説明

弾性表面波デバイスおよびその製造方法

【課題】高温環境下でも、弾性表面波の励振が可能な弾性表面波デバイスとその製造方法を提供することにある。
【解決手段】サファイア基板11上に形成される伝搬層12と、伝搬層12上に形成される櫛形電極15および16を備えるトランスバーサルフィルタ10において、圧電性を有し積極的に不純物を含まないGaNから伝搬層12を形成し、GaNと比較して狭いバンドギャップを有し積極的にn型不純物を含むInGaNから櫛形電極15および16を形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電性を有する半導体からなる伝搬層上に櫛形電極を形成したトランスバーサルフィルタ等の弾性表面波デバイス(SAWデバイス)および、弾性表面波デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図7は、従来のトランスバーサルフィルタ50の構造図で、図7(a)はトランスバーサルフィルタ50の平面図、図7(b)はトランスバーサルフィルタ50を矢視EEから見た断面図である。図7に示すように、従来のトランスバーサルフィルタ50は、(0001)方向に配向するサファイア基板51の表面に不純物を積極的には含まないGaNからなる伝搬層52を形成し、更に、伝搬層52上に、単一の材料から形成された櫛形電極55および56を備えている。櫛形電極55および56を形成する材料は、櫛形電極55および56そのものの重さによる弾性表面波の損失(質量負荷効果)を小さくするために、比重の軽い材料が望ましい。そこで、櫛形電極55および56は、非特許文献1に示されるように、AlまたはAlを主成分とした合金で形成されている。
【非特許文献1】Suk-Hun Lee, Hwan-Hee Jeong, Sung-Bum Bae,Hyun-Chul Choi, Jung-Hee Lee, and Yong-Hyun Lee, “EpitaxiallyGrown GaN Thin-Film SAW Filter with High Velocity and Low Insertion Loss” IEEETRANSACTIONS ON ELECTRON DEVICES, VOL.48, No.3, pp.524-529,(2001).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上述した非特許文献1に示すAlまたはAlを主成分とした合金で形成された櫛形電極55および56を有するトランスバーサルフィルタ50では、GaNの融点が1000℃以上であるのに対し、櫛形電極55および56に使用されたAlの融点は660℃程度と、GaNの融点に比べて極めて低いため、トランスバーサルフィルタ50の耐熱性が不十分であるといった問題があった。更に、600℃程度の加熱処理でAlはGaNに対してオーミック電極を形成し、オーミック性を有する櫛形電極55に高周波信号を印加すると著しいリーク電流が発生することから、弾性表面波の励振が困難となるといった問題もあった。このため、従来のトランスバーサルフィルタ50の実用に耐える最高温度は、アルミニウムからなる櫛形電極55の熱的安定性によって制限され、400℃程度となることから、トランスバーサルフィルタ50を高温環境下で使用できないといった問題があった。
【0004】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたもので、高温環境下でも、弾性表面波の励振が可能な弾性表面波デバイスとその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的達成のため、本発明に係る弾性表面波デバイスでは、請求項1に記載のように、基板上に形成される伝搬層と、前記伝搬層上に形成される櫛形電極を備える弾性表面波デバイスにおいて、前記伝搬層は、圧電性を有し積極的に不純物を含まない第一の半導体材料からなり、前記櫛形電極は、前記第一の半導体材料と比較して狭いバンドギャップを有し積極的に導電性不純物を含む第二の半導体材料から形成されることを特徴としている。
【0006】
