説明

弾性表面波装置及びこれを用いた分波器並びに通信装置

【課題】 肩特性が急峻で、且つ、通過帯域近傍の高周波側に減衰極を設けた弾性表面波装置を提供すること。
【解決手段】 弾性表面波装置は、ラダー型フィルタ回路を構成する第1の弾性表面波フィルタ1と、第1の弾性表面波フィルタ1の通過帯域よりも高い周波数に通過帯域を有する第2の弾性表面波フィルタ2と、を有し、第1の弾性表面波フィルタ1は、ラダー型フィルタ回路の直列腕に接続された、IDT電極を含む少なくとも1つの直列腕弾性表面波共振子7a〜7dと、ラダー型フィルタ回路の並列腕に接続された、IDT電極を含む並列腕弾性表面波共振子8a〜8cと、直列腕弾性表面波共振子7a〜7dに並列接続されているとともに第2の弾性表面波フィルタ2の通過帯域よりも高い周波数に共振周波数を有する、IDT電極を含む弾性表面波共振子15aと、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性表面波装置及びこれを用いた分波器並びに通信装置に関するものであり、より詳しくは、通過帯域の肩特性を急峻化し、かつ、通過帯域外の高周波側に減衰極を設けた弾性表面波装置及びこれを用いた分波器並びに通信装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、耐電力性能の高い電極材料や電極構造の実現により、携帯通信装置において送信信号と受信信号を分離する分波器にも弾性表面波フィルタが用いられるようになってきた。
【0003】
分波器では、近接した送信帯域と受信帯域の信号を充分に分離することが求められるため、例えば送信帯域が受信帯域よりも低い周波数の場合、送信用フィルタの高周波側の肩特性は急峻に減衰する必要がある。パワーアンプで増幅された信号を通す送信用フィルタには、通常、耐電力性に優れたラダー型フィルタの回路構成が用いられるが、ラダー型フィルタの肩特性を急峻化する技術として、ラダー型フィルタを構成する共振子に並列に容量を付加する技術がある(例えば特許文献1乃至3参照)。
【特許文献1】特開平8−065089公報
【特許文献2】特開2005−260833公報
【特許文献3】特開2001−345675公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、通信規格の変更や、通信端末の国際ローミングへの対応により、分波器の通過帯域の近傍に存在する別規格で用いられている周波数帯域を厳しく減衰させる要求が、新たに出てきた。
【0005】
本発明は、この要求に答えるべく完成されたものであり、その目的は、肩特性の急峻性が改善され、且つ、通過帯域近傍の高周波側に減衰極を設けた弾性表面波装置及びこれを用いた分波器並びに通信装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の弾性表面波装置は、ラダー型フィルタ回路を構成する第1の弾性表面波フィルタと、前記第1の弾性表面波フィルタの通過帯域よりも高い周波数に通過帯域を有する第2の弾性表面波フィルタと、を有し、前記第1の弾性表面波フィルタは、前記ラダー型フィルタ回路の直列腕に接続された、IDT電極を含む少なくとも1つの直列腕弾性表面波共振子と、前記ラダー型フィルタ回路の並列腕に接続された、IDT電極を含む並列腕弾性表面波共振子と、前記直列腕弾性表面波共振子に並列接続されているとともに前記第2の弾性表面波フィルタの通過帯域よりも高い周波数に共振周波数を有する、IDT電極を含む弾性表面波共振子とを有することを特徴とするものである。なお、「第2の弾性表面波フィルタの通過帯域よりも高い周波数に共振周波数を有する弾性表面波共振子」とは、第2の弾性表面波フィルタの通過帯域の高周波端よりも高い周波数に共振周波数を有する弾性表面波共振子、という意味である。
【0007】
また、本発明の弾性表面波装置は好ましくは、前記弾性表面波共振子のIDT電極の電極指ピッチが、前記弾性表面波共振子が並列接続された前記直列腕弾性表面波共振子のIDT電極の電極指ピッチよりも小さいことを特徴とするものである。
【0008】
また、本発明の弾性表面波装置は好ましくは、前記弾性表面波共振子のIDT電極の電極指ピッチが、前記弾性表面波共振子が並列接続された前記直列腕弾性表面波共振子のIDT電極の電極指ピッチの0.50倍乃至0.95倍であることを特徴とするものである。
【0009】
また、本発明の弾性表面波装置は好ましくは、前記第2の弾性表面波フィルタは、直列腕に接続された、IDT電極を含む直列腕弾性表面波共振子と、並列腕に接続された、IDT電極を含む並列腕弾性表面波共振子を有するラダー型フィルタ回路を構成しており、前記弾性表面波共振子のIDT電極の電極指ピッチが、前記第2の弾性表面波フィルタにおける前記直列腕弾性表面波共振子のIDT電極の電極指ピッチよりも小さいことを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明の弾性表面波装置は好ましくは、前記弾性表面波共振子のIDT電極の電極指ピッチが、前記第2の弾性表面波フィルタにおける前記直列腕弾性表面波共振子のIDT電極の電極指ピッチの0.50倍乃至0.98倍であることを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明の弾性表面波装置は好ましくは、前記弾性表面波共振子のIDT電極の(電極指幅)/(電極指ピッチ)が、前記弾性表面波共振子が並列接続された前記直列腕弾性表面波共振子のIDT電極の(電極指幅)/(電極指ピッチ)よりも大きいことを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明の弾性表面波装置は好ましくは、前記弾性表面波共振子のIDT電極の(電極指幅)/(電極指ピッチ)が、前記弾性表面波共振子が並列接続された前記直列腕弾性表面波共振子のIDT電極の(電極指幅)/(電極指ピッチ)よりも小さいことを特徴とするものである。
