説明

弾性波デバイス及びその製造方法

【課題】高い気密性を保持し、かつ通過帯域における挿入損失の増大やアイソレーション特性の劣化を抑制することが可能な弾性波デバイス及びその製造方法を提供する。
【解決手段】基板2と、圧電基板11を備え、基板2の上面にフリップチップ実装されたデバイスチップ10と、デバイスチップ10が備える圧電基板11の誘電率より低い誘電率を有し、デバイスチップ10の基板2と対向する面とは反対の面に設けられた第1絶縁層24と、デバイスチップ10と第1絶縁層24とを封止する封止金属部16とを具備する弾性波デバイス及びその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性波デバイス及びその製造方法に関し、デバイスチップを基板上にフリップチップ実装し、封止した弾性波デバイス及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子デバイスには小型化、低コストが要求されている。こうした要求を実現するための技術として、バンプを用いてデバイスチップを基板に実装するフリップチップ実装技術がある。デバイスチップを備えた電子デバイスでは、デバイスチップを外部からの水分の浸入、温度変化及び衝撃等から保護するため、デバイスチップを封止する技術が用いられる。特に、デバイスチップが、バンドパスフィルタやデュプレクサとして用いられる弾性表面波(SAW:Surface Acoustic Wave)デバイスや圧電薄膜共振器(FBAR:Film Bulk Acoustic Resonator)である場合、外部から浸入した付着物の付着等により、デバイスチップの周波数特性が変化する恐れがある。
【0003】
特許文献1にはパッケージ基板にデバイスチップをフリップチップ実装し、デバイスチップを半田で形成された封止部で封止する技術が開示されている。従来例として、特許文献1に記載の弾性波デバイスについて説明する。図1は従来例に係る弾性波デバイスを例示した断面図である。
【0004】
図1に示すように、例えばセラミックス等の絶縁体からなる基板2の上面にデバイスチップ10がフリップチップ実装されている。デバイスチップ10は、例えばLiNbOやLiTaO等の圧電体からなる圧電基板11と、例えばAl等の金属からなる例えばIDT(Inter Digital Transducer)である電極パターン13とを備えている。基板2の上面に設けられた例えばW/Ni/AuまたはMo/Ni/Au等の金属からなる端子4と、デバイスチップ10の基板2と対向する面に設けられた例えばAl、Au、Cu等の金属からなる端子6とは、例えばAu等の金属からなるバンプ8により接続されている。基板2の上面に設けられた端子4は、例えばW、Al等の金属からなるビア配線12を介して基板2の下面に設けられた例えばW/Ni/AuまたはMo/Ni/Au等の金属からなる外部端子14と導通している。デバイスチップ10は、例えばSn−Ag等の半田からなる封止金属部(封止部)16と例えばコバールからなるリッド18とにより封止されている。基板2の上面には例えばW/Ni/AuまたはMo/Ni/Au等の金属からなる金属パターン20が設けられており、封止金属部16に接続されている。また、封止金属部16及びリッド18は例えばNi等の金属からなる保護膜22に覆われている。
【0005】
特許文献1によれば、デバイスチップ10を気密性高く封止できるため、小型、薄型、安価で、かつ接合の信頼性が高い電子部品を提供することができるとしている。
【特許文献1】特開2006−203149号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、デバイスチップ10が圧電基板11を備えた例えば弾性表面波デバイスや弾性境界波デバイス等の弾性波デバイスである場合、半田からなる封止金属部16と圧電基板11とが接触することにより、圧電基板11から漏れ電界が発生することがある。これは、圧電基板11の誘電率が基板2よりも高いことが原因である。漏れ電界の発生により、デバイスチップ10の接地端子から外部端子14へと信号が漏洩し、デバイスチップ10の通過帯域における挿入損失の増大や、アイソレーション特性の劣化等が起こる可能性がある。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑み、高い気密性を保持し、かつ通過帯域における挿入損失の増大やアイソレーション特性の劣化を抑制することが可能な弾性波デバイス及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、基板と、圧電基板を備え、前記基板の上面にフリップチップ実装されたデバイスチップと、前記デバイスチップが備える前記圧電基板の誘電率より低い誘電率を有し、前記デバイスチップの前記基板と対向する面とは反対の面に設けられた第1絶縁層と、前記デバイスチップを封止する封止金属部とを具備することを特徴とする弾性波デバイスである。本発明によれば、高い気密性を保持し、かつ通過帯域における挿入損失の増大やアイソレーション特性の劣化を抑制することが可能な弾性波デバイスを提供することができる。
