説明

形状測定装置およびこれに用いる光学フィルタ

【課題】装置構造を大型化することなく、光切断法によって至近距離から大型な被測定物の形状を精度よく測定できること。
【解決手段】本発明の一態様である形状測定装置1は、被測定物15にスリット光L1を照射し、フィルタ3およびレンズ4を介して被測定物15からのスリット光L1を撮像して、被測定物15の形状を測定する。フィルタ3は、レンズ4の物体側主点4aを中心として被測定物15側に凸な弧形状をなし、スリット光L1を透過するとともにスリット光L1以外を遮光する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光切断法によって被測定物の形状を測定する形状測定装置およびこれに用いる光学フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、被測定物の立体形状を測定する手法として光切断法が公知である。光切断法は、一般に、レーザ光等の高輝度スリット光を被測定物に照射し、得られたスリット光像をもとに、被測定物の凹凸等の表面形状を測定する。
【0003】
例えば、光切断法では、図16に示すように、スリット光源101によって被測定物100の表面にスリット光を照射し、スリット光の照射方向とは別の方向から、撮像装置102によって被測定物100から反射したスリット光を撮像し、得られた被測定物100のスリット光像を表示装置103に表示する。この被測定物100の表面形状は、得られたスリット光像の変形量および撮像光学系の幾何学的配置等をもとに算出される。
【0004】
このような光切断法は、単純な光学系によって大型な物体の測定も可能であり、また、光学系の配置によって凹凸の測定感度を大幅に調整できる等の利点がある。このため、近年の画像処理技術の進歩に伴い、ロボット用の視覚センサなどに適用される立体形状入力法として注目されている。
【0005】
また、鉄鋼業においても、光切断法は、冷却せずに高温状態を維持しつつスリット光に沿った方向の形状を取得できるという利点から、鋼管等の鉄鋼製品を製造する際に生成される高温な中間製品の形状検査に応用されている(特許文献1〜3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−322513号公報
【特許文献2】特開2004−181471号公報
【特許文献3】特開2004−117053号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、近年の鉄鋼業においては、鋼管等の鉄鋼製品のみならず、コークス炉等の大型且つ高温な設備の点検に好適な光切断法による形状測定が要望されている。例えば、光切断法によってコークス炉内の形状を測定し、コークス炉内壁面の凹凸状態を検査することが可能な形状測定装置が必要とされている。コークス炉内の点検においては、高温なコークス炉に形状測定装置を接近させて、コークス炉内壁面の凹凸状態を広範囲に測定しなければならない。
【0008】
このため、形状測定装置の投光範囲および受光範囲をより大きくする必要がある。このうち、投光範囲については、形状測定装置のスリット光源を変更して、より広範囲にスリット光を照射すればよいが、これは、スリット光源のスリット長を変更する等の手法によって容易に達成できる。
【0009】
一方、受光範囲については、形状測定装置の光学系を変更して、受光角範囲すなわち画角をより大きくする必要がある。この場合、形状測定装置は、今まで以上に大きい入射角の範囲に亘って、被測定物から反射したスリット光を受光することになる。
【0010】
ここで、形状測定装置には、一般に、被測定物から反射したスリット光を感度よく受光するために、干渉フィルタ等の光学フィルタを備えている。ところが、光学フィルタの光透過特性は、光の入射角の増加に伴って低くなる。
【0011】
このため、被測定物に照射するスリット光の波長に限定した光透過特性を有する光学フィルタを用いた場合、この光学フィルタは、入射角の大きなスリット光、すなわち、光軸部位から縁側へ所定の距離以上離れた領域に入射したスリット光を遮断してしまう。この結果、被測定物から反射したスリット光を感度よく検出できないことから、光切断法によって至近距離から大型な被測定物の形状を精度よく測定できないという問題があった。
