説明

往復動内燃機関作動のための検出装置及び方法、並びに往復動内燃機関

【課題】改良型の往復動内燃機関と、特に往復動内燃機関の作動のための、特にシリンダ滑り面潤滑のための改良潤滑装置及び改良潤滑方法とを提案し、それにより、従来の問題を解決し、かつ往復動内燃機関の作動時の種々の構成要素又は過程の制御及び/又は調整を改善し、特に、シリンダ内への潤滑油供給の最適時点を決定する。
【解決手段】検出装置が、制御ユニット81を有するセンサ装置8を含み、制御ユニット81が、配量装置6と位置センサ82とに信号接続をされ、位置センサ82が作動時にシリンダ4の内室43と測定技術的に連絡することで、作動時にシリンダ4の軸線方向Aでのピストン5の位置Xが位置センサ82によって検出可能であり、往復動内燃機関が、ピストン5の位置Xに応じて制御可能及び/又は調整可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、往復動内燃機関、とりわけ低速大型ディーゼル機関の作動、とりわけシリンダのシリンダ壁滑り面の潤滑のための検出装置及び方法、並びに、各カテゴリーの独立請求項の上位概念部分に記載の往復動内燃機関に関するものである。
【背景技術】
【0002】
大型ディーゼル機関は、船舶の駆動装置としても、例えば電力エネルギーを発生させる大型発電機駆動用の定置機械設備にも、しばしば用いられている。その場合、エンジンは、通例、かなりの期間にわたって持続的に稼働するため、作動の確実性や利用可能性に対して高い要求が課せられる。したがって、操作員又は事業主にとっては、保守間隔が長いこと、摩耗が少ないこと、燃料及び作動物質の経済性が、機関の稼働させる上での中心的な識別基準となる。とりわけ、その種の大型低速ディーゼル機関のピストンの動作挙動は、保守間隔の長さや使用可能性を決定し、更には潤滑剤の消費に関連して直接的に運転費用を、ひいては経済性をも決定する一要因である。このため、大型ディーゼル機関の潤滑の複合的問題性は、次第に重要性が増してきている。
【0003】
大型ディーゼル機関の場合、この種の機関の場合だけではないが、ピストンの潤滑は、往復動ピストン内又はシリンダ壁内の潤滑装置によって行われ、該潤滑装置を介して潤滑油がシリンダ壁の滑り面に供給され、ピストンと滑り面との間の摩擦が、ひいては滑り面とピストンリングとの摩耗が最小化される。このようにして、今日では、例えばヴェルトジレ(Waertsilae)社のRTA−エンジン等の新型機関の場合、滑り面の摩耗は1000時間の稼働時間で0.05mm未満である。潤滑剤の供給量は、この種の機関の場合、約1.3g/kWh以下であり、もとより、費用上の理由から更にできるだけ低減され、同時に、摩耗も最小化されるという。
【0004】
滑り面潤滑のための潤滑システムとしては、潤滑装置自体の具体的な構成から潤滑方法に至るまで、極めて様々な解決策が公知である。例えば複数の公知潤滑装置の場合、潤滑油が、シリンダ壁に周方向に設けられた数個の潤滑剤開口を介して、該開口のところを通過するピストンに供給され、そのさい、潤滑剤がピストンリングによって周方向にも軸線方向にも分配される。この方法の場合、潤滑剤は、シリンダ壁滑り面の広い面積には施されず、多少の差はあれピストンリング間の狭い範囲でピストン側面に施される。
【0005】
また、他の方法も公知である。例えば、WO 00/28194により提案された潤滑システムの場合、潤滑油が、シリンダ壁に内蔵された噴霧ノズルを介して高圧で、シリンダ壁に対して事実上接線方向に燃焼室内の掃気内へ噴霧されるが、その場合、潤滑油は、微細な粒子となって噴霧される。これによって、噴霧された潤滑油は、掃気内に細かく分配され、掃気と掃気内に分配されている潤滑油微粒子とを含む渦流の遠心力によってシリンダ壁の滑り面に浴びせかけられる。
別の方法では、往復動するピストン内に好ましくは数個の潤滑剤ノズルが内蔵され、それによって潤滑剤が、実質的に滑り面全高にわたって任意の個所に供給される。
その場合、重要となるのは、シリンダ壁の滑り面に潤滑剤が供給される仕方のほかに、潤滑剤の配量及び内燃機関シリンダ内への潤滑剤の供給時点である。
【0006】
往復動内燃機関の作動時、時間単位及び面積単位当たりに滑り面へ供給すべき潤滑剤量は、往々にして多くの異なるパラメータに依存している。例えば、使用燃料の化学組成、特にその硫黄含有量は重要な役割を演じる。潤滑剤は、シリンダの潤滑のほかに、つまりはピストンとシリンダ滑り面との間の、より正確に言えば、ピストンリングとシリンダ壁滑り面との間の摩擦低減のほかに、とりわけ、腐食性酸類、特に、エンジン燃焼室内の燃焼過程で発生する硫黄含有酸類の中和に役立っている。
【0007】
したがって、使用燃料に応じて、とりわけ、潤滑剤のいわゆるBN値を基準とする中和能力の異なる様々な種類の潤滑剤を使用できる。例えば、燃料中の硫黄含有量が高い場合には、硫黄含有量が低い燃料の場合より高いBN値の潤滑剤を使用することが往々にして有利である。なぜなら、BN値の高い潤滑剤は、酸類に対する中和作用が高いからである。
しかし、燃料の品質が異なる場合でも、同種の潤滑剤を使用せねばならないことも、しばしば起こりうる。そのような場合には、例えば、潤滑剤の使用量を相応に高めたり引き下げたりすることで、燃焼生成物内の酸含有量の高低を補償することができる。
【0008】
供給すべき潤滑剤量の配量時の別の問題は、往復動内燃機関運転時の潤滑剤フィルムの状態、特に潤滑剤フィルムの厚さが時間的及び/又は場所的に変動することである。
言うまでもなく、潤滑剤の必要量は、例えば極めて様々な運転パラメータ、例えば回転速度、燃焼温度、エンジン温度、エンジン冷却時の冷却出力、負荷、その他多くの運転パラメータにも、多く依存している。したがって、所与の回転速度で、負荷が高い場合、等しい回転速度で負荷が低い場合とは異なる量の潤滑剤をシリンダ滑り面に施さねばならないことがある。
【0009】
