説明

弾性波装置及びそれを用いた高周波フィルタ

【課題】境界弾性波装置は、小型で温度安定性に優れている。しかし、Q値を高く出来ない、また高コストな薄膜技術を必要とする。本発明の目的は、Q値が優れ、低コストな境界弾性波装置を提供することにある。
【解決手段】θYX−LN単結晶圧電基板の表面に、アルミニウムを主成分とする膜厚hm、電極指周期λの櫛形電極と短絡型反射器(厚さhr)をパターニングし、その櫛形電極と反射器上に、膜厚がh1の酸化珪素膜と膜厚がh2の窒化アルミニウム膜6を形成した境界弾性波装置において、
2.5≦hr/λ≦8.5%、
とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性波装置及びそれを用いた高周波フィルタに係り、更に詳しくいえば、圧電性物質と、櫛形の電極形状を有する境界弾性波用IDT(Inter-Digital Transducer)を持ち、高周波の共振器やフィルタ等の固体回路素子を構成するのに適した圧電境界弾性波装置及びそれを用いた高周波フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
境界弾性波装置は、中空パッケージを不要に出来るため、また温度補償膜として酸化珪素を用いることが出来るため、小型で優れた温度安定性を有する。
【0003】
特許文献1には、漏洩境界弾性波を対象に、ニオブ酸リチウム圧電単結晶を主成分とし、θ回転Yカットに切り出され、弾性波の伝搬方向をX軸方向とした基板(以下θYX−LN単結晶圧電基板と略す)上に、IDT、酸化珪素膜、多結晶珪素膜を具備した境界弾性波共振器において、Q値とθ、多結晶珪素膜の膜厚の関係が開示されている。また多結晶珪素膜の代わりに窒化アルミニウム膜を用いることが出来ることも開示されている。
【0004】
特許文献2には、漏洩境界弾性波を対象に、θYX−LN単結晶圧電基板上に、IDT、酸化珪素膜、単結晶珪素を具備した境界弾性波デバイスにおいて、伝搬損失とθの関係が開示されている。
【0005】
特許文献3、4には、境界弾性波を対象とする、伝搬損失が小さい弾性境界装置が開示されている。
【0006】
非特許文献1には、弾性境界波の伝搬損失を推測する手法が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】WO98/52279号公報
【特許文献2】特開平10−84247号公報
【特許文献3】WO2005/069485号公報
【特許文献4】WO2006/114930号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】A method for estimating optimal cuts and propagation directions for excitation of piezoelectric surface waves」(J. J. Campbell and W. R. Jones, IEEE Trans. Sonics and Ultrason., Vol. SU-15 (1968) pp. 209-217)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
一般に、高周波フィルタには、高い品質係数(デバイスのQ値)と製造の容易さが要求される。特に、携帯電話に代表される通信機器用途では数千以上のQ値が求められており、上記特許文献1、2に開示された境界弾性波共振器には以下の問題点がある。
【0010】
特許文献3、4に記載された境界弾性波とは異なり、特許文献1、2及び本発明のIDTで励振/共振する主な境界弾性波は、漏洩境界弾性波である。漏洩弾性境界波共振器では、スプリアス弾性波として、ストンリー波型境界弾性波、遅い横波バルク波、速い横波バルク波、縦波バルク波が発生する。図23は、漏洩弾性境界波共振器のインピーダンス特性上に発生するスプリアスを説明した図である。横軸は周波数(=音速×λ)、縦軸はインピーダンスの複素成分を示している。本発明のように密度の小さい金属でIDTを構成した漏洩弾性境界波共振器における「漏洩弾性境界波」は、遅い横波バルク波の音速と速い横波バルク波の音速の間の、音速を有する。すなわち、「漏洩弾性境界波」は、概ね4000から4800m/sの間の音速を有する。つまり、低周波側の比較的近くに遅い横波バルク波が、それよりさらに低周波にストンリー波型境界弾性波が、高周波側の比較的近くに速い横波バルク波が、それよりさらに高周波に縦波バルク波が発生する。従って、高周波フィルタを実現した場合、主信号の近くに発生する遅い横波バルク波と速い横波バルク波を抑圧する必要がある。さらにθYX−LN単結晶圧電基板の漏洩弾性境界波共振器の電気特性を調べた結果、遅い横波バルク波は音速4000m/s近傍であり、そのため漏洩弾性境界波の直列共振周波数直下に発生し、かつIDTと強く結合していた。このことから、通信機器用途の高周波フィルタを実現するには、遅い横波バルク波を抑圧する必要がある。
【0011】
また特許文献3、4に記載された境界弾性波とは異なり、特許文献1、2及び本発明のIDTで励振/共振する主な境界弾性波は、漏洩境界弾性波であり、弾性的な伝搬損失を有する。そのため、充分高いデバイスのQ値を得るため、材料、膜厚、カット角等デバイス構造を最適化し、IDTでの伝搬損失を最小=弾性的なQ値を最大にする必要がある。さらにIDTの両脇に、動作周波数範囲を充分に網羅する広帯域な反射器が必要である。
【0012】
なお、本発明では、漏洩境界弾性波を以下単に境界弾性波と記述するが、特許文献3、4の境界弾性波とは異なる弾性波であることは言うまでもない。
【0013】
特許文献1には、図24に示したようなθYX−LN単結晶圧電基板上に、IDT、酸化珪素膜、多結晶珪素膜を具備した境界弾性波共振器において、図25(特許文献1の第10図に相当)に示すように、弾性的なQ値が千以上(伝搬損失が0.056dB以下の範囲)となるθ、多結晶珪素膜の膜厚の値が記されている。すなわち、0.585λ≦h1、且つ23≦θ≦95(本発明のθの定義によれば、113≦θ≦185)とした弾性波装置が開示されている。しかし、Q=1000以上を前提としたこの範囲では、用途が最近の通信機器に代表される、例えば2GHzクラスの、高周波フィルタでは、このQ値では精度が不十分である。
【0014】
また、特許文献1で対象としている多結晶珪素膜は、導電性と低い抵抗値を有する。そのため、図25に示したθ及び多結晶珪素膜の膜厚の値をそのまま用いたとしても、弾性的なQ値を最近のデバイスに要求される数千乃至1万程度まで高めることは出来ない。
【0015】
また、特許文献1の12頁には、多結晶珪素膜の代わり窒化アルミニウム膜を用いることが出来ることも開示されている。しかし、窒化アルミニウム膜を用いた境界弾性波共振器における弾性的なQ値が数千以上となるθ、多結晶珪素膜の膜厚の関係については開示されていない。窒化アルミニウムや窒化珪素に代表される窒化物質を主成分とする膜の弾性定数は多結晶珪素膜の弾性定数より格段に大きいため、特許文献1の多結晶珪素膜に関する記載からこの関係を類推することは不可能である。
【0016】
また、酸化珪素膜の表面を、特許文献1の第6図に示された有限要素−解析結合法で得られる形状に形成することは困難である。
【0017】
すなわち、特許文献1では、音響絶縁膜を多結晶珪素膜に限定し、hΔl=ゼロ、導波路膜の膜質劣化なし、hΔ=h1で近似、という前提に立って、0.585λ≦h1、且つ、113≦θ≦185、を選定している。そのため、θの精度が足りない。この精度では、得られるQが1000程度であり、最近のデバイスに要求される弾性的なQ値としては不十分である。
【0018】
特許文献2には、最上層に単結晶珪素を用いており、単結晶珪素は導電性と低い抵抗値を有するため、デバイスのQ値を高めることは出来ない。また単結晶珪素を最上層に形成することは、特殊な製造装置を必要とするため、製造に困難が生じる。
【0019】
また、薄膜を用いた弾性波装置では、電気特性は用いる薄膜の膜質や平坦性に依存するため、これらを考慮してθと膜厚を決定する必要がある。非特許文献1に記載された計算手法を境界弾性波に適用することによって、弾性境界波の伝搬損失を推測する手法が報告されている。この方法では、IDTを一様な金属膜で近似するため、電極の総重量が2倍になり質量負荷を過剰に取り込んでしまう、電極指の端部での境界弾性波の反射/局在を考慮できない、酸化珪素膜と窒化アルミニウム膜の界面の形状を考慮できない、等の問題がある。
