説明

形状凍結性に優れた高強度鋼板、高強度溶融亜鉛めっき鋼板、および、高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板とそれらの製造方法

【課題】 形状凍結性に優れた高強度鋼板とその製造方法を提供する。
【解決手段】 フェライトまたはベイナイトを面積率で最大相とし、1/2板厚における板面の{001}<110>〜{223}<110>方位群のX線ランダム強度比の平均値が6.0以上で、かつ、これらの方位群の中で{112}<110>方位および{001}<110>方位のうちいずれか一方または両方のX線ランダム強度比が8.0以上であり、加えて、圧延方向のr値および圧延方向と直角方向のr値のうち少なくとも1つが0.8以下で、かつ、径が15nm以下の化合物粒子の個数が全化合物粒子の個数の60%以上であることを特徴とする形状凍結性に優れた高強度鋼板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、形状凍結性に優れた高強度鋼板、高強度溶融亜鉛めっき鋼板および高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板と、それらの製造方法に関するもので、自動車部品等が主たる用途である。
【0002】
本発明の鋼板は、熱延鋼板と冷延鋼板の双方を含有する。溶融亜鉛めっきとは、純亜鉛のほか、Fe、Al、Mg、Cr、Cu等を含有してもよい。
【背景技術】
【0003】
自動車からの炭酸ガスの排出量を抑えるために、高強度鋼板を使用して自動車車体の軽量化が進められている。また、搭乗者の安全性確保のためにも、自動車車体には、軟鋼板の他に高強度鋼板が多く使用されるようになってきている。さらに、自動車車体の軽量化を今後進めていくために、従来以上に高強度鋼板の使用強度レベルを高めたいという新たな要請が非常に高まりつつある。
【0004】
しかしながら、高強度鋼板に成形を加えると、加工後の形状は、その高強度ゆえに、加工冶具の形状から離れて加工前の形状の方向にもどりやすくなるというスプリング・バック現象や、成形中の曲げ−曲げ戻しからの弾性回復により側壁部の平面が曲率を持った面になってしまうという壁そり現象が起こり、狙いとする加工部品の形状が得られないという寸法精度不良が生じる。
【0005】
したがって、従来の自動車の車体では、主として590MPa以下の高強度鋼板が使用されてきた。すなわち、自動車車体にとっては、590MPa以上の高強度鋼板を使用して車体の軽量化を進めていく必要があるにもかかわらず、スプリング・バックや壁そりが起こりにくく、寸法精度が良好、すなわち、形状凍結性の良い高強度鋼板が存在しないのが実状である。
【0006】
本発明者らの一部は、特許文献1および特許文献2にて、鋼板の集合組織に着目した形状凍結性に優れた高強度鋼板について開示している。また、特許文献3には、形状凍結性の良好な鋼板として、r値の面内異方性Δrの絶対値が0.2以下である熱延鋼板が開示されている。
【0007】
しかし、この発明は、低降伏比化することによって形状凍結性を向上させることを特徴としており、本発明で述べているような思想に基づいた形状凍結性の向上を目的とした集合組織制御に関しては、記載されていない。
【0008】
一方、特許文献4には、TiとMoとを添加した成形性に優れた鋼板について開示されているが、形状凍結性を改善する技術ではない。
【0009】
以上のように、形状凍結性を改善するための試みは行われてはいるが、その改善代は十分とは言えず、さらに良好な形状凍結性を有する高強度鋼板が待望されている。
【0010】
【特許文献1】WO00/06791号
【特許文献2】特開2001−64750号公報
【特許文献3】特開2000−297349号公報
【特許文献4】特開2002−322539号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
引張強度が590MPa超の高強度鋼板に加工を施すと、鋼板の強度に依存しながら、大きなスプリング・バックや壁そりなどの形状不良が発生し、加工成形部品の形状凍結性が悪いのが現状である。本発明は、この問題を抜本的に解決し、同時に延性、伸びフランジ成形性、溶接性にも優れた高強度鋼板とその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
従来の知見によれば、スプリング・バックや壁そり等の形状不良を抑えるための方策としては、鋼板の変形応力を低くすることがとりあえず重要であると考えられていた。そして、変形応力を低くするためには、引張強さの低い鋼板を使用せざるを得なかった。しかし、これは、高強度鋼板のスプリング・バック量を低く抑えるための根本的な解決にはならない。
【0013】
そこで、本発明者らは、曲げ加工性を向上させてスプリング・バックや壁そりの発生を根本的に解決するために、新たに鋼板の集合組織と強化方法の曲げ加工性への影響に着目して、その作用効果を詳細に調査、研究した。その結果、降伏強度が高く形状凍結性が劣位であると位置付けられていた析出強化と所定の集合組織とを組み合わせることによって、これまで以上に形状凍結性の優れた高強度鋼板を得るに至った。
【0014】
すなわち、{100}<011>〜{223}<110>方位群の強度を高め、圧延方向のr値および圧延方向と直角方向のr値のうち少なくとも1つをできるだけ低い値とした上で、微細析出物を分散させることによって、形状凍結性が飛躍的に向上することを明らかにしたものである。