更に、内燃機関自体の状態も潤滑剤量に影響することがある。例えば、シリンダ滑り面、ピストンリング、ピストンその他の摩耗状態に応じて使用すべき潤滑剤量は、往々にして著しく変動することが知られている。新しい、慣らし運転前の滑り面を有するシリンダの場合及び/又は慣らし運転段階の新しいピストンリングの場合、対向運動の相手、例えばピストンリング、ピストンリング溝、滑り面は、一定範囲内で高い摩擦を有するようにすることで、その結果、互いに研ぎ合わされて、相互に最適調整されるようにするのが望ましい。この最適調整は、とりわけ、シリンダの慣らし運転段階では、一律に、既にかなりの運転時間を経たシリンダの場合とは異なる潤滑剤量を用いることで達せられる。したがって、複数シリンダの機関の場合には、潤滑量を特に各シリンダに対して、しばしば別個に調節することが可能である。
【0010】
また一般に、シリンダ滑り面は、周方向にも長手方向にも、経過した運転時間に従って異なる摩耗度を示す。このことは、例えばピストンリングやピストン自体にも同じように妥当する。
したがって、潤滑剤量は、往復動内燃機関の場合には、経過した運転時間に応じて調整を要するだけでなく、同じシリンダ内部でもシリンダ壁の滑り面の異なる箇所で、時間に応じて場所ごとに必要に応じた異なる配量が可能でなければならないだろう。
したがって、久しい以前から、シリンダの滑り面又は往復動ピストンの異なる区域に潤滑剤ノズルを設けることが知られていた。これらのノズルは、すべて個々に制御できるようにして、要求に応じて、潤滑剤を時間的にも場所的にも融通性をもって変更できるのが好ましいとされた。
【0011】
特定潤滑剤ノズルから特定時点に供給すべき潤滑剤量の検出には、さまざまな方法が知られている。簡単な場合、潤滑剤量が、必要とあれば使用燃料及び潤滑剤自体の品質をも考慮に入れて、単に往復動機関の運転状態に応じて、例えば負荷又は回転速度の関数として、制御される。その際、既に経過した運転時間に基づいて、対向運動相手の摩耗状態も考慮に入れることができる。
【0012】
潤滑剤量を調整するための、より精密な方法も知られている。例えば、CH 613495に開示された往復動内燃機関用のシリンダ装置では、運転中のピストンリングの侵食を防止するために、ピストンリングの異常な摩擦状態が温度・振動感知器によって検出され、そのような障害が発生すると、特定潤滑個所から放出される潤滑油量が高められる。また、EP 0652426に開示された方法では、シリンダ壁内温度の周期的測定によって、掻き傷又は摩耗侵食の発生が、それら特有の温度推移によって検出され、自動的な出力低減又は潤滑剤供給の増加によって、相応の障害が補償される。またEP 1006271には、内燃機関の臨界的な運転状態を早期に検出する別の公知の方法が開示されている。この方法の場合、シリンダ内に配置された超音波センサにより、対向運動相手に超音波信号が送られ、反射エコー信号が対向運動相手の状態検出に利用される。
【0013】
しかし、これまでに挙げたすべての装置及び方法は、ピストンリングの初期侵食等の摩耗現象の発生個所、又はシリンダ壁の滑り面の明らかな掻き傷が、十分に正確には突き止められないか、又は全く突き止められない点で共通している。言い換えると、これらの公知の方法及び装置では、往復動内燃機関の異常な作動状態の発生が基本的には検出可能だが、その原因を発生個所で除去することができない。なぜなら、公知の方法及び装置では、シリンダ内の発生個所が必要な場所分析によって検出できないからである。最終的に特に重要な点は、潤滑剤フィルム厚さが、良くても、場合により設けられるセンサ、例えば前記の超音波センサの極めて近くでしか確実には検出できない点である。したがって、シリンダ壁の滑り面全体にわたって広がる潤滑剤フィルムの状態は監視できない。
例えば、既述の公知装置の1つでは、特定シリンダ内でピストンの侵食又は掻き傷が検出された場合、そのシリンダに対する潤滑剤の増量は、検出された異常な作動状態が再び消失し、このシリンダに対する時間単位当たり供給潤滑剤量を再び減じることができるまで続けられる。
【0014】
専門家は、いわゆる流体力学的な潤滑の領域を、不足潤滑及び混合潤滑の状態から区別する。流体力学的潤滑とは、潤滑剤フィルムが、対向運動相手間に、つまり例えばシリンダ壁滑り面とピストンリングとの間に、両者の表面が潤滑剤により十分に分離され、両者が接触しない厚さで形成されている場合をいう。別の極端な事例は、いわゆる混合摩擦又は混合潤滑の状態である。混合潤滑の場合、対向運動相手間の潤滑剤フィルムは、少なくとも部分的に薄く、そのために対向運動相手は互いに直接接触する。この場合、掻き傷が生じる危険があり、最終的にはピストンが侵食される危険がある。この2つの極端な事例の間に、不足潤滑の状態が存在する。不足潤滑状態では、対向運動相手が互いに接触しない程度に、まだ潤滑剤フィルムは厚い。しかし、対向運動相手間の潤滑剤量は十分ではなく、流体力学的潤滑を形成することはできない。これまで、混合潤滑、不足潤滑いずれの状態も出来る限り防止されてきた。つまり、潤滑剤フィルムの厚さが、好ましくは、対向運動相手間に流体力学的潤滑の状態が生じるように選択されてきた。
【0015】
流体力学的潤滑の範囲内での作動には、言うまでもなく相応に高い潤滑剤消費量が伴う。これは、一面では、明らかに不経済だが、それだけではなく、意外なことに、潤滑材不足だけではなく、潤滑剤の過剰がシリンダ内の対向運動相手を往々にして損傷することも分かってきた。
この問題は、次のようにすることで初めて成功裡に解決した。すなわち、作動時の潤滑剤フィルムの特徴的な固有値をセンサで検出し、センサ信号を調整ユニットにより評価し、シリンダ滑り面上の潤滑剤フィルムの状態パラメータ、特に潤滑剤フィルム厚さを、好ましくは潤滑剤供給量の相応の配量により局所的に最適化するのである。これに相応する装置及びそれに付属する方法は、既に本出願人によってEP 1505270 A1で詳細に説明されている。
【0016】
この革新的な方法によって、シリンダ滑り面の特定個所へ供給すべき潤滑剤量を決定する問題は最適解決されはしたが、シリンダ内への潤滑剤噴射の最適時点を決定するには、これまで常に難しい点があった。
