説明

弾性表面波デバイス、及びその製造方法

【課題】SAWの端面反射防止、耐湿性の双方に良好な特性を示し、且つ生産性が高く安価に提供することのできるSAWデバイスを提供する。
【解決手段】実装基板20に対して、IDT電極16を形成したSAW素子片12をフリップチップ実装し、これを封止樹脂34で被覆したSAWデバイス10であって、圧電基板14におけるSAWの伝搬方向と平行に、IDT電極16を挟み込むように対を成し、封止樹脂34がSAWと直交する方向からIDT電極16側へ浸入することを防ぐ阻止壁18を設け、封止樹脂34は、圧電基板14においてIDT電極16と実装基板20との間に気密空間Sを形成しつつIDT電極16から励起されたSAWが直接到達する箇所を覆う第1の樹脂30と、少なくとも第1の樹脂30の外表面と実装基板14の上面とを被覆する第2の樹脂32とから成り、第2の樹脂32よりも第1の樹脂30の硬度を低くしたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は表面実装型の弾性表面波デバイス(以下、SAWデバイスと称す)、及びその製造方法に係り、特に小型で周波数特性に優れたSAWデバイス及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
SAWデバイスは、水晶、タンタル酸リチウム(LiTaO)、ニオブ酸リチウム(LiNbO)等の圧電基板上に櫛歯状の電極(IDT電極)、反射器、接続パッド等の電極パターンを配置して構成される。そして、例えばIDT電極に高周波電界を印加することによって弾性表面波(SAW)を励起し、SAWを圧電作用によって高周波電界に変換した場合には、フィルタ特性を得る。
【0003】
このような特性を持つSAWデバイスを構成するSAW素子片では、SAWの伝搬方向への放射が大きい場合、放射されたSAW(放射波)が圧電基板の端面で反射し、この反射波が放射波に重畳することでデバイスとしての特性を劣化させることがある。これを防止するため、放射波を圧電基板の端部で吸収したり、散乱させたりする手段が採られてきた。放射波を吸収するする手段としては、例えば特許文献1に開示されているような吸音材(アブソーバ)を塗布するものがある、また、放射波を散乱させる手段としては、例えば特許文献2に開示されているような位相をずらす散乱部材を配置するというものがある。
【0004】
上記のような構成により、放射波を吸収あるいは散乱させることによれば、反射波を抑制することができ、SAWデバイスとしての特性の劣化を免れることができる。しかし、このような構成を有するSAWデバイスを製造する場合、SAWデバイスを構成するSAW素子片毎に吸音材や散乱部材を塗布または配置する必要があり、バッチ処理に不向きであるといった問題があった。
【0005】
このような問題に対し、本願発明者は、特許文献3に開示されているような技術を提案している。すなわち、樹脂モールド型のSAWデバイスにおいて、SAW素子片におけるSAWの伝搬方向と直交する側からIDT電極への樹脂の侵入を阻止壁で防ぎつつ、SAWの伝搬方向にはモールドに使用する樹脂を配置することで、当該モールドに使用する樹脂を吸音材として利用するという技術である。
【特許文献1】特開平06−29771号公報
【特許文献2】特開平05−110375号公報
【特許文献3】特開2008−42430号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような技術によれば、個片毎の吸音材や散乱部材の塗布や配置が不要となり、バッチ処理化に有利になると共に、吸音材や散乱部材の塗布や配置といった工程をそのまま排除できるため、生産性も向上する。このため、安価なSAWデバイスを提供することもできるようになる。
【0007】
