説明

弾性表面波センサ

【課題】簡易に測定でき、かつ、測定の精度を向上できる。
【解決手段】弾性表面波を伝播する圧電素子基板(10)と、電気信号と前記弾性表面波との変換を行う電極(11−1a、11−1b、11−2a、及び11−2b)と、前記弾性表面波の伝播路に配置され、検体である液体が導入される検出領域(12)と、前記検出領域に接触し、液体が浸潤する多孔性基材(13)と、前記電極が液体と接触することを防ぐ封止構造(14−1及び14−2)と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性表面波センサに関する。
【背景技術】
【0002】
電子回路に用いられるバンドパスフィルタの一つとしてSAW(Surface Acoustic Wave;弾性表面波)フィルタが知られている。SAWフィルタは、小型かつ良好な減衰特性を持つため、携帯電話を始めとして様々な電子機器に利用されている。SAWフィルタは、例えば、圧電素子基板上に弾性表面波を発生させ、また弾性表面波を検出するための櫛型電極(Inter Digital Transducer;IDT)を有する。
【0003】
SAWフィルタに関する技術として、例えば、特許文献1には、圧電性基板上に、送信電極部を構成するIDTと受信電極部を構成するIDTとの間に形成され、検体である液体が導入される検出領域(センサ表面となる領域)を備えた弾性表面波センサが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−286606号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1記載の弾性表面波センサは、センサ表面に直接溶液を滴下する方法か、或いはセンサ表面を溶液にディップ(浸す)する方法により利用されていた。そのため、センサ表面は剥き出しの構造をとる必要があり、表面に傷などの損傷が発生しやすく、簡易に測定できないという問題があった。
また、滴下される溶液が確実にセンサ表面を覆い隠すことが、測定の精度を十分に確保するために要請されるが、溶液を滴下する方法ではこの要請に応えることができないという問題もあった。
また、滴下される溶液が所望の測定時間中に揮発などによって維持できないという問題もあった。
【0006】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、簡易に測定でき、かつ、測定の精度を向上できる弾性表面波センサを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、本発明の一態様は、弾性表面波を伝播する圧電素子基板と、電気信号と前記弾性表面波との変換を行う電極と、前記弾性表面波の伝播路に配置され、検体である液体が導入される検出領域と、前記検出領域に接触し、液体が浸潤する多孔性基材と、前記電極が液体と接触することを防ぐ封止構造と、を備えることを特徴とする弾性表面波センサである。
(2)また、本発明の一態様は、上記の弾性表面波センサにおいて、前記多孔性基材は、平面視において前記検出領域に重ならない部分を有することを特徴とする。
(3)また、本発明の一態様は、上記の弾性表面波センサにおいて、前記多孔性基材は、目的物と反応する物質を含む反応層または目的物以外を除去するフィルタ層のうち少なくとも1つの層を備えることを特徴とする。
(4)また、本発明の一態様は、上記の弾性表面波センサにおいて、前記電極は2対の電極対であって、前記検出領域は、前記2対の電極のうち一方の電極対と電気的に接続する短絡型反応領域と、前記2対の電極のうち他方の電極対と電気的に接続しない開放型反応領域と、を有することを特徴とする。
(5)また、本発明の一態様は、上記の弾性表面波センサにおいて、前記電極は複数の電極対であって、複数の前記電極対各々の間に設けられた前記多孔性基材に、目的物と反応する異なる反応物をそれぞれ有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、簡易に測定でき、かつ、測定の精度を向上できる弾性表面波センサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本実施形態に係るSAWセンサの概略的な模式図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係るSAWセンサの概略的な斜視図である。
