説明

弾性波素子及びその製造方法

【課題】温度変化による特性の変化を抑制する温度補償用膜が形成されており、製造工程の煩雑さをさほど招くことなく温度補償用膜を容易に形成でき、かつ小型化を図ることが可能な弾性波素子の製造方法を提供する。
【解決手段】対向し合う第1,第2の主面1a,1bを有する圧電ウェーハ1を用意すう工程と、圧電ウェーハ1の第1の主面1aのIDT電極4を形成する工程と、第2の主面1b上にSOG法により温度補償用膜を形成する工程と、圧電ウェーハを複数の圧電基板に分割する工程とを備える、弾性波素子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、共振子や帯域フィルタなどに用いられる弾性波素子及びその製造方法に関し、より詳細には、圧電基板のIDT電極が形成されている面と反対側の面に温度補償用材料が設けられている弾性波素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、共振子や帯域フィルタなどに弾性波素子が広く用いられている。弾性波素子は、弾性表面波を利用した弾性表面波素子と、弾性境界波を利用した弾性境界波素子とに大別される。弾性波素子は、圧電基板と、圧電基板上に形成されたIDT電極とを有する。圧電基板としては、LiTaOやLiNbOなどの圧電単結晶が用いられている。LiTaOの熱膨張係数は約16×10−6/Kであり、LiNbOの熱膨張係数は約15×10−6/Kと大きい。そのため、LiTaOやLiNbOを圧電基板として用いた場合、温度変化による周波数特性の変化が大きくなりがちであった。そこで、従来、周波数特性の温度による変化を小さくするように様々方法で温度補償が行われている。
【0003】
図11は、従来の温度補償構造が備えられた弾性表面波素子の正面断面図である。
【0004】
弾性表面波素子1001は、圧電基板1002と、圧電基板1002上に形成された無機薄膜層1003とを有する。無機薄膜層1003上に、IDT電極1004が形成されている。
【0005】
圧電基板1002は、LiTaOまたはLiNbOなどの圧電単結晶からなる。無機薄膜層1003は、SiOからなる。無機薄膜層1003が正の周波数温度特性を有するSiOからなり、LiTaOやLiNbOが負の周波数温度特性を有するため、周波数特性の温度による変化が小さくされている。
【0006】
他方、下記の特許文献2では、図12に示す弾性表面波装置が開示されている。弾性表面波装置1101では、パッケージ1102内に、弾性表面波素子1103が収納されている。弾性表面波素子1103は、LiTaOやLiNbOなどの圧電単結晶からなる圧電基板1104を有する。圧電基板1104の下面に、IDT電極1105が形成されている。
【0007】
そして、圧電基板1104の上面には、ガラス質体からなる接着剤1106により、アルミナなどの絶縁性材料からなる絶縁性基板1107が接合されている。絶縁性基板1107の熱容量が圧電基板1104の熱容量よりも大きいため、IDT電極の焦電破壊が生じ難いとされている。また、特許文献2では、ガラス質体からなる接着剤1106の線膨張係数や絶縁性基板1107の線膨張係数が4〜8×10−6m/℃であり、圧電基板1104の線膨張係数である10〜40×10−6m/℃と異なっていることにより、温度特性が良好になると記載されている。すなわち、線膨張係数の差により、温度変化による応力が圧電基板1104のIDT電極1105が形成されている面における表面波伝搬波長を変化させ、それによって温度特性が良好になると考えられると記載されている。
【特許文献1】特開平6−326553号公報