また、本発明に係る弾性表面波デバイスでは、請求項2に記載のように、基板上に形成される伝搬層と、前記伝搬層上に形成される電極層とからなる半導体積層構造を備える弾性表面波デバイスにおいて、前記伝搬層は、圧電性を有し積極的に不純物を含まない第一の半導体材料からなり、前記電極層は、前記第一の半導体材料と比較して狭いバンドギャップを有し積極的に導電性不純物を含む第二の半導体材料からなり、前記電極層をエッチングすることにより形成される櫛形電極を有することを特徴としている。
【0007】
また、本発明に係る弾性表面波デバイスでは、請求項3に記載のように、基板上に形成される伝搬層と、前記伝搬層上に形成される電極層とからなる半導体積層構造を備える弾性表面波デバイスにおいて、前記伝搬層は、(0001)方向に配向し、圧電性を有し積極的に不純物を含まない第一の窒化物半導体材料からなり、前記電極層は、前記第一の窒化物半導体材料と比較して狭いバンドギャップを有し、(0001)方向に配向し、積極的にn型不純物を含む第二の窒化物半導体材料からなり、前記電極層をエッチングすることにより形成される櫛形電極を有することを特徴としている。
【0008】
また、請求項4に記載のように、請求項3に記載の本発明に係る弾性表面波デバイスにおいて、前記基板は、(0001)方向に配向するサファイア基板もしくは(0001)方向に配向する半絶縁性SiC基板であり、前記第一の窒化物半導体材料はGaN、AlN、BN、InN或いはこれらの混晶であり、前記第二の窒化物半導体材料はGaN、AlN、BN、InN或いはこれらの混晶であることを特徴としている。
【0009】
また、請求項5に記載のように、請求項3または4に記載の弾性表面波デバイスの製造方法において、少なくとも、前記電極層の伝搬層対向面に金属マスク層を形成する工程と、前記半導体積層構造を強アルカリ性溶液中に浸漬する工程と、前記強アルカリ性溶液中に設けた対向電極と前記金属マスク層間に電流を流し、かつ、前記金属マスク層および前記電極層に強アルカリ性溶液の液面上から、前記第二の窒化物半導体材料のバンドギャップに対応する波長よりも短く、かつ、前記第一の窒化物半導体材料のバンドギャップに対応する波長よりも長い波長成分を有する光源を照射することによって、第二の窒化物半導体材料を局所的、選択的にエッチングする工程と、エッチング終了後、前記金属マスク層を除去する工程を含むことを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、櫛形電極−伝搬層間の界面に高いバリア障壁が生じ、高温環境下で高周波信号を櫛形電極に印加しても、櫛形電極−伝搬層間の界面にリーク電流が発生しないから、高温環境下でも、弾性表面波の励振が可能な弾性表面波デバイスを提供することができる。
【0011】
また、伝搬層の材料として第一の窒化物半導体を使用し、電極層の材料として前記第一の窒化物半導体材料と比較して狭いバンドギャップを有し、積極的にn型不純物を含む第二の窒化物半導体材料を使用することで、窒化物半導体の特徴である高耐熱性、高耐電圧性を生かした弾性表面波デバイスを提供することができる。
【0012】
また、本発明の製造方法により、電極層−伝搬層間の界面で確実にエッチングが停止するので、厚さの均一性に優れた櫛形電極を有する弾性表面波デバイスを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の実施形態について、図1乃至図6を参照して説明する。ここで、図1は、本発明の実施形態に係る弾性表面波デバイスであるトランスバーサルフィルタ10の構造図、図1(a)はトランスバーサルフィルタ10の平面図、図1(b)はトランスバーサルフィルタ10を矢視AAから見た断面図である。
【0014】
図1に示すように、トランスバーサルフィルタ10は、(0001)方向に配向するサファイア基板11上に、同じく(0001)方向に配向し、圧電性を有し不純物を積極的には含まない第一の半導体材料(第一の窒化物半導体材料)であるGaNからなる伝搬層12が形成されている。更に、(0001)方向に配向し、積極的に導電性不純物を含む第二の半導体材料(第二の窒化物半導体材料)であるInGaNからなる電極層13が伝搬層12上に形成されている。本実施形態では、InGaNにはn型不純物が添加されている。これにより、InGaNからなる電極層13は電極としての機能を有する。また、伝搬層12はサファイア基板11上に有機金属気相成長法(以下、MOCVD法とする。)により形成され、電極層13は伝搬層12上にMOCVD法により形成される。ここで、本実施形態における伝搬層12の厚さは2μm、電極層13の厚さは100nmとした。