【0013】
本発明の分波器は、上記いずれかの本発明の弾性表面波装置を用いたことを特徴とするものである。
【0014】
本発明の通信装置は、上記いずれかの本発明の弾性表面波装置を含むデュプレクサを有し、送信信号を搬送波信号に重畳させてアンテナ送信信号とするミキサと、前記アンテナ送信信号を増幅するとともに増幅された前記アンテナ送信信号を前記デュプレクサを介してアンテナへ出力するパワーアンプとを具備することを特徴とするものである。
【0015】
本発明の通信装置は、上記いずれかの本発明の弾性表面波装置を含むデュプレクサを有し、アンテナと、該アンテナで受信され、前記デュプレクサを通ったアンテナ受信信号を増幅するローノイズアンプと、該ローノイズアンプを通過した前記アンテナ受信信号の搬送波信号から受信信号を分離するミキサとを具備することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本実施の形態の弾性表面波装置は、ラダー型フィルタ回路を構成する第1の弾性表面波フィルタの直列腕弾性表面波共振子に、IDT電極を含む弾性表面波共振子(以下、容量付加用の付加的弾性表面波共振子ともいう)が並列に接続されている。このことから、IDT電極を含む弾性表面波共振子は共振する周波数近傍以外では容量として機能するため、特許文献1等に開示されているように、通過帯域の高周波側の肩特性を急峻化することができる。肩特性をより急峻化するためには、より大きな容量を直列腕弾性表面波共振子に並列接続すれば良いが、このようにすることにより、通過帯域外の減衰量が劣化していく。この様子を図12及び図13を用いて説明する。
【0017】
図12は従来技術によるラダー型フィルタ60の回路図、図13は図12のラダー型フィルタ60の通過特性のグラフであり、図13(a)は通過帯域を拡大したグラフ、(b)は高い周波数まで表した通過特性のグラフである。
【0018】
図12では、直列腕弾性表面波共振子61a,61b,61c及び61dと、並列腕弾性表面波共振子62a,62b及び62cとによりラダー型フィルタ60を構成している。並列腕弾性表面波共振子62a〜62cは信号電位と接地電位の間に接続されるが、並列腕弾性表面波共振子62a〜62cの持つ容量と、接地電位に至る間の配線が持つインダクタンス成分により共振が起こり、これを利用すると通過帯域より高い周波数に減衰極を設けることができるのは、公知の技術である。図12の例では、並列腕弾性表面波共振子62a,62bと配線64a、また並列腕弾性表面波共振子62cと配線64bとを用いて、1.5GHz付近に減衰極を設けている。
【0019】
さて、図12において、直列腕弾性表面波共振子61bに並列に容量63を接続すると、前述のように通過帯域の肩特性を急峻化することができる。この様子を図13(a)に示す。図13において、それぞれ、実線は容量63を設けない場合、点線は2pFの容量63を設けた場合の通過特性である。容量63を設けたことにより、例えば843MHzでの減衰量が約14dB改善していることがわかる。しかし、図13(b)に示すように、容量63を設けたことにより通過帯域外での減衰量は劣化していることが分かる。つまり、通過帯域外で減衰量を確保するためには、肩特性を急峻にするために接続できる容量には限界があるということである。そこで、より大きな容量を接続してフィルタの肩特性をより急峻にしつつ、且つ、必要な周波数帯域で減衰量を確保するために、本実施の形態では容量としてIDT電極を含む弾性表面波共振子を用いた。
【0020】
新たな弾性表面波共振子が直列腕弾性表面波共振子に並列接続されると、弾性表面波共振子の反共振周波数に対応する周波数に局所的な減衰極を設けることができる。従来においても、IDT電極や、これを含む弾性表面波共振子を用いた容量を用いて肩特性を急峻化する方法は開示されているが(例えば特許文献1乃至3参照)、いずれにおいても新たに接続したIDT電極の共振特性のフィルタ特性への影響を避けるための工夫がなされており、積極的に新たに接続したIDT電極や、これを含む弾性表面波共振子の共振特性を利用する技術は開示されていなかった。
【0021】
本実施の形態では、第1の弾性表面波フィルタの通過帯域を構成する直列腕弾性表面波共振子に新たに接続した弾性表面波共振子の共振周波数を、第1の弾性表面波フィルタよりも高い周波数に通過帯域を持つ第2の弾性表面波フィルタの通過帯域よりも高くする。このようにすることによって、第1及び第2の弾性表面波フィルタが接続された際に、新たに接続した弾性表面波共振子の共振特性が第2の弾性表面波フィルタの通過特性に悪影響を及ぼさないようにすることができる。
【0022】
従って、本実施の形態の弾性表面波装置によれば、肩特性を急峻化する効果と通過帯域の高周波側近傍に減衰極を作る効果との両方を得ることができる。
【0023】
通過帯域の高周波側に減衰極を設けるには、弾性表面波共振子のIDT電極の電極指ピッチを、弾性表面波共振子が並列接続された直列腕弾性表面波共振子のIDT電極の電極指ピッチよりも小さくすれば良い。
【0024】
好ましくは、弾性表面波共振子のIDT電極の電極指ピッチが、弾性表面波共振子が並列接続された直列腕弾性表面波共振子のIDT電極の電極指ピッチの0.50倍乃至0.95倍であれば良い。この範囲内では、新たに接続した弾性表面波共振子の弾性波の励振効率が低下して反共振抵抗が小さくなることを抑えて、有用な減衰極を作ることができる。また、第1の弾性表面波フィルタの通過帯域で挿入損失が小さくなる。これは、通過帯域に新たに並列接続した弾性表面波共振子の共振周波数が近づくと、通過帯域の周波数で、新たに並列接続した弾性表面波共振子のインピーダンスが小さくなることを抑制するためである。
【0025】