【特許文献2】特開2002−16468号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載の弾性表面波素子1001では、圧電基板1002のIDT電極1004が形成される面側にSiOなどからなる温度補償用の無機薄膜層1003が形成されている。従って、製造に際し、IDT電極1004の形成に先立ち、無機薄膜層1003を形成する工程を実施しなければならなかった。そのため、製造工程が煩雑であり、コストが高くなりがちであった。
【0009】
また、特許文献2に記載の弾性表面波素子1103では、圧電基板1104のIDT電極1105が形成されている側の面と反対側の面に接着剤1106を介して、絶縁性基板1107を接合するという煩雑な工程を実施しなければならなかった。
【0010】
そのため、製造工程が煩雑であり、コストが高くなりがちであった。
【0011】
加えて、圧電基板1104に接着剤1106を介して、アルミナなどからなる絶縁性基板1107が積層されているため、弾性表面波素子1103では、厚みが厚くなり、弾性表面波素子の小型化、低背化が困難になるという問題があった。
【0012】
本発明の目的は、上述した従来技術の欠点を解消し、温度変化による特性の変化を小さくし得る温度補償用材料が用いられているにもかかわらず、薄型化を進めることができ、かつ簡単な製造工程で製造することができ、コストを低減することが可能とされている弾性表面波素子及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の弾性波素子は、対向し合う第1,第2の主面を有する圧電基板と、前記圧電基板の第1の主面上に設けられたIDT電極と、前記圧電基板の前記第2の主面上にSOGにより形成された温度補償用膜とを備えることを特徴とする。
【0014】
上記温度補償用膜は、様々な温度補償作用を有する材料により形成されるが、好ましくは、シリコン酸化膜により形成される。LiTaOまたはLiNbOなどの圧電単結晶が負の周波数温度係数を有するため、正の周波数温度係数を有するシリコン酸化膜を用いることにより、全体としての温度変化による周波数特性の変化を小さくすることができる。
【0015】
本発明に係る弾性波素子の製造方法は、弾性波素子の製造方法であって、対向し合う第1,第2の主面を有する圧電ウェーハを用意する工程と、前記圧電ウェーハの第1の主面にIDT電極を形成する工程と、前記圧電ウェーハの第2の主面にSOG法により温度補償用膜を形成する工程と、前記圧電ウェーハを複数の圧電基板に分割する工程とを備えることを特徴とする。
【0016】
本発明に係る弾性波素子の製造方法のある特定の局面では、前記圧電ウェーハの第2の主面側に所定の厚みを有する枠体を形成する工程と、前記枠体により囲まれた部分にSOG法により温度補償用膜形成用材料を充填する工程と、充填された温度補償用膜形成材料を焼成することにより温度補償用膜を形成する工程とがさらに備えられる。この場合には、枠体により囲まれた部分にSOG法により温度補償用膜形成用材料を充填し、焼成するだけで温度補償用膜を形成することができる。すなわち、簡単な工程で温度補償用膜を形成することができる。また、枠体の厚みをコントロールするだけで、温度補償用膜の厚みを容易にコントロールすることができる。
【0017】
本発明に係る弾性波素子の製造方法の他の特定の局面では、前記枠体の形成がフォトリソグラフィにより樹脂をパターニングすることにより行われ、それによって樹脂パターン材からなる枠体が前記第2の主面上に形成される。この場合には、枠体を容易にかつ高精度に形成することができる。
【0018】
本発明に係る弾性波素子の製造方法のさらに他の特定の局面では、前記圧電ウェーハの前記第2の主面に温度補償用膜形成材料を注入するための凹部を形成することにより、該凹部の周囲に前記圧電ウェーハの一部により前記圧電ウェーハの第2の主面側に前記枠体が形成される。この場合には、圧電ウェーハの第2の主面に凹部を形成することにより圧電ウェーハの一部により枠体が形成されるので、枠体を形成するために余分な材料を必要としない。
【0019】