【0012】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、装置構造を大型化することなく、光切断法によって至近距離から大型な被測定物の形状を精度よく測定できる形状測定装置およびこれに用いる光学フィルタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかる形状測定装置は、被測定物にスリット光を照射し、前記被測定物から反射した前記スリット光の反射光をレンズを介して撮像するとともに前記反射光以外を遮光して、前記被測定物の形状を測定する形状測定装置において、前記レンズの収束点に対して前記被測定物側に凸な弧形状をなし、前記反射光を透過するとともに前記反射光以外を遮光する透光性膜を有する光学フィルタを備えたことを特徴とする。
【0014】
また、本発明にかかる形状測定装置は、上記の発明において、前記透光性膜は、前記収束点を含む軸を中心軸とする円筒の一部分をなすことを特徴とする。
【0015】
また、本発明にかかる形状測定装置は、上記の発明において、前記円筒の中心軸は、前記スリット光の中心光軸と直交することを特徴とする。
【0016】
また、本発明にかかる形状測定装置は、上記の発明において、前記中心軸は、前記スリット光の長軸方向に対して垂直であることを特徴とする。
【0017】
また、本発明にかかる形状測定装置は、上記の発明において、前記透光性膜は、前記収束点を中心とする球面体の一部分をなすことを特徴とする。
【0018】
また、本発明にかかる形状測定装置は、上記の発明において、前記透光性膜は、連続的な円弧形状に形成されたことを特徴とする。
【0019】
また、本発明にかかる形状測定装置は、上記の発明において、前記透光性膜は、前記反射光を透過する板状光学部材の内部に、前記反射光の長軸方向に沿って離散した状態で配置されることを特徴とする。
【0020】
また、本発明にかかる光学フィルタは、被測定物に照射したスリット光の反射光を集光するレンズを有し、光切断法によって前記被測定物の形状を測定する形状測定装置の光学フィルタにおいて、前記レンズの収束点に対して前記被測定物側に凸な弧形状をなし、前記反射光を透過するとともに前記反射光以外を遮光する透光性膜を備えたことを特徴とする。
【0021】
また、本発明にかかる光学フィルタは、上記の発明において、前記透光性膜は、前記収束点を含む軸を中心軸とする円筒の一部分をなすことを特徴とする。
【0022】
また、本発明にかかる光学フィルタは、上記の発明において、前記円筒の中心軸は、前記スリット光の中心光軸と直交することを特徴とする。
【0023】
また、本発明にかかる光学フィルタは、上記の発明において、前記中心軸は、前記スリット光の長軸方向に対して垂直であることを特徴とする。
【0024】
また、本発明にかかる光学フィルタは、上記の発明において、前記透光性膜は、前記収束点を中心とする球面体の一部分をなすことを特徴とする。
【0025】
また、本発明にかかる光学フィルタは、上記の発明において、前記透光性膜は、連続的な円弧形状に形成されたことを特徴とする。
【0026】
また、本発明にかかる光学フィルタは、上記の発明において、前記透光性膜は、前記反射光を透過する板状光学部材の内部に、前記反射光の長軸方向に沿って離散した状態で配置されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
本発明にかかる形状測定装置によれば、より広範囲な画角に亘って、被測定物から反射したスリット光を感度よく検出できるため、装置構造を大型化することなく、光切断法によって至近距離から大型な被測定物の形状を精度よく測定できるという効果を奏する。
【0028】
また、本発明にかかる光学フィルタによれば、被測定物から反射したスリット光を感度よく検出できる画角を一層広範囲にすることができるため、装置構造を大型化することなく、光切断法によって至近距離から大型な被測定物の形状を精度よく測定可能な形状測定装置を実現できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】図1は、本発明の実施の形態1にかかる形状測定装置の一構成例を模式的に示すブロック図である。
【図2】図2は、本発明の実施の形態1にかかる光学フィルタの一構成例を示す模式図である。
【図3】図3は、従来のフィルタの光軸近傍にスリット光が入射する状態を示す模式図である。
【図4】図4は、従来のフィルタの縁部近傍にスリット光が入射する状態を示す模式図である。
【図5】図5は、本実施の形態1にかかる光学フィルタにスリット光が入射する状態を示す模式図である。
【図6】図6は、本発明の実施の形態1にかかる光学フィルタを取り外した形状測定装置によるスリット光の検出結果の一例を示す図である。
【図7】図7は、図6の状態に外乱光を追加した場合のスリット光の検出結果を示す図である。
【図8】図8は、本発明の実施の形態1にかかる形状測定装置によるスリット光の検出結果の一例を示す図である。
【図9】図9は、従来の形状測定装置によるスリット光の検出結果の一例を示す図である。
