説明

弾性表面波デバイスおよびその製造方法

【課題】良好な周波数特性を得られる弾性表面波デバイスおよびその製造方法を提供すること。
【解決手段】圧電体22の一面に、弾性表面波を励起させる電極部24が設けられた弾性表面波素子20と、電極部24との間に空間Sを形成するようにして、弾性表面波素子20がフェイスダウン実装された基板と、空間Sを外部から封止して、電極部24と基板との間に密閉空間を形成するようにした樹脂部40とを備えた弾性表面波デバイスであって、弾性表面波素子20は、一面から突出した凸状部50を、電極部24の周囲に有し、凸状部50には、密閉空間と外部とを結ぶ連絡部52が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性表面波素子と基板との間に密閉空間を形成するように樹脂封止された弾性表面波デバイスおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
情報機器などの様々な電子部品には、弾性表面波デバイス(以下、「SAWデバイス」という)が広く使用されており、電子部品の小型化に伴って、SAWデバイスも小型化が要求されている。
図9は、この小型化を図った従来のSAWデバイス1の縦断面図であり、所謂CSP(Chip Size Package)技術を用いて形成されている。
すなわち、SAWデバイス1は、圧電体の一面にIDT(インターデジタルトランスデューサ)5が設けられた弾性表面波素子(以下、「SAWチップ」という)2と、実装端子と電気的に接続された端子パッド4を上面に有する基板3とを有している。
SAWチップ2は、基板3の端子パッド4と、フリップチップ接合されて電気的機械的に接続されており、IDT5と基板3との間には、圧電体に表面波が伝搬できるように、空間Sが形成されるようになっている。そして、この空間Sは、樹脂6で外部から封止されている。
【0003】
ここで、IDT5と基板3との間の空間Sを樹脂6で封止する際、溶融樹脂が、その空間Sに流れ込むと、樹脂がIDT5の領域に付着して、所定の周波数特性を得ることができなくなる。そこで、SAWデバイス1では、IDT5の周りに、IDT5が設けられた一面から基板3側に突出する凸状部7を、例えばフォトリソグラフィ技術を用いて形成するようにしている。これにより、SAWチップ2の上から溶融樹脂を塗布する際、この凸状部7がダムとなって、空間Sに樹脂が侵入しないようになっている。
【0004】
【特許文献1】特開平5−55303号の公開公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、ダムとなる凸状部7を形成することで、却って、所望する周波数特性を得られない場合がある。例えば、フォトリソグラフィ技術を用いて凸状部7を形成する際、ダムを形成した後にレジストを洗浄しようとしても、凸状部7がダムとなって、その内側にレジストが残ってしまう場合がある。そして、このレジストの残渣は、IDT5を腐食させる原因にもなる。また、1枚のウエハから複数のSAWチップ2を取る際、ウエハのIDT形成面側にフォトレジストなどによる保護膜を塗布し、その後、ダイシングなどの手段によってウエハを切断してから、保護膜を除去することがあるが、この保護膜も残渣となってしまう場合がある。
【0006】
本発明は、上述の課題を解決するためのものであり、良好な周波数特性を得られる弾性表面波デバイスおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の目的は、第1の発明によれば、圧電体の一面に、弾性表面波を励起させる電極部が設けられた弾性表面波素子と、前記電極部との間に空間を形成するようにして、前記弾性表面波素子がフェイスダウン実装された基板と、前記空間を外部から封止して、前記電極部と前記基板との間に密閉空間を形成するようにした樹脂部とを備えた圧電デバイスであって、前記弾性表面波素子は、前記一面から突出した凸状部を、前記電極部の周囲に有し、前記凸状部には、前記密閉空間と外部とを結ぶ連絡部が設けられている弾性表面波デバイスにより達成される。
【0008】
第1の発明の構成によれば、弾性表面波素子は、電極部が設けられた一面から突出した凸状部を、電極部の周囲に有している。このため、弾性表面波素子を基板にフェイスダウン実装した後に樹脂を塗布する際、一面から突出した凸状部がダムとなって、樹脂が電極部側に侵入することを規制できる。