【0015】
このような効果が得られる理由は必ずしも明らかでないが、以下のように考えられる。
【0016】
すなわち、このような集合組織とすることによって、曲げ主体の成形においてはすべり系が限定されるため基本的に動的回復が生じやすく、結果として変形抵抗が小さくなる。微細な析出物は、すべり系をさらに限定的なものとする効果を奏し、形状凍結性をより一層良好にする。
【0017】
また、曲げ曲げ戻しなどの反転負荷が生ずる場合には、微細析出物にパイルアップした転位が、反転負荷にバックストレスとして働き、変形抵抗を下げるので、この場合にも、形状凍結性は向上する。したがって、本発明の鋼板は、フォーム成形の他、ドローベンド、フォームドローなど種々の成形法に対して効果がある。
【0018】
また、延性および伸びフランジ性と形状凍結性との両立のためには、フェライト相またはベイナイト相を最大相とすることも重要である。
【0019】
本発明は、前述の知見に基づいて構成されており、その要旨とするところは以下の通りである。
【0020】
(1)フェライトまたはベイナイトを面積率で最大相とし、1/2板厚における板面の{001}<110>〜{223}<110>方位群のX線ランダム強度比の平均値が6.0以上で、かつ、これらの方位群の中で{112}<110>方位および{001}<110>方位のうちいずれか一方または両方のX線ランダム強度比が8.0以上であり、加えて、圧延方向のr値および圧延方向と直角方向のr値のうち少なくとも1つが0.8以下で、かつ、径が15nm以下の化合物粒子の個数が全化合物粒子の個数の60%以上であることを特徴とする形状凍結性に優れた高強度鋼板。
【0021】
(2)質量%で、
C :0.02%以上、0.15%以下、
Si:0.5%超、1.6%以下、
Mn:0.01%以上、3.0%以下、
P :0.02%以下、
S :0.01%以下、
Al:2.0%以下、
N :0.01%以下、
O :0.01%以下を含有し、さらに、
Ti:0.05%以上、0.4%以下を含有し、
残部は鉄および不可避的不純物よりなることを特徴とする前記(1)に記載の形状凍結性に優れた高強度鋼板。
【0022】
(3)質量%で、さらに、Nb:0.4%以下、Mo:1.0%以下の1種または2種を含有することを特徴とする前記(2)に記載の形状凍結性に優れた高強度鋼板。
【0023】
(4)質量%で、さらに、B:0.0002〜0.0070%を含有することを特徴とする前記(2)または(3)記載の形状凍結性に優れた高強度鋼板。
【0024】
(5)質量%で、さらに、V:0.4%以下、Zr:0.2%以下、W:0.3%以下、Cr:2%以下、Cu:2%以下、Ni:2%以下、Sn:0.2%以下、の1種または2種以上を含有することを特徴とする前記(2)〜(4)のいずれかに記載の形状凍結性に優れた高強度鋼板。
【0025】
(6)質量%で、さらに、Ca:0.0005%以上、0.01%以下、Mg:0.0001%以上、0.03%以下、Rem:0.001%以上、0.1%以下、の1種または2種を含有することを特徴とする前記(2)〜(5)のいずれかに記載の形状凍結性に優れた高強度鋼板。
【0026】
(7)前記(1)〜(6)のいずれかに記載の形状凍結性に優れた高強度鋼板の表面に溶融亜鉛めっきを有することを特徴とする形状凍結性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
【0027】
(8)前記(1)〜(6)のいずれかに記載の形状凍結性に優れた高強度鋼板の表面に合金化溶融亜鉛めっきを有することを特徴とする形状凍結性に優れた高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
【0028】
(9)前記(1)〜(6)のいずれかに記載の形状凍結性に優れた高強度鋼板を製造する方法であって、前記(2)〜(6)のいずれかに記載の成分組成からなる鋼片を熱間圧延するに当たり、1150℃以上に加熱し、880℃未満での圧下率の合計が30%以上となるように熱間圧延し、880℃未満で熱間圧延を終了し、熱間圧延終了温度から700℃以下までを30℃/s以上の平均冷却速度で冷却した後、580〜680℃で巻き取ることを特徴とする形状凍結性に優れた高強度鋼板の製造方法。
【0029】
(10)前記(1)〜(6)のいずれかに記載の形状凍結性に優れた高強度鋼板を製造する方法であって、前記(2)〜(6)のいずれかに記載の成分組成からなる鋼片を熱間圧延するに当たり、1150℃以上に加熱し、880℃未満での圧下率の合計が30%以上となるように熱間圧延し、880℃未満で熱間圧延を終了し、平均冷却速度15℃/s以上で冷却し、650〜720℃の範囲で5s以上空冷した後、660℃以下で巻き取ることを特徴とする形状凍結性に優れた高強度鋼板の製造方法。
【0030】
(11)前記(9)または(10)に記載の形状凍結性に優れた高強度鋼板を60%未満の圧下率で冷間圧延し、その後、500〜800℃の温度範囲に加熱し、冷却することを特徴とする形状凍結性に優れた高強度鋼板の製造方法。
【0031】
(12)前記(9)または(10)に記載の形状凍結性に優れた高強度鋼板の製造方法により製造した鋼板、または、該鋼板を60%未満の圧下率で冷間圧延した鋼板を500〜800℃の温度範囲に加熱し、その後、溶融亜鉛めっきを施すことを特徴とする形状凍結性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【0032】
