説明

微細圧電列柱構造体の製造方法および複合圧電材料の製造方法

【課題】任意の形状を有しかつアスペクト比の高い圧電単結晶または圧電セラミックの微細な柱状体を高い寸法精度で任意に配置させた微細圧電列柱構造体の製造方法を提供する。
【解決手段】微細な柱状圧電列柱を形成するための複数の貫通孔を有する薄板形状のマシナブルセラミックス製のセラミックス型1を用意し、そのセラミックス型の片面に種子単結晶基板2を接合し、セラミックス型に圧電セラミックス前駆体3を充填し、セラミックス型に充填された圧電セラミックス前駆体を焼成して複数の微細な柱を配列した列柱構造を有する微細圧電セラミックス構造体4を形成する。その後、微細圧電セラミックス構造体について熱処理を行って単結晶化することにより微細圧電単結晶列柱構造体5を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電セラミックスおよび圧電単結晶の微細圧電列柱構造体の製造方法に関し、さらに、微細な1−3型複合圧電材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波診断装置は、超音波探触子を用いて、人体等の被検体に超音波を送信し、被検体から反射される超音波エコーを受信することにより、超音波の検出信号に基づいて画像を表示する。これにより、体内の臓器や血管の検査が行われる。しかしながら、振動子において圧電セラミックスや圧電単結晶を用いる場合には、振動子の音響インピーダンスと人体等の音響インピーダンスとの間に大きな差があり、そのような音響インピーダンスの差がある境界面においては、超音波の反射が生じて伝播損失となってしまう。
【0003】
超音波の伝播効率をさらに改善するために、振動子自体の音響インピーダンスを低減することが考えられる。例えば、圧電体に格子状の溝を形成してアレイ化し、溝の内部に音響インピーダンスが小さなエポキシ樹脂などの素材を充填することが有効である。その際に、溝の間隔は、溝によって分離される各々の振動子内を伝播する超音波の波長と比較して十分小さくする。一般的には、溝の間隔を、超音波の波長の1/8〜1/10程度とすることが望ましい。そのようなアレイ振動子としては、例えば、1つの方向に長い棒状のPZTを樹脂中に配置した複合圧電材料が用いられており、この複合圧電材料は、1−3コンポジットまたは1−3型複合圧電材料と呼ばれている。
【0004】
2次元に配列された柱状の圧電振動子の側面を覆うように音響インピーダンスの低い高分子材料を充填して複合化した1−3型複合圧電材料は、小さい音響インピーダンスと高い電気機械結合係数を有することから、超音波探触子に良く適合する。さらに、圧電振動子を単結晶で構成すると電気機械結合係数が向上して、より高感度の超音波探触子を得ることができる。
【0005】
1−3型複合圧電材料は、たとえば特許文献1に記載されているように、精密なダイシングソーを用いてバルク圧電セラミックスあるいはバルク圧電単結晶をマトリックス状に裁断し、裁断溝にエポキシ樹脂などを充填硬化させることにより製造することができる。
しかし、この方法は直線状に裁断するため、圧電列柱構造の形状、配置、密度などを自由に調整することが難しく、設計上の制約が存在する。また、圧電単結晶では、機械的強度が弱いためダイシング加工時にチッピングが発生して、圧電列柱の特性バラツキを引き起こす。さらに小型の超音波探触子などに使用する複合圧電材料を製造するときは、ダイシング中に細い柱を飛散させてしまう危険もあった。
【0006】
これに対して、圧電セラミックスを用いた複合圧電材料を製造する場合には、型を使うことにより圧電列柱構造の設計の自由度を高めることができる。
型を利用する方法には、たとえば、X線リソグラフィーにより樹脂型を形成し、この樹脂型に圧電セラミックスを充填したのち樹脂型を除去して圧電列柱構造を形成して焼成し、列柱間に樹脂を充填硬化させることにより製造する方法がある。