【0020】
境界弾性波装置を製造する場合、はじめに所望のカット角θの圧電基板を製造する。次に製造した圧電基板上に所望の膜厚の電極膜、酸化珪素膜、窒化物質を主成分とする膜を作成する。しかし所望の膜質と平坦性が得られていない場合、高いデバイスのQ値は得られない。高Q化するためには、(1)製造方法と製造設備を変更し、膜質と平坦性を改善する、(2)カット角θ+αの圧電基板を再度製造し、デバイスを再作成する、(3)製造済であるカット角θの圧電基板を用いて、修正した膜厚でデバイスを作成する、等の方法が考えられる。しかし、上記(1)は製造が困難になる、(2)は、圧電基板の製造には通常1〜3ヶ月の期間が必要であるため、再作成には時間がかかる、という問題がある。そのため、上記(3)が最もよい方法であると考えられる。しかし、上記(3)を採用する際に、カット角θに依存して、高いデバイスのQ値を示す膜厚が存在しない場合が生じる。
【0021】
本発明の主たる目的は、スプリアスが少なく、高い品質係数(デバイスのQ値が数千以上)でかつ、製造の容易さを有する境界弾性波装置及びそれを用いた高周波フィルタを提供することにある。
【0022】
また、本発明の他の目的は、圧電基板上に形成される電極膜や酸化珪素膜等に所望の膜質と平坦性が得られていない場合でも、膜厚を修正することで高いデバイスのQ値を得ることが出来る圧電基板のカット角θの値を明確化することで、高い品質係数(デバイスのQ値)と製造の容易さを有する境界弾性波装置及びそれを用いた高周波フィルタを提供することにある。
【0023】
また、本発明の更なる他の目的は、耐電力製の高い境界弾性波装置及びそれを用いた高周波フィルタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明の代表的なものの一例を示せば以下の通りである。即ち、本発明の弾性波装置は、ニオブ酸リチウム圧電単結晶を主成分とし、θ回転Yカットに切り出された平面を有する第1の媒質と、窒化物質または酸化アルミニウムを主成分とする第3の媒質と、前記第1の媒質と前記第3の媒質とに挟まれ、酸化珪素を主成分とする第2の媒質と、前記第1の媒質と前記第2の媒質とに挟まれ、且つ前記第1の媒質の前記平面に形成されたIDTとを有し、前記IDTは主に境界弾性波を励振する弾性波装置において、前記境界弾性波の波長をλ、前記IDTの厚さをhm、前記第2の媒質の厚さをh1としたとき、
149°≦θ≦171°、且つ
(hm+h1)/λ≦77.5%、
としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、スプリアスの少ない弾性波装置及びそれを用いた高周波フィルタを提供することができる。また高い品質係数と製造の容易さを有する弾性波装置を提供することができる。さらに、圧電基板上に形成される電極膜や酸化珪素膜等に所望の膜質と平坦性が得られていない場合でも、カット角θが所定の範囲の圧電基板を採用し、膜厚を修正することで、高いデバイスのQ値を得ることが出来るようにし、高い品質係数(デバイスのQ値)と製造の容易さを有する弾性波装置及びそれを用いた高周波フィルタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の第一の実施例を説明するための境界弾性波共振器の上面模式図。
【図2】本発明の第一の実施例を説明するための境界弾性波共振器の縦断面模式図。
【図3】電極膜厚hm、酸化珪素膜厚h1、窒化アルミニウム膜厚h2、界面の起伏量hΔ、電極指線幅L、空隙S、励振される境界弾性波の波長λ、及び反射器の厚さをhrの定義を示した図。
【図4A】音響絶縁膜としてAlN膜を採用し、hΔ/λ=0.02として、共振/反共振共に1/Q<0.0001の条件を満たすθの範囲を求めた図。
【図4B】音響絶縁膜としてAlN膜を採用し、hΔ/λ=0.03として、共振/反共振共に1/Q<0.0001の条件を満たすθの範囲を求めた図。
【図4C】音響絶縁膜としてAlN膜を採用し、hΔ/λ=0.04として、共振/反共振共に1/Q<0.0001の条件を満たすθの範囲を求めた図。
【図5A】本発明の検討に用いたモデルを説明した図。
【図5B】本発明の検討に用いたモデルを説明した図。
【図6】本発明の第一の実施例における、カット角θと、波長で換算した酸化珪素膜とIDTの膜厚の和の比率と、遅い横波バルク波の励振強度K2の関係を示した図。
【図7A】第一の実施例の、アルミニウムを主成分とする金属膜で形成された短絡型反射器と、開放型反射器の実効反射帯域幅を比較した図。
【図7B】第一の実施例における、反射器の反射率の材料依存性を説明した図。
【図8】第一の実施例において、δ=0、hΔ=hm、hm/λ=0.03の場合に、h1/λを変えて、共振/反共振共に1/Q<0.0001の条件を満たすθの範囲を求めた例を示す図。
【図9A】δ=0.00,hΔ=0の場合の境界弾性波の伝搬特性を示した図。
【図9B】δ=0.02,hΔ=0の場合の境界弾性波の伝搬特性を示した図。
【図9C】δ=0.04,hΔ=0の場合の境界弾性波の伝搬特性を示した図。
【図9D】δ=0.00,hΔ=hmの場合の境界弾性波の伝搬特性を示した図。
【図9E】δ=0.02,hΔ=hmの場合の境界弾性波の伝搬特性を示した図。
【図9F】δ=0.04,hΔ=hmの場合の境界弾性波の伝搬特性を示した図。
【図10】第一の実施例において、カット角θと、波長で換算した酸化珪素膜とIDTの膜厚の和の比率と、遅い横波バルク波の励振強度K2の関係を、カット角θの140°〜170°の部分で拡大して示した図。
【図11】本発明の第二の実施例を説明するための、境界弾性波装置の上面模式図。
【図12】本発明の第二の実施例を説明するための、境界弾性波装置の縦断面模式図。
【図13】第二の実施例における、反射器の実効反射帯域幅の材料依存性を示した図。
【図14】本発明の第三の実施例を説明するための、境界弾性波装置の上面模式図。
【図15】本発明の第三の実施例を説明するための、境界弾性波装置の縦断面模式図。
【図16】本発明の第四の実施例を説明するための、境界弾性波装置の上面模式図。
【図17】本発明の第四の実施例を説明するための、境界弾性波装置の縦断面模式図。
【図18】本発明の第四の実施例において、酸化珪素の波長換算膜厚と伝搬損失の関係を説明するためのグラフ。
【図19A】本発明の第五の実施例を説明するための、一般的な携帯電話におけるフロントエンド部分の回路ブロック図。
【図19B】図19Aのフロントエンド部分に用いられる高周波フィルタを構成する境界弾性波装置の例を示す上面模式図。
【図20】本発明の第六の実施例を説明するための、境界弾性波装置の上面模式図。
【図21】本発明の第六の実施例を説明するための、境界弾性波装置の縦断面模式図。
【図22】境界弾性波を閉じこめる媒質と弾性境界波の特性の関係を示した図。
【図23】漏洩弾性境界波共振器のインピーダンス特性上に発生するスプリアスを説明する図。
【図24】特許文献1に開示された境界弾性波共振器の構成例を示す図。
【図25】特許文献1に記載された、弾性的なQ値が千以上(伝搬損失が0.056dB以下の範囲)となるθの範囲を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明に係る境界弾性波装置の構造を図面に示した幾つかの好ましい実施形態を参照して、更に詳細に説明する。
【実施例1】
【0028】
図1ないし図10により、本発明の第一の実施例になる境界弾性波共振器を説明する。図1は、第1の実施例になる境界弾性波共振器の上面模式図である。図2は、第1の実施例になる境界弾性波共振器の断面模式図であり、図1のI−I’断面を示す。
【0029】
