弾性表面波装置および通信装置
【課題】 通過帯域外減衰特性の優れた弾性表面波装置を提供する。
【解決手段】 下面に励振電極3,4とこれら励振電極3,4を取り囲む環状接地電極6とが形成された圧電基板17が、上面に環状接地電極6に対応した環状接地導体7が形成され、環状接地導体7の一部に対向する、内部接地導体層10および下面接地導体層11の少なくとも一方が形成された基体5に、圧電基板17の下面と基体5の上面とを対面させて環状接地電極6が環状接地導体7に接合されて実装されているとともに、第1励振電極3の接地端子は環状接地電極6を介して、環状接地導体7と内部接地導体層10および下面接地導体層11の少なくとも一方とを含む第1接地用導体に接続されており、第2励振電極4の接地端子2は第1接地用導体とは直流的に分離された内部接地導体層10および下面接地導体層11の少なくとも一方を含む第2接地用導体に接続されている。
【解決手段】 下面に励振電極3,4とこれら励振電極3,4を取り囲む環状接地電極6とが形成された圧電基板17が、上面に環状接地電極6に対応した環状接地導体7が形成され、環状接地導体7の一部に対向する、内部接地導体層10および下面接地導体層11の少なくとも一方が形成された基体5に、圧電基板17の下面と基体5の上面とを対面させて環状接地電極6が環状接地導体7に接合されて実装されているとともに、第1励振電極3の接地端子は環状接地電極6を介して、環状接地導体7と内部接地導体層10および下面接地導体層11の少なくとも一方とを含む第1接地用導体に接続されており、第2励振電極4の接地端子2は第1接地用導体とは直流的に分離された内部接地導体層10および下面接地導体層11の少なくとも一方を含む第2接地用導体に接続されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば携帯電話等の通信装置に用いられる弾性表面波フィルタや弾性表面波共振器などの弾性表面波装置およびこれを備えた通信装置に関するものであり、特にフェースダウン実装構造の弾性表面波装置において、通過帯域外減衰特性の優れた弾性表面波装置およびこれを備えた通信装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、小形化,無調整化を図ることができる弾性表面波(Surface Acoustic Wave)フィルタが各種通信装置に使用されるようになり、通信装置の高周波化,高機能化への進展にともない、通過帯域外減衰特性の優れた弾性表面波フィルタを求める要求が益々増大してきている。例えば、900MHz帯の携帯電話用フィルタとしては、通過帯域近傍および数GHzの高周波数帯における通過帯域外減衰量を増やした、通過帯域外減衰特性の優れた弾性表面波フィルタが望まれている。
【0003】
このような優れた通過帯域外減衰特性を実現するために、例えば、圧電基板上に3つのIDT(Inter Digital Transducer)電極(励振電極)を設け、縦1次モードと縦3次モードとを利用した2重モード弾性表面波共振器フィルタが提案されている。
【0004】
図13に従来の共振器型弾性表面波フィルタの電極構造の模式的な平面図を示す。圧電基板上に配設された複数の電極指を有するIDT電極204は、互いに対向させ噛み合わせた一対の櫛歯状電極からなり、この一対の櫛歯状電極に電界を印加し弾性表面波を生じさせるものである。IDT電極204の一方の櫛歯状電極に接続された入力端子215から電気信号を入力することにより、励振された弾性表面波がIDT電極204の両側に配置されたIDT電極203,205に伝搬される。また、IDT電極203,205のそれぞれを構成する一方の櫛歯状電極からIDT電極206,209を通じて出力端子216,217へ電気信号が出力される。なお、図中210,211,212,213はそれぞれ反射器電極である。このように、電極パターンを2段縦続接続させることにより、1段目と2段目との定在波の相互干渉により、通過帯域外減衰量を増大させ、通過帯域外減衰特性を向上させることができる。すなわち、同様の特性をもつ弾性表面波フィルタを2段縦続接続の構成とすることで、1段目で減衰された信号が2段目でさらに減衰され,通過帯域外減衰量を約2倍にすることができる。
【0005】
ここで、IDT電極204に接続された入力端子215に電気信号を入力することにより、弾性表面波を励振させ、この弾性表面波がIDT電極204の両側に位置するIDT電極203,205に伝搬され、IDT電極206,209を通じて、IDT電極206,209に挟まれたIDT電極207,208に伝搬され、IDT電極207,208に接続された出力端子216,217から電気信号が出力される。また、両端に位置する反射器電極210,211,212,213により弾性表面波が反射され、両端の反射器電極210,211間および212,213間で定在波となる。
【0006】
また、優れた通過帯域外減衰特性を実現するとともに挿入損失を少なくするためには、図13に示すように弾性表面波フィルタの段数は2段のものが望まれる。1段の場合には挿入損失は少ないが通過帯域外減衰量が減少し、3段以上の場合には逆に、通過帯域外減衰量は増加するが挿入損失が増加するからである。
【0007】
このような弾性表面波フィルタが形成された弾性表面波素子をパッケージにフェースアップで実装する場合には、弾性表面波フィルタとパッケージの接地電極とをボンディングワイヤで電気的に接続することで弾性表面波フィルタと接地電極との間に大きなインダクタンスを付加することにより、弾性表面波フィルタの通過帯域外のフロアレベルの上昇を抑え、通過帯域外減衰特性をさらに向上させることができる。
【0008】
一方、弾性表面波装置をさらに小型化するために、弾性表面波素子をフェースダウンで導体バンプを用いて実装する、いわゆるフリップチップ実装を用いたCSP(Chip Scale Package)型の弾性表面波装置の開発も積極的に行なわれている。
【0009】
図14に従来のCSP型の弾性表面波装置の模式的な断面図を示す。
【0010】
図14において、51は圧電基板,52は圧電基板51の下面に形成された接地パッド,53は圧電基板51の下面に形成されたIDT電極,54はパッケージ57に形成された接地電極,55は接地パッド52と接地電極54とを接続するバンプ,56はパッケージ57の凹部を上から覆い、パッケージ57内部の弾性表面波素子を気密封止するための蓋体,57はパッケージ,58はパッケージ57と蓋体56とを接続する接続層である。
【0011】
このようなCSP型の弾性表面波装置においても、弾性表面波素子をパッケージ57に実装する際に、信号入力側のIDT電極53に接続する、パッケージ57に形成された接地電極(信号入力側接地電極)と、信号出力側のIDT電極53に接続する、パッケージ57に形成された接地電極(信号出力側接地電極)とを分離するとともに、信号入力側接地電極と信号出力側接地電極とが、信号入力側接地電極の電位と信号出力側接地電極の電位との間で干渉を起こすことを抑制する程度のインピーダンスを介して接続されていることから、両者の間に発生する僅かな電位差に起因する干渉を抑制することにより通過帯域外減衰特性を向上させることが提案されている(例えば、特許文献1を参照。)。
【特許文献1】特許第3487414号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
以上のように弾性表面波装置については、CSP型によって小型化を図りつつ通過帯域外減衰特性も向上させようと開発が進められているが、その一方で、通信機器の小型化のためにCSP型の弾性表面波装置を作製しようとすると、従来のフェースアップ型の弾性表面波装置で用いられていたボンディングワイヤを用いることができないため、弾性表面波フィルタと接地電極との間に大きなインダクタンスを付加できず、弾性表面波フィルタの通過帯域外のフロアレベルが上昇し、通過帯域外減衰量が不十分になるという問題点がある。
【0013】
また、図14に示す弾性表面波装置はIDT電極53の酸化等を防ぐために、パッケージ57内に弾性表面波素子を実装して収納し、パッケージ57の上面を蓋体56で気密封止した構成をとるため、さらなる小型化・低背化には不利な構成であった。
【0014】
本発明は上記事情に鑑みて提案されたものであり、その目的は、通過帯域外減衰特性の優れ、小型化・低背化が可能なフェースダウン実装構造の弾性表面波装置およびそれを用いた通信装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の弾性表面波装置は、1)下面に第1励振電極と第2励振電極とこれら第1励振電極および第2励振電極を取り囲む環状接地電極とが形成された圧電基板が、上面に前記環状接地電極に対応した環状接地導体が形成され、前記環状接地導体の一部に対向する、内部接地導体層および下面接地導体層の少なくとも一方が形成された基体に、前記圧電基板の前記下面と前記基体の前記上面とを対面させて前記環状接地電極が前記環状接地導体に接合されて実装されているとともに、前記第1励振電極の接地端子は前記環状接地電極を介して、前記環状接地導体と前記内部接地導体層および前記下面接地導体層の少なくとも一方とを含む第1接地用導体に接続されており、前記第2励振電極の接地端子は前記第1接地用導体とは直流的に分離された前記内部接地導体層および前記下面接地導体層の少なくとも一方を含む第2接地用導体に接続されていることを特徴とするものである。
【0016】
また、本発明の弾性表面波装置は、2)上記1)の構成において、前記第1接地用導体は、前記環状接地導体が貫通導体を介して前記内部接地導体層に接続され、この内部接地導体層が貫通導体を介して前記下面接地導体層に接続されているとともに、前記第2接地用導体は、前記基体の上面に形成された接地パッドが貫通導体を介して前記内部接地導体層に接続され、この内部接地導体層が貫通導体を介して前記下面接地導体層に接続されていることを特徴とするものである。
【0017】
また、本発明の弾性表面波装置は、3)上記1)または上記2)の構成において、前記基体は平面視で4つ以上の角部を有し、これら角部のうち互いに隣り合わない2つの角部の一方に前記第1接地用導体の前記下面接地導体層が、他方に前記第2接地用導体の前記下面接地導体層がそれぞれ設けられていることを特徴とするものである。
【0018】
また、本発明の弾性表面波装置は、)上記1)乃至上記3)のいずれかの構成において、前記第1励振電極の信号端子および前記第2励振電極の信号端子がそれぞれ前記基体に形成された第1信号用導体および第2信号用導体を介して前記基体の下面に導出されており、前記内部接地用導体層が前記第1信号用導体と前記第2信号用導体との間に配置されていることを特徴とするものである。
【0019】
また、本発明の通信装置は、5)上記1)乃至上記4)いずれかの構成の本発明の弾性表面波装置をフィルタ手段として用いた、受信回路および送信回路の少なくとも一方を備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明の弾性表面波装置によれば、1)下面に第1励振電極と第2励振電極とこれら第1励振電極および第2励振電極を取り囲む環状接地電極とが形成された圧電基板が、上面に環状接地電極に対応した環状接地導体が形成され、環状接地導体の一部に対向する、内部接地導体層および下面接地導体層の少なくとも一方が形成された基体に、圧電基板の下面と基体の上面とを対面させて環状接地電極が環状接地導体に接合されて実装されているとともに、第1励振電極の接地端子は環状接地電極を介して、環状接地導体と内部接地導体層および下面接地導体層の少なくとも一方とを含む第1接地用導体に接続されており、第2励振電極の接地端子は第1接地用導体とは直流的に分離された内部接地導体層および下面接地導体層の少なくとも一方を含む第2接地用導体に接続されていることから、第1接地用導体と第2接地用導体との電磁的結合を抑制することができるため、第1励振電極に入力された信号が第1接地用導体および第2接地用導体を介して第2例振電極に伝搬することを防ぐことができ、信号漏れの少ないものとなる。
