説明

微小流路送液装置

【課題】 スラリー状流体、即ち極微粒子を含んだ溶液を送液した場合であっても、その送液中に微小流路内等で極微粒子が沈殿又は凝集する等しない微小流路送液装置を提供すること。
【解決手段】 1以上の流体を導入する1以上の流体導入口、導入口に接続した1以上の微小流路及び微小流路に接続した1以上の流体排出口を有する微小流路構造体と、微小流路構造体に極微粒子を含むスラリー状流体を送液するための送液手段と、微小流路構造体の上流に配置されたスラリーの均一分散手段とからなる、微小流路送液装置により前記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分取・分離用カラム充填剤に用いられる微小粒子や医薬品、含酵素カプセル、化粧品、香料、表示・記録材料、接着剤、農薬等に利用されるマイクロカプセル、化学反応・溶媒抽出等に用いられる微小粒子を均一な大きさで安定して大量に生成するために使用される、微小流路送液装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、数cm角のガラス基板上に長さが数cm程度で、幅と深さがサブμmから数百μmの微小流路を有する微小流路構造体を用い、流体を微小流路へ導入することにより化学反応を生じさせたり、微小粒子を生成させたりする研究が行われている。このような微小流路は、微小空間の短い分子間距離および大きな比界面積の効果により、効率の良い化学反応を行なうことができると考えられている(例えば非特許文献1参照)。また、界面張力の異なる2種類の液体または極微粒子を、交差部分が存在する流路に導入することにより、粒径が均一な微小粒子を生成することができる(例えば、非特許文献2、特許文献1、及び特許文献2参照)。ここで極微粒子とは数百nmの粒子を含む液体(スラリー状流体)をいい、微小粒子は、固体状の微小粒子の他、微小液滴や微小液滴の表面だけが硬化した微小粒子(以下、「半硬化」という。)、非常に粘性が高い半固体状の微小粒子も含む。
【0003】
例えば図3に示した微小流路構造体は、第ニ流体導入口20に連続相を導入し、第一流体導入口18に分散相を導入するY字型の微小流路構造体であり、導入された連続相と分散相とが合流する部分(以下、「交差部」という。)22が存在する。各流路の深さは数十〜数百μmであり、分散相と連続相の流れの速さを制御して送液を行うと、交差部において極めて均一な微小粒子の生成が可能となる。また、分散相及び連続相の流量を制御することで生成する微小粒子の粒径を制御することも可能となる。
【0004】
また、前述した微小空間の短い分子間距離および大きな比界面積の効果により、効率の良い化学反応を行なうことができることや、界面張力の異なる2種類の液体を、交差部分が存在する流路に導入することにより極めて粒子系が均一な微小粒子を生成することができるような微小空間の特性を生かしたまま、微小流路での化学反応、微小粒子を工業生産に適用しようとする試みも行われている。この場合、微小空間の小ささ故に、単一の微小流路では、単位時間当りの生成量が少なくならざるを得ないが、多数の微小流路を並列に配置することができれば、前記微小流路の特性を生かしたまま単位時間当たりの生成量を増加させることができる(例えば、特許文献3あるいは非特許文献3,4参照)。そこで、特許文献3に示されるように、1本の微小流路を有する微小流路基板を、反応溶液の入り口や反応生成物の出口などの共通部分を貫通した縦穴でつないで積層することなどが試みられている。
【0005】
しかしながら、上記のような微小流路構造体を用いてスラリー状流体、即ち極微粒子を含んだ溶液を送液し、化学反応や微小粒子の生成を行おうとすると、極微粒子スラリー流体内に含まれていた沈殿物あるいは極微粒の凝集物が微小流路の一部又は全部を閉塞することがある。微小流路の一部が閉塞すると、スラリー状流体の送液が不安定になり、合成反応や製造される微粒子の品質にバラツキが発生するという課題がある。また微小粒子の全部が閉塞すると、合成反応や微粒子の製造がストップしてしまい、また更には送液ポンプ、配管及び微小流路自体が損傷する可能性さえある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2975943号公報
