説明

微粒子担持方法及び微粒子担持装置

【課題】 安価で組成のばらつきが少ない粒径が2nm以上10nm以下の合金微粒子を担持した粉体を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明の微粒子担持方法は、チャンバー3内で、粒子状母材の表面に、その粒径より小さい少なくとも2元素以上からなる合金粒子を担持させる方法であり、前記チャンバー3内には、複数の合金粒子形成用元素の蒸発源2と、前記粒子状母材を前記チャンバー内に多数かつ粒子状母材間の相対位置が変動可能に配置するための容器1と、その容器1を回転させる機構4と、その容器1内に配置された攪拌治具6を備えており、前記チャンバー3内に配置された前記容器1内に、粒子状母材を収容し、前記攪拌冶具6と前記容器1とを駆動回転して、前記粒子状母材相互の相対位置が概ね変わらない時間帯と、前記粒子状母材相互の相対位置が概ね変わる時間帯を交互に形成しながら、合金粒子を担持させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒径1μm以下の粒子状母材に粒径10nm以下の微粒子を担持させる方法及び製造装置に関する。

【背景技術】
【0002】
Ptなどの貴金属は装飾品以外にも化学触媒としても用いられている。例えば自動車の排ガス浄化装置、固体高分子型燃料電池などであるが、特にメタノール溶液を燃料としたメタノール型固体高分子型燃料電池は、低温での動作が可能であり小型軽量であるため、近年モバイル機器などの電源への応用を目的として盛んに研究されている。しかし幅広い普及には更なる性能の向上が望まれている。燃料電池は電極触媒反応によって生じる化学エネルギーを電力に変換するものであり、高性能化には高活性触媒が必要不可欠である。
【0003】
現在燃料電池のアノード触媒としてはPtRuが一般的に使われている。電極触媒反応理論電圧が1.21Vであるのに対し、PtRu触媒による電圧ロスが約0.3Vと大きく、これを小さくするためにPtRuを超える高活性(メタノール酸化活性)のアノード触媒が求められている。
【0004】
そこでメタノール酸化活性の向上を目的として、PtRuに他の元素を加えることが検討されてきた。一般的に触媒合成に用いられる浸漬法などの溶液法では、担持させたい金属を溶液中で一旦酸化物として炭素微粒子の表面に析出させた後、還元して金属に戻している。従って還元雰囲気下での熱処理が必要でその温度は元素によって大きく異なる。
【0005】
一般的に良く使われるPtとRuの場合はほぼ同じ温度で還元できまた容易に合金を形成する。しかしその触媒活性度を向上させる元素を添加しようとするとその中には還元してPtを担持させる温度よりもかなり高い温度まで上げないと還元できず、その際担持母材の炭素と反応してしまう元素も数多くある。
【0006】
そこでスパッタ法,蒸着法による真空下での触媒合成法も検討されている。この方法は所望の元素を担持母材の炭素に直接蒸着するため、還元処理をする必要がなく、室温でも容易にPtRuとの合金化を可能にする。
【0007】
従来のスパッタ法あるいは蒸着法では、シート状に加工した炭素(以下カーボンペーパーと記載する)の上にのみ、触媒微粒子を担持させることが一般的であった。その場合はカーボンペーパーの表面だけにしか蒸着されないため、数nmの触媒微粒子を担持させた場合、発電に必要な担持量は得られなかった。また蒸着条件によっては微粒子にならず薄膜になってしまう場合もあり、その場合には触媒の表面積が小さくなり、より発電性能は低下した。
【0008】
一方、粒子状母材上に触媒金属を蒸着もしくはスパッタして、触媒微粒子を担持させることが知られている(特許文献1参照)。