【図10】図10は、従来の形状測定装置によるスリット光の検出結果の別例を示す図である。
【図11】図11は、本発明の実施の形態2にかかる形状測定装置の一構成例を模式的に示すブロック図である。
【図12】図12は、本発明の実施の形態2にかかる光学フィルタの一構成例を示す模式図である。
【図13】図13は、本実施の形態2にかかる光学フィルタにスリット光が入射する状態を示す模式図である。
【図14】図14は、本発明にかかる光学フィルタの一変形例の構成を示す断面模式図である。
【図15】図15は、本発明にかかる光学フィルタの別変形例の構成を示す断面模式図である。
【図16】図16は、光切断法による従来の形状測定装置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に、添付図面を参照して、この発明にかかる形状測定装置およびこれに用いる光学フィルタの好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、この実施の形態により、この発明が限定されるものではない。
【0031】
(実施の形態1)
まず、本発明の実施の形態1にかかる形状測定装置の構成について説明する。図1は、本発明の実施の形態1にかかる形状測定装置の一構成例を模式的に示すブロック図である。図1に示すように、この形状測定装置1は、被測定物15にスリット光L1を照射するスリット光源2と、被測定物15から反射したスリット光L1を透過するフィルタ3と、フィルタ3を透過したスリット光L1を結像するレンズ4と、レンズ4によって結像されたスリット光L1を撮像する撮像部5と、を備える。また、形状測定装置1は、オンオフ状態を切り替えるための入力部6と、入力部6からの入力信号に対応してスリット光源2および撮像部5を制御する制御部7と、撮像部5によって撮像されたスリット光L1の画像処理を行う画像処理部8と、被測定物15に照射されたスリット光L1の形状を表示する表示部9と、防塵および遮光等のための筐体10とを備える。
【0032】
スリット光源2は、被測定物15の測定範囲にわたって概平面状の光を照射するものである。具体的には、スリット光源2は、半導体レーザ素子およびレンズを一体化したスリットレーザ光源を用いて実現され、所定の波長帯域のスリット光L1を被測定物15の測定表面15aに照射する。
【0033】
フィルタ3は、被測定物15の形状測定に必要な光を選択的に透過する光学フィルタである。具体的には、フィルタ3は、干渉フィルタ等を用いて実現され、図1に示すように、レンズ4の前段(被測定物15側)に固定配置される。この場合、フィルタ3は、レンズ4によって規定される画角の範囲内に配置される。さらには、フィルタ3は、スリット光L1の反射光の入射範囲内、すなわち図1に示す測定表面15a上のスリット光L1の両端とレンズ4の物体側主点4aとを結ぶ破線の範囲内に配置される。
【0034】
また、フィルタ3は、物体側主点4aに対して被測定物15側に凸な弧形状をなしており、被測定物15から反射したスリット光L1をレンズ4側に透過するとともに、外乱光等の被測定物15の形状測定に不要な光成分を遮光する。
【0035】
レンズ4は、図1に示すように、フィルタ3と撮像部5との間に配置され、フィルタ3によって選択的に透過されたスリット光L1の反射光を集光し、この集光した反射光を撮像部5の受光面に結像する。
【0036】
撮像部5は、撮像素子5aを有し、レンズ4によって結像されたスリット光L1の反射光像を撮像する。この場合、撮像素子5aは、レンズ4によって結像された反射光を受光し、受光した反射光の強弱を画素アドレスに対応した電気信号に変換する。その後、撮像部5は、撮像素子5aによって得られた電気信号を画像処理部8に送信する。
【0037】
なお、上述したレンズ4および撮像部5は、各々公知のカメラレンズおよびエリアセンサカメラ等を用いればよく、測定範囲と分解能、すなわち被測定物15上における撮像素子5aの縦画素数および横画素数あたりの寸法を勘案して選択すればよい。
【0038】
入力部6は、オンオフを切り替えるスイッチ等を用いて実現され、操作者の入力操作に対応して、測定開始を指示する開始指示信号または測定終了を指示する終了指示信号を制御部7に入力する。
【0039】
制御部7は、入力部6によって入力された指示情報をもとに、スリット光源2および撮像部5の動作タイミングを制御する。具体的には、制御部7は、開始指示信号が入力された場合、スリット光L1を照射するようスリット光源2を制御するとともに、スリット光L1の反射光像を撮像して、得られた画像データを画像処理部8に順次送信するよう撮像部5を制御する。一方、制御部7は、終了指示信号が入力された場合、スリット光L1の照射動作を停止するようスリット光源2を制御するとともに、撮像動作を停止するよう撮像部5を制御する。