【図3】本実施形態に係るSAW素子のセンス回路を示す概略ブロック図である。
【図4】本発明の第2の実施形態に係るSAWセンサの構成を示す模式図である。
【図5】本発明の第3の実施形態に係るSAWセンサの構成を示す模式図である。
【図6】本発明の第4の実施形態に係るSAWセンサの構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(第1の実施形態)
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳しく説明する。
図1は、本実施形態に係るSAWセンサの概略的な模式図である。
図1(a)は、SAWセンサ1の概略的な上面図であり、図1(b)はSAWセンサ1を切断面Aから見た概略的な断面図である。
SAWセンサ1は、圧電素子基板10、送信電極11−1a、送信電極11−1b、受信電極11−2a、受信電極11−2b、反応領域薄膜12、多孔性基材13、封止構造14−1、及び封止構造14−2を含んで構成される。
圧電素子基板10は、SAWを伝播する基板である。圧電素子基板10は、水晶基板である。
【0011】
送信電極11−1a、及び送信電極11−1bは、送信側電極部を構成する櫛歯状のパターンにより形成された金属電極である。以下、送信電極11−1a、及び送信電極11−1bを総称してIDT11−1と呼ぶものとする。
また、受信電極11−2a、及び受信電極11−2bは、受信側電極部を構成する櫛歯状のパターンにより形成された金属電極である。以下、受信電極11−2a、及び受信電極11−2bを総称してIDT11−2と呼ぶものとする。
IDT11−1、及びIDT−11−2(総称してIDT11と呼ぶ)は、圧電素子基板10上に構成される電極である。IDT11は、対向した一対の電極である。IDT11は、例えばアルミニウム薄膜によって構成される。
【0012】
反応領域薄膜12は、金を蒸着して生成した薄膜である。反応領域薄膜12は、表面に抗体を担持した薄膜である。反応領域薄膜12は、圧電素子基板10上であって、圧電素子基板10上に対向して設けられた一対のIDT11の間の領域に形成される。
圧電素子基板10と反応領域薄膜12との重なる部分が、検体である液体が導入される検出領域(センサ表面となる領域)となる。
【0013】
多孔性基材13は、反応領域薄膜12に接して設けられる基材である。多孔性基材13は、例えばニトロセルロースなどの物質から構成される。多孔性基材13は、反応領域薄膜12を完全に覆うように固定される。多孔性基材13は、例えば、反応領域薄膜12の外側四隅に接着して固定される。多孔性基材13は、滴下された溶液を保持し、その内部、及び表面に溶液を浸潤させる。
多孔性基材13は、滴下された溶液を、毛細管現象により多孔性基材13内及び反応領域薄膜12の表面に移送し、保持する。
つまり、SAWセンサ1は、滴下された溶液を多孔性基材13内部及び反応領域薄膜12の表面に保持する。
【0014】
SAWセンサ1では、多孔性基材13内を移送された溶液は、反応領域薄膜12の特定の領域を濡らす。ここで、特定の領域とは、多孔性基材13と反応領域薄膜12との重なる部分によって面積が定められる領域である。例えば、反応領域薄膜12の全面を多孔性基材13で覆う場合、反応領域薄膜12の全領域となる。
溶液中の抗原は、反応領域薄膜12上に担持された抗体と反応し、反応領域薄膜12上の特定領域に抗原抗体結合物を生成する。
すなわち、反応領域薄膜12では、その表面に抗原を含んだ液体試料を滴下することにより、反応領域薄膜12上に担持された抗体と、液体試料中の抗原との間で抗原抗体反応が起こる。その結果、反応領域薄膜12上には、反応領域薄膜12上に担持した抗体と抗原が結合した抗原抗体結合物が生成する。なお、反応領域薄膜12は、金以外であっても抗体を担持できるものであればいかなるものでもよい。