この方法によって、炭素粉を攪拌しながらスパッタあるいは蒸着した場合は電子顕微鏡で観察しても炭素以外の物質を見つけることは困難であった。その理由は被蒸着物である炭素微粒子の表面状態と蒸着された原子が金属微粒子を形成するプロセスに関わっている。すなわち真空プロセスで金属を物理蒸着する場合、熱あるいは運動エネルギーを利用して蒸着物を原子状にして飛ばし、被蒸着物に衝突させる。そこで蒸着原子はマイグレーションしてエネルギー的に安定なところに定着した後そこを核に粒子が成長し、それらがつながって多結晶の膜になる。
【0009】
ところが粒径が1μm以下の炭素微粒子の場合、表面に欠陥が非常に多く存在するため蒸着された原子がマイグレーションできる距離は非常に短く粒成長に必要な核が形成される確率が低い。従って炭素粉を攪拌しながら蒸着した場合は核が形成される前に粉が移動して蒸着物が飛来しなくなるため表面に原子状として付着しているだけで粒成長はおろか核生成すら起こらない。触媒として機能するためには粒径が2nm以上10nm以下の微粒子が炭素粉の表面に担持していなくてはならず、原子状で付着しているのでは機能しない。
【0010】
さらに、合金の薄膜をスパッタリングで作製する場合、一般には合金のターゲットを用いる。しかし貴金属の合金ターゲットは原料価格が高いばかりでなく、加工費も高いのでコスト的に不利である。またターゲットのエロージョン領域と呼ばれるスパッタリング速度の速い領域に穴が開くとそのターゲットは使用できず、通常は全量の10〜20%しか使えない。そこで残材を溶解して再成するが、合金の場合は加工費と組成分析費などの費用がかかる。また合金が固溶する元素のみである場合は良いが、固溶しない元素を含む場合、その元素のスパッタ速度が長時間使用している間に変動することがあり、その結果蒸着物の組成がずれるという不具合があった。
【特許文献1】特開2005−264297号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、以上のような事情に鑑みてなされたもので、安価で組成のばらつきが少ない粒径が2nm以上10nm以下の合金微粒子を担持した粉体を提供することである。

【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は上記目的を達成するために物理蒸着法による触媒合成プロセスについて鋭意研究を重ねてきた結果成されたもので、上述したような平均粒径が1μm以下の粒子状母材に粒径が2nm以上10nm以下の微粒子を担持するために必要な装置と方法を提供するものである。
【0013】
本発明は、そのために本発明による微粒子の担持方法では粒子状母材を減圧装置内に多数かつ粒子状母材間の相対位置が変動可能に配置するための容器とその容器を回転させる機構と容器内に設置され、かつ容器との相対位置が変動可能な攪拌冶具を有するともに容器を回転させながら母材間の相対位置が概ね変わらない時間帯と変わる時間帯を交互に設けて合金粒子を担持させることを特徴としている。
【0014】
また本発明による微粒子の担持方法では、合金粒子を形成する元素が炭素粉などの粒子状母材に飛来する主たる領域において、単位時間、単位面積あたりに前記合金粒子を形成する元素の飛来する量をX(原子/秒・cm)とし、前記母材間の相対位置が変わらない時間帯をT1(秒)、変わる時間帯をT2(秒)とするときT1>T2かつ1×1016<X×T1<1×1019となる関係を満たすことを特徴としている。
【0015】
本発明の微粒子担持装置は、内部を気密に保持できるチャンバーと、前記チャンバー内の上部に配置される複数の合金粒子形成用元素の蒸発源と、前記チャンバー底部に配置され、前記チャンバー底部に並行に回転可能な、非磁性体からなる容器と、前記容器内部に配置され、前記容器と同期して回転可能であって、かつ、磁性体を近接させることにより回転制止可能な攪拌治具と、前記チャンバー下部に配置され、進退出可能に設置される回転制止治具と、前記容器を回転させる回転駆動装置を備えたことを特徴とするものである。
【0016】
この微粒子担持装置において、前記攪拌治具は複数の治具からなるものであることが好ましい。