しかし、この方法では、圧電セラミックスを焼成する前に型が取り去られるため、複合圧電材料では、圧電セラミックスの内部応力により圧電体の柱が傾いてしまい所望の微細構造を得ることができない。
【0007】
型を利用する方法には、また、雄型の樹脂型を作成した後電気メッキにより雌型の金属型を作り、この金属型に圧電セラミックスラリーを流し込んで焼成することにより圧電セラミックスの列柱が形成され、離型後に列柱の隙間に樹脂を流し込んで固化させる方法もある。
しかし、この方法では、圧電セラミックスの密度を上げるために高温・高圧下で金属型に充填した圧電セラミックススラリーを焼成すると、圧電セラミックスと金属が反応する欠点がある。圧電セラミックスと金属の反応層は低誘電率層となり特性劣化の原因となる。特に圧電セラミックス柱のサイズが小さくなるにつれてその影響は大きくなる。また、反応によって圧電セラミックスと金属型が強固に密着し離型が難しくなる問題も生じる。
【0008】
特許文献2には、さらに別の製造方法として、反応性イオンエッチング法を用いて複数の穴を開口したシリコン基板を型として用いたもので、穴内部に圧電セラミックススラリーを充填し、高温加圧条件下で焼成した後、シリコン型をエッチングにより除去して圧電列柱構造を作成し、列柱間に樹脂を充填して、高アスペクト比のPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)/高分子1−3型複合圧電振動子を得る方法が開示されている。
しかし、この方法でも、圧電セラミックスを焼成するときに圧電セラミックスとシリコンが反応する問題が生ずる。特許文献1には、シリコン型に窒化シリコンあるいは酸化シリコンなどのセラミックス保護膜を形成して反応を抑制することが記載されているが、保護膜を設けることにより製造コストが上昇する上、シリコンの拡散が激しく圧電セラミックスとの反応層を十分に抑制することができない。
【0009】
なお、圧電単結晶を用いた複合圧電材料の製造方法には、圧電セラミックスのダイシング加工後に固相成長法を用いた方法がある。この方法は、精密切断砥石を用いてバルク圧電セラミックスを裁断し、得られた圧電セラミックス微細構造体を種子単結晶板と接合し熱処理を行って単結晶化することで圧電単結晶微細構造体を得る方法である。
この方法では、直線状に裁断せざるを得ないため、圧電列柱構造の形状、配置、密度などに自由度がなく設計上の制約が存在する。また、圧電セラミックス列柱が独立して立っている状態で固相成長が行われるので、成長中に圧電単結晶柱が傾いて所望の微細構造を得ることが難しい。
【0010】
従来の複合圧電材料製造方法は、いずれも圧電列柱における柱の形状や配置に制約がありしかも仕上がり精度が低く形状も不安定である。したがって、圧電特性が安定しにくく、また微細構造では所望の特性を実現することも難しい。
【特許文献1】特開2002−232995号公報
【特許文献2】特開平11−274592号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、本発明は、任意の形状を有しかつアスペクト比の高い圧電単結晶または圧電セラミックスの微細な柱状体を高い寸法精度で任意に配置させた微細圧電列柱構造体を製造する方法を提供することを目的とし、また、本発明の製造方法により得られた微細圧電列柱構造体を用いて複合圧電材料を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明の第1の観点に係る微細圧電列柱構造体の製造方法は、微細な柱状圧電列柱を形成するために複数の貫通孔が形成された薄板形状のマシナブルセラミックス製のセラミックス型を用意する工程(a)と、用意されたセラミックス型の1つの面に種子単結晶基板を接合して複数の貫通孔の一方の端を塞ぐ工程(b)と、一方の端が塞がれた複数の貫通孔に圧電セラミックス前駆体を充填する工程(c)と、充填された圧電セラミックス前駆体を焼成して、複数の微細な柱が配列された列柱構造を有する微細圧電セラミックス列柱構造体を形成する工程(d)と、形成された微細圧電セラミックス列柱構造体に熱処理を行うことにより圧電セラミックスを固相成長させて圧電単結晶でできた微細圧電列柱構造体を得る工程(e)とを具備する。