なお、図1に示す例では、多孔性基材13は、反応領域薄膜12よりも大きいため、反応領域薄膜12からはみ出しているが、多孔性基材13は、必ずしも図示したように反応領域薄膜12からはみ出さなくてもよく、反応領域薄膜12と平面視において同じ面積になるように重ねても、或いは平面視において反応領域薄膜12の内側となるように面積を小さく配置してもよい。多孔性基材13が、反応領域薄膜12の特定領域を覆うように配置されていればよい。
【0015】
送信電極部側の封止構造14−1は、封止壁15−1と封止天井16−1とを備えている。なお、封止壁15−1と封止天井16−1との間には両者を接着するための接着層が設けられるが、図1においては省略している。
封止壁15−1は、IDT11−1を覆う壁であり、圧電素子基板10上に矩形状に形成される。封止壁15−1は、例えば感光性樹脂により構成される。
また、封止天井16−1は、封止壁15−1の上側を塞ぎ、IDT11−1を外部から密閉するための天井である。封止天井16−1は、封止天井16−1の平面領域内に封止壁15−1が収まるように封止壁15−1の上側に配置される。封止天井16−1は、例えばガラス基板で構成される。なお、封止壁15−1と封止天井16−1との間には、不図示の接着層が設けられ、封止壁15−1と封止天井16−1との間を密封して接着する。
封止構造14−1は、IDT11−1を外部から密閉してIDT11−1上に空間を形成するように覆い、IDT11−1が液体と接触することを防ぐ封止構造である。
【0016】
また、受信電極部側の封止構造14−2は、封止構造14−1と同様に、封止壁15−2と封止天井16−2とを備え、IDT11−2を外部から密閉してIDT11−2上に空間を形成するように覆い、IDT11−2が液体と接触することを防ぐ封止構造である。
これら封止構造14−1、及び封止構造14−2により、検出領域における雰囲気(例えば湿度)の変化があったとしても、IDT11−1、及びIDT11−2は、その影響を受けにくくなる。
また、図1では、多孔性基材13を封止構造14−1、及び封止構造14−2の封止天井と重なるように配置する例を示しているが、多孔性基材13は、反応領域薄膜12が配置されるセンサの検出領域を覆うように配置されていれば、封止天井と重なるように配置する必要はない。もっとも、多孔性基材13を封止天井と重ならないように配置する場合であって、多孔性基材13が表面弾性波の進む方向に大きくずれた(目ズレした)としても、封止構造14−1、及び封止構造14−2が、それぞれIDT11−1、及びIDT11−2を保護するので、IDTが溶液で濡れることはなく、IDTの弾性波送信動作または弾性波受信動作に影響を与えることはない。
【0017】
図2は、本実施形態に係るSAWセンサ1の概略的な斜視図である。
図2において、図1と同様な構成については同じ符号を付し、その説明を省略する。なお、図2において、図1に示した反応領域薄膜12、封止構造14−1、及び封止構造14−2は省略している。
IDT11−1は、後述するバースト回路22から、送信信号であるバースト信号が入力される。IDT11−1は、入力されたバースト信号に対応するSAWを圧電素子基板10の表面に励起する。IDT11−2は、圧電素子基板10の表面を伝播してきたSAWを電気信号に変換する。IDT11−2は、受信した電気信号(検出信号と呼ぶ)を後述する位相・振幅検出回路23に出力する。
なお、符号Sを付した領域は、溶液が滴下される多孔性基材13の一部を表す。領域Sは、IDT11−1とIDT11−2とが配置された方向に垂直方向にあって、かつ、多孔性基材13の外側に延びる方向に形成された多孔性基材13の一部の領域である。
SAWセンサ1の測定者が、例えば、図2に示すマイクロピペット17を用いて溶液をこの領域Sに溶液を滴下すると、多孔性基材13は、滴下された溶液を、毛細管現象により多孔性基材13内及び反応領域薄膜12の表面に移送し、保持する。
つまり、多孔性基材13が、平面視において検出領域に重ならない部分を有していても、多孔性基材13が溶液を反応領域薄膜12の表面に移送し、保持することで、反応領域薄膜12の特定領域、例えば表面(検出領域)全体を、滴下された溶液により濡らすことができる。
【0018】
図3は、SAWセンサ1を用いた溶液測定に使用するセンス回路20を示す概略ブロック図である。図示する例では、センス回路20は、SAWセンサ1、交流信号源21、バースト回路22、位相・振幅検出回路23、PC24(Personal Computer)を含んで構成される。