【発明の効果】
【0017】
本発明の担持方法および担持装置によれば、安価で組成のばらつきが少ない、粒径が2nm以上10nm以下の合金微粒子を担持した粉体を得ることができる。

【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
[実施の形態1:担持方法]
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
本実施の形態の担持方法は、減圧装置内で、粒子状母材の表面に、その粒径より小さい少なくとも2元素以上からなる合金粒子を担持させる方法であって、前記減圧装置は、複数の合金粒子形成用元素の蒸発源と、前記粒子状母材を前記減圧装置内に多数かつ粒子状母材間の相対位置が変位可能に配置するための容器と、その容器を回転させる機構と、その容器内に配置された攪拌治具を備えたものであり、前記減圧装置内に配置された前記容器内に、粒子状母材を収容し、前記攪拌冶具と前記容器とを駆動して、前記粒子状母材相互の相対位置が概ね変わらない時間帯と、前記粒子状母材相互の相対位置が概ね変わる時間帯を交互に形成しながら、合金粒子を担持させることを特徴とするものである。
【0019】
通常の物理蒸着ではガラスなどの基板を複数設置しそれらが順次蒸着領域を通過するように移動させて成膜することは良く行われており、本発明のように基板に蒸着される時間とされない時間が繰り返し存在するが、通常成膜に用いる基板をどのような速度で移動しても成膜される。すなわち基板表面での膜成長に必要な核生成は基板の移動速度に影響されず、移動速度が速くても膜は必ず成長する。これは基板に幾つかの蒸着原子が到達すればたとえそれがまばらであっても基板上をマイグレーションできる距離が長いので適当な地点に集まって核が生成され、そこから粒成長して膜になりやすいためである。
【0020】
しかし本発明に用いる平均粒径が1μm以下の粉体では上述したように表面に欠陥が非常に多く存在するため、蒸着された原子がマイグレーションできる距離は非常に短いため核生成確率が低く、また核ができてもそこから粒成長するにはそこあるいはその極めて近傍に蒸着原子が到達しなければならない。つまり同じ場所に粒成長に必要な原子が来ないと実用に供しうる2nm以上10nm以下の微粒子に成長しない。そのためには粒子状母材に粒径が2nm以上10nm以下の微粒子が成長する間は粉を攪拌せず、成長したところで攪拌して担持していない粉を被蒸着面に移動させることが必要である。
【0021】
従って、本発明のプロセスにおいては、粒子状母材の特定の表面に所定の時間、継続して一定量の合金構成元素が飛来する必要があり、そのためには、粒子状母材群が移動するにあたって、合金構成元素の線源に対向する表面が変化することは合金粒子形成を妨げることになるため、粒子状母材群が減圧装置内を移動する際には、個々の粒子状母材間の相互の位置関係が変化しないように通過させることが必要である。
【0022】
本発明者らが、鋭意研究の結果、攪拌しない時間と元素の飛来する量の積が特定の範囲にある時にだけ粒子状母材に粒径が2nm以上10nm以下の微粒子が成長することを見出した。
【0023】
すなわち、元素の飛来する量をX(原子/秒・cm)とし、前記母材間の相対位置が変わらない時間帯T1(秒)としたときXとT1の積が1×1016以下では粒成長は起こらず1×1019以上では粉体の表面を覆う膜になってしまうので好ましくない。尚、表1に示すようにXが1×1014以下ではT1を長くしてもほとんど粒成長しない。また表2に示すように1×1018以上ではT1を短くしても膜になってしまう確率が高い。従ってXは1×1014以上1×1018以下でなくてはならず、生産性及び歩留まりを考慮すると好ましくは5×1014以上5×1017以下にすることが望まれる。
【0024】
【表1】

【0025】
【表2】