【0040】
画像処理部8は、スリット光L1の画像データに対して所定の画像処理を行って、被測定物15の形状を測定するためのものである。具体的には、画像処理部8は、撮像素子5aによって電気信号に変換された画像データを撮像部5から取得し、得られた画像データを数値データに変換する。その後、画像処理部8は、この数値データをもとに、測定表面15a上のスリット光L1の形状を算出し、この算出結果をもとに、被測定物15の凹凸等の形状を算出する。
【0041】
なお、このような画像処理部8は、公知な画像入力回路および画像処理回路を用いて実現でき、あるいは画像インターフェイスボードおよびパーソナルコンピュータの組合せによって簡易に実現できる。また、上述したスリット光L1の形状算出結果に基づく被測定物15の形状算出処理は、公知な細線化処理および初等演算処理の組合せによって実現可能であり、さらには必要に応じて、公知なシェーディング補正によって元の画像のムラを補正する前処理を加えればよい。
【0042】
表示部9は、画像処理部8からスリット光L1の画像データおよび被測定物15の形状測定データを取得し、得られたデータをもとに、スリット光L1の反射光像および被測定物15の形状測定結果等を表示する。
【0043】
筐体10は、上述したスリット光源2、フィルタ3、レンズ4、撮像部5および制御部7を収容する。ここで、コークス炉等の製造現場においては、鉄鋼製品または設備から高い熱または粉塵等が発生する。これに対し、筐体10は、製造現場において形状測定装置1を使用する際に、これら形状装置測定装置1の内部構成部の耐熱(さらには冷却)および防塵を確保する。
【0044】
また、筐体10には、図1に示したように、被測定物15にスリット光L1を照射するための開口部10aがスリット光源2の近傍に形成され、被測定物15から反射したスリット光L1を入射するための開口部10bがフィルタ3の近傍に形成されている。
【0045】
なお、開口部10a、10bには、各々透光部11、12が設けられる。透光部11、12は、スリット光L1の波長帯域に対して透明なガラス部材または樹脂部材等によって実現される。透光部11は、スリット光L1の照射を阻害せずに筐体10による内部の防塵性を高める。一方、透光部12は、スリット光L1の入射を阻害せずに筐体10による内部の防塵性を高める。
【0046】
つぎに、図1に示したフィルタ3の構成について詳細に説明する。図2は、本発明の実施の形態1にかかる光学フィルタの一構成例を示す模式図である。図2に示すように、フィルタ3は、スリット光L1の波長帯域に対して透明なガラス基板3aと、光の干渉を発生させるための透光性膜である誘電体金属膜3bとを用いて実現される。誘電体金属膜3bは、蒸着等の製法によってガラス基板3aの一表面に形成される。また、フィルタ3は、上述したレンズ4の物体側主点4aを含む軸を円筒中心軸とし、ガラス基板3aの外側に誘電体金属膜3bが位置する部分的な円筒形状に形成される。
【0047】
ここで、図2に示すように、このフィルタ3に対して、図1に示したレンズ4の光軸C、X軸およびY軸による3軸の直交座標系を設定する。この直交座標系の3軸のうち、X軸は、スリット光L1の長軸方向に対して平行な軸とし、Y軸は、物体側主点4aを含む円筒中心軸に対して平行な軸とする。
【0048】
まず、X軸方向について、誘電体金属膜3bは、物体側主点4aに対して連続的な円弧形状に形成される。詳細には、誘電体金属膜3bは、図2に示す3軸の直交座標系において、上述した被測定物15側に凸であり、物体側主点4aを含む円筒中心軸を中心とする円筒の一部分をなす。一方、Y軸方向について、この円筒中心軸は、上述したスリット光L1の長軸方向に対して垂直である。さらに、この円筒中心軸は、上述したスリット光L1の中心光軸と直交する。
【0049】
つぎに、フィルタ3の光透過作用について詳細に説明する。図3は、従来のフィルタの光軸近傍にスリット光が入射する状態を示す模式図である。図4は、従来のフィルタの縁部近傍にスリット光が入射する状態を示す模式図である。図5は、本実施の形態1にかかる光学フィルタにスリット光が入射する状態を示す模式図である。なお、図3、4に示す従来のフィルタ110は、平板形状の光学フィルタであり、フィルタ形状が異なること以外、本実施の形態1にかかるフィルタ3と同様の構成を有する。
【0050】
図3に示すように、被測定物15(図1参照)から反射したスリット光L1がフィルタ110の光軸C近傍に入射した場合、フィルタ110に対するスリット光L1の入射角θは、ほぼ零に近い値となる。この場合、誘電体金属膜3bの膜厚dと誘電体金属膜3b内を通過するスリット光L1の経路長(d×cosθ)とは、ほぼ同等の長さになる。このため、スリット光L1は、フィルタ110の光軸C近傍に入射した後、膜厚dの誘電体金属膜3b本来の干渉作用を受けて透過し、その後、ガラス基板3a内を通過する。