上記特許文献3に開示されているような技術をそのまま適用してSAWデバイスを製造した場合、モールドに使用した樹脂は確かに吸音材としての機能を発揮する。しかし、従来よりモールドに使用される樹脂は、デバイス内部への湿気の浸入等を防止するために、比較的硬度の高いものが採用されている。このため、当該樹脂をそのまま使用した場合に
は、吸音材としての性能が低く、モールド樹脂を硬度の低い物とした場合には、耐湿性等が劣化し、経時的な特性劣化の要因になるといった課題が見えてきた。
【0008】
そこで本願では、上記課題を解決し、SAWの端面反射防止、耐湿性の双方に良好な特性を示し、且つ生産性が高く安価に提供することができる弾性表面波デバイス、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0010】
[適用例1]実装基板に対して、少なくともIDT電極を圧電基板に形成した弾性表面波素子片をフリップチップ実装し、これを樹脂で被覆した弾性表面波デバイスであって、前記圧電基板における弾性表面波の伝搬方向と平行に、前記IDT電極を挟み込むように対を成し、前記樹脂が弾性表面波と直交する方向から前記IDT電極側へ浸入することを防ぐ阻止壁を設け、前記樹脂は、前記圧電基板において前記IDT電極と前記実装基板との間に気密空間を形成しつつ前記IDT電極から励起された弾性表面波が直接到達する箇所を覆う第1の樹脂と、少なくとも前記第1の樹脂の外表面と前記実装基板上面とを被覆する第2の樹脂とから成り、前記第2の樹脂よりも前記第1の樹脂の硬度を低くしたことを特徴とする弾性表面波デバイス。
【0011】
このような特徴を有する弾性表面波デバイスによれば、弾性表面波の端面反射の防止、耐湿性、及び実装基板に対する弾性表面波素子片の機械的強度の維持に良好な特性を示すこととなる。また、アブソーバの役割を封止材である第1の樹脂に持たせたことにより、バッチ処理が可能となり、生産性の向上、生産コストの低減を図ることができる。よって、弾性表面波デバイスを安価に提供することができるようになる。
【0012】
[適用例2]適用例1に記載の弾性表面波デバイスであって、前記第1の樹脂は、硬化前の粘度が前記第2の樹脂の硬化前の粘度よりも低いことを特徴とする弾性表面波デバイス。
【0013】
このような特徴を有する弾性表面波デバイスによれば、圧電基板に対する第1の樹脂の浸入量を増やすことができる。このため、アブソーバの役割を果たす樹脂の幅を広げることができ、弾性表面波の端面反射防止について高い効果を得ることができるようになる。
【0014】
[適用例3]適用例1または適用例2に記載の弾性表面波デバイスであって、前記対を成す阻止壁は、前記圧電基板における弾性表面波の伝搬方向に、対向配置された阻止壁方向へ延設された端部片を備え、対向する前記端部片の間には少なくとも前記IDT電極の交差指幅以上の間隔を設けたことを特徴とする弾性表面波デバイス。
【0015】
このような特徴を有する弾性表面波デバイスによれば、圧電基板におけるIDT電極側への樹脂の浸入量の調整が可能となるよって、所望する特性の弾性表面波デバイスを得ることが容易となる。
【0016】
[適用例4]適用例3に記載の弾性表面波デバイスであって、前記端部片が弾性表面波の伝搬方向に直交する方向に対して傾斜させて備えられたことを特徴とする弾性表面波デバイス。
【0017】
このような特徴を有する弾性表面波デバイスによれば、樹脂の配置位置、樹脂の浸入量をそれぞれ制御することが可能となる。
【0018】
[適用例5]適用例1乃至適用例4のいずれかに記載の弾性表面波デバイスであって、前記阻止壁は、前記弾性表面波の伝搬方向と直交する方向の厚み部分的に厚く形成されていることを特徴とする弾性表面波デバイス。
【0019】
このような特徴を有する弾性表面波デバイスによれば、阻止壁の強度を向上させることができる。よって、樹脂封止時の封止圧力の幅を広げることができ、樹脂の浸入量等の調整が可能となる。
【0020】