【0013】
また、本発明の第2の観点に係る微細圧電列柱構造体の製造方法は、微細な柱状圧電列柱を形成するために複数の孔が所定の深さで形成された薄板形状のマシナブルセラミックス製のセラミックス型を用意する工程(a)と、用意されたセラミックス型に形成された複数の孔に圧電セラミックス前駆体を充填する工程(b)と、充填された圧電セラミックス前駆体を焼成して、圧電セラミックスでできた複数の微細な柱が配列された列柱構造を有する微細圧電列柱構造体を形成する工程(c)とを具備する。
【0014】
さらに、本発明の1つの観点に係る複合圧電材料の製造方法は、本発明に係る微細圧電列柱構造体の製造方法によって得られた微細圧電列柱構造体からセラミックス型を除去する工程と、セラミックス型が除去された微細圧電列柱構造体と樹脂とを複合化することによって複合圧電材料を形成する工程とを具備する。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る微細圧電列柱構造体の製造方法によれば、マシナブルセラミックスを型に用いるため、微細な工具を使った精密機械加工やレーザー加工によって、任意の断面形状をもつ微細な孔でも容易に任意の位置に精度良く形成することができるので、圧電列柱構造の形状、配置、密度などを自由に設定できる型を得ることができる。マシナブルセラミックスは耐熱性が高いので、圧電セラミックスを型に納めたまま高温焼成および固相成長させることができる。したがって、アスペクト比の高い柱であっても焼成時や成長時に傾いたりすることなく形成できるので、超音波探触子などの中間製品となる微細圧電列柱構造体を精密に製造することができる。さらに、本発明に係る微細圧電列柱構造体の製造方法を利用して、複合圧電材料を製造することが可能である。また、本発明の製造方法により製造した微細圧電列柱構造体及び複合圧電材料は、形状、配置、密度などに関する設計上の制約が小さく、優れた特性を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しながら詳しく説明する。
以下の実施形態に係る微細圧電列柱構造体の製造方法においては、薄板形状のマシナブルセラミックスに、微細な柱状圧電列柱を形成するための複数の孔を穿孔してセラミックス型とし、そのセラミックス型に圧電セラミックス前駆体を充填し焼成して、複数の微細な柱を配列した列柱構造を有する微細圧電セラミックス構造体を形成する。このようなセラミックス型を使って製造される複合圧電体は、超音波診断装置用の小型超音波探触子などに利用することができる。
【0017】
以下の実施形態によれば、マシナブルセラミックスを型として利用するので、精密機械加工あるいはレーザー加工により微細な型構造を精度良く形成することにより、作製される圧電振動子の形状、配置、密度を自在に調整することができる。また、マシナブルセラミックスの耐熱性を活用して、焼成時に圧電セラミックスあるいは圧電単結晶の前駆体を型に納めたまま高温処理することにより、焼成された圧電体の型くずれを防止することができる。さらに、セラミックス型は圧電セラミックスや圧電単結晶との反応性が低く、圧電体と型の反応による低誘電率層が生じにくい。また、セラミックス型からの離型も容易である。したがって、アスペクト比の高い柱であっても焼成時や成長時に傾いたりすることなく形成できるので、微細な列柱構造体を高精度で得ることができる。
【0018】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る微細圧電列柱構造体および複合圧電材料の製造方法を説明する流れ図であり、図2は、本発明の第1の実施形態に係る製造方法を説明する工程図であり、図3は、本発明の第1の実施形態に係る製造方法により形成される複合圧電材料の内部構造を模式的に示す斜視図である。