しかも、凸状部には、密閉空間と外部とを結ぶ連絡部が設けられている。したがって、凸状部より電極部側に不要物が存在しても、製造過程で洗浄するなどして、その不要物を連絡部から外部に排出することができる。
かくして、電極部周辺に対する不要物の付着を防止して、良好な周波数特性を得られる弾性表面波デバイスを提供することができる。
【0009】
第2の発明は、第1の発明の構成において、前記樹脂部はフィラーを含有しており、前記連絡部は、前記フィラーが通り抜けることを妨げるような形状となっていることを特徴とする。
第2の発明の構成によれば、連絡部はフィラーが通り抜けることを妨げるような形状となっている。このため、樹脂部に含有されているフィラーは、連絡部を通って密閉空間に侵入することがなくなる。また、樹脂については、その粘度が高く、さらにフィラーが連絡部の一部或いは全部を塞ぐため、連絡部を通って密閉空間に侵入する恐れは低い。したがって、凸状部に密閉空間と外部とを結ぶ連絡部を設けたとしても、凸状部のダムとしての作用効果を阻害することを防止できる。
【0010】
第3の発明は、第1または第2の発明の構成において、前記凸状部は、前記電極部を囲む枠状の一部が、前記電極部側と外側とをつなげるように切り欠かれて形成されており、この切り欠かれた部分が前記連絡部となっていることを特徴とする。
第3の発明の構成によれば、凸状部は、電極部を囲む枠状の一部が切り欠くように形成され、この切り欠かれた部分が連絡部となっている。したがって、凸状部を、例えばフォトリソグラフィ技術を用いて、電極部を囲む枠状の一部を切り欠くように形成すれば、連絡部も同時に形成することができ、連絡部の形成が容易となる。
【0011】
第4の発明は、第3の発明の構成において、前記連絡部の通路の幅が、前記フィラーの外形寸法値の平均よりも小さくなっていることを特徴とする。
第4の発明の構成によれば、連絡部の通路の幅が、フィラーの外形寸法値の平均よりも小さくなっている。したがって、連絡部の通路の幅を小さくし過ぎることなく、フィラーの密閉空間側への侵入を防止できる。
【0012】
第5の発明は、第4の発明の構成において、前記フィラーの形状は球状であり、前記連絡部の通路の幅が前記フィラーの粒径の平均よりも小さくなっていることを特徴とする。
第5の発明の構成によれば、フィラーの形状は球状であり、連絡部の通路の幅がフィラーの粒径の平均よりも小さくなっているため、フィラーの向きを問わずに、連絡部の一部あるいは全部を塞げることができる。
【0013】
第6の発明は、第1ないし第5の発明のいずれかの構成において、 前記凸状部は、前記電極部を囲む枠状の一部の幅が、その他の部分の幅に比べて大きくされていることを特徴とする。
第6の発明の構成によれば、凸状部は、電極部を囲む枠状の一部の幅が、その他の部分の幅に比べて大きくされているため、この大きな幅を有する部分がリブとなって、連絡部を設けても、凸状部の強度を補強することができる。
【0014】
また、上述の目的は、第7の発明によれば、圧電体の一面に、弾性表面波を励起させる電極部を有する弾性表面波素子を形成する工程と、前記電極部との間に空間を形成するようにして、前記弾性表面波素子を基板にフェイスダウン実装するフェイスダウン実装工程と、前記電極部と前記基板との間に形成された空間を、密閉空間とするように樹脂封止した樹脂封止工程とを備えた弾性表面波デバイスの製造方法であって、前記弾性表面波素子を形成する工程では、前記一面から突出した凸状部を、前記電極部の周囲に形成するダム形成工程を有し、このダム形成工程において、前記凸状部に、前記電極部を囲む枠状の一部を切り欠くようにして、前記電極部側と外側とを結ぶ連絡部を形成する弾性表面波デバイスの製造方法により達成される。
【0015】
第7の発明の構成によれば、弾性表面波素子を形成する工程では、電極部が設けられた一面から突出した凸状部を、電極部の周囲に形成するダム形成工程を有している。このため、その後の樹脂封止工程で樹脂を塗布した場合であっても、凸状部がダムとなって、樹脂の電極部側への侵入を防止できる。
また、このダム形成工程において、凸状部に、電極部を囲む枠状の一部を切り欠くようにして、電極部側と外側とを結ぶ連絡部を形成する。したがって、凸状部より電極部側に不要物が存在しても、洗浄をするなどして、その不要物を連絡部から外部に排出することができる。また、この連絡部は、凸状部を形成する際に同時に形成することができるので、不要物を外部に排出する構成を形成するための製造工程を別途設ける必要もない。
