説明

弾性波フィルタ

【課題】 温度補償膜を用いた弾性波フィルタの広帯域化及び整合改善を図ると共に、共振周波数のずれを抑制することを目的とする。
【解決手段】 本発明は、複数の圧電薄膜共振子を含む弾性波フィルタであって、圧電薄膜共振子は、基板10と、基板10上に設けられた圧電薄膜14と、圧電薄膜の少なくとも一部を挟んで設けられた下部電極12及び上部電極18と、下部電極12及び上部電極18が対向する共振領域40に設けられ、共振領域40とは異なる形状を有する周波数制御用の質量負荷膜24と、共振領域40に設けられ、圧電薄膜14の弾性定数の温度係数とは逆符号の温度係数を持つ温度補償膜16と、を備え、複数の圧電薄膜共振子のうち少なくとも2つは、質量負荷膜24の面積が互いに異なることを特徴とする弾性波フィルタである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性波フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話をはじめとする無線機器等のフィルタとして、バルク波(BAW:Bulk Acoustic Wave)を用いたBAWフィルタが知られている。BAWフィルタは、複数の圧電薄膜共振子から構成され、個々の圧電薄膜共振子は、上部電極と下部電極とが圧電薄膜を挟んで対向する構造を有する。圧電薄膜共振子の共振周波数は、上部電極と下部電極とが対向する領域(以下、共振領域)の構成材料及び膜厚によって定められる。
【0003】
圧電薄膜共振子の共振周波数を異ならせるため、共振領域内に質量負荷膜を形成する技術が知られている(例えば、特許文献1〜3)。質量負荷膜のパターンや厚みを変更することにより、共振周波数を任意に変更することができる。また、温度変化による周波数シフトを抑制するために、共振領域内に温度補償膜を形成する技術が知られている(例えば、特許文献4)。温度補償膜は、例えば圧電薄膜の中央部に形成され、圧電薄膜の共振周波数の温度係数と逆符号の温度係数を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−335141号公報
【特許文献2】特表2002−515667号公報
【特許文献3】特表2007−535279号公報
【特許文献4】特開昭58−137317号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
圧電薄膜共振子に温度補償膜を用いた弾性波フィルタでは、周波数温度係数TCF(Temperature Coefficient of Frequency)と、フィルタの比帯域幅に比例する係数である実効的電気機械結合係数Keffとが、トレードオフの関係にある。従って、TCFを改善しようとするとKeffが低下し、比帯域幅が小さくなるため、広帯域のフィルタを得ることが難しいという課題があった。一方で、無理に広帯域化を図ろうとすると、フィルタの整合が悪化してしまうという課題があった。
【0006】
また、従来の弾性波フィルタでは、圧電薄膜に温度補償膜を挿入することにより、温度補償膜を表層に形成する場合に比べて共振周波数の膜厚依存性が大きくなり、共振周波数のばらつきが増大してしまうという課題があった。
【0007】
本発明は上記の課題に鑑みなされたものであり、圧電薄膜に温度補償膜が挿入された弾性波フィルタの広帯域化及び整合改善を図ると共に、共振周波数のばらつきを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、複数の圧電薄膜共振子を含む弾性波フィルタであって、前記圧電薄膜共振子は、基板と、前記基板上に設けられた圧電薄膜と、前記圧電薄膜の少なくとも一部を挟んで設けられた下部電極及び上部電極と、前記下部電極及び上部電極が対向する共振領域に設けられ、前記共振領域とは異なる形状を有する周波数制御用の質量負荷膜と、少なくとも一部が、前記共振領域における、前記下部電極及び前記上部電極の間に設けられ、前記圧電薄膜の弾性定数の温度係数とは逆符号の温度係数を持つ温度補償膜と、を備え、前記複数の圧電薄膜共振子のうち少なくとも2つは、前記質量負荷膜の面積が互いに異なることを特徴とする弾性波フィルタである。
【0009】
上記構成において、前記複数の圧電薄膜共振子は、前記弾性波フィルタの直列腕及び並列腕のそれぞれに複数配置され、前記直列腕に配置された前記複数の圧電薄膜共振子、及び前記並列腕に配置された前記複数の圧電薄膜共振子の少なくとも一方は、前記質量負荷膜の面積が互いに異なる2つの前記圧電薄膜共振子を含む構成とすることができる。
【0010】
上記構成において、前記温度補償膜は、酸化シリコンを主成分とする構成とすることができる。
【0011】
上記構成において、前記圧電薄膜は、窒化アルミニウムである構成とすることができる。
【0012】
上記構成において、前記窒化アルミニウムは、圧電定数を高める元素を含有する構成とすることができる。
【0013】
上記構成において、入力端子及び出力端子と、前記入力端子とグランドとの間、及び前記出力端子とグランドとの間の少なくとも一方に接続された第1インダクタと、を備える構成とすることができる。
【0014】
上記構成において、前記複数の圧電薄膜共振子のうち前記並列腕に接続された前記圧電薄膜共振子とグランドとの間に接続された第2インダクタを備える構成とすることができる。
【0015】
上記構成において、前記弾性波フィルタにおける通過帯域端の周波数温度係数をT[ppm/℃]とした場合に、比帯域幅が−0.041*T+2.17[%]以上である構成とすることができる。