【0019】
まず、図1の工程S1において、図2(a)に示すような、微細な柱状圧電列柱を形成するために複数の貫通孔が形成された薄板形状のマシナブルセラミックス製のセラミックス型1を用意する。
【0020】
セラミックス型1の材料として、窒化ケイ素(Si)、窒化ホウ素(BN)、窒化アルミニウム(AlN)など、耐熱性が高く圧電セラミックスとの反応性が弱くかつ加工性の高いマシナブルセラミックスを選ぶ。これらマシナブルセラミックスは、数値制御を使った微細ドリル加工により容易にかつ精度良く任意の断面形状を持った柱状貫通孔を任意の位置に正確に形成することができるので、ダイシングソーを使う場合のような形状配置などの制約を受けない。なお、マシナブルセラミックス板の孔は、レーザー加工によっても正確に形成することができる。
【0021】
小型超音波探触子などに用いる微細圧電列柱構造体を製造するために使用するセラミックス型の場合には、マシナブルセラミックス薄板に直径が5μm以上100μm以下の孔を必要数形成する。また孔の径と長さの比であるアスペクト比は3以上であることが好ましい。さらに、これらの孔は、間隔が5μm以上100μm以下であることが好ましい。5μm以下の径や間隔では孔を形成するための工作が難しく、現状では現実的でない。また、100μm以上の径や間隔では小型超音波探触子などには大きすぎて利用し難い。
【0022】
次に、図2(b)に示すように、用意された薄板状のセラミックス型1の片面に種子単結晶基板2を接合して複数の貫通孔の一方の端を塞ぎ(工程S2)、図2(c)に示すように、一方の端が塞がれた複数の貫通孔に圧電セラミックス前駆体3のスラリーを充填し、オーブン中で乾燥固化する(工程S3)。
【0023】
圧電セラミックス前駆体3のスラリーにはバインダを含み、このバインダの働きにより圧電セラミックス前駆体の固化形状を一定に保持する。なお、圧電セラミックス前駆体スラリーの代わりに、圧電セラミックス微粒子を分散させた溶液を使い、この溶液中にセラミックス型を置いて圧電セラミックス微粒子を貫通孔内に沈降堆積させることにより、貫通孔に充填する方法を採用することもできる。
【0024】
さらに、貫通孔に圧電セラミックスの原料を充填した状態のセラミックス型を電気炉に投入し、固化した圧電セラミックス前駆体または圧電セラミックス微粒子を焼成して、図2(d)に示すように、種子単結晶基板2の上に柱状の圧電セラミックス4が配列された微細圧電列柱構造体を形成する(工程S4)。
【0025】
高い耐熱性を有するマシナブルセラミックは、圧電セラミックス焼成時の高温においても型くずれしないので、セラミックス型1内に圧電セラミックスが配置された形体として形成される微細圧電セラミックス列柱構造体の圧電セラミックス部分4はセラミックス型1で規制された通りの形状を保持する。
【0026】
次に、形成された微細圧電セラミックス列柱構造体を電気炉に投入して熱処理を行うことにより、圧電セラミックスを種子単結晶基板2の結晶型に整合するように固相成長させて単結晶化し、図2(e)に示すような、複数の圧電単結晶5の柱を備えた微細圧電列柱構造体を得る(工程S5)。
【0027】
種子単結晶基板1が、室温における格子定数が圧電セラミックスのものと5%以下しか違わないペロブスカイト型結晶構造を有するものであれば、圧電セラミックス4の柱はそのまま円滑に単結晶化して圧電単結晶5の列柱構造体が得られる。特に、室温における格子定数の差が2%以下であれば、圧電セラミックス4は極めて円滑に単結晶化する。
【0028】
さらに、図2(f)に示すように、微細圧電列柱構造体からセラミックス型1を除去する(工程S6)。マシナブルセラミックとして、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化アルミニウムなどの窒化物を用いると、圧電セラミックスや圧電単結晶との反応性が低く、圧電体と型が強固に密着することがないので、離型は精密ダイセットを用いて簡単に行うことができる。特に、圧電体が、たとえばPMN−PT(マグネシウムニオブ酸チタン酸鉛固溶体)やPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)などの鉛系酸化物であるときは、これらのマシナブルセラミックスとの反応性が極めて低いため、離型が容易である。