[適用例6]実装基板に対して、少なくともIDT電極が圧電基板に形成された弾性表面波素子片をフリップチップ実装し、これを樹脂で被覆した弾性表面波デバイスの製造方法であって、電極パターンが形成された圧電ウエハに対し、弾性表面波の伝搬方向と直交する方向から前記IDT電極形成部側への前記樹脂の浸入を阻止する阻止壁を形成し、前記阻止壁と前記電極パターンが形成された圧電ウエハを弾性表面波素子片として個片化する弾性表面波素子片製造工程と、前記個片化された弾性表面波素子片を実装基板母材に実装し、前記弾性表面波素子片と前記実装基板母材との間に第1の樹脂を充填する第1モールド工程と、前記第1の樹脂が硬化した後、前記第1の樹脂を切断すると共に前記実装基板の表層を切除するハーフカット工程と、前記ハーフカット工程が終了した後、前記第1の樹脂を当該第1の樹脂よりも硬度の高い第2の樹脂で覆う第2モールド工程と、前記第2の樹脂が硬化した後、前記ハーフカット工程よりも肉薄のダイシングブレードで前記第2の樹脂と前記実装基板母材を切断して弾性表面波デバイスの個片化を図るフルカット工程とを有することを特徴とする弾性表面波デバイスの製造方法。
【0021】
このような方法で弾性表面波デバイスを製造することによれば、上述したような弾性表面波の端面反射の防止、耐湿性、及び実装基板に対する弾性表面波素子片の機械的強度の維持に良好な弾性表面波デバイスを製造することが可能となる。また、バッチ処理での製造が可能なため、生産性の向上、生産コストの低減を図ることができる。よって、弾性表面波デバイスを安価に提供することができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の弾性表面波デバイス、およびその製造方法に係る実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は、第1の実施形態に係るSAWデバイスを示しており、(A)は外観斜視図、(B)は(A)におけるA−A断面、(C)は(A)におけるB−B断面、(D)は(C)におけるC−C断面を示す図である。
本実施形態に係るSAWデバイス10は、実装基板20と、SAW素子片12、および封止樹脂34とから成る。
【0023】
前記実装基板20は、平板状の絶縁基板であり、一方の主面(上面)に図示しない配線パターンと、バンプ28を介して詳細を後述するSAW素子片12を実装するための内部実装端子22を備え、他方の主面(下面)には、SAWデバイス10を他の基板等に実装するための外部実装端子24を備えており、内部実装端子22と外部実装端子24とは、スルーホール26を介して電気的に接続されている。このような構成の実装基板20は、ガラス、樹脂、セラミック、及びガラスエポキシ等を構成材料とすると良い。
【0024】
SAW素子片12は、圧電基板14と、当該圧電基板14の一方の主面に形成された電極パターン19、および阻止壁18とより構成される。圧電基板14は、SAWを励起可能なものであれば良く、例えば水晶(SiO)、タンタル酸リチウム(LiTaO)、ニオブ酸リチウム(LiNbO)等を挙げることができる。電極パターン19は、本実施形態の場合、櫛歯状を成すIDT電極16を2つ、トランスバーサル型としているが
、縦結合型として形成しても良い。IDT電極16を構成する櫛歯状電極の電極指は、圧電基板におけるSAWの伝搬方向と直交する方向に形成され、SAWの伝搬方向に複数配設されており、それぞれがバスバーによって接続されている。IDT電極16は、このような構成の櫛歯状電極が、所定の交差指幅を持つように噛み合わされて形成される。各IDT電極16にはそれぞれ、信号を入出力するための接続端子が設けられている。電極パターン19を形成する材料としては、一例として、アルミ(Al)を挙げることができる。このような構成のSAW素子片12では、接続端子から高周波電界を印加されることによってSAWを励起する。一方、SAWが励起された場合には、IDT電極16を介して高周波電界に変換することができる。
【0025】