【特許文献2】特許第3746766号公報
【特許文献3】特許第4032128号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】H.Hisamoto et.al.(H.ひさもと ら著)「Fast and high conversion phase−transfer synthesis exploiting the liquid−liquid interface formed in a microchannel chip」, Chem.Commun., 2001年発行, 2662−2663頁
【非特許文献2】西迫貴志ら、「マイクロチャネルにおける液中微小液滴生成」、第4回化学とマイクロシステム研究会講演予稿集、59頁、2001年発行
【非特許文献3】菊谷ら、「パイルアップマイクロリアクターによる高収量マイクロチャンネル内合成」、第3回化学とマイクロシステム研究会公演予稿集、9頁、2001年発行
【非特許文献4】A.Kawai et.al.「MASS−PRODUCTION SYSTEM OF NEARLY MONODISPERSE DIAMETER GEL PARTICLES USING DROPLETS FORMATION IN A MICROCHANNEL」,μ−TAS 2002 vol.1 p368−370
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、かかる課題を解決し、スラリー状流体原料、即ち極微粒子を含んだ溶液を微小流路内に送液する前に、予め凝集物または沈殿物を取り除くあるいは粉砕・分散させる、微小流路送液装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するためになされた本発明の装置は、1以上の流体を導入する1以上の流体導入口、導入口に接続した1以上の微小流路及び微小流路に接続した1以上の流体排出口を有する微小流路構造体と、微小流路構造体に極微粒子を含むスラリー状流体を送液するための送液手段と、微小流路構造体の上流に配置されたスラリーの均一分散手段とからなる、微小流路送液装置である。以下、本発明を詳細に説明する。
【0010】
本発明でいう「微小流路」とは、流路の幅がサブミクロンから1mm程度、流路の深さがサブミクロン〜1mm程度、流路の長さは特に制限はないが、数mmから数cm程度を意味する。また、本発明における「流路」とは、微小流路以上の流路幅、流路深さ、流路長を有する流路を意味する。
【0011】
スラリー状流体を導入する微小流路構造体は、スラリー状流体を流しながら化学反応や粒子化を行うための微小流路と、微小流路にスラリー状流体を導入する流体導入口、及び流体排出口から構成される。スラリー状流体を分散相として、例えばせん断によって微小粒子化する場合には、更に、微小流路には更にスラリー状流体をせん断するための移動相を導入する流体導入口と、流体排出口を設けて微小流路を構成する。以上の他、例えば、スラリー状流体に対して化学反応を行う場合、1以上の反応用薬品を含む流体を微小流路に導入するための流体導入口を設ければ良い。ただし、流体排出口は、必ずしも流体導入口と同数設ける必要はない。
【0012】
微小流路構造体は、生産能力を高めるために集積化、積層化することも可能である。即ち、ひとつの送液手段により同時に複数の微小流路構造体にスラリー状流体が送液されるような構成(並列接続的な構成)とする、微小流路構造体の流体導入口が、その上流に位置する微小流路構造体の流体排出口に接続されるような構成(直列接続的な構成)とする、等が例示できる。並列接続的な構成では、各微小流路構造体の上流に均一分散手段を配置するが、直列接続的な構成では、最上流に位置する微笑流路構造体の上流に配置する以外は、スラリー状流体の物理的性質や接続する微小流路構造体の数に応じて、2番目以降に位置する微小流路構造体の上流に配置すれば良い。