【0029】
次に、離型後の微細圧電列柱構造体の圧電単結晶5の列柱間にエポキシ樹脂などの樹脂6を充填し固化して、図2(g)に示すような、圧電単結晶5と樹脂6で複合化した平板を得る(工程S7)。複合化した平板の表裏両面を研削して圧電単結晶の面を露出させることにより、図2(h)に示すような、複合圧電材料を形成する(工程S8)。このようして、図3に示すような、設計通りの形状と特性を有する1−3型圧電材料を容易に得ることができる。
【0030】
なお、マシナブルセラミックとして、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化アルミニウムなどの窒化物を用いると、圧電セラミックスや圧電単結晶との反応性が低く圧電体と型の反応による低誘電率層が生じにくい。さらに、種子単結晶基板1がペロブスカイト型結晶構造を有し、圧電単結晶5が鉛(Pb)を含むペロブスカイト型酸化物であるときには、より円滑に圧電セラミックスから単結晶の形成ができ、セラミックス型からの離型も容易で、所望の列柱構造を有する高性能の微細圧電列柱構造体を得ることができる。また、本実施形態の製造方法に使用するマシナブルセラミックス型は、複合圧電材料を製造した後も機能を維持するので、再使用が可能である。
【実施例1】
【0031】
実施例1は、微細圧電単結晶列柱構造体および圧電単結晶の柱状体とエポキシ樹脂が複合された1−3型複合圧電材料の製造方法の1実施例である。
厚み0.2mmの市販BNマシナブルセラミックス板に微細ドリル加工を施し、径30μm、長さ200μmの微細な柱状貫通孔を10×10=100個形成してマシナブルセラミックス型1とした。柱状貫通孔のピッチは60μmとした(図2(a))。
【0032】
数値制御によって、任意の断面形状を持った柱状貫通孔を任意の位置に正確に形成することができるので、ダイシングソーを使う場合のような形状配置などの制約を受けない。なお、マシナブルセラミックス板の孔は、レーザー加工によっても正確に形成することができる。
【0033】
上記作製した微細な柱状貫通孔を有するマシナブルセラミックス型1の片面を研磨加工した後、(100)Pb(Mg1/3Nb2/3)O−PbTiO(PMN−PT、モル比7:3)の単結晶基板2に接合した(図2(b))。
【0034】
マシナブルセラミックス型1とPMN−PT単結晶基板2の接合体にPMN−PTセラミックスのスラリー3をマシナブルセラミックス型から溢れる程度まで流し込む(図2(c))。スラリーは、大気中と真空中のいずれでもセラミック型に流し込むことができる。次に、スラリー3をオーブン中で乾燥固化させる(図2(d))。
【0035】
スラリーが固化したセラミックス4を電気炉に入れて、1200℃において12時間熱処理を行うと、セラミックス4の部分はマシナブルセラミックス型の中で固相成長して単結晶5になり、微細圧電単結晶列柱構造体が形成される(図2(e))。マシナブルセラミックス型1は、高温処理にも耐えて形状を維持し、結晶化工程中、圧電セラミック4および結晶化した単結晶5の柱を定位置で形状を保持するように支持した。
【0036】
熱処理後に、精密ダイセットを用いてマシナブルセラミックス型1を分離することで、単結晶基板2の上にPMN−PT単結晶5の径30μmの柱状体を100本配列した列柱構造体を得ることができた(図2(f))。マシナブルセラミックス型1とPMN−PT単結晶5は反応層を形成しないので、簡単に離型できた。
【0037】