(13)前記(12)に記載の溶融亜鉛めっきに引き続き、450〜600℃の範囲で合金化処理を施すことを特徴とする形状凍結性に優れた高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、薄鋼板の析出物と集合組織を同時に制御することにより、形状凍結性が著しく向上し、また、穴拡げ性にも優れる薄鋼板を提供できるようになった。特に、従来は形状不良の問題から高強度鋼板の適用が難しかった部品にも、高強度鋼板が使用できるようになる。スプリング・バック量および壁そり量が少なく、形状凍結性と穴拡げ性に優れた高強度鋼板が適用できるようになると、自動車車体の軽量化をより一層推進することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下に、本発明の内容を詳細に説明する。
【0035】
1/2板厚における板面の{001}<110>〜{223}<110>方位群のX線ランダム強度比の平均値:
本発明で重要な特性値である。板厚中心位置での板面のX線回折を行い、ランダム試料を用いて規格化し、各方位の極密度(ランダム強度比)を求めたときの、{001}<110>〜{223}<110>方位群の平均値が6.0以上でなくてはならない。これが6.0未満では形状凍結性が劣悪となる。
【0036】
この方位群に含まれる主な方位は、{100}<011>、{116}<110>、{114}<110>、{113}<110>、{112}<110>、{335}<110>および{223}<110>である。
【0037】
これら各方位のX線ランダム強度比(極密度)は、{110}、{100}、{211}、{310}の各極点図のうち複数の極点図(好ましくは3つ以上)を用いて級数展開法で計算した3次元集合組織から求めればよい。
【0038】
すなわち、上記各結晶方位のX線ランダム強度比には、3次元集合組織のφ2=45゜断面における(001)[1−10]、(116)[1−10]、(114)[1−10]、(113)[1−10]、(112)[1−10]、(335)[1−10]、(223)[1−10]の強度をそのまま用いればよい。
【0039】
{001}<011>〜{223}<110>方位群の平均値とは、上記の各方位の相加平均である。上記の全ての方位の強度を得ることができない場合には、{100}<110>、{116}<110>、{114}<110>、{112}<110>、{223}<110>の各方位の相加平均で代替してもよい。
【0040】
これらの方位群の中で、{001}<110>と{112}<110>方位は、壁そりの低減に極めて効果的な方位である、したがって、これらの方位群の中で、{001}<110>または{112}<110>方位のX線ランダム強度比が最大かつ8.0以上になると、形状凍結性はさらに向上するので好ましい。
【0041】
さらに、1/2板厚における板面の{554}<225>、{111}<112>および{111}<110>の3つの結晶方位のX線ランダム強度比の平均値は3.5以下であることが好ましい。これが3.5超であると、{100}<011>〜{223}<110>方位群の強度が適正であっても、良好な形状凍結性を得ることが困難となる。
【0042】
{554}<225>、{111}<112>および{111}<110>のX線ランダム強度比も、上記の方法に従って計算した3次元集合組織から求めればよい。
【0043】
より望ましくは、{001}<011>〜{223}<110>方位群のX線ランダム強度比の平均値が8.0以上、{001}<011>または{112}<110>方位のX線ランダム強度比が10.0以上、{554}<225>、{111}<112>および{111}<110>のX線ランダム強度比の相加平均値が2.5未満である。
【0044】
X線回折に供する試料は、機械研磨などによって鋼板を所定の板厚まで減厚し、次いで、化学研磨や電解研磨などによって歪みを除去すると同時に、板厚1/2面が測定面となるように作製する。
【0045】
鋼板の板厚中心層に偏析帯や欠陥などが存在し、測定上不都合が生ずる場合には、板厚の3/8〜5/8の範囲で適当な面が測定面となるように、上述の方法に従って試料を調整して測定すればよい。
【0046】
当然のことであるが、上述のX線強度の限定が板厚1/2近傍だけでなく、なるべく多くの厚みについて満たされることで、より一層形状凍結性が良好になる。なお、{hkl}<uvw>で表される結晶方位とは、板面の法線方向が<hkl>に平行で、圧延方向が<uvw>と平行であることを示している。
【0047】
圧延方向のr値(rL)および圧延方向と直角方向のr値(rC):
本発明において重要である。すなわち、本発明者らが鋭意検討の結果、上述した種々の結晶方位の極密度が適正であることと同時に、rLおよびrCのうち少なくとも1つが0.8以下であることが良好な形状凍結性を得るために必須であることが判明した。より好ましくは0.6以下である。
【0048】
rLおよびrCの下限は、特に定めることなく本発明の効果を得ることができるが、r値は、JIS5号引張試験片を用いた引張試験により評価する。引張歪みは、通常15%であるが、均一伸びが15%を下回る場合には、均一伸びの範囲で、できるだけ15%に近い歪みで評価すればよい。
