られている(例えば、特許文献2〜5)共振領域内にストライプ状の質量負荷膜を形成する技術が知られている(例えば、特許文献6)。特許文献1〜6によれば、共振器毎に共振周波数の調整を行なうことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−335141号公報
【特許文献2】特表2002−515667号公報
【特許文献3】米国特許6657363号明細書
【特許文献4】特開2008−172494号公報
【特許文献5】国際公開2010/061479号パンフレット
【特許文献6】特表2007−535279号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の方法では、共振周波数が異なる共振器を形成するために異なる膜厚の質量負荷膜を形成することになる。よって、複数回の成膜工程、フォトリソグラフィ工程およびエッチング工程を行なうことになる。このため、製造工程が複雑化し、製造コストが上昇してしまう。また、特許文献2〜6の方法では、共振領域内にパターニングされた質量負荷膜によるスプリアスの強度が増加し共振特性が劣化するという課題、その結果、周波数を調整できる範囲が狭くなるという課題が発生する。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、共振特性の劣化を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、基板と、前記基板上に設けられた圧電膜と、前記圧電膜の少なくとも一部を挟んで設けられた下部電極および上部電極と、前記圧電膜を挟み前記下部電極および上部電極が対向する共振領域内に、複数の第1パターンと前記複数の第1パターンを連結する第2パターンとから構成された質量負荷膜と、を具備することを特徴とする弾性波デバイスである。本発明によれば、共振特性の劣化を抑制することができる。
【0008】
上記構成において、前記第2パターンの幅は、前記複数の第1パターンの幅より小さい構成とすることができる。
【0009】
上記構成において、前記複数の第1パターンは周期的に配置されている構成とすることができる。
【0010】
上記構成において、前記複数の第1パターンは同一形状である構成とすることができる。
【0011】
上記構成において、前記第2パターンの幅は同じである構成とすることができる。
【0012】
上記構成において、前記複数の第1パターンおよび第2パターンは、前記質量負荷膜が形成されたパターンである構成とすることができる。
【0013】
上記構成において、前記第1パターンおよび前記第2パターンは、前記質量負荷膜に形成された開口から形成されたパターンである構成とすることができる。
【0014】
上記構成において、前記質量負荷膜は、前記下部電極または前記上部電極を構成する材料とは異なる材料により構成される構成とすることができる。
【0015】
上記構成において、前記質量負荷膜は、複数の層に形成されている構成とすることができる。
【0016】
上記構成において、前記下部電極は、前記基板の平坦主面との間にドーム状の空隙を有するように形成されている構成とするとことができる。
【0017】
本発明は、上記弾性波デバイスを備えるフィルタである。
【0018】
上記構成において、前記弾性波デバイスは複数設けられ、前記複数の弾性波デバイスのうち少なくとも2つの弾性波デバイスにおいて、前記第1パターンおよび前記第2パターンが前記共振領域を占める割合が異なる構成とすることができる。
【0019】
上記構成において、前記少なくとも2つの弾性波デバイスにおいて、前記質量負荷膜の膜厚が同じである構成とすることができる。
【発明の効果】
【0020】
本弾性波デバイスによれば、共振特性の劣化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、ラダー型フィルタを示す図である。
【図2】図2(a)は、実施例1の圧電薄膜共振器の上面図、図2(b)および図2(c)は、それぞれ直列共振器および並列共振器の断面図である。
【図3】図3(a)は質量負荷膜の一例を示す上面図、図3(b)は図3(a)のA−A断面図である。
【図4】図4(a)は質量負荷膜の別の一例を示す上面図、図4(b)は図4(a)のA−A断面図である。
【図5】図5(a)から図5(d)は、第1パターンと第2パターンの例を示す平面図(その1)である。
【図6】図6(a)から図6(d)は、第1パターンと第2パターンの例を示す平面図(その2)である。
【図7】図7は、被覆率に対するパターンサイズLl/パターン周期Lpを示す図である。
【図8】図8(a)は、実施例1に係る共振領域の平面図、図8(b)は比較例1に係る共振領域の平面図である。
【図9】図9(a)および図9(b)は、それぞれ実施例1および比較例1の共振器の反射特性のスミスチャートである。