【0016】
本発明は、送信用フィルタ及び受信用フィルタを備えたデュプレクサであって、前記送信用フィルタ及び前記受信用フィルタの少なくとも一方は、上記いずれかに記載の弾性波フィルタを含むことを特徴とするデュプレクサ。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、圧電薄膜に温度補償膜が挿入された弾性波フィルタの広帯域化及び整合改善を図ると共に、共振周波数のばらつきを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、比較例及び実施例1に係る弾性波フィルタの回路構成を示す図である。
【図2】図2は、比較例に係る圧電薄膜共振子の構成を示す模式図である。
【図3】図3は、温度補償膜の膜厚と、周波数温度係数(TCF)及び実効的電気機械結合係数(Keff)との関係を示すグラフである。
【図4】図4は、周波数温度係数(TCF)と比帯域幅との関係を示すグラフである。
【図5】図5は、比較例及び実施例1〜3に係る弾性波フィルタにおける、各圧電薄膜共振子の共振周波数を示す表である。
【図6】図6は、比較例に係る弾性波フィルタの帯域特性を示すグラフである。
【図7】図7は、実施例1に係る圧電薄膜共振子の構成を示す模式図である。
【図8】図8は、質量負荷膜の構成を示す模式図である。
【図9】図9は、質量負荷膜の被覆率と共振周波数との関係を示す表である。
【図10】図10は、実施例1に係る弾性波フィルタの帯域特性を示すグラフである。
【図11】図11は、実施例2に係る弾性波フィルタの回路構成を示す図である。
【図12】図12は、実施例2に係る弾性波フィルタの帯域特性を示すグラフ(その1)である。
【図13】図13は、実施例2に係る弾性波フィルタの帯域特性を示すグラフ(その2)である。
【図14】図14は、実施例3に係る弾性波フィルタの帯域特性を示すグラフである。
【図15】図15は、実施例1〜3の変形例に係る圧電薄膜共振子の構成を示す模式図である。
【図16】図16は、実施例1〜3の変形例に係る弾性波フィルタの回路構成を示す図である。
【図17】図17は、実施例1〜3に係る弾性波フィルタを用いたデュプレクサの回路構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(比較例)
図1は、比較例及び実施例1に係る弾性波フィルタの構成を示す回路図である。弾性波フィルタは、直列共振子S1〜S4、並列共振子P1〜P3、及びインダクタL1〜L2を含むラダー型フィルタである。直列共振子S1〜S4、並列共振子P1〜P3は、それぞれ圧電薄膜共振子である。直列共振子S1〜S4は、出力端子Outと入力端子Inとの間に直列に接続されている。並列共振子P1は直列共振子S1及びS2の間に、並列共振子P2は直列共振子S2及びS3の間に、並列共振子P3は直列共振子S3及びS4の間に、それぞれ一端が接続されている。並列共振子P1〜P3の他端は共通化され、インダクタL1を介して接地されている。一端が出力端子Outと直列共振子S1との間には、一端が接地されたインダクタL2が接続されている。
【0020】
図2は、比較例に係る弾性波フィルタを構成する圧電薄膜共振子の構成を示す模式図である。図2(a)は圧電薄膜共振子の上面模式図、図2(b)は直列共振子S1〜S4の断面模式図、図2(c)は並列共振子P1〜P3の断面模式図である。図2(a)は直列共振子S1〜S4及び並列共振子P1〜P3に共通の図であり、図2(b)及び(c)は、それぞれ図2(a)のA−A線に沿った断面模式図となっている。
【0021】
図2(b)に示すように、直列共振子S1〜S4は、基板10上に下部電極12、第1圧電薄膜14a、温度補償膜16、第2圧電薄膜14b、上部電極18(ルテニウム(Ru)層18a及びクロム(Cr)層18bを含む)、及び周波数調整膜20が順に積層された構造を有する(以下、積層膜30とする)。上部電極18と下部電極12とが圧電薄膜(第1圧電薄膜14a及び第2圧電薄膜14b)を挟んで対向する領域が、共振領域40となっている。共振領域40において、下部電極12は上方向が凸になるように湾曲して形成され、それにより基板10との間にドーム状の空隙42が形成されている。また、第1圧電薄膜14a、温度補償膜16、及び第2圧電薄膜14bの一部はエッチングにより除去され、上記3層の外周の少なくとも一部が上部電極18の内側に位置するように形成されている。
【0022】
図2(c)に示すように、並列共振子P1〜P3は、直列共振子S1〜S4と基本的に同様の構成を有するが、上部電極18におけるRu層18aとCr層18bとの間に、質量負荷膜(以下、第1質量負荷膜22)が形成されている点が異なる。並列共振子P1〜P3は、第1質量負荷膜22を備えることにより、直列共振子S1〜S4に比べて共振周波数が低周波側にシフトされている。なお、並列共振子P1〜P3の共振周波数を低周波側にシフトさせるためには、第2質量負荷膜24を形成する代わりに、積層膜30のうち特定の層の厚みを、直列共振子S1〜S4における同じ層の厚みに比べて大きくしてもよい。
【0023】
図2(a)に示すように、共振領域40付近における下部電極12の表面には、エッチング媒体導入孔50が設けられている。また、エッチング媒体導入孔50と空隙42との間には、エッチング媒体導入路52が形成されている。また、下部電極12については、点線で示された全体部分のうち、圧電薄膜(14a、14b)の開口部から一部(斜線部)が露出する構成となっている。