【0015】
また、第二の半導体材料であるInGaNは、GaNと比較して狭いバンドギャップを有する窒化物半導体材料である。InGaNのIn組成は0.1である。後述するが、第一の半導体材料であるGaNと比較して狭いバンドギャップを有する第二の半導体材料であるInGaNを使用して、伝搬層12上に電極層13を形成していることから、電極層13−伝搬層12間の界面には、伝導帯の不運続部分が生じる。これにより、本実施形態のトランスバーサルフィルタ10は、高温環境下で高周波信号を櫛形電極15に印加しても、リーク電流の発生を抑制し、弾性表面波の励振を可能としている。
【0016】
また、伝搬層12と電極層13は半導体積層構造14を形成している。電極層13には、櫛形電極15および16が所定の間隔をおいて対向する位置に形成されている。本実施形態の櫛形電極15および16は、電極層13を局所的にエッチングすることで形成されている。トランスバーサルフィルタ10は、櫛形電極15に高周波(RF)信号が印加されると、上記の高周波信号の周波数に応じた波長を有する弾性表面波を励振する。弾性表面波は、伝搬層12を伝搬し、櫛形電極16に到達すると、櫛形電極16によって高周波信号に変換される。その後、変換された高周波信号はトランスバーサルフィルタ10外に出力される。なお、半導体積層構造14の表面、すなわち、電極層13の表面はIII族元素面が形成されている。
【0017】
図2は、図1に示す櫛形電極15の一部を拡大した拡大図である。櫛形電極15は、櫛形状の2個の電極15aおよび15bが配列間隔sを隔てて配置されている。そして、電極15aおよび15bは、所定の電極長、線幅hを有する平行電極指17が電極指ピッチTを隔てて、複数配列されて形成されている。よって、電極指ピッチTは(線幅h+配列間隔s)の2倍に等しくなる。ここで、トランスバーサルフィルタ10は、櫛形電極15に入力される高周波信号の波長が、電極指ピッチTに等しいとき、弾性表面波を最も効率良く励振する。励振される弾性表面波の速度v0とすると、弾性表面波の中心周波数f0は、櫛形電極15の電極指ピッチT、平行電極指17の線幅h、配列間隔sから、f0=v0/T=v0/{2(h+s)}と表すことができる。すなわち、高周波信号を櫛形電極15に入力することで、電界が発生し、伝搬層12に浸透するので、中心周波数f0の弾性表面波を最も効率良く励振させることができ、櫛形電極16へ伝搬させることができる。一方、トランスバーサルフィルタ10は、中心周波数f0以外の周波数の弾性表面波を著しく減衰させるので、フィルタとしての機能を備えている。また、櫛形電極16も、櫛形電極15と同様に、櫛形状の2個の図示しない電極が配列間隔sを隔てて配置されている。そして、上記の櫛形状の電極は、所定の電極長、線幅hを有する平行電極指17が電極指ピッチTを隔てて複数配列されて形成されている。なお、本実施形態における櫛形電極15および16において、櫛形電極15と櫛形電極16の間の間隔は5mm、線幅hは2μm、配列間隔sは2μm、電極長は400μm、電極指17の対数は50本とした。
【0018】
図3は、図1に示すトランスバーサルフィルタ10における弾性表面波の周波数特性を表す図である。図より、上述した中心周波数f0は585.4MHzである。図示したように、中心周波数f0から離れる程、伝搬効率が低下している。この特性により、トランスバーサルフィルタ10は、所定の以外の周波数を著しく減衰させるフィルタとして機能している。
【0019】
図4は、図1に示す半導体積層構造14のバンドダイアグラムである。本実施形態に係る半導体積層構造14において、第一の半導体材料であるGaNと比較して狭いバンドギャップを有する第二の半導体材料であるInGaNを使用して、伝搬層12上に電極層13を形成していることから、図4に示したように、電極層13−伝搬層12間の界面には0.1eV強の伝導帯の不運続部分が生じている(図4のK部参照)。その不連続部分は、電極層13中の電子ガス18に対してバリア障壁として作用する。これから、電極層13−伝搬層12間の界面に高いバリア障壁が生じ、高温環境下で高周波信号を櫛形電極15に印加しても、電極層13(櫛形電極15)中の電子ガス18は、上記の高周波信号によって伝搬層12中に注入されることがない。すなわち、電極層13−伝搬層12間の界面にリーク電流が発生しない。これより、トランスバーサルフィルタ10は、高温環境下で高周波信号を櫛形電極15に印加した場合でも、伝搬層12に効率良く弾性表面波を励振することができる。