【0021】
また、第1接地用導体と第2接地用導体とが直流的に分離されているため、第1接地用導体と第2接地用導体とが直流的に並列に接続されるときに比べ、第1接地用導体および第2接地用導体それぞれの経路のインダクタンスが大きくなり、その結果、通過帯域外減衰特性を向上させることが可能となる。
【0022】
また、第1接地用導体が環状接地電極と内部接地電極層および下面接地導体層の少なくとも一方を、第2接地用導体が内部接地電極層および下面接地導体層の少なくとも一方を含むことから、第1励振電極と第1接地用導体との間および第2励振電極と第2接地用導体との間に、個々の励振電極が形成する容量と直列に大きなインダクタンスを加えることができ、通過帯域外の所望の位置に減衰極を形成することができるのでフロアレベルの上昇を抑制することができるため、通過帯域外減衰特性を向上させることができるものとなる。
【0023】
なお、第1励振電極と第1接地用導体との間および第2励振電極と第2接地用導体との間のインダクタンスが小さい場合には、フィルタとして通過帯域外減衰特性を向上させる必要のある周波数領域よりはるかに高周波数側に減衰極が位置することとなり、減衰極はフィルタ特性を向上させるために寄与できないものとなる。
【0024】
ここで、通過帯域外における減衰極の位置は各励振電極の容量と各接地用導体のインダクタンスとで決まる共振周波数により制御され、これにより弾性表面波装置において所望の周波数特性を得ることができるが、本発明の1)の構成によれば、環状接地導体の一部に内部接地導体層および下面接地導体層が対向し、かつ第1接地用導体は内部接地電極層および下面接地導体層の少なくとも一方を含むことから、第1励振電極の容量と第1接地用導体のインダクタンスとに加え、環状接地導体と対向する内部接地電極層および下面接地導体層の少なくとも一方との間で発生する容量により、減衰極の位置をさらに制御することができ、その結果、通過帯域外における減衰極の位置を制御できる周波数範囲を低周波数側にさらに広げ通過帯域に近付けることができるので、所望のフィルタ特性を得ることができる。
【0025】
さらに、圧電基板と基体とを環状接地電極および環状接地導体により接合すると同時に各励振電極を気密封止することができるので、従来は気密封止のために必要だったパッケージが不要となり、弾性表面波装置の大幅な小型化・低背化が可能となる。
【0026】
また、本発明の弾性表面波装置によれば、2)上記1)の構成において、第1接地用導体は、環状接地導体が貫通導体を介して内部接地導体層に接続され、この内部接地導体層が貫通導体を介して下面接地導体層に接続されているとともに、第2接地用導体は、基体の上面に形成された接地パッドが貫通導体を介して内部接地導体層に接続され、この内部接地導体層が貫通導体を介して下面接地導体層に接続されているときには、環状接地導体,貫通導体,内部接地導体層および下面接地導体層により圧電基板上の各励振電極とこれに対応する基体の下面接地導体層との間にさらに大きなインダクタンスおよび容量を付加することが可能となり、その結果、通過帯域外に減衰極を形成させることができる周波数範囲を低周波数側に広げ通過帯域に近付けることができるため、所望の周波数範囲における通過帯域外減衰特性をさらに向上させることができる。
【0027】
また、本発明の弾性表面波装置によれば、3)上記1)または上記2)の構成において、基体は平面視で4つ以上の角部を有し、これら角部のうち互いに隣り合わない2つの角部の一方に第1接地用導体の下面接地導体層が、他方に第2接地用導体の下面接地導体層がそれぞれ設けられているときには、弾性表面波装置の形状を大きくすることなく第1励振電極の信号端子と第2励振電極の信号端子との間の距離を長くすることができるため各信号端子間における干渉を極力低減することができ、小型で信号端子間のアイソレーションが良好なものとすることができる。
【0028】
また、本発明の弾性表面波装置によれば、4)上記1)乃至上記3)のいずれかの構成において、第1励振電極の信号端子および第2励振電極の信号端子がそれぞれ基体に形成された第1信号用導体および第2信号用導体を介して基体の下面に導出されており、内部接地用導体層が第1信号用端子と第2信号用端子との間に配置されているときには、弾性表面波装置の形状を大きくすることなく第1励振電極の信号端子と第2励振電極の信号端子との間の電磁的結合を低減することができるため各信号端子間における干渉を極力低減することができ、小型で信号端子間のアイソレーションが良好なものとすることができる。
【0029】
そして、本発明の通信装置によれば、5)上記1)乃至上記4)のいずれかの本発明の弾性表面波装置をフィルタ手段として用いた、受信回路および送信回路の少なくとも一方を備えたことから、小型化・低背化が可能で、通信装置としての感度が格段に良好なものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下に説明する図面において同様の箇所には同一符号を付すものとする。また、各電極の大きさや電極間の距離等、電極指の本数や間隔等については、説明のために模式的に図示したものである。
【0031】
図1は本発明の弾性表面波装置における弾性表面波素子の一例を示す平面図である。
【0032】
弾性表面波素子は、圧電基板17の下面に第1励振電極3と第2励振電極4とこれら第1励振電極3および第2励振電極4を取り囲む環状接地電極6とが形成されており、第1励振電極3および第2励振電極4は櫛歯状の電極対からなり、第1励振電極3の一方の電極および第2励振電極4の一方の電極にそれぞれ信号端子1a,1bが接続され、第1励振電極3の他方の電極に接地端子としての機能を持たせた環状接地電極6が、第2励振電極4の他方の電極に接地端子2がそれぞれ接続されている。なお、第1励振電極3と第2励振電極4とは2重モード共振器型の弾性表面波フィルタとなるように接続されている。ここで、各励振電極3,4の電極指の本数は数本〜数100本にも及ぶが、図面においてはそれら形状を簡略化して図示している。また、信号端子1および接地端子2の形成位置は図中の配置に限定されることなく、圧電基板17の下面の環状接地電極6に取り囲まれた領域内において任意の位置に配置することができる。さらに、図1の弾性表面波素子の電極構造は、図示された態様に限定されるものではなく、弾性表面波共振子である励振電極をさらに多段に構成することもできる。
【0033】
次に、図2(a)〜(d)にそれぞれ本発明の弾性表面波装置における基体5の例を示す透視状態の斜視図を、図3に図2(d)に示す基体5の透視状態の平面図を、図4(a)〜(f)にそれぞれ図2(d)に示す基体5を構成する各層の平面図をそれぞれ示す。なお、図4(f)において破線部は下面接地導体層11が露出している部位である。
【0034】
基体5は、上面に環状接地電極6に対応した環状接地導体7と、第1励振電極3および第2励振電極4の信号端子1a,1bに対応した第1信号用パッド15および第2信号用パッド16と、接地端子2に対応した接地パッド8とが形成されており、環状接地導体7の一部に対向する、内部接地導体層10および下面接地導体層11の少なくとも一方が形成されている。また、基体5の下面には、第1信号用パッド15に貫通導体9を介して接続された信号用パターン12aと、第2信号用パッド16に貫通導体9を介して接続された信号用パターン12bとが形成されている。なお、下面接地導体層11と信号用パターン12とは直流的に分離されている。
【0035】
ここで、第1励振電極3の信号端子1aに接続され、基体5の上面から下面に導出される経路を第1信号用導体といい、図2〜図4においては、第1信号用パッド15が貫通導体9を介して信号用パターン12aに接続された構成となっている。同様に、第2励振電極4の信号端子1bに接続され、基体5の上面から下面に導出される経路を第2信号用導体といい、図2〜図4においては、第2信号用パッド16が貫通導体9を介して信号用パターン12bに接続された構成となっている。
【0036】
また、基体5において、第1励振電極3を接地するための第1接地用導体と第2励振電極4を接地するための第2接地用導体とを設ける。第1接地用導体は、環状接地導体7と内部接地導体層10および下面接地導体層11の少なくとも一方とを含む構成とし、第2接地用導体は、第1接地用導体とは直流的に分離された内部接地導体層10および下面接地導体層11の少なくとも一方を含む構成とする。
【0037】
第1接地用導体および第2接地用導体の構成は、例えば、図2(a)に示すように、第1接地用導体は環状接地導体7が貫通導体9を介して下面接地導体層11に接続された構成とし、第2接地用導体は接地パッド8が貫通導体9を介して第1接地用導体の下面接地導体層11と直流的に分離した下面接地導体層11に接続された構成としてもよい。また、図2(b)に示すように、第1接地用導体は環状接地導体7が貫通導体9を介して内部接地導体層10に接続され、この内部接地導体層10が貫通導体9を介して下面接地導体層11に接続された構成とし、第2接地用導体は接地パッド8が貫通導体9を介して第1接地用導体の内部接地導体層10と直流的に分離された内部接地導体層10に接続され、この内部接地導体層10が貫通導体9を介して第1接地用導体の下面接地導体層11と直流的に分離された下面接地導体層11に接続された構成としてもよい。
【0038】
また、図2(a)においては、基体5を平面視した際の互いに隣り合う2つの角部に第1接地用導体の下面接地導体層11と第2接地用導体の下面接地導体層11とが配置されているが、図2(c)に示すように、基体3を平面視した際の互いに隣り合わない2つの角部に第1接地用導体の下面接地導体層11と第2接地用導体の下面接地導体層11とが配置されていてもよい。また、図2(d)に示すように、図2(b)の構成において、第1励振電極3の信号端子1aおよび第2励振電極4の信号端子1bがそれぞれ基体5に形成された第1信号用導体および第2信号用導体を介して基体5の下面に導出されており、内部接地用導体層10が第1信号用導体と第2信号用導体との間に配置された構成、すなわち、基体5を平面視した際に内部接地導体層10(この例においては内部接地導体層10および下面接地導体層11)が第1信号用導体形成位置と第2信号用導体形成位置との間に配置された構成としてもよい。
【0039】
また、本発明の弾性表面波装置の実施の形態の一例の断面図を図5に示す。第1励振電極3の信号端子1aは第1信号用パッド15に、第2励振電極4の信号端子1bは第2信号用パッド16に、第2励振電極4の接地端子2は接地パッド8に、環状接地電極6は環状接地導体7にそれぞれ接合層20を介して接続されている。
【0040】
第1信号用パッド15,第2信号用パッド16,接地パッド8,環状接地導体7の上には、これらに対応する弾性表面波素子の信号端子1,接地端子2および環状接地電極6と接続するために、接合層20が形成される。
【0041】
上記のような弾性表面波素子が基体5に、圧電基板17の下面と基体5の上面とを対面させて環状接地電極6が接合層20を介して環状接地導体7に接合されることにより実装され、基体5上の弾性表面波素子を覆うようにポッティング法または印刷法により封止樹脂21が形成されて本発明の弾性表面波装置が作製される。このように、第1励振電極3および第2励振電極4を、環状接地電極6および環状接地導体7を接合層20を介して接合することにより同時に気密封止することができるので、従来は気密封止のために必要だったパッケージが不要となり、大幅に弾性表面波装置の小型化・低背化が可能となる。
【0042】
本発明の弾性表面波装置によれば、このような構成により、第1接地用導体と第2接地用導体との電磁的結合を抑制することができるため、第1励振電極3に入力された信号が第1接地用導体および第2接地用導体を介して第2例振電極4に伝搬することを防ぐことができ、信号漏れの少ないものとなる。
【0043】
また、第1接地用導体と第2接地用導体とが直流的に分離されているため、第1接地用導体と第2接地用導体とが直流的に並列に接続されるときに比べ、第1接地用導体および第2接地用導体それぞれの経路のインダクタンスが大きくなり、その結果、通過帯域外減衰特性を向上させることが可能となる。