【図10】図10(a)および図10(b)は、それぞれ実施例1および比較例1の共振器の通過特性を示す図である。
【図11】図11(a)から図11(c)は、それぞれ変形例1、比較例2および比較例3の共振器の反射特性のスミスチャートである。
【図12】図12(a)から図12(c)は、それぞれ変形例1、比較例2および比較例3の共振器の通過特性を示す図である。
【図13】図13は、実施例1の変形例1および比較例2における被覆率とパターン間隔Lsとの関係を示す図である。
【図14】図14(a)および図14(b)は、実施例2の質量負荷膜の断面図である。
【図15】図15(a)は、実施例3の直列共振器の断面図、図15(b)は、実施例3の並列共振器の断面図である。
【図16】図16は、実施例4のラティス型フィルタを示す図である。
【図17】図17は、実施例5のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照に本発明に係る実施例について説明する。
【実施例1】
【0023】
まず、実施例1に係る弾性波デバイスが用いられる例としてラダー型フィルタについて説明する。図1は、ラダー型フィルタを示す図である。図1のように、ラダー型フィルタ100は、直列共振器S1〜S4および並列共振器P1〜P3を備えている。直列共振器S1〜S4は、入出力端子T1とT2との間に直列に接続されている。並列共振器P1〜P3は、入出力端子T1とT2との間に並列に接続されている。
【0024】
図2(a)は、実施例1の圧電薄膜共振器の上面図、図2(b)および図2(c)は、それぞれ直列共振器および並列共振器の断面図である。図2(a)および図2(b)を参照し、直列共振器Sの構造について説明する。Si基板である基板10上に、基板10の平坦主面との間に下部電極12側にドーム状の膨らみを有する空隙30が形成されるように下部電極12が設けられている。ドーム状の膨らみとは、例えば空隙30の周辺では空隙30の高さが小さく、空隙30の内部ほど空隙30の高さが高くなるような形状の膨らみである。下部電極12はCr(クロム)層とCr層上のRu(ルテニウム)層とを含んでいる。
【0025】
下部電極12上に、(002)方向を主軸とするAlN(窒化アルミニウム)からなる圧電膜14が設けられている。圧電膜14を挟み下部電極12と対向する領域(共振領域50)を有するように圧電膜14上に上部電極16が設けられている。上部電極16はRu層16aとRu層16a上のCr層16bとを含んでいる。このように、圧電膜14は、基板10上に設けられ、圧電膜14の少なくとも一部を挟んで下部電極12および上部電極16が設けられている。
【0026】
共振領域50内の上部電極16上にTi層からなる質量負荷膜28が設けられている。上部電極16および質量負荷膜28上には周波数調整膜24として酸化シリコン膜が形成されている。積層膜18は、下部電極12、圧電膜14、上部電極16、質量負荷膜28および周波数調整膜24を含む。
【0027】
図2(a)より下部電極12には犠牲層をエッチングするための導入路33が形成されている。犠牲層は空隙30を形成するための層である。導入路33の先端付近は圧電膜14で覆われておらず、下部電極12は導入路33の先端に孔部35を有する。図2(a)および図2(b)のように、圧電膜14には下部電極12と電気的に接続するための開口部36が設けられている。
【0028】
図2(a)および図2(c)を参照し、並列共振器Pの構造について説明する。並列共振器Pは直列共振器Sと比較し、Ru層16aとCr層16bとの間に、Ti(チタン)層からなる質量負荷膜20が設けられている。よって、積層膜18は直列共振器Sの積層膜に加え、共振領域50内の全面に形成された質量負荷膜20を含む。その他の構成は直列共振器Sの図2(b)と同じであり説明を省略する。
【0029】
図2(b)および図2(c)において、質量負荷膜28は、上部電極16と周波数調整膜24との間に形成されているが、質量負荷膜28は共振領域50内の積層膜18内に形成されていればよい。例えば、質量負荷膜28は、周波数調整膜24の上に形成されていてもよい。また、例えば、上部電極16が複数の層により形成され、質量負荷膜28は上部電極16の複数の層間に形成されていてもよい。さらに、例えば、質量負荷膜28は、圧電膜14と上部電極16との間に形成されていてもよい。さらに、例えば、質量負荷膜28は、下部電極12と圧電膜14との間に形成されていてもよい。さらに、下部電極12が複数の層により形成され、質量負荷膜28は下部電極12の複数の層間に形成されていてもよい。さらに、例えば、質量負荷膜28は下部電極12の下に形成されていてもよい。
【0030】