かくして、良好な振動特性を得られる弾性表面波デバイスの製造方法を提供することができる。
【0016】
第8の発明は、第7の発明の構成において、前記樹脂封止に用いる樹脂は球状フィラーを含有しており、前記連絡部の通路の幅を、前記球状フィラーの平均粒径よりも小さく形成したことを特徴とする。
第8の発明の構成によれば、樹脂封止に用いる樹脂は球状フィラーを含有しており、連絡部の通路の幅を、球状フィラーの平均粒径よりも小さく形成した。したがって、第2および第4の発明と同様の作用効果により、連絡部の機能および凸状部のダムとしての機能の双方を効果的に発揮させることができる。さらに、このフィラーは球状であるため、第5の発明と同様の作用効果により、フィラーの向きを問わずに、連絡部の一部あるいは全部を塞げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1および図2は、本発明の実施形態に係る弾性表面波デバイス(以下、「SAWデバイス」という)10を示しており、図1はその概略縦断面図、図2は図1のA−A線の位置でSAWデバイス10を切断した場合の概略断面図である。
これらの図において、SAWデバイス10は、弾性表面波素子(以下、「SAWチップ」という)20と、このSAWチップ20が実装された基板30とを備えている。
【0018】
SAWチップ20は、圧電体22の主面である一面22aに、弾性表面波を励起させる電極部24が設けられている。
圧電体22は、圧電材料として、例えば水晶やLiTaO等の単結晶基板や、Si基板へZnO成膜した基板等の多層膜基板等を使用することができる。本実施形態では、LiTaOウエハから矩形板状にカットされたものが用いられている。
【0019】
電極部24は、本実施形態の場合、複数のIDT(インターデジタルトランスデューサ)から構成されている(以下、「電極部24」を「IDT24」という)。
複数のIDT24,24は、それぞれ一対の櫛歯電極から形成され、この櫛歯電極は、互いに平行に配置されたバスバー25a,25bの各々に、複数の電極指26,26,・・・が圧電体22の長手方向に所定距離を隔てて配置されてすだれ状となっており、バスバー25a側の電極指26と、バスバー25b側の電極指26とが、互い違いに入り込むように配置されている。これにより、弾性表面波が複数の電極指26,26,・・・が並ぶ方向に伝搬されることになる。
なお、バスバー25a,25bは、夫々その中央付近に幅の広い部分27を有しており、この幅の広い部分27が接続パッドとなって、後述する基板30とバンプ42を介して電気的に接続される。
【0020】
また、このような複数のIDT24,24は、圧電体22の周縁部にかからないように長手方向に並んで配置され、圧電体22の表面に、アルミニウムやチタン等の導体金属を蒸着あるいはスパッタリング等により薄膜状に形成した上で、フォトリソグラフィ技術等により形成されている。
なお、本実施形態の電極部は、2つのIDT24,24からなっているが、本発明はこれに限られず、1つのIDT,或いは3つ以上のIDTからなっても勿論とよく、或いは、IDTから伝搬してくる弾性表面波を反射して、弾性表面波のエネルギーを内部に閉じこめる機能を有する反射器を有しても勿論よい。
【0021】
基板30は、SAWチップ20がフェイスダウン実装されて、上述したIDT24に駆動電圧を供給する電極を有する。
具体的には、基板30は、その主面の外形がSAWチップ20の主面の外形よりも大きくなるように矩形板状に形成されており、アルミナやガラスなどのセラミック等を用いたリジット基板あるいはフレキシル基板等を利用することができ、本実施形態の場合、アルミナセラミック基板が用いられている。
また、基板30は、底面に実装端子32を有し、この実装端子32とビアホール35を介して電気的に接続された端子パッド34が上面に設けられている。この端子パッド34が、IDT24に電圧を供給する電極となる。なお、実装端子32と端子パッド34とは、基板30の表面を引き回された導電体を介して導通されてもよい。
【0022】
そして、基板30には、弾性表面波の伝搬を確保する空間Sが形成されるようにして、SAWチップ20がフェイスダウン実装されている。