【0044】
また、第1接地用導体が環状接地電極6と内部接地電極層10および下面接地導体層11の少なくとも一方とを、第2接地用導体が内部接地電極層10および下面接地導体層11の少なくとも一方を含むことより、第1励振電極3と第1接地用導体との間および第2励振電極4と第2接地用導体との間に大きなインダクタンスを加えることができ、通過帯域外の所望の位置に減衰極を形成することができるのでフロアレベルの上昇を抑制することができるため、通過帯域外減衰特性を向上させることができるものとなる。
【0045】
ここで、通過帯域外における減衰極の位置は各励振電極3,4の容量と各接地用導体のインダクタンスとで決まる共振周波数により制御され、これにより弾性表面波装置において所望の周波数特性を得ることができるが、図1〜図5に示す構成によれば、環状接地導体7の一部に内部接地導体層10および下面接地導体層11が対向し、かつ第1接地用導体は内部接地電極層10および下面接地導体層11の少なくとも一方を含むことから、第1励振電極3の容量と第1接地用導体のインダクタンスとに加え、環状接地導体7と対向する内部接地電極層10および下面接地導体層11の少なくとも一方との間で発生する容量により減衰極の位置をさらに制御することができ、その結果、通過帯域外における減衰極の位置を制御できる周波数範囲を低周波数側にさらに広げて通過帯域に近付けることができるので、所望のフィルタ特性を得ることができる。
【0046】
また、第1励振電極3の接地端子の機能を環状接地電極6に持たせることにより、第1励振電極3の接地端子を省くことができるので、接地端子を別に形成する場合に接地端子と環状接地電極6との間に形成されていた間隙の分だけ小型化が可能となる。
【0047】
また、特に図2(b),(d)に示すように、基体5において、第1接地用導体は、環状接地導体7が貫通導体9を介して内部接地導体層10に接続され、内部接地導体層10が貫通導体9を介して下面接地導体層11に接続されているとともに、第2接地用導体は、基体5の上面に形成された接地パッド8が貫通導体9を介して内部接地導体層10に接続され、内部接地導体層10が貫通導体9を介して下面接地導体層11に接続されているときには、図2(a)に示す基体5に比べ、環状接地電極6,貫通導体9,内部接地導体層10および下面接地導体層11により圧電基板17上の各励振電極3,4とこれに対応する基体5の下面接地導体層11との間に充分に大きなインダクタンスおよび容量を付加することが可能となり、通過帯域外に減衰極を形成させることができる周波数範囲を低周波数側にさらに広げて通過帯域に近付けることができるため、所望の周波数範囲における通過帯域外減衰特性をさらに向上させることができるため好ましい。
【0048】
また、図2(b),(c),(d)に示すように、基体5は平面視で4つ以上の角部を有し、これら角部のうち互いに隣り合わない2つの角部の一方に第1接地用導体の下面接地導体層11が、他方に第2接地用導体の下面接地導体層11がそれぞれ設けられているときには、図2(a)に示す基体5に比べ、弾性表面波装置の形状を大きくすることなく第1励振電極3の信号端子1aと第2励振電極4の信号端子1bとの間の距離を長くすることができるので各信号端子1a,1b間における干渉を極力低減することができ、小型で信号端子間のアイソレーションが良好なものとすることができるため好ましい。
【0049】
また、図2(d)に示すように、第1励振電極3の信号端子1aおよび第2励振電極4の信号端子1bがそれぞれ基体5に形成された第1信号用導体および第2信号用導体を介して基体5の下面に導出されており、内部接地用導体層10および下面接地導体層11が第1信号用導体と第2信号用導体との間に配置されていることから、弾性表面波装置の形状を大きくすることなく第1励振電極3の信号端子1aと第2励振電極4の信号端子1bとの間の電磁的結合を低減することができるので各信号端子1a,1b間における干渉を極力低減することができ、小型で信号端子間のアイソレーションが良好なものとすることができる。
【0050】
ここで、図6に本発明の弾性表面波装置の弾性表面波素子および基体5の簡略化された回路図を示す。図6に示すように、励振電極3,4の容量31,32およびこれらに直列に接続された励振電極3,4と下面接地導体層11との間のインダクタンス34,35で共振周波数を制御することができ、減衰極を制御して所望の周波数特性を得ることができる。さらに、環状接地導体7と内部接地導体層10および下面接地導体層11の少なくとも一方とが対向した構成となっており、さらに内部接地導体層10と下面接地導体層11とが対向した構成となっている場合もあるので、これらの導体7,10,11間に容量成分が発生する。この容量成分の内、第1接地用導体および第2接地用導体間に形成される容量成分33と、インダクタンス34,35成分と、第1接地用導体および第2接地用導体内の導体間で発生する容量成分とを制御することにより、減衰極の位置をさらに制御でき、通過帯域外減衰特性を大きく向上させることができる。ここで、弾性表面波装置の小型化が進んでいるためインダクタンス34,35の大きさには限界がある。そこで、環状接地導体7と対向した内部接地導体層10および下面接地導体層11とを設けることで、環状接地導体7,内部接地導体層10,下面接地導体層11間で容量成分を発生させることにより、より広い周波数範囲にわたり所望の位置に減衰極を設けることができるものとなる。これらの容量成分の大きさは対向する各導体7,10,11の面積および距離により制御できる。なお、各導体7,10,11を対向させて配置することで、第1接地用導体と第2接地用導体との間が容量成分33で接続されることとなるが、導体によりインダクタンスを介して接続されているわけではないので、信号入力側の信号端子1aから第1接地用導体,第2接地用導体を介して出力側の信号端子1bへと信号が漏れることは殆どない。
【0051】
また、弾性表面波フィルタ用の圧電基板17としては、36°±3°YカットX伝搬タンタル酸リチウム単結晶、42°±3°YカットX伝搬タンタル酸リチウム単結晶、64°±3°YカットX伝搬ニオブ酸リチウム単結晶、41°±3°YカットX伝搬リチウム単結晶、45°±3°XカットZ伝搬四ホウ酸リチウム単結晶は、電気機械結合係数が大きく、かつ、周波数温度係数が小さいため好ましい。また、これらの圧電単結晶は焦電性を有するが、酸素欠陥やFe等の固溶により焦電性を著しく減少させた基板であれば、デバイスの信頼性上良好である。圧電基板17の厚みは0.1mm〜0.5mm程度がよく、0.1mm未満では圧電基板がもろくなり、0.5mm超では材料コストと部品寸法が大きくなり使用できない。
【0052】
また、励振電極3,4および環状接地電極6は、AlもしくはAl合金(Al−Cu系、Al−Ti系)からなり、蒸着法、スパッタ法、またはCVD法などの薄膜形成法により形成する。電極厚みは0.1μm〜0.5μm程度とすることが弾性表面波フィルタとしての特性を得る上で好適である。
【0053】
さらに、圧電基板17上の第1励振電極3および第2励振電極4等の弾性表面波伝搬部にSiO2,SiNx,Si,Al2O3からなる保護膜を形成することにより、導電性異物が付着することによる短絡を防ぎ、周波数を調整することもできる。これらの保護膜は第1励振電極3および第2励振電極4を形成した後に、蒸着法やスパッタリング法等の通常の薄膜を形成する方法にて形成すればよい。
【0054】
基体5は、絶縁性の材料からなり、複数の絶縁層を積層したものを用いる。これら絶縁層には例えばセラミックスやガラスセラミックスが用いられ、セラミックス等の金属酸化物と有機バインダとを有機溶媒等で均質混練したスラリーをシート状に成型したグリーンシートを作製し、所望の導体パターン7,8,10,11,12,15,16や貫通導体9のパターン(ビアホール)を形成した後、これらグリーンシートを積層し圧着することにより一体形成して焼成することによって作製される。
【0055】
環状接地導体7,接地パッド8,第1信号用パッド15,第2信号用パッド16,内部接地導体層10および下面接地導体層11は、例えばAu,Cu,Ag,Ag−Pd,W等の金属導体をスクリーン印刷等の成膜法とエッチングとの組み合わせにより形成したり、下層から順にW,Ni,Auを積層した導体層を電解めっき法または無電解めっき法によって所望のパターンに形成する。
【0056】
貫通導体9は、例えばAg等の導体からなり、グリーンシートの所望の位置に貫通孔(ビアホール)をマイクロドリル,パンチング,レーザ加工,金型打ち抜き加工,フォトリソグラフィ法等で形成し、貫通孔に例えばAg系の導体ペーストを充填して形成すればよい。
【0057】
接合層20は、半田ペースト,Au−Snペースト等をスクリーン印刷等の印刷法により形成したり、ディスペンサーで塗布したりすることにより形成される。接合層20は、ここでは基体5側に形成される場合を示したが、弾性表面波素子側に形成してもかまわない。
【0058】
また、環状接地電極6と環状接地導体7とで気密封止される空間(以下、密閉空間と言う)には、低湿度の空気や窒素ガス,アルゴンガス等の不活性ガス等を封入し密閉するようにしてもよい。これによれば、第1励振電極3および第2励振電極4の酸化等による劣化を抑制でき好ましい。
【0059】
封止樹脂21は、密閉空間への湿度の高い空気の侵入を防ぐと共に、弾性表面波装置の機械的強度を高めるために設けられ、例えばエポキシ樹脂やポリイミド樹脂等の熱硬化性樹脂,ポリフェニレンサルファイド樹脂等の熱可塑性樹脂,紫外線硬化樹脂または低融点ガラス等を用いることができ、これらをポッティング法または印刷法により塗布した後硬化処理して形成すればよい。
【0060】
また、本発明の弾性表面波装置を通信装置に適用することができる。すなわち、少なくとも受信回路または送信回路の一方を備え、これらの回路に含まれるバンドパスフィルタとして本発明の弾性表面波装置を用いる。例えば、送信回路から出力された送信信号をミキサでキャリア周波数にのせて、不要信号をバンドパスフィルタで減衰させ、その後、パワーアンプで送信信号を増幅して、デュプレクサを通ってアンテナより送信することができる送信回路を備えた通信装置や、受信信号をアンテナで受信し、デュプレクサを通った受信信号をローノイズアンプで増幅し、その後、バンドパスフィルタで不要信号を減衰して、ミキサでキャリア周波数から信号を分離し、この信号を取り出す受信回路へ伝送するような受信回路を備えた通信装置に適用可能であり、本発明の弾性表面波装置を採用すれば、感度が向上した優れた通信装置を提供できる。
【0061】
以上により、本発明の通信装置によれば、優れた弾性表面波装置を有する受信回路や送信回路を備え、それらの感度が格段に良好な優れた通信機等の通信装置を提供できる。
【0062】
なお、上述した実施の形態の説明では、弾性表面波装置として弾性表面波フィルタを例にとり説明したが、本発明の弾性表面波装置は弾性表面波共振器にも好適に適用可能である。また、その他の構成においても、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更することは可能である。
【0063】
例えば、環状接地電極6に囲まれた領域に、異なる通過帯域を持つIDT電極を二組以上設けてもよい。
【実施例】
【0064】
次に、本発明をより具体化した実施例について説明する。
【0065】
<実施例1>
図5に示す弾性表面波装置を具体的に試作した実施例について説明する。
【0066】
まず、図1に示す弾性表面波素子を形成した。すなわち、38.7°YカットのX方向伝搬とするLiTaO3単結晶の圧電基板17上に、Al(99質量%)−Cu(1質量%)により、信号端子1a,1b,接地端子2,第1励振電極3,第2励振電極4および環状接地電極6の微細パターンを形成した。ここで、第1励振電極3を構成する電極対の一方の電極が第1励振電極3と第2励振電極4との間に形成された信号端子1aに接続され、他方の電極が接地端子としての機能を持つ環状接地電極6に接続されている。また、第2励振電極4を構成する電極対の一方の電極が第1励振電極3と第2励振電極4との間に形成された接地端子2に接続され、他方の電極が第2励振電極4と環状接地電極6との間に形成された信号端子1bに接続されている。