2GHzの共振周波数を有する圧電薄膜共振器の場合、下部電極12のCr層の膜厚は100nm、Ru層の膜厚は200nm、AlN層からなる圧電膜14の膜厚は1250nmである。Ru層16aの膜厚は250nm、Cr層16bの膜厚は20nm、Ti層からなる質量負荷膜28の膜厚は25nmである。Ti層からなる質量負荷膜20の膜厚は125nmである。各層の膜厚は、所望の共振周波数を得るため適宜設定することができる。
【0031】
下部電極12および上部電極16としては、CrおよびRu以外にもAl(アルミニウム)、Cu(銅)、Mo(モリブデン)、W(タングステン)、Ta(タンタル)、Pt(白金)、Rh(ロジウム)もしくはIr(イリジウム)等の金属膜またはこれらの複合膜を用いることができる。質量負荷膜20および28ついては、Ti以外にも、Ru、Cr、Al、Cu、Mo、W、Ta、Pt、RhもしくはIr等の金属膜またはこれらの複合膜を用いることができる。また、例えば窒化シリコンまたは酸化シリコン等の窒化金属または酸化金属からなる絶縁膜を用いることもできる。質量負荷膜20および28を、下部電極12の層間、上部電極16の層間、下部電極12と圧電膜14との間および圧電膜14と上部電極16との間に形成する場合、低抵抗化のため金属膜を用いることが好ましい。
【0032】
基板10としては、Si基板以外に、石英基板、ガラス基板、セラミック基板またはGaAs基板等を用いることができる。圧電膜14はAlN以外にも、ZnO(酸化亜鉛)、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)、PbTiO3(チタン酸鉛)等を用いることができる。
【0033】
下部電極12、圧電膜14、上部電極16、質量負荷膜20および28は、スパッタリング法およびエッチング法により成膜される。その後、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用い、所望の形状に加工される。これらの加工は、蒸着法およびリフトオフ法を用いることもできる。また、積層膜18の圧縮応力とすることにより、空隙30をドーム状とすることができる。
【0034】
図3(a)は質量負荷膜28の一例を示す上面図、図3(b)は図3(a)のA−A断面図である。図3(a)および図3(b)のように、共振領域50内に複数の第1パターン32と第2パターン34を備える質量負荷膜28が設けられている。共振領域50は楕円状である。第1パターン32は、周期的に設けられたドット状のパターンである。第2パターン34は、第1パターン32を連結するパターンである。第1パターン32は、例えば円状であり、第2パターン34は棒状である。第2パターン34は、第1パターン32をジグザグに連結している。図3(a)および図3(b)の第1パターン32および第2パターン34は、質量負荷膜28から形成されている。第1パターン32のサイズをサイズLl、第1パターン32の間隔を間隔Ls、第1パターン32の周期を周期Lp、および第2パターン34の幅を幅Wとする。第1パターン32のサイズは第2パターン34の幅Wより大きい。共振領域50の面積に占める質量負荷膜28の面積の割合を被覆率とする。
【0035】
図4(a)は質量負荷膜の別の一例を示す上面図、図4(b)は図4(a)のA−A断面図である。図4(a)および図4(b)のように、共振領域50内に第1パターン32と第2パターン34が形成されている。第1パターン32は、周期的に設けられたドット状のパターンである。第2パターン34は、第1パターン32を連結するパターンである。第2パターン34は、第1パターン32をジグザグに連結している。図4(a)および図4(b)の第1パターン32および第2パターン34は、質量負荷膜28に形成された開口から形成されたパターンである。すなわち、図4(a)および図4(b)の第1パターン32および第2パターン34は、図3(a)および図3(b)とは相補的なパターンである。第1パターン32のサイズをサイズLl、第1パターン32の間隔を間隔Ls、第1パターン32の周期を周期Lp、および第2パターン34の幅を幅Wとする。第1パターン32のサイズは第2パターン34の幅Wより大きい。共振領域50の面積に占める質量負荷膜28の面積の割合を被覆率とする。
【0036】
図5(a)から図6(d)は、第1パターンと第2パターンの例を示す平面図である。図5(a)においては、第1パターン32は円状である。第2パターン34は、共振領域50の長軸において第1パターン32を連結している。長軸において連結された第1パターン32からそれぞれ短軸方向に第1パターン32が第2パターン34により連結されている。図5(b)においては、第1パターン32は四角形状である。第2パターン34は、共振領域50の短軸において第1パターン32を連結している。短軸方向に連結された第1パターン32からそれぞれ長軸方向に第1パターン32が第2パターン34により連結されている。図5(c)においては、第1パターン32は六角形状である。第2パターン34は、共振領域50の短軸長軸方向に斜めに第1パターン32を連結している。斜め方向に連結された第1パターン32からそれぞれ短軸および長軸方向に第1パターン32が第2パターン34により連結されている。図5(d)においては、第1パターン32は円状である。第2パターン34は、共振領域50の短軸および長軸において第1パターン32を連結している。短軸方向に連結された第1パターン32からそれぞれ長軸方向に第1パターン32が第2パターン34により連結されている。長軸方向に連結された第1パターン32からそれぞれ短軸方向に第1パターン32が第2パターン34により連結されている。