本実施形態の圧電境界弾性波装置は、一開口共振器であって、櫛形電極上に形成された2種類の膜の存在を除いては従来の表面弾性波共振器の構成と同じである。即ち、θYX−LN単結晶圧電基板1の表面に、アルミニウムを主成分とする金属膜で櫛型のIDT14がパターニングされている。IDT14はバスバー2と電極指3で構成されている。電極指3が互いに間挿された2つの電極間に高周波信号が加えられている。IDT14の両側にアルミニウムを主成分とする金属膜で形成された反射器4が設置されている。個々の電極指3は、膜厚がhm、幅がL、電極指周期がλ(境界弾性波の伝搬波長と一致)である。隣接する電極指間には幅Sの間隙が設けられている。IDT14と反射器4の上には、膜厚がh1の酸化珪素膜5が形成されている。酸化珪素膜5の表面には、膜厚がh2の窒化アルミニウム膜6が形成されている。
【0030】
一例を挙げると、IDT14は、電極指3の膜厚hm=70nm,電極指周期λ=2μm,幅L=幅S=0.5μm,電極指対数100対,開口長10λであり、酸化珪素膜5の膜厚h1は1.4μm、窒化アルミニウム膜6の膜厚h2は6μmである。
【0031】
本実施形態の特徴は、θYX−LN単結晶圧電基板1と酸化珪素膜5と窒化アルミニウム膜6の3媒質構造を成し、境界弾性波が閉じこめられる媒質(酸化珪素膜5)と電気信号と機械信号の変換を行う媒質(θYX−LN単結晶圧電基板1)を分け、境界弾性波が閉じこめられる媒質に非圧電非金属膜を用い、電極指3の膜厚hm、酸化珪素膜5の厚h1、及びカット角θ等を以下に述べるような所定の範囲の関係にしたことにある。本発明が、櫛形電極の構造や個数に関して限定されることはない。
【0032】
本発明者等は、境界弾性波共振器シミュレーション技術を用いて本実施形態の特性を詳細に調べた。
【0033】
図3は、IDT14の電極指3の膜厚hm、酸化珪素膜5の膜厚h1、窒化アルミニウム膜6の膜厚h2、界面7の起伏量hΔ、電極指3の線幅L、空隙S、励振される境界弾性波の波長(電極ピッチと一致)λ、及び反射器の厚さhrの定義を示した図である。
【0034】
酸化珪素膜5と窒化アルミニウム膜6との界面7は電極指3の膜厚に依存して波打っている。そのため、ここでは、h1を電極指3の上面から界面7の最下面までの距離、h2を界面7の最上面から窒化アルミニウム膜6の表面の最下面までの距離で定義した。
【0035】
境界弾性波共振器の共振周波数は、境界弾性波の伝搬速度と電極ピッチλの比で決まる。θYX−LN単結晶基板1上に存在する境界弾性波の音速は4300m/s前後であり、2GHz帯でλは約2μmになる。このときのLとSは比較的自由に設定できるが、しかし量産性を考慮するとLとS共に大きい方がよい。すなわち、L=S=0.5μmのとき、最小加工寸法が最も大きくなり、量産性に優れる。
【0036】
弾性境界波の伝搬損失は、電極指間空隙の影響を強く受ける。前記の通り、非特許文献1に記載された計算手法は電極を一様な金属膜で近似するものであるため、電極の総重量が2倍になり質量負荷を過剰に取り込んでしまう、電極指3の端部での境界弾性波の反射/局在を考慮できない、酸化珪素膜5と窒化アルミニウム膜6の界面7の形状を考慮できない、等の問題がある。本発明者等は、特許文献1に記載の境界弾性波共振器シミュレーション技術を用い、櫛形電極の形状等、全ての効果を考慮して、境界弾性波の弾性特性を詳細に検討した。
【0037】
図4(4A,4B,4C)に、音響絶縁膜として窒化アルミニウム膜を採用し、界面7の起伏量hΔを考慮した結果の一例を示す。図4AはhΔ/λ=0.02、図4BはhΔ/λ=0.03、図4CはhΔ/λ=0.04として、共振/反共振共に1/Q<0.0001の条件を満たすθの範囲(各図中に太線で示した角度範囲)を求めた。結果は、次の通りである(1度以下は四捨五入)。
hΔ/λ=0.02の場合、153≦θ≦161
hΔ/λ=0.03の場合、157≦θ≦161
hΔ/λ=0.04の場合、159≦θ≦165
このように、最近のデバイスに要求される弾性的な高いQ値を得るためには、市販の成膜装置を用いた酸化珪素膜5の成膜工程において発生する、酸化珪素膜5の表面の起伏量、換言すると界面の起伏量hΔの大きさは無視できない。
【0038】
この外、高いQ値を得るためには、導波路膜の膜質劣化についても、配慮する必要がある。
また、境界弾性波共振器は、直列共振周波数と並列共振周波数の間で、高Qである必要がある。本発明者等はこれらの点を考慮し、その両端周波数でのQ値、つまり直列共振Qと並列共振Qで弾性境界波を評価した。
【0039】
hΔは酸化珪素膜5の成膜条件により0<hΔ<hmの範囲で変化する。本発明者等は、実素子が、hΔ=0とhΔ=hmとの形状の素子の間の特性を示すことに着目し、2種類のモデル(図5A、図5B)を用いた。図5Aのモデルは界面7の起伏量hΔ=0、IDT14の膜厚がhmである。図5BのモデルはhΔ=hmである。(なお、反射器4の厚さhrは、図3の通り。)
薄膜装置で形成された酸化珪素膜5は、通常多孔質膜になる。多孔質膜の膜質を評価するパラメータは、特許文献1に記載されている密度減少率δを用いた。酸化珪素膜5の弾性定数C11,C44及び密度pは、
C11=Co11×e-3×δ
C44=Co44×e-3.9×δ
p=po×(1−δ)
と表わされる。ここでCo11、Co44、poには最も緻密な酸化珪素である石英ガラスの弾性定数、密度の値を用いた。
【0040】
酸化珪素膜5の密度減少率δは、成膜温度、ガス比率を最適化することにより、スパッタ法では0<δ<0.02、CVD法では0<δ<0.04に抑えることが出来る。本発明者等はこの点を考慮し、その両端での値、つまり密度減少率δ=0、0.02、0.04の場合の境界弾性波を検討した。またLとSの比は1とした。
【0041】
以上の説明したように、電極指3の膜厚hm、酸化珪素膜5の厚h1、カット角θ、酸化珪素膜5の密度減少率δ、界面7の起伏量hΔを考慮して、境界弾性波の共振特性を詳細に調べた。
【0042】
まず、図6は、直列共振周波数の低周波側に発生する遅い横波バルク波の励振強度を説明した図である。すなわち、図6は、境界弾性波の波長をλ、反射器4の厚さをhr、第2の媒質5の厚さをh1、IDT14の厚さをhmとしたとき、カット角θと、波長λで換算した酸化珪素膜5とIDT14の膜厚の和(h1+hm)の比率と、遅い横波バルク波の励振強度K2の関係を示した図である。
【0043】
バルク波の励振強度は、IDT14の対数に依存するため、定量的に定義することは従来困難である。しかし、発明者等は、従来の漏洩型の弾性表面波共振器のバルク波放射とは異なり、漏洩型の境界弾性波共振器では遅い横波バルク波は狭帯域に励振することに着目し、境界弾性波のk2と同様に、IDT14内部で共振すると仮定した場合のインピーダンスの複素成分が正になる周波数範囲からIDTとの結合量を算出した。本明細書では、この値を遅い横波バルク波のK2と呼ぶこととする。波長で換算した酸化珪素膜5とIDT14の膜厚の和を小さくすることで、遅い横波バルク波のK2を小さくすることができる。すべてのカット角θ(0〜180度)に対して、波長λで換算した酸化珪素膜5とIDT14の膜厚の和(h1+hm)を77%より小さくすることで、遅い横波バルク波のK2を0.3%以下、つまり通信器などのフィルタとして許容値以下とすることができる。さらに波長で換算した酸化珪素膜5とIDT14の膜厚の和を62%より小さくすることで、遅い横波バルク波のK2を0.15%以下、つまりほぼ雑音レベルにまで抑えることができる。
【0044】
次に、本発明の第一の実施例における、反射器の反射帯域幅の材料依存性を説明する。図7Aは、図1に記載した短絡型反射器4と特許文献1の図4に記載の開放型反射器の実効反射帯域幅を比較した図である。ともに反射器の材料はアルミニウムである。短絡型反射器では、膜hrが厚い場合、反射帯域の内部にスプリアスとしてニオブ酸リチウムの遅いバルク波が発生する。そのため、実効反射帯域幅は、スプリアスで2個に分割された反射帯域の広い方とした。膜厚hrは2.5〜8.5%で短絡型反射器の方が開放型反射器より広い実効反射帯域幅を示した。
【0045】
また、図7Bに示したように、反射器の材料として、アルミニウム以外の、Au,Ni,Cu,W,Mo,Ruなどの密度の大きい材料を用いても、同様に、短絡型反射器の方が開放型反射器より高い反射率が得られる。
【0046】
これらのことから、漏洩型の境界弾性波では、短絡型反射器を用いることにより、実効反射帯域幅を大きくすることができる。別の言葉で説明すると、第一の実施例の短絡型反射器4は、(h1+hm)/λ≦77.0%で、かつ、膜厚hrが2.5〜8.5%の範囲にあるとき、大きい反射係数を有するため、いっそう損失の小さい弾性波装置を提供することができる。