【0024】
基板10としては、例えばシリコン(Si)を用いることができるが、他にもガラス、セラミック等を用いることができる。また、下部電極12として基板10からクロム(Cr)及びルテニウム(Ru)が順に積層された電極膜を用い、上部電極18として基板10側からルテニウム(Ru)及びクロム(Cr)が順に積層された電極膜を用いることができる。しかし、下部電極12及び上部電極18には、他にもアルミニウム(Al)、銅(Cu)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、チタン(Ti)等を組み合わせて用いることができる。また、電極膜を2層構造とせずに、1層構造とすることもできる。
【0025】
また、第1圧電薄膜14a及び第2圧電薄膜14bとしては、例えば窒化アルミニウム(AlN)を用いることができるが、他にも酸化亜鉛(ZnO)、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、チタン酸鉛(PbTiO)等の圧電材を用いることができる。温度補償膜16は、圧電薄膜(14a、14b)の弾性定数の温度係数とは逆符号の温度係数を有する膜であり、例えば二酸化珪素(SiO)を用いることができるが、他にも酸化シリコンを主成分とし他の元素を含有する膜を用いることができる。周波数調整膜20としては、例えば二酸化珪素(SiO)を用いることができるが、他にも窒化アルミニウム(AlN)等の別の絶縁材料を用いることができる。並列共振子P1〜P3に用いられる第1質量負荷膜22としては、チタン(Ti)を用いることができるが、他にもアルミニウム(Al)、銅(Cu)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、二酸化珪素(SiO)等を用いることができる。
【0026】
上述の積層膜30は、例えばスパッタリング法等により成膜を行い、フォトリソグラフィー技術及びエッチング技術により所望の形状にパターニングすることで形成することができる。また、積層膜30のパターニングは、リフトオフ技術により行うこともできる。第1圧電薄膜14a、温度補償膜16、及び第2圧電薄膜14bの外周のエッチングは、例えば上部電極18をマスクとしたウェットエッチングにより行うことができる。
【0027】
下部電極12の下方に位置するドーム状の空隙42は、下部電極12を形成する前に予め設けられていた犠牲層(不図示)を、上述の積層膜30の形成後に除去することにより形成することができる。犠牲層には、例えばMgO、ZnO、Ge、SiO等の、エッチング液またはエッチングガスにより容易に溶解することができる材料を用いることができ、例えばスパッタリング法または蒸着法等により形成することができる。犠牲層は、フォトリソグラフィー技術及びエッチング技術により、予め所望の形(空隙42の形状)に成形される。積層膜30の形成後は、下部電極12に形成されたエッチング媒体導入孔50及びエッチング媒体導入路52を介して、下部電極12の下にエッチング媒体を導入することにより、犠牲層の除去を行う。
【0028】
図3は、圧電薄膜(14a、14b)の中央部に温度補償膜16が設けられた弾性波フィルタにおける、温度補償膜16の膜厚に対する、周波数温度係数(TCF)及び実効的電気機械結合係数(Keff)の関係を示すグラフである。各積層膜の材質及び膜厚は、基板10側から順に、下部電極12がCr(100nm)及びRu(200nm)、第1圧電薄膜14aがAlN(630nm)、温度補償膜16がSiO、第2圧電薄膜14bがAlN(630nm)、上部電極18がRu(230nm)及びCr(35nm)としてシミュレーションを行った。図示するように、TCF[ppm/℃]とKeff[%]との間にはトレードオフの関係があり、温度補償膜16(SiO)の膜厚を大きくすると、TCFの値は改善(絶対値が減少)するが、Keffの値は減少してしまう。
【0029】
図4は、周波数温度係数TCFと比帯域幅との関係を示すグラフである。ここで、所望の比帯域幅[%](=帯域幅*100/中心周波数)を有するラダー型フィルタを得るためには、当該比帯域幅の約2倍のKeffが必要とされるという関係が知られている。TCFの値をT[ppm/℃]とすると、比帯域幅は、「比帯域幅[%]=−0.041*T+2.17」という関係式で表される。図4は、上記の関係式をグラフに表したものである。図3及び図4によれば、TCFの値を改善するために温度補償膜16を厚くすると、Keffが低下し、その結果フィルタの比帯域幅が小さくなってしまう。
【0030】
図5は、比較例及び実施例1〜3に係る弾性波フィルタにおける、各圧電薄膜共振子の共振周波数を示す表である。ここでは、Band2(送信帯域:1850−1910MHz、受信帯域:1930−1990MHz)の送信向けのフィルタを例に説明する。フィルタA、B、及びGは比較例(図1)、フィルタCは実施例1(図1)、フィルタD〜Fは実施例2(図11)に係る弾性波フィルタであるが、それぞれ4つの直列共振子S1〜S4と3つの並列共振子P1〜P3を備えている点は共通である。また、フィルタA〜Gのうち、フィルタB〜Gの圧電薄膜共振子は、図2に示すように、圧電薄膜(14a、14b)に温度補償膜16を挿入した構成となっている。一方、フィルタAの圧電薄膜共振子は、温度補償膜16を圧電薄膜に挿入せずに表層に設けた構成となっている(フィルタAの構成を示す図面は省略している)。
【0031】