【0037】
図6(a)においては、第1パターン32は三角形状である。共振領域50の上半分では、第2パターン34は長軸方向に第1パターン32を連結している。共振領域50の下半分では、第2パターン34は短軸方向に第1パターン32を連結している。図6(b)においては、第2パターン34は図5(a)と同じ形状であるが、第1パターン32の位置が長軸方向に交互にずれている。図6(c)においては、第1パターン32は図5(b)と同じ形状であるが、第2パターン34の位置が短軸方向に交互にずれている。図6(d)においては、第2パターン34は図3(a)と同じであるが、第1パターン32が四角形状である。以上のように、第1パターン32の形状は、任意である。第2パターン34は、第1パターン32を連結していればよい。なお、図3(a)から図6(d)においては、第2パターン34が全ての第1パターン32を連結しているが、第2パターン34に連結されない第1パターン32が一部存在してもよい。さらに、第1パターン32が周期的に設けられている例を示しているが、第1パターン32は、非周期的またはランダムに設けられていてもよい。さらに、第1パターン32の形状および大きさが同じ例を示しているが、形状および大きさは異なっていてもよい。さらに、第2パターンの幅Wは同じ例を示しているが、異なっていてもよい。
【0038】
図5(a)から図6(d)は、第1パターン32および第2パターン34が質量負荷膜28で形成されている例であるが、図4(a)のように、第1パターン32および第2パターン34は質量負荷膜28に形成された開口パターンでもよい。
【0039】
図3(a)のように、第1パターン32を質量負荷膜28を用い形成する場合と、図4(a)のように、第1パターン32を質量負荷膜28の開口パターンで形成する場合と、の取り扱いについて説明する。図7は、被覆率に対するパターンサイズLl/パターン周期Lpを示す図である。パターンは第1パターン32であり、第2パターン34は形成されていない。第1パターン32は正方形とした。この場合、パターン周期Lpを一定とし、パターンサイズLlの大きさを変化させ、被覆率に対するLl/Lpを計算した。実線は、パターンを質量負荷膜28で形成した例である。破線は、50%以上の被覆率において、パターンを質量負荷膜28の開口で形成した例である。図7の実線のように、被覆率を大きくしようとすると、Ll/Lpも大きくなる。パターンサイズLlが大きくなると、パターン間隔Lsが小さくなる。このため、第1パターン32の形成が難しくなる。そこで、例えば、被覆率50%以上においては、破線のようにパターンを質量負荷膜28の開口で形成する。これにより、被覆率が大きい場合も質量負荷膜28のパターンの形成が容易となる。
【0040】
実施例1に係る共振器を作製した。図8(a)は、実施例1に係る共振領域の平面図、図8(b)は比較例1に係る共振領域の平面図である。図8(a)を参照し、実施例1において、共振領域50は、長軸長が247μmおよび短軸長が176μmの楕円形である。第1パターン32および第2パターン34は、質量負荷膜28の開口パターンである。第1パターン32は円状である。パターン周期Lpは7μm、パターンサイズLlは4.6μm、第2パターン34の幅Wは1.5μmである。被覆率は60%である。図8(b)を参照し、比較例1において、共振領域50の大きさは実施例1と同じである。第1パターン32は形成されておらず、第2パターン34が形成されている。第2パターン34の幅Wは2.5μmである。被覆率は実施例1と同じ60%である。
【0041】
図9(a)および図9(b)は、それぞれ実施例1および比較例1の共振器の反射特性のスミスチャートである。図10(a)および図10(b)は、それぞれ実施例1および比較例1の共振器の通過特性を示す図である。図9(a)から図10(b)は、基板内のばらつきをみるため、それぞれ同一基板内の3箇所の測定データを重ね書きしている。図9(a)から図10(b)のように、比較例1および実施例1ともに、1877MHzあたりにスプリアス40が観測される。実施例1は比較例1に比べスプリアス40が小さい。また。実施例1は比較例1に対し、1880MHzから1960MHzあたりの細かいスプリアス42が小さい。このように、実施例1は比較例1に比べスプリアスを抑制することができる。
【0042】