交流信号源21は、例えば、250MHzの正弦波交流信号を発生する。交流信号源21は、生成した交流信号をバースト回路22に出力する。
バースト回路22は、交流信号源21から入力された交流信号を、周期的なバースト信号に変換する。ここで、バースト信号の周期は、SAWが圧電素子基板10の表面のIDT11−1からIDT11−2までの間を進行するのに要する時間より大きくなるようにする。バースト回路22は、生成したバースト信号をSAWセンサ1のIDT11−1及び位相・振幅検出回路23に出力する。
なお、バースト回路22はSAWセンサ1から出力される信号に含まれる主とする信号以外の直達波や他のバルク波などを含むノイズ等の妨害信号が十分に小さい場合には必要なく、連続波を用いてよい。
【0019】
位相・振幅検出回路23は、SAWセンサ1のIDT11−2から入力された検出信号、及びバースト回路22から入力されたバースト信号に基づいて、SAWが圧電素子基板10を伝播するのに要した時間である伝播時間による位相変化と振幅変化を算出する。具体的には、位相・振幅検出回路23は、バースト信号の入力から、検出信号の入力までに要した伝播時間による位相変化と振幅の減衰量を検出する。位相・振幅検出回路23は、検出した位相変化と振幅の減衰量をPC24に出力する。
PC24は、位相・振幅検出回路23から入力された位相変化と振幅の減衰量に基づいて、表面の抗体と特異的に反応した溶液中の抗原の量と種類を判定し、判定結果を表示する。
【0020】
ここで、SAWの位相変化と振幅の減衰量について説明する。SAWは、圧電素子基板10の表面近傍に集中して伝播する音響波である。圧電素子基板10は、その表面に物質が吸着すると、その表面の単位体積当たりの質量と粘性が変化する。その結果、SAWの伝播速度と振幅が変化する。従って、SAWの伝播時間が変化し、振幅の減衰量が変化する。本実施形態では、位相の変化量と振幅の減衰量の変化量を利用して溶液中に含まれる抗原を測定する。
具体的には、SAWセンサ1の測定者は、まず、抗原を含まない溶媒を図2に示す領域Sに滴下し、反応領域薄膜12上を溶媒で濡らし、SAWの伝播時間による位相変化を測定する(ブランクテスト)。次に、SAWセンサ1の測定者は、SAWセンサ1を他のサンプル(SAWセンサ1)に取り替えて、抗原を含んだ溶液を、そのサンプルの図2に示す領域Sに滴下し、その伝播時間による位相変化を測定する。溶媒に対応する位相変化と溶液に対応する位相変化との差が、抗原抗体反応によって反応領域薄膜12に生成した抗原抗体結合物に起因する位相の変化量となる。PC24は、ブランクテストをした時の位相変化をメモリ内に記憶しておき、この位相変化と、溶液を滴下して得られる位相変化との差を算出することで、位相の変化量を算出する。PC24は、位相の変化量に基づいて、溶液に含まれる抗原を特定する。振幅の減衰量についても同様であり、振幅の減衰量の変化量に基づいて、溶液に含まれる抗原を特定する。
なお、測定者は、利用する溶媒でのSAWの位相変化が予め判明していれば、溶媒でのSAWの位相変化を測定する必要はない。
また、利用する溶媒でのSAWの伝播時間が予め判明していない場合でも、抗原を含んだ溶液の滴下直後の位相と振幅とを基準として、それ以降の変化の差を取ることで溶液中の抗原の量と種類とを判定し、判定結果を表示することも可能である。
【0021】
上記のように、本実施形態では、弾性表面波を伝播する圧電素子基板(圧電素子基板10)と、電気信号と弾性表面波との変換を行う電極(電気信号から弾性表面波への変換を行うIDT11−1と、弾性表面波から電気信号への変換を行うIDT11−2)と、弾性表面波の伝送路に含まれ、検体である液体が導入される検出領域(反応領域薄膜12)検出領域に接触し、液体が浸潤する多孔性基材(多孔性基材13)と、電極が液体と接触することを防ぐ封止構造(封止構造14−1、封止構造14−2)と、を備える。