【0009】
上記構成において、前記封止金属部は前記デバイスチップの側面に接触していない構成とすることができる。この構成によれば、漏れ電界の発生を抑制することができるため、通過帯域における挿入損失の増大やアイソレーション特性の劣化を抑制することが可能な弾性波デバイスを提供することができる。
【0010】
本発明は、基板と、圧電基板を備え、前記基板の上面にフリップチップ実装されたデバイスチップと、前記デバイスチップの側面に接触しないように、前記デバイスチップを封止する封止金属部とを具備することを特徴とする弾性波デバイスである。本発明によれば、高い気密性を保持し、かつ通過帯域における挿入損失の増大やアイソレーション特性の劣化を抑制することが可能な弾性波デバイスを提供することができる。
【0011】
上記構成において、前記基板の上面であって前記基板と前記デバイスチップとが重なる領域よりも外側に設けられ、前記封止金属部と接続されている金属パターンを具備する構成とすることができる。この構成によれば、封止金属部がデバイスチップの側面に接触することを確実に防止することができる。
【0012】
上記構成において、前記基板の上面であって前記基板と前記デバイスチップとが重なる領域と前記金属パターンとの間の少なくとも一部に設けられている第2絶縁層を具備する構成とすることができる。この構成によれば、封止金属部がデバイスチップの側面に接触することをより確実に防止することができる。
【0013】
上記構成において、前記基板の上面に設けられ、前記デバイスチップ及び前記金属パターンに接続された配線パターンを具備し、前記第2絶縁層は前記金属パターンの少なくとも一部と重なるように設けられている構成とすることができる。この構成によれば、基板内部に設けられたビア配線の本数を減らすことができる。
【0014】
上記構成において、前記第1絶縁層は、樹脂、サファイア、シリコン、セラミックス及びガラスのいずれか一つからなる構成とすることができる。この構成によれば、低誘電率の材質を第1絶縁層に用いるため、漏れ電界の発生を抑止することができる。
【0015】
上記構成において、前記第1絶縁層はエポキシ樹脂からなる構成とすることができる。この構成によれば、より低誘電率の材質を第1絶縁層に用いるため、漏れ電界の発生をより確実に抑止することができる。
【0016】
上記構成において、前記封止金属部は半田からなる構成とすることができる。この構成によれば、気密性高く封止でき、かつ電気的なシールド効果が得られる。また、金属封止を簡単に行うことができる。
【0017】
本発明は、圧電基板を備えたデバイスチップを、基板の上面にフリップチップ実装する工程と、前記デバイスチップの前記基板と対向する面とは反対の面に、前記デバイスチップが備える前記圧電基板の誘電率より低い誘電率を有する第1絶縁層を設ける工程と、前記基板の上面であって前記基板と前記デバイスチップとが重なる領域よりも外側に設けられた金属パターンと接続され、かつ前記デバイスチップの側面に接触しないように、前記デバイスチップを封止金属部で封止する工程とを有することを特徴とする弾性波デバイスの製造方法である。本発明によれば、高い気密性を保持し、かつ通過帯域における挿入損失の増大やアイソレーション特性の劣化を抑制することが可能な弾性波デバイスの製造方法を提供することができる。
【0018】
上記構成において、前記第1絶縁層を設ける工程は、前記フリップチップ実装する工程よりも前に行われる構成とすることができる。
【0019】
上記構成において、前記第1絶縁層を設ける工程は、前記封止する工程を含む構成とすることができる。この構成によれば、第1絶縁層によりデバイスチップを封止することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、高い気密性を保持し、かつ通過帯域における挿入損失の増大やアイソレーション特性の劣化を抑制することが可能な弾性波デバイス及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
図面を用いて、本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0022】
図2は実施例1に係る弾性波デバイスの断面図である。図2を用いて実施例1に係る弾性波デバイスの構成について説明する。また、既述した構成と同様の構成については説明を省略する。