【0051】
一方、図4に示すように、スリット光L1がフィルタ110の縁部近傍に入射した場合、入射角θは、上述した光軸C近傍への入射の場合に比して大きい値となる。この場合、スリット光L1の経路長(d×cosθ)は、誘電体金属膜3bの膜厚dに比して無視できない程に大きい値となる。このため、スリット光L1が通過する誘電体金属膜3bの膜厚が等価的に大きな値となる。
【0052】
ここで、図3、4に示すような平板形状のフィルタ110では、スリット光L1の入射位置が光軸Cからフィルタ110の縁側へ変位した場合、この変位に伴い、スリット光L1の入射角θが増大する。このような入射角θの増大に伴って、誘電体金属膜3b内でのスリット光L1の経路長が増大し、この結果、フィルタ110本来の透過波長帯域がスリット光L1の波長帯域から外れてしまう。これによって、本来透過するべきスリット光L1がフィルタ110の縁部近傍において透過しなくなる。
【0053】
これに対し、本実施の形態1にかかるフィルタ3では、上述したように、誘電体金属膜3bが、物体側主点4aを含む円筒中心軸を中心にして円筒の一部分をなし、連続的な円弧形状に形成されている。このため、スリット光L1の入射位置が光軸Cからフィルタ3の縁側へ変位した場合であっても、スリット光L1の入射角θの増大を抑制でき、この結果、光軸Cから縁部に至るフィルタ3の全受光範囲において、入射角θを低減できる。
【0054】
具体的には、図5に示すように、X軸方向について光軸Cから縁部に至るフィルタ3の受光範囲(斜線部)では、いずれの位置にスリット光L1が入射しても、入射角θは、スリット光L1が光軸Cの位置に入射した場合と同様の角度、好適には零度になる。
【0055】
この結果、誘電体金属膜3b内を透過するスリット光L1の経路長の増大を抑制できるため、フィルタ3の全受光範囲において、スリット光L1の検出に適した透過波長帯域を確保できる。これによって、フィルタ3は、被測定物15の両端の範囲に亘って広範囲から反射してきたスリット光L1を感度よく透過できるとともに、外乱光等のスリット光L1以外の不要な光を遮断できる。
【実施例】
【0056】
つぎに、本発明の実施の形態1にかかる形状測定装置1の実施例を示して、この実施の形態1による作用効果を具体的に説明する。図6は、本発明の実施の形態1にかかる光学フィルタを取り外した形状測定装置によるスリット光の検出結果の一例を示す図である。図7は、図6の状態に外乱光を追加した場合のスリット光の検出結果を示す図である。図8は、本発明の実施の形態1にかかる形状測定装置によるスリット光の検出結果の一例を示す図である。図9は、従来の形状測定装置によるスリット光の検出結果の一例を示す図である。図10は、従来の形状測定装置によるスリット光の検出結果の別例を示す図である。
【0057】
図1に示した形状測定装置1において、物体側主点4aはレンズ4の先端から内側に120mmの位置にあり、レンズ4の先端径は85mmであった。このため、レンズ4とフィルタ3との物理的干渉等を考慮して、円筒形状のフィルタ3の半径は130mmとした。なお、この半径は、フィルタ3の外表面から物体側主点4aまでの距離、すなわち図2に示したように、物体側主点4aを中心とした円弧形状の誘電体金属膜3bの半径である。
【0058】
一方、スリット光源2は、主ピーク波長が532nmであり、半値幅が3nmであるスリット光L1を照射する。これに対応して、フィルタ3は、中心透過波長が532nmであり、半値幅が5nmである光透過特性を有する干渉フィルタとした。
【0059】
まずは、比較例として、この形状測定装置1からフィルタ3を取り外し、被測定物15の一例として平面パネルを用いてスリット光L1の検出を行った。具体的には、この形状測定装置1の前方1000mmの位置に平面パネルを配置し、この平面パネルにスリット光源2によってスリット光L1を照射して、この平面パネルから反射したスリット光L1をフィルタ3を介さずに撮像した。この結果、図6に示すように、平面パネルの両端に亘ってスリット光が検出された。
【0060】
つぎに、上述した状態に、広帯域のハロゲンランプによる外乱光を平面パネルに更に照射しつつ、この平面パネルから反射したスリット光L1および外乱光をフィルタ3を介さずに撮像した。この結果、図7に示すように、スリット光L1に比して外乱光の影響度合いが酷く、そのため、外乱光の照射位置においてスリット光L1と外乱光とが区別できなくなっていた。
【0061】