すなわち、SAWチップ20のバスバー25a,25bの幅の広い部分27にバンプ42を接続し、このバンプ42を端子パッド34に接続して、SAWチップ20を基板30にフリップチップ接合している。バンプ42はSn−Ag−Cu半田やAuを用いることができ、熱圧着方式や超音波加圧方式で、基板30に接合される。これにより、端子パッド34を含む基板30と、IDT24を含むSAWチップ20との間は、バンプ42の高さ(本実施形態の場合、22μm)分だけ離間して、空間Sが形成される。
【0023】
そして、SAWデバイス10は、この空間Sを外部から封止して、SAWチップ20と基板30との間に密閉空間を形成するように樹脂部40が設けられている。
具体的には、樹脂部40は、平面視においてSAWチップ20の四方より突出した基板30の周縁部30aから、SAWチップ20の側面にかけて付着して、SAWチップ20のIDT24が設けられた一面22aを外部から封止するようにしている。さらに、樹脂部40は、SAWチップ20の上面に付着し、基板30と共同してSAWチップ20を外部から密封している。一方、SAWチップ20のIDT24が設けられた一面22aと、この一面22aが投影された基板30の領域との間には、樹脂部40は付着されない。
【0024】
この樹脂部40は、例えば、エポキシ系樹脂などの絶縁部材で形成された樹脂シートを用いて形成されており、例えば樹脂シートを一旦軟化温度まで加熱してから加圧変形させて、SAWチップ20の一面22aを除く外面と基板30の上面に付着させ、その後、硬化温度まで加熱して形状を固定させている。
さらに、樹脂部40は、熱膨張係数の制御性、機械的強度、耐湿性を向上させるため、樹脂中に、球状シリカ等のフィラー46が含有されている。本実施形態のフィラー46は、その平均粒子径が15μmとされている。
【0025】
ここで、SAWチップ20は、IDT24が設けられた一面22aから突出した凸状部50を、IDT24の周囲に有している。
凸状部50は、上述した樹脂部40を形成させる際に、樹脂がSAWチップ20と基板20との間に入らないように規制するための手段であって、SAWチップ20から基板30側に向かって突出し、SAWチップ20の周縁部(好ましくは、後述するダイシングを考慮して、縁よりも僅かに内側)にめぐらされている。
【0026】
具体的には、凸状部50は、製造過程におけるフリップチップ接合の際の加熱や樹脂封止の際の加熱に耐えられる融点を有するAl、Au、Ag,Cu,Ni,Ti,Cr等の金属又は合金から形成されており、本実施形態の場合、熱膨張係数などを考慮して、IDT24と同じ金属材料であるAlを採用している。
また、凸状部50は、基板30上に塗布したレジスト等に所定のパターンを形成した後、そのパターン内に蒸着やメッキ等をし、その後レジスト等を除去するリフトオフ方法を用いて形成されており、より好ましくは、凸状部50を形成する際に不純物が付着しないようにするため、湿式成膜法ではなく、蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング等の乾式製膜法を用いるとよい。
なお、凸状部50は、図1に示されるように、SAWチップ20から基板30に向かうにしたがって、その厚み幅W3(基板30側に突出する高さHと直行する方向)が小さくなるように傾斜している。
【0027】
そして、この凸状部50には、密閉空間Sと外部とを結ぶ連絡部52が設けられている。連絡部52は、凸状部50よりIDT24側にある不要物を、樹脂封止する前に洗浄して、凸状部50より外側に排出するための通路である。
本実施形態の場合、凸状部50がIDT24を囲む枠状の一部を、IDT24と外側とをつなげるように切り欠いて形成されており、この切り欠かれた部分が連絡部52となっている。なお、ここにいう「切り欠いて」「切り欠かれた」とは、凸状部を切り欠いたような形状(窪み)をいい、凸状部50を実際に切断した形状をいうものではない。
この連絡部52は、洗浄液体や不要物を通すことができる部位にあれば、凸状部50のいずれの位置にあっても構わず、例えば図3(a)に示すように、四角枠の角部に設けるようにしてもよい。また、例えば図3(b)(c)に示すように、その数も任意に決めることができる。図2の連絡部52の場合、凸状部50を切り欠いても強度が極端に弱くならず、かつ、洗浄液体を外部に通し易くすることができるように、均等な間隔をもって、四角枠の各辺に一つずつ設けられている。
【0028】
また、連絡部52は、フィラー46が通り抜けることを妨げる形状を有している。本実施形態の場合、連絡部52は、その幅が小さくなり過ぎないように、少なくとも、その一部の幅が、樹脂部40に含有されているフィラー46の平均の外形寸法値より小さく形成されている。