その場合、最適時点は、往々にして多くのパラメータ、特に、内燃機関の様々な作動状態に依存している。その場合に重要な役割を持つパラメータの多くは、適正な潤滑剤フィルム厚さにとって重要なパラメータであり、冒頭に既に挙げたものである。とりわけ、適正な供給時点は、言うまでもなく、先ず第一に、既述の様々な潤滑方法に依存している。したがって、潤滑剤噴射時点は、言うまでもなく、潤滑剤が、例えば掃気内へ供給されるか、又は例えば移動するピストン、例えばピストンリング・パックに直接噴射されるかに著しく依存している。
【0017】
したがって、潤滑剤噴射時点が、とりわけ、エンジンの静的、動的な幾何学的パラメータにも、特に潤滑剤ノズルの位置に対する上死点(OT)と下死点(UT)との間のピストン位置にも依存することが、直ちに明らかである。言い換えると、シリンダ内への最適潤滑剤噴射を保証するには、シリンダ長手軸線に対するピストンの位置Xが、潤滑剤噴射時点に出来るだけ正確に分かっていなければならない。
これまで、シリンダ内での上死点OTと下死点UTとの間の各ピストンの位置Xは、種々の方法にしたがって、内燃機関の瞬間クランク角をエンジンの全ピストンに対して1回の中心的なクランク角測定によって決められてきた。例えば、直接に潤滑剤ポンプの軸と接続されているチェーン・ドライブを介して決められてきた。
【0018】
極めて一般的に言って、今日まで、内燃機関の瞬間クランク角は、作動状態で測定され、この中心的なクランク角測定からシリンダ内での全ピストンの位置が計算されてきた。測定クランク角から計算された、シリンダ内でのこのピストン位置Xから、次に当該シリンダ内での潤滑剤噴射時点が計算される。
これまで用いられてきたこの方法には、しかし、決定的な欠点がある。すなわち、シリンダ内でのピストン計算位置には大きな誤差が付きまとっている点であり、これらの誤差は、特に、例えば全負荷のような特殊な作動条件下で、高回転速度もしくは全回転速度の場合、又はその他極端な作動条件の場合には、本来許容できないものである。
また、これらの誤差は、標準的な作動条件下でも、シリンダ内への潤滑剤噴射が最適時点に行われない事態を引き起こし、それにより早期の摩耗、保守間隔の短縮、ひいては費用の上昇、最悪の場合には、シリンダ構成部材の深刻な損傷を引き起こすことがある。
【0019】
位置決定に誤差を伴う理由は、とりわけ、エンジンとその可動部材及び不動部材との弾性や、クランク軸の激しい振動及びねじり運動にある。この結果、特に、エンジンの特定の個所又は構成部品群のところで測定したクランク角は、シリンダ内での特定ピストンの実際の位置に対し、誤解の余地のない精度では相関しない。せいぜい、その精度は、計算不能の誤差を含み、かつ状況次第で、例えばエンジンの負荷又は回転速度又は他の内燃機関作動パラメータ次第で、複数段階のクランク角を示すことがある程度のものだった。このため、場合によっては、潤滑剤が全く誤った時点で噴射されることになった。最悪の場合、例えば、圧縮行程時にピストン壁にではなくピストンの下方に噴射され、少なくともこのピストン行程では全く潤滑に寄与せず、潤滑が全く役に立たない事態も生じた。
【0020】
この問題を更に悪化させた事実がある。すなわち、内燃機関では、しばしば、強制的ではないにしろ、多くのシリンダ、例えば6,8,10,12,又は14個以上のシリンダが好ましくは整列配置されており、各シリンダの誤差が別の誤差につながるという事実である。これは、クランク軸のどの区分又はどの個所にシリンダがあるかに応じて、既述の振動、ねじり等が別の振幅、場合によっては別の振動数スペクトルが生じ、したがって別の影響が現われるからである。
【0021】
加えて、エンジンの微調整時又は各シリンダ内の圧縮の微調整時には、個別にピストンの上死点OTが、例えば特別の台板又はスペーサによって調節される。言い換えると、ピストン、ピストンロッド、クロスヘッドの固定部、その他のピストン固定部材の固定部の適当な個所に、いわゆる「圧縮シム」(compression shims)を各シリンダに個別に備え、それによって各シリンダ内での圧縮が最適化される。この結果、シリンダ内でのピストン位置が、特定個所で測定されたクランク角と正確に相関する場合でも、シリンダ内でのピストン位置は正確には計算できないと思われる。なぜなら、圧縮シムによる個別ピストンの調節差により、各ピストンの位置計算は、自体未知の別の修正係数によって計算せねばならないだろうからである。
しかし、この修正係数は、前記のように未知であるから、シリンダ内でのピストン位置のこれまで行われてきた計算では、大抵は誤差が一層甚だしくなる。
【0022】
この問題は、しかし、潤滑剤噴射の調節にとって重要であるだけでない。他の処置又は往復動内燃機関の作動時の他の経過も、好ましくはシリンダ内でのピストン位置に応じて調節、あるいは制御及び/又は調整せねばならず、またそうすることが可能である。例えば、とりわけ、シリンダ内での燃料噴射の時点、及び/又は持続時間、及び/又は強さ、又は量、排気弁の制御及び/又は調整、往復動内燃機関の始動空気導入の時点、及び/又は持続時間、及び/又は強さ、又は量、振動バランサーとも呼ばれる制振装置の制御及び/又は調整などが、それである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【特許文献1】国際公開第00/28194号
【特許文献2】スイス特許出願公開第613495号明細書
【特許文献3】欧州特許出願公開0652426号明細書
【特許文献4】欧州特許出願公開1006271号明細書
【特許文献5】欧州特許出願公開1505270号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
本発明の課題は、したがって、改良型の往復動内燃機関と、特に往復動内燃機関の作動のための、特にシリンダ滑り面潤滑のための改良潤滑装置及び改良潤滑方法とを提案し、それらによって既述の問題を解決し、かつ往復動内燃機関の作動時の種々の構成要素又は過程の制御及び/又は調整を改善し、特に、シリンダ内への潤滑油供給の最適時点を決定することである。