これにより、SAWセンサ1は、滴下される試料溶液が多孔性基材13内に保持されるため、溶液自体の揮発を抑制することができる。また、SAWセンサ1は、滴下される溶液を確実に反応領域薄膜12の予め定めた特定の領域と接触させることができ、正確な測定が可能となる。また、SAWセンサ1は、圧電素子基板10上に直接溶液を滴下しないため、測定者が溶液を滴下するときに、マイクロピペット等の滴下器具が反応領域薄膜12(センサ表面)に直接接触し、センサ表面に傷などの損傷を発生させることがなくなり、簡易に正確な測定が可能となる。
また、液体を表面反応領域上に保持することができるため、検体である液体が導入された後、SAWセンサ1を縦に或いは横にして振動等によって液体が保持されなくなったりする問題や、検体に触れてしまうなどの問題も発生しない。
【0022】
ところで、ラテラルフローと呼ばれるバイオセンサが存在する。ラテラルフローは予め固定化された測定対象を認識する抗体によって、免疫イムノクロマト法により抗原抗体反応を行うセンサであるが、抗原抗体反応の検出結果を色によって出力する。このため、測定対象を認識する抗体に染色物質を固定化しておく必要があり、着色や染色のプロセスが必要となって、簡単な測定ができないという問題があった。また、色の判定は、目視による判定のため、測定の精度を十分に確保できない問題もあった。SAWセンサ1によれば、一般的な抗原を検出する方法である免疫イムノクロマト法を用いて抗原を検出する場合に必要であった着色や染色のプロセスが不要となる。従って、簡便に、精度よく測定を行うことが可能となる。
【0023】
(第2の実施形態)
以下、図面を参照しながら本発明の第2の実施形態について詳しく説明する。
なお、以下に示す各実施形態の説明では、図面において前述と同様な構成については同じ符号を付し、説明を省略する。
本実施形態では、多孔性基材13が、フィルタ機能、及び反応場の機能を持つ物質で構成された層を有する場合について説明をする。
図4は、本実施形態に係るSAWセンサ1Bの構成を示す模式図である。なお、図4において、図1、及び図2と同一の構成については同じ符号を付し、その説明を省略する。
図4(a)は、SAWセンサ1Bの概略的な上面図である。図4(b)はSAWセンサ1BをC断面から見た概略的な断面図である。図示する例では、SAWセンサ1Bは、圧電素子基板10、IDT11、反応領域薄膜12、多孔性基材13B、封止構造14−1、及び封止構造14−2を含んで構成される。
多孔性基材13Bは、図4(b)に示すように、フィルタ層13B−1、反応層13B−2、及び保水層13B−3を含んで構成され、反応領域薄膜12の上にフィルタ層13B−1、反応層13B−2、及び保水層13B−3の順に重ねられるように配置される。
なお、図4(a)では、最上層の保水層13B−3が示されており、多孔性基材13Bの面積が、図1と異なり、反応領域薄膜12と同じ面積となる場合を示している。もちろん、上述の通り、多孔性基材13と反応領域薄膜12との重なる部分によって面積が定められる特定の領域が形成される限り、両者が同じ面積である必要はない。
【0024】
フィルタ層13B−1は、滴下された試料溶液から不要な物質を濾過する。フィルタ層13B−1は、細孔を有するセルロースやニトロセルロース等の材料から構成される層である。フィルタ層13B−1の細孔の大きさは、除去したい不要な物質に応じて適切なものを選択する。
反応層13B−2には、予め試料と反応する反応物が分散されて保持されている。反応層13B−2は、細孔を有するセルロースやニトロセルロース等の材料から構成される層である。反応層13B−2では、フィルタ層13B−1を透過し反応層13B−2に移送された反応物と、予め反応層13B−2に分散された、試料と反応する反応物とが反応する。反応層13B−2で生成した生成物は、溶液の浸潤に従って、保水層13B−3へ移送される。例えば、目的物質が抗原である場合は、反応層13B−2には第1抗体を分散させておく。反応層13B−2で生成した抗原抗体結合物は溶液の浸潤に従って、保水層13B−3へ移送される。
【0025】
保水層13B−3は、反応層13B−2から移送された溶液を保持する。保水層13B−3は、溶液を反応領域薄膜12へと移送する。保水層の材質は、例えば細孔を有するセルロースやニトロセルロースなどである。保水層13B−3は、溶液の蒸散を防ぐ。また保水層13B−3は、溶液中の反応物を反応領域薄膜12に移送し、保持する。