【0023】
図2に示すように、例えばアルミナで形成されたセラミックス等の絶縁体からなる基板2の上面に、例えばSAWデバイスチップであるデバイスチップ10がフリップチップ実装されている。例えばSAWデバイスチップであるデバイスチップ10は、例えばLiNbOやLiTaO等の圧電体からなる圧電基板11と、例えばIDTである電極パターン13とを備えている。デバイスチップ10の基板2と対向する面と反対の面には、例えばエポキシ樹脂等の絶縁体からなる第1絶縁層24が設けられている。第1絶縁層24の誘電率は圧電基板11よりも低い。デバイスチップ10と第1絶縁層24とは、例えばSn−Ag等の半田からなる封止金属部16と例えばコバールからなるリッド18により封止されている。また、封止金属部16はデバイスチップ10の側面に接触していない。
【0024】
次に、平面図を参照して、実施例1に係る弾性波デバイスの構成について、さらに説明する。図3(a)はデバイスチップ10実装前の基板2を例示した平面図であり、図3(b)はデバイスチップ10実装後の基板2を例示した平面図である。
【0025】
図3(a)に示すように、基板2の上面には配線パターン3が設けられており、配線パターン3には入力、出力及び接地端子として機能する複数の端子4が設けられている。デバイスチップ10の実装後、配線パターン3は端子4及びバンプ8を介してデバイスチップ10と接続される。封止金属部16と接続される例えばW/Ni/AuまたはMo/Ni/Au等の金属からなる金属パターン20は(図2参照)、基板2の上面であって配線パターン3よりも外側の領域に設けられている。
【0026】
このため、デバイスチップ10実装後は図3(b)に示すように、金属パターン20が、基板2の上面であって、基板2とデバイスチップ10とが重なる領域の外側に設けられることとなる。従って、金属パターン20に接続される封止金属部16とデバイスチップ10との間の距離が確保され、封止金属部16がデバイスチップ10の側面に接触することが防止される。金属パターン20には、W/Ni/AuまたはMo/Ni/Au以外にも半田濡れ性の良好な金属を用いることができる。
【0027】
次に、平面図を参照して、実施例1の変形例に係る弾性波デバイスの構成について説明する。図4(a)及び図4(b)はデバイスチップ10実装前の基板2を例示した平面図であり、図4(b)はデバイスチップ10実装後の基板2を例示した平面図である。図4(b)においては、第2絶縁層26の一部を透視して図示している。
【0028】
図4(a)に示すように、基板2の上面であって配線パターン3と金属パターン20との間に、例えばガラス等の絶縁体からなる第2絶縁層26が設けられている。すなわち、デバイスチップ10実装後は図4(c)に示すように、第2絶縁層26が、基板2の上面であって、基板2とデバイスチップ10とが重なる領域と金属パターン20との間に設けられることとなる。第2絶縁層26の半田濡れ性は、金属パターン20の半田濡れ性より悪いため、半田からなる封止金属部16がデバイスチップ10の側面に接触することを、より確実に防止することができる。第2絶縁層26は、例えば基板2の上面にガラスコーティングを行うことにより形成される。
【0029】
図4(b)の例では、配線パターン3の接地端子が設けられた部分と金属パターン20とが接続されている。また、第2絶縁層26は配線パターン3の一部と重なるように設けられている。言い換えれば、第2絶縁層26は、基板2とデバイスチップ10とが重なる領域と金属パターン20との間の少なくとも一部に設けられ、また配線パターン3の少なくとも一部と重なるように設けられている。これにより、基板2内部のビア配線12の本数を減らすことができる(図2参照)。
【0030】
次に、実施例1に係る弾性波デバイスの製造方法について説明する。図5(a)から図7(b)は実施例1に係る弾性波デバイスの製造方法を例示した断面図である。なお、端子4、端子6、ビア配線12、外部端子14及び金属パターン20は省略して図示している。
【0031】
まず、図5(a)に示すように、多面取り構造の圧電基板28を用意する。次に、図5(b)に示すように、圧電基板28の上面(フリップチップ実装後に基板2と対向する面とは反対の面)に例えばエポキシ樹脂等の絶縁体からなる第1絶縁層30を設ける。第1絶縁層30は、例えば液状のエポキシを圧電基板28に塗布する工程、またはシート状のエポキシを圧電基板28に貼り付ける工程等により形成される。また、第1絶縁層30が例えばアルミナ等のセラミックスからなる場合であれば、セラミックス層を貼り付ける工程により形成される。図5(a)及び図5(b)に示した例においては、第1絶縁層30を設ける工程は、フリップチップ実装する工程よりも前に行われる。
【0032】