【課題を解決するための手段】
【0025】
これらの課題を装置面及び方法面で解決する本発明の客体は、各カテゴリーの独立請求項の特徴によって特徴づけられている。
各従属請求項は、本発明の特に好適な実施形式に関係するものである。
本発明は、したがって、シリンダを有する往復動内燃機関、特に低速2サイクル大型ディーゼル機関用の検出装置に関するものである。この場合、該機関のシリンダ内には、ピストンが滑り面に沿って下死点と上死点との間を往復動可能に配置されており、配量装置から潤滑剤を供給される潤滑剤ノズルがシリンダ壁に内蔵されていることにより、作動時には潤滑剤がノズルを介してシリンダ内へ噴射可能である。検出装置は、本発明により、制御ユニットを有するセンサ装置を含み、しかも該制御ユニットが、配量装置と、作動時にシリンダ内室と測定技術的に連絡する位置センサとに信号接続をされていることで、作動時にシリンダ軸線方向に対するピストン位置が位置センサを介して検出でき、往復動内燃機関がピストン位置に応じて制御及び/又は調整できる。
【0026】
本発明は、一特定実施例の場合、往復動内燃機関、特に、低速2サイクル大型ディーゼル機関のシリンダのシリンダ壁滑り面を潤滑する装置に係わるものである。シリンダ内では、ピストンが滑り面に沿って下死点と上死点との間を往復動可能に配置され、しかも、配量装置から潤滑剤を供給される潤滑剤ノズルがシリンダ壁に内蔵されているので、作動時には潤滑剤をノズルを介してシリンダ内へ噴射可能である。本発明により、制御ユニットを有するセンサ装置が備えられ、制御ユニットが、配量装置と、作動時にシリンダ内室と測定技術的に連絡する位置センサとに信号接続をされていることで、作動時にシリンダ軸線方向でのピストン位置が検出可能である。潤滑剤は、検出されたピストン位置に応じて潤滑剤ノズルを介してシリンダ内へ噴射可能である。
【0027】
本発明によって初めて、内燃機関のクランク角とは無関係にシリンダ内でのピストンの軸線方向位置を直接に検出又は測定することが可能になった。これによって、例えば、シリンダ内への潤滑剤供給の時点又は時間間隔を最適決定することも、初めて可能になった。
また、本発明により、他の装置又は往復動内燃機関の作動時の他の経過も、シリンダ内のピストンの正確な位置、つまり実際の位置に応じて調節又は制御及び/又は調整することができる。例えば、特に、シリンダ内への燃料噴射の時点及び/又は持続時間及び/又は強さ又は量、排気弁の制御及び/又は調整、往復動内燃機関の始動時の始動空気導入の時点及び/又は持続時間及び/又は強さ又は量、内燃機関シリンダからの燃焼ガス、潤滑油、その他の物質の所期の抜き取り、例えば振動バランサーとも呼ばれる制振装置の制御及び/又は調整などが挙げられる。
【0028】
制振装置は、定義された力を定義された方向にエンジン内力に抗して発生させることが知られている。制振装置は、したがって、このエンジン内力と同期して、言い換えるとクランク軸と同期して働かねばならない。制振装置が直接にクランク軸によって駆動されない場合は、駆動ユニット、つまり往復動内燃機関、例えば2サイクル大型ディーゼル機関の制振装置の機関が、制振装置をエンジンと同期させるパルスを受け取らねばならない。そのために、例えば、本発明により検出されるピストン位置を効果的に利用することができる。
本発明により、ピストン位置を、クランク角による間接測定でではなく、直接に検出できることにより、シリンダ内での検出ピストン位置は、既述の誤差、つまり、エンジンの弾性や動的振動及びねじり運動による誤差、圧縮シムによる圧縮微調整による誤差、その他の誤差の影響で誤った値になることはもはやない。
【0029】
様々な静的、動的作動パラメータも、誤差源としては事実上完全に除かれる。なぜなら、ピストン位置が直接検出され、クランク角の測定から間接的に数学的に導き出されるのではないからである。
エンジンが、例えば等しい回転速度で、2つの異なる負荷条件で作動する場合、従来技術で知られる計算方法では、必然的に、第1負荷条件時と第2負荷条件時とで、等しい測定クランク角から、シリンダ内での特定ピストンの位置も等しい位置に算出される。
しかし、通例、この計算成績は誤っている。2つの異なる負荷条件では、回転速度が等しくてもエンジンの動的振動・ねじり挙動は異なるからである。その結果、同一のピストンが、等しい回転速度で等しい測定クランク角の場合、実際には、下死点UTと上死点OTとの間のシリンダ内位置は異なるが、そのことが従来技術の公知方法では基本的に考慮されない。
【0030】
このことは、本発明による方法では、ピストン位置をクランク角の測定値から算出するのではなく、ピストン位置を直接に検出することから初めて可能になったことである。クランク角の測定値は、最も良い場合でも不正確であり、ピストンの実際のシリンダ内位置との相関関係には大きな誤差が含まれている。
本発明による配量装置の一特定実施例では、位置センサが、シリンダ壁内に配置されており、しかも、往復動内燃機関の同一シリンダに好ましくは、ただし強制ではなく少なくとも2個の位置センサが、シリンダ軸線方向で位置をずらして配置されている。
少なくとも2個の、場合によっては3個以上の位置センサを同一シリンダ内に配置することによって、シリンダ内の相応のピストンの正確な位置を決定する検出精度が、必要な場合に有意に高められる。
【0031】
その場合、既に述べたように、シリンダ軸線方向にずらして同一シリンダに2個以上の位置センサを配置しておくことが可能である。その際、付加的に又は別の形式として、シリンダ軸線方向でずらすことなく2個以上の位置センサを、往復動内燃機関の同一シリンダ内に配置することもできる。言い換えると、2個以上の位置センサを等しい軸線方向位置に周方向にシリンダ壁内に配置しておき、それによって、同じように測定精度を高めることができる。
通例、往復動内燃機関の各シリンダには少なくとも1個の位置センサが備えられ、各シリンダ内の正確なピストン位置が個別に検出できる。
【0032】