【0049】
なお、曲げ加工を施す方向は加工部品によって異なるので、特に限定するものではないが、r値が小さい方向に対して垂直もしくは垂直に近い方向に折り曲げる加工を主とすることが好ましい。
【0050】
ところで、一般に、集合組織とr値とは相関があることが知られているが、本発明においては、既述の結晶方位の極密度に関する限定とr値に関する限定とは互いに同義ではなく、両方の限定が同時に満たされなくては、良好な形状凍結性を得ることはできない。
【0051】
組織:
延性、伸びフランジ成形性および形状凍結性の観点から、組織はフェライトまたはベイナイト相を最大相とする。ただし、フェライトとベイナイトの各々の集合組織を比べると、ベイナイト部分で、形状凍結に有利な{001}<011>〜{223}<110>方位の集合組織が発達しやすい。
【0052】
この理由は明らかではないが、ベイナイト組織が、熱延中に形成される形状凍結性に優位なオーステナイト集合組織を受け継ぎやすいためと考えられる。したがって、ベイナイトの占積率が大きい方がより望ましい。
【0053】
この観点からは、ベイナイトの面積率は50%超であることが望ましい。フェライトまたはベイナイトの面積率は、板厚中央部を光学顕微鏡により100〜1000倍で5視野以上観察し、その平均値より求めることとする。板厚中心部に偏析層などが存在する場合には回避して観察する。板厚中心部とは板厚の3/8〜5/8を示す。
【0054】
化合物粒子:
本発明において非常に重要である。すなわち、上述したとおり、微細化合物粒子が多数存在することで、集合組織の効果をより顕著なものとする。また、延性や伸びフランジ成形性の観点からも有利に作用する。
【0055】
径が15nm以下の化合物粒子の個数が全化合物粒子の個数の60%以上を占める必要がある。径が15nm超では、このような効果が小さいので、これを上限とする。好ましくは10nm以下、さらに好ましくは5nm以下である。
【0056】
径とは、粒子の最長径を示す。すなわち、観察した粒子が円形であれば直径を、楕円形であれば長径を、四角形であれば対角線の長さを表す。
【0057】
このような微細粒子は、Ti系の炭化物、窒化物、炭窒化物を主体とするが、酸化物や硫化物、さらにはTi以外の化合物であっても構わない。
【0058】
なお、化合物粒子の全てが15nm以下である必要はなく、全化合物粒子個数のうち、60%以上、より好ましくは85%以上とする。これが60%未満では、集合組織が好適に発達していても形状凍結性への効果は限定的である。
【0059】
化合物粒子の観察用試料には、板厚の3/8〜5/8の範囲から採取した薄膜を用い、透過型電子顕微鏡(電解放射型電子銃であればなお好ましい)にて、10万倍以上の倍率で、5平方μm以上の面積について観察する。
【0060】
視野の選択は無作為に行い、5視野以上を観察する。このとき、結晶粒界に存在する微細化合物は観察が困難であるので対象とせず、結晶粒内のみを対象とする。化合物の見落としを避けるため、焦点を故意にずらす、デフォーカス法を用いることが好ましい。
【0061】
薄膜の厚さによっては、同じ面積を観察しても観察される化合物の数が異なるのは当然のことであるが、ここでは、微細化合物の大きさとそれらが全体に占める存在割合を対象とするので、透過型電子顕微鏡で鮮明に観察できる範囲で十分に厚いことが好ましい。
【0062】
上記の条件で観察される粒子数が、ここでの全粒子数である。微細化合物粒子の密度は特に限定しないが、上記の電子顕微鏡による観察で、1平方μmあたり10個以上存在する。好ましくは100個以上である。
【0063】
また、粒界におけるセメンタイト等の鉄系炭化物の占有率が0.1超または鉄炭化物の最大粒子径が1μm超になると、粒界で、これらの鉄炭化物が連結し伸びフランジ性が著しく劣化する。したがって、粒界における鉄炭化物の占有率を0.1以下、かつ、この鉄炭化物の最大粒子径を1μm以下にすることが好ましい。鉄炭化物の占有率および最大粒子径は、小さいほど望ましいことから、下限は特に規定しない。
【0064】
鉄炭化物による粒界の占有率(−)は、鉄材の断面サンプルにおいて、ある領域での粒界の総長さLと、鉄炭化物によって占有されている粒界の長さとの総和dの比d/Lで与えられる。
【0065】
測定は、200倍以上の倍率の光学顕微鏡観察写真において、画像処理によってLおよびdを直接求めてもよい。より簡便な方法としては、上記写真上に描いたn本の直線と粒界との交点の数Nと、N個の交点の中で、その交点の位置に鉄炭化物が存在した場合の数Mを用いてM/Nで求めてもよい。
【0066】
この時採用する直線の数Nを3以上とすることで、十分な精度が確保できる。また、写真の倍率は、この1本の直線と粒界の交点の数が10以上になるように選択することで、十分な精度を確保できる。
【0067】
次に、成分範囲の限定条件について述べる。なお、%は質量%を意味する。
【0068】
Cの下限を0.02%としたのは、これを下回ると、590MPa以上の引張強度を得ることが困難であるだけなく、微細化合物を十分に得ることができなくなるためである。一方、0.15%超になると伸びフランジ成形性が劣化するので、上限を0.15%に設定する。
【0069】
Siは本発明において重要である。すなわち、Siを0.5%超添加することで、化合物が微細となり、結果として、形状凍結性が向上することを新たにつきとめた。したがって、下限を0.5%超とする。