さらに、実施例1の変形例1に係る共振器を作製した。作製した共振器においては第1パターン32および第2パターン34の配置は図5(d)であり、第1パターン32および第2パターン34は、質量負荷膜28の開口パターンで形成している。共振領域50は、長軸長が247μmおよび短軸長が176μmの楕円形である。第1パターン32は円状である。パターン周期Lpは7μm、パターンサイズLlは1.7μm、第2パターン34の幅Wは1.5μmである。被覆率は80%である。比較例2においては、変形例1と同じパターン配置で第2パターン34を形成し第1パターン32を形成していない。第2パターン34の幅Wは1.7μmである。実施例3においては、変形例1と同じパターン配置で第1パターン32を形成し第2パターン34を形成していない。第1パターン32のサイズLlは、2.5μmである。比較例2および比較例3とも共振領域50の大きさは実施例1の変形例1と同じである。変形例1、比較例2、3の被覆率は同じであり、80%である。
【0043】
図11(a)から図11(c)は、それぞれ変形例1、比較例2および比較例3の共振器の反射特性のスミスチャートである。図12(a)から図12(c)は、それぞれ変形例1、比較例2および比較例3の共振器の通過特性を示す図である。図11(a)から図12(c)のように、いずれの共振器においても、1877MHzあたりにスプリアス40が観測される。また、1880MHzから1960MHzあたりの細かいスプリアス42が観測される。しかしながら変形例1のスプリアス40および42は、比較例2および比較例3より小さい。このように、実施例1の変形例1は比較例2および3に比べスプリアスを抑制することができる。
【0044】
発明者の実験によれば、質量負荷膜28のパターンが第1パターン32単独の場合、スプリアス40および42は、第1パターン32のサイズLlが大きくなると大きくなる。また、質量負荷膜28のパターンが第2パターン34単独の場合においても、スプリアス40および42は、第2パターン34の幅Wが大きくなれば大きくなる。実施例1によれば、第1パターン32と第2パターン34とを組み合わせることにより、同じ被覆率であっても第1パターン32のサイズLlおよび第2パターン34の幅Wを小さくすることができる。よって、スプリアス40および42を抑制できる。
【0045】
図13は、実施例1の変形例1および比較例2における被覆率とパターン間隔Lsとの関係を示す図である。変形例1を実線、比較例2を破線で示している。被覆率が50%以下では、パターンを質量負荷膜28で形成し、被覆率が50%以上では、パターンを質量負荷膜に形成された開口で形成している。実施例1の変形例1では、パターンピッチLpは7μm、第2パターン34の幅Wは1.5μmで一定とし、第1パターン32のサイズLlを変化させ被覆率を計算した。比較例2では、パターンピッチは7μmで一定とし、第1パターン32のサイズLlを変化させ被覆率を計算した。
【0046】
図13のように、実施例1の変形例1は比較例2に比べ、同じ被覆率であってもパターン間隔Lsを大きくできる。特に被覆率が20%付近および80%付近では、パターン間隔Lsを大きくできる。質量負荷膜28のパターンは、質量負荷膜28のスパッタリングまたは蒸着、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術により形成する。または、フォトリソグラフィ技術、質量負荷膜28のスパッタリングまたは蒸着、リフトオフ技術により形成する。このため、パターン間隔Lsが小さくなると、製造が難しくなる。特許文献2、3が開示している構成では、質量負荷膜のパターン間隔Lsに関して、共振器の動作に対して設定された弾性波の波長よりも短い間隔が要求されている。具体的には、1GHzの周波数では通例の圧電薄膜材料の音波長は5μm〜10μmの範囲にあると開示されており、パターン間隔はこの範囲以下となる。逆説的には、パターンサイズLlまたはパターン間隔Lsが弾性波の波長より十分大きくなると、質量負荷膜としての機能が発揮し難くなる。また、発明者の実験によれば、パターンサイズLl、パターン間隔Lsまたはパターン周期Lpが弾性波の波長より十分大きくなると、スプリアスが発生して特性が大幅に劣化し、使用には不適切な状況となる。つまり,質量負荷膜としての機能が発揮し難くなる。よって、共振器の共振周波数を高くする場合、(例えば1GHzまたは2GHz以上)パターン間隔Lsが小さくなりやすく、製造が難しくなりやすい。言い換えれば、製造可能な範囲で被覆率を変化できる範囲がせまくなる。よって、周波数を調整できる範囲が狭くなる。実施例1の変形例1は比較例2に比べパターン間隔を大きくできる。よって、弾性波デバイスの製造が容易となる。言い換えれば、製造可能な範囲で被覆率を変化できる範囲が広くなる。よって、周波数を調整できる範囲が広くなる。
【0047】