図5(c)に示すように、第1絶縁層を設けた後、圧電基板28の第1絶縁層30が設けられている面とは反対の面に、例えばAl等の金属からなる例えばIDTである電極パターン13を設ける。
【0033】
図5(d)に示すように、圧電基板28の電極パターン13が設けられた面に、例えばAu等の金属からなるバンプ8を設ける。図5(e)に示すように、バンプ8を設けた後、例えばダイシング工程を行うことで圧電基板28及び第1絶縁層30を個片化する。以上の工程により、第1絶縁層24が設けられたデバイスチップ10が製造される。
【0034】
図6(a)に示すように、複数のデバイスチップ10を多面取り構造の基板32の上面に、バンプ8を用いてフリップチップ実装する。その後、図6(b)に示すように、基板32及びデバイスチップ10の上に、半田シート34及びリッド36を配置する。
【0035】
図6(c)に示すように、上から半田シート34及びリッド36を加圧・加熱する。このとき、例えば約270℃に加熱するため、半田シート34は溶融し、デバイスチップ10の圧電基板11上に設けられた金属パターン20(不図示)上に濡れ広がる。半田シート34が固化し金属パターン20と接続されることにより、デバイスチップ10及び第1絶縁層24は封止金属部16及びリッド18で封止される。封止金属部16はデバイスチップ10の側面に接触していない。
【0036】
図6(d)に示すように、例えばダイシング工程を行うことで、封止金属部16及びリッド36を切断する(切断された後のリッドをリッド18とする)。また、基板32は切断されないが、一部に切込みが入る。
【0037】
図7(a)に示すように、例えばメッキ法により、封止金属部16及びリッド18を覆うように例えばNi等の金属からなる保護膜22を設ける。次に、図7(b)に示すように、例えばダイシング工程を行うことで、基板32を個片化する。以上の工程により、実施例1に係る弾性波デバイスが完成する。
【0038】
次に、弾性波デバイスの別の製造方法について説明する。図8(a)から図8(b)、及び図9(a)から図9(b)の各々は、弾性波デバイスの別の製造方法を例示した断面図である。まず、図8(a)及び図8(b)に示した製造方法について説明する。
【0039】
図8(a)に示すように、圧電基板28に電極パターン13を設ける。次に、図8(b)に示すように、圧電基板28の電極パターン13が設けられた面とは反対の面に、第1絶縁層30を設ける。以上の工程により、図5(c)の状態が製造される。この後、図5(d)以降の工程と同様の工程により、実施例1に係る弾性波デバイスが製造される。
【0040】
次に、図9(a)及び図9(b)に示した製造方法について説明する。図9(a)に示すように、圧電基板28に電極パターン13及びバンプ8を形成する。その後、図9(b)に示すように、圧電基板28の電極パターン13及びバンプ8が形成された面とは反対の面に、第1絶縁層30を形成する。以上の工程により、図5(d)の状態が製造される。この後、図5(e)以降の工程と同様の工程により、実施例1に係る弾性波デバイスが製造される。
【0041】
すなわち、図5(b)、及び図8(a)から図9(b)に示したように、電極パターン13、バンプ8、及び第1絶縁層30の各々を設ける工程は順番を入れ替えてもよい。
【0042】
次に、図1に示した従来例に係る弾性波デバイス、及び図2に示した実施例1に係る弾性波デバイスの各々について行った周波数特性の計算結果を説明する。最初に、計算に用いた回路構成について説明する。図10は計算に用いた構成を例示したブロック図である。
【0043】
図10に示すように、弾性波デバイスをW−CDMA(Wideband Code Division Multiple Access)のバンド1に対応したデュプレクサ50として用いており、デュプレクサは送信端子52(Tx)、受信端子54(Rx)及びアンテナ端子56(Ant)に接続されている。送信用フィルタとしてラダー型フィルタ、受信用フィルタとして共振器及びDMS(Double Mode SAW)フィルタを用いた。
【0044】
図2及び図3(b)を参照に、計算に用いたパラメータについて説明する。図2に示すように、デバイスチップ10が備える圧電基板11の厚さT1は180μm、第1絶縁層24の厚さT2は100μm、リッド18の厚さT3は30μmである。基板2の上面から圧電基板11の基板2と対向する面までの高さH1は80μm、基板2の上面から電極パターン13までの高さH2は79.4μmである。また、図3(b)に示すように、デバイスチップ10の短辺の長さL1は850μmであり、長辺の長さL2は1350μmである。図1に示した従来例に係る弾性波デバイスも上記と同様のパラメータである。また、第1絶縁層24は、比誘電率が3.6であるエポキシ樹脂からなる。