これに対し、形状測定装置1にフィルタ3を取り付けてスリット光L1および外乱光を照射した状態にし、同一の平面パネルを撮像した。この結果、図8に示すようなスリット光検出結果が得られた。すなわち、フィルタ3は、測定に不要な光成分である外乱光を遮断しつつ、平面パネルから反射したスリット光L1を撮像視野の全域に亘って明瞭に透過できる。
【0062】
このフィルタ3を備えることによって、形状測定装置1は、外乱光等の形状測定に不要な光を除外しつつ、画角の広い受光範囲から入射したスリット光L1を感度よく検出できる。このような形状測定装置1は、コークス炉の内壁面等の高温且つ広範囲な被測定物の形状を精度よく測定することができる。
【0063】
なお、上述したフィルタ3に代えて、平板形状に形成された従来の干渉フィルタを形状測定装置1に取り付けた場合、図9に示すようなスリット光L1の検出結果が得られた。この場合、従来の干渉フィルタによって外乱光を遮断することは可能だが、図9に示すように、平面パネルの中心部近傍から反射したスリット光L1を辛うじて検出できる程度である。一方、平面パネルの縁側近傍から反射したスリット光L1は、その検出強度が著しく低下し、その結果、図9に示すように検出できなかった。
【0064】
一方、別の比較例として、上述したフィルタ3に代えて、S/N比の低下を防ぐために透過波長帯域を528〜570nmに広げた平面形状の干渉フィルタを形状測定装置1に取り付けて、同様のスリット光検出実験を行った。この結果、図10に示すように、スリット光L1を検出することはできたが、同時に外乱光を検出してしまい、形状測定精度は不十分であった。
【0065】
以上、説明したように、本発明の実施の形態1では、フィルタ3が、レンズ4の物体側主点4aに対し、スリット光L1の長軸方向に沿って被測定物15側に凸な円弧形状をなしている。このため、光軸Cの位置から縁部に至るフィルタ3の全受光範囲内のいずれの位置においても、フィルタ3に対するスリット光L1の入射角θは、入射位置が光軸Cの位置である場合と同様になる。
【0066】
この結果、フィルタ3の全受光範囲において、スリット光L1の検出に適した透過波長帯域を確保できる。これによって、被測定物15の両端の範囲に亘って広範囲から反射してきたスリット光L1を感度よく透過できるとともに、外乱光等のスリット光L1以外の不要な光を遮断でき、この結果、装置構造を大型化することなく、光切断法によって至近距離からコークス炉等の大型な被測定物の形状を精度よく測定することができる。
【0067】
(実施の形態2)
つぎに、本発明の実施の形態2について説明する。上述した実施の形態1では、円筒の一部分をなす形状のフィルタ3を用いていたが、この実施の形態2では、球面体の一部分をなす形状の干渉フィルタを用いている。
【0068】
図11は、本発明の実施の形態2にかかる形状測定装置の一構成例を模式的に示すブロック図である。図11に示すように、この形状測定装置21は、上述した実施の形態1にかかる形状測定装置1のフィルタ3に代えてフィルタ23を備える。その他の構成は実施の形態1と同じであり、同一構成部分には同一符号を付している。
【0069】
フィルタ23は、被測定物15の形状測定に必要な光を選択的に透過する光学フィルタであり、上述した実施の形態1にかかるフィルタ3と同様に、レンズ4の前段に固定配置される。なお、フィルタ23は、その形状が球面体の一部分をなすものであること以外、実施の形態1にかかるフィルタ3と同様である。
【0070】
つぎに、フィルタ23の構成について詳細に説明する。図12は、本発明の実施の形態2にかかる光学フィルタの一構成例を示す模式図である。なお、図12では、フィルタ23の構成を説明し易くするために、フィルタ23の一部破断面が示されている。
【0071】
図12に示すように、フィルタ23は、ガラス基板3aの一表面に誘電体金属膜3bが蒸着等の製法によって形成されており、ガラス基板3aの外側に誘電体金属膜3bが位置する部分的な球面体形状に形成される。
【0072】
ここで、図12に示すように、このフィルタ23に対して、図11に示したレンズ4の光軸C、X軸およびY軸による3軸の直交座標系を設定する。この直交座標系の3軸のうち、X軸はスリット光L1の長軸方向に対して平行な軸とし、Y軸はスリット光L1の長軸方向に対して垂直な軸とする。
【0073】
この場合、誘電体金属膜3bは、X軸方向およびY軸方向の双方について、物体側主点4aに対して連続的な円弧形状をなす。詳細には、誘電体金属膜3bは、図12に示す3軸の直交座標系において、上述した被測定物15側に凸であり、物体側主点4aを中心点とする連続的な球面体の一部分をなす。
【0074】
つぎに、フィルタ23の光透過作用について詳細に説明する。図13は、本実施の形態2にかかる光学フィルタにスリット光が入射する状態を示す模式図である。図13には、フィルタ23の凸形状側、すなわち誘電体金属膜3b側からスリット光L1が入射する状態が示されている。