例えば、目的物質が抗原である場合は、反応領域薄膜12には、第2抗体を担持させておく。保水層13B−3から移送された抗原と第1抗体との抗原抗体複合体は、反応領域薄膜12上の第2抗体と反応する。
【0026】
このように、本実施形態においては、多孔性基材13Bは、目的物以外を除去するフィルタ層13B−1を備える。これにより、SAWセンサ1Bは、不要な物質が反応層13B−2に達することを防止できるため、反応の効率が上がる。また、SAWセンサ1Bは、不要な物質が反応領域薄膜12に達することを防止できるため正確な測定が可能となる。
また、多孔性基材13Bは、試料と反応する物質を含む反応層13B−2を備える。これにより、試料が単独で反応領域薄膜12に付着する場合に比べて、検出する試料の質量が大きくなる。従って、SAWセンサ1Bは、試料が単独で反応領域薄膜12に付着する場合に比べて、より大きな信号の変化を検出することができる。その結果、正確な測定が可能となる。
なお、フィルタ層13B−1及び反応層13B−2を配置する順番は逆でもかまわない。また、反応層13−B2と保水層13−B3は一枚で反応と保水両方の機能を持つものでもかまわない。
【0027】
(第3の実施形態)
以下、図面を参照しながら本発明の第3の実施形態について詳しく説明する。
本実施形態では、反応領域薄膜12が導電性及び絶縁性を持つ2つの部分によって構成される場合について説明をする。
図5は、本実施形態に係るSAWセンサ1Cの構成を示す模式図である。なお、図5において、図1、図2、及び図4と同一の構成については同じ符号を付し、その説明を省略する。
図5(a)はSAWセンサ1Cを上面から見た構成を示す模式図である。図5(b)はSAWセンサ1CをD断面から見た構成を示す模式図である。図示する例では、SAWセンサ1Cは、圧電素子基板10、多孔性基材13、送信電極61A−1a、送信電極61A−1b、受信電極61A−2a、受信電極61A−2b(これらを総称してIDT61Aと呼ぶ)、送信電極61B−1a、送信電極61B−1b、受信電極61B−2a、受信電極61B−2b(これらを総称してIDT61Bと呼ぶ)、短絡型反応領域62−1、開放型反応領域62−2、封止構造14−1、及び封止構造14−2を含んで構成される。
【0028】
IDT61Aは、電気的に短絡な短絡型反応領域62−1が設けられた領域を伝播するSAWを励起し、検出する。IDT61Bは、電気的に開放な開放型反応領域62−2が設けられた領域を伝播するSAWを励起し、検出する。
図5(b)に示すように、短絡型反応領域62−1は、圧電素子基板10上に設けられている。短絡型反応領域62−1は、金などの導電性を持つ薄膜から構成される薄膜である。短絡型反応領域62−1は、電気的に接地されているIDT61A−1a及びIDT61A−2aと電気的に接触している。
また、開放型反応領域62−2は、圧電素子基板10上に設けられており、圧電素子基板10の表面における領域である。
短絡型反応領域62−1と開放型反応領域62−2は、IDT61AとIDT61Bが配置される方向に、略平行に配置される。短絡型反応領域62−1と開放型反応領域62−2は、それぞれ矩形形状であり、互いに接している。短絡型反応領域62−1の面積と開放型反応領域62−2の面積の合計は、多孔性機材13Bの面積と略同一である。もちろん、上述の通り、多孔性基材13と短絡型反応領域62−1及び開放型反応領域62−2との重なる部分によって面積が定められる特定の領域が形成される限り、両者が同じ面積である必要はない。また、短絡型反応領域62−1の面積と開放型反応領域62−2の面積は略等しいが、同じであってもよく、ある割合で異なる面積となっていてもよい。
なお、ここでは反応領域を矩形形状として図示しているが、反応領域の形状は矩形形状に限定される必要はなく、他の形状であってもよい。
【0029】
多孔性基材13上に滴下された溶液は、短絡型反応領域62−1及び開放型反応領域62−2の表面に均等に浸潤する。短絡型反応領域62−1及び開放型反応領域62−2の多孔性基材13に面した表面は、試料溶液によって均一に濡れる。ここで、短絡型反応領域62−1を伝達するSAWは、溶液の密度及び粘性によって伝達速度が変化する。一方、開放型反応領域62−2を伝達するSAWは、溶液の密度、粘性、及び電気的特性(比誘電率及び導電率)によって伝達速度が変化する。IDT61Aは短絡型反応領域62−1を伝達するSAWの伝達時間を検出する。一方、IDT61Bは開放型反応領域62−2を伝達するSAWの伝達時間を検出する。したがって、短絡型反応領域62−1を伝達するSAWの伝達時間と、開放型反応領域62−2を伝達するSAWを伝達するSAWの伝達時間との差は、溶液の電気的特性の違いを表す。