セラミックス型を除去した後の微細圧電単結晶列柱構造体2,5の列柱間にエポキシ樹脂6を充填固化させて複合圧電材料中間製品を得た(図2(g))。こうして得られた複合圧電材料中間製品の両面を切削研磨して、圧電単結晶5の柱状体とエポキシ樹脂6が複合された複合圧電材料を得た(図2(h))。
【0038】
その結果、図3に示すように、PMN−PT単結晶5で形成された100本の円柱状圧電振動子が2次元に配列され、圧電振動子の側面を覆うように音響インピーダンスの低いエポキシ樹脂6が充填されて、1−3型複合圧電体が形成されている。
【0039】
このような1−3型複合圧電体は、小さい音響インピーダンスと高い電気機械結合係数を有することから、高感度の超音波探触子に有効に使用される。なお、マシナブルセラミックスとして、市販の窒化ホウ素(BN)マシナブルセラミックスや窒化アルミニウム−窒化ホウ素(AlN−BN)マシナブルセラミックスを用いたときにも、同様のPMN−PT単結晶圧列柱構造体を得ることができた。
【0040】
(第2実施形態)
図4は、本発明の第2の実施形態に係る微細圧電列柱構造体および複合圧電材料の製造方法を説明する流れ図であり、図5は、本発明の第2の実施形態に係る製造方法を説明する工程図である。
【0041】
第2の実施形態においては、第1の実施形態において圧電体が単結晶であるのに対して、圧電体が圧電セラミックスであることが相違し、この他は共通するので、共通部分については簡単化して記載の重複を避ける。
【0042】
まず、図4に示す工程S11において、図5(a)に示すような、微細な柱状圧電列柱を形成するために小さな径を有する所定の深さの孔が複数形成された薄板形状のマシナブルセラミックス製のセラミックス型11を用意する。
【0043】
セラミックス型11の材料および加工方法は第1実施形態と同じでよい。また、孔の径やアスペクト比、孔の間隔についても第1実施形態と同じでよいことはいうまでもない。なお、穿孔する孔はマシナブルセラミックス薄板の裏まで達しない程度の深さにするが、第1実施形態と同様の貫通孔を形成した後で適当なセラミックス薄板を片面に接合して孔を塞ぐことで形成することもできる。
【0044】
次に、図5(b)に示すように、所定の深さを有する複数の孔にバインダを含んだ圧電セラミックス前駆体12のスラリーを孔に充填しさらに孔から溢れて表面も覆うように堆積させオーブン中で乾燥固化する(工程S12)。なお、圧電セラミックス微粒子を分散させた溶液中にセラミックス型を置いて圧電セラミックス微粒子を沈降堆積させる方法であってもよい。
【0045】
さらに、所定深さの孔内と表面に圧電セラミックスの原料を堆積させて固化した状態のセラミックス型を電気炉に投入し、固化した圧電セラミックス前駆体または圧電セラミックス微粒子を焼成して、図5(c)に示すような、マシナブルセラミックス11の型中に薄板の上に複数の柱が配列された形状になった圧電セラミックス13が形成された微細圧電列柱構造体を形成する(工程S13)。
【0046】
高い耐熱性を有するマシナブルセラミック11は、圧電セラミックス焼成時の高温においても型くずれしないので、セラミックス型11内に圧電セラミックス13が配置された形体として形成される微細圧電列柱構造体の圧電セラミックス部分13はセラミックス型11で規制された通りの形状を保持する。
【0047】
次に、図5(d)に示すように、微細圧電列柱構造体からセラミックス型11を除去する(工程S14)。マシナブルセラミック11と圧電セラミックス13は反応性が低いので、簡単に離型することができる。また、圧電体と型の反応による低誘電率層が生じにくい。
【0048】
次に、離型後の微細圧電列柱構造体の圧電セラミックス13の列柱間にエポキシ樹脂などの樹脂14を充填し固化して、図5(e)に示すような、圧電セラミックス13と樹脂14で複合化した平板を得る(工程S15)。複合化した平板の表裏両面を研削して圧電セラミックスの面を露出させることにより、図5(f)に示すような、圧電セラミックスを用いた複合圧電材料を形成する(工程S16)。このようして、第1実施形態と同様に、設計通りの形状と特性を有する1−3型圧電材料を容易に得ることができる。