【0070】
一方、1.6%超となると加工性が劣化したり、表面疵やめっき性の問題などが発生したりするので、1.6%を上限とする。0.5%超〜1.2%がより好ましい範囲である。また、溶融亜鉛めっきを施す際には、0.5%超〜0.8%未満の添加とすることが好ましい。
【0071】
Mnも鋼板の機械的強度を高めるのに有効な元素であるが、3.0%超となると、延性、伸びフランジ成形性が劣化するので、3.0%を上限とする。一方、実用鋼で、Mnを0.01%未満とするのは、コスト高となり、材質上のメリットもないので、0.01%を下限とする。
【0072】
PとSは、それぞれ、0.02%以下、0.01%以下とする。これは、加工性の劣化や熱間圧延、または冷間圧延時の割れを防ぎ、溶接性を確保するためである。
【0073】
Alは、脱酸やフェライト生成促進を通して延性を向上せしめる一方、多すぎると、加工性や溶接性が劣化したり、表面性状が劣悪となるので、上限を2.0%とする。
【0074】
NとOは、微細化合物を得るのに役立つが、あまり多いと、粗大な化合物を増加させ、形状凍結性が劣化するので、それぞれ、0.01%以下、0.01%以下とする。
【0075】
Tiは、本発明において重要な元素である。Tiは、炭化物、窒化物、炭窒化物または硫化物や炭硫化物、炭窒硫化物などの化合物として微細析出し、強度上昇に効果があるとともに、セメンタイトを初めとする鉄炭化物を低減させることから、形状凍結性と伸びフランジ性を改善する。
【0076】
また、Tiは、上述した形状凍結性に好ましい集合組織を発達させる効果を有する。したがって、所望される強度に応じて、0.05%以上添加する。ただし、過度に添加しても格段の効果はなく、むしろ、加工性や表面性状を劣化させるので、0.4%を上限とした。
【0077】
NbおよびMoも、Tiと同様に、炭化物、窒化物、炭窒化物または硫化物や炭硫化物、炭窒硫化物などとして微細析出し、強度上昇に効果があるとともに、セメンタイトを初めとする鉄炭化物を低減させることから、形状凍結性と伸びフランジ性を改善する。また、形状凍結性に好ましい集合組織を発達させる効果を有する。
【0078】
したがって、所望される強度に応じて、Nbを0.4%以下、Moを1.0%以下添加する。ただし、過度に添加しても格段の効果はなく、むしろ加工性や表面性状を劣化させるので、NbおよびMoそれぞれの上限を、0.4%、1.0%とした。なお、NbやMoは、Ti系化合物の中に存在する場合も有る。
【0079】
Bは、化合物の微細化に寄与することを通じて、形状凍結性を向上せしめるので、必要に応じて添加する。0.0002%未満では効果が小さく、一方、多量の添加は鋼板の延性を劣化させるので、0.0070%以下とする。
【0080】
V、Zr、W、Cr、Cu、Ni、および、Snは、機械的強度を高める他、耐水素脆性や加工性、形状凍結性の向上など、材質を改善する効果があるので、必要に応じて添加する。しかし、過度の添加は逆に加工性を劣化させるので、V、Zr、W、Cr、Cu、Ni、および、Snの上限を、それぞれ、0.4%、0.2%、0.3%、2%、2%、2%、および、0.2%とする。
【0081】
Ca、Mg、および、Remは、硫化物の形態を制御することで微細化合物を形成し、形状凍結性と伸びフランジ成形性を改善するので、必要に応じて、それぞれ、0.0005%以上、0.0001%以上、および、0.001%以上添加することが望ましい。過度に添加しても、格段の効果はなくコスト高となるので、Ca、Mg、および、Remのそれぞれ上限を、0.01%、0.03%、および、0.1%と設定した。
【0082】
なお、本発明では特に限定しないが、Oは微細化合物粒子の形成に役立つので、0.0005%以上添加しても構わない。
【0083】
溶融亜鉛めっき皮膜の化学成分は特に限定するものではなく、亜鉛(Zn)の他、Al、Mg、Cr、Ni、Cu、Mn、Feなどを含有しても構わない。合金化溶融亜鉛めっきの場合には、亜鉛(Zn)と鉄(Fe)との合金相が主であるが、その他の化合物を含有しても構わない。
【0084】
なお、本発明の鋼板の表面には、上記の溶融亜鉛めっきや合金化溶融亜鉛めっきのほか、種々のめっきや被覆が施されていても構わない。めっきの種類は特に限定するものではなく、電気めっき、溶融めっき、蒸着めっき等のいずれでも、本発明の効果が得られる。
【0085】
次に、製造方法について説明する。
【0086】
熱間圧延に先行する製造方法は特に限定するものではない。すなわち、高炉,転炉や電炉等による溶製に引き続き各種の2次製錬を行い、次いで、通常の連続鋳造、インゴット法による鋳造の他、薄スラブ鋳造などの方法で鋳造すればよい。連続鋳造の場合には、一度低温まで冷却したのち、再度加熱してから熱間圧延してもよいし、鋳造スラブを連続的に熱延してもよい。原料にはスクラップを使用しても構わない。
【0087】
本発明の形状凍結性に優れた鋼板は、上記成分組成の鋼を鋳造した後、熱間圧延後冷却まま、熱間圧延後熱処理、熱間圧延後冷却・酸洗し冷延した後に焼鈍、または、熱延鋼板もしくは冷延鋼板にめっきを施し、もしくは、溶融めっきラインにて熱処理を施したまま、さらには、これらの鋼板に別途表面処理を施すことによっても得られる。
【0088】
熱延の加熱温度は1150℃以上とする。加熱温度が1150℃未満では、TiやNbの化合物が十分に再固溶しないことから、十分な引張強度が得られないばかりでなく、集合組織を先鋭化させる効果が低減するとともに、粗大化合物によって穴拡げ性が劣化する。