【0030】
このように、本実施形態によれば、SAWセンサ1Cは、IDT61Bと電気的に接続しない開放型反応領域62−2と、IDT61Aと電気的に接続する短絡型反応領域62−1と、を備える。これにより、短絡型反応領域62−1を伝達するSAWの伝達時間と、開放型反応領域62−2を伝達するSAWを伝達するSAWの伝達時間との差に基づいて、多孔性基材13の表面に滴下された溶液の密度、粘性、及び電気的特性を個別に検出することができる。
【0031】
なお、短絡型反応領域62−1及び開放型反応領域62−2との間には、短絡型反応領域62−1の厚さの分だけ段差が生ずる。しかし、短絡型反応領域62−1は十分薄いため、多孔性基材13は短絡型反応領域62−1及び開放型反応領域62−2との接触を維持できるため、SAWの測定には、影響がない。
【0032】
(第4の実施形態)
以下、図面を参照しながら本発明の第4の実施形態について詳しく説明する。本実施形態では、SAWセンサ1Dが3つの測定チャネル(チャネルA、チャネルB、チャネルC)を備え、3つの測定チャネルに対応する多孔性基材が、それぞれ異なる抗体を分散させた領域を有する場合について説明をする。
【0033】
図6は、本実施形態に係るSAWセンサ1Dの構成を示す模式図である。なお、図6において、図1、図2、図4、及び図5と同一の構成については同じ符号を付し、その説明を省略する。
図6に図示する例では、SAWセンサ1Dは、圧電素子基板10、送信電極71A−1a、送信電極71A−1b、受信電極71A−2a、受信電極71A−2b(総称してIDT71Aと呼ぶ)、送信電極71B−1a、送信電極71B−1b、受信電極71B−2a、受信電極71B−2b(総称してIDT71Bと呼ぶ)、送信電極71C−1a、送信電極71C−1b、受信電極71C−2a、受信電極71C−2b(総称してIDT71Cと呼ぶ)、反応領域薄膜12(図6において不図示)、多孔性基材73、封止構造14−1、及び封止構造14−2を含んで構成される。
多孔性基材73は、それぞれ異なる一次抗体を分散させた領域73A、領域73B、領域73Cを含んで構成される。
IDT71A、IDT71B、IDT71Cは、チャネルA、チャネルB、チャネルCを伝播するSAWを生成、受信する。
【0034】
多孔性基材73は、その表面に溶液を滴下されると、溶液は多孔性基材73の内部を浸潤する。滴下された溶液は、多孔性基材73の、符合AAを付した抗体AAを分散させた領域73A、符合ABを付した抗体ABを分散させた領域73B、及び符合ACを付した抗体ACを分散させた領域73Cを浸潤する。ここで、領域73A、領域73B、及び領域73Cは、共通の多孔性基材73の一部であってもよいし、共通の多孔性基材73上に新たに設けられた基材であってもよい。領域73A、領域73B、及び領域73Cでは、滴下された溶液に含まれる抗原の種類が複数あった場合、それぞれの抗原に対応する抗体が分散された部分で抗原抗体結合体が生成される。
【0035】
生成された抗原抗体結合体は、拡散により反応領域薄膜12上に到達する。反応領域薄膜12の表面には、領域73A、領域73B、及び領域73Cに分散させた各第1抗体に対応する第2抗体を担持させておく。反応領域薄膜12の表面にある第2抗体には、チャネルA、チャネルB、チャネルC毎に異なる質量を持った抗原抗体複合体が捕捉される。その結果、SAWの伝達時間はチャネル毎に異なる。SAWセンサ1Dは、チャネル毎に異なる伝達時間を示す。
【0036】
このように、本実施形態によれば、送信電極と受信電極とからなる電極対を複数有し、多孔性基材は、IDT71A、IDT71B、IDT71Cの電極対の間に、各種抗原と反応する異なる抗体をそれぞれ有する。これにより、SAWセンサ1Dは、同時に複数の異なる抗原を測定することが可能となる。
なお、本実施形態では、チャネル数を3としたが、チャネル数はいくつでもよい。
【0037】