【0067】
パターン作製には、スパッタリング装置、縮小投影露光機(ステッパー)、およびRIE(Reactive Ion Etching)装置によりフォトリソグラフィを行なった。
【0068】
まず、圧電基板17をアセトン・IPA(イソプロピルアルコール)等によって超音波洗浄し、有機成分を落とした。次に、クリーンオーブンによって充分に圧電基板17を乾燥させた後、各電極3,4,6および各端子1a,1b,2の成膜を行なった。各電極3,4,6および各端子1a,1b,2の成膜にはスパッタリング装置を使用し、Al(99質量%)−Cu(1質量%)合金から成る材料を用いて約0.30μmの厚みに形成した。
【0069】
次に、フォトレジストを約0.5μmの厚みにスピンコートにて形成し、縮小投影露光装置(ステッパー)により、所望形状にパターニングを行ない、現像装置にて不要部分のフォトレジストをアルカリ現像液で溶解させ、所望パターンを表出した後、RIE装置により電極膜のエッチングを行ない、弾性表面波フィルタを構成する弾性表面波素子の、各電極3,4,)および各端子1a,1b,2のパターンを得た。
【0070】
この後、各電極3,4,6および各端子1a,1b,2が形成された領域上に保護膜を作製した。すなわち、CVD(Chemical Vapor Deposition)装置により、各電極3,4,6および各端子1a,1b,2および圧電基板17上にSiO2を約0.02μmの厚みに形成した。その後、フォトリソグラフィによってフォトレジストのパターニングを行ない、RIE装置等で各端子1a,1b,2および環状接地電極6の形成位置においてフリップチップ用窓開け部のエッチングを行なった。その後、スパッタリング装置を使用し、Alからなる層を約1.0μmの厚みに成膜した。その後、各端子1a,1b,2および環状接地電極6の形成位置を除く箇所のAlとフォトレジストとをリフトオフ法により同時に除去し、各端子1a,1b,2および環状接地電極6の上にフリップチップ用のパッドを完成した。
【0071】
次に、上記パッドの上に半田からなるフリップチップ用の接合層20を、スクリーン印刷装置を使用し形成した。各端子1a,1b,2上における接合層20の直径は約80μm、その高さは約30μmであった。また、環状接地電極6上の接合層20の高さは約30μmであった。
【0072】
次に、圧電基板17をダイシング線に沿ってダイシング加工を施し、個々の弾性表面波素子に分割した。
【0073】
次に、図2(d)に示す基体5を作製した。すなわち、LTCC(Low Temperature Co-fired Ceramics:低温同時焼成セラミックス)を作製するための金属酸化物と有機バインダとを有機溶媒等で均質混練したスラリーをシート状に成型したグリーンシートを作製し、所望の位置に環状接地導体7,接地パッド8,第1信号用パッド15,第2信号用パッド16,内部接地導体層10,下面接地導体層11および信号用パターン12や貫通導体9のパターンを形成した後、これらグリーンシートを積層し圧着することにより一体形成して焼成することによって作製された。なお、基体5のサイズは2.5×2.0mm角とした。
【0074】
ここで、環状接地導体7,接地パッド8,第1信号用パッド15,第2信号用パッド16,内部接地導体層10,下面接地導体層11および信号用パターン12は、Agを用いて、弾性表面波素子の信号端子1,接地端子2および環状接地電極6に対応するように約1μmの厚みにスクリーン印刷法により形成した。貫通導体9は、金型打ち抜き加工によりの直径100μmとなるように形成したにAg系導体ペーストを充填して形成した。
【0075】
次に図5に示すように、圧電基板17の信号端子1a,1bと接地端子2と環状接地電極6との位置に基体5の第1信号用パッド15,第2信号用パッド16,接地パッド8,環状接地導体7とが対応するように、弾性表面波素子の下面と基体5の上面とを対面させて配置し、リフロー炉にて240℃で5分間、リフロー溶融させて半田から成る接合層20により両者を接合した。このとき、環状接地電極6と環状接地導体7とを接合層20を介して接合することにより、第1励振電極3および第2励振電極4とを気密封止した。この圧電基板17の上部よりエポキシ樹脂からなる封止樹脂21をポッティング法により基体5上の弾性表面波素子を覆うように塗布した後、乾燥炉で150℃にて5分間加熱して硬化させて、弾性表面波装置を作製した。
【0076】
参考例として、図7に示すような第1接地用導体と第2接地用導体とが内部接地導体層10部で接続されて共通になっているものを上記と同じ材料を用いて、同様の工程で作製した。図7は参考例の弾性表面波装置の基体5を示す透視状態の斜視図である。
【0077】
次に、実施例1,参考例における弾性表面波装置の特性測定を行なった。0dBmの信号を入力し、周波数が780MHz〜960MHz、測定ポイントが800ポイントの条件にて測定した。サンプル数は30個であり、測定機器はアジレント・テクノロジー社製マルチポート・ネットワークアナライザE5071Aを用いた。
【0078】
実施例1の弾性表面波装置および参考例の弾性表面波装置において入力信号の伝送特性の周波数依存性を示す線図を図8および図9に示した。図8,図9ともに、横軸は周波数(MHz)であり、縦軸は透過特性(dB)である。ここで、図8は通過帯域付近の伝送特性を表す挿入損失の周波数依存性を示す線図である。また、図9は、特に高周波側の通過帯域外減衰特性を対比するための通過特性を示す線図である。図8,図9において実施例1の弾性表面波装置の伝送特性を実線で、参考例1の弾性表面波装置の伝送特性を破線で表わした。図8および図9から明らかなように、実施例1の弾性表面波装置によれば通過帯域外の高周波側に減衰極ができており、参考例と比較して通過帯域外減衰特性が大きく改善されていることが分かった。これにより、第1接地用導体と第2接地用導体とが直流的に分離していることにより実施例1のフィルタ特性が良好であることが分かった。
【0079】
<実施例2>
実施例2として、図10に示すように、実施例1と比較して、貫通導体9の数が少なく、内部接地導体層10の面積の小さい弾性表面波装置を実施例1と同じ材料を用いて、同様の工程で作製した。図10は実施例2の弾性表面波装置の基体構造を示す透視状態の斜視図である。
【0080】
次に、実施例2における弾性表面波装置の特性測定を行なった。0dBmの信号を入力し、周波数が780MHz〜960MHz、測定ポイントが800ポイントの条件にて測定した。サンプル数は30個であり、測定機器はアジレント・テクノロジー社製マルチポート・ネットワークアナライザE5071Aを用いた。
【0081】
実施例1および実施例2の弾性表面波装置において入力信号の伝送特性の周波数依存性を示す線図を図11および図12に示した。図11,図12ともに、横軸は周波数(MHz)であり、縦軸は透過特性(dB)である。ここで、図11は通過帯域付近の伝送特性を表す挿入損失の周波数依存性を示す線図である。また、図12は、特に高周波側の通過帯域外減衰特性を対比するための通過特性を示す線図である。図11,図12において実施例1の弾性表面波装置の伝送特性を実線で、実施例2の弾性表面波装置の伝送特性を破線で表わした。図11および図12から明らかなように、実施例2の弾性表面波装置によれば通過帯域外の高周波側に減衰極ができており、通過帯域外減衰特性が向上しているが、実施例1の弾性表面波装置は実施例2の弾性表面波装置と比較して通過帯域外減衰特性がさらに優れていることが分かった。
【0082】
これは、実施例1は実施例2に比べ、環状接地導体7と内部接地導体層10とが対向する面積および内部接地導体層10と下面接地導体層11とが対向する面積が広いので、各導体7,10,11間に大きな容量成分が発生し、第1接地用導体および第2接地用導体間にも大きな容量成分(図6に示す容量成分33)が発生し、これらに第1接地用導体および第2接地用導体のインダクタンス(図6に示すインダクタンス34,35)成分を加えた共振回路により、減衰極の位置をより通過帯域に近い低周波側に制御できるため、通過帯域外減衰特性が優れたものとなったものと推察される。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明の弾性表面波装置における弾性表面波素子の一例を示す平面図である。
【図2】(a)〜(d)は、それぞれ本発明の弾性表面波装置の基体の例を示す透視状態の斜視図である。
【図3】図2(d)に示す基体の透視状態の平面図である。
【図4】(a)〜(f)はそれぞれ図2(d)に示す基体を構成する各層の平面図である。
【図5】本発明の弾性表面波装置の実施の形態の一例を示す断面図である。
【図6】本発明の弾性表面波装置の弾性表面波素子および基体の簡略化された回路図である。
【図7】参考例の弾性表面波装置の基体構造を示す透視状態の斜視図である。
【図8】弾性表面波装置の通過帯域およびその近傍における挿入損失の周波数特性を示す線図である。
【図9】弾性表面波装置の通過帯域外減衰特性を比較するための周波数特性を示す線図である。
【図10】実施例2の弾性表面波装置の基体構造を示す透視状態の斜視図である。
【図11】弾性表面波装置の通過帯域およびその近傍における挿入損失の周波数特性を示す線図である。
【図12】弾性表面波装置の通過帯域外減衰特性を比較するための周波数特性を示す線図である。
【図13】従来の弾性表面波装置の電極構造を模式的に示す平面図である。
【図14】従来のCSP型の弾性表面波装置を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0084】
1a,1b:信号端子
2:接地端子
3:第1励振電極
4:第2励振電極
5:基体
6:環状接地電極
7:環状接地導体
8:接地パッド
9:貫通導体
10:内部接地導体層
11:下面接地導体層
12:信号用パターン
15:第1信号用パッド
16:第2信号用パッド
17:圧電基板
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば携帯電話等の通信装置に用いられる弾性表面波フィルタや弾性表面波共振器などの弾性表面波装置およびこれを備えた通信装置に関するものであり、特にフェースダウン実装構造の弾性表面波装置において、通過帯域外減衰特性の優れた弾性表面波装置およびこれを備えた通信装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、小形化,無調整化を図ることができる弾性表面波(Surface Acoustic Wave)フィルタが各種通信装置に使用されるようになり、通信装置の高周波化,高機能化への進展にともない、通過帯域外減衰特性の優れた弾性表面波フィルタを求める要求が益々増大してきている。例えば、900MHz帯の携帯電話用フィルタとしては、通過帯域近傍および数GHzの高周波数帯における通過帯域外減衰量を増やした、通過帯域外減衰特性の優れた弾性表面波フィルタが望まれている。
【0003】
このような優れた通過帯域外減衰特性を実現するために、例えば、圧電基板上に3つのIDT(Inter Digital Transducer)電極(励振電極)を設け、縦1次モードと縦3次モードとを利用した2重モード弾性表面波共振器フィルタが提案されている。
【0004】
