説明

弾性表面波装置、および実装構造体

【課題】素子サイズと同等に小型化が可能な弾性表面波装置、および実装構造体を提供する。
【解決手段】弾性表面波装置S1は、下面に励振電極1と該励振電極1に電気的に接続される引き出し電極8,9とを有した弾性表面波素子3と、励振電極1との間に存在する封止空間を介して弾性表面波素子3と対向するように配置され、平面透視して封止空間の外側で弾性表面波素子3に対し接合されたベース基板14と、上部が引き出し電極8,9と電気的に接続された外部回路接続用の導電材18と、を備え、ベース基板14は、導電材18と引き出し電極8,9との接続箇所と対応する位置に貫通孔15を有しており、導電材18の下部は、貫通孔15を介して封止空間よりも下側の高さ位置まで導出されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車電話及び携帯電話等の移動体無線機器に内蔵される共振器や周波数帯域フィルタである弾性表面波装置、および実装構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電波を利用し通信を行なう電子機器用の帯域通過フィルタ等の周波数フィルタ(以下、フィルタという)、遅延線、発信器等の電子部品として、多くの弾性表面波共振子や弾性表面波フィルタが用いられている。特に、移動体通信分野において、携帯電話等の携帯端末装置のRF(Radio Frequency:無線周波数あるいは高周波)ブロック及びIF(Intermediate Frequency:中間周波数)ブロックのフィルタとして多用されている。今後、自動車電話及び携帯電話等の移動体無線機器を使用した通信システム上、部品の軽量化や小型化が望まれている。
【0003】
従来の弾性表面波(Surface Acoustic Waveで、以下、SAWともいう)装置の基本構成は、圧電基板の表面に一対の櫛歯状の励振電極(Inter Digital Transducer、IDT電極)を複数配置してある素子を、セラミック製の筐体内に載置した構造となっている。
【0004】
図5に従来の一例を示す。励振電極1は、例えば36°YカットX伝搬タンタル酸リチウム単結晶等からなる圧電基板2上に、蒸着法、スパッタ法等によりAl、Al-Cu合金等の導電膜を成膜した後、フォトリソグラフィ法により微細な電極となるように導電膜をパターニングして形成される。
【0005】
さらに、励振電極1を形成した圧電基板2をダイシングソーで切断することにより、SAW素子3が作製される。また、このSAW素子3をセラミックで作製した筐体4内に載置し接着樹脂5にて固着させ、筐体4の入出力電極6または接地電極7をそれぞれの引き出し電極8、9にワイヤ10で接続する。そして耐候性を持たせるために、筐体4と蓋体11をシーム溶接または半田または樹脂の封止材12により封止する。
【0006】
このように、従来のSAW装置では、軽量化・小型化が要求されているにもかかわらず、素子に比較して筐体が大きく、また、ワイヤボンディングにより筐体内に空間を確保する必要があるため、SAW装置が大型化するという問題があった。
【0007】
これに対し、近年、バンプを用いたフリップチップ接続を行ない、装置全体を軽量化・小型化する提案がなされている(例えば、特許文献1参照)。
【0008】
この方法によれば、電気的接続をフリップチップ接続で行なうことにより、ワイヤボンディングで必要とされる空間が不要となる。このため、従来のワイヤ接続によるSAW装置より小型とすることが出来る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平11−150440号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、上記のいずれの方法においても、フリップチップのベース基板あるいはパッケージは表面に電極を形成する必要がある。また、SAW素子との接続部からフリップチップされるベース基板の下面あるいはパッケージの下面まで、電極を引き回す必要があり、ベース基板あるいはパッケージの作製に多大な工数を要していた。
【0011】