【0013】
本発明の微小流路構造体は、任意の厚みを持った基板上に一般的なフォトリソグラフィーとウエットエッチング又はドライエッチング、切削技術、成形技術等を用いて作製することができる。使用する基板の材質等は特に限定されず、例えば石英ガラス、青板ガラス、パイレックス(登録商標)等のガラス基板や、ポリカーボネート、ポリイミド、POM、ナイロン、ナイロン66、ポリエーテルイミド等の樹脂基板や、その他にも金属やセラミックスなどを使用することができ、スラリー状流体や後述する化学処理の条件に対する耐薬品性や耐熱性により選択することができる。
【0014】
本発明の微小流路構造体を図3に基づいて具体的に説明すると、微小流路基板は、第一の流体を導入する50の流体導入口18と、第二の流体を導入する25の流体導入口20とを有し、前記2種類の流体が交わり、微粒子を生成するための100の微小流路交差部22を有し、生成した微粒子を排出する50の流体排出口24を有する直径5インチ、厚さ1.2mmのパイレックス(登録商標)基板を用いた微粒子生成用ガラス製微小流路基板であり、一般的なフォトリソグラフィーとウェットエッチングにより形成した。また、流体供給排出口用に機械加工により直径1.5mmの貫通穴を形成した。微小流路基板に形成した微小流路の流路幅は210μm、流路深さは100μmであり、微小流路基板の半径35mmから55mmの間のスペースにY字型に形成した。導入流路としてのY字の角度は44度、Y字の合流部から流体排出口までの微小流路の長さは5mmとした。流体導入口に関しては、1つの流体導入口から2本の導入流路に分岐する形状とし、流体排出口に関しては、2本の排出流路から1つの流体排出口に合一する形状とした。第1の流体を導入する流体導入口は半径35mmの同心円上の位置に、第2の流体を導入する流体導入口は半径55mmの同心円上の位置にそれぞれ半径位置をずらし、また、周方向の角度を7.2°ずらして配置した。微小流路からの流体排出口は半径30mmの同心円上の位置に配置した。また、図2のように微小流路構造体は、下部に2種類の流体を導入するための流体貯蔵空間13、14を配し、2層の流体貯蔵空間から放射状にそれぞれの基板の50の導入口へ連通し、共通流路から各微小流路基板を経由して排出される50の流体排出口から50の共通排出流路を通って微小流路構造体の上部で放射状に合流し排出される構造を有している。この微小流路構造体に、微小流路基板を基板ホルダーA 5、B 6間にそれぞれパッキン10を挟んで3枚積層した。このようにすることで、微小流路構造体から微小流路微小流路基板の流体導入口へ導入、また微小流路から微小流路体への排出が、それぞれの流体供給、排出部と重ならずに配置され簡便に集積されている。なお、この微小流路構造体は本発明を解りやすく説明するために示したものであり、リザーバータンクの形状や数、微小流路の形状や数および微小流路の導入流路の本数と排出流路の本数はこれに限定されるものではない。
【0015】
本発明においては、微小流路構造体にスラリー状流体を送液するために、ポンプを採用する。ポンプは、その稼働により、スラリー状流体を、キャピラリーチューブ等を通して微小流路構造体に通液させることができれば、微小流路構造体の上流に配置されていても、又は、微小流路構造体の下流に配置されていても、いずれでも良い。ポンプの形式としては圧送式、容積式、非容積式等、種々のものを採用し得るが、プランジャーポンプや、ダイヤフラムポンプのような定量式送液ポンプであって、送液された流体の脈動の影響を最小限できる、脈流の少ないポンプが好ましい。また、流体の脈動の影響を最小限にするために、送液ポンプから微量流路構造体の間に流量変動を低減させるダンパーや微小流路構造体中にリザーバー等を設ける一方で、微小流路構造体の流路自体は、送液するスラリー状流体の滞留が生じないよう、その配管等を簡便にすることが好ましい。