また、第2の弾性表面波フィルタもラダー型フィルタの構成である場合には、第1の弾性表面波フィルタの直列腕弾性表面波共振子に並列に接続した弾性表面波共振子のIDT電極のピッチを、第2の弾性表面波フィルタの直列腕弾性表面波共振子のIDT電極の電極指ピッチよりも小さくすれば良い。
【0026】
好ましくは、弾性表面波共振子のIDT電極の電極指ピッチが、第2の弾性表面波フィルタにおける直列腕弾性表面波共振子のIDT電極の電極指ピッチの0.5倍乃至0.98倍であれば良い。この範囲内では、新たに接続した弾性表面波共振子の弾性波の励振効率が低下して反共振抵抗が小さくなることを抑えて、有用な減衰極を作ることができる。また、第2の弾性表面波フィルタの通過帯域の劣化を抑制する。
【0027】
通過帯域を構成する弾性表面波共振子以外の容量付加用の弾性表面波共振子を新たに接続すると、その面積の分、弾性表面波装置の面積が大きくなってしまう。従って、新たに接続する弾性表面波共振子はなるべく小型であるべきである。そこで、本実施の形態のように新たに接続する弾性表面波共振子のIDT電極の(電極指幅)/(電極指ピッチ)を、この弾性表面波共振子が並列接続された直列腕弾性表面波共振子のIDT電極の(電極指幅)/(電極指ピッチ)よりも大きくすると、より少ない対数及び小さい交差幅で必要な容量を実現することができる。
【0028】
また、新たに接続する容量付加用の弾性表面波共振子のIDT電極の(電極指幅)/(電極指ピッチ)が、この弾性表面波共振子が並列接続された直列腕弾性表面波共振子のIDT電極の(電極指幅)/(電極指ピッチ)よりも小さい場合には、共振抵抗及び反共振抵抗が大きくなるため、新たに設けた減衰極の減衰量をより大きく取ることができる。
【0029】
本実施の形態の分波器は、フィルタ特性における肩特性の急峻性が改善され、通過帯域近傍の帯域外減衰特性に優れたものとなり、所望の良好な電気特性を得ることができる。
【0030】
本実施の形態の通信装置は、上記いずれかの本発明の弾性表面波装置を含むデュプレクサと、送信信号を搬送波信号に重畳させてアンテナ送信信号とするミキサと、アンテナ送信信号を増幅するとともに増幅されたアンテナ送信信号をデュプレクサを介してアンテナへ出力するパワーアンプと、を具備することから、使用している通信規格の近傍にある他の通信規格との干渉が小さい優れた通話品質を実現することができる。ミキサとパワーアンプとの間に、アンテナ送信信号の不要信号を減衰させるバンドパスフィルタを設けることもできるが、バンドパスフィルタの機能をIC等に組み込むこともできる。
【0031】
本実施の形態の通信装置は、上記いずれかの本発明の弾性表面波装置を含むデュプレクサと、アンテナと、アンテナで受信され、デュプレクサを通ったアンテナ受信信号を増幅するローノイズアンプと、ローノイズアンプを通過したアンテナ受信信号の搬送波信号から受信信号を分離するミキサと、を具備することから、使用している通信規格の近傍にある他の通信規格との干渉が小さいという優れた通話品質を実現することができる。ローノイズアンプとローノイズアンプとの間に、ローノイズアンプにて増幅されたアンテナ受信信号の不要信号を減衰させるバンドパスフィルタを設けることもできるが、バンドパスフィルタの機能をIC等に組み込むこともできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本実施の形態の弾性表面波装置の例について、図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下に説明する図面において同様の箇所には同じ符号を付すものとする。また、各弾性表面波共振子の電極指の幅や電極指間の距離、電極指の本数等については、説明のために模式的に図示したものである。
【0033】
<実施の形態の例1>
本実施の形態の弾性表面波装置の例1を図1に示す。
【0034】
図1は、第1の弾性表面波フィルタ1を送信用フィルタに、第2の弾性表面波フィルタ2を受信用フィルタに用いて分波器20を構成した例である。送信回路からの送信信号は端子3から第1の弾性表面波フィルタ1に入力され、図示しないアンテナへと接続される端子4へ出力される。アンテナで受信した受信信号は端子4から第2の弾性表面波フィルタ2に入力され、端子5から受信回路へと出力される。分波器20を構成する場合、このように送信用フィルタの出力端子と受信フィルタの入力端子が共有されるので、2個のフィルタでお互いに相手のフィルタの通過帯域のインピーダンスが高く見えるようにするための整合回路6を設ける。整合回路6は分波器20の中に設けられても良いし、別途、設けても良い。
【0035】
図1の例では、第1の弾性表面波フィルタ1は、4個の直列腕弾性表面波共振子7a,7b,7c,7dと3個の並列腕弾性表面波共振子8a,8b,8cとを、ラダー型に接続した回路に容量付加用の弾性表面波共振子15aを加えることによって構成されている。また、第2の弾性表面波フィルタ2は、4個の直列腕弾性表面波共振子9a,9b,9c,9dと4個の並列腕弾性表面波共振子10a,10b,10c,10dとを、ラダー型に接続した回路によって構成されている。
【0036】
各弾性表面波共振子は図2に示すようにIDT電極11と反射器電極12よりなる。IDT電極11は電極指13とバスバー(共通電極)14からなる櫛歯状電極の2個が対向して噛み合って形成される。本実施の形態では、IDT電極11の電極指ピッチを、図2のように、電極指の電極指幅の中心から隣り合う電極指の電極指幅の中心までの距離pで定義する。また、向かい合う櫛歯状電極の電極指が重なり合う幅を交差幅wで定義する。
【0037】
そして、直列腕弾性表面波共振子7bに並列に、容量付加用の弾性表面波共振子15aが接続されている。
【0038】