そこで、本発明は素子サイズと同等に小型化が可能な弾性表面波装置、および実装構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために本発明における弾性表面波装置は、下面に励振電極と該励振電極に電気的に接続される引き出し電極とを有した弾性表面波素子と、前記励振電極との間に存在する封止空間を介して弾性表面波素子と対向するように配置され、平面透視して前記封止空間の外側で前記弾性表面波素子に対し接合されたベース基板と、上部が前記引き出し電極と電気的に接続された外部回路接続用の導電材と、を備え、前記ベース基板は、前記導電材と前記引き出し電極との接続箇所と対応する位置に貫通孔を有しており、前記導電材の下部は、前記貫通孔を介して前記封止空間よりも下側の高さ位置まで導出されている。
【0013】
上記目的を達成するために本発明における実装構造体は、本発明に係る弾性表面波装置と、前記弾性表面波装置が実装された外部回路基板と、を備える。
【発明の効果】
【0014】
本発明の弾性表面波装置、および実装構造体は、素子サイズと同等に小型化が可能であるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る弾性表面波装置の一実施形態を模式的に説明する断面図である。
【図2】本発明に係る弾性表面波装置の一実施形態を模式的に説明する上面透視図である。
【図3】本発明に係る弾性表面波装置の他の実施形態を模式的に説明するための上面透視図である。
【図4】本発明に係る弾性表面波装置の他の実施形態を模式的に説明する断面図である。
【図5】従来の弾性表面波装置を模式的に説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係る弾性表面波装置の実施形態を図面に基づき詳細に説明する。
【0017】
図1に本発明に係る弾性表面波装置S1にける断面図を示す。また、図2に弾性表面波装置S1の上面透視図を示す。ここで、図1は図2のA−A'線断面図である。
【0018】
弾性表面波装置S1は、ベース基板14上に、圧電基板2の下面に励振電極1とこれに接続される引き出し電極8,9(8は信号用電極、9は接地用電極)とを形成した弾性表面波素子3を載置し、ベース基板14に励振電極1に対向させる凹部16と引出し電極8,9に対向させる貫通孔15をそれぞれ形成し、貫通孔15に第1の導電材である金属膜17や第2の導電材18を充填して外部回路接続部となしている。
【0019】
ここで、弾性表面波素子3の機能面上に、例えば絶縁体材料の樹脂から成る枠状の封止材12を塗布形成している。この封止材12により弾性表面波素子3とベース基板14とを接合し気密封止している。
【0020】
貫通孔15に導電材18である例えば半田や金属フィラーを混入させた樹脂を満たしているが、導電材18はベース基板14の下面に対し表面が凸状になるよう印刷充填する。このように、導電材18を凸形状にすることで、弾性表面波装置S1の特に信号用電極から外部回路実装基板の電極への密着がきわめて容易かつ良好になる。
【0021】
貫通孔15の側面には導電材18とベース基板14、および弾性表面波素子3の引き出し電極8、9との密着性をよくするために金属膜17を被着形成している。
【0022】
また、ベース基板14の凹部16や貫通孔15の形成は、異方性エッチングが可能な例えばSi単結晶基板の(100)面や(110面)を主面として利用すれば、(100)面または(110)面と(111)面とのエッチングレートの差異が大きいことを利用した異方性エッチングにより、(111)面の傾斜面を有する凹部16や貫通孔15の作製が容易となる。なお、異方性エッチングに用いるアルカリ性エッチャントとしては、KOH,NaOH,EPW(エチレンジアミン+ピロカテコール+水),ヒドラジン,TMAH(水酸化テトラメチルアンモニウム)等のアルカリ水溶液が好ましい。
【0023】
凹部16に封止材12のたれ込み(加熱や加圧時に変形すること)がある場合、弾性表面波素子3上の励振電極1の妨げになり特性に悪影響を及ぼすおそれがあるが、樹脂のたれ込み部位に微小空間の傾斜面を形成することで、樹脂の表面張力で樹脂のたれ込み量を極力抑えることができるため、上記のような異方性エッチング法を用いることが好ましい。
【0024】