【0016】
スラリーの均一分散手段は、スラリー状流体中の極微粒子が微小流路構造体、特に微小流路を通過する間に沈殿又は凝集等しないよう、スラリー状流体の流れからみて、微小流路構造体の上流に配置される。均一分散手段は、極微粒子を均一に分散し、又は、凝集した極微小流離を破砕できるものであれば特に制限はないが、具体的に、ビーズミル、ボールミル、超音波振動子(ホモジナイザー)又は回転式等、種々の撹拌装置が例示できる。かかる均一分散手段を微小流路構造体の上流に配置することにより、スラリー状流体中の極微粒子が微小流路構造体内部で沈殿又は凝集し、固化して流れが止まることを防止するのである。
【0017】
以上に加え、本発明の微小流路送液装置は、更に微小流路構造体、特に微小流路を洗浄する手段を備えることが好ましい。洗浄手段としては、例えば、スラリー状流体を送液する方向に対して順及び逆方向に洗浄液を送液する機構を例示できる。このようにすることで、正逆方向に洗浄液の送液を繰り返して洗浄効果を高め、微小流路構造体を十分に洗浄して詰まりを防ぐことが可能となる。
【0018】
以下に、本発明の微小流路送液装置をマイクロ化学プラントに適用した例について説明する。本発明を適用したマイクロ化学プラントは、例えば図1に示したように、極微小粒子を含むスラリー状流体(原料液体)を均一に分散維持出来るように分散機能を有した原料タンク1、回収タンク及び微小流路構造体の温度制御が可能な手段温度制御装置を備えることにより、スラリー状流体の安定した供給と、微小流路構造体で化学処理を行って生成した生成物や、生成された微粒子を安定した状態で生成、保持することができる。また、微小流路構造体へのスラリー状流体の供給経路を構成する配管の主要箇所に超音波振動する手段(超音波振動子)を備え、スラリー状流体を均一分散状態にして送液する。原料タンク1には、微小流路構造体に供給するスラリー状流体を貯蔵し、かつ、これを均一に分散維持出来るように攪拌翼又は超音波ホモジナイザーを設置する。これ以外に図1の装置は、微小流路構造体で化学処理を行って生成した生成物等を回収するための回収タンクを備えている。
【0019】
マイクロ化学プラントは、スラリー状流体について化学処理を行うものである。ここでいう化学処理とは、微粒子(液体状の微粒子、すなわち微小液滴であってもよい)の生成、混合、化学反応、抽出、分離等を意味する。微粒子の生成とは、界面張力が異なる2種類以上の流体を微小流路の合流部で合流させ、その合流部において、一つの流体を他の流体でせん断し微粒子を生成することを意味する。マイクロ化学プラントでは、生成物や生成した微粒子を回収する部分を有するが、当該部分は、原料となるスラリー状流体の原料タンク、生成物等を回収するための回収タンクそして回収タンクから生成物等を自動的に保管部位等に移送する手段等を備えることで、原料から目的物を製造し、所定の場所に移相する自動プラントが提供できる。更に、例えば微粒子を生成するマイクロ化学プラントでは、回収タンクには微小粒子が破壊しないような導入経路を形成することが好ましく、また回収したエマルションが滞留しないよう、剪断力が小さく、大きな値の所用動力を得ることが出来る大型翼に攪拌翼を備えていることが好ましい。また、マイクロ化学プラントでは、並列接続的な構成を採用し、微小流路構造体を並列に複数配置して、スラリー状流体を供給するための分配器や各微小流路構造体で生成した生成物等の回収を容易にするための集約器を備えることが好ましい。このような構成により、微小流路構造体への原料の供給から化学処理、そして生成物の回収のための流路、配管の構造を簡素化することができる。このように集積した微小流路構造体を用いることにより、従来の小規模から中規模の化学プラントに匹敵する生産能力を実現することが可能となる。なおマイクロ化学プラントには、脱気装置、安全弁、フィルタ、流量計、液滴観察機構、温度計測、調節機能、ガス検知機能又は防爆構造設備等の、通常の化学プラントに配置される安全確保、品質管理のための通常の手段等を設置することが出来る。例えばスラリー状流体を収納する原料タンクに脱気装置を備える構成では、圧送方式のポンプで当該スラリー状流体を送液する際に課題となる流体への気体の混入を回避することが可能となり、気泡混入による微小流路構造体への均一な送液の障害を取り除くことができるようになる。