なお、上記の各実施形態では、圧電素子基板10は、圧電効果を示す物質、例えば、タンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウム、四ホウ酸リチウムなどから構成されている基板でもよい。
また、IDTは、アルミニウム以外であっても導電性の高い金属であればいかなるものでもよい。
なお、上記の各実施形態では、反応領域薄膜は、抗体が配置されたものだけではなく、抗原が配置されたものでよく、或いは、検知しようとする物に特異的に反応するものであれば、これらに限定されるものではない。
また、上記の各実施形態では、反応領域薄膜12は抗体を担持し、抗原を測定する例を示したが、抗原を測定するのでなければ、反応領域薄膜12を設ける必要は無い。
【0038】
また、上記の各実施形態では、送信電極及び受信電極を用いた例を示したが、受信電極の代わりにSAWの反射体を設け、送信電極が受信電極の機能を兼ねるようにしてもかまわない。
また、IDT11の電極構造について、図示した構造に限定されることなく、例えば、電極構造において、弾性表面波の波長をλとして櫛形電極の幅をλ/4、λ/8としてもよいし、或いは電極構造を一方向性電極(FEUDT:Floating Electrode Uni Directional Transducer)等にしてもよい。
【0039】
以上、図面を参照してこの発明の一実施形態について詳しく説明してきたが、具体的な構成は上述のものに限られることはなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内において様々な設計変更等をすることが可能である。
【符号の説明】
【0040】
1,1B,1C,1D…SAWセンサ、10…圧電素子基板、11,61A,61B,71A,71B,71C…電極、12…反応領域薄膜、13,13B,73…多孔性基材、13B−1…フィルタ層、13B−2…反応層、13B−3…保水層、14…封止構造、17…マイクロピペット、20…センス回路、21…交流信号源、22…バースト回路、23…位相・振幅検出回路、62−1…短絡型反応領域、62−2…開放型反応領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性表面波を伝播する圧電素子基板と、
電気信号と前記弾性表面波との変換を行う電極と、
前記弾性表面波の伝播路に配置され、検体である液体が導入される検出領域と、
前記検出領域に接触し、液体が浸潤する多孔性基材と、
前記電極が液体と接触することを防ぐ封止構造と、
を備えることを特徴とする弾性表面波センサ。
【請求項2】
前記多孔性基材は、平面視において前記検出領域に重ならない部分を有することを特徴とする請求項1に記載の弾性表面波センサ。
【請求項3】
前記多孔性基材は、目的物と反応する物質を含む反応層または目的物以外を除去するフィルタ層のうち少なくとも1つの層を備えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の弾性表面波センサ。
【請求項4】
前記電極は2対の電極対であって、
前記検出領域は、前記2対の電極のうち一方の電極対と電気的に接続する短絡型反応領域と、前記2対の電極のうち他方の電極対と電気的に接続しない開放型反応領域と、を有することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の弾性表面波センサ。
【請求項5】
前記電極は複数の電極対であって、複数の前記電極対各々の間に設けられた前記多孔性基材に、目的物と反応する異なる反応物をそれぞれ有することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の弾性表面波センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−96866(P2013−96866A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−240492(P2011−240492)
【出願日】平成23年11月1日(2011.11.1)
【出願人】(000004330)日本無線株式会社 (1,186)
【Fターム(参考)】