実際上重要な一実施例では、シリンダ壁の範囲にある潤滑剤ノズルとシリンダ軸線方向で事実上等しい高さの位置に少なくとも1個の位置センサが配置されている。これによって、特に、ピストン位置の検出が、時間的に潤滑剤噴射時点と十分に相関的に行われる。これは、潤滑剤が、例えば通過するピストン壁に、また例えばピストンリング・パックに直接に噴射される場合に、特に効果的だが、他の場合にも効果的である。ピストン位置の測定時点と、それから導出される潤滑剤噴射時点とが極めて密接していることによって、特に精密な噴射が保証される。
言うまでもなく、特定の場合、又は特定の用途の場合、又は潤滑剤をシリンダ内へ供給する方法に従って、位置センサを、例えばシリンダ内のピストン上死点より上方に配置することもできる。その場合、例えば、上死点上方のシリンダ壁内、又はシリンダヘッド区域にも配置できる。これは、位置センサが、シリンダ内のピストン位置検出に圧力又は時間的な圧力推移を測定する圧力センサの場合、特に好ましい。
【0033】
言うまでもなく、位置センサとして、圧力センサをシリンダ内の他の個所に、例えば潤滑剤ノズル区域に効果的に配置することもできる。圧力センサを位置センサとして使用する場合には、測定圧力及び/又はシリンダ内の時間的圧力推移から、ピストン位置が検出される。その場合、様々な装置又は作動状態に特有のパラメータが取り込まれたルックアップ・テーブル(Look−up Table)を利用するのが好ましいが、必須ではない。該パラメータからは、位置センサによって検出された圧力データに基づいてシリンダ内の軸線方向位置と、潤滑ノズルからの潤滑剤の正確な噴射時点が検出できる。以下で説明するルックアップ・テーブルの使用は、圧力センサの使用に限定されるものではなく、更に後述する他の種類の位置センサと関連して効果的に使用することもできる。
【0034】
その場合、シリンダ内への潤滑剤供給の時点及び時間間隔を、往復動内燃機関の種々の作動パラメータに応じて、特に、回転速度、及び/又は負荷、及び/又はシリンダ温度、及び/又はその他の作動パラメータに応じて、及び/又は、燃料、及び/又は潤滑剤、及び/又は他の作動物質の組成に応じて、多次元データ・フィールド形式のルックアップ・テーブルを利用して検出し、潤滑剤ノズルからのシリンダ内への潤滑剤供給の時点又は時間間隔を最適化するのが好ましい。
【0035】
ルックアップ・テーブルは、制御ユニットの一部となり得るデータ処理装置内へ例えばデータバンクとして取り込まれるが、該テーブルには、潤滑剤噴射にとって最適の時間的データを検出するための重要なデータが含まれている。特に、往復動内燃機関にとって事実上周知の適切な装置によって、付加的に当面の作動パラメータ、例えば回転速度、及び/又は負荷、及び/又はシリンダ温度、及び/又は燃焼室内の温度、及び/又はその他の当面の作動パラメータが検出でき、次いで、それらの値から、ルックアップ・テーブルに収められているデータ及び位置センサの測定値をも共に利用して、各作動状態に対する潤滑剤噴射の時点又は時間間隔の目標値が決定される。
【0036】
特に、使用される作動媒体とその性質、例えば燃料、とりわけその硫黄含有量、及び/又は使用潤滑剤の種類、及び/又は潤滑剤のBN値も、潤滑剤噴射の最適時点又は最適持続時間にとって中心的な役割を演じるので、それらのパラメータをも目標値検出に効果的に利用し、必要とあれば又は好ましくは、作動時にそれらのパラメータを適当な測定装置によって、常時、監視することができる。
言うまでもなく、往復動内燃機関の既に列挙したパラメータ、及び/又は作動時のデータは、潤滑剤噴射の最適時点又は時間間隔の目標値検出に利用可能だが、それに留まるものではなく、目標値検出にとって重要な別のパラメータ及びデータをも包含することができる。
【0037】
言うまでもなく、原則として、どのセンサでも、十分な精度でシリンダ内でのピストン位置を検出できる位置センサとして効果的に使用できる。例えば、位置センサは、電気的な位置センサでもよい。例えば自体公知の容量型センサ又は誘導型センサの場合、ピストンがセンサに接近又センサのところを通過すると、電気容量又はインダクタンスが変化する結果、ピストン位置、ひいては潤滑剤噴射時点が検出できる。
別の種類のセンサも考えられる。例えば能動型又は受動型の超音波センサ、又は例えば圧電効果を測定に利用するソリッド−ボーン音波センサ(Koerperschallensensor)、又は光学センサ、又はシリンダ内のピストン位置を適切に、特に時間の関数として検出可能な他のあらゆる好適なセンサが考えられる。
【0038】
同一シリンダ内での要求、例えば潤滑剤の噴射時点又は時間間隔の検出精度を高める要求に応じて、特に、シリンダ内のピストン位置又はピストン位置の時間的推移を検出可能な様々な種類のセンサのあらゆる組み合わせが利用可能なことは明らかである。
本出願の枠内でシリンダ内への潤滑剤供給を極めて具体的に説明したとしても、本発明は、潤滑剤の供給のみに関係するものではなく、特定実施例では、本発明の検出装置によって、例えばシリンダ内への燃料噴射、及び/又はシリンダ排気弁の制御、及び/又はシリンダ内への始動空気の供給、及び/又は往復動内燃機関の制振装置を、ピストンの検出位置に応じて制御可能及び/又は調整可能である。
【0039】
本発明は、更に、シリンダを有する往復動内燃機関、特に低速2サイクル大型ディーゼル機関の作動方法に係わり、該シリンダ内にはピストンが下死点と上死点との間を滑り面に沿って往復動するように配置されており、しかも、配量装置により潤滑剤を供給される潤滑剤ノズルがシリンダ壁に内蔵され、潤滑剤がノズルを介してシリンダ内へ供給され、更にセンサ装置を有する配量装置が制御ユニットを包含し、該制御ユニットが、シリンダ内室と測定技術的に連絡する位置センサと信号接続をされており、シリンダ軸線方向でのピストン位置が位置センサを介して検出され、往復動内燃機関が、ピストンの検出位置に応じて制御及び/又は調整される。
【0040】