【0020】
例えば上記のようなマイクロ化学プラントにおいて、1の原料となるスラリー状流体とこれを化学処理するための薬品を含む流体という、2つの流体を10μL/分で送液してY次形状の微小流路内で化学処理を実施した場合、化学処理されて排出される流体は20μL/分で取り出される。この1本の微小流路では、1年間休みなく連続的に流体を流し続けたとしても10L/年程度しか化学処理された流体を得ることはできない。しかしながら、例えばこの微小流路を1枚の微小流路基板に100本形成し、この微小流路基板を10枚積層して前述した1ブロックの微小流路構造体を構成し、この微小流路構造体を10ブロック並列に並べて、同様な送液速度で2つの原料となる流体を送液し、同様に1年間休みなく連続的に流体を流し続ければ、10万L/年程度の化学処理された流体を得ることができる。仮にこの流体の比重を1として、すべてを生成物として利用可能であるとすると、100トン/年の生成物を得られることとなり、従来の建屋サイズの小規模から中規模の化学プラントに匹敵する生産能力を有するプラントを、デスクサイズの規模で実現することが可能となる。ここで、建屋サイズとは、具体的には数十m四方で高さ数mの建屋サイズを意味し、デスクサイズとは、具体的には幅1〜2m程度、奥行き1m程度、高さ1〜2m程度のデスクサイズを意味する。ただし、これを実現可能とするには、微小流路構造体に安定的に連続的に送液を可能とすることが必要となることはいうまでもない。
【発明の効果】
【0021】
本発明では、スラリー状流体について化学処理等を行う微小流路を有する微小流路構造体において、その上流にてスラリー状流体を均一に分散する手段を配置したことから、スラリー状流体中の極微粒子が微小流路内で沈殿する、又は、凝集する等してその一部又は全部が閉塞することを防止することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明を適用したマイクロ化学プラントの一例を示す図である。
【図2】本発明の微小流路構造体の一例を示す図である。
【図3】本発明の微小流路構造体の一例を示す図である。
【図4】本発明の微小流路構造体の一例を示す図である。
【図5】本発明の、微小流路構造体及び送液、回収容器を含むシステムの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0024】
実施例で用いた微小流路送液装置を図4に示す。第一の流体を導入する25の流体導入口と、第二の流体を導入する27の流体導入口とを有し、前記2種類の流体が交わり、微粒子を生成するための2000の微小流路交差部29を有し、生成した微粒子を排出する50の流体排出口31を有する直径5インチ、厚さ1.2mmのパイレックス(登録商標)基板を用いた微粒子生成用ガラス製微小流路基板であり、一般的なフォトリソグラフィーとウェットエッチングにより形成した。また、流体供給排出口用に機械加工により直径1.5mmの貫通穴を形成した。第一流体微小流路の枝流路32は流路幅19μm、流路深さ7μmであり、100μmの間隔で平行な40本の枝流路が第一の導入流路と排出流路にそれぞれ連通している。第二流体微小流路28の流路幅153μm、深さ45μmであり、排出流路30の流路幅は203μm、深さ45μmである。上記のように微細加工パターンを形成後、貫通穴のみ加工した同サイズのパイレックス基板(登録商標)を貫通穴同士が一致するように重ね、熱融着法により接合を行い1枚の微細流路基板とした。この微細加工基板を用いて、図2に示すように基板ホルダーA 5,B 6、パッキン10等を用いて5枚積層し、微小流路構造体とした。
【0025】