【0026】
一方、攪拌している時間T2は攪拌容器の最表面にある粉が入れ替わればなるべく短い方が良い。その理由は上述したように攪拌しながら蒸着した場合、粒成長しないので蒸着した原料は無駄になるからである。従ってT1>T2でなくてはならず、好ましくはT1/T2>10であることが望ましい。ただしT2を短くしすぎると入れ替わらない粉が多くなりそれらは触媒合金が膜として炭素に付着するので歩留まりの低下につながる。特に単位時間内の蒸着量が多い場合はT2を長くしてよく攪拌しないと触媒合金が膜になる確率が高くなる。T2を長くする場合は蒸着を止める方が原料の無駄がなくなるので好ましく、それには蒸着の停止、再開を瞬時にできるという点でスパッタリングが適している。
【0027】
以下に合金粒子を形成する元素が炭素粉に飛来する主たる領域の単位時間、単位面積あたりに飛来する量をX(原子/秒・cm)、攪拌しない時間帯T1(秒)、攪拌時間T2(秒)を変えて得られた結果を表に示す。
【0028】
また本発明による微粒子の担持方法及び担持装置に用いられる攪拌装置は母材間の相対位置を可変可能に、前記粒子状母材を収容するとともに母材間の相対位置を変えない時間が内周部分と外周部分とで異なり外周部分では内周部分より長くしていることを特徴としている。前述したように本発明に用いる粉体への触媒担持法では触媒粒子が成長する前に粒子状母材を動かすと、それまで蒸着された原子は無駄になるので成長している間は粒子状母材を動かしてはならない。通常の物理蒸着では蒸着原子の到達する量が概ね均一な領域にだけ被蒸着物を置くが、蒸着する物質が貴金属の場合には蒸着原子の到達する量が少ない領域にも被蒸着物を置かなくてはコストが高くなる。
【0029】
しかし上述したように粒成長するまでは被蒸着面を動かしてはならないので、上記攪拌装置では蒸着原子の到達する量が少ない領域に配置された粒子状母材については攪拌周期を延ばさなくてはならない。従って攪拌周期(攪拌しない時間)は粒子状母材を納めた攪拌容器の外周部分では到達する量が多い領域、すなわち攪拌容器の内周部分と比較して長くしている。そのとき全ての領域において上記関係1×1016<X×T1<1×1019を満たすと蒸着原料の無駄がなくなるので好ましい。
【0030】
上記本発明の方法において用いることができる粒子状母材は、平均粒径が、50〜200nmの微粒子であり、その材料としては、炭素粒子、酸化チタン、酸化タングステンなどが挙げられるが、DMFC電極用としては抵抗率が低いことから、炭素粒子が好ましい。 その比表面積としては、50〜600m/gの範囲の物が好ましい。比表面積が上記範囲内にない場合には、十分な量の合金微粒子を担持させることができないあるいは飛散しやすく扱いづらいなどの問題があり好ましくない。
【0031】
Pt−Ruとともに上記粒子状母材に担持される金属原子としては、W、Nb、Pd、Rh、Os、Ir、Re、Au、Ag、Fe、Ni、Ti、Al、Cu、Co、Mo、Mn、Nd、Zn、Ga、Ge、Cd、In、Sn、V、Cr、Zr、Mg、Ca、Rb、Y、Sb、Pb、Biからなる群から選ばれる少なくとも1種を用いることができる。
その組成は、特に制限されるものではないが、Ptが30〜60at%、Ruが20〜50at%、残部が上記金属である。組成がこの範囲外である場合には、触媒活性が十分でなく、また、内部抵抗による電圧ロスが大きくなり好ましくない。
担持される金属粒子の量は、粒子状母材に対して、40〜80wt%の範囲が好ましく、特に50wt%以上であることが好ましい。担持量が上記範囲を下回った場合、十分な発電特性が得られないという問題があり、担持量が上記範囲を上回った場合、金属粒子間の凝集が起こりやすく特性がかえって低下するという問題があり、いずれも好ましくない。
【0032】
[実施の形態2:担持装置]
図面を用いて本実施の形態の担持装置について説明する。