【0047】
なお、本実施形態の圧電境界弾性波装置は、IDT14がアルミニウムを主成分とする金属で形成されている。しかし、IDT14により主に励振される弾性波が漏洩境界弾性波であることが重要であって、電極材料をアルミニウムに限定するものではない。アルミニウムに銅、珪素、チタン等を混ぜた合金、またはそれらの多層膜であっても、同様の効果がある。またこれらの密度の小さい金属を用いることで、金属膜厚/加工寸法の製造ばらつきに起因する境界弾性波装置の動作周波数のバラツキを小さくすることができる。さらに漏洩弾性境界波を用いているため、また電極材料にアルミニウムを主成分とする金属を用いているため、IDT14の電極指3の反射係数を小さくすることができ、ダブルモード型共振器に代表される複数の非調和型境界弾性波モードで共振器を動作させる場合でも電極指3の本数を多くすることができる。その結果、急峻な周波数特性を実現でき、かつ開口長の小さい=電気抵抗損の小さい弾性波装置を実現することが出来る。アルミニウムの他に、チタン、またはこれらの金属を主成分とした他の金属との積層膜でも同様の効果を得ることができる。
【0048】
次に、図8に、音響絶縁膜として窒化アルミニウム膜を採用したものについて、δ=0、hΔ=hm、hm/λ=0.03の場合に、h1/λを変えて、共振/反共振共に1/Q<0.0001の条件を満たすθの範囲を求めた例を示す。
【0049】
図8において、h1/λ=60%では、153°≦θ≦161°
h1/λ=65%では、159°≦θ≦167°
h1/λ=70%では、163°≦θ≦171°
となった。
【0050】
同様にして、境界弾性波の共振特性を詳細に調べた。図9Aから図9Fは、境界弾性波のQ値の評価結果である。表中「△」は直列共振Qが1万未満で並列共振Qも1万以上、「●」は直列共振Qと並列共振Q共に1万以上、「▽」は直列共振Qは1万以上で並列共振Qは1万未満、「+」は高Qな境界弾性波は存在するがしかし直列共振Qと並列共振Q共に1万未満、「*」は直列共振周波数がθYX-LN単結晶圧電基板の横波共振周波数以下、「−」は未評価を表している。
【0051】
図9Aは、δ=0.00,hΔ=0の場合の、シミュレーションで得られた、境界弾性波の伝搬特性を示す図である。図9Aに●で示されるように、直列共振Qと並列共振Q共に1万以上の範囲は、次の通りである。
hm/λ=2%、h1/λ=60%のとき、151°≦θ≦159°
hm/λ=2%、h1/λ=65%のとき、157°≦θ≦165°
hm/λ=2%、h1/λ=70%のとき、163°≦θ≦171°
hm/λ=2%、h1/λ=75%のとき、167°≦θ≦169°
hm/λ=3%、h1/λ=60%のとき、153°≦θ≦161°
hm/λ=3%、h1/λ=65%のとき、159°≦θ≦167°
hm/λ=3%、h1/λ=70%のとき、163°≦θ≦171°
hm/λ=4%、h1/λ=55%のとき、149°≦θ≦151°
hm/λ=4%、h1/λ=60%のとき、155°≦θ≦161°
hm/λ=4%、h1/λ=65%のとき、161°≦θ≦167°
hm/λ=4%、h1/λ=70%のとき、165°≦θ≦169°
hm/λ=6%、h1/λ=55%のとき、153°≦θ≦159°
hm/λ=6%、h1/λ=60%のとき、159°≦θ≦165°
hm/λ=6%、h1/λ=65%のとき、163°≦θ≦169°
図9Bは、δ=0.02、hΔ=0の場合の、シミュレーションで得られた、境界弾性波の伝搬特性を示す。図9Bに●で示されるように、直列共振Qと並列共振Q共に1万以上の範囲は、次の通りである。
hm/λ=2%、h1/λ=55%のとき、151°≦θ≦153°
hm/λ=2%、h1/λ=60%のとき、159°≦θ≦163°
hm/λ=2%、h1/λ=65%のとき、163°≦θ≦165°
hm/λ=3%、h1/λ=55%のとき、153°≦θ≦155°
hm/λ=3%、h1/λ=60%のとき、161°≦θ≦165°
hm/λ=4%、h1/λ=55%のとき、155°≦θ≦157°
hm/λ=4%、h1/λ=60%のとき、161°≦θ≦165°
hm/λ=6%、h1/λ=55%のとき、159°≦θ≦161°
図9Cは、δ=0.04、hΔ=0の場合の、シミュレーションで得られた、境界弾性波の伝搬特性を示す。図9Cに●で示されるように、直列共振Qと並列共振Q共に1万以上の範囲は、次の通りである。
hm/λ=2%、h1/λ=55%のとき、157°≦θ≦159°
hm/λ=3%、h1/λ=55%のとき、159°≦θ≦161°
hm/λ=4%、h1/λ=55%のとき、159°≦θ≦161°
図9Dは、δ=0、hΔ=hmの場合の、シミュレーションで得られた、境界弾性波の伝搬特性を示す。図9Dに●で示されるように、直列共振Qと並列共振Q共に1万以上の範囲は、次の通りである。
hm/λ=2%、h1/λ=55%のとき、147°≦θ≦149°
hm/λ=2%、h1/λ=60%のとき、153°≦θ≦161°
hm/λ=2%、h1/λ=65%のとき、159°≦θ≦167°
hm/λ=2%、h1/λ=70%のとき、163°≦θ≦171°
hm/λ=3%、h1/λ=55%のとき、149°≦θ≦153°
hm/λ=3%、h1/λ=60%のとき、157°≦θ≦161°
hm/λ=3%、h1/λ=65%のとき、161°≦θ≦169°
hm/λ=3%、h1/λ=70%のとき、165°≦θ≦171°
hm/λ=4%、h1/λ=55%のとき、153°≦θ≦157°
hm/λ=4%、h1/λ=60%のとき、159°≦θ≦165°
hm/λ=4%、h1/λ=65%のとき、163°≦θ≦167°
hm/λ=4%、h1/λ=70%のとき、165°≦θ≦167°
hm/λ=6%、h1/λ=50%のとき、151°≦θ≦153°
hm/λ=6%、h1/λ=55%のとき、157°≦θ≦163°
hm/λ=6%、h1/λ=60%のとき、163°≦θ≦169°
hm/λ=6%、h1/λ=65%のとき、165°≦θ≦167°
図9Eは、δ=0.02、hΔ=hmの場合の、シミュレーションで得られた、境界弾性波の伝搬特性を示す。図9Eに●で示されるように、直列共振Qと並列共振Q共に1万以上の範囲は、次の通りである。
hm/λ=2%、h1/λ=55%のとき、153°≦θ≦157°
hm/λ=2%、h1/λ=60%のとき、161°≦θ≦165°
hm/λ=3%、h1/λ=55%のとき、157°≦θ≦159°
hm/λ=3%、h1/λ=60%のとき、163°≦θ≦167°
hm/λ=4%、h1/λ=55%のとき、159°≦θ≦163°
図9Fは、δ=0.04,hΔ=hmの場合の、シミュレーションで得られた、境界弾性波の伝搬特性を示す。図9Fに●で示されるように、直列共振Qと並列共振Q共に1万以上の範囲は、次の通りである。
hm/λ=2%、h1/λ=55%のとき、159°≦θ≦161°
hm/λ=3%、h1/λ=55%のとき、159°≦θ≦161°
図9Aから図9Fにおける評価点は離散的ではあるが、Q値はこれらのパラメータに対して連続に変化するため、評価点間でも内挿することにより、容易にQ値を知ることが出来る。
【0052】
本発明の弾性波装置を製作するに際して、膜質の制御可能な成膜装置で酸化珪素膜を形成した場合は、このSiO2膜の密度減少量δを充分小さくする、すなわち実質的にゼロとすることが出来る。この場合は、149°≦θ≦171°のθYX-LN基板を用いると、界面の起伏量hΔを制御する必要は無くなる。すなわち、制御の容易な酸化珪素膜5の膜厚h1と電極指3の膜厚はhmを最適化することで、直列共振Qと並列共振Q共に1万以上になる境界弾性波を得ることができ、良質な弾性波装置を提供することが出来る。最適な酸化珪素膜5の膜厚h1と電極指3の膜厚hmの値は界面7の起伏量hΔに依存するが、しかしその値は47.5%≦h1/λ≦77.5%、及び0.01%≦hm/λ≦7%の範囲である。
【0053】
一方、θ<149°または171°<θのθYX-L単結晶圧電基板1を用いた場合、最適な酸化珪素膜5の膜厚h1、電極指の膜厚hmが存在しない、またはhΔに依存して存在しない可能性が生じる。前者の場合、Q値の極めて高い境界弾性波デバイスを得ることは出来ず、また後者の場合は、hΔを制御しなくてはならず製造に困難が生じる。