これにより、製造過程において、洗浄液体および不要物の排出を可能にしながらも、樹脂の密閉空間S側への侵入を有効に防止している。すなわち、連絡部52は、密閉空間Sと外部とを連通する通路の幅Wを、フィラー46の平均粒子径と同じにすると、密閉空間Sへ樹脂が侵入するケースが見られ、フィラー46の平均粒子径よりも大きくするに従って、密閉空間Sへ樹脂が侵入する量が多くなっていった。一方、フィラー46が含有されているエポキシ系の樹脂などについては、その外形は連絡部52の幅Wよりも小さいが、連絡部52の幅Wをフィラー46の平均粒子径より小さくすると、密閉空間Sへの樹脂の侵入を規制することができた。これは、図2の一点鎖線で囲った図に示されるように、フィラー46が連絡部52の一部を塞ぐと共に、樹脂の粘度が高いためであると考えられる。
【0029】
なお、フィラー46の形状は、フィラー46の向きによらず連絡部52の一部を塞げる点で、本実施形態のように球状であることが好ましいが、フレーク状であっても良い。フレーク状フィラーの場合、連絡部52の幅Wは、フレーク状フィラーの長径よりも小さく、さらに望ましくはフレーク状フィラーの厚み寸法よりも小さくする。これにより、フレーク状フィラーであっても連絡部52の一部を塞ぐことが可能となる。
【0030】
また、連絡部52は、密閉空間Sと外部とを連通する通路の幅Wが、密閉空間S側、中央部、外部側のいずれかの部分、或いは全ての部分について、フィラー46の平均の外形寸法値より小さくすればよい。本実施形態の連絡部52は、その幅Wがいずれの位置でも一定となるように形成され、球状フィラー46の平均粒子径(直径)である15μmよりも小さくなっている。或いは、図2の右側の連絡部52のように、その幅が密閉空間Sから外部に向かうに従って小さくなるように形成され、外部に臨んだ開口の幅W1が最も小さくなるようにして、洗浄液体又は不要物を外部に排出し易くしてもよい。
【0031】
さらに、凸状部50は、図1に示すように、基板30の上面との間にギャップGを有している。このギャップGは、凸状部50が基板30に接触することで生ずるバンプ42の破損などを防止するための隙間である。そして、この高さ方向における凸状部50と基板30との間隔であるギャップGについても、樹脂部40のフィラー46の平均外形より小さくされており、これにより、上述した連絡部52の幅Wと同様に、樹脂封止工程において、樹脂の密閉空間Sへの侵入を防止することができる。
なお、ギャップGについては、連絡部52の位置では、連絡部52の幅W及び高さHとギャップGとが一緒になって、フィラー46よりも大きな外形を有する空間が形成される恐れがあるため留意を有する。そこで、例えば、連絡部52の位置と基板30の上面の電極パターン(図示せず)の位置とを合わせるなどして、連絡部52とギャップGとで形成される空間がフィラー46を通さない形状を有することが好ましい。
【0032】
本実施形態のSAWデバイス10は以上のように構成されており、次に、このSAWデバイス10の製造方法について説明する。
図4はSAWデバイス10の製造工程である。また、図5(a)〜図6(f)はSAWチップを形成する工程の一部であって、図4のST1−1〜ST1−3の工程の説明図、図6(g)は図4のST2の工程の説明図、図7は図4のST3の工程の説明図である。
これらの図に示されるように、SAWデバイスはSAWチップ(弾性表面波素子)と基板とをそれぞれ別々に形成して用意しておき、これらを後で接続などする。
【0033】
ここで、SAWチップを形成する工程(図4のST1−1〜ST1−6)では、図5(a)に示すように、複数のSAWチップ20,20,・・・を形成することができる大きさを有する圧電材料からなるウエハ60を用意し、その一面60aにIDT24,24,・・・を、製造するSAWチップ20に対応した分だけフォトリソグラフィ技術を用いて形成する(図4のST1−1:電極形成工程)。
【0034】
次いで、図5(a)のB−B線の位置で切断した際の図5(b)〜図5(d)、及び図6(e)に示すように、ウエハ60の一面60aから突出した凸状部50を、IDT24の周囲に形成する(図4のST1−2:ダム形成工程)。