実施例1およびその変形例によれば、共振領域50内に複数の第1パターン32と複数の第1パターン32を連結する第2パターン34とから構成された質量負荷膜28が設けられている。これにより、図9(a)から図12(c)のように、スプリアスレベルを抑制することができる。さらに、図13のように、製造可能な範囲で被覆率を変化できる範囲が広くなる。よって、周波数を調整できる範囲が広くなる。なお、図9(a)から図12(c)は、共振周波数が約2GHzの共振器を用いているが、他の共振周波数を有する共振器においても同様の結果が得られることは言うまでもない。なお、共振周波数が高くなると、弾性波の波長が短くなる。よって、第1パターン32および第2パターン34のサイズも小さくなる。よって、共振周波数が高い場合に実施例1の共振器を用いることが有効である。例えば、共振周波数が1GHz、1.5GHzまたは2GHz以上の場合に実施例1の共振器を用いることが有効である。
【0048】
また、第2パターン34の幅Wは、複数の第1パターン32のサイズLlより小さいことが好ましい。第2パターン34の幅Wが大きくなると、実質的に比較例1および比較例3と同様な構成となる可能性があるためである。
【0049】
さらに、第1パターン32は非周期的またはランダムに配置されていてもよいが、第1パターン32は周期的に配置されていることが好ましい。これにより、共振領域50内での弾性性波特性を均一化できる。第2パターン34も非周期的に配置されてもよいが、周期的に配置されることが好ましい。
【0050】
複数の第1パターン32は、共振領域50内において、異なる形状でもよいが、同一形状であることが好ましい。これにより、共振領域50内での弾性性波特性を均一化できる。
【0051】
共振領域50内において、第2パターン34の幅は異なっていてもよいが、同じであることが好ましい。これにより、共振領域50内での弾性性波特性を均一化できる。
【0052】
質量負荷膜28は、下部電極12または上部電極16を構成する材料とは異なる材料により構成されることが好ましい。これにより、質量負荷膜28に、パターンを形成する際に、質量負荷膜28と下部電極12または上部電極16とのエッチング選択比をとることができる。
【0053】
図1のフィルタにおいて、複数の共振器のうち少なくとも2つの共振器において、第1パターン32および第2パターン34が共振領域50を占める割合が異ならせることができる。これにより、共振器毎の共振周波数の調整が可能となる。このとき、少なくとも2つの共振器において、質量負荷膜28の膜厚が同じであることが好ましい。これにより、質量負荷膜28を同時に形成することができる。
【0054】
例えば、直列共振器S1〜S4において、第1パターン32および第2パターン34が共振領域50を占める割合を異ならせる。これにより、直列共振器S1〜S4内で共振周波数を異ならせることができる。並列共振器P1〜P3においても同様である。よって、直列共振器S1〜S4と並列共振器P1〜P3との共振周波数の差は、質量負荷膜20により大きく設け。直列共振器S1〜S4間の共振周波数の微調整、並列共振器P1〜P3間の共振周波数内の微調整は、それぞれ、質量負荷膜28を用いて行なうことができる。これにより、製造工程を増大させることなく、各共振器の共振周波数の微調整を行なうことができる。各共振器の共振周波数の微調整を行なうことにより、低損失で広帯域なフィルタを提供することができる。
【実施例2】
【0055】
図14(a)および図14(b)は、実施例2の質量負荷膜の断面図である。図14(a)のように、図3(b)の質量負荷膜28の一部を残存させている。このように、質量負荷膜28に形成された第1パターン32および第2パターン34は、質量負荷膜28の膜厚が厚いパターンでもよい。図14(b)のように、図4(b)の質量負荷膜28の一部を残存させている。このように、質量負荷膜28に形成された第1パターン32および第2パターン34は、質量負荷膜28の膜厚が薄いパターンでもよい。
【実施例3】
【0056】
実施例3は、質量付加膜が複数設けられた例である。図15(a)は、実施例3の直列共振器の断面図、図15(b)は、実施例3の並列共振器の断面図である。図15(a)および図15(b)のように、周波数調整膜24上に別の質量負荷膜29が形成されている。別の質量負荷膜29は、質量負荷膜28と同様に、第1パターン32と第2パターン34とを有している。
【0057】
実施例1および2において、1層の質量負荷膜28を用い共振周波数を調整できる範囲を大きくしようとすると、質量負荷膜28の膜厚が厚くなる。発明者の実験によれば、質量負荷膜28の膜厚が厚くなると、共振器の共振特性が劣化する。実施例3によれば、質量負荷膜28および29は、複数の層に形成されている。これにより、質量負荷膜28および29の1層あたりの膜厚を薄くすることができ、共振器の共振特性の劣化を抑制できる。別の質量負荷膜29は、積層膜18内の共振領域50に形成されていればよい。また、質量負荷膜29は3層以上でもよい。