直列腕弾性表面波共振子7a〜7dのうちのどれに弾性表面波共振子15aを接続するのがよいかは、通過帯域を形成する直列腕弾性表面波共振子7a〜7dの周波数設計に依存するため、必ずしも直列腕弾性表面波共振子7a〜7dのうちのどれに接続するのがよいかは特定されない。ただし、最も高いパワーがかかる直列腕弾性表面波共振子7aに小さな弾性表面波共振子15aを付加すると、直列腕弾性表面波共振子7aの発熱の影響を受ける可能性がある。従って、直列腕弾性表面波共振子7b,7c,7dに弾性表面波共振子15aを付加することが好ましい。
【0039】
この分波器20の通過特性を図3に示す。図3において、横軸は周波数、縦軸は減衰量である。また、実線の特性曲線16aは本発明の分波器20の第1の弾性表面波フィルタ1の帯域通過特性、実線の特性曲線16bは第2の弾性表面波フィルタ2の通過特性である。
【0040】
また、破線の特性曲線17aは弾性表面波共振子15aの代わりに弾性表面波共振子15aと同じ静電容量を持つ容量素子(コンデンサ素子)を用いた以外は本発明と同じ構成の分波器である比較例Aの送信用フィルタの通過特性、破線の特性曲線17bは比較例Aの受信用フィルタの帯域通過特性である。
【0041】
また、点線の特性曲線18aは弾性表面波共振子15aを設けない以外は本発明と同じ構成の分波器である比較例Bの送信用フィルタの通過特性、点線の特性曲線18bは比較例Bの受信用フィルタの通過特性である。各受信用フィルタはほぼ一致した通過特性となっている。
【0042】
図3に示したように、比較例Bの送信用フィルタの肩特性に比べて、本発明の第1の弾性表面波フィルタ1及び比較例Aでは、肩特性をより急峻に減衰させることができた。しかし、比較例Aでは、比較例Bに比べて第2の弾性表面波フィルタ2の通過帯域より高周波で減衰量が劣化している。
【0043】
そこで、本実施の形態の弾性表面波共振子15aを容量として用い、その共振特性を利用することにより、例えば898MHzから901MHzにおける減衰量を比較例Aに比べて7.3dB改善することができる。また、925MHzにおいても、約1.7dB改善することができる。
【0044】
なお、弾性表面波共振子15aの共振周波数に相当するのが図3の極大点19a、反共振周波数に相当するのが極小点19bであり、極小点19bにより局所的な減衰極が形成されている。通常、共振周波数と反共振周波数の周波数差は、ほぼ使用する圧電基板の材料定数によって決まるが、本実施の形態や特許文献1乃至3で用いたように、並列に接続された容量により、共振周波数は移動せずに反共振周波数が低くなる。同様のことが、本実施の形態で用いた弾性表面波共振子15aに対しても起こっている。すなわち、直列腕弾性表面波共振子7bは並列に接続された弾性表面波共振子15aの容量により反共振周波数が低くなり、フィルタの肩特性を急峻化することができたが、同様に弾性表面波共振子15aの反共振周波数も並列に接続している直列腕弾性表面波共振子7bの容量によって低くなっているのである。従って、所望の周波数に減衰極を設ける際には、これを見込んで設計すればよい。
【0045】
<実施の形態の例2>
本実施の形態の弾性表面波装置の例2を図4に示す。
【0046】
通過帯域の肩特性をより急峻化するためには、より容量の大きな弾性表面波共振子15aを用いれば良いが、大きくしすぎると通過帯域近傍に大きなリップルが発生することがある。これを回避するためには、図4に示すように、複数の直列腕弾性表面波共振子(図4では、直列腕弾性表面波共振子7b,7d)のそれぞれに並列に弾性表面波共振子(図4では、弾性表面波共振子15a,15b)を接続すれば良い。
【0047】
図5は、図4の分波器20の通過特性を示すグラフである。図5において、点線の特性曲線16cは、図1の構成において弾性表面波共振子15aとして容量が約3.4pFの弾性表面波共振子を用いた場合の特性曲線である。通過帯域の肩特性は急峻であるが、通過帯域近傍にリップル19cが発生している。これに対して、図4の構成において、弾性表面波共振子15a,15bとして、同じ構成で容量が約1.7pFの弾性表面波共振子を用いた場合、実線の特性曲線16dのように、リップルを発生させずに肩特性を急峻に保つことができる。
【0048】
また、図1の構成において、通過帯域近傍にリップル19cが発生しない弾性表面波共振子15aの容量としては、弾性表面波共振子15aが付加される直列腕弾性表面波共振子7b,7dの各容量の20%程度以下が好ましい。
【0049】
なお、図に記載された「共振子」とは「弾性表面波共振子」を意味する。
【0050】
<実施の形態の例3>
本実施の形態の弾性表面波装置の例3では、全体の構成は図4と同様であるが、弾性表面波共振子15aと弾性表面波共振子15bで、容量はほぼ同じに保ったまま電極指ピッチを異なるものとした。図6にその通過特性を示す。
【0051】
図6において、点線の特性曲線16eは、同様の構成の弾性表面波共振子15a,15bを用いた場合の通過特性である。実線の特性曲線16fは、弾性表面波共振子15aに比べて、容量をほぼ同じに保ったまま弾性表面波共振子15bのIDT電極の電極指ピッチのみを調整し、弾性表面波共振子15bの共振周波数を7MHz高くした場合の特性曲線である。このようにすることにより、全く同じ構成の弾性表面波共振子15a,15bを用いた場合に比べて、より高い周波数で高い減衰量を得ることができる。
【0052】
<実施の形態の例4>
本実施の形態の弾性表面波装置の例4では、全体の構成は図4と同一であるが、弾性表面波共振子15a,15bの共振特性を制限した。
【0053】
図7の実線の特性曲線16hは、全体の構成は図4と同様であるが、容量を弾性表面波共振子15aとほぼ同じに保ったまま弾性表面波共振子15bの共振周波数を、弾性表面波共振子15aより7MHz低くし、第2の弾性表面波フィルタ2の通過帯域内に共振周波数を配置した場合の通過特性を示したものである。比較として、弾性表面波共振子15a,15bとして、同じ構成であって、共振周波数が第2の弾性表面波フィルタ2の通過帯域外にある弾性表面波共振子15a,15bを用いた場合の通過特性を点線の特性曲線16gで示す。