具体的には、図5(b)に示すように、感光性樹脂62を、IDT24を覆うようにして、IDT24を形成した一面60a全体に塗布する。そして、感光性樹脂62の上であって、IDT24の周囲以外に、図示しないマスクを載置して、感光性樹脂62を露光し、図5(c)に示すように、IDT24の周囲の感光性樹脂62を除去する。なお、感光性樹脂62は、一面60aから離れるに従って除々に幅W5が狭くなるように除去することが好ましい。
この際、感光性樹脂62を除去しようとするIDT24の周囲の一部については、IDT24側のマスクと外側のマスクとを連結するようにマスクを配置して、IDT24の周囲の一部の感光性樹脂62を除去しないようにする。
【0035】
その後、図5(d)に示すように、感光性樹脂62を取り除いた部分に、蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング等の乾式製膜法により、Al等の金属材料64を固着させる。この固着した金属材料64が、既に説明した凸状部50(図1参照)となる。
なお、金属材料64は、蒸着等の際に感光性樹脂62の上面にも付着するが、上述のように、感光性樹脂62は一面60aから離れるに従って除々に幅W5が狭くなるように除去しているので、感光性樹脂62の上面に蒸着等された金属材料64と、ウエハ60に蒸着等された金属材料64とが連結されることを防ぐことができる。
【0036】
その後、感光性樹脂62、及びその上面に付着した金属材料64を剥離する。そうすると、上述のように、IDT24の周囲の一部を感光させないようにマスクを配置して、その一部の感光性樹脂62を除去しなかったので、図6(e)に示すように、IDT24を囲む枠状の一部を、IDT24側と外側とを連通するように切り欠いた凸状部50を形成することができる。そして、この切り欠いた部分が連絡部52となる。
ここで、このダム形成工程(図4のST1−2)では、感光性樹脂等を除去しきれない恐れがあるため、凸状部50を形成した後に液体洗浄を行う。そうすると、上述のように、凸状部50にIDT24側と外側とを結ぶ連絡部52を形成したので、IDT24側にある不要物Fを、連絡部52を介して外側に排出することができる。
【0037】
次いで、図6(f)に示すように、バスバーの幅の広い部分(接続パッド)に、Sn−Ag−Cu半田やAu等のバンプ42を接合し(図4のST1−3:バンプ形成工程)、これらバンプ42、IDT24、及び凸状部50を覆うようにして、ウエハ60の一面60a全体に、保護膜(図示せず)を被せる(図4のST1−4:保護膜形成工程)。保護膜は、後の切断工程でSAWチップの損傷等を防止するためのもので、例えば、IDT24を形成する場合に使用しているものと同一のフォトレジスト(感光性樹脂)を用いることができる。
【0038】
そして、図6(f)の切断線CL,CL,・・・(凸状部50よりも僅かに外側の周囲)に沿ってダイシングをし、SAWチップを個片化してから(図4のST1−5:切断工程)、図示しない保護膜を剥離する(図4のST1−6:保護膜剥離工程)。ここで、保護膜を剥離する際、保護膜を除去しきれない恐れがあるため液体洗浄を行うが、上述のように、凸状部50にIDT24側と外側とを結ぶ連絡部52を形成したので、IDT24側の保護膜の残渣(図示せず)を、連絡部52を介して外側に排出することができる。
【0039】
次いで、図6(g)に示すように、IDT24との間に空間Sを形成するようにして、個片化した複数のSAWチップ20,・・・を、複数のSAWチップ20,・・・に対応した基板30(図1参照)の母材となる母材基板30Aにフェイスダウン実装する(図4のST2:フェイスダウン実装工程)。
すなわち、既にSAWチップ20に接合してあるバンプ42を母材基板30Aの端子パッド(図示せず)に、熱圧着方式や超音波加圧方式を用いて、フリップチップ接合する。この際、バンプ42にSn−Ag−Cu半田やAuを用いているが、凸状部50にはバンプ42よりも高い融点を有するAl等を用いているので、フリップチップ接合の際の加熱が凸状部50に悪影響を及ぼすことはない。
また、凸状部50の先端と母材基板30Aとの間にはギャップGが設けられているので、凸状部50がフリップチップ接合に悪影響を与えることもない。
【0040】
次いで、図7に示すように、IDT(図示せず)と母材基板30Aとの間に形成された空間Sを、密閉空間とするように樹脂封止する(図4のST3:樹脂封止工程)。