【実施例2】
【0049】
実施例2は、微細圧電セラミックス列柱構造体および圧電セラミックス柱状体とエポキシ樹脂が複合された複合圧電材料の製造方法の1実施例である。
厚み0.5mmの市販Siマシナブルセラミックス板に微細ドリル加工を施し、径30μm深さ200μmの、底を有する柱状の微細な有底孔を10×10=100個形成してマシナブルセラミックス型11とした。柱状有底孔のピッチは60μmとした(図5(a))。
【0050】
作製した微細な柱状有底孔を有するマシナブルセラミックス型にPb(Mg1/3Nb2/3)O−PbTiO(PMN−PT、モル比7:3)セラミックスのスラリー12をマシナブルセラミックス型11から溢れる程度まで流し込んだ(図5(b))。スラリー12は、大気中と真空中のいずれでもセラミック型11に流し込むことができる。
【0051】
スラリー12をオーブン中で乾燥固化させた後、電気炉中で、1250℃において12時間焼成を行って、スラリーをマシナブルセラミックス型の中で圧電セラミックス13に変成した。こうして、微細圧電単結晶列柱構造体が形成される(図5(c))。
焼成後、精密ダイセットを用いてマシナブルセラミックス型11を分離することで、基板上に柱状体が100本配列された形状を有するPMN−PTセラミック13の列柱構造体を得ることができた(図5(d))。
【0052】
セラミックス型を除去した後の微細圧電セラミック列柱構造体13の列柱間にエポキシ樹脂14を充填固化させて複合圧電材料の前駆体を得た(図5(e))。
さらに、複合圧電材料の前駆体の両面を切削研磨して、圧電セラミック13の柱状体とエポキシ樹脂14が複合された複合圧電材料を得た(図5(f))。
本実施形態で形成した複合圧電材料も図3に示したものと同じ形体を有する。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明により、形状、配置、密度などに関する設計上の制約が小さく、優れた特性を有する複合圧電材料を提供し、たとえば体腔外走査又は体腔内走査を行う際に用いられる超音波探触子などの性能向上に資することができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る微細圧電列柱構造体および複合圧電材料の製造方法を説明する流れ図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る製造方法を説明する工程図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る製造方法により形成される複合圧電材料の内部構造を模式的に示す斜視図である。
【図4】本発明の第2の実施形態に係る微細圧電列柱構造体および複合圧電材料の製造方法を説明する流れ図である。
【図5】本発明の第2の実施形態に係る製造方法を説明する工程図である。
【符号の説明】
【0055】
1 セラミックス型
2 種子単結晶基板
3 圧電セラミックス前駆体
4 圧電セラミックス
5 圧電単結晶
6 樹脂
11 セラミックス型
12 圧電セラミックス前駆体
13 圧電セラミックス
14 樹脂
20 複合圧電材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細な柱状圧電列柱を形成するために複数の貫通孔が形成された薄板形状のマシナブルセラミックス製のセラミックス型を用意する工程(a)と、
前記セラミックス型の1つの面に種子単結晶基板を接合して、前記複数の貫通孔の一方の端を塞ぐ工程(b)と、
一方の端が塞がれた前記複数の貫通孔に圧電セラミックス前駆体を充填する工程(c)と、
充填された前記圧電セラミックス前駆体を焼成して、複数の微細な柱が配列された列柱構造を有する微細圧電セラミックス列柱構造体を形成する工程(d)と、
形成された前記微細圧電セラミックス列柱構造体に熱処理を行うことにより、前記微細圧電セラミックス列柱構造体を単結晶化して微細圧電列柱構造体を得る工程(e)と、