また、前記阻止壁18は、本実施形態の場合、アルミにより構成している。阻止壁18をアルミにより構成することで、樹脂封止時の熱や圧力に、高い耐性を持つためである。阻止壁18矩形断面を有する直線の体を成し、その高さは、電極パターン19の膜厚よりも厚く、詳細を後述するバンプ28の高さよりも低いものとすると良く、SAW素子片12を実装基板20に実装した際の当該実装基板20と阻止壁18の上面との隙間が、できるだけ小さくなるようにすると良い。阻止壁18は、SAWの伝搬方向と平行に、上述したIDT電極16を挟み込むように対を成して設けられる。このような構成とすることで、SAWの伝搬方向と直交する方向からIDT電極16側へ封止樹脂34が浸入することを防止しつつ、SAWの伝搬方向からIDT電極16近傍へ封止樹脂34が侵入することを促すことができる。ここで、阻止壁18をアルミで構成した場合には、阻止壁18自体を電極パターン19よりも膜厚の厚い配線とみなすことができ、この場合、阻止壁18を圧電基板14上における低抵抗な配線とすることができる。例えば、阻止壁18が接地用接続パッドに接続されている場合、阻止壁18を低抵抗な接地電極として利用することが可能となり、SAWデバイス10の低損失化を図ることができる。
【0026】
前記バンプ28は、汎用のもので良く、例えば金(Au)、半田、銅核半田等適宜選択することができ、所定の高さを得ることが可能であれば、導電性接着剤を用いても良い。
【0027】
前記封止樹脂34は、少なくとも実装基板20の上面とSAW素子片12の側面とを覆い、SAW素子片12における一方の主面に浸入する第1の樹脂30と、少なくとも前記第1の樹脂30の外表面と、SAW素子片12の他方の主面(電極パターン19が形成されていない側の主面)、および実装基板20の上面側露出部分を覆う第2の樹脂32とより成る。第1の樹脂30は比較的硬度が低く、圧電基板14の一方の主面に浸入した際、吸音材(アブソーバ)としての役割を担う。第1の樹脂30としては、シリコン系樹脂を用いると良い。硬度の低い樹脂をSAWの伝搬方向延長線上に配置することで、封止樹脂34のアブソーバとしての機能を向上させることが可能となるからである。また、硬度の低い樹脂は、液体状態での粘性も低いものが多いため、阻止壁18の間からIDT電極16の形成方向への樹脂の浸入幅(浸入量)Xを十分に得ることができ、アブソーバとしての機能も高いものとすることができる。第2の樹脂32は、第1の樹脂30よりも硬度が高く、耐湿性、耐衝撃性等に優れたものであると良い。このような樹脂であれば、実装基板20に対するSAW素子片12の接合状態の機械的強度を補助し、SAW素子片12と実装基板20との間に確保された気密空間S等への湿気の侵入を防ぐ役割を担うことができるからである。第2の樹脂32としては、例えばエポキシ系樹脂、ポリエチレン系樹脂等を挙げることができる。
【0028】
圧電基板14の一方の主面におけるIDT電極16の近傍への第1の樹脂30の浸入幅Xは、硬化前における第1の樹脂30の粘度(流動性)、SAW伝搬方向における阻止壁18間の開口幅、SAW素子片12と実装基板20との距離、および第1の樹脂30を流し込む際に圧力を付加する場合にはその圧力等により定まる。なお第1の樹脂30は、IDT電極16近傍への侵入量が多く、浸入部先端からSAWの伝搬方向における圧電基板
14の端面までの距離(浸入幅X)が長いほど、アブソーバとして高い効果を得ることができるが、IDT電極16への接触は避けるようにする。
【0029】
上記のような構成のSAWデバイス10によれば、SAW素子片12における圧電基板14上に、SAWの伝搬方向のみを開放した阻止壁18を設けたことで、当該方向から圧電基板14上に浸入した第1の樹脂30が、アブソーバとしての役割を担うこととなり、従来必要としていた別部材でのアブソーバの配置スペースが不要となり、SAWデバイス10の小型化を図ることが可能となる。また、バッチ処理により流し込まれる封止樹脂34にアブソーバとしての機能を持たせるようにしたことで、アブソーバとしての樹脂等を個別に塗布・形成する必要が無くなり、生産性の向上、生産コストの低減を図ることが可能となる。また、封止樹脂34を二層とし、硬度の低い第1の樹脂30にアブソーバとしての役割を持たせ、硬度の高い第2の樹脂32に機械的強度の補助、耐湿性の強化といった外殻の役割を持たせたことで、高い吸音性を維持しつつ、耐湿性、機械的強度の面においても信頼性を高めることが可能となる。なお、第1の樹脂30と第2の樹脂32の硬度については、測定手段の如何を問う事は無く、単純に第2の樹脂32よりも第1の樹脂30が柔らかく、第1の樹脂30が圧電基板14よりも軟らかければ良い。