【0020】
加えて、窒化物半導体の特徴として、バンドギャップエネルギーが小さいほど格子緩和状態における格子定数が大きいことが知られている。すなわち、本実施形態においては、InGaNが格子緩和状態にある場合の格子定数は、GaNが格子緩和状態にある場合の格子定数と比較して大きくなる。ここで、半導体積層構造14においては、伝搬層12上に電極層13を形成する場合、InGaNの格子定数はGaNの格子定数と等しくなる。すなわち、半導体積層構造14における電極層13のInGaNの格子定数は、格子緩和状態にある場合の電極層13のInGaNの格子定数と比較して小さくなる。よって、電極層13に圧縮性の格子ひずみが生じる。更に、本実施形態においては、半導体積層構造14の表面がIII族元素面によって構成されているのであるから、電極層13中に生ずる圧縮性の格子ひずみによって電極層13−伝搬層12間の界面に負のピエゾ電荷が生ずる。上記の負のピエゾ電荷によって、電極層13中の電子ガス18に対するバリア障壁が、更に高くなる。これから、負のピエゾ電荷による更に高いバリア障壁により、高周波信号を櫛形電極15に印加した場合において、電極層13(櫛形電極15)中の電子ガス18が伝搬層12中に注入されず、電極層13−伝搬層12間の界面にリーク電流が発生しない温度を、更に高くすることができる。
【0021】
また、第二の半導体材料であるInGaNは、耐熱性に優れた窒化物半導体であることから、高温環境中でも櫛形電極15、16の変形・破損などは生じず、これから、窒化物半導体の高耐熱性を生かした弾性表面波デバイスであるトランスバーサルフィルタ10を提供することができる。
【0022】
次に、本実施形態に係るトランスバーサルフィルタ10の製造工程について、説明する。図5は、図1に示すトランスバーサルフィルタ10の櫛形電極15を製造する工程を示した工程図、図6は図5に続く工程図である。なお、図5および図6では、トランスバーサルフィルタ10の櫛形電極15の周辺部のみ示している。ここで、図5(i−a)、図6(iv−a)、図6(v−a)は各工程におけるトランスバーサルフィルタ10の平面図である。また、図5(i−b)は矢視BBから見た断面図、図5(ii)、図5(iii)は各工程におけるトランスバーサルフィルタ10の矢視BB相当の断面図、図6(iv−b)は矢視CCから見た断面図、図6(v−b)は矢視DDから見た断面図である。このように、本実施形態に係るトランスバーサルフィルタ10の櫛形電極15は、図5に示した5工程から形成されている。
【0023】
トランスバーサルフィルタ10は、(0001)方向に配向するサファイア基板11上に、同じく(0001)方向に配向し、圧電性を有し不純物を積極的には含まない第一の半導体材料(第一の窒化物半導体材料)であるGaNからなる伝搬層12をMOCVD法により形成する。更に、(0001)方向に配向し、積極的にn型不純物を含む第二の半導体材料(第二の窒化物半導体材料)であるInGaNからなる電極層13を伝搬層12上にMOCVD法により形成する。ここで、本実施形態における伝搬層12の厚さは2μmで、電極層13の厚さは100nmである。そして、上述したように、半導体積層構造14は、伝搬層12および電極層13から構成されている。また、半導体積層構造14の表面はIII族元素面である。
【0024】
次に、伝搬層12上に電極層13を形成した後、図5(i)において、電極層13の表面、すなわち、伝搬層対向面に金属マスク層19を形成する。図5(i−a)に示したように、金属マスク層19は、櫛形電極15の形状、すなわち、所定の電極長、線幅hを有する平行電極指17が電極指ピッチTを隔てて複数配列された電極15aおよび15bを、所定の配列間隔s隔てて配置した形状に形成されている。なお、作業上の利便性を考慮して、金属マスク層19の形状は、電極15aおよび15bを電極指対向端で接続した形状としている。また、本実施形態では、金属マスク層19の材料としてTi/Pt/Auを使用している。