【0054】
低コスト普及タイプのスパッタ装置で酸化珪素膜5を形成した場合、この酸化珪素膜5の密度減少量δは0.02程度まで劣化する場合がある。この場合は、153°≦θ≦165°のθYX-LN単結晶圧電基板1を用いることにより、界面7の起伏量hΔを制御する必要は無くなる。すなわち、酸化珪素膜5の表面の起伏量hΔを平滑化する処理を行なわずに、その表面上に窒化アルミニウム膜の成膜を行なう。このように、制御の容易な酸化珪素膜5の膜厚h1と電極指3の膜厚はhmを最適化することで、直列共振Qと並列共振Q共に1万以上になる境界弾性波を得ることができ、良質な弾性波装置を提供することが出来る。最適な酸化珪素膜5の膜厚h1と電極指3の膜厚hmの値は界面7の起伏量hΔに依存するが、しかしその値は52.5%≦h1/λ≦67.5%、及び1%≦hm/λ≦7%の範囲である。
【0055】
一方、θ<153°または165°<θのθYX-LN単結晶圧電基板1を用いた場合、最適な酸化珪素膜5の膜厚、電極指3の膜厚が存在しない、またはhΔに依存して存在しない可能性が生じる。前者の場合、Q値の極めて高い境界弾性波デバイスを得ることは出来ず、また後者の場合は、hΔを制御しなくてはならず製造に困難が生じる。
【0056】
なお、図9Aから図9Fに示した上記範囲の外側でも、149°≦θ≦171°、且つ、47.5%≦h1/λ≦77.5%、且つ、1%≦hm/λ≦7%では境界弾性波が存在し、直列共振Qと並列共振Q共に数千乃至1万程度以上となる高いQ値を示した。
【0057】
さらに、pCVD装置は、成膜速度が速いため、酸化珪素膜5の成膜工程のコストを下げることが出来るが、この酸化珪素膜5の密度減少量δは0.04程度まで劣化する場合がある。この場合、159°≦θ≦161°のθYX-LN単結晶圧電基板1を用いることにより、界面7の起伏量hΔを制御する必要は無くなる。すなわち、制御の容易な酸化珪素膜5の膜厚h1と電極指3の膜厚はhmを最適化することで、直列共振Qと並列共振Q共に1万以上になる境界弾性波を得ることができ、良質な弾性波装置を提供することが出来る。最適な酸化珪素膜5の膜厚h1と電極指の膜厚hmの値は界面7の起伏量hΔに依存するが、しかしその値は52.5%≦h1/λ≦57.5%、及び1%≦hm/λ≦5%の範囲である。
【0058】
一方、θ<159°または161°<θのθYX-LN単結晶圧電基板1を用いた場合、最適な酸化珪素膜5の膜厚、電極指の膜厚が存在しない、またはhΔに依存して存在しない可能性が生じる。前者の場合、Q値の極めて高い境界弾性波デバイスを得ることは出来ず、また後者の場合は、hΔを制御しなくてはならず製造に困難が生じる。
【0059】
以上を纏めると、ニオブ酸リチウム圧電単結晶を主成分とし、θ回転Yカットに切り出された平面を有する第1の媒質と、窒化アルミニウムを主成分とする第3の媒質と、第1の媒質と第3の媒質とに挟まれ且つ第1の媒質の該平面に形成された酸化珪素を主成分とする第2の媒質と、第1の媒質と第2の媒質の境界に形成されたアルミニウムを主成分とするIDTとを有し、前記IDTは主に境界弾性波を励振する弾性波装置において、
前記境界弾性波の波長をλ、前記IDTの厚さをhm、第2の媒質の厚さをh1としたとき、
149°≦θ≦171°、且つ、47.5%≦h1/λ≦77.5%、且つ、
0.01≦hm/λ≦0.07、とするのが望ましい。
【0060】
これにより、高い品質係数と製造の容易さを有する弾性波装置を提供することができる。さらに、境界弾性波を用いているため、中空パッケージを不要に出来るため、また温度補償膜として酸化珪素を用いることが出来るため、小型で優れた温度安定性を有する弾性波装置を提供することができる。
【0061】
なお、hΔを実質的にゼロに制御することは、酸化珪素膜5の表面を平坦に研磨する工程を必要とするが、比較的容易に実現できる。膜質の制御可能な成膜装置で酸化珪素膜を形成した場合、以下のδ、hΔ、hm/λ、h1/λ、θの場合に、直列共振Qと並列共振Q共に1万以上の特性を示した。
1.0%≦hm/λ<2.5%、58.75%≦h1/λ<61.25%、151°≦θ≦159°
1.0%≦hm/λ<2.5%、61.25%≦h1/λ<63.75%、154°≦θ≦162°
1.0%≦hm/λ<2.5%、63.75%≦h1/λ<66.25%、157°≦θ≦165°
1.0%≦hm/λ<2.5%、66.25%≦h1/λ<68.75%、160°≦θ≦168°
1.0%≦hm/λ<2.5%、68.75%≦h1/λ<71.25%、163°≦θ≦171°
1.0%≦hm/λ<2.5%、71.25%≦h1/λ<73.75%、165°≦θ≦170°
1.0%≦hm/λ<2.5%、73.75%≦h1/λ<76.25%、167°≦θ≦169°
2.5%≦hm/λ<3.5%、58.75%≦h1/λ<61.25%、153°≦θ≦161°
2.5%≦hm/λ<3.5%、61.25%≦h1/λ<63.75%、156°≦θ≦164°
2.5%≦hm/λ<3.5%、63.75%≦h1/λ<66.25%、159°≦θ≦167°
2.5%≦hm/λ<3.5%、66.25%≦h1/λ<68.75%、161°≦θ≦169°
2.5%≦hm/λ<3.5%、68.75%≦h1/λ<71.25%、163°≦θ≦171°
3.5%≦hm/λ<5.0%、53.75%≦h1/λ<56.25%、149°≦θ≦151°
3.5%≦hm/λ<5.0%、56.25%≦h1/λ<58.75%、152°≦θ≦156°
3.5%≦hm/λ<5.0%、58.75%≦h1/λ<61.25%、155°≦θ≦161°
3.5%≦hm/λ<5.0%、61.25%≦h1/λ<63.75%、158°≦θ≦164°
3.5%≦hm/λ<5.0%、63.75%≦h1/λ<66.25%、161°≦θ≦167°
3.5%≦hm/λ<5.0%、66.25%≦h1/λ<68.75%、163°≦θ≦168°
3.5%≦hm/λ<5.0%、68.75%≦h1/λ<71.25%、165°≦θ≦169°
5.0%≦hm/λ<7.0%、53.75%≦h1/λ<56.25%、153°≦θ≦159°
5.0%≦hm/λ<7.0%、56.25%≦h1/λ<58.75%、156°≦θ≦162°
5.0%≦hm/λ<7.0%、58.75%≦h1/λ<61.25%、159°≦θ≦165°
5.0%≦hm/λ<7.0%、61.25%≦h1/λ<63.75%、161°≦θ≦167°
5.0%≦hm/λ<7.0%、63.75%≦h1/λ<66.25%、163°≦θ≦169°
この特性は、図9Aに示したhΔ=0の場合の特性に近似するものである。例えば、1.0%≦hm/λ<2.5%は、図9Aにおけるhm/λ=2%に対応し、58.75%≦h1/λ<61.25%は、図9Aにおけるh1/λ<60%に対応し、図9Aの場合と同じ、151°≦θ≦159°という結果が得られている。
【0062】
なお、窒化アルミニウム膜6の結晶のC軸の向きは、ランダムであることが望ましい。これは、IDT14で発生させた機械振動の主成分であるSH(shear horizontal)波成分を、窒化アルミニウム膜内でSV(shear vertical)波成分に変換させないためである。そのため、アモルファス状態の膜でも全く同様の効果を有する。また配向膜または単結晶膜でも、窒化アルミウム膜のC軸が、基板面にほぼ垂直である場合では、SV成分とSH成分が直交するため、同様の効果を有する。酸化珪素膜に関しても同じである。
【0063】
このように、高い品質係数と製造の容易さを有する弾性波装置を提供するという観点において、第2の媒質の厚さをh1、前記IDTの厚さをhmとしたとき、カット角θは、149°≦θ≦171°とするのが良い。カット角θがこのような範囲にある場合の、直列共振周波数の低周波側に発生する遅い横波バルク波の励振強度を、図10に示す。カット角θを149°≦θ≦171°に限定した場合、波長で換算した酸化珪素膜5とIDT14の膜厚の和、すなわち(h1+hm)/λを77%より小さくすることで、遅い横波バルク波のk2を0.3%以下とすることができ、さらに、波長で換算した酸化珪素膜5とIDT14の膜厚の和を62%以下とすることで、遅い横波バルク波のk2を0.15%以下にまで抑えることができる。別の言葉で説明すると、スプリアスの少ない弾性波装置を提供することができる。