実施例で使用した微小流路送液装置は、更に、以下のような特徴と有している。
【0026】
第一に、微小流路を洗浄する手段を備え、その洗浄手段としては、原料タンクに洗浄液タンクを備え、原料である流体が送液される方向に対して順方向あるいは、生成物を回収する集約器側から原料である流体が送液される方向に向けて逆方向に洗浄液を送液して洗浄できる機構を有している。このようにすることで、正逆方向に洗浄液の送液を繰り返すことが可能となり洗浄効果を高めることできる。これにより、微小流路構造体を構成する複数の微小流路の十分な洗浄が可能である。
【0027】
第二に、図1に示した極微小粒子を含むスラリー原料の原料タンク1から微小流路構造体に連通する継手及び配管に供給配管の主要箇所に超音波振動を伝えられる構造を備えることで、万が一に配管に沈殿、凝集しかけた原料粒子を均一分散状態に戻して送液を可能とにしている。また図1に示したように、原料タンク1には、微小流路構造体に供給する原料としての流体を貯蔵し、極微小粒子を含む原料液体を均一に分散維持出来るように分散機能として攪拌翼回転装置、及びホモジナイザーを有した原料タンク1と、回収タンクには、微小流路構造体で流体に対して化学処理を行って生成した生成物や、生成された微粒子を回収するための回収タンクを備えており、原料としての流体を原料貯蔵タンクへの自動的に供給する手段と、微小流路構造体で流体に対して化学処理を行って生成した生成物や、生成された微粒子を回収タンクから自動的に移送する手段を備えている。このようにすることで、原料タンクへの原料の自動供給及び回収タンクからの生成物の自動移送が可能となり、原料タンク及び回収タンクの貯蔵量に依存せずに長期間にわたる連続製造が可能となる。
【0028】
第三に、図1に示したように極微小粒子を含む原料液体を均一に分散維持出来るように分散機能を有した原料タンク1、回収タンク及び微小流路構造体の温度制御が可能な手段温度制御装置を備えているので、本発明のマイクロ化学プラントの設置場所に依存せずに、原料である流体の安定した供給と、微小流路構造体で化学処理を行って生成した生成物や、生成された微粒子を安定した状態で生成、保持することができる。
【0029】
第四に、各微小流路構造体へ極微小粒子が均一に分散した状態の原料である流体を供給する際に、流体の供給量を調整するための複数の供給バルブを、微小流路構造体の1ブロックごとに、かつ供給する流体ごとに備え、この複数のバルブを調整することで、原料の供給流量を微小流路構造体の1ブロックごとに、かつ供給する流体ごとに調整することが可能となり、微小流路構造体を構成する複数の微小流路で行う化学処理の条件や、微粒子の生成条件を比較的自由に変えて調製することが可能となり、きめ細かな流量制御が可能となる。
【0030】
第五に、微小流路構造体へのスラリー状流体の供給、微小流路構造体で化学処理を行って生成した生成物あるいは生成された微粒子の回収、及び微小流路構造体の洗浄、の一連の動作におけるいずれか1以上の処理において自動制御可能な手段を備えているおり、このようにすることで、例えばバルブの調整操作などの煩雑な操作が一切不要となる。
【実施例】
【0031】
実施例 1
本発明の効果を調べるために基本となる小型化学プラント装置の原料保管容器に回転攪拌翼による攪拌装置及び超音波振動を付与するホモジナイザーを設置し、送液したが、微小液滴を生成するための分散相に、青色染料Oil Blue N1.3wt%を溶解させたIsoparG溶液90.5wt%に、チタニア(デュポン社製)3.2wt%及び、油溶性分散安定剤solsperse3000 5.0wt%を溶解し、原料調整時に原料保管用ビーカーにホモジナイザーにより分散させたものを用いた。
【0032】