【0030】
次に、本発明に係るSAWデバイス10の製造方法について説明する。
本実施形態に係るSAWデバイスの製造は、SAW素子片12の製造工程と、製造されたSAW素子片12を実装基板20に搭載した後のデバイス製造工程とに別けることができる。
【0031】
SAW素子片12の製造工程は、図示しない圧電素板(圧電ウエハ)の一方の主面に、IDT電極16等の電極パターン19を形成する工程と、圧電ウエハの一方の主面に阻止壁18を形成する工程、および電極パターン19と阻止壁18を形成された圧電ウエハをSAW素子片12として個片化する工程とより成る。
【0032】
電極パターン19を形成する工程は、周知のフォトリソグラフィ法を用いれば良い。また、阻止壁18を形成する工程は、リフトオフ法を用いれば良い。いずれのパターン形成も、金属膜の形成は、蒸着やスパッタリング、イオンプレーティングなどの乾式成膜法によることが望ましい。電気メッキや無電解メッキなどの湿式成膜法を用いた場合、金属膜に不純物が付着し、電極パターン19等に腐食を発生させ、デバイスとして構成した場合、その性能を著しく劣化させる可能性があるからである。また、これを防ぐために、不純物を除去する洗浄工程を入れることもできるが、この場合、製造工程の増加、生産性の低下といった問題が生じる。さらに、このような湿式成膜法では、アルミの成膜が困難である。なお、電極パターン19と阻止壁18は同一材料で形成することが可能であるが、その厚みの違いより、電極パターン19を形成した後に阻止壁18の形成を行うことが望ましい。阻止壁18の形成後には、スピンコートによる均一な膜厚のレジスト膜の形成が困難となるためである。なお、圧電ウエハを個片化する工程は、定められた幅毎のダイシングによれば良い。
【0033】
次に、デバイス製造工程について、図2を参照して説明する。デバイス製造工程は、SAW素子片実装工程(図2(A)参照)と、第1モールド工程(図2(B)参照)、ハーフカット工程(図2(C)参照)、第2モールド工程(図2(D)参照)、および個片化(フルカット)工程(図2(E)参照)を有する。
【0034】
SAW素子片12実装工程は、上記のようにして製造した個片単位のSAW素子片12を、個片化前の実装基板20である実装基板母材20aの内部実装端子22に、バンプ28を介して電気的機械的に接続する工程である。SAW素子片12の実装は、能動面を実装基板母材20a側へ向けた、いわゆるフリップチップ実装により行えば良い。この際、
バンプ28によるSAW素子片12の接続は、バンプ28に対し、熱や超音波をかけてやれば良い。
【0035】
第1モールド工程は、実装基板母材20aに実装されたSAW素子片12と実装基板母材20aとの間に気密空間Sを形成するように、SAW素子片12と実装基板母材20aとの隙間に第1の樹脂30を充填する工程である。換言すれば、実装基板母材20aに実装された複数のSAW素子片12間の隙間に第1の樹脂30を充填する工程であるということができる。この工程では例えば、スクリーン印刷法、単なる流し込み等の方法によって、比較的粘度の低い第1の樹脂30を塗布、充填する。粘度の低い第1の樹脂30を充填することで、圧電基板14のSAW伝搬方向において、圧電基板14に形成されたIDT電極16の近傍、すなわち圧電基板14の深部にまで封止樹脂34を侵入させることができる。これにより、アブソーバとして作用させることのできる樹脂の浸入幅Xを広く確保することができるようになり、封止樹脂34によるアブソーバとしての機能を高めることが可能となる。また、流し込みや、スキージを用いた摺り込みにより第1の樹脂30を充填し、アブソーバとしての機能を持たせることができるため、バッチ処理が可能となる。