【0064】
また、h2/2がλより小さい場合、窒化アルミニウム膜6の表面の機械振動エネルギーは存在するから、この場合、表面弾性波が励振される。この表面弾性波は従来の表面弾性波より表面の機械振動エネルギーは極めて小さいから、境界弾性波の優れた特性を一部有する。例えば、ハンドリングミスによる窒化アルミニウム膜6の表面の損傷,不純物の付着に対して損失,周波数ずれ等電気特性の劣化が小さい。このため、本発明を表面弾性波装置に適用した場合、従来の表面弾性波装置より信頼性の高い弾性波装置を提供することが出来る。しかし薄くするに従い、伝搬損失は徐々に増加するため、共振器上では充分に厚くしたほうが望ましい。
【0065】
このように、所望の膜質と平坦性が得られていない場合でも、膜厚を修正することで高いデバイスのQ値を得ることが出来るカット角θの値を明確化することで、高い品質係数(デバイスのQ値)と製造の容易さを有する弾性波装置を提供することができる。例えば、高い品質係数(デバイスのQ値)と製造の容易さが要求される高周波フィルタや高周波共振器を構成するのに適したGHz帯域の通過帯域を有する弾性波装置に、本実施例を適用することができる。
【実施例2】
【0066】
次に、図11ないし図13により、本発明の第二の実施例になる境界弾性波装置を説明する。図11は、第二の実施例になる境界弾性波装置の上面模式図である。図12は、第二の実施例になる境界弾性波装置の断面模式図であり、図11のI−I’断面を示す。図13は、反射器4の実効反射帯域幅の材料依存性を示した図である。
【0067】
本実施形態の圧電境界弾性波装置は、第一の実施例に対して、反射器40が異なる。すなわち櫛形電極の両側に、波長換算膜厚8%の銅を主成分とする金属膜で形成された反射器40が設置されている。反射器40の線幅と間隙は、IDT14のそれらより8%小さく設定されている。
【0068】
我々は、漏洩境界弾性波は、特許文献3,4に記載の境界弾性波より高音速であることに着目し、効率的に漏洩境界弾性波をIDT14に閉じ込める方法を詳細に検討した。その結果、IDT14では漏洩境界弾性波を、反射器40では特許文献3,4に記載の境界弾性波を主弾性波とすることにより実現できることを見出した。すなわち第二の実施例では反射器に密度の大きい金属を用いているため、IDT14と反射器40では弾性モードが異なり、そのため漏洩境界弾性波の大部分がIDT14と反射器40の境で反射されることを見出した。さらに一部が漏洩境界弾性波から特許文献3、4の境界弾性波にモード変化し、反射器内部に進入するが、しかし反射器40の線幅と間隙は、IDT14のそれらより8%小さく設定されており、IDTの直列/並列共振周波数と反射器の反射帯域が一致するため、反射器40に進入した境界弾性波は反射器40の内部で反射され、IDTに戻る。別の言葉で説明すると、第二の実施例で示される反射器40は、漏洩境界弾性波に対して充分大きい反射係数を有する。そのため損失の小さい弾性波装置を提供することができる。
【0069】
なお、反射器40は、充分に広い実効反射帯域幅を有する必要である。ここで実効反射帯域幅とは、反射係数の周波数特性にスプリアスを有さず、かつ高い反射係数を有する周波数帯域幅である。この実効反射帯域幅を、反射器の膜厚/加工寸法の製造ばらつきに起因した反射帯域の中心周波数のバラツキより充分に大きくすることで、IDTとは異なり、重い金属を用いても電気特性への悪影響を避けることができる。
【0070】
図13において、図中に直列/並列共振周波数の間隔を記す。反射器40は、密度が4500kg/mより大きい金属を主成分とする金属層、例えば、Au,W,Ru,Mo,Cu,Niを用いて構成されている。なお全ての材料において、反射帯域の内部にスプリアスとしてニオブ酸リチウムの遅いバルク波が発生した。そのため、実効反射帯域幅は、スプリアスで2個に分割された反射帯域の広い方とした。アルミニウムでは実効反射帯域幅が右下がりであるのに対して、密度が4500kg/mより大きい材料では右上がりになる。このことから、密度が4500kg/mより大きい材料を用いることにより、実効反射帯域幅を直列並列共振周波数の間隔より大きくすることができる。別の言葉で説明すると、第二の実施例で示される反射器40は、さらに大きい反射係数を有する。そのためいっそう損失の小さい弾性波装置を提供することができる。
【実施例3】
【0071】
次に、図14ないし図15により、本発明の第三の実施例になる境界弾性波装置を説明する。図14は、第三の実施例になる境界弾性波装置の上面模式図である。図15は、第三の実施例になる境界弾性波装置の断面模式図であり、図14のI−I’断面を示す。
【0072】
本実施形態は、2個の一開口共振器で構成された境界弾性波装置であって、各共振器(10−1,10−2)は第一の実施例に示した構成を採用するものとする。即ち、各共振器は、θYX−LN単結晶圧電基板1の表面に、アルミニウムを主成分とする金属膜でIDT14がパターニングされている。IDT14の上には、膜厚がh1の酸化珪素膜5が形成されている。酸化珪素膜5の表面には、膜厚がh2の窒化アルミニウム膜6が形成されている。
【0073】
共振器で励振された境界弾性波の一部は共振器の外部に漏洩し、θYX−LN単結晶圧電基板1の端面で反射される。反射された境界弾性波は再びは共振器に戻り、電気特性にスプリアスの発生として悪影響を与える。第三の実施例では、共振器(10−1,10−2)と圧電基板1の端部の間に窒化アルミニウム膜6の無い領域、換言すると酸化珪素膜5や圧電基板1の上面が窒化アルミニウム膜6で覆われていない領域12を設けている。さらに、圧電基板1上に酸化珪素膜5の無い領域13も設けている。すなわち、境界弾性波の波長をλとしたとき、IDT14以外の少なくても一部の領域に、第2の媒質5又は第3の媒質6の少なくとも一方の厚さが、IDT14上の膜厚の半分以下となる弾性絶縁領域を形成している。
【0074】
これらの領域12、13では、境界弾性波は伝搬損失の大きい漏洩表面弾性波として伝搬するため、圧電基板1の内部に弾性エネルギーを散逸させる。そのため領域12、13が弾性絶縁領域として機能し、その結果、端面反射の悪影響を防止する効果がある。
【0075】
なお、領域12において、窒化アルミニウム膜6を完全に除去しなくても、λ/2より薄くすることで類似の効果がある。しかし薄くするほど効果を大きくできるため、完全に除去するほうが望ましい。さらに弾性絶縁領域上に樹脂を付加すると、樹脂が弾性エネルギーを吸収するため、さらに効果を上げることが出来る。すなわち、窒化アルミニウム膜6の上側、領域12、13の上側、及び酸化珪素膜5の外端部および圧電基板1の外端部を樹脂でモールドすれば、吸音効果が得られる。
【実施例4】
【0076】
弾性絶縁領域は、酸化珪素膜5の膜厚を調整することでも実現することが出来る。図16ないし図18により、本発明の第四の実施例になる境界弾性波装置を説明する。図16は、第四の実施例になる境界弾性波装置の上面模式図である。図17は、第四の実施例になる境界弾性波装置の断面模式図であり、図16のI−I’断面を示す。本実施形態は2個の一開口共振器で構成された境界弾性波装置であって、各共振器は第一の実施例である。即ち、θYX−LN単結晶圧電基板1の表面に、アルミニウムを主成分とする金属膜でIDT14がパターニングされている。IDT14の上には、膜厚がh1の酸化珪素膜5が形成されている。酸化珪素膜5の表面には、膜厚がh2の窒化アルミニウム膜6が形成されている。
【0077】
IDT14で励起された境界弾性波の一部は、共振器の外部に漏洩する。共振器10−1の漏洩エネルギーが共振器10−2に達すると、境界弾性波装置の電気特性にスプリアスとして悪影響を与える。第四の実施例では、共振器10−1と共振器10−2との間に弾性絶縁領域として、酸化珪素膜5の薄い領域5−3を設置している。すなわち、IDT14上の第2の媒質5の厚さをh1aとしたとき、IDT14以外の少なくても一部の領域に、第2の媒質5の厚さh1bが、0≦h1b<h1a÷2、となる薄膜領域を形成している。なお、第2の媒質5の厚さは変更せず、第3の媒質6の厚さを同様に薄くしても良い。あるいは、薄い領域5−3及びその上側の窒化アルミニウム膜6の領域12の膜厚を薄くすることによっても、効果を上げることが出来る。