具体的には、チャンバー64内の高さ方向について、下からダイヤフラム66、樹脂が軟化する前の板状の樹脂シート(図示せず)、母材基板30Aと接合されたSAWチップ20の順に並べて、樹脂シートを加熱して軟化状態にしてから、チャンバー64内のダイヤフラム66より下側(母材基板30Aの反対側)の空間S2を、上側(母材基板30A側)の空間S3と比較して、圧力が高くなるようにする(即ち、母材基板30A側に加圧する)。これにより、図7に示すように、ダイヤフラム66が母材基板30A側に変形して、軟化した樹脂68がSAWチップ20を覆うようにして母材基板30Aに付着する。その後、ダイヤフラム66が母材基板30A側に変形して軟化した樹脂68をプレスした状態のまま、樹脂68が完全に硬化し終えるまで加熱する。
【0041】
ここで、SAWチップ20は、母材基板30A側に突出した凸状部50を有するため、この凸状部50がダムとなって、軟化した樹脂68がIDTと母材基板30Aとの間の空間S側に侵入することを防止できる。
さらに、この凸状部50にはIDT側と外側とを結ぶ連絡部52(図2参照)を形成したが、図2に示すように、連絡部52は、フィラー46が通り抜けることを妨げる形状となっているため、フィラー46が連絡部52を通ることを防止できる。本実施形態の場合、樹脂封止に用いる樹脂は球状フィラーを含有しており、連絡部52の通路の幅を、球状フィラー46の直径よりも小さく形成している。したがって、フィラー46が連絡部52の一部あるいは全てを塞ぎ、また、樹脂成分は粘度が高いため、エポキシ系等の樹脂成分の侵入も防止できる。
また、図7に示すように、凸状部50の先端と母材基板30Aとの間隔であるギャップGも、フィラーの平均の外形より小さく形成されているため、樹脂のIDT側の空間Sへの侵入を防止できる。
【0042】
次いで、図7のチャンバー64から製品を取り出して、固化した樹脂部や母材基板を切断して個片化し(図4のST4:個片化工程)、SAWデバイスを完成させる。
【0043】
本発明の実施形態に係るSAWデバイス10は以上のように構成されており、図1に示すように、SAWチップ20は、基板30側に突出した凸状部50をIDT24の周囲に有しているため、樹脂封止工程(図4のST3)の際、凸状部50がダムとなって、樹脂が密閉空間Sに侵入することを規制できる。しかも、凸状部50には、図2に示すように、密閉空間Sと外部とを結ぶ連絡部52が設けられているため、凸状部50よりIDT24側に不要物が存在しても、製造過程で洗浄するなどして、その不要物を連絡部52から外部に排出することができる。
また、このような連絡部52は、IDT24を囲む枠状の凸状部50の一部を、IDT24側と外側とをつなげるように切り欠いて形成しているので、凸状部50を形成する工程(図4のST1−2)で同時に形成でき、連絡部52を形成する特別な工程を設ける必要はないため、容易に形成できる。
【0044】
図8は、本発明の上述した実施形態の変形例に係るSAWデバイス12であって、図2に対応した概略断面図である。
図8において、図1ないし図7のSAWデバイス10と同一の符号を付した箇所は共通の構成であるから、重複する説明は省略し、以下、相違点を中心に説明する。
図8のSAWデバイス12は、図1ないし図7のSAWデバイス10と比べると、凸状部50のみが異なっている。
【0045】
すなわち、SAWデバイス12の凸状部50は、IDT24を囲む枠状の一部54の幅W3が、その他の部分の幅W4に比べて大きくされている。
具体的には、IDT24を囲む凸状部50の一部54がIDT24側に突出するようにして、その一部54の幅W3が、その他の部分よりも大きく形成されている。
また、図8の場合、幅の大きな一部54は、2つの切り欠かれた連絡部52,52に挟まれた凸状部50に少なくとも一つ設けるようにしている。
なお、この幅の大きい一部54は、このような態様に限られるものではなく、例えば、凸状部50の四角枠状の角部50aの幅W5を、IDT24側の側面が角ではなく曲面になるように大きくするなど、その位置や形状を変更しても構わず、また、その数も弾性表面波に影響のない範囲で増減させてよい。
【0046】
本発明の実施形態の変形例に係るSAWデバイス12は以上のように構成されており、凸状部50の一部54の幅W3がその他の部分の幅W4に比べて大きくされているため、連絡部52を形成したとしても、凸状部50の強度を向上することができる。特に、凸状部50の一部54はIDT24側に突出しているので、樹脂封止工程(図4のST3)の際の加圧を付加しても、その付加された圧力に耐えられる凸状部50を形成できる。したがって、樹脂封止工程での圧力の制御範囲の自由度を増すことができる。