【0036】
ハーフカット工程は、第1の樹脂30が硬化した後、SAW素子片12間の中心付近に示した切断ラインCに沿って第1の樹脂30をダイシングブレードによりカットすると共に、実装基板母材20aの表層を部分的に切除し、実装基板母材20aの一部を露出させる工程である。実装基板母材20aの一部までカットする理由は、ダイシングブレードに摩耗が生じた場合であっても、第1の樹脂30を完全にカットすることができ、詳細を後述する第2モールド工程後に第1の樹脂30が外部に露出しないようにするためである。ここで、ハーフカット工程で使用するダイシングブレードは、比較的肉厚の厚いダイシングブレードを採用する。詳細を後述するフルカット工程に使用するダイシングブレードとの肉厚の差の約1/2が、第2の樹脂32の厚みとなるため、ハーフカット工程では肉厚のダイシングブレードを使用し、フルカット工程では肉薄のダイシングブレードを使用する必要がある。第2の樹脂32による耐湿性、機械的強度を確保するためである。
【0037】
第2モールド工程は、ハーフカット工程で第1の樹脂30に形成した凹溝、露出した実装基板母材20a、第1の樹脂30の上面、及びSAW素子片12の他方の主面(否能動面)を被覆するように、第2の樹脂32を充填する工程である。なお、充填の方法としては、第1のモールド工程と同様であれば良い。硬化後の硬度が第1の樹脂30よりも高い第2の樹脂32により第1の樹脂30の外表面等を被覆することで、バンプ28で接続された実装基板母材20aとSAW素子片12との接続強度を機械的に補強することとなると共に、気密空間Sへの湿気の侵入防止効果等を高めることができる。
【0038】
フルカット工程は、第2の樹脂32が硬化した後、切断ラインCに沿って第2の樹脂32と実装基板母材20aとを切断し、SAWデバイス10の個片化を行う工程である。本工程で使用するダイシングブレードは、上述したように、ハーフカット工程で使用したダイシングブレードよりも肉厚の薄いダイシングブレードとする。このような構成とすることで、個片化後のSAWデバイス10の側面にも、第2の樹脂32が残ることとなるからである。
【0039】
なお、ハーフカット工程と第2モールド工程との間に、第1の樹脂30の外表面、および圧電基板14の他方の主面に金属皮膜を形成する蒸着やスパッタリング等の工程を設けても良い。第1の樹脂30の外表面に金属皮膜を施すことにより、気密空間Sの気密性を高めることができると共に、シールド効果を得ることができると考えられるからである。また、ダイシングは通常、切削水や薬品等をかけながら、摩擦による熱を抑制して行うため、第1の樹脂30や第2の樹脂32が水分を吸収してしまう虞がある。この場合は、ダ
イシングの後にそれぞれ、ベーキング工程を設け、封止樹脂34が吸収した水分を飛ばすようにすると良い。
【0040】
次に、本発明のSAWデバイスに係る第2の実施形態について図3を参照して説明する。なお、本実施形態に係るSAWデバイスの殆どの構成は、上述した第1の実施形態に係るSAWデバイスと同様である。よってその機能を同一とする箇所には図面に同一の符号を付して詳細な説明は省略することとする。
【0041】
本実施形態に係るSAWデバイス10は、阻止壁18の端部に、対向配置された阻止壁18の方向へ向けた端部片18aを延設した点を特徴とする。このような端部片18aを備えることにより、阻止壁18の開口部の幅を調整することが可能となる。よって、圧電基板14への第1の樹脂30の浸入幅Xを調整することが可能となり、端面反射を有効に抑制することが可能となり、良好な周波数特性を得ることが容易となる。
【0042】