【0075】
ここで、平板形状に形成された従来のフィルタ110では、図3、4に示したように、スリット光L1の入射位置の変位に伴い、スリット光L1の入射角θが増大し、この入射角θの増大に伴って、誘電体金属膜3b内でのスリット光L1の経路長が増大する。この結果、フィルタ110本来の透過波長帯域がスリット光L1の波長帯域から外れてしまい、本来透過するべきスリット光L1がフィルタ110の縁部近傍において透過しなくなる。
【0076】
これに対し、本実施の形態2にかかるフィルタ23では、上述したように、誘電体金属膜3bが、物体側主点4aに対して球面体の一部分をなしており、少なくともスリット光L1の長軸方向について連続的な円弧形状をなす。このため、フィルタ23は、実施の形態1にかかるフィルタ3と同様の光透過作用を享受し、この結果、光軸Cから縁部に至るフィルタ23の全受光範囲において、入射角θを低減できる。
【0077】
具体的には、図13に示すように、X軸方向すなわちスリット光L1の長軸方向について光軸Cから縁部に至るフィルタ3の受光範囲(斜線部)では、いずれの位置にスリット光L1が入射しても、入射角θは、スリット光L1が光軸Cの位置に入射した場合と同様の角度、好適には零度になる。
【0078】
この結果、誘電体金属膜3b内を透過するスリット光L1の経路長の増大を抑制できるため、フィルタ23の全受光範囲において、スリット光L1の検出に適した透過波長帯域を確保できる。これによって、フィルタ23は、被測定物15の両端の範囲に亘って広範囲から反射してきたスリット光L1を感度よく透過できるとともに、外乱光等のスリット光L1以外の不要な光を遮断できる。
【0079】
以上、説明したように、本発明の実施の形態2では、フィルタ23が、レンズ4の物体側主点4aに対して球面形状の一部分をなすことによって、少なくともスリット光L1の長軸方向に沿って、被測定物15側に凸な円弧形状をなしている。このため、上述した実施の形態1の場合と同様の作用効果を享受するとともに、球面体の一部をなすことによって、フィルタ23の全面について被測定物15側に凸な円弧形状をなすことから、被測定物15に対して、フィルタ23の光軸C周りの位置調整を容易に行うことができる。
【0080】
なお、上述した実施の形態1、2では、誘電体金属膜3bが連続的な円弧形状に形成されていたが、これに限らず、被測定物15側に凸な弧形状であれば、図14、15に示すように不連続な形状の誘電体金属膜であってもよい。
【0081】
図14に示すフィルタ33の誘電体金属膜33bは、物体側主点4aを中心としてX軸方向に断続的に弧形状をなし、上述した被測定物15側に凸に形成される。この誘電体金属膜33bの断面形状は、例えばフレネルレンズ状である。なお、この誘電体金属膜33bは、図14に示すように、スリット光L1に対して透明なガラス基板33aの一表面に形成される。
【0082】
一方、図15に示すフィルタ43では、スリット光L1を透過する板状光学部材43aの内部に、X軸方向に沿って離散した状態で誘電体金属膜43b−1〜43b−7が配置される。誘電体金属膜43b−1〜43b−7の各々は、物体側主点4aを中心として被測定物15側に凸な弧形状をなしている。また、誘電体金属膜43b−1は、隣り合う誘電体金属膜43b−2、43b−5と光軸Cの方向について重なる。同様に、誘電体金属膜43b−3は、隣り合う誘電体金属膜43b−2、43b−4と光軸Cの方向について重なり、誘電体金属膜43b−6は、隣り合う誘電体金属膜43b−5、43b−7と光軸Cの方向について重なる。
【0083】
すなわち、図14、15に例示したように、本発明にかかる光学フィルタの全体的な外形は、物体側主点4aに対して被測定物15側に凸な弧形状の誘電体金属膜を備えていれば、円筒形状または球面形状に限らず、板状であってもよい。
【0084】
また、上述した実施の形態1、2では、レンズ4の物体側主点4aをフィルタ形状の中心としていたが、これに限らず、レンズ4の収束点をフィルタ形状の中心とすればよい。すなわち、上述した物体側主点4aに代えてレンズ4の像側主点をフィルタ形状の中心としてもよい。
【0085】
さらに、上述した実施の形態1、2では、ガラス基板の表面に誘電体金属膜を形成したフィルタを用いていたが、これに限らず、ガラス基板に代えて樹脂基板等のスリット光L1に対して透明な透光性部材の表面に誘電体金属膜を形成したフィルタであってもよい。
【0086】
また、上述した実施の形態1、2では、ガラス基板の表面に誘電体金属膜を形成したフィルタを用いていたが、これに限らず、誘電体金属膜に代えて誘電体膜をガラス基板等の透光性部材の表面に形成したフィルタであってもよい。