【実施例4】
【0058】
実施例4は、ラティス型フィルタの例である。図16は、実施例4のラティス型フィルタを示す図である。ラティス型フィルタ102は、直列共振器S5およびS6、および並列共振器P4およびP5を備えている。端子T3とT5の間に直列共振器S5が接続され、端子T4とT6との間に直列共振器S6が接続されている。端子T3とT6の間に並列共振器P4が接続され、端子T4とT5との間に並列共振器P5が接続されている。このようなラティス型フィルタ102の直列共振器および並列共振器として、実施例1から実施例3において例示した直列共振器および並列共振器を用いることができる。これにより、ラダー型フィルタと同様に、スプリアスレベルを抑制することができる。また、共振器の周波数を調整できる範囲を広げることができる。ラダー型フィルタおよびラティス型フィルタ以外のフィルタ等に実施例1から3の共振器を用いることもできる。
【実施例5】
【0059】
実施例5は、移動体通信用RF(Radio Frequency)モジュールの例である。図17は、実施例5のブロック図である。図17のように、モジュール70は、分波器62とパワーアンプ64を備えている。分波器62は、受信用フィルタ62aおよび送信用フィルタ62bを備えている。受信用フィルタ62aはアンテナ端子61と受信端子63a、63bとの間に接続されている。受信用フィルタ62aは、アンテナ端子61から入力した信号のうち受信帯域の信号を通過させ他の信号を抑圧する。受信帯域の信号は受信端子63aおよび63bから出力される。受信端子63aおよび63bからは平衡信号が出力される。送信用フィルタ62bはパワーアンプ64とアンテナ端子61との間に接続されている。送信用フィルタ62bは、パワーアンプ64から入力した信号のうち送信帯域の信号を通過させ他の信号を抑圧する。送信帯域の信号はアンテナ端子61から出力される。パワーアンプ64は、送信端子65から入力した信号を増幅し、送信用フィルタ62bに出力する。受信用フィルタ62aおよび62bのうち少なくとも一方が実施例1から4のフィルタを含むことができる。
【0060】
実施例1から実施例3においては、圧電薄膜共振器として、積層膜18と基板10との間の共振領域50に空隙30が形成されたFBAR(Film Bulk Acoustic Wave Resonator)を例に説明した。圧電薄膜共振器は、基板に空隙が形成され、積層膜18が空隙に露出する構造でもよい。また、空隙の代わりに、弾性波を反射する音響反射膜を設けたSMR(Solidly Mounted Resonator)でもよい。音響反射膜としては、音響インピーダンスの高い膜と低い膜を弾性波の波長の膜厚で交互に積層した膜を用いることができる。
【0061】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0062】
10 基板
12 下部電極
14 圧電薄膜
16 上部電極
16a Ru層
16b Cr層
18 積層膜
20 質量負荷膜
24 周波数調整膜
28 質量負荷膜
32 第1パターン
34 第2パターン
50 共振領域
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に設けられた圧電膜と、
前記圧電膜の少なくとも一部を挟んで設けられた下部電極および上部電極と、
前記圧電膜を挟み前記下部電極および上部電極が対向する共振領域内に、複数の第1パターンと前記複数の第1パターンを連結する第2パターンとから構成された質量負荷膜と、
を具備することを特徴とする弾性波デバイス。
【請求項2】
前記第2パターンの幅は、前記複数の第1パターンの幅より小さいことを特徴とする請求項1記載の弾性波デバイス。
【請求項3】
前記複数の第1パターンは周期的に配置されていることを特徴とする請求項1または2記載の弾性波デバイス。
【請求項4】
前記複数の第1パターンは同一形状であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項記載の弾性波デバイス。
【請求項5】
前記第2パターンの幅は同じであることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項記載の弾性波デバイス。
【請求項6】
前記複数の第1パターンおよび第2パターンは、前記質量負荷膜が形成されたパターンであることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項記載の弾性波デバイス。
【請求項7】
前記第1パターンおよび前記第2パターンは、前記質量負荷膜に形成された開口から形成されたパターンであることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項記載の弾性波デバイス。