【0054】
実線の特性曲線16hよりわかるように、第2の弾性表面波フィルタ2の通過帯域に共振周波数を持つ弾性表面波共振子15bを用いることにより、第2の弾性表面波フィルタ2の通過帯域内に大きなリップル19dが発生している。従って、第2の弾性表面波フィルタ2の通過特性を劣化させるような影響を避けるためには、弾性表面波共振子15bの共振周波数は、第2の弾性表面波フィルタ2の通過帯域よりも高い周波数である必要がある。
【0055】
弾性表面波共振子15bの共振周波数を第2の弾性表面波フィルタ2より高くするためには、弾性表面波共振子15bのIDT電極の電極指ピッチを、第2の弾性表面波フィルタ2の直列腕弾性表面波共振子9b,9c及び9dのうち最も共振周波数の高いのIDT電極の電極指ピッチよりも小さくすれば良い。なお、第2の弾性表面波フィルタ2の直列腕弾性表面波共振子9aは、第1の弾性表面波フィルタ1と好適なインピーダンス整合を取るために意図的に他の直列腕弾性表面波共振子よりもかなり高い共振周波数に設定されている場合があり、その場合、直列腕弾性表面波共振子9aは第2の弾性表面波フィルタ2の通過帯域そのものを形成する機能を持っていないため、ここでは除外した。
【0056】
より好ましくは、弾性表面波共振子15bのIDT電極の電極指ピッチが、第2の弾性表面波フィルタ2における直列腕弾性表面波共振子9b,9c及び9dのIDT電極の電極指ピッチの0.5倍乃至0.98倍であれば良い。0.5倍未満ではIDT電極の励振効率が悪いため、有効な減衰極を作るための反共振抵抗が得られない。0.98倍を超えると、第2の弾性表面波フィルタ2の通過帯域を劣化させる。
【0057】
<実施の形態の例5>
本実施の形態の弾性表面波装置の例5では、全体の構成は図1と同じであるが、弾性表面波共振子15aのIDT電極の(電極指幅)/(電極指ピッチ)を、弾性表面波共振子15aが並列接続された直列腕弾性表面波共振子7bのIDT電極の(電極指幅)/(電極指ピッチ)よりも大きくした。このようにすることにより、弾性表面波共振子15aにおいて、電極指間距離が小さくなることにより容量値が大きくなるので、より小さな面積で所望の肩特性を得るための容量を確保することができる。従って、第1の弾性表面波フィルタ1の占有面積をより小さくすることができるため、弾性表面波装置を小型化したり、多数個の第1の弾性表面波フィルタ1を形成する圧電基板1枚当たりの取れ個数を増加させたりすることができる。
【0058】
<実施の形態の例6>
本実施の形態の弾性表面波装置の例6では、全体の構成は図1と同じであるが、弾性表面波共振子15aのIDT電極の(電極指幅)/(電極指ピッチ)を、弾性表面波共振子15aが並列接続された直列腕弾性表面波共振子7bのIDT電極の(電極指幅)/(電極指ピッチ)よりも小さくした。このようにすることにより、弾性表面波共振子15aの共振抵抗及び反共振抵抗は大きくなる。そのため、極大点(共振点)及び極小点(反共振点)の減衰量をより大きくすることができる。
【0059】
<実施の形態の例7>
以上、説明を行ったように、本実施の形態に係る分波器は、フィルタ特性における肩特性が急峻で通過帯域近傍の帯域外減衰特性に優れたものとなる。そして、本実施の形態に係る分波器を通信装置に適用することができる。
【0060】
本実施の形態の通信装置は、本実施の形態の弾性表面波装置を含むデュプレクサと、送信信号を搬送波信号に重畳させてアンテナ送信信号とするミキサと、アンテナ送信信号の不要信号を減衰させる弾性表面波装置を含むバンドパスフィルタと、アンテナ送信信号を増幅するとともに増幅されたアンテナ送信信号をデュプレクサを介してアンテナへ出力するパワーアンプとを具備するものである。また、本実施の形態の通信装置は、本実施の形態の弾性表面波装置を含むデュプレクサと、アンテナと、アンテナで受信され、デュプレクサを通ったアンテナ受信信号を増幅するローノイズアンプと、ローノイズアンプにて増幅されたアンテナ受信信号の不要信号を減衰させる弾性表面波装置を含むバンドパスフィルタと、バンドパスフィルタを通過したアンテナ受信信号の搬送波信号から受信信号を分離するミキサとを具備するものである。
【0061】
図8は、係る通信装置の具体的一例としての通信装置100の構成を模式的に示すブロック回路図である。通信装置100は、主に送受信機300、アンテナ400、制御部200、操作部600、マイクロフォンMP、及びスピーカSPを備えている。
【0062】
制御部200は、通信装置100の各種動作を統括制御する部位である。この制御部200は、CPU,RAM及びROM等を備え、ROM等の内部に格納されたプログラムをCPUが読み込んで実行することで、通信装置100の各種制御や機能が実現される。
【0063】
この送受信機300では、マイクロフォン(MP)から制御部200を介して入力されたアナログ音声信号が、DSP(Digital Signal Processor)301でA/D変換(アナログ信号からデジタル信号へ変換)された後、変調器302で変調され、更に局部発振器320の発振信号を用いてミキサ303で周波数変換される。ミキサ303の出力は送信用バンドパスフィルタ304及びパワーアンプ305を通り、分波器306を通ってアンテナ400に対して送信信号として出力される。
【0064】
また、アンテナ400からの受信信号は、分波器306を通ってローノイズアンプ307、受信用バンドパスフィルタ308を経てミキサ309へ入力される。ミキサ309は局部発振器320の発振信号を用いて受信信号の周波数を変換し、変換された信号はローパスフィルタ310を通って復調器311で復調され、更にDSP301でD/A変換(デジタル信号からアナログ信号へ変換)された後、制御部200を介してスピーカ(SP)に対してアナログ音声信号として出力される。
【0065】
操作部600は、ユーザーによる通信装置100への各種入力を受け付ける部位であり、例えば、各種ボタン等によって構成される。