比較例に係る弾性波フィルタ(フィルタA、B、及びG)では、直列共振子S1〜S4の共振周波数は互いに等しく設定され(A:1878MHz、B:1886MHz、G:1893MHz)、並列共振子P1〜P3の共振周波数も互いに等しく設定されている(A:1815MHz、B:1837MHz、G:1834MHz)。換言すれば、比較例に係る弾性波フィルタでは、直列共振子S1〜S4の全ての共振周波数がそれらの平均値と等しく、並列共振子P1〜P3の全ての共振周波数がそれらの平均値と等しくなっている。
【0032】
図6は、比較例に係る弾性波フィルタのうち、フィルタA及びBの帯域特性の比較を示すグラフである。フィルタAの各積層膜の材質及び膜厚は、基板10側から順に、下部電極12がCr(100nm)及びRu(230nm)、圧電薄膜14がAlN(1300nm)、上部電極18がRu(符号18a、230nm)及びCr(符号18b、30nm)、第1質量負荷膜22(並列共振子P1〜P3のみ)がTi(110nm)、周波数調整膜20がSiO(50nm)としてシミュレーションを行った。
【0033】
フィルタBの各積層膜の材質及び膜厚は、基板10側から順に、下部電極12がCr(85nm)及びRu(195nm)、第1圧電薄膜14aがAlN(550nm)、温度補償膜16がSiO(70nm)、第2圧電薄膜がAlN(550nm)、上部電極18がRu(195nm)及びCr(25nm)、第1質量負荷膜22(並列共振子P1〜P3のみ)がTi(80nm)、周波数調整膜20がSiO(50nm)としてシミュレーションを行った。温度補償膜16(SiO)の厚みを70nmとすることにより、フィルタのTCFを実質的に0とした。
【0034】
図6(a)はフィルタ帯域の通過特性を、図6(b)は出力端子におけるリターンロス特性を、図6(c)は入力端子におけるリターンロス特性をそれぞれ示している。フィルタAの特性は点線で、フィルタBの特性は実線で示している。グラフの中央部における水平方向の直線は、Band2で要求される通過帯域(1850−1910MHz)及び減衰レベルを示している(以下のグラフにおいても同様とする)。温度補償膜16が挿入されたフィルタBでは、温度補償膜16を備えていないフィルタAに比べ、入力端子及び出力端子における整合状態が悪く、帯域幅が小さくなってしまっている。なお、フィルタAにおけるKeffの値は6.7〜7.3%であり、フィルタBにおけるKeffの値は4.4〜4.6%である。このように、フィルタBではフィルタAに比べてKeffの値が減少し、その結果帯域幅が小さくなっている。
【0035】
以上のように、比較例に係る弾性波フィルタでは、ラダーフィルタを構成する共振子の圧電薄膜(14a、14b)の中央部に温度補償膜16を挿入することで、TCFは改善するものの、Keffが低下し、帯域幅が小さくなってしまう。一方で、無理に広帯域化を図ろうとすると、フィルタの整合が悪化してしまう。
【0036】
また、温度補償膜16を圧電薄膜(14a、14b)の中央部に挟んだ場合、温度補償膜16が表層にある場合に比べ、共振周波数の膜厚依存性が大きくなってしまう。例えば、フィルタAのように、温度補償膜を表層に設けた場合、1%の膜厚変動に対する共振周波数の変化量は0.007%であるが、フィルタB〜Gのように、温度補償膜を圧電薄膜の間に設けた場合には、上記変化量は0.14%と大幅に増大する。その結果、共振周波数のばらつきが増大し、より厳しい周波数制御が必要となってしまう。
【0037】
以下の実施例では、上記の各課題を解決し、弾性波フィルタの広帯域化及び整合改善を図ると共に、共振周波数のばらつきを抑制することのできる構成について説明する。
【実施例1】
【0038】
図7(a)〜(c)は、実施例1に係る弾性波フィルタにおける圧電薄膜共振子の構成を示す模式図であり、比較例の図2(a)〜(c)にそれぞれ対応する。実施例1に係る圧電薄膜共振子の構成は、基本的に比較例と同様であるが、上部電極18と周波数調整膜20との間の共振領域40に、周波数制御用の質量負荷膜(以下、第2質量負荷膜24)が形成されている点が異なる。第2質量負荷膜24は、後述するように、弾性波フィルタを構成する各共振子の共振周波数を異ならせるために使用される。比較例に係る弾性波フィルタ(フィルタA、B、及びG)では、第2質量負荷膜24は使用されていない。
【0039】
図8は、第2質量負荷膜24の詳細な構成を示す模式図である。図8(a)及び(b)は上面模式図であり、図8(c)〜(f)は断面模式図である。図8(a)及び(b)に示すように、第2質量負荷膜24には、同一形状且つ同一サイズのパターン(以下、点状パターン60)が等間隔で形成されており、各点状パターン60同士は、より小さい幅のパターン(以下、線状パターン62)で接続されている。図8(c)は図8(a)のA−A線に沿った断面模式図であり、点状パターン60及び線状パターン62が凸型構造となるように形成されている。図8(d)は図8(b)のA−A線に沿った断面模式図であり、点状パターン60及び線状パターン62が凹型構造となるように形成されている。また、図8(e)及び(f)は、それぞれ図8(c)及び(d)に対応する変形例であり、第2質量負荷膜24の凹部における厚みが大きくなっている。第2質量負荷膜24に形成されるパターンは、上記以外にも様々な形状とすることができる。
【0040】