【0078】
図18は境界弾性波の伝搬損失と弾性絶縁領域の酸化珪素膜5の膜厚の関係を説明した図である。共振器10の領域の酸化珪素膜5の膜厚h1は0.65λとしている。弾性絶縁領域の酸化珪素膜5の薄い領域5−3の膜厚を他の領域の半分(h1=0.325λ)にし、2組の共振器(10−1,10−2)間の距離を、波長λの10倍〜30倍、例えば100μmとすることにより、5dBの絶縁効果がある。また、薄い領域5−3の膜厚をさらに薄くすることにより、弾性絶縁効果をさらに大きくすることが出来る。この場合でも、弾性絶縁領域上に樹脂を付加することで、樹脂が弾性エネルギーを吸収するため、さらに効果を上げることが出来る。
【0079】
なお、第三と第四の実施例では、窒化アルミニウム膜6の場合について説明したが、必ずしもこの材料に限定するものではない。電極が形成されたニオブ酸リチウム圧電基板と2種類以上の媒質で構成された漏洩型の境界弾性波装置において、同様の効果がある。また、第1の媒質の主成分として、ニオブ酸リチウムに代えて、θ回転Yカットに切り出された平面を有するタンタル酸リチウム圧電基板を採用しても、同様の効果がある。
【実施例5】
【0080】
本発明の第五の実施例として、本発明の実施例になる境界弾性波装置を携帯電話などの通信機器用途の高周波フィルタとして用いた例を説明する。図19Aは、本発明が適用される無線通信機器におけるフロントエンド部分の回路ブロック図、図19Bは、図19Aの無線通信機器の高周波フィルタ部分を構成する、境界弾性波装置の上面模式図である。
【0081】
50はアンテナに接続された送受切替器モジュール、60は高周波集積回路モジュール、70はベースバンド部、80は電力増幅器モジュールである。これらの送受切替器モジュール50、高周波集積回路部モジュール60、および電力増幅器モジュール80は携帯電話用チップセットとして夫々単独に、あるいは一体的にモジュール化されている。51は位相器、52は送信用のバンドパスフィルタ、53は受信送信用のバンドパスフィルタである。また、61は低雑音増幅器、62は送信ミキサ、63は受信ミキサ、64はシンセサイザである。実施例の1乃至4で説明した境界弾性波装置を夫々、例えば各直列椀及び並列椀を構成するラダー型の共振素子として用いることで、送信用のバンドパスフィルタ52や受信用のバンドパスフィルタ53を構成することができる。
【0082】
図19Aにおいて、アンテナで受信された高周波の受信信号Rxは位相器51を通り、所定の受信帯域の周波数信号だけを通すためのバンドパスフィルタ53を介して、高周波受信信号Rxを増幅するために低雑音増幅器61へ入力される。増幅された高周波受信信号Rxは、ベースバンドに変換するために受信ミキサ63を介して、ベースバンド部70へ送られる。一方、ベースバンド部70から送られてきた高周波の送信信号Txは、変調無線周波数信号を作るための送信ミキサ62を介して、電力増幅器モジュール80に入力され、増幅された高周波送信信号Txは、所定の送信周波数帯域の送信信号だけを通すバンドパスフィルタ52を介してアンテナより電波として放射される。
【0083】
このようなフロントエンド部で使用される高周波信号用のバンドパス52、53のそれぞれは、複数の境界弾性波装置の集合によって構成することができる。図19Aで示したブロック図はシングルバンド携帯電話の場合を示しているが、デュアルバンド、トリプルバンド、クアッドバンドなどのマルチバンド携帯電話の構成においても、同様に適用可能であり、特に実施例で示した構成に限定されない。また、本発明の境界弾性波装置は、高周波信号用のフィルタとして、上記バンドパスフィルタだけでなく、ローパスフィルタやハイパスフィルタを含む高周波フィルタ全般に用いることが出来ることは言うまでも無い。
【0084】
図19Bは、第五の実施例になる高周波フィルタを構成する境界弾性波装置の例を示す上面模式図である。本実施形態では、3個の一開口共振器10−1、10−2、10−3を、同じθYX−LN単結晶圧電基板1の上に配置している。各共振器の具体的な構成は第一の実施例に示したとおりである。共振器間、及び端面との間には、図14〜図17に示した弾性絶縁領域を設けている。また、各酸化珪素膜5(5−1,5−2,5−3)の端部で反射された境界弾性波が共振器に戻ることを防ぐため、各酸化珪素膜5の端部(破線で示した5−1a)を電極指と平行にならないように、例えば曲線としている。また曲線にすることにより、境界弾性波を散乱させている。境界弾性波が共振器に戻ることを防ぐために、窒化アルミニウム膜6の端部にも同様に曲線化している。
【0085】
本実施例の境界弾性波装置は、入出力端子8−1、8−2,8−3、8−4及び引出し線9−4を備えており、例えば、入出力端子8−1は出力端、8−2はリアクタンスLを介して接地、8−3は容量Cを介して接地、8−4は入力端に、夫々接続されている。
【0086】
これにより、優れた電気特性と製造の容易さを有する境界弾性波デバイス、すなわち、高周波の送信用バンドパスフィルタ52及び受信用バンドパスフィルタ53を実現している。
【0087】
以上説明したように、本発明によれば、所定のカット角θを有するθYX−LN単結晶圧電基板を用いることにより、高い品質係数と製造の容易さを有する境界弾性波装置及びそれを用いた高周波フィルタを提供することができる。また所望の膜質と平坦性が得られていない場合でも、膜厚を修正することで高いデバイスのQ値を得ることができる。また製造の容易さを有する境界弾性波装置を提供することにある。さらに、境界弾性波を用いるため、セラミックパッケージを省くことが可能であるため、低価格の弾性波装置を提供することができる。
【0088】
本発明ではIDTとしてアルミニウムを例にして説明しているが、他の金属を用いても類似の効果が生じる。しかし漏洩型の境界弾性波では、低抵抗で軽量の金属の方が損失を小さくすることが出来る。このためIDTはアルミニウムを主成分とするものであることが望ましい。
【0089】
窒化アルミニウム膜6、酸化珪素膜5、IDT14、θYX−LN単結晶圧電基板1の間に薄い膜を形成しても本発明の効果があることは明らかである。例えば窒化アルミニウム膜6と酸化珪素膜5との間に密着性を高めるために活性膜を形成しても本発明の効果はある。
【実施例6】
【0090】
図20ないし図21により、本発明の第六の実施例になる境界弾性波共振器を説明する。図20は、第六の実施例になる境界弾性波共振器の上面模式図である。図21は、第六の実施例になる境界弾性波共振器の断面模式図であり、図20のI−I’断面を示す。
【0091】
本実施形態の圧電境界弾性波装置は、少なくとも一部が第1の媒質と第2の媒質の間に形成されIDTに接続された金属膜等からなる放熱端子11を備えている。すなわち、IDT14は、バスバー2と電極指3を有しており、バスバー2の部分は金属膜等の電気及び熱の伝導性に優れた材料の薄膜により放熱端子11と一体に構成されており、この放熱端子11の一部が窒化アルミニウム膜6と直接接している。電極指3で発生する熱は放熱端子11を介して窒化アルミニウム膜6に放出されるため、IDT14の温度を下げることができる。そのため耐電力特性の優れた弾性波装置を提供することができる。なお、第2の媒質5の厚さをh1cとしたとき、放熱端子11に対応する金属膜上の領域で、またはバスバーに対応する金属膜上の領域で第2の媒質5が薄く設定してもよい。この部分の第2の媒質の厚さをh1dとしたとき、0≦h1d≦h1c/2 の関係を満たすのが望ましい。
【0092】
図20では、放熱端子11の近傍でIDT14は窒化アルミニウム膜6と直接接しているが、間に接着層を設けることにより、熱的な接触を向上させるとさらに良い。いずれの場合にしても、放熱端子11及びその近傍のIDT14の部分に対応する領域の酸化珪素膜5の厚さを他の部分の半分以下、さらに望ましくは厚さをゼロにする必要がある。
【0093】