図1は本発明による微粒子担持装置の模式図である。図1に示すように、本実施の形態の微粒子担持装置は、内部を気密に保持することができるチャンバー3と、チャンバー3内の上部に配置されている合金形成用元素の蒸発源であるターゲット2と、チャンバー3の底部に回転可能に配置されている、非磁性体からなり、粒子状母材を収容する容器1と、容器1の内部に配置されている攪拌治具6と、容器を回転させるモーターのような回転駆動装置4と、チャンバーの下部に配置されており、回転制止治具7を備えている。
【0033】
容器1は、回転駆動装置から突出している軸に固着されており、容器1は、回転駆動装置の回転により、回転可能となっている。容器1は、チャンバー内に配置されたターンテーブル上に載置され、回転駆動装置によって回転するターンテーブルに伴って回転するようにしてもよい。また、容器1は、その中に収容する粒子状母材に、担持させる微粒子の攪拌効率を向上させるために、円筒状であることが好ましい。
上記装置において、容器1の回転速度は、常時10rpm以上100rpm以下とすることが好ましい。
【0034】
そして、攪拌治具6は、上記回転駆動装置に直結している軸に、遊動可能に緩着されており、容器1の回転に従って容器1と同期して回転する。また、攪拌治具6は、磁石によって固着可能な磁性材料からなり、磁石の吸引力によって回転を制止されるようになっている。攪拌治具としては、鉄のような磁性体で作成された平板状の攪拌子とすることが出来る。攪拌治具は、軸に緩合する孔を有する中心部から延在する2つの翼を有する構造とすることが出来るが、さらに多数の翼を備えた構造とすることも出来る。
【0035】
回転制止治具7は、チャンバー底部に対して上下移動可能に配置されており、回転制止治具7がチャンバー側に近接した場合、容器1とともに回転運動している攪拌治具6の回転を磁力により制止して停止させ、チャンバー3と攪拌治具の相対位置は変わらない状態となる。この際、容器1は回転しており、容器1内部に収容されている粒子状母材は、攪拌されるようになっている。また、回転制止治具7が、チャンバー下方に向かって移動した場合には、攪拌治具6の回転制止は解除される結果、容器1と攪拌治具6とは同期して回転し、粒子状母材は、攪拌されない。
上記の例では、攪拌子としては磁化していない磁性体を用い、回転制止治具としては、磁石を用いた例を示したが、逆に、攪拌治具は、磁石を用い、回転制止治具として、磁化していない磁性体を用いることもできる。
【0036】
図には示していないが、この担持装置には、チャンバーを減圧にするための真空装置、合金構成用元素源蒸発源から元素を蒸発させるための加熱装置、スパッタ作用を生じさせるための高周波電源装置および磁石、チャンバー内雰囲気制御用のガス供給装置などを備えている。また、この担持装置には、制御装置を接続し、この制御装置によって、チャンバー内の圧力、温度、蒸着装置もしくはスパッタ装置の駆動停止、容器の回転速度、磁石の位置などを制御することが可能であり、これによって、粒子状母材表面に飛来する合金構成元素の量、攪拌時間、非攪拌時間を制御することが出来る。

【0037】
上記の担持装置を用いて、粉体状母材間の相対位置が概ね変えない時間帯と変える時間帯を設ける方法として、以下の方法がある。
図5は、図1に示す微粒子担持装置の俯瞰図であり、容器51と攪拌子52の関係を示す図であり、攪拌子52は容器51の中心53に回転可能に設けられている。この容器を1以上100r.p.m以下の回転速度で回転させ、かつ図1に示すように容器下方に磁石のような回転制止治具を近接させて攪拌子を固定する。これにより母材間の相対位置を変えることが可能になる。このとき攪拌子の回転速度を蒸着物の飛来する量に合わせて変化させる。たとえば蒸着物の飛来する量が多い場合は回転数を20rpm程度まで上げてもよい。ただし容器の外径が10cm以上であることが望まれる。