【0045】
次に、送信端子52からアンテナ端子56への通過特性の計算結果について説明する。図11(a)は通過特性の計算結果であり、図11(b)は送信帯域付近の拡大図である。横軸が周波数、縦軸が挿入損失を各々表す。また、実線が実施例に係る弾性波デバイスの計算結果、破線が従来例に係る弾性波デバイスの計算結果を各々表す。
【0046】
図11(a)及び図11(b)に示すように、実施例1によれば従来例と比較して、送信帯域における挿入損失が減少した。例えば1940MHz付近において、従来例では挿入損失が−2.5dB程度であったのに対して、実施例1では−1.9dB程度であった。また、図11(a)に示すように、実施例1によれば従来例と比較して、送信帯域外の高域側における減衰量が増大した。例えば、2050MHz付近において、従来例では減衰量が−40.0dB程度であったのに対して、実施例1では−53.0dB程度であった。
【0047】
次にアンテナ端子56から受信端子54への通過特性の計算結果について説明する。図12(a)は通過特性の計算結果であり、図12(b)は受信帯域付近の拡大図である。
【0048】
図12(a)及び図12(b)に示すように、実施例1によれば従来例と比較して、受信帯域における挿入損失が減少した。例えば2155MHz付近において、従来例では挿入損失が−2.2dB程度であったのに対して、実施例1では−1.7dB程度であった。また、図12(a)に示すように、実施例1によれば従来例と比較して、受信帯域外の低域側における減衰量が増大した。例えば、1930MHz付近において、従来例では減衰量が−48.0dB程度であったのに対して、実施例1では−65.0dB程度であった。以上のように、実施例1によれば従来例と比較して弾性波デバイスの通過特性が改善された。
【0049】
次に、アイソレーション特性及び電圧定材波比(VSWR:Voltage Standing Wave Ratio)の計算結果について説明する。図13(a)はアイソレーション特性の計算結果、図13(b)はアンテナ端子56から送信端子52及び受信端子54の各々でのVSWRの計算結果、図13(c)は送信端子52及び受信端子54の各々でのVSWRの計算結果である。
【0050】
図13(a)に示すように、実施例1によれば従来例と比較して、アイソレーションが増大した。例えば1930MHz付近において、従来例ではアイソレーションが−42.0dBであったのに対し、実施例1では−68.0dBであった。以上のように、実施例1によれば従来例と比較してアイソレーション特性が改善した。
【0051】
図13(b)に示すように、実施例1によれば従来例と比較して、アンテナ端子56でのVSWRが1.0に近づいた。例えば1950MHz付近において、従来例ではVSWRが1.8程度であったのに対し、実施例1では1.4程度となった。また、2150MHz付近において、従来例では2.1程度であったのに対し、実施例1では1.3程度となった。
【0052】
また、図13(c)に示すように、従来例と比較して、実施例1によれば送信端子52及び受信端子54の各々でのVSWRが1.0に近づいた。例えば1950MHz付近において、従来例ではVSWRが2.2程度であったのに対し、実施例1では1.6程度となった。また、2160MHz付近において、従来例では2.2程度であったのに対し、実施例1では1.5程度となった。以上のように、実施例1によれば従来例と比較して、アンテナ端子56でのVSWR、及び送信端子52並びに受信端子54の各々でのVSWRが改善した。
【0053】
以上のように、実施例1によれば、デバイスチップ10に備えられた圧電基板11よりも誘電率が低い第1絶縁層24がデバイスチップ10上に設けられているため、漏れ電界の発生が抑制され、これにより弾性波デバイスの通過帯域における挿入損失の増大やアイソレーション特性の劣化を抑制することが可能となる。また、封止金属部16はデバイスチップ10の側面に接触していないため、漏れ電界の発生をより確実に抑制することができる。また、デバイスチップ10は封止金属部16とリッド18とで封止されているため、弾性波デバイスの気密性は高く保持される。すなわち、実施例1によれば、弾性波デバイスの気密性を高く保持し、かつ弾性波デバイスの通過帯域における挿入損失の増大やアイソレーション特性の劣化を抑制することが可能となる。
【0054】
図11(a)から図13(c)に示した計算においては、第1絶縁層24はエポキシ樹脂からなるとしたが、これに限定されない。低誘電率の材質として、例えば樹脂、サファイア、シリコン、セラミックス、及びガラス等を用いてもよい。特に、エポキシ樹脂は、サファイアやセラミックスより誘電率が小さいため、漏れ電界の抑制に有効である。
【0055】