図13に従来の共振器型弾性表面波フィルタの電極構造の模式的な平面図を示す。圧電基板上に配設された複数の電極指を有するIDT電極204は、互いに対向させ噛み合わせた一対の櫛歯状電極からなり、この一対の櫛歯状電極に電界を印加し弾性表面波を生じさせるものである。IDT電極204の一方の櫛歯状電極に接続された入力端子215から電気信号を入力することにより、励振された弾性表面波がIDT電極204の両側に配置されたIDT電極203,205に伝搬される。また、IDT電極203,205のそれぞれを構成する一方の櫛歯状電極からIDT電極206,209を通じて出力端子216,217へ電気信号が出力される。なお、図中210,211,212,213はそれぞれ反射器電極である。このように、電極パターンを2段縦続接続させることにより、1段目と2段目との定在波の相互干渉により、通過帯域外減衰量を増大させ、通過帯域外減衰特性を向上させることができる。すなわち、同様の特性をもつ弾性表面波フィルタを2段縦続接続の構成とすることで、1段目で減衰された信号が2段目でさらに減衰され,通過帯域外減衰量を約2倍にすることができる。
【0005】
ここで、IDT電極204に接続された入力端子215に電気信号を入力することにより、弾性表面波を励振させ、この弾性表面波がIDT電極204の両側に位置するIDT電極203,205に伝搬され、IDT電極206,209を通じて、IDT電極206,209に挟まれたIDT電極207,208に伝搬され、IDT電極207,208に接続された出力端子216,217から電気信号が出力される。また、両端に位置する反射器電極210,211,212,213により弾性表面波が反射され、両端の反射器電極210,211間および212,213間で定在波となる。
【0006】
また、優れた通過帯域外減衰特性を実現するとともに挿入損失を少なくするためには、図13に示すように弾性表面波フィルタの段数は2段のものが望まれる。1段の場合には挿入損失は少ないが通過帯域外減衰量が減少し、3段以上の場合には逆に、通過帯域外減衰量は増加するが挿入損失が増加するからである。
【0007】
このような弾性表面波フィルタが形成された弾性表面波素子をパッケージにフェースアップで実装する場合には、弾性表面波フィルタとパッケージの接地電極とをボンディングワイヤで電気的に接続することで弾性表面波フィルタと接地電極との間に大きなインダクタンスを付加することにより、弾性表面波フィルタの通過帯域外のフロアレベルの上昇を抑え、通過帯域外減衰特性をさらに向上させることができる。
【0008】
一方、弾性表面波装置をさらに小型化するために、弾性表面波素子をフェースダウンで導体バンプを用いて実装する、いわゆるフリップチップ実装を用いたCSP(Chip Scale Package)型の弾性表面波装置の開発も積極的に行なわれている。
【0009】
図14に従来のCSP型の弾性表面波装置の模式的な断面図を示す。
【0010】
図14において、51は圧電基板,52は圧電基板51の下面に形成された接地パッド,53は圧電基板51の下面に形成されたIDT電極,54はパッケージ57に形成された接地電極,55は接地パッド52と接地電極54とを接続するバンプ,56はパッケージ57の凹部を上から覆い、パッケージ57内部の弾性表面波素子を気密封止するための蓋体,57はパッケージ,58はパッケージ57と蓋体56とを接続する接続層である。
【0011】
このようなCSP型の弾性表面波装置においても、弾性表面波素子をパッケージ57に実装する際に、信号入力側のIDT電極53に接続する、パッケージ57に形成された接地電極(信号入力側接地電極)と、信号出力側のIDT電極53に接続する、パッケージ57に形成された接地電極(信号出力側接地電極)とを分離するとともに、信号入力側接地電極と信号出力側接地電極とが、信号入力側接地電極の電位と信号出力側接地電極の電位との間で干渉を起こすことを抑制する程度のインピーダンスを介して接続されていることから、両者の間に発生する僅かな電位差に起因する干渉を抑制することにより通過帯域外減衰特性を向上させることが提案されている(例えば、特許文献1を参照。)。
【特許文献1】特許第3487414号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
以上のように弾性表面波装置については、CSP型によって小型化を図りつつ通過帯域外減衰特性も向上させようと開発が進められているが、その一方で、通信機器の小型化のためにCSP型の弾性表面波装置を作製しようとすると、従来のフェースアップ型の弾性表面波装置で用いられていたボンディングワイヤを用いることができないため、弾性表面波フィルタと接地電極との間に大きなインダクタンスを付加できず、弾性表面波フィルタの通過帯域外のフロアレベルが上昇し、通過帯域外減衰量が不十分になるという問題点がある。
【0013】
また、図14に示す弾性表面波装置はIDT電極53の酸化等を防ぐために、パッケージ57内に弾性表面波素子を実装して収納し、パッケージ57の上面を蓋体56で気密封止した構成をとるため、さらなる小型化・低背化には不利な構成であった。
【0014】
本発明は上記事情に鑑みて提案されたものであり、その目的は、通過帯域外減衰特性の優れ、小型化・低背化が可能なフェースダウン実装構造の弾性表面波装置およびそれを用いた通信装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の弾性表面波装置は、1)下面に第1励振電極と第2励振電極とこれら第1励振電極および第2励振電極を取り囲む環状接地電極とが形成された圧電基板が、上面に前記環状接地電極に対応した環状接地導体が形成され、前記環状接地導体の一部に対向する、内部接地導体層および下面接地導体層の少なくとも一方が形成された基体に、前記圧電基板の前記下面と前記基体の前記上面とを対面させて前記環状接地電極が前記環状接地導体に接合されて実装されているとともに、前記第1励振電極の接地端子は前記環状接地電極を介して、前記環状接地導体と前記内部接地導体層および前記下面接地導体層の少なくとも一方とを含む第1接地用導体に接続されており、前記第2励振電極の接地端子は前記第1接地用導体とは直流的に分離された前記内部接地導体層および前記下面接地導体層の少なくとも一方を含む第2接地用導体に接続されていることを特徴とするものである。
【0016】
また、本発明の弾性表面波装置は、2)上記1)の構成において、前記第1接地用導体は、前記環状接地導体が貫通導体を介して前記内部接地導体層に接続され、この内部接地導体層が貫通導体を介して前記下面接地導体層に接続されているとともに、前記第2接地用導体は、前記基体の上面に形成された接地パッドが貫通導体を介して前記内部接地導体層に接続され、この内部接地導体層が貫通導体を介して前記下面接地導体層に接続されていることを特徴とするものである。
【0017】
また、本発明の弾性表面波装置は、3)上記1)または上記2)の構成において、前記基体は平面視で4つ以上の角部を有し、これら角部のうち互いに隣り合わない2つの角部の一方に前記第1接地用導体の前記下面接地導体層が、他方に前記第2接地用導体の前記下面接地導体層がそれぞれ設けられていることを特徴とするものである。
【0018】
また、本発明の弾性表面波装置は、)上記1)乃至上記3)のいずれかの構成において、前記第1励振電極の信号端子および前記第2励振電極の信号端子がそれぞれ前記基体に形成された第1信号用導体および第2信号用導体を介して前記基体の下面に導出されており、前記内部接地用導体層が前記第1信号用導体と前記第2信号用導体との間に配置されていることを特徴とするものである。
【0019】
また、本発明の通信装置は、5)上記1)乃至上記4)いずれかの構成の本発明の弾性表面波装置をフィルタ手段として用いた、受信回路および送信回路の少なくとも一方を備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明の弾性表面波装置によれば、1)下面に第1励振電極と第2励振電極とこれら第1励振電極および第2励振電極を取り囲む環状接地電極とが形成された圧電基板が、上面に環状接地電極に対応した環状接地導体が形成され、環状接地導体の一部に対向する、内部接地導体層および下面接地導体層の少なくとも一方が形成された基体に、圧電基板の下面と基体の上面とを対面させて環状接地電極が環状接地導体に接合されて実装されているとともに、第1励振電極の接地端子は環状接地電極を介して、環状接地導体と内部接地導体層および下面接地導体層の少なくとも一方とを含む第1接地用導体に接続されており、第2励振電極の接地端子は第1接地用導体とは直流的に分離された内部接地導体層および下面接地導体層の少なくとも一方を含む第2接地用導体に接続されていることから、第1接地用導体と第2接地用導体との電磁的結合を抑制することができるため、第1励振電極に入力された信号が第1接地用導体および第2接地用導体を介して第2例振電極に伝搬することを防ぐことができ、信号漏れの少ないものとなる。
【0021】
また、第1接地用導体と第2接地用導体とが直流的に分離されているため、第1接地用導体と第2接地用導体とが直流的に並列に接続されるときに比べ、第1接地用導体および第2接地用導体それぞれの経路のインダクタンスが大きくなり、その結果、通過帯域外減衰特性を向上させることが可能となる。
【0022】
また、第1接地用導体が環状接地電極と内部接地電極層および下面接地導体層の少なくとも一方を、第2接地用導体が内部接地電極層および下面接地導体層の少なくとも一方を含むことから、第1励振電極と第1接地用導体との間および第2励振電極と第2接地用導体との間に、個々の励振電極が形成する容量と直列に大きなインダクタンスを加えることができ、通過帯域外の所望の位置に減衰極を形成することができるのでフロアレベルの上昇を抑制することができるため、通過帯域外減衰特性を向上させることができるものとなる。
【0023】
なお、第1励振電極と第1接地用導体との間および第2励振電極と第2接地用導体との間のインダクタンスが小さい場合には、フィルタとして通過帯域外減衰特性を向上させる必要のある周波数領域よりはるかに高周波数側に減衰極が位置することとなり、減衰極はフィルタ特性を向上させるために寄与できないものとなる。
【0024】
ここで、通過帯域外における減衰極の位置は各励振電極の容量と各接地用導体のインダクタンスとで決まる共振周波数により制御され、これにより弾性表面波装置において所望の周波数特性を得ることができるが、本発明の1)の構成によれば、環状接地導体の一部に内部接地導体層および下面接地導体層が対向し、かつ第1接地用導体は内部接地電極層および下面接地導体層の少なくとも一方を含むことから、第1励振電極の容量と第1接地用導体のインダクタンスとに加え、環状接地導体と対向する内部接地電極層および下面接地導体層の少なくとも一方との間で発生する容量により、減衰極の位置をさらに制御することができ、その結果、通過帯域外における減衰極の位置を制御できる周波数範囲を低周波数側にさらに広げ通過帯域に近付けることができるので、所望のフィルタ特性を得ることができる。
【0025】
さらに、圧電基板と基体とを環状接地電極および環状接地導体により接合すると同時に各励振電極を気密封止することができるので、従来は気密封止のために必要だったパッケージが不要となり、弾性表面波装置の大幅な小型化・低背化が可能となる。
【0026】
また、本発明の弾性表面波装置によれば、2)上記1)の構成において、第1接地用導体は、環状接地導体が貫通導体を介して内部接地導体層に接続され、この内部接地導体層が貫通導体を介して下面接地導体層に接続されているとともに、第2接地用導体は、基体の上面に形成された接地パッドが貫通導体を介して内部接地導体層に接続され、この内部接地導体層が貫通導体を介して下面接地導体層に接続されているときには、環状接地導体,貫通導体,内部接地導体層および下面接地導体層により圧電基板上の各励振電極とこれに対応する基体の下面接地導体層との間にさらに大きなインダクタンスおよび容量を付加することが可能となり、その結果、通過帯域外に減衰極を形成させることができる周波数範囲を低周波数側に広げ通過帯域に近付けることができるため、所望の周波数範囲における通過帯域外減衰特性をさらに向上させることができる。
【0027】
また、本発明の弾性表面波装置によれば、3)上記1)または上記2)の構成において、基体は平面視で4つ以上の角部を有し、これら角部のうち互いに隣り合わない2つの角部の一方に第1接地用導体の下面接地導体層が、他方に第2接地用導体の下面接地導体層がそれぞれ設けられているときには、弾性表面波装置の形状を大きくすることなく第1励振電極の信号端子と第2励振電極の信号端子との間の距離を長くすることができるため各信号端子間における干渉を極力低減することができ、小型で信号端子間のアイソレーションが良好なものとすることができる。