【0089】
上限は特に限定しないが、加熱温度を1350℃超にしても効果が飽和するばかりで、コスト上、設備上、デメリットが大きいことから、1350℃が実質的な上限である。
【0090】
前記(1)の発明で規定する各結晶方位のX線強度比レベルを達成するためには、880℃未満で合計30%以上の圧延を行う。この圧延が行われないと、圧延されたオーステナイトの集合組織が十分に発達せず、そのために、次に、如何様な冷却を施しても、最終的に得られる熱延鋼板の板面に、前記(1)の発明で規定する極密度が得られない。したがって、880℃未満での圧下率合計の下限値を30%とした。
【0091】
合計圧下率は高いほどより先鋭な集合組織形成が期待されるので、40%以上とすることが好ましいが、この圧下率合計が97.5%を越えると、圧延機の剛性を過剰に高める必要があり、経済上のデメリットを生じるので、望ましくは97.5%以下とする。
【0092】
熱間圧延終了温度は、880℃以上では集合組織全体がランダム化することから形状凍結性が劣化するので、880℃未満を上限とする。さらには、850℃未満がより好ましい。なお、下限は特に指定しないが、Ar3変態温度未満では圧延荷重が変動しやすく、板厚精度が劣化するので、Ar3変態点以上で仕上げることが好ましい。
【0093】
880℃未満の熱間圧延時の熱間圧延ロールと鋼板との摩擦係数が0.2を越えている場合には、鋼板表面近傍における板面に、{110}面を主とする結晶方位が発達し、形状凍結性が劣化するので、より良好な形状凍結性を指向する場合には、Ar3変態温度以上(Ar3+100)℃以下の熱間圧延時における少なくとも1パスについて、熱間圧延ロールと鋼板との摩擦係数を0.2以下とすることが望ましい。
【0094】
この摩擦係数は、低ければ低いほど好ましく、下限は定めないが、さらに良好な形状凍結性が要求される場合には、Ar3変態温度以上(Ar3+100)℃以下の熱間圧延の全パスについて、摩擦係数を0.15以下とすることが望ましい。摩擦係数の測定方法は、特に規定しないが一般によく知られているように、先進率と圧延荷重から求めるのが望ましい。
【0095】
熱間圧延終了後は、以下に示す2つの方法のいずれかに従って冷却し、その後、巻き取る。
【0096】
第1の方法について説明する。熱間圧延終了温度から700℃以下までを30℃/s以上の平均冷却速度で冷却することによって、先鋭な集合組織を形成し、同時に、巻取中の微細化合物の形成を促す。30℃/s未満では、このような効果が小さくなるので、30℃/sを下限とする。
【0097】
巻取温度を580〜680℃の範囲とするのも、同様の理由からである。680℃超では粗大化合物が出現するため、形状凍結性および伸びフランジ成形性と引張強度とのバランスが劣化する。一方、580℃未満では、微細化合物を十分に得ることが困難となるため、580℃を下限とする。
【0098】
次に、第2の方法について説明する。熱間圧延終了温度から続く空冷開始温度までの平均冷却速度を15℃/s以上とする。15℃/s未満では、粗大化合物の量が多くなり、形状凍結性や伸びフランジ成形性を劣化させる。引き続き650〜720℃までの温度範囲内で5s間以上空冷する。これによって、微細化合物の生成と形状凍結性に好ましい集合組織形成を促進する効果がある。
【0099】
その後の巻取り温度は660℃以下とする。660℃を超えると粗大析出物が生成し形状凍結性が劣化する。下限は限定しないが常温未満ではコストアップし、特段の効果もないので常温以上とする。
【0100】
熱間圧延においては、粗圧延後にシートバーを接合し、連続的に仕上げ圧延をしてもよい。その際に、粗バーを一旦コイル状に巻き、必要に応じて、保温機能を有するカバーに格納し、再度巻き戻してから接合を行ってもよい。
【0101】
熱延鋼板には、必要に応じて、スキンパス圧延を施してもよい。スキンパス圧延には、加工成形時に発生するストレッチャーストレインの防止や形状矯正の効果があることは言うまでもない。
【0102】
このようにして得られた熱延鋼板を冷間圧延し、焼鈍して最終的な薄鋼板とする際には、冷間圧延の全圧下率を60%未満とする。60%以上では、一般的な冷間圧延−再結晶集合組織である板面に平行な結晶面のX線回折積分面強度比において、{111}面や{554}面成分が高くなり、本発明の特徴である前記(1)の発明で規定する結晶方位を満たさなくなるためである。
【0103】
形状凍結性を高めるためには、冷間圧下率を40%以下に制限することが望ましい。冷間圧延率の下限は特に定めることなく本発明の効果を得ることができるが、結晶方位の強度を適当な範囲に制御するためには、3%以上とすることが好ましい。
【0104】
このような範囲で冷間加工された冷延鋼板を焼鈍する際には、焼鈍温度が500℃未満の場合には加工組織が残留し成形性を著しく劣化させるので、焼鈍温度の下限を500℃とする。一方、焼鈍温度が800℃超になると、TiCおよびNbCが粗大化して穴拡げ性が劣化するとともに、形状凍結性も低下する。したがって、焼鈍温度は500〜800℃とする。
【0105】
冷延鋼板には、必要に応じてスキンパス圧延を施してもよい。
【0106】