また、ベース基板14の上面で弾性表面波素子3の励振電極1に対向する部位に異方性エッチングにより凹部16を形成しているため、弾性表面波素子3の電極厚さによらず励振電極1の振動空間19を十分に確保できる。
【0025】
さらに、貫通孔15には導電材18等を印刷充填するため、導電体中に気泡が入りにくく充填されやすいため、貫通孔15に傾斜をもたせることが可能な異方性エッチング法を用いることが好ましい。
【0026】
次に、図3に示す他の実施形態について説明する。ここで、枠状の封止材12は絶縁性のため、入出力電極である引き出し電極8および接地電極である引き出し電極9が電気的にショートとなることが無いため、引き出し電極8,9の圧電基板2上の引き回しが自由にできる。これにより、ベース基板14上の入出力電極および接地電極の引き出し電極8,9の配線ピッチに自由度があり、また、圧電基板2上やベース基板14上にインダクタやコンデンサなどの付加回路を作製することも可能である。このようにインダクタを構成するようにミアンダ状(蛇行状)線路20を有する接地電極を設けることも可能である。
【0027】
また、弾性表面波素子3の機能面とベース基板14とを、封止材12により接合し気密封止できるが、弾性表面波装置を外部回路基板に実装する際、チップマウンタのマニュピレータが与える圧力によって、弾性表面波素子3の圧電基板2が破損することがあり得るため、図4に示す弾性表面波装置S3のように、圧電基板2の上面側から保護樹脂22を樹脂ポッティングして作製しても構わない。
【0028】
なお、圧電基板2はタンタル酸リチウム単結晶、ニオブ酸リチウム単結晶、水晶、4ほう酸リチウム単結晶、ランガサイト系単結晶、ニオブ酸カリウム単結晶、ガリウム砒素単結晶が主に適用できる。
【0029】
また、励振電極1や、貫通孔の表面被服する金属膜17の材料には、主にアルミニウム、アルミニウム・銅合金、アルミニウム・チタン合金、アルミニウム・珪素合金、金、銀、または銀・パラジウム合金が主に適用でき、電極の密着度向上や電気抵抗の削減のため下地材が必要な場合には、クロム、チタン、銅等が主に適用できる。
【0030】
また、封止材12や保護樹脂22は、熱硬化性樹脂(エポキシ系、シリコーン系、フェノール系、ポリイミド系、ポリウレタン系等)、熱可塑性樹脂(ポリフェニレンサルファイド等)、紫外線硬化樹脂、または低融点ガラス等が主に適用できる。
【0031】
また、導電材18は、熱硬化性樹脂(エポキシ系、シリコーン系、フェノール系、ポリイミド系、ポリウレタン系等)、熱可塑性樹脂(ポリフェニレンサルファイド等)、紫外線硬化樹脂、または低融点ガラス等に金属フィラーを任意の割合で混入されたものが主に適用できる。
【0032】
また、圧電基板2上の微細な電極である励振電極1を埃等の異物や金属マイグレーションから保護するため、励振電極1上に保護膜21を約0.1μm以内で形成するのが一般的である。
【0033】
また、図1では励振電極を共振器梯子型フィルタの構成図を示したが、共振器格子型フィルタや2重モード共振器型フィルタ、マルチIDT電極型フィルタ、またはこれらの複合された構成で行っても構わない。
【0034】
なお、本発明は上記の実施形態に限定されるものでなく、SAWフィルタだけでなく、SAWレゾネータやSAWデュプレクサにも本発明が適用でき、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更は何等差し支えない。
【実施例】
【0035】
厚さ0.35mm、約80mm径の42°YカットX伝搬タンタル酸リチウム単結晶ウエハに、電極膜としてAl−Cu合金をスパッタ法にて膜厚0.2μmで成膜した。その上に、ポジ型フォトレジストを1μmの厚さでスピンコート法により塗布した。その後、露光、現像を行ないフォトレジストのパターニングを行ない、ドライエッチング法で所望の励振電極1や引き出し電極8,9形状となるようにエッチングし、アッシングでフォトレジストを除去して電極パターニングを完了した。
【0036】
その後、SiO2膜をCVD法により0.025μmの厚さで成膜し、ポジ型フォトレジストを1μmの厚さでスピンコート法により塗布し、露光・現像を行ないフォトレジストのパターニングを行ない、ドライエッチング法により電極をエッチングし、アッシングによりフォトレジストを除去して、励振電極1上に保護膜21をパターニングした。