本発明は、一特定実施例の場合、往復動内燃機関、特に2サイクル低速大型ディーゼル機関のシリンダのシリンダ壁滑り面を潤滑する方法に係わるものである。シリンダ内には、ピストンが下死点と上死点との間を滑り面に沿って往復動するように配置され、しかも、配量装置により潤滑剤を供給される潤滑剤ノズルがシリンダ壁に内蔵され、潤滑剤がノズルを介してシリンダ内へ供給される。本発明によれば、制御ユニットを有するセンサ装置が備えられ、しかも該制御ユニットが、配量装置と、シリンダ内部と測定技術的に連絡する位置センサとに信号接続をされている。シリンダ軸線方向でのピストン位置が、位置センサによって検出され、潤滑剤が、ピストンの検出位置に応じて潤滑剤ノズルからシリンダ内へ供給される。
【0041】
本発明の方法の一特定実施例では、往復動内燃機関の同一シリンダに複数の位置センサが備えられている。
実際上特に重要な実施例では、潤滑剤がシリンダ内室へ噴射され、その後で、ピストンが軸線方向に移動し、潤滑剤ノズルのところを通過する。
実際上同じように重要な別の方法では、潤滑剤がシリンダ内部へ噴射されている間に、ピストンが軸線方向に移動し潤滑剤ノズルのところを通過し、特に潤滑剤がピストンのピストンリング・パック上へ、又はピストンリング・パック内へ噴射される。
【0042】
本発明の方法の更に別の一特定実施例の場合、シリンダ内への燃料噴射、及び/又はシリンダ排気弁の制御、及び/又はシリンダへの始動空気導入、及び/又は往復動内燃機関の制振装置が、ピストンの検出位置に応じて制御及び/又は調整される。
既述のように、軸線方向でのピストン位置は、潤滑剤ノズルの位置の高さで検出できるのが好ましい。
【0043】
本発明の方法の別の一実施例では、ピストン位置が上死点より上方で位置センサ、特にシリンダ壁内又はシリンダヘッドに上死点より上方に配置された位置センサにより検出される。その場合、位置センサは、圧力センサ、又は能動型か受動型の超音波センサ、又はソリッド−ボーン音波センサが好ましいが、必須ではない。
特に、既に詳述したように、あくまで一般的に言って、適切な位置センサであれば、どのような種類のものでも備えることができ、特に適切な種類のものであれば、どのような電気式センサも備えることができる。
加えて、本発明は、既述の検出装置を有する往復動内燃機関、それも作動時に本発明の方法により作動させられる形式のものに関する。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明による潤滑装置を有する2サイクル大型ディーゼル機関のシリンダの図。
【図2】ルックアップ・テーブルを使用して方法を実施する装置の略示図。
【図2a】潤滑剤噴射の時点又は時間間隔の目標値検出用のルックアップ・テーブルの図。
【図3】本発明による潤滑装置の別の実施例の図。
【実施例】
【0045】
以下で、本発明を略示図につき詳細に説明する。
【実施例1】
【0046】
図1には、本発明による潤滑装置1を備えた2サイクル大型ディーゼル機関のシリンダの断面が略示されている。図1の2サイクル大型ディーゼル機関は複数のシリンダ4を備えているが、概観しやすくするために、シリンダは1個のみ示した。シリンダ4はシリンダ壁3を有し、シリンダ壁3は、自体公知の形式でシリンダ内室43を周方向に制限している。シリンダ4内にはピストン5が備えられ、ピストン5は、シリンダ壁3の滑り面2に沿ってシリンダ4の軸線方向Aに往復動可能に配置されている。滑り面2は図1の特定実施例では、例えば溶射によってシリンダ表面41上に形成された表面層42上に設けられている。シリンダ壁3内には、少なくとも1個の潤滑剤ノズル61が内蔵され、該ノズルに自体公知の形式で潤滑剤7が供給される結果、作動時には潤滑剤フィルムがシリンダ壁3の滑り面2上に形成できる。
【0047】
本発明によれば、制御ユニット81を有するセンサ装置8が備えられ、制御ユニット81は、配量装置6と、作動時にシリンダ4の内室43と測定技術的に連絡する位置センサ82とに信号接続をされていることにより、作動時にはシリンダ4の軸線方向Aでのピストン5の位置Xが位置センサ82を介して検出可能であり、かつピストン5の検出位置Xに応じて、潤滑剤7を潤滑剤ノズル61からシリンダ3内へ供給可能である。
図1の実施例では、例として電気的な位置センサ82が示されており、この位置センサによって、2サイクル大型ディーゼル機関の作動時にピストン5の位置Xが検出される。
【0048】
図1には、例として、潤滑剤ノズル61と位置センサ82とを、それぞれ1個だけ示してある。言うまでもなく、往復動内燃機関の各シリンダ4は、それぞれ複数の同種の又は異種の位置センサ82及び複数の潤滑剤ノズル61を備えることができ、それらのノズルは、適宜にシリンダ壁3の異なる箇所に配置できる。
制御ユニット81は、ここには明示されていないデータ処理装置を含むのが好ましい。データ処理装置によって、位置センサ82の信号が評価され、それによって潤滑剤ノズル61が制御され、潤滑剤7が最適時点にシリンダ4内へ供給される。図1の特定実施例では、潤滑装置1は、潤滑剤がピストン外面へ、好ましくはピストンリング・パック上へ噴射されるように構成かつ操作される。
【実施例2】
【0049】
図2には、本発明の方法を実施するための2個の位置センサ82を有する特に好ましい変化形が略示されている。この場合、シリンダ4内への潤滑剤7の噴射時点及び/又は持続時間の目標値は、往復動内燃機関の種々の作動パラメータBに応じて、特に、回転速度、及び/又は負荷、及び/又はシリンダ温度、及び/又はその他の作動パラメータBに応じて、及び/又は使用燃料の組成、及び/又は潤滑剤の組成、及び/又は他の作動物質の組成に応じて、ルックアップ・テーブルLTを用いて検出される。ルックアップ・テーブルは、この特定実施例の場合、多次元データ・フィールドの形式を有している。潤滑剤噴射の時点又は持続時間は、こうして往復動内燃機関の作動時に、ルックアップ・テーブルを用いて最適化され、目標値が検出される。
【0050】