本発明に係る弾性波素子の製造方法の別の特定の局面では、前記圧電ウェーハの厚みを薄くするように前記圧電ウェーハの第2の主面を研磨する研磨工程がさらに備えられており、前記研磨工程後に前記温度補償用膜が形成される。この場合には、圧電ウェーハの厚みを目的とする厚みにした後に、温度補償用膜が形成されるので、温度補償用膜形成後に、煩雑な研磨工程を実施する必要がない。
【0020】
本発明に係る弾性波素子の製造方法のさらに別の特定の局面では、前記研磨工程の前または後に前記圧電ウェーハの前記第1の主面に前記IDT電極が形成される。このように、研磨工程の前または後のいずれの段階において、IDT電極が形成されてもよい。
【0021】
本発明に係る弾性波素子の製造方法のさらに他の特定の局面では、前記圧電ウェーハの前記第2の主面に前記温度補償用膜が形成された後に、該圧電ウェーハの厚みを薄くするように前記圧電基板の第1の主面を研磨する工程をさらに備え、該研磨工程後に圧電ウェーハの第1の主面に前記IDT電極が形成される。この場合には、温度補償用膜形成後に、第1の主面側を研磨して圧電ウェーハの厚みを目的とする厚みに形成すればよく、しかる後第1の主面にIDT電極が形成されるので、容易にかつ高精度に弾性波素子を製造することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る弾性波素子では、温度補償用膜が圧電基板の第2の主面上にSOGにより形成されているので、SOG法を用いて温度補償用膜を容易にかつ所望の厚みとなるように高精度に形成することができる。すなわち、接着剤を用いて、絶縁性基板を接合するといった煩雑な工程を実施する必要がない。また、IDT電極形成面とは異なる面に温度補償用膜を形成すればよいため、IDT電極を容易に形成することができるとともに、温度補償用膜の形成工程を、IDT電極の形成前あるいは形成後のいずれの段階において行われてもよい。従って、製造工程の自由度も高められる。
【0023】
しかも、本発明により得られる弾性波素子では、圧電基板の第2の主面に上記温度補償用膜がSOGにより形成されているので、絶縁性基板を接着した構造に比べて、弾性波素子の薄型化を図ることも可能となる。
【0024】
よって、本発明によれば、製造工程の煩雑さを招くことなく、温度による周波数特性の変化が小さく、薄型でありかつ安価な弾性波素子を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、図面を参照しつつ、本発明の具体的な実施形態を説明することにより、本発明を明らかにする。
【0026】
図1(a)〜(f)及び図2(a)〜(c)を参照して、本発明の一実施形態に係る弾性波素子の製造方法を説明する。
【0027】
本実施形態では、まず、図1(a)に示すように、圧電ウェーハ1を用意する。圧電ウェーハ1は円板状の形状を有し、本実施形態では、LiTaOからなる。もっとも、圧電ウェーハ1は、LiTaOのほか、LiNbOや水晶などの様々な圧電単結晶からなるものであってもよい。
【0028】
次に、圧電ウェーハ1の上面をサンブラにより研磨し、図1(b)及び図2(a)に示すように、厚み20〜40μm、かつ直径100mmの円板状の圧電ウェーハ1Aを用意する。圧電ウェーハ1Aは、対向し合う第1の主面1aと、第2の主面1bとを有する。
【0029】
上記圧電ウェーハ1を研磨して厚みを薄くする加工は、本実施形態では、サンブラ法により行われるが、グラインダなどの他の研磨方法を用いてもよい。
【0030】
次に、図1(c)及び図2(b)に示すように、圧電ウェーハ1Aの第2の主面1b上に、円環状の枠体2を形成する。
【0031】
上記枠体2は、圧電ウェーハ1Aの第2の主面1b上の全面にフォトレジストなどの樹脂材料を全面に塗布し、樹脂層を形成した後、フォトリソグラフィー技術によりパターニングすることにより形成することができる。
【0032】