本実施例では、第2質量負荷膜24としてチタン(Ti)を用いているが、他にもアルミニウム(Al)、銅(Cu)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、二酸化珪素(SiO)等を用いることができる。第2質量負荷膜24のパターニングの際には、例えばフォトリソグラフィー技術及びエッチング技術を用いて、所望のパターンを形成することができる。また、エッチングが困難な場合には、リフトオフ技術を用いて第2質量負荷膜24のパターニングを行ってもよい。
【0041】
実施例1では、第2質量負荷膜24をパターニングすることにより、各共振子における質量負荷膜の面積(被覆率)を変化させ、共振周波数を互いに異ならせることができる。以下、この点について詳細に説明する。
【0042】
図9(a)〜(b)は、質量負荷膜の被覆率と共振周波数との関係を示す表である。図9(a)は、共振周波数が設計値通りとなっている例であり、図9(b)は、膜厚が設計値からずれたことにより、共振周波数が設計値からずれている場合の例である。ここでは、後述の実施例2に係るフィルタD(図5、図11参照)を例に説明を行うが、フィルタDの構成は実施例1に係るフィルタCの構成と基本的に同様であり、図9に示す被覆率と共振周波数との関係は、フィルタCに対しても同様に該当する。フィルタDの各積層膜の材質及び膜厚は、基板10側から順に、下部電極12がCr(85nm)及びRu(195nm)、第1圧電薄膜14aがAlN(550nm)、温度補償膜16がSiO(70nm)、第2圧電薄膜がAlN(550nm)、上部電極18がRu(195nm)及びCr(25nm)、第1質量負荷膜22(並列共振子P1〜P3のみ)がTi(95nm)、第2質量負荷膜24がTi(膜厚は後述)、周波数調整膜20がSiO(10nm)となっている。これらは、実施例1に係るフィルタCの積層膜30の構成と同様である。
【0043】
図9において、被覆率0%とは、第2質量負荷膜24が全く形成されていない状態を示し、被覆率100%とは、第2質量負荷膜24が形成され且つパターン加工されていない状態を示す。図9(a)に示すように、直列共振子S1〜S4及び並列共振子P1〜P3のそれぞれのうち、最も高い共振周波数を有する共振子(S4、P2)において、第2質量負荷膜24の被覆率が0%となっている。これらの共振子S4及びP2からの周波数の差分が、必要な周波数シフト量である。本実施例では、周波数を最大13MHzシフトさせる必要がある。第2質量負荷膜24(Ti)の膜厚に対する周波数シフト量は0.63MHz/nmであることから、必要な膜厚は21nmとなる。そして、周波数制御用の第2質量負荷膜24の被覆率に対して周波数はリニアにシフトすることから、各共振子における被覆率は図9(a)のように導かれる。
【0044】
また、図9(b)に示すように、共振子の共振周波数が設計値からずれている(本実施例では所望値より3MHz高めにずれているものとする)場合、必要な周波数シフト量は、図9(a)から+3MHzした値となり、最大シフト量は16MHzとなる。このとき、第2質量負荷膜24に必要な膜厚は25nmとなり、各共振子における被覆率は図9(b)のように導かれる。
【0045】
実施例1に係る弾性波フィルタでは、上記の関係を利用して、第2質量負荷膜24にパターニングを施すことにより被覆率(面積)を変化させ、各共振子の共振周波数を任意に変更することができる。ここで、被覆率が小さい場合(例えば、50%未満)には、図8(a)、(c)、(e)に示すような凸型のパターンを用い、被覆率が大きい場合(例えば、50%以上)場合には、図8(b)、(d)、(f)に示すような凹型のパターンを用いることが好ましい。
【0046】
図10は、実施例1に係る弾性波フィルタ(フィルタC)と、比較例(フィルタB)との帯域特性の比較を示すグラフである。フィルタBの各積層膜の材質及び膜厚は、比較例にて説明したものと同様であり、フィルタCの各積層膜の材質及び膜厚は、フィルタDと同様である。図5に示すように、実施例1に係るフィルタCでは、直列共振子S1〜S4のうちS1の共振周波数が1896MHzであり、残りの直列共振子S2〜S4の共振周波数は1886MHzで等しく、4つある直列共振子S1〜S4のうち1つの共振周波数が異なる構成となっている。また、フィルタCでは、並列共振子P1〜P3のうちP1の共振周波数が1834MHz、P2の共振周波数が1843MHz、P3の共振周波数が1838MHzとなっており、全ての並列共振子P1〜P3の共振周波数が異なる構成となっている。
【0047】
図10(a)はフィルタ帯域の通過特性を、図10(b)は出力端子におけるリターンロス特性を、図10(c)は入力端子におけるリターンロス特性をそれぞれ示している。第2質量負荷膜24のパターニングにより各共振子の共振周波数を異ならせたフィルタCでは、直列共振子S1〜S4及び並列共振子P1〜P3のそれぞれにおいて共振子の共振周波数が等しいフィルタBに比べ、入力端子及び出力端子における整合状態が改善されている。
【0048】
以上のように、実施例1に係る弾性波フィルタによれば、共振領域40に設けられた第2質量負荷膜24の面積(被覆率)を変化させることにより、ラダーフィルタにおける各圧電薄膜共振子の共振周波数を異ならせることができる。その結果、SiO等の温度補償膜16を用いた弾性波フィルタの広帯域化及び整合改善を図ることができる。また、温度補償膜16の膜厚のばらつきにより共振周波数が所望の値からずれた場合でも、図9(b)のように第2質量負荷膜24の面積(被覆率)を変化させることで、共振周波数のずれを修正することができる。その結果、周波数のばらつきを抑制することができる。
【0049】