ここで、阻止壁18に対して端部片18aを備える場合、対向する端部片18a間の幅DがIDT電極16における交差指幅dよりも広くなるようにする。SAWは交差指幅dの領域で励起されるため、アブソーバとしての役割を担う第1の樹脂30は、交差指幅d以上の幅を備えていることが、有効に端面反射を抑制する要件の1つとなるからである。
【0043】
次に、本発明のSAWデバイスに係る第3の実施形態について図4を参照して説明する。なお、本実施形態に係るSAWデバイスの殆どの構成は、上述した第2の実施形態に係るSAWデバイスと同様である。よってその機能を同一とする箇所には図面に同一符号を付して詳細な説明は省略することとする。
【0044】
本実施形態に係るSAWデバイス10と第2の実施形態に係るSAWデバイスとの相違点は、阻止壁18における端部片18aの形態のみである。すなわち、第2の実施形態に係るSAWデバイスでは、端部片18aをSAWの伝搬方向に直交する方向に形成していたのに対し、本実施形態では、端部片18aをSAWの伝搬方向に直交する方向から傾けて形成している。端部片18aをこのような構成とすることにより、浸入させる第1の樹脂30の浸入方向、位置を制御しやすくなり、第1の樹脂30を確実に、IDT電極16から励振されるSAWの伝搬方向延長線上に配置することが可能となる。また、漏斗状の開口部を成すことより、第1の樹脂30の浸入幅Xの制御も、より細かく行うことが可能となる。よって、SAW素子片12におけるSAWの端面反射の抑制効果を向上させることも可能となり、SAWデバイス10として良好な周波数特性を得ることが可能となる。また、端部片18aを傾斜させることにより、樹脂封止の際に端部片18aに作用する圧力を分散させることが可能となり、端部片18aの破損防止に高い効果をあげることができる。なお、端部片18aの傾斜方向は、図4に示すようにIDT電極16側への傾斜と、圧電基板14の端面側への傾斜とが考えられるが、IDT電極16側へ傾斜させた方が、第1の樹脂30を所望の位置へ確実に配置することができる点で望ましい。
【0045】
また、阻止壁18の構成としては、図5(A)に示すように、部分的に肉厚部18bを構成し、樹脂封止時の圧力等に対する耐性を高めるようにしても良い。さらに、阻止壁18の耐性を高めるようにする手段としては、図5(B)に示すようなものであっても良い。すなわち、阻止壁18の外側辺(対向する側と反対側の辺)に、円弧部を設け、外側からの樹脂の圧力を分散するように構成するのである。このような構成であっても、図5(A)に示す形態と同様に、樹脂封止時の耐圧性を高めることができるため、樹脂封止の封止条件の幅を広げることができるようになる。
【0046】
なお、上記実施形態ではいずれも、阻止壁18はアルミで構成する旨記載した。しかしながら、形成した阻止壁18が樹脂封止時の熱や圧力に耐え得るものであれば、その構成
材料については、特に限定するものでは無い。例えば、耐熱性、耐圧性を十分に備えていれば、阻止壁18を樹脂により構成しても良い。
【0047】
上記のようなSAWデバイス10の構造は、一般的にはSAW素子片12をフィルタとして使用する場合に用いられることが多いが、共振子として使用する場合に採用しても良い。この場合、励起されたSAWの波動エネルギーは、IDT電極16における交差指幅dの中心に集まるため、第1の樹脂30は図面に示すように中心部分が凸状の体を成すことが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】第1の実施形態に係るSAWデバイスの構造を示す図である。
【図2】SAWデバイスの製造工程を示す図である。
【図3】第2の実施形態に係るSAWデバイスの構造を示す図である。
【図4】第3の実施形態に係るSAWデバイスの構造を示す図である。
【図5】発明に係るSAWデバイスの阻止壁に関する応用形態を示す図である。
【符号の説明】
【0049】