すなわち上述したような比較的遅い回転速度で容器を回転させた場合、攪拌子の上方近傍にある粉体状母材だけが攪拌され粉体状母材間の相対位置が変わるが、それ以外の領域では母材間の相対位置は概ね変わらない。尚、その領域の広さは攪拌子の形状にも依存し、平板状もしくは棒状の物を用いると、母材間の相対位置が概ね変わらない領域が広くなる。また、攪拌子が回転時に粉体状母材によって常に覆われるようにすると蒸着物が付着しないので好ましい。攪拌子に蒸着物が付着した場合、厚くなると金属箔として剥がれ落ちる場合があり、金属箔はたとえPtを含んでいても電極中に混入すると触媒として働かないばかりか、使用している間に構成元素が溶け出してきて性能の低下を引き起こすので好ましくない。一方、容器の径が小さいと母材間の相対位置が概ね変わらない領域が狭くなりやすいので、その場合は回転速度を落とすことが望まれる。また容器の中心付近では粉体状母材間の相対位置の変わる時間が長いがその領域の面積が容器開口面積の20%以下であれば生産量に及ばす影響は少ないので許容される。
【0038】
表3に容器の回転速度に対する炭素からなる粉体状母材の表面に平均粒径4nm以上10nm以下のPtRuWMo合金を担持したDMFC用触媒の生産量を示す。表3の試験例は、蒸着量が1×1018原子/秒・cmで、容器開口面積が320cmで行ったものである。
【0039】
【表3】

【0040】
この表より回転数が遅いほど平均粒径4nmのPtRuWMo合金を担持したDMFC用触媒の生産量が増えることが判る。なおこの回転数より遅い場合は平均粒径が10nm以上になる場合が多く好ましくない。またこれより早い場合は平均粒径が4nmより小さくなり触媒としての活性度が下がり好ましくないことが明かである。

【0041】
[実施の形態3:第2の担持装置]
前記実施の形態2の装置においては、攪拌治具として、1つの治具を用いる例を示したが、攪拌治具を複数設けることによって、容器中の位置に起因する粒子状母材上の合金粒子の担持量の不均一を解消し、担持量の均一化を図ることが出来る。
【0042】
図2が、本実施形態の担持装置の一例を示す概略図である。図2において、図1と同一の部材については、同一の符号を付し、その詳細な説明は省略する。
本実施の携帯の装置は、実施形態2の装置と同様に攪拌冶具6が容器1の中央を支点として回転可能に設置されている。ただし攪拌冶具6は短いバー10と長いバー11から構成され、それぞれ同じ回転軸13に遊動回転自在に取り付けられている。更にチャンバー下部の上下動する磁石は2セット設けられており、図中磁石14が一定周期毎に一定時間チャンバーに近づくと短いバー10が固定され、容器1内の内周部にある炭素粉が攪拌される。一方、一定周期毎に一定時間、磁石15がチャンバーに近づくと長いバー11が固定され、容器1内の外周部にある炭素粉が攪拌される。その周期を変えることで内周部の粉を攪拌しない時間と外周部の粉を攪拌しない時間を、それぞれ別個に制御することが出来る。

【実施例】
【0043】
(実施例1)
図1に示す微粒子担持装置を用いて、平均粒径200nm以下、表面積50m/g 以上の炭素を母体とした粒子状母材を収納した容器1をPt、Ru、Wのターゲット2の下中央に設置したターンテーブル5上に置き、以下の条件で10時間スパッタした。この時真空チャンバー3の外に設置したモーター4によりターンテーブル5を常時10rpm以上100rpm以下の速度で回転させる。更に容器1内には磁性材料からなる攪拌冶具6が容器1内中央付近を支点として設置されており、この攪拌冶具6が容器1とともに回転している間は粒子状母材が攪拌されない。そして一定周期毎にチャンバー下部に上下移動可能に設置した磁石7を一定時間近づけると攪拌冶具6は磁力でチャンバーとの相対位置が変わらない状態になる。この時容器1は回転しているので、中の粒子状母材は攪拌される。
RF Power
Pt、Ru; 1kW
W ; 500W
Ar流量 ; 50SCCM
圧力 ; 1×10-2Pa