【0037】
多数のパターニングされた弾性表面波素子3が並んだウエハを、ダイシングソーを用いてダイシングし、1mm角の弾性表面波素子3を多数完成させた。
【0038】
次に、厚さ0.25mm、約80mm径のSi単結晶(主面が(100)面)の基板に、ポジ型フォトレジストを1μmの厚さでスピンコート法により塗布し、露光・現像を行ないフォトレジストのパターニングを行い、水酸化カリウム水溶液に30時間浸漬してベース基板14をエッチングし、Si基板のSAW素子3と対向する面上に0.2mm角、外部回路との接続端子面に0.55mm角の貫通孔を形成した。
【0039】
また、同様に振動空間19の形成のために底面0.5mm角、上面0.64mm角の傾斜のある段差部を異方性エッチングにより作製した。
【0040】
その後、弾性表面波素子3に枠状の封止材のエポキシ樹脂をマスク印刷により、0.1mm厚さ、幅0.15mmに塗布し、前記エポキシ樹脂を150℃、30分の条件で仮硬化させた。この弾性表面波素子3と前記ベース基板14を前記エポキシ樹脂にて微小加圧・加熱(150℃、2時間)し、気密封止を行った。また、次に貫通孔15にマスク蒸着によりTiを0.1μmの厚さで成膜し、貫通孔側面にTi金属膜を形成し、無鉛はんだペーストを貫通孔15にマスク印刷し、塗布した。
【0041】
次にはんだペースト塗布面を上にして、Siウエハをプレヒート150℃、1分間、溶融加熱230℃、5秒の条件ではんだボールを貫通孔に形成した。
【0042】
そして、Siウエハをダイシングソーでダイシングし、1.5mm角の弾性表面波装置を多数完成させた。
【0043】
以上の工程により大きさは幅1.5mm、奥行き1.5mm、高さ0.7mmの超小型な弾性表面波装置を完成させることができた。
【符号の説明】
【0044】
1:励振電極
2:圧電基板
3:弾性表面波素子
4:筐体
5:接着樹脂
6:入出力電極
7:接地電極
8:入出力電極(引き出し電極)
9:接地電極(引き出し電極)
10:ワイヤ
11:蓋体
12:封止材
14:ベース基板
15:貫通孔
16:凹部
17:第1の導電材(金属膜)
18:第2の導電材
19:振動空間
20:信号配線部
21:保護膜
22:保護樹脂
S1〜S3:弾性表面波装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下面に励振電極と該励振電極に電気的に接続される引き出し電極とを有した弾性表面波素子と、
前記励振電極との間に存在する封止空間を介して前記弾性表面波素子と対向するように配置され、平面透視して前記封止空間の外側で前記弾性表面波素子に対し接合されたベース基板と、
上部が前記引き出し電極と電気的に接続された外部回路接続用の導電材と、を備え、
前記ベース基板は、前記導電材と前記引き出し電極との接続箇所と対応する位置に貫通孔を有しており、
前記導電材の下部は、前記貫通孔を介して前記封止空間よりも下側の高さ位置まで導出されていることを特徴とする弾性表面波装置。
【請求項2】
前記導電材は、平面透視して前記封止空間よりも外側に位置し、かつ前記封止空間の内側には存在しない、請求項1に記載の弾性表面波装置。
【請求項3】
前記ベース基板は異方性エッチングが可能な材料から構成される、請求項1または2に記載の弾性表面波装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の弾性表面波装置と、
前記弾性表面波装置が実装された外部回路基板と、を備えた実装構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−213174(P2009−213174A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−147777(P2009−147777)
【出願日】平成21年6月22日(2009.6.22)
【分割の表示】特願2000−54164(P2000−54164)の分割
【原出願日】平成12年2月29日(2000.2.29)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】