また、封止金属部16は半田以外の金属であってもよい。しかし、半田を用いることで、気密性高く封止でき、かつ電気的なシールド効果が得られる。また、金属封止を簡単に行うことができるので、封止金属部16は半田からなることが好ましい。
【実施例2】
【0056】
次にリッド18を用いず、デバイスチップ10が第1絶縁層により封止される例について説明する。図14は実施例2に係る弾性波デバイスを例示した断面図である。
【0057】
図14に示すように、デバイスチップ10の基板2と対向する面とは反対の面に例えばアルミナ等で形成された例えばセラミックキャップである第1絶縁層24が設けられている。すなわち、デバイスチップ10は封止金属部16と第1絶縁層24とにより封止されている。封止金属部16がデバイスチップ10の側面に接触していない点は、図2に示した実施例1と同様である。
【0058】
次に、実施例2に係る弾性波デバイスの製造方法について説明する。図15(a)から図16(b)は、実施例2に係る弾性波デバイスの製造方法を例示した断面図である。デバイスチップ10を製造する工程については、第1絶縁層30を設けない点を除いて図5(a)から図5(e)と同様であるため、説明を省略し、デバイスチップ10をフリップチップ実装する工程から説明を開始する。
【0059】
図15(a)に示すように、複数のデバイスチップ10を多面取り構造の基板32の上面にフリップチップ実装する。その後、図15(b)に示すように、基板32及びデバイスチップ10の上に、半田シート34及び第1絶縁層30を配置する。
【0060】
図15(c)に示すように、上から半田シート34及び第1絶縁層30を加圧・加熱する。半田シート34は溶融し、デバイスチップ10の圧電基板11上に設けられた金属パターン20と接続される。以上の工程により、デバイスチップ10は、封止金属部16及び第1絶縁層30により封止される。半田シート34及び第1絶縁層30は加圧されるため、溶融した半田はデバイスチップ10と第1絶縁層30との間から押し出され除去される。また、封止金属部16はデバイスチップ10の側面に接触していない。
【0061】
図15(d)に示すように、例えばダイシング工程を行うことで、封止金属部16及び第1絶縁層30を切断する(切断された後の第1絶縁層を第1絶縁層24とする)。
【0062】
図16(a)に示すように、例えばメッキ法により、封止金属部16及び第1絶縁層24を覆うように保護膜22を設ける。次に、図16(b)に示すように、基板32を個片化する。以上の工程により、実施例2に係る弾性波デバイスが完成する。
【0063】
実施例2によれば、実施例1と同様に、デバイスチップ10に備えられた圧電基板11よりも低誘電率の第1絶縁層24がデバイスチップ10上に設けられている。また、封止金属部16はデバイスチップ10の側面に接触していない。従って、漏れ電界の発生が抑制される。さらに第1絶縁層24及び封止金属部16はデバイスチップ10を封止している、このため、弾性波デバイスの気密性を高く保持し、かつ弾性波デバイスの挿入損失の増大やアイソレーション特性の劣化を抑制することが可能となる。
【実施例3】
【0064】
次に、第1絶縁層24を用いない例について説明する。図17は実施例3に係る弾性波デバイスを例示した断面図である。
【0065】
図17に示すように、デバイスチップ10は封止金属部16とリッド18とにより封止されている。封止金属部16はデバイスチップ10の側面に接していない。
【0066】
図1に示した従来例に係る弾性波デバイス及び図17に示した実施例3に係る弾性波デバイスについて行った周波数特性の計算結果を説明する。計算に用いた回路構成は図10に示したものと同様であり、パラメータについても既述したものと同様である(図2参照)。
【0067】
まず、送信端子52からアンテナ端子56への通過特性の計算結果について説明する。図18(a)は通過特性の計算結果であり、図18(b)は送信帯域付近の拡大図である。実線が実施例3に係る弾性波デバイスの計算結果、破線が従来例に係る弾性波デバイスの計算結果を各々表す。
【0068】
図18(a)及び図18(b)に示すように、実施例3によれば従来例と比較して、送信帯域における挿入損失が減少した。例えば、1950MHz付近において、従来例では挿入損失が−2.9dB程度であったのに対して、実施例3では−2.4dB程度であった。また、図18(a)に示すように、実施例3によれば従来例と比較して、送信帯域外の高域側における減衰量が増大した。例えば、2080MHz付近において、従来例では減衰量が−58.0dB程度であったのに対して、実施例3では−72.0dB程度であった。
【0069】
次に、アンテナ端子56から受信端子54への通過特性の計算結果について説明する。図19(a)は通過特性の計算結果であり、図19(b)は受信帯域付近の拡大図である。