【0087】
さらに、上述した実施の形態1、2では、スリット光源2として、半導体レーザ素子およびレンズを一体化したスリットレーザ光源を用いていたが、これに限らず、図16に示すように、所定の光源からの光をスリット板を介して照射するスリット光源であってもよいし、点光源から発するスポット光を振動ミラー等の光学部材によって高速に扇状または平行に走査させるスキャン光の光源であってもよい。
【0088】
また、上述した実施の形態1、2では、入力部6を用いて操作する形状測定装置を例示したが、これに限らず、上述した入力部6および制御部7を設けずに、スリット光源2および撮像部5に各々オンオフのスイッチを設けて、各スイッチを操作するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0089】
1、21 形状測定装置
2 スリット光源
3、23、33、43 フィルタ
3a、33a ガラス基板
3b、33b、43b−1〜43b−7 誘電体金属膜
4 レンズ
4a 物体側主点
5 撮像部
5a 撮像素子
6 入力部
7 制御部
8 画像処理部
9 表示部
10 筐体
10a、10b 開口部
11、12 透光部
15 被測定物
15a 測定表面
43a 板状光学部材
100 被測定物
101 スリット光源
102 撮像装置
103 表示装置
C 光軸
L1 スリット光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定物にスリット光を照射し、前記被測定物から反射した前記スリット光の反射光をレンズを介して撮像するとともに前記反射光以外を遮光して、前記被測定物の形状を測定する形状測定装置において、
前記レンズの収束点に対して前記被測定物側に凸な弧形状をなし、前記反射光を透過するとともに前記反射光以外を遮光する透光性膜を有する光学フィルタを備えたことを特徴とする形状測定装置。
【請求項2】
前記透光性膜は、前記収束点を含む軸を中心軸とする円筒の一部分をなすことを特徴とする請求項1に記載の形状測定装置。
【請求項3】
前記円筒の中心軸は、前記スリット光の中心光軸と直交することを特徴とする請求項2に記載の形状測定装置。
【請求項4】
前記中心軸は、前記スリット光の長軸方向に対して垂直であることを特徴とする請求項2に記載の形状測定装置。
【請求項5】
前記透光性膜は、前記収束点を中心とする球面体の一部分をなすことを特徴とする請求項1に記載の形状測定装置。
【請求項6】
前記透光性膜は、連続的な円弧形状に形成されたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の形状測定装置。
【請求項7】
前記透光性膜は、前記反射光を透過する板状光学部材の内部に、前記反射光の長軸方向に沿って離散した状態で配置されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の形状測定装置。
【請求項8】
被測定物に照射したスリット光の反射光を集光するレンズを有し、光切断法によって前記被測定物の形状を測定する形状測定装置の光学フィルタにおいて、
前記レンズの収束点に対して前記被測定物側に凸な弧形状をなし、前記反射光を透過するとともに前記反射光以外を遮光する透光性膜を備えたことを特徴とする光学フィルタ。
【請求項9】
前記透光性膜は、前記収束点を含む軸を中心軸とする円筒の一部分をなすことを特徴とする請求項8に記載の光学フィルタ。
【請求項10】
前記円筒の中心軸は、前記スリット光の中心光軸と直交することを特徴とする請求項9に記載の光学フィルタ。
【請求項11】
前記中心軸は、前記スリット光の長軸方向に対して垂直であることを特徴とする請求項9に記載の光学フィルタ。
【請求項12】
前記透光性膜は、前記収束点を中心とする球面体の一部分をなすことを特徴とする請求項8に記載の光学フィルタ。
【請求項13】
前記透光性膜は、連続的な円弧形状に形成されたことを特徴とする請求項8〜12のいずれか一つに記載の光学フィルタ。
【請求項14】
前記透光性膜は、前記反射光を透過する板状光学部材の内部に、前記反射光の長軸方向に沿って離散した状態で配置されることを特徴とする請求項8〜12のいずれか一つに記載の光学フィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−173277(P2012−173277A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−39022(P2011−39022)
【出願日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】