本実施形態では、フォトリソグラフィーにより高さ300μm及び幅2mmの円環状の枠体2が形成されている。
【0033】
本実施形態では、枠体2の外周縁が円板状の圧電ウェーハ1Aの外周縁と一致されているが、枠体2の外周縁は圧電ウェーハ1Aの第2の主面1bの内部に位置していてもよい。好ましくは、本実施形態のように、枠体2の外周縁を圧電ウェーハ1Aの外周縁と一致させることにより、枠体2で囲まれた領域の面積を大きくすることができる。それによって、より多くの弾性波素子を得ることができる。
【0034】
なお、枠体2の平面形状は、円環状に限らず、矩形枠状などの適宜の形状とされ得る。
【0035】
次に、図1(d)に示すように、枠体2で囲まれた領域に、SOG(Spin on Glass)により、温度補償用膜形成用材料3を充填する。枠体2が設けられているので、液状の温度補償用膜形成用材料を充填した場合、温度補償用膜形成用材料3の厚さは枠体2の高さと等しくなる。すなわち、枠体2の厚みに応じた厚みの温度補償用膜を形成することができる。
【0036】
本実施形態では、温度補償用膜形成用材料3として、SiOとポリシラザンとを含む液状の組成物を用いた。しかる後、200〜300℃の温度で1h〜2hの時間維持し、温度補償用膜形成用材料3を焼成した。このようにして、図1(e)及び図2(c)に示すように、厚み300μmのSiO膜からなる温度補償用膜3Aを形成し、しかる後、枠体2を除去した。
【0037】
次に、圧電ウェーハ1Aの第1の主面1a上に、フォトリソグラフィー法により、複数の弾性表面波素子の電極構造を形成した。すなわち、少なくとも1つのIDT電極4を有する多数の電極構造を形成した。図3(a)は、圧電ウェーハ1Aの第1の主面1aを模式的に示す平面図であり、図3(b)において、後で行われる分割の際の位置を示す複数の分割ラインX及び複数の分割ラインYで囲まれた矩形の領域が1つの弾性表面波素子を構成する部分に相当する。この1つの弾性表面波素子が構成される部分内に、図3(b)に示すように、IDT電極4とIDT電極4の表面波伝搬方向両側に配置された反射器5,6とを形成した。すなわち、IDT電極4及び反射器5,6を有する電極構造を、図3(a)の各弾性表面波素子形成領域に形成した。
【0038】
図1(e)では、IDT電極4のみを参照番号を付して模式的に示すこととする。
【0039】
上記IDT電極4及び反射器5,6を形成する電極材料としては、本実施形態では、Alを用いた。もっとも、電極材料は、上記Alに限らず、Al−Cu、Cuなどの適宜の金属もしくは合金を用いることができる。また、電極構造は、複数の金属膜を積層した構造であってもよい。
【0040】
次に、図1(f)に示すように、温度補償用膜3Aの厚みを薄くするようにグラインダ法により全体を研磨した。このようにして、厚み150〜350μmの温度補償用膜3Bを得た。
【0041】
最後に、上記圧電ウェーハ1Aを前述の図3(a)に示した分割ラインX,Yに沿って、ダイシングなどにより分割し、個々の弾性表面波素子を得た。
【0042】
得られた弾性表面波素子を図4に模式的斜視図で示す。圧電ウェーハ1Aの分割により得られた圧電基板1Bの第1の主面1a上にIDT電極4及び反射器5,6が形成されており、第2の主面1b上に、温度補償用膜3Bが分割されて得られた温度補償用膜3Cが形成されている。
【0043】
図4に示す弾性表面波素子7では、圧電基板1Bの第2の主面1b側に温度補償用膜3Cが形成されているため、温度変化による周波数特性の変化を小さくすることができる。すなわち、SiOからなる温度補償用膜3Cの線膨張係数は数ppm/℃でLiTaOより小さく、圧電基板1Bは、LiTaOからなるため、線膨張係数は16×10―6/K程度である。この線膨張係数差による応力が温度変化の際に加わり、それによって、特許文献2に記載の弾性表面波装置の場合と同様に、温度変化による周波数特性の変化を抑制することができる。