を具備する微細圧電列柱構造体の製造方法。
【請求項2】
工程(c)が、バインダを含む圧電セラミックススラリーを前記複数の貫通孔に流し込む工程と、前記圧電セラミックススラリーを乾燥及び固化する工程とを含む、請求項1記載の微細圧電列柱構造体の製造方法。
【請求項3】
工程(c)が、圧電セラミックス微粒子を分散させた溶液中に前記セラミックス型を置く工程と、前記圧電セラミックス微粒子を沈降させる工程と、前記圧電セラミックス微粒子を乾燥及び固化する工程とを含む、請求項1記載の微細圧電列柱構造体の製造方法。
【請求項4】
前記種子単結晶基板が、前記圧電セラミックス前駆体との格子定数の差が室温において5%以下であるペロブスカイト型結晶構造を有する、請求項1から3のいずれか一項に記載の微細圧電列柱構造体の製造方法。
【請求項5】
前記微細圧電列柱構造体が、ペロブスカイト型酸化物を含む、請求項4記載の微細圧電列柱構造体の製造方法。
【請求項6】
前記微細圧電列柱構造体が、鉛(Pb)を含む、請求項5記載の微細圧電列柱構造体の製造方法。
【請求項7】
微細な柱状圧電列柱を形成するために複数の孔が所定の深さで形成された薄板形状のマシナブルセラミックス製のセラミックス型を用意する工程(a)と、
前記セラミックス型に形成された前記複数の孔に圧電セラミックス前駆体を充填する工程(b)と、
充填された前記圧電セラミックス前駆体を焼成して、複数の微細な柱が配列された列柱構造を有する微細圧電列柱構造体を形成する工程(c)と、
を具備する微細圧電列柱構造体の製造方法。
【請求項8】
工程(b)が、バインダを含む圧電セラミックススラリーを前記複数の孔に流し込む工程と、前記圧電セラミックススラリーを乾燥及び固化する工程とを含む、請求項7記載の微細圧電列柱構造体の製造方法。
【請求項9】
工程(b)が、圧電セラミックス微粒子を分散させた溶液中に前記セラミックス型を置く工程と、前記圧電セラミックス微粒子を沈降させる工程と、前記圧電セラミックス微粒子を乾燥及び固化する工程とを含む、請求項7記載の微細圧電列柱構造体の製造方法。
【請求項10】
前記セラミックス型に形成された前記複数の貫通孔または前記複数の孔が、5μm以上100μm以下の直径と、3以上のアスペクト比とを有する、請求項1から9のいずれか一項に記載の微細圧電列柱構造体の製造方法。
【請求項11】
前記セラミックス型に形成された前記複数の貫通孔または前記複数の孔の間隔が、5μm以上100μm以下である、請求項10記載の微細圧電列柱構造体の製造方法。
【請求項12】
前記セラミックス型に形成された前記複数の貫通孔または前記複数の孔が、機械加工またはレーザー加工により形成されている、請求項10または11記載の微細圧電列柱構造体の製造方法。
【請求項13】
前記マシナブルセラミックスが、ホウ素、アルミニウム、及び、ケイ素の内のいずれか1種以上の窒化物を含む、請求項12記載の微細圧電列柱構造体の製造方法。
【請求項14】
請求項1から13のいずれか1項に記載の微細圧電列柱構造体の製造方法によって得られた微細圧電列柱構造体から、前記セラミックス型を除去する工程と、
前記セラミックス型が除去された前記微細圧電列柱構造体と樹脂とを複合化することによって複合圧電材料を形成する工程と、
を具備する複合圧電材料の製造方法。
【請求項15】
請求項14記載の複合圧電材料の製造方法によって得られた複合圧電材料を用いた超音波探触子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−292693(P2009−292693A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−149664(P2008−149664)
【出願日】平成20年6月6日(2008.6.6)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】