図22は、境界弾性波を閉じこめる媒質と弾性境界波の特性の関係を示した図である。代表的な窒化膜として窒化アルミニウムAlNと窒化珪素SiNx、高音速な酸化膜として酸化アルミニウムAlOx、高音速な非窒化非酸化膜として多結晶珪素Siと炭素(ダイアモンド)Cを用いて比較している。実施例1から6では、境界弾性波を閉じこめる媒質として窒化アルミニウムAlNの膜を例にして説明したが、窒化珪素SiNxの膜または高音速な酸化AlOxの膜でも、同じ特性/効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0094】
1…θYX−LN単結晶圧電基板、2…バスバー、3…電極指、4…反射器、5…酸化珪素膜、6…窒化アルミニウム膜、7…酸化珪素膜と窒化アルミニウム膜の界面、8…入出力端子、9…引出し線、10(10−1、10−2、10−3)…一開口共振器、11…放熱端子、14…IDT、40…反射器、50…送受切替器モジュール、51…位相器、52…送信用バンドパスフィルタ、53…受信送信用バンドパスフィルタ、60…高周波集積回路モジュール、70…ベースバンド部、80…電力増幅器モジュール。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニオブ酸リチウム圧電単結晶を主成分とし、θ回転Yカットに切り出された平面を有する第1の媒質と、
窒化物質または酸化アルミニウムを主成分とする第3の媒質と、
前記第1の媒質と前記第3の媒質とに挟まれ、酸化珪素を主成分とする第2の媒質と、
前記第1の媒質と前記第2の媒質とに挟まれ、且つ前記第1の媒質の前記平面に形成されたIDTと反射器を有し、
前記IDTは主に境界弾性波を励振する弾性波装置において、
前記IDTはアルミニウムを主成分とする金属で構成されており、
前記反射器は短絡型反射器であり、
前記境界弾性波の波長をλ、前記反射器の厚さをhr、前記第2の媒質の厚さをh1、前記IDTの厚さをhmとしたとき、
(h1+hm)/λ≦77.0%
2.5≦hr/λ≦8.5%、
であることを特徴とする弾性波装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記第2の媒質の厚さをh1、前記IDTの厚さをhmとしたとき、
149°≦θ≦171°、且つ
(h1+hm)/λ≦62%
であることを特徴とする弾性波装置。
【請求項3】
請求項1において、
0≦hm/λ≦0.07であり、
149°≦θ≦171°、且つ
47.5%≦h1/λ
としたことを特徴とする弾性波装置。
【請求項4】
請求項3において、
153°≦θ≦165°、且つ
52.5%≦h1/λ≦67.5%
であることを特徴とする弾性波装置。
【請求項5】
請求項4において、
159°≦θ≦161°、且つ
52.5%≦h1/λ≦57.5%、且つ
1%≦hm≦5%
であることを特徴とする弾性波装置。
【請求項6】
請求項3において、
前記IDT上の前記第3の媒質の厚さがλの半分より大きい
ことを特徴とする弾性波装置。
【請求項7】
請求項3において、
前記窒化物質または酸化アルミニウムを主成分とする膜と前記酸化珪素膜との間に密着性を高めるための活性膜が形成されている
ことを特徴とする弾性波装置。
【請求項8】
基板と、該基板上に設けられた複数の弾性波装置とを含んで成り、
少なくとも1つの前記弾性波装置が、請求項1記載の弾性波装置である
ことを特徴とする高周波フィルタ。
【請求項9】
ニオブ酸リチウム圧電単結晶若しくはタンタル酸リチウム圧電単結晶を主成分とする第1の媒質と、
酸化珪素を主成分とする第2の媒質と、
第1の媒質と第2の媒質の何れとも異なる材料を成分とする第3の媒質と、
境界弾性波を主に励振するIDTを有し、
前記第2の媒質は前記第1の媒質と前記第3の媒質とに挟まれており、
前記IDTは前記第1の媒質と前記第2の媒質とに挟まれており、
前記IDT以外の少なくても一部の領域に、前記第2の媒質及び前記第3の媒質の少なくとも一方の厚さが、前記IDT上の厚さの半分となる弾性絶縁領域を形成した
ことを特徴とする弾性波装置。
【請求項10】
請求項9において、
前記境界弾性波の波長をλ、前記IDTの厚さをhm、前記第2の媒質の厚さをh1としたとき、
0≦hm/λ≦0.07であり、
149°≦θ≦171°、且つ
47.5%≦h1/λ≦77.5%、
としたことを特徴とする弾性波装置。
【請求項11】
請求項10において、
前記弾性波装置は、少なくとも2個の一開口共振器を構成するものであり、
前記各共振器間に前記弾性絶縁領域を設けた
ことを特徴とする弾性波装置。
【請求項12】
請求項10において、
前記弾性波装置は、少なくとも2個の一開口共振器を構成するものであり、
前記各共振器の端部と前記第1の媒質の端部との間に前記弾性絶縁領域を設けた
ことを特徴とする弾性波装置。
【請求項13】
請求項10において、前記弾性絶縁領域上に樹脂を付加した
ことを特徴とする弾性波装置。
【請求項14】
請求項10において、
前記IDT上の第2の媒質の厚さをh1aとしたとき、
前記IDT以外の少なくても一部の領域に、前記第2の媒質の厚さh1bが
0≦h1b<h1a÷2
の薄膜領域を形成した
ことを特徴とする弾性波装置。
【請求項15】
請求項14において、
前記弾性波装置は、少なくとも2個の一開口共振器を構成するものであり、
前記各共振器間、又は前記各共振器の端部と前記第1の媒質の端部との間に前記薄膜領域を設けた
ことを特徴とする弾性波装置。
【請求項16】
請求項9において、
少なくとも一部が前記第1の媒質と前記第2の媒質の間に形成され、前記IDTと一体の金属膜からなる放熱端子を備えており、
前記第2の媒質の厚さをh1cとしたとき、
前記金属膜上の少なくとも一部の領域で、前記第2の媒質が薄く設定されており、該部分の前記第2の媒質の厚さをh1dとしたとき
0≦h1d≦h1c/2、
としたことを特徴とする弾性波装置。
【請求項17】
基板と、該基板上に設けられた複数の弾性波装置とを含んで成り、
少なくとも1つの前記弾性波装置が、請求項9記載の弾性波装置である
ことを特徴とする高周波フィルタ。
【請求項18】
ニオブ酸リチウム圧電単結晶を主成分とし、θ回転Yカットに切り出された平面を有する第1の媒質と、
窒化物質または酸化アルミニウムを主成分とする第3の媒質と、
前記第1の媒質と前記第3の媒質とに挟まれ、酸化珪素を主成分とする第2の媒質と、
前記第1の媒質と前記第2の媒質とに挟まれ、且つ前記第1の媒質の前記平面に形成されたIDTと反射器を有し、
前記IDTは主に境界弾性波を励振する弾性波装置において、
前記IDTと前記反射器の間で境界弾性波のモードが変化することを
特徴とする弾性波装置。
【請求項19】
請求項18において、
前記IDTがアルミニウムを主成分とする金属を主成分とする金属層を用いて構成されており、
前記反射器が密度4500kg/mより大きい金属を主成分とする金属層を用いて構成された
ことを特徴とする弾性波装置。
【請求項20】
基板と、該基板上に設けられた複数の弾性波装置とを含んで成り、
少なくとも1つの前記弾性波装置が、請求項18記載の弾性波装置である
ことを特徴とする高周波フィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【図9C】
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【図9D】
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【図9E】
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【図9F】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19A】
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【図19B】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【公開番号】特開2010−11440(P2010−11440A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−71611(P2009−71611)
【出願日】平成21年3月24日(2009.3.24)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】