【0044】
上記温度補償用膜3Cの厚みTは、圧電基板の厚みtに対し、t/T<0.5の割合とすることが好ましい。薄いと加工ができず、0.5を超えるとTCFが劣化することがある。
【0045】
圧電ウェーハの第2の主面側の粗さをJISB0601の表面粗さのRa値で、0.2〜0.4の範囲とすることにより、バルク波による影響を抑制することができる。
【0046】
また、本実施形態では、圧電ウェーハ1Aを用意した後に、SOG法により温度補償用膜形成用材料3を塗工し、焼成するという簡単な工程で温度補償用膜3Aを形成することができる。加えて、上記枠体2の厚みにより、温度補償用膜3Aの厚みをコントロールすることができるので、温度補償用膜3A、最終的に用意される温度補償用膜3Cの厚みを高精度にかつ容易に制御することも可能となる。よって、本実施形態によれば、温度変化による特性の変化が少なく、しかも安価な弾性表面波素子を提供することができる。また、加熱される工程がさほど多くないため、それによっても、得られる弾性波素子の信頼性を高めることができる。
【0047】
好ましくは、SOGにより温度補償用膜形成用材料3を塗工するに先立ち、圧電ウェーハ1または圧電ウェーハ1Aの第2の主面の粗さをJISB0601における表面粗さのRa値において、0.4μm以下とすることが好ましい。それによって、正確な厚みの温度補償用膜を確実に形成することができるとともに、温度補償用膜と圧電基板との密着性を高めることも可能となる。
【0048】
また、好ましくは、温度補償用膜3Bを形成した後の温度補償用膜3Bの表面の粗さは、JISB0601において、0.4μm以下とすることが好ましい。
【0049】
なお、図4では、弾性表面波を利用した弾性表面波素子7を示したが、図4の一点鎖線Cで示すように誘電体層を積層し、弾性境界波素子を形成してもよい。すなわち、本発明は、弾性表面波素子だけでなく、弾性境界波素子の製造にも適応することができる。
【0050】
上記実施形態では、枠体2を形成した後に、温度補償用膜3Aが形成されていたが、この温度補償用膜を形成する工程は様々に変形することができる。
【0051】
図5(a)〜(e)は、第1の変形例を説明するための各正面断面図である。本変形例では、図5(a)に示すように、圧電ウェーハ1を用意し、図5(b)に示すように、圧電ウェーハ1の上面に枠状のレジスト11を形成する。枠状のレジスト11は、円環状の形状を有し、サンドブラストに耐え得る材料、例えばサンブラ用のレジストにより形成されている。
【0052】
しかる後、サンドブラスト加工により圧電ウェーハ1の第2の主面側を研磨する。このようにして、図5(c)に示す凹部1dが形成された圧電ウェーハ1Dを得る。凹部1dの深さは、充填される温度補償用膜形成用材料の塗工厚みとなるように選ばれている。
【0053】
次に、図5(d)に示すように、上記レジスト11を除去する。
【0054】
そして、図5(e)に示すように、上記凹部1d内に、温度補償用膜形成用材料3を充填する。しかる後、上記実施形態と同様にして、温度補償用膜形成用材料3を焼成することにより、圧電ウェーハ1Dの凹部1d内に温度補償用膜を形成することができる。
【0055】
本変形例のように、圧電ウェーハ1の第2の主面側に凹部1dを形成し、凹部1dを取り囲む圧電ウェーハ部分1eにより、上記実施形態における枠体2を形成してもよい。この場合においても、圧電ウェーハ部分1eが枠体2と同様に作用するため、凹部1dの深さをコントロールすることにより温度補償用膜形成用材料3の塗工厚みを容易に設定することができる。
【0056】
図6(a)〜(c)は、温度補償用膜を形成する工程の第2の変形例を説明するための各正面断面図である。本変形例では、上記実施形態と同様に、圧電ウェーハを用意し、研磨し、圧電ウェーハ1Aを得る。次に、圧電ウェーハ1Aの第2の主面1b上に、SOG法により温度補償用膜形成用材料3を直接所望の厚みとなるように塗工する。このように、枠体2は必ずしも形成されずともよく、また凹部1dの形成により周囲に枠体部分を形成せずともよい。