連続相にpoly(E−MA)3.3wt%と尿素3.3wt%、レソルシノール0.33%を純水93.07wt%の水溶液75gを1N NaOHによりpH3.50に調整する。この水溶液3gに対して0.25gのホルムアルデヒド水溶液を75℃で20分間水相が白濁するまで加熱攪拌したものを使用した。分散相と連続相をそれぞれ図**で示すように微小流路構造体に送液し、連続相1.2 ml/min分散相0.3ml/minで送液したところ、送液開始時に送液圧力49kPaであったものが1時間の送液後に51kPa とほとんど変化無く送液可能で、粒径分散度(=粒径標準偏差/平均粒子径)20%の31μm液滴を得、その後50℃ 20分間カプセル化工程を経ることにより電子ペーパーなどに利用されるチタニア微粒子を含んだ電気泳動マイクロカプセルを可能とした。
【0033】
1時間液滴生成を実施後、微小流路構造体を分解し閉塞箇所の観察をしたところ、微細加工流路内の一部に流路閉塞が観察された。また、併せて極微細粒子を含む原料スラリーを送液する送液ポンプと微小流路構造体の間に存在する配管継手を取り外し、超音波洗浄装置に投入したところチタニア微粒子が配管内に滞留していたことが判明した。
【0034】
実施例 2
実施例1の小型化学プラント装置の原料保管容器に回転攪拌翼による攪拌装置及び超音波振動を付与するホモジナイザーを設置し、また、本原料保管容器と送液ポンプの間に連続式ビーズミル装置を挿入し、チタニアスラリーを粉砕させながらポンプに供給する機構を付与した。微小液滴を生成するための分散相に、青色染料Oil Blue N1.3wt%を溶解させたIsoparG溶液90.5wt%に、チタニア(デュポン社製)3.2wt%及び、油溶性分散安定剤solsperse3000 5.0wt%を溶解し、原料調整時に原料保管用ビーカーにホモジナイザーにより分散させたものを用いた。
【0035】
連続相にpoly(E−MA)3.3wt%と尿素3.3wt%、レソルシノール0.33%を純水93.07wt%の水溶液75gを1N NaOHによりpH3.50に調整する。この水溶液3gに対して0.25gのホルムアルデヒド水溶液を75℃で20分間水相が白濁するまで加熱攪拌したものを使用した。分散相と連続相をそれぞれ図**で示すように微小流路構造体に送液し、連続相1.2ml/min分散相0.3ml/minで送液したところ、粒径分散度(=粒径標準偏差/平均粒子径)15%の粒径分布が狭い30μm液滴を得、その後50℃ 20分間カプセル化工程を経ることにより電子ペーパーなどに利用されるチタニア微粒子を含んだ電気泳動マイクロカプセルを可能とした。
【0036】
1時間液滴生成を実施後、微小流路構造体を分解し閉塞箇所の観察をしたところ、微細加工流路内には流路の閉塞が存在しないことを確認したが、極微細粒子を含む原料スラリーを送液する送液ポンプと微小流路構造体の間に存在する配管継手を取り外し、超音波洗浄装置に投入したところチタニア微粒子が配管内に滞留していたことが判明した。
【0037】
実施例 3
実施例1の小型化学プラント装置の原料保管容器に回転攪拌翼による攪拌装置及び超音波振動を付与するホモジナイザーを設置し、また、本原料保管容器と送液ポンプの間に連続式ビーズミル装置を挿入し、チタニアスラリーを粉砕させながらポンプに供給する機構を付与した。また、送液ポンプと連続式ビーズミル装置及び微小流路構造体を接続する配管を超音波洗浄装置を経由する構造とした。微小液滴を生成するための分散相に、青色染料Oil Blue N1.3wt%を溶解させたIsoparG溶液90.5wt%に、チタニア(デュポン社製)3.2wt%及び、油溶性分散安定剤solsperse3000 5.0wt%を溶解し、原料調整時に原料保管用ビーカーにホモジナイザーにより分散させたものを用いた。
【0038】
連続相にpoly(E−MA)3.3wt%と尿素3.3wt%、レソルシノール0.33%を純水93.07wt%の水溶液75gを1N NaOHによりpH3.50に調整する。この水溶液3gに対して0.25gのホルムアルデヒド水溶液を75℃で20分間水相が白濁するまで加熱攪拌したものを使用した。分散相と連続相をそれぞれ微小流路構造体に送液し、連続相1.2ml/min分散相0.3ml/minで送液したところ、粒径分散度(=粒径標準偏差/平均粒子径)16%の粒径分布が狭い30μm液滴を得、その後50℃ 20分間カプセル化工程を経ることにより電子ペーパーなどに利用されるチタニア微粒子を含んだ電気泳動マイクロカプセルを可能とした。