10………SAWデバイス(弾性表面波デバイス)、12………SAW素子片(弾性表面波素子片)、14………圧電基板、16………IDT電極、18………阻止壁、18a………端部片、19………電極パターン、20………実装基板、20a………実装基板母材、22………内部実装端子、24………外部実装端子、26………スルーホール、28………バンプ、30………第1の樹脂、32………第2の樹脂、34………封止樹脂。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実装基板に対して、少なくともIDT電極を圧電基板に形成した弾性表面波素子片をフリップチップ実装し、これを樹脂で被覆した弾性表面波デバイスであって、
前記圧電基板における弾性表面波の伝搬方向と平行に、前記IDT電極を挟み込むように対を成し、前記樹脂が弾性表面波と直交する方向から前記IDT電極側へ浸入することを防ぐ阻止壁を設け、
前記樹脂は、前記圧電基板において前記IDT電極と前記実装基板との間に気密空間を形成しつつ前記IDT電極から励起された弾性表面波が直接到達する箇所を覆う第1の樹脂と、少なくとも前記第1の樹脂の外表面と前記実装基板上面とを被覆する第2の樹脂とから成り、
前記第2の樹脂よりも前記第1の樹脂の硬度を低くしたことを特徴とする弾性表面波デバイス。
【請求項2】
請求項1に記載の弾性表面波デバイスであって、
前記第1の樹脂は、硬化前の粘度が前記第2の樹脂の硬化前の粘度よりも低いことを特徴とする弾性表面波デバイス。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の弾性表面波デバイスであって、
前記対を成す阻止壁は、前記圧電基板における弾性表面波の伝搬方向に、対向配置された阻止壁方向へ延設された端部片を備え、
対向する前記端部片の間には少なくとも前記IDT電極の交差指幅以上の間隔を設けたことを特徴とする弾性表面波デバイス。
【請求項4】
請求項3に記載の弾性表面波デバイスであって、
前記端部片が弾性表面波の伝搬方向に直交する方向に対して傾斜させて備えられたことを特徴とする弾性表面波デバイス。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の弾性表面波デバイスであって、
前記阻止壁は、前記弾性表面波の伝搬方向と直交する方向の厚み部分的に厚く形成されていることを特徴とする弾性表面波デバイス。
【請求項6】
実装基板に対して、少なくともIDT電極が圧電基板に形成された弾性表面波素子片をフリップチップ実装し、これを樹脂で被覆した弾性表面波デバイスの製造方法であって、
電極パターンが形成された圧電ウエハに対し、弾性表面波の伝搬方向と直交する方向から前記IDT電極形成部側への前記樹脂の浸入を阻止する阻止壁を形成し、前記阻止壁と前記電極パターンが形成された圧電ウエハを弾性表面波素子片として個片化する弾性表面波素子片製造工程と、
前記個片化された弾性表面波素子片を実装基板母材に実装し、前記弾性表面波素子片と前記実装基板母材との間に第1の樹脂を充填する第1モールド工程と、
前記第1の樹脂が硬化した後、前記第1の樹脂を切断すると共に前記実装基板の表層を切除するハーフカット工程と、
前記ハーフカット工程が終了した後、前記第1の樹脂を当該第1の樹脂よりも硬度の高い第2の樹脂で覆う第2モールド工程と、
前記第2の樹脂が硬化した後、前記ハーフカット工程よりも肉薄のダイシングブレードで前記第2の樹脂と前記実装基板母材を切断して弾性表面波デバイスの個片化を図るフルカット工程とを有することを特徴とする弾性表面波デバイスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−232172(P2009−232172A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−75306(P2008−75306)
【出願日】平成20年3月24日(2008.3.24)
【出願人】(000003104)エプソントヨコム株式会社 (1,528)
【Fターム(参考)】