【0066】
係る通信装置100の分波器306として、本実施の形態に係る分波器を用いる。
【0067】
なお、これまでの実施の形態の例では第2の弾性表面波フィルタ2として、ラダー型の回路構成のフィルタを用いて説明したが、第2の弾性表面波フィルタ2は必ずしもラダー型である必要はなく、DMS型やラティス型の回路構成を用いたフィルタを用いることができる。図14は分波器を構成するDMS(Double Mode Saw)フィルタDの代表的な構造を模式的に示す平面図である。DMSフィルタDは、多重モード型フィルタである。DMSフィルタDは、フィルタDaとフィルタDbとが2段に接続されている。フィルタDaは、隣り合うように配置された3つのIDT電極41a、41b、および41cと、これら3つのIDT電極41a、41b、および41cからなるIDT電極列の両端に設けられた2つの反射器42とから構成される。ただし、DMSフィルタDは2段構成を有するものには限られない。IDT41a、41b、および41cはそれぞれ、長手方向が圧電基板の弾性表面波の伝搬方向と直交するように対向配置された、1対の櫛歯状電極からなる。反射器42も、長手方向が圧電基板の弾性表面波の伝搬方向と直交するように設けられた格子状電極を有する。同様に、DMSフィルタDbは、隣り合うように配置された3つのIDT電極41d、41e、および41fと、これら3つのIDT電極41d、41e、および41fからなるIDT電極列の両端に設けられた2つの反射器42とから構成されてなる。IDT電極1d、電極1e、および電極1fも、はそれぞれ、長手方向が圧電基板の弾性表面波の伝搬方向と直交するように対向配置された、1対の櫛歯状電極からなる。反射器42も、長手方向が圧電基板の弾性表面波の伝搬方向と直交するように設けられた格子状電極を有する。ただし、DMSフィルタDの各段のフィルタがこのように3つのIDTを有することは必須の態様ではなく、2つ以上のIDTを設ける態様であればよい。このように多重モード型フィルタを第2の弾性表面波フィルタ2として使用する場合、受信信号が入力された場合の受信側通過帯域の低域側における急峻性を向上させることができる、という効果がある。なお、DMSフィルタDの電極対数、交差幅、反射器の本数などは、設計に合わせて適宜選択すればよい。
【実施例】
【0068】
以下、本実施の形態の弾性表面波装置を用いた分波器の実施例について説明する。
【0069】
まず、圧電基板としてタンタル酸リチウム(LiTaO3)から成るものを用い、その主面上に厚みが6nmのTi薄膜を形成し、その上に厚みが125nmのAl−Cu薄膜を形成し、これを交互に各3層ずつ積層し、合計6層のTi薄膜/Al−Cu薄膜の積層膜を形成した。ここで、Al−Cu薄膜とは、AlにCuが微量に添加された合金薄膜を意味する。
【0070】
次に、レジスト塗布装置により、圧電基板の主面上にフォトレジストを約0.5μmの厚みに塗布した。そして、縮小投影露光装置(ステッパー)を用いて露光することにより、図9に示す弾性表面波共振子や配線、電極等となるフォトレジストパターンを形成した。さらに、現像装置によって不要部分のフォトレジストをアルカリ現像液で溶解させた。
【0071】
次に、RIE(Reactive Ion Etching)装置により、図9に示す電極パターンを形成した。図9において、1’は送信用フィルタ部、2’は受信用フィルタ部である。通過帯域を形成する弾性表面波共振子の回路構成は図1と同様であり、新たに容量付加用の弾性表面波共振子15a,15b及び15cをそれぞれ直列弾性表面波共振子7b,7d及び9dに並列に接続した。
【0072】
次に、電極パターンの所定領域上に保護膜(図示せず)を形成した。すなわち、CVD(Chemical Vapor Deposition)装置により、電極パターン及び圧電基板の主面上にSiO2膜を約15nmの厚みに形成した。そして、フォトリソグラフィによってフォトレジストのパターニングを行い、RIE装置等でフリップチップ用電極部(入出力電極,接地電極及びパッド電極)のSiO2膜のエッチングを行った。
【0073】
次に、スパッタリング装置を使用し、SiO2膜を除去した部分にCr層,Ni層,Au層を順次積層した積層電極を成膜した。このときの電極の厚みは、それぞれ0.01μm、1μm、0.2μmとした。
【0074】
さらに、フォトレジスト及び不要箇所の積層電極をリフトオフ法により同時に除去し、積層電極が形成された部分である送信用フィルタの入力電極21、送信用フィルタの出力電極22、受信用フィルタの入力電極23、受信用フィルタの出力電極24、送信用フィルタの接地電極25、及び環状電極26を、フリップチップ用バンプを接続するためのフリップチップ用電極部とした。なお、環状電極26は後述するようにフィルタ部を気密封止するための電極であり、必要に応じて設ければ良い。本実施例では環状電極26を受信用フィルタ2’の接地電極としても用いている。
【0075】
次に、圧電基板にダイシング線に沿ってダイシング加工を施し、フィルタ素子のチップ50に分割した。
【0076】
次に、図10に示すように、セラミックからなる積層構造の回路基板28上における、送信用フィルタの入力電極21、送信用フィルタの出力電極22、受信用フィルタの入力電極23、受信用フィルタの出力電極24、送信用フィルタの接地電極25、及び環状電極26に対応する位置に設けた、銀から成る導体上に、導電性接続材32を印刷した。導電性接続材32としては半田を使用した。なお、回路基板28は多数個取り用の基板とした。
【0077】
そして、各チップ50をフリップチップ実装装置によって、電極形成面を下面にして回路基板28上に仮接着した。仮接着はN2ガス雰囲気中で行った。さらに、N2ガス雰囲気中でベークを行い、導電性接続材32である半田を溶融することにより、チップ50と回路基板28とを接着した。なお、整合回路6は、回路基板28の内部に設けた信号電位から接地電位へと接続された線路(図示せず)によって形成したインダクタにより実現した。