【0039】
1時間液滴生成を実施後、微小流路構造体を分解し閉塞箇所の観察をしたところ、微細加工流路内お呼び極微細粒子を含む原料スラリーを送液する送液ポンプにチタニア粒子による閉塞箇所は見られなくなった。
【0040】
比較例
(比較例1)
電子ペーパーなどに利用されるチタニア微粒子を含んだ電気泳動マイクロカプセルの製造として図5に示す微小流路構造体及び送液、回収容器を含むシステムを設置し、微小液滴を生成するための分散相に、青色染料Oil Blue N1.3wt%を溶解させたIsoparG溶液90.5wt%に、チタニア(デュポン社製)3.2wt%及び、油溶性分散安定剤solsperse3000 5.0wt%を溶解し、原料調整時に原料保管用ビーカーにホモジナイザーにより分散させたものを用いた。
【0041】
連続相にpoly(E−MA)3.3wt%と尿素3.3wt%、レソルシノール0.33%を純水93.07wt%の水溶液75gを1N NaOHによりpH3.50に調整する。この水溶液3gに対して0.25gのホルムアルデヒド水溶液を75℃で20分間水相が白濁するまで加熱攪拌したものを使用した。分散相と連続相をそれぞれ図4で示すように微小流路構造体に送液したが送液開始直後に送液圧力50kPaが400kPaと急激な圧力上昇が見られ使用していた微小流路構造体が閉塞し、液滴生成を経てマイクロカプセルを生成することができなかった。
【0042】
使用した流路構造体を分解観察した結果、極微細粒子を含む原料スラリーを送液するポンプと微小流路構造体間の配管及び微小流路構造体の微細溝にチタニアを含む分散相が微小流路を閉塞していることがわかった。
【符号の説明】
【0043】
1 攪拌モーター
2 攪拌翼
3 超音波ホモジナイザー
4 ビーズミル
5 基板ホルダーA
6 基板ホルダーB
7 排出側キャピラリーチューブ
8 排出側集合部
9 微小流路基板
10 パッキン
11 連続相供給用キャピラリーチューブ
12 分散相供給用キャピラリーチューブ
13 連続相用貯蔵空間及び分配流路
14 分散相用貯蔵空間及び分配流路
15 排出側集合部面(8部の平面図)
16 連続相分配供給部(13の平面図)
17 分散相分配供給部(14の平面図)
18 第一流体導入口
19 第一流体微小流路
20 第ニ流体導入口
21 第ニ流体微小流路
22 第一、第二流体交差部
23 排出流路
24 排出口
25 第一流体導入口
26 第一流体微小流路
27 第二流体導入口
28 第二流体微小流路
29 第一、第二流体交差部
30 排出流路
31 排出口
32 第一流体微小流路の枝流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1以上の流体を導入する1以上の流体導入口、導入口に接続した1以上の微小流路及び微小流路に接続した1以上の流体排出口を有する微小流路構造体と、微小流路構造体に極微粒子を含むスラリー状流体を送液するための送液手段と、微小流路構造体の上流に配置されたスラリーの均一分散手段とからなる、微小流路送液装置。
【請求項2】
前記スラリーの均一分散手段がビーズミル、ボールミル、超音波振動子又は撹拌装置であることを特徴とする、請求項1の微小流路送液装置。
【請求項3】
前記スラリー状流体を送液する送液手段が圧送式ポンプ、容積式ポンプ又は非容積式ポンプであることを特徴とする、請求項1の微小流路送液装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−131172(P2011−131172A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−293429(P2009−293429)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】