弾性波フィルタにおける各共振子の共振周波数を制御する方法としては、他にも共振子ごとに積層膜30の一部の膜厚を変更する方法や、質量負荷膜を別途設ける等の方法が考えられる。しかし、上記の方法では、異ならせる共振周波数の数が増えるに従い、製造工程(成膜工程、フォトリソグラフィー工程、エッチング工程等)が煩雑化し、デバイスの製造コストが向上してしまう。これに対し、実施例1のように、第2質量負荷膜24のパターニングにより被覆率(面積)を変化させる方法では、第2質量負荷膜24の膜厚は全共振子で同一とすることができる。また、パターニング(被覆率)の変更は比較的容易に行うことができるため、他の方法に比べて共振周波数の調整を容易に行うことができ、製造工程上有利である。
【実施例2】
【0050】
実施例2は、ラダーフィルタの構成を変更した例である。
【0051】
図11は、実施例2に係る弾性波フィルタ(フィルタD)の構成を示す回路図である。実施例1に係る弾性波フィルタの回路構成は、実施例1に係る弾性波フィルタ(図1)の構成と基本的に同様であるが、インダクタL1及びL2に加え、入力端子Inと直列共振子S4との間に、一端が接地されたインダクタL3が接続されている点が異なる。ラダーフィルタを構成する圧電薄膜共振子の構成は、実施例1(図7、図8)と同様である。なお、各共振子の共振周波数は、図5のフィルタDの欄に示す通りとなっている。
【0052】
図12は、実施例2に係る弾性波フィルタ(フィルタD)と、実施例1に係る弾性波フィルタ(フィルタC)との帯域特性の比較を示すグラフである。図12(a)はフィルタ帯域の通過特性を、図12(b)は出力端子におけるリターンロス特性を、図12(c)は入力端子におけるリターンロス特性をそれぞれ示している。インダクタL3を追加することにより、フィルタの帯域幅は拡大し(図12(a))、入力端子及び出力端子における整合状態も改善されている(図12(b)、(c))。
【0053】
図13は、実施例2に係る弾性波フィルタ(フィルタD)と、比較例に係る弾性波フィルタ(フィルタG)との帯域特性の比較を示すグラフである。図5に示すように、フィルタGの回路構成はフィルタD(図11)と同様であり、直列共振子S1〜S4同士の共振周波数は1893MHzで等しく、並列共振子P1〜P3同士の共振周波数は1834MHzで等しい。
【0054】
図13(a)はフィルタ帯域の通過特性を、図13(b)は出力端子におけるリターンロス特性を、図13(c)は入力端子におけるリターンロス特性をそれぞれ示している。実施例2に係るフィルタDのように、各共振子の共振周波数を異ならせることにより、フィルタの帯域幅は大幅に拡大し(図13(a))、入力端子及び出力端子における整合状態も改善されている(図13(b)、(c))。
【0055】
以上のように、実施例2に係る弾性波弾性波によれば、入力端子Inとグランドとの間にインダクタL3を設けることにより、フィルタの広帯域化及び整合改善効果をさらに高めることができる。また、同じようにインダクタL3が設けられたフィルタ同士であっても、各圧電薄膜共振子の共振周波数を異ならせることで、フィルタのさらなる広帯域化及び整合改善を図ることができる。
【実施例3】
【0056】
実施例3は、圧電薄膜の圧電性を向上させた圧電薄膜共振子を用いた例である。
【0057】
実施例3に係る弾性波フィルタ(フィルタE、F)の回路構成は、実施例2(図11)と同様であり、ラダーフィルタを構成する圧電薄膜共振子の構成は、実施例1及び2(図7、図8)と同様である。実施例1及び2と異なり、圧電薄膜共振子の圧電薄膜(第1圧電薄膜14a及び第2圧電薄膜14b)には、圧電定数(e33)を高めるための元素が添加されている。圧電定数を高める元素としては、例えばアルカリ土類金属(スカンジウム(Sc)等)や希土類金属(エルピウム(Er)等)を用いることができる。
【0058】
比較例及び実施例1〜2に係る圧電薄膜共振子では、圧電薄膜の圧電定数(e33)は1.54[C/m]に設定されている。実施例3に係る弾性波フィルタのうち、フィルタEは圧電定数を(e33)10%向上させて1.69[C/m]としており、フィルタFは圧電定数(e33)を20%向上させて1.85[C/m]としている。
【0059】
図14は、実施例3に係る弾性波フィルタ(フィルタE、F)と、実施例2に係る弾性波フィルタ(フィルタD)との帯域特性の比較を示すグラフである。図14(a)はフィルタ帯域の通過特性を、図14(b)は出力端子におけるリターンロス特性を、図14(c)は入力端子におけるリターンロス特性をそれぞれ示している。図示するように、圧電薄膜(14a、14b)の圧電性が向上するに従い、帯域幅が大きく拡大すると共に(図14(a))、入力端子及び出力端子における整合状態も改善されている(図14(b)、(c))。
【0060】
実施例3に係る弾性波フィルタによれば、圧電薄膜共振子における圧電薄膜の圧電性を向上させることにより、フィルタの広帯域化及び整合改善効果をさらに高めることができる。また、同じように圧電薄膜の圧電性を高めた弾性波フィルタであっても、各圧電薄膜共振子の共振周波数を異ならせることで、フィルタのさらなる広帯域化及び整合改善を図ることができる。
【0061】
実施例1〜3では、温度補償膜16を第1圧電薄膜14aと第2圧電薄膜14bとの間に形成したが、温度補償膜16は、下部電極12と上部電極18とが対向する共振領域40内であれば、上記以外の場所に形成してもよい。ただし、温度補償膜16の少なくとも一部は、下部電極12と上部電極18との間に挟まれるようにすることが好ましい。
【0062】