【0078】
次に、チップ50が接着された回路基板28に樹脂を塗布し、N2ガス雰囲気中でベークを行い、チップ50を樹脂封止した。
【0079】
次に、回路基板28にダイシング線に沿ってダイシング加工を施し、個片に分割し、本発明の分波器20(分波器Aとする)を作製した。分波器20の断面図を図10に示す。図10における圧電基板27のセラミック回路基板28に対向する面が図9であり、図10は図9の圧電基板27のA−A線に当たる位置で切断した断面図となっている。なお、個片に分割された回路基板28は、2.5×2.0mmの大きさで、厚みは0.375mmである。
【0080】
また、比較例1として、弾性表面波共振子15a,15b,15cを設けない以外は本実施例の分波器Aと同じ構成の分波器Bを作製した。
【0081】
図11は、本実施例の分波器Aと比較例1の分波器Bの帯域通過特性を比較したグラフである。横軸は周波数(単位:MHz)を、縦軸は減衰量(単位:dB)を表し、実線の特性曲線16iは本実施例の分波器Aの帯域通過特性を示し、破線の特性曲線18cは比較例1の分波器Bの帯域通過特性を示している。
【0082】
また、弾性表面波共振子15a,15b,15cの代わりに、同じ容量値を持つ容量素子を用いた比較例2の分波器Cの特性曲線17cを、シミュレーションによって求めた。
【0083】
分波器Aの特性曲線16iにおいて、極大値19e及び極小値19fはそれぞれ弾性表面波共振子15a,15bの共振周波数及び反共振周波数に一致する。本実施例では、弾性表面波共振子15a,15bの共振周波数及び反共振周波数がほぼ一致するように、それぞれのIDT電極の電極指ピッチを調節した。
【0084】
弾性表面波共振子15aを接続した直列腕弾性表面波共振子7bの電極指ピッチは約2.39μm、電極指対数は100対、電極指交差幅は約76μmである。
【0085】
弾性表面波共振子15bを接続した直列腕弾性表面波共振子7dの電極指ピッチは約2.39μm、電極指対数は80対、電極指交差幅は約86μmである。
【0086】
これに対して、弾性表面波共振子15a,15bの電極指ピッチは約2.14μm、電極指対数は20対、電極指交差幅は約86μmである。
【0087】
また、弾性表面波共振子15cの共振周波数及び反共振周波数は極大値19g及び極小値19hに対応する。
【0088】
弾性表面波共振子15cを接続した直列腕弾性表面波共振子9dの電極指ピッチは約2.23μm、電極指対数は80対、電極指交差幅は約22μmである。
【0089】
これに対して、弾性表面波共振子15cの電極指ピッチは2.02μm、電極指対数は10対、電極指交差幅は約80μmである。
【0090】
通過帯域を形成する弾性表面波共振子のIDT電極の(電極指幅)/(電極指ピッチ)は約0.43であり、容量付加用の弾性表面波共振子15a,15b及び15cのIDT電極の(電極指幅)/(電極指ピッチ)は約0.63である。
【0091】
この構成により、弾性表面波共振子15a及び15bの容量約1.7pF、弾性表面波共振子15cの容量約0.5pFを実現した。
【0092】
図11に示す結果から分かるように、本実施例の分波器Aの通過帯域の肩特性は、送信用フィルタ1及び受信用フィルタ2の両方で、比較例1に比べて急峻にすることができた。
【0093】
また、本実施例の分波器Aは、898MHzから901MHzにかけての減衰量を、比較例2の分波器Cに比べて約19.9dB改善することができた。また、925MHzにおける減衰量も約4.9dB改善することができた。
【0094】
また、本実施例の分波器Aは、843MHzから846MHzにかけての減衰量を、比較例1の分波器Bに比べて約24.9dB改善することができた。
【0095】
なお、本発明は以上の実施の形態及び実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の変更を加えることは何ら差し支えない。例えば、新たに接続した容量付加用の弾性表面波共振子15a〜15cは、少なくとも一つ用いればよく、また、更に増やしてもよい。
【0096】
容量付加用の弾性表面波共振子15a〜15cは、電極指ピッチや(電極指幅)/(電極指ピッチ)を、互いに異なる値としても良い。その場合、多くの場所に減衰極を設けることができる。特に、同じフィルタにおいて、容量付加用の弾性表面波共振子15a〜15cの反共振周波数を近接させて設定することにより、広い帯域で減衰量を増加させることができる。また、同じ周波数とした場合には、より減衰量を大きくすることができる。
【0097】
また、容量付加用の弾性表面波共振子15a〜15cに、所謂間引きやアポダイズを施し、容量や反共振周波数を調整しても良い。その他の通過帯域を形成する弾性表面波共振子についても同様である。
【0098】
また、実施例では2個のフィルタで送受信を分離する分波器を構成した例を説明したが、例えば異なる複数の規格の送信用フィルタを接続した弾性表面波装置等に本発明を適用しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】本実施の形態の弾性表面波装置の例1を示す回路図である。
【図2】弾性表面波共振子を説明するための弾性表面波共振子の平面図である。
【図3】図1の弾性表面波装置の通過特性を示すグラフである。
【図4】本実施の形態の弾性表面波装置の例2を示す回路図である。
【図5】図4の弾性表面波装置の通過特性を示すグラフである。
【図6】本実施の形態の弾性表面波装置の例3の通過特性を示すグラフである。
【図7】本実施の形態の弾性表面波装置について容量付加用の弾性表面波共振子の電極指ピッチの好適な範囲を説明するためのグラフである。
【図8】本実施の形態の弾性表面波装置を用いて構成した通信装置のブロック回路図である。