【0057】
図6(c)に示す工程では、周囲に枠体2が存在しないため、比較的粘度が低い温度補償用膜形成用材料3を用いた場合、塗工厚みを高精度に制御することは困難である。しかしながら、比較的高粘度の温度補償用膜形成用材料3を用いれば、枠体2を形成せずとも、温度補償用膜の厚みを高精度に制御することは可能である。この場合、枠体2の形成等の余分な工程を必要としないため、工程の簡略化を図ることができる。
【0058】
図7(a)〜(e)は、本発明の第2の実施形態の弾性表面波素子の製造方法を説明するための各模式的正面断面図である。
【0059】
第2の実施形態では、まず、第1の実施形態と同様に、厚み350μmのLiTaOからなる圧電ウェーハ1を用意し、第1の実施形態と同様にして研磨工程を実施し、厚みが20〜40μm程度に薄くされた圧電ウェーハ1Aを得る。
【0060】
次に、本実施形態では、図7(c)に示すように、圧電ウェーハ1Aの第1の主面1a上にフォトリソグラフィー法により、IDT電極4を含む電極構造を形成する。すなわち、第1の実施形態とは、工程の順序が異なり、温度補償用膜形成用材料の塗工に先立ち、IDT電極4が形成される。
【0061】
IDT電極4を含む電極構造の形成方法自体は、第1の実施形態と同様にして行われる。
【0062】
次に、図7(d)に示すように、圧電ウェーハ1Aの第2の主面1b上に、温度補償用膜形成用材料3をSOG法により塗工する。この場合、第1の実施形態と同様に、枠体2を形成した後に、温度補償用膜形成用材料3を充填してもよい。
【0063】
もっとも、本実施形態では、温度補償用膜形成用材料3を最終的な温度補償用膜の厚みよりもかなり厚く、例えば400〜500μm程度の厚みにSOG法により塗工する。
【0064】
しかる後、温度補償用膜形成用材料3を200〜300℃の温度で1h〜2h程度の時間維持し、焼成する。このようにして、厚みの厚い温度補償用膜3Aを形成する。しかる後、サンブラ法により研磨し、最終的な厚みが150〜350μm程度の温度補償用膜3Bを形成する。最後に、第1の実施形態と同様に、圧電ウェーハ1Aを分割することにより、個々の弾性表面波素子を得ることができる。
【0065】
本実施形態のように、圧電ウェーハ1Aに、IDT電極4を形成した後に、温度補償用膜形成用材料3の塗工及び焼成を行ってもよい。
【0066】
図8(a)〜(e)は、本発明の第3の実施形態の製造方法を説明するための各模式的正面断面図である。
【0067】
本実施形態では、厚みの厚い圧電ウェーハ1を用意した後に、次に圧電ウェーハ1の第1の主面1a上に、IDT電極4を含む電極構造を形成する。電極の形成は、第1の実施形態と同様の方法で行え得る。しかる後、圧電ウェーハ1をサンブラ、グラインド法により第2の主面側から研磨し、厚み150〜350μmの圧電ウェーハ1Aを得る。このように、第2の実施形態とは逆に、IDT電極4を含む電極構造の形成後に圧電ウェーハ1を研磨してもよい。
【0068】
以後の工程は、第3の実施形態では、第2の実施形態と同様に行われる。すなわち、図8(d)に示すように、厚みの厚い温度補償用膜形成用材料3をSOG法により塗工した後、焼成し、図8(e)に示すように、研磨により最終的な厚みの温度補償用膜3Bを得る。
【0069】
図9(a)〜(e)は、本発明の第4の実施形態に係る弾性表面波素子の製造方法を説明するための各模式的正面断面図である。
【0070】
第4の実施形態では、圧電ウェーハ1を用意した後に、第1,第2の実施形態の場合と同様に、圧電ウェーハ1を第2の主面側から研磨し、厚みの薄い圧電ウェーハ1Aを得る。
【0071】