【0028】
また、本発明の弾性表面波装置によれば、4)上記1)乃至上記3)のいずれかの構成において、第1励振電極の信号端子および第2励振電極の信号端子がそれぞれ基体に形成された第1信号用導体および第2信号用導体を介して基体の下面に導出されており、内部接地用導体層が第1信号用端子と第2信号用端子との間に配置されているときには、弾性表面波装置の形状を大きくすることなく第1励振電極の信号端子と第2励振電極の信号端子との間の電磁的結合を低減することができるため各信号端子間における干渉を極力低減することができ、小型で信号端子間のアイソレーションが良好なものとすることができる。
【0029】
そして、本発明の通信装置によれば、5)上記1)乃至上記4)のいずれかの本発明の弾性表面波装置をフィルタ手段として用いた、受信回路および送信回路の少なくとも一方を備えたことから、小型化・低背化が可能で、通信装置としての感度が格段に良好なものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下に説明する図面において同様の箇所には同一符号を付すものとする。また、各電極の大きさや電極間の距離等、電極指の本数や間隔等については、説明のために模式的に図示したものである。
【0031】
図1は本発明の弾性表面波装置における弾性表面波素子の一例を示す平面図である。
【0032】
弾性表面波素子は、圧電基板17の下面に第1励振電極3と第2励振電極4とこれら第1励振電極3および第2励振電極4を取り囲む環状接地電極6とが形成されており、第1励振電極3および第2励振電極4は櫛歯状の電極対からなり、第1励振電極3の一方の電極および第2励振電極4の一方の電極にそれぞれ信号端子1a,1bが接続され、第1励振電極3の他方の電極に接地端子としての機能を持たせた環状接地電極6が、第2励振電極4の他方の電極に接地端子2がそれぞれ接続されている。なお、第1励振電極3と第2励振電極4とは2重モード共振器型の弾性表面波フィルタとなるように接続されている。ここで、各励振電極3,4の電極指の本数は数本〜数100本にも及ぶが、図面においてはそれら形状を簡略化して図示している。また、信号端子1および接地端子2の形成位置は図中の配置に限定されることなく、圧電基板17の下面の環状接地電極6に取り囲まれた領域内において任意の位置に配置することができる。さらに、図1の弾性表面波素子の電極構造は、図示された態様に限定されるものではなく、弾性表面波共振子である励振電極をさらに多段に構成することもできる。
【0033】
次に、図2(a)〜(d)にそれぞれ本発明の弾性表面波装置における基体5の例を示す透視状態の斜視図を、図3に図2(d)に示す基体5の透視状態の平面図を、図4(a)〜(f)にそれぞれ図2(d)に示す基体5を構成する各層の平面図をそれぞれ示す。なお、図4(f)において破線部は下面接地導体層11が露出している部位である。
【0034】
基体5は、上面に環状接地電極6に対応した環状接地導体7と、第1励振電極3および第2励振電極4の信号端子1a,1bに対応した第1信号用パッド15および第2信号用パッド16と、接地端子2に対応した接地パッド8とが形成されており、環状接地導体7の一部に対向する、内部接地導体層10および下面接地導体層11の少なくとも一方が形成されている。また、基体5の下面には、第1信号用パッド15に貫通導体9を介して接続された信号用パターン12aと、第2信号用パッド16に貫通導体9を介して接続された信号用パターン12bとが形成されている。なお、下面接地導体層11と信号用パターン12とは直流的に分離されている。
【0035】
ここで、第1励振電極3の信号端子1aに接続され、基体5の上面から下面に導出される経路を第1信号用導体といい、図2〜図4においては、第1信号用パッド15が貫通導体9を介して信号用パターン12aに接続された構成となっている。同様に、第2励振電極4の信号端子1bに接続され、基体5の上面から下面に導出される経路を第2信号用導体といい、図2〜図4においては、第2信号用パッド16が貫通導体9を介して信号用パターン12bに接続された構成となっている。
【0036】
また、基体5において、第1励振電極3を接地するための第1接地用導体と第2励振電極4を接地するための第2接地用導体とを設ける。第1接地用導体は、環状接地導体7と内部接地導体層10および下面接地導体層11の少なくとも一方とを含む構成とし、第2接地用導体は、第1接地用導体とは直流的に分離された内部接地導体層10および下面接地導体層11の少なくとも一方を含む構成とする。
【0037】
第1接地用導体および第2接地用導体の構成は、例えば、図2(a)に示すように、第1接地用導体は環状接地導体7が貫通導体9を介して下面接地導体層11に接続された構成とし、第2接地用導体は接地パッド8が貫通導体9を介して第1接地用導体の下面接地導体層11と直流的に分離した下面接地導体層11に接続された構成としてもよい。また、図2(b)に示すように、第1接地用導体は環状接地導体7が貫通導体9を介して内部接地導体層10に接続され、この内部接地導体層10が貫通導体9を介して下面接地導体層11に接続された構成とし、第2接地用導体は接地パッド8が貫通導体9を介して第1接地用導体の内部接地導体層10と直流的に分離された内部接地導体層10に接続され、この内部接地導体層10が貫通導体9を介して第1接地用導体の下面接地導体層11と直流的に分離された下面接地導体層11に接続された構成としてもよい。
【0038】
また、図2(a)においては、基体5を平面視した際の互いに隣り合う2つの角部に第1接地用導体の下面接地導体層11と第2接地用導体の下面接地導体層11とが配置されているが、図2(c)に示すように、基体3を平面視した際の互いに隣り合わない2つの角部に第1接地用導体の下面接地導体層11と第2接地用導体の下面接地導体層11とが配置されていてもよい。また、図2(d)に示すように、図2(b)の構成において、第1励振電極3の信号端子1aおよび第2励振電極4の信号端子1bがそれぞれ基体5に形成された第1信号用導体および第2信号用導体を介して基体5の下面に導出されており、内部接地用導体層10が第1信号用導体と第2信号用導体との間に配置された構成、すなわち、基体5を平面視した際に内部接地導体層10(この例においては内部接地導体層10および下面接地導体層11)が第1信号用導体形成位置と第2信号用導体形成位置との間に配置された構成としてもよい。
【0039】
また、本発明の弾性表面波装置の実施の形態の一例の断面図を図5に示す。第1励振電極3の信号端子1aは第1信号用パッド15に、第2励振電極4の信号端子1bは第2信号用パッド16に、第2励振電極4の接地端子2は接地パッド8に、環状接地電極6は環状接地導体7にそれぞれ接合層20を介して接続されている。
【0040】
第1信号用パッド15,第2信号用パッド16,接地パッド8,環状接地導体7の上には、これらに対応する弾性表面波素子の信号端子1,接地端子2および環状接地電極6と接続するために、接合層20が形成される。
【0041】
上記のような弾性表面波素子が基体5に、圧電基板17の下面と基体5の上面とを対面させて環状接地電極6が接合層20を介して環状接地導体7に接合されることにより実装され、基体5上の弾性表面波素子を覆うようにポッティング法または印刷法により封止樹脂21が形成されて本発明の弾性表面波装置が作製される。このように、第1励振電極3および第2励振電極4を、環状接地電極6および環状接地導体7を接合層20を介して接合することにより同時に気密封止することができるので、従来は気密封止のために必要だったパッケージが不要となり、大幅に弾性表面波装置の小型化・低背化が可能となる。
【0042】
本発明の弾性表面波装置によれば、このような構成により、第1接地用導体と第2接地用導体との電磁的結合を抑制することができるため、第1励振電極3に入力された信号が第1接地用導体および第2接地用導体を介して第2例振電極4に伝搬することを防ぐことができ、信号漏れの少ないものとなる。
【0043】
また、第1接地用導体と第2接地用導体とが直流的に分離されているため、第1接地用導体と第2接地用導体とが直流的に並列に接続されるときに比べ、第1接地用導体および第2接地用導体それぞれの経路のインダクタンスが大きくなり、その結果、通過帯域外減衰特性を向上させることが可能となる。
【0044】
また、第1接地用導体が環状接地電極6と内部接地電極層10および下面接地導体層11の少なくとも一方とを、第2接地用導体が内部接地電極層10および下面接地導体層11の少なくとも一方を含むことより、第1励振電極3と第1接地用導体との間および第2励振電極4と第2接地用導体との間に大きなインダクタンスを加えることができ、通過帯域外の所望の位置に減衰極を形成することができるのでフロアレベルの上昇を抑制することができるため、通過帯域外減衰特性を向上させることができるものとなる。
【0045】
ここで、通過帯域外における減衰極の位置は各励振電極3,4の容量と各接地用導体のインダクタンスとで決まる共振周波数により制御され、これにより弾性表面波装置において所望の周波数特性を得ることができるが、図1〜図5に示す構成によれば、環状接地導体7の一部に内部接地導体層10および下面接地導体層11が対向し、かつ第1接地用導体は内部接地電極層10および下面接地導体層11の少なくとも一方を含むことから、第1励振電極3の容量と第1接地用導体のインダクタンスとに加え、環状接地導体7と対向する内部接地電極層10および下面接地導体層11の少なくとも一方との間で発生する容量により減衰極の位置をさらに制御することができ、その結果、通過帯域外における減衰極の位置を制御できる周波数範囲を低周波数側にさらに広げて通過帯域に近付けることができるので、所望のフィルタ特性を得ることができる。
【0046】
また、第1励振電極3の接地端子の機能を環状接地電極6に持たせることにより、第1励振電極3の接地端子を省くことができるので、接地端子を別に形成する場合に接地端子と環状接地電極6との間に形成されていた間隙の分だけ小型化が可能となる。
【0047】
また、特に図2(b),(d)に示すように、基体5において、第1接地用導体は、環状接地導体7が貫通導体9を介して内部接地導体層10に接続され、内部接地導体層10が貫通導体9を介して下面接地導体層11に接続されているとともに、第2接地用導体は、基体5の上面に形成された接地パッド8が貫通導体9を介して内部接地導体層10に接続され、内部接地導体層10が貫通導体9を介して下面接地導体層11に接続されているときには、図2(a)に示す基体5に比べ、環状接地電極6,貫通導体9,内部接地導体層10および下面接地導体層11により圧電基板17上の各励振電極3,4とこれに対応する基体5の下面接地導体層11との間に充分に大きなインダクタンスおよび容量を付加することが可能となり、通過帯域外に減衰極を形成させることができる周波数範囲を低周波数側にさらに広げて通過帯域に近付けることができるため、所望の周波数範囲における通過帯域外減衰特性をさらに向上させることができるため好ましい。
【0048】
また、図2(b),(c),(d)に示すように、基体5は平面視で4つ以上の角部を有し、これら角部のうち互いに隣り合わない2つの角部の一方に第1接地用導体の下面接地導体層11が、他方に第2接地用導体の下面接地導体層11がそれぞれ設けられているときには、図2(a)に示す基体5に比べ、弾性表面波装置の形状を大きくすることなく第1励振電極3の信号端子1aと第2励振電極4の信号端子1bとの間の距離を長くすることができるので各信号端子1a,1b間における干渉を極力低減することができ、小型で信号端子間のアイソレーションが良好なものとすることができるため好ましい。
【0049】