攪拌しない時間 T1; 100秒
攪拌時間 T2 ; 5秒
蒸着量 ; 1×1015atoms/cm・秒

【0044】
これにより担持率(炭素の重量に対する触媒の重量)50%のPtRuW触媒担持炭素粉を100g作製した。その後得られた粉体を用いてカソード電極、アノード電極それぞれを作製し、カソード電極とアノード電極の間にプロトン伝導性固体高分子膜としてナフィオン117(デュポン社製)を挟んで、125℃、10分、30kg/cmの圧力で熱圧着して、電極複合体を作製した。この電極複合体と流路板とを用いて燃料直接供給型高分子電解質型燃料電池の単セルを作製した。この単セルに燃料としての1Mメタノール水溶液、流量0.6ml/min.でアノード極に供給すると共に、カソード極に空気を200ml/分の流量で供給し、セルを65℃に維持した状態で150mA/cm電流密度を保つように放電させ、30分後のセル電圧を測定したところ0.6Vの電圧が得られた。これは同じ貴金属量で作製した場合と比較して20%以上高い値である。またこのように真空プロセスで作製した場合Ruが酸化していないため、発電過程で生ずる蟻酸による溶出が少なく、長期間使用した場合の特性劣化が少ないことが確認された。
【0045】
(実施例2)
図2に示す短いバー10と長いバー11から構成されそれぞれ同じ回転軸13に取り付けられ、更にチャンバー下部の上下動する磁石は2セット設けられた微粒子担持装置を用い、2セットの磁石の移動周期を変えることで内周部の粉を攪拌しない時間と外周部の粉を攪拌しない時間を変えることで、実施例1と同様にして合金粒子の担持を行った。
【0046】
図3が、実施例1と同じ条件で容器1中の粒子状母材表面に合金粒子をスパッタした時の蒸着量の分布を示している。中央のターゲット2と容器1の距離を10cmとした時に約直径20cmの円内に同じ組成で蒸着されるが、蒸着量は領域1内で最も多く1×1015atoms/cm・秒であった。領域2では領域3に向かって連続的に蒸着量が減少し領域3では1×1014atoms/cm・秒まで低下した。
【0047】
このような蒸着領域に直径20cmの容器1を設置した場合、容器1の外周付近は領域3にあたるので長いバー11を固定せずに容器と伴に回転させる時間を内部と比較して2倍から10倍にした。これにより担持率(炭素の重量に対する触媒の重量)50%の触媒担持炭素粉を140g作製できた。
【0048】
その後得られた粉体を用いてカソード電極、アノード電極それぞれを作製し、カソード電極とアノード電極の間にプロトン伝導性固体高分子膜としてナフィオン117(デュポン社製)を挟んで、125℃、10分、30kg/cmの圧力で熱圧着して、電極複合体を作製した。この電極複合体と流路板とを用いて燃料直接供給型高分子電解質型燃料電池の単セルを作製した。この単セルに燃料としての1Mメタノール水溶液、流量0.6ml/min.でアノード極に供給すると共に、カソード極に空気を200ml/分の流量で供給し、セルを65℃に維持した状態で150mA/cm電流密度を保つように放電させ、30分後のセル電圧を測定したところ0.6Vの電圧が得られた。これは同じ貴金属量で作製した場合と比較して20%以上高い値であった。この方法では蒸着量が少ない蒸着領域に飛んできたPtなどの貴金属を無駄にすることなく効率よく高性能の触媒を得ることができる。
【0049】
また、図4中、短いバー10の先端16と長いバー11の粉と接して攪拌する部位の回転軸に最も近い位置17は蒸着量が変化している領域2の間にある方が良い。尚、領域3でも外周に向かって蒸着量は変化しているが、ここでいう領域2は最大蒸着量の10%以上80%以下で、かつ蒸着量が連続的に変化している領域をいう。もしこの領域が狭い場合はこの領域内にある必要はない。また短いバー10の先端16と長いバー11の回転軸に最も近い位置17との間に一定の距離Lをあけても良い。その距離Lは容器1の半径の1/10以上1/5以下が好ましい。Lが大きいと攪拌が不十分になって触媒が膜状に付着する量が増えて歩留まりが低下する場合がある。またLが小さいと攪拌しなくても良い粉まで攪拌してしまい、生産量が減少する場合がある。