【0070】
図19(a)及び図19(b)に示すように、実施例3によれば従来例と比較して、受信帯域における挿入損失が減少した。例えば、2155MHz付近において、従来例では挿入損失が−2.8dB程度であったのに対して、実施例3では−2.4dB程度であった。また、図19(a)に示すように、実施例3によれば従来例と比較して、受信帯域外の低域側における減衰量が増大した。例えば1930MHz付近において、従来例では減衰量が−51.0dB程度であったのに対して、実施例3では−54.0dB程度であった。以上のように、実施例3によれば従来例と比較して弾性波デバイスの通過特性が改善された。
【0071】
次に、アイソレーション特性及びVSWRの計算結果について説明する。図20(a)はアイソレーション特性の計算結果、図20(b)はアンテナ端子56でのVSWRの計算結果、図20(c)は送信端子52及び受信端子54の各々でのVSWRの計算結果である。
【0072】
図20(a)に示すように、実施例3によれば従来例と比較して、アイソレーションが増大した。例えば1930MHz付近において、従来例ではアイソレーションが−50.0dB程度であったのに対し、実施例1では−54.0dB程度であった。以上のように、実施例3によれば従来例と比較してアイソレーション特性が改善した。
【0073】
図20(b)に示すように、実施例3によれば従来例と比較して、アンテナ端子56でのVSWRが1.0に近づいた。例えば1950MHz付近において、従来例ではVSWRが2.2程度であったのに対し、実施例3では1.8程度となった。また、2150MHzにおいて、従来例では2.2程度であったのに対し、実施例3では1.9程度となった。
【0074】
また、図20(c)に示すように、従来例と比較して、実施例3によれば送信端子52及び受信端子54の各々でのVSWRが1.0に近づいた。例えば、1950MHz付近において、従来例では2.4程度であったのに対し、実施例3では2.0程度となった。また、2150MHz付近において、従来例では2.4程度であったのに対し、実施例3では2.1程度となった。以上のように、実施例3によれば従来例と比較して、アンテナ端子56でのVSWR、及び送信端子52並びに受信端子54の各々でのVSWRが改善した。
【0075】
すなわち、実施例3によれば、封止金属部16がデバイスチップ10の側面に接触していないため、漏れ電界の発生が抑制される。また、デバイスチップ10は封止金属部16とリッド18とで封止されている。これにより、弾性波デバイスの気密性を高く保持し、かつ弾性波デバイスの通過帯域における挿入損失の増大やアイソレーション特性の劣化を抑制することが可能となる。
【0076】
デバイスチップ10はSAWデバイスチップであるとしたが、例えば弾性境界波デバイスチップであっても、本発明は適用可能である。すなわち、弾性波デバイスはSAWデバイスでも弾性境界波デバイスでもよい。
【0077】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】図1は従来例に係る弾性波デバイスを例示した断面図である。
【図2】図2は実施例1に係る弾性波デバイスを例示した断面図である。
【図3】図3(a)はデバイスチップ実装前の基板を例示した平面図であり、図3(b)はデバイスチップ実装後の基板を例示した平面図である。
【図4】図4(a)及びは図4(b)はデバイスチップ実装前の基板を例示した平面図であり、図4(c)はデバイスチップ実装後の基板を例示した平面図である。
【図5】図5(a)から図5(e)は実施例1に係る弾性波デバイスの製造方法を例示した断面図である。
【図6】図6(a)から図6(d)は実施例1に係る弾性波デバイスの製造方法を例示した断面図である。
【図7】図7(a)及び図7(b)は実施例1に係る弾性波デバイスの製造方法を例示した断面図である。
【図8】図8(a)及び図8(b)は実施例1に係る弾性波デバイスの別の製造方法を例示した断面図である。
【図9】図8(a)及び図9(b)は実施例1に係る弾性波デバイスの別の製造方法を例示した断面図である。
【図10】図10は計算に用いた構成を例示したブロック図である。
【図11】図11(a)は従来例に係る弾性波デバイスと実施例1に係る弾性波デバイスとにおける通過特性の計算結果であり、図11(b)は送信帯域付近の拡大図である。
【図12】図12(a)は従来例に係る弾性波デバイスと実施例1に係る弾性波デバイスとにおける通過特性の計算結果であり、図12(b)は受信帯域付近の拡大図である。
【図13】図13(a)はアイソレーション特性の計算結果であり、図13(b)はアンテナでのVSWRの計算結果であり、図13(c)は送信端子及び受信端子の各々でのVSWRの計算結果である。