【0025】
次に、図5(ii)において、サファイア基板11上に形成された半導体積層構造14および金属マスク層19を強アルカリ性溶液20に浸漬する。その後、強アルカリ性溶液20中に対向電極21を浸漬し、金属マスク層19−対向電極21間を電気的に導通させる電気回路22で、金属マスク層19と対向電極21を接続し、金属マスク層19−対向電極21間に電流を流す。更に、強アルカリ性溶液20の液面上に光源23を配置する。光源23は、第二の半導体材料であるInGaNのバンドギャップに対応する波長よりも短く、かつ、第一の半導体材料であるGaNのバンドギャップに対応する波長よりも長い波長成分を有する光を照射することができる。上記の光を、強アルカリ性溶液20の液面上から金属マスク層19および半導体積層構造14に向かって照射することにより、InGaN中に電子・正孔対が生成される。そして、正孔が存在する部分は、強アルカリ性溶液20から供給される水酸基により以下の化学反応式で表される化学反応が起こり、その結果、InGaNのエッチングが起こる(フォトエレクトロケミカルエッチング)。
【0026】

2IIIN+6h+6OH→III+3HO+N
III+6OH→2IIIO3−+3H
(III=Ga or In)

なお、本実施形態では、強アルカリ性溶液20として、水酸化カリウム水溶液を使用している。また、対向電極21として、Ptからなる電極を使用している。更に、光源23として、高圧水銀ランプまたはキセノンランプを使用している。これにより、電子・正孔対は、金属マスク層19によって覆われていない領域で生成されるので、図5(iii)に示すように、上記の領域のInGaNのみが局所的かつ選択的にエッチングされる。一方、伝搬層12を形成するGaNには、GaNのバンドギャップに対応する波長よりも長い波長を有する上記の光が照射されても、電子・正孔対が生成されないので、GaNのエッチングは起こらない。これから、電極層13−伝搬層12間の界面で確実にエッチングは停止する。
【0027】
次に、図6(iv)において、ヨウ化カリウム水溶液中に、金属マスク層19および半導体積層構造14を浸漬することにより、金属マスク層19を除去する。ここで、1対の櫛形電極15および16は、正負2つの電極によって構成される必要があり、金属マスク層19は櫛形電極15および16の各々について、2つずつ形成する必要がある。しかし、本実施形態に係る金属マスク層19の形状を、電極15aおよび15bを電極指対向端で接続した形状としたことで、電極15aおよび15bを電極指対向端で接続した形状の電極層13を形成できる。その後、図6(v)において、電極層13の不要部分(電極15aおよび15bの接続部分)をドライエッチングによって除去する。すなわち、電極15aおよび15bを電極指対向端で接続した形状の電極層13を電極15aおよび15bに分離する。よって、電極15aおよび15bを正負2つの電極として使用でき、櫛形電極15を形成することができる。これにより、電極15aおよび15bを同一の金属マスク層19で同時に加工することができる。
【0028】
このようにすれば、半導体積層構造上に複数の櫛形電極を要する弾性表面波デバイスを製造する場合でも、所望の数の櫛形電極を、一の金属マスク層19を使用して同時に形成することができる。また、本発明に係る製造方法、すなわち、電極層13の伝搬層対向面に金属マスク層19を形成する工程と、半導体積層構造14を強アルカリ性溶液20中に浸漬する工程と、強アルカリ性溶液20中に設けた対向電極21と金属マスク層19間に電流を流し、かつ、金属マスク層19および電極層13に強アルカリ性溶液20の液面上から、InGaNのバンドギャップに対応する波長よりも短く、かつ、GaNのバンドギャップに対応する波長よりも長い波長成分を有する光源を照射することによって、InGaNを局所的、選択的にエッチングする工程と、エッチング終了後、金属マスク層19を除去する工程とからなる製造方法により、トランスバーサルフィルタ10を製造することで、金属マスク層19によって覆われていない電極層13の領域のみエッチングが起こり、電極層13−伝搬層12間の界面で確実にエッチングが停止するので、MOCVD法により半導体積層構造14の全面で厚さの均一性に優れた電極層13が形成されていることから、厚さの均一性、従って、質量負荷効果の均一性に優れた櫛形電極15および16を有するトランスバーサルフィルタ10を提供することもできる。