また、実施例1〜3では、周波数制御用の第2質量負荷膜24を上部電極18と周波数調整膜20の間に形成したが、第2質量負荷膜24は、共振領域40内であればこれ以外の場所に形成してもよい。また、第2質量負荷膜24は、2つ以上の異なる層の上に形成されていてもよい。第2質量負荷膜24は、パターニングされることにより、共振領域40とは異なる形状を有する。実施例1〜3では、周期的なパターンを形成する例について説明したが、パターンは非周期的であってもよい。また、実施例1〜3では、点状パターン60と線状パターン62の両方を形成する例について説明したが、例えば線状パターン62を形成せずに点状パターン60のみとしてもよい。
【0063】
また、実施例1〜3では、下部電極12の下にドーム状の空隙42が形成された圧電薄膜共振子を例に説明を行ったが、圧電薄膜共振子の構成は他の形態であってもよい。
【0064】
図15は、実施例1〜3の変形例に係る圧電薄膜共振子の構成を示す模式図である。本図では、基板10、下部電極12、第1圧電薄膜14a、温度補償膜16、第2圧電薄膜14b、及び上部電極18についてのみ図示し、他の積層膜(質量負荷膜及び周波数調整膜)の記載は省略しているが、積層膜30の構成は実施例1〜3と同様であり、パターンニングによる共振周波数の制御が可能な第2質量負荷膜24を含むものである。
【0065】
図15(a)は、基板10の表面に設けられた凹部(空隙42)に犠牲層(不図示)を埋め込み、その上に形成される下部電極12を平坦化させた例である。平坦化させた基板10及び犠牲層の表面に、下部電極12をはじめとする積層膜30を形成した後、犠牲層をウェットエッチング等により除去することで、本構成の圧電薄膜共振子を得ることができる。このように、空隙42の形状をドーム状以外の形状とすることもできる。
【0066】
図15(b)は、下部電極12の下に空隙を形成する代わりに、音響反射膜44を用いたSMR(Solid Mounted Resonator)型の共振子である。音響反射膜44は、音響インピーダンスが高い膜と低い膜とを、交互にλ/4(λは弾性波の波長)の膜厚で積層したものである。基板10の表面に音響反射膜44を形成し、その上に下部電極12をはじめとする積層膜30を形成することで、本構成の圧電薄膜共振子を得ることができる。このように、下部電極12の下に空隙を作らない構成を採用することもできる
【0067】
実施例1〜3(図1、図11)において、入力端子Inまたは出力端子Outとグランドとの間に接続されたインダクタ(L2、L3)を第1インダクタ、並列共振子P1〜P3とグランドとの間に接続されたインダクタ(L1)を第2インダクタと称する。第1インダクタは、入力端子In側または出力端子Out側の少なくとも一方に接続されていればよいが、入力端子In側及び出力端子Out側の両方に接続されていることがより好ましい。
【0068】
実施例1〜3では、ラダー型のフィルタ(図1、図11)を例に説明を行ったが、実施例1〜3に係る圧電薄膜共振子を利用したフィルタの構成は、上記具体的な形態に限定されるものではない。例えば、図1及び図11では、並列共振子P1〜P3の一端を共通化した上で、インダクタL1を介して接地する構成としているが、各並列共振子P1〜P3のそれぞれにインダクタを接続した上で共通化してもよい。また、実施例1〜3では直列共振子の数を4(S1〜S4)、並列共振子の数を3(P1〜P3)としたが、各共振子の数はこれ以外であってもよい。このとき、複数の並列共振子のうち、2以上の並列共振子を共通化した上で、インダクタを介して接地する構成としてもよい。また、以下に説明するように、弾性波フィルタの構成をラダー型以外としてもよい。
【0069】
図16は、実施例1〜3の変形例に係る、ラティス型の弾性波フィルタの構成を示す回路図である。ラティス型の弾性波フィルタは、2つの入力端子(第1入力端子In1及び第2入力端子In2)と、2つの出力端子(第1出力端子Out1及び第2出力端子Out2)とを備える。第1入力端子In1と第1出力端子Out1との間には直列共振子S1が、第2入力端子In2と第2出力端子Out2との間には直列共振子S2が、それぞれ接続されている。また、第1入力端子In1と第2出力端子Out2との間には並列共振子P1が、第2入力端子In2と第1出力端子Out1との間には並列共振子P2が、それぞれ接続されている。
【0070】
直列共振子S1〜S2及び並列共振子P1〜P2は、それぞれ実施例1〜3と同様の構成の圧電薄膜共振子であり、温度補償膜16及び第2質量負荷膜24を有する。従って、実施例1〜3と同じように、第2質量負荷膜24のパターンを変更することにより、直列共振子S1〜S2及び並列共振子P1〜P2における互いの共振周波数を異ならせ、フィルタの広帯域化及び整合改善を図ることができる。以上のように、実施例1〜3に係る圧電薄膜共振子は、ラダー型以外の型のフィルタに対しても適用することができる。
【0071】
図17は、実施例1〜3に係る弾性波フィルタを用いたデュプレクサの構成を示す回路図である。デュプレクサは、送信端子TX、受信端子RX、及び共通のアンテナ端子Antを有する。送信端子TXとアンテナ端子Antとの間には送信フィルタ70が、受信端子RXとアンテナ端子Antとの間には受信フィルタ72がそれぞれ配置されている。
【0072】
送信フィルタ70の構成は、共に実施例2(図11)で示したフィルタの構成と同様であり、4つの直列共振子(S11〜S14)と3つの並列共振子(P11〜P13)、並びにインダクタ(L11及びL12)を含む。ただし、アンテナ端子Ant側のインダクタL1については、送信フィルタ70及び受信フィルタ72で共通化されている。これは、図1及び図11における出力端子Out側のインダクタL2と同様の整合機能を果たす。