また、図2(d)に示すように、第1励振電極3の信号端子1aおよび第2励振電極4の信号端子1bがそれぞれ基体5に形成された第1信号用導体および第2信号用導体を介して基体5の下面に導出されており、内部接地用導体層10および下面接地導体層11が第1信号用導体と第2信号用導体との間に配置されていることから、弾性表面波装置の形状を大きくすることなく第1励振電極3の信号端子1aと第2励振電極4の信号端子1bとの間の電磁的結合を低減することができるので各信号端子1a,1b間における干渉を極力低減することができ、小型で信号端子間のアイソレーションが良好なものとすることができる。
【0050】
ここで、図6に本発明の弾性表面波装置の弾性表面波素子および基体5の簡略化された回路図を示す。図6に示すように、励振電極3,4の容量31,32およびこれらに直列に接続された励振電極3,4と下面接地導体層11との間のインダクタンス34,35で共振周波数を制御することができ、減衰極を制御して所望の周波数特性を得ることができる。さらに、環状接地導体7と内部接地導体層10および下面接地導体層11の少なくとも一方とが対向した構成となっており、さらに内部接地導体層10と下面接地導体層11とが対向した構成となっている場合もあるので、これらの導体7,10,11間に容量成分が発生する。この容量成分の内、第1接地用導体および第2接地用導体間に形成される容量成分33と、インダクタンス34,35成分と、第1接地用導体および第2接地用導体内の導体間で発生する容量成分とを制御することにより、減衰極の位置をさらに制御でき、通過帯域外減衰特性を大きく向上させることができる。ここで、弾性表面波装置の小型化が進んでいるためインダクタンス34,35の大きさには限界がある。そこで、環状接地導体7と対向した内部接地導体層10および下面接地導体層11とを設けることで、環状接地導体7,内部接地導体層10,下面接地導体層11間で容量成分を発生させることにより、より広い周波数範囲にわたり所望の位置に減衰極を設けることができるものとなる。これらの容量成分の大きさは対向する各導体7,10,11の面積および距離により制御できる。なお、各導体7,10,11を対向させて配置することで、第1接地用導体と第2接地用導体との間が容量成分33で接続されることとなるが、導体によりインダクタンスを介して接続されているわけではないので、信号入力側の信号端子1aから第1接地用導体,第2接地用導体を介して出力側の信号端子1bへと信号が漏れることは殆どない。
【0051】
また、弾性表面波フィルタ用の圧電基板17としては、36°±3°YカットX伝搬タンタル酸リチウム単結晶、42°±3°YカットX伝搬タンタル酸リチウム単結晶、64°±3°YカットX伝搬ニオブ酸リチウム単結晶、41°±3°YカットX伝搬リチウム単結晶、45°±3°XカットZ伝搬四ホウ酸リチウム単結晶は、電気機械結合係数が大きく、かつ、周波数温度係数が小さいため好ましい。また、これらの圧電単結晶は焦電性を有するが、酸素欠陥やFe等の固溶により焦電性を著しく減少させた基板であれば、デバイスの信頼性上良好である。圧電基板17の厚みは0.1mm〜0.5mm程度がよく、0.1mm未満では圧電基板がもろくなり、0.5mm超では材料コストと部品寸法が大きくなり使用できない。
【0052】
また、励振電極3,4および環状接地電極6は、AlもしくはAl合金(Al−Cu系、Al−Ti系)からなり、蒸着法、スパッタ法、またはCVD法などの薄膜形成法により形成する。電極厚みは0.1μm〜0.5μm程度とすることが弾性表面波フィルタとしての特性を得る上で好適である。
【0053】
さらに、圧電基板17上の第1励振電極3および第2励振電極4等の弾性表面波伝搬部にSiO2,SiNx,Si,Al2O3からなる保護膜を形成することにより、導電性異物が付着することによる短絡を防ぎ、周波数を調整することもできる。これらの保護膜は第1励振電極3および第2励振電極4を形成した後に、蒸着法やスパッタリング法等の通常の薄膜を形成する方法にて形成すればよい。
【0054】
基体5は、絶縁性の材料からなり、複数の絶縁層を積層したものを用いる。これら絶縁層には例えばセラミックスやガラスセラミックスが用いられ、セラミックス等の金属酸化物と有機バインダとを有機溶媒等で均質混練したスラリーをシート状に成型したグリーンシートを作製し、所望の導体パターン7,8,10,11,12,15,16や貫通導体9のパターン(ビアホール)を形成した後、これらグリーンシートを積層し圧着することにより一体形成して焼成することによって作製される。
【0055】
環状接地導体7,接地パッド8,第1信号用パッド15,第2信号用パッド16,内部接地導体層10および下面接地導体層11は、例えばAu,Cu,Ag,Ag−Pd,W等の金属導体をスクリーン印刷等の成膜法とエッチングとの組み合わせにより形成したり、下層から順にW,Ni,Auを積層した導体層を電解めっき法または無電解めっき法によって所望のパターンに形成する。
【0056】
貫通導体9は、例えばAg等の導体からなり、グリーンシートの所望の位置に貫通孔(ビアホール)をマイクロドリル,パンチング,レーザ加工,金型打ち抜き加工,フォトリソグラフィ法等で形成し、貫通孔に例えばAg系の導体ペーストを充填して形成すればよい。
【0057】
接合層20は、半田ペースト,Au−Snペースト等をスクリーン印刷等の印刷法により形成したり、ディスペンサーで塗布したりすることにより形成される。接合層20は、ここでは基体5側に形成される場合を示したが、弾性表面波素子側に形成してもかまわない。
【0058】
また、環状接地電極6と環状接地導体7とで気密封止される空間(以下、密閉空間と言う)には、低湿度の空気や窒素ガス,アルゴンガス等の不活性ガス等を封入し密閉するようにしてもよい。これによれば、第1励振電極3および第2励振電極4の酸化等による劣化を抑制でき好ましい。
【0059】
封止樹脂21は、密閉空間への湿度の高い空気の侵入を防ぐと共に、弾性表面波装置の機械的強度を高めるために設けられ、例えばエポキシ樹脂やポリイミド樹脂等の熱硬化性樹脂,ポリフェニレンサルファイド樹脂等の熱可塑性樹脂,紫外線硬化樹脂または低融点ガラス等を用いることができ、これらをポッティング法または印刷法により塗布した後硬化処理して形成すればよい。
【0060】
また、本発明の弾性表面波装置を通信装置に適用することができる。すなわち、少なくとも受信回路または送信回路の一方を備え、これらの回路に含まれるバンドパスフィルタとして本発明の弾性表面波装置を用いる。例えば、送信回路から出力された送信信号をミキサでキャリア周波数にのせて、不要信号をバンドパスフィルタで減衰させ、その後、パワーアンプで送信信号を増幅して、デュプレクサを通ってアンテナより送信することができる送信回路を備えた通信装置や、受信信号をアンテナで受信し、デュプレクサを通った受信信号をローノイズアンプで増幅し、その後、バンドパスフィルタで不要信号を減衰して、ミキサでキャリア周波数から信号を分離し、この信号を取り出す受信回路へ伝送するような受信回路を備えた通信装置に適用可能であり、本発明の弾性表面波装置を採用すれば、感度が向上した優れた通信装置を提供できる。
【0061】
以上により、本発明の通信装置によれば、優れた弾性表面波装置を有する受信回路や送信回路を備え、それらの感度が格段に良好な優れた通信機等の通信装置を提供できる。
【0062】
なお、上述した実施の形態の説明では、弾性表面波装置として弾性表面波フィルタを例にとり説明したが、本発明の弾性表面波装置は弾性表面波共振器にも好適に適用可能である。また、その他の構成においても、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更することは可能である。
【0063】
例えば、環状接地電極6に囲まれた領域に、異なる通過帯域を持つIDT電極を二組以上設けてもよい。
【実施例】
【0064】
次に、本発明をより具体化した実施例について説明する。
【0065】
<実施例1>
図5に示す弾性表面波装置を具体的に試作した実施例について説明する。
【0066】
まず、図1に示す弾性表面波素子を形成した。すなわち、38.7°YカットのX方向伝搬とするLiTaO3単結晶の圧電基板17上に、Al(99質量%)−Cu(1質量%)により、信号端子1a,1b,接地端子2,第1励振電極3,第2励振電極4および環状接地電極6の微細パターンを形成した。ここで、第1励振電極3を構成する電極対の一方の電極が第1励振電極3と第2励振電極4との間に形成された信号端子1aに接続され、他方の電極が接地端子としての機能を持つ環状接地電極6に接続されている。また、第2励振電極4を構成する電極対の一方の電極が第1励振電極3と第2励振電極4との間に形成された接地端子2に接続され、他方の電極が第2励振電極4と環状接地電極6との間に形成された信号端子1bに接続されている。
【0067】
パターン作製には、スパッタリング装置、縮小投影露光機(ステッパー)、およびRIE(Reactive Ion Etching)装置によりフォトリソグラフィを行なった。
【0068】
まず、圧電基板17をアセトン・IPA(イソプロピルアルコール)等によって超音波洗浄し、有機成分を落とした。次に、クリーンオーブンによって充分に圧電基板17を乾燥させた後、各電極3,4,6および各端子1a,1b,2の成膜を行なった。各電極3,4,6および各端子1a,1b,2の成膜にはスパッタリング装置を使用し、Al(99質量%)−Cu(1質量%)合金から成る材料を用いて約0.30μmの厚みに形成した。
【0069】
次に、フォトレジストを約0.5μmの厚みにスピンコートにて形成し、縮小投影露光装置(ステッパー)により、所望形状にパターニングを行ない、現像装置にて不要部分のフォトレジストをアルカリ現像液で溶解させ、所望パターンを表出した後、RIE装置により電極膜のエッチングを行ない、弾性表面波フィルタを構成する弾性表面波素子の、各電極3,4,)および各端子1a,1b,2のパターンを得た。
【0070】
この後、各電極3,4,6および各端子1a,1b,2が形成された領域上に保護膜を作製した。すなわち、CVD(Chemical Vapor Deposition)装置により、各電極3,4,6および各端子1a,1b,2および圧電基板17上にSiO2を約0.02μmの厚みに形成した。その後、フォトリソグラフィによってフォトレジストのパターニングを行ない、RIE装置等で各端子1a,1b,2および環状接地電極6の形成位置においてフリップチップ用窓開け部のエッチングを行なった。その後、スパッタリング装置を使用し、Alからなる層を約1.0μmの厚みに成膜した。その後、各端子1a,1b,2および環状接地電極6の形成位置を除く箇所のAlとフォトレジストとをリフトオフ法により同時に除去し、各端子1a,1b,2および環状接地電極6の上にフリップチップ用のパッドを完成した。
【0071】
次に、上記パッドの上に半田からなるフリップチップ用の接合層20を、スクリーン印刷装置を使用し形成した。各端子1a,1b,2上における接合層20の直径は約80μm、その高さは約30μmであった。また、環状接地電極6上の接合層20の高さは約30μmであった。
【0072】
次に、圧電基板17をダイシング線に沿ってダイシング加工を施し、個々の弾性表面波素子に分割した。
【0073】
次に、図2(d)に示す基体5を作製した。すなわち、LTCC(Low Temperature Co-fired Ceramics:低温同時焼成セラミックス)を作製するための金属酸化物と有機バインダとを有機溶媒等で均質混練したスラリーをシート状に成型したグリーンシートを作製し、所望の位置に環状接地導体7,接地パッド8,第1信号用パッド15,第2信号用パッド16,内部接地導体層10,下面接地導体層11および信号用パターン12や貫通導体9のパターンを形成した後、これらグリーンシートを積層し圧着することにより一体形成して焼成することによって作製された。なお、基体5のサイズは2.5×2.0mm角とした。
【0074】
ここで、環状接地導体7,接地パッド8,第1信号用パッド15,第2信号用パッド16,内部接地導体層10,下面接地導体層11および信号用パターン12は、Agを用いて、弾性表面波素子の信号端子1,接地端子2および環状接地電極6に対応するように約1μmの厚みにスクリーン印刷法により形成した。貫通導体9は、金型打ち抜き加工によりの直径100μmとなるように形成したにAg系導体ペーストを充填して形成した。