【図9】本実施の形態の弾性表面波装置の実施例における圧電基板の平面図である。
【図10】本実施の形態の弾性表面波装置の実施例の断面図である。
【図11】本実施の形態の弾性表面波装置の実施例の通過特性を示すグラフである。
【図12】従来の弾性表面波装置の回路図である。
【図13】(a),(b)は従来の弾性表面波装置の通過特性を示すグラフである。
【図14】本実施の形態の弾性表面波装置における受信用フィルタに用いられるDMSフィルタの平面図である。
【符号の説明】
【0100】
1,1’:送信用フィルタ
2,2’:受信用フィルタ
7a,7b,7c,7d:送信用フィルタ(第1の弾性表面波フィルタ)の直列腕弾性表
面波共振子
8a,8b,8c:送信用フィルタの並列腕弾性表面波共振子
9a,9b,9c,9d:受信用フィルタ(第2の弾性表面波フィルタ)の直列腕弾性表
面波共振子
10a,10b,10c,10d:受信用フィルタの並列腕弾性表面波共振子
11:IDT電極
12:反射器
13:電極指
14:バスバー
15a,15b,15c:弾性表面波共振子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラダー型フィルタ回路を構成する第1の弾性表面波フィルタと、
前記第1の弾性表面波フィルタの通過帯域よりも高い周波数に通過帯域を有する第2の弾性表面波フィルタと、を有し、
前記第1の弾性表面波フィルタは、前記ラダー型フィルタ回路の直列腕に接続された、IDT電極を含む少なくとも1つの直列腕弾性表面波共振子と、
前記ラダー型フィルタ回路の並列腕に接続された、IDT電極を含む並列腕弾性表面波共振子と、
前記直列腕弾性表面波共振子に並列接続されているとともに前記第2の弾性表面波フィルタの通過帯域よりも高い周波数に共振周波数を有する、IDT電極を含む弾性表面波共振子と、を有する弾性表面波装置。
【請求項2】
前記弾性表面波共振子のIDT電極の電極指ピッチが、前記弾性表面波共振子が並列接続された前記直列腕弾性表面波共振子のIDT電極の電極指ピッチよりも小さい請求項1記載の弾性表面波装置。
【請求項3】
前記弾性表面波共振子のIDT電極の電極指ピッチが、前記弾性表面波共振子が並列接続された前記直列腕弾性表面波共振子のIDT電極の電極指ピッチの0.50倍乃至0.95倍である請求項2記載の弾性表面波装置。
【請求項4】
前記第2の弾性表面波フィルタは、直列腕に接続された、IDT電極を含む直列腕弾性表面波共振子と、並列腕に接続された、IDT電極を含む並列腕弾性表面波共振子を有するラダー型フィルタ回路を構成しており、
前記弾性表面波共振子のIDT電極の電極指ピッチが、前記第2の弾性表面波フィルタにおける前記直列腕弾性表面波共振子のIDT電極の電極指ピッチよりも小さい請求項1記載の弾性表面波装置。
【請求項5】
前記弾性表面波共振子のIDT電極の電極指ピッチが、前記第2の弾性表面波フィルタにおける前記直列腕弾性表面波共振子のIDT電極の電極指ピッチの0.50倍乃至0.98倍である請求項4記載の弾性表面波装置。
【請求項6】
前記弾性表面波共振子のIDT電極の(電極指幅)/(電極指ピッチ)が、前記弾性表面波共振子が並列接続された前記直列腕弾性表面波共振子のIDT電極の(電極指幅)/(電極指ピッチ)よりも大きい請求項1記載の弾性表面波装置。
【請求項7】
前記弾性表面波共振子のIDT電極の(電極指幅)/(電極指ピッチ)が、前記弾性表面波共振子が並列接続された前記直列腕弾性表面波共振子のIDT電極の(電極指幅)/(電極指ピッチ)よりも小さい請求項1記載の弾性表面波装置。
【請求項8】
前記第1の弾性表面波フィルタは、複数の直列腕弾性表面波共振子を有しており、
前記第1の弾性表面波フィルタに信号を入力する端子に最も近い前記直列腕弾性表面波共振子以外の前記直列腕弾性表面波共振子に、前記弾性表面波共振子が並列接続されている請求項1記載の弾性表面波装置。
【請求項9】
前記第1の弾性表面波フィルタは、複数の直列腕弾性表面波共振子を有しており、
複数の前記直列腕弾性表面波共振子における少なくとも2つの前記直列腕弾性表面波共振子のそれぞれに、前記弾性表面波共振子が並列接続されている請求項1記載の弾性表面波装置。
【請求項10】
前記弾性表面波共振子の容量が、前記弾性表面波共振子が並列接続される前記直列腕弾性表面波共振子の容量の20%以下である請求項9記載の弾性表面波装置。
【請求項11】
少なくとも2つの前記弾性表面波共振子は、容量が同じで電極指ピッチが異なる請求項9記載の弾性表面波装置。
【請求項12】
前記第2の弾性表面波フィルタはDMS型フィルタ回路を構成する請求項1記載の弾性表面波装置。
【請求項13】
請求項1記載の弾性表面波装置を含む分波器。
【請求項14】
請求項1記載の前記弾性表面波装置を含むデュプレクサと、
送信信号を搬送波信号に重畳させてアンテナ送信信号とするミキサと、
前記アンテナ送信信号を増幅するとともに増幅された前記アンテナ送信信号を前記デュプレクサを介してアンテナへ出力するパワーアンプと、を具備する通信装置。
【請求項15】
請求項1記載の前記弾性表面波装置を含むデュプレクサと、
アンテナと、
該アンテナで受信され、前記デュプレクサを通ったアンテナ受信信号を増幅するローノイズアンプと、
該ローノイズアンプを通過した前記アンテナ受信信号の搬送波信号から受信信号を分離するミキサと、を具備する通信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2008−271511(P2008−271511A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−41999(P2008−41999)
【出願日】平成20年2月22日(2008.2.22)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】