【0073】
受信フィルタ72は、4つの直列共振子(S21〜S24)と4つの並列共振子(P21〜P24)、並びにインダクタ(L21〜L25)を含む。送信フィルタ70と異なり、並列共振子P21〜P24のグランド側は共通化されずに、個々のインダクタL22〜L25を介して接地されている。また、アンテナ端子Ant側のインダクタL1が、送信フィルタ70と共通化されている。
【0074】
図16に示す構成のデュプレクサにおいても、実施例1〜3に係る圧電薄膜共振子を用いて、直列共振子同士または並列共振子同士の共振周波数を異ならせることにより、広帯域化及び整合改善を図ることができる。
【0075】
上記のデュプレクサでは、アンテナ端子Antとグランドとの間に、整合用素子としてインダクタL1を配置したが、整合用素子の形態は上記に限定されるものではない。例えば、インダクタL1の代わりに、複数の素子からなる整合回路を用いてもよい。また、上記のデュプレクサでは、送信フィルタ70及び受信フィルタ72の双方を、実施例2(図11)と同様の回路構成としているが、いずれか一方のみを当該回路構成としてもよい。また、送信フィルタ70及び受信フィルタ72のうち、いずれか一方のフィルタをSAW(Surface Acoustic Wave)フィルタとしてもよい。SAWフィルタは、例えば受信端子がバランス出力である場合に、DMS(Double Mode Saw)のSAWフィルタを使用することが考えられる。
【0076】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0077】
10 基板
12 下部電極
14 圧電薄膜
16 温度補償膜
18 上部電極
20 周波数調整膜
22 第1質量負荷膜
24 第2質量負荷膜
30 積層膜
40 共振領域
42 空隙
44 音響反射膜
50 エッチング媒体導入孔
52 エッチング媒体導入路
60 点状パターン
62 線状パターン
70 送信フィルタ
72 受信フィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の圧電薄膜共振子を含む弾性波フィルタであって、
前記圧電薄膜共振子は、
基板と、
前記基板上に設けられた圧電薄膜と、
前記圧電薄膜の少なくとも一部を挟んで設けられた下部電極及び上部電極と、
前記下部電極及び上部電極が対向する共振領域に設けられ、前記共振領域とは異なる形状を有する周波数制御用の質量負荷膜と、
少なくとも一部が、前記共振領域における、前記下部電極及び前記上部電極の間に設けられ、前記圧電薄膜の弾性定数の温度係数とは逆符号の温度係数を持つ温度補償膜と、を備え、
前記複数の圧電薄膜共振子のうち少なくとも2つは、前記質量負荷膜の面積が互いに異なることを特徴とする弾性波フィルタ。
【請求項2】
前記複数の圧電薄膜共振子は、前記弾性波フィルタの直列腕及び並列腕のそれぞれに複数配置され、
前記直列腕に配置された前記複数の圧電薄膜共振子、及び前記並列腕に配置された前記複数の圧電薄膜共振子の少なくとも一方は、前記質量負荷膜の面積が互いに異なる2つの前記圧電薄膜共振子を含むことを特徴とする請求項1に記載の弾性波フィルタ。
【請求項3】
前記温度補償膜は、酸化シリコンを主成分とすることを特徴とする請求項1または2に記載の弾性波フィルタ。
【請求項4】
前記圧電薄膜は、窒化アルミニウムであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の弾性波フィルタ。
【請求項5】
前記窒化アルミニウムは、圧電定数を高める元素を含有することを特徴とする請求項4に記載の弾性波フィルタ。
【請求項6】
入力端子及び出力端子と、
前記入力端子とグランドとの間、及び前記出力端子とグランドとの間の少なくとも一方に接続された第1インダクタと、
を備えることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の弾性波フィルタ。
【請求項7】
前記複数の圧電薄膜共振子のうち前記並列腕に接続された前記圧電薄膜共振子とグランドとの間に接続された第2インダクタを備えることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の弾性波フィルタ。
【請求項8】
前記弾性波フィルタにおける通過帯域端の周波数温度係数をT[ppm/℃]とした場合に、比帯域幅が−0.041*T+2.17[%]以上であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の弾性波フィルタ。
【請求項9】
送信用フィルタ及び受信用フィルタを備えたデュプレクサであって、
前記送信用フィルタ及び前記受信用フィルタの少なくとも一方は、請求項1から8のいずれか1項に記載の弾性波フィルタを含むことを特徴とするデュプレクサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2013−38471(P2013−38471A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−170500(P2011−170500)
【出願日】平成23年8月3日(2011.8.3)
【出願人】(000204284)太陽誘電株式会社 (964)
【Fターム(参考)】