【0075】
次に図5に示すように、圧電基板17の信号端子1a,1bと接地端子2と環状接地電極6との位置に基体5の第1信号用パッド15,第2信号用パッド16,接地パッド8,環状接地導体7とが対応するように、弾性表面波素子の下面と基体5の上面とを対面させて配置し、リフロー炉にて240℃で5分間、リフロー溶融させて半田から成る接合層20により両者を接合した。このとき、環状接地電極6と環状接地導体7とを接合層20を介して接合することにより、第1励振電極3および第2励振電極4とを気密封止した。この圧電基板17の上部よりエポキシ樹脂からなる封止樹脂21をポッティング法により基体5上の弾性表面波素子を覆うように塗布した後、乾燥炉で150℃にて5分間加熱して硬化させて、弾性表面波装置を作製した。
【0076】
参考例として、図7に示すような第1接地用導体と第2接地用導体とが内部接地導体層10部で接続されて共通になっているものを上記と同じ材料を用いて、同様の工程で作製した。図7は参考例の弾性表面波装置の基体5を示す透視状態の斜視図である。
【0077】
次に、実施例1,参考例における弾性表面波装置の特性測定を行なった。0dBmの信号を入力し、周波数が780MHz〜960MHz、測定ポイントが800ポイントの条件にて測定した。サンプル数は30個であり、測定機器はアジレント・テクノロジー社製マルチポート・ネットワークアナライザE5071Aを用いた。
【0078】
実施例1の弾性表面波装置および参考例の弾性表面波装置において入力信号の伝送特性の周波数依存性を示す線図を図8および図9に示した。図8,図9ともに、横軸は周波数(MHz)であり、縦軸は透過特性(dB)である。ここで、図8は通過帯域付近の伝送特性を表す挿入損失の周波数依存性を示す線図である。また、図9は、特に高周波側の通過帯域外減衰特性を対比するための通過特性を示す線図である。図8,図9において実施例1の弾性表面波装置の伝送特性を実線で、参考例1の弾性表面波装置の伝送特性を破線で表わした。図8および図9から明らかなように、実施例1の弾性表面波装置によれば通過帯域外の高周波側に減衰極ができており、参考例と比較して通過帯域外減衰特性が大きく改善されていることが分かった。これにより、第1接地用導体と第2接地用導体とが直流的に分離していることにより実施例1のフィルタ特性が良好であることが分かった。
【0079】
<実施例2>
実施例2として、図10に示すように、実施例1と比較して、貫通導体9の数が少なく、内部接地導体層10の面積の小さい弾性表面波装置を実施例1と同じ材料を用いて、同様の工程で作製した。図10は実施例2の弾性表面波装置の基体構造を示す透視状態の斜視図である。
【0080】
次に、実施例2における弾性表面波装置の特性測定を行なった。0dBmの信号を入力し、周波数が780MHz〜960MHz、測定ポイントが800ポイントの条件にて測定した。サンプル数は30個であり、測定機器はアジレント・テクノロジー社製マルチポート・ネットワークアナライザE5071Aを用いた。
【0081】
実施例1および実施例2の弾性表面波装置において入力信号の伝送特性の周波数依存性を示す線図を図11および図12に示した。図11,図12ともに、横軸は周波数(MHz)であり、縦軸は透過特性(dB)である。ここで、図11は通過帯域付近の伝送特性を表す挿入損失の周波数依存性を示す線図である。また、図12は、特に高周波側の通過帯域外減衰特性を対比するための通過特性を示す線図である。図11,図12において実施例1の弾性表面波装置の伝送特性を実線で、実施例2の弾性表面波装置の伝送特性を破線で表わした。図11および図12から明らかなように、実施例2の弾性表面波装置によれば通過帯域外の高周波側に減衰極ができており、通過帯域外減衰特性が向上しているが、実施例1の弾性表面波装置は実施例2の弾性表面波装置と比較して通過帯域外減衰特性がさらに優れていることが分かった。
【0082】
これは、実施例1は実施例2に比べ、環状接地導体7と内部接地導体層10とが対向する面積および内部接地導体層10と下面接地導体層11とが対向する面積が広いので、各導体7,10,11間に大きな容量成分が発生し、第1接地用導体および第2接地用導体間にも大きな容量成分(図6に示す容量成分33)が発生し、これらに第1接地用導体および第2接地用導体のインダクタンス(図6に示すインダクタンス34,35)成分を加えた共振回路により、減衰極の位置をより通過帯域に近い低周波側に制御できるため、通過帯域外減衰特性が優れたものとなったものと推察される。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明の弾性表面波装置における弾性表面波素子の一例を示す平面図である。
【図2】(a)〜(d)は、それぞれ本発明の弾性表面波装置の基体の例を示す透視状態の斜視図である。
【図3】図2(d)に示す基体の透視状態の平面図である。
【図4】(a)〜(f)はそれぞれ図2(d)に示す基体を構成する各層の平面図である。
【図5】本発明の弾性表面波装置の実施の形態の一例を示す断面図である。
【図6】本発明の弾性表面波装置の弾性表面波素子および基体の簡略化された回路図である。
【図7】参考例の弾性表面波装置の基体構造を示す透視状態の斜視図である。
【図8】弾性表面波装置の通過帯域およびその近傍における挿入損失の周波数特性を示す線図である。
【図9】弾性表面波装置の通過帯域外減衰特性を比較するための周波数特性を示す線図である。
【図10】実施例2の弾性表面波装置の基体構造を示す透視状態の斜視図である。
【図11】弾性表面波装置の通過帯域およびその近傍における挿入損失の周波数特性を示す線図である。
【図12】弾性表面波装置の通過帯域外減衰特性を比較するための周波数特性を示す線図である。
【図13】従来の弾性表面波装置の電極構造を模式的に示す平面図である。
【図14】従来のCSP型の弾性表面波装置を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0084】
1a,1b:信号端子
2:接地端子
3:第1励振電極
4:第2励振電極
5:基体
6:環状接地電極
7:環状接地導体
8:接地パッド
9:貫通導体
10:内部接地導体層
11:下面接地導体層
12:信号用パターン
15:第1信号用パッド
16:第2信号用パッド
17:圧電基板
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下面に第1励振電極と第2励振電極とこれら第1励振電極および第2励振電極を取り囲む環状接地電極とが形成された圧電基板が、上面に前記環状接地電極に対応した環状接地導体が形成され、前記環状接地導体の一部に対向する、内部接地導体層および下面接地導体層の少なくとも一方が形成された基体に、前記圧電基板の前記下面と前記基体の前記上面とを対面させて前記環状接地電極が前記環状接地導体に接合されて実装されているとともに、前記第1励振電極の接地端子は前記環状接地電極を介して、前記環状接地導体と前記内部接地導体層および前記下面接地導体層の少なくとも一方とを含む第1接地用導体に接続されており、前記第2励振電極の接地端子は前記第1接地用導体とは直流的に分離された前記内部接地導体層および前記下面接地導体層の少なくとも一方を含む第2接地用導体に接続されていることを特徴とする弾性表面波装置。
【請求項2】
前記第1接地用導体は、前記環状接地導体が貫通導体を介して前記内部接地導体層に接続され、該内部接地導体層が貫通導体を介して前記下面接地導体層に接続されているとともに、前記第2接地用導体は、前記基体の上面に形成された接地パッドが貫通導体を介して前記内部接地導体層に接続され、該内部接地導体層が貫通導体を介して前記下面接地導体層に接続されていることを特徴とする請求項1記載の弾性表面波装置。
【請求項3】
前記基体は平面視で4つ以上の角部を有し、これら角部のうち互いに隣り合わない2つの角部の一方に前記第1接地用導体の前記下面接地導体層が、他方に前記第2接地用導体の前記下面接地導体層がそれぞれ設けられていることを特徴とする請求項1または請求項2記載の弾性表面波装置。
【請求項4】
前記第1励振電極の信号端子および前記第2励振電極の信号端子がそれぞれ前記基体に形成された第1信号用導体および第2信号用導体を介して前記基体の下面に導出されており、前記内部接地用導体層が前記第1信号用導体と前記第2信号用導体との間に配置されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の弾性表面波装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の弾性表面波装置をフィルタ手段として用いた、受信回路および送信回路の少なくとも一方を備えたことを特徴とする通信装置。
【請求項1】
下面に第1励振電極と第2励振電極とこれら第1励振電極および第2励振電極を取り囲む環状接地電極とが形成された圧電基板が、上面に前記環状接地電極に対応した環状接地導体が形成され、前記環状接地導体の一部に対向する、内部接地導体層および下面接地導体層の少なくとも一方が形成された基体に、前記圧電基板の前記下面と前記基体の前記上面とを対面させて前記環状接地電極が前記環状接地導体に接合されて実装されているとともに、前記第1励振電極の接地端子は前記環状接地電極を介して、前記環状接地導体と前記内部接地導体層および前記下面接地導体層の少なくとも一方とを含む第1接地用導体に接続されており、前記第2励振電極の接地端子は前記第1接地用導体とは直流的に分離された前記内部接地導体層および前記下面接地導体層の少なくとも一方を含む第2接地用導体に接続されていることを特徴とする弾性表面波装置。
【請求項2】
前記第1接地用導体は、前記環状接地導体が貫通導体を介して前記内部接地導体層に接続され、該内部接地導体層が貫通導体を介して前記下面接地導体層に接続されているとともに、前記第2接地用導体は、前記基体の上面に形成された接地パッドが貫通導体を介して前記内部接地導体層に接続され、該内部接地導体層が貫通導体を介して前記下面接地導体層に接続されていることを特徴とする請求項1記載の弾性表面波装置。
【請求項3】
前記基体は平面視で4つ以上の角部を有し、これら角部のうち互いに隣り合わない2つの角部の一方に前記第1接地用導体の前記下面接地導体層が、他方に前記第2接地用導体の前記下面接地導体層がそれぞれ設けられていることを特徴とする請求項1または請求項2記載の弾性表面波装置。
【請求項4】
前記第1励振電極の信号端子および前記第2励振電極の信号端子がそれぞれ前記基体に形成された第1信号用導体および第2信号用導体を介して前記基体の下面に導出されており、前記内部接地用導体層が前記第1信号用導体と前記第2信号用導体との間に配置されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の弾性表面波装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の弾性表面波装置をフィルタ手段として用いた、受信回路および送信回路の少なくとも一方を備えたことを特徴とする通信装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2006−66978(P2006−66978A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−243908(P2004−243908)
【出願日】平成16年8月24日(2004.8.24)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年8月24日(2004.8.24)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】
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