【0029】
なお、以上に述べた実施形態は、本発明の実施の一例であり、本発明の範囲はこれらに限定されるものでなく、特許請求の範囲に記載した範囲内で、他の様々な実施形態に適用可能である。例えば、本実施形態では、(0001)方向に配向するサファイア基板11上に、同じく(0001)方向に配向し、圧電性を有し不純物を積極的には含まない第一の半導体材料(第一の窒化物半導体材料)であるGaNからなる伝搬層12を形成し、更に、(0001)方向に配向し、積極的にn型不純物を含む第二の半導体材料(第二の窒化物半導体材料)であるInGaNからなる電極層13を伝搬層12上に形成したが、特にこれに限定されるものでなく、他の材料からなる基板上に形成しても良い。例えば、半絶縁性SiC基板上に、本実施形態に係る伝搬層12および電極層13を形成しても良い。更に、他の方向に配向するサファイア基板11に、本実施形態に係る伝搬層12および電極層13形成しても良い。
【0030】
また、本実施形態では、第一の半導体材料としてGaNを使用し、第二の半導体材料としてInGaNを使用したが、特にこれに限定されるものでなく、第二の半導体材料のバンドギャップが第一の半導体材料のバンドギャップより狭い関係を満たす限り、第一の半導体材料および第二の半導体材料として他のいかなる半導体材料でも使用することができる。例えば、第一の半導体材料としてGaN、AlN、BN、InN或いはこれらの混晶を使用し、第二の半導体材料としてGaN、AlN、BN、InN或いはこれらの混晶を使用した場合でも、第二の半導体材料のバンドギャップが第一の半導体材料のバンドギャップより狭い関係を満たす限り、本実施形態と同様の効果が得られる。
【0031】
また、本実施形態では、有機気相成長法(MOCVD法)でサファイア基板11上にGaNからなる伝搬層12を形成し、更に、InGaNからなる電極層13を伝搬層12上に形成したが、特にこれに限定されるものでなく、他の方法で伝搬層12および電極層13を形成しても良い。
【0032】
また、本実施形態では、トランスバーサルフィルタ10について、本発明に係る構造、すなわち、(0001)方向に配向するサファイア基板11上に、同じく(0001)方向に配向し、不純物を積極的には含まないGaNからなる伝搬層12を形成し、更に、(0001)方向に配向し、積極的にn型不純物を含むInGaNからなる電極層13を伝搬層12上に形成した構造を適用したが、特にこれに限定されるものでなく、他の弾性表面波デバイス、例えば共振器にも適用可能である。
【0033】
また、本実施形態では、金属マスク層19−対向電極21間を電気的に導通させる電気回路22で、金属マスク層19と対向電極21を接続しているが、同対向電極21に負の向きに、金属マスク層19に正の向きに直流電圧を印加する直流バイアス源を、電気回路22内に追加することも可能である。このようにすれば、電極層13中に光照射によって生ずる電子を除去することができ、エッチングを安定的に行うことができる。
【0034】
また、本実施形態では、特に記載していないが、強アルカリ性溶液20を昇温し、電極層13に発生した正孔と水酸基による化学反応を促進することで、エッチング速度を高めるという手法を適用することもできる。
【0035】
また、本実施形態では、強アルカリ性溶液20として水酸化カリウム水溶液を使用しているが、特にこれに限定されるものでなく、他のアルカリ溶液を使用することもできる。
【0036】
また、本実施形態では、金属マスク層19の材料としてTi/Pt/Auを使用しているが、特にこれに限定されるものでなく、他の材料でも良い。同様に、本実施形態では、対向電極21としてPtからなる電極を使用しているが、他の材料でも良い。更に、光源23として高圧水銀ランプまたはキセノンランプを使用しているが、他の光源でも良い。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、基板上に櫛形電極を備える弾性表面波デバイスであれば、例えば、フィルタ、発信器、共振子および遅延線等にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の実施形態に係る弾性表面波デバイスであるトランスバーサルフィルタの構造図である。