第4の実施形態では、圧電ウェーハ1Aを得た後に、第2の主面1b上にまず温度補償用膜形成用材料3をSOG法により塗工する。この場合、最終的な温度補償用膜の厚みよりかなり厚く、温度補償用膜形成用材料3を塗工する。しかる後、温度補償用膜形成用材料3を第1の実施形態〜第3の実施形態と同様に焼成し、温度補償用膜を得る。
【0072】
次に、第2,第3の実施形態と同様に、得られた温度補償用膜の厚みを薄くするようにサンブラ、グラインド法により研磨する。このようにして、図9(d)に示すように、圧電ウェーハ1Aの第2の主面1b上に厚みの薄い温度補償用膜3Bが形成される。しかる後、圧電ウェーハ1Aの第1の主面1a側に、IDT電極4を含む電極構造を形成する。本実施形態のように、IDT電極4を含む電極構造の形成を、温度補償用膜3Bの形成後に行ってもよい。
【0073】
図10(a)〜(e)は、本発明の第5の実施形態の製造方法を説明するための各模式的正面断面図である。
【0074】
本実施形態では、圧電ウェーハ1を用意した後に、図10(b)に示すように圧電ウェーハ1の第2の主面1b上に、温度補償用膜形成用材料3をSOG法により厚く塗工する。
【0075】
しかる後、焼成し、図10(c)に示すように、温度補償用膜3Aを形成する。圧電ウェーハ1を第1の主面1a側からサンブラ、グラインド法により研磨し、厚みが20〜40μmとする圧電ウェーハ1Aを得る。
【0076】
従って、本実施形態では、圧電ウェーハ1は、第1の主面1a側から研磨され、薄くされている。
【0077】
次に、図10(d)に示すように、圧電ウェーハ1Aの第1の主面1a上にIDT電極4を含む電極構造を形成する。
【0078】
最後に、温度補償用膜3Aをサンブラ法により研磨し、厚みが150〜350μm程度の温度補償用膜3Bを得る。本実施形態のように、温度補償用膜を形成した後に、圧電ウェーハの研磨を行ってもよい。
【0079】
上記第2〜第5の実施形態においても、温度補償用膜の形成は、圧電ウェーハの第2の主面側から温度補償用膜形成用材料をSOG法で塗工し、焼成することにより行われる。従って、第1の実施形態の場合と同様に、煩雑な工程を得ることなく、容易に厚みの薄い温度補償用膜3Bを形成することができる。従って、第1の実施形態の場合と同様に、工程の煩雑をさほど招くことなく、安価であり、かつ薄型の弾性表面波素子を提供することができる。第2〜第5の実施形態においても、弾性表面波素子だけでなく、弾性境界波素子の製造方法にも適用することができる。
【0080】
第1〜第5の実施形態から明らかなように、本発明によれば、温度補償用膜の形成、IDT電極を含む電極構造の形成及び圧電ウェーハの研磨等の各工程の順序を様々に変更することができる。従って、製造に際しての自由度を高めることも可能となり、それによっても、コストを低減することができる。なお、温度補償用膜を構成する材料としては、SiOに限らず、同様な形で形成できる低膨張係数のものであれば良い。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】(a)〜(f)は、本発明の第1の実施形態に係る弾性波素子の製造方法を説明するための各正面断面図である。
【図2】(a)〜(c)は、本発明の第1の実施形態に係る弾性波素子の製造方法を説明するための各斜視図である。
【図3】(a)〜(d)は、第1の実施形態の製造方法において圧電ウェーハを分割する工程を説明するための模式的平面図及び1つの弾性波素子上に形成される電極構造を示す模式的平面図である。
【図4】本発明の第1の実施形態で得られる弾性波素子を示す斜視図である。
【図5】(a)〜(e)は、第1の実施形態の変形例における温度補償用膜の形成工程を説明するための各正面断面図である。
【図6】(a)〜(c)は、第1の実施形態の第2の変形例において、圧電ウェーハ上に温度補償用膜を形成する各工程を説明するための各正面断面図である。