【図14】図14は実施例2に係る弾性波デバイスを例示した断面図である。
【図15】図15(a)から図15(d)は実施例2に係る弾性波デバイスの製造方法を例示した断面図である。
【図16】図16(a)及び図16(b)は実施例2に係る弾性波デバイスの製造方法を例示した断面図である。
【図17】図17は実施例3に係る弾性波デバイスを例示した断面図である。
【図18】図18(a)は従来例に係る弾性波デバイスと実施例3に係る弾性波デバイスとにおける通過特性の計算結果であり、図18(b)は送信帯域付近の拡大図である。
【図19】図19(a)は従来例に係る弾性波デバイスと実施例3に係る弾性波デバイスとにおける通過特性の計算結果であり、図19(b)は受信帯域付近の拡大図である。
【図20】図20(a)はアイソレーション特性の計算結果であり、図20(b)はアンテナでのVSWRの計算結果であり、図20(c)は送信端子及び受信端子の各々でのVSWRの計算結果である。
【符号の説明】
【0079】
基板 2
端子 4、6
バンプ 8
デバイスチップ 10
圧電基板 11、28
電極パターン 13
封止金属部 16
金属パターン 20
第1絶縁層 24、30
第2絶縁層 26
デュプレクサ 50
送信端子 52
受信端子 54
アンテナ端子 56

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
圧電基板を備え、前記基板の上面にフリップチップ実装されたデバイスチップと、
前記デバイスチップが備える前記圧電基板の誘電率より低い誘電率を有し、前記デバイスチップの前記基板と対向する面とは反対の面に設けられた第1絶縁層と、
前記デバイスチップを封止する封止金属部とを具備することを特徴とする弾性波デバイス。
【請求項2】
前記封止金属部は前記デバイスチップの側面に接触していないことを特徴とする請求項1記載の弾性波デバイス。
【請求項3】
基板と、
圧電基板を備え、前記基板の上面にフリップチップ実装されたデバイスチップと、
前記デバイスチップの側面に接触しないように、前記デバイスチップを封止する封止金属部とを具備することを特徴とする弾性波デバイス。
【請求項4】
前記基板の上面であって前記基板と前記デバイスチップとが重なる領域よりも外側に設けられ、前記封止金属部と接続されている金属パターンを具備することを特徴とする請求項1から3いずれか一項記載の弾性波デバイス。
【請求項5】
前記基板の上面であって前記基板と前記デバイスチップとが重なる領域と前記金属パターンとの間の少なくとも一部に設けられている第2絶縁層を具備することを特徴とする請求項4記載の弾性波デバイス。
【請求項6】
前記基板の上面に設けられ、前記デバイスチップ及び前記金属パターンに接続された配線パターンを具備し、
前記第2絶縁層は前記金属パターンの少なくとも一部と重なるように設けられていることを特徴とする請求項5記載の弾性波デバイス。
【請求項7】
前記第1絶縁層は、樹脂、サファイア、シリコン、セラミックス及びガラスのいずれか一つからなることを特徴とする請求項1、2、及び4から6いずれか一項記載の弾性波デバイス。
【請求項8】
前記第1絶縁層はエポキシ樹脂からなることを特徴とする請求項1、2、及び4から7いずれか一項記載の弾性波デバイス。
【請求項9】
前記封止金属部は半田からなることを特徴とする請求項1から8いずれか一項記載の弾性波デバイス。
【請求項10】
圧電基板を備えたデバイスチップを、基板の上面にフリップチップ実装する工程と、
前記デバイスチップの前記基板と対向する面とは反対の面に、前記デバイスチップが備える前記圧電基板の誘電率より低い誘電率を有する第1絶縁層を設ける工程と、
前記基板の上面であって前記基板と前記デバイスチップとが重なる領域よりも外側に設けられた金属パターンと接続され、かつ前記デバイスチップの側面に接触しないように、前記デバイスチップを封止金属部で封止する工程とを有することを特徴とする弾性波デバイスの製造方法。
【請求項11】
前記第1絶縁層を設ける工程は、前記フリップチップ実装する工程よりも前に行われることを特徴とする請求項10記載の弾性波デバイスの製造方法。
【請求項12】
前記第1絶縁層を設ける工程は、前記封止する工程を含むことを特徴とする請求項10記載の弾性波デバイスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2010−74418(P2010−74418A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−238482(P2008−238482)
【出願日】平成20年9月17日(2008.9.17)
【出願人】(398067270)富士通メディアデバイス株式会社 (198)
【Fターム(参考)】