【図2】図1に示す櫛形電極の一部を拡大した拡大図である。
【図3】図1に示すトランスバーサルフィルタにおける弾性表面波の周波数特性を表す図である。
【図4】図1に示す半導体積層構造のバンドダイアグラムである。
【図5】図1に示すトランスバーサルフィルタの櫛形電極を製造する工程を示した工程図である。
【図6】図5に続く工程図である。
【図7】従来のトランスバーサルフィルタの構造図である。
【符号の説明】
【0039】
10 本実施形態のトランスバーサルフィルタ、11 サファイア基板、
12 伝搬層、13 電極層、14 半導体積層構造、
15 櫛形電極、15a、15b 電極、16 櫛形電極、
17 平行電極指、18 電子ガス、19 金属マスク層、
20 強アルカリ性溶液、21 対向電極、22 電気回路、23 光源、
50 従来のトランスバーサルフィルタ、51 サファイア基板、
52 伝搬層、55、56 櫛形電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に形成される伝搬層と、前記伝搬層上に形成される櫛形電極を備える弾性表面波デバイスにおいて、
前記伝搬層は、圧電性を有し積極的に不純物を含まない第一の半導体材料からなり、
前記櫛形電極は、前記第一の半導体材料と比較して狭いバンドギャップを有し積極的に導電性不純物を含む第二の半導体材料から形成されることを特徴とする弾性表面波デバイス。
【請求項2】
基板上に形成される伝搬層と、前記伝搬層上に形成される電極層とからなる半導体積層構造を備える弾性表面波デバイスにおいて、
前記伝搬層は、圧電性を有し積極的に不純物を含まない第一の半導体材料からなり、
前記電極層は、前記第一の半導体材料と比較して狭いバンドギャップを有し積極的に導電性不純物を含む第二の半導体材料からなり、
前記電極層をエッチングすることにより形成される櫛形電極を有することを特徴とする弾性表面波デバイス。
【請求項3】
基板上に形成される伝搬層と、前記伝搬層上に形成される電極層とからなる半導体積層構造を備える弾性表面波デバイスにおいて、
前記伝搬層は、(0001)方向に配向し、圧電性を有し積極的に不純物を含まない第一の窒化物半導体材料からなり、
前記電極層は、前記第一の窒化物半導体材料と比較して狭いバンドギャップを有し、(0001)方向に配向し、積極的にn型不純物を含む第二の窒化物半導体材料からなり、
前記電極層をエッチングすることにより形成される櫛形電極を有することを特徴とする弾性表面波デバイス。
【請求項4】
前記基板は、(0001)方向に配向するサファイア基板もしくは(0001)方向に配向する半絶縁性SiC基板であり、
前記第一の窒化物半導体材料はGaN、AlN、BN、InN或いはこれらの混晶であり、前記第二の窒化物半導体材料はGaN、AlN、BN、InN或いはこれらの混晶であることを特徴とする請求項3に記載の弾性表面波デバイス。
【請求項5】
請求項3または4に記載の弾性表面波デバイスの製造方法において、
少なくとも、前記電極層の伝搬層対向面に金属マスク層を形成する工程と、
前記半導体積層構造を強アルカリ性溶液中に浸漬する工程と、
前記強アルカリ性溶液中に設けた対向電極と前記金属マスク層間に電流を流し、かつ、前記金属マスク層および前記電極層に強アルカリ性溶液の液面上から、前記第二の窒化物半導体材料のバンドギャップに対応する波長よりも短く、かつ、前記第一の窒化物半導体材料のバンドギャップに対応する波長よりも長い波長成分を有する光源を照射することによって、第二の窒化物半導体材料を局所的、選択的にエッチングする工程と、
エッチング終了後、前記金属マスク層を除去する工程を含むことを特徴とする弾性表面波デバイスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−150498(P2007−150498A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−339797(P2005−339797)
【出願日】平成17年11月25日(2005.11.25)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】