【図7】(a)〜(e)は、本発明の第2の実施形態に係る弾性表面波素子の製造方法を説明するための各正面断面図である。
【図8】(a)〜(e)は、本発明の第3の実施形態に係る弾性表面波素子の製造方法を説明するための各正面断面図である。
【図9】(a)〜(e)は、本発明の第4の実施形態に係る弾性表面波素子の製造方法を説明するための各正面断面図である。
【図10】(a)〜(e)は、本発明の第5の実施形態に係る弾性表面波素子の製造方法を説明するための各正面断面図である。
【図11】従来の弾性表面波素子を示す正面断面図である。
【図12】従来の弾性表面波装置の一例を示す正面断面図である。
【符号の説明】
【0082】
1…圧電ウェーハ
1A…圧電ウェーハ
1B…圧電基板
1D…圧電ウェーハ
1a…第1の主面
1b…第2の主面
1d…凹部
1e…圧電ウェーハ部分
2…枠体
3…温度補償用膜形成用材料
3A〜3C…温度補償用膜
4…IDT電極
5,6…反射器
7…弾性表面波素子
11…レジスト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向し合う第1,第2の主面を有する圧電基板と、
前記圧電基板の第1の主面上に設けられたIDT電極と、
前記圧電基板の前記第2の主面上にSOGにより形成された温度補償用膜とを備えることを特徴とする、弾性波素子。
【請求項2】
前記温度補償用膜がシリコン酸化膜である、請求項1に記載の弾性波素子。
【請求項3】
弾性波素子の製造方法であって、
対向し合う第1,第2の主面を有する圧電ウェーハを用意する工程と、
前記圧電ウェーハの第1の主面にIDT電極を形成する工程と、
前記圧電ウェーハの第2の主面にSOG法により温度補償用膜を形成する工程と、
前記圧電ウェーハを複数の圧電基板に分割する工程とを備えることを特徴とする、弾性波素子の製造方法。
【請求項4】
前記圧電ウェーハの第2の主面側に所定の厚みを有する枠体を形成する工程と、
前記枠体により囲まれた部分にSOG法により温度補償用膜形成用材料を充填する工程と、
充填された温度補償用膜形成材料を焼成することにより温度補償用膜を形成する工程とをさらに備える、請求項3に記載の弾性波素子の製造方法。
【請求項5】
前記枠体の形成がフォトリソグラフィにより樹脂をパターニングすることにより行われ、それによって樹脂パターン材からなる枠体が前記第2の主面上に形成される、請求項4に記載の弾性波素子の製造方法。
【請求項6】
前記圧電ウェーハの前記第2の主面に温度補償用膜形成材料を注入するための凹部を形成することにより、該凹部の周囲に前記圧電ウェーハの一部によって前記圧電ウェーハの第2の主面側に前記枠体が形成される、請求項4に記載の弾性波素子の製造方法。
【請求項7】
前記圧電ウェーハの厚みを薄くするように前記圧電ウェーハの第2の主面を研磨する研磨工程がさらに備えられており、前記研磨工程後に前記温度補償用膜が形成される、請求項4〜6のいずれか1項に記載の弾性波素子の製造方法。
【請求項8】
前記研磨工程の前または後に前記圧電ウェーハの前記第1の主面に前記IDT電極が形成される、請求項7に記載の弾性波素子の製造方法。
【請求項9】
前記圧電ウェーハの前記第2の主面に前記温度補償用膜が形成された後に、該圧電ウェーハの厚みを薄くするように前記圧電基板の第1の主面を研磨する工程をさらに備え、該研磨工程後に圧電ウェーハの第1の主面に前記IDT電極が形成される、請求項4〜6のいずれか1項に記載の弾性波素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−267665(P2009−267665A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−113417(P2008−113417)
【出願日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】