【請求項8】
前記質量負荷膜は、前記下部電極または前記上部電極を構成する材料とは異なる材料により構成されることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項記載の弾性波デバイス。
【請求項9】
前記質量負荷膜は、複数の層に形成されていることを特徴とする請求項1から8のいずれか一項記載の弾性波デバイス。
【請求項10】
前記下部電極は、前記基板の平坦主面との間にドーム状の空隙を有するように形成されていることを特徴とする請求項1から9のいずれか一項記載の弾性波デバイス。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項記載の弾性波デバイスを備えるフィルタ。
【請求項12】
前記弾性波デバイスは複数の共振器を含み、
前記複数の共振器のうち少なくとも2つの共振器において、前記第1パターンおよび前記第2パターンが前記共振領域を占める割合が異なることを特徴とする請求項11記載のフィルタ。
【請求項13】
前記少なくとも2つの共振器において、前記質量負荷膜の膜厚が同じであることを特徴とする請求項12記載のフィルタ。
【請求項1】
基板と、
前記基板上に設けられた圧電膜と、
前記圧電膜の少なくとも一部を挟んで設けられた下部電極および上部電極と、
前記圧電膜を挟み前記下部電極および上部電極が対向する共振領域内に、複数の第1パターンと前記複数の第1パターンを連結する第2パターンとから構成された質量負荷膜と、
を具備することを特徴とする弾性波デバイス。
【請求項2】
前記第2パターンの幅は、前記複数の第1パターンの幅より小さいことを特徴とする請求項1記載の弾性波デバイス。
【請求項3】
前記複数の第1パターンは周期的に配置されていることを特徴とする請求項1または2記載の弾性波デバイス。
【請求項4】
前記複数の第1パターンは同一形状であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項記載の弾性波デバイス。
【請求項5】
前記第2パターンの幅は同じであることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項記載の弾性波デバイス。
【請求項6】
前記複数の第1パターンおよび第2パターンは、前記質量負荷膜が形成されたパターンであることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項記載の弾性波デバイス。
【請求項7】
前記第1パターンおよび前記第2パターンは、前記質量負荷膜に形成された開口から形成されたパターンであることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項記載の弾性波デバイス。
【請求項8】
前記質量負荷膜は、前記下部電極または前記上部電極を構成する材料とは異なる材料により構成されることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項記載の弾性波デバイス。
【請求項9】
前記質量負荷膜は、複数の層に形成されていることを特徴とする請求項1から8のいずれか一項記載の弾性波デバイス。
【請求項10】
前記下部電極は、前記基板の平坦主面との間にドーム状の空隙を有するように形成されていることを特徴とする請求項1から9のいずれか一項記載の弾性波デバイス。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項記載の弾性波デバイスを備えるフィルタ。
【請求項12】
前記弾性波デバイスは複数の共振器を含み、
前記複数の共振器のうち少なくとも2つの共振器において、前記第1パターンおよび前記第2パターンが前記共振領域を占める割合が異なることを特徴とする請求項11記載のフィルタ。
【請求項13】
前記少なくとも2つの共振器において、前記質量負荷膜の膜厚が同じであることを特徴とする請求項12記載のフィルタ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2012−165288(P2012−165288A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−25488(P2011−25488)
【出願日】平成23年2月8日(2011.2.8)
【出願人】(000204284)太陽誘電株式会社 (964)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月8日(2011.2.8)
【出願人】(000204284)太陽誘電株式会社 (964)
【Fターム(参考)】
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