熱延後および圧下率60%未満の冷延後に、溶融亜鉛めっきを施しても構わない。このとき、最高到達温度を500〜800℃とする。500℃未満では、溶融亜鉛めっき浴に浸漬する際の侵入板温が溶融亜鉛浴温度を大きく下回り、亜鉛を溶融状態に保つことが困難となるので、500℃を下限とする。また、800℃超では化合物粒子が粗大化して形状凍結性と穴拡げ性が低下するので、800℃を上限とする。
【0107】
溶融亜鉛めっき後には、必要に応じて、合金化処理を施しても構わない。合金化処理とは、Znと鋼板のFeとを反応せしめFeとZnとの化合物を形成させるための熱処理である。
【0108】
合金化処理温度が450℃未満では、反応に要する時間が過大になるので、450℃を下限とする。一方、600℃超では、合金化反応が進行しすぎて合金層が脆くなり、成形加工によってパウダリング等のトラブルを誘発するので、600℃を上限とする。好ましい範囲は480〜560℃である。
【0109】
なお、本発明に係る鋼板は、曲げ加工だけでなく、曲げ、張り出し、絞り等、曲げ加工を主体とする複合成形にも適用できる。
【0110】
(実施例1)
本発明の実施例を挙げながら、本発明の技術的内容について説明する。
【0111】
まず、表1に示す成分組成を有するAからKまでの鋼を用いて検討した結果について説明する。これらの鋼は、鋳造後1250℃に加熱され、その後、表2に示す条件で熱間圧延が施され、最終的には1.4mm厚の熱延鋼板とした。酸洗後、スキンパスを0.5%施した。
【0112】
【表1】

【0113】
【表2】

【0114】
この板から、50mm幅,270mm長さの試験片を作成し、ポンチ幅78mm、ポンチ肩R5、ダイ肩R5の金型を用いてハット曲げ試験を行った。
【0115】
曲げ試験を行った試験片は、三次元形状測定装置にて板幅中心部の形状を測定し、図1に示したように、点(a)と点(b)の接線と点(c)と点(d)の接線の交点の角度から90°を引いた値の左右での平均値をスプリング・バック量、点(c)と点(e)間の曲率の逆数を左右で平均化した値を壁そり量、左右の点(e)間の長さからポンチ幅を引いた値を寸法精度として形状凍結性を評価した。
【0116】
なお、曲げ方向は、曲げの稜線に対して垂直方向が、圧延方向と平行な場合にはL曲げ、曲げ稜線が圧延方向と平行な場合にはC曲げと称した。
【0117】
ところで、図2および図3に示すように、スプリング・バック量や壁そり量は、BHF(しわ押さえ力)によっても変化する。本発明の効果は、いずれのBHFで評価を行っても、その傾向は変わらないが、実機で実部品をプレスする際には、あまり高いBHFはかけられないことから、今回はBHF29kNで各鋼種のハット曲げ試験を行った。
【0118】
X線の測定は、鋼板の代表値として、板厚の7/16厚の位置で板面に平行なサンプルを調整し、実施した。
【0119】
穴拡げ試験は、1辺100mmの試験片の中央に径10mmの打ち抜き穴を加工し、その初期穴を頂角60°の円錐ポンチにて押し広げ、割れが鋼板を貫通した時点での穴径dの初期穴径10mmに対する穴広げ率λ(次式)で評価した。
λ={(d−10)/10}×100(%)
【0120】
化合物粒子の観察用試料には、板厚の3/8〜5/8の範囲から採取した薄膜を用い、電解放射型電子銃搭載の透過型電子顕微鏡にて、15万倍で10平方μm以上の面積について観察する。このとき視野の選択は無作為に行い、10視野以上とした。観察された粒子数を全粒子数とした。ただし、結晶粒界上の化合物粒子は無視した。全粒子数に対して径が15nm以下である粒子数の割合を求めた。
【0121】
表3に、JIS5号試験片にて測定した引張特性、X線ランダム強度比、スプリング・バック量、壁そり量および穴拡げ率を示す。なお、本発明の条件を満たしている鋼板の組織は、いずれも、フェライトまたはベイナイトが主相であった。
【0122】
本発明例は発明外のものに比べて、スプリング・バック量、壁そり量が小さくなり、結果として寸法精度が向上していることがわかる。本発明のものはいずれのケースも伸びフランジ性も良好である。即ち、本発明で限定される成分、各結晶方位の極密度、r値、化合物粒子の条件を満たして初めて良好な形状凍結性と高伸びフランジ性鋼板を得ることが可能になるのである。
【0123】
【表3】

【0124】
(実施例2)
実施例1に示した、B−1、C−1およびI−1を700℃および850℃に加熱し、40s間保持した後、460℃まで10℃/sの速度で冷却した後、溶融Znめっき浴(Al量=0.09%)に浸漬し、さらに、530℃,40s間の合金化処理を施した。スキンパス圧延率は0.5%とした。
【0125】
表4から明らかな通り、加熱温度を本発明の範囲である700℃とした場合には、850℃の場合に比較して良好な特性を示した。
【0126】
【表4】

【0127】
(実施例3)
実施例1に示した、B−1、C−1およびI−1の熱延板を圧下率30%で冷間圧延後、700℃および850℃に加熱し、60s間保持した後、5℃/sにて20s間冷却した後、350℃にて250s間保持した後、室温まで冷却し、スキンパスを0.3%施した。
【0128】
表5から明らかな通り、加熱温度を本発明の範囲である700℃とした場合には、850℃の場合に比較して良好な特性を示した。
【0129】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0130】
本発明によれば、前述したように、自動車車体の軽量化をより一層推進することができる。したがって、本発明は、工業的に極めて高い利用可能性を有する発明である。