位置センサ82は、例えば、往復動内燃機関が発生させる音波を検出する受動型のソリッド−ボーン音波センサであり、例えばシリンダヘッド(図示せず)内及び/又はシリンダ4に隣接する往復動内燃機関構成部品内に配置できる。この位置センサ82により、例えば、ピストン5の現在位置Xに対応する測定値、又は位置Xの時間的推移に対応する測定値が得られ、該測定値が、特にデータ処理装置及び調整手段を包含する制御ユニット81へ送られる。その場合、ピストン5の位置Xを検出するための複数位置センサ82は、図2に略示したように、軸線方向Aに互いに位置をずらして配置するのが好ましい。
【0051】
位置センサ82が、既述のように、例えば受動型ソリッド−ボーン音波センサ82である場合、とりわけ、位置センサ82により検出される信号の伝送時間差の検出により及び/又は信号を相関させる公知技術、すなわち信号の相応の相関関数の分析により、ピストン5の位置Xを、特に時間に応じても検出することができる。
言うまでもなく、実際には、音波センサ82の代わりに、他の種類の位置センサ82も効果的に使用可能である。特に好ましいのは、図3に示した圧力センサ82である。この圧力センサは、シリンダ4内のガス圧又は時間に応じたガス圧を測定でき、得られた圧力特性値は、シリンダ4内のピストン5の位置Xと特有の関連を有している。
【0052】
更に、別の種類のセンサも効果的に使用できる。例えば、誘導型位置センサ82として構成された電気式位置センサ82である。使用するセンサの種類に応じて、ピストン5はマーキング手段、例えば磁気式のマーキング手段を有することができるので、ピストン5は位置センサによって、より認識しやすくなる。
付加的に、ここには図示しない他の測定装置を備えることもできる。それらの測定装置によって、種々の作動パラメータB、例えば、とりわけ、往復動内燃機関の回転速度、負荷、シリンダ温度が測定され、それらの値が、必要とあれば、付加的に制御ユニット81に送られる。
【0053】
シリンダ4内への潤滑剤7の噴射時点及び/又は噴射持続時間の目標値を確定するためには、図2aに例として略示したルックアップ・テーブルLTを利用できる。ルックアップ・テーブルLTは、この場合、2次元以上の多次元データ・フィールドであり、これを利用して、例えば、種々の重要なその時々の及び/又は往復動内燃機関特有の全般的な作動パラメータBから、及び/又は使用作動物質の組成、特に燃料又は使用潤滑剤に応じて、及び/又はその他の重要な要因を考慮に入れて、シリンダ4内への潤滑剤7の噴射時点及び/又は持続時間が検出される。このようにして得られた目標値は、位置センサ82によって検出されたピストン位置Xと、つまりシリンダ4内のピストン5の実際位置Xと関連付けられる。それにより、次いで、制御ユニットにより潤滑剤ノズル61の制御信号が配量装置6へ送られ、その結果、潤滑剤ノズル61が潤滑剤7を適切な時点に適切な持続時間でシリンダ4内へ供給する。
【0054】
言い換えると、ルックアップ・テーブルLTには、シリンダ4内への最適潤滑剤供給のための種々の重要データが蓄えられている。加えて、好ましくは、往復動内燃機関にとっては実質的に既に周知の適当な装置によって、その時々の作動パラメータB、例えば回転速度、及び/又は負荷、及び/又はシリンダ温度、及び/又は燃焼室内の温度、及び/又は他の関連作動パラメータBが検出され 、それらの値から、ルックアップ・テーブルLTに収められているデータをも共に利用して、各作動状態に対するシリンダ4内への最適潤滑剤供給の目標値が、繰り返し新たに決定される。特に、使用作動媒体、例えば使用燃料及びその性質、特にその硫黄含有量、及び/又は使用潤滑剤の種類、及び/又は潤滑剤自体のBN値は、最適潤滑剤供給にとって往々にして中心的な役割を演じるので、これらの値は、目標値確定の場合にも効果的に利用し、作動時に適切な測定装置によって、常時、監視することができる。
【実施例3】
【0055】
図3には、本発明の潤滑装置の別の実施例が略示されている。図3には、図2の切断線I−Iに沿った断面図でシリンダ4が示されている。図3から分かるのは、図2では、図面で見て下方の位置センサ82の軸線方向の高さに複数の潤滑剤ノズル61、この場合には4個の潤滑剤ノズル61が、シリンダ壁3の等しい軸線方向位置に配置され、これによって周方向での潤滑が最適化できることである。図2の装置との唯一の違いは、位置センサ82が圧力センサ82であり、センサ信号の評価にルックアップ・テーブルLTが使用されない点である。
言うまでもないが、複数の潤滑剤ノズル61を軸線方向に互いにずらして配置することもでき、特定の場合には、圧力センサ82の信号をルックアップ・テーブルLTを用いて評価することもできる。
本発明による潤滑装置及び本発明の方法は、ピストン、ピストンリング、シリンダ滑り面の寿命を有意に高めるのみでなく、同時に潤滑剤消費量をも低減させ、保守間隔をも著しく延長する。
【符号の説明】
【0056】
1 潤滑装置
2 滑り面
3 シリンダ壁
4 シリンダ
5 ピストン
6 配量装置
7 潤滑剤
8 センサ装置
41 シリンダ壁表面
42 表面層
43 シリンダ内室
51 ピストンリング
61 潤滑剤ノズル
81 制御ユニット
82 位置センサ
B 作動パラメータ
LT ルックアップ・テーブル
X ピストン位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダ(4)を有する往復動内燃機関、とりわけ、低速2サイクル大型ディーゼル機関用の検出装置であって、前記シリンダ(4)内をピストン(5)が滑り面(2)に沿って下死点(UT)と上死点(OT)との間を往復動可能に配置されており、配量装置(6)から潤滑剤(7)を供給される潤滑剤ノズル(61)が、前記シリンダ(4)のシリンダ壁(3)内に配置されているため、作動時に前記潤滑剤ノズル(61)から前記潤滑剤(7)を前記シリンダ(4)内へ供給可能である、前記検出装置において、
前記検出装置が、制御ユニット(81)を有するセンサ装置(8)を含み、前記制御ユニット(81)が、前記配量装置(6)と位置センサ(82)とに信号接続をされ、作動時に前記位置センサ(82)が、前記シリンダ(4)の内室(43)と測定技術的に連絡するようになっているため、作動時に前記シリンダ(4)の軸線方向(A)における前記ピストン(5)の位置(X)を前記位置センサ(82)によって検出することが可能となっており、