【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明で用いることの出来る微粒子担持装置の概略図。
【図2】本発明で用いることの出来る第2の微粒子担持装置の概略図。
【図3】前記第2の微粒子担持装置によって得られる蒸着量の分布を示す概念図。
【図4】第2の微粒子担持装置における容器および攪拌治具の関係を示す概念図。
【図5】本発明で用いることのできる微粒子担持装置の俯瞰図。
【符号の説明】
【0051】
1…容器
2…合金粒子構成用元素蒸発源
3…チャンバー
4…回転駆動装置
5…ターンテーブル
6…攪拌治具
7…回転制止治具
10…短い攪拌治具
12…長い攪拌治具
13…回転軸
14、15…磁石
16…短い攪拌治具の外端部
17…長い攪拌治具の突出部内側端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
減圧装置内で、粒子状母材の表面に、その粒径より小さい少なくとも2元素以上からなる合金粒子を担持させる方法であって、
前記減圧装置は、複数の合金粒子形成用元素の蒸発源と、前記粒子状母材を前記減圧装置内に多数かつ粒子状母材間の相対位置が変動可能に配置するための容器と、その容器を回転させる機構と、その容器内に配置された攪拌治具を備えたものであり、
前記減圧装置内に配置された前記容器内に、粒子状母材を収容し、前記攪拌冶具と前記容器とを駆動して、前記粒子状母材相互の相対位置が概ね変わらない時間帯と、前記粒子状母材相互の相対位置が概ね変わる時間帯を交互に形成しながら、合金粒子を担持させることを特徴とする微粒子担持方法。
【請求項2】
前記合金粒子を減圧装置内で担持させる方法において、
合金粒子形成用元素が前記粒子状母材表面に飛来する主たる領域において、単位時間、単位面積あたりに前記合金粒子を形成する元素の飛来する量をX(原子/秒・cm)とし、前記母材間の相対位置が変わらない時間帯をT1(秒)、変わる時間帯をT2(秒)とするとき、T1>T2かつ1×1016<X×T1<1×1019となる関係を満たすように、X、T1、およびT2を制御して担持させることを特徴とする請求項1に記載の微粒子担持方法。
【請求項3】
前記合金粒子を減圧装置内で担持させる方法において、
前記粒子状母材間の相対位置が概ね変わらない時間は、前記粒子状母材を配置した領域の内周部分と外周部分とで異なり、外周部分では内周部分より長いことを特徴とする請求項1記載の微粒子担持方法。
【請求項4】
内部を気密に保持できるチャンバーと、
前記チャンバー内の上部に配置される複数の合金粒子形成用元素の蒸発源と、
前記チャンバー底部に配置され、前記チャンバー底部に並行に回転可能な、非磁性体からなる容器と、
前記容器内部に配置され、前記容器と同期して回転可能であって、かつ、磁性体を近接させることにより回転制止可能な攪拌治具と、
前記チャンバー下部に配置され、進退出可能に設置される磁性体からなる回転制止治具と、
前記容器を回転させる回転駆動装置を備えたことを特徴とする微粒子担持装置。
【請求項5】
前記微粒子担持装置において、
前記攪拌治具が複数の治具からなることを特徴とする請求項4に記載の微粒子担持装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−57602(P2009−57602A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−226066(P2007−226066)
【出願日】平成19年8月31日(2007.8.31)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】