【0047】
本発明は上述の実施形態に限定されない。各実施形態や各変形例の各構成はこれらを適宜組み合わせたり、省略し、図示しない他の構成と組み合わせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の実施形態に係る弾性表面波デバイスの概略縦断面図。
【図2】図1のA−A線の位置で切断した場合の概略断面図。
【図3】図2の変形例に係る概略断面図。
【図4】本発明の実施形態に係る弾性表面波デバイスの製造工程。
【図5】図4の製造工程を説明するための図。
【図6】図4の製造工程を説明するための図。
【図7】図4の製造工程を説明するための図。
【図8】本発明の実施形態の変形例に係る弾性表面波デバイスであって、図2に対応した概略断面図。
【図9】小型化を図った従来のSAWデバイスの縦断面図。
【符号の説明】
【0049】
10,12・・・弾性表面波(SAW)デバイス、20・・・弾性表面波素子(SAWチップ)、22・・・圧電体、30・・・基板、40・・・樹脂部、24・・・電極部(IDT)、50・・・凸状部、52・・・連絡部、46・・・フィラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電体の一面に、弾性表面波を励起させる電極部が設けられた弾性表面波素子と、
前記電極部との間に空間を形成するようにして、前記弾性表面波素子がフェイスダウン実装された基板と、
前記空間を外部から封止して、前記電極部と前記基板との間に密閉空間を形成するようにした樹脂部と
を備えた圧電デバイスであって、
前記弾性表面波素子は、前記一面から突出した凸状部を、前記電極部の周囲に有し、
前記凸状部には、前記密閉空間と外部とを結ぶ連絡部が設けられている
ことを特徴とする弾性表面波デバイス。
【請求項2】
前記樹脂部はフィラーを含有しており、
前記連絡部は、前記フィラーが通り抜けることを妨げる形状となっている
ことを特徴とする請求項1に記載の弾性表面波デバイス。
【請求項3】
前記凸状部は、前記電極部を囲む枠状の一部が、前記電極部側と外側とをつなげるように切り欠かれて形成されており、この切り欠かれた部分が前記連絡部となっていることを特徴とする請求項1または2に記載の弾性表面波デバイス。
【請求項4】
前記連絡部の通路の幅が、前記フィラーの外形寸法値の平均よりも小さくなっていることを特徴とする請求項3に記載の弾性表面波デバイス。
【請求項5】
前記フィラーの形状は球状であり、前記連絡部の通路の幅が前記フィラーの粒径の平均よりも小さくなっていることを特徴とする請求項4に記載の弾性表面波デバイス。
【請求項6】
前記凸状部は、前記電極部を囲む枠状の一部の幅が、その他の部分の幅に比べて大きくされていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の弾性表面波デバイス。
【請求項7】
圧電体の一面に、弾性表面波を励起させる電極部を有する弾性表面波素子を形成する工程と、
前記電極部との間に空間を形成するようにして、前記弾性表面波素子を基板にフェイスダウン実装するフェイスダウン実装工程と、
前記電極部と前記基板との間に形成された空間を、密閉空間とするように樹脂封止した樹脂封止工程と
を備えた弾性表面波デバイスの製造方法であって、
前記弾性表面波素子を形成する工程では、
前記一面から突出した凸状部を、前記電極部の周囲に形成するダム形成工程を有し、
このダム形成工程において、前記凸状部に、前記電極部を囲む枠状の一部を切り欠くようにして、前記電極部側と外側とを結ぶ連絡部を形成する
ことを特徴とする弾性表面波デバイスの製造方法。
【請求項8】
前記樹脂封止に用いる樹脂は球状フィラーを含有しており、
前記連絡部の通路の幅を、前記球状フィラーの平均粒径よりも小さく形成した
ことを特徴とする請求項7に記載の弾性表面波デバイスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−72617(P2008−72617A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−251356(P2006−251356)
【出願日】平成18年9月15日(2006.9.15)
【出願人】(000003104)エプソントヨコム株式会社 (1,528)
【Fターム(参考)】