前記往復動内燃機関が、前記ピストン(5)の位置(X)に応じて制御可能、及び/又は調整可能であることを特徴とする、前記検出装置。
【請求項2】
前記位置センサ(82)が前記シリンダ壁(3)に配置され、及び/又は前記往復動内燃機関の同一シリンダ(4)に対して少なくとも2個の位置センサ(82)が、シリンダ(4)の前記軸線方向(A)にずらして配置されている、請求項1に記載された検出装置。
【請求項3】
前記位置センサ(82)が、前記シリンダ壁(3)において、前記シリンダ(4)の前記軸線方向(A)における前記潤滑剤ノズル(61)の高さと本質的に同じ高さに配置され、及び/又は前記位置センサ(82)が上死点(OT)より上方に配置されている、請求項1又は請求項2に記載された検出装置。
【請求項4】
前記位置センサ(82)が圧力センサ(82)であり、及び/又は前記位置センサ(82)が電気式の位置センサ(82)である、請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載された検出装置。
【請求項5】
前記シリンダ(4)の前記シリンダ壁(3)の前記滑り面(2)を潤滑するための潤滑装置が備えられ、前記潤滑装置によって、前記ピストン(5)の検出位置(X)に応じて、前記潤滑剤(7)を前記潤滑剤ノズル(61)から前記シリンダ(4)内へ供給可能である、請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載された検出装置。
【請求項6】
前記シリンダ(4)内への燃料噴射、及び/又は前記シリンダ(4)の排気弁の制御、及び/又は前記シリンダ(4)内への始動空気の取り入れ、及び/又は前記往復動内燃機関の制振装置を、ピストン(5)の検出位置(X)に応じて制御可能及び/又は調整可能である、請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載された検出装置。
【請求項7】
シリンダ(4)を有する往復動内燃機関、とりわけ、低速2サイクル大型ディーゼル機関の作動方法であって、前記シリンダ(4)内をピストン(5)が滑り面(2)に沿って下死点(UT)と上死点(OT)との間を往復動可能に配置されており、配量装置(6)から潤滑剤(7)を供給される潤滑剤ノズル(61)が、前記シリンダ(4)のシリンダ壁(3)内に配置されているため、潤滑剤ノズル(61)から潤滑剤(7)が前記シリンダ(4)内へ供給される、前記作動方法において、
制御ユニット(81)を含むセンサ装置(8)を有する検出装置を備え、前記制御ユニット(81)と、前記シリンダ(4)の内室(43)と測定技術的に連絡する位置センサ(82)とを信号接続をし、前記シリンダ(4)の軸線方向(A)における前記ピストン(5)の位置(X)を前記位置センサ(82)により検出し、
前記往復動内燃機関を、前記ピストン(5)の検出位置(X)に応じて制御及び/又は調節することを特徴とする、前記作動方法。
【請求項8】
前記往復動内燃機関の同一シリンダ(4)に対して複数の位置センサ(82)を備える、請求項7に記載された作動方法。
【請求項9】
配量装置(6)から前記潤滑剤(7)が供給される前記潤滑剤ノズル(61)を前記シリンダ壁(3)内に備え、前記潤滑剤ノズル(61)により前記ピストン(5)の検出位置(X)に応じて前記潤滑剤(7)を前記シリンダ(4)内へ供給する、請求項7又は請求項8に記載された作動方法。
【請求項10】
前記ピストン(5)が前記軸線方向(A)に移動して前記潤滑剤ノズル(61)を通過する前に、前記潤滑剤(7)を前記シリンダ(4)の内室(43)内へ供給する、請求項7から請求項9までのいずれか一項に記載された作動方法。
【請求項11】
前記ピストン(5)が軸線方向(A)に移動して潤滑剤ノズル(61)を通過する間に、前記潤滑剤(7)を前記シリンダ(4)の内室(43)内へ供給する、請求項7から請求項10までのいずれか一項に記載された作動方法。
【請求項12】
前記軸線方向(A)における前記ピストン(5)の位置(X)を前記潤滑剤ノズル(61)の位置の高さで検出し、及び/又は前記ピストン(5)の位置(X)を前記上死点(OT)より上方で検出する、請求項7から請求項11までのいずれか一項に記載された作動方法。
【請求項13】
前記位置センサ(82)が圧力センサ(82)及び/又は電気式センサ(82)である、請求項7から請求項12までのいずれか一項に記載された作動方法。
【請求項14】
前記シリンダ(4)内への燃料噴射、及び/又は前記シリンダ(4)の排気弁の制御、及び/又は前記シリンダ(4)内への始動空気の取り込み、及び/又は前記往復動内燃機関の制振装置を、ピストン(5)の検出された位置(X)に応じて制御及び/又は調整する、請求項7から請求項13までのいずれか一項に記載された作動方法。
【請求項15】
請求項1から請求項6までのいずれか一項に記載された検出装置を有する往復動内燃機関において、
作動時に、請求項7から請求項14までのいずれか一項に記載された作動方法に従って作動する往復動内燃機関。

【図1】
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【図2】
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【図2a】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−133412(P2010−133412A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−273341(P2009−273341)
【出願日】平成21年12月1日(2009.12.1)
【出願人】(592086330)ヴェルトジィレ シュヴァイツ アクチエンゲゼルシャフト (5)
【Fターム(参考)】