【図面の簡単な説明】
【0131】
【図1】ハット曲げ試験に用いた試験片の断面を示す図である。
【図2】スプリングバック量とBHF(しわ押さえ力)の関係を示す図である。
【図3】壁そり量とBHF(しわ押さえ力)の関係を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェライトまたはベイナイトを面積率で最大相とし、1/2板厚における板面の{001}<110>〜{223}<110>方位群のX線ランダム強度比の平均値が6.0以上で、かつ、これらの方位群の中で{112}<110>方位および{001}<110>方位のうちいずれか一方または両方のX線ランダム強度比が8.0以上であり、加えて、圧延方向のr値および圧延方向と直角方向のr値のうち少なくとも1つが0.8以下で、かつ、径が15nm以下の化合物粒子の個数が全化合物粒子の個数の60%以上であることを特徴とする形状凍結性に優れた高強度鋼板。
【請求項2】
質量%で、
C :0.02%以上、0.15%以下、
Si:0.5%超、1.6%以下、
Mn:0.01%以上、3.0%以下、
P :0.02%以下、
S :0.01%以下、
Al:2.0%以下、
N :0.01%以下、
O :0.01%以下を含有し、さらに、
Ti:0.05%以上、0.4%以下
を含有し、残部は鉄および不可避的不純物よりなることを特徴とする請求項1に記載の形状凍結性に優れた高強度鋼板。
【請求項3】
質量%で、さらに、Nb:0.4%以下、Mo:1.0%以下の1種または2種を含有することを特徴とする請求項2に記載の形状凍結性に優れた高強度鋼板。
【請求項4】
質量%で、さらに、B:0.0002〜0.0070%を含有することを特徴とする請求項2または3に記載の形状凍結性に優れた高強度鋼板。
【請求項5】
質量%で、さらに、V:0.4%以下、Zr:0.2%以下、W:0.3%以下、Cr:2%以下、Cu:2%以下、Ni:2%以下、Sn:0.2%以下、の1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項2〜4のいずれか1項に記載の形状凍結性に優れた高強度鋼板。
【請求項6】
質量%で、さらに、Ca:0.0005%以上、0.01%以下、Mg:0.0001%以上、0.03%以下、Rem:0.001%以上、0.1%以下、の1種または2種を含有することを特徴とする請求項2〜5のいずれか1項に記載の形状凍結性に優れた高強度鋼板。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の形状凍結性に優れた高強度鋼板の表面に溶融亜鉛めっきを有することを特徴とする形状凍結性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の形状凍結性に優れた高強度鋼板の表面に合金化溶融亜鉛めっきを有することを特徴とする形状凍結性に優れた高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の形状凍結性に優れた高強度鋼板を製造する方法であって、請求項2〜6のいずれか1項に記載の成分組成からなる鋼片を熱間圧延するに当たり、1150℃以上に加熱し、880℃未満での圧下率の合計が30%以上となるように熱間圧延し、880℃未満で熱間圧延を終了し、熱間圧延終了温度から700℃以下までを30℃/s以上の平均冷却速度で冷却した後、580〜680℃で巻き取ることを特徴とする形状凍結性に優れた高強度鋼板の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の形状凍結性に優れた高強度鋼板を製造する方法であって、請求項2〜6のいずれか1項に記載の成分組成からなる鋼片を熱間圧延するに当たり、1150℃以上に加熱し、880℃未満での圧下率の合計が30%以上となるように熱間圧延し、880℃未満で熱間圧延を終了し、平均冷却速度15℃/s以上で冷却し、650〜720℃の範囲で5s以上空冷した後、660℃以下で巻き取ることを特徴とする形状凍結性に優れた高強度鋼板の製造方法。
【請求項11】
請求項9または10に記載の形状凍結性に優れた高強度鋼板を60%未満の圧下率で冷間圧延し、その後、500〜800℃の温度範囲に加熱し、冷却することを特徴とする形状凍結性に優れた高強度鋼板の製造方法。
【請求項12】
請求項9または10に記載の形状凍結性に優れた高強度鋼板の製造方法により製造した鋼板、または、該鋼板を60%未満の圧下率で冷間圧延した鋼板を500〜800℃の温度範囲に加熱し、その後、溶融亜鉛めっきを施すことを特徴とする形状凍結性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項13】
請求項12に記載の溶融亜鉛めっきに引き続き、450〜600℃の範囲で合金化処理を施すことを特徴とする形状凍結性に優れた高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−22349(P2006−22349A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−199354(P2004−199354)
【出願日】